特許第6439062号(P6439062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6439062-絶縁電線の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6439062
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20181210BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20181210BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20181210BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20181210BHJP
   H01B 7/02 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
   H01B13/16 B
   C08G73/10
   H01F5/06 W
   H01F5/06 Q
   H01F5/06 H
   H01F5/00 F
   !H01B7/02 B
   !H01B7/02 C
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-23994(P2018-23994)
(22)【出願日】2018年2月14日
(62)【分割の表示】特願2016-48398(P2016-48398)の分割
【原出願日】2016年3月11日
(65)【公開番号】特開2018-129304(P2018-129304A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2018年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】501112596
【氏名又は名称】株式会社ユニマック
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 卓
(72)【発明者】
【氏名】冨田 和博
(72)【発明者】
【氏名】足田 靖成
(72)【発明者】
【氏名】平野 辰美
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−135766(JP,A)
【文献】 特開2004−111072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
C08G 73/10
H01F 5/00
H01F 5/06
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、その外周上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられ、軟化温度280℃以下の樹脂を含む自己融着層とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁電線は、互いに対向する一対の長辺と、互いに対向し、それぞれ外側に向かって凸状に湾曲した一対の短辺とを有する断面形状を有し、
前記絶縁層は、ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位40〜80モル%と、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物単位10〜50モル%とを含むテトラカルボン酸成分単位(a)と、ジアミン成分単位(b)とを含むポリイミドを含む絶縁電線の製造方法であって、
導体と、その外周上に設けられ、ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位40〜80モル%と、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物単位10〜50モル%とを含むテトラカルボン酸成分単位(a)と、ジアミン成分単位(b)とを含むポリイミドを含む絶縁層とを有する被覆導体を得る工程と、
前記被覆導体を圧延する工程と
を含む、絶縁電線の製造方法。
【請求項2】
圧延された前記被覆導体の外周に、軟化温度280℃以下の樹脂を含む自己融着層を形成する工程をさらに含む、請求項1に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
前記一対の短辺の間に形成される長軸の長さLと、前記一対の長辺の間に形成される短軸の長さSとの比L/Sが5〜15である、請求項1または2に記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、電気機器の小型化に伴い、これらの機器に装着されるコイルの小型化も求められている。コイルの小型化は、断面矩形状のエナメル線(平角エナメル線)を用いることによって実現されている。平角エナメル線は、従来の断面円形状のエナメル線(丸形エナメル線)よりも、コイル状に巻き付けた際のエナメル線同士の隙間を小さくすることができ、エナメル線の占積率を高めることができるので、コイルの小型化を図ることができる。
【0003】
平角エナメル線は、平角導体と、その周囲を覆う絶縁皮膜とを有する。コイルに使用される平角エナメル線の絶縁皮膜は、良好な可とう性と、優れた耐熱性、絶縁性を有することが求められる。例えば、平角導体の周囲に、イミド系又はアミド系のポリマーを含むエマルジョン型電着ワニスの焼付層を有する絶縁電線(特許文献1)や、平角導体の周囲に、第1のポリアミドイミドからなる第1の層、第2のポリアミドイミドからなる第2の層及びポリイミドからなる第3の層を有する絶縁電線が提案されている(特許文献2)。
【0004】
これらの平角エナメル線は、通常、平角導体の周囲を絶縁皮膜で被覆することによって得ることができる。しかしながら、このようにして得られるエナメル線は、平角導体の断面のサイド部とフラット部の絶縁皮膜を均一に形成することが難しく、特にサイド部の膜厚が薄くなる傾向にあった。これに対して、絶縁層及び自己融着層で被覆した丸型導体を圧延し、サイド部とフラット部の絶縁皮膜の厚みが均一な平角エナメル線を得ることが検討されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−12407号公報
【特許文献2】特開2015−135766号公報
【特許文献3】特開昭54−37287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小型化の要望に伴って、平角導体の薄膜化が求められる中、絶縁皮膜の膜厚についても、絶縁性が保たれる範囲内で可能な限り薄い膜厚であることが望まれている。しかしながら、小型化に応じた薄膜の場合、平角エナメル線をコイル状に巻きつけた際、自己融着層で融着されるフラット部に対し、サイド部は自己融着層で融着されずに露出された状態となるため、高温等の過酷な使用環境下に曝されると、絶縁性が不十分となりやすい。一方で、サイド部の絶縁性確保のために、絶縁皮膜全体の膜厚を厚くすると、コイル全体のサイズが大きくなってしまう。従って、絶縁皮膜で覆われた丸導体を、所定の圧延比で圧延することが必要となる。
【0007】
しかしながら、従来の絶縁皮膜で覆われた丸導体を、従来よりも高い圧延比で圧延すると、絶縁皮膜のフラット部にひび割れが生じるという問題があった。このようなひび割れは、絶縁破壊を生じる原因となりやすい。
【0008】
更に、平角エナメル線の絶縁皮膜には、高温の使用環境でも絶縁性を失わない高い耐熱性が求められる。しかしながら、特許文献3に示される絶縁電線は、ポリアミドイミドからなる層を主に有するため、耐熱性が十分ではなかった。また、絶縁皮膜の耐熱性を高めると、導体との密着性が低下したり、絶縁塗料を複数回塗布して得られる絶縁皮膜では層内に空隙(層内剥離)が生じたりしやすい。このように、耐熱性と、導体との密着性又は層内密着性とは相反する特性であり、両立することが難しかった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、絶縁皮膜のひび割れが抑制され、且つ高い耐熱性と、導体との良好な密着性や層内密着性とを有する絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 導体と、その外周上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられ、軟化温度280℃以下の樹脂を含む自己融着層とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁電線は、互いに対向する一対の長辺と、互いに対向し、それぞれ外側に向かって凸状に湾曲した一対の短辺とを有する断面形状を有し、前記絶縁層は、ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位40〜80モル%と、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物単位10〜50モル%とを含むテトラカルボン酸成分単位(a)と、ジアミン成分単位(b)とを含むポリイミドを含む、絶縁電線。
[2] 前記一対の短辺の間に形成される長軸の長さLと、前記一対の長辺の間に形成される短軸の長さSとの比L/Sが5〜15である、[1]に記載の絶縁電線。
[3] 前記ポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位40〜80モル%と、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物単位10〜50モル%を含むテトラカルボン酸成分単位(a1)と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル成分単位を含むジアミン成分単位(b1)とを含む、[1]又は[2]に記載の絶縁電線。
[4] 前記ポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位40〜60モル%と、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物単位25〜50モル%とからなるテトラカルボン酸成分単位(a2)と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル成分単位を含むジアミン成分単位(b1)とを含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の絶縁電線。
[5] 前記3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位に対する前記3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位の含有比率が、26モル%以上である、[4]に記載の絶縁電線。
[6] 前記比L/Sが8〜10である、[2]に記載の絶縁電線。
[7] 前記導体は、互いに対向する一対の長辺と、互いに対向し、それぞれ外側に向かって凸状に湾曲した一対の短辺とを有する断面形状を有し、前記導体の断面の、前記一対の短辺間に形成される長軸の長さlが0.10〜2.00mmであり、且つ前記一対の短辺間に形成される短軸の長さsが0.015〜0.50mmである、[1]〜[6]のいずれかに記載の絶縁電線。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の絶縁電線の製造方法であって、導体と、その外周上に設けられ、ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位40〜80モル%と、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物単位10〜50モル%とを含むテトラカルボン酸成分単位(a)と、ジアミン成分単位(b)とを含むポリイミドを含む絶縁層とを有する被覆導体を得る工程と、前記被覆導体を圧延する工程とを含む、絶縁電線の製造方法。
[9] 圧延された前記被覆導体の外周に、軟化温度280℃以下の樹脂を含む自己融着層を形成する工程をさらに含む、[8]に記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁皮膜のひび割れが抑制され、且つ高い耐熱性と、導体との良好な密着性や層内密着性とを有する絶縁電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の絶縁電線の構成の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.絶縁電線
本発明の絶縁電線は、導体と、その外周を覆う絶縁層と、さらにその外周を覆う自己融着層とを有する。
【0014】
図1は、絶縁電線の構成の一例を示す断面図である。図1に示されるように、絶縁電線10は、導体11と、その外周を覆う絶縁層13と、さらにその外周を覆う自己融着層15とを有する。
【0015】
また、絶縁電線10は、対向する一対の短辺が円弧状に張り出した略矩形状の断面形状;即ち、「互いに対向する一対の長辺」と「互いに対向し、それぞれ外側に向かって凸状に湾曲した短辺」とを有する断面形状を有することが好ましい(図1参照)。長辺部分をフラット部、短辺部分をサイド部ともいう。
【0016】
絶縁電線10の断面の、一対の短辺間に形成される長軸の長さLと一対の長辺間で形成される短軸の長さSとの比L/S(アスペクト比)は、5〜15であることが好ましい。比L/Sが5以上であると、一方向(長辺と直交する方向)に圧延したときに、短辺部分(サイド部)の絶縁層13の厚みを十分に増加させやすいので、短辺部分(サイド部)の絶縁層13の絶縁性が損なわれにくい。比L/Sが15以下であると、一方向(長辺と直交する方向)に圧延したときに、絶縁電線10の長辺部分(フラット部)の絶縁層13の厚みが薄くなりすぎないことから、圧延時の長辺部分(フラット部)のひび割れが生じにくい。それにより、融着した絶縁電線同士の絶縁性を十分に保つことができ、導通を高度に抑制できる。一対の短辺間に形成される長軸の長さLは、一対の長辺間の距離の最大値に相当する。一対の長辺間に形成される短軸の長さSは、一対の短辺間の距離に相当する。尚、長軸と短軸は、互いに直交していることが好ましい。比L/Sは、5〜15であることがより好ましく、8〜10であることが更に好ましい。長軸の長さLは、例えば0.10〜2.00mmであることが好ましく、0.20〜1.70mmであることがより好ましい。短軸の長さSは、例えば0.015〜0.50mmであることが好ましく、0.02〜0.20mmであることがより好ましい。
【0017】
また、十分な絶縁性を得るために、短辺部分(サイド部)の絶縁層13の厚みは、長辺部分(フラット部)の絶縁層13の厚みよりも大きいことが好ましい。これにより、例えば絶縁電線10をコイル状に巻いた状態で高温等の過酷な使用環境下に曝されても、自己融着層が露出している部分の絶縁層13の短辺部分(サイド部)が熱劣化するのを抑制し得る。
【0018】
以下、絶縁電線10を構成する各層について説明する。
【0019】
1−1.導体11
導体11の材質は、銅、銅合金、アルミニウム、鉄、銀、これらの合金等であり得るが、機械的強度、導電率等の観点から、銅又は銅合金であることが好ましい。
【0020】
導体11は、圧延された導体である。従って、導体11は、前述の絶縁電線10の断面形状と同様に、「互いに対向する一対の長辺」と「互いに対向し、それぞれ外側に向かって凸状に湾曲した短辺」とを有する断面形状を有し得る(図1参照)。
【0021】
導体11の断面において、一対の短辺間に形成される長軸の長さlは、0.10〜2.00mmであることが好ましく、0.20〜1.70mmであることがより好ましい。一対の長辺間に形成される短軸の長さsは、0.015〜0.50mmであることが好ましく、0.02〜0.20mmであることがより好ましい。
【0022】
1−2.絶縁層13
絶縁層13は、絶縁電線11に耐熱性と絶縁性を付与する機能を有する。絶縁層13は、ポリイミドを含む。
【0023】
ポリイミドは、テトラカルボン酸成分単位(a)と、ジアミン成分単位(b)とを有する。
【0024】
ポリイミドを構成するテトラカルボン酸成分単位(a)は、ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)単位と、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA)単位と、ピロメリット酸無水物(PMDA)単位とを含むことが好ましい。具体的には、テトラカルボン酸成分単位(a)は、ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)単位40〜80モル%と、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA)単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物(PMDA)単位10〜50モル%とを含むことが好ましく;ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)単位40〜60モル%と、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA)単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物(BPDA)単位25〜50モル%とを含むことがより好ましい。但し、テトラカルボン酸成分単位の合計(総モル数)を100モル%とする。
【0025】
ビフェニルテトラカルボン酸無水物の例には、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物が含まれ、好ましくは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物である。
【0026】
ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物の例には、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物等が含まれ、好ましくは3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物である。
【0027】
ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)単位は、ポリイミドの耐油性を高めやすい。ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA)単位は、ポリイミドの柔軟性や融着性を高めやすい。ピロメリット酸無水物(PMDA)単位は、ポリイミドの耐熱性を高めやすい。
【0028】
絶縁層13の耐熱性を高めるためには、ポリイミドに含まれるピロメリット酸無水物(PMDA)単位を多くすることが好ましい。一方で、ピロメリット酸無水物(PMDA)単位を多くし過ぎると、ポリイミドの柔軟性が損なわれやすく、導体11との密着性や層内剥離が生じやすい。従って、柔軟性を付与し得るベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA)単位と、適度な耐熱性と柔軟性を付与し得るビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)単位の含有比率を調整することが好ましい。
【0029】
即ち、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA)単位の、ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)単位に対する含有比率(BTDA/BPDA)は、12.5〜50モル%であることが好ましく、17〜50モル%であることがより好ましく、26〜35モル%であることがさらに好ましい。含有比率(BTDA/BPDA)が高いほど、ピロメリット酸無水物(PMDA)単位を多く含んでいても可とう性や密着性が損なわれにくい。
【0030】
テトラカルボン酸成分単位(a)は、必要に応じて他の芳香族テトラカルボン酸単位や脂肪族テトラカルボン酸単位をさらに含んでもよい。
【0031】
他の芳香族テトラカルボン酸の例には、オキシジフタル酸、3-フルオロピロメリット酸無水物、3,6-ジフルオロピロメリット酸無水物、3,6-ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸無水物、3オキシ-4,4'-ジフタル酸無水物、2,2'-ジフルオロ-3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、5,5'-ジフルオロ-3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、6,6'-ジフルオロ-3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、2,2',5,5',6,6'-ヘキサフルオロ-3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物、6,6'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物等が含まれる。
【0032】
脂肪族テトラカルボン酸の例には、エタン-1,1,2,2-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物、3,3',4,4'-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸無水物等が含まれる。
【0033】
ポリイミドを構成するジアミン成分単位(b)は、芳香族ジアミン単位又は脂肪族ジアミン単位を含む。
【0034】
芳香族ジアミン単位は、炭素原子数6〜30の芳香族ジアミン単位であることが好ましい。芳香族ジアミンの例には、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン等が含まれる。
【0035】
脂肪族ジアミン単位は、炭素原子数4〜20の脂肪族ジアミン単位であることが好ましい。脂肪族ジアミンの例には、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等が含まれる。
【0036】
中でも、ポリイミドの耐熱性を高め得ることから、芳香族ジアミン単位が好ましく、適度な柔軟性を併せもつことから、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル単位が好ましい。
【0037】
ジアミン成分単位(b)は、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル単位を80モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことが好ましく、100モル%含むことがより好ましい。但し、ジアミン成分単位(b)の合計(総モル数)を100モル%とする。
【0038】
ポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位40〜80モル%と、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物単位10〜50モル%を含むテトラカルボン酸成分単位(a1)と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル成分単位を含むジアミン成分単位(b1)とを含むことが好ましく;
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物単位40〜60モル%と、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物単位10〜20モル%と、ピロメリット酸無水物単位25〜50モル%とからなるテトラカルボン酸成分単位(a2)と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル成分単位を含むジアミン成分単位(b1)とを含むことがより好ましい。
【0039】
ポリイミドの極限粘度は、1〜20dl/gであることが好ましい。ポリイミドの極限粘度が20dl/g以下であると、ポリイミドワニスの粘度が適度であるため、導体11の外周に塗布する際に、均一な膜厚に形成しやすい。
【0040】
ポリイミドの極限粘度は、以下の手順で測定することができる。ポリイミドを、濃硫酸に溶解させて試料溶液とする。得られた試料溶液の流下秒数を、ウベローデ粘度計を用いて25℃±0.05℃の条件下で測定し、下記式に当てはめて、極限粘度[η]を算出する。
[η]=ηSP/[C(1+kηSP)]
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:溶媒の流下秒数(秒)
k:定数(溶液濃度の異なるサンプル(3点以上)の比粘度を測定し、横軸に溶液濃度、縦軸にηsp/Cをプロットして求めた傾き)
ηSP=(t−t0)/t0
【0041】
本発明者らは、軟化温度の異なるポリイミドを用いて、焼き付け時の温度(線温)を変えながら複数の絶縁電線を作製し、絶縁層内の層内剥離の有無を比較した。その結果、以下の表1に示される関係を見出した。
【表1】
【0042】
表1に示されるように、ポリイミドの軟化温度が低いと、層内密着性は得られやすいが、耐熱性が低くなる。一方、ポリイミドの軟化温度が高いと、耐熱性は良好であるが、線温を高くしなければ層内密着性が得られにくい。線温を高くすることは、生産性の低下に繋がる。従って、線温を高くすることなく、良好な耐熱性と層内密着性とを両立できることから、ポリイミドの軟化温度は、350〜500℃であることが好ましく、400〜500℃であることがより好ましい。
【0043】
ポリイミドの軟化温度が350℃、好ましくは400℃以上であると、耐熱性が損なわれにくい。ポリイミドの軟化温度が500℃以下であると、焼き付け時の線温を過剰に高める必要がないため、生産性が低下しにくい。ポリイミドの軟化温度は、JIS C32166−6に準拠して測定できる。
【0044】
ポリイミドの含有量は、絶縁層13の全質量に対して50質量%以上であることが好ましい。ポリイミドの含有量が50質量%以上であると、十分な耐熱性と絶縁性が得られやすい。ポリイミドの含有量は、絶縁層13の全質量に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0045】
絶縁層13は、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、密着性向上剤等が含まれる。
【0046】
絶縁層13の長辺部分(フラット部)の厚みは、絶縁層13と自己融着層15の長辺部分(フラット部)の厚みの合計に対して50〜90%であることが好ましい。絶縁層13の厚みの比率が50%以上であると、絶縁電線10の耐熱性を十分に高め得る。絶縁層13の厚みの比率が90%以下であると、融着性を損なうことなく、絶縁電線10の体積の増大を抑制し得る。絶縁層13の厚みは、絶縁層13と自己融着層15の厚みの合計に対して60〜70%であることがより好ましい。絶縁層13の厚みは、例えば2.00〜10.00μmとし得る。絶縁層13の厚みは、絶縁電線10の断面を顕微鏡で観察したときに、絶縁層13のフラット部の厚みの平均値から算出される。
【0047】
絶縁層13は、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸無水物(PMDA)単位とベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(BTDA)単位とビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)単位とを所定の比率で有するポリイミドを含むので、高い耐熱性と柔軟性(又は密着性)とを有する。従って、絶縁電線が、高倍率に圧延されたものであっても、絶縁層13(特に長辺部分(フラット部))のひび割れや、導体11との密着性や層内剥離が高度に抑制されている。さらに、絶縁電線は、高い耐熱性も有するので、コイル等の製品に組み込まれる際に高温下に曝されても、絶縁性が損なわれにくい。
【0048】
1−3.自己融着層15
自己融着層15は、絶縁電線10の最表面に設けられ、複数の絶縁電線10同士を熱融着させる機能を有する。従って、自己融着層15は、軟化温度が280℃以下、好ましくは200℃以下の樹脂を含むことが好ましい。樹脂の軟化温度は、前述と同様に、JIS C32166−6に準拠して測定できる。
【0049】
そのような樹脂の例には、ポリビニルアセタール(例えばポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等)、ポリウレタン、フェノキシ樹脂(例えばビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂等)、ポリアミド(例えばナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド)、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステル、ポリスルホン等が含まれる。中でも、耐熱性を損なうことなく低温で融着できることから、ポリアミドが好ましく、脂肪族ポリアミドがより好ましい。
【0050】
自己融着層15は、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、酸化防止剤、潤滑剤等が含まれる。
【0051】
酸化防止剤は、自己融着層15に含まれる熱可塑性樹脂の熱劣化を防止する機能を有し得る。酸化防止剤の例には、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が含まれる。
【0052】
潤滑剤の例には、ポリエチレンワックス、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂等の合成系滑剤、蜜蝋、カルナウバ蝋及びキャンデリラワックス等の天然系滑剤が含まれる。
【0053】
自己融着層15の長辺部分(フラット部)の厚みは、絶縁層13と自己融着層15の長辺部分(フラット部)の厚みの合計に対して10〜50%であることが好ましい。自己融着層15の厚みの比率が10%以上であると、十分な融着性が得られやすい。自己融着層15の厚みの比率が50%以下であると、絶縁性を損なうことなく、絶縁電線10の体積の増大を抑制し得る。自己融着層15の厚みは、導体11を被覆する層全体の厚みに対して30〜40%であることがより好ましい。自己融着層15の厚みは、例えば1.0〜10.0μmとし得る。
【0054】
本発明の絶縁電線10は、必要に応じて他の層をさらに含んでもよい。
【0055】
本発明の絶縁電線10は、例えば産業用及び自動車用モータ、発電機等の、耐熱性を要求される電機コイルの巻線として好ましく用いることができる。
【0056】
2.絶縁電線の製造方法
本発明の絶縁電線の製造方法は、少なくとも1)導体の外周が、前述のポリイミドを含む絶縁層で覆われた被覆導体を得る工程と、2)被覆導体を圧延する工程とを含む。必要に応じて、3)圧延された被覆導体の外周に、自己融着層をさらに形成する工程をさらに実施してもよい。
【0057】
1)の工程について
導体の外周に、前述のポリイミドを含む絶縁層を形成して、被覆導体を得る。
【0058】
絶縁層の形成は、原材料としての導体の外周に、ポリイミド前駆体ワニス又はポリイミドワニスを付与した後、焼き付けして行うことができる。原材料としての導体は、丸導体であってもよいし、平角導体であってもよい。
【0059】
ポリイミド前駆体ワニス又はポリイミドワニスの付与は、例えば塗布法、浸漬法、又は電着法等で行うことができる。
【0060】
ポリイミド前駆体ワニス又はポリイミドワニスを付与した後、焼き付ける操作は、1回だけ行ってもよいし、複数回行ってもよい。上記操作を複数回行う場合、(n−1)回目に形成した塗布層と、n回目に形成した塗布層との間で密着不良が生じることがある。しかしながら、前述のポリイミドを用いることにより、そのような密着不良を良好に抑制し得る。
【0061】
焼き付け温度は、少なくともワニス中の溶媒を除去できる温度(ポリイミド前駆体ワニスを用いる場合は、ポリイミド前駆体を硬化できる温度)であればよく、例えば200〜500℃、好ましくは300〜400℃とし得る。
【0062】
ポリイミド前駆体ワニス又はポリイミドワニスは、ポリイミド前駆体又はポリイミドが溶媒に溶解したものである。これらのワニスは、溶媒中で前述のテトラカルボン酸成分(a)とジアミン成分(b)とを反応させて得ることができる。用いられる溶媒の例には、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン系極性溶剤、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系溶剤等が含まれる。
【0063】
本工程において、絶縁層上に自己融着層をさらに形成してもよいし、2)の工程後に、自己融着層をさらに形成してもよい(前述の3)の工程)。
【0064】
自己融着層の形成は、前述と同様に、自己融着層用組成物を付与した後、焼き付けして行うことができる。自己融着層用組成物は、前述の熱可塑性樹脂と、溶媒とを含み得る。溶媒は、ポリイミド前駆体ワニス又はポリイミドワニスに含まれる溶媒と同様である。
【0065】
2)の工程について
得られた被覆導体を、得られる絶縁電線の断面形状が所定の形状となるように圧延する。具体的には、被覆導体の圧延は、得られる絶縁電線10が図1に示されるような断面形状を有し、且つ絶縁電線10の断面の長軸の長さLと短軸の長さSとの比L/Sが1.5〜15、好ましくは5〜15、より好ましくは8〜10となるように行うことが好ましい。
【0066】
圧延される被覆導体は、前述のポリイミドを含む絶縁層を含む。前述のポリイミドを含む絶縁層は、良好な耐熱性と柔軟性(又は密着性)とを有する。従って、圧延時の絶縁層のひび割れ(特に長辺部分(フラット部)のひび割れ)を抑制できる。
【0067】
3)の工程について
1)の工程において自己融着層を形成しない場合、2)の工程において圧延された被覆導体の外周に、自己融着層をさらに形成してもよい。
【実施例】
【0068】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0069】
1.ポリイミドワニスの調製
(調製例1)
攪拌機、窒素流入管及び加熱冷却装置を備えたフラスコ内に、テトラカルボン酸成分として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA)0.47モル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ニ無水物(BTDA)0.15モル、及び無水ピロメリット酸(PMDA)0.33モル、ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)1.02モルを投入した。溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の合計100質量部に対し、400質量部投入し、窒素雰囲気下で攪拌しながら2時間反応させた。それにより、樹脂分20質量%のポリイミドワニス(C−1)を得た。
【0070】
(調製例2)
攪拌機、窒素流入管及び加熱冷却装置を備えたフラスコ内に、テトラカルボン酸成分として無水ピロメリット酸(PMDA)1.00モル、ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)1.02モルを投入した。溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の合計100質量部に対し、400質量部投入し、窒素雰囲気下で攪拌しながら2時間反応させた。それにより、樹脂分20質量%のポリイミドワニス(C−2)を得た。
【0071】
(調整例3)
攪拌機、窒素流入管及び加熱冷却装置を備えたフラスコ内に、テトラカルボン酸成分として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA)0.59モル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ニ無水物(BTDA)0.16モル、及び無水ピロメリット酸(PMDA)0.25モル、ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)1.02モルを投入した。溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の合計100質量部に対し、400質量部投入し、窒素雰囲気下で攪拌しながら2時間反応させた。それにより、樹脂分20質量%のポリイミドワニス(C−3)を得た。
【0072】
(調整例4)
攪拌機、窒素流入管及び加熱冷却装置を備えたフラスコ内に、テトラカルボン酸成分として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA)0.70モル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ニ無水物(BTDA)0.10モル、及び無水ピロメリット酸(PMDA)0.20モル、ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)1.02モルを投入した。溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の合計100質量部に対し、400質量部投入し、窒素雰囲気下で攪拌しながら2時間反応させた。それにより、樹脂分20質量%のポリイミドワニス(C−4)を得た。
【0073】
調整例1〜4で調製したポリイミドのモノマー組成を表2に示す。
【表2】
【0074】
2.絶縁電線の作製と評価
(実施例1)
直径0.25mmの丸型銅導体の周囲に、調製例1で調製したポリイミドワニス(C−1)を塗布した後、所定の温度で焼き付けして、厚み4.5μmのポリイミドからなる絶縁層を得た。得られた丸型導体を、一方向のみ圧延した。
この圧延された被覆導体のポリイミド層上に、TCV V1−14改B(東特塗料社製、脂肪族ポリアミド)をさらに塗布した後、乾燥させて、厚み3.0μmの自己融着層を形成し、絶縁電線1を得た。
絶縁電線の断面の長軸の長さLは、1.2mmであり、短軸の長さSは、0.20mmであり、長軸の長さLと短軸の長さSの比L/Sは6であった。
絶縁電線を構成する導線の断面も前述と同様に、長軸の長さlは1141μm、短軸の長さsは192.7μmであった。
【0075】
(実施例2〜3)
得られる絶縁電線の断面の比L/Sが表3に示される値となるように圧延条件を変更した以外は実施例1と同様にして絶縁電線2〜3を得た。
【0076】
(実施例4〜5)
ポリイミドワニスの種類が表3に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして絶縁電線4〜5を得た。
【0077】
(比較例1〜3)
ポリイミドワニスの種類と絶縁電線の断面の比L/Sが表4に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして絶縁電線6〜8を得た。
【0078】
得られた被覆導体の絶縁層及び絶縁電線の自己融着層の軟化温度を、JIS C3216−6(環状交差法)に従って測定した。
【0079】
(軟化温度)
被覆導体を30cmずつ切り取り、2本の試験片を得た。2本の試験片をそれぞれ環状にして交差させて、おもりをつり下げて、恒温槽に入れた。そして、試験片に交流電圧100Vを加え、1分間当たり2℃の割合で温度を上昇させて、短絡する温度を試験片に最も近い部分に固定した熱電対にて測定し、絶縁層の軟化温度とした。短絡電流を、5〜20mAとした。
絶縁電線についても同様の測定を行い、自己融着層の軟化温度を測定した。
【0080】
さらに、被覆導体の絶縁層のひび割れや層内剥離の有無を、以下の方法で評価した。
【0081】
(ひび割れ)
圧延後の被覆導体の切断面において、絶縁層の長辺部分(フラット部)のひび割れ(導体に対して略垂直方向に入ったひび割れ)の有無を、SEMにて観察した。そして、以下の基準に基づいて、ひび割れの評価を行った。
◎:ひび割れが全くない
○:ひび割れが若干みられるが、実質的に問題ないレベル
×:ひび割れが多くみられ、実質的に問題となるレベル
なお、◎と○は、ひび割れが少ないことから、絶縁破壊特性が良好であることを意味する。
【0082】
(層内剥離)
被覆導体の切断面において、絶縁層の層内剥離(隙間)の有無を、SEMにて観察した。そして、以下の基準で評価した。
◎:層内剥離が全くない
○:層内剥離が若干みられるが、実質的に問題ないレベル
×:層内剥離が多くみられ、実質的に問題となるレベル
【0083】
絶縁層の軟化温度(耐熱性)、ひび割れ、及び層内剥離の総合評価を、以下の基準に基づいて行った。
A:軟化温度、ひび割れ、層内剥離の全てが◎
B:軟化温度、ひび割れ、層内剥離のいずれか一つが○、残りが◎
C:軟化温度、ひび割れ、層内剥離のいずれか二つ以上が○
D:軟化温度、ひび割れ、層内剥離のいずれか一つ以上が×
尚、軟化温度(耐熱性)は、400℃以上を◎、350℃以上400℃未満を○、350℃未満を×とした。
【0084】
実施例1〜5の評価結果を表3に、比較例1〜3の評価結果を表4に示す。
【表3】
【表4】
【0085】
表3に示されるように、実施例1〜5の被覆導体は、絶縁層にひび割れはなく、層内剥離もみられなかった。特に、BTDA/BPDA比率が27モル%であるポリイミドC−3を用いた実施例4の被覆導体は、BTDA/BPDA比率が15モル%であるポリイミドC−4を用いた実施例5の被覆導体よりも、軟化温度を低下させることなく、圧延時のひび割れをより少なくできることがわかる。これは、ポリイミドC−3の絶縁層が、ポリイミドC−4の絶縁層よりも柔軟性が高く、靱性が高いからであると考えられる。
【0086】
これに対して比較例1〜3の被覆導体は、絶縁層の耐熱性は高いものの、層内剥離が生じ、コイル巻きした時に、平角線同士を融着することができないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、絶縁層のひび割れが抑制され、且つ高い耐熱性と、導体との良好な密着性や層内密着性とを有する絶縁電線を提供することができる。
【符号の説明】
【0088】
10 絶縁電線
11 導体
13 絶縁層
15 自己融着層
図1