【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明の吸着体は、平均径が略0.5〜10μmの熱可塑性樹脂が積層された積層体からなり、該積層体の充填密度が略0.20〜0.40g/mL、及び比表面積が略0.33〜6.54m
2/gである。
【0015】
ここで、吸着体を構成する材料として熱可塑性樹脂が採用されることにより、低コストで微細な繊維を容易に生成することができるとともに、耐久性にも優れ、特定の懸濁物質や溶解性物質を選択的に吸着させることができる。
【0016】
また、熱可塑性樹脂の平均径が略0.5〜10μmであり、熱可塑性樹脂が積層された積層体の充填密度が略0.20〜0.40g/mL、比表面積が0.33〜6.54m
2/gであることにより、吸着体の吸着容量を高めることができるため、特定の懸濁物質や溶解性物質を選択的に大量に吸着させることができる。そのため、吸着体の後段に設置する逆浸透膜の劣化を防ぎ、逆浸透膜の吸着性能を長期間において維持することができる。さらに、平均径が小さい繊維を積層しているために繊維同士の空間が適切に確保されるとともに、毛細管現象による水の浸透も発生することから、吸着体の通水抵抗を低くすることができるため、被処理水を少ない加圧力で吸着体に通水させることができる。従って、吸着体が設置される水処理装置全体のランニングコストを抑えることができる。
【0017】
なお、平均径が10μmよりも大きい場合には、吸着体を構成する繊維の径が大きくなることにより、吸着体の比表面積が小さくなるため、懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。そのため、吸着体を頻繁に交換する必要がある。また、表面積が小さくなることで吸着反応時間が短くなるため、処理性能が減少して吸着体の後段に設置される逆浸透膜の劣化が早まり、逆浸透膜の交換サイクルが短くなる。このことから、水処理装置全体のランニングコストが上昇する虞がある。
【0018】
一方、平均径が0.5μm未満の場合には、比較的安価な製造方法であるメルトブロー法では製造上の限界があり、例えば電解紡糸法を用いる必要があるため、製造コストが上昇する虞がある。
【0019】
また、積層体の充填密度を0.40g/mLよりも高くするには、ある程度まで繊維同士を密着させる必要があるが、その為には別途圧縮工程を設ける必要があり、製造コストが上昇する虞がある。また、そのような方法で圧縮加工したものでは通水抵抗が高くなるため、通水に必要な電気エネルギーを大きくしてしまうため、水処理装置全体のランニングコストを上昇させる虞がある。
【0020】
一方、充填密度が0.20g/mL未満の場合には、吸着体による懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。そのため、吸着体の後段に設置される逆浸透膜の劣化が早まり、逆浸透膜の交換サイクルが短くなる。また、繊維間の空隙が大きくなりすぎるために吸着体の強度が弱くなり、通水時に吸着体の型崩れを引き起こし、均一な処理ができなくなることで処理水質が悪化する虞がある。
【0021】
また、比表面積を6.54m
2/gよりも大きくするには、熱可塑性樹脂の平均径を0.5μm未満とするか、充填密度を0.40g/mLよりも高くする必要があることから、比較的安価な製造方法であるメルトブロー法では製造上の限界があり、例えば電界紡糸法を用いる必要があるため、製造コストが上昇する虞がある。
【0022】
一方、比表面積が0.33m
2/g未満の場合には、吸着体による懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。そのため、吸着体の後段に設置される逆浸透膜の劣化が早まり、逆浸透膜の交換サイクルが短くなる。また、吸着体の単位質量あたりの吸着能力が低下するため、一定の吸着量を確保するためには、吸着体を大型化する必要があるため、水処理装置を運用する上での吸着体のコストが上昇し、水処理装置全体のランニングコストが上昇する虞がある。
【0023】
また、熱可塑性樹脂が、半芳香族ポリアミド樹脂である場合には、半芳香族ポリアミド樹脂はベンゼン環を有する材料であるため、特定の懸濁物質や溶解性物質の吸着性能を高めることができる。従って、構成材料としてベンゼン環の存在比率の高い逆浸透膜の上流に吸着体を設置する場合においては、逆浸透膜に吸着する懸濁物質や溶解性物質を吸着体にて事前に吸着させることができるため、逆浸透膜の劣化を防ぎ、逆浸透膜の吸着性能を長期間において維持することができる。
【0024】
また、熱可塑性樹脂は、MXD樹脂である場合には、充填密度を調整しやすいため、充填密度が高い吸着体を製造することができる。従って、懸濁物質や溶解性物質を選択的に大量に吸着体に吸着させることができる。
【0025】
前記の目的を達成するために、本発明の吸着体の製造方法は、溶融された熱可塑性樹脂を空気流により射出して、略0.5〜10μmの平均径となるように前記熱可塑性樹脂をメルトブローする工程と、前記メルトブローする工程により繊維化された前記熱可塑性樹脂を、前記熱可塑性樹脂のガラス転移点以上の温度条件のもとで巻き取る工程とを備える。
【0026】
ここで、溶融された熱可塑性樹脂を空気流により射出して、略0.5〜10μmの平均径となるように熱可塑性樹脂をメルトブローする工程を備えることにより、熱可塑性樹脂を微細な繊維状とすることができる。
【0027】
なお、平均径が10μmよりも大きい場合には、吸着体を構成する繊維の径が大きくなることにより、吸着体の充填密度が低くなるとともに比表面積も小さくなるため、懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。そのため、吸着体を頻繁に交換する必要がある。また、表面積が小さくなることで吸着反応時間が短くなるため、処理性能が減少して吸着体の後段に設置される逆浸透膜が短時間で劣化してしまい、逆浸透膜の交換サイクルが短くなる。このことから、水処理装置全体のランニングコストが上昇する虞がある。
【0028】
一方、平均径が0.5μm未満の場合には、比較的安価な製造方法であるメルトブロー法では製造上の限界があり、例えば電解紡糸法を用いる必要があるため、製造コストが上昇するという虞がある。
【0029】
また、熱可塑性樹脂のガラス転移点以上の温度条件のもとで、繊維化された熱可塑性樹脂を巻き取る工程を備えることにより、巻き取りと同時に一定の速度で熱可塑性樹脂の結晶化を進めることができる。これにより、繊維化された熱可塑性樹脂の巻き取りと同時に熱可塑性樹脂の結晶化を徐々に進めることができるため、充填密度が高く、比表面積が大きい吸着体を製造することができる。
【0030】
また、熱可塑性樹脂を溶融する工程は、略250〜330℃の溶融温度で溶融する場合には、射出される平均径を略0.5〜10μmの微細な繊維状とすることができるため、充填密度が高く、比表面積が大きい吸着体を製造することができる。
【0031】
なお、溶融温度として330℃以上の場合には、熱過疎性樹脂の分解が進んでガスが発生し、安定した繊維化が困難となる。従って、このような温度域では、平均径として0.5〜10μmのように熱可塑性樹脂を微細な繊維状することができず、比表面積が低下して吸着体の懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。
【0032】
一方、溶融温度として250℃未満の場合には、熱可塑性樹脂の溶融状態が不充分となり、平均径を略0.5〜10μmのように微細な繊維状とすることができない。そのため、総表面積も小さくなるため、吸着体の懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。
【0033】
また、熱可塑性樹脂をメルトブローする工程は、温度が略300〜500℃で、かつ流速が略150〜300m/secの空気流で熱可塑性樹脂を射出する場合には、後述する熱可塑性樹脂を巻き取る工程において、熱可塑性樹脂を巻き取ると同時に、徐々に熱可塑性樹脂を結晶化、収縮させることができるため、充填密度が高く、総表面積が大きいとともに、通水抵抗の低い吸着体を製造することができる。
【0034】
なお、メルトブローする際の空気流の温度を500℃よりも高くすると、熱過疎性樹脂の分解が進んでガスが発生し、メルトブローによる安定した繊維化が困難となる。このような温度域では、平均径として0.5〜10μmのように熱可塑性樹脂を微細な繊維状とすることができないため、比表面積が低下して吸着体の懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。
【0035】
一方、メルトブローする際の空気流の温度を300℃未満とすると、溶融した熱過疎性樹脂がメルトブローによって繊維状に成形させる前に冷却されてしまうため、平均径が0.5〜10μmの微細な繊維状をとすることが困難となる。また、巻き取り時の温度をガラス転移点以上に保持することも困難となるため、充填密度が低い吸着体となってしまい、吸着体の懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。
【0036】
また、メルトブローする際の空気流の流速として300m/secよりも速くすると、射出された熱可塑性樹脂が微細な繊維状に延伸される前に切れてしまい、平均径が0.5〜10μmにすることが困難となるため、吸着体の懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。
【0037】
一方、メルトブローする際の空気流の流速として150m/sec未満とすると、射出により繊維化された熱可塑性樹脂の平均径を略0.5〜10μmのように微細な繊維状とすることができない。そのため、吸着体の充填密度を高めることができず、また総表面積も小さくなるため、吸着体の懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。
【0038】
また、熱可塑性樹脂を巻き取る工程は、巻き取り時の熱可塑性樹脂の表面温度が略100〜150℃となる温度条件のもとで巻き取る場合には、巻き取り後の所定時間経過後に一定の速度で熱可塑性樹脂の結晶化を進めることができる。これにより、繊維の巻き取りにより積層された積層体を溶融させること無く、巻き取り後の結晶化を徐々に進めることができ、積層体の全体が径方向、および長さ方向に収縮するため、充填密度が高く、総表面積が大きいとともに、通水抵抗の低い吸着体を製造することができる。
【0039】
なお、巻き取り時の熱可塑性樹脂の表面温度が150℃よりも高い場合には、巻き取り時の熱可塑性樹脂の結晶化が早まることから、巻き取りと同時に結晶化されてしまう。そのため、巻き取り後の結晶化に伴う積層体の収縮が促進されないことになるため、充填密度を高めることができず、吸着体の懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。
【0040】
一方、巻き取り時の熱可塑性樹脂の表面温度を100℃未満とすると、熱可塑性樹脂の結晶化速度が遅くなり、巻き取った後の熱可塑性樹脂の収縮までに長時間を要するとともに、収縮率も下がる虞がある。その結果、充填密度を高めることができず、吸着体の懸濁物質や溶解性物質の吸着容量が制限されてしまう。
【0041】
また、熱可塑性樹脂を巻き取る工程の後に、熱可塑性樹脂をオーブン装置で所定の温度条件のもとで加熱する工程を有する場合には、繊維を積層した積層体の結晶化を徐々に進めることができ、積層体の全体が径方向、および長さ方向に収縮するため、充填密度が高く、総表面積が大きいとともに、通水抵抗の低い吸着体を製造することができる。
【0042】
また、熱可塑性樹脂を巻き取る工程の後に、熱可塑性樹脂を所定の温度の温水を通水する工程を有する場合には、繊維を積層した積層体が温水により加温されるため、積層体の結晶化をさらに進めることができ、積層体の全体が径方向、および長さ方向に収縮するため、充填密度が高く、総表面積が大きいとともに、通水抵抗の低い吸着体を製造することができる。さらに、温水の通水により、積層体内に蓄積した有機物等の不純物を洗浄により除去することができる。