【文献】
岩元 睦夫,色むらのあるトマト表皮色の色彩判定について,日本食品工業学会誌,日本,1979年,第26巻/第4号,156-161
【文献】
久保田 洋孝 Hirotaka KUBOTA,果物の光学特性の時間変化の計測と表現 Measurement and Simulation of Optical Properties of Fruits Surface with time,電子情報通信学会論文誌 (J82ーD−II) 第12号 THE TRANSACTIONS OF THE INSTITUTE OF ELECTRO,日本,社団法人電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRO,第J82-D-II巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、短時間且つ非破壊で、植物体の広範囲における栄養素の含有度を得ることができる植物体の検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る植物体の検査装置は、
検査対象の植物体を複数の方向から撮影し、撮影された各画像の予め定められた範囲内の各画素において分光反射スペクトルを取得するスペクトル取得部と、
複数の前記画像の複数の前記分光反射スペクトルの第1波長帯及び第2波長帯のスペクトル強度を用いて、前記植物体の色素の含有度を算出する演算部と、
を備え、
前記第1波長帯および前記第2波長帯は、予め取得された色素の分光反射スペクトルに基づいて予め定められ、
前記色素の前記分光反射スペクトルは、スペクトル強度が波長に対して一定であって弱い領域から、スペクトル強度が波長の増加に伴い強くなる領域に変化する変化点を有し、
前記第1波長帯は、前記変化点よりも短波長側の波長帯であり、
前記第2波長帯は、前記変化点及び前記変化点よりも長波長側の波長帯であることを特徴とする。
【0008】
前記植物体の検査装置において、
前記植物体が載置されるステージを備え、
前記ステージを回転させることにより、前記スペクトル取得部は、前記植物体を複数の方向から撮影してもよい。
【0009】
前記植物体の検査装置において、
前記ステージを傾斜させることにより、前記スペクトル取得部は、前記植物体を複数の方向から撮影してもよい。
【0010】
前記植物体の検査装置において、
前記演算部は、
前記画像毎に前記複数の分光反射スペクトルを平均して複数の第1平均スペクトルを得て、
前記複数の第1平均スペクトルを平均して第2平均スペクトルを得て、
前記第2平均スペクトルの前記第1波長帯の積分値A
sumと、前記第2平均スペクトルの前記第2波長帯の積分値B
sumとを算出し、
前記積分値A
sum,B
sumと前記色素の含有度との関係を表す予め定められた関係式を用いて、前記色素の含有度を算出してもよい。
【0011】
前記植物体の検査装置において、
前記関係式は、前記色素の含有度をXとして、X=(B
sum−A
sum)/(B
sum+A
sum)であってもよい。
【0012】
前記植物体の検査装置において、
前記色素は、βカロテンであり、
前記第1波長帯は、550nm未満の波長帯であり、
前記第2波長帯は、550nm以上の波長帯であってもよい。
【0013】
前記植物体の検査装置において、
前記予め定められた範囲は、前記植物体の画像の全体であってもよい。
【0014】
前記植物体の検査装置において、
前記スペクトル取得部は、分光イメージングカメラであってもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る植物体の検査方法は、
検査対象の植物体を複数の方向から撮影し、撮影された各画像の予め定められた範囲内の各画素において分光反射スペクトルを取得するステップと、
複数の前記画像の複数の前記分光反射スペクトルの第1波長帯及び第2波長帯のスペクトル強度を用いて、前記植物体の色素の含有度を算出するステップと、
を備え、
前記第1波長帯および前記第2波長帯は、予め取得された色素の分光反射スペクトルに基づいて予め定められ、
前記色素の前記分光反射スペクトルは、スペクトル強度が波長に対して一定であって弱い領域から、スペクトル強度が波長の増加に伴い強くなる領域に変化する変化点を有し、
前記第1波長帯は、前記変化点よりも短波長側の波長帯であり、
前記第2波長帯は、前記変化点及び前記変化点よりも長波長側の波長帯であることを特徴とする。
【0016】
前記植物体の検査方法において、
前記色素の含有度を算出するステップは、
前記画像毎に前記複数の分光反射スペクトルを平均して複数の第1平均スペクトルを得るステップと、
前記複数の第1平均スペクトルを平均して第2平均スペクトルを得るステップと、
前記第2平均スペクトルの前記第1波長帯の積分値A
sumと、前記第2平均スペクトルの前記第2波長帯の積分値B
sumとを算出するステップと、
前記積分値A
sum,B
sumと前記色素の含有度との関係を表す予め定められた関係式を用いて、前記色素の含有度を算出するステップと、を有してもよい。
【0017】
前記植物体の検査方法において、
算出された前記色素の含有度が予め定められたしきい値以上である前記植物体を出荷または収穫するステップを備えてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、短時間且つ非破壊で、植物体の広範囲における栄養素の含有度を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0021】
図1は、一実施形態に係る植物体の検査装置100の概略的な構成を示す図である。
図1に示すように、植物体の検査装置100は、ステージ1と、光源10と、分光イメージングカメラ(スペクトル取得部)20と、演算部30と、を備える。
【0022】
検査対象の植物体P1は、栄養素としてカロテノイド系色素とポルフィリン系色素の少なくとも何れかを含むものであり、例えば、野菜、果物及び穀物等である。以下、単に色素と記載する場合、カロテノイド系色素またはポルフィリン系色素を意味する。
【0023】
ステージ1には、植物体P1が載置される。ステージ1は、鉛直方向を中心として回転可能に構成されると共に、鉛直方向とステージ1の法線方向とが交わるように傾斜可能に構成されている。
【0024】
光源10は、ステージ1の上方に配置され、検査対象の植物体P1に可視光を含む照明光L1を照射する。例えば、照明光L1の波長は、350〜1050nmである。照明光L1の強度の波長依存性は、低い方が好ましい。
【0025】
分光イメージングカメラ20は、植物体P1を複数の方向から撮影する。図示する例では、分光イメージングカメラ20はステージ1の側方に固定されている。そのため、ステージ1を回転させることにより、又は、ステージ1を傾斜させることにより、分光イメージングカメラ20は植物体P1を複数の方向から撮影する。
【0026】
具体的には、分光イメージングカメラ20は、照明された植物体P1からの反射光L2を検出することで、植物体P1を撮影する。この時、分光イメージングカメラ20は、撮影された各画像の各画素において、分光反射スペクトル(分光イメージングデータ)を取得する。分光イメージングカメラ20は、例えば、350〜1050nmの波長の範囲で、5nm間隔で分光して分光反射スペクトルを取得する。言い換えれば、分光イメージングカメラ20は、各画素について分光反射スペクトルを合成することにより、カラー画像を取得できる。分光イメージングカメラ20は、例えば、ハイパースペクトルカメラ NHシリーズ(エバ・ジャパン株式会社製)を用いてもよい。
【0027】
なお、分光イメージングカメラ20は、撮影された画像の全画素において分光反射スペクトルを測定できなくてもよい。つまり、分光イメージングカメラ20は、撮影された植物体P1の各画像の予め定められた範囲内の各画素において分光反射スペクトルを取得できればよい。
【0028】
演算部30は、植物体P1の複数の画像の複数の分光反射スペクトルの第1波長帯A及び第2波長帯Bのスペクトル強度を用いて、植物体P1の色素の含有度Xを算出する。演算部30は、例えば、コンピュータなどである。具体的な演算部30の機能は、フローチャートを参照して後述する。
【0029】
これら第1波長帯A及び第2波長帯Bは、植物体P1の検査に先立ち、予め取得された色素の分光反射スペクトルに基づいて予め定められた波長帯である。第1波長帯Aは、予め取得された色素の分光反射スペクトルにおいて相対的にスペクトル強度が弱い波長帯である。第2波長帯Bは、予め取得された色素の分光反射スペクトルにおいて相対的にスペクトル強度が強い波長帯である。
【0030】
具体的には、検査対象の色素を紙等に塗布して、分光イメージングカメラ20で分光反射スペクトルを取得する。この場合には、一方向からの撮影でもよい。取得された分光反射スペクトルは、スペクトル強度が波長に対してほぼ一定であって弱い領域から、スペクトル強度が波長の増加に伴い強くなる領域に変化する変化点を有している。第1波長帯Aは、この変化点よりも短波長側の波長帯であり、第2波長帯Bは、この変化点及び変化点よりも長波長側の波長帯である。
【0031】
例えば、色素がカロテノイド系色素のβカロテンである場合、変化点は約550nmであり、第1波長帯Aは350nm以上550nm未満の波長帯であり、第2波長帯Bは550nm以上1050nm以下の波長帯である。
【0032】
表1は、カロテノイド系色素の一例と、その色素の色と、その色素を多く含む植物体P1の一例とを示す。
【表1】
【0033】
図2は、一実施形態に係る色素の含有度Xの算出処理を示すフローチャートである。
【0034】
まず、分光イメージングカメラ20により、照明光L1で照明された検体(植物体P1)を複数の方向から撮影する(ステップS1)。この時、前述のように、撮影された各画像の各画素において分光反射スペクトルが取得される。
【0035】
この処理に先立ち、分光イメージングカメラ20により、検体が存在しない状態で、照明光L1で照明された白板等を撮影して、補正用の分光反射スペクトルを取得してもよい。このような補正用の分光反射スペクトルを用いて、ステップS1で取得された分光反射スペクトルを補正することにより、照明光L1の強度の波長依存性の影響を除去して、検体の分光反射スペクトルをより正確に取得できる。
【0036】
次に、演算部30により、撮影された各画像から算出エリアを抽出する(ステップS2)。この処理は、例えば、周知の画像処理を用いて検体の画像の全体を算出エリアとして自動的に抽出してもよい。検体の画像の全体を算出エリアとすることで、検体の全体における色素の含有度Xを算出できる。また、このような算出エリアの自動的な抽出は、選別ラインなどにおいて複数の検体の色素の含有度Xを算出する場合に好ましい。
【0037】
次に、演算部30により、画像毎に、抽出した算出エリアにおいて、取得された複数の分光反射スペクトルを平均して複数の第1平均スペクトルを得る(ステップS3)。つまり、各第1平均スペクトルは、対応する画像の分光反射スペクトルの平均である。
【0038】
次に、演算部30により、ステップS3で得られた複数の第1平均スペクトルを平均して第2平均スペクトルを得る(ステップS4)。つまり、第2平均スペクトルは、複数の画像の複数の分光反射スペクトルの平均である。
【0039】
ステップS3とステップS4とをまとめて、複数の画像の複数の分光反射スペクトルを平均して直接第2平均スペクトルを得てもよい。
【0040】
次に、演算部30により、第2平均スペクトルの第1波長帯Aの積分値A
sumと、第2平均スペクトルの第2波長帯Bの積分値B
sumと、を算出する(ステップS5)。
【0041】
最後に、演算部30により、積分値A
sum,B
sumと植物体P1の色素の含有度Xとの関係を表す予め定められた関係式を用いて、色素の含有度Xを算出する。本実施形態では、この関係式は、色素の含有度をXとして、X=(B
sum−A
sum)/(B
sum+A
sum)である。この関係式は、文献:低温科学,vol.67,2009年,503ページに記載されたNDVIと称される指標の計算式を参考にして導出している。つまり、演算部30により、この関係式に第2平均スペクトルの積分値A
sum,B
sumを代入し、色素の含有度Xを算出する(ステップS6)。例えば、色素の含有度Xは、図示しない表示部に表示される。含有度Xは、−1から+1の範囲の値であり、含有度Xが+1に近い程、色素の含有量が多いことを表す。
【0042】
換言すると、演算部30は、植物体P1の分光反射スペクトルが予め取得されている色素の分光反射スペクトルに類似している程、高い含有度Xを算出する。
【0043】
ステップS6の後、算出された色素の含有度Xが予め定められたしきい値以上である植物体P1を出荷または収穫するステップを備えてもよい。
【0044】
図3は、一実施形態に係る色素の局所的な含有度LXの分布の画像化処理を示すフローチャートである。この画像化処理は、
図2を参照して説明した色素の含有度Xの算出処理と共に行われてもよい。ここで、「局所的な成熟度」とは、各画素に対応する成熟度のことをいう。
【0045】
まず、分光イメージングカメラ20により、照明光L1で照明された検体(植物体P1)を一方向から撮影する(ステップS11)。
図2のステップS1で撮影された複数の画像のうちの1つを選択してもよい。
【0046】
次に、演算部30により、撮影された画像内の各画素の分光反射スペクトルについて、第1波長帯Aの積分値LA
sumと、第2波長帯Bの積分値LB
sumとを算出する(ステップS12)。
【0047】
次に、各画素について、積分値LA
sum,LB
sumと植物体P1の色素の局所的な含有度LXとの関係を表す予め定められた関係式を用いて、色素の局所的な含有度LXを算出する。本実施形態では、この関係式は、色素の局所的な含有度をLXとして、LX=(LB
sum−LA
sum)/(LB
sum+LA
sum)である。つまり、演算部30により、各画素について、この関係式にスペクトルの積分値LA
sum,LB
sumを代入し、色素の局所的な含有度LXを算出する(ステップS13)。
【0048】
最後に、演算部30により、各画素について、色素の局所的な含有度LXを20段階で階調表示して、色素の局所的な含有度LXの分布を表す画像を表示する(ステップS14)。この画像は、例えば、図示しない表示部に表示される。この画像は、ステップS11にて一方向から撮影された画像に対応する。なお、色素の局所的な含有度LXは、−1から+1の範囲の値である。階調表示の階調数は、20段階に限らない。
図2のステップS1で撮影された複数の画像のそれぞれに対してステップS12〜ステップS14の処理を行い、色素の局所的な含有度LXの分布を表す複数の画像を表示してもよい。
【0049】
次に、上述した植物体の検査装置100を用いて色素の含有度Xを算出する一例について、
図4〜10を参照して説明する。
【0050】
まず、色素の含有度Xの算出原理について、説明を明確化するために一方向から植物体P1を撮影した場合を仮定し、
図4〜6を参照して説明する。ここでは、植物体P1がリーフレタス及びほうれん草であり、色素がカロテノイド系色素のβカロテンである場合について説明する。
【0051】
その後、上述した植物体の検査装置100を用い、複数の方向から植物体P1を撮影して色素の含有度Xを算出する一例について、
図7〜10を参照して説明する。
【0052】
図4は、βカロテン、リーフレタス及びほうれん草の分光反射スペクトルの平均スペクトルを示す図である。この平均スペクトルは、ある一方向から撮影して取得された複数の分光反射スペクトルを平均して得られたものである。
図4の横軸は、波長を単位nmで表し、縦軸は、スペクトル強度を任意の単位で表している。また、
図4は、波長400nmから830nmの範囲を示している。ここでは、リーフレタス及びほうれん草全体の画像の分光反射スペクトルをそれぞれ平均している。
【0053】
図4に示すように、βカロテンの分光反射スペクトルの強度は、波長420nm付近から波長550nm未満において殆ど一定であって弱く、波長550nm以上において波長の増加に伴い強くなる。従って、前述のように、変化点は約550nmであり、第1波長帯Aは550nm未満の波長帯であり、第2波長帯Bは550nm以上の波長帯である。
【0054】
図5(a)は、
図4のリーフレタスの画像であり、
図5(b)は、
図4のリーフレタスのβカロテンの局所的な含有度LXの分布を表す画像である。
【0055】
図6(a)は、
図4のほうれん草の画像であり、
図6(b)は、
図4のほうれん草のβカロテンの局所的な含有度LXの分布を表す画像である。
【0056】
図5(a)及び
図6(a)は、各画素について得られた分光反射スペクトルを合成して、カラー表示した画像である。つまり、これらの画像は、人間がリーフレタス及びほうれん草を肉眼で観察した場合に認識できる像と同等である。
【0057】
リーフレタス及びほうれん草は、
図5(a)及び
図6(a)に示すように、肉眼で観察した場合に緑色に観察される。即ち、肉眼では、リーフレタス及びほうれん草の色の違いを明確に判断できない。
【0058】
図4に示すように、第2波長帯Bの730nm以上において、リーフレタスの分光反射スペクトルの強度は、ほうれん草の分光反射スペクトルの強度よりも弱い。第2波長帯Bの550nmから660nm付近においては、リーフレタスの分光反射スペクトルの強度は、ほうれん草の分光反射スペクトルの強度よりも強いが、波長730nm以上の強度より弱い。よって、ほうれん草の分光反射スペクトルの第2波長帯Bの積分値B
sumは、リーフレタスの分光反射スペクトルの積分値B
sumより大きい。
【0059】
また、リーフレタス及びほうれん草について、第2波長帯Bの分光反射スペクトルの強度は、第1波長帯Aの分光反射スペクトルの強度よりも大幅に強い。よって、リーフレタス及びほうれん草について、積分値B
sumは、積分値A
sumより大幅に大きい。
【0060】
従って、これらの積分値をステップS6の関係式に代入して、一方向からの撮影で得られた含有度Xを計算すると、
図4に示すように、ほうれん草のβカロテンの含有度Xは、0.73であり、リーフレタスのβカロテンの含有度Xは、0.65である。
【0061】
また、
図5(b)に示すように、リーフレタスのβカロテンの局所的な含有度LXは、大部分において低いが、一部の領域(破線で囲まれた領域)R1では高くなっている。
【0062】
一方、
図6(b)に示すように、ほうれん草のβカロテンの局所的な含有度LXは、リーフレタスより広い領域(破線で囲まれた領域)R2において高くなっている。
【0063】
このことからも、ほうれん草の撮影された範囲全体のβカロテンの含有度Xが、リーフレタスの撮影された範囲全体のβカロテンの含有度Xより高いことが分かる。
【0064】
このように、肉眼ではリーフレタス及びほうれん草の色の違いを判断することは容易ではないため、リーフレタスとほうれん草との何れがβカロテンを多く含むかを肉眼で判断することは困難である。しかし、算出された含有度Xは、リーフレタスとほうれん草とにおいて明確に異なっている。そのため、含有度Xを用いれば、どの植物体P1が相対的に多くのβカロテンを含んでいるか判断できる。
【0065】
次に、複数の方向から植物体を撮影して色素の含有度Xを算出する一例について、
図7〜10を参照して説明する。ここでは、植物体P1として、ほうれん草を用いる一例について説明する。以下、“ばら”のほうれん草とは、1株のほうれん草の根側で複数の葉を1枚ずつばらしたものを意味する。
【0066】
まず、1株のほうれん草の撮影について説明する。
図7(a)は、一実施形態に係るステージ1の回転角度に応じた1株のほうれん草の撮影方向を説明する図であり、
図7(b)は、一実施形態に係るステージ1の傾斜角度に応じた1株のほうれん草の撮影方向を説明する図である。
【0067】
図7(a)に示すように、1株のほうれん草を寝かせてステージ1に載置する。そして、ステージ1の回転角度を、0°を基準にして、45°、90°、135°、180°、225°、270°、315°に変化させる。ステージ1の傾斜角度は0°であるとする。そして、各回転角度において、ほうれん草を撮影する。この例では、0°の時にほうれん草の正面方向から撮影でき、90°の時に上面方向(上部方向、葉側の方向)から撮影でき、180°の時に正面方向と反対方向の裏面方向から撮影でき、270°の時に下面方向(下部方向、根側の方向)から撮影できる。
【0068】
また、
図7(b)に示すように、ステージ1の回転角度が0°(正面方向)の時に傾斜角度を25°、45°に変化させ、ステージ1の回転角度が180°(裏面方向)の時に傾斜角度を25°、45°に変化させる。そして、各傾斜角度において、ほうれん草を撮影する。
図7(a)、(b)において、ステージ1上では、ほうれん草を移動させない。
【0069】
つまり、図示した例では、1株のほうれん草を12方向から撮影している。これにより、ある方向から撮影した時には他の葉に隠れて撮影できない葉が、他の方向から撮影した時には撮影できるようになり、ほうれん草の多くの部分を撮影できる。植物体P1を撮影する方向の数は、植物体の形状に応じて最適値を選択すればよい。例えば、リンゴ等の比較的単純な表面形状を有する植物体P1では、正面方向と裏面方向とを含む少なくとも2方向あればよい。
【0070】
次に、ばらのほうれん草の撮影について説明する。
図8は、一実施形態に係るばらのほうれん草の撮影方向を説明する図である。
図8に示すように、まず、ほうれん草の複数の葉の表側が光源10側を向き、葉が互いに重ならないように、ステージ1に載置する。そして、ステージ1の回転角度を固定して、傾斜角度を25°、45°に変化させる。そして、各傾斜角度において、ほうれん草を撮影する。
【0071】
次に、ほうれん草の複数の葉の裏側が光源10側を向き、葉が互いに重ならないように、ステージ1に載置する。即ち、作業者が、ほうれん草の葉を裏返す。そして、ステージ1の回転角度を固定して、傾斜角度を25°、45°に変化させる。そして、各傾斜角度において、ほうれん草を撮影する。
【0072】
4つの検体A〜検体Dのそれぞれに対して、このように複数の方向から撮影された画像を用いて、1株のほうれん草の色素の含有度Xを算出し、その後、ほうれん草をばらして、複数の方向から撮影された画像を用いて、ばらのほうれん草の色素の含有度Xを算出する。検体AとBは、同一の第1の産地のほうれん草であり、検体CとDは、同一の第2の産地のほうれん草である。第1の産地は、第2の産地と異なる。
【0073】
図9(a)〜(c)は、一実施形態に係る検体A〜Dの1株のほうれん草の色素の含有度を示す図である。
図9(a)は、クロロフィルの含有度を示し、
図9(b)はβカロテンの含有度を示し、
図9(c)はルテインの含有度を示す。
【0074】
図10(a)〜(c)は、一実施形態に係る検体A〜Dのばらのほうれん草の色素の含有度を示す図である。
図10(a)は、クロロフィルの含有度を示し、
図10(b)はβカロテンの含有度を示し、
図10(c)はルテインの含有度を示す。
【0075】
図9、10から分かるように、各色素について、検体A〜Dの色素の含有度の相対関係は、1株のほうれん草による結果と、ばらのほうれん草による結果とにおいて、一致している。つまり、例えば、クロロフィルについては、
図9(a)と
図10(a)の両方において、検体C、検体D、検体A、検体Bの順に含有度が低下する結果が得られている。
【0076】
この含有度の相対関係は、撮影に用いた検体A〜Dをそれぞれフリーズドライして粉末化して成分検査した結果と同一であった。即ち、本実施形態の植物体の検査装置100を用いることで、1株で検査しても、ばらで検査しても、精度良く色素の含有度Xの相対関係を得ることができる。即ち、
図9、10の結果から、第2の産地の検体C,Dの方が、第1の産地の検体A,Bよりも、クロロフィル、βカロテン及びルテインの含有度Xが相対的に多いことが分かる。そのため、栄養素が多く含まれる植物体P1の産地を特定することができる。
【0077】
このような検査方法で、例えば、同じ種類の複数の植物体P1を検査することで、各植物体P1の色素の含有度Xを取得し、商店での販売時等に提示してもよい。これにより、色素の含有度Xが相対的に高いものに高い価格を設定することもできる。また、植物体P1の生産者は、生産した植物体P1の付加価値が分かるため、色素の含有度Xが増加するように生育条件を改善することもできる。
【0078】
さらに、選別のしきい値を設定することにより、複数の植物体P1の中から色素の含有度Xが相対的に高いものを正確且つ容易に選別することができる。従って、新規就農者等であっても、植物体P1の適切な収穫時期や出荷時期を容易に判断できる。
【0079】
ここで、比較例として、本実施形態とは異なり、ほうれん草を一方向のみから撮影して得られた色素の含有度Xについて説明する。比較例では、上述した検体A〜Dとは異なる検体E〜Gを用いている。検体E〜Gは、互いに産地が異なる。
【0080】
図11(a)〜(c)は、比較例に係る検体E〜Gの1株のほうれん草の色素の含有度を示す図である。
図11(a)は、クロロフィルの含有度を示し、
図11(b)はβカロテンの含有度を示し、
図11(c)はルテインの含有度を示す。
【0081】
図12(a)〜(c)は、比較例に係る検体E〜Gのばらのほうれん草の色素の含有度を示す図である。
図12(a)は、クロロフィルの含有度を示し、
図12(b)はβカロテンの含有度を示し、
図12(c)はルテインの含有度を示す。
【0082】
図11、12から分かるように、各色素について、検体E〜Gの色素の含有度の相対関係は、1株のほうれん草による結果と、ばらのほうれん草による結果とにおいて、一致していない。つまり、例えば、クロロフィルについては、
図11(a)では検体E、検体G、検体Fの順に含有度が低下するが、
図12(a)では検体E、検体F、検体Gの順に含有度が低下する。また、撮影に用いた検体E〜Gをそれぞれフリーズドライして粉末化して成分検査した結果とも一致しない。
【0083】
従って、比較例のような一方向のみからの撮影では、含有度の相対関係を精度良く得ることはできないことが分かる。つまり、ほうれん草のような葉物野菜では、複数の葉が重なっているため、一方向から撮影しただけでは撮影できない葉が生じることになる。従って、比較例では、ほうれん草全体を反映した色素の含有度を得ることはできない。このことは、葉物野菜に限らず、葉物野菜より単純な形状を有する果実等であっても同様である。つまり、リンゴ等の果実においても、一方向のみからの撮影では撮影できない領域が生じるため、果実の表面全体を反映した色素の含有度を得ることはできない。
【0084】
なお、
図12に示す、ばらのほうれん草による結果であっても、複数の葉の一方の面のみの色素の含有度を反映しているに過ぎないため、本実施形態の
図10の結果よりも精度は低い。
【0085】
以上で説明したように、本実施形態によれば、分光イメージングカメラ20で植物体P1を複数の方向から撮影して取得された複数の分光反射スペクトルの第1波長帯A及び第2波長帯Bのスペクトル強度を用いて、植物体P1の色素の含有度Xを算出するようにしている。これにより、短時間且つ非破壊で植物体P1の色素の含有度Xを得ることができる。また、一方向からの植物体P1の撮影では撮影できない部分についての分光反射スペクトルも考慮しているため、算出された色素の含有度Xの精度を高めることができる。従って、同種の複数の植物体P1を同一条件で検査することで、精度良く色素の含有度Xの相対関係を得ることができる。
【0086】
また、撮影された画像の予め定められた範囲内の各画素において得られた分光反射スペクトルを用いているので、植物体P1の広範囲における色素の含有度Xを算出できる。そして、予め定められた範囲を植物体P1の画像の全体に設定することで、植物体P1の全体における色素の含有度Xを算出できる。
【0087】
さらに、積分値A
sumと積分値B
sumとを用いるようにしているので、誤差等の影響を抑えて、高精度に色素の含有度Xを算出できる。
【0088】
また、光源10は、可視光を含む照明光L1を照射できればよいため、特殊な光源を必要としない。従って、植物体の検査装置100を簡単な構成で実現できる。
【0089】
(変形例)
以上の実施形態では、ステージ1を回転させることにより、又は、傾斜させることにより、分光イメージングカメラ20が植物体P1を複数の方向から撮影する一例について説明したが、ステージ1は固定しておいて、分光イメージングカメラ20を移動させて植物体P1を複数の方向から撮影してもよい。但し、植物体P1の生産現場等において、選別ラインで自動的又は半自動的に検査を行う場合には、ステージ1を回転等させることが好ましい。
【0090】
また、色素の含有度Xを算出するための関係式として、以上の実施形態で説明した関係式とは異なる式を用いてもよい。
【0091】
また、色素の含有度Xの算出処理は、
図2のフローチャートの例に限らない。例えば、
図3のフローチャートのステップS13で各画素について色素の局所的な含有度LXを算出した後に、複数の局所的な含有度LXを平均して一方向から撮影された画像に対応する色素の含有度を得てもよい。そして、この処理を複数の方向から撮影された複数の画像のそれぞれに対して行い、得られた複数の含有度を平均することで、植物体P1の全体における色素の含有度Xを得ても良い。
【0092】
さらに、
図3のフローチャートを参照して説明した画像化処理は、省略してもよい。
【0093】
また、以上の説明では、分光イメージングカメラ(スペクトル取得部)20としてハイパースペクトルカメラを用いる一例について説明したが、これに限らない。分光イメージングカメラ20として、撮影された画像の予め定められた範囲内の各画素において、第1波長帯Aと第2波長帯Bとにおける分光反射スペクトルを取得できる装置であれば、どのような呼称の装置を用いてもよい。例えば、ハイパースペクトルカメラに代えて、マルチスペクトルカメラを用いても良い。マルチスペクトルカメラとは、スペクトル分解能がハイパースペクトルカメラより大きい装置である。つまり、分光イメージングカメラ20は、反射画像や分光反射スペクトルが得られるCCD、CMOSなどの受光センサを有する装置であれば良い。
また、光源10として、光の波長が少なくとも第1波長帯Aと第2波長帯Bとを含むLED(Light Emitting Diode)等の光源を用いてもよい。
【0094】
上述した実施形態で説明した植物体の検査装置100の演算部30の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、演算部30の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0095】
また、演算部30の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0096】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。