(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記誘導材は、前記案内レールの両側に配置され、前記方向転換路の一部を構成し、前記給油材を保持する一対の脚部と、該一対の脚部と一体に形成された胴部から成ることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の転がり軸受案内装置。
前記誘導材は、前記案内レールの両側に配置され、前記方向転換路の一部を構成し、前記給油材を保持する一対の脚部から成ることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の転がり軸受案内装置。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受案内装置として、直線状に延びる案内レールを有する直動案内装置と、曲線状の案内レールを有する曲線運動案内装置が知られている。
【0003】
直動案内装置は、例えば、直線状の案内レールと、その案内レールを跨いで案内レールの長手方向に相対移動可能に跨嵌したスライダとからなり、そのスライダは、スライダ本体と、スライダの滑走時に前方または後方となる両端部にエンドキャップとを備えており、多数の転動体がスライダ内に形成された循環路を循環しながら案内レールとスライダ本体との間の転動路を転動することにより、案内レールとスライダとの滑らかな相対移動を実現する。直動案内装置はあらゆる向きに取り付けることが可能であるため、本願においては、
図1に示すように、案内レール2の延在方向をX軸方向、X軸方向に対して垂直で、被取付部と接触する案内レール2の面と平行な方向をY軸方向、X軸方向とY軸方向の双方に対して垂直な方向をZ軸方向とする。
【0004】
曲線運動案内装置は、リング状等の曲線状の案内レールと、曲線状の案内レール上を滑走可能に構成されたスライダと、転動体とからなる。
【0005】
このような転がり軸受案内装置において、スライダの前後で転動体が移動する方向を転換する方向転換路のスライダ本体側の内周面を構成するリターンガイドに、スライダ本体側から方向転換路側へ貫通した貫通孔を設け、リターンガイドのスライダ本体側に設けた潤滑剤供給路から該貫通孔を通して方向転換路内に潤滑剤を供給するものがある(例えば、特許文献1)。
【0006】
また、エンドキャップのスライダ本体側に給油用の溝を備えた部材を設け、該給油用の溝を通して方向転換路内へ潤滑剤を供給するものがある(例えば、特許文献2)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る転がり軸受案内装置1を
図1〜
図5を参照しつつ説明する。
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受案内装置1を示す斜視図である。
【0020】
図1に示すように、転がり軸受案内装置1は、細長い四角柱状の案内レール2と、案内レール2を跨いで、案内レール2の長手方向に相対移動可能に跨嵌したスライダ3とから構成されている。
【0021】
案内レール2は金属製で、Z軸方向に貫通したボルト孔4が複数形成されている。案内レール2の長さは用途に応じて適宜調整することができる。案内レール2には、X軸方向に延びる断面略円弧状の角部転動溝5a,5bおよび側部転動溝6a,6bが形成されている。側部転動溝6a,6bの底部には逃げ溝が形成されている。案内レール2は、ボルト孔4内を通したボルト7によって機械のテーブルなどの被取付部(不図示)に固定することができる。
【0022】
スライダ3は、金属製のスライダ本体8と、スライダ本体8の滑走方向の前後に取り付けられたエンドキャップ9a,9bと、エンドキャップ9a,9bを介してスライダ本体8に取り付けられ、潤滑剤貯留部を構成する潤滑剤容器10a,10bと、エンドキャップ9a,9bおよび潤滑剤容器10a,10bを介してスライダ本体8に取り付けられたサイドシール11a,11bとから構成されている。潤滑剤容器10a,10bに貯留する潤滑剤としては潤滑油とグリースがある。潤滑油としては、鉱油、合成油と合成炭化水素油との混合油、鉱油と合成炭化水素油との混合油、合成炭化水素油などがある。グリースとしては、リチウム系、ジウレア系、ウレア化合物などがある。
【0023】
サイドシール11a,11bは、弾性体からなり案内レール2に摺接するリップ部を有し、スライダ3と案内レール2との間に異物が侵入するのを防ぐ。
【0024】
転がり軸受案内装置1は、スライダ3に複数収容された後述の転動体16が、案内レール2に形成された上記転動溝とこれに対向してスライダ本体8に形成された転動溝とによって形成された転動路内を転動することで、スライダ3が直線的に運動可能に構成されている。転動路を転動する転動体16は、スライダ3の端部に近づくと、エンドキャップ9a,9bによって形成される後述の方向転換路15a〜15dの端部によってすくい上げられ、方向転換路15a〜15dによって進行方向を180°変えられ、スライダ本体8内に形成された戻り路を通過して、反対側のエンドキャップ9a,9bへ移動する。反対側のエンドキャップ9a,9bに到達した転動体16は、方向転換路15a〜15dによって、再度、進行方向を180°変えられ、転動路に戻る。このように、転がり軸受案内装置1は転動体16が無限循環するように構成されている。
【0025】
図2は第1実施形態に係る転がり軸受案内装置1のエンドキャップ9b、誘導材14、潤滑剤容器10b、サイドシール11bを示す図である。(a)はスライダ本体8側の面を示し、(b)は(a)中のA−A断面を示している。エンドキャップ9a側は、以下に説明するエンドキャップ9b側と同様の構成をしているため説明を省略する。
【0026】
図2(a)に示すように、エンドキャップ9bは、Y軸方向に長い略四角柱状に形成された胴部12と、胴部12の両端部からZ軸方向の一方の側(
図2(a)の下方)へそれぞれ突出した脚部13a,13bとから構成されている。エンドキャップ9bのスライダ本体8側には、多孔質の焼結合金からなる誘導材14が嵌め込まれている。誘導材14は、胴部22と、脚部23a,23bとを一体に形成した構成をしている。なお、誘導材14の材料としては、多孔質の高分子材料(プラスティック、エラストマ、ゴム)を用いることもできる。誘導材14は、転動体16へ塗布された潤滑剤と略同じ量の潤滑剤を転動体16との接触部へ誘導する。なお、誘導材14の胴部22と脚部23a,23bとは別体として成形し、接触して配置してもよい。
【0027】
エンドキャップ9bの胴部12と脚部13aとの境界部分および胴部12と脚部13bとの境界部分には、それぞれ、方向転換路15a,15bが形成されている。また、脚部13a,13bの先端側部分には、それぞれ、方向転換路15c,15dが形成されている。方向転換路15a〜15dは、外側の面(主にサイドシール11b側の面)を構成するエンドキャップ9bに溝状に形成された部分と、内側の面(主にスライダ本体8側の面)を構成する誘導材14の脚部23a,23bとから構成されている。
【0028】
方向転換路15a〜15dは、円弧状に湾曲して形成され、スライダ本体8と角部転動溝5a,5bおよび側部転動溝6a,6bとの間を転動する転動体16の移動方向を180度転換させ、スライダ本体8内に形成された不図示の循環路とともに転動体16を循環させる。
図2(a)においては、方向転換路15a,15cに転動体16が収容された状態を示しているが、方向転換路15b,15dにおいても同様に転動体16が収容される。
【0029】
方向転換路15aと方向転換路15cとの間、および方向転換路15bと方向転換路15dとの間には、それぞれ、エンドキャップ9b、潤滑剤容器10b、サイドシール11bをスライダ本体8にネジ固定するための貫通孔部17a,17bが形成されている。貫通孔部17a,17bは、それぞれ、X軸方向に貫通した孔を形成するとともに、スライダ本体8側に円筒状に突出している。これら円筒状部分は、スライダ本体8に形成されたネジ孔の開口部に形成された不図示の拡径孔部と嵌合することにより、エンドキャプ9bをスライダ本体8に取り付ける際のエンドキャップ9bの位置決めを容易にする。
【0030】
図2(b)に示すように、エンドキャップ9bを挟んでスライダ本体8とは反対側には、潤滑剤を貯留する潤滑剤容器10bが配置されている。また、潤滑剤容器10bを挟んでエンドキャップ9bとは反対側にはサイドシール11bが配置されている。
【0031】
潤滑剤容器10bには含油材32が収容されており、含油材32には潤滑剤が含浸されている。エンドキャップ9bおよび潤滑剤容器10bには、含油材32と誘導材14とを接続する円柱状の誘導材37が嵌入している。誘導材37は多孔質の焼結合金からなり、含油材32と接触して配置されている。これにより、含油材32に含浸された潤滑剤は、毛細管現象によって誘導材37を経由して誘導材14の胴部22へ供給される。誘導材37の焼結合金は、誘導材14の焼結合金よりも密度が低い方が望ましい。これにより、誘導材37が潤滑剤を誘導材14へスムーズに誘導しながら、誘導材14が潤滑剤を転動体へ過剰に供給するのを防ぐことができる。
【0032】
誘導材14へ供給された潤滑剤は、毛細管現象により胴部22から脚部23a,23bに誘導され、脚部23a,23bに保持された後述の給油材42a〜42b(
図4参照)から転動体16へ塗布される。毛細管現象を利用することにより、転がり軸受案内装置1をどのような向きに取り付けても、転動体16に潤滑剤を供給することができる。また、毛細管現象を利用しない場合、スライダ3の運動により、潤滑剤容器10a,10bおよびエンドキャップ9a,9b内の潤滑剤が一時的に一方の側に偏り、潤滑剤容器10a,10bからエンドキャップ9a,9bへ潤滑剤が流れにくくなるおそれがあるが、毛細管現象を利用することでこのような事を防ぐことができる。なお、潤滑剤容器10bに貯留された潤滑剤の補充が必要になった場合には、サイドシール11bを取り外して補充し、又は、潤滑剤が充填された別の潤滑剤容器10bと取り替えることができる。
【0033】
図3は、第1実施形態に係る転がり軸受案内装置1のエンドキャップ9bを示す図である。(a)はスライダ本体8側の面を示し、(b)は(a)中のB−B断面を示し、(c)はスライダ本体8とは反対側の面を示している。
【0034】
エンドキャップ9bの胴部12の中央には、X軸方向に貫通し、誘導材37を収容する誘導材嵌入孔20が形成されている。
【0035】
また、誘導材嵌入孔20の左右両側には、エンドキャップ9b、潤滑剤容器10b、サイドシール11bをスライダ本体8にネジ固定するためにX軸方向に貫通した胴部ネジ用孔21a,21bが形成されている。
【0036】
エンドキャップ9bの胴部12および脚部13a,13bのスライダ本体8側の面には、誘導材14を収容するために、誘導材14の形状に合わせて凹んだ誘導材収容部18が形成されている。
【0037】
誘導材収容部18には、誘導材14に形成された後述の凸部24a〜24d(
図4参照)が嵌合する凹部19a〜19dが形成されている。
【0038】
図4は、第1実施形態に係る転がり軸受案内装置1の誘導材14を示す図である。(a)はエンドキャップ9b側の面を示し、(b)は側面を示し、(c)は下面を示し、(d)は(a)中の拡大C−C断面を示している。
【0039】
誘導材14は、前述したように胴部22と脚部23a,23bとから形成されている。胴部22は矩形の板状に形成されており、両端部近傍にX軸方向に貫通した胴部ネジ用孔25a,25bが形成されている。脚部23a,23bは、図
4(c)から分かるように、円柱を中心線に沿って半分に割ったような半円柱状をしており、曲面がエンドキャップ9b側を向くように形成されている。脚部23a,23bは転動体を方向転換させるリターンガイドとしての役割を果たす。
【0040】
誘導材14の胴部22のエンドキャップ9b側の面の両端近傍には、円柱状に突出した凸部24a,24bが形成されている。また、誘導材14の脚部23a,23bのエンドキャップ9b側の面の略中央には、それぞれ、円柱状に突出した凸部24c,24dが形成されている。凸部24a〜24dは、エンドキャップ9bの誘導材収容部18に形成された凹部19a〜19dにそれぞれ嵌合する。これにより、誘導材14の位置決めが容易になる。
【0041】
誘導材14の脚部23a,23bのエンドキャップ9b側の面には、凸部24c,24dを挟んだ両側に各一対の給油材収容凹部41a〜41dが設けられている。給油材収容凹部41a〜41dは、脚部23a,23bの長手方向に沿って形成されており、それぞれ、給油材42a〜42dを収容している。給油材42a〜42dの材料としては、フェルトを用いることができる。フェルトとしては、羊毛、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエーテル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維などが挙げられる。潤滑剤の放出量を抑えるべくフェルトの空孔率は低く設定することが好ましい。ポリオレフィン繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などがある。給油材42a〜42dは締まり嵌めによって凹部41a〜41dに固定されている。即ち、給油材42a〜42dは、凹部41a〜41dに収容する前の状態において、Y軸方向の寸法が、凹部41a〜41dの内側面のY軸方向の間隔よりも若干大きく設定されている。
【0042】
図5は、第1実施形態に係る転がり軸受案内装置1の潤滑剤容器10bを示す図である。(a)はサイドシール11b側の面を示し、(b)は潤滑剤容器10bに収容される含油材32を示している。
【0043】
潤滑剤容器10bは、Y軸方向に延びる胴部26と、胴部26の両端からZ軸方向の一方の向きに突出した脚部27a,27bとから構成されている。潤滑剤容器10bは、サイドシール11b側に開放した箱型をしており、サイドシール11b側には含油材32の収容部28が形成されている。
【0044】
潤滑剤容器10bの脚部27a,27bには、それぞれ、略円筒状に形成された脚部円筒部29a,29bが形成されている。脚部円筒部29a,29bは、ネジを通してエンドキャップ9b、潤滑剤容器10b、サイドシール11bをスライダ本体8へ固定するためのものである。
【0045】
潤滑剤容器10bの胴部26の中央近傍には、上述の誘導材37が通るための誘導材嵌入孔31が形成されている。また、潤滑剤容器10bの胴部26の誘導材嵌入孔31の左右両側にはX軸方向に貫通した胴部ネジ用孔30a,30bが形成されている。
【0046】
図5(b)に示すように、含油材32は、潤滑剤容器10bに形成された収容部28に収まるように、胴部33と脚部34a,34bとを有している。また、脚部34a,34bには、潤滑剤容器10bの脚部円筒部29a,29bとの干渉を避けるべく、脚部円筒部29a,29bに対応する位置に逃げ部35a,35bが形成されている。含油材32は、給油材42a〜42bと同様に、フェルトを用いることができる。フェルトとしては、羊毛、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエーテル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維などがあり、潤滑剤の保持力を高めるべくその空孔率が高く設定されている。ポリオレフィン繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などがある。
【0047】
長期にわたって転動体16を潤滑させるようにするため、転動体16が誘導材14と給油材42a〜42dとを通過する際に生じる繰り返し応力によって誘導材14と給油材42a〜42dとが早期に破損し、転動体16に潤滑剤が供給できなくなることを防止しなければならない。そのため、誘導材14と給油材42a〜42dはポリエチレン繊維から形成することが良い。
【0048】
転動体16が転動路から方向転換路15a〜15dに移動するとき、あるいは、転動体16が戻り路から方向転換路15a〜15dに移動するとき、転動体16が誘導材14に衝突するおそれがある。また、転動体16が給油材42a〜42dを通過するときに、給油材42a〜42dの表面が摩耗するおそれがある。そのため、誘導材14として耐衝撃性のあるポリエチレン、給油材42a〜42dとして耐摩耗性のあるポリプロピレンを用いる組合せが好ましい。また、転動体16に安定して潤滑剤を供給するため、給油材42a〜42dと誘導材14との嵌め合いは安定していることが良い。そのため、誘導材14と給油材42a〜42dは、寸法安定性の優れているポリエチレン同士の組合せでも良い。
【0049】
含油材32の胴部33は、潤滑剤容器10bに形成された誘導材嵌入孔31に対応する部分に、誘導材37を挿入するための誘導材嵌入孔38を有している。また、含油材32の胴部33には、誘導材嵌入孔38の左右両側に、ネジを通すための胴部ネジ孔36a,36bが形成されている。
【0050】
以上のように構成される第1実施形態によれば、潤滑剤が潤滑剤容器10a,10bから給油材42a〜42dまで円滑に誘導され、給油材42a〜42dから適切な量の潤滑剤が転動体16へ供給される。また、潤滑剤容器10a,10bによって潤滑剤を比較的多く貯留しておくことができるため、直動案内装置1は長期にわたって潤滑剤を補充することなく良好な潤滑状態を保つことができる。
【0051】
また、転動体16と接触する給油材42a〜42dを方向転換路15a,15bの内側に配置することで、転動体16が高速移動する際に転動体16の遠心力を受けず、転動体16との接触による摩耗や破損を抑制することができる。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る転がり軸受案内装置について
図6を参照しつつ説明する。第2実施形態に係る転がり軸受案内装置は、潤滑剤容器を有しない点と誘導材の構成が第1実施形態とは異なり、他の構成は第1実施形態と共通するため、重複する説明を省略し、誘導材と誘導材への潤滑剤の供給手段について説明する。
【0053】
図6は、第2実施形態に係る転がり軸受案内装置のエンドキャップ209bと誘導材223a,223bを示す図である。(a)はスライダ本体側の面を示し、(b)は(a)中のD−D断面を示し、(c)は誘導材223a,223bのエンドキャップ209b側の面を示し、(d)は(c)中の拡大E−E断面を示している。
【0054】
第2実施形態において、エンドキャップ209bは、第1実施形態に係るエンドキャップ9bと同様の形状をしているが、誘導材223a,223bは、第1実施形態に係る誘導材14の脚部23a,23bに当たる部分のみから構成されており、胴部22に当たる部分を有していない。
【0055】
上述のように、第2実施形態に係る転がり案内軸受装置は、潤滑剤容器を有していないため、誘導材223a,223bへの潤滑剤の供給は、以下のように行う。即ち、潤滑剤供給孔220に形成された雌ネジに螺合したグリースニップル260から潤滑剤を注入する。エンドキャップ209bのスライダ本体側の面には潤滑剤貯留部218が形成されており、注入された潤滑剤は潤滑剤貯留部218に貯留される。誘導材223a,223bの上部は潤滑剤貯留部218内に露出しているため、貯留された潤滑剤は誘導材223a,223bの上部から誘導材223a,223b全体へ供給される。なお、潤滑剤貯留部218には、誘導材とは別体の含油材を充填してもよい。その場合、含油材は誘導材223a,223bよりも密度が低いことが好ましい。これにより、含油材に多くの潤滑剤を含浸させることができるからである。
【0056】
図6(c)に示すように、誘導材223a,223bのエンドキャップ209b側の面には、凸部224c,224d(224dは不図示)を挟んだ上下両側に各一対の給油材収容凹部241a〜241d(241b,241cは不図示)が設けられている。給油材収容凹部241a〜241dは、誘導材223a,223bの長手方向に沿って形成されており、それぞれが給油材242a〜242dを収容している。給油材242a〜242dの材料としては、第1実施形態と同様に、フェルトを用いることができる。フェルトとしては、羊毛、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエーテル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維などが挙げられる。フェルトは潤滑剤の放出量を抑えるべくその空孔率を低く設定することが好ましい。ポリオレフィン繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などがある。
【0057】
長期にわたって転動体216を潤滑させるようにするため、転動体216が誘導材223a,223bと給油材242a〜242dとを通過する際に生じる繰り返し応力によって誘導材223a,223bと給油材242a〜242dとが早期に破損し、転動体216に潤滑剤が供給できなくなることを防止しなければならない。そのため、誘導材223a,223bと給油材242a〜242dはポリエチレン繊維を用いることが良い。
【0058】
転動体216が転動路から方向転換路215a〜215dに移動するとき、あるいは、転動体216が戻り路から方向転換路215a〜215dに移動するとき、転動体216が誘導材223a,223bに衝突するおそれがある。また、転動体216が給油材242a〜242dを通過するときに、給油材242a〜242bの表面が摩耗するおそれがある。そのため、誘導材223a,223bとして耐衝撃性のあるポリエチレン、給油材242a〜242dとして耐摩耗性のあるポリプロピレンを用いる組合せが好ましい。また、転動体216に安定して潤滑剤を供給するため、給油材242a〜242dと誘導材223a,223bとの嵌め合いは安定していることが良い。そのため、誘導材223a,223bと給油材242a〜242dは、寸法安定性の優れているポリエチレン同士の組合せでも良い。
【0059】
図6(d)に示すE−E断面から分かるように、誘導材223a,223bは、長手方向に垂直な切断面が略台形状をしており、転動体216に接する側の角部240a,240bがアールに形成されている。誘導材223a,223bはリターンガイドとしての役割を果たす。第1実施形態に係る誘導材14の脚部23a,23bのように半円柱状とした場合には、転動体と誘導材との接触が点接触となり、転動体への潤滑剤の供給量を少なくすることができる。一方、第2実施形態に係る誘導材223a,223bのような形状とすれば、転動体216が台形上面を転動し、転動体と誘導材とが接する距離が長くなるため、転動体216への潤滑剤の供給量を多くすることができ、転動路から異物を排出する効果も得られる。
【0060】
本第2実施形態によれば、潤滑剤を貯留しながら、適切な量の潤滑剤を転動体へ供給することができるため、長期にわたって潤滑剤を補充することなく良好な潤滑状態を保つことができる。本第2実施形態は、潤滑剤を貯留できる量が上記第1実施形態よりも少ないものの、潤滑剤容器がないことで、第1実施形態よりも少ない部品点数とし、組立ての手間も省き、スライダの移動方向の寸法を小さくすることもできる。
【0061】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る転がり軸受案内装置について
図7を参照しつつ説明する。第3実施形態に係る転がり軸受案内装置は、潤滑剤容器の代わりにスライダ本体内に潤滑剤を貯留する部分を構成した点において第1実施形態と異なり、他の構成は第1実施形態と共通するため、重複する説明を省略し、潤滑剤容器の代わりにスライダ本体内に潤滑剤を貯留する構成を中心に説明する。
【0062】
図7は、第3実施形態に係る転がり軸受案内装置のスライダ本体308およびエンドキャップ309a、誘導材314を示す図である。(a)はスライダ本体308のうちエンドキャップ309aが取り付けられる面を示している。(b)は(a)中のF−F断面を示している。
【0063】
スライダ本体308は、X軸方向とY軸方向に広がる板状に形成された胴部350と、胴部350のX軸方向に延びる両端部からX軸方向の全長に渡ってZ軸方向の一方に突出した脚部351a,351bとから構成されている。
【0064】
脚部351a,351bには、転動体を循環させるためにX軸方向に貫通した循環路352a〜352dが形成されている。循環路352aと352cの間、および循環路352bと352dの間には、エンドキャップ309aとサイドシール311aをスライダ本体308に固定するネジを螺合するため、内部に雌ネジが形成された脚部ネジ孔357a,357bが形成されている。また、脚部351a,351bが互いに対向する面には、X軸方向に延び、案内レール2との間で転動体を転動させる転動溝353a〜353dが形成されている。
【0065】
スライダ本体308の胴部350には、エンドキャップ309aとサイドシール311aをスライダ本体308に固定するネジを螺合するため、内部に雌ネジが形成された胴部ネジ孔354a,354bが形成されている。
【0066】
また、胴部350には、胴部350のエンドキャップ309a側端面の中央からX軸方向に延び、潤滑剤貯留部を構成する潤滑剤貯留孔355が穿孔されている。潤滑剤貯留孔355内には含油材356が充填されている。
【0067】
図7(b)に示すように、含油材356は、誘導材314と接触しており、含油材356に含浸された潤滑剤が誘導材314へ供給され、誘導材314が潤滑剤を方向転換路まで誘導し、方向転換路内を通過する転動体に潤滑剤が塗布される。
【0068】
本第3実施形態によれば、潤滑剤を貯留しながら、適切な量の潤滑剤を転動体へ供給することができるため、長期にわたって潤滑剤を補充することなく良好な潤滑状態を保つことができる。本第3実施形態は、潤滑剤を貯留できる量が上記第1実施形態よりも少ないものの、潤滑剤容器がないことで、第1実施形態よりも少ない部品点数とし、組立ての手間も省き、スライダの移動方向の寸法を小さくすることもできる。
【0069】
以上、本発明を説明するために具体的な実施形態を示したが、本発明はこれに限られず、種々の変更・改良を加えることができる。
【0070】
例えば、誘導材の転動体と接触する部分の断面形状は、第1実施形態に係る誘導材14の脚部23a,23bの断面形状を第2実施形態に係る誘導材223a,223bに採用してもよいし、これとは反対に、第2実施形態に係る誘導材223a,223bの断面形状を第1実施形態に係る誘導材14の脚部23a,23bに採用してもよい。
【0071】
第1実施形態に係る潤滑剤容器は必ずしもスライダの前後両側に設ける必要は無く、何れか片方にのみ設けてもよいし、スライダの前後以外の箇所に配置してもよい。また、潤滑剤容器と第3実施形態に係る潤滑剤貯留孔355を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
第3実施形態に係る潤滑剤貯留孔は、スライダの前後に配置された誘導材のそれぞれに対応して一つずつ配置してもよいが、いずれか1つでもよく、また、X軸方向に貫通させて、スライダの前後に配置された誘導材の両方に潤滑剤を供給するものとしてもよい。第2実施形態に係る直動案内装置の潤滑剤貯留部218を第3実施形態に係る直動案内装置に組み合わせることもできる。
【0073】
本願の潤滑剤の供給機構は、上記実施形態のように案内レールの両側にそれぞれ2列の転動溝を設ける場合に限られず、両側にそれぞれ1列、両側にそれぞれ3列以上のものであっても適用することができる。
【0074】
誘導材の形状は、上記実施形態のものに限られず、方向転換路内に露出して転動体の転動を阻害せずに潤滑剤を塗布するものであれば、あらゆる形状のものを採用することができる。
【0075】
以上のように、本発明によれば、長期にわたって転動体を潤滑させることを可能とし、メンテナンスの手間を軽減する転がり軸受案内装置を提供することができる。