特許第6439503号(P6439503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大正製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6439503
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】固形製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20181210BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   A61K31/192
   A61K31/198
   A61K47/04
   A61K9/20
   A61K9/16
   A61K9/48
   A61P25/04
   A61P29/00
   A61P11/00
   A61P11/02
   A61P43/00 121
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-41972(P2015-41972)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-187097(P2015-187097A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2018年2月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-49625(P2014-49625)
(32)【優先日】2014年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】桑田 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 裕里
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−97002(JP,A)
【文献】 特開2011−246441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/327
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ロキソプロフェン又はその塩、(b)カルボシステイン、及び(c)軽質無水ケイ酸及び/又はケイ酸カルシウムを含有することを特徴とする固形製剤。
【請求項2】
固形製剤が、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤又は丸剤である、請求項1に記載の固形製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロキソプロフェン又はその塩、及びカルボシステインを含有した固形製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、一般用医薬品においては、複数の薬効成分を配合した製剤が広く使用されている。例えば、総合感冒薬は、解熱鎮痛薬、鎮咳去痰薬、鼻炎薬など多くの成分が配合されている。これらの薬剤は、有効性及び安全性の観点から、製剤としての安定性に優れている必要がある。
ロキソプロフェン又はその塩は、医療用医薬品として高い実績を誇る非ステロイド系解熱鎮痛剤である。本成分は胃障害などの副作用が比較的軽いといった特徴を有しており広く用いられている。
【0003】
一方、カルボシステインは上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核等の疾患における去痰作用、慢性副鼻腔炎等の疾患における排膿作用を有しており、安全性の高い去痰剤として医療用での使用実績が高い。
【0004】
ロキソプロフェンとカルボシステインが配合した固形製剤は知られており、これらを配合した際に相互作用を生じるため、相互作用を抑制する方法として、今までにトラネキサム酸を加えて混合することによって防止する方法が報告されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−246441号公報
【特許文献2】特開2011−246437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この方法によると、ロキソプロフェンとカルボシステインの相互作用を抑制するためには、医薬有効成分のトラネキサム酸を配合しなければならなかった。また、ロキソプロフェンとカルボシステイン含有製剤にあっては、打錠して錠剤とした場合は、特に相互作用が顕著に生じることを本発明者らは発見した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような事情に鑑み、ロキソプロフェンとカルボシステインを含有する医薬用製剤の安定化について種々検討した結果、意外にも、特定の流動化剤を配合すると上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)(a)ロキソプロフェン又はその塩、(b)カルボシステイン、及び(c)軽質無水ケイ酸及び/又はケイ酸カルシウムを含有することを特徴とする固形製剤、
(2)固形製剤が、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤又は丸剤である(1)に記載の固形製剤、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の医薬製剤は、ロキソプロフェンとカルボシステインの相互作用を抑制できる。従って、長期にわたって製剤の着色及び固結が防止されたロキソプロフェンとカルボシステインを含有する固形製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の固形製剤に用いられるロキソプロフェン又はその塩には、ロキソプロフェンのみならず、ロキソプロフェンの薬学上許容される塩、さらには水やアルコール等との溶媒和物が含まれる。これらは公知の化合物であり、公知の方法により製造できるほか、市販のものを用いることができる。本発明において、ロキソプロフェン又はその塩としては、ロキソプロフェンナトリウム2水和物が好ましい。
【0010】
また、本発明の固形製剤に用いられるカルボシステインは、第16改正日本薬局方に記載されているL−カルボシステインであり、公知の方法により製造できるほか、市販のものを用いることができる。
【0011】
本発明の固形製剤中におけるロキソプロフェン又はその塩の含有量は、その薬効を示す量であれば特に限定されるものではないが、固形製剤全質量に対して、ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で5〜30質量%が好ましい。
【0012】
本発明の固形製剤中におけるカルボシステインの含有量は、固形製剤全質量に対して20〜50質量%が好ましい。
【0013】
本発明の特定の流動化剤とは、(c)成分として示す軽質無水ケイ酸及び/又はケイ酸カルシウムを意味する。
【0014】
軽質無水ケイ酸とは、第16改正日本薬局方(JP16)に記載された公知の化合物であり、日本アエロジル社製のアエロジル、フロイント産業社製のアドソリダー101及び
富士シリシア化学社製のサイリシアなどがある。
【0015】
ケイ酸カルシウムとは吸油量の高い賦形剤として知られ医薬品や化粧品に広く使用される公知の化合物であり、富田製薬社製のフローライトRやエーザイフード・ケミカル社製のフローライトREなどがある。
【0016】
また、本発明の固形製剤中における(c)成分の含有量は固形製剤全質量に対して0.5質量%〜30質量%が好ましく、さらに好ましくは1〜25質量%である。
【0017】
本発明の固形製剤の剤形としては散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤(フィルムコーティング錠、糖衣錠、積層錠を含む)、カプセル剤、ドライシロップ剤、トローチ剤等の経口製剤や外用剤などの非経口製剤が挙げられるが、特に顆粒剤、散剤、カプセル剤、丸剤又は錠剤が好ましい。その剤型に応じて、任意の慣用の方法で製造すればよい。また、造粒法としては、流動層造粒法、押し出し造粒法、転動造粒法、噴霧造粒法が挙げられるが、好ましくは攪拌造粒法である
製造法としては、例えば、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を混合し、製造する。また、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を混合後、造粒して製造する。また、(a)成分を含む造粒物と(b)成分を含む造粒物を別々に製造し、これらを混合後、(c)成分を添加して製造する。その際、(a)成分を含む造粒物又は(b)成分を含む造粒物中に(c)成分を含んでもよく、その場合は、造粒物を混合した後、(c)成分の添加は必須ではない。
このように製造した後、これらを被覆しても良い。また、適宜有効成分や慣用の添加剤を配合し、打錠すれば錠剤を得ることができる。
【0018】
本発明の医薬製剤には、ロキソプロフェン又はその塩及びカルボシステインと、軽質無水ケイ酸又はケイ酸カルシウム以外にも、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を配合することができる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づきさらに詳細に説明する。尚、本発明の固形製剤の製造方法は実施例に記載された処方例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1〜2及び比較例1〜3)
製剤の製造方法
表1に示す各成分及び分量を秤量、混合し得られた医薬組成物400mgずつを秤量し、卓上簡易錠剤成型機(商品名:HANDTAB;市橋精機社製)を用いて12kNで打錠し、錠剤径11mmの錠剤を得た。
【0021】
(実施例3)
製剤の製造方法
表2に示す各成分(A)、(B)の各成分及び分量を秤量し均一に混合した後、得られた各々の混合粉末を湿式攪拌造粒法により造粒し、造粒物Aおよび造粒物Bを得た。得られた2種の造粒物と軽質無水ケイ酸13.5g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース81g、ステアリン酸マグネシウム13.5gを混合した後、ロータリー打錠機(商品名:VIRGO519SS1AZ;菊水製作所社製)を用いて1500kgfで打錠し、錠剤径9mmの錠剤を得た。
【0022】
(実施例4)
製剤の製造方法
表3に示すC成分及び分量を秤量し、実施例3と同様に造粒し造粒物を得た。得られた造粒物と軽質無水ケイ酸54g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース90g及びステアリン酸マグネシウム9gを混合した後、実施例3と同様に打錠し、錠剤径9mmの錠剤を得た。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
(1)外観評価
実施例1〜3及び比較例1〜3により得られた錠剤について、固結状態を専門パネラー2名により目視にて観察した。評価は、実施例1〜3及び比較例1〜3は65℃条件下に3日間保存したサンプル、実施例4は40℃75%RH条件下に6箇月間保存したサンプルと直後品との相対比較により行い、以下に記す4段階で評価した。評価結果を表4に示す。
<評価基準>
− :固結なし
+ :わずかに凝集を認める
++ :固結を認める
+++:明らかな固結を認める
【0027】
(2)色差測定
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた錠剤について、直後品をコントロールとして65℃条件下に3日間保存したサンプルの色差測定を実施した。測定には分光色差計(商品名:SE6000;日本電色工業)を用い、以下の[数1]を用い算出した。各サンプルについて色差を測定し、ΔE*(ab)が小さいほど色調が変化していないことを示す。
【0028】
【数1】
【0029】
ΔL*=65℃3日間保存品のL*値−直後品のL*値(L*:明度 +は白方向、−は黒方向)
Δa*=65℃3日間保存品のa*値−直後品のa*値(a*:色度 +は赤方向、−は緑方向)
Δb*=65℃3日間保存品のb*値−直後品のb*値(b*:色度 +は黄方向、−は青方向)
【0030】
【表4】
【0031】
試験結果から明らかなように、ロキソプロフェン及びカルボシステインを含有する製剤(比較例1)は固結し、かつΔE*(ab)は高い値を示し、著しく変色することが認められた。これに対し、ケイ酸カルシウム(実施例1)、軽質無水ケイ酸(実施例2〜4)を含有した製剤は固結は認められず、ΔE*(ab)は比較例1よりも低い値を示し、変色が抑制できた。一方、他の流動化剤であるメタケイ酸アルミン酸マグネシウム(比較例2)を添加した製剤は、ΔE*(ab)は低い値を示したが斑点が確認され、またタルク(比較例3)を添加した製剤では、固結、変色ともに抑制されないことが明らかとなった。
【0032】
(実施例5及び比較例4〜5)
(1)製剤の製造方法
表5に示す各成分及び分量を秤量、混合し製剤を得た。得た製剤は、ガラス瓶に入れて密閉し、65℃条件下に1週間保存させた後に製剤の外観評価を行った。
(2)外観評価
実施例5及び比較例4〜5で得られた製剤について、専門パネラー2名による外観評価を実施した。65℃条件下に1週間保存したサンプルの固結状態と変色を比較例4との相対比較により、以下に記す4段階で評価した。結果を表6に示す。
<固結状態判定基準>
− :変化なし
+ :わずかに凝集を認める
++ :固結を認める
+++:明らかな固結を認める
<変色判定基準>
− :変化なし
+ :わずかに変色を認める
++ :変色を認める
+++:明らかな変色を認める
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
表6から明らかなように、ロキソプロフェンとカルボシステインのみを混合したものは変色及び著しい固結が見られた(比較例4)。これに対し、軽質無水ケイ酸を添加した固形製剤は変色及び固結が抑制された(実施例5)。一方、他の流動化剤であるメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを添加した製剤は、固結の抑制はできたが、変色を抑制することはできず、全体が褐色へと変色した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、ロキソプロフェン又はその塩及びカルボシステインとの相互作用の抑制が可能となった。従って、保存安定性が優れた、ロキソプロフェン又はその塩及びカルボシステインを含有する固形製剤を提供することが可能となる。