(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱帯と、均熱帯と、冷却帯とがこの順に並置された焼鈍炉と、前記冷却帯に隣接した溶融亜鉛めっき設備と、を有する連続溶融亜鉛めっき装置を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
Siを0.2質量%以上含む鋼帯を前記焼鈍炉の内部で、前記加熱帯、前記均熱帯及び前記冷却帯の順に搬送して、前記鋼帯に対して焼鈍を行う工程と、
前記溶融亜鉛めっき設備を用いて、前記冷却帯から排出される鋼帯に溶融亜鉛めっきを施す工程と、
を有し、
前記均熱帯に供給される還元性ガス又は非酸化性ガスは、加湿装置により加湿された加湿ガス、及び前記加湿装置により加湿されていない乾燥ガスであり、
前記均熱帯を通過する鋼帯の幅及び通板速度が一定である間は、前記乾燥ガスの流量を調節することで前記焼鈍炉内の圧力の変動を抑制するのに対して、前記加湿ガスによって前記均熱帯に供給される水分量の変動幅を20%以下とし、
前記加湿ガスによって前記均熱帯に供給される水分量M(g/min)が、以下の式(1)を満たすように、前記加湿ガスの流量及び露点を設定することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
40+Vf(W−0.9)(S+4)/90 < M < 60+Vf(W−0.9)(S+4)/90 ・・・(1)
ここで、Vfは前記均熱帯の容積(m3)、Wは前記均熱帯を通過する鋼帯の幅(m)、Sは前記鋼帯の通板速度(m/s)である。
前記均熱帯を通過する鋼帯の幅及び通板速度の少なくとも一方が変動したとき、前記水分量M(g/min)が前記式(1)を満たすように、前記加湿ガスの流量及び露点を変更する、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
前記均熱帯の高さ方向の上部1/2の領域内で、前記均熱帯に設けられた前記加湿ガスの供給口の位置から1m以上離れた位置で、かつ、前記供給口に対向する前記均熱帯の内壁位置から1m以上離れた位置で、前記均熱帯に設けられた露点測定口において測定される前記均熱帯内の露点を−25℃以上0℃以下に制御する、請求項1又は2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において、構造物の軽量化等に寄与する高張力鋼板(ハイテン鋼板)の需要が高まっている。ハイテン鋼材としては、例えば、鋼中にSiを含有することにより穴広げ性の良好な鋼板や、SiやAlを含有することにより残留γが形成しやすく延性の良好な鋼板が製造できることがわかっている。
【0003】
しかし、Siを多量に(特に0.2質量%以上)含有する高張力鋼板を母材として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、以下の問題がある。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、還元雰囲気又は非酸化性雰囲気中で600〜900℃程度の温度で母材の鋼板を加熱焼鈍した後に、該鋼板に溶融亜鉛めっき処理を行い、さらに亜鉛めっきを加熱合金化することによって、製造される。
【0004】
ここで、鋼中のSiは易酸化性元素であり、一般的に用いられる還元雰囲気又は非酸化性雰囲気中でも選択酸化されて、鋼板の表面に濃化し、酸化物を形成する。この酸化物は、めっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を低下させて、不めっきを生じさせる。そのため、鋼中Si濃度の増加と共に、濡れ性が急激に低下して不めっきが多発する。また、不めっきに至らなかった場合でも、めっき密着性に劣るという問題がある。さらに、鋼中のSiが選択酸化されて鋼板の表面に濃化すると、溶融亜鉛めっき後の合金化過程において著しい合金化遅延が生じ、生産性を著しく阻害するという問題もある。
【0005】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、直火型加熱炉(DFF)を用いて、鋼板の表面を一旦酸化させた後、還元雰囲気下で鋼板を焼鈍することで、Siを内部酸化させ、鋼板の表面にSiが濃化するのを抑制し、溶融亜鉛めっきの濡れ性および密着性を向上させる方法が記載されている。加熱後の還元焼鈍については常法(露点−30〜−40℃)でよいと記載されている。
【0006】
特許文献2には、順に加熱帯前段、加熱帯後段、保熱帯及び冷却帯を有する焼鈍炉と溶融めっき浴とを用いた連続焼鈍溶融めっき方法において、鋼板温度が少なくとも300℃以上の領域の鋼板の加熱または保熱を間接加熱とし、各帯の炉内雰囲気を水素1〜10体積%、残部が窒素及び不可避的不純物よりなる雰囲気とし、前記加熱帯前段で加熱中の鋼板到達温度を550℃以上750℃以下とし、かつ、露点を−25℃未満とし、これに続く前記加熱帯後段及び前記保熱帯の露点を−30℃以上0℃以下とし、前記冷却帯の露点を−25℃未満とする条件で焼鈍を行うことにより、Siを内部酸化させ、鋼板の表面にSiが濃化するのを抑制する技術が記載されている。また、加熱帯後段及び/又は保熱帯に、窒素と水素の混合ガスを加湿して導入することも記載されている。
【0007】
特許文献3には、炉内ガスの露点を測定しながら、その測定値に応じて、炉内ガスの供給及び排出の位置を変化させることによって、還元炉内ガスの露点を−30℃超0℃以下の範囲内になるように制御して、鋼板の表面にSiが濃化するのを抑制する技術が記載されている。加熱炉についてはDFF(直火加熱炉)、NOF(無酸化炉)、ラジアントチューブタイプのいずれでもよいが、ラジアントチューブタイプで顕著に発明効果が発現できるので好ましいとの記載がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の方法では、還元後のめっき密着性は良好であるものの、Siの内部酸化量が不足しやすく、鋼中のSiの影響で合金化温度が通常よりも30〜50℃高温になってしまい、その結果鋼板の引張強度が低下する問題があった。十分な内部酸化量を確保するために酸化量を増加させると、焼鈍炉内のロールに酸化スケールが付着し鋼板に押し疵、いわゆるピックアップ欠陥が発生する。このため、酸化量を単に増加させる手段は取れない。
【0010】
特許文献2に記載の方法では、加熱帯前段、加熱帯後段、保熱帯の加熱・保温を間接加熱としているため、特許文献1の直火加熱の場合のような鋼板表面の酸化が起こりにくく、特許文献1と比較してもSiの内部酸化が不十分であり、合金化温度が高くなるという問題がより顕著である。更に、外気温変動や鋼板の種類によって炉内に持ち込まれる水分量が変化することに加え、混合ガス露点も外気温変動によって変動しやすく、安定して最適露点範囲に制御することが困難であった。このように露点変動が大きいことで、上記露点範囲や温度範囲であっても、不めっき等の表面欠陥が発生し、安定した製品を製造するは困難であった。
【0011】
特許文献3に記載の方法では、加熱炉にDFFを使用すれば鋼板表面の酸化は起こりえるが、焼鈍炉に積極的に加湿ガスを供給しないので、露点を制御範囲の中でも高露点領域の−20〜0℃で安定的に制御することが困難である。また、仮に露点が上昇した場合には炉上部の露点が高くなりやすく、炉下部の露点計で0℃となったときには、炉上部では+10℃以上の高露点雰囲気となる場合があり、そのまま長期間操業するとピックアップ欠陥が発生することがわかった。
【0012】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、Siを0.2質量%以上含む鋼帯に溶融亜鉛めっきを施した場合でも、めっき密着性が高く良好なめっき外観を得ることが可能な溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]加熱帯と、均熱帯と、冷却帯とがこの順に並置された焼鈍炉と、前記冷却帯に隣接した溶融亜鉛めっき設備と、を有する連続溶融亜鉛めっき装置を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
鋼帯を前記焼鈍炉の内部で、前記加熱帯、前記均熱帯及び前記冷却帯の順に搬送して、前記鋼帯に対して焼鈍を行う工程と、
前記溶融亜鉛めっき設備を用いて、前記冷却帯から排出される鋼帯に溶融亜鉛めっきを施す工程と、
を有し、
前記均熱帯に供給される還元性ガス又は非酸化性ガスは、加湿装置により加湿された加湿ガス、及び前記加湿装置により加湿されていない乾燥ガスであり、
前記均熱帯を通過する鋼帯の幅及び通板速度が一定である間は、前記乾燥ガスの流量を調節することで前記焼鈍炉内の圧力の変動を抑制するのに対して、前記加湿ガスによって前記均熱帯に供給される水分量の変動幅を20%以下とすることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0014】
[2]前記加湿ガスによって前記均熱帯に供給される水分量M(g/min)が、以下の式(1)を満たすように、前記加湿ガスの流量及び露点を設定する、上記[1]に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
40+Vf(W−0.9)(S+4)/90 < M < 60+Vf(W−0.9)(S+4)/90 ・・・(1)
ここで、Vfは前記均熱帯の容積(m
3)、Wは前記均熱帯を通過する鋼帯の幅(m)、Sは前記鋼帯の通板速度(m/s)である。
【0015】
[3]前記均熱帯を通過する鋼帯の幅及び通板速度の少なくとも一方が変動したとき、前記水分量M(g/min)が前記式(1)を満たすように、前記加湿ガスの流量及び露点を変更する、上記[2]に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0016】
[4]前記均熱帯の高さ方向の上部1/2の領域内で、前記均熱帯に設けられた前記加湿ガスの供給口の位置から1m以上離れた位置で、かつ、前記供給口に対向する前記均熱帯の内壁位置から1m以上離れた位置で、前記均熱帯に設けられた露点測定口において測定される前記均熱帯内の露点を−25℃以上0℃以下に制御する、上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0017】
[5]前記加熱帯は直火型加熱炉を含み、前記連続溶融亜鉛めっき装置は前記溶融亜鉛めっき設備に隣接した合金化設備を有し、
前記合金化設備を用いて、前記鋼帯に施された亜鉛めっきを加熱合金化する工程をさらに有する、上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、Siを0.2質量%以上含む鋼帯に溶融亜鉛めっきを施した場合でも、めっき密着性が高く良好なめっき外観を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の一実施形態による溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に用いる連続溶融亜鉛めっき装置100の構成を、
図1を参照して説明する。連続溶融亜鉛めっき装置100は、加熱帯10、均熱帯12及び冷却帯14,16がこの順に並置された焼鈍炉20と、冷却帯16に隣接した溶融亜鉛めっき設備としての溶融亜鉛めっき浴22と、この溶融亜鉛めっき浴22と隣接した合金化設備23と、を有する。本実施形態において加熱帯10は、第1加熱帯10A(加熱帯前段)及び第2加熱帯10B(加熱帯後段)を含む。冷却帯は、第1冷却帯14(急冷帯)及び第2冷却帯16(除冷帯)を含む。第2冷却帯16と連結したスナウト18は、先端が溶融亜鉛めっき浴22に浸漬しており、焼鈍炉20と溶融亜鉛めっき浴22とが接続されている。
【0021】
鋼帯Pは、第1加熱帯10Aの下部の鋼帯導入口から第1加熱帯10A内に導入される。各帯10,12,14,16には、上部及び下部に1つ以上のハースロールが配置される。ハースロールを起点に鋼帯Pが180度折り返される場合、鋼帯Pは焼鈍炉20の所定の帯の内部で上下方向に複数回搬送され、複数パスを形成する。
図1においては、均熱帯12で10パス、第1冷却帯14で2パス、第2冷却帯16で2パスの例を示したが、パス数はこれに限定されず、処理条件に応じて適宜設定可能である。また、一部のハースロールでは、鋼帯Pを折り返すことなく直角に方向転換させて、鋼帯Pを次の帯へと移動させる。このようにして、鋼帯Pを焼鈍炉20の内部で、加熱帯10、均熱帯12及び冷却帯14,16の順に搬送して、鋼帯Pに対して焼鈍を行うことができる。
【0022】
焼鈍炉20において、隣接する帯は、それぞれの帯の上部同士または下部同士を接続する連通部を介して連通している。本実施形態では、第1加熱帯10Aと第2加熱帯10Bとは、それぞれの帯の上部同士を接続するスロート(絞り部)を介して連通する。第2加熱帯10Bと均熱帯12とは、それぞれの帯の下部同士を接続するスロートを介して連通する。均熱帯12と第1冷却帯14とは、それぞれの帯の下部同士を接続するスロートを介して連通する。第1冷却帯14と第2冷却帯16とは、それぞれの帯の下部同士を接続するスロートを介して連通する。各スロートの高さは適宜設定すればよいが、各帯の雰囲気の独立性を高める観点から、各スロートの高さはなるべく低いことが好ましい。焼鈍炉20内のガスは、炉の下流から上流に流れ、第1加熱帯10Aの下部の鋼帯導入口から排出される。
【0023】
(加熱帯)
本実施形態において、第2加熱帯10Bは、直火型加熱炉(DFF)である。DFFは公知のものを用いることができる。
図1においては図示しないが、第2加熱帯10Bにおける直火型加熱炉の内壁には、複数のバーナが鋼帯Pに対向して分散配置される。複数のバーナは複数のグループに分けられ、グループごとに燃料率及び空気比を独立に制御可能とすることが好ましい。第1加熱帯10Aの内部には、第2加熱帯10Bの燃焼排ガスが供給され、その熱で鋼帯Pを予熱する。
【0024】
燃焼率は、実際にバーナに導入した燃料ガス量を、最大燃焼負荷時のバーナの燃料ガス量で割った値である。バーナを最大燃焼負荷で燃焼したときが燃焼率100%である。バーナは、燃焼負荷が低くなると安定した燃焼状態が得られなくなる。よって、燃焼率は通常30%以上とすることが好ましい。
【0025】
空気比は、実際のバーナに導入した空気量を、燃料ガスを完全燃焼するために必要な空気量で割った値である。本実施形態では、第2加熱帯10Bの加熱用バーナを4つの群(#1〜#4)に分割し、鋼板移動方向上流側の3つの群(#1〜#3)は酸化用バーナ、最終ゾーン(#4)は還元用バーナとし、酸化用バーナ及び還元用バーナの空気比を個別に制御可能とした。酸化用バーナでは、空気比を0.95以上1.5以下とすることが好ましい。還元用バーナでは、空気比を0.5以上0.95未満とすることが好ましい。また、第2加熱帯10Bの内部の温度は、800〜1200℃とすることが好ましい。
【0026】
(均熱帯)
本実施形態において均熱帯12では、加熱手段としてラジアントチューブ(RT)(図示せず)を用いて、鋼帯Pを間接加熱することができる。均熱帯12の内部の平均温度Tr(℃)は、均熱帯内に熱電対を挿入することによりにより測定されるが、700〜900℃とすることが好ましい。
【0027】
均熱帯12には還元性ガス又は非酸化性ガスが供給される。還元性ガスとしては、通常H
2−N
2混合ガスが用いられ、例えばH
2:1〜20体積%、残部がN
2および不可避的不純物からなる組成を有するガス(露点:−60℃程度)が挙げられる。また、非酸化性ガスとしては、N
2および不可避的不純物からなる組成を有するガス(露点:−60℃程度)が挙げられる。
【0028】
本実施形態では、均熱帯12に供給される還元性ガス又は非酸化性ガスは、加湿ガス及び乾燥ガスの二形態である。ここで、「乾燥ガス」とは、露点が−60℃〜−50℃程度の上記還元性ガス又は非酸化性ガスであって、加湿装置により加湿されていないものである。一方、「加湿ガス」とは、加湿装置により露点が0〜30℃に加湿されたガスである。
【0029】
例えば、Siを0.2質量%以上含有する成分組成を有する高張力鋼板の製造時には、均熱帯内の露点を上昇させるために、乾燥ガスに加えて、加湿ガスを均熱帯12に供給することが好ましい。これに対し、例えば普通鋼板(引張強度270MPa程度)の製造時には、乾燥ガスのみを均熱帯12に供給し、混合ガスは供給しないことが好ましい。
【0030】
図2は、均熱帯12への加湿ガス及び乾燥ガスの供給系を示す模式図である。加湿ガスは、加湿ガス供給口42A,42B,42Cと、加湿ガス供給口44A,44B,44Cと、加湿ガス供給口46A,46B,46Cの三系統で供給される。
図2において、上記還元性ガス又は非酸化性ガス(乾燥ガス)は、ガス分配装置24によって、一部は加湿装置26へと送られ、残部は乾燥ガスのまま乾燥ガス用配管32を通過して、乾燥ガス供給口48A,48B,48C,48Dを介して均熱帯12内に供給される。
【0031】
乾燥ガス供給口の位置及び数は特に限定されず、種々の条件を考慮して適宜決めればよい。しかし、乾燥ガス供給口は、同じ高さ位置に複数配置されることが好ましく、鋼帯進行方向に均等に配置されることが好ましい。
【0032】
加湿装置26で加湿されたガスは、加湿ガス分配装置30で上記三系統に分配され、各々の加湿ガス用配管36を経由して、加湿ガス供給口42A,42B,42Cと、加湿ガス供給口44A,44B,44Cと、加湿ガス供給口46A,46B,46Cを介して均熱帯12内に供給される。
【0033】
加湿ガス供給口の位置及び数は特に限定されず、種々の条件を考慮して適宜決めればよい。しかし、加湿ガス供給口は、均熱帯12の上下方向に2分割、入出方向に2分割した計4区域にそれぞれ1ヶ所以上設けることが好ましい。これにより、均熱帯12全体を均一に露点制御できるからである。符号38は加湿ガス用流量計、符号40は加湿ガス用露点計である。加湿ガスの露点は、加湿ガス用配管34,36内のわずかな結露等で変化することがあるので、露点計40は、加湿ガス供給口42,44,46の直前に設置することが望ましい。
【0034】
加湿装置26内には、フッ素系もしくはポリイミド系の中空糸膜又は平膜等を有する加湿モジュールがあり、膜の内側には乾燥ガスを流し、膜の外側には循環恒温水槽28で所定温度に調整された純水を循環させる。フッ素系もしくはポリイミド系の中空糸膜又は平膜とは、水分子との親和力を有するイオン交換膜の一種である。中空糸膜の内側と外側に水分濃度差が生じると、その濃度差を均等にしようとする力が発生し、水分はその力をドライビングフォースとして低い水分濃度の方へ膜を透過し移動する。乾燥ガス温度は、季節や1日の気温変化にしたがって変化するが、この加湿装置では、水蒸気透過膜を介したガスと水の接触面積を十分に取ることで熱交換も行えるため、乾燥ガス温度が循環水温より高くても低くても、乾燥ガスは設定水温と同じ露点まで加湿されたガスとなり、高精度な露点制御が可能となる。加湿ガスの露点は5〜50℃の範囲で任意に制御可能である。加湿ガスの露点が配管温度よりも高いと配管内で結露してしまい、結露した水が直接炉内に浸入する可能性があるので、加湿ガス用の配管は加湿ガス露点以上かつ外気温以上に加熱・保熱されている。
【0035】
加湿ガスを均熱帯12に供給しているか否かに関わらず、焼鈍炉内の圧力は、加熱帯10の燃焼条件や冷却帯14,16での冷却ファンの運転条件によって随時変動する。ここで、炉内圧が高すぎると、炉壁に過剰な力が加わるため焼鈍炉を傷めることがあり、逆に炉内圧が低すぎると、均熱帯12内に焼鈍炉外の酸素が混入したり、加熱帯10の燃焼ガスが流入したりして鋼板品質に悪影響を及ぼす。そのため一般的には、炉内圧の変動を抑制する、好ましくは炉内圧を一定に保つように、均熱帯12に供給するガス流量を増減する制御を行う。従って、均熱帯12に加湿ガスと乾燥ガスの両方を供給する操業を行うとき、従来の制御方法では、乾燥ガスの流量のみならず、加湿ガスの流量も変動させており、そのため加湿ガスによって均熱帯に供給される水分量も変動していた。
【0036】
しかし、均熱帯12には、鋼帯中のSiやMnを内部酸化させるという観点から必要な水分量を常に供給する必要がある。炉内圧の変動を抑制するために加湿ガスの流量を減少させると、均熱帯12に供給される水分量が不足して、均熱帯12内の露点が適正範囲の下限を下回り、その結果、部分的な不めっきが生じ、めっき外観が劣化することがあった。また、合金化処理も行う操業では、合金化温度が上昇し、その結果、所望の引張強度が得られないことがあった。あるいは炉内圧の変動を抑制するために加湿ガスの流量を増加させると、均熱帯12に供給される水分量が過剰になり、その結果ロールピックアップが発生し、鋼帯表面にもロールピックアップに起因する疵が発生し、めっき外観が劣化することがあった。
【0037】
そこで本実施形態では、均熱帯12を通過する鋼帯の幅及び通板速度が一定である間(以下、「同一操業条件下」とも称する。)は、乾燥ガスの流量を調節することで焼鈍炉内の圧力の変動を抑制するのに対して、加湿ガスによって均熱帯12に供給される水分量は極力一定とすること、具体的には水分量の変動幅を20%以下にすることが肝要である。これにより、良好なめっき外観を得ることができ、合金化処理も行う操業では、合金化温度を下げることで引張強度の低下を抑制することができる。ここで、均熱帯に供給される「水分量の変動幅」は、同一操業条件下での水分量の最大をM
max、最小をM
minとしたとき、(M
max−M
min)/M
maxで定義される。水分量は、後述の式(2)により算出できる。
【0038】
水分量の変動幅を20%以下に抑制する態様は特に限定されない。一態様として、加湿ガスの露点を一定とし、流量の変動幅を20%以下に制御することが挙げられる。なお、本実施形態のように複数の加湿ガス供給口が設けられる場合、各供給口からの加湿ガス流量も、合計の加湿ガス流量も、極力一定(具体的には20%以下)とすることが好ましい。
【0039】
加湿ガスによって均熱帯12に投入される水分量M(g/min)は、均熱帯の容積、均熱帯12を通過する鋼帯Pの幅及び通板速度によって調整する必要がある。発明者らは鋭意検討した結果、加湿ガスによって均熱帯12に供給される水分量M(g/min)が、以下の式(1)を満たすように、加湿ガスの流量及び露点を設定することが、良好なめっき外観を得るために有効であることを見出した。
40+Vf(W−0.9)(S+4)/90 < M < 60+Vf(W−0.9)(S+4)/90 ・・・(1)
ここで、Vfは均熱帯12の容積(m
3)、Wは均熱帯12を通過する鋼帯Pの幅(m)、Sは鋼帯Pの通板速度(m/s)である。
【0040】
そして、均熱帯12を通過する鋼帯Pの幅W及び通板速度Sの少なくとも一方が変動したとき、前記水分量M(g/min)が式(1)を満たすように、加湿ガスの流量及び露点を変更することが有効である。
【0041】
均熱帯12の容積Vfは、実質的には定数となる。均熱帯12を通過する鋼帯Pの幅W及び通板速度Sが増加する場合、あるいは幅W及び通板速度Sの片方が一定で他方が増加する場合、単位時間当たりに均熱帯12内のガスに接触する鋼帯面積が増大するため、式(1)に基づいて、加湿ガスによる水分量を増加させる。均熱帯12を通過する鋼帯Pの幅W及び通板速度Sが減少する場合、あるいは幅W及び通板速度Sの片方が一定で他方が減少する場合は逆に、式(1)に基づいて加湿ガスによる水分量は減少させる必要がある。幅W及び通板速度Sの片方が増加し、他方が減少する場合でも、式(1)に基づいて、加湿ガスによる水分量を調整する。いずれにしても、操業条件変化に伴う均熱帯12内の露点の変化を待たずに、式(1)を満たすように加湿ガスの流量及び露点を調整することが望ましい。
【0042】
水分量M(g/min)は、加湿ガスの露点Tw(℃)と合計流量Vm(Nm
3/hr)から、式(2)で算出することができる。
【数1】
【0043】
均熱帯12内に供給される加湿ガスの流量Vmは、上記のように制御される限り特に限定されないが、概ね100〜400(Nm
3/hr)の範囲内に維持される。また、均熱帯12内に供給される乾燥ガスの流量は、特に限定されないが、概ね10〜300(Nm
3/hr)の範囲内に維持される。
【0044】
均熱帯12内において、水蒸気は窒素ガスよりも比重が軽いため、上部に溜まりやすい。したがって、露点測定口50は、均熱帯12の高さ方向の上部1/2の領域内に配置する。また、加湿ガス供給口の近傍は、局所的に高露点となるため、露点測定には不向きな領域である。そこで、露点測定口50は、各々の加湿ガス供給口の位置から1m以上離れた位置で、かつ、各々の供給口に対向する均熱帯の内壁位置から1m以上離れた位置に配置することが好ましい。そして、露点測定口50において測定される均熱帯12内の露点が−25℃以上0℃以下に維持されるように、加湿ガスの流量を制御することが好ましい。これにより、良好なめっき外観を得ることができ、合金化処理も行う操業では、合金化温度を下げることで引張強度の低下を抑制することができる。
【0045】
(冷却帯)
本実施形態において冷却帯14,16では、鋼帯Pが冷却される。鋼帯Pは、第1冷却帯14では480〜530℃程度にまで冷却され、第2冷却帯16では470〜500℃程度にまで冷却される。
【0046】
冷却帯14,16にも、上記還元性ガス又は非酸化性ガスが供給されるが、ここでは、乾燥ガスのみが供給される。冷却帯14,16への乾燥ガスの供給は特に限定されないが、冷却帯内に均等に投入されるように、高さ方向2ヶ所以上、長手方向2ヶ所以上の投入口から供給することが好ましい。冷却帯14,16に供給される乾燥ガスの合計ガス流量Qcdは、配管に設けられたガス流量計(図示せず)により測定され、特に限定されないが、200〜1000(Nm
3/hr)程度とする。焼鈍炉内の圧力の変動を抑制することは、均熱帯に供給される乾燥ガスの流量のみを調節することで行ってもよいが、冷却帯に供給される乾燥ガスの流量をも調節して行うことが好ましい。
【0047】
(溶融亜鉛めっき浴)
溶融亜鉛めっき浴22を用いて、第2冷却帯16から排出される鋼帯Pに溶融亜鉛めっきを施すことができる。溶融亜鉛めっきは定法に従って行えばよい。
【0048】
(合金化設備)
合金化設備24を用いて、鋼帯Pに施された亜鉛めっきを加熱合金化することができる。合金化処理は定法に従って行えばよい。本実施形態によれば、合金化温度が高温にならないため、製造された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度の低下を抑制することができる。ただし、本発明において合金化設備24や、それによる合金化処理は必須ではない。良好なめっき外観を得るとの効果は、合金化処理をしない場合にも得ることができるからである。
【0049】
焼鈍及び溶融亜鉛めっき処理の対象とする鋼帯Pは特に限定されないが、Siを0.2質量%以上含有する成分組成の鋼帯、すなわち高張力鋼の場合、本発明の効果を有利に得ることができる。
【実施例】
【0050】
(実験条件)
図1及び
図2に示す連続溶融亜鉛めっき装置を用いて、表1に示す成分組成の鋼帯を表2に示す各種焼鈍条件で焼鈍し、その後溶融亜鉛めっき及び合金化処理を施した。鋼種A、鋼種Bともに高張力鋼である。表2に記載の「時間」は操業開始からの経過時間を意味し、時間の経過とともに、表2のとおりに通板する鋼帯の種類、板厚、板幅、及び連続溶融亜鉛めっき装置の操業条件を変更した。
【0051】
第2加熱帯はDFFとした。加熱用バーナを4つの群(#1〜#4)に分割し、鋼板移動方向上流側の3つの群(#1〜#3)は酸化用バーナ、最終ゾーン(#4)は還元用バーナとし、酸化用バーナ及び還元用バーナの空気比を表2に示す値に設定した。なお、各群の鋼板搬送方向の長さは4mである。
【0052】
均熱帯は、容積Vfが700m
3のRT炉とした。均熱帯の内部の平均温度Trは表2に示すものに設定した。乾燥ガスとしては、15体積%のH
2で残部がN
2および不可避的不純物からなる組成を有するガス(露点:−50℃)を用いた。この乾燥ガスの一部を、10台の中空糸膜式加湿モジュールを有する加湿装置により加湿して、加湿ガスを調製した。各モジュールに最大500L/minの乾燥ガスと、最大20L/minの循環水を流した。循環恒温水槽は各モジュールで共通とし、計200L/minの純水を供給可能である。乾燥ガス供給口及び加湿ガス供給口は、
図2に示す位置に配置した。
【0053】
表2に示すように、鋼種、板厚、及び板幅のいずれかが互いに異なる8種類の鋼帯を通板した。前半(時間0:00から0:55まで)は比較例、鋼板(時間0:55から1:50まで)は発明例である。すなわち、前半の通板では、均熱帯に供給される乾燥ガスの流量及び加湿ガスの流量並びに冷却帯に供給される乾燥ガスの流量を表2に示すように変動させて、炉内圧を一定に保つようにした。後半の通板では、表2に示すように、均熱帯を通過する鋼帯の種類、幅及び通板速度が一定である間は、加湿ガスの露点は一定にし、加湿ガスの流量の変動幅は20%以下にした。そして、均熱帯及び冷却帯に供給される乾燥ガスの流量を調節することで炉内圧を一定に保つようにした。
【0054】
表2中均熱帯の「露点」の欄には、
図2の露点測定口50の位置で測定した測定された均熱帯内の露点を示した。また、「加湿ガス供給口近傍露点」は、
図2の加湿ガス供給口40Bから80cm離れた位置で測定した均熱帯内の露点を示した。「加湿ガス露点」は、
図2の加湿ガス用露点計40で測定した露点を示した。
【0055】
第1冷却帯及び第2冷却帯には、各帯の最下部から上記乾燥ガス(露点:−50℃)を表2に示す流量で供給した。
【0056】
めっき浴温は460℃、めっき浴中Al濃度0.130%、付着量はガスワイピングにより片面当り50g/m
2に調節した。なお、ライン速度は板厚の変化に伴って1.0〜2.0m/sとした。また、溶融亜鉛めっきを施した後に、皮膜合金化度(Fe含有率)が10〜13%内となるように、誘導加熱式合金化炉にて合金化処理を行った。その際の合金化温度は表2に示す。
【0057】
(評価方法)
めっき外観の評価は、光学式の表面欠陥計による検査(φ0.5以上の不めっき欠陥やロールピックアップによる疵を検出)および目視による合金化ムラ判定を行い、全ての項目が合格で○、軽度の合金化ムラがある場合は△、一つでも不合格があれば×とした。結果を表2に示す。
【0058】
また、各種条件で製造した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の引張強度を測定した。高張力鋼の鋼種Aは590MPa以上、高張力鋼の鋼種Bは980MPa以上を合格とした。結果を表2に示す。
【0059】
(評価結果)
比較例では、均熱帯内の露点が−25℃を下回った場合は、部分的な不めっきによりめっき外観が劣化し、また、合金化温度の上昇に伴って引張強度が不合格となった。また、均熱帯露点が0℃を上回った場合には、ロールピックアップが発生し、鋼帯表面にもロールピックアップに起因する疵が発生した結果、めっき外観が劣化した。また、0:20、0:35、0:45の時間帯では、水分量も式(1)を満たしていたが、前後の時間帯との水分量の変動が大きく、露点も−25〜0℃の範囲に入っていなかったため、軽度の合金化ムラが見られた。
【0060】
一方、発明例においては、均熱帯の全体のガス流量が変化しても、所定水分量を安定的に供給できたので、コイル全長全幅に亘って良好な表面外観となり、所望の引張特性を得ることもできた。水分量の変動を20%以内にし、かつ式(1)を満足して露点を−25〜0℃に制御した1:20〜2:00の時間帯で、引張強度と表面外観が特に高位で安定した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】