特許第6439751号(P6439751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6439751
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】ピストン冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 3/10 20060101AFI20181210BHJP
   F02F 3/22 20060101ALI20181210BHJP
   F01P 3/08 20060101ALI20181210BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   F01P3/10 Z
   F02F3/22 A
   F02F3/22
   F01P3/08 C
   F02F3/00 302Z
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-111786(P2016-111786)
(22)【出願日】2016年6月3日
(65)【公開番号】特開2017-218912(P2017-218912A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100113011
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】山下 晃
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−324526(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/154877(WO,A1)
【文献】 特開2012−215138(JP,A)
【文献】 特開2009−250178(JP,A)
【文献】 特開2003−269163(JP,A)
【文献】 特開2006−138307(JP,A)
【文献】 特表2014−518979(JP,A)
【文献】 特開2003−301744(JP,A)
【文献】 実開平03−089908(JP,U)
【文献】 実開平04−121408(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/10
F01P 3/08
F02F 3/00
F02F 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に搭載されるピストンの冷却装置であって、
前記ピストンの内部に設けられ、当該ピストンの背面に開口する入出孔を備える冷却空洞と、
噴射されたオイルの軸線が前記ピストンの往復運動の方向と平行になるように、前記入出孔に向けてオイルを噴射する第1オイルジェットと、
前記入出孔と異なる部位に向けてオイルを噴射する第2オイルジェットと、を備え、
前記第1オイルジェットは、前記第2オイルジェットに優先してオイルを噴射し、
オイルの噴射に必要な油圧を生成するオイルポンプを備え、
前記第1オイルジェットと前記第2オイルジェットの双方からオイルを噴射させるのに必要な油量に比して、前記オイルポンプの吐出油量が少ない場合に、当該吐出油量を優先的に前記第1オイルジェットからのオイル噴射に消費させ、
前記第1オイルジェット及び前記第2オイルジェットは、共通する油圧経路を介して前記オイルポンプと連通しており、
前記第1オイルジェットの開弁圧は、前記第2オイルジェットの開弁圧に比して低圧であり、
前記オイルポンプは、生成油圧を低圧側と高圧側の2段階に切り換える機能を有する2ステージ式オイルポンプであり、
前記第1オイルジェットの開弁圧は、前記低圧側の生成油圧以下であり、
前記第2オイルジェットの開弁圧は、前記低圧側の生成油圧より高く、かつ、前記高圧側の生成油圧以下であることを特徴とするピストン冷却装置。
【請求項2】
前記内燃機関は複数の気筒を備え、
前記第1オイルジェット及び前記第2オイルジェットは夫々の気筒に配置され、
前記油圧経路には、複数の気筒の夫々に属する第1オイルジェット及び第2オイルジェットが連通していることを特徴とする請求項に記載のピストン冷却装置。
【請求項3】
内燃機関に搭載されるピストンの冷却装置であって、
前記ピストンの内部に設けられ、当該ピストンの背面に開口する入出孔を備える冷却空洞と、
噴射されたオイルの軸線が前記ピストンの往復運動の方向と平行になるように、前記入出孔に向けてオイルを噴射する第1オイルジェットと、
前記入出孔と異なる部位に向けてオイルを噴射する第2オイルジェットと、を備え、
前記第1オイルジェットは、前記第2オイルジェットに優先してオイルを噴射し、
オイルの噴射に必要な油圧を生成するオイルポンプを備え、
前記第1オイルジェットと前記第2オイルジェットの双方からオイルを噴射させるのに必要な油量に比して、前記オイルポンプの吐出油量が少ない場合に、当該吐出油量を優先的に前記第1オイルジェットからのオイル噴射に消費させ、
前記第1オイルジェット及び前記第2オイルジェットは、共通する油圧経路を介して前記オイルポンプと連通しており、
前記第2オイルジェットから噴射される油量を制御する制御機構と、
前記第1オイルジェットに供給される油圧が当該第1オイルジェットからオイルを噴射させるのに必要な圧力に比して低い場合に、前記第2オイルジェットから噴射される油量が減少するように前記制御機構を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とするピストン冷却装置。
【請求項4】
前記ピストンがスチール製であることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載のピストン冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピストン冷却装置に係り、特に、内燃機関の気筒内に配置されたピストンの温度を適温に保つためのピストン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関の気筒内に配置されたピストンを冷却するための冷却装置が開示されている。特許文献1に記載のピストンは、その内部に冷却空洞を備えている。冷却空洞は、ピストンの背面側に設けられた2つの入出孔に連通している。
【0003】
ピストンの背面側には、2つのオイルジェットが設けられている。一方のオイルジェットは、ピストンが上死点付近に位置する際に一方の入出孔に向かうように設けられている。他方のオイルジェットは、ピストンが下死点付近に位置する際に他方の入出孔に向かうように設けられている。
【0004】
上記の構成によれば、ピストンが上死点付近に位置する際に、一方の入出孔からオイルを供給して冷却空洞内にオイルの流れを作ることができる。また、ピストンが下死点付近に位置する際には、他方の入出孔からオイルを供給して冷却空洞内にオイルの流れを形成することができる。このため、上記従来の冷却装置によれば、内燃機関の作動中にピストンを、その内部から適切に冷却することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−301744号公報
【特許文献2】特開2008−163936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関においては、上述したようなオイルジェットの他にも、ピストンの背面に向けてオイルを噴射するためのジェットなどが用いられることがある。そして、冷却空洞に向けてオイルを噴射するジェットと、他のオイルジェットとが併用して用いられる場合は、それら双方のジェットから、ピストンの温度を適切に保つうえで過不足のないオイルを噴射させることが必要である。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の冷却装置は、ピストンの冷却空洞にオイルを供給するジェットしか備えておらず、その種のジェットと、目的を異にする他のオイルジェットとが併用される場合の解決を与えるものではない。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ピストンの冷却空洞にオイルを供給するためのオイルジェットと、目的を異にするオイルジェットとを併用して、長期的かつ安定的にピストンの温度を適切に保つことのできるピストン冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関に搭載されるピストンの冷却装置であって、
前記ピストンの内部に設けられ、当該ピストンの背面に開口する入出孔を有する冷却空洞と、
前記入出孔に向けてオイルを噴射する第1オイルジェットと、
前記入出孔と異なる部位に向けてオイルを噴射する第2オイルジェットと、を備え、
前記第1オイルジェットは、前記第2オイルジェットに優先してオイルを噴射することを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、
オイルの噴射に必要な油圧を生成するオイルポンプを備え、
前記第1オイルジェットと前記第2オイルジェットの双方からオイルを噴射させるのに必要な油量に比して、前記オイルポンプの吐出油量が少ない場合に、当該吐出油量を優先的に前記第1オイルジェットからのオイル噴射に消費させることを特徴とする。
【0011】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記第1オイルジェット及び前記第2オイルジェットは、共通する油圧経路を介して前記オイルポンプと連通しており、
前記第1オイルジェットの開弁圧は、前記第2オイルジェットの開弁圧に比して低圧であることを特徴とする。
【0012】
また、第4の発明は、第3の発明において、
前記オイルポンプは、生成油圧を低圧側と高圧側の2段階に切り換える機能を有する2ステージ式オイルポンプであり、
前記第1オイルジェットの開弁圧は、前記低圧側の生成油圧以下であり、
前記第2オイルジェットの開弁圧は、前記低圧側の生成油圧より高く、かつ、前記高圧側の生成油圧以下であることを特徴とする。
【0013】
また、第5の発明は、第3又は第4の発明において、
前記内燃機関は複数の気筒を備え、
前記第1オイルジェット及び前記第2オイルジェットは夫々の気筒に配置され、
前記油圧経路には、複数の気筒の夫々に属する第1オイルジェット及び第2オイルジェットが連通していることを特徴とする。
【0014】
また、第6の発明は、第2の発明において、
前記第1オイルジェット及び前記第2オイルジェットは、共通する油圧経路を介して前記オイルポンプと連通しており、
前記第2オイルジェットから噴射される油量を制御する制御機構と、
前記第1オイルジェットに供給される油圧が当該第1オイルジェットからオイルを噴射させるのに必要な圧力に比して低い場合に、前記第2オイルジェットから噴射される油量が減少するように前記制御機構を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、第7の発明は、第2の発明において、
内燃機関の駆動トルクによって駆動されることにより前記第1オイルジェットに油圧を供給するオイルポンプと、
電力により駆動され前記第2オイルジェットに油圧を供給する電動オイルポンプと、
前記第2オイルジェットによるオイル噴射が要求される条件下で、前記電動オイルポンプから供給されるオイルを前記第2オイルジェットから噴射させる制御装置と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
また、第8の発明は、第1の発明において、前記第1オイルジェット及び前記第2オイルジェットの双方からオイルが噴射されると前記ピストンに過冷却が生ずる冷却能力過多条件下で、前記第2オイルジェットから噴射される油量を優先的に減量することを特徴とする。
【0017】
また、第9の発明は、第8の発明において、
前記第2オイルジェットから噴射される油量を制御する制御機構と、
前記冷却能力過多条件下で、前記第2オイルジェットから噴射される油量が減少するように前記制御機構を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする。
【0018】
また、第10の発明は、第1乃至第9の発明の何れかにおいて、前記ピストンがスチール製であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明において、冷却空洞は、ピストン内部に設けられるため、ピストン表面からの温度を受け易い。このため、冷却空洞の内部にはデポジットが生じ易い。本発明では、内燃機関の運転中に、第2オイルジェットからのオイル噴射に対して、第1オイルジェットからのオイル噴射が優先される。第1オイルジェットからオイルが噴射されていれば、冷却空洞内でオイルの流れが維持され、デポジットの生成が抑えられる。このため、本発明によれば冷却空洞による冷却効率が損なわれ難く、長期的かつ安定的にピストンの温度を適切に保つことができる。
【0020】
第2の発明によれば、オイルポンプの吐出油量の制約で双方のオイルジェットからオイルが噴射できない場合に、第1のオイルジェットに優先的にオイルを噴射させることができる。
【0021】
第3の発明によれば、油圧経路の圧力が上昇する過程で、先ず、第1オイルジェットからのオイル噴射が開始される。このため、本発明によれば、オイルポンプの吐出油量が、双方のオイルジェットからオイルを噴射させるには不十分である状況下で、その吐出油量を優先的に第1オイルジェットからのオイル噴射に消費させることができる。
【0022】
第4の発明によれば、オイルポンプの生成油圧が低圧側であれば、第1オイルジェットからはオイルが噴射され、一方、第2オイルジェットからはオイルが噴射されない。また、オイルポンプの生成油圧が高圧側であれば、双方のオイルジェットからオイルが噴射される。このため、本発明によれば、オイルポンプの状態を切り替えることにより、第1オイルジェット優先の状態と、双方噴射の状態とを確実に切り替えることができる。
【0023】
第5の発明によれば、オイルポンプの生成油圧は、複数の気筒の夫々に配置される第1オイルジェット及び第2オイルジェットに共通に供給される。この場合、第1オイルジェットの開弁圧と第2オイルジェットの開弁圧が同じであると、生成油圧がその開弁圧に近い状況下では、一部の気筒では双方のオイルジェットが開弁し、一部の気筒では何れのオイルジェットも開弁しないといったバラツキが生じ得る。本発明では、開弁圧の違いに起因して、全ての気筒で第1オイルジェットが開弁しない限り、何れの気筒でも第2オイルジェットは開弁しない。このため、本発明によれば、ピストン冷却に関する気筒間のバラツキを抑えることができる。
【0024】
第6の発明によれば、第1オイルジェットに供給される油圧が不十分である場合は、第2オイルジェットから噴射される油量が減量される。第1オイルジェットと第2オイルジェットは共通する油圧経路を介してオイルポンプと連通しているため、第2オイルジェットから噴射される油量が減れば、第1オイルジェットに供給される油圧が上昇する。このため、本発明によれば、油圧不足の環境下で、第1オイルジェットに優先的にオイルを噴射させることができる。
【0025】
第7の発明によれば、第1オイルジェットには機械式の電動ポンプから油圧が供給される。第2オイルジェットには、電動ポンプから油圧が供給されるため、機械式の電動ポンプが生成する油圧は、第2オイルジェットで消費されることなく、第1オイルジェットに供給される。このため、本発明によれば、オイルポンプの能力が低い低負荷時においても、第1オイルジェットに十分な油量を提供することができ、第1オイルジェットから優先的にオイルを噴射させることができる。
【0026】
第8の発明によれば、冷却能力過多条件の下では、第2オイルジェットからの油量が優先的に減量される。その結果、第1オイルジェットが、第2オイルジェットに対して優先的にオイルを噴射する状況が作り出される。この状況によれば、ピストンの過冷却を回避しつつ、冷却空洞内でのデポジットの堆積を有効に阻止することができる。
【0027】
第9の発明によれば、第2オイルジェットからの油量を制御する制御機構と、その制御機構を制御する制御装置とを用いることで、冷却能力過多条件の成立下で、過冷却を発生させず、かつ、冷却空洞内にデポジットを堆積させない状態を有効に作り出すことができる。
【0028】
第10の発明によれば、スチール製のピストンを適切に冷却することができる。スチール製のピストンは、アルミ製のピストンに比して高温になり易く、冷却空洞内でデポジットが発生し易い。本発明によれば、冷却空洞内に優先的にオイルを供給することができるため、ピストンがスチール製であってもデポジットの堆積を有効に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態1の構成を示す図である。
図2】アルミと鉄の特性を比較して表した図である。
図3】アルミ製ピストンの温度とスチール製ピストンの温度を対比して表した図である。
図4】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態2の構成を示す図である。
図6】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
図7】本発明の実施の形態3の構成を示す図である。
図8】本発明の実施の形態3の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図9】二つのオイルジェットの開弁圧が同じである場合に生ずる気筒間バラツキを説明するためのタイミングチャートである。
図10】本発明の実施の形態3において気筒間バラツキが解消される様子を説明するためのタイミングチャートである。
図11】本発明の実施の形態4の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1のピストン冷却装置の構成を説明するための図である。図1は、内燃機関の一の気筒に配置されたシリンダライナ10と、その中に配置されたピストン12を示している。内燃機関は複数の気筒を有しているが、便宜上図1にはそれらの気筒の一つだけを示している。
【0031】
ピストン12の表面には、燃焼室14に開口するキャビティ16が設けられている。ピストン12には、キャビティ16を取り巻くように環状空洞18が形成されている。環状空洞18は、ピストン12内部に設けられている。ピストン12の内部には、更に、ピストン12の直径方向に対向して配置される二つの入出孔20,22が設けられている。入出孔20,22は、ピストン12の裏面に開口し、ピストン12の軸方向に伸びて環状空洞18に連通している。以下、環状空洞18と入出孔20,22を総称して「冷却空洞」26と称す。
【0032】
ピストン12は、裏面側にピンボス28を備えている。ピンボス28には、クランク軸に繋がるコンロッド(何れも図示略)が連結される。ピストン12の裏面側、即ちクランクケース側には、第1オイルジェット30が配置されている。第1オイルジェット30には、既定の開弁圧で開弁するチェック弁が内蔵されている。開弁圧を超える油圧の供給を受けると、第1オイルジェット30は、その噴射孔32からオイルを噴射する。噴射孔32は、そこから噴射されたオイルの軸線が、ピストン12の往復運動の方向と平行になり、かつ、一方の入出孔20の開口部に向かうように設けられている。このため、第1オイルジェット30から噴射されたオイルは、ピストン12の往復運動のほぼ全過程において、入出孔20の開口部に向けて噴射される。
【0033】
ピストン12の裏面側には、また、第2オイルジェット34が配置されている。第2オイルジェット34は、第1オイルジェット30と同様に、既定の開弁圧を超える油圧の供給を受けることでオイルを噴射する機能を有している。本実施形態では、第1オイルジェット30の開弁圧と第2オイルジェット34の開弁圧は同圧である。第2オイルジェット34の噴射孔36は、入出孔20,22の開口部ではなく、ピストン12の背面に向けて、より具体的にはピンボス28周辺に向けてオイルを噴射するように設けられている。
【0034】
図1に示す構成は、第1オイルジェット30及び第2オイルジェット34にオイルを供給するための油圧回路を備えている。この油圧回路は、内燃機関のオイルパン38からオイルを汲み上げるオイルポンプ40を備えている。オイルポンプ40は、内燃機関の駆動トルクにより駆動される機械式のポンプである。
【0035】
オイルポンプ40の吐出口は、メインギャラリ42に連通している。メインギャラリ42には、その内部の油圧を検知するための油圧センサ44が取り付けられている。また、メインギャラリ42には、内燃機関の各部位にオイルを供給するための油路46、第1オイルジェット30に通じる油路48、及び第2オイルジェット34に通じる油路50が連通している。
【0036】
第2オイルジェット34に通じる油路50には、オイル制御弁52が組み込まれている。オイル制御弁52は、外部からの指令を受けて開度を変化させる電子制御式の弁機構である。オイル制御弁52によれば、メインギャラリ42から第2オイルジェット34に流れる油量を制御することができる。
【0037】
オイル制御弁52には、電子制御ユニット(ECU)54が接続されている。ECU54には、油圧センサ44が接続されている。更に、ECU54には、内燃機関に搭載されている種々のセンサが接続されている。具体的には、ECU54には以下のようなセンサが接続されている。
・機関回転速度を検知する回転速度センサ56
・吸入空気量を検出するエアフロメータ58
・排気空燃比を検出する空燃比センサ60
・冷却水温を検出する水温センサ62
・第1オイルジェット30に内蔵された油量センサ
・第2オイルジェット34に内蔵された油量センサ
【0038】
本実施形態において、内燃機関のピストン12はスチール製である。図2は、アルミと鉄の特性を比較して表した図である。また、図3は、アルミ製のピストンの温度64と、スチール製のピストンの温度66とを対比して表した図である。尚、図3に示す温度64、66は、一定の回転速度の下で内燃機関の負荷を変化させた場合に得られる温度である。
【0039】
図2に示すように、鉄の熱伝導率はアルミのそれに比して大幅に低い。このため、図3に示すように、スチール製のピストンの温度66は、アルミ製のピストンの温度64に比して高温になり易い。ここで、図3中に符号68を付して示す破線は、オイルの炭化が発生し始める温度である。図3が示すように、スチール製のピストンでは、アルミ製のピストンに比して、その温度66が炭化開始温度68に到達し易い。このため、本実施形態のようにスチール製のピストン12を用いる内燃機関においては、オイルの炭化が生じないように、ピストン12を適切に冷却することが特に重要である。
【0040】
[実施の形態1のピストン冷却装置の動作]
内燃機関の運転中は、燃焼室14の内部で大きな燃焼熱が発生する。ピストン12の表面はその燃焼熱に晒されて高温となる。環状空洞18は、ピストン12の表面に近接する位置に設けられている。このため、環状空洞18の内部はピストン12の背面に比して高温になり易い。反面、環状空洞18を適切に油冷すれば、ピストン12の背面を油冷するよりも効率的にピストン12の表面温度を下げることができる。
【0041】
(通常運転条件)
本実施形態のピストン冷却装置は、通常の運転条件下では、第1オイルジェット30及び第2オイルジェット34の双方からピストン12に向けてオイルを噴射させる。第1オイルジェット30から噴射されたオイルは入出孔20から冷却空洞26に入り、環状空洞18を流れて入出孔22から流出する。他方、第2オイルジェット34から噴射されたオイルは、ピストン12の背面、特にピンボスの周辺に噴射される。この場合、冷却空洞26内にオイルを流通させ続けることが出来ると共に、ピストン12を、背面からも冷却することができる。その結果、ピストン12の過熱を適切に防ぐことができる。
【0042】
(冷却能力過多条件)
燃焼室14からピストン12が受ける熱量は、内燃機関の負荷状態に応じて変動する。例えば、アイドル運転等の低負荷状態では、必然的にその熱量は少なくなる。このような状況下では、第1オイルジェット30と第2オイルジェット34の双方からオイルを噴射すると、ピストン12が過冷却されてしまうことがある。以下、このような過冷却が生じ得る条件を「冷却能力過多条件」と称す。
【0043】
冷却能力過多条件下では、ピストン12の過冷却を回避するために、例えば、ピストン12の油冷を停止することが考えられる。しかしながら、環状空洞18の内部は、ピストン12の表面に近く、このような条件下でも高温になり易い。そして、冷却能力過多条件下であっても、ピストン12の油冷が停止されれば、環状空洞18内の温度が炭化開始温度68(図3参照)に到達してしまうことがある。
【0044】
このため、本実施形態では、冷却能力過多条件の下では、オイル制御弁52を閉じて第2オイルジェット34からのオイル噴射だけを停止させる。この場合、ピストン12の全体に対する冷却能力は通常運転条件下のそれに比して引き下げられる。その結果、ピストン12の過冷却を適切に回避することができる。また、第1オイルジェット30からの噴射が継続されるため、冷却空洞26内にはオイルが流れ続ける。その結果、環状空洞18内の温度が引き下げられ、オイルの炭化によるデポジットの生成が回避され、かつ、仮にオイルの炭化が生じたとしても、その炭化物が洗い流されるためデポジットの堆積が防止できる。
【0045】
(油圧不足条件)
本実施形態において、オイルポンプ40の生成油圧は内燃機関の状態に応じて変動する。例えば、内燃機関がアイドル運転等の低負荷状態にある場合は、その生成油圧は比較的低圧となる。他方、内燃機関が加速運転等の高負荷状態にある場合はその油圧が高圧となる。また、オイルポンプ40の生成油圧は、オイルの粘度にも影響を受ける。このため、油温が高くオイル粘度が低い状況下では、オイルポンプ40の生成油圧が比較的低圧となる。
【0046】
図1に示すように、本実施形態のピストン冷却装置は、第1オイルジェット30及び第2オイルジェット34が、メインギャラリ42を介して、共にオイルポンプ40から油圧の供給を受けている。このため、オイルポンプ40の生成油圧が低くなる低負荷状態、或いは高油温状態の下では、第1オイルジェット30と第2オイルジェット34の双方からオイルを噴射させることができない事態が生じ得る。
【0047】
この場合、具体的には、メインギャラリ42の油圧が第1オイルジェット30及び第2オイルジェット34の開弁圧に達した時点で、何れか一方のオイルジェットが開弁し、そのジェットからのオイル噴射が開始される。何れかのジェットからオイルが噴射され始めれば、メインギャラリ42の油圧は低下し、他方のジェットは開弁できない状態となる。仮に第2オイルジェット34からのオイル噴射が先行して開始されたとすれば、以後、第1オイルジェット30からはオイルが噴射されないことになる。以下、このように、オイルポンプ40の吐出油量が双方のオイルジェットからオイルを噴射させるには不十分となる条件を「油圧不足条件」と称す。
【0048】
本実施形態では、油圧不足条件の下では、オイル制御弁52を閉じて第2オイルジェット34への油圧供給が遮断される。第2オイルジェット34への油圧供給が遮断されれば、メインギャラリ42の油圧が開弁圧に達した時点で確実に第1オイルジェット30からのオイル噴射が開始される。
【0049】
上述した通り、冷却空洞26による油冷は、ピストン12背面の油冷に比して効率よくピストン12を冷却することができる。また、冷却空洞26の内部、特に環状空洞18の内部は、ピストン12の背面に比して高温になり易く、デポジットを発生させ易い環境にある。このため、何れか一方のジェットからしかオイルが噴射できない環境下では、第1オイルジェット30からの噴射を優先することが望ましい。本実施形態のピストン冷却装置によれば、油圧不足条件の下でその要求を満たすことができる。
【0050】
(実施の形態1における制御フロー)
図4は、本発明の実施の形態1においてECU54が実行するルーチンのフローチャートである。図4に示すルーチンは、内燃機関の始動後所定の周期で繰り返し軌道される。このルーチンでは、先ず、内燃機関の運転状態が検出される(ステップ100)。具体的には、ここでは、内燃機関に搭載されている各種センサから、ピストン12の温度推定と、油温の検知に必要な情報が検出される。
【0051】
次に、ピストン12の温度が推定される(ステップ102)。ピストン12の温度は、ピストン12に対する入熱量Qinとピストン12からの放熱量Qoutに基づいて算出することができる。また、入熱量Qinは、機関回転速度、燃料噴射量、及び燃焼室14を流れるガス量等に基づいて公知の手法で算出することができる。他方、放熱量Qoutは、ピストン12に向けて噴射されるオイルの油量及び油温等に基づいて公知の手法で算出することができる。尚、ピストン12の温度は、機関回転速度、吸入空気量等をパラメータとして予め定めておいたマップに従って推定することとしてもよい。
【0052】
次に、ピストン12の温度が、冷却能力過多条件の判定温度より低いか否かが判別される(ステップ104)。本ステップの処理は、冷却能力過多条件の成否を判断するために実行される。尚、冷却能力過多条件の成否は、機関回転速度、機関負荷、冷却水温、吸入空気温などに基づいて判断することとしてもよい。
【0053】
上記ステップ104において、ピストン12の温度が判定温度より低いと判定された場合は、冷却能力過多条件が成立していると判断することができる。つまり、この場合は、第1オイルジェット30及び第2オイルジェット34の双方からオイルを噴射し続けると、ピストン12が過冷却の状態に至ると判断することができる。この場合、第2オイルジェット34からのオイル噴射が停止されるように、オイル制御弁52が閉弁される(ステップ106)。
【0054】
一方、上記ステップ104の処理で、ピストン12の温度が判定温度より低温ではないと判別された場合は、冷却能力過多条件が成立していないと判断することができる。この場合、次に、メインギャラリ42の圧力が、油圧不足条件の判定圧力より低いか否かが判別される(ステップ108)。本ステップの処理は、油圧不足条件の成否を判断するために実行される。尚、油圧不足条件の成否は、オイルポンプ40の吐出油量(能力)に基づいて判断することとしてもよい。
【0055】
上記ステップ108において、メインギャラリ42の油圧が判定油圧より低いと判定された場合は、油圧不足条件が成立していると判断することができる。つまり、この場合は、オイルポンプ40の吐出油量が、第1オイルジェット30及び第2オイルジェット34の双方からオイルを噴射するには不十分であると判断することができる。この場合、第1オイルジェット30からのオイル噴射を優先するべく、上述したステップ106の処理が実行される。
【0056】
一方、上記ステップ108において、メインギャラリ42の油圧が判定油圧より低くないと判別された場合は、冷却能力過多条件も油圧不足条件も成立していないと判断することができる。この場合は、第1オイルジェット30に加えて、第2オイルジェット34からもオイルを噴射させるべく、オイル制御弁52が開弁される(ステップ110)。
【0057】
以上の処理によれば、冷却能力過多条件の下、及び油圧不足条件の下で、第2オイルジェット34からのオイル噴射に優先して第1オイルジェット30からオイルを噴射させることができる。このため、本実施形態のピストン冷却装置によれば、これらの条件の下でも、ピストン12を適温に保つことができ、かつ、冷却空洞26内におけるデポジットの生成又は堆積を有効に阻止することができる。このため、この装置によれば、ピストンを安定的に適温に冷却する能力を長期に渡って維持することができる。
【0058】
[実施の形態1の変形例]
ところで、上述した実施の形態1では、スチール製のピストン12を用いることとしているが、ピストン12の材質は鉄に限定されるものではない。即ち、本発明は、アルミ製のピストンなど、鉄以外の材質で形成されたピストンに適用してもよい。
【0059】
また、上述した実施の形態1では、冷却空洞26の入出孔20,22と異なる部位に向けてオイルを噴射する第2オイルジェット34がピストン12の背面にオイルを噴射しているが、本発明はこれに限定されるものではない。即ち、第2オイルジェット34は、例えば、ピストン12以外の部位に向けてオイルを噴射するものであってもよい。更に、入出孔20,22と異なる部位にオイルを噴射するジェットの数は1つに限定されるものではなく、2つ以上であってもよい。
【0060】
また、上述した実施の形態1では、第1オイルジェット30からのオイル噴射を優先すべき場合に、第2オイルジェット34からの噴射を停止させることとしているが、その手法はこれに限定されるものではない。例えば、冷却能力過多条件下で第1オイルジェット30からの噴射を優先する場合には、ピストン12の過冷却が生じない量まで第2オイルジェット34からのオイル噴射量を減量することとしてもよい。また、油圧不足条件下で第1オイルジェット30からの噴射を優先する場合は、第1オイルジェット30に供給される油量が十分量になるように第2オイルジェット34からの噴射量を減少させることとしてもよい。
【0061】
また、上述した実施の形態1では、内燃機関の作動中は、第1オイルジェット30が常にオイルを噴射することとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。ピストン12の冷却が全く不要な冷間時などは、第2オイルジェット34からの噴射と共に、第1オイルジェット30からの噴射も停止させることができる。
【0062】
尚、上述した実施の形態1では、メインギャラリ42が上記第3の発明における「共通する油圧経路」に相当している。また、オイル制御弁52及びECU54が、上記第6又は第9の発明における「制御機構」及び「制御装置」に相当している。
【0063】
実施の形態2.
次に、図5及び図6を参照して本発明の実施の形態2について説明する。図5は、本発明の実施の形態2のピストン冷却装置の構成を説明するための図である。図5に示す構成は、第2オイルジェット34が、メインギャラリ42からではなく、電動オイルポンプ70から油圧の供給を受ける点を除いて、図1に示す構成と同様である。以下、図5において図1に示す要素と同一又は対応する要素については、共通する符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0064】
本実施形態の構成によれば、第2オイルジェット34からのオイル噴射は、メインギャラリ42の油圧に影響を及ぼさない。このため、実施の形態1の場合と異なり、本実施形態では油圧不足条件が成立することがない。つまり、本実施形態のピストン冷却装置では、オイルポンプ40の生成油圧が優先的に第1オイルジェット30に与えられる状態が構造的に保証されている。このため、この装置によれば、油温が高く、オイル粘度が低く、その結果、第1オイルジェット30から適切にオイルを噴射させることができる。
【0065】
更に、本実施形態の構成によれば、実施の形態1では油圧不足条件が成立するような状況下でも、電動オイルポンプ70を作動させることにより、第1オイルジェット30と第2オイルジェット34の双方からオイルを噴射させることができる。このため、本実施形態の装置によれば、このような状況下では、実施の形態1の装置に比して更に優れた冷却能力を発揮することができる。
【0066】
図6は、本実施形態においてECU54が実行するルーチンのフローチャートである。図6に示すフローチャートは、ステップ108が削除されている点を除いて図4に示すルーチンと同様である。本実施形態では、ステップ106において第2オイルジェット34の停止が指令されると、電動オイルポンプ70に停止指令が発せられる。電動オイルポンプ70が停止すれば、第2オイルジェット34からのオイル噴射も停止される。このため、本実施形態の装置によれば、冷却能力過多条件の下で、冷却空洞26にオイルを流通させつつ、ピストン12に過冷却が生ずるのを適切に防ぐことができる。
【0067】
図6に示すルーチン中ステップ110において第2オイルジェット34からのオイル噴射が指令された場合は、電動オイルポンプ70に作動指令が発せられる。電動オイルポンプ70は、第2オイルジェット34の開弁圧を超える油圧を発生することができる。このため、電動オイルポンプ70が作動すれば、第2オイルジェット34はピストン12の背面に向けてオイルを噴射する。このため、本実施形態の装置によれば、通常の運転条件の下では、第1オイルジェット30と第2オイルジェット34の双方を用いて、ピストン12を適切に冷却することができる。
【0068】
以上説明した通り、本実施形態のピストン冷却装置は、実施の形態1の場合と同様に冷却空洞26内にオイルを流通させることができる。また、この装置によれば、実施の形態1の場合以上に、ピストン12を適切に冷却することができる。このため、本実施形態の装置によっても、長期的かつ安定的に、ピストン12の温度を適切に維持することができる。
【0069】
[実施の形態2の変形例]
尚、本実施形態においても、実施の形態1の場合と同様に、ピストン12はアルミ製であってもよい。また、第2オイルジェット34は、ピストン12以外の部位に向けてオイルを噴射するものであってもよい。また、第2オイルジェット34の数は2つ以上であってもよい。更に、冷却能力過多条件の下では、第2オイルジェット34からのオイル噴射量を減少させることとしてもよい。そして、第1オイルジェット30からのオイルは必要に応じて停止することとしてもよい。
【0070】
尚、上述した実施の形態2では、ECU54が上記第7の発明における「制御装置」に相当している。また、電動オイルポンプ70及びECU54が、上記第9の発明における「制御機構」及び「制御装置」に相当している。
【0071】
実施の形態3.
次に、図7乃至図10を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。図7は本の実施の形態3のポンプ冷却装置の構成を説明するための図である。以下、図7において図1に示す要素と同一又は対応する要素については、共通する符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0072】
本実施形態のピストン冷却装置は、第2オイルジェット72を備えている。第2オイルジェット72は、オイル制御弁52(図1参照)を介することなくメインギャラリ42に直接連通している。第2オイルジェット72には、第1オイルジェット30の開弁圧P1より高い開弁圧P2が与えられている。尚、本実施形態のピストン冷却装置は、実施の形態1又は2の場合と異なり、電子制御ユニットを必要としない。
【0073】
[実施の形態3の動作]
(単一気筒内での動作)
図8は、図7に示すピストン冷却装置の動作と、比較例の装置の動作とを対比して説明するためのタイミングチャートである。ここで、「比較例の装置」とは、図7に示す構成において、第2オイルジェット72を第2オイルジェット34に置き換えた装置を指す。尚、比較例が用いる第2オイルジェット34の開弁圧は、第1オイルジェット30の場合と同様にP1に設定されている。
【0074】
図8の最上段は、時刻t0以後、機関回転速度が一定の割合で上昇している様子を示している。オイルポンプ40は機械式のポンプであるから、機関回転速度が上昇するのに伴い、オイルポンプ40からの吐出油量は増加する。
【0075】
図8の第二段から最下段において、破線で示す波形74,76,78,80は、共通して比較例の装置の動作を表している。他方、これらのチャート中に実線で示す波形82,84,86,88は、共通して本実施形態の装置の動作を表している。
【0076】
図8の第二段はメインギャラリ42における油圧の変化を示す。第三段は、第1オイルジェット30の開弁状態を示す。また、第四段は、第2オイルジェット72又は34の開弁状態を示す。
【0077】
図8の第二段に示す波形74は、比較例の油圧が、時刻t1の時点で開弁圧P1に到達し、一端低下した後時刻t2において再び開弁圧P1に達する様子を表している。比較例では、第1オイルジェット30の開弁圧と第2オイルジェット34の開弁圧が共にP1である。このため、四段目の波形78が示すように、比較例の装置では時刻t1の時点で第2オイルジェット34が開弁することがある。
【0078】
第2オイルジェット34が開弁すれば、メインギャラリ42の油圧はその時点で一時的に低下して開弁圧P1に満たない値となる(上記波形74参照)。この際、第1オイルジェット30は開弁することができず閉弁状態を維持する。そして、時刻t2において油圧が再び開弁圧P1に復帰すると、その時点で第1オイルジェット30が開弁状態に移行する(三段目の波形76参照)。
【0079】
図8の最下段は、ピストン12の温度変化を示している。時刻t1において第2オイルジェット34が開弁し、時刻t2に第1オイルジェット30が開弁した場合、ピストン12の温度は、波形80に沿った変化を示す。第2オイルジェット34による冷却効率は、第1オイルジェット30による冷却効率ほど高くない。このため、比較例の場合は、時刻t1の後、ピストン12の温度は一端僅かに降下するが、その後再び上昇に転じる。そして、時刻t2に冷却空洞26の油冷が開始された後、その影響がピストン表面に及ぶまでは、その温度上昇が継続する。このため、波形80に示すように、比較例におけるピストン12の温度は、安定値に収束するまでに高温になり易い。
【0080】
本実施形態の装置では、第2オイルジェット72の開弁圧がP1より高いP2に設定されている。このため、この装置においては、時刻t1の時点で第2オイルジェット72が開弁することはなく(第四段の波形86参照)、その時点で確実に第1オイルジェット30が開弁する(第三段の波形84参照)。
【0081】
第二段の波形82は、本実施形態における油圧が、時刻t1において一端降下した後、時刻t3において開弁圧P2に達する様子を示している。また、第三段の波形86は、その油圧上昇を受けて、時刻t3において本実施形態における第2オイルジェット72が開弁状態に移行する様子を示している。
【0082】
上述した通り、本実施形態では、時刻t1の時点で第1オイルジェット30によるオイル噴射が確実に開始される。この場合、ピストン12の温度は、最下段の波形88が示すように、時刻t1の時点で大きく低下し、その後ほぼ安定した値を維持する。そして、時刻t3において第2オイルジェット72からの噴射が開始されると、ピストン12の温度は更に降下して安定値に収束する。
【0083】
以上説明した通り、本実施形態のピストン冷却装置によれば、油圧が低い環境下では第1オイルジェット30に、第2オイルジェット72に優先してオイルを噴射させることができる。冷却能力過多条件は、内燃機関の軽負荷運転中に成立し易い。そして、内燃機関の軽負荷運転中は、オイルポンプ40の吐出油量が少なく、生成油圧が低圧になることが多い。本実施形態の装置は、このような環境下では、第1オイルジェット30だけに優先的にオイルを噴射させる。このため、この装置によれば、冷却能力過多条件が成立する環境下で、冷却空洞26内にデポジットを生じさせることなくピストン12を適性温度に保ことができる。
【0084】
また、本実施形態の装置によれば、油圧不足条件下では、必然的に、第2オイルジェット72からのオイル噴射が停止され、第1オイルジェット30だけがオイルを噴射する状況が作り出される。このため、この装置によれば、油圧不足条件の下でも、冷却空洞26内にデポジットを生じさせることなくピストン12を適性温度に保ことができる。
【0085】
(複数気筒での動作)
図7に示す構成は、内燃機関が備える複数の気筒の夫々に設けられている。そして、各気筒が有する第1オイルジェット30及び第2オイルジェット72は、何れもメインギャラリ42に連通されている。
【0086】
図9は、比較例の装置において、♯1気筒と♯2気筒に生ずる動作を説明するためのタイミングチャートである。図9の第三段の波形90は、時刻t1において、♯1気筒の第1オイルジェット30が開弁したことを示している。また、第四段の波形91は、時刻t2において、♯1気筒の第2オイルジェット34が開弁したことを示している。そして、最下段の波形92は、時刻t3において、♯2気筒の第1オイルジェット30が開弁したことを示している。
【0087】
比較例の装置には、複数の気筒の夫々に、開弁圧が等しい第1オイルジェット30及び第2オイルジェット34が備わっている。これらのオイルジェットは、同じ開弁圧P1で開弁するため、メインギャラリ42の油圧がそのP1付近にある環境下では、どのオイルジェットが開弁するかについて秩序が存在しない。つまり、図9に示す開弁順序は、実現可能性のある順序の一つに過ぎず、その順序に再現性はない。そして、最初の開弁が生じた後、全てのオイルジェットが開弁するまでの間は、開弁状態にあるオイルジェットの組み合わせにおいて気筒間バラツキが生ずる。その結果、比較例の装置によれば、各気筒におけるピストン12の冷却能力に様々なバラツキが生ずることになる。
【0088】
図10は、本実施形態の装置において、♯1気筒と♯2気筒に生ずる動作を説明するためのタイミングチャートである。図9の第四段の波形93は、油圧が繰り返し開弁圧P1に到達している状況下で、♯1気筒の第2オイルジェット72が安定して閉弁状態を維持している様子を示している。
【0089】
本実施形態の装置では、第2オイルジェット72の開弁圧が上記の通りP1より高い値に設定されている。この設定の下では、全ての気筒において第1オイルジェット30が開弁するまで、何れの気筒においても第2オイルジェット72が開弁することはない。このように、本実施形態の装置では、全ての第1オイルジェット30を、全ての第2オイルジェット72に優先して開弁状態とすることができる。このため、この装置によれば、各気筒における冷却能力のバラツキを、比較例の場合に比して大きく抑制することができる。
【0090】
[実施の形態3の変形例]
尚、本実施形態においても、実施の形態1の場合と同様に、ピストン12はアルミ製であってもよい。また、第2オイルジェット34は、ピストン12以外の部位に向けてオイルを噴射するものであってもよい。また、第2オイルジェット34の数は2つ以上であってもよい。そして、第1オイルジェット30からのオイルは必要に応じて停止することとしてもよい。
【0091】
実施の形態4.
次に、図7と共に図11を参照して本発明の実施の形態4について説明する。本実施形態のピストン冷却装置は、図7に示す構成に、以下の3点の特徴を組み込むことにより実現することができる。
(1)オイルポンプ40を2ステージ式のポンプとする。尚、「2ステージ式のポンプ」とは、生成油圧を選択的に低圧側(PL)と高圧側(PH)の2種類に切り替える機能を有するポンプを指すものとする。
(2)第1オイルジェット30の開弁圧P1を低圧側の生成油圧PL以下の値とする。
(3)第2オイルジェット72の開弁圧P2を、低圧側の生成油圧PLより高く、かつ、高圧側の生成油圧PH以下の値とする。
【0092】
2ステージ式のオイルポンプ40は、内燃機関からの駆動力が、高圧側の油圧PHを生成するのに不十分である軽負荷運転時には、当然に低圧側の油圧PLを生成する。また、このオイルポンプ40は、高圧側の油圧PHを生成するのに十分な駆動力が得られる状況下でも、PHの生成が不必要であると判断できる状況下では低圧側の油圧PLを生成する。本実施形態の構成によれば、オイルポンプ40の状態を適宜切り替えることにより、無駄仕事の量を削減することができる。
【0093】
また、本実施形態の構成によれば、オイルポンプ40が低圧側の油圧PLを生成する状況下では、第1オイルジェット30のみが開弁状態となる。また、オイルポンプ40が高圧側の油圧PHを生成すれば、第1オイルジェット30と第2オイルジェット72の双方が開弁状態となる。このため、この装置によれば、オイルポンプ40の状態を切り替えることにより、オイルを噴射するジェットの組み合わせを意図的に切り替えることができる。
【0094】
図11は、本実施形態のピストン冷却装置の動作と、比較例の装置の動作とを対比して説明するためのタイミングチャートである。ここで、「比較例の装置」とは、本実施形態の構成において、第2オイルジェット72を第2オイルジェット34に置き換えた装置を指すものとする。
【0095】
図11の第二段は、2ステージ式のオイルポンプ40の生成油圧を示す。ここでは、時刻t2において、その生成油圧が低圧側の値PLから高圧側の値PHに切り替えられている。
【0096】
図11の第三段から最下段において、破線で示す波形は比較例の装置の動作を表している。他方、これらのチャート中に実線で示す波形は本実施形態の装置の動作を表している。
【0097】
図11の第三段は、メインギャラリ42の油圧の変化を示す。ここでは、時刻t1において、その油圧は開弁圧P1に到達している。その後一端の低下を経て、時刻t2に、生成油圧の切り換えに伴いその油圧が開弁圧P2に達している。
【0098】
比較例の装置では、第2オイルジェット34の開弁圧が第1オイルジェット30の開弁圧と同様にP1である。このため、五段目の波形94が示すように、比較例の装置では時刻t1の時点で第2オイルジェット34が開弁することがある。この場合、第三段の波形95が示すように、第1オイルジェット30は時刻t2まで開弁しない。その結果、最下だの波形96が示すように、ピストン12の温度は、安定値に収束する前に一時的に高温となる。
【0099】
本実施形態の装置では、第2オイルジェット72の開弁圧がP2であるため、時刻t1の時点で第2オイルジェット72が開弁することはない(第五段の波形97参照)。その結果、この装置では、時刻t1の時点で確実に第1オイルジェット30が開弁する(第四段の波形98参照)。
【0100】
このように、本実施形態の装置では、オイルポンプ40が低圧側の油圧PLを生成している間は、第1オイルジェット30だけが確実にオイルを噴射する。そして、その生成油圧が高圧側の値PHに切り替わると、第1オイルジェット30に加えて第2オイルジェット72からもオイルが噴射され始める。
【0101】
このため、本実施形態の装置によれば、実施の形態3の場合と同様に、冷却空洞26にデポジットを生じさせることなく、ピストン12を長期的かつ安定的に適温に冷却し続けることができる。更に、本実施形態の装置によれば、オイルポンプ40の状態を切り替えることで、オイルを噴射するジェットの組み合わせを正確に切り替えることができる。このため、この装置によれば、実施の形態3の場合に比して更に意図的にピストン12に対する冷却能力を制御することができる。
【0102】
[実施の形態3との共通性]
尚、本実施形態の装置は、複数気筒における冷却能力のバラツキを抑えることができる点において、実施の形態3の装置と同様である。また、実施形態3について説明した変形例は、本実施形態の装置にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0103】
12 ピストン
18 環状空洞
20、22 入出孔
26 冷却空洞
30 第1オイルジェット
34、72 第2オイルジェット
40 オイルポンプ
42 メインギャラリ
54 電子制御ユニット(ECU)
70 電動オイルポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11