特許第6439756号(P6439756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6439756
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】車両用変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/08 20060101AFI20181210BHJP
   F16H 37/02 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   F16H61/08
   F16H37/02 Q
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-135501(P2016-135501)
(22)【出願日】2016年7月7日
(65)【公開番号】特開2018-4043(P2018-4043A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2017年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】守友 進
(72)【発明者】
【氏名】澤田 真
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓太
【審査官】 岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/162563(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/08
F16H 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と駆動輪との間に、油圧によって制御される係合装置を少なくとも1つ備えて構成される第1動力伝達機構と、油圧によって制御される無段変速機を備えて構成される第2動力伝達機構とを、並列に備える車両用変速機、の制御装置であって、
前記第1動力伝達機構を構成する前記係合装置の係合制御および前記無段変速機の増圧制御が必要となるとき、先に前記係合装置の係合制御を開始し、該係合装置の係合制御開始から所定時間経過後に前記無段変速機の増圧制御を開始する制御部を備え
前記係合装置は、係合要素と該係合要素を押圧するピストンとを含んで構成され、
前記所定時間は、前記ピストンが前記係合要素を押圧する直前の位置まで移動したと判断される時間に設定されている
ことを特徴とする車両用変速機の制御装置。
【請求項2】
前記係合装置は、前記駆動源と前記駆動輪との間を、前記第1動力伝達機構を経由した動力伝達および前記第2動力伝達機構を経由した動力伝達の何れかに切換可能に設けられている
ことを特徴とする請求項1の車両用変速機の制御装置。
【請求項3】
前記係合装置は、前記第1動力伝達機構を経由した動力伝達に切り換える第1係合装置と、前記第2動力伝達機構を経由した動力伝達に切り換える第2係合装置とから構成され、
前記第1係合装置が係合されるとともに、前記第2係合装置が解放されると、前記第2動力伝達機構を経由した動力伝達から前記第1動力伝達機構を経由した動力伝達に切り換えられ、
前記第2係合装置が係合されるとともに、前記第1係合装置が解放されると、前記第1動力伝達機構を経由した動力伝達から前記第2動力伝達機構を経由した動力伝達に切り換えられる
ことを特徴とする請求項2の車両用変速機の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記係合装置の係合制御に伴う第1動力伝達機構の回転変化が終了すると、前記無段変速機の増圧制御を終了する
ことを特徴とする請求項1の車両用変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源と駆動輪との間に、油圧によって制御される係合装置を備えて構成される第1動力伝達機構と、油圧によって制御される無段変速機構を備えて構成される第2動力伝達機構とを、並列に備える車両用変速機の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧によって制御される係合装置を備えて構成される第1動力伝達機構と、油圧によって制御される無段変速機構を備えて構成される第2動力伝達機構とを、備えた車両用変速機が知られている。特許文献1に記載の車両用変速機がそれである。特許文献1の車両用変速機にあっては、エンジンと駆動輪との間に、無段変速機構(第2動力伝達機構)と副変速機構(第1動力伝達機構)とを直列に備えて構成されている。また、無段変速機の油圧アクチュエータに油圧を供給しつつ、副変速機構を変速する際には、副変速機構から無段変速機へ入力されるイナーシャトルクを推定し、このイナーシャトルクとエンジンから無段変速機へ入力される入力トルクとのうち、大きい方のトルクに基づいて無段変速機への供給油圧を決定することが記載されている。上記のように制御することで、ベルト挟圧の不足によるベルト滑りを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−47459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、無段変速機と副変速機構とが直列に設けられている場合には、動力伝達経路上で最大となるトルクを考慮し、それに基づいて無段変速機への供給油圧を制御できるが、無段変速機と副変速機構とが並列に設けられる場合、無段変速機に入力される入力トルクおよび副変速機構からのイナーシャトルクの合算値に基づいて供給油圧を制御する必要があり、大きな油圧が必要となる。このような状態で無段変速機の油圧制御と副変速機構の油圧制御とを同時に開始すると、副変速機構への油圧と、副変速機構の回転変化に伴って生じるイナーシャトルクを加味した無段変速機側の油圧とが同時に要求され、油圧供給源の最大出力能力や油温によっては、必要油圧が供給しきれず、例えばベルト式の無段変速機である場合には、油圧低下によるベルト滑りが発生する虞があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動源と駆動輪との間に、油圧によって制御される係合装置を少なくとも1つ備えて構成される第1動力伝達機構と、油圧によって制御される無段変速機を備えて構成される第2動力伝達機構とを、並列に備える車両用変速機において、油圧低下の発生を抑制できる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)駆動源と駆動輪との間に、油圧によって制御される係合装置を少なくとも1つ備えて構成される第1動力伝達機構と、油圧によって制御される無段変速機を備えて構成される第2動力伝達機構とを、並列に備える車両用変速機、の制御装置であって、(b)前記第1動力伝達機構を構成する前記係合装置の係合制御および前記無段変速機の増圧制御が必要となるとき、先に前記係合装置の係合制御を開始し、その係合装置の係合制御開始から所定時間経過後に前記無段変速機の増圧制御を開始する制御部を備え、(c)前記係合装置は、係合要素とその係合要素を押圧するピストンとを含んで構成され、(d)前記所定時間は、前記ピストンが前記係合要素を押圧する直前の位置まで移動したと判断される時間に設定されていることを特徴とする。
【0007】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明の車両用変速機の制御装置において、前記係合装置は、前記駆動源と前記駆動輪との間を、前記第1動力伝達機構を経由した動力伝達および前記第2動力伝達機構を経由した動力伝達の何れかに切換可能に設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、第3発明の要旨とするところは、第2発明の車両用変速機の制御装置において、(a)前記係合装置は、前記第1動力伝達機構を経由した動力伝達に切り換える第1係合装置と、前記第2動力伝達機構を経由した動力伝達に切り換える第2係合装置とから構成され、(b)前記第1係合装置が係合されるとともに、前記第2係合装置が解放されると、前記第2動力伝達機構を経由した動力伝達から前記第1動力伝達機構を経由した動力伝達に切り換えられ、(c)前記第2係合装置が係合されるとともに、前記第1係合装置が解放されると、前記第1動力伝達機構を経由した動力伝達から前記第2動力伝達機構を経由した動力伝達に切り換えられることを特徴とする。
【0010】
また、第4発明の要旨とするところは、第1発明の車両用変速機の制御装置において、前記制御部は、前記係合装置の係合制御に伴う第1動力伝達機構の回転変化が終了すると、前記無段変速機の増圧制御を終了することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明の車両用変速機の制御装置によれば、係合装置の係合制御を開始する時期と、無段変速機の増圧制御を開始する時期とが完全には重ならないため、一度に多量の作動油が消費されることが抑制され、作動油の流量不足による油圧低下を抑制することができる。また、所定時間経過後に、無段変速機の増圧制御が開始されるが、係合装置の係合制御は既に実行されているため、係合装置の係合制御と無段変速機の増圧制御とが同時に開始される場合に比べて、消費される流量は少なくなる。従って、流量不足が生じにくいことから油圧低下が抑制され、無段変速機の増圧制御の際に必要となる油圧を確保することができる。また、無段変速機がベルト式無段変速機であった場合には、油圧低下によるベルト滑りを抑制できる。また、係合装置の係合制御開始当初は、ピストンを係合要素を押圧する直前の位置まで速やかに移動させるために必要となる流量も多くなるが、このとき無段変速機の増圧制御は開始されないため、作動油の流量不足が抑制される。また、所定時間が経過するまでの間は、ピストンが係合要素を押圧しないため、係合装置の係合制御に伴う第1動力伝達機構の回転変化によって生じるイナーシャトルクが無段変速機に入力されることもない。従って、所定時間経過するまでの間、無段変速機の増圧制御が実行されなくても、イナーシャトルクが無段変速機に入力されることによるトルク変動は発生しない。一方、所定時間経過後に無段変速機の増圧制御が開始されるが、係合装置の係合制御の開始と重ならないため流量不足も生じにくくなる。従って、無段変速機の増圧制御の際に、流量不足による油圧低下が抑制される。
【0012】
また、第2発明の車両用変速機の制御装置によれば、係合装置の係合制御が実行されることで、第1動力伝達機構を経由した動力伝達と、第2動力伝達機構を経由した動力伝達との間で動力伝達経路が切り換えられるが、この係合制御に際して、無段変速機の増圧制御は、係合制御開始から所定時間経過後に開始され、無段変速機の増圧制御の開始と係合装置の係合制御の開始とが重ならない。従って、動力伝達の切換に際して、作動油の流量不足が発生することが抑制され、無段変速機の増圧制御の際には、流量不足による油圧低下が抑制される。
【0013】
また、第3発明の車両用変速機の制御装置によれば、第1係合装置および第2係合装置によって、第1動力伝達機構と第2動力伝達機構との間で動力伝達が切り換えられるとき、無段変速機の増圧制御は、係合制御開始から所定時間経過後に開始されるため、無段変速機の増圧制御の開始と係合装置の係合制御の開始とが重ならない。従って、作動油の流量不足が発生することが抑制され、無段変速機の増圧制御の際には、流量不足による油圧低下が抑制される。
【0015】
また、第4発明の無段変速機の制御装置によれば、係合装置の係合制御に伴う第1動力伝達機構の回転変化が終了すると、回転変化に伴うイナーシャトルクが無段変速機の入力されることもなくなる。従って、第1動力伝達機構の回転変化が終了すると、無段変速機の増圧制御を終了することで、不要な油圧供給がなくなり燃費が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用された車両の概略構成を説明する図である。
図2図1の動力伝達装置の各走行パターン毎の係合要素の係合表を用いて、その走行パターンの切り換わりを説明するための図である。
図3図1の車両における各種制御のための制御機能および制御系統の要部を説明する図である。
図4図1の動力伝達装置に備えられた油圧制御回路のうちで無段変速機と前進用クラッチとCVT走行用クラッチとに関わる油圧を制御する部分を説明する図である。
図5図4のC1圧制御弁の構成を説明する図である。
図6図3の電子制御装置の制御作動の要部、具体的には、走行パターンを切り換える有段変速の実行中に発生するベルト滑りを抑制する制御作動を説明するフローチャートである。
図7図3の電子制御装置による制御作動に基づく走行挙動を示すタイムチャート
図8】従来の制御に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明が適用された車両10の概略構成を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、非回転部材としてのハウジング18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20の出力回転部材であるタービン軸と一体的に設けられた入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構としての公知のベルト式無段変速機24(以下、無段変速機24)、同じく入力軸22に連結された前後進切換装置26、前後進切換装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に設けられた伝動機構としてのギヤ機構28、無段変速機24およびギヤ機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30およびカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36に連結されたデフギヤ38、デフギヤ38に連結された1対の車軸40等を備えている。このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12の動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、トルクコンバータ20、無段変速機24(或いは前後進切換装置26およびギヤ機構28)、減速歯車装置34、デフギヤ38、および車軸40等を順次介して1対の駆動輪14へ伝達される。
【0019】
このように、動力伝達装置16は、エンジン12(ここではエンジン12の動力が伝達される入力回転部材である入力軸22でも同意)と駆動輪14(ここでは駆動輪14へエンジン12の動力を出力する出力回転部材である出力軸30でも同意)との間の動力伝達経路に並列に設けられた、無段変速機24およびギヤ機構28を備えている。よって、動力伝達装置16は、エンジン12の動力を入力軸22から前後進切換装置26およびギヤ機構28を経由して駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達する第1動力伝達経路を成立させる第1動力伝達機構41と、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を経由して駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達する第2動力伝達経路を成立させる第2動力伝達機構43とを並列に備え、車両10の走行状態に応じてその第1動力伝達経路とその第2動力伝達経路とが切り換えられるように構成されている。そのため、動力伝達装置16は、第1動力伝達機構41を経由した動力伝達、および、第2動力伝達機構43を経由した動力伝達の何れかに切り換えるための係合装置として、上記第1動力伝達経路における動力伝達を断続する(すなわち第1動力伝達機構41を経由した動力伝達に切り換える)第1係合装置としての前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1と、上記第2動力伝達経路における動力伝達を断続する(すなわち第2動力伝達機構43を経由した動力伝達に切り換える)第2係合装置としてのCVT走行用クラッチC2とを備えている。また、第1動力伝達機構41および第2動力伝達機構43が並列に配置されることで、車両用変速機45が構成される。
【0020】
CVT走行用クラッチC2、前進用クラッチC1、および後進用ブレーキB1は、係合装置に相当するものであり、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる公知の油圧式摩擦係合装置(摩擦クラッチ)である。すなわち、油圧アクチュエータによってストロークさせられるピストンが、複数枚の摩擦材で構成される摩擦係合要素を押圧することにより摩擦係合させられる摩擦クラッチである。なお、摩擦クラッチは公知の技術であるため、詳細な説明については省略する。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は、後述するように、それぞれ前後進切換装置26を構成する要素の1つである。
【0021】
前後進切換装置26は、入力軸22まわりにその入力軸22に対して同軸心に設けられており、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、前進用クラッチC1、および後進用ブレーキB1を主体として構成されている。遊星歯車装置26pのキャリヤ26cは入力軸22に一体的に連結され、遊星歯車装置26pのリングギヤ26rは後進用ブレーキB1を介してハウジング18に選択的に連結され、遊星歯車装置26pのサンギヤ26sは入力軸22まわりにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ42に連結されている。また、キャリヤ26cとサンギヤ26sとは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結される。このように構成された前後進切換装置26では、前進用クラッチC1が係合されると共に後進用ブレーキB1が解放されると、入力軸22が小径ギヤ42に直結され、第1動力伝達機構41において前進用動力伝達経路が成立させられる。また、後進用ブレーキB1が係合されると共に前進用クラッチC1が解放されると、小径ギヤ42は入力軸22に対して逆方向へ回転させられ、第1動力伝達機構41において後進用動力伝達経路が成立させられる。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に解放されると、第1動力伝達機構41は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
【0022】
ギヤ機構28は、小径ギヤ42と、ギヤ機構カウンタ軸44に相対回転不能に設けられてその小径ギヤ42と噛み合う大径ギヤ46とを含んで構成されている。従って、ギヤ機構28は、1つのギヤ段(ギヤ比)が形成される動力伝達機構である。ギヤ機構カウンタ軸44まわりには、アイドラギヤ48がギヤ機構カウンタ軸44に対して同軸心に相対回転可能に設けられている。ギヤ機構カウンタ軸44まわりには、更に、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48との間に、これらの間を選択的に断接する噛合式クラッチD1が設けられている。従って、噛合式クラッチD1は、動力伝達装置16に備えられた、第1動力伝達機構41における動力伝達を断続するクラッチ機構として機能する。
【0023】
具体的には、噛合式クラッチD1は、ギヤ機構カウンタ軸44に形成された第1ギヤ50と、アイドラギヤ48に形成された第2ギヤ52と、これら第1ギヤ50および第2ギヤ52と嵌合可能(係合可能、噛合可能)な内周歯が形成されたハブスリーブ54とを含んで構成されている。このように構成された噛合式クラッチD1では、ハブスリーブ54がこれら第1ギヤ50および第2ギヤ52と嵌合することで、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48とが接続される。また、噛合式クラッチD1は、第1ギヤ50と第2ギヤ52とを嵌合する際に回転を同期させる、同期機構としての公知のシンクロメッシュ機構S1を更に備えている。アイドラギヤ48は、そのアイドラギヤ48よりも大径の出力ギヤ56と噛み合っている。出力ギヤ56は、出力軸30と同じ回転軸心まわりにその出力軸30に対して相対回転不能に設けられている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1の一方が係合され且つ噛合式クラッチD1が係合されると、エンジン12の動力が入力軸22から前後進切換装置26、ギヤ機構28、アイドラギヤ48、および出力ギヤ56を順次経由して出力軸30に伝達される、第1動力伝達経路が成立させられる。これより、第1動力伝達機構41は、前後進切換装置26(前進走行用クラッチC1、後進用ブレーキB1を含む)、ギヤ機構28、アイドラギヤ48、および出力ギヤ56を含んで構成されている。なお、本実施例では、CVT走行用クラッチC2は、第1動力伝達機構41の動力伝達に直接寄与しないものの、便宜上第1動力伝達機構41に含まれる。また、前進走行用クラッチC1およびCVT走行用クラッチC2が本発明の係合装置に対応している。
【0024】
無段変速機24は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路上に設けられている。無段変速機24は、入力軸22に設けられた有効径が可変のプライマリプーリ58と、出力軸30と同軸心の回転軸60に設けられた有効径が可変のセカンダリプーリ62と、その一対の可変プーリ58,62の間に巻き掛けられた伝動ベルト64とを備え、一対の可変プーリ58,62と伝動ベルト64との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる、よく知られたプッシュ式のベルト式無段変速機である。
【0025】
プライマリプーリ58は、入力軸22に対して同軸に取り付けられた入力側固定回転体としての固定シーブ58aと、入力軸22に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動シーブ58bと、それらの間のV溝幅を変更するために可動シーブ58bを移動させるための推力を発生させるプライマリ側油圧アクチュエータ58c(以下、油圧アクチュエータ58cと称す)とを、備えている。
【0026】
セカンダリプーリ62は、出力側固定回転体としての固定シーブ62aと、その固定シーブ62aに対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動シーブ62bと、それらの間のV溝幅を変更するために可動シーブ62bを移動させるための推力を発生させるセカンダリ側油圧アクチュエータ62c(以下、油圧アクチュエータ62cと称す)とを、備えて構成されている。
【0027】
無段変速機24では、一対の可変プーリ58,62のV溝幅が変化して伝動ベルト64の掛かり径(有効径)が変更されることで、変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる。例えば、プライマリプーリ58のV溝幅が狭くされると、ギヤ比γが小さくされる(すなわち無段変速機24がアップシフトされる)。また、プライマリプーリ58のV溝幅が広くされると、ギヤ比γが大きくされる(すなわち無段変速機24がダウンシフトされる)。出力軸30は、回転軸60まわりにその回転軸60に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。CVT走行用クラッチC2は、無段変速機24よりも駆動輪14側に設けられており(すなわちセカンダリプーリ62と駆動輪14(出力軸30)との間に設けられており)、セカンダリプーリ62と出力軸30(駆動輪14)との間を選択的に断接する。このCVT走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12の動力が入力軸22から無段変速機24を経由して出力軸30に伝達される、第2動力伝達経路が成立させられる。このことから、第2動力伝達機構43は、無段変速機24から構成されている。
【0028】
動力伝達装置16の作動について、以下に説明する。図2は、動力伝達装置16の各走行パターン毎の係合要素の係合表を用いて、その走行パターンの切り換わりを説明するための図である。図2において、C1は前進用クラッチC1の作動状態に対応し、C2はCVT走行用クラッチC2の作動状態に対応し、B1は後進用ブレーキB1の作動状態に対応し、D1は噛合式クラッチD1の作動状態に対応し、「○」は係合(接続)を示し、「×」は解放(遮断)を示している。
【0029】
先ず、第1動力伝達機構41を経由してエンジン12の動力が出力軸30に伝達される走行パターンであるギヤ走行について説明する。このギヤ走行では、図2に示すように、例えば前進用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合される一方、CVT走行用クラッチC2および後進用ブレーキB1が解放される。
【0030】
具体的には、前進用クラッチC1が係合されると、前後進切換装置26を構成する遊星歯車装置26pが一体回転させられるので、小径ギヤ42が入力軸22と同回転速度で回転させられる。また、小径ギヤ42はギヤ機構カウンタ軸44に設けられている大径ギヤ46と噛み合わされているので、ギヤ機構カウンタ軸44も同様に回転させられる。更に、噛合式クラッチD1が係合されているので、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48とが接続される。このアイドラギヤ48は出力ギヤ56と噛み合わされているので、出力ギヤ56と一体的に設けられている出力軸30が回転させられる。このように、前進用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合されると、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20、前後進切換装置26、ギヤ機構28、およびアイドラギヤ48等を順次介して出力軸30に伝達される。なお、このギヤ走行では、例えば後進用ブレーキB1および噛合式クラッチD1が係合される一方、CVT走行用クラッチC2および前進用クラッチC1が解放されると、後進走行が可能となる。
【0031】
次いで、第2動力伝達機構43を経由してエンジン12の動力が出力軸30に伝達される走行パターンであるCVT走行について説明する。このCVT走行では、図2のCVT走行(高車速)に示すように、例えばCVT走行用クラッチC2が係合される一方、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、および噛合式クラッチD1が解放される。
【0032】
具体的には、CVT走行用クラッチC2が係合されると、セカンダリプーリ62と出力軸30とが接続されるので、セカンダリプーリ62と出力軸30とが一体回転させられる。このように、CVT走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20および無段変速機24等を順次経由して出力軸30に伝達される。このCVT走行(高車速)中に噛合式クラッチD1が解放されるのは、例えばCVT走行中のギヤ機構28等の引き摺りをなくすと共に、高車速においてギヤ機構28等が高回転化するのを防止するためである。
【0033】
前記ギヤ走行は、例えば車両停止中を含む低車速領域において選択される。この第1動力伝達機構41におけるギヤ比γ1(すなわちギヤ機構28により形成されるギヤ比EL)は、無段変速機24により形成される最大ギヤ比(すなわち最も低車速側のギヤ比である最ローギヤ比)γmaxよりも大きな値(すなわちロー側のギヤ比)に設定されている。例えばギヤ比γ1は、動力伝達装置16における第1速ギヤ段のギヤ比である第1速ギヤ比γ1に相当し、無段変速機24の最ローギヤ比γmaxは、動力伝達装置16における第2速ギヤ段のギヤ比である第2速ギヤ比γ2に相当する。そのため、例えばギヤ走行とCVT走行とは、公知の有段変速の変速マップにおける第1速ギヤ段と第2速ギヤ段とを切り換えるための変速線に従って切り換えられる。また、例えばCVT走行においては、公知の手法を用いて、アクセル開度θacc、車速Vなどの走行状態に基づいてギヤ比γが変化させられる変速(例えばCVT変速、無段変速)が実行される。ここで、ギヤ走行からCVT走行(高車速)、或いはCVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換える際には、図2に示すように、CVT走行(中車速)を過渡的に経由して切り換えられる。
【0034】
例えばギヤ走行からCVT走行(高車速)へ切り換えられる場合、ギヤ走行に対応する前進用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合された状態から、CVT走行用クラッチC2および噛合式クラッチD1が係合された状態であるCVT走行(中車速)に過渡的に切り換えられる。すなわち、前進用クラッチC1を解放してCVT走行用クラッチC2を係合するようにクラッチを掛け換える有段変速(例えばクラッチツゥクラッチ変速(以下、CtoC変速という))が実行される。このとき、動力伝達経路は第1動力伝達経路から第2動力伝達経路へ変更され、動力伝達装置16においては実質的にアップシフトさせられる。そして、動力力伝達経路が切り換えられた後、不要な引き摺りやギヤ機構28等の高回転化を防止するために噛合式クラッチD1が解放される(図2の被駆動入力遮断参照)。このように噛合式クラッチD1は、駆動輪14側からの入力を遮断する被駆動入力遮断クラッチとして機能する。
【0035】
また、例えばCVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換えられる場合、CVT走行用クラッチC2が係合された状態から、ギヤ走行への切換準備として更に噛合式クラッチD1が係合される状態であるCVT走行(中車速)に過渡的に切り換えられる(図2のダウンシフト準備参照)。このCVT走行(中車速)では、ギヤ機構28を介して遊星歯車装置26pのサンギヤ26sにも回転が伝達された状態となる。このCVT走行(中車速)の状態からCVT走行用クラッチC2を解放して前進用クラッチC1を係合するようにクラッチを掛け換える有段変速(例えばCtoC変速)が実行されると、ギヤ走行へ切り換えられる。このとき、動力伝達経路は第2動力伝達経路から第1動力伝達経路へ変更され、動力伝達装置16においては実質的にダウンシフトさせられる。
【0036】
図3は、車両10における各種制御のための制御機能および制御系統の要部を説明する図である。図3において、車両10には、例えば動力伝達装置16の走行パターンを切り換える車両10の制御装置を含む電子制御装置80が備えられている。図3は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、また、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12の出力制御、無段変速機24の変速制御やベルト挟圧制御、走行パターンをCVT走行またはギヤ走行に切り換える切換制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。
【0037】
電子制御装置80には、車両10が備える各種センサ(例えばエンジン回転速度センサ82、入力軸回転速度センサ84、出力軸回転速度センサ86、アクセル開度センサ88、スロットル弁開度センサ90、フットブレーキスイッチ92、Gセンサ94、油圧センサ98、99など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne、タービン回転速度Ntに対応するプライマリプーリ58の回転速度である入力軸回転速度Nin、車速Vに対応するセカンダリプーリ62の回転速度である出力軸回転速度Nout、運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度θacc、スロットル弁開度θth、常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示す信号であるブレーキオンBon、車両10の前後加速度G、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pin、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutなど)が、それぞれ供給される。
【0038】
電子制御装置80からは、エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号Se、無段変速機24の変速に関する油圧制御のための油圧制御指令信号Scvt、動力伝達装置16の走行パターンの切換えに関連する前後進切換装置26、CVT走行用クラッチC2、および噛合式クラッチD1を制御するための油圧制御指令信号Sswt等が、それぞれ出力される。具体的には、エンジン出力制御指令信号Seとして、スロットルアクチュエータを駆動して電子スロットル弁の開閉を制御するためのスロットル信号や燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、油圧制御指令信号Scvtとして、プライマリプーリ58の油圧アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pinを調整するソレノイド弁を駆動するための指令信号、セカンダリプーリ62の油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutを調整するソレノイド弁を駆動するための指令信号などが油圧制御回路96へ出力される。また、油圧制御指令信号Sswtとして、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、CVT走行用クラッチC2、ハブスリーブ54を作動させるアクチュエータなどに供給される各油圧を制御する各ソレノイド弁を駆動するための指令信号などが油圧制御回路96へ出力される。
【0039】
図4は、動力伝達装置16に備えられた油圧制御回路96のうちで無段変速機24と前進用クラッチC1とCVT走行用クラッチC2と噛合式クラッチD1とに関わる油圧を制御する部分を説明する図である。油圧制御回路96は、プライマリプーリ58へ供給するプライマリ圧Pinを制御するためのプライマリ用電磁弁SLPと、セカンダリプーリ62へ供給するセカンダリ圧Poutを制御するためのセカンダリ用電磁弁SLSと、前進用クラッチC1へ供給するC1圧Pc1を制御するためのC1用電磁弁SL1と、CVT走行用クラッチC2へ供給するC2圧Pc2を制御するためのC2用電磁弁SL2と、シンクロメッシュ機構S1を作動させる油圧アクチュエータ100へ供給するシンクロ制御圧Ps1を制御するためのシンクロ用電磁弁SLGとを備えている。また、油圧制御回路96は、プライマリ圧制御弁102とセカンダリ圧制御弁104とC1圧制御弁106とシンクロ制御弁108とを備えている。
【0040】
各電磁弁SLP,SLS,SL1,SL2,SLGは、何れも、電子制御装置80から出力される油圧制御指令信号(駆動電流)によって駆動されるリニアソレノイド弁である。プライマリ圧制御弁102は、プライマリ用電磁弁SLPから出力されるSLP圧Pslpに基づいて作動させられることでプライマリ圧Pinを調圧する。セカンダリ圧制御弁104は、セカンダリ用電磁弁SLSから出力されるSLS圧Pslsに基づいて作動させられることでセカンダリ圧Poutを調圧する。シンクロ制御弁108は、シンクロ用電磁弁SLGから出力されるSLG圧Pslgに基づいて作動させられることでシンクロ制御圧Ps1を調圧する。C1圧制御弁106は、C1用電磁弁SL1から出力されるSL1圧Psl1をC1圧Pc1として前進用クラッチC1へ供給する油路の連通と遮断とを切り換える。このC1圧制御弁106は、前進用クラッチC1へC1圧Pc1(SL1圧Psl1も同意)を供給する油路を遮断することで前進用クラッチC1とCVT走行用クラッチC2との同時係合を回避するフェールセーフバルブとして機能する。なお、C2用電磁弁SL2から出力されるSL2圧Psl2は、C2圧Pc2として直接的にCVT走行用クラッチC2へ供給される。
【0041】
図5は、C1圧制御弁106の構成を説明する図である。図5において、C1圧制御弁106は、スプリングSP、入力ポートPi、排出ポートPex、入力ポートPiおよび排出ポートPexと択一的に連通する出力ポートPo、径差ポートPd、第1油室Pr1、および第2油室Pr2を有している。C1圧制御弁106は、バルブボデー内において、所定の移動ストロークで摺動可能に収容され且つスプリングSPによって一方向に付勢されたスプール弁子SVを備え、そのスプール弁子SVが摺動ストロークの一端および他端へ移動させられることに応じて、入力ポートPiと出力ポートPoとを連通させるか、或いは排出ポートPexと出力ポートPoとを連通させる型式の良く知られたスプール弁により構成されている。入力ポートPiおよび径差ポートPdには、C1用電磁弁SL1からSL1圧Psl1が供給される油路Lsl1が接続される。排出ポートPexには、排出油路Lexが接続される。出力ポートPoには、C1圧Pc1を供給する油路Lc1が接続される。第1油室Pr1には、C2用電磁弁SL2からSL2圧Psl2が供給される油路Lsl2が接続される。第2油室Pr2には、モジュレータバルブLPMからモジュレータ圧Plpmが供給される油路Llpmが接続される。なお、モジュレータバルブLPMから出力されるモジュレータ圧Plpmは、予め定められた一定圧であり、例えばSL1圧Psl1を調圧するC1用電磁弁SL1、およびSL2圧Psl2を調圧するC2用電磁弁SL2の元圧として供給される。
【0042】
図5の前進走行用クラッチC1およびCVT走行用クラッチC2は、それぞれ構造が簡略的に示されている。前進走行用クラッチC1について説明すると、一対の回転部材間に、摩擦係合要素120と、摩擦係合要素120を押圧するためのピストン122と、ピストン122を摩擦係合要素120から遠ざかる側に付勢するスプリング124とを、含んで構成されている。前進走行用クラッチC1内に形成される油圧室126内に油路Lc1から作動油が供給されると、ピストン122がスプリング124の付勢力に抗って摩擦係合要素120側に移動させられ、ピストン122が摩擦係合要素120を押圧する。このとき、前進走行用クラッチC1がスリップ係合もしくは完全係合させられる。なお、図5の前進走行用クラッチC1は、ピストン122が摩擦係合要素120を押圧する直前の状態を示している。
【0043】
また、CVT走行用クラッチC2について説明すると、一対の回転部材間に、摩擦係合要素130と、摩擦係合要素130を押圧するためのピストン132と、ピストン132を摩擦係合要素130から遠ざかる側に付勢するスプリング134とを、含んで構成されている。CVT走行用クラッチC2内に形成される油圧室136内に作動油が供給されると、ピストン132がスプリング134の付勢力に抗って摩擦係合要素130側に移動させられ、ピストン132が摩擦係合要素130を押圧する。このとき、CVT走行用クラッチC2がスリップ係合もしくは完全係合させられる。なお、図5のCVT走行用クラッチC2は、ピストン132がスプリング134の付勢力によって摩擦係合要素130から遠ざかる位置に移動させられた状態(解放状態)を示している。
【0044】
このように構成されたC1圧制御弁106は、SL1圧Psl1、SL2圧Psl2、モジュレータ圧Plpm、スプリングSPに基づいて、油路Lsl1と油路Lc1とを接続する通常弁位置(図5のNormal側の弁位置参照)と、排出油路Lexと油路Lc1とを接続するフェールセーフ弁位置(図5のFailsafe側の弁位置参照)とが択一的に切り換えられる。
【0045】
C1圧制御弁106において、スプリングSPは、スプール弁子SVを通常弁位置(Normal)に保持するための付勢力を発生する。SL1圧Psl1およびSL2圧Psl2は、スプリングSPの付勢力に抗して、スプール弁子SVをフェールセーフ弁位置(Failsafe)へ移動させるための推力を発生させる。モジュレータ圧Plpmは、スプリングSPの付勢力と同じ方向に推力を発生させる。すなわち、モジュレータ圧Plpmは、スプール弁子SVを通常位置(Normal)に移動させるための推力を発生させる。
【0046】
C1圧制御弁106において、モジュレータ圧PlpmおよびスプリングSPに基づくスプール弁子SVを通常位置(Normal)へ移動させる力が、SL1圧Psl1およびSL2圧Psl2圧に基づくスプール弁子SVをフェールセーフ弁位置(Failsafe)へ移動させる力よりも大きい場合には、スプール弁子SVが通常位置(Normal)へ移動させられる。一方、SL1圧Psl1およびSL2圧Psl2圧に基づくスプール弁子SVをフェールセーフ弁位置(Failsafe)へ移動させる力が、モジュレータ圧PlpmおよびスプリングSPに基づくスプール弁子SVを通常位置(Normal)へ移動させる力よりも大きくなると、スプール弁子SVがフェールセーフ弁位置(Failsafe)へ移動させられる。
【0047】
具体的には、スプール弁子SVが通常位置(Normal)へ移動させられる場合(通常時)には、下式(1)が成立する。式(1)において、S1はSL1圧Psl1の受圧面積を示し、S2はSL2圧Psl2の受圧面積を示し、S3はモジュレータ圧Plpmの受圧面積を示している。また、AはスプリングSPの付勢力(弾性復帰力)を示している。一方、スプール弁子SVがフェールセーフ弁位置(Failsafe)に移動させられる場合(フェール時)には、下式(2)が成立する。
S1×Psl1+S2×Psl2<S3×Plpm+A・・・(1)
S1×Psl1+S2×Psl2≧S3×Plpm+A・・・(2)
【0048】
例えば、前進用クラッチC1を係合するためのSL1圧Psl1の出力とC2用電磁弁SL2の故障によるSL2圧Psl2の出力とが重なった場合には、式(2)が成立し、C1圧制御弁106はフェールセーフ弁位置(Failsafe)へ切り換えられる。また、CVT走行用クラッチC2を係合するためのSL2圧Psl2の出力とC1用電磁弁SL1の故障によるSL1圧Psl1の出力とが重なった場合も同様に式(2)が成立し、C1圧制御弁106はフェールセーフ弁位置(Failsafe)へ切り換えられる。これにより、油路Lc1が排出油路Lexへ接続されることで前進用クラッチC1にはC1圧Pc1(SL1圧Psl1)が供給されず、前進用クラッチC1は解放されるので、第1動力伝達経路は動力伝達遮断状態とされる。よって、前進用クラッチC1とCVT走行用クラッチC2との同時係合が回避され、第2動力伝達経路と第1動力伝達経路とが共に形成されることによる動力伝達装置16のタイアップが回避される。
【0049】
図3に戻り、電子制御装置80は、エンジン出力制御手段すなわちエンジン出力制御部112、変速制御手段すなわち変速制御部114、経過時間判定手段すなわち経過時間判定部116を機能的に備えている。
【0050】
エンジン出力制御部112は、例えば予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)関係(例えば駆動力マップ)にアクセル開度θaccおよび車速Vを適用することで要求出力Pdemを算出し、その要求出力Pdemが得られる目標エンジントルクTetgtを設定し、その目標エンジントルクTetgtが得られるようにエンジン12を出力制御するエンジン出力制御指令信号Seをそれぞれスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置などへ出力する。
【0051】
変速制御部114は、CVT走行において、アクセル開度θacc、車速V、ブレーキ信号Bonなどに基づいて算出される目標ギヤ比γtgtとなるように無段変速機24のギヤ比γを制御する油圧制御指令信号Scvtを油圧制御回路96へ出力する。具体的には、変速制御部114は、無段変速機24のベルト挟圧を最適な値に調整しつつ、エンジン12の動作点が所定の最適ライン(例えばエンジン最適燃費線)上となる無段変速機24の目標ギヤ比γtgtを達成する予め定められた関係(例えばCVT変速マップ)を記憶しており、その関係からアクセル開度θaccおよび車速Vなどに基づいて、アクチュエータ58cに供給されるプライマリ圧Pinの指令値としてのプライマリ指示圧Pintgtと、油圧アクチュエータ62cに供給されるセカンダリ圧Poutの指令値としてのセカンダリ指示圧Pouttgtとを決定し、プライマリ指示圧Pintgtおよびセカンダリ指示圧Pouttgtを油圧制御回路96へ出力して、CVT変速を実行する。
【0052】
また、変速制御部114は、第1動力伝達機構41を経由してエンジン12の動力が出力軸30に伝達されるギヤ走行と、第2動力伝達機構43を経由してエンジン12の動力が出力軸30に伝達されるCVT走行とを切り換える切換制御を実行する。具体的には、変速制御部114は、車両走行中の走行パターンを切り換えるか否かを判定する。例えば、変速制御部114は、ギヤ走行におけるギヤ比ELに対応する第1速ギヤ比γ1とCVT走行における最ローギヤ比γmaxに対応する第2速ギヤ比γ2とを切り換えるための変速マップ(切換マップ)におけるアップシフト線およびダウンシフト線を用いて、車速Vおよびアクセル開度θaccに基づいて変速(ギヤ比の切換え)を判断し、その判断結果に基づいて車両走行中の走行パターンを切り換えるか否かを判定する。上記アップシフト線およびダウンシフト線は、予め定められた変速線であり、所定のヒステリシスを有している。
【0053】
変速制御部114は、走行パターンの切換えを判定すると、走行パターンの切換えを実行する。例えば、変速制御部114は、ギヤ走行中にアップシフトを判断すると、ギヤ走行からCVT走行(高車速)へ切り換える。変速制御部114は、ギヤ走行からCVT走行(高車速)へ切り換える場合、先ず、前進用クラッチC1を解放すると共にCVT走行用クラッチC2を係合するCtoC変速によりアップシフトを実行する。この状態は、図2の過渡的に切り換えられるCVT走行(中車速)に対応しており、動力伝達装置16における動力伝達経路は、第1動力伝達機構41を経由して動力が伝達される第1動力伝達経路から第2動力伝達機構43を経由して動力が伝達される第2動力伝達経路へ切り換えられる。次いで、変速制御部114は、係合中の噛合式クラッチD1を解放するようにシンクロ機構S1のハブスリーブ54を作動させる指令を出力して、CVT走行(高車速)へ切り換える。ハブスリーブ54は、油圧アクチュエータ100によって駆動され、その油圧アクチュエータ100に供給される油圧によってハブスリーブ54への押圧力が調整される。
【0054】
また、変速制御部114は、CVT走行(高車速)中にダウンシフトを判断すると、CVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換える。変速制御部114は、CVT走行(高車速)からギヤ走行へ切り換える場合、先ず、解放中の噛合式クラッチD1を係合するようにシンクロ機構S1のハブスリーブ54を作動させる指令を出力して、CVT走行(中車速)へ切り換える。次いで、変速制御部114は、CVT走行用クラッチC2を解放すると共に前進用クラッチC1を係合するCtoC変速によりダウンシフトを実行する。この状態は、図2のギヤ走行に対応しており、動力伝達装置16における動力伝達経路は、第2動力伝達機構43を経由して動力が伝達される第2動力伝達経路から、第1動力伝達機構41を経由して動力が伝達される第1動力伝達経路に切り換えられる。このように、変速制御部114は、車両10の走行中に第2動力伝達機構43(無段変速機24)を経由した動力伝達から第1動力伝達機構41(ギヤ機構28等)を経由した動力伝達へ切り換える場合には、噛合式クラッチD1を係合側に作動させてからCVT走行用クラッチC2を解放する。
【0055】
ところで、例えば第2動力伝達機構43を経由して動力が伝達されるCVT走行で走行中に、第1動力伝達機構41を経由して動力が伝達されるギヤ走行に切り換えるよう判断されると、CVT走行用クラッチC2を解放するとともに、前進用クラッチC1を係合するCtoC変速が実行される。このとき、CtoC変速に伴って発生する、第1動力伝達機構41を構成するギヤ機構28等の回転変化によるイナーシャトルクが、無段変速機24に入力されることでトルク変動が発生する。このトルク変動によるベルト滑りを抑制するため、従来では、CtoC変速の開始と同時に、無段変速機24の油圧アクチュエータ58cのプライマリ圧Pinおよび油圧アクチュエータ62cのセカンダリ圧Poutを増圧する増圧制御が実行されていた。しかしながら、前記CtoC変速と、ベルト無段変速機24の増圧制御とが同時に開始されると、CtoC変速の際に係合される係合側クラッチおよび無段変速機24の油圧アクチュエータ58c、62cの油圧増加が同時に発生するため、油圧制御回路96において必要流量が増加し、流量不足が発生する虞があった。結果として、無段変速機24の油圧アクチュエータ58c、62cにおいて必要な油圧を確保できなくなって、ベルト滑りが発生する虞があった。
【0056】
また、本実施例では、SL1圧Psl1の出力とSL2圧Psl2の出力とが重なった場合であっても、前進用クラッチC1およびCVT走行用クラッチC2の同時係合を回避するためのC1圧制御弁106が設けられている。ここで、油圧制御回路96において流量不足が発生すると、各種バルブの元圧として供給されるモジュレータ圧Plpmが低下することで、上述した式(2)が成立してC1圧制御弁106がフェールセーフ弁位置(Failsafe)に切り換わり、前進用クラッチC1への油圧の供給が遮断される虞がある。そこで、変速制御部114は、走行パターンを切り換えるためのCtoC変速を実行するに際して、以下に説明するように制御することで、流量不足(油圧不足)の発生を抑制し、無段変速機24のベルト滑り、および、C1圧制御弁106の意図しない切り換わりを抑制する。
【0057】
図3に戻り、変速制御部114は、予め設定されている変速マップに基づいて、CVT走行からギヤ走行への走行パターン切換、または、ギヤ走行からCVT走行への走行パターンの切換を判断すると、無段変速機24の増圧制御よりも先にCtoC変速(すなわち係合側クラッチの係合制御および解放側クラッチの解放制御)を開始する。なお、CtoC変速が実行されると、CtoC変速に伴うイナーシャトルクが無段変速機24に入力されてベスト滑りが発生するのを抑制するため、前記CtoC変速が必要になると、無段変速機24の増圧制御が必要になる。
【0058】
経過時間判定部116は、CtoC変速の開始が判定されると、CtoC変速が開始される時点を基準とした経過時間Tの測定を開始し、経過時間Tが予め設定されている所定時間T1経過したか否かを判定する。所定時間T1は、予め実験または解析によって求められており、CtoC変速の際に係合させられる係合側クラッチ(前進走行用クラッチC1またはCVT走行用クラッチC2)を構成するピストンが、同じく係合側クラッチを構成する摩擦係合要素を押圧する直前の位置までストロークするのに必要な時間に設定されている。すなわち、所定時間T1は、ピストンが摩擦係合要素を押圧する直前の位置(以下、パック詰め位置と称す)まで移動したと判断される時間に設定されている。ピストンの移動速度は、例えば作動油の油温Toilによって変化するため、所定時間T1は、例えば油温Toilをパラメータとする予め求められた所定時間T1を求める関係式または関係マップを用いて随時設定される。また、係合側クラッチ対応する前進走行用クラッチC1およびCVT走行用クラッチC2は、それぞれ構造が異なるため、ピストンがパック詰め位置に移動するのに必要な時間も異なる。従って、所定時間T1は、CtoC変速の際に係合される係合側クラッチ毎に設定される。
【0059】
変速制御部114は、経過時間判定部116によって、CtoC変速の開始から所定時間T1経過したことが判定されると、ベルト滑りを抑制するため無段変速機24の増圧制御を開始する。すなわち、変速制御部114は、CtoC変速に伴うイナーシャ相が開始される前に増圧制御を開始する。従って、CtoC変速に伴ってイナーシャ相が開始されると、第1動力伝達機構41を構成するギヤ機構28等の回転変化に伴うイナーシャトルクが発生し、無段変速機24側にそのイナーシャトルクが入力されてトルク変動が発生するが、無段変速機24の増圧制御によってベルト挟圧(プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Pout)が予め増加しているため、ベルト滑りが抑制される。
【0060】
無段変速機24のプライマリ圧Pinの増加量αおよびセカンダリ圧Poutの増加量βは、予め実験または解析に基づいて設定されており、イナーシャトルクが無段変速機24に入力されることで発生するトルク変動によるベルト滑りが抑制される値に設定されている。例えばエンジントルクTe、車速V、作動油の油温Toil等で構成される増加量α、βを求める増加量マップが予め求められて記憶されており、この増加量マップを用いて実際のエンジントルクTe、車速V、油温Toilを参照することで増加量α、βが求められる。或いは、例えばプライマリ圧Pinの増加量αを求める増加量マップ、または、セカンダリ圧Poutの増加量βを求める増加量マップの何れかが求められており、他方の増加量は、増加量マップによって求められた増加量に基づいて、無段変速機24の変速比γが維持される増加量が随時算出されて求められるものであっても構わない。また、増加量マップは、ギヤ走行からCVT走行に切り換えるアップシフト、および、CVT走行からギヤ走行に切り換えるダウンシフト毎に設定される。
【0061】
例えば、第2動力伝達機構43を経由して動力が伝達されるCVT走行から、第1動力伝達機構41を経由して動力が伝達されるギヤ走行に切り換わるCtoC変速(ダウンシフト)が実行される場合、CtoC変速の際にCVT走行用クラッチC2が解放されるとともに、前進用クラッチC1(係合側クラッチ)が係合される。ここで、CtoC変速開始から所定時間T1経過してイナーシャ相が開始されると、ギヤ機構28等の回転変化に伴うイナーシャトルクが発生し、無段変速機24にイナーシャトルクが入力されることでトルク変動が発生するが、予め無段変速機24の増圧制御によって無段変速機24のベルト挟圧が増加しているため、ベルト滑りが抑制される。なお、CVT走行からギヤ走行に切り換わるCtoC変速にあっては、無段変速機24に伝達されるトルクは時間経過とともに小さくなり、CtoC変速過渡期においてベルト挟圧は全体として低下するが、このベルト挟圧の低下に対してイナーシャトルクによるトルク変動を考慮した増加量α、β分だけ、増圧制御が実行されない場合に比べて相対的に増圧される。
【0062】
また、第1動力伝達機構41を経由して動力が伝達されるギヤ走行から、第2動力伝達機構43を経由して動力が伝達されるCVT走行に切り換わるCtoC変速(アップシフト)が実行される場合、CtoC変速の際に前進走行用クラッチC1が解放されるとともに、CVT走行用クラッチC2(係合側クラッチ)が係合される。ここで、CtoC変速開始から所定時間T1経過してイナーシャ相が開始されると、ギヤ機構28等の回転変化に伴うイナーシャトルクが発生し、無段変速機24にイナーシャトルクが入力されることでトルク変動が発生するが、予め無段変速機24の増圧制御によって無段変速機24のベルト挟圧が増加しているため、ベルト滑りが抑制される。なお、ギヤ走行からCVT走行に切り換わるCtoC変速にあっては、無段変速機24に伝達されるトルクが時間経過とともに増加し、CtoC変速過渡期においてベルト挟圧が全体として高くなるが、このベルト挟圧の増加に対してイナーシャトルクによるトルク変動を考慮した増加量α、β分だけ、増圧制御が実行されない場合に比べてさらに増圧される。
【0063】
上記のように、CtoC変速が開始された後、所定時間T1経過すると無段変速機24の増圧制御が開始される。ここで、CtoC変速のイナーシャ相が開始されるまでの間は、無段変速機24にイナーシャトルクが入力されることもないため、CtoC変速開始と同時に無段変速機24の増圧制御が開始されなくてもベルト滑りは生じにくい。一方、係合側クラッチでは、ピストンを速やかにストロークさせる必要があり、変速開始時点の指示圧を一時的に高めるクイックフィルが実行されるなど、必要となる作動油量も多くなる。これに対して、ピストンがパック詰め位置に移動するまでの間は無段変速機24の増圧制御が開始されないため、無段変速機24側で作動油が消費されることがなく、作動油量の不足による油圧低下も生じにくい。従って、モジュレータ圧Plpmが低下することもなく、モジュレータ圧lpmの低下に伴って、C1圧制御弁106がフェールセーフ弁位置(Failsafe)に切り換わることも回避される。
【0064】
また、ピストンがパック詰め位置まで移動すると、無段変速機24の増圧制御が開始される。このとき、無段変速機24において作動油が消費されるが、係合側クラッチでは、ピストンがパック詰め位置まで移動しているため、変速開始時点に比べて作動油の消費量は少なくなる。従って、無段変速機24の増圧制御が開始されても作動油量が不足しにくく、ベルト挟圧の低下によるベルト滑りも生じにくくなる。また、モジュレータ圧Plpmが低下することも抑制される。
【0065】
変速制御部114は、イナーシャ相の終了を判定すると、CtoC変速を終了する。これと同時に、変速制御部114は、イナーシャ相の終了を判定すると、無段変速機24の増圧制御を終了する。すなわち、増圧制御前のプライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutを目標にして油圧を制御する。イナーシャ相の終了は、例えば入力軸回転速度Ninが、CtoC変速後に設定される回転速度に到達したか否か(すなわち入力軸回転速度Ninの回転変化が終了したか否か)に基づいて判定される。或いは、入力軸回転速度Ninの変化量が、予め設定されている閾値未満になったか否かに基づいて判定される。
【0066】
図6は、電子制御装置80の制御作動の要部、具体的には、走行パターンを切り換える有段変速の実行中に発生するベルト滑りを抑制する制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、車両走行中において繰り返し実行される。
【0067】
先ず、変速制御部114の機能に対応するステップS1(以下、ステップを省略する)において、走行パターンの切換に伴う有段変速(CtoC変速)が開始されるか否かが判定される。CtoC変速を開始する判断がされない場合、S1が否定されて本ルーチンが終了させられる。CtoC変速を開始する判断がされる場合、S1が肯定されてS2に進む。変速制御部114の機能に対応するS2では、CtoC変速が開始され、係合側クラッチの増圧が開始される。経過時間判定部116の機能に対応するS3では、CtoC変速が開始されてからの経過時間Tが所定時間T1経過したか否かが判定される。経過時間Tが所定時間T1経過していない場合、S3が否定されて再度S3が実行される。すなわち、経過時間Tが所定時間T1に到達するまでの間、繰り返しS3が実行される。経過時間Tが所定時間T1に到達すると、S3が肯定されてS4に進む。
【0068】
変速制御部114の機能に対応するS4では、無段変速機24の増圧制御が開始される。変速制御部114の機能に対応するS5では、CtoC変速のイナーシャ相が終了したか否かが判定される。イナーシャ相が終了しない間はS5が否定され、S5が肯定されるまでの間、無段変速機24の増圧制御が継続される。CtoC変速のイナーシャ相が終了したものと判定されると、S5が肯定されてS6に進む。変速制御部114の機能に対応するS6では、CtoC変速が終了させられるとともに、無段変速機24の増圧制御が終了させられる。
【0069】
図7は、走行パターンを切り換えるときの電子制御装置80による制御作動に基づく車両挙動を示すタイムチャートであり、図8は、従来の制御に基づく車両挙動を示すタイムチャートである。図7および図8の横軸は、それぞれ時間を示し、縦軸は上から順番にプライマリ圧Pin、セカンダリ圧Pout、およびCtoC変速の際に係合される係合側クラッチ(前進用クラッチC1またはCVT走行用クラッチC2)の係合側クラッチ圧を示している。なお、図7および図8のプライマリ圧Pin、セカンダリ圧Pout、クラッチ圧は、何れも指示圧を示しており、プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutについては、増圧制御による増圧分のみ示されている。
【0070】
図7のt1時点においてCtoC変速を開始するよう判断されると、係合側クラッチの係合側クラッチ圧が所定の値まで増圧させられている。ここで、クラッチ圧(指示圧)が一時的に急激に高められているのは、実際のクラッチ圧の立ち上がりを早めてピストンを速やかにパック詰め位置まで移動させるためである(クイックフィル)。このとき、係合側クラッチにおいて消費される作動油量が増加する。これに対して、t1時点では、無段変速機24のプライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutの増圧制御は開始されない。従って、油圧制御回路96において作動油の流量不足が抑制される。ここで、ピストンがパック詰め位置に移動するまでの間は、イナーシャ相は開始されず、イナーシャ相中に発生するイナーシャトルクが無段変速機24に入力されることもないため、t1時点において増圧制御が開始されなくてもベルト滑りは生じにくくなる。
【0071】
t1時点から所定時間T1経過したt2時点において、ベルト滑りを抑制するため、プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutの増圧制御が開始される。t2時点以降からイナーシャ相が開始されるが、係合側クラッチのピストンは既に摩擦係合要素を押圧した状態にあり、係合側クラッチにおける油圧の消費量はピストンの移動開始時点に比べて少なくなるため、無段変速機24の増圧制御が開始されても流量不足は生じにくい。従って、流量不足によって、プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutが、目標油圧まで上昇しないことでベルト滑りが生じにくくなる。また、流量不足によってモジュレータ圧Plpmが低下することもなく、モジュレータ圧Plpmの低下によってC1圧制御弁106がフェールセーフ弁位置(Failsafe)に切り換わることも防止される。
【0072】
t3時点においてCtoC変速のイナーシャ相の終了が判定されると、無段変速機24の増圧制御が終了させられ、プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutが増圧制御前の油圧まで低下させられる。
【0073】
一方、従来の制御にあっては、図8に示すように、t1’時点においてCtoC変速の開始と同時に無段変速機24の増圧制御が開始されるが、係合側のクラッチおよび無段変速機24の両方で作動油の流量の消費が大きいため、作動油の流量不足が発生しやすい。従って、必要となる油圧を発生させることが困難となり、油圧低下によるベルト滑りやC1圧制御弁106の意図しない切り換わりが生じる虞がある。
【0074】
上述のように、本実施例によれば、係合側クラッチの係合制御(増圧制御)を開始する時期と、無段変速機24の増圧制御を開始する時期とが完全には重ならないため、一度に多量の作動油が消費されることが防止され、作動油の流量不足による油圧低下を抑制することができる。また、所定時間T1経過後に、無段変速機24の増圧制御が開始されるが、係合側クラッチの係合制御は既に実行されているため、係合側クラッチの係合制御と無段変速機24の増圧制御とが同時に開始される場合に比べて、消費される流量は少なくなる。従って、無段変速機24の増圧制御の際に必要となる油圧を確保することができ、油圧低下による無段変速機24のベルト滑りを抑制できる。
【0075】
また、本実施例によれば、前進走行用クラッチC1およびCVT走行用クラッチC2によって、第1動力伝達機構41(前後進切換装置26およびギヤ機構28等)を経由した動力伝達と、第2動力伝達機構43(無段変速機24)を経由した動力伝達との間で動力伝達経路が切り換えられるとき、無段変速機24の増圧制御は、CtoC変速開始から所定時間T1経過後に開始されるため、無段変速機24の増圧制御の開始と係合側クラッチの係合制御の開始とが重ならない。従って、作動油の流量不足が発生することが防止され、無段変速機の増圧制御の際には、流量不足による油圧低下が抑制される。
【0076】
また、本実施例によれば、係合側クラッチの係合制御開始当初は、ピストンを係合要素を押圧する直前の位置まで速やかに移動させるために必要となる流量も多くなるが、このとき無段変速機24の増圧制御は開始されないため、作動油の流量不足が抑制される。また、所定時間T1が経過するまでの間は、ピストンが係合要素を押圧しないため、係合側クラッチの係合制御に伴うギヤ機構28等の回転変化によって生じるイナーシャトルクが無段変速機24に入力されることもない。従って、所定時間T1経過するまでの間、無段変速機24の増圧制御が実行されなくても、イナーシャトルクが無段変速機24に入力されることによるトルク変動は発生せず、ベルト滑りの心配もない。一方、所定時間T1経過後に無段変速機24の増圧制御が開始されるが、係合側クラッチの係合制御の開始と重ならないため流量不足も生じにくい。従って、無段変速機24の増圧制御の際に、流量不足による油圧低下が抑制される。
【0077】
また、本実施例によれば、係合側クラッチの係合制御に伴うギヤ機構28等の回転変化が終了すると、回転変化に伴うイナーシャトルクが無段変速機24の入力されることもなくなる。従って、ギヤ機構28等の回転変化が終了すると、無段変速機24の増圧制御を終了することで、不要な油圧供給がなくなり燃費が向上する。
【0078】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0079】
例えば、前述の実施例では、前後進切換装置26およびギヤ機構28等で構成される第1動力伝達機構41は、前進一段のギヤ比を有しているが、複数の変速段に変速可能に構成されていても構わない。すなわち、第1動力伝達機構41は、油圧によって制御される係合装置を備えた構造であれば特に限定されない。
【0080】
また、前述の実施例では、前進走行用クラッチC1が前後進切換装置26に設けられ、CVT走行用クラッチC2がセカンダリプーリ62と出力軸30との間に設けられているが、前進走行用クラッチC1およびCVT走行用クラッチC2の位置は、必ずしもこれに限定されない。すなわち、第1動力伝達機構41を経由した動力伝達および第2動力伝達機構43を経由した動力伝達の何れかに切換可能な構成であれば、適宜変更することができる。
【0081】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0082】
12:エンジン(駆動源)
14:駆動輪
24:無段変速機
41:第1動力伝達機構
43:第2動力伝達機構
45:車両用変速機
80:電子制御装置(制御装置)
114:変速制御部(制御部)
120、130:摩擦係合要素(摩擦要素)
122、132:ピストン
C1:前進走行用クラッチ(第1係合装置)
C2:CVT走行用クラッチ(第2係合装置)
T1:所定時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8