特許第6439889号(P6439889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6439889パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物を含む表面処理剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6439889
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物を含む表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20181210BHJP
   C09D 171/00 20060101ALI20181210BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20181210BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20181210BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20181210BHJP
   C08G 65/00 20060101ALI20181210BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20181210BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20181210BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20181210BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20181210BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20181210BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   C09K3/18 102
   C09D171/00
   C09D7/63
   C09D7/65
   C08K5/05
   C08G65/00
   C08L83/04
   C08L71/00
   C03C17/32 A
   B05D7/24 302R
   B05D7/24 303E
   B32B9/00 A
   B32B27/28
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-91953(P2018-91953)
(22)【出願日】2018年5月11日
(65)【公開番号】特開2018-193548(P2018-193548A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2018年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-95743(P2017-95743)
(32)【優先日】2017年5月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】三橋 尚志
(72)【発明者】
【氏名】中井 康裕
(72)【発明者】
【氏名】野村 孝史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 真人
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−038383(JP,A)
【文献】 特開2000−007779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A):
Rf−(PFPE−Z−Y−Z−R (A)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF
(a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基であり;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、少なくとも1の−O−を含む基を表し;
但し、式(A)中、少なくとも1の2以上の酸素原子が連続した構造が存在し;
nは、1〜400の整数であり;
Rは、−PFPE−Rf’またはRf’であり;
Rf’は、Rfと同意義である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物を含む表面処理剤。
【請求項2】
Yが、各出現においてそれぞれ独立して、−O−C(=O)−(O)−C(=O)−O−、−C(=O)−(O)−C(=O)−、−C(=O)−(O)−、−(O)−C(=O)−、および−(O)−からなる群より選ばれる少なくとも1の基を含む、請求項1に記載の表面処理剤。
[式中:
lは、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10の整数であり;
mは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜10の整数である。]
【請求項3】
Yが、各出現においてそれぞれ独立して、−(O)−である、請求項1または2に記載の表面処理剤。
[式中、mは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜10の整数である。]
【請求項4】
式(A)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物100gあたりの活性酸素の質量が5以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
Rfが、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項6】
PFPEが下記式(a)、(b)または(c):
−(OC− (a)
[式中、dは1以上200以下の整数である。]
−(OC−(OC−(OC−(OCF− (b)
[式中、cおよびdは、それぞれ独立して、0以上30以下の整数であり;
eおよびfは、それぞれ独立して、1以上200以下の整数であり;
c、d、eおよびfの和は、10以上200以下の整数であり;
添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
−(R−R− (c)
[式中、Rは、OCFまたはOCであり;
は、OC、OC、OC、OC10およびOC12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から選択される2または3つの基の組み合わせであり;
jは、2〜100の整数である。]
である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項7】
含フッ素オイル、シリコーンオイル、アルコールおよび触媒から選択される1種またはそれ以上の他の成分をさらに含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項8】
さらに溶媒を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤を含有するペレット。
【請求項10】
基材、および、該基材の表面に、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤より形成された層を含む物品。
【請求項11】
基材が、ダイヤモンドライクカーボン層を有する、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
物品が、光学部材である、請求項10または11に記載の物品。
【請求項13】
物品が、ディスプレイである、請求項1012のいずれか1項に記載の物品。
【請求項14】
基材の表面に表面処理層を形成する方法であって、
前記基材に対し、その表面に、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤を供給して、基材表面に表面処理層を形成する工程を含む、方法。
【請求項15】
上記表面処理層の形成に電子ビームを用いる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物を含む表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の含フッ素化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、防汚性などを提供し得ることが知られている。含フッ素化合物を含む表面処理剤から得られる層(以下、「表面処理層」とも言う)は、いわゆる機能性薄膜として、例えばガラス、プラスチック、繊維、建築資材など種々多様な基材に施されている。
【0003】
そのような含フッ素化合物として、パーフルオロポリエーテル基を分子主鎖に有し、Si原子に結合した加水分解可能な基を分子末端または末端部に有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が知られている(特許文献1〜2を参照のこと)。このパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤を基材に適用すると、Si原子に結合した加水分解可能な基が基材のSi−OH基との間および化合物間で反応して、−Si−O−Si−結合を形成することにより、表面処理層を形成し得る。
【0004】
また別の含フッ素化合物として、パーフルオロポリエーテル基またはパーフルオロアルキレン基を分子主鎖に有し、さらに分子末端に−OH、−SH、または−NR11(R11は水素原子または低級アルキル基)等を含む化合物が知られている(特許文献3)。特許文献3には、上記のような含フッ素化合物を用いて基材の表面にダイヤモンドライクカーボンを介して表面処理層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−534696号公報
【特許文献2】国際公開第97/07155号
【特許文献3】特開2016−52779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜2に記載されている表面処理層は、−Si−O−Si−結合により基材と結合しており、酸またはアルカリ環境下、特にアルカリ環境下では、この結合が加水分解により切断され、耐久性が低下し得る。これは、特に、酸およびアルカリ環境に曝されやすい物品、例えば人の汗が付着し得る物品(例えば、タッチパネル等)に用いられる場合により顕著な問題となり得る。
【0007】
特許文献3に記載されている表面処理層は、基材とダイヤモンドライクカーボン層を介して−C−O−結合、−C−N−結合、または−C−S−結合等で結合しており、−Si−O−Si−結合を有していないため、酸およびアルカリ耐性を有する。しかし、本発明者等の検討により、特許文献3に記載の表面処理層を有する物品では、次第に高まる摩擦耐久性向上の要求に十分に応えることができないことがあることがわかった。
【0008】
本発明は、より良好な摩擦耐久性を有する層の形成に適した表面処理剤を提供することを目的とする。本発明は、さらに、この表面処理剤より形成された層(以下、「表面処理層」ともいう)を含む物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の要旨によれば、
式(A):
Rf−(PFPE−Z−Y−Z−R (A)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF
(a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基であり;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基であり;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、少なくとも1の−O−を含む基を表し;
但し、式(A)中、少なくとも1の2以上の酸素原子が連続した構造が存在し;
nは、1〜400の整数であり;
Rは、水素原子、フッ素原子、−CF−Cl、−COF、−COOH、−PFPE−Rf’またはRf’であり;
Rf’は、Rfと同意義である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物を含む表面処理剤が提供される。
【0010】
本発明の第2の要旨によれば、上記表面処理剤を含有するペレットが提供される。
【0011】
本発明の第3の要旨によれば、基材、および、該基材の表面に、上記の表面処理剤より形成された層を含む物品が提供される。
【0012】
本発明の第4の要旨によれば、基材の表面に表面処理層を形成する方法であって、
基材に対し、その表面に、上記表面処理剤を供給して、基材表面に表面処理層を形成する工程を含む、方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より良好な摩擦耐久性を有する表面処理層の形成に適した表面処理剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[表面処理剤]
以下、本発明の表面処理剤について説明する。
【0015】
本発明の表面処理剤は、
式(A):
Rf−(PFPE−Z−Y−Z−R (A)
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基(以下、「PFPE」ともいう)含有化合物を含む。
【0016】
式(A)中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表す。
【0017】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基における「炭素数1〜16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0018】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されている炭素数1〜16のアルキル基であり、より好ましくはCFH−C1−15フルオロアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である。
【0019】
該炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜6、特に炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、具体的には−CF、−CFCF、または−CFCFCFである。
【0020】
式(A)中、PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF
で表される基である。
【0021】
式中、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して、0以上100以下の整数である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfの和は5以上であり、より好ましくは10以上である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfの和は200以下であり、より好ましくは100以下であり、例えば10以上200以下であり、より具体的には10以上100以下である。また、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0022】
これら繰り返し単位は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。例えば、−(OC12)−は、−(OCFCFCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCFCFCF)−、−(OCFCF(CF)CFCFCF)−、−(OCFCFCF(CF)CFCF)−、−(OCFCFCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCFCFCF(CF))−等であってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCFCFCF)−である。−(OC10)−は、−(OCFCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCFCF)−、−(OCFCF(CF)CFCF)−、−(OCFCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCFCF(CF))−等であってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0023】
一の態様において、上記PFPEは、−(OC−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)または−(OCF(CF)CF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。より好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。
【0024】
別の態様において、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも5以上、好ましくは10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)である。好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF−である。一の態様において、PFPEは、−(OC−(OCF−(式中、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であってもよい。
【0025】
さらに別の態様において、PFPEは、−(R−R−で表される基である。式中、Rは、OCFまたはOCであり、好ましくはOCである。式中、Rは、OC、OC、OC、OC10およびOC12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。好ましくは、Rは、OC、OCおよびOCから選択される基であるか、OC、OC、OC10およびOC12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC、OCおよびOCから独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、および−OCOCOC−等が挙げられる。上記jは、2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、100以下、好ましくは50以下の整数である。上記式中、OC、OC、OC、OC10およびOC12は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、−(OC−OC−または−(OC−OC−である。
【0026】
式(A)中、ZおよびZは、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基であり、好ましくは、単結合または1以上の水素原子が置換基により置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキレン基であり、より好ましくは、単結合である。上記置換基は、好ましくはハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基であり、より好ましくはフッ素原子である。
【0027】
本明細書において用いられる場合、「2価の有機基」とは、炭素を含有する2価の基を意味する。かかる2価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた2価の基が挙げられる。
【0028】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素および水素を含む基であって、炭化水素から1個の水素原子を脱離させた基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素数1〜20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。尚、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有していてもよい。
【0029】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子;1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C3−10不飽和シクロアルキル基、5〜10員のヘテロシクリル基、5〜10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6−10アリール基および5〜10員のヘテロアリール基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0030】
式(A)中、Yは、各出現においてそれぞれ独立して、少なくとも1の−O−を含む基を表す。
【0031】
上記Yは、好ましくは、−O−C(=O)−(O)−C(=O)−O−、−C(=O)−(O)−C(=O)−、−C(=O)−(O)−、−(O)−C(=O)−、および−(O)−からなる群より選ばれる少なくとも1の基を含み、より好ましくは−(O)−である。lは、各出現においてそれぞれ独立して、2〜10の整数であり、好ましくは、2〜4の整数である。mは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜10の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、例えば1であってもよい。
【0032】
Yの具体例としては、−O−C(=O)−O−O−C(=O)−O−、−C(=O)−O−O−C(=O)−、−C(=O)−O−O−、−O−O−C(=O)−、−O−、−O−O−、−O−O−O−、−O−O−O−O−等を挙げることができる。なお、本明細書において、−C(=O)−は、カルボニル基を表す。
【0033】
式(A)中、少なくとも1の2以上の酸素原子が連続した構造が存在する、即ち、少なくとも1の−O−O−が存在する。式(A)で表される化合物は、Yが2以上の酸素原子が連続した構造を含む、またはY−PFPEで表される構造が2以上の酸素原子が連続した構造を含む。上記「2以上の酸素原子が連続した構造」としては、具体的には、−O−O−、−O−O−O−、−O−O−O−O−、−O−O−O−O−O−等を挙げることができる。なお、本明細書において、2以上の酸素原子が連続した構造を「パーオキサイド構造」と称することがある。式(A)で表される化合物は、好ましくは、−C−O−O−C−構造を含む。
【0034】
上記式(A)中、nは、1〜400の整数である。nは、好ましくは、1〜300の整数であり、より好ましくは、1〜100の整数である。
【0035】
上記式(A)中、Rは、水素原子、フッ素原子、−CF−Cl、−COF、−COOH、−PFPE−Rf’またはRf’であり、好ましくは、−PFPE−Rf’またはRf’である。Rf’は、Rfと同意義である。尚、RfとRf’は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0036】
上記式(A)で表されるPFPE含有化合物の数平均分子量は、好ましくは2,000以上、より好ましくは4,000以上であり、好ましくは70,000以下、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは20,000以下である。
【0037】
上記式(A)で表されるPFPE含有化合物のパーフルオロポリエーテル部分(Rf−PFPE−部分または−PFPE−部分)の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは2,000〜70,000、より好ましくは5,000〜20,000であり得る。
【0038】
上記式(A)で表されるPFPE含有化合物100gあたりの活性酸素(2以上の酸素原子が連続した構造に含まれる1の酸素原子、例えば、2の酸素原子が連続した構造においては、該構造を形成する酸素原子のうち1の酸素原子、3の酸素原子が連続した構造においては、該構造を形成する酸素原子のうち1の酸素原子)の質量(PO値)は、5.0以下であることが好ましく、0.5〜1.3の範囲にあることがより好ましい。
【0039】
本発明において、PO値は、19F−NMR分析により測定される。
【0040】
上記式(A)で表されるPFPE含有化合物は、表面処理剤100質量部に対し、好ましくは0.01〜100質量部、より好ましくは0.1〜30質量部含まれる。
【0041】
上記式(A)で表されるPFPE含有化合物は、当業者によく知られた方法により製造することができ、例えばCF=CFと酸素とを反応させることにより製造することができる。
【0042】
本発明の表面処理剤は、溶媒で希釈されていてもよい。このような溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、パーフルオロヘキサン、CFCFCHCl、CFCHCFCH、CFCHFCHFC、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(ゼオローラH(商品名)等)、COCH、COC、CFCHOCFCHF、C13CH=CH、C13OCH、キシレンヘキサフルオリド、パーフルオロベンゼン、メチルペンタデカフルオロヘプチルケトン、トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、HCFCFCHOH、メチルトリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロ酢酸およびCFO(CFCFO)m’(CFO)n’CF[式中、m’およびn’は、それぞれ独立して0以上1000以下の整数であり、m’またはn’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、但しm’およびn’の和は1以上である。]、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,2−トリクロロ―3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンからなる群から選択される溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上の混合物として用いることができる。
【0043】
本発明の表面処理剤は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物に加え、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、含フッ素オイルとして理解され得る(非反応性の)フルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロポリエーテル化合物(以下、「含フッ素オイル」と言う)、シリコーンオイルとして理解され得る(非反応性の)シリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)、アルコール、触媒などが挙げられる。
【0044】
上記含フッ素オイルは、分子構造内にパーオキサイド構造を有しない。上記含フッ素オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(3)で表される化合物(パーフルオロポリエーテル化合物)が挙げられる。
Rf−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−Rf ・・・(3)
式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基(好ましくは、C1―16のパーフルオロアルキル基)を表し、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基(好ましくは、C1−16のパーフルオロアルキル基)、フッ素原子または水素原子を表し、RfおよびRfは、より好ましくは、それぞれ独立して、C1−3のパーフルオロアルキル基である。
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロポリエーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1、好ましくは1〜300、より好ましくは20〜300である。添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0045】
上記一般式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物の例として、以下の一般式(3a)および(3b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
Rf−(OCFCFCFb’’−Rf ・・・(3a)
Rf−(OCFCFCFCFa’’−(OCFCFCFb’’−(OCFCFc’’−(OCFd’’−Rf ・・・(3b)
これら式中、RfおよびRfは上記の通りであり;式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して0以上30以下、例えば1以上30以下の整数であり、c’’およびd’’はそれぞれ独立して1以上300以下の整数である。添字a’’、b’’、c’’、d’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0046】
上記含フッ素オイルは、1,000〜30,000の数平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。
【0047】
本発明の表面処理剤中、含フッ素オイルは、上記パーフルオロポリエーテル基含有化合物の合計100質量部(それぞれ、2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜500質量部、好ましくは0〜400質量部、より好ましくは5〜300質量部で含まれ得る。
【0048】
一般式(3a)で示される化合物および一般式(3b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(3a)で示される化合物よりも、一般式(3b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(3a)で表される化合物と、一般式(3b)で表される化合物との質量比は、1:1〜1:30が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた表面処理層を得ることができる。
【0049】
一の態様において、含フッ素オイルは、一般式(3b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む。かかる態様において、表面処理剤中のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物の合計と、式(3b)で表される化合物との質量比は、10:1〜1:10が好ましく、4:1〜1:4がより好ましい。
【0050】
一の態様において、式(3a)で表される化合物の平均分子量は、2,000〜8,000であることが好ましい。
【0051】
一の態様において、式(3b)で表される化合物の平均分子量は、8,000〜30,000であることが好ましい。
【0052】
別の態様において、式(3b)で表される化合物の平均分子量は、3,000〜8,000であることが好ましい。
【0053】
好ましい態様において、真空蒸着法により表面処理層を形成する場合には、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物の平均分子量よりも、含フッ素オイルの平均分子量を大きくしてもよい。このような平均分子量とすることにより、より優れた摩擦耐久性と表面滑り性を得ることができる。
【0054】
また、別の観点から、含フッ素オイルは、一般式Rf−F(式中、RfはC5−16パーフルオロアルキル基である。)で表される化合物であってよい。また、クロロトリフルオロエチレンオリゴマーであってもよい。Rf−Fで表される化合物およびクロロトリフルオロエチレンオリゴマーは、末端がC1−16パーフルオロアルキル基である上記分子末端に炭素−炭素不飽和結合を有する含フッ素化合物で表される化合物と高い親和性が得られる点で好ましい。
【0055】
含フッ素オイルは、表面処理剤を用いて形成される表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0056】
上記シリコーンオイルとしては、例えばシロキサン結合が2,000以下の直鎖状または環状のシリコーンオイルを用い得る。直鎖状のシリコーンオイルは、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルであってよい。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0057】
本発明の表面処理剤中、かかるシリコーンオイルは、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜300質量部、好ましくは0〜200質量部で含まれ得る。
【0058】
シリコーンオイルは、表面処理剤を用いて形成される表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0059】
上記触媒としては、酸(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸等)、塩基(例えばアンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等)、遷移金属(例えばTi、Ni、Sn等)等が挙げられる。
【0060】
本発明の表面処理剤中、触媒は、上記含フッ素化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0.001〜20質量部、好ましくは0.001〜5質量部で含まれ得る。
【0061】
他の成分としては、上記以外に、例えば、炭素数1〜6のアルコール化合物が挙げられる。
【0062】
[ペレット]
本発明の表面処理剤は、多孔質物質、例えば多孔質のセラミック材料、金属繊維、例えばスチールウールを綿状に固めたものに含浸させて、ペレットとすることができる。当該ペレットは、例えば、真空蒸着に用いることができる。
【0063】
[物品]
以下、本発明の物品について説明する。
【0064】
本発明の物品は、基材、および、該基材の表面に、上記の表面処理剤より形成された層(表面処理層、例えば防汚性被覆層)を含む。
【0065】
上記基材は、例えばガラス、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料であってよく、板状、フィルム、その他の形態であってよい)、金属(アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、ジルコニウム等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、建築部材等、任意の適切な材料で構成され得る。
【0066】
上記ガラスとしては、サファイアガラス、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラス、石英ガラスが好ましく、化学強化したソーダライムガラス、化学強化したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス、および化学結合したホウ珪酸ガラスが特に好ましい。
上記樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネートが好ましい。
【0067】
一の態様において、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面を構成する材料は、光学部材用材料、例えばガラスまたは透明プラスチックなどであってよい。また、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面(最外層)に何らかの層(または膜)、例えばハードコート層や反射防止層などが形成されていてもよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WO3、SiNなどが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してもよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiOおよび/またはSiOを用いることが好ましい。製造すべき物品が、タッチパネル用の光学ガラス部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(ガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I−CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0068】
かかる基材としては、少なくともその表面部分が、水酸基を元々有する材料から成るものであってよい。かかる材料としては、ガラスが挙げられ、また、表面に自然酸化膜または熱酸化膜が形成される金属(特に卑金属)、セラミックス、半導体等が挙げられる。あるいは、樹脂等のように、水酸基を有していても十分でない場合や、水酸基を元々有していない場合には、基材に何らかの前処理を施すことにより、基材の表面に水酸基を導入したり、増加させたりすることができる。かかる前処理の例としては、プラズマ処理(例えばコロナ放電)や、イオンビーム照射が挙げられる。プラズマ処理は、基材表面に水酸基を導入または増加させ得ると共に、基材表面を清浄化する(異物等を除去する)ためにも好適に利用され得る。また、かかる前処理の別の例としては、炭素−炭素不飽和結合基を有する界面吸着剤をLB法(ラングミュア−ブロジェット法)や化学吸着法等によって、基材表面に予め単分子膜の形態で形成し、その後、酸素や窒素等を含む雰囲気下にて不飽和結合を開裂する方法が挙げられる。
【0069】
またあるいは、かかる基材としては、少なくともその表面部分が、別の反応性基、例えばSi−H基を1つ以上有するシリコーン化合物や、アルコキシシランを含む材料から成るものであってもよい。
【0070】
一の態様において、基材は、ダイヤモンドライクカーボンからなる層(ダイヤモンドライクカーボン層)を有する。本態様において、基材が、該基材の表面(最外層)にダイヤモンドライクカーボン層を有することが好ましい。上記基材は、例えばハードコート層または反射防止層等をさらに有していてもよい。上記ハードコート層または反射防止層等は、基材の表面(最外層)に設けられたダイヤモンドライクカーボン層に接して設けられてもよい。
【0071】
上記ダイヤモンドライクカーボンとは、ダイヤモンド結合(炭素同士のsp混成軌道による結合)とグラファイト結合(炭素同士のsp混成軌道による結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造を有するカーボンを意味する。また、ダイヤモンドライクカーボンは、炭素以外の原子、例えば水素、酸素、珪素、窒素、アルミニウム、硼素、燐等を含んでいてもよい。
【0072】
上記ダイヤモンドライクカーボン層の厚みは、特に限定されないが、例えば1nm〜100μm、好ましくは1nm〜1000nm、より好ましくは1nm〜100nmであり得る。
【0073】
上記ダイヤモンドライクカーボン層は、例えば、化学蒸着(CVD)法、例えば熱CVD法、プラズマCVD法等、または物理蒸着(PVD)法、例えば真空蒸着法、スパッタ法等により形成することができる。
【0074】
基材の形状は特に限定されない。また、表面処理層を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。
【0075】
次に、かかる基材の表面に表面処理層を形成する方法について説明する。表面処理層を形成する方法は、基材の表面に、上記表面処理剤を供給して、基材表面に表面処理層を形成する工程を含む。より具体的には、表面処理剤の膜を形成し、この膜を必要に応じて後処理し、これにより、本発明の表面処理剤から表面処理層を形成する。
【0076】
表面処理剤の膜の形成方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できる。
【0077】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0078】
乾燥被覆法の例としては、蒸着(通常、真空蒸着)、スパッタリング、CVDおよび類似の方法が挙げられる。蒸着法(通常、真空蒸着法)の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、マイクロ波等を用いた高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ−CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。
【0079】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0080】
湿潤被覆法を使用する場合、表面処理剤は、溶媒で希釈されてから基材表面に適用され得る。表面処理剤の安定性および溶媒の揮発性の観点から、次の溶媒が好ましく使用される:C5−12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、C13CHCH(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AC−6000)、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオローラ(登録商標)H);ハイドロフルオロカーボン(HFC)(例えば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc));ハイドロクロロフルオロカーボン(例えば、HCFC−225(アサヒクリン(登録商標)AK225));ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7000)、パーフルオロブチルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7100)、パーフルオロブチルエチルエーテル(COC)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7200)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(CCF(OCH)C)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7300)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい)、あるいはCFCHOCFCHF(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AE−3000))、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製のバートレル(登録商標)サイオン)など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上を組み合わせて混合物として用いることができる。さらに、例えば、PFPE含有化合物の溶解性を調整する等のために、別の溶媒と混合することもできる。
【0081】
乾燥被覆法を使用する場合、表面処理剤は、そのまま乾燥被覆法に付してもよく、または、上記湿潤被覆法に関して例示した溶媒で希釈してから乾燥被覆法に付してもよい。例えば、表面処理剤をそのまま蒸着(通常、真空蒸着)処理するか、あるいは鉄や銅などの金属多孔体またはセラミック多孔体に、表面処理剤を含浸させたペレット状物質を用いて蒸着(通常、真空蒸着)処理をしてもよい。
【0082】
好ましい態様において、表面処理剤の膜の形成に、蒸着法を用い、より好ましくは、CVD、および高周波加熱(特に、抵抗加熱、電子ビーム)の少なくとも一方を用い、特に好ましくは、電子ビームを用いる。
【0083】
上記後処理としては、例えば、熱処理が挙げられる。熱処理の温度は、特に限定されないが、例えば、60〜250℃、好ましくは100℃〜180℃であってもよい。熱処理の時間は、特に限定されないが、例えば30分〜5時間、好ましくは1〜3時間であってもよい。
【0084】
表面処理層の厚さは、特に限定されない。光学部材の場合、表面処理層の厚さは、1〜50nm、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜15nmの範囲であることが、光学性能、表面滑り性、摩擦耐久性および防汚性の点から好ましい。
【0085】
上記のようにして、基材の表面に、表面処理剤を用いて表面処理層が形成される。
【0086】
上記したように、特許文献1および2では、−Si−O−Si−結合により、特許文献3では、−C−O−結合、−C−N−結合、または−C−S−結合等により表面処理剤により形成された層と基材とが結合している。
【0087】
これに対して、本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物は、上記のような処理により、パーオキサイド構造において分解される。パーオキサイド構造における分解により、表面処理剤に含まれる式(A)で表されるPFPE含有化合物1分子から、ラジカル(ラジカル反応性基)を末端に有し、さらにPFPEを含む化合物が複数生じ得る。このラジカル反応性基によって基材と結合するため、本発明の表面処理剤を用いて形成された表面処理層は、優れた摩擦耐久性を示すと考えられる。
【0088】
上記のようにして得られる表面処理層は、高い摩擦耐久性とともに、高い表面滑り性を有する。また、この表面処理層は、高い摩擦耐久性に加えて、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、防水性(電子部品等への水の浸入を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。
【0089】
好ましい態様において、基材がダイヤモンドライクカーボン層を有し、表面処理剤の膜の形成に蒸着法を用いる。式(A)で表されるPEPF含有化合物に由来する生じたラジカルが、ダイヤモンドライクカーボン層の有する(特に、ダイヤモンドライクカーボン層の表面に存在する)sp混成軌道による結合と結合し、より良好な摩擦耐久性を有する表面処理層を形成し得る。
【0090】
一の態様において、本発明の物品は、表面処理層を最外層に有する光学材料である。
【0091】
光学材料としては、ディスプレイ等に関する光学材料のほか、多種多様な光学材料が好ましく挙げられる:例えば、陰極線管(CRT;例えば、パソコンモニター)、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機薄膜ELドットマトリクスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、電界放出ディスプレイ(FED;Field Emission Display)などのディスプレイもしくはそれらのディスプレイの保護板、またはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの。
【0092】
本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、特に限定されるものではないが、光学部材であり得る。光学部材の例には、次のものが挙げられる:眼鏡などのレンズ;PDP、LCDなどのディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板;携帯電話、携帯情報端末などの機器のタッチパネルシート;ブルーレイ(Blu−ray(登録商標))ディスク、DVDディスク、CD−R、MOなどの光ディスクのディスク面;光ファイバー;時計の表示面など。
【0093】
また、本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、医療機器または医療材料であってもよい。
【0094】
以上、本発明の表面処理剤を使用して得られる物品について詳述した。なお、本発明の表面処理剤の用途、使用方法ないし物品の製造方法などは、上記で例示したものに限定されない。
【実施例】
【0095】
本発明について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、パーフルオロポリエーテルを構成する4種の繰り返し単位(CFO)、(CFCFO)、(CFCFCFO)および(CFCFCFCFO)、ならびに(O)の存在順序は任意である。
【0096】
(実施例1)
化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に、プラズマCVD装置により、原料ガスにメタンを用いて(圧力:1.0×10−3Pa、メタン流量:20sccm)プラズマを発生させ、ダイヤモンドライクカーボン層を形成した。続いて、真空蒸着装置で、ダイヤモンドライクカーボン層の上に、分子中にパーオキサイドを有するパーフルオロポリエーテル化合物(A)を、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり0.4mg、電子ビームにより真空蒸着した。その後、蒸着膜付き化学強化ガラスを、温度150℃で100分加熱処理し、室温で100分以上放冷した後、処理表面の未反応のパーフルオロポリエーテル化合物(A)等をエタノールでふき取り、表面処理層を形成した。
・分子中にパーオキサイド構造を有するパーフルオロポリエーテル化合物(A)
CF3O-[PFPE1-O]n1-CF3
(但し、[PFPE1-O]n1は、(CF2CF2O)55-(CF2O)55-(O)8-(CF2CF2CF2O)2-(CF2CF2CF2CF2O)2
【0097】
(比較例1)
化合物(A)に代えて、分子中にパーオキサイド構造を有さない、下記の平均組成を有するパーフルオロポリエーテル化合物(B)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理層を形成した。
・パーフルオロポリエーテル化合物(B)
CF3O-(CF2CF2O)86-(CF2O)86-(CF2CF2CF2O)2-(CF2CF2CF2CF2O)2-CF3
【0098】
(比較例2)
化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)の表面に、電子線蒸着方式により二酸化ケイ素を7nmの厚さで、蒸着させて二酸化ケイ素膜を形成した。その後、下記の平均組成を有するシラン基含有パーフルオロポリエーテル化合物(D)を、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり0.4mg、抵抗加熱により真空蒸着した。その後、蒸着膜付き化学強化ガラスを、温度150℃で100分以上加熱処理し、室温で1時間以上放冷した後、処理表面の未反応のパーフルオロポリエーテル化合物(D)等をエタノールでふき取り、表面処理層を作成した。
・シラン基含パーフルオロポリエーテル化合物(D)
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)20CF2CF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3
【0099】
・人工汗耐久性評価
上記の実施例1、比較例1および2において形成された表面処理層について、人工汗耐久性を評価した。
まず、初期評価として、表面処理層形成後、その表面に未だ何も触れていない状態で、水の静的接触角を測定した(静置時間0時間)。その後、表面処理層を形成した基材表面に、下記に示す組成の人工汗を約1g静置させ、65℃、湿度90%の加温加湿条件下で、24時間、48時間、96時間、および168時間静置した。その後、表面処理層の表面を蒸留水、およびエタノールで洗浄し、その後、水の静的接触角(度)を測定した。接触角の測定値が100度未満となった時点で評価を中止した。結果を表1に、静置時間0時間の接触角(初期接触角)に対する接触角の測定値の比率を表2に、それぞれ示す(表中、記号「−」は測定せず)。
(人工汗の組成)
無水リン酸水素二ナトリウム:2g
塩化ナトリウム:20g
85%乳酸:2g
ヒスチジン塩酸塩:5g
蒸留水:1Kg
【0100】
・水の静的接触角の測定方法
水の静的接触角の測定は、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて、水1μLにて25℃の環境下で実施した。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
・摩擦耐久性評価
上記の実施例1、比較例1および2にて基材表面に形成された表面処理層について、消しゴム摩擦耐久試験により、摩擦耐久性を評価した。具体的には、表面処理層を形成したサンプル物品を水平配置し、消しゴム(コクヨ株式会社製、KESHI−70、平面寸法1cm×1.6cm)を表面処理層の表面に接触させ、その上に500gfの荷重を付与し、その後、荷重を加えた状態で消しゴムを20mm/秒の速度で往復させた。
初期評価として、表面処理層形成後、その表面に未だ何も触れていない状態で、水の静的接触角を測定した(摩擦回数0回)。その後、往復回数500回毎に水の静的接触角(度)を測定し、接触角の測定値が100度未満となるまで測定を繰り返した。接触角の測定結果を表3に、摩擦回数0回の接触角(初期接触角)に対する接触角の測定値の比率を表4に、それぞれ示す(表中、記号「−」は測定せず)。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
表1〜4から理解されるように、実施例1の表面処理層は、人工汗耐久性評価および摩擦耐久性評価の双方において、接触角の数値の低下が少なく、優れた耐汗性と優れた摩擦耐久性を示すことが確認された。実施例1で用いた化合物(A)は1分子中にパーオキサイド構造を有しており、電子ビームの照射によりパーオキサイド構造で開裂され、ラジカル性反応基とPFPEとを含む化合物が複数生じたと考えられる。ダイヤモンドライクカーボン層に、上記のラジカル反応性基とPFPEとを含む化合物が多く反応するため、人工汗への耐久性だけでなく摩擦耐久性も良好になったと考えられる。
【0107】
一方で、比較例1のパーフルオロポリエーテル化合物(B)は、分子構造中にパーオキサイド構造を有さず、ラジカル性反応基の発生が困難となる。そのため、ダイヤモンドライクカーボン層との反応が起こりにくく、人工汗に接するアルカリ環境下では、加水分解反応が生じやすいと考えられる。比較例2では、化合物(D)が、強化ガラス上の二酸化ケイ素膜とSi−O−Si結合によって結合している。人工汗に接するアルカリ環境下ではSi−O−Si結合の加水分解反応が生じやすいため、比較例2の表面処理層では、人工汗耐久性評価において接触角の低下が生じやすかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、種々多様な基材、特に光学部材の表面に、表面処理層を形成するために好適に利用され得る。