(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
船舶は、積荷を搭載した時に喫水まで沈み安定し、また、プロペラスクリューも水中に沈むように設計される。したがって、積荷が搭載されていない状態では、浮力によって、浮き上がり過ぎ、船の安定性やプロペラスクリューの没水深度が確保できない。そこで、積荷を下した貨物船等は、寄港地で海水を取水し、船体内に溜めることで、喫水線を積荷が搭載された状態に近づける。この際に取水した海水をバラスト水と呼ぶ。
【0003】
バラスト水は、次の寄港地まで船舶の「重り」として運ばれ、積荷の積載と共に放出される。つまり、前の寄港地の海洋生物を次の寄港地に持ち込むこととなる。このように、ある場所の生物を他の場所に移してしまうことは、自然によって育まれたその地の生態系を破壊若しくは汚染することに繋がる可能性が高い。そこで、排出するバラスト水中に含まれる生物の量の基準を定めるバラスト水条約(船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約)が、国際海事機関(IMO)で採択されている。
【0004】
この基準では、船舶から排出されるバラスト水に含まれる50μm以上の生物(主として動物性プランクトン)の数が1m
3中に10個未満、10μm以上50μm未満の生物(主として植物性プランクトン)の数が1mL中に10個未満、コレラ菌の数が10mL中に1cfu未満、大腸菌の数が100mL中に250cfu未満、腸球菌の数が100mL中に100cfu未満となっている。なお、「cfu(colony forming unit)」はコロニー形成単位である。
【0005】
これらの基準を満たすため、バラスト水として取水した海水中の微生物は、死滅させる必要がある。海水中の微生物の殺滅方法としては、物理的・機械的に水生生物を死滅させる方法、熱により水生生物を死滅させる方法、化学薬品をバラストタンク中に注入する若しくは、塩素系物質等を発生させて水生生物を死滅させる方法等が挙げられる。
【0006】
ここで、電極間に電圧を印加し電流を流して、海水を電気分解して次亜塩素ソーダを発生させる方法は、殺菌剤を供給する手間がなく、装置自体を小型化にできるというメリットがある。特許文献1には、円筒形の電極で一端から流入させた海水を電気分解による次亜塩素ソーダによる化学的な殺菌力に加え、電気ショックによる物理的な殺傷力を用いて海洋微生物を死滅させる海洋微生物殺菌装置が開示されている。
【0007】
ここでは、一方の電極(カソード側)は貫通孔を有し、他方の電極は、孔のない円筒形の外面で形成されている。そして、孔に対向する他方(アノード側)の電極では、塩素ガス(もしくは次亜塩素酸)の発生点が設けられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を用いて本発明に係る微生物殺滅装置を説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明は、以下の説明に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施形態は改変することができる。
【0016】
図1に本発明に係る微生物殺滅装置1の構成を示す。微生物殺滅装置1は、一端に入水口12、他端に出水口14が設けられた本体10と、本体10中に配置された対向電極16a、16bと、対向電極16a、16bに電圧を印加する直流電源15を含む。
図1では、本体10は、上下2つに分かれて示した。なお、本明細書で「被処理液」とは、海水、淡水および海水淡水の混合水を含むものとする。
【0017】
本体10は、直方体であってもよいし、円筒形であってもよい。また、本体10は、対向電極16a、16bが収納できるだけの大きさを有するものとする。本体10の材質は特に限定しないが、非導電性物質でライニングするのが望ましい。対向電極16a、16bとの間でショートを回避するためである。また、対向電極16a、16bによって発生する次亜塩素酸による腐食に対抗するためでもある。より具体的には、樹脂、ガラス、セラミック、ゴムなどが好適に利用できる。
【0018】
本体10の両端には、入水口12と出水口14が設けられる。本体10内部は、入水口12から見て、断面内に平均的に被処理液が流れるようにするのが望ましいからである。入水口12と出水口14の周囲には、被処理液の配管と接続するための取り付け用フランジ12a、14aが設けられていてもよい。
【0019】
対向電極16a、16bは、本体10内に収納される。対向電極16a、16bは複数対あってもよい。対向電極16aは、陽極(アノード側)である。材質は、チタン、ステンレス(SUS)に、白金、ルテニウム、イリジウム等、若しくはこれらの合金をコーティングしたものが好適に用いられる。また対向電極16bは、陰極(カソード側)である。材質は、チタン、ステンレス(SUS)が好適に用いられる。なお、ここで述べる陽極および陰極は電気分解における表現である。
【0020】
厚さは、どちらの対向電極16a、16bも0.5mmから2.0mmが望ましい。厚みが薄いと強度不足となり、厚すぎると電気抵抗が増すからである。対向電極16a、16bには、共に貫通孔20が形成される。
【0021】
貫通孔20は直径5mmから20mm、好ましくは5mmから10mmの大きさが好ましい。孔径が小さすぎると後述する攪拌作用が生じにくく、孔径が大きすぎると必要な殺滅効果を得るのに必要な電極長が長くなり、設置スペースが限られている船体において現実的ではない。形状は特に限定されないが、直線で形成される角部分のない円形が望ましい。直線で形成される角部分では、スケールが蓄積し、そして容易に脱離しない。一方、円形の孔はスケールが蓄積しても、孔を埋めてしまう前に、被処理液の流れによって、スケールが取れてしまう。つまり、角部分のない孔であれば、長時間使用していてもスケールが蓄積しにくい。
【0022】
図2(a)に一方の対向電極16aを例として正面図を示す。貫通孔20は、対向電極16a、16b共に設けられている。また、対向電極16a、16bの貫通孔20同士は、対向する位置関係にある。ここで「対向する」とは、対向電極16a、16bを重ねて見たときに、一方の電極の貫通孔20から他方の電極の貫通孔20を通じて、光が通過する部分を有する事をいう。
【0023】
図2(b)に対向電極16a、16bを設置状態の位置関係にした時に、一方の対向電極16aから見たときの図を示す。対向電極16aの貫通孔20Aを実線で、また対向電極16bの貫通孔20Bを点線で表す。貫通孔20Aと貫通孔20Bが対向する位置関係にあるとは、貫通孔20Bが貫通孔20Aと完全に重なっているときから(
図2(b−1))、貫通孔20Aと貫通孔20Bがわずかでも重なっている貫通部20Cを有する位置関係(
図2(b−2))までを含む。
【0024】
図2(a)は、貫通孔20を規則的に設けた場合を例示している。矢印21は、被処理液が流れる方向である。貫通孔20は、被処理液が流れる方向(矢印21)に対して直角方向(矢印22方向)に並べて列を形成している。なお、被処理液が流れる方向(矢印21)の方向を対向電極16a、16bの「長さ」といい、被処理液が流れる方向(矢印21)に対して直角方向(矢印22方向)を対向電極16a、16bの「高さ」と呼ぶ。また、
図2(a)において、紙面の奥行き方向の寸法を対向電極16a、16bの「厚さ」と呼ぶ。
【0025】
また、
図2(a)で貫通孔20の列(これを「貫通孔列」と呼ぶ。)を符号25で表す。1つの貫通孔列25において、貫通孔20同士の距離26は等しくするのが望ましい。望ましくは貫通孔20の径(直径をφとする)に対して0.1φから5.0φの距離26で配置するのが望ましい。
【0026】
隣接する貫通孔列25aと貫通孔列25bにおいて、貫通孔20の数は、ほぼ同数であるのが望ましい。なお、貫通孔列25の配置は千鳥格子配置になってもよい(
図2(c)参照)。ここで千鳥格子配置とは、隣接する貫通孔列25同士の貫通孔20が、被処理液が流れる方向(矢印21方向)から見て、互い違いに配置されている状態をいう。また、貫通孔列25同士の間隔27は、貫通孔20の直径(「φ」とする)に対して、0.1φから5.0φの距離にするのが望ましい。
【0027】
貫通孔列25の配置数は、対向電極16a、16bに沿って流れる被処理液の流速で決められ、後述する実施例より貫通孔20を規則的に配置した場合は、25(列/流速)以上であるのが望ましい。たとえば、貫通孔列25を30列配置した対向電極16a、16bでは、流速(v)1.2m/sec以下の流速で被処理液を流すのがよい(v≦30(列)/25(列/流速))。
【0028】
この場合の対向電極16a、16bの形状を例示すると、貫通孔20の直径φを8mmとし、貫通孔列25間の距離を2mmとし、両端代を10mmとすると、対向電極16a、16bの長さは、318mm(8mm×30列+2mm×29+10mm×2)程度になる。
【0029】
なお、本発明は、単位流速あたりの列数の最小値を規定する点に意義がある。単位流速あたりの列数は、被処理液の流速が一定の場合、対向電極16a、16bの長さを長くすればいくらでも大きい値にできるからである。例えば、上記の例のように流速1.2m/secで被処理液を流す場合、貫通孔列25数が30列(対向電極16a、16bの長さは上記の通りおよそ300mm)なら単位流速あたりの列数は25である。
【0030】
一方、対向電極16a、16bの長さを3000mm(3m)まで伸ばせば、貫通孔列25は300列形成でき、単位流速あたりの列数は250となる。もちろん、このように長い対向電極16a、16bを使っても、微生物が死滅するという本発明の効果は確保されている。なお、最大電極長は船体の大きさによって上限が決定されるため、単位流速あたりの列数はそれに基づいて上限が決定される。
【0031】
対向電極16a、16b間の距離は、1mmから20mm程度に配置するのがよい。近すぎるとショートのおそれがある。また、被処理液の流速抵抗も大きくなる。また逆に広すぎると対向電極16a、16b間の電気抵抗が大きくなり、直流電源15の電圧を上げなければならない。対向電極16a、16bは、本体10内において、入水口12から出水口14に向かう流水の流れと平行に配置する。
【0032】
本発明に係る微生物殺滅装置1は、上記の構成を有するため、高い殺滅効果を生み、なおかつ対向電極16a、16bにスケールが蓄積しにくい。これは、以下の理由によると考えられる。
【0033】
図3(a)には、対向電極16a、16bの一部断面を示す。対向する貫通孔20は、被処理液が流れる方向21と平行に配置されると、貫通孔20でない板部20bでは被処理液に圧縮力30が働き、貫通孔20の部分で圧力が開放される。したがって、貫通孔20の部分では貫通孔20をくぐる被処理液32があると考えられる。若しくは、貫通孔20が対向している部分では、渦が生じているといっても良い。
【0034】
この被処理液32は、隣接する複数の対向電極16a、16b間で流れが複雑に入り組み、対向電極16a、16bによる電気分解で発生した次亜塩素酸を本体10全体に拡散する。したがって、微生物は、次亜塩素酸と会合する機会が増える。
【0035】
また、この貫通孔20をくぐる被処理液32は、貫通孔20内で成長するスケールを剥がし、脱離させるという効果も奏する。
【0036】
一方、
図3(b)には、貫通孔20のない平板で形成された対向電極160a、160bを示す。対向電極160a、160bが平板で形成されると、電極間に流れる被処理液が流れる方向21は、層流となる。つまり、対向電極160a、160bに接近するほど流速が低下する。この場合、陽極側で発生した次亜塩素酸は、被処理液が流れる方向21に乗ってそのまま対向電極160bの付近を流れる。つまり、対向電極160b(陰極)の付近の流れに乗った微生物は、次亜塩素酸と会合することなく、死滅しない。
【0037】
ここで、貫通孔20のある場合と、ない場合で、被処理液が流れる方向21に対して平行な流れと直角な流れの大きさをシミュレーションした。
図4には、流れの様子をシミュレートした条件を示す。対向電極16a、16bは全部で9枚、大きさは、270mm×130mmであり、厚さは2.0mmとした。貫通孔20は、等間隔とし、円形で直径は8mmである。長さ方向(被処理液が流れる方向21の方向)に13個、高さ方向に15個設けるとした。
【0038】
対向電極16a、16b間の距離は7mmとし、両側の対向電極16a、16bの外側1mmの位置に、本体10の内壁10iがあるとした。よって、
図4で、長さ方向に直角な方向は76mmとなる。対向電極16a、16bの上下にも、同様に対向電極16a、16bの辺から3mmの位置に本体10の内壁10iがあるとした。従って、本体10は直方体の形状をしている。ここで、被処理水は、本体10の全幅に渡って1.2m/secの流れがあるとした。
【0039】
使用したシミュレーションソフトは、株式会社ソフトウェアクレイドル製の「SCRYU/Tetra(登録商標)」を使用した。表1は、内壁10iと、対向電極16a、16b以外の全要素での流れについて被処理液と平行な方向(水平流れ)と、それと垂直な方向(垂直流れ)の平均値を示したものである。
【0041】
表1を参照して、貫通孔20がない場合(平板)は、「水平流れ」の平均値が1.19m/secで、「垂直流れ」の平均値は0.024m/secであった。一方、貫通孔20がある場合(孔あり)は、「水平流れ」の平均値が1.089m/secであり、「垂直流れ」の平均値は0.052m/secと、貫通孔20がない場合の倍以上の垂直方向の流れがあった。「垂直流れ/水平流れ」の比も、「垂直流れ」の速度成分の差をそのまま反映し、貫通孔20がある場合の方が、平板の場合より2倍以上高い割合を示した。
【0042】
このように、貫通孔20を対向させた対向電極16a、16bは、電極間に整流を流すと、対向電極16a、16b間で攪拌作用を発揮する。この攪拌作用によって、陽極で発生した次亜塩素酸が陰極側まで行き渡り、微生物の死滅効果が高くなる。
【0043】
図5には、微生物殺滅装置1の本体10内で、入水口12と対向電極16a、16bの間に整流板13を設けた例を示す。本発明に係る微生物殺滅装置1は、対向電極16a、16b間で攪拌作用を発揮する。したがって、対向電極16a、16b間に流す被処理液には、渦成分を付与する必要はない。言い換えれば、対向電極16a、16bに整流された被処理液の流れを与えるようにすることで、微生物の死滅効果は向上する。
【0044】
なお、
図5には、入水口12の幅12wから対向電極16a、16bの幅16wに一様に広がるような整流板13を示したが、整流板13の形状はこれに限定されるものではなく、対向電極16a、16b間に一様な流れが与えられる意図で設けられた整流板であれば、完全な整流を発生させるものでなくてもよい。
【実施例】
【0045】
以下に本発明に係る微生物殺滅装置1の実施例を示す。
【0046】
(実施例1)
長さ260mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。1枚の電極には、7から8個の貫通孔(φ8mm)が設けられた貫通孔列25が、25列形成されている。電極1枚あたりの貫通孔20の数は、187個である。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0047】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速0.6m/secで通過させた。流速当たりの列数は43.1(列/(m/sec))であった。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、0(ゼロ)匹であった。条件および結果を表2に示す。これは、IMO基準を十分に達成する値である。
【0048】
なお、本実施例および以下の全ての実施例および比較例において、使用した海水には10,000〜100,000個体/m
3程度のカイアシが存在した。また、本実施例および以下の全ての実施例および比較例において、対向電極16a、16bは、陰極をチタン、陽極はチタンを白金系金属複合合金でコーティングして形成した。
【0049】
(実施例2)
長さ130mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。1枚の電極には、7から8個の貫通孔(φ8mm)が設けられた貫通孔列25が、12列形成されている。1枚あたりの貫通孔20の数は、90個である。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0050】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速0.4m/secで通過させた。流速当たりの列数は30.0(列/(m/sec))であった。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、0(ゼロ)匹であった。条件および結果を表2に示す。これは、IMO基準を十分に達成する値である。
【0051】
(実施例3)
長さ260mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。1枚の電極には、7から8個の貫通孔(φ8mm)が設けられた貫通孔列25が、25列形成されている。1枚あたりの貫通孔20の数は、187個である。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0052】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速0.8m/secで通過させた。流速当たりの列数は30.5(列/(m/sec))であった。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、0(ゼロ)匹であった。条件および結果を表2に示す。これは、IMO基準を十分に達成する値である。
【0053】
(実施例4)
長さ520mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を6リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。1枚の電極には、7から8個の貫通孔(φ8mm)が設けられた貫通孔列25が、50列形成されている。1枚あたりの貫通孔20の数は、374個である。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0054】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速1.7m/secで通過させた。流速当たりの列数は30.1(列/(m/sec))であった。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、0(ゼロ)匹であった。条件および結果を表2に示す。これは、IMO基準を十分に達成する値である。
【0055】
(実施例5)
長さ130mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。1枚の電極には、7から8個の貫通孔(φ8mm)が設けられた貫通孔列25が、12列形成されている。1枚あたりの貫通孔20の数は、90個である。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0056】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速0.5m/secで通過させた。流速当たりの列数は25.5(列/(m/sec))であった。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、0(ゼロ)匹であった。条件および結果を表2に示す。これは、IMO基準を十分に達成する値である。
【0057】
(実施例6)
長さ260mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。1枚の電極には、7から8個の貫通孔(φ8mm)が設けられた貫通孔列25が、25列形成されている。1枚あたりの貫通孔20の数は、187個である。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0058】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速0.9m/secで通過させた。流速当たりの列数は26.6(列/(m/sec))であった。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、0(ゼロ)匹であった。条件および結果を表2に示す。これは、IMO基準を十分に達成する値である。
【0059】
(実施例7)
長さ130mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。1枚の電極には、7から8個の貫通孔(φ8mm)が設けられた貫通孔列25が、12列形成されている。1枚あたりの貫通孔20の数は、90個である。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0060】
ここに8月の大分沖で採取した海水を流速0.4m/secで4時間通過させた。流速当たりの列数は30.0(列/(m/sec))であった。その後海水1トンを流速0.4m/secで通過させた。その海水1トン中の100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、0(ゼロ)匹であった。なお、試験後の対向電極16a、16bの貫通孔20には、スケールで塞がっている部分はなく、また貫通孔20にスケールが蓄積している部分も無かった。条件および結果を表2に示す。これは、IMO基準を十分に達成する値である。
【0061】
(比較例1)
長さ260mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。1枚の電極には、7から8個の貫通孔(φ8mm)が設けられた貫通孔列25が、25列形成されている。1枚あたりの貫通孔20の数は、187個である。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0062】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速1.06m/secで通過させた。流速当たりの列数は23.6(列/(m/sec))であった。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、6匹であった。条件および結果を表2に示す。
【0063】
(比較例2)
長さ260mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。各電極には、貫通孔20のない、平板形状のものを用いた。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で15mg/Lとなるように調節した。ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速0.52m/secで通過させた。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、14匹であった。条件および結果を表2に示す。
【0064】
(比較例3)
長さ260mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。各電極板は、陰極をチタン、陽極はチタンを白金系金属複合合金でコーティングして形成し、板材に千鳥状の切れ目を入れ、伸ばして網目状に加工するエキスパンドメタルに形成したものを用いた。表2では「メッシュ」と記載した。線径は、1.5mmであった。エキスパンドメタルの開口の長径は6mm、短径は3mmであった。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0065】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速0.4m/secで通過させた。殺滅処理した直後に100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、0(ゼロ)匹であった。条件および結果を表2に示す。
【0066】
(比較例4)
長さ260mm、高さ130mmの対向電極16a、16bの10対を3リットルの本体10に収納し、微生物殺滅装置1を作製した。各電極板は、陰極をチタン、陽極はチタンを白金系金属複合合金でコーティングして形成し、板材に千鳥状の切れ目を入れ、伸ばして網目状に加工するエキスパンドメタルに形成したものを用いた。表2では「メッシュ」と記載した。線径は、1.5mmであった。エキスパンドメタルの開口の長径は6mm、短径は3mmであった。対向電極16a、16b間には4Vの直流電圧を印加した。次亜塩素酸濃度は、出水口14で12mg/Lとなるように調節した。
【0067】
ここに8月の大分沖で採取した海水1トンを流速0.4m/secで4時間通過させた。その後海水1トンを流速0.4m/secで通過させた。その海水1トン中の100μm以上のカイアシの生存数を40倍の顕微鏡でカウントしたところ、6匹であった。なお、試験後の対向電極は、スケールが付着し、エキスパンドメタルの開口がふさがり、平板状になっていた。条件および結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2を参照して、対向する貫通孔20を有する実施例1乃至7はどの条件でも、微生物(カイアシ)の生存は認められなかった。また、4時間連続運転後であっても、貫通孔20には、スケールの蓄積は認められなかった。
【0070】
一方、貫通孔20が対向した対向電極16a、16bを用いても、流速が早くなると処理後の被処理水中に生存する微生物の存在が認められた(比較例1)。これは、貫通孔20が対向して形成された対向電極16a、16bであっても、被処理液の流速が早くなると、対向する貫通孔20によってできた渦成分による攪拌作用の効果が発揮されず、次亜塩素酸は、本体10全体に広がらないからと考えられる。
【0071】
また、対向電極の大きさが同じでも貫通孔20が形成されていない場合は、被処理液中に微生物(カイアシ)の生存が認められた(比較例2)。これは従来からの知見の通りであり、
図4及び表1で説明したシミュレーションで示したとおり、被処理液の攪拌作用が発揮されないので、次亜塩素酸の対向電極16a、16b間への拡散が妨げられるからと考えられる。
【0072】
対向電極を、貫通孔20を対向させた対向電極16a、16bと近似した形状であるエキスパンドメタル形状にした場合は、微生物の死滅効果は各実施例同様に高かった(比較例3)。従って、次亜塩素酸の攪拌効果が、微生物の死滅効果を高めるために有用であると言える。
【0073】
しかし、エキスパンドメタル形状は、4時間の連続運転で陰極がスケールで覆われ、平板状態になった。エキスパンドメタルの網目は、平面ではなく、網目のつなぎ部分に3次元形状を有している。この3次元形状の部分に蓄積したスケールが固定され、対向電極間に渦成分による乱流が発生しても、スケールを脱離させることができなかったからと考えられる。