(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコンを含むリン酸水溶液を基板の表面に供給する工程を含み、飽和濃度未満のシリコン濃度を有するリン酸水溶液で基板の表面に液膜を形成しながら当該基板の表面を処理するリン酸処理工程と、
前記リン酸処理工程の後に、基板上のリン酸水溶液の量を減少させる液量減少工程と、
前記液量減少工程の後に、前記リン酸処理工程で基板の表面に形成されるリン酸水溶液の液膜よりも低温のリンス液を前記基板の表面に供給し、前記基板の表面上のリン酸水溶液を当該リンス液で置換するリンス置換工程と、
前記液量減少工程が終了するまで、基板上のリン酸水溶液の液膜中のシリコンの濃度を飽和濃度未満に維持する第1濃度維持工程と、
前記リンス置換工程においてリンス液の供給が終了するまで、基板上の液体におけるシリコンの濃度を飽和濃度未満に維持する第2濃度維持工程とを含む、基板処理方法。
前記リンス置換工程において基板の表面に供給されるリンス液の温度は、前記リン酸処理工程で基板の表面に形成されたリン酸水溶液の液膜よりも低く、室温よりも高い、請求項1に記載の基板処理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板に供給されるリン酸水溶液には通常シリコンが含まれている。シリコンの濃度が適切な範囲であれば、エッチングの選択比(シリコン窒化膜のエッチング量/シリコン酸化膜のエッチング量)が高められる。しかしながら、高温のリン酸水溶液が供給された後に室温の純水を基板に供給すると、基板上のリン酸水溶液の温度が下がり、シリコンの飽和濃度が低下する。そのため、リン酸水溶液中のシリコンの濃度が飽和濃度以下となり、リン酸水溶液からシリコンが析出する。このシリコンを含む析出物が基板の上面に残り、基板が汚染される。
【0005】
そこで、本発明の目的の一つは、リン酸水溶液をリンス液で洗い流すときにリン酸水溶液から析出する析出物の量を低減できる基板処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、シリコンを含むリン酸水溶液を基板の表面に供給する工程を含み、飽和濃度未満のシリコン濃度を有するリン酸水溶液で基板の表面に液膜を形成しながら当該基板の表面を処理するリン酸処理工程と、前記リン酸処理工程の後に、基板上のリン酸水溶液の量を減少させる液量減少工程と、前記液量減少工程の後に、前記リン酸処理工程で基板の表面に形成されるリン酸水溶液の液膜よりも低温のリンス液を前記基板の表面に供給し、基板の表面上のリン酸水溶液をリンス液で置換するリンス置換工程と
、前記液量減少工程が終了するまで、基板上のリン酸水溶液の液膜中のシリコンの濃度を飽和濃度未満に維持する第1濃度維持工程と、前記リンス置換工程においてリンス液の供給が終了するまで、基板上の液体におけるシリコンの濃度を飽和濃度未満に維持する第2濃度維持工程とを含む、基板処理方法である。
【0007】
この方法によれば、飽和濃度未満のシリコン濃度を有するリン酸水溶液で基板の表面に液膜を形成しながら基板の表面が処理される。その後、リン酸水溶液が基板から排出される。これにより、基板上のリン酸水溶液の量が減少する。したがって、基板の表面に残留しているシリコンの量も減少する。リンス液は、基板上のリン酸水溶液の量を減少させた後、基板の表面に供給される。これにより、基板の表面上のリン酸水溶液がリンス液で置換される。
【0008】
基板の表面にリン酸水溶液の液膜が形成されている状態で、この液膜のリン酸水溶液よりも低温のリンス液を基板に供給すると、基板上の液膜のリン酸水溶液の温度が低下する。そのため、リン酸水溶液の液膜中のシリコンの濃度が飽和濃度以上になり、リン酸水溶液に含まれるシリコンの一部が析出する場合がある。しかしながら、リンス液を供給する前に基板上のリン酸水溶液に含まれるシリコンの量を減少させるので、シリコンが析出したとしても、その総量は減少する。したがって、シリコンを含む析出物によって基板が汚染されることを抑制または防止できる。
さらに、この方法によれば、飽和濃度未満のシリコン濃度を有するリン酸水溶液の液膜を基板の表面に形成しながら基板の表面が処理される。その後、リン酸水溶液が基板から排出される。基板上のリン酸水溶液の液膜中のシリコンの濃度は、リン酸水溶液の供給が開始されてからリン酸水溶液の排出が終了するまで飽和濃度未満に維持される。したがって、この期間中にシリコンが析出して基板が汚染されることを抑制または防止できる。
さらに、この方法によれば、飽和濃度未満のシリコン濃度を有するリン酸水溶液の液膜を基板の表面に形成しながら基板の表面が処理される。リンス液は、基板上のリン酸水溶液の量が低減された後、基板の表面に供給される。基板上のリン酸水溶液の液膜中のシリコンの濃度は、リン酸処理工程中からリンス液の供給が終了するまで飽和濃度未満に維持される。したがって、この期間中にシリコンが析出して基板が汚染されることを抑制または防止できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記リンス置換工程において基板の表面に供給されるリンス液の温度は、前記リン酸処理工程で基板の表面に形成されたリン酸水溶液の液膜よりも低く、室温よりも高い、請求項1に記載の基板処理方法である。
この方法によれば、室温よりも高温のリンス液が基板の表面のリン酸水溶液の液膜に供給される。基板の表面にリン酸水溶液の液膜が形成されている状態で、リン酸水溶液の液膜よりも低温のリンス液を基板に供給すると、基板上のリン酸水溶液の温度が低下する。しかしながら、リンス液の温度が室温よりも高いので、リン酸水溶液の温度低下量が低減される。これにより、リン酸水溶液のシリコンの飽和濃度の低下量が低減されるので、リンス液の供給によってリン酸水溶液からシリコンが析出することを抑制または防止できる。
【0011】
基板を通る鉛直線まわりに基板を回転させることにより、リン酸水溶液を基板から排出する場合、基板の回転によって基板上のリン酸水溶液の温度が低下する。この場合、第1濃度維持工程は、基板上のリン酸水溶液の液膜中のシリコンの濃度が飽和濃度未満に維持される回転速度で基板を回転させる工程を含んでいてもよい。第1濃度維持工程は、リン酸水溶液の温度低下によってシリコンの飽和濃度が低下したとしても、リン酸水溶液の液膜中のシリコンの濃度が飽和濃度以上とならない温度のリン酸水溶液を基板の表面に供給する工程を含んでいてもよい。
【0013】
第2濃度維持工程は、前記リンス置換工程においてリンス液の供給が終了するまで、基板上の液体におけるシリコンの濃度が飽和濃度未満に維持される温度のリンス液を基板の表面に供給する工程と、前記リンス置換工程においてリンス液の供給が終了するまで、基板上の液体におけるシリコンの濃度が飽和濃度未満に維持される濃度のシリコンを含むリン酸水溶液を基板の表面に供給する工程の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0014】
請求項
3に記載の発明は、前記リン酸処理工程は、リン酸水溶液を基板の表面に供給することにより、基板の表面全域を覆うリン酸水溶液の液膜を形成する工程を含み、前記液量減少工程は、基板の表面全域を覆うリン酸水溶液の液膜を維持しながら、基板上のリン酸水溶液の量を減少させる工程である、請求項1
または2に記載の基板処理方法である。
【0015】
この方法によれば、基板の表面全域を覆うリン酸水溶液の液膜が形成される。その後、リン酸水溶液の排出が終了するまで、基板の表面全域がリン酸水溶液で覆われている状態が維持される。つまり、基板の表面全域を覆うリン酸水溶液の液膜の厚みが減少していく。基板の表面の一部が露出すると、パーティクルが付着しやすくなったり、ウォーターマークが発生するなどの処理不良が基板に発生する場合がある。したがって、基板の表面全域がリン酸水溶液で覆われている状態を維持することにより、処理不良の発生を抑制または防止できる。
【0016】
請求項
4に記載の発明は、前記基板処理方法は、前記リン酸処理工程の前に、プリウェット液を基板の表面に供給するプリウェット工程をさらに含み、前記リン酸処理工程は、少なくとも一部がプリウェット液で覆われている基板の表面にリン酸水溶液を供給する工程を含む、請求項1〜
3のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
基板の温度がリン酸水溶液の温度よりも低い場合、リン酸水溶液の供給開始時に基板に着液したリン酸水溶液は、温度が低下する。ある程度の時間が経つと基板が温まるので、リン酸水溶液の温度の低下量が減少する。この方法によれば、プリウェット液で覆われている基板の表面にリン酸水溶液が供給される。リン酸水溶液は、基板上でプリウェット液と混ざり合う。つまり、リン酸水溶液の供給開始時に基板に着液したリン酸水溶液は、プリウェット液で希釈される。これにより、シリコンの濃度が低下する。そのため、リン酸水溶液の温度低下によってシリコンの飽和濃度が低下したとしても、シリコンの濃度が飽和濃度以上になり難い。したがって、シリコンの析出を抑制または防止できる。もしくは、シリコンの析出量を低減できる。
【0017】
請求項
5に記載の発明は、前記プリウェット工程で基板に供給されるプリウェット液の温度は、室温よりも高い、請求項
4に記載の基板処理方法である。
この方法によれば、室温よりも高温のプリウェット液で覆われている基板の表面にリン酸水溶液が供給される。プリウェット液の温度が室温よりも高いので、リン酸水溶液の供給開始時に基板に着液したリン酸水溶液の温度の低下量が低減される。これにより、シリコンの飽和濃度の低下量が低減される。そのため、シリコンの濃度が飽和濃度以上になり難い。
【0018】
請求項
6に記載の発明は、前記リン酸処理工程は、温度が沸点近傍のリン酸水溶液を基板の表面に供給する工程を含み、前記リンス置換工程において基板に供給されるリンス液の沸点は、前記リン酸処理工程において基板に供給されるリン酸水溶液の沸点よりも低い、請求項1〜
5のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
この方法によれば、温度が沸点近傍のリン酸水溶液が基板の表面に供給される。リン酸水溶液の沸点がリンス液の沸点よりも高いので、沸点付近まで加熱したリンス液を基板に供給したとしても、基板上のリン酸水溶液の温度が低下してしまう。このような場合でも、基板上のリン酸水溶液の量を減少させることにより、シリコンの析出を抑制または防止できる。もしくは、シリコンの析出量を低減できる。これにより、シリコンを含む析出物によって基板が汚染されることを抑制または防止できる。
【0019】
請求項
7に記載の発明は、前記リン酸処理工程と並行して、基板上のリン酸水溶液を加熱する加熱工程をさらに含む、請求項1〜
6のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
この方法によれば、基板上のリン酸水溶液を室温よりも高い所定の温度に維持できる。したがって、シリコンの濃度を飽和濃度未満に維持でき、高い基板処理効率(高いエッチングレートなど)を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る基板処理装置1に備えられた処理ユニット2の内部を水平に見た模式図である。
基板処理装置1は、半導体ウエハなどの円板状の基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。基板処理装置1は、処理液や処理ガスなどの処理流体を用いて基板Wを処理する処理ユニット2と、処理ユニット2に基板Wを搬送する搬送ロボット(図示せず)と、基板処理装置1を制御する制御装置3とを含む。
【0022】
図1に示すように、処理ユニット2は、内部空間を有する箱形のチャンバー4と、チャンバー4内で基板Wを水平に保持して基板Wの中心を通る鉛直な回転軸線A1まわりに基板Wを回転させるスピンチャック5と、基板Wに処理液を供給する複数のノズルと、スピンチャック5を取り囲む筒状のカップ9と、基板Wを加熱する赤外線ヒータ31とを含む。
【0023】
図1に示すように、チャンバー4は、スピンチャック5等を収容する箱形の隔壁11と、隔壁11の上部から隔壁11内に清浄空気(フィルターによってろ過された空気)を送る送風ユニットとしてのFFU12(ファン・フィルタ・ユニット12)と、カップ9の底部からチャンバー4内の気体を排出する排気ダクト13とを含む。FFU12は、隔壁11の上方に配置されている。FFU12は、隔壁11の天井からチャンバー4内に下向きに清浄空気を送る。排気ダクト13は、カップ9の底部に接続されており、基板処理装置1が設置される工場に設けられた排気設備に向けてチャンバー4内の気体を案内する。したがって、チャンバー4内を上方から下方に流れるダウンフロー(下降流)が、FFU12および排気ダクト13によって形成される。基板Wの処理は、チャンバー4内にダウンフローが形成されている状態で行われる。
【0024】
図1に示すように、スピンチャック5は、水平な姿勢で保持された円板状のスピンベース14と、スピンベース14の上方で基板Wを水平な姿勢で保持する複数のチャックピン15と、スピンベース14の中央部から下方に延びるスピン軸16と、スピン軸16を回転させることにより基板Wおよびスピンベース14を回転軸線A1まわりに回転させる基板回転手段としてのスピンモータ17とを含む。スピンチャック5は、複数のチャックピン15を基板Wの周端面に接触させる挟持式のチャックに限らず、非デバイス形成面である基板Wの裏面(下面)をスピンベース14の上面に吸着させることにより基板Wを水平に保持するバキューム式のチャックであってもよい。
【0025】
図1に示すように、カップ9は、スピンチャック5に保持されている基板Wよりも外方(回転軸線A1から離れる方向)に配置されている。カップ9は、スピンベース14を取り囲んでいる。スピンチャック5が基板Wを回転させている状態で、処理液が基板Wに供給されると、基板Wに供給された処理液が基板Wの周囲に振り切られる。処理液が基板Wに供給されるとき、上向きに開いたカップ9の上端部9aは、スピンベース14よりも上方に配置される。したがって、基板Wの周囲に排出された薬液やリンス液などの処理液は、カップ9によって受け止められる。そして、カップ9に受け止められた処理液は、図示しない回収装置または排液装置に送られる。
【0026】
図1に示すように、処理ユニット2は、スピンチャック5に保持されている基板Wに向けてリン酸水溶液を吐出するリン酸ノズル18と、リン酸ノズル18にリン酸水溶液を供給するリン酸配管19と、リン酸配管19からリン酸ノズル18へのリン酸水溶液の供給および供給停止を切り替えるリン酸バルブ20と、リン酸ノズル18に供給されるリン酸水溶液の温度を室温(20℃〜30℃の範囲内の所定温度)よりも高い温度まで上昇させる温度調節器21とを含む。
【0027】
リン酸バルブ20が開かれると、温度調節器21によって温度調節されたリン酸水溶液が、リン酸配管19からリン酸ノズル18に供給され、リン酸ノズル18から吐出される。温度調節器21は、リン酸水溶液の温度をたとえば80〜215℃の範囲内の一定温度に維持している。温度調節器21によって調節されるリン酸水溶液の温度は、その濃度における沸点であってもよいし、沸点未満の温度であってもよい。
【0028】
リン酸水溶液は、リン酸(H
3PO
4)を主成分とする水溶液である。リン酸の濃度は、たとえば、50%〜100%の範囲、好ましくは90%前後である。リン酸水溶液の沸点は、リン酸の濃度によって異なるが、概略140℃〜195℃の範囲である。リン酸水溶液は、シリコンを含む。シリコンの濃度は、たとえば15〜150ppm、好ましくは40〜60ppmである。リン酸水溶液に含まれるシリコンは、シリコン単体またはシリコン化合物であってもよいし、シリコン単体およびシリコン化合物の両方であってもよい。また、リン酸水溶液に含まれるシリコンは、リン酸水溶液の供給によって基板Wから溶け出したシリコンであってもよいし、リン酸水溶液に添加されたシリコンであってもよい。
図7に示す飽和濃度曲線を見ると分かるように、シリコンの飽和濃度は、リン酸水溶液の温度に従って変化する。シリコンの濃度およびリン酸水溶液の温度は、シリコンの濃度が飽和濃度未満となるように調整されている。
【0029】
図1に示すように、処理ユニット2は、リン酸ノズル18が先端部に取り付けられたノズルアーム22と、スピンチャック5の周囲で上下方向に延びる回動軸線A2まわりにノズルアーム22を回動させると共に回動軸線A2に沿って鉛直方向にノズルアーム22を上下動させることにより、リン酸ノズル18を水平および鉛直に移動させるノズル移動ユニット23とを含む。ノズル移動ユニット23は、リン酸ノズル18から吐出されたリン酸水溶液が基板Wの上面に供給される処理位置と、リン酸ノズル18が平面視で基板Wの周囲に退避した退避位置との間で、リン酸ノズル18を水平に移動させる。
【0030】
図1に示すように、処理ユニット2は、スピンチャック5に保持されている基板Wに向けてSC1(NH
4OHとH
2O
2とを含む混合液)を吐出するSC1ノズル24と、SC1ノズル24にSC1を供給するSC1配管25と、SC1配管25からSC1ノズル24へのSC1の供給および供給停止を切り替えるSC1バルブ26と、SC1ノズル24を水平および鉛直に移動させるノズル移動ユニット27とを含む。SC1バルブ26が開かれると、SC1配管25からSC1ノズル24に供給されたSC1が、SC1ノズル24から吐出される。ノズル移動ユニット27は、SC1ノズル24から吐出されたSC1が基板Wの上面に供給される処理位置と、SC1ノズル24が平面視で基板Wの周囲に退避した退避位置との間で、SC1ノズル24を水平に移動させる。
【0031】
図1に示すように、処理ユニット2は、スピンチャック5に保持されている基板Wに向けてリンス液を吐出するリンス液ノズル28と、リンス液ノズル28にリンス液を供給するリンス液配管29と、リンス液配管29からリンス液ノズル28へのリンス液の供給および供給停止を切り替えるリンス液バルブ30とを含む。
リンス液ノズル28は、リンス液ノズル28の吐出口が静止された状態でリンス液を吐出する固定ノズルである。処理ユニット2は、リンス液ノズル28を移動させることにより、基板Wの上面に対するリンス液の着液位置を移動させるノズル移動ユニットを備えていてもよい。リンス液バルブ30が開かれると、リンス液配管29からリンス液ノズル28に供給されたリンス液が、リンス液ノズル28から基板Wの上面中央部に向けて吐出される。
【0032】
図1に示すように、処理ユニット2は、スピンチャック5に保持されている基板Wに向けてリンス液を吐出するリンス液ノズル38と、リンス液ノズル38にリンス液を供給するリンス液配管39と、リンス液配管39からリンス液ノズル38へのリンス液の供給および供給停止を切り替えるリンス液バルブ40と、リンス液ノズル38に供給されるリンス液の温度を室温よりも高い温度まで上昇させる温度調節器41とを含む。
【0033】
リンス液ノズル38は、リンス液ノズル38の吐出口が静止された状態でリンス液を吐出する固定ノズルである。処理ユニット2は、リンス液ノズル38を移動させることにより、基板Wの上面に対するリンス液の着液位置を移動させるノズル移動ユニットを備えていてもよい。リンス液バルブ40が開かれると、温度調節器41によって室温よりも高い所定温度(たとえば、40〜90℃)に調節されたリンス液が、リンス液配管39からリンス液ノズル38に供給され、リンス液ノズル38から基板Wの上面中央部に向けて吐出される。
【0034】
リンス液ノズル28およびリンス液ノズル38から吐出されるリンス液は、たとえば、純水(脱イオン水:Deionized Water)である。リンス液は、純水に限らず、炭酸水、電解イオン水、水素水、オゾン水、IPA(イソプロピルアルコール)、および希釈濃度(たとえば、10〜100ppm程度)の塩酸水のいずれかであってもよい。また、同じ種類のリンス液が、リンス液ノズル28およびリンス液ノズル38から吐出されてもよいし、異なる種類のリンス液が、リンス液ノズル28およびリンス液ノズル38から吐出されてもよい。
【0035】
図1に示すように、処理ユニット2は赤外線を基板Wに照射する赤外線ヒータ31と、赤外線ヒータ31が先端部に取り付けられたヒータアーム32と、ヒータアーム32を移動させるヒータ移動ユニット33とを含む。赤外線ヒータ31は、赤外線を発する赤外線ランプ34と、赤外線ランプ34を収容するランプハウジング35とを含む。赤外線ランプ34は、ランプハウジング35内に配置されている。
【0036】
図2に示すように、ランプハウジング35は、平面視で基板Wよりも小さい。したがって、ランプハウジング35内に配置されている赤外線ヒータ31は、平面視で基板Wよりも小さい。赤外線ランプ34およびランプハウジング35は、ヒータアーム32に取り付けられている。したがって、赤外線ランプ34およびランプハウジング35は、ヒータアーム32と共に移動する。
【0037】
赤外線ランプ34は、フィラメントと、フィラメントを収容する石英管とを含む。赤外線ランプ34(例えば、ハロゲンランプ)は、カーボンヒータであってもよいし、これら以外の発熱体であってもよい。ランプハウジング35の少なくとも一部は、石英などの光透過性および耐熱性を有する材料で形成されている。赤外線ランプ34は、赤外線を含む光を放出する。この赤外線を含む光は、ランプハウジング35を透過してランプハウジング35の外表面から放射され、あるいは、ランプハウジング35を加熱してその外表面から輻射光を放射させる。
【0038】
図1に示すように、ランプハウジング35は、基板Wの上面と平行な底壁を有している。赤外線ランプ34は、底壁の上方に配置されている。底壁の下面は、基板Wの上面と平行でかつ平坦な基板対向面を含む。赤外線ヒータ31が基板Wの上方に配置されている状態では、ランプハウジング35の基板対向面が、間隔を空けて基板Wの上面に上下方向に対向する。この状態で赤外線ランプ34が赤外線を発すると、赤外線が、ランプハウジング35の基板対向面を透過して基板Wの上面に照射される。基板対向面は、たとえば、直径が基板Wの半径よりも小さい円形である。基板対向面は、円形に限らず、長手方向の長さが基板Wの半径以上である矩形状であってもよいし、円形および矩形以外の形状であってもよい。
【0039】
図1に示すように、ヒータ移動ユニット33は、赤外線ヒータ31を所定の高さで保持している。ヒータ移動ユニット33は、赤外線ヒータ31を鉛直に移動させる。さらに、ヒータ移動ユニット33は、スピンチャック5の周囲で上下方向に延びる回動軸線A3まわりにヒータアーム32を回動させることにより、赤外線ヒータ31を水平に移動させる。これにより、赤外線等の光が照射され加熱される加熱領域(基板Wの上面内の一部の領域)が基板Wの上面内で移動する。
図2に示すように、ヒータ移動ユニット33は、平面視で基板Wの中心を通る円弧状の経路に沿ってヒータアーム32の先端部を水平に移動させる。したがって、赤外線ヒータ31は、スピンチャック5の上方を含む水平面内で移動する。
【0040】
赤外線ヒータ31からの赤外線は、基板Wの上面内の加熱領域に照射される。制御装置3は、赤外線ヒータ31が発光している状態で、スピンチャック5によって基板Wを回転させながら、ヒータ移動ユニット33によって赤外線ヒータ31を回動軸線A3まわりに回動させる。これにより、基板Wの上面が、赤外線ヒータ31の加熱領域によって走査される。したがって、赤外線等の光が基板Wの上面および当該基板Wの上面に保持されている処理液の液膜の少なくとも一方に吸収され、輻射熱が赤外線ランプ34から基板Wに伝達される。そのため、処理液などの液体が基板W上に保持されている状態で赤外線ランプ34が発光すると、基板Wの温度が上昇し、それに伴って、基板W上の液体の温度も上昇する。あるいは基板W上の液体自体が加熱され昇温する。
【0041】
図3は、処理ユニット2によって行われる基板Wの処理の一例について説明するための工程図である。以下では、
図1および
図2を参照する。
図3については適宜参照する。
以下では、シリコン窒化膜の一例であるLP−SiN(Low Pressure -Silicon Nitride)の薄膜と、シリコン酸化膜の一例であるLP−TEOS(Low Pressure -Tetraethyl orthosilicate)の薄膜とが表層に形成された基板W(シリコンウエハ)の表面(デバイス形成面)にリン酸水溶液を供給して、LP−SiNの薄膜を選択的にエッチングする選択エッチングの例について説明する。シリコン酸化膜は、TEOSの薄膜に限らず、熱酸化膜であってもよいし、シリケートガラス(silicate glass)系の酸化膜であってもよい。
【0042】
処理ユニット2によって基板Wが処理されるときには、チャンバー4内に基板Wを搬入する搬入工程(
図3のステップS1)が行われる。
具体的には、制御装置3は、全てのノズルがスピンチャック5の上方から退避している状態で、基板Wを保持している搬送ロボット(図示せず)のハンドをチャンバー4内に進入させる。そして、制御装置3は、搬送ロボットに基板Wをスピンチャック5上に載置させ、スピンチャック5に基板Wを保持させる。続いて、制御装置3は、搬送ロボットのハンドをチャンバー4内から退避させる。その後、制御装置3は、スピンチャック5に基板Wを回転させる。
【0043】
次に、プリウェット液の一例である純水を基板Wに供給するプリウェット工程(
図3のステップS2)が行われる。
具体的には、制御装置3は、リンス液バルブ40を開いて、温度調節器41によって温度が調節された室温よりも高温(たとえば、60℃)の純水(以下では、「温水」ともいう。)を回転している基板Wの上面中央部に向けてリンス液ノズル38に吐出させる。リンス液ノズル38から吐出された温水は、基板Wの上面に着液した後、基板Wの上面に沿って外方に流れる。そのため、温水が基板Wの上面全域に供給され、基板Wの上面全域を覆う温水の液膜が基板W上に形成される。リンス液バルブ40が開かれてから所定時間が経過すると、制御装置3は、リンス液バルブ40を閉じて純水の吐出を停止させる。
【0044】
次に、エッチング液の一例であるリン酸水溶液を基板Wに供給して基板Wの表面に高温のリン酸水溶液の液膜を形成しながら基板Wの表面をエッチング処理するリン酸処理工程(
図3のステップS3)と、基板W上のリン酸水溶液を加熱する加熱工程(
図3のステップS3)とが並行して行われる。
リン酸処理工程に関しては、制御装置3は、ノズル移動ユニット23を制御することにより、リン酸ノズル18を退避位置から処理位置に移動させる。これにより、リン酸ノズル18が基板Wの上方に配置される。その後、制御装置3は、リン酸バルブ20を開く。これにより、温度がたとえば160〜195℃でシリコンの濃度が飽和濃度未満のリン酸水溶液が、回転している基板Wの上面に向けてリン酸ノズル18から吐出される。このとき、制御装置3は、基板Wの上面に対するリン酸水溶液の着液位置が中央部と周縁部との間で移動するようにノズル移動ユニット23にリン酸ノズル18を移動させてもよいし、リン酸水溶液の着液位置が基板Wの上面内で静止するようにノズル移動ユニット23を制御してもよい。リン酸バルブ20が開かれてから所定時間が経過すると、制御装置3は、リン酸バルブ20を閉じて、リン酸ノズル18からのリン酸水溶液の吐出を停止させる。
【0045】
リン酸ノズル18から吐出されたリン酸水溶液は、温水の液膜によって覆われている基板Wの上面に着液した後、基板Wの上面に沿って外方に流れる。そのため、基板W上の温水の液膜が、基板Wの上面全域を覆うリン酸水溶液の液膜に置換される。これにより、基板Wの上面がエッチングされ、シリコン窒化膜が選択的に除去される。リン酸水溶液の液膜は飽和濃度未満のシリコン濃度を有している。また、基板Wの周囲に飛散したリン酸水溶液は、カップ9を介して回収装置に案内される。回収装置に案内されたリン酸水溶液は、再び基板Wに供給される。これにより、リン酸水溶液の使用量が低減される。
【0046】
加熱工程に関しては、制御装置3は、赤外線ヒータ31からの発光を開始させる。その後、制御装置3は、ヒータ移動ユニット33に赤外線ヒータ31を退避位置から処理位置に移動させる。このとき、制御装置3は、赤外線ヒータ31の基板対向面を基板W上のリン酸水溶液の液膜に接触させてもよいし、赤外線ヒータ31の基板対向面を基板W上のリン酸水溶液の液膜から所定距離だけ離隔させてもよい。また、制御装置3は、基板Wの上面に対する赤外線の照射領域が中央部と周縁部との間で移動するようにヒータ移動ユニット33に赤外線ヒータ31を水平に移動させてもよいし、赤外線の照射領域が基板Wの上面内で静止するようにヒータ移動ユニット33を制御してもよい。制御装置3は、赤外線ヒータ31による基板Wの加熱が所定時間にわたって行われた後、赤外線ヒータ31を基板Wの上方から退避させる。その後、制御装置3は、赤外線ヒータ31の発光を停止させる。
【0047】
基板Wの上面に対する赤外線の照射位置が中央部および周縁部との間で往復移動する場合、基板Wが均一に加熱される。したがって、基板Wの上面全域を覆うリン酸水溶液の液膜も均一に加熱される。赤外線ヒータ31による基板Wの加熱温度は、リン酸水溶液のその濃度における沸点近傍の温度(100℃以上。たとえば、140℃〜195℃内の所定温度)に設定されている。したがって、基板W上のリン酸水溶液が、その濃度における沸点まで加熱され、沸騰状態に維持される。特に、赤外線ヒータ31による基板Wの加熱温度が、リン酸水溶液のその濃度における沸点よりも高温に設定されている場合には、基板Wとリン酸水溶液との界面の温度が、沸点よりも高温に維持され、基板Wのエッチングが促進される。
【0048】
次に、基板W上のリン酸水溶液の量を減少させる液量減少工程(
図3のステップS4)が行われる。
具体的には、制御装置3は、リン酸ノズル18からのリン酸水溶液の吐出が停止されている状態で、基板Wを所定の回転速度で所定時間回転させる。遠心力が基板W上のリン酸水溶液に加わるので、リン酸水溶液が基板Wから排出される。リン酸ノズル18からのリン酸水溶液の供給が停止されている。したがって、基板W上のリン酸水溶液の量が減少する。そのため、リン酸水溶液の液膜の厚みが減少する。つまり、基板Wの上面全域がリン酸水溶液の液膜で覆われている状態で、基板W上のリン酸水溶液の量が減少する。
【0049】
リン酸処理工程における基板Wの回転速度(リン酸処理速度)が200rpmの場合、液量減少工程における基板Wの回転速度(液量減少速度)は、たとえば200rpmである。液量減少速度は、リン酸処理速度と等しくてもよいし、リン酸処理速度より大きいまたは小さくてもよい。また、液量減少速度で基板Wを回転させている時間(液量減少時間)は、たとえば、15秒である。
【0050】
次に、リンス液の一例である純水を基板Wに供給し、基板Wの表面上のリン酸水溶液をリンス液に置換する第1リンス置換工程(
図3のステップS5)が行われる。
具体的には、制御装置3は、リンス液バルブ40を開いて、回転している基板Wの上面中央部に向けてたとえば60℃の温水をリンス液ノズル38に吐出させる。リンス液ノズル38から吐出された温水は、基板Wの上面に着液した後、基板Wの上面に沿って外方に流れる。基板W上のリン酸水溶液の一部は、基板Wの上面に供給された温水と混ざり合う。そのため、温水の供給当初は、リン酸水溶液を含む温水の液膜が基板W上に形成される。温水中のリン酸水溶液の濃度は、時間の経過と共に減少していく。したがって、温水の供給が開始されてから所定時間が経過すると、全てまたは殆ど全てのリン酸水溶液が基板Wから排出され、基板W上のリン酸水溶液の液膜が、基板Wの上面全域を覆う温水の液膜に置換される。リンス液バルブ40が開かれてから所定時間が経過すると、制御装置3は、リンス液バルブ40を閉じて純水の吐出を停止させる。
【0051】
次に、薬液の一例であるSC1を基板Wに供給する薬液供給工程(
図3のステップS6)が行われる。
具体的には、制御装置3は、ノズル移動ユニット27を制御することにより、SC1ノズル24を退避位置から処理位置に移動させる。制御装置3は、SC1ノズル24が基板Wの上方に配置された後、SC1バルブ26を開いて、回転している基板Wの上面に向けてSC1をSC1ノズル24に吐出させる。制御装置3は、この状態でノズル移動ユニット27を制御することにより、基板Wの上面に対するSC1の着液位置を中央部と周縁部との間で往復移動させる。そして、SC1バルブ26が開かれてから所定時間が経過すると、制御装置3は、SC1バルブ26を閉じてSC1の吐出を停止させる。その後、制御装置3は、ノズル移動ユニット27を制御することにより、SC1ノズル24を基板Wの上方から退避させる。
【0052】
SC1ノズル24から吐出されたSC1は、基板Wの上面に着液した後、基板Wの上面に沿って外方に流れる。そのため、基板W上の純水は、SC1によって外方に押し流され、基板Wの周囲に排出される。これにより、基板W上の純水の液膜が、基板Wの上面全域を覆うSC1の液膜に置換される。さらに、制御装置3は、基板Wが回転している状態で、基板Wの上面に対するSC1の着液位置を中央部と周縁部との間で移動させるので、SC1の着液位置が、基板Wの上面全域を通過し、基板Wの上面全域が走査される。そのため、SC1ノズル24から吐出されたSC1が、基板Wの上面全域に直接吹き付けられ、基板Wの上面全域が均一に処理される。
【0053】
次に、リンス液の一例である純水を基板Wに供給し基板W上のSC1の液膜を純水に置換する第2リンス置換工程(
図3のステップS7)が行われる。
具体的には、制御装置3は、リンス液バルブ30を開いて、回転している基板Wの上面中央部に向けて純水をリンス液ノズル28に吐出させる。これにより、基板W上のSC1が、純水によって外方に押し流され、基板Wの周囲に排出される。そのため、基板W上のSC1の液膜が、基板Wの上面全域を覆う純水の液膜に置換される。そして、リンス液バルブ30が開かれてから所定時間が経過すると、制御装置3は、リンス液バルブ30を閉じて純水の吐出を停止させる。
【0054】
次に、基板Wを乾燥させる乾燥工程(
図3のステップS8)が行われる。
具体的には、制御装置3は、スピンチャック5によって基板Wを回転方向に加速させて、第2リンス置換工程までの回転速度よりも速い高回転速度(たとえば500〜3000rpm)で基板Wを回転させる。これにより、大きな遠心力が基板W上の液体に加わり、基板Wに付着している液体が基板Wの周囲に振り切られる。このようにして、基板Wから液体が除去され、基板Wが乾燥する。そして、基板Wの高速回転が開始されてから所定時間が経過すると、制御装置3は、スピンチャック5による基板Wの回転を停止させる。
【0055】
次に、基板Wをチャンバー4内から搬出する搬出工程(
図3のステップS9)が行われる。
具体的には、制御装置3は、スピンチャック5による基板Wの保持を解除させる。その後、制御装置3は、全てのノズルがスピンチャック5の上方から退避している状態で、搬送ロボット(図示せず)のハンドをチャンバー4内に進入させる。そして、制御装置3は、搬送ロボットのハンドにスピンチャック5上の基板Wを保持させる。その後、制御装置3は、搬送ロボットのハンドをチャンバー4内から退避させる。これにより、処理済みの基板Wがチャンバー4から搬出される。
【0056】
図4は、リン酸処理工程、液量減少工程、および第1リンス置換工程が実行されているときの基板Wの状態を示す模式図である。
図5は、リン酸処理工程、液量減少工程、および第1リンス置換工程の各工程における液量等を示す表である。
図4(a)に示すように、直径300mmの基板Wを200rpmの回転速度で回転させながら、リン酸水溶液を1L/minの流量で基板Wの上面に供給したとき、リン酸水溶液の液膜の厚みが至る所で180μmであると仮定すると、「π×(基板Wの半径)
2×液膜の厚み」の計算式により、約13cc(12.700cc)のリン酸水溶液の液膜が基板W上に保持される。このリン酸水溶液の液膜の液温は170℃であり、シリコン濃度は40ppmである。
図7および
図8を見ると分かるように、このときのシリコン濃度は飽和濃度未満である。
【0057】
図4(b)に示すように、基板Wの上面全域がリン酸水溶液の液膜で覆われた後に、基板Wの回転速度を200rpmに維持しながら、リン酸水溶液の供給を停止させると、リン酸水溶液の供給を停止してから15秒後には、約11ccのリン酸水溶液が基板Wから排出され、約2ccのリン酸水溶液が基板W上に残る。
図4(c)に示すように、基板W上のリン酸水溶液の量を減少させた後に、基板Wの回転速度を200rpmに維持しながら、温水を2L/minの流量で基板Wの上面に供給したとき、温水の液膜の厚みが至る所で187μmであると仮定すると、前記の計算式により、約13cc(13.200cc)の温水が基板W上に保持される。
【0058】
リン酸水溶液の供給を停止してから15秒後には、約2ccのリン酸水溶液が基板W上に残る。リン酸水溶液中のシリコンの濃度が40ppmの場合、「リン酸水溶液の体積(2cc×10
−6)×リン酸水溶液の密度(1.62×10
6g/m
3)×シリコンの濃度(40ppm×10
−6)」の計算式により、リン酸水溶液の供給を停止してから15秒後(液量減少工程の終了後)には、0.0001296g(
図5参照)のシリコンが基板W上に残る。
【0059】
2ccのリン酸水溶液と13.2ccの温水とが基板W上で混ざり合うと仮定すると、基板W上の液体中におけるシリコンの濃度は、「シリコンの質量(0.0001296g)/{リン酸水溶液の体積(2cc×10
−6)×リン酸水溶液の密度(1.62×10
6g/m
3))+(温水の体積(13.2cc×10
−6)×温水の密度(1.00×10
6g/m
3)}」の計算式により、約7.883ppm(
図5参照)となる。
【0060】
図5の液量減少工程の列に示すように、シリコンの濃度が40ppmで温度が170℃のリン酸水溶液を基板Wに供給した後に、リン酸水溶液の量を減少させた場合、基板W上のリン酸水溶液の温度は、約120℃であり、基板W上のリン酸水溶液におけるシリコンの濃度は、40ppmである。
図7および
図8を見ると分かるように、このときのシリコン濃度は、飽和濃度以上である。
【0061】
図示はしないが、シリコンの濃度が40ppmで温度が180℃のリン酸水溶液を基板Wに供給した後に、リン酸水溶液の量を減少させた場合、基板W上のリン酸水溶液の温度は、約130℃であり、基板W上のリン酸水溶液におけるシリコンの濃度は、40ppmである。
図7および
図8を見ると分かるように、このときのシリコン濃度は、飽和濃度未満である。
【0062】
約120℃のリン酸水溶液が基板W上に2cc残っている状態で、温度が25℃の純水を基板Wに供給した場合、
図5のリンス置換工程の列に示すように、純水が基板Wの上面全域に行き渡ったときの基板W上の液体(純水で薄まったリン酸水溶液)の温度は、約25℃であり、基板W上の液体(純水で薄まったリン酸水溶液)におけるシリコンの濃度は、8ppmである。
【0063】
リン酸水溶液を基板Wに供給した後に、リン酸水溶液よりも低温の純水を基板Wに供給すると、基板W上のリン酸水溶液の温度が低下するので、リン酸水溶液中のシリコンの濃度が飽和濃度以上になり、リン酸水溶液に含まれるシリコンの一部が析出する場合がある。しかしながら、純水を供給する前に基板W上のリン酸水溶液に含まれるシリコンの量を減少させるので、基板W上のリン酸水溶液から析出するシリコンの量が少ない。
【0064】
図6は、リン酸水溶液の量を減少させた後に室温の純水を供給し、その後に乾燥させた基板Wの上面に付着している直径32nm以上のパーティクルの数および位置を測定したときの測定結果を示す図である。
図6において、白色の円は、基板Wの輪郭線を示しており、その中の白色の点は、パーティクルを示している。点の大きさとパーティクルの大きさとは無関係である。
【0065】
図6に示すように、リン酸水溶液の量を減少させた場合、直径32nm以上のパーティクルの数は、33個であった。その一方で、リン酸水溶液の量を減少させなかった場合、直径32nm以上のパーティクルの数は、千個以上であった。したがって、純水を供給する前にリン酸水溶液の量を減少させることによって、パーティクルの数を大幅に減少させることができることが確認された。
【0066】
前述のように、約120℃のリン酸水溶液が基板W上に2cc残っている状態で、温度が25℃の純水を基板Wに供給した場合、純水が基板Wの上面全域に行き渡ったときの基板W上の液体(純水で薄まったリン酸水溶液)の温度は、約25℃であった。つまり、リン酸水溶液の量を減少させた後に純水を供給すると、基板W上のリン酸水溶液の温度は、基板Wに供給される純水の温度と概ね等しくなる。
【0067】
約120℃のリン酸水溶液が基板W上に2cc残っている状態で、温度が60℃の純水を基板Wに供給した場合、純水が基板Wの上面全域に行き渡ったときの基板W上の液体(純水で薄まったリン酸水溶液)の温度は、約60℃であり、基板W上の液体(純水で薄まったリン酸水溶液)におけるシリコンの濃度は、8ppm(
図5参照)である。
図7および
図8を見ると分かるように、このときのシリコン濃度は、飽和濃度未満である。
【0068】
純水を基板Wに供給しているときの基板W上の液体(純水で薄まったリン酸水溶液)におけるシリコンの濃度は、純水の供給当初が最も高く、時間の経過と共に減少していく。シリコンの濃度は、最終的に零または概ね零になる。したがって、純水の供給当初におけるシリコンの飽和濃度をシリコンの濃度よりも高くすれば、純水を基板Wに供給しているときにシリコンが析出することを抑制または防止できる。これにより、基板Wの清浄度を高めることできる。
【0069】
以上のように本実施形態では、シリコンの濃度が飽和濃度未満のリン酸水溶液が、水平に保持されている基板Wの上面に供給される。その後、リン酸水溶液が基板Wから排出される。これにより、基板W上のリン酸水溶液の量が減少する。したがって、基板Wの上面に残留しているシリコンの量も減少する。リンス液の一例である純水は、基板W上のリン酸水溶液の量を減少させた後、基板Wの上面がリン酸水溶液で覆われている状態で基板Wの上面に供給される。これにより、基板W上のリン酸水溶液が純水で洗い流される。
【0070】
基板Wの上面がリン酸水溶液で覆われている状態で、リン酸水溶液よりも低温の純水を基板Wに供給すると、基板W上のリン酸水溶液の温度が低下する。そのため、リン酸水溶液中のシリコンの濃度が飽和濃度以上になり、リン酸水溶液に含まれるシリコンの一部が析出する場合がある。しかしながら、純水を供給する前に基板W上のリン酸水溶液に含まれるシリコンの量を減少させるので、シリコンが析出したとしても、その量が少ない。したがって、シリコンを含む析出物によって基板Wが汚染されることを抑制または防止できる。
【0071】
また本実施形態では、室温よりも高温の純水がリン酸水溶液で覆われている基板Wの上面に供給される。基板Wの上面がリン酸水溶液で覆われている状態で、リン酸水溶液よりも低温の純水を基板Wに供給すると、基板W上のリン酸水溶液の温度が低下する。しかしながら、純水の温度が室温よりも高いので、リン酸水溶液の温度低下量が低減される。これにより、シリコンの飽和濃度の低下量が低減されるので、純水の供給によってリン酸水溶液からシリコンが析出することを抑制または防止できる。
【0072】
また本実施形態では、シリコンの濃度が飽和濃度未満のリン酸水溶液が基板Wの上面に供給される。その後、リン酸水溶液が基板Wから排出される。基板W上のリン酸水溶液中のシリコンの濃度は、リン酸水溶液の供給が開始されてからリン酸水溶液の排出が終了するまで飽和濃度未満に維持される。したがって、この期間中にシリコンが析出して基板Wが汚染されることを抑制または防止できる。
【0073】
また本実施形態では、シリコンの濃度が飽和濃度未満のリン酸水溶液が基板Wの上面に供給される。純水は、基板W上のリン酸水溶液の量が低減された後、基板Wの上面に供給される。基板W上のリン酸水溶液中のシリコンの濃度は、リン酸水溶液の供給が開始されてから純水の供給が終了するまで飽和濃度未満に維持される。したがって、この期間中にシリコンが析出して基板Wが汚染されることを抑制または防止できる。
【0074】
また本実施形態では、基板Wの上面全域を覆うリン酸水溶液の液膜が形成される。その後、リン酸水溶液の排出が終了するまで、基板Wの上面全域がリン酸水溶液で覆われている状態が維持される。つまり、基板Wの上面全域を覆うリン酸水溶液の液膜の厚みが減少していく。基板Wの上面の一部が露出すると、パーティクルの付着やウォーターマークの発生などの処理不良が基板Wに発生する場合がある。したがって、基板Wの上面全域がリン酸水溶液で覆われている状態を維持することにより、処理不良の発生を抑制または防止できる。
【0075】
また本実施形態では、プリウェット液の一例である純水で覆われている基板Wの上面にリン酸水溶液が供給される。リン酸水溶液は、基板W上で純水と混ざり合う。つまり、リン酸水溶液の供給開始時に基板Wに着液したリン酸水溶液は、純水で希釈される。これにより、シリコンの濃度が低下する。さらに、純水の温度が室温よりも高いので、リン酸水溶液の供給開始時に基板Wに着液したリン酸水溶液の温度の低下量が低減される。そのため、リン酸水溶液の温度低下によってシリコンの飽和濃度が低下したとしても、シリコンの濃度が飽和濃度以上になり難い。したがって、シリコンの析出を抑制または防止できる。もしくは、シリコンの析出量を低減できる。
【0076】
また本実施形態では、温度が沸点またはその近傍のリン酸水溶液が基板Wの上面に供給される。リン酸水溶液の沸点が純水の沸点よりも高いので、沸点付近まで加熱した純水を基板Wに供給したとしても、基板W上のリン酸水溶液の温度が低下してしまう。このような場合でも、基板W上のリン酸水溶液の量を減少させることにより、シリコンの析出を抑制または防止できる。もしくは、シリコンの析出量を低減できる。これにより、シリコンを含む析出物によって基板Wが汚染されることを抑制または防止できる。
【0077】
他の実施形態
本発明の実施形態の説明は以上であるが、本発明は、前述の実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、第1リンス置換工程において基板W上のリン酸水溶液を温水で洗い流す場合について説明したが、温水以外のリンス液で基板W上のリン酸水溶液を洗い流してもよい。たとえば、室温の過酸化水素水と温水との混合液で基板W上のリン酸水溶液を洗い流してもよい。また、リンス液の温度は、室温であってもよいし、室温より低くてもよい。
【0078】
液量減少工程において基板Wの上面全域をリン酸水溶液で覆いながら、リン酸水溶液の量を減少させる場合について説明したが、液量減少工程において基板Wの上面が部分的に露出してもよい。
リン酸水溶液を基板Wに供給する前に基板Wの上面を温水で濡らす場合について説明したが、温水以外のプリウェット液で基板Wの上面を濡らしてもよい。プリウェット液の温度は、室温であってもよいし、室温より低くてもよい。乾燥している基板Wの上面にリン酸水溶液を供給してもよい。
【0079】
リン酸処理工程と並行して基板W上のリン酸水溶液を赤外線ヒータ31で加熱する場合について説明したが、赤外線ヒータ31以外の熱源で基板W上のリン酸水溶液を加熱してもよい。また、熱源によるリン酸水溶液の加熱を省略してもよい。
基板処理装置1が、円板状の基板を処理する装置である場合について説明したが、基板処理装置1は、多角形の基板を処理する装置であってもよい。
【0080】
基板Wの上面にリン酸水溶液の液膜を形成し、当該上面を処理する場合について説明したが、基板Wの表面であれば、基板Wの下面にリン酸水溶液の液膜を形成し、当該下面を処理してもよい。
予め沸点近傍まで加熱されたリン酸水溶液を基板Wに供給することにより沸点近傍のリン酸水溶液の液膜を基板W上に形成しエッチングする場合について説明したが、沸点よりも低温のリン酸水溶液を基板W上に供給して液膜を形成しこれを基板W上で加熱することにより沸点近傍まで昇温させるようにしてもよい。
【0081】
前述の全ての実施形態のうちの二つ以上が組み合わされてもよい。