(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6440156
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】有機溶剤精製システム及び方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/36 20060101AFI20181210BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20181210BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20181210BHJP
B01D 3/10 20060101ALI20181210BHJP
B01J 47/02 20170101ALI20181210BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20181210BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D61/58
B01D63/00
B01D3/10
B01J47/02
B01D61/00
B01D19/00 H
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-153572(P2014-153572)
(22)【出願日】2014年7月29日
(65)【公開番号】特開2016-30233(P2016-30233A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】寺師 亮輔
【審査官】
堤 正彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−277456(JP,A)
【文献】
特開昭63−004826(JP,A)
【文献】
特開平02−273636(JP,A)
【文献】
特開2005−177535(JP,A)
【文献】
特開昭61−100536(JP,A)
【文献】
特開2013−018747(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/105205(WO,A1)
【文献】
特開平09−253638(JP,A)
【文献】
特開平08−109167(JP,A)
【文献】
特開平06−145083(JP,A)
【文献】
特開平02−273519(JP,A)
【文献】
特開昭62−216695(JP,A)
【文献】
特開昭62−180790(JP,A)
【文献】
特開2009−160482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/36
B01D 61/58
B01D 63/00
B01D 3/10
B01J 47/02
B01D 61/00
B01D 19/00
C02F 1/04
C07B 63/00
C02D 207/00−207/50
B01B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤であって1気圧での沸点が100℃を超えるものと水とを含む混合液から前記有機溶剤を分離して精製する有機溶剤精製システムであって、
前記混合液を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段の後段に設けられ、浸透気化膜を備えて前記有機溶剤と前記水とを分離する浸透気化装置と、
前記浸透気化装置の濃縮側から回収される前記有機溶剤が供給される減圧蒸発缶と、
前記減圧蒸発缶で気化した前記有機溶剤を前記加熱手段の熱源として前記加熱手段に供給する配管と、
を備え、
前記浸透気化装置は、第1の浸透気化装置と第1の浸透気化装置の濃縮側から排出される液が供給される第2の浸透気化装置とを直列に接続して構成され、
前記第2の浸透気化装置の濃縮側から回収される前記有機溶剤が前記減圧蒸発缶に供給され、
前記第2の浸透気化装置の透過側から排出される液を前記第1の浸透気化装置の前段に循環させる配管をさらに有する、有機溶剤精製システム。
【請求項2】
前記加熱手段の前段に、前記混合液に対してイオン交換処理を行うイオン交換装置をさらに備える、請求項1に記載の有機溶剤精製システム。
【請求項3】
前記加熱手段の前段に、前記混合液に含まれる気体成分を除去する脱気手段を備える、請求項1または2に記載の有機溶剤精製システム。
【請求項4】
前記混合液が供給されて該混合液に含まれる気体成分を除去する脱気手段と、
前記脱気手段で処理された混合液に対してイオン交換処理を行うイオン交換装置と、
をさらに備え、イオン交換処理が行われた混合液が前記加熱手段に供給される請求項1に記載の有機溶剤システム。
【請求項5】
前記脱気手段は脱気膜を備える請求項3または4に記載の有機溶剤精製システム。
【請求項6】
前記混合液を貯留するタンクと、前記脱気手段と前記タンクの間で前記混合液を循環させる配管と、をさらに備える請求項3乃至5のいずれか1項に記載の有機溶剤精製システム。
【請求項7】
前記有機溶剤はN−メチル−2−ピロリドンである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機溶剤精製システム。
【請求項8】
有機溶剤であって1気圧での沸点が100℃を超えるものと水とを含む混合液から前記有機溶剤を分離して精製する方法であって、
前記混合液を加熱する加熱工程と、
前記加熱された混合液を、浸透気化装置を用いて前記有機溶剤と前記水とに分離する工程と、
前記浸透気化装置の濃縮側から回収される前記有機溶剤を減圧蒸発させる工程と、
を有し、
前記減圧蒸発によって気化した前記有機溶剤を前記加熱工程での熱源として用い、
前記浸透気化装置は、第1の浸透気化装置と第1の浸透気化装置の濃縮側から排出される液が供給される第2の浸透気化装置とを直列に接続して構成され、
前記第2の浸透気化装置の濃縮側から回収される前記有機溶剤が前記減圧蒸発缶に供給され、
前記第2の浸透気化装置の透過側から排出される液を前記第1の浸透気化装置の前段に循環させる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPとも記す)に代表される有機溶剤と水との混合液から有機溶剤を分離して精製するシステム及び方法に関し、特に、浸透気化法を用いた有機溶剤精製システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤の中には水に対して高い溶解度を有するものがある。このような水溶性の有機溶剤を使用したのち回収して再利用する場合、有機溶剤と水との混合液が回収されることが多いため、この混合液から再利用対象となる有機溶剤を分離して精製する必要がある。回収される混合液は、有機溶剤と水のほかに、例えばイオン性物質や微粒子などの不純物を含んでいる可能性がある。また、有機溶剤の使用形態や回収形態に応じ、混合液は、溶存酸素や溶存二酸化炭素などの溶存気体も含んでいる。
【0003】
水に対して高い溶解度を有する有機溶剤の一つであるNMPは、例えば、リチウムイオン二次電池の製造工程において電極活物質などの粒子を分散させたスラリーを電極集電体上に塗布し乾燥させて電極を形成する際に、スラリーの分散媒として広く用いられている。スラリーを乾燥させる際にNMPが回収され、回収されたNMPは精製した後に再利用することができる。NMPの回収では、気化したNMPを例えば水スクラバーによって回収する。したがってNMPは、NMPと水とが混合した混合液として回収されることになる。このとき、回収された混合液におけるNMP濃度は、70〜90質量%程度である。また水スクラバーを使用しているので、混合液には、大気に由来する酸素や二酸化炭素が溶存することとなる。
【0004】
従来から有機溶剤と水との混合液から有機溶剤を分離して回収する方法として、蒸留法が知られており、特に、混合液を減圧して蒸留する減圧蒸留法がよく用いられている。しかしながら、蒸留法あるいは減圧蒸留法は、多大なエネルギーを必要とする上、所望の純度まで有機溶剤を精製しようとするときには大がかりな蒸留設備が必要となるという課題を有する。そこで大がかりな設備が不要であって省エネルギー性能に優れた分離手法として、浸透気化(Pervaporation:PV)法が知られている。
【0005】
浸透気化法では、分離処理の対象となる成分(例えば水分)に対して親和性を有する分離膜(浸透気化膜)を使用し、この対象成分を含む混合液(例えば有機溶剤と水との混合液)を分離膜の供給側に流し、分離膜の透過側では減圧にしたり不活性ガスを流すことで、分離膜における各成分の透過速度差により分離を行うものである。水分を透過させるための分離膜としては、例えば、ゼオライト膜が使用される。分離膜によって水分のみが透過側に移動するとすれば、分離膜の供給側には有機溶剤が残存することとなり、有機溶剤を回収することができる。浸透気化法により水分と有機溶剤との分離を行う場合、効率よく分離を行うためには加熱が必要となる。また、有機溶剤に含まれるイオン性不純物を除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂を用いる方法が知られている。
【0006】
特許文献1には、NMPと水との混合液からNMPを分離するNMP分離システムとして、浸透気化装置を用いるとともに、浸透気化装置の後段にイオン交換装置を設けたものが開示されている。
【0007】
図6は浸透気化装置とその後段に設けられたイオン交換装置とを備える従来の有機溶剤精製システムの構成の一例を示している。ここでは有機溶剤が例えばNMPであるものとして
図6に示すシステムを説明する。NMPと水との常温の混合液が、加熱器12によって120℃程度の温度に昇温されて浸透気化装置13に供給される。加熱器12の熱源としては蒸気が用いられる。浸透気化装置13内には、例えばゼオライトによって構成された浸透気化膜14が設けられている。混合液中の水分は浸透気化膜14を透過し、その後、凝縮器16によって冷却されて凝縮され、排出される。一方、NMPは浸透気化膜14を透過しないので、液体のまま浸透気化装置13の濃縮側から排出される。浸透気化装置13から排出されたNMPは、冷却器15によって冷却される。このようにして得られた常温のNMPは、次に、イオン交換装置17に供給されてイオン性不純物を除去され、さらに、精密ろ過膜(MF)18によって微粒子成分が除去され、精製されたNMPとして、例えば、タンクなどに貯留され、あるいはNMPを使用する工程に送られる。
【0008】
図6に示した有機溶剤精製システムでは、イオン交換装置17内のイオン交換樹脂が破過するとシステム内に存在する分離膜やろ過膜に由来するナトリウムやケイ素などの不純物が精製したNMPなどの有機溶剤に残存するおそれがあ
る、という問題点がある。また、浸透気化装置13の後段にイオン交換装置17が設けられてい
るが、このイオン交換装置17は非水溶媒であるNMPからのイオン除去を行わなければならないので、イオン交換効率が小さく、またイオン交換樹脂の交換に大きな手間を要するという問題点
もある。
【0009】
浸透気化装置によって有機溶剤を水から分離した後に、この有機溶剤をさらに精製する方法として、浸透気化装置の後段に蒸発缶を設け、この蒸発缶で有機溶剤を蒸留する方法が知られており、アルコールの精製などに用いられている。
図7は、浸透気化装置と蒸発缶とを組み合わせた従来の有機溶剤精製システムの構成の一例を示している。このシステムは、
図6に示したものからイオン交換装置17と精密ろ過膜18を取り除き、その代わり、浸透気化装置13の濃縮側と冷却器15との間に、蒸気により加熱される蒸発缶20を設けたものである。浸透気化装置13の濃縮側から得られる有機溶剤は、蒸発缶20において蒸留されて精製され、冷却器15で凝縮され冷却される。その後、精製された有機溶剤は、タンクなどに貯留され、あるいは有機溶剤を使用する工程に送られる。有機溶剤に含まれていたイオン不純物や微粒子などは蒸発缶20内に残存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−18747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
NMPなどの有機溶剤と水とを分離する手法としての浸透気化法は、蒸留法などに比べて省エネルギー性能に優れているが、イオン性不純物や微粒子などの除去のために浸透気化装置の後段に蒸発缶を設けた場合には、蒸留のためにもエネルギーを投入しなければならず、浸透気化装置を用いたことによる省エネルギーのメリットが十分に生かされないという問題が生ずる。また、浸透気化法自体についても、浸透気化装置への供給液を加熱しなければならないので、さらなる省エネルギー化の余地が残されている。
【0012】
本発明の目的は、浸透気化法を用いた有機溶剤精製システムであって、イオン性不純物や微粒子などを確実に除去できるとともに省エネルギー性能を達成する有機溶剤精製システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の有機溶剤精製システムは、有機溶剤であって1気圧での沸点が100℃を超えるものと水とを含む混合液から有機溶剤を分離して精製する有機溶剤精製システムであって、混合液を加熱する加熱手段と、浸透気化膜を備えて加熱手段の後段に設けられ、有機溶剤と水とを分離する浸透気化装置と、浸透気化装置の濃縮側から回収される有機溶剤が供給される減圧蒸発缶と、減圧蒸発缶で気化した有機溶剤を加熱手段の熱源として前記加熱手段に供給する配管と、を備える。
【0014】
本発明の有機溶剤精製方法は、有機溶剤であって1気圧での沸点が100℃を超えるものと水とを含む混合液から有機溶剤を分離して精製する方法であって、混合液を加熱する加熱工程と、加熱された混合液を、浸透気化装置を用いて有機溶剤と水とに分離する工程と、浸透気化装置の濃縮側から回収される有機溶剤を減圧蒸発させる工程と、を有し、減圧蒸発によって気化した有機溶剤を加熱工程での熱源として用いる方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明では減圧蒸発缶で気化した有機溶剤の凝縮熱を回収し、浸透気化装置の熱源とする。このため、減圧蒸発缶に投入した熱量の一部または全量がシステム内でリサイクルされることとなり、システム全体で必要となるエネルギー量を削減できる。浸透気化に必要な熱量は、主として含有水分の蒸発潜熱である。単位質量当たりの蒸発潜熱は、一般に、水の方が有機溶剤よりも大きいため、浸透気化装置に供給される混合液中の水分が少ない場合でも熱回収効率は高い。一方、減圧蒸発缶を追加したことにより、有機溶剤中のイオン性不純物や微粒子などは減圧蒸発缶内に残存する。したがって本発明によれば、省エネルギー性能を達成しつつイオン性不純物や微粒子などを確実に除去できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の一形態の有機溶剤精製システムの構成を示す図である。
【
図2】イオン交換装置を備えた実施形態の有機溶剤精製システムの構成を示す図である。
【
図3】イオン交換装置と脱気装置を備えた実施形態の有機溶剤精製システムの構成を示す図である。
【
図4】イオン交換装置と膜脱気装置を備えた実施形態の有機溶剤精製システムの構成を示す図である。
【
図5】本発明のさらに別の実施形態の有機溶剤精製システムの構成を示す図である。
【
図6】従来の有機溶剤精製システムの構成の一例を示す図である。
【
図7】従来の有機溶剤精製システムの構成の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の一形態の有機溶剤精製システムとして、本発明に基づく有機溶剤精製システムの基本的な態様を示している。この有機溶剤精製システムは、有機溶剤と水との混合液から有機溶剤を分離して精製するものであり、例えば、リチウムイオン二次電池の製造工程などから回収される、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)と水との混合液を処理してNMPを分離し精製するために用いられるものである。以下では有機溶剤としてNMPを用いる場合を説明するが、本発明が適用可能な有機溶剤はNMPに限定されるものではなく、一般的には大気圧(0.1013Mpa)での沸点が水の沸点(100℃)よりも高く、好ましくは大気圧下での沸点が浸透気化膜装置の一般的な運転温度である120℃であるかそれ以上である有機溶剤に対しても本発明を適用することができる。このような有機溶剤の例を表1に示す。表1において沸点は0.1013MPaでの値である。さらに、本発明が適用可能な有機溶剤としては、水との共沸混合物をつくらない有機溶剤(例えば、表1に示した有機溶剤においては、PGME、PEGMEA及びピリジンを除いたもの)がより好ましい。
【0019】
NMPと水との混合液を貯える原液タンク31が設けられており、原液タンク31内の混合液は、ポンプ32によって浸透気化装置13に供給されるようになっている。ポンプ32と浸透気化装置13との間には、混合液を加熱するために加熱器34と加熱器12とがこの順で設けられており、後段の加熱器12は蒸気が供給されてその蒸気によって混合液を加熱する。浸透気化装置13に供給される混合液は、例えば120℃程度にまで昇温される。
【0020】
浸透気化装置13には、例えばゼオライトによって構成された浸透気化膜14が設けられており、ここで混合液がNMPと水とに分離される。水は浸透気化膜14を透過するので、浸透気化装置13の透過側出口から水蒸気の形態で流出する。この水蒸気は、凝縮器16によって冷却されて凝縮し、透過水タンク35に貯えられ、排水される。一方、NMPは浸透気化膜14を透過しないので、浸透気化装置13において濃縮
側に設けられている出口から排出されて減圧蒸発缶33に供給される。減圧蒸発缶33には、真空ラインである配管50を介し缶内の圧力を下げるための真空ポンプ36に接続しており、例えばNMPの沸点が130℃となるような圧力とするように、減圧蒸発缶33内の圧力を制御している。また減圧蒸発缶33には、NMPを気化させるために必要な量の蒸気が供給されている。減圧蒸発缶33に接続する真空ポンプ36は、浸透気化装置13の透過側での負圧を達成するためにも用いられている。この減圧蒸発缶33は、イオン性不純物や微粒子などの難揮発性の不純物を除去するために設けられている。
【0021】
減圧蒸発缶33の出口には、減圧蒸発缶内で気化したNMPを排出する配管40が取り付けられている。この配管40は加熱器34に接続しており、気化した例えば130℃のNMPを加熱器34の熱源として加熱器34に供給する。加熱器34に供給されたNMP蒸気は、混合液を加熱する際に凝縮する。したがって、加熱器34は混合液の加熱を行うとともにNMP蒸気の凝縮器としても機能することになる。加熱器34での加熱に蒸気等の外部熱源を熱媒として利用することなく、NMP蒸気と、NMPと水の混合液を直接熱交換することが可能になるため、NMP蒸気温度を過度に高くする必要がなくなり、エネルギー効率が高い。加熱器34でのNMP蒸気側の出口には冷却器15及び精密ろ過膜18がこの順で接続しており、NMPは冷却器15によって冷却されて完全に液体状態となり、精密ろ過膜18によって微粒子類が最終的に除去される。その結果、精密ろ過膜18の出口からは、精製されたNMPが得られることになる。この構成では、例えば原液タンク31内の混合液におけるNMPの濃度が80質量%(すなわち水分が20質量%)であるときに、精密ろ過膜18の出口から得られるNMPにおける水分濃度を0.02質量%程度とすることができる。
【0022】
ここでこのシステムにおける加熱器34での熱回収効率について検討する。浸透気化装置13を用いて有機溶剤と水とを分離する場合、水分が浸透気化膜14を透過させるようにするので、水の蒸発潜熱に相当する熱を予め与えることが必要である。水の蒸発潜熱は2.30MJ/kgであり、NMPの蒸発潜熱は439kJ/kgであるので、NMPの凝縮放熱量をすべて供給したとしても、浸透気化装置13での水の蒸発潜熱量には満たない。すなわち、減圧蒸発缶33に供給された熱量の全量を加熱器34で回収可能である。したがって本実施形態では、浸透気化装置13を単独で使用する場合と同じ省エネルギー性能を達成しつつ、減圧蒸発缶33を追加したことによってイオン性不純物や微粒子類をNMPからより確実に除去できることになる。なお、浸透気化装置13に供給される混合液を加熱することに関し、NMP蒸気の凝縮熱で混合液を加熱する加熱器34を前段に、蒸気によって混合液を所望の温度まで加熱する加熱器12を後段に配置した方が、これらの加熱器12,34を逆順に配置する場合に比べ、熱効率等の観点から好ましい。
【0023】
精製された有機溶剤に求められるイオン性不純物濃度が極めて低い場合や、有機溶剤と水との混合液中に含まれるイオン性不純物の量が多い場合には、減圧蒸発缶33だけではイオン性不純物の除去が不十分となることがある。そこで
図1に示した有機溶剤精製システムでは、イオン交換樹脂を充填したイオン交換装置を追加することができる。イオン交換樹脂は水の存在下でより高いイオン除去性能を示すので、有機溶剤と水とイオン性不純物とを含む混合液から有機溶剤を分離して精製する場合には、有機溶剤と水との分離の前にイオン交換樹脂による処理を行う方が有利である。
図2は、イオン交換装置を備えた有機溶剤精製システムを示している。この有機溶剤精製システムは、
図1に示したシステムにおいて、ポンプ32の出口にイオン交換装置41を設け、イオン交換装置41で処理された混合液が加熱器34及び加熱器12によって加熱されて浸透気化装置13に供給されるようにしたものである。イオン交換装置41は、混合液中に含まれるイオン性不純物を除去するものであり、例えば、アニオン交換樹脂を充填したもの、あるいは、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混床にして充填したものである。
【0024】
浸透気化法によって有機溶剤と水とを分離する場合、浸透気化装置への供給液を加熱して供給液温度を高めた方が、脱水効率すなわち有機溶剤と水との分離効率が高くなる。しかしながらこの加熱によって、有機溶剤が酸化して劣化するおそれがある。本発明者らの検討によると、有機溶剤と水との混合液中における溶存酸素量が多い場合に、有機溶剤の酸化が促進されることが分かった。そこで、有機溶剤と水との混合液中の気体成分を除去してから浸透気化装置13に混合液を供給することが考えられる。
図3は、混合液中の気体成分を除去する脱気装置を備えた有機溶剤精製システムの構成を示している。
【0025】
図3に示した有機溶剤精製システムは、
図2に示したシステムにおいて、ポンプ32とイオン交換装置41との間に、ポンプから供給される混合液中の気体成分を除去する脱気装置42を設けたものである。脱気装置42としては、例えば、水素を添加してパラジウム触媒に接触させて酸素を除去する酸素除去装置を用いることも可能であるが、酸素除去装置の場合には酸素以外の気体成分、例えば溶存二酸化炭素を除去することができない。溶存二酸化炭素はイオン交換装置41内のイオン交換樹脂、特にアニオン交換樹脂に対する負荷となるので、脱気装置42においては酸素の他に二酸化炭素も除去できるものが好ましい。また、液中に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを吹き込んで溶存酸素などを除去することも可能であるが、迅速に脱気処理を行うことができない。このような観点から、脱気装置42には、脱気膜を用いたものを用いることが好ましい。脱気膜を用いることにより、水素や不活性ガスなどを供給することなく、迅速に、混合液中の溶存酸素や溶存二酸化炭素を除去することができるようになる。
【0026】
脱気膜を構成するための膜素材やポッティング材としては、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられる。しかしながらNMPなどの有機溶剤は一部の有機材料を溶解させる性質があるので、
図3に示したシステムにおいては、ポリオレフィン、PTFE及びPFAによって脱気膜を構成することが好ましい。脱気膜の機械的構造としては、水での運用を想定した多孔性の膜と、表面張力がより小さな液体での運用を想定した非多孔性の膜とがあるが、ここではNMPなどの有機溶剤を多量に含む混合液を処理するので、非多孔性の膜を用いることが好ましい。
図3に示すシステムにおいて用いることができる脱気膜の一例が、特開2004−105797号公報に示されているポリオレフィン膜である。
【0027】
図3に示した有機溶剤精製システムでは、脱気装置42によって溶存酸素及び溶存二酸化炭素が除去された混合液がイオン交換装置41に供給される。その後この混合液は、加熱器34,12によって例えば120℃程度まで加熱された後に浸透気化装置13に供給される。混合液中の二酸化炭素濃度が低減されているのでイオン交換装置41の負荷が軽くなり、その結果、イオン交換装置41内のイオン交換樹脂の交換周期を長くすることができる。また、溶存酸素が低減されているので、NMPの酸化や劣化を抑制することができる。なお、
図3に示したシステムではイオン交換装置41が設けられているが、イオン交換装置を備えない有機溶媒精製システムにおいても脱気装置42を設けることができる。
【0028】
図4は脱気装置を備える有機溶剤精製システムの別の例を示している。
図4に示した有機溶剤精製システムは、
図3に示した有機溶剤精製システムにおいて、脱気装置として脱気膜を有する膜脱気装置43を用いるとともに、ポンプ44を追加したものである。
図4のシステムでは、膜脱気装置43は、イオン交換装置41の直前に設けられているのではなく、その代わり、原液タンク31内の混合液を脱気するように配置されている。原液タンク31の底部と上部とを接続してポンプ44によって混合液が循環する配管45が設けられており、膜脱気装置43は、この配管45に設けられている。原液タンク31内の脱気された混合液は、ポンプ32によってイオン交換装置41に供給される。
【0029】
一般に、膜脱気に最適な液の流量と浸透気化装置の運転での最適な液の流量とが一致するとは限らない。
図4に示した構成では、2つのポンプ32,44を独立に制御することによって、膜脱気装置43における混合液の流量と浸透気化装置13に供給される混合液の流量とを独立に設定でき、膜脱気と浸透気化の各々を最適の条件で実施できるようになる。また、NMPの精製を行わない期間においても容量な小さなポンプ44によって膜脱気だけは連続して実施することにより、NMPの精製開始時のプロセスの立ち上がりを速くすることができる。なお、
図4に示したシステムではイオン交換装置41が設けられているが、イオン交換装置を備えない有機溶媒精製システムにおいても膜脱気装置43を設けることができる。
【0030】
図5は、本発明のさらに別の実施形態の有機溶剤精製システムの構成を示している。
図1乃至
図4に示したものでは、単段の浸透気化装置13を使用しているが、この場合、得られるNMPなどの有機溶剤に水分が残留したり、凝縮器16を経て排水として放出されるべき水にNMPが残留したりする可能性がある。そこで
図5に示した有機溶剤精製システムでは、2台の浸透気化装置13,37を直列に接続して、2段階での浸透気化処理を行うようにしている。
【0031】
具体的には
図5に示す有機溶剤精製システムは、
図4に示したシステムにおいて、浸透気化装置13の濃縮側から排出される液を2段目の浸透気化装置37に供給するようにしている。NMPの流れに注目すれば、これらの浸透気化装置13,27が直列に接続していることになる。2段目の浸透気化装置37も例えばゼオライトからなる浸透気化膜38を備えており、2段目の浸透気化装置37の濃縮側からNMPが分離され、
図4に示す装置と同様に、分離されたNMPが減圧蒸発缶33に供給されるようになっている。減圧蒸発缶33からのNMP蒸気は配管40を介して加熱器34に送られて混合液の加熱に用いられ、その後、冷却器15及び精密ろ過膜18を経て、精製NMPとして得られる。1段目の浸透気化装置37の透過側に現れる水分は、凝縮器16によって冷却されて凝縮し、
図1〜
図4に示したものと同様に、凝縮水タンク(不図示)に貯えられ、排水される。
【0032】
2段目の浸透気化装置37の透過側から得られる水分は凝縮器39によって冷却されて凝縮し、透過水タンク35に貯えられるようになっている。浸透気化装置37の透過側での負圧を達成するために、透過液タンク35には真空ポンプ36も接続している。配管46によって、透過液タンク35に貯えられたNMPを含む水を、1段目の浸透気化装置13の前段に戻している。図示したものでは、透過液タンク35に貯えられた水を膜脱気装置43の入口あるいは原液タンク31に戻しているが、透過液タンク35に貯えられた水を戻す先は、膜脱気装置43の入口あるいは原液タンク31に限られるものではなく、例えば、透過液タンク35に貯えられた水を加熱器34あるいは加熱器12の入口に戻すようにしてもよい。
【0033】
浸透気化装置13,37において用いられる浸透気化膜14,38について説明する。浸透気化装置13,37の脱水性能は、その浸透気化膜14,38を挟んだ両側、すなわち濃縮側空間と透過側空間の水分密度差と、透過側の真空度に依存する。具体的には濃縮側空間の水分密度が大きいほど、あるいは透過側の真空度が高いほど(絶対圧力が低いほど)脱水性能が向上する。例えば混合液中の水の濃度が20質量%であるとすると、1段目の浸透気化装置13は、大きな水分密度差によって、大量の水を分離することができる。これに対して2段目の浸透気化装置37は、既に脱水された混合液を処理するため、分離される水は少量である。一方、浸透気化膜におけるNMPの透過量は水分密度差に大きく依存しない。このため、1段目の浸透気化装置13の透過側に現れる水蒸気でのNMP濃度は極めて低く、2段目の浸透気化装置37の透過側に現れる水蒸気のNMP濃度はこれより高くなる。本実施形態では、2段目の浸透気化装置37の透過側に現れる、NMPをより含んでいる水分を1段目の浸透気化装置13の前段に戻すことにより、NMPの回収率をさらに高め、環境へのNMPの放出を抑制している。なお、2段目の浸透気化装置37を透過する水分の量は1段目と比べて少量であり、この水分を1段目の浸透気化装置13の前段に戻すことによる脱水効率の低下は限定的である。
【0034】
浸透気化膜14,38には、ゼオライト膜が好ましく利用される。ゼオライトには、その骨格構造と、含まれているシリコンとアルミニウムとの比率とに応じて、A型、Y型、T型、MOR型、CHA型などの種類がある。アルミニウムに比べてシリコンの割合が高いほど、疎水性に富むようになる。これらのゼオライトのうち、A型は特に脱水効率に優れ、本実施形態においても両方の浸透気化装置13,37の浸透気化膜14,38として用いることができる。また、1段目の浸透気化装置13の浸透気化膜14として、A型以外、例えばT型、Y型、CHA型のゼオライト膜を用いることが好ましい場合もある。A型ゼオライトは、水分濃度が高い場合や、酸などの不純物が混合液中に含まれる場合に、リークや性能の低下が生じやすい。これに対し、A型以外のゼオライトは上述の環境でより長期間性能を保持することができる。上述したように、1段目の浸透気化装置13の浸透気化膜14は2段目の浸透気化装置37の浸透気化膜38と比べ高い脱水性能を必要としない。また、1段目の浸透気化装置13の透過側からの水蒸気は系外に放出されるため、ここでの浸透気化膜14のリークを防止する必要性は特に高い。このため、1段目の浸透気化装置13の浸透気化膜14として、A型ゼオライトと、上述した他のゼオライト(例えばT型、Y型、MOR型、CHA型)から選択された少なくとも1種類のゼオライトとを含むものを用いることもできる。いずれの場合にも2段目の浸透気化装置37の浸透気化膜38は、A型ゼオライトからなることが望ましい。2段目の浸透気化装置37の入口液は既に相当量脱水されており、含有水分が少ないため、この入口液中の水分が膜性能に悪影響を及ぼす可能性は低い。また、入口液中の水分が少ないため、脱水の駆動力が小さく、A型以外の膜ではA型よりも大きな膜面積を必要とする。このため、A型以外の膜では装置規模、装置コストが大きくなりやすい。
【0035】
また、浸透気化装置の脱水性能は、供給される混合液の単位流量あたりの浸透気化膜流路面積(浸透気化膜の流路面積を混合液の流量で割った値)と正の相関関係にある。したがって、単一の浸透気化装置で必要な脱水性能を得る場合、浸透気化膜流路面積を増加させる必要がある。一方、NMPの透過量も浸透気化膜流路面積と正の相関関係にあるため、脱水性能を高めるために流路面積の大きな単一の浸透気化装置を用いた場合、NMPの透過量もこれに応じて増加する。これに対し本実施形態では、1段目の浸透気化装置13は必要な脱水量の一部を脱水すればよく、流路面積を過度に大きくする必要がない。2段目の浸透気化装置37では、透過するNMPは原液タンク31側に戻されるため、脱水性能を高めるために流路面積を大きくしても問題とならない。換言すれば、1段目の浸透気化装置13では脱水量とNMP透過量のバランスが考慮されるが、2段目の浸透気化装置37ではこのようなバランスを考慮する必要がない。このように2台の浸透気化装置13,37を直列で設け、2段目の浸透気化装置37を透過するNMPを回収することで、必要な脱水性能を得るとともに、NMPの系外放出量を抑制することができる。
【符号の説明】
【0036】
12,34 加熱器
13,37 浸透気化装置
14,38 浸透気化膜
15 冷却器
16,39 凝縮器
18 精密ろ過膜
31 原液タンク
33 減圧蒸発缶
35 透過水タンク
36 真空ポンプ
41 イオン交換装置
42 脱気装置
43 膜脱気装置