特許第6440169号(P6440169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6440169
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】有機EL素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/28 20060101AFI20181210BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20181210BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20181210BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   H05B33/28
   H05B33/14 A
   H05B33/26 Z
   H05B33/10
【請求項の数】19
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-508772(P2015-508772)
(86)(22)【出願日】2014年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2014059190
(87)【国際公開番号】WO2014157639
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2016年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-67782(P2013-67782)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-67801(P2013-67801)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-68164(P2013-68164)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田目 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】塚越 一仁
(72)【発明者】
【氏名】相川 慎也
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−067459(JP,A)
【文献】 特開2000−072526(JP,A)
【文献】 特開2004−355972(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/007989(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/034733(WO,A1)
【文献】 特表2000−512795(JP,A)
【文献】 特開2000−311869(JP,A)
【文献】 特開2005−044530(JP,A)
【文献】 特開平11−070610(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/024853(WO,A1)
【文献】 特開平09−063771(JP,A)
【文献】 特開2004−355812(JP,A)
【文献】 特開2005−174832(JP,A)
【文献】 特開2004−111324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/00−28
H01L 51/50
C23C 14/08
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板上に形成された陽極と、
前記陽極上に形成された一層または複数層の有機化合物層と、
前記有機化合物層上に形成された陰極と、
を設け、
前記陽極は、酸化インジウム化合物と貴金属元素を含む導電性酸化物とを含む透明導電膜であって、
前記透明導電膜は、
前記透明基板側に設けられ、酸化インジウム化合物を含む第1の透明導電膜と、
前記有機化合物層側に設けられ、酸化インジウムと前記貴金属元素を含む導電性酸化物とを含む第2の透明導電膜と
を含み、
前記第2の透明導電膜は、膜厚が4nm以下のアモルファス構造であって、前記第2の透明導電膜において、前記貴金属元素を含む導電性酸化物の貴金属元素の添加量が、前記貴金属元素と前記酸化インジウムのインジウム元素との合計に対して20at.%より大きく70at.%より小さな範囲である、
有機EL素子。
【請求項2】
前記第1の透明導電膜は、前記貴金属元素を含まない、請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記貴金属元素を含む導電性酸化物の貴金属元素の添加量が、前記第2の透明導電膜の仕事関数が5eV以上になるように調整される、請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記貴金属元素を含む導電性酸化物がPtO,IrOおよびRuOから成る群から選択された一または二以上の組み合わせの導電性酸化物である、請求項1から3の何れかに記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記貴金属元素を含む導電性酸化物がSrRuOである、請求項1から3の何れかに記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記酸化インジウム化合物が下記の化学式で表される、請求項1から5の何れかに記載の有機EL素子。
InMe1−x
ここでMeはIVa族、Va族、IVb族およびVb族の元素からなる群から選択された一または複数の元素であり、0<x<0.5、1.0<y<2.0である。
【請求項7】
前記酸化インジウム化合物が
InSn1−x(1.25<y<1.5)、
InZn1−x(1.25<y<1.5)、
In1−x(1.5<y<2.25)および
InSi1−x(1.5<y<1.75)、
からなる群から選択された一または複数の化合物であり、0<x<0.5である、請求項1から5の何れかに記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記第2の透明導電膜を共スパッタリング法により形成する請求項1から7の何れかに記載の有機EL素子の製造方法であって、
前記酸化インジウムと前記貴金属元素とのスパッタパワーの比率を調整して、前記酸化インジウムと前記貴金属元素を含む導電性酸化物との組成比を制御した前記第2の透明導電膜を形成する、
有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
透明基板と、
前記透明基板上に形成された陽極と、
前記陽極上に形成された一層または複数層の有機化合物層と、
前記有機化合物層上に形成された陰極と
を設け、
前記陽極は、前記透明基板側に設けられ、酸化インジウム化合物を含む透明導電膜と、前記有機化合物層側に設けられ、5eVより大きな仕事関数を有する材料からなるとともに膜厚が0.6nm以上かつ1.2nm以下である高仕事関数層を含み、
前記5eVより大きな仕事関数を有する材料は、PtO,IrOおよびRuOからなる群から選択された一の材料または二以上の材料の組み合わせである、
有機EL素子。
【請求項10】
透明基板と、
前記透明基板上に形成された陽極と、
前記陽極上に形成された一層または複数層の有機化合物層と、
前記有機化合物層上に形成された陰極と、
を設け、
前記陽極は、前記透明基板側に設けられ、酸化インジウム化合物を含む透明導電膜と、前記有機化合物層側に設けられた、5eVより大きな仕事関数を有する材料からなる複数の粒子を含み、
前記粒子の粒径が0.6nm以上かつ2nm以下であって、
前記5eVより大きな仕事関数を有する材料は、PtO,IrOおよびRuOからなる群から選択された一の材料または二以上の材料の組み合わせである、
有機EL素子。
【請求項11】
前記透明導電膜の材料が下式で表される酸化インジウム化合物である、請求項9または10に記載の有機EL素子。
InMe1−x
ここでMeはIVa族、Va族、IVb族およびVb族の元素からなる群から選択された一または複数の元素であり、0<x<0.5、1.0<y<2.0である。
【請求項12】
前記酸化インジウム化合物が
InSn1−x(1.25<y<1.5)、
InZn1−x(1.25<y<1.5)、
In1−x(1.5<y<2.25)および
InSi1−x(1.5<y<1.75)、
からなる群から選択された一または複数の化合物であり、0<x<0.5である、請求項9または10に記載の有機EL素子。
【請求項13】
透明基板と、
前記透明基板上に形成された陽極と、
前記陽極上に形成された一層または複数層の有機化合物層と、
前記有機化合物層上に形成された陰極と、
を設け、
前記陽極は、酸化インジウム化合物とPt,Ir,Pd,Ni,Ru,AuおよびCoから選択された一または複数の元素である仕事関数の高い金属とを含む透明導電膜を含み、
前記透明導電膜に含まれる前記仕事関数の高い金属は、前記透明基板側から前記有機化合物側へ向けて濃度勾配を有する、
有機EL素子。
【請求項14】
前記透明導電膜に含まれる前記仕事関数の高い金属の濃度は、前記透明基板側の領域より前記有機化合物層の領域が高い、請求項13に記載の有機EL素子。
【請求項15】
前記仕事関数の高い金属の濃度が前記有機化合物層側の領域で、前記仕事関数の高い金属の元素と前記酸化インジウム化合物のインジウム元素との合計に対して60at.%以上100at.%以下である、請求項13または14に記載の有機EL素子。
【請求項16】
前記酸化インジウム化合物が下式で表される、請求項13から15の何れかに記載の有機EL素子。
InMe1−x
ここでMeはIVa族、Va族、IVb族およびVb族の元素からなる群から選択された一または複数の元素であり、0<x<0.5、1.0<y<2.0である。
【請求項17】
前記酸化インジウム化合物が
InSn1−x(1.25<y<1.5)、
InZn1−x(1.25<y<1.5)、
In1−x(1.5<y<2.25)および
InSi1−x(1.5<y<1.75)、
からなる群から選択された一または複数の化合物であり、0<x<0.5である、請求項13から15の何れかに記載の有機EL素子。
【請求項18】
前記透明導電膜をスパッタリング法により形成する請求項13から17の何れかに記載の有機EL素子の製造方法であって、
前記酸化インジウム化合物と前記仕事関数の高い金属とのスパッタパワーの比率を制御して、前記仕事関数の高い金属の濃度勾配を持つ前記透明導電膜を形成する、
有機EL素子の製造方法。
【請求項19】
前記透明導電膜をスパッタリング法により形成する請求項13から17の何れかに記載の有機EL素子の製造方法であって、
前記酸化インジウム化合物と前記仕事関数の高い金属との組成比率を変えた複数のターゲットを配置し、
前記複数のターゲットを順次使用したスパッタリング法を用いて前記透明導電膜を形成することで、
前記仕事関数の高い金属の濃度勾配を持つ前記透明導電膜を形成する、
有機EL素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2013年3月28日に出願された日本特許出願第2013−067782号、2013年3月28日に出願された日本特許出願第2013−067801号、2013年3月28日に出願された日本特許出願第2013−068164の優先権を主張し、その内容を参照することにより本出願に取り込む。
【0002】
本願発明は有機エレクトロルミネッセンス素子(以下有機EL素子という)に関する。
【背景技術】
【0003】
有機EL素子を用いた薄型ディスプレイは、自発光型のフラットパネルディスプレイであり、低消費電力、広視野角、高速応答の優れた特性及び高輝度なフルカラー化へのニーズの点から期待されている。
【0004】
有機EL素子は、陽極/複数の有機化合物層/陰極の素子構造で構成されており、陽極あるいは陰極には透明導電膜が用いられている。二層の有機化合物層としては陽極と陰極の間に有機正孔輸送層と有機発光層があり、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子とが、有機発光層で再結合する事で励起状態を作り、基底状態へ戻る時に発光するメカニズムである。有機正孔輸送層および有機発光層へ各々、効率良く正孔および電子を注入するために、陽極及び陰極の電極材料としては、各々、大きな仕事関数を有する透明導電膜のITO(Indium Tin Oxide)及び小さな仕事関数を有するアルカリ土類金属が挙げられる。
【0005】
有機EL素子において、陽極の仕事関数と有機正孔輸送層の最高占有軌道(Highest Occupied Molecular Orbital:HOMO)の間のギャップを少なくしてマッチング良くすることが正孔の注入効率の低下を大きく抑制する。例えば、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB:N, N’-bis-(1-naphthl)-N, N’-diphenyl1-1, 1-biphenyl 1-4, 4’-diamine)を用いた場合、HOMOは5.7eVであり、陽極の仕事関数にはこの値が望まれる。しかしながら、陽極の電極材料として良く用いられているITOの仕事関数は4.5〜4.7eVであるために、有機正孔輸送層のHOMOへITOから正孔を注入する場合、ITOとHOMOの間のエネルギーギャップが大きいために、陽極/有機正孔輸送層の界面でのエネルギー障壁を低減することが難しく、結果として、十分な正孔の注入効率が得られない問題があった。
【0006】
これらの問題を解決するために、特許文献1に、ITOより高い仕事関数を有するNi,Pd,Ir,PtあるいはAu金属を陽極として用いることが開示されている。しかしながら、この場合には、陰極には透明導電膜を使用しなければならず、陰極材料の制約が大きくなるという問題を含んでいる。
【0007】
陽極の透明導電性を維持しながらITOの仕事関数を高くするために、ITO膜をUVオゾン酸化する方法(非特許文献1)、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma)酸素処理する方法(非特許文献2)及びKrFパルスレーザ処理する方法(非特許文献3)で、酸素濃度を高くする試みが報告されて、V,HfあるいはZr元素をITO膜へドープしてドープ元素の酸化物形成に伴ってITO膜の酸素濃度を高める方法(非特許文献4)も報告されている。
しかしながら、上記文献等に記載の種々の酸化方法でITO膜中の酸素濃度を高める手法は、有機EL素子の加工プロセスを複雑にすると共に、ITO膜中の酸素濃度が加工プロセスの雰囲気条件に大きく影響される問題がある。実際に、本願発明者らはITO膜を3%H雰囲気に曝すと、300℃の低温度であっても実効仕事関数が約0.8eVほど容易に低下することを見出している。また、ITO膜へドープする元素の酸化により酸素濃度を高める方法は、ドープ元素の添加量が増えるに従って仕事関数は増加するが、抵抗が4桁も増大するなどのトレードオフの関係にあり、高い仕事関数と小さな抵抗を満足する領域がほとんど無いことが問題となっている。さらに、酸化熱処理でITO膜の仕事関数を高める方法は300℃以上の高温度が必要であり、有機EL素子の作製プロセスに大きな制限を課している。
【0008】
また、ITO陽極と有機化合物層の間にITOより高仕事関数な層を導入する方法が報告されている。例えば、ITOと有機化合物層のNPBの間に、膜厚が15nmのITO膜より仕事関数の大きなドーピングされたITO層またはCuPc(Copper Phthalocyanine)層(非特許文献4)、膜厚が4nmのIn:Pt,W層(非特許文献5)を導入することが報告されている。また、ITO膜の仕事関数を高くするために、ITO膜へ膜厚が2.5nmのNi膜(非特許文献2)、膜厚が1.4nmのAuまたはPt膜(非特許文献6)の形成が報告されている。
しかしながら、上記文献等に記載のITO膜と有機化合物層との間にITOより高仕事関数な層を挿入する方法は、ITOより高仕事関数な層はウェットエッチングによる電極加工でITOと異なるエッチング材料を使用する必要がある為に有機EL素子の加工プロセスにかなりの制限が課せられたり、ITOより高仕事関数な層が金属の場合には可視光に対する透過性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−133464号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of APPLIED PHYSICS 86, 1688(1999).
【非特許文献2】Journal of APPLIED PHYSICS 95, 586(2004).
【非特許文献3】Journal of Vacuum Science Technology A 24, 1866(2006).
【非特許文献4】Journal of APPLIED PHYSICS 99, 114515(2006).
【非特許文献5】ELECTRONICS LETTERS 44, 20081318(2008).
【非特許文献6】Journal of Vacuum Science Technology A 17, 1773(1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、酸化インジウム化合物と大きな仕事関数を有する元素とから構成される透明導電膜の陽極を用いることで、上記の問題を解決した有機EL素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の一側面によれば、透明基板と、透明基板上に形成された陽極と、陽極上に形成された一層または複数層の有機化合物層と、有機化合物層上に形成された陰極と、を設け、陽極は、酸化インジウム化合物と貴金属元素を含む導電性酸化物とを含む透明導電膜である、有機EL素子が与えられる。
ここで、透明電極膜は、透明基板側に設けられ、酸化インジウム化合物を含むが貴金属元素を含まない第1の透明導電膜と、有機化合物層側に設けられ、酸化インジウム化合物と貴金属元素とを含む第2の透明導電膜と、を含んでよい。
また、貴金属元素を含む導電性酸化物の貴金属の添加量が、貴金属と酸化インジウム酸化物のインジウム元素との合計に対して0at.%より大きく50at.%より小さな範囲であってよい。
また、貴金属元素を含む導電性酸化物がPtO,IrOおよびRuOから成る群から選択された一または二以上の組み合わせの導電性酸化物であってよい。
また、貴金属元素を含む導電性酸化物がSrRuOであってよい。
また、酸化インジウム化合物が、InMe1−xの化学式で表されて、MeはIVa族、Va族、IVb族およびVb族の元素からなる群から選択された一または複数の元素であり、0<x<0.5、1.0<y<2.0であってよい。
また、酸化インジウム化合物が、InSn1−x(1.25<y<1.5)、InZn1−x(1.25<y<1.5)、In1−x(1.5<y<2.25)およびInSi1−x(1.5<y<1.75)、からなる群から選択された一または複数の化合物であり、0<x<0.5であってよい。
【0013】
本願発明の第二の側面によれば、透明導電膜を共スパッタリング法により形成する有機EL素子の製造方法であって、酸化インジウム化合物と貴金属を含む導電性酸化物とのスパッタパワーの比率を調整して、酸化インジウム化合物と貴金属を含む導電性酸化物との組成比を制御した透明導電膜を形成する、有機EL素子の製造方法が与えられる。
また、透明導電膜を酸化インジウム化合物と貴金属元素の金属との共スパッタリング法を用いて形成した後に、オゾンおよび/またはプラズマ酸化処理して透明導電膜の酸素組成比を制御する、有機EL素子の製造方法が与えられる。
【0014】
本願発明の第三の側面によれば、透明電極膜は、透明基板側に設けられ、酸化インジウム化合物を含む第1の透明導電膜と、有機化合物層側に設けられ、酸化インジウムと貴金属元素を含む導電性酸化物とを含む第2の透明導電膜と、を含む、有機EL素子が与えられる。
ここで、第2の透明導電膜が、アモルファス構造であってよい。
また、第2の透明導電膜の膜厚が、4nm以下であってよい。
また、貴金属元素を含む導電性酸化物の貴金属元素の添加量が、貴金属元素と酸化インジウムのインジウム元素との合計に対して20at.%より大きく70at.%より小さな範囲であってよい。
また、貴金属元素を含む導電性酸化物がPtO,IrOおよびRuOから成る群から選択された一または二以上の組み合わせの導電性酸化物であってよい。
また、貴金属元素を含む導電性酸化物がSrRuOであってよい。
また、酸化インジウム化合物が、InMe1−xの化学式で表されて、MeはIVa族、Va族、IVb族およびVb族の元素からなる群から選択された一または複数の元素であり、0<x<0.5、1.0<y<2.0であってよい。
また、酸化インジウム化合物が、InSn1−x(1.25<y<1.5)、InZn1−x(1.25<y<1.5)、In1−x(1.5<y<2.25)およびInSi1−x(1.5<y<1.75)、からなる群から選択された一または複数の化合物であり、0<x<0.5であってよい。
【0015】
本願発明の第四の側面によれば、第2の透明導電膜を共スパッタリング法により形成する有機EL素子の製造方法であって、酸化インジウムと貴金属元素とのスパッタパワーの比率を調整して、酸化インジウムと貴金属元素を含む導電性酸化物との組成比を制御した第2の透明導電膜を形成する、有機EL素子の製造方法が与えられる。
【0016】
本願発明の第五の側面によれば、透明基板と、透明基板上に形成された陽極と、陽極上に形成された一層または複数層の有機化合物層と、有機化合物層上に形成された陰極と、を設け、陽極は5eVより大きな仕事関数を有する材料からなるとともに膜厚が0.6nm以上かつ1.2nm以下である高仕事関数層を含む、有機EL素子が与えられる。
また、透明基板と、透明基板上に形成された陽極と、陽極上に形成された一層または複数層の有機化合物層と、有機化合物層上に形成された陰極と、を設け、陽極は5eVより大きな仕事関数を有する材料からなる複数の粒子を含む、有機EL素子が与えられる。
ここで、粒子の粒径が0.6nm以上かつ2nm以下であってよい。
また、5eVより大きな仕事関数を有する材料は、PtO,IrOおよびRuOからなる群から選択された一の材料または二以上の材料の組み合わせであってよい。
また、5eVより大きな仕事関数を有する材料は、Pt,Ir,Pd,Ni,AuおよびCoからなる群から選択された一の元素、または二以上の元素の合金であってよい。
また、陽極の材料が、InMe1−xで表される酸化インジウム化合物であって、MeはIVa族、Va族、IVb族およびVb族の元素からなる群から選択された一または複数の元素であり、0<x<0.5、1.0<y<2.0であってよい。
また、酸化インジウム化合物が、InSn1−x(1.25<y<1.5)、InZn1−x(1.25<y<1.5)、In1−x(1.5<y<2.25)およびInSi1−x(1.5<y<1.75)、からなる群から選択された一または複数の化合物であり、0<x<0.5であってよい。
【0017】
本願発明の第六の側面によれば、透明基板と、透明基板上に形成された陽極と、陽極上に形成された一層または複数層の有機化合物層と、有機化合物層上に形成された陰極と、を設け、陽極は、酸化インジウム化合物と仕事関数の高い金属とを含む透明導電膜を含み、透明導電膜に含まれる仕事関数の高い金属は、透明基板側から有機化合物側へ向けて濃度勾配を有する、有機EL素子が与えられる。
ここで、透明導電膜に含まれる仕事関数の高い金属の濃度は、透明基板側の領域より有機化合物層の領域が高くてよい。
また、仕事関数の高い金属が、Pt,Ir,Pd,Ni,Ru,AuおよびCoから選択された一または複数の元素であってよい。
また、仕事関数の高い金属の濃度が有機化合物層側の領域で60at.%以上100at.%以下であってよい
また、酸化インジウム化合物がInMe1−xで表され、ここでMeはIVa族、Va族、IVb族およびVb族の元素からなる群から選択された一または複数の元素であり、0<x<0.5、1.0<y<2.0であってよい。
また、酸化インジウム化合物が、InSn1−x(1.25<y<1.5)、InZn1−x(1.25<y<1.5)、In1−x(1.5<y<2.25)およびInSi1−x(1.5<y<1.75)、からなる群から選択された一または複数の化合物であり、0<x<0.5であってよい。
【0018】
本願発明の第七の側面によれば、透明導電膜をスパッタリング法により形成する有機EL素子の製造方法であって、酸化インジウム化合物と仕事関数の高い金属とのスパッタパワーの比率を制御して、仕事関数の高い金属の濃度勾配を持つ透明導電膜を形成する、有機EL素子の製造方法が与えられる。
また、透明導電膜をスパッタリング法により形成する有機EL素子の製造方法であって、酸化インジウム化合物と仕事関数の高い金属との組成比率を変えた複数のターゲットを配置し、複数のターゲットを順次使用したスパッタリング法を用いて透明導電膜を形成することで、仕事関数の高い金属の濃度勾配を持つ透明導電膜を形成する、有機EL素子の製造方法が与えられる。
【発明の効果】
【0019】
本願発明によれば、導電率や可視光に対する透過率を著しく低下させることなく陽極の透明導電膜の仕事関数を大きくできることで、発光効率に優れた有機EL素子およびその製造法が与えられる。
【0020】
本願発明の他の目的、特徴および利点は添付図面に関する以下の本願発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を概念的に示す図。
図2A】ITO膜の作製方法を示す図。
図2B】ITOとIrOとの共スパッタリング法によるITO:IrO膜の作製方法を示す図。
図3A】ITOとPtとの共スパッタリング法によるITO:PtO膜の作製方法を示す図。
図3B】ITO:PtO膜のオゾン酸素処理方法を示す図。
図4】酸化インジウム化合物と貴金属を含む導電性酸化物から構成される透明導電膜の実効仕事関数の変化を示す図。
図5】ITO膜およびITO:IrO膜の3%H還元処理温度に対する実効仕事関数の変化を示す図。
図6】ITO膜およびITO:IrO膜の透過スペクトルを示す図。
図7】本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を概念的に示す図。
図8】陽極表面に対するX線回折スペクトルを示す図。
図9】陽極表面に対する原子間力顕微鏡で測定した二乗平均平方根粗さ(RMS)を示す図。
図10】ITO膜およびITO/IRO膜の透過スペクトルを示す図。
図11】本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を概念的に示す図。
図12】本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を概念的に示す図。
図13】RuO膜厚に対するITO/RuO膜の実効仕事関数の変化を示す図。
図14】ITO膜およびITO/RuO(1.2nm)膜の3%H還元処理温度に対する実効仕事関数の変化を示す図。
図15】ITO膜およびITO/RuO(1.2nm)膜の透過スペクトルの変化を示す図。
図16】Auドットの直径に対するITO/Auドットの実効仕事関数の変化を示す図。
図17】本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を概念的に示す図。
図18】陽極に酸化インジウム化合物と仕事関数の高い金属から形成された透明導電膜を備えた有機EL素子の構造を模式的に示す図と、仕事関数の高い金属の濃度分布図。
図19】ITO:Pt膜の膜表面に垂直な方向の位置に対するPtの濃度分布を示す図。
図20】ITO:Pt膜、ITO膜およびガラス基板の透過スペクトルを示す図。
図21】ITO:Pt電極SiOキャパシタで求められたITO:Pt膜のPt濃度に対するITO:Pt膜の実効仕事関数の変化を示す図。
図22】スパッタターゲットを連続して配置したスパッタリング法を模式的に説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を参照しながら、本願発明の実施形態に係る有機EL素子及びその製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは、実際の製品とは適宜異ならせて示している。
【0023】
本願発明は、有機EL素子の陽極として、酸化インジウム化合物と大きな仕事関数を有する元素とから構成される透明導電膜を形成することで、その仕事関数を大きくできる。透明導電膜は、大きな仕事関数を有する元素の添加量が酸化インジウム酸化物のIn元素に対して0at.%より大きく50at.%より小さな範囲であれば、可視光に対する透過性の低下を抑制できるので好ましい。また、透明導電膜の大きな仕事関数を有する元素の添加量を、透明基板側より有機化合物側において増やすことにより、有機化合物側の透明導電膜の一部分において、大きな仕事関数を有する元素の添加量が酸化インジウム酸化物のIn元素に対して50at.%以上であっても、可視光に対する透過性の低下を抑制できるので好ましい。
陽極としての構造安定性の観点から、酸化インジウム化合物のInMe1−xのMeはZn、WおよびIVa族、Va族、IVb族、Vb族の元素が好ましい。また、低抵抗な導体および可視光領域で高い透過率が要求されることから、x値は0より大きく0.5より小さな範囲が好ましい。IVa族、Va族、IVb族、Vb族の元素の場合には、y値は1.0より大きく2.0より小さい範囲が好ましい。特に、酸化インジウム化合物が、InSn1−x、InZn1−x、In1−xおよびInSi1−xである場合、大きな仕事関数を有する元素との整合性が優れ、プロセスの酸化・還元雰囲気に影響を受けにくい安定した酸素組成比を維持するのに適している。
【実施例】
【0024】
以下に本願発明を実施例により説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
図1に本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を示す。透明基板として使用されるガラス基板101上へ酸化インジウム化合物と貴金属を含む導電性酸化物とから構成される透明導電膜の陽極102、有機正孔輸送層103、有機発光層104(有機正孔輸送層103と有機発光層104とをまとめて有機化合物層と総称する)、陰極105をこの順で形成する。前記貴金属を含む導電性酸化物は低い抵抗を有する導体なので、酸化インジウム化合物へ添加しても抵抗値を上げる悪影響は発生しない。また、この導電性酸化物は酸化物なので、添加によって酸化インジウム化合物から酸素を奪って酸素組成比を制御しづらくする恐れもない。さらに、この導電性酸化物は酸化インジウム化合物のうちで代表的なITOの実効仕事関数値(4.7eV)に比べて高い実効仕事関数値を有するので、透明導電膜の仕事関数を大きくする働きも期待できる。
【0026】
この有機EL素子の作製に当たっては、ガラス基板上へITO(In0.9Sn0.1O)ターゲットとIrOターゲットを用いたArガス雰囲気の共スパッタリング法で、IrOの貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したITO(ITO:IrO)膜を150nm成膜して陽極とした。ITOとIrOの組成比はITO側のスパッタパワーを150W一定にして、IrO側のスパッタパワーを10Wから150Wまで変えることで調整して、インジウム元素とイリジウム元素を全体とした時、それに対するイリジウム元素の濃度(Ir/(In+Ir))を50at.%より小さな範囲になるように制御した。また、最初から共スパッタリングで作製したIrO/ITO組成比が一定のIrO添加したITO膜の場合と、図2A図2Bに示すように、図2AのITO膜を140nm成膜後に図2Bの共スパッタリング法でIrO添加したITO膜を10nm成膜した場合で、IrO添加したITO膜中のIr/Inの組成比が同じならば実効仕事関数値はほぼ同じ値を示した。続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm作製し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0027】
ITO:IrO膜の実効仕事関数を求めるために、次のキャパシタを作製した。P型Si基板を900℃の酸素雰囲気中、熱処理してSiO膜を作製した。SIO膜厚は熱処理時間を変えて調整し、6、8および12nmとした。続いて、前記のITOターゲットおよびIrOの共スパッタリング法を用いて、膜厚150nmのITO:IrOゲート電極をリフトオフプロセスで作製してキャパシタを作製した。共スパッタリングの各々のスパッタパワーを変えることで、ITO:IrO膜のIr濃度を0〜50at.%(ここで言うat.%は、前述のようにインジウム元素とイリジウム元素を全体とした時、それに対するイリジウム元素の濃度(Ir/(In+Ir))であることに注意)の範囲で制御した。続いて、容量(C)−電圧(V)測定よりフラットバンド電圧(Vfb)を求め、SiO膜厚に対するVfb変化より、実効仕事関数を算出した。図4に、Ir濃度が40at.%のITO:IrO電極の実効仕事関数の変化を示す。縦軸は、レファレンスとして作製したITO/SiO/p−Siキャパシタより求められた実効仕事関数値を差し引いた値である。IrOを添加することで、約0.8eVの大きな実効仕事関数の増加が達成されることが分った。
【0028】
図4には酸化インジウム化合物として、ITO以外にも、後述するようにIZO及びIWOを使用し、また貴金属酸化物としてIrO以外にRuO、PtO及びSrRuOを使用した場合に測定された実効仕事関数の変化(つまり、対応する酸化インジウム化合物膜使用レファレンスキャパシタより求められた実効仕事関数を差し引いた値)も図示した。また、イリジウム以外の貴金属元素の濃度も上述のイリジウム元素の濃度と同じ考え方で定義した。
【0029】
ITO膜およびITO:IrO膜を3%Hガスを100sccmフローさせながら、100℃から50℃きざみで400℃まで還元処理した場合のSiOキャパシタより算出される実効仕事関数の変化を図5に示す。縦軸は、熱処理前後の実効仕事関数の比、すなわち熱処理後の実効仕事関数を熱処理前の実効仕事関数の値で割った値である。ITO膜の実効仕事関数は、250℃から急激に低下し、300℃では熱処理前の値から約80%も低下した。さらに熱処理温度を高くしても同じ値であることから、300℃でこの低下は飽和した。この実効仕事関数の低下の大きな要因は、還元処理によってITO膜から酸素が脱離したためと考えられる。一方、ITO:IrO膜の実効仕事関数は温度上昇に伴って緩やかな低下を示すが、400℃でもその低下は熱処理前の約40%に抑制されていることが分かる。また、300℃でITO膜と比較すると、実効仕事関数の低下率は約60%も小さい。これは、IrO添加によって、ITO:IrO膜からの酸素の脱離が抑えられたためと考えられる。
【0030】
図6に、ITO膜およびITO:IrO膜の波長に対する透過スペクトルの変化を示す。縦軸は、ガラス基板のみの透過スペクトルを引いた差である。本願発明のITO:IrO膜の波長に対する透過率のプロファイルはITO膜に比べて若干低下するが、可視光域600nmにおける透過率の値は90%を示すことから、特に問題にならない。
【0031】
また、ITOの代わりに、IZO(In0.95Zn0.05O)およびIWO(In0.990.01O)をターゲットに用いてIrOターゲットとの共スパッタリング法で形成したIZO:IrO電極およびIWO:IrO電極のSiOキャパシタを作製した。図4に、Ir濃度が40at.%のIZO:IrO電極およびIWO:IrO電極の実効仕事関数の変化を示す。ITO:IrOの場合と同様、約0.7eV大きな実効仕事関数値が得られた。
【0032】
さらに、IrOターゲットの代わりに、RuOおよびSrRuOターゲットを用いて、ITO、IZOおよびIWOのターゲットと組合わせた共スパッタリング法で、6種類の透明導電膜(ITO:RuO,IZO:RuO,IWO:RuO,ITO:SrRuO,IZO:SrRuOおよびIWO:SrRuO)を作製した。6種類の電極の実効仕事関数の変化を図4にまとめた。IrOの場合に比べて、RuOで約0.1〜0.2eV、SrRuOで約0.2〜0.3eVほど小さな変化(増加)ではあるが、ITO単独に比べて大きな実効仕事関数値を示すことが分かった。これは、貴金属を含む導電性酸化物の仕事関数の大きさがSrRuO<RuO,PtO<IrOの順番であり、その影響が現れたと思われる。
【0033】
(実施例2)
図7は、ガラス基板101上へ酸化インジウム化合物から構成されるITO膜112と、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122と、から構成される透明導電膜の陽極132を設けた、本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を示す。なお、この有機EL素子構造は、透明導電膜の陽極132を除いて図1と同じに構成される。アモルファス構造にすることで平滑性に優れた膜になり、その平滑性によって、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122は、その界面における光の散乱を抑制することができ、より光が透過しやすくなる。なお、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122の膜厚は4nm以下が好ましい。また、貴金属元素を含む導電性酸化物の貴金属の添加量は、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜の仕事関数が5eV以上になるように調整されていることが好ましい。
【0034】
この有機EL素子の作製に当たっては、ガラス基板上へITO(In0.9Sn0.1O)ターゲットを用いてITO膜を成膜した後、InターゲットとRuターゲットを用いた酸素/Arガス雰囲気の共スパッタリング法で、RuOを添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜(IRO膜)を成膜して陽極とした。その際、Ru側のスパッタパワーを調整して、IRO膜の実効仕事関数が5eV以上になるように制御した。IRO膜をアモルファス構造にするには、IRO膜におけるIn元素とRu元素との合計に対するRu元素の濃度(Ru/(In+Ru))を20at.%より大きく70at.%より小さくすることが好ましい。
Ru元素の濃度(Ru/(In+Ru))が62at.%で膜厚のIRO膜(Ru−IRO)において、3nmの場合の実効仕事関数は5.72eVに調整され、抵抗値は1.6×10−4(Ω・cm)であった。また、図8は、IRO膜のX線回折スペクトルを示す。Ru−IROを成膜した場合の横軸のX線の入射角に対して縦軸の回折強度は、なだらかであってピークが存在しないことからアモルファス構造であることを示している(図8の(2))。それに対して、In図8の(4))、RuO図8の(1))、In−IRO(Ru/(In+Ru)=5at.%)(図8の(3))にはそれぞれ回折強度にピークが存在し、結晶構造であることを示している。
【0035】
図9は、陽極表面に対する原子間力顕微鏡で測定した二乗平均平方根粗さ(RMS)を示す。アモルファス構造であるRu−IRO(図9の(d))は、RMSが0.69nmであって、他より平坦性を有することを示している。
【0036】
ガラス基板上に膜厚が3nmのRu−IROを成膜した後に膜厚が150nmのITO膜を成膜したサンプルを作製した。比較として、ガラス基板上に膜厚が150nmのITO膜を成膜したサンプル、また、ガラス基板上に膜厚がそれぞれ1,2,3,4,5および10nmのRu−IROを成膜した場合のサンプルを作製した。図10は、ガラス基板のみ場合とそれぞれの作製されたサンプルの場合の波長に対する透過スペクトルの変化を示す。本願発明のITO/Ru−IRO(3nm)膜の波長に対する透過率のプロファイル(図10のITO/Ru−IRO(3nm))はITO膜(図10のITO)に比べて若干低下するが、可視光域600nmにおける透過率の値は80%を示すことから、特に問題にならない。
酸化インジウム化合物から構成されるITO膜112を成膜後、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122の膜厚を4nm以下になるように成膜して、透明導電膜の陽極132を作製した場合には、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122におけるIn元素と貴金属元素の合計に対する貴金属元素の濃度が、50at.%より小さい範囲だけでなく50at.%以上をも含めて、可視光域600nmにおける透過率は問題にならない高さであることが分った。
【0037】
(実施例3)
本願発明の第3の実施例を、図3A図3Bを用いて説明する。本実施例は陽極となる透明導電膜以外は第1の実施例と同様であるので、図3A図3Bにこの透明導電膜の製造方法だけを示す。まず、図3Aに示すように、ガラス基板上へITOターゲットとPtターゲットを用いた酸素/Arガスを導入した共スパッタリング法で、PtOを添加したITO(ITO:PtO)膜を150nm成膜した。Pt金属は酸化されにくい材料として周知であるが、溶存酸素を含むことは知られており、また電気陰性度の大きな酸素によって仕事関数が大きくなる効果がある。図3Bに示すように、ITO:PtO膜の溶存酸素をさらに増やすために、オゾン濃度(O/(O+O))が80%のオゾンガスをオゾンジェネレーターからITO:PtO膜が設置された減圧チャンバーへ導入して、室温〜200℃の温度範囲で酸素処理した。オゾン酸素処理の他に、ITO:PtO膜を真空チャンバーへ設置して、100W〜1.5kWのプラズマで励起したプラズマ酸素処理を行っても、同様の効果がある。続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm、最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。なお、図3A図3Bではインジウム酸化物としてITOの場合を示したが、これ以外にもIZOやIWOも当然使用可能である。ITO:PtO,IZO:PtOおよびIWO:PtO膜の実効仕事関数は、実施例1と同様に、SiOキャパシタを作製して求めた。図4に、Pt濃度が40at.%の場合のデータを示す。いずれもITOに比べて0.6eV以上の大きな実効仕事関数値を示し、特にIWO:PtOで最も大きな効果を示した。なお、図4に示したこれらのデータはオゾン酸素処理された膜についての測定結果であるが、溶存酸素量が同じであれば、プラズマ酸素処理を行っても同様な結果が得られる。
【0038】
IrO,RuO,PtOの2種類以上を組み合わせた導電性酸化物の場合には、個々の金属と酸素との結合力が高まり、その結果、小さな濃度から大きな実効仕事関数値が得られる効果がある。
【0039】
(実施例4)
図11に本願発明の有機EL素子の一実施例の構造を示す。この有機EL素子構造は、透明基板として使用されるガラス基板201上へ高仕事関数層204を含む透明導電膜である陽極202、一層または複数層の有機化合物層203(この内訳は有機正孔輸送層205、有機発光層206)および陰極207の順で構成される。
ガラス基板上へITO(In0.9Sn0.1O)ターゲットを用いたArガス雰囲気の150Wの高周波マグネトロンスパッタリング法で、ITO膜を150nm成膜し、続いて、RuOターゲットを用いた酸素/Ar雰囲気の30Wの高周波マグネトロンスパッタリング法でRuOの高仕事関数層を成膜して陽極を形成した。RuOの実効仕事関数は約5.5eVとRu金属の4.7eVに比べて大きな値を示す。これは電気陰性度の大きな酸素の効果である。同様の理由で、IrOおよび溶存酸素を含むPtOもそれぞれIrおよびPtに比べて大きな実効仕事関数値を有する。基板−ターゲット間の距離を長くした小さな成膜速度の条件の下でスパッタリング時間を変えることで、RuO膜の膜厚を0.6〜1.2nmの範囲で調整した。
続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm成膜し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0040】
高仕事関数層として用いたRuOの実効仕事関数を求めるために、次のキャパシタを作製した。P型Si基板を900℃の酸素雰囲気中、熱処理してSiO膜を作製した。SiO膜厚は熱処理時間を変えて調整し、6、8および12nmとした。
続いて、RuOターゲットのスパッタリング法を用いて、酸素/Ar雰囲気中、スパッタパワー30WでRuO膜を成膜した後に、続けて、ITOターゲットを用いたAr雰囲気中、スパッタパワー150Wのスパッタリング法で膜厚150nmのITO膜を成膜した。フォトリソプロセスを経て、このITO/RuO膜を電極としたキャパシタを作製した。RuO膜の膜厚は、スパッタリング時間を変えることで、0.3nm〜10nmの範囲で調整した。続いて、容量(C)−電圧(V)測定よりフラットバンド電圧(Vfb)を求め、SiO膜厚に対するVfb変化より、ITO/RuO膜の実効仕事関数を算出した。
図13に、RuO膜の膜厚に対するITO/RuO電極の実効仕事関数の変化を示す。なお、図12の縦軸は、レファレンスとして作製したITO/SiO/p−Siキャパシタより求められた実効仕事関数値を差し引いた値である。ITO膜とSiO層の間に挿入されるRuO層の膜厚が厚くなるに従って実効仕事関数値は増加する。特に、膜厚が0.6nmまでは急激に増加し、1.2nmまででその変化は飽和する傾向を示すことが分った。
【0041】
また、ITO/SiO/p−SiキャパシタおよびITO/RuO(1.2nm)/SiO/p−Siキャパシタを、3%Hガス100sccmフローさせながら、100℃から50℃きざみで400℃までそれぞれ30分間還元処理した場合のVfb値より算出されるITO膜およびITO/RuO膜の実効仕事関数の変化を図14に示す。
縦軸は、熱処理後の実効仕事関数を熱処理前の実効仕事関数の値で割った値である。ITO膜の実効仕事関数は、250℃から急激に低下し、300℃で約0.8も小さな値へ変化した。さらに熱処理温度を高くしても同じ値であることから、300℃でこの低下は飽和した。この実効仕事関数の低下の大きな要因は、還元処理によってITO電極から酸素が脱離したためと考えられる。一方、ITO/RuO(1.2nm)電極の実効仕事関数は還元温度が高くなるに従って緩やかな低下を示すが、400℃でもその低下は約0.3に抑制されていることが分かる。また、300℃でITO膜と比較すると、約0.7も高い実効仕事関数を示す。これは、RuO膜が還元に対して構造安定を維持しており、その結果、ITO/RuO(1.2nm)膜からの酸素の脱離が抑えられたためと考えられる。
【0042】
ガラス基板上へ膜厚が1.2nmのRuOを成膜した後に膜厚が150nmのITO膜を作製した。比較として、ガラス基板上へ膜厚が150nmのITO膜を作製した。図15は、両膜の波長に対する透過スペクトルの変化を示す。縦軸は、ガラス基板のみの透過スペクトルを引いた差である。本願発明のITO/RuO(1.2nm)膜の波長に対する透過率のプロファイルはITO膜に比べて700nm以上の高波長域で若干低下する傾向を示すが、可視光域600nmにおける透過率の値は90%を示すことなど、良好な透過性を維持している。
【0043】
また、SiO/p−Si上へ膜厚1.2nmのRuO膜を成膜した後に、ITOの代わりに、IZO(In0.95Zn0.05O)およびIWO(In0.990.01O)をターゲットに用いたスパッタリング法で、膜厚150nmのIZO/RuO(1.2nm)電極およびIWO/RuO(1.2nm)電極のキャパシタを作製した。両キャパシタのVfb値より算出した実効仕事関数値は、ITO電極に比べて何れも約0.9eVほど大きな値を示した。
【0044】
さらに、RuOターゲットの代わりに、IrOおよびPtターゲットを用いて、SiO/p−Si上へ膜厚1.2nmのIrOおよびPt膜を成膜した後に、膜厚150nmのITO膜を成膜して、ITO/IrO(1.2nm)およびITO/PtO電極としたキャパシタを作製した。Pt自体は酸化しづらい材料としてよく知られているが、ITO膜の形成段階で酸素雰囲気のために溶存酸素を含んだPtO構造となりやすい。両キャパシタのVfb値より算出した実効仕事関数値は、ITO電極に比べて大きく、ITO/IrO(1.2nm)で約1.1eVおよびITO/PtOで約0.9eVほど大きな値を示した。これは、RuO、IrOおよびPtO材料の仕事関数の大きさがRuO,PtO<IrOの順番であり、その影響が表れたと思われる。
【0045】
(実施例5)
図12に本願発明の有機EL素子の一実施例の構造を示す。ここでも透明基板として使用されるガラス基板201上へドット208を含む陽極202、有機正孔輸送層205、有機発光層206および陰極207の順で構成される。ガラス基板上へITO(In0.9Sn0.1O)ターゲットを用いたArガス雰囲気の150Wの高周波マグネトロンスパッタリング法で、ITO膜を150nm成膜し、Auターゲットを用いたAr雰囲気の50Wの高周波マグネトロンスパッタリング法でAuのドットを形成して、陽極とした。ドットの直径は、短いスパッタリング時間で、スパッタリング装置の真空度とスパッタリングパワーを変えることで、0.6nm〜2nmの範囲で調整した。スパッタリング時間が長く厚膜を形成する条件では、独立したドットが分布した形状ではなく、連続して広がった膜を形成しやすく、ドットとして形状が安定な直径は2nm以下であった。また、基板上に最初に形成された複数個の極微小サイズの核が凝集することでドットが形成されることから、このようにして形成されたドットはある程度以上のサイズを有するので、ドットの最小の直径は0.6nm以上であった。
さらに、ドットの被覆率(つまり[基板に載っている全てのドットの下地への投影面積の合計]/[下地の表面積])はドットの直径に依存しており、直径が2nmでは、ほぼ90%で直径が小さくになるに従ってその被覆率も低下する。Auの代わりに、Pt,Ir,Pd,NiおよびCoをターゲットに用いたスパッタリング法で形成した場合も、ドット形状を維持するのは0.6nm以上で2nm以下である。
続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm作製し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0046】
ドットとして用いたAuの実効仕事関数を求めるために、次のキャパシタを作製した。P型Si基板を900℃の酸素雰囲気中、熱処理してSiO膜を作製した。SiO膜厚は熱処理時間を変えて調整し、6、8および12nmとした。
続いて、Auターゲットのスパッタリング法を用いて、Ar雰囲気中、スパッタパワー30〜100WでAu膜を成膜した後に、続けて、ITOターゲットを用いたAr雰囲気中、スパッタパワー150Wのスパッタリング法で膜厚150nmのITO膜を成膜した。フォトリソプロセスを経て、このITO/Auドットを電極としたキャパシタを作製した。Auドットの直径は、スパッタリングパワーを変えることで、0.6nm付近、1nm付近および2nm付近の3種類を作製した。ドットの形状およびその直径は、透過型電子顕微鏡を用いた断面観察より求めた。
続いて、容量(C)−電圧(V)測定よりフラットバンド電圧(Vfb)を求め、SiO膜厚に対するVfb変化より、ITO/Auドットの実効仕事関数を算出した。
図16に、Auドットの直径に対するITO/Auドット電極の実効仕事関数の変化を示す。縦軸は、レファレンスとして作製したITO/SiO/p−Siキャパシタより求められた実効仕事関数値を差し引いた値である。ITO膜とSiO層の間に挿入されるAuドットの直径が大きくなるに従って実効仕事関数値は増加する。これは、Auドットの直径が実効仕事関数へ影響を及ぼすと言うより、Auドットの平面での被覆率が大きく関与しているためと言える。つまり、Auドットの直径が小さいときにはSiO層への投影の占有率(つまりドットの被覆率)も小さく、直径が2nmになると被覆率が約90%まで増大するためである。
【0047】
(実施例6)
図17に本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を示す。透明基板として用いられるガラス基板301上へ陽極302、有機化合物層303、および陰極304がこの順で形成され、有機化合物層303は陽極302側から有機正孔輸送層305および有機発光層306で構成されている。本願発明の一実施例では陽極302は酸化インジウム化合物と仕事関数の高い金属から形成されている透明電極膜である。図18に、この透明導電膜307の構造の模式図と、この透明導電膜307中の前記金属の濃度勾配を示す。透明導電膜307は、有機正孔輸送層305側へ近づくに従って、仕事関数の高い金属の濃度が高くなるように形成した。このような濃度勾配により、母材となる透明導電膜中で仕事関数の高い金属の濃度が変わるのみなので、急峻な界面も無く屈折率の変化も小さくなり、その結果、透過率の低減も小さくできる。
【0048】
この濃度勾配を持つ透明電極膜の成膜は以下のようにして行った。ガラス基板301上へITO(In0.9Sn0.1O)ターゲットとPtターゲットを用いた共スパッタリング法で透明導電膜307を形成したが、ITOとPtのスパッタパワーを変えてPtを有するITO(ITO:Pt)膜を、全体の厚さが150nmとなるように成膜した。ここで、成膜初期はITOのスパッタパワー150Wのみ印加して純粋なITO膜を100nm成膜した。続いて、Ptのスパッタパワーを5Wから150Wまで徐々に上げるに従ってITOのスパッタパワーを150Wから0Wへ下げて、50nm形成した。
【0049】
このITO:Pt膜の組成比の膜厚方向についての濃度プロファイルを、ITO:Pt膜の表面からArエッチングしながらPt4f、In3dのXPS測定より求めた。この測定結果であるPt濃度(Pt/(Pt+In)とITO:Pt膜中の膜表面に垂直な方向の位置(つまり、ガラス基板表面からの距離)との関係を図19に示す(図19の横軸が「ITO:Pt膜の膜厚」と表記されているが、これは、上述のArエッチングで膜を一部除去した時の残留した膜の厚さを示すものであり、測定点のガラス基板表面からの距離と等価である)。図18からわかるように、ITO:Pt膜の最表面(有機化合物層側の面)でPt濃度が100at.%であり、膜表面からガラス基板側へ向けてPt濃度は減少する傾向を示し、0〜100nm付近まではPt濃度は0であった。
【0050】
図20に、ガラス基板、ITO膜およびITO:Pt膜の波長に対する透過スペクトルを示す。本実施例のITO:Pt膜の波長に対する透過率のプロファイルはITO膜と同じ傾向を示した。可視光域600nmにおける透過率は90%を示し、ガラス基板とほぼ同等の値であることから、ITO:Pt膜による透過性の低下は認められない。
【0051】
続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm作製し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0052】
ITO:Pt膜の実効仕事関数を求めるために、次のキャパシタを作製した。P型Si基板を900℃の酸素雰囲気中、熱処理してSiO膜を作製した。SIO膜厚は熱処理時間を変えて調整し、6、8および12nmとした。続いて、前記のITOターゲットおよびPtの共スパッタリング法を用いて、膜厚150nmのITO:Ptゲート電極をリフトオフプロセスで作製してキャパシタを形成した。共スパッタリングの各々のスパッタパワーを変えることで、ITO:Pt膜の最表面のPt濃度を0〜100at.%の範囲で制御した。続いて、容量(C)−電圧(V)測定よりフラットバンド電圧(Vfb)を算出し、SiO膜厚に対するVfb変化より、実効仕事関数を求めた。図21に、SiO層界面のITO:Pt膜のPt濃度に対するITO:Pt電極の実効仕事関数の変化を示す。縦軸は、レファレンスとして作製したITO/SiO/p−Siキャパシタより求められた実効仕事関数値を差し引いた値(実効仕事関数の変化、つまり増加分)、である。Pt濃度が12at.%でも実効仕事関数値は0.05eV増大し、Pt濃度が高くなるに従って増大する傾向を示した。ITO:Pt膜のPt濃度が60at.%以上になると0.5eV以上の大きな実効仕事関数増加の効果があることが分った。
【0053】
(実施例7)
本願発明の一実施例では、図22に示すように、ガラス基板301上へスパッタターゲット308を連続して配置したスパッタリング法により、ITO:Ru膜を形成した。スパッタターゲットは、成膜初期がITO308aで、続いて、ITO:Ru(10at.%)308b、ITO:Ru(20at.%)308cの順にRu濃度が高くなり、最終的にRu308zを配置した。各々のターゲットのスパッタパワーおよび成膜時間を変えることで膜厚を調整し、最終的に、ガラス基板側から有機正孔輸送層へ向けてRu濃度が大きくなる濃度勾配のあるITO:Ru膜を作製した。Ru濃度を細かく変えたターゲットを増やすことで、Ruの濃度勾配がさらにスムーズに変えられて好ましい。続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm作製し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0054】
酸化インジウム化合物へ仕事関数の高い金属として、Pt、Ru以外のIr,Pd,Ni,AuあるいはCo金属を有する透明導電膜を各々の最適なスパッタパワーで作製しても同様の効果を得ることができる。ここで、2種類以上の合金を用いると、構造安定性に対して好ましい。
【0055】
酸化インジウム化合物はInMe1−xで表わされ、Me元素の代表的なものとして上記のようにSn、Zn、Wがあるが、その代替として、Me元素はIVa族、Va族、IVb族、Vb族の元素から選ばれた一種類または複数種類の元素もある。その中でも、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,SiおよびSb元素を用いた場合、上記の大きな仕事関数を有する元素との混合性が良く、優れた構造安定性を示す。Me元素の置換率は、この置換により導電率および透過率が低下する傾向があることを考慮すると、x値が0より大きく0.5より小さな範囲が好ましい。特に、酸化インジウム化合物として、InSn1−x、InZn1−x、In1−xおよびInSi1−xを用いた場合、y値がそれぞれ1.25より大きく1.5より小さな範囲、1.25より大きく1.5より小さな範囲、1.5より大きく2.25より小さな範囲および1.5より大きく1.75より小さな範囲が、低い抵抗値を得られて好ましい。
【0056】
以上の結果から、本願発明の有機EL素子の動作確認ができ、本願発明の有用性が確かめられた。
【0057】
上記記載は実施例についてなされたが、本願発明はそれに限られず、本願発明の精神と添付の請求の範囲内で種々の変更および修正をすることができることは当業者に明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本願発明によれば、良好な可視光の透過率と導電性を維持しながら、大きな仕事関数を有する透明導電膜からなる陽極を実現することができるので、有機EL素子の性能向上に大いに貢献することが可能である。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
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