【実施例】
【0024】
以下に本願発明を実施例により説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
図1に本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を示す。透明基板として使用されるガラス基板101上へ酸化インジウム化合物と貴金属を含む導電性酸化物とから構成される透明導電膜の陽極102、有機正孔輸送層103、有機発光層104(有機正孔輸送層103と有機発光層104とをまとめて有機化合物層と総称する)、陰極105をこの順で形成する。前記貴金属を含む導電性酸化物は低い抵抗を有する導体なので、酸化インジウム化合物へ添加しても抵抗値を上げる悪影響は発生しない。また、この導電性酸化物は酸化物なので、添加によって酸化インジウム化合物から酸素を奪って酸素組成比を制御しづらくする恐れもない。さらに、この導電性酸化物は酸化インジウム化合物のうちで代表的なITOの実効仕事関数値(4.7eV)に比べて高い実効仕事関数値を有するので、透明導電膜の仕事関数を大きくする働きも期待できる。
【0026】
この有機EL素子の作製に当たっては、ガラス基板上へITO(In
0.9Sn
0.1O)ターゲットとIrO
xターゲットを用いたArガス雰囲気の共スパッタリング法で、IrO
xの貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したITO(ITO:IrO
x)膜を150nm成膜して陽極とした。ITOとIrO
xの組成比はITO側のスパッタパワーを150W一定にして、IrO
x側のスパッタパワーを10Wから150Wまで変えることで調整して、インジウム元素とイリジウム元素を全体とした時、それに対するイリジウム元素の濃度(Ir/(In+Ir))を50at.%より小さな範囲になるように制御した。また、最初から共スパッタリングで作製したIrO
x/ITO組成比が一定のIrO
x添加したITO膜の場合と、
図2Aと
図2Bに示すように、
図2AのITO膜を140nm成膜後に
図2Bの共スパッタリング法でIrO
x添加したITO膜を10nm成膜した場合で、IrO
x添加したITO膜中のIr/Inの組成比が同じならば実効仕事関数値はほぼ同じ値を示した。続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm作製し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0027】
ITO:IrO
x膜の実効仕事関数を求めるために、次のキャパシタを作製した。P型Si基板を900℃の酸素雰囲気中、熱処理してSiO
2膜を作製した。SIO
2膜厚は熱処理時間を変えて調整し、6、8および12nmとした。続いて、前記のITOターゲットおよびIrO
xの共スパッタリング法を用いて、膜厚150nmのITO:IrO
xゲート電極をリフトオフプロセスで作製してキャパシタを作製した。共スパッタリングの各々のスパッタパワーを変えることで、ITO:IrO
x膜のIr濃度を0〜50at.%(ここで言うat.%は、前述のようにインジウム元素とイリジウム元素を全体とした時、それに対するイリジウム元素の濃度(Ir/(In+Ir))であることに注意)の範囲で制御した。続いて、容量(C)−電圧(V)測定よりフラットバンド電圧(V
fb)を求め、SiO
2膜厚に対するV
fb変化より、実効仕事関数を算出した。
図4に、Ir濃度が40at.%のITO:IrO
x電極の実効仕事関数の変化を示す。縦軸は、レファレンスとして作製したITO/SiO
2/p−Siキャパシタより求められた実効仕事関数値を差し引いた値である。IrO
xを添加することで、約0.8eVの大きな実効仕事関数の増加が達成されることが分った。
【0028】
図4には酸化インジウム化合物として、ITO以外にも、後述するようにIZO及びIWOを使用し、また貴金属酸化物としてIrO
x以外にRuO
x、PtO
x及びSrRuO
xを使用した場合に測定された実効仕事関数の変化(つまり、対応する酸化インジウム化合物膜使用レファレンスキャパシタより求められた実効仕事関数を差し引いた値)も図示した。また、イリジウム以外の貴金属元素の濃度も上述のイリジウム元素の濃度と同じ考え方で定義した。
【0029】
ITO膜およびITO:IrO
x膜を3%H
2ガスを100sccmフローさせながら、100℃から50℃きざみで400℃まで還元処理した場合のSiO
2キャパシタより算出される実効仕事関数の変化を
図5に示す。縦軸は、熱処理前後の実効仕事関数の比、すなわち熱処理後の実効仕事関数を熱処理前の実効仕事関数の値で割った値である。ITO膜の実効仕事関数は、250℃から急激に低下し、300℃では熱処理前の値から約80%も低下した。さらに熱処理温度を高くしても同じ値であることから、300℃でこの低下は飽和した。この実効仕事関数の低下の大きな要因は、還元処理によってITO膜から酸素が脱離したためと考えられる。一方、ITO:IrO
x膜の実効仕事関数は温度上昇に伴って緩やかな低下を示すが、400℃でもその低下は熱処理前の約40%に抑制されていることが分かる。また、300℃でITO膜と比較すると、実効仕事関数の低下率は約60%も小さい。これは、IrO
x添加によって、ITO:IrO
x膜からの酸素の脱離が抑えられたためと考えられる。
【0030】
図6に、ITO膜およびITO:IrO
x膜の波長に対する透過スペクトルの変化を示す。縦軸は、ガラス基板のみの透過スペクトルを引いた差である。本願発明のITO:IrO
x膜の波長に対する透過率のプロファイルはITO膜に比べて若干低下するが、可視光域600nmにおける透過率の値は90%を示すことから、特に問題にならない。
【0031】
また、ITOの代わりに、IZO(In
0.95Zn
0.05O)およびIWO(In
0.99W
0.01O)をターゲットに用いてIrO
xターゲットとの共スパッタリング法で形成したIZO:IrO
x電極およびIWO:IrO
x電極のSiO
2キャパシタを作製した。
図4に、Ir濃度が40at.%のIZO:IrO
x電極およびIWO:IrO
x電極の実効仕事関数の変化を示す。ITO:IrO
xの場合と同様、約0.7eV大きな実効仕事関数値が得られた。
【0032】
さらに、IrO
xターゲットの代わりに、RuO
xおよびSrRuO
xターゲットを用いて、ITO、IZOおよびIWOのターゲットと組合わせた共スパッタリング法で、6種類の透明導電膜(ITO:RuO
x,IZO:RuO
x,IWO:RuO
x,ITO:SrRuO
x,IZO:SrRuO
xおよびIWO:SrRuO
x)を作製した。6種類の電極の実効仕事関数の変化を
図4にまとめた。IrO
xの場合に比べて、RuO
xで約0.1〜0.2eV、SrRuO
xで約0.2〜0.3eVほど小さな変化(増加)ではあるが、ITO単独に比べて大きな実効仕事関数値を示すことが分かった。これは、貴金属を含む導電性酸化物の仕事関数の大きさがSrRuO
x<RuO
x,PtO
x<IrO
xの順番であり、その影響が現れたと思われる。
【0033】
(実施例2)
図7は、ガラス基板101上へ酸化インジウム化合物から構成されるITO膜112と、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122と、から構成される透明導電膜の陽極132を設けた、本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を示す。なお、この有機EL素子構造は、透明導電膜の陽極132を除いて
図1と同じに構成される。アモルファス構造にすることで平滑性に優れた膜になり、その平滑性によって、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122は、その界面における光の散乱を抑制することができ、より光が透過しやすくなる。なお、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122の膜厚は4nm以下が好ましい。また、貴金属元素を含む導電性酸化物の貴金属の添加量は、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜の仕事関数が5eV以上になるように調整されていることが好ましい。
【0034】
この有機EL素子の作製に当たっては、ガラス基板上へITO(In
0.9Sn
0.1O)ターゲットを用いてITO膜を成膜した後、In
2O
3ターゲットとRuターゲットを用いた酸素/Arガス雰囲気の共スパッタリング法で、RuO
xを添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜(IRO膜)を成膜して陽極とした。その際、Ru側のスパッタパワーを調整して、IRO膜の実効仕事関数が5eV以上になるように制御した。IRO膜をアモルファス構造にするには、IRO膜におけるIn元素とRu元素との合計に対するRu元素の濃度(Ru/(In+Ru))を20at.%より大きく70at.%より小さくすることが好ましい。
Ru元素の濃度(Ru/(In+Ru))が62at.%で膜厚のIRO膜(Ru−IRO)において、3nmの場合の実効仕事関数は5.72eVに調整され、抵抗値は1.6×10
−4(Ω・cm)であった。また、
図8は、IRO膜のX線回折スペクトルを示す。Ru−IROを成膜した場合の横軸のX線の入射角に対して縦軸の回折強度は、なだらかであってピークが存在しないことからアモルファス構造であることを示している(
図8の(2))。それに対して、In
2O
3(
図8の(4))、RuO
2(
図8の(1))、In−IRO(Ru/(In+Ru)=5at.%)(
図8の(3))にはそれぞれ回折強度にピークが存在し、結晶構造であることを示している。
【0035】
図9は、陽極表面に対する原子間力顕微鏡で測定した二乗平均平方根粗さ(RMS)を示す。アモルファス構造であるRu−IRO(
図9の(d))は、RMSが0.69nmであって、他より平坦性を有することを示している。
【0036】
ガラス基板上に膜厚が3nmのRu−IROを成膜した後に膜厚が150nmのITO膜を成膜したサンプルを作製した。比較として、ガラス基板上に膜厚が150nmのITO膜を成膜したサンプル、また、ガラス基板上に膜厚がそれぞれ1,2,3,4,5および10nmのRu−IROを成膜した場合のサンプルを作製した。
図10は、ガラス基板のみ場合とそれぞれの作製されたサンプルの場合の波長に対する透過スペクトルの変化を示す。本願発明のITO/Ru−IRO(3nm)膜の波長に対する透過率のプロファイル(
図10のITO/Ru−IRO(3nm))はITO膜(
図10のITO)に比べて若干低下するが、可視光域600nmにおける透過率の値は80%を示すことから、特に問題にならない。
酸化インジウム化合物から構成されるITO膜112を成膜後、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122の膜厚を4nm以下になるように成膜して、透明導電膜の陽極132を作製した場合には、貴金属元素を含む導電性酸化物を添加したアモルファス構造の酸化インジウム膜122におけるIn元素と貴金属元素の合計に対する貴金属元素の濃度が、50at.%より小さい範囲だけでなく50at.%以上をも含めて、可視光域600nmにおける透過率は問題にならない高さであることが分った。
【0037】
(実施例3)
本願発明の第3の実施例を、
図3Aと
図3Bを用いて説明する。本実施例は陽極となる透明導電膜以外は第1の実施例と同様であるので、
図3Aと
図3Bにこの透明導電膜の製造方法だけを示す。まず、
図3Aに示すように、ガラス基板上へITOターゲットとPtターゲットを用いた酸素/Arガスを導入した共スパッタリング法で、PtO
xを添加したITO(ITO:PtO
x)膜を150nm成膜した。Pt金属は酸化されにくい材料として周知であるが、溶存酸素を含むことは知られており、また電気陰性度の大きな酸素によって仕事関数が大きくなる効果がある。
図3Bに示すように、ITO:PtO
x膜の溶存酸素をさらに増やすために、オゾン濃度(O
3/(O
3+O
2))が80%のオゾンガスをオゾンジェネレーターからITO:PtO
x膜が設置された減圧チャンバーへ導入して、室温〜200℃の温度範囲で酸素処理した。オゾン酸素処理の他に、ITO:PtO
x膜を真空チャンバーへ設置して、100W〜1.5kWのプラズマで励起したプラズマ酸素処理を行っても、同様の効果がある。続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm、最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。なお、
図3Aと
図3Bではインジウム酸化物としてITOの場合を示したが、これ以外にもIZOやIWOも当然使用可能である。ITO:PtO
x,IZO:PtO
xおよびIWO:PtO
x膜の実効仕事関数は、実施例1と同様に、SiO
2キャパシタを作製して求めた。
図4に、Pt濃度が40at.%の場合のデータを示す。いずれもITOに比べて0.6eV以上の大きな実効仕事関数値を示し、特にIWO:PtO
xで最も大きな効果を示した。なお、
図4に示したこれらのデータはオゾン酸素処理された膜についての測定結果であるが、溶存酸素量が同じであれば、プラズマ酸素処理を行っても同様な結果が得られる。
【0038】
IrO
x,RuO
x,PtO
xの2種類以上を組み合わせた導電性酸化物の場合には、個々の金属と酸素との結合力が高まり、その結果、小さな濃度から大きな実効仕事関数値が得られる効果がある。
【0039】
(実施例4)
図11に本願発明の有機EL素子の一実施例の構造を示す。この有機EL素子構造は、透明基板として使用されるガラス基板201上へ高仕事関数層204を含む透明導電膜である陽極202、一層または複数層の有機化合物層203(この内訳は有機正孔輸送層205、有機発光層206)および陰極207の順で構成される。
ガラス基板上へITO(In
0.9Sn
0.1O)ターゲットを用いたArガス雰囲気の150Wの高周波マグネトロンスパッタリング法で、ITO膜を150nm成膜し、続いて、RuO
xターゲットを用いた酸素/Ar雰囲気の30Wの高周波マグネトロンスパッタリング法でRuO
xの高仕事関数層を成膜して陽極を形成した。RuO
xの実効仕事関数は約5.5eVとRu金属の4.7eVに比べて大きな値を示す。これは電気陰性度の大きな酸素の効果である。同様の理由で、IrO
xおよび溶存酸素を含むPtO
xもそれぞれIrおよびPtに比べて大きな実効仕事関数値を有する。基板−ターゲット間の距離を長くした小さな成膜速度の条件の下でスパッタリング時間を変えることで、RuO
x膜の膜厚を0.6〜1.2nmの範囲で調整した。
続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm成膜し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0040】
高仕事関数層として用いたRuO
xの実効仕事関数を求めるために、次のキャパシタを作製した。P型Si基板を900℃の酸素雰囲気中、熱処理してSiO
2膜を作製した。SiO
2膜厚は熱処理時間を変えて調整し、6、8および12nmとした。
続いて、RuO
xターゲットのスパッタリング法を用いて、酸素/Ar雰囲気中、スパッタパワー30WでRuO
x膜を成膜した後に、続けて、ITOターゲットを用いたAr雰囲気中、スパッタパワー150Wのスパッタリング法で膜厚150nmのITO膜を成膜した。フォトリソプロセスを経て、このITO/RuO
x膜を電極としたキャパシタを作製した。RuO
x膜の膜厚は、スパッタリング時間を変えることで、0.3nm〜10nmの範囲で調整した。続いて、容量(C)−電圧(V)測定よりフラットバンド電圧(V
fb)を求め、SiO
2膜厚に対するV
fb変化より、ITO/RuO
x膜の実効仕事関数を算出した。
図13に、RuO
x膜の膜厚に対するITO/RuO
x電極の実効仕事関数の変化を示す。なお、
図12の縦軸は、レファレンスとして作製したITO/SiO
2/p−Siキャパシタより求められた実効仕事関数値を差し引いた値である。ITO膜とSiO
2層の間に挿入されるRuO
x層の膜厚が厚くなるに従って実効仕事関数値は増加する。特に、膜厚が0.6nmまでは急激に増加し、1.2nmまででその変化は飽和する傾向を示すことが分った。
【0041】
また、ITO/SiO
2/p−SiキャパシタおよびITO/RuO
x(1.2nm)/SiO
2/p−Siキャパシタを、3%H
2ガス100sccmフローさせながら、100℃から50℃きざみで400℃までそれぞれ30分間還元処理した場合のV
fb値より算出されるITO膜およびITO/RuO
x膜の実効仕事関数の変化を
図14に示す。
縦軸は、熱処理後の実効仕事関数を熱処理前の実効仕事関数の値で割った値である。ITO膜の実効仕事関数は、250℃から急激に低下し、300℃で約0.8も小さな値へ変化した。さらに熱処理温度を高くしても同じ値であることから、300℃でこの低下は飽和した。この実効仕事関数の低下の大きな要因は、還元処理によってITO電極から酸素が脱離したためと考えられる。一方、ITO/RuO
x(1.2nm)電極の実効仕事関数は還元温度が高くなるに従って緩やかな低下を示すが、400℃でもその低下は約0.3に抑制されていることが分かる。また、300℃でITO膜と比較すると、約0.7も高い実効仕事関数を示す。これは、RuO
x膜が還元に対して構造安定を維持しており、その結果、ITO/RuO
x(1.2nm)膜からの酸素の脱離が抑えられたためと考えられる。
【0042】
ガラス基板上へ膜厚が1.2nmのRuO
xを成膜した後に膜厚が150nmのITO膜を作製した。比較として、ガラス基板上へ膜厚が150nmのITO膜を作製した。
図15は、両膜の波長に対する透過スペクトルの変化を示す。縦軸は、ガラス基板のみの透過スペクトルを引いた差である。本願発明のITO/RuO
x(1.2nm)膜の波長に対する透過率のプロファイルはITO膜に比べて700nm以上の高波長域で若干低下する傾向を示すが、可視光域600nmにおける透過率の値は90%を示すことなど、良好な透過性を維持している。
【0043】
また、SiO
2/p−Si上へ膜厚1.2nmのRuO
x膜を成膜した後に、ITOの代わりに、IZO(In
0.95Zn
0.05O)およびIWO(In
0.99W
0.01O)をターゲットに用いたスパッタリング法で、膜厚150nmのIZO/RuO
x(1.2nm)電極およびIWO/RuO
x(1.2nm)電極のキャパシタを作製した。両キャパシタのV
fb値より算出した実効仕事関数値は、ITO電極に比べて何れも約0.9eVほど大きな値を示した。
【0044】
さらに、RuO
xターゲットの代わりに、IrO
xおよびPtターゲットを用いて、SiO
2/p−Si上へ膜厚1.2nmのIrO
xおよびPt膜を成膜した後に、膜厚150nmのITO膜を成膜して、ITO/IrO
x(1.2nm)およびITO/PtO
x電極としたキャパシタを作製した。Pt自体は酸化しづらい材料としてよく知られているが、ITO膜の形成段階で酸素雰囲気のために溶存酸素を含んだPtO
x構造となりやすい。両キャパシタのV
fb値より算出した実効仕事関数値は、ITO電極に比べて大きく、ITO/IrO
x(1.2nm)で約1.1eVおよびITO/PtO
xで約0.9eVほど大きな値を示した。これは、RuO
x、IrO
xおよびPtO
x材料の仕事関数の大きさがRuO
x,PtO
x<IrO
xの順番であり、その影響が表れたと思われる。
【0045】
(実施例5)
図12に本願発明の有機EL素子の一実施例の構造を示す。ここでも透明基板として使用されるガラス基板201上へドット208を含む陽極202、有機正孔輸送層205、有機発光層206および陰極207の順で構成される。ガラス基板上へITO(In
0.9Sn
0.1O)ターゲットを用いたArガス雰囲気の150Wの高周波マグネトロンスパッタリング法で、ITO膜を150nm成膜し、Auターゲットを用いたAr雰囲気の50Wの高周波マグネトロンスパッタリング法でAuのドットを形成して、陽極とした。ドットの直径は、短いスパッタリング時間で、スパッタリング装置の真空度とスパッタリングパワーを変えることで、0.6nm〜2nmの範囲で調整した。スパッタリング時間が長く厚膜を形成する条件では、独立したドットが分布した形状ではなく、連続して広がった膜を形成しやすく、ドットとして形状が安定な直径は2nm以下であった。また、基板上に最初に形成された複数個の極微小サイズの核が凝集することでドットが形成されることから、このようにして形成されたドットはある程度以上のサイズを有するので、ドットの最小の直径は0.6nm以上であった。
さらに、ドットの被覆率(つまり[基板に載っている全てのドットの下地への投影面積の合計]/[下地の表面積])はドットの直径に依存しており、直径が2nmでは、ほぼ90%で直径が小さくになるに従ってその被覆率も低下する。Auの代わりに、Pt,Ir,Pd,NiおよびCoをターゲットに用いたスパッタリング法で形成した場合も、ドット形状を維持するのは0.6nm以上で2nm以下である。
続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm作製し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0046】
ドットとして用いたAuの実効仕事関数を求めるために、次のキャパシタを作製した。P型Si基板を900℃の酸素雰囲気中、熱処理してSiO
2膜を作製した。SiO
2膜厚は熱処理時間を変えて調整し、6、8および12nmとした。
続いて、Auターゲットのスパッタリング法を用いて、Ar雰囲気中、スパッタパワー30〜100WでAu膜を成膜した後に、続けて、ITOターゲットを用いたAr雰囲気中、スパッタパワー150Wのスパッタリング法で膜厚150nmのITO膜を成膜した。フォトリソプロセスを経て、このITO/Auドットを電極としたキャパシタを作製した。Auドットの直径は、スパッタリングパワーを変えることで、0.6nm付近、1nm付近および2nm付近の3種類を作製した。ドットの形状およびその直径は、透過型電子顕微鏡を用いた断面観察より求めた。
続いて、容量(C)−電圧(V)測定よりフラットバンド電圧(V
fb)を求め、SiO
2膜厚に対するV
fb変化より、ITO/Auドットの実効仕事関数を算出した。
図16に、Auドットの直径に対するITO/Auドット電極の実効仕事関数の変化を示す。縦軸は、レファレンスとして作製したITO/SiO
2/p−Siキャパシタより求められた実効仕事関数値を差し引いた値である。ITO膜とSiO
2層の間に挿入されるAuドットの直径が大きくなるに従って実効仕事関数値は増加する。これは、Auドットの直径が実効仕事関数へ影響を及ぼすと言うより、Auドットの平面での被覆率が大きく関与しているためと言える。つまり、Auドットの直径が小さいときにはSiO
2層への投影の占有率(つまりドットの被覆率)も小さく、直径が2nmになると被覆率が約90%まで増大するためである。
【0047】
(実施例6)
図17に本願発明の一実施例の有機EL素子の構造を示す。透明基板として用いられるガラス基板301上へ陽極302、有機化合物層303、および陰極304がこの順で形成され、有機化合物層303は陽極302側から有機正孔輸送層305および有機発光層306で構成されている。本願発明の一実施例では陽極302は酸化インジウム化合物と仕事関数の高い金属から形成されている透明電極膜である。
図18に、この透明導電膜307の構造の模式図と、この透明導電膜307中の前記金属の濃度勾配を示す。透明導電膜307は、有機正孔輸送層305側へ近づくに従って、仕事関数の高い金属の濃度が高くなるように形成した。このような濃度勾配により、母材となる透明導電膜中で仕事関数の高い金属の濃度が変わるのみなので、急峻な界面も無く屈折率の変化も小さくなり、その結果、透過率の低減も小さくできる。
【0048】
この濃度勾配を持つ透明電極膜の成膜は以下のようにして行った。ガラス基板301上へITO(In
0.9Sn
0.1O)ターゲットとPtターゲットを用いた共スパッタリング法で透明導電膜307を形成したが、ITOとPtのスパッタパワーを変えてPtを有するITO(ITO:Pt)膜を、全体の厚さが150nmとなるように成膜した。ここで、成膜初期はITOのスパッタパワー150Wのみ印加して純粋なITO膜を100nm成膜した。続いて、Ptのスパッタパワーを5Wから150Wまで徐々に上げるに従ってITOのスパッタパワーを150Wから0Wへ下げて、50nm形成した。
【0049】
このITO:Pt膜の組成比の膜厚方向についての濃度プロファイルを、ITO:Pt膜の表面からArエッチングしながらPt4f、In3dのXPS測定より求めた。この測定結果であるPt濃度(Pt/(Pt+In)とITO:Pt膜中の膜表面に垂直な方向の位置(つまり、ガラス基板表面からの距離)との関係を
図19に示す(
図19の横軸が「ITO:Pt膜の膜厚」と表記されているが、これは、上述のArエッチングで膜を一部除去した時の残留した膜の厚さを示すものであり、測定点のガラス基板表面からの距離と等価である)。
図18からわかるように、ITO:Pt膜の最表面(有機化合物層側の面)でPt濃度が100at.%であり、膜表面からガラス基板側へ向けてPt濃度は減少する傾向を示し、0〜100nm付近まではPt濃度は0であった。
【0050】
図20に、ガラス基板、ITO膜およびITO:Pt膜の波長に対する透過スペクトルを示す。本実施例のITO:Pt膜の波長に対する透過率のプロファイルはITO膜と同じ傾向を示した。可視光域600nmにおける透過率は90%を示し、ガラス基板とほぼ同等の値であることから、ITO:Pt膜による透過性の低下は認められない。
【0051】
続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm作製し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0052】
ITO:Pt膜の実効仕事関数を求めるために、次のキャパシタを作製した。P型Si基板を900℃の酸素雰囲気中、熱処理してSiO
2膜を作製した。SIO
2膜厚は熱処理時間を変えて調整し、6、8および12nmとした。続いて、前記のITOターゲットおよびPtの共スパッタリング法を用いて、膜厚150nmのITO:Ptゲート電極をリフトオフプロセスで作製してキャパシタを形成した。共スパッタリングの各々のスパッタパワーを変えることで、ITO:Pt膜の最表面のPt濃度を0〜100at.%の範囲で制御した。続いて、容量(C)−電圧(V)測定よりフラットバンド電圧(V
fb)を算出し、SiO
2膜厚に対するV
fb変化より、実効仕事関数を求めた。
図21に、SiO
2層界面のITO:Pt膜のPt濃度に対するITO:Pt電極の実効仕事関数の変化を示す。縦軸は、レファレンスとして作製したITO/SiO
2/p−Siキャパシタより求められた実効仕事関数値を差し引いた値(実効仕事関数の変化、つまり増加分)、である。Pt濃度が12at.%でも実効仕事関数値は0.05eV増大し、Pt濃度が高くなるに従って増大する傾向を示した。ITO:Pt膜のPt濃度が60at.%以上になると0.5eV以上の大きな実効仕事関数増加の効果があることが分った。
【0053】
(実施例7)
本願発明の一実施例では、
図22に示すように、ガラス基板301上へスパッタターゲット308を連続して配置したスパッタリング法により、ITO:Ru膜を形成した。スパッタターゲットは、成膜初期がITO308aで、続いて、ITO:Ru(10at.%)308b、ITO:Ru(20at.%)308cの順にRu濃度が高くなり、最終的にRu308zを配置した。各々のターゲットのスパッタパワーおよび成膜時間を変えることで膜厚を調整し、最終的に、ガラス基板側から有機正孔輸送層へ向けてRu濃度が大きくなる濃度勾配のあるITO:Ru膜を作製した。Ru濃度を細かく変えたターゲットを増やすことで、Ruの濃度勾配がさらにスムーズに変えられて好ましい。続いて、有機正孔輸送層としてナフタル・フェニル・ベンジン(NPB)を真空蒸着法で40nm作製し、その上に有機発光層としてアルミキノリノール錯体(Alq3)を真空蒸着法で40nm成膜した。最後にマグネシウム銀合金(MgAg)を真空蒸着法により40nm成膜して、有機EL素子を作製した。
【0054】
酸化インジウム化合物へ仕事関数の高い金属として、Pt、Ru以外のIr,Pd,Ni,AuあるいはCo金属を有する透明導電膜を各々の最適なスパッタパワーで作製しても同様の効果を得ることができる。ここで、2種類以上の合金を用いると、構造安定性に対して好ましい。
【0055】
酸化インジウム化合物はIn
xMe
1−xO
yで表わされ、Me元素の代表的なものとして上記のようにSn、Zn、Wがあるが、その代替として、Me元素はIVa族、Va族、IVb族、Vb族の元素から選ばれた一種類または複数種類の元素もある。その中でも、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,SiおよびSb元素を用いた場合、上記の大きな仕事関数を有する元素との混合性が良く、優れた構造安定性を示す。Me元素の置換率は、この置換により導電率および透過率が低下する傾向があることを考慮すると、x値が0より大きく0.5より小さな範囲が好ましい。特に、酸化インジウム化合物として、In
xSn
1−xO
y、In
xZn
1−xO
y、In
xW
1−xO
yおよびIn
xSi
1−xO
yを用いた場合、y値がそれぞれ1.25より大きく1.5より小さな範囲、1.25より大きく1.5より小さな範囲、1.5より大きく2.25より小さな範囲および1.5より大きく1.75より小さな範囲が、低い抵抗値を得られて好ましい。
【0056】
以上の結果から、本願発明の有機EL素子の動作確認ができ、本願発明の有用性が確かめられた。
【0057】
上記記載は実施例についてなされたが、本願発明はそれに限られず、本願発明の精神と添付の請求の範囲内で種々の変更および修正をすることができることは当業者に明らかである。