(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6440192
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/16 20060101AFI20181210BHJP
H01J 35/00 20060101ALI20181210BHJP
H01J 5/26 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
H01J35/16
H01J35/00 A
H01J5/26
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-5130(P2015-5130)
(22)【出願日】2015年1月14日
(65)【公開番号】特開2016-131109(P2016-131109A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 克則
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62-217533(JP,A)
【文献】
特開2009-170333(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0213709(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00
H01J 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を透過する出力窓が形成された真空外囲器と、
前記真空外囲器内に設けられ、前記出力窓に対向した陽極ターゲットと、
前記真空外囲器内に設けられ、前記陽極ターゲットに照射する電子を放出する陰極フィラメントと、を具備するX線管において、
前記真空外囲器は、
中央部に位置し、電気絶縁性のセラミクスからなる絶縁外囲器と、
該絶縁外囲器の一端面に形成された金属膜にろう付けされ、かつ陰極フィラメントを支持する陰極側金属外囲器と、
前記絶縁外囲器の他端面に形成された金属膜にろう付けされ、かつ前記陽極ターゲットを支持する陽極側金属外囲器と、を備え、
前記陰極側金属外囲器および前記陽極側金属外囲器の少なくとも一つは、先端面を有する突設部を有し、
該突設部は、前記先端面よりも面積が大きい両端面を有するリング状の金属接合補助材の片側端面に前記先端面が当接した状態でろう付けされ、
前記金属接合補助材の他端面は、前記絶縁外囲器の一端面または他端面に形成された金属膜に当接した状態でろう付けされていることを特徴とするX線管。
【請求項2】
前記陽極側金属外囲器は、前記陽極ターゲットを一端部に支持し、他端部が前記真空外囲器から外部に突出する支持体と、該支持体が貫通してろう付けされた接合体とで構成され、
前記突設部は前記接合体に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記支持体の前記他端部に接続された絶縁性の放熱体を備えたことを特徴とする請求項2に記載のX線管。
【請求項4】
前記金属接合補助材には、そのろう付け側表面に周方向に形成した溝状のろう溜りが形成してあることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のX線管。
【請求項5】
前記金属接合補助材は、ろう付け部に近接する端部に段を成していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のX線管。
【請求項6】
前記ろう溜りは、同心円状に複数形成してあることを特徴とする請求項4に記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線管として、固定陽極型X線管が知られている(例えば、特許文献1参照)。固定陽極型X線管は、真空外囲器、陽極ターゲット、陰極フィラメント、支持体、放熱体、絶縁材及び高圧ケーブルを備えている。真空外囲器の一端の平坦部にX線を透過する出力窓が設けられている。
【0003】
陽極ターゲットは、真空外囲器の内部に配置され、出力窓に対向している。陰極フィラメントは、真空外囲器の内部に配置され、陽極ターゲットに照射する電子を放出するものである。支持体は、真空外囲器内に設けられている。支持体の一端部は、陽極ターゲットを支持している。
【0004】
放熱体は、支持体の他端部に接続されている。放熱体は、陽極ターゲットで発生して支持体に伝達された熱を放出するためのものである。絶縁材は、放熱体の周り及び放熱体の内側に設けられている。高圧ケーブルは、陽極ターゲットに高電圧を印加するためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−170333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
支持体には、接合体が固定してあると共に接合体で絶縁外囲器と放熱体とを接続して、絶縁外囲器及び支持体の熱を放熱体に伝熱している。
【0007】
しかしながら、製造工程中や市場での使用中に接合体と絶縁外囲器との間の接合部が破壊して、X線管の真空気密が低下するという問題があった。また、絶縁外囲器と陰極側の金属外囲器との接合部においても同様の問題があった。さらにまた、他の固定陽極型X線管や回転陽極型X線管においても同様の問題があった。
【0008】
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、真空気密の向上を図ることができるX線管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の態様に係るX線管は、X線を透過する出力窓が形成された真空外囲器と、前記真空外囲器内に設けられ、前記出力窓に対向した陽極ターゲットと、前記真空外囲器内に設けられ、前記陽極ターゲットに照射する電子を放出する陰極フィラメントと、を備え、
前記真空外囲器は、中央部に位置し、電気絶縁性のセラミクスからなる絶縁外囲器と、該絶縁外囲器の一端面に形成された金属膜にろう付けされ、かつ陰極フィラメントを支持する陰極側金属外囲器と、前記絶縁外囲器の他端面に形成された金属膜にろう付けされ、かつ前記陽極ターゲットを支持する陽極側金属外囲器と、から構成されるとともに、
前記陰極側金属外囲器および前記陽極側金属外囲器の少なくとも一つは、先端面を有する突設部を有し、該突設部は、前記先端面よりも面積が大きい両端面を有するリング状の金属接合補助材の片側端面に前記先端面が当接した状態でろう付けされ、前記金属接合補助材の他端面は、前記絶縁外囲器の一端面または他端面に形成された金属膜に当接した状態でろう付けされている。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、真空気密の向上を図ることができるX線管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るX線管の概略的構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、絶縁外囲器と接合体との接合部分を示す断面図であり、(a)はろう付け前の状態であり、(b)はろう付け後の状態である。
【
図3】
図3は、他の実施形態であって、絶縁外囲器と接合体とのろう付け後の接合部分を示す断面図である。
【
図4】
図4は、他の実施形態であって、絶縁外囲器と接合体とのろう付け後の接合部分を示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示す実施形態の変形例にかかる金属接合補助材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る固定陽極型X線管について詳細に説明する。
図1に示すように、固定陽極型X線管装置1は、真空外囲器3と、陽極ターゲット5と、支持体7と、陰極フィラメント9と、絶縁外囲器11と、管容器13と、放熱体15と、高圧ケーブル17とを備えている。
【0013】
真空外囲器3は、内部を真空保持しており、先端外径が徐々に細くした筒状であり、先端面の平坦部にX線を透過する出力窓19が設けられている。
【0014】
この出力窓19は、X線の減衰が少ない材料として、例えばベリリウム(Be)で形成されている。
【0015】
真空外囲器3の内部には、出力窓19に対向して陽極ターゲット5が配置され、この陽極ターゲット5の外周側に陰極フィラメント9が配置されている。尚、陽極ターゲット5と陰極フィラメント9との間には、収束電極21が設けてある。
【0016】
また、真空外囲器3内の中心部には支持体7の先端部7aが配置されている。支持体7の先端部7aは収束電極21の内周側に配置されるとともに先端で陽極ターゲット5を支持している。支持体7の他端部7bは、絶縁外囲器11の他端側から突設してあり、接合体(陽極側金属外囲器)23がろう付けされて、接合体23によって絶縁外囲器11と支持体7との間が封止状態に結合されている。換言すれば、接合体23は陽極ターゲット5を支持している。
【0017】
また、絶縁外囲器11の先端面(一端面)11bには金属膜36が形成してあり、金属膜36に陰極フィラメント9を支持する陰極側金属外囲器24がろう付けされている。
【0018】
支持体7の他端部7bの端面には、支持体7の内部に形成された排気路25を通じて真空外囲器3内を排気するための排気管27が設けられているとともに、陽極ターゲット5に高電圧を印加するための高圧ケーブル17が接続される給電部29が設けられている。
【0019】
絶縁性の放熱体15は雌ネジ部が、支持体7の他端部7bに設けられた雄ネジに締め付けられ、一端面が接合体23に当接されている。
【0020】
放熱体15は、20W/m・K以上の高熱伝導特性及び10kV/mm以上の高電圧絶縁性を有するセラミクスで、例えば窒化アルミニウムを用いることにより、90W/m・K以上の高熱伝導率が得られる。
【0021】
高圧ケーブル17は、放熱体15の内周側に位置しているとともに放熱体15の外部に引き出されている。
【0022】
また、真空外囲器3と共に内部を真空にしてある絶縁外囲器11、絶縁外囲器11から突出した支持体7の他端部7b、及び放熱体15の一部などが、管容器13内に収容されている。この管容器13の内部には、例えばシリコーン樹脂などのポッティング材である絶縁材33が充填されている。より詳しくは、絶縁材33は、管容器13と、絶縁外囲器11、接合体23及び放熱体15との間に充填されている。
【0023】
さらに、支持体7の他端部7b側には、高圧ケーブル17と放熱体15との間に、他の絶縁材33が充填されている。絶縁材33は、例えばシリコーン樹脂などのポッティング材で形成されている。
【0024】
管容器13の外面には、冷却部35が配設されている。この冷却部35には、固定陽極型X線管1の入力に応じて例えば空冷式若しくは液冷式、又はヒートパイプ式を選択できるが、維持管理が容易な空冷式、又はヒートパイプ式が好ましい。冷却部はラジエータであってもよい。
【0025】
また、陽極ターゲット5への電子の衝突によって熱が発生し、この陽極ターゲット5の熱が支持体7に伝わり、この支持体7の他端部7bに接続されている接合体23を介して絶縁外囲器11、絶縁材33及び放熱体15へ放散及び伝導され、放熱体15を介して絶縁材33及び管容器13などへ放散及び伝導される。絶縁材33や放熱体15から管容器13に伝導された熱は、管容器13の外面を冷却する冷却部35によって放出される。この実施形態において、放熱体15は支持体7の他端部7bに直に接続されているため、陽極ターゲット5で発生して支持体7に伝達された熱をより効率的に放出できる。
【0026】
ここで、接合体23と絶縁外囲器11との接合部分について説明する。接合体23は、内周側部23aを支持体7の他端部7bの外周面に固定してあり、接合体23の外周側部23bは、
図1のA部拡大図に示すように、絶縁外囲器11の後端面(他端面)11aに接続している。
【0027】
より詳しくは、
図2(b)に示すように、絶縁外囲器11の後端面11aには、接合体23との接合面に金属膜37を形成してあり、金属接合補助材39を金属膜37と接合体23の突設部23cとの間に配置して、絶縁外囲器11の後端面11aと接合体23の突設部23cとを接合してある。
【0028】
絶縁外囲器11の材質はアルミナ等の電気絶縁性セラミクスである。
【0029】
金属膜37は、絶縁外囲器11の後端面11aに刷毛やプリント等で形成するが、金属膜37は、Moを主成分とする金属等で構成される。
【0030】
金属接合補助材39は、リング状の板材であり、材質はコバール等を用いている。
【0031】
金属接合補助材39は金属膜37にろう付けにより固定されている。また、金属接合補助材39と接合体23もろう付けにより固定されている。
【0032】
次に、接合体23と絶縁外囲器11との接合方法について説明する。
図2(a)に示すように、金属膜37と金属接合補助材39との間に板ろう41を配置し、金属接合補助材39に接合体23の突設部23cを当接して、その当接部の横にワイヤろう43を配置して、炉内に設置して、ろう材を溶かす。
【0033】
断面積が小さい突設部23cは接合体23と絶縁外囲器11との温度差による熱応力を緩和する効果を有する。また、突設部23cは突設部23cの断面積よりも大きい端面を有する金属接合補助材39を介して金属膜37にろう付けされているため、比較的強度が弱い金属膜37と絶縁外囲器11との界面に発生する熱応力を低減させる効果を有する。
【0034】
その結果、使用中に金属膜37と絶縁外囲器11との界面に亀裂が生じるのを防止できる。
【0035】
さらに、
図2(b)に示すように、ワイヤろう43は溶けて溶融状態となって流れ出るが、金属接合補助材39と金属膜37との間の段差により、その段差部分に溶融したろう材43aが保持されるので、金属膜37を超えて絶縁外囲器11のセラミクス部分に到達するのを防止する。これにより、溶融したろう材43aが絶縁外囲器11の後端面11aを構成するセラミクス部分に接触してその応力によりセラミクス部分に亀裂が生じるのを防止できる。
【0036】
絶縁外囲器11の後端面11aのろう付け部やセラミクス部分に亀裂(クラック)が生じると、絶縁外囲器11の内周側における真空気密が損なわれるおそれがある。
【0037】
したがって、一実施形態によれば接合体23に突設部23cが形成してあり且つ金属膜37と突設部23cとの間にリング状を成す金属製の金属接合補助材39を設けて、突設部23cを絶縁外囲器22にろう付けしているので、製造工程中や市場での使用中にろう付け部に亀裂が生じるのを防止できるから、固定陽極型X線管の真空気密性を高めることができる。
【0038】
以下に他の実施形態を説明するが、以下に説明する実施形態において、上述した一実施形態と同一の作用効果を奏する部分には同一の符号を付することによりその部分の詳細な説明を省略し、以下の説明では一実施形態と主に異なる点を説明する。
図3に示す他の実施形態では、金属接合補助材39の表面に溝状のろう溜り45を形成してあることが上述した一実施形態と異なっている。
【0039】
ろう溜り45は、リング状の金属接合補助材39の周方向に沿って形成したものである。ろう溜り45の溝の形状は、
図3では矩形であるが、これに限らず円弧状であってもよいし、ろう溜り45の溝の形状は限定されない。
【0040】
この
図3に示す実施形態によれば、溶けたろう材43aはろう溜り45で受けるので、溶けたろう材43aが金属膜37を超えて絶縁外囲器11の後端面11aのセラミクス部分に流れるのを防止できる。
【0041】
図4に示す他の実施形態では、金属接合補助材39には、接合体23の突設部23cとのろう付け部に近接する端部に段47を形成してあることが上述した一実施形態と異なっている。
【0042】
この
図4に示す他の実施形態では、段47により、溶けたろう材43aが金属接合補助材39の表面を伝わって流れる距離が長くなり、金属接合補助材39が溶けたろう材43aを受ける表面積が大きくなるので、金属膜37を超えて絶縁外囲器11の後端面11aのセラミクス部分に溶けたろう材43aが流れるのを防止できる。
【0043】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。
【0044】
例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0045】
図5に示すように、金属接合補助材39の表面には、
図3に示すろう溜り45に換えて複数の溝や切欠き49を形成するものであってもよい。
【0046】
この発明は、絶縁外囲器11の先端面(一端面)11bに形成した金属膜36と陰極側金属外囲器24とのろう付け部に適用することもできる。
【0047】
また、上記実施形態以外の固定陽極型X線管や回転陽極型X線管にも適用することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1…固定陽極型X線管、3…真空外囲器、5…陽極ターゲット、7…支持体、9…陰極フィラメント、11…絶縁外囲器、15…放熱体、23…接合体(陽極側金属外囲器)、23c…突設部、24…陰極側金属外囲器、36、37…金属膜、39…金属接合補助材、43…ワイヤろう、43a…溶けたろう材、45…ろう溜り、47…段。