【文献】
磯田和彦 他,慣性質量ダンパーを組み込んだ低層集中制震に関する基礎的研究,日本建築学会構造系論文集,2013年 4月,Vol.78 No.686,pp.713-722
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
まず、免震構造は、固有周期を長周期化することで免震対象の構造物の応答が小さくなる場合に有効である。これに対し、橋梁の免震化においては、橋梁の変形を抑えることが必要であり、建築用と比較してせん断剛性Gが3〜4倍程度の大きな積層ゴム支承を使用することになる。このため、固有周期が2秒程度となり、効果的に長周期化を図ることができず、特に地盤条件が悪い場合や長周期地震動の対応が求められる場合には、十分な免震効果が発揮されにくく、その適用が困難になる。さらに、既存橋梁を免震化する場合には、高コスト、施工時に橋梁を利用できなくなるなどの課題もある。
【0007】
一方、制振構造は、橋梁の下部構造と上部構造の間に制振ダンパーを追加設置し、減衰性能を付与することにより、比較的容易に且つ低コストで応答を低減することができる。橋梁の耐震性能を向上させることができる。
しかしながら、地震時に下部構造が変形することによって制振ダンパーの効きが悪くなる問題があり、逆に、ダンパー性能を増大して支承部の変形を抑制すると下部構造のせん断力や上部構造の加速度が大幅に増加してしまうという不都合が生じる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、制振によって確実且つ効果的に橋梁の耐震性能を向上させることを可能にす
る橋梁の制振構造の設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の橋梁の制振構造
の設定方法は、慣性質量ダンパーとばね部材を直列に連結してなる制振機構を、支承と並列に上部構造と下部構造に連結して設置し、前記上部構造と前記下部構造が相対的に変位するとともに前記慣性質量ダンパーの錘が回転して慣性質量効果が発揮され、前記ばね部材によって、前記慣性質量ダンパーと前記ばね部材により定まる前記制振機構の振動数を橋梁の卓越する振動数に同調させるように構成され
た橋梁の制振構造
の最適な諸元を設定する方法であって、前記慣性質量ダンパーの慣性質量Ψdと減衰係数cd、前記ばね部材の剛性kdを下記の式(1)と式(2)で設定し、且つ、予め橋脚部の総水平剛性k1/支承の総水平剛性k2をパラメータとしてkd/k2とΨd/m2の関係、hd(=cd/2√Ψdkd)とΨd/m2の関係を求めておき、Ψd/m2を設定するとともにkd/k2とΨd/m2の関係、hdとΨd/m2の関係から最適なkdとhdを求め、前記最適なkdとhdと式(1)と式(2)から最適なΨdとcdを求めることを特徴とする。
【0011】
【数1】
【0012】
【数2】
【0013】
本発明の橋梁の制振構造の設定方法は、支承と並列に上部構造と下部構造に連結して他の制振ダンパーが設置され、前記制振ダンパーの減衰係数c’が下記の式(3)を満足するように構成されていてもよい。
【0014】
【数3】
ここで、m
2は橋桁質量(多径間の場合は一体化された橋桁の総重量)、k
1は橋脚部の総水平剛性、k
2は支承の総水平剛性である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の橋梁の制振構造
の設定方法においては、慣性質量ダンパーとばね部材を直列に連結してなる制振機構を支承部に並列に設置することにより、地震などによって上部構造と下部構造が相対的に変位するとともに慣性質量ダンパーによる慣性質量効果を発揮させることができる。また、ばね部材によって制振機構の振動数を橋梁の卓越する振動数(例えば橋梁の1次固有振動数)に同調させることで、橋梁の卓越する振動数近傍の振動に対して効果的に慣性質量効果を発揮させることができる。
【0017】
そして、制振機構が同調型であり、橋梁の卓越する振動数近傍の共振振動数近傍のみで慣性質量効果が発揮されるため、支承部の変位と上部構造(桁部)の加速度を同時に低減できる。また、支承部の水平変位を効果的に抑制できる。
【0018】
さらに、地震時などにおいて下部構造に作用するせん断力は概ね上部構造の質量と加速度を乗じたものになるため、橋脚部の曲げモーメントや基礎に作用する力、すなわち下部構造に作用する力も低減することが可能になる。
【0019】
また、共振振動数近傍のみで効くため、従来のオイルダンパーなどの制振装置のように高振動数域で負担力が増大するおそれがない。また、ばね部材によって制振機構の効きを調整できるため、ダンパー反力によって躯体(上部構造、下部構造)が損傷することも防止できる。
【0020】
これにより、本発明の橋梁の制振構造
の設定方法を備えることで、既存橋梁の橋脚部や杭の耐力が小さく、制振しない場合に大きな損傷を生じていた部位の応答を大幅に低減することができ、地震などによる損傷を防止(軽減)することが可能
になる。また、特に、杭のように改修工事によっても補強が困難な杭などの部材の耐力を増大させることなく耐震性能を向上させることができ、耐震の余裕度を向上させることが可能になる。
【0021】
また、本発明の橋梁の制振構造の設定方法においては、上記の橋梁の制振構造の作用効果に加え、「Ψ
d/m
2の範囲」、「k
d/k
2とΨ
d/m
2の関係」、「h
dとΨ
d/m
2の関係」から、Ψ
d/m
2を設定すれば他の最適な諸元を簡便に求めることができ、同調型制振機構を実現するための実用的な方法を提供することができる。また、Ψ
d/m
2を大きくすれば応答低減効果は増大するが、制振機構の反力も増加することから、桁梁や橋脚の耐力を考慮しながら適切な値に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造(a)及びこの振動解析モデル(b)を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造の慣性質量ダンパーの一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するシミュレーションを行う際に用いた振動解析モデルを示す橋梁の側面図(a)、床伏図(b)、(b)のX1−X1線矢視図(c)である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造の設定方法で用いるk
d/k
2とΨ
d/m
2の関係の一例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造の設定方法で用いるh
dとΨ
d/m
2の関係の一例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するために行ったシミュレーションの結果であり、加振振動数比と加速度応答倍率の関係を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するために行ったシミュレーションの結果であり、加振振動数比と反力応答倍率の関係を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するために行ったシミュレーションの結果であり、加振振動数比と変位応答倍率の関係を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するために行ったシミュレーションの結果であり、加振振動数比と変位応答倍率(制振構造を備えたケースのみ)の関係を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するシミュレーションで用いた入力地震動の波形を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するために行ったシミュレーションの結果であり、橋桁部の時刻歴加速度応答波形を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するために行ったシミュレーションの結果であり、支承部の時刻歴変位応答波形を示す図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するために行ったシミュレーションの結果であり、橋脚部の時刻歴せん断力応答波形を示す図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造を設けた橋梁の耐震性能を確認するために行ったシミュレーションの結果であり、橋脚頂部の時刻歴加速度応答波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1から
図14を参照し、本発明の一実施形態に係る橋梁の制振構造及び橋梁の制振構造の設定方法について説明する。
【0024】
本実施形態の橋梁の制振構造Aは、
図1に示すように、例えば多径間連続桁形式の高架橋などの橋梁の制振構造であり、橋梁1の下部構造3と上部構造2の間に制振機構Bを設置して構成されている。
【0025】
また、本実施形態の制振機構Bは、慣性質量ダンパー4とばね部材5を直列に連結して構成されており、支承部(支承6)と並列配置されるように、例えば一端を上部構造2の橋桁に、他端を下部構造3の橋脚頂部(又は橋台頂部)に連結して配設されている。
【0026】
さらに、上部構造2と下部構造3が相対的に変位するとともに慣性質量ダンパー4の錘が回転して慣性質量効果が発揮され、ばね部材5によって、慣性質量ダンパー4とばね部材5とにより定まる振動数を橋梁1の卓越する振動数(例えば、1次固有振動数)に同調させて構成されている。
【0027】
すなわち、本実施形態の橋梁の制振構造Aにおいては、制振機構Bとして主系の慣性質量ダンパー(慣性質量機構)4と付加振動系のばね部材(直列ばね)5を設け、慣性質量ダンパー4とばね部材5から定まる固有の振動数に同調するように、バネ値(慣性質量とばね部材の値)が設定されている。
【0028】
ここで、本実施形態の制振機構Bの一例を
図2に示す。
この制振機構Bは、回転慣性質量機構(慣性質量ダンパー4)B1と付加ばね機構(ばね部材5)B2を備えるとともに、回転慣性質量機構B1と付加ばね機構B2を直列に連結配置して構成されている。
【0029】
回転慣性質量機構B1は、中心軸線O1を制振機構Bの軸線O1と同軸上に配して設けられたボールねじ10と、ボールねじ10に螺着して配設されたボールナット11と、ボールナット11に取り付けられ、ボールナット11の回転に従動して回転する回転錘12とを備えて構成されている。
【0030】
ボールねじ10は、その一端10aに、橋梁1の上部構造2又は下部構造3に接続するためのボールジョイントやクレビスなどの連結部材13が取り付けられている。
【0031】
また、ボールねじ10に螺着したボールナット11は、軸受け14に支持されている。軸受け14は、軸線O1周りに回転不能に且つ軸線O1方向に移動不能に固設される円環状の外輪14aと、外輪14aの内孔内に配されて軸線O1周りに回転可能に支持された円環状の内輪14bとを備えて形成されている。そして、ボールねじ10が軸受け14の内輪14bの中心孔に挿通して配設されるとともに、ボールナット11が軸受け14の内輪14bに固設されている。これにより、ボールナット11は、軸線O1周りに回転可能に、且つ軸線O1方向に移動不能に配設されている。
【0032】
さらに、ボールナット11に回転錘12が一体に固定して設けられている。回転錘12は例えば略円筒状に形成され、ボールねじ10を内部に挿通し、ボールねじ10と互いの軸線O1を同軸上に配した状態でボールナット11に固着して配設されている。
【0033】
一方、付加ばね機構B2は、円筒状に形成された外筒15と、外筒15よりも外径が小の円筒状に形成され、外筒15の内部に互いの軸線O1を同軸上に配して設けられた内筒16と、外筒15と内筒16の間に配設された付加ばね(ばね部材)5とを備えて構成されている。
【0034】
外筒15は、所定長さの高軸剛性かつ高曲げ剛性の中空円筒体であって、その他端(図中左側の端部)15aに内部を閉塞させるように円板状の接続板17が固着され、この接続板17に、制振機構Bの他端を、橋梁1の下部構造3又は上部構造2に接続するためのボールジョイントやクレビスなどの連結部材18が取り付けられている。また、外筒15の一端側(図中右側の端部)15bには、内筒16を挿通させる挿通孔を中心に貫通形成した円環状の支持板19が内部を閉塞させるように固着されている。
【0035】
また、外筒15には、一端15b側に、支持板19に固着して設けられ、外筒15を内筒16に対して軸線O1方向に案内して相対的に進退させるためのリニアガイド20が設けられている。さらに、外筒15には、他端15a側に、内面から径方向内側に突出し、他端15aから軸線O1方向一端15b側に向けて延びる凸部21が設けられている。また、この凸部21は、制振機構Bのストローク量に応じた軸線O1方向の長さ寸法で形成されている。
【0036】
内筒16は、所定長さの高軸剛性かつ高曲げ剛性の中空円筒体であって、支持板19の挿通孔に他端16a側から挿通して外筒15内に配設され、一端16b側を外筒15から外側に配して設けられている。また、このとき、内筒16は、その一端16bを、ボールねじ10を回転可能に軸支する軸受け14の外輪14aに固着し、内輪14bの内孔と互いの軸線O1が同軸上に配されるようにして設けられている。さらに、内筒16は、他端16aと外筒15の他端15aに固着された接続板17との軸線O1方向の間に所定の間隔(制振機構のストローク量を規定する間隔)を設けて外筒15内に配設されている。
【0037】
また、内筒16には、外筒15の支持板19から外側に延設された一端16b側に、径方向外側に突出し、軸線O1方向に延び、リニアガイド20が係合して外筒15を内筒16に対して軸線O1方向に案内し相対回転せずに進退させるためのリニアガイドレール22が設けられている。さらに、内筒16には、その他端16aに、内筒16の外径よりも大きく、外筒15の内径よりも小さい直径を有する円板状の係止板23が固着されている。
【0038】
内筒16の他端16a側には、内筒16の外径と略等しい内径を備え、外筒15の内径よりも僅かに小さい外径を備えて略円環状に形成されたストローク規定板24が、その中心孔に内筒16の他端16a側を挿通して取り付けられている。このストローク規定板24は、外筒15の内面に当接する外周ローラー24aと、内筒16の外面に当接する内周ローラー24bを備えている。そして、ストローク規定板24は、これらローラー24a、24bによって外筒15と内筒16のそれぞれに対し、相対的に軸線O1方向に進退自在に設けられている。また、このとき、ストローク規定板24は、外筒15の凸部21の軸線O1方向一端に当接することで、外筒15に対し、さらなる軸線O1方向他端15a側への移動が規制され、内筒16の係止板23に当接することで、内筒16に対し、さらなる軸線O1方向他端16a側への相対移動が規制されている。
【0039】
付加ばね機構B2のばね部材(付加ばね)5は、内筒16の外面と外筒15の内面の間、且つストローク規定板24と支持板19の軸線O1方向の間に設けられている。本実施形態において、ばね部材5は、複数枚の皿バネが直列に重ねられた1組の皿バネ群を複数組軸線O1方向に並設して構成されている。なお、
図2では軸線O1方向中間部分のばね部材5を省略して図示している。
【0040】
これにより、ばね部材5による付勢力でストローク規定板24に軸線O1方向他端側に押圧する力が作用し、通常時には、この付勢力を受けたストローク規定板24が凸部21に当接してそれ以上軸線O1方向他端側に移動しないように設けられている。また、この状態で、ストローク規定板24に内筒16に設けられた係止板23が当接する。
【0041】
そして、内筒16に対して外筒15が軸線O1方向一端側に相対変位する際には、すなわち、制振機構Bに圧縮側の力が作用した際には、凸部21にストローク規定板24が押圧され、これとともに内筒16に対してストローク規定板24が軸線O1方向一端側に相対変位し、ばね部材5が縮む。また、内筒16に対して外筒15が軸線O1方向他端側に相対変位する際には、すなわち、制振機構Bに引張側の力が作用した際には、係止板23にストローク規定板24が押圧され、これとともに外筒15に対してストローク規定板24が軸線O1方向一端側に相対変位し、ばね部材5が縮む。
【0042】
なお、ストローク規定板24や支持板19のばね部材5と当接する面や、外筒15の内面、内筒16の外面に硬質ゴム等の緩衝材を取り付け、付加ばね機構B2の動作時に騒音(機械音)が発生したり、摩耗が生じることを防止することが好ましい。
【0043】
そして、地震などが発生し、橋梁1に振動エネルギーが作用して下部構造3と上部構造2に相対的な変位が生じると(入力されると)、この変位差に応じて回転慣性質量機構(慣性質量ダンパー4)B1のボールねじ10が軸線O1方向に進退し、軸受け14の内輪14bに支持されたボールナット11が回転するとともに回転錘12が回転する。これにより、回転錘12の実際の質量の数千倍もの慣性質量効果が得られ、オイルダンパーなどの従来の制振装置を設置した場合と比較し、応答変位が大幅に低減することになる。
【0044】
また、制振機構Bに圧縮側の力が作用し、付加ばね機構B2の内筒16に対して外筒15が軸線O1方向一端側に相対変位する際には、凸部21にストローク規定板24が押圧され、これとともに内筒16に対してストローク規定板24が軸線O1方向一端側に相対変位し、ばね部材5が縮む。また、制振機構Bに引張側の力が作用し、内筒16に対して外筒15が軸線O1方向他端側に相対変位する際には、係止板23にストローク規定板24が押圧され、これとともに外筒15に対してストローク規定板24が軸線O1方向一端側に相対変位し、ばね部材5が縮む。
【0045】
そして、このばね部材5の伸縮によって、回転慣性質量機構(慣性質量ダンパー4)B1と付加ばね機構(ばね部材5)B2とにより定まる振動数を橋梁1の卓越する振動数(例えば1次固有振動数)に同調させるようにする。
【0046】
また、回転慣性質量機構B1はボールねじ機構等によって両端に作用する相対変位で錘12を回転させることにより錘質量の数千倍もの大きな慣性質量効果が得られるもので、作用する相対加速度に比例した反力が得られる。このため、橋梁1の上部構造2の温度による伸縮(低速)にはほとんど反力を生じさせずに追従することになる。
【0047】
次に、
図1(a)、
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)に示すように、本実施形態の制振機構Bは、前述した通り、橋梁1の下部構造(橋脚頂部など)3と上部構造(橋桁など)2との間に、慣性質量ダンパー4とばね部材5を直列に連結した形で設置される。
【0048】
この振動モデルは
図1(b)のようになり、慣性質量Ψ
dと減衰係数c
dを並列にし、ばね部材5をこれと直列するばね部材5の剛性k
dとしてモデル化される。そして、慣性質量Ψ
dと直列ばねk
dとにより定まる振動数を橋梁1の1次固有振動数に同調するように設定して同調型制振機構とする。
【0049】
ここで、本実施形態の橋梁の制振構造Aの設定方法においては、橋桁質量(多径間の場合は一体化された橋桁の総重量)をm
2、橋脚頂部の質量(橋脚が複数の場合はその総合計)をm
1 、支承の総水平剛性をk
2、橋脚部の総水平剛性をk
1とし、慣性質量ダンパー4の慣性質量Ψ
dと減衰係数c
d、ばね部材5の剛性k
dを次の式(4)、式(5)で設定する。
また、予め、k
d/k
2とΨ
d/m
2の関係、h
dとΨ
d/m
2の関係を
図4、
図5のように求めておく。
【0050】
【数4】
【数5】
k
d、h
dについては
図4、
図5によって設定する。
【0051】
なお、ここでは、下部構造3となる橋脚部の構造減衰を1次固有振動数に対して5%とし、支承部の減衰については無視する。また、これらの値は一体化した橋桁部分にとりつく諸元の合計値であり、このダンパー諸元は小さすぎると応答低減効果がなく、大きすぎると支承剛性を高めた(ピン支承にした)のと同様で変形を抑制できるが応答低減効果が得られなくなる。これを考慮して、上記範囲のように諸元が設定される。
【0052】
次に、上記の振動モデルを用いて本実施形態の橋梁の制振構造Aを設けた場合の橋梁1の耐震性能をシミュレーションした結果(試設計)について説明する。
【0053】
本シミュレーションでは、制振機構Bを設けない非制振のCase1と、慣性質量ダンパー4とばね部材5を直列に連結してなる制振機構Bを設けたCase2(本実施形態の橋梁の制振構造A)の2ケースについてシミュレーションを行い、互いのシミュレーション結果を比較した。
【0054】
また、制振対象として3径間の橋梁1をモデル化した。この橋梁1の諸元は、路面を含む橋桁部質量m
2=1578ton、橋脚部質量m
1=319ton、支承部剛性k
2=73.5kN/mm、下部工剛性(下部構造の剛性)k
1=477kN/mmとした。これにより、m
1/m
2=0.2、k
1/k
2=6.5となる。
また、制振機構Bの慣性質量はΨ
d=442tonとした。
【0055】
そして、上記のように各諸元、ひいてはΨ
d/m
2=0.28、k
1/k
2=6.5を決めると、
図4と
図5からk
d/k
2=0.45、h
d=0.29を得ることができる。これにより、k
d=0.45k
2=33.1kN/mm、c
d=2.22kN・sec/mm=22.2kN/kineとなる。
【0056】
次に、周波数伝達関数を用い、本実施形態の制振機構Bの有無(Case1、Case2)による振動特性の違いを周波数領域で検討した結果について説明する。
【0057】
ここで、橋脚部の有効質量m
1、橋桁部の質量m
2、各質点の全体変位x
i、各層の剛性k
i、2層目に設ける慣性質量Ψ
d、付加減衰c
d、直列ばね(ばね部材)k
d、入力加速度(地表面加速度)x
0(上に・・)とし、下記の式(6)のように設定すれば、加速度応答倍率は、下記の式(7)で求めることができる。なお、iは虚数(i=√(−1))、ωは加振角振動数(ω=2πf(fは加振振動数))であり、ω
01は第1層目の質量m
1と剛性k
1により定まる角振動数、ω
02は第2層目の質量m
2と剛性k
2により定まる角振動数である。
【0059】
図6は、地表面加速度x
0(上に「・・」)に対する加振角振動数(x
2(上に「・・」),x
1(上に「・・」))の比率を応答倍率して示した結果である。なお、この
図6における加振振動数比ζはω
02=√(k
2/m
2)に対する加振角振動数ω=2πf(fは加振振動数)の比率である。
【0060】
この
図6、
図7から、本実施形態の同調型の制振機構B(Case2)を設けることにより共振時の応答倍率が大幅に低減することが確認された。また、m
2>>m
1であることから、下部構造3の反力が概ね橋桁部の加速度に比例することになり、且つ下部構造3の反力も同様に低減することが確認された。
【0061】
本実施形態の制振構造Aの場合(Case2)について、当該部より上部にある全質量に加速度を乗じた値に対する当該部の反力の比率を応答倍率とする。制振機構Bの反力応答倍率は(制振機構の反力)/m
2x
0 (上に「・・」)、下部構造3の反力応答倍率は(下部工の反力)/(m
1+m
2)x
0 (上に「・・」)で表される。
【0062】
そして、
図7に示すように、「支承6+制振機構B」及び下部構造3の応答倍率は、概ね加速度応答倍率と同様になることが確認された。また、制振機構Bの応答倍率は共振振動数近傍だけで大きくなることが確認された。
これにより、本実施形態の制振機構Bは共振域だけ効いて高振動数域では効かない特徴を有し、この特徴によって従来のオイルダンパー等の制振装置を設置した場合と比較し、負担力が小さくなる。
【0063】
図8は、地表面変位x
0に対する各部変位(相対変位x
2−x
1,x
1−x
0)の比率を応答倍率として示した結果である。また、
図9は、本実施形態の制振構造Aを備えた場合についてのみ縦軸を拡大して示している。
【0064】
これら
図8、
図9から、本実施形態の制振機構Bにより共振域での応答倍率が大幅に低下し、支承部の変位が抑制されることが確認された。
【0065】
次に、時刻歴解析を用い、制振機構Bの有無(Case1、Case2)による応答の違いを検討した結果について説明する。
【0066】
ここでは、公益社団法人日本道路協会:道路橋示方書に示されたレベル2地震動で2種地盤に対応するII−II−3地震波(最大加速度736gal)を入力し、時刻歴波形で応答結果を比較した。
なお、この入力地震動の波形は
図10に示す通りである。
【0067】
図11は橋桁部の加速度、
図12は支承部の変位、
図13は橋脚部のせん断力、
図14は橋脚頂部の加速度を示している。
【0068】
図11から、本実施形態の制振機構Bにより最大応答加速度が半減するとともに、揺れの継続時間も大幅に低減することが確認された。
【0069】
図12から、支承部の変位も制振機構Bにより半減し、概ね200mm程度に収まることが確認された。さらに、変位が200mm超える回数も制振機構Bにより正負各々7回から1回に減少した。また、制振時のダンパー最大反力は5690kN(1台あたり474kN)となり、直列なので慣性質量ダンパー4もばね部材5も同じとなる。最大変位(228mm)は慣性質量ダンパー4が210mm、ばね部材5が141mmとなり、単純和は支承変位より大きくなることが確認された。制振機構Bを備えた時のダンパー最大反力は直列なので慣性質量ダンパー4もばね部材5も同じとなる。
【0070】
図13から、下部工(橋脚部)に作用するせん断力も制振機構Bにより半減し、応力振幅も速やかに減衰することが確認された。これにより、大きな応力を生じる回数が減るので、疲労破壊も生じにくくなることが実証された。
【0071】
図14から、橋脚頂部(支承部下部)の加速度は制振機構Bによりやや低減されるもののその低減効果は顕著ではないことが確認された。これにより、本実施形態の橋脚の制振構造Aは、橋脚頂部の加速度の応答低減を図ることはできないことが確認された。
【0072】
したがって、本実施形態の橋梁の制振構造Aにおいては、直列に連結した回転慣性質量ダンパー4とばね部材5を支承部6に並列設置するだけで、支承部6の水平変位を抑制できるとともに、下部構造(橋脚部)3に作用する力(せん断力、モーメント)をも低減でき、基礎に作用する地震力も低減することができる。
【0073】
これにより、既存橋脚部や杭の耐力が小さく、制振しない場合に大きな損傷を生じていた部位における応答が制振により大幅に低減され、損傷を防止または軽減することができる。特に、杭のように改修工事でも補強することが困難な部材の耐力を増大させることなく、耐震性能を向上させることができる。すなわち、耐震余裕度を向上することができる。
【0074】
また、支承部6を交換する必要がなく、単に制振機構Bを付加するだけなので、橋梁1を工事中も継続使用できる。
【0075】
さらに、慣性質量ダンパー4と直列ばね部材5とによる同調型制振機構を用いることで、共振振動数近傍のみ効果的に応答低減することができ、オイルダンパー等の粘性減衰(従来の制振装置)のように高振動数域で加速度応答が増大することがない。
【0076】
また、高振動数成分が含まれなくなることで、制振機構Bの反力(負担力)が従来の制振装置よりも小さくなったにも関わらず、大きな応答低減効果を発揮できる。特に、築年数の古い橋梁においては桁梁の断面性能が小さく、制振装置の反力に対し桁の耐力が不足する場合もあり、反力が小さくても制振効果の高い本実施形態の橋梁の制振構造Aを採用することで好適に耐震性能を向上させることが可能になる。
【0077】
さらに、制振機構Bを支承部6に並列配置するだけの比較的簡単な作業なので、施工に当たり特別な技能は必要とされず、新築だけでなく既存橋梁1の制震改修にも適用できる。
【0078】
また、本実施形態の橋梁の制振構造の設定方法においては、上記の橋梁の制振構造Aの作用効果に加え、「Ψ
d/m
2の範囲」、「k
d/k
2とΨ
d/m
2の関係」、「h
dとΨ
d/m
2の関係」から、Ψ
d/m
2を設定すれば他の最適な諸元を簡便に求めることができ、同調型制振機構を実現するための実用的な方法を提供することができる。さらに、Ψ
d/m
2を大きくすれば応答低減効果は増大するが、制振機構Bの反力も増加することから、桁や橋脚の耐力を考慮しながら適切な値に設定することができる。
【0079】
以上、本発明に係る橋梁の制振構造及び橋梁の制振構造の設定方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0080】
例えば、本実施形態では、慣性質量ダンパー4とばね部材5を直列に連結してなる制振機構Bのみを備えて制振構造Aが構成されているものとしたが、慣性質量ダンパー4とばね部材5を直列に連結してなる制振機構Bだけでなく、橋梁1の上部構造2と下部構造3の間に他の制振装置(他の制振ダンパー)を付加して橋梁の制振構造Aが構成されていてもよい。他の制振装置としては例えばオイルダンパーやビンガムダンパー、その他の粘性系ダンパーなどが挙げられ、このような制振装置を付加することにより支承部6の変位量を低減し、さらに耐震性を向上させることができる。
【0081】
但し、付加する制振装置(制振ダンパー)が過大だと支承部の変位は低減できるが下部構造(橋脚部)の応答が増大するため、付加する制振装置の減衰係数c’に次の式(8)で示される制約条件をつけることが望ましい。
【0083】
また、想定外の入力地震動に対するフェールセーフ機構として、慣性質量ダンパー4は例えば回転錘12とボールねじ機構を摩擦材を介して接合するなどし、伝達トルクを頭打ちする過負荷防止機構を備えて構成することが好ましい。さらに、オイルダンパーはピストンにリリーフ弁を設け、シリンダー内の過大な圧力上昇を抑制する過負荷防止機構を備えることが好ましい。