特許第6440412号(P6440412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6440412
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】衛星信号受信機
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/30 20100101AFI20181210BHJP
【FI】
   G01S19/30
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-173120(P2014-173120)
(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公開番号】特開2016-48197(P2016-48197A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2017年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】由井 勝男
【審査官】 大▲瀬▼ 裕久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−168657(JP,A)
【文献】 特開2012−058035(JP,A)
【文献】 特開平6−244878(JP,A)
【文献】 特開2011−43365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00−19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各衛星から受信した受信信号を基に、受信対象でありセカンダリコードで変調された衛星信号を探索してI信号およびQ信号に復調する衛星信号受信機において、
前記衛星信号を追尾する前に、この衛星信号のセカンダリコード同期タイミングを検出する検出回路と、
前記検出回路が検出したセカンダリコード同期タイミングに基づき、受信した衛星信号のI信号およびQ信号についてセカンダリコードで再変調して、追尾に用いるI信号およびQ信号に関してセカンダリコード補正を行い、補正したI信号およびQ信号を、衛星信号を追尾する後段の追尾回路に送る補正回路と、
を備えることを特徴とする衛星信号受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セカンダリコード変調をされた衛星信号を受信する衛星信号受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
地上の現在位置を計測するシステムとして、GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球測位システム)がある。GNSSは、人工衛星を使用して、地球のすべての地点を計測対象とする(例えば、特許文献1参照。)。そして、近年、GNSSを利用する受信機として、GPS(Global Positioning System)の衛星のみでなく、BDS(BeiDou navigation satellite System)の測位衛星からの信号、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)の測位衛星からの信号も同時に受信できることが要求されている。
【0003】
BDSの衛星から出力される衛星信号には、D1信号、D2信号の2種類がある。D2信号は、GPSのSBAS(Satellite Based Augmentation System)と同じ2msデータ変調方式であり、SBASと同じ方式で受信できる。D1信号に関しては、衛星から送られてくるデータがGPSと同じ20ms変調をされている。さらに、この20msの間はセカンダリコードと呼ばれる1ms変調がされている。このセカンダリコードの例を図4に示す。また、図4には、航法データの例と、セカンダリコードで変調された実際の変調信号の例を示している。
【0004】
このD1信号を受信するために、2msデータ変調であるD2信号と同様に1ms変調のままで追尾させれば、D2信号との処理互換性面では有用である。そのため、従来の衛星信号受信機は、1msデータ変調のままで追尾処理を行っている。具体的には、従来の衛星信号受信機は、周波数引き込み完了後に、追尾に移行する。このとき、1msデータしか使えないので、引き込みできる信号レベルが高く、衛星信号受信機は、1msPLL(Phase Locked Loop)にてPLL状態まで引き込む。そして、衛星信号受信機は、復調データ列を取り込み、そのデータ列でセカンダリコード同期となる位置を見つける。この後、衛星信号受信機は、見つけた位置から、セカンダリコードの影響をなくした復調データ列を再度求め、衛星信号に含まれる航法データを復調する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−43365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先に述べた従来の衛星信号受信機には、次の課題がある。つまり、従来の衛星信号受信機は1msデータ変調のままで追尾処理を行うため、周波数安定度が悪く、−140dBm程度までしか安定追尾できない。また、航法データのデータ復調も1msデータを元に行うので、データ復調の安定度も低い。
【0007】
この発明の目的は、前記の課題を解決し、安定度の高い追尾やデータ復調を可能にする衛星信号受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、各衛星から受信した受信信号を基に、受信対象でありセカンダリコードで変調された衛星信号を探索してI信号およびQ信号に復調する衛星信号受信機において、前記衛星信号を追尾する前に、この衛星信号のセカンダリコード同期タイミングを検出する検出回路と、前記検出回路が検出したセカンダリコード同期タイミングに基づき、受信した衛星信号のI信号およびQ信号についてセカンダリコードで再変調して、追尾に用いるI信号およびQ信号に関してセカンダリコード補正を行い、補正したI信号およびQ信号を、衛星信号を追尾する後段の追尾回路に送る補正回路と、を備えることを特徴とする衛星信号受信機である。
【0009】
請求項1の発明では、各衛星から受信した受信信号を基に、受信対象でありセカンダリコードで変調された衛星信号を探索してI信号およびQ信号に復調する。この後、検出回路が衛星信号を追尾する前に、この衛星信号のセカンダリコード同期タイミングを検出する。さらに、補正回路は、検出回路が検出したセカンダリコード同期タイミングに基づき、受信した衛星信号のI信号およびQ信号についてセカンダリコードで再変調して、追尾に用いるI信号およびQ信号に関してセカンダリコード補正を行う。そして、補正回路は、補正したI信号およびQ信号を、衛星信号を追尾する後段の追尾回路に送る。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、セカンダリコード補正されたI、Q信号が得られるので、コヒーレント時間が長く、安定度が高い周波数制御が行え、安定した追尾ができる信号レベルを改善することができる。また、請求項1の発明によれば、データ復調も本来の長い積分時間で実施できるので、データ復調安定度も高い利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の実施の形態1による衛星信号受信機の一例を示す構成図である。
図2】セカンダリコードからのずれを示す相関図である。
図3】従来の衛星信号受信機を示す構成図である。
図4】セカンダリコードを説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、この発明の各実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0013】
(実施の形態1)
この実施の形態による衛星信号受信機を図1に示す。図1の衛星信号受信機は、アンテナ10と受信部20と信号処理部30とを備えている。
【0014】
アンテナ10は、各測位衛星からの衛星信号を受信して、受信信号を受信部20に出力する。受信部20は、アンテナ10が出力した受信信号の増幅等を行い、この受信信号をデジタル処理の可能な周波数帯の離散データに変換する。受信部20は、離散データに変換した受信信号を信号処理部30に出力する。
【0015】
信号処理部30は、受信信号の中から受信対象の衛星信号をサーチして追尾するためのものであり、サーチ回路31と周波数引き込み回路32とセカンダリコード同期検出回路33とセカンダリコード補正回路34と追尾回路35とを備えている。
【0016】
信号処理部30は、受信部20が出力した受信信号をサーチ回路31に加える。サーチ回路31は、受信対象とする衛星からの衛星信号を、入力された受信信号からサーチ(探索)する。サーチ回路31は、サーチした衛星信号を周波数引き込み回路32に出力する。具体的には、衛星信号はPNコードによって変調され、スペクトラム拡散されているので、サーチ回路31は衛星信号を逆拡散する必要がある。このために、サーチ回路31は、PNコードを生成し、生成したPNコードと衛星信号をPNコード相関部(図示を省略)に供給して逆拡散する。サーチ回路31は、生成するPNコードについては、異なる位相に順に変更することで、相関出力をモニターし、所定の値より大きい相関出力を探索する。
【0017】
周波数引き込み回路32は、入力された衛星信号を基に、I(In−phase)信号とQ(Quadrature−phase)信号とを生成する。こうした復調を、周波数引き込み回路32は例えばコスタスループで行う。コスタスループは、VCO(Voltage Controlled Oscillator)を備え、このVCOによって、変調に用いられたキャリアを生成する。そして、周波数引き込み回路32は、キャリアと変調信号つまり衛星信号とを乗算し、またキャリアと位相が90度異なる信号と変調信号とを乗算する。これにより、周波数引き込み回路32は、衛星信号を復調してI信号とQ信号とを生成する。周波数引き込み回路32は、生成したI信号とQ信号つまり復調した衛星信号をセカンダリコード同期検出回路33とセカンダリコード補正回路34とに出力する。
【0018】
セカンダリコード同期検出回路33は、追尾前にセカンダリコード同期タイミングを検出する。つまり、セカンダリコード同期検出回路33は、前段の周波数引き込み回路32で数10Hz以内に信号引き込みをされた衛星信号から、セカンダリコード同期タイミングを検出する。
【0019】
このために、セカンダリコード同期検出回路33は、衛星信号の次の点を利用している。先の図4に示すように、衛星信号受信機で受信した衛星信号は、衛星の航法データで変調され、さらに、セカンダリコードで変調されている。そして、図4の中の矢印Aで示すように、航法データが切り替わるタイミングは、セカンダリコードが繰り返されるタイミングと同期しているので、航法データが同じ範囲(この例では20ms間)はセカンダリ変調のみである。セカンダリコード同期検出回路33は、セカンダリコードとms単位でずれた信号との相関特性を利用して、セカンダリコード同期タイミングを検出する。つまり、セカンダリコード同期検出回路33は、図2に示すように、1msずつ相関区間をずらした20候補を比較すれば、セカンダリコード同期タイミングを検出することができる。
【0020】
また、周波数誤差が数10Hz以内であれば、周波数がずれていても、セカンダリコード同期検出回路33は、セカンダリコード同期タイミングを正しく検出できる場合も多い。このために必須ではないが、さらに検出信頼度を上げるため、周波数引き込み回路32がPLL状態(位相ロック状態)まで周波数、位相引き込みを行ってから、セカンダリコード同期検出回路33がセカンダリコード同期タイミングの検出を行ってもよい。
【0021】
セカンダリコード同期検出回路33は、このようにして検出したセカンダリコード同期タイミングをセカンダリコード補正回路34に出力する。
【0022】
セカンダリコード補正回路34は、周波数引き込み回路32から出力される信号であり、周波数と位相とが引き込まれた衛星信号と、セカンダリコード同期検出回路33から出力されるセカンダリコード同期タイミングとにより、セカンダリコード変調を補正する。具体的には、セカンダリコード補正回路34は、セカンダリコード同期検出回路33で検出されたセカンダリコード同期タイミングに基づき、受信された衛星信号のI、Q信号に関し、セカンダリコードで再変調する。これにより、セカンダリコード補正回路34は、セカンダリコード変調を補正した信号、つまり、先の図4に示す航法データそのもの(20ms変調された信号)を求める。そして、セカンダリコード補正回路34は、セカンダリコード変調を補正した衛星信号であるI、Q信号を追尾回路35に送る。
【0023】
追尾回路35は、セカンダリコード補正回路34から入力されたI信号とQ信号とにより衛星信号を追尾する。つまり、追尾回路35は、セカンダリコード変調を補正したI信号とQ信号とを用いて、衛星からの信号を追尾する。この場合、I信号とQ信号とはセカンダリコード補正回路34で20ms変調された信号になっているので、追尾回路35は、同じ変調周期であるGPS用追尾回路と同様に、高感度で安定した制御が行える。なお、説明を省略しているが、追尾回路35の後段の回路で、I、Q信号を基に航法データの復調等が行われる。
【0024】
次に、この実施の形態による衛星信号受信機の作用について説明する。アンテナ10は、各測位衛星からの衛星信号を受信して、受信信号を受信部20に出力する。受信部20は、受信信号をデジタル処理の可能な離散データに変換して信号処理部30に出力する。信号処理部30のサーチ回路31は、受信対象とする衛星からの衛星信号を、入力された受信信号から探索する。サーチ回路31は、探索した衛星信号を周波数引き込み回路32に出力する。周波数引き込み回路32は、入力された衛星信号を復調し、I信号とQ信号とを生成する。周波数引き込み回路32は、復調した衛星信号であるI、Q信号をセカンダリコード同期検出回路33に出力する。
【0025】
セカンダリコード同期検出回路33は、前段の周波数引き込み回路32で数10Hz以内に信号引き込みされた信号から、セカンダリコード同期タイミングを検出する。セカンダリコード補正回路34は、セカンダリコード同期検出回路33で検出されたセカンダリコード同期タイミングに基づき、入力されたI、Q信号に関し、セカンダリコードで再変調することで、セカンダリコード変調を補正した、先の図4に示す航法データそのものを求め、それを追尾回路35に送る。
【0026】
追尾回路35は、セカンダリコード変調を補正したI信号とQ信号とを用いて、衛星からの信号を追尾する。このとき、I信号とQ信号とはセカンダリコード補正回路34で20ms変調された信号になっているので、追尾回路35は、同じ変調周期であるGPS用追尾回路と同様に、高感度で安定した制御を行える。
【0027】
こうして、この実施の形態によれば、セカンダリコード変調を補正したI信号とQ信号とを用いて、衛星からの信号を追尾するが、I信号とQ信号とはセカンダリコード補正回路34で20ms変調された信号になっているので、追尾回路35では、同じ変調周期であるGPS用追尾回路と同様に、高感度で安定した追尾制御を行うことができる。
【0028】
なお、従来であれば、衛星信号受信機は図3に示すような構成となり、実施の形態1のようなセカンダリコード同期検出回路33による処理とセカンダリコード補正回路34とによる処理を行うことなく、位相と周波数が引き込まれた衛星信号は追尾回路35に加えられる。これにより、従来の衛星信号受信機は1msデータ変調のままで追尾処理を行うため、周波数安定度が悪く、安定した追尾ができない。
【0029】
また、この実施の形態によれば、セカンダリコード補正されたI、Q信号が得られるので、コヒーレント時間が長く、安定度が高い周波数制御が行え、安定追尾できる信号レベルを数dB以上改善できる利点がある。
【0030】
また、この実施の形態によれば、データ復調も本来の長い積分時間(上記のBDSの衛星では20ms)で実施できるので、データ復調安定度も高い利点がある。
【0031】
さらに、この実施の形態によれば、セカンダリコード同期を追尾前に行うので、追尾時はセカンダリ補正した後のデータ変調(図4)が長い周期(20ms)になり、このデータ変調での制御ができる。そのため、周波数引き込みは引き込み感度が高い20ms周波数引き込みも実施できる。
【0032】
(実施の形態2)
実施の形態1で使用される周波数引き込み回路32では、1ms変調データしか利用できないため、周波数引き込み特性が悪く、50Hzの整数倍で周波数引き込みが誤る場合がある。また、従来技術ではこの周波数引き込みが正しいかどうかを検出できない。
【0033】
ところで、セカンダリコード同期後の20msコヒーレントした信号パワーは、正しい信号であれば、1msノンコヒーレントから求めた信号パワーより10倍以上大きい。一方、50Hzの整数倍で周波数引き込みが誤った場合、20msコヒーレントした信号パワーは0付近となり、1msノンコヒーレントから求めた信号パワーより小さい値となる。このことを利用して、セカンダリコード同期後の20msコヒーレントした信号パワーが1msノンコヒーレントから求めた信号パワーと比較して、十分に大きく(例えば10倍以上)ない場合には、衛星信号受信機は、周波数異常と判定する。そして、衛星信号受信機は、追尾を中断し、周波数スキャン(またはサーチ)からやり直すことをしても良い。
【0034】
この実施の形態によれば、20msコヒーレントした場合の信号レベルと、1msノンコヒーレント加算パワーの比較にて周波数引き込みが正しく行われたかを検出することができる。
【0035】
(実施の形態3)
実施の形態1による図1の構成は、複数衛星分構成され、各衛星独立に制御できることを例としているが、サーチ回路同様に、セカンダリコード同期検出回路など、その一部を共通用にして回路規模を減らしても良い。
【0036】
これにより、回路構成を簡単化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明は、セカンダリコード変調を実施している測位システム全般に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 アンテナ
20 受信部
30 信号処理部
31 サーチ回路
32 周波数引き込み回路
33 セカンダリコード同期検出回路(検出回路)
34 セカンダリコード補正回路(補正回路)
35 追尾回路
図1
図2
図3
図4