(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一のエタノール及び第一の水の総容量の0.10〜0.75倍の容量の留出液が生成してから、第二のエタノール及び第二の水の追加を開始する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生物原料の香気成分を含有するエタノール水溶液の蒸留を行う場合には、先ず、蒸気のアルコール度数が高い時に留出しやすい、低沸点であり刺激的な成分が留出し、続いて有用な香気成分が留出し、留出の後期に好ましくない臭い、例えば、煮詰まり臭や焦げ臭が生成する。従って、生物原料から、当該好ましくない臭いを防止しつつ、有用な香気成分を選択的にできるだけ多く取得するための、設備改造も少なくまた操作上も簡便な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、生物原料とエタノールと水との混合物を蒸留中に、留出液をある一定量ずつ(フラクションと呼ぶ)取り分け、フラクション毎に、官能評価が異なるのではとの考えの下、アルコール度数、有用な香気成分及び好ましくない臭い成分の分析及び官能評価を行った。その結果、エタノール及び水を当該混合物に追加して、留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度が一定範囲にあると、留出液への刺激の強い成分、あるいは好ましくない臭いの移行を増加させずに、好ましい香気成分を多く取得できることを見出した。
【0007】
本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
1.生物原料の香気を有するエタノール水溶液の製造方法であって、
生物原料と第一のエタノールと第一の水との混合物を蒸留に付す工程、及び
当該蒸留中に第二のエタノール及び第二の水を当該混合物に追加する工程
を含み、当該追加後に、留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度が10〜50%である、前記製造方法。
2.当該留出液のエタノール濃度が10〜50%まで低下してから、第二のエタノール及び第二の水の追加を開始する、1に記載の製造方法。
3.第一のエタノール及び第一の水の総容量の0.10〜0.75倍の容量の留出液が生成してから、第二のエタノール及び第二の水の追加を開始する、1又は2に記載の製造方法。
4.第二のエタノールと第二の水とを、容量比で5:95〜50:50で追加する、1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
5.第二のエタノール及び第二の水の総容量が、第一のエタノール及び第一の水の総容量の0.01〜3倍である、1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
6.前記蒸留が常圧蒸留である、1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
7.生物原料が、果実、果皮及びハーブから選択される少なくとも一種である、1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
8.生物原料が、柑橘類の果実及び果皮から選択される少なくとも一種である、1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
9.前記1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により製造された、エタノール水溶液。
10.前記9に記載されたエタノール水溶液を含有する飲料又は食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、生物原料の蒸留において、留出液への好ましくない臭いの移行を防止しつつ、香気成分をより多く取得することを可能とする。このような効果は、蒸留の際に生物原料とエタノールと水とを用いる場合に限られないものと考えられる。本発明は、以下のアイデアに基づく。即ち、有用成分Aを含む原料、溶媒B及び溶媒Cの3成分系で蒸留を行う際、具体的には有用成分Aを含む原料と、溶媒B及びCとの混合物を蒸留に付す際に、当該混合物中のBとCの割合を、Aが揮発しやすい割合に維持すると、Aの回収率を簡便に向上させることができる。実施例では、Aは柚子に含まれるリナロール等、BとCは水とエタノールであるが、有効成分を含む原料は柚子のような生物原料に限られず、溶媒もエタノールと水でなくてもよい可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法、及びそれにより得られるエタノール水溶液を、以下に説明する。
【0011】
(エタノール水溶液)
本発明において用いられる「エタノール水溶液」との用語は、エタノールを含有する水溶液を意味する。当該水溶液は、エタノールと水に加えて、生物原料の香気成分などの他の成分を含んでもよい。当該エタノール水溶液の範囲には、エタノールを含む酒類も含まれる。そのような酒類としては、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ジン、ウオッカ、ニュートラルスピリッツ、醸造酒等を挙げることができる。
【0012】
(原料)
本発明の製造方法においては、生物原料、エタノール及び水を原料として用いる。
【0013】
本発明に用いる生物原料は、特に限定されず、植物原料であっても動物原料であってもよい。植物原料の例は、果実、果皮、ハーブ、草根木皮(シソ、桜葉など)、根菜類、野菜類、スパイス、コーヒーなどの焙煎原料である。好ましい植物原料は、果実、果皮及びハーブである。動物原料の例は、鳥、牛、豚、羊である。これらを単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。生物原料の状態は制限されず、冷凍物、冷蔵物、乾燥物のいずれであってもよい。また、その水分量も限定されない。
【0014】
本発明において用いられる果実及び果皮は、特に限定されないが、例えば、柑橘類(オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、柚子、ライム等)、リンゴ、ブドウ、マスカット、さくらんぼ、メロン、スイカ、カシス、モモ、熱帯果実(パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ等)、その他果実(ウメ、ナシ、洋ナシ、アンズ、スモモ、ベリー(ストロベリー、ジュニパーベリー、クランベリー、ブルーベリー、ラズベリーなどを含む)、キウイフルーツ等)などの果実、及びその果皮が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明では、好ましくは、柑橘類の果実及び/又は果皮を用いる。果実の香気成分の多くは果皮とその近傍の果肉に多く存在しているので、果皮を原材料として用いることが好ましい。果皮はそれだけで用いてもよいが、果実や果肉と共に用いてもよい。
【0015】
また、本発明において用いられるハーブは、ハーブとして知られているものであれば特に限定されないが、例えば、シソ、山椒、茶(学名 Camellia sinensis (L.) Kuntze)、シナモン、コリアンダーなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
これらの生物原料は、蒸留前に加工処理が施されたものでもよい。例えば、生物原料を乾燥させてから蒸留に供してもよいが、乾燥させず生のまま用いることもできる。生物原料は、好ましくは生のまま用いる。また、生物原料は、蒸留前に裁断してもよいし、凍結してもよい。さらに、凍結物を粉砕してもよい。また、生物原料を搾汁して生成する搾り粕も、原料として用いることができる。本発明においては、それらの加工処理の二種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0017】
第一のエタノール及び第一の水は、主に蒸留開始の際に用いられる。これらは別々に生物原料と混合されてもよいが、予め混合してから生物原料と混合してもよい。例えば、第一のエタノールと第一の水は、エタノール水溶液の形態であってもよい。本発明では、追加工程後の留出液のエタノール濃度が特定範囲となる限り、第一のエタノールと第一の水との比率は限定されない。しかしながら、当該エタノールと水の容量比は、好ましくは5:95〜99:1、より好ましくは5:95〜80:20、より好ましくは5:95〜50:50、より好ましくは10:90〜40:60、より好ましくは10:90〜30:70である。確認のために記載するが、本発明では、生物原料と第一のエタノールと第一の水との混合物を蒸留に付す限り、当該混合物は、蒸留の開始時(留出液生成開始)からこれらの成分を全て含む必要はない。例えば、蒸留の途中からエタノール及び/又は水を加えてもよい。また、第一のエタノールと第一の水との比率が前記数値範囲のいずれかに限定される場合であっても、当該比率は、蒸留開始からエタノールと水の追加の工程が開始されるまでの期間の内の、一定以上の期間、例えば、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上の期間、当該数値範囲内にあればよい。
【0018】
追加される第二のエタノール及び第二の水は、別々に蒸留系内に加えてもよいし、それらを混合してから蒸留系内に加えてもよい。例えば、第二のエタノールと第二の水は、エタノール水溶液の形態であってもよい。さらに、エタノールと水の混合液(例えば、エタノール水溶液)を、水及び/又はエタノールと共に加えてもよい。エタノール及び水、そして場合によりそれらの混合液を別々に追加する場合、追加するタイミングは異なってもよい。しかしながら、追加する時間は、離れ過ぎていないことが好ましい。好ましくは、それらは同時に追加される。第二のエタノールと第二の水は、容量比で、好ましくは5:95〜50:50、より好ましくは10:90〜50:50、より好ましくは20:80〜50:50、より好ましくは30:70〜50:50で追加される。
【0019】
蒸留の結果得られるエタノール水溶液のエタノール濃度は、好ましくは10〜80%、より好ましくは20〜70%、より好ましくは20〜60%である。
【0020】
本明細書におけるエタノール濃度はv/v%を意味し、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、エタノール水溶液から、必要に応じて濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いて、試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留出液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。第一のエタノール、第一の水、第二のエタノール及び第二の水の容量比は、それらが混合される前には、それぞれの容量を測定すれば求めることができる。一方、混合後は、混合液中のエタノール濃度を測定すればよい。そのための方法は上記した通りである。
【0021】
(蒸留)
先ず、生物原料と、第一のエタノールと、第一の水溶液とを混合する。当該混合は、蒸留の際に加熱される容器(例えば、蒸留釜)の中で行ってもよいし、それらの一部又は全てを混合してから、混合物を当該容器に入れてもよい。生物原料と第一のエタノール及び第一の水との混合比は、特に限定されないが、例えば、生物原料を、第一のエタノール及び第一の水の総量の0.5〜50%(w/v)、10%〜50%(w/v)、又は20〜30%(w/v)用いることができる。混合により得られる混合物には、本発明の効果に悪影響を与えない限り、生物原料、エタノール、水に加えて、他の成分が含まれていてもよい。例えば、エタノール及び水を供給するために、エタノール水溶液を用いることができ、それは酒類であってもよい。また、酒類として、発酵もろみを用いることができる。
【0022】
次いで、当該混合物を加熱して蒸留を開始する。蒸留は、減圧下で行ってもよいし、常圧で(減圧や加圧のための処理をしないで)蒸留を行ってもよい。好ましくは、蒸留は、常圧で加熱をして行う。蒸留の際の圧力は、典型的には、95kPa〜106kPaである。
【0023】
また、本発明の方法は、典型的には単式蒸留釜を用いて行われ、蒸留釜の上に段塔をつけても、実施することができる。
【0024】
当該混合物が加熱されて蒸気が生成し、当該蒸気が冷却器を用いて凝縮され、留出液が生成する。次いで、蒸留中に、第二のエタノール及び第二の水を当該混合物に追加する。追加後に、留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度は、10〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは30〜50%、より好ましくは30〜40%となる。当該留出液のエタノール濃度は、一時的に当該数値範囲となるだけでもよいが、出来るだけ長い期間に当該数値範囲となることが好ましい。例えば、当該数値範囲内のエタノール濃度を有する留出液の生成量は、第一のエタノール及び第一の水の総容量の好ましくは0.01〜3倍、より好ましくは0.2〜0.6倍、より好ましくは1〜0.6倍である。
【0025】
当該留出液のエタノール濃度は、留出液が、その生成時に有しているエタノール濃度を意味し、これは生成時期に依存して変化する。この濃度は、生成後しばらく経過しても大きく変化しないため、生成直後ではなく、しばらく時間が経過してから測定しても、生成時の濃度を見積もることができる。例えば、留出液を比較的少量のフラクションに分けて、各フラクションのエタノール濃度を測定すれば、留出液が生成時に有していたエタノール濃度、又はそれに非常に近い値を求めることができる。一方、測定方法が適切でない場合、例えば、比較的多量のフラクションに分けて各フラクションのエタノール濃度を測定する場合や、エタノール濃度の異なる複数のフラクションを合わせてからエタノール濃度を測定する場合には、正確な生成時のエタノール濃度が得られないことがある。
【0026】
本発明においては、第二のエタノール及び第二の水を「追加」する。これは、新たなエタノール及び水を追加することを意味する。即ち、当該追加は、留出液を前記混合物へ戻すことを意味しない。従って、追加されるエタノール及び水は、当該蒸留の際に得られる留出液とは異なるものである。しかしながら、本発明の範囲には、本発明の効果が得られる限り、エタノール及び水を追加することに加えて、留出液を前記混合物に戻すことも含まれる。
【0027】
第二のエタノール及び第二の水の追加は、例えば、当該留出液のエタノール濃度が10〜50%まで低下してから開始することができる。追加開始時の当該留出液のエタノール濃度は、好ましくは20〜50%、より好ましくは30〜50%である。
【0028】
代替的な、又は追加的な条件として、第二のエタノール及び第二の水の追加は、第一のエタノール及び第一の水の総容量の0.10〜0.75倍の容量の留出液が生成してから開始してもよい。追加開始時の留出液の生成重量は、好ましくは、第一のエタノール及び第一の水の総容量の0.10〜0.50倍、より好ましくは0.10〜0.30倍である。
【0029】
追加される第二のエタノール及び第二の水の総容量は、好ましくは、第一のエタノール及び第一の水の総容量の0.01〜3倍、より好ましくは0.2〜0.6倍である。
【0030】
得られた留出液は、例えば、飲食品に利用することができる。従って、得られた留出液のフラクションを全てまとめて利用してもよいが、好ましくない臭いを有するフラクションを排除して、好ましいフラクションだけを集めて利用することもできる。このためには、例えば、留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度が10〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは30〜50%、より好ましくは30〜40%である時に得られたフラクションだけを集めることができる。場合により、留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度が当該範囲に下がる前に得られたフラクションも利用してもよい。
【0031】
(エタノール水溶液の利用)
得られた留出液であるエタノール水溶液は、そのまま、あるいは水又はエタノールで希釈して飲用に供することができる。その場合には、必要に応じて、砂糖、液糖、酸味料等の追加成分を添加してもよい。或いは、当該エタノール水溶液は、飲料や食品に添加することもできる。そのような飲料や食品の例としては、チューハイなどのアルコール飲料、炭酸飲料、果実飲料、紅茶等の飲料、及びアイスクリーム、ケーキ、飴、ガム、菓子、パン等の食品が挙げられる。当該エタノール水溶液の添加量については特段の制限はなく、その添加量は、付与する香気の程度と嗜好性によって決定される。
【0032】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値〜上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1〜2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例】
【0033】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
柚子の果皮を用いて、常圧蒸留を行った。エタノール及び水を追加する本発明の方法と、そのような追加を行わない対照実験とを行った。蒸留釜、冷却塔、留出液回収容器等の装置は、通常用いられるものを用いた。
【0035】
本発明と対照実験のいずれにおいても、柚子の果皮110gとニュートラルスピリッツ(15%エタノール含有)600mlとの混合物を原料として用いた。柚子の果皮は、冷凍されたまま、蒸留釜に投入した。続いて、蒸留釜を加熱して蒸留を開始した。
【0036】
対照実験においては、留出液を30mlずつ取得して、合計6つのフラクションを得た。それ以降の留出液は、エタノール濃度が10%未満であると共に、煮詰まり臭や焦げ臭が著しいため、廃棄した。
【0037】
本発明の方法においても、留出液を30mlずつ取得して、合計16のフラクションを得た。それ以降の留出液は、エタノール濃度が10%未満であると共に、煮詰まり臭や焦げ臭が著しいため、廃棄した。エタノール及び水の追加は、フラクション5の取得中に開始し、フラクション12の取得後に終了した。追加開始時の留出液のエタノール濃度は約35%であった。追加開始時までに留出した留出液の量は、約120mlであった。追加されたエタノール及び水は、エタノール水溶液、具体的にはニュートラルスピリッツ(40%エタノール含有)であった。30mlの留出液を得る度に30mlのニュートラルスピリッツを追加し、合計9回(270ml)追加した。追加されている間の留出液のエタノール濃度は、31.8%〜39.0%であった。
【0038】
訓練されたパネリスト3名により、各フラクションの香気について官能評価を行い、柚子の香気の特徴の強さを評価し、協議の上、スコアを決定した。評価基準は以下の通りである。この評価基準は、他の実施例でも用いる。
【0039】
5点:柚子の特徴を強く感じる。
4点:柚子の特徴をやや強く感じる。
3点:柚子の特徴を感じる。
2点:柚子の特徴をわずかに感じる。
1点:柚子の特徴を感じない。
【0040】
評価結果を、結果を表1及び2に示す。これらの表には、エタノール濃度とコメントも示す。尚、対照実験に関しては、全フラクション(フラクション1〜6)の混合物の評価結果だけを示す。また、
図1に、各実験におけるフラクション番号と各フラクションのエタノール濃度を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1及び2、及び
図1から明らかな通り、本発明の方法では、エタノール及び水の追加により、対照実験よりも長い期間、留出液のエタノール濃度を10〜50%に維持することができた。結果として、本発明の方法は、好ましくない香り、例えば、煮詰まり臭や焦げ臭の著しい発生を遅らせることができた。また、表2のコメントや官能評価から明らかな通り、柚子の香気を含む好ましいフラクションを数多く取得することができた。そして、本発明の方法において取得したフラクションを全てまとめた混合物は、対照と比較して柚子の香気の特徴を強く示した。
【0044】
これらのことから、本発明の方法は、生物原料の香気成分をより多く選択的に取得することを可能にすると考えられる。このことをより詳しく検証するため、各フラクションについて、柚子の主要な香気成分であるリモネンとリナロールの含有量を求め、比較した。この測定のためには、ガスクロマトグラフィー(GLC)法を用いた。結果を
図2及び3に示す。
図2は、対照実験の結果である。リモネン(◆)及びリナロール(■)の取得は、煮詰まり臭や焦げ臭の著しい生成のため、フラクション7で終了した。一方、
図3は、本発明の方法の結果である。煮詰まり臭や焦げ臭の著しい生成の前に、リモネン(◆)及びリナロール(■)を含有するフラクションを数多く取得することができた(フラクション16まで)。その結果、対照よりも多くのリモネンとリナロールを得ることができた。それぞれの実験における各成分の総取得量を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
参考例
比較のため、レクチファイヤード蒸留を行った。レクチファイヤード蒸留とは、留出液の一部を蒸留釜のネック部分に戻す蒸留方法である。
【0047】
留出液の一部を還流する以外は、実施例1の対照と同じ原料を用いて、同じ操作を行った。
【0048】
本参考例においては、留出液を30mlずつ取得して、合計11のフラクションを得た。それ以降の留出液は、廃棄した。
【0049】
実施例1と同様に、各フラクションの香気について官能評価を行った。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4から明らかな通り、柚子の香気の特徴を強く表すフラクションはあまり多くなく、全フラクションの混合物の評価結果も、本発明より劣っていた。このことは、柚子の香気成分の取得量が低かったことを示している。
【0052】
実施例2
グレープフルーツの果皮を用いて、常圧蒸留を行った。エタノールと水を追加する本発明の方法と、そのような追加を行わない対照実験とを行った。いずれの実験も、原料としてグレープフルーツの果皮を用いたこと、及びスケールを半分にしたこと以外は、実施例1に記載の方法に準じた。
【0053】
本発明と対照実験のいずれにおいても、グレープフルーツの果皮55gとニュートラルスピリッツ(15%エタノール含有)300mlとの混合物を原料として用いた。
【0054】
蒸留開始後、対照実験においては、留出液を15mlずつ取得して、合計7つのフラクションを得た。それ以降の留出液は廃棄した。
【0055】
本発明の方法においても、留出液を15mlずつ取得して、合計17のフラクションを得た。それ以降の留出液は廃棄した。エタノール及び水の追加は、フラクション4の採取後に開始し、フラクション12の取得後に添加して終了した。追加開始時の留出液のエタノール濃度は約42%であった。追加開始時までに留出した留出液の量は、約60mlであった。追加されたエタノール及び水は、エタノール水溶液、具体的にはニュートラルスピリッツ(40%エタノール含有)であった。15mlの留出液を得る度に15mlのニュートラルスピリッツを追加し、合計9回(135ml)追加した。追加されている間の留出液のエタノール濃度は、32.8%〜38.4%であった。
【0056】
実施例1と同様にして各フラクションの香気について官能評価を行った。評価結果を表5及び6に示す。尚、対照実験については、全フラクション(フラクション1〜7)の混合物の評価結果だけを示す。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
表5及び6は、実施例1と同様の傾向を示した。即ち、本発明は、好ましくない香り、例えば、煮詰まり臭や焦げ臭の発生を遅らせることができた。また、本発明においては、留出液のエタノール濃度を10〜50%に維持している間に、グレープフルーツの香気を含む好ましいフラクションを数多く取得することができた。そして、留出液を全てまとめた混合物は、対照と比較してグレープフルーツの香気の特徴を強く示した。
【0060】
また、各実験において、グレープフルーツの主要な香気成分であるリナロールとシトラールの総取得量を求めた。その結果を表7に示す。本発明は、対照実験と比較して、それらの成分を多くもたらした。
【0061】
【表7】
【0062】
上記の結果から、本発明の方法は、好ましくない臭いの留出液への移行を増加させることなく、生物原料の香気成分をより多く取得することを可能にすることが明らかとなった。