(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力軸に入力される動力を変速比の変更により無段階に変速する無段変速機構、前記入力軸に入力される動力を一定の変速比で変速する一定変速機構、および前記無段変速機構からの動力と前記一定変速機構からの動力とを合成するための遊星歯車機構を含む合成用歯車機構を備え、前記入力軸に入力される動力が前記無段変速機構を経由して前記合成用歯車機構に伝達され、相対的にロー側の変速比幅を構成する無段変速モードと、前記入力軸に入力される動力が前記無段変速機構および前記一定変速機構を経由して前記合成用歯車機構に伝達され、相対的にハイ側の変速比幅を構成する動力分割モードとに切替可能に構成された動力分割式無段変速機と、
ロックアップクラッチを備え、駆動源からの動力を前記動力分割式無段変速機の前記入力軸に伝達するトルクコンバータとを搭載した車両に適用される制御装置であって、
前記動力分割モードでの前記車両の走行時に、前記車両を急加速させる要求が入力されたか否かを判断する急加速要求判断手段と、
前記急加速要求判断手段により前記動力分割モードでの前記車両の走行時に前記要求が入力されたと判断された場合に、前記ロックアップクラッチを解放するロックアップ解除手段とを含む、車両用制御装置。
前記急加速要求判断手段は、所定以上の操作速度での所定量以上のアクセル操作がなされた場合に、前記要求が入力されたと判断する、請求項1に記載の車両用制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動源の動力を2系統に分割して伝達可能な変速機は、動力分割式無段変速機として、本願出願人も提案している。
【0005】
この提案に係る動力分割式無段変速機には、変速比の変更により動力を無段階に変速する無段変速機構と、動力を一定の変速比で変速する一定変速機構と、無段変速機構からの動力と一定変速機構からの動力とを合成するための遊星歯車機構を含む合成用歯車機構とが備えられている。合成用歯車機構のサンギヤには、無段変速機構から出力される動力(回転)が入力される。また、合成用歯車機構のリングギヤには、出力軸が接続されている。出力軸の回転は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の駆動輪に伝達される。
【0006】
この動力分割式無段変速機では、動力が無段変速機構のみを経由して合成用歯車機構に伝達されるベルトモードと、動力が無段変速機構および一定変速機構を経由して合成用歯車機構に伝達されるスプリットモードとに切り替えられる。
【0007】
ベルトモードでは、合成用歯車機構のサンギヤとリングギヤとが直結され、合成用歯車機構のキャリアがフリーな状態にされる。そのため、無段変速機構から出力される動力により、サンギヤおよびリングギヤが一体的に回転し、出力軸がリングギヤと一体的に回転する。したがって、ベルトモードでは、無段変速機構の変速比が動力分割式無段変速機の変速比となり、無段変速機構の変速比が変化すると、その変化速度と同じ速度で動力分割式無段変速機の変速比が変化する。
【0008】
スプリットモードでは、一定変速機構からの動力が合成用歯車機構のキャリアに入力される。一定変速機構の変速比が一定で不変であるので、動力分割式無段変速機に入力される回転速度が一定であれば、キャリアの回転速度が一定に保持される。そのため、無段変速機構の変速比が上げられて、合成用歯車機構のサンギヤの回転速度が下がると、合成用歯車機構のリングギヤおよびリングギヤに接続された出力軸の回転速度が上がり、動力分割式無段変速機の変速比が下がる。逆に、無段変速機構の変速比が下げられて、合成用歯車機構のサンギヤの回転速度が上がると、合成用歯車機構のリングギヤおよび出力軸の回転速度が下がり、動力分割式無段変速機の変速比が上がる。
【0009】
スプリットモードでの車両の走行中に、アクセルペダルが素早く踏み込まれることにより急加速が要求されると、動力分割式無段変速機の変速比を上げるために、無段変速機構の変速比が下げられる。ところが、合成用歯車機構(遊星歯車機構)のギヤ比により、動力分割式無段変速機の変速比の変化速度は、無段変速機構の変速比の変化速度よりも低い。そのため、急加速要求に対して、動力分割式無段変速機の変速比の変化が遅く、動力分割式無段変速機から出力される動力が速やかに増大しないので、車両を良好に加速させることができない。合成用歯車機構のギヤ比を大きくすれば、動力分割式無段変速機の変速比の変化速度を上げることができるが、車両の燃費が低下する。
【0010】
本発明の目的は、動力分割モード(スプリットモード)での車両の走行時に、車両の急加速の要求に対して、車両を良好な応答性で加速させることができる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、入力軸に入力される動力を変速比の変更により無段階に変速する無段変速機構、入力軸に入力される動力を一定の変速比で変速する一定変速機構、および無段変速機構からの動力と一定変速機構からの動力とを合成するための遊星歯車機構を含む合成用歯車機構を備え、入力軸に入力される動力が無段変速機構を経由して合成用歯車機構に伝達される無段変速モードと、入力軸に入力される動力が無段変速機構および一定変速機構を経由して合成用歯車機構に伝達される動力分割モードとに切替可能に構成された動力分割式無段変速機と、ロックアップクラッチを備え、駆動源からの動力を動力分割式無段変速機の入力軸に伝達するトルクコンバータとを搭載した車両に適用される制御装置であって、動力分割モードでの車両の走行時に、車両を急加速させる要求が入力されたか否かを判断する急加速要求判断手段と、急加速要求判断手段により要求が入力されたと判断された場合に、ロックアップクラッチを解放するロックアップ解除手段とを含む。
【0012】
この構成によれば、動力分割モードでの車両の走行時に、車両を急加速させる要求が入力されると、トルクコンバータのロックアップクラッチが解放される。これにより、トルクコンバータの増幅作用が発生し、駆動源からの動力が増幅されて動力分割式無段変速機の入力軸に伝達される。その結果、動力分割式無段変速機から出力される動力(トルク)が速やかに増大するので、車両を急加速させる要求に対して良好な応答性で加速させることができる。
【0013】
また、動力分割モードでの車両の走行中、急加速の要求が入力されるまで、ロックアップクラッチが係合されることにより、トルクコンバータのトルク伝達効率を向上させることができる。ひいては、そのトルク伝達効率の向上により、車両の燃費の向上を図ることができる。
【0014】
車両の急加速の要求が入力されたか否かは、アクセル操作に基づいて判断されてもよい。
【0015】
たとえば、所定以上の操作速度での所定量以上のアクセル操作がなされた場合に、車両の急加速の要求が入力されたと判断されてもよい。言い換えれば、アクセル操作に応答して、そのアクセル操作の操作速度が所定速度以上であり、かつ、アクセル操作量が所定量以上であるか否かが判定されて、この判定が肯定された場合に、車両の急加速の要求が入力されたと判断されてもよい。
【0016】
動力分割モードでの車両の走行中であって、ロックアップクラッチの解放後に、アクセル操作量が所定量以下に低減したことに応答して、ロックアップクラッチが係合されてもよい。この処理に用いられる所定量は、車両の急加速の要求が入力されたか否かの判定に用いられる所定量と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0017】
また、動力分割モードでの車両の走行中であって、ロックアップクラッチの解放から一定時間が経過したことに応答して、ロックアップクラッチが係合されてもよい。
【0018】
これらの処理、つまりロックアップクラッチを再係合させる処理が行われることにより、ロックアップクラッチが解放されている期間を限定することができ、ロックアップクラッチの解放によるトルクコンバータのトルク伝達効率の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、動力分割モードでの車両の走行時に、車両の良好な加速性能を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用制御装置が適用される車両1の駆動系統の構成を示すスケルトン図である。
【0023】
車両1は、エンジン(E/G)2を動力源とする自動車である。車両1には、トルクコンバータ3および動力分割式無段変速機4が搭載されている。
【0024】
トルクコンバータ3は、トルコン入力軸11、トルコン出力軸12、ポンプインペラ13、タービンランナ14およびロックアップクラッチ15を備えている。トルコン入力軸11およびトルコン出力軸12は、エンジン2の出力軸16(以下「E/G出力軸16」という。)と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。トルコン入力軸11には、E/G出力軸16が連結されている。ポンプインペラ13の中心には、トルコン入力軸11が接続され、ポンプインペラ13は、トルコン入力軸11と一体的に回転可能に設けられている。タービンランナ14の中心には、トルコン出力軸12が接続され、タービンランナ14は、トルコン出力軸12と一体的に回転可能に設けられている。ロックアップクラッチ15が係合されると、ポンプインペラ13とタービンランナ14とが直結され、ロックアップクラッチ15が解放されると、ポンプインペラ13とタービンランナ14とが分離される。
【0025】
ロックアップクラッチ15が解放された状態において、E/G出力軸16からトルコン入力軸11に動力が入力されると、トルコン入力軸11およびポンプインペラ13が回転する。ポンプインペラ13が回転すると、ポンプインペラ13からタービンランナ14に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ14で受けられて、タービンランナ14が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ14には、トルコン入力軸11に入力される動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。そして、そのタービンランナ14の動力がトルコン出力軸12から出力される。
【0026】
ロックアップクラッチ15が係合された状態では、E/G出力軸16からトルコン入力軸11に動力が入力されると、トルコン入力軸11、ポンプインペラ13およびタービンランナ14が一体となって回転する。そして、タービンランナ14の回転による動力がトルコン出力軸12から出力される。
【0027】
動力分割式無段変速機4は、トルクコンバータ3から出力される動力をデファレンシャルギヤ5に伝達する。動力分割式無段変速機4は、T/M入力軸21、T/M出力軸22、無段変速機構23、一定変速機構24および合成用歯車機構25を備えている。
【0028】
T/M入力軸21には、トルコン出力軸12が連結されている。
【0029】
T/M出力軸22は、T/M入力軸21と平行に設けられている。
【0030】
無段変速機構23は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、無段変速機構23は、T/M入力軸21に連結されたプライマリ軸31と、プライマリ軸31と平行に設けられたセカンダリ軸32と、プライマリ軸31に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ33と、セカンダリ軸32に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ34と、プライマリプーリ33とセカンダリプーリ34とに巻き掛けられたベルト35とを備えている。
【0031】
一定変速機構24は、遊星歯車機構41、スプリットドライブギヤ42、スプリットドリブンギヤ43およびアイドルギヤ44を備えている。
【0032】
遊星歯車機構41には、キャリア45、サンギヤ46およびリングギヤ47が含まれる。キャリア45は、T/M入力軸21に相対回転不能に支持されている。キャリア45は、複数個のピニオンギヤ48を回転可能に支持している。複数のピニオンギヤ48は、円周上に等角度間隔で配置されている。サンギヤ46は、T/M入力軸21に相対回転可能に外嵌されて、各ピニオンギヤ48にT/M入力軸21の回転径方向の内側から噛合している。リングギヤ47は、キャリア45の周囲を取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ48にT/M入力軸21の回転径方向の外側から噛合している。
【0033】
スプリットドライブギヤ42は、サンギヤ46と一体回転可能に設けられている。
【0034】
スプリットドリブンギヤ43は、次に述べる合成用歯車機構25のキャリア51の外周に、キャリア51と一体回転可能に設けられている。
【0035】
アイドルギヤ44は、スプリットドライブギヤ42およびスプリットドリブンギヤ43と噛合している。
【0036】
合成用歯車機構25は、遊星歯車機構の構成を有している。すなわち、合成用歯車機構25は、キャリア51、サンギヤ52およびリングギヤ53を備えている。キャリア51の中心には、無段変速機構23のセカンダリ軸32が相対回転可能に挿通されている。キャリア51は、複数個のピニオンギヤ54を回転可能に支持している。複数のピニオンギヤ54は、円周上に等角度間隔で配置されている。サンギヤ52は、セカンダリ軸32に相対回転不能に支持されて、各ピニオンギヤ54にセカンダリ軸32の回転径方向の内側から噛合している。リングギヤ53は、キャリア51の周囲を取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ54にセカンダリ軸32の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ53の中心には、T/M出力軸22の一端が接続され、リングギヤ53は、T/M出力軸22と一体回転可能に設けられている。T/M出力軸22の他端部には、出力ギヤ55が相対回転不能に支持されている。
【0037】
出力ギヤ55の回転は、アイドルギヤ機構6を経由して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。アイドルギヤ機構6には、T/M出力軸22と平行に設けられたアイドル軸61と、アイドル軸61に相対回転不能に支持された第1アイドルギヤ62および第2アイドルギヤ63とが含まれる。第1アイドルギヤ62は、出力ギヤ55と噛合している。第2アイドルギヤ63は、デファレンシャルギヤ5に備えられたリングギヤ64と噛合している。
【0038】
また、動力分割式無段変速機4は、ハイブレーキHB、リバースブレーキRBおよびロークラッチLCを備えている。
【0039】
ハイブレーキHBは、リングギヤ47を制動する係合状態(オン)と、リングギヤ47の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0040】
リバースブレーキRBは、スプリットドライブギヤ42(サンギヤ46)を制動する係合状態(オン)と、スプリットドライブギヤ42の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0041】
ロークラッチLCは、T/M出力軸22とセカンダリ軸32とを直結する係合状態(オン)と、その直結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0042】
図2は、車両1の前進時および後進時におけるハイブレーキHB、リバースブレーキRBおよびロークラッチLCの状態を示す図である。
【0043】
図2において、「○」は、ハイブレーキHB、リバースブレーキRBおよびロークラッチLCが係合状態であることを示している。
【0044】
動力分割式無段変速機4は、車両1の前進時の動力伝達モードとして、ベルトモード(無段変速モード)およびスプリットモード(動力分割モード)を有している。
【0045】
ベルトモードでは、ハイブレーキHBおよびリバースブレーキRBが解放状態にされる。そして、ロークラッチLCが係合状態にされる。これにより、T/M出力軸22およびセカンダリ軸32が直結される。
【0046】
T/M入力軸21に入力される動力は、無段変速機構23のプライマリ軸31に伝達され、プライマリ軸31およびプライマリプーリ33を回転させる。プライマリプーリ33の回転は、ベルト35を介して、セカンダリプーリ34に伝達され、セカンダリプーリ34およびセカンダリ軸32を回転させる。ロークラッチLCが係合されているので、T/M出力軸22がセカンダリ軸32と一体に回転する。T/M出力軸22の回転は、出力ギヤ55、第1アイドルギヤ62、アイドル軸61および第2アイドルギヤ63を介して、デファレンシャルギヤ5のリングギヤ64に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト71,72が前進方向に回転する。
【0047】
ベルトモードからスプリットモードへの切り替えは、無段変速機構23の変速比が一定変速機構24の変速比と一致した状態で行われる。一定変速機構24の変速比は、たとえば、無段変速機構23の最小変速比と同じ変速比に設定されている。
【0048】
スプリットモードでは、ハイブレーキHBが係合状態にされ、リバースブレーキRBおよびロークラッチLCが解放状態にされる。ハイブレーキHBが係合状態にされることにより、一定変速機構24のリングギヤ47が制動される。また、ロークラッチLCが解放状態にされることにより、T/M出力軸22とセカンダリ軸32との直結が解除される。
【0049】
T/M入力軸21に入力される動力は、無段変速機構23のプライマリ軸31に伝達され、プライマリ軸31およびプライマリプーリ33を回転させる。プライマリプーリ33の回転は、ベルト35を介して、セカンダリプーリ34に伝達され、セカンダリプーリ34およびセカンダリ軸32を回転させる。セカンダリ軸32の回転により、合成用歯車機構25のサンギヤ52が回転する。
【0050】
また、一定変速機構24のリングギヤ47が制動されているので、T/M入力軸21に入力される動力は、一定変速機構24のキャリア45を公転させるとともに、そのキャリア45に保持されているピニオンギヤ48を回転させる。ピニオンギヤ48の回転により、ピニオンギヤ48からサンギヤ46に動力が入力される。これにより、ピニオンギヤ48およびスプリットドライブギヤ42が回転する。スプリットドライブギヤ42の回転は、一定変速機構24のアイドルギヤ44を介して、スプリットドリブンギヤ43に伝達され、スプリットドリブンギヤ43およびキャリア51を回転させる。
【0051】
一定変速機構24の変速比が無段変速機構23の変速比と一致した状態で、ベルトモードからスプリットモードへの切り替えが行われるので、その切り替えの直後は、合成用歯車機構25のキャリア51、サンギヤ52およびリングギヤ53が同じ速度で回転する。そして、T/M出力軸22がリングギヤ53と一体に回転する。T/M出力軸22の回転は、出力ギヤ55、第1アイドルギヤ62、アイドル軸61および第2アイドルギヤ63を介して、デファレンシャルギヤ5のリングギヤ64に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト71,72が前進方向に回転する。
【0052】
一定変速機構24の変速比が一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、T/M入力軸21に入力される動力が一定であれば、合成用歯車機構25のキャリア51の回転が一定速度に保持される。無段変速機構23の変速比が上げられて、
図3に示されるように、合成用歯車機構25のサンギヤ52の回転速度が下がると、合成用歯車機構25のリングギヤ53(T/M出力軸22)の回転速度が上がり、動力分割式無段変速機4の変速比が下がる。逆に、無段変速機構23の変速比が下げられて、サンギヤ52の回転速度が上げられると、リングギヤ53(T/M出力軸22)の回転速度が下がり、動力分割式無段変速機4の変速比が上がる。よって、動力分割式無段変速機4は、大きな変速比幅を有することができる。
【0053】
また、後進時には、ハイブレーキHBおよびロークラッチLCが解放状態にされる。そして、リバースブレーキRBが係合状態にされる。これにより、スプリットドライブギヤ42(サンギヤ46)が制動される。スプリットドライブギヤ42の制動により、一定変速機構24のアイドルギヤ44が回転不能となり、スプリットドリブンギヤ43およびキャリア51が回転不能となる。
【0054】
T/M入力軸21に入力される動力は、無段変速機構23のプライマリ軸31に伝達され、プライマリ軸31およびプライマリプーリ33を回転させる。プライマリプーリ33の回転は、ベルト35を介して、セカンダリプーリ34に伝達され、セカンダリプーリ34およびセカンダリ軸32を回転させる。セカンダリ軸32の回転により、合成用歯車機構25のサンギヤ52が回転する。キャリア51が回転不能なため、サンギヤ52が回転すると、リングギヤ53がサンギヤ52と逆方向に回転する。このリングギヤ53の回転方向は、ベルトモードおよびスプリットモードにおけるリングギヤ53の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ53と一体にT/M出力軸22が回転する。T/M出力軸22の回転は、出力ギヤ55、第1アイドルギヤ62、アイドル軸61および第2アイドルギヤ63を介して、デファレンシャルギヤ5のリングギヤ64に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト71,72が後進方向に回転する。
【0055】
図4は、車両1の電気的構成の要部を示すブロック図である。
【0056】
車両1には、複数のECU(電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、たとえば、CPUおよびメモリを含む構成であり、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。複数のECUには、駆動系統を制御するためのECU81が含まれる。
【0057】
ECU81には、エンジン回転数センサ82、タービン回転数センサ83、車速センサ84およびアクセルセンサ85が接続されている。
【0058】
エンジン回転数センサ82は、エンジン2(E/G出力軸16、トルコン入力軸11)の回転に同期したパルス信号をECU81に入力する。ECU81は、エンジン回転数センサ82から入力されるパルス信号の周波数をエンジン回転数に換算する。
【0059】
タービン回転数センサ83は、トルクコンバータ3のタービンランナ14(トルコン出力軸12)の回転に同期したパルス信号をECU81に入力する。ECU81は、タービン回転数センサ83から入力されるパルス信号の周波数をタービン回転数に換算する。
【0060】
車速センサ84は、たとえば、デファレンシャルギヤ5のリングギヤ64の回転に同期したパルス信号をECU81に入力する。ECU81は、車速センサ84から入力されるパルス信号の周波数を車速に換算する。
【0061】
アクセルセンサ85は、車室内に配設されたアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)を検出し、そのアクセル操作量に応じた信号をECU81に入力する。
【0062】
なお、エンジン回転数センサ82、タービン回転数センサ83、車速センサ84およびアクセルセンサ85は、ECU81とは別のECUに接続されていてもよい。その場合、その別のECUにより、エンジン回転数、タービン回転数、車速およびアクセル操作量が演算されて、その演算されたエンジン回転数、タービン回転数、車速およびアクセル操作量がECU81に入力されるとよい。
【0063】
ECU81には、制御対象として、トルクコンバータ3および動力分割式無段変速機4の各部に供給される油圧を制御するための複数のソレノイドバルブ86が接続されている。ソレノイドバルブ86には、たとえば、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ15の係合/解放のための油圧を制御するソレノイドバルブ、動力分割式無段変速機4のハイブレーキHB、リバースブレーキRBおよびロークラッチLCの係合/解放のための油圧をそれぞれ制御するソレノイドバルブなどが含まれる。
【0064】
ECU81は、ロックアップクラッチ15用のソレノイドバルブを制御して、エンジン回転数がタービン回転数よりも大きいときに、ロックアップクラッチ15を解放させ、エンジン回転数とタービン回転数とが一致すると、ロックアップクラッチ15を係合させる。
【0065】
また、ECU81は、ベルトモードとトルクモードとの切り替え、前進/後進の切り替えのために、ハイブレーキHB用のソレノイドバルブ、リバースブレーキRB用のソレノイドバルブおよびロークラッチLC用のソレノイドバルブを制御して、ハイブレーキHB、リバースブレーキRBおよびロークラッチLCの係合/解放を切り替える。ベルトモードとスプリットモードとの切り替えは、たとえば、エンジン回転数および車速に基づいて制御される。
【0066】
図5は、急加速処理の流れを示すフローチャートである。
【0067】
車両1の走行中、ECU81により、
図5に示される急加速処理が繰り返し実行される。
【0068】
急加速処理では、まず、動力分割式無段変速機4の動力伝達モードがスプリットモードであるか否かが判断される(ステップS1)。
【0069】
動力伝達モードがスプリットモードでない場合には(ステップS1のNO)、急加速処理が終了される。
【0070】
動力伝達モードがスプリットモードである場合には(ステップS1のYES)、次に、アクセルセンサ85により検出されるアクセル操作量の変化速度であるアクセル操作速度(アクセルペダルの踏み込み速度)が所定速度以上であるか否かが判断される(ステップS2)。
【0071】
アクセル操作速度が所定速度未満である場合(ステップS2のNO)、急加速処理が終了される。
【0072】
アクセル操作速度が所定速度以上である場合には(ステップS2のYES)、アクセル操作量が所定量以上であるか否かが判断される(ステップS3)。
【0073】
アクセル操作量が所定量未満である場合(ステップS3のNO)、急加速処理が終了される。
【0074】
アクセル操作速度が所定速度以上となり、かつ、アクセル操作量が所定量以上となるのは、運転者により車両1の急加速が要求されて、アクセルペダルが素早くかつ深く踏み込まれた場合である。したがって、アクセル操作速度が所定速度以上であり、かつ、アクセル操作量が所定量以上である場合、アクセルペダルの操作により、車両1の急加速の要求が入力されたと判断することができる。
【0075】
アクセル操作速度が所定速度以上であり、かつ、アクセル操作量が所定量以上である場合には(ステップS3のYES)、急加速の要求に応えるべく、ロックアップクラッチ15用のソレノイドバルブ86が制御されて、ロックアップクラッチ15が解放される(ステップS4)。
【0076】
スプリットモードは、ベルトモードよりも動力分割式無段変速機4の変速比が小さい動力伝達モードであり、車両1の高速走行用の動力伝達モードである。そのため、スプリットモードでの車両1の走行時には、通常、ロックアップクラッチ15が係合されている。
【0077】
ロックアップクラッチ15の解放後は、所定の係合条件が成立したか否かが繰り返し判断される(ステップS5)。係合条件は、たとえば、アクセル操作量が所定の係合閾値以下に低減したという条件であってもよいし、ロックアップクラッチ15の解放から一定時間が経過したという条件であってもよいし、それらのアンド条件であってもよい。
【0078】
係合条件が成立すると(ステップS5のYES)、ロックアップクラッチ15用のソレノイドバルブ86が制御されて、ロックアップクラッチ15が係合される(ステップS6)。その後、急加速処理が終了される。
【0079】
以上のように、スプリットモードでの車両1の走行時に、車両1を急加速させる要求が入力されると、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ15が解放される。これにより、トルクコンバータ3の増幅作用が発生し、エンジン2からの動力が増幅され、その増幅された動力が動力分割式無段変速機のT/M入力軸21に伝達される。その結果、動力分割式無段変速機4から出力される動力(トルク)が速やかに増大するので、車両1を急加速させる要求に対して良好な応答性で加速させることができる。
【0080】
また、スプリットモードでの車両1の走行中、急加速の要求が入力されるまで、ロックアップクラッチ15が係合されることにより、トルクコンバータ3のトルク伝達効率を向上させることができる。ひいては、そのトルク伝達効率の向上により、車両1の燃費の向上を図ることができる。
【0081】
さらに、ロックアップクラッチ15の解放後に所定の係合条件が成立すると、ロックアップクラッチ15が再係合される。これにより、ロックアップクラッチ15が解放されている期間を限定することができ、ロックアップクラッチ15の解放によるトルクコンバータ3のトルク伝達効率の低下を抑制することができる。
【0082】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0083】
たとえば、アクセル操作速度が所定速度以上であり、かつ、アクセル操作量が所定量以上である場合に、車両1を急加速させる要求が入力されたと判断することができるとした。しかしながら、アクセル操作速度が所定速度以上であるという条件とアクセル操作量が所定量以上であるという条件との一方が成立した場合にも、車両1を急加速させる要求が入力されたと判断することもできる。そして、それらの条件の一方が成立した場合に、ロックアップクラッチ15が解放されてもよい。
【0084】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。