特許第6440824号(P6440824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6440824真核細胞において発現されるタンパク質変異体のライブラリーの調製、及び結合性分子の選択に向けた使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6440824
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】真核細胞において発現されるタンパク質変異体のライブラリーの調製、及び結合性分子の選択に向けた使用
(51)【国際特許分類】
   C40B 40/02 20060101AFI20181210BHJP
   C40B 30/04 20060101ALI20181210BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20181210BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20181210BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20181210BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20181210BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20181210BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
   C40B40/02
   C40B30/04
   C12N15/09 100
   C12Q1/04
   !C07K16/00
   !C07K16/46
   !C12N5/10
   !C12N9/16 A
【請求項の数】40
【全頁数】132
(21)【出願番号】特願2017-508772(P2017-508772)
(86)(22)【出願日】2015年5月1日
(65)【公表番号】特表2017-518362(P2017-518362A)
(43)【公表日】2017年7月6日
(86)【国際出願番号】GB2015051287
(87)【国際公開番号】WO2015166272
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年3月29日
(31)【優先権主張番号】1407852.1
(32)【優先日】2014年5月2日
(33)【優先権主張国】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516327158
【氏名又は名称】イオンタス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】マッカファティ,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ダイソン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】パールティバン,コタイ
【審査官】 木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】 Cellular & Molecular Immunology,2011年12月19日,Vol. 9, No. 2,p. 184-190
【文献】 mAbs,2010年 9月 1日,Vol. 2, No. 5,p. 508-518
【文献】 PNAS,2007年 2月20日,Vol. 104, No. 9,p. 3055-3060
【文献】 Biotechnology and Bioengineering,2012年10月23日,Vol. 110, No. 3,p. 871-880
【文献】 Journal of Biotechnology,2012年10月17日,Vol. 162, No. 2-3,p. 191-196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C40B 40/02
C40B 30/04
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00−3/00
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的を認識する結合体の多様なレパートリーをコードするDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの産生方法であって、
前記結合体をコードするドナーDNA分子、及び真核細胞の提供であって、前記結合体が抗体、蛋白質又はペプチドである、提供と、
前記細胞への前記ドナーDNAの導入、及び前記細胞内での部位特異的なヌクレアーゼの提供であって、前記ヌクレアーゼが細胞DNAの認識配列を切断することで、前記ドナーDNAが前記細胞DNAへと組込まれる組込み部位が創出され、組込みが、前記細胞に対して内在性であるDNA修復機構を介して生じ、それによって前記細胞DNAに組込まれたドナーDNAを含む組換え細胞を創出する前記導入及び提供と、
クローン産生のための前記組換え細胞の培養と、
それによる、前記結合体のレパートリーをコードするドナーDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの提供と、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記結合体が、抗体分子、T細胞受容体であり、及び/又は、前記結合体が、少なくとも第1サブユニット及び第2サブユニットを含む多量体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体分子が、全長免疫グロブリン、IgG、Fab、scFv−Fc、またはscFvである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
標的を認識する多量体である結合体の多様なレパートリーをコードするDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの産生方法であって、それぞれの結合体が、第1サブユニット及び第2サブユニットを含み、前記方法が、
前記第1サブユニットをコードするDNAを含む真核細胞の提供、及び前記第2結合体サブユニットをコードするドナーDNA分子の提供であって、前記結合体が抗体、蛋白質又はペプチドである、提供と、
前記細胞への前記ドナーDNAの導入、及び前記細胞内での部位特異的ヌクレアーゼの提供であって、前記ヌクレアーゼが細胞DNAの認識配列を切断することで、前記ドナーDNAが前記細胞DNAへと組込まれる組込み部位が創出され、組込みが、前記細胞に対して内在性であるDNA修復機構を介して生じ、それによって、前記細胞DNAに組込まれたドナーDNAを含む組換え細胞を創出する前記導入及び提供と、
前記多量体である結合体の前記第1サブユニット及び前記第2サブユニットをコードするDNAを含むクローンを産生するための前記組換え細胞の培養と、
それによる、前記多量体である結合体のレパートリーをコードするドナーDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの提供と、
を含む前記方法。
【請求項5】
標的を認識する多量体である結合体の多様なレパートリーをコードするDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの産生方法であって、それぞれの結合体が、少なくとも第1サブユニット及び第2サブユニットを含み、前記結合体が抗体、蛋白質又はペプチドであり、前記方法が、
前記第1サブユニットをコードする第1ドナーDNA分子の提供、及び真核細胞の提供と、
前記細胞への前記第1ドナーDNAの導入、及び前記細胞内での部位特異的ヌクレアーゼの提供であって、前記ヌクレアーゼが細胞DNAの認識配列を切断することで、前記ドナーDNAが前記細胞DNAへと組込まれる組込み部位が創出され、組込みが、前記細胞に対して内在性であるDNA修復機構を介して生じ、それによって、前記細胞DNAに組込まれた第1ドナーDNAを含む、第1セットの組換え細胞を創出する前記導入及び提供と、
前記第1サブユニットをコードするDNAを含む、第1セットのクローンを産生するための前記第1セットの組換え細胞の培養と、
前記第1セットのクローンの細胞への、前記第2サブユニットをコードする第2ドナーDNA分子を導入であって、前記第1セットのクローンの細胞DNAへと前記第2ドナーDNAを組込み、それによって、前記細胞DNAへと組込まれた第1ドナーDNA及び第2ドナーDNAを含む、第2セットの組換え細胞を創出する前記導入と、
第2セットのクローンを産生するための、第2セットの組換え細胞の培養であって、こうしたクローンが、前記多量体である結合体の前記第1サブユニット及び前記第2サブユニットをコードするDNAを含む前記培養と、
それによる、前記多量体である結合体のレパートリーをコードするドナーDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの提供と、
を含む前記方法。
【請求項6】
前記細胞内での部位特異的ヌクレアーゼの提供であって、前記ヌクレアーゼが細胞DNAの認識配列を切断することで、前記ドナーDNAが前記細胞DNAへと組込まれる組込み部位が創出され、組込みが、前記細胞に対して内在性であるDNA修復機構を介して生じる前記提供を含む方法によって、前記第2ドナーDNA分子が組込まれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記多量体である結合体が、別々のサブユニットとして、重鎖可変(VH)ドメインと、軽鎖可変(VL)ドメインと、を含む抗体分子である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記多量体である結合体が、全免疫グロブリンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が、2×10塩基対を超えるサイズのゲノムを有する高等真核細胞である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、哺乳類のものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、HEK293細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、Tリンパ球系譜細胞もしくはBリンパ球系譜細胞、または「Cancer Cell Line Encyclopedia」もしくは「COSMIC catalogue of somatic mutations in cancer」に記載の細胞株のいずれかである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記認識配列が、前記細胞のゲノムDNAに存在する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記部位特異的ヌクレアーゼに向けた前記認識配列が、前記細胞DNAにおいて1回または2回のみ生じる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記部位特異的ヌクレアーゼが、細胞DNAを切断し、組込み部位として働く二本鎖切断を創出する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ヌクレアーゼが、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、もしくはTALEヌクレアーゼであり、またはDNA切断が、CRISPR/Casシステムによって指示される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ドナーDNAが、前記ドナーDNAが組込まれた細胞の選択に向けた遺伝子要素を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞DNAへの前記ドナーDNAの組込みが、前記細胞DNA内に存在するプロモーター制御下での、前記結合体の発現及び/または遺伝子選択要素の発現を引き起こす、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ライブラリーが、少なくとも、100、10、10、10、または10個のクローンを含み、それぞれのクローンが、ドナーDNAの組込みによって産生した個々の組換え細胞から得られる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ライブラリーが、少なくとも100、10、10、10、または10個の異なる結合体をコードする、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
それぞれのクローンが、前記結合体レパートリーの1つまたは2つのメンバーのみをコードする組込みドナーDNAを含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記真核細胞が、二倍体であり、前記細胞DNAにおける二重の固定遺伝子座に、前記部位特異的ヌクレアーゼに向けた認識配列を含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
それぞれのクローンが、前記結合体レパートリーの単一メンバーをコードする組込みドナーDNAを含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ドナーDNA分子のそれぞれが、単一の結合体または結合体サブユニットをコードする、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記結合体が、前記細胞表面にディスプレイされる、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記結合体が、前記細胞から分泌される、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ドナーDNAが、ラウンドのファージディスプレイによる選択に由来する、請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記結合体を発現させるための、前記ライブラリーの培養と、
関心結合体を発現する1つまたは複数のクローンの回収と、
前記1つまたは複数の回収クローンからの派生ライブラリーの生成であって、前記派生ライブラリーが、第2の結合体レパートリーをコードするDNAを含む前記生成と、
をさらに含む、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記派生ライブラリーの生成が、前記1つまたは複数の回収クローンからのドナーDNAの単離と、第2の結合体レパートリーをコードするドナーDNA分子の派生集団を提供するための、前記DNAへの変異導入と、前記第2の結合体レパートリーをコードするDNAを含む細胞の派生ライブラリーを創出するための、細胞へのドナーDNA分子の前記派生集団の導入と、を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記派生ライブラリーの生成が、前記クローン内の前記DNAの変異導入による、前記1つまたは複数の回収クローンの前記ドナーDNAへの変異導入を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
結合体の多様なレパートリーの産生方法であって、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法によるライブラリー産生と、前記結合体を発現させるための、前記ライブラリー細胞の培養と、を含む前記産生方法。
【請求項31】
標的を認識する結合体の選別方法であって、
請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法によるライブラリーの産生と、
前記結合体を発現させるための、前記ライブラリーの細胞の培養と、
前記標的に対する前記結合体の曝露であって、存在するのであれば、1つまたは複数の同種結合体による前記標的の認識が可能になる前記曝露と、
前記標的が同種結合体によって認識されたかどうかの検出と、
を含む、前記選別方法。
【請求項32】
前記結合体が、抗体分子であり、前記標的が、抗原である、または
前記結合体が、TCRであり、前記標的が、MHC:ペプチド複合体である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
同種結合体による標的認識の検出と、前記同種結合体をコードするDNAを含むクローン細胞の回収と、をさらに含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記回収クローンからの、前記結合体をコードするDNAの単離と、それによる前記標的を認識する結合体をコードするDNAの取得と、をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
変異導入または前記DNAの、再構造化された結合体をコードする修飾DNAへの変換を含む、請求項33または請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記結合体が、scFvであり、前記方法が、前記scFvをコードするDNAの、Igまたはその断片をコードするDNAへの変換であって、可変VH鎖及び可変VL鎖の元のペアが維持される前記変換を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
宿主細胞への、前記DNAの導入をさらに含、請求項34〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞の培養と、細胞ペレットまたは濃縮細胞懸濁液の提供のための、前記細胞の濃縮と、をさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記結合体の発現のための前記細胞の培養と、前記結合体の精製と、をさらに含む、請求項33または37に記載の方法。
【請求項40】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法による、結合体のレパートリーをコードするDNAを含む真核細胞のライブラリー構築における、細胞DNAの標的切断に向けた部位特異的ヌクレアーゼの使用であって、ヌクレアーゼ媒介性DNA切断が、内在性の細胞DNA修復機構を介する結合体遺伝子の部位特異的組込みを増進する前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体などの結合性分子の選別及び/または選択にむけた、真核(例えば、哺乳類)細胞ライブラリーの産生方法に関する。ライブラリーを使用することで、結合体の多様なレパートリーを含有及びディスプレイすることができ、標的分子に向けた特異性などの所望の特性を有する1つまたは複数の結合体を選択するための、結合体の選別が可能になる。本発明は、特に、所望の数のドナーDNA分子が、細胞における1つまたは複数の所望の遺伝子座に正確に組込まれた細胞ライブラリーを提供するための、結合体をコードするドナーDNAの、真核細胞への導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質工学の手法によって、関連分子(例えば、抗体、タンパク質、ペプチド)の広く多様な集団の創出が可能であり、そこから結合特性または触媒特性が新規であるか、または改善した個々の変異体を単離することができる。それぞれの細胞が、個々の抗体、ペプチド、または操作されたタンパク質を発現する真核細胞、具体的には、哺乳類細胞の大集団を構築する能力があれば、所望の特性を有した結合体の同定において有する価値は大きいであろう。
【0003】
ディスプレイ技術の基礎原理は、結合性分子の、その分子をコードする遺伝子情報への結びつきに依存するものである。結合性分子の結合特性を使用して、結合性分子をコードする遺伝子を単離する。根底に存在するこの同一原理は、すべての形態のディスプレイ技術に適用されており、当該ディスプレイ技術には、バクテリオファージディスプレイ、細菌ディスプレイ、レトロウイルスディスプレイ、バキュロウイルスディスプレイ、リボソームディスプレイ、酵母ディスプレイ、及び哺乳類細胞などの高等真核生物上でのディスプレイが含まれる[1、2、3、4]。
【0004】
ディスプレイ技術は、糸状バクテリオファージ上での抗体ディスプレイ(抗体ファージディスプレイ)によって例示されており、過去24年間にわたって、ヒト治療抗体の生成を含む、新規結合性分子の発見及び操作に向けた重要なツールを提供してきた。ファージディスプレイを使用し、抗体または抗体断片をコードする遺伝子をインフレームに、ファージ被覆タンパク質をコードする遺伝子と共にクローン化することによって、抗体分子が糸状バクテリオファージの粒子表面に提示される。抗体遺伝子は、最初は、E.coliへとクローン化され、その結果、それぞれの細菌が単一抗体をコードする。標準法を使用して、細菌からバクテリオファージを生成させると、その表面に抗体断片をディスプレイするバクテリオファージ粒子を生成すると共に、コードしている抗体遺伝子がバクテリオファージ内に被包化される。細菌またはそれに由来するバクテリオファージの集合体(collection)は、「抗体ライブラリー」と称される。抗体ファージディスプレイを使用して、抗体を提示するバクテリオファージを標的関心分子に対して曝露することによって、集団内の抗体及びその関連遺伝子を濃縮することができる。
【0005】
関心標的を認識する結合体をディスプレイするバクテリオファージの回収を可能にするために、標的分子は、選択用容器表面に固定化されているか、または二次試薬によって溶液から回収可能である必要があり、例えば、ビオチン化標的タンパク質の場合は、ストレプトアビジン被覆ビーズを使用して溶液から回収される。結合体をディスプレイするバクテリオファージのライブラリーは、標的分子と共にインキュベートされ、その後、未結合のファージは除去される。未結合のバクテリオファージを除去するために、これには、標的(及び関連バクテリオファージ)が結合しているマトリックスの洗浄を伴う。結合したバクテリオファージは、その関連抗体遺伝子を有しており、回収及び/または宿主細菌細胞へと感染させることができる。上に概要を記載した手法を使用することで、選択標的分子に結合可能なバクテリオファージクローンのサブセットを濃縮することが可能になる。ファージディスプレイライブラリーは、抗体多様性の豊富な供給源を提供することが示されており、単一標的に対して何百もの特有の抗体を提供するものである[5、6、7]。
【0006】
歴史的に、新規の抗体結合特異性の単離に向けたディスプレイシステムは、原核生物システム、具体的には、単鎖Fv(scFv)のディスプレイに基づいてきており、バクテリオファージ上でのFabとしてのディスプレイの程度は少ない。細菌表面での結合体のディスプレイについては、説明されてはいるが、広くは使用されておらず、応用は、ペプチドのディスプレイ、または免疫化を介して結合体に向けて事前濃縮された抗体断片のディスプレイ、に大部分が制限されている[8]。ファージディスプレイを含む、原核生物のディスプレイシステムは、能力を有しているにもかかわらず、制限が存在する。ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイによる選択の後に、細菌への選択遺伝子集団の導入、細菌集団の播種、コロニーの選定、上清またはペリプラズムへの結合性分子の発現、及び酵素結合免疫吸着測定法または蛍光結合免疫吸着測定法(ELISA)などの結合アッセイにおける陽性クローンの同定によって、個々の結合性分子をコードするが同定される。結合性分子は同定されるものの、この手法は、結果として得られるクローンの発現の程度及び結合親和性に関する情報を分離して与えるものではない。従って、何千もの結合体を生成させることは潜在的に可能ではあるものの、相対的な発現レベル及び親和性に関する一次情報が限定されることに加え、アウトプットを選別する能力は、コロニー選定、液体操作等が必要となることで限定されるものである。
【0007】
真核細胞表面での結合性分子のディスプレイは、こうした問題のいくつかを克服する可能性を有している。フローサイトメトリーと併せることで、真核生物ディスプレイは、迅速かつハイスループットな選択を可能にするものである。その表面に異なる結合性分子を発現する数百万もの細胞クローンを調べることが可能となる。細胞表面ディスプレイは、scFvとして編成された抗体断片の、酵母細胞表面でのディスプレイで最もよく例示されてきた。酵母表面ディスプレイに向けて一般に使用される様式は、酵母凝集素タンパク質(Aga1p及びAga2p)を利用するものである。Chaoら[9]によって説明されるように、scFvのレパートリーをコードする遺伝子は、酵母凝集素タンパク質Aga2pのサブユニットと遺伝子学的に融合している。そして、Aga2pサブユニットは、細胞壁に存在するAga1pサブユニットに、ジスルフィド結合を介して結合する。標的特異的結合性分子を発現する酵母細胞は、直接的または間接的に標識された標的分子を使用して、フローサイトメトリーによって同定することができる。例えば、細胞に対してビオチン化標的を添加でき、ストレプトアビジン−フィコエリトリンで細胞表面に対する結合を検出することができる。標的濃度を限定して使用することで、親和性が上昇した結合性分子を発現するクローンを集団内で区別することが可能になり、これは、こうしたクローンが、より多くの標的分子を捕捉し、それによって、より明るい蛍光を示すことになるためである。典型的には、それぞれの酵母細胞は、細胞表面に、単一scFvの10,000〜100,000個のコピーをディスプレイすることになる。異なる細胞において、scFvの表面発現の多様性を制御するために、Chaoらは、蛍光標識された抗タグ抗体を使用して、それぞれの細胞表面の抗体発現レベルを測定することで、発現レベルの多様性を標準化することを可能にした。したがって、この手法は、親和性が低下した抗体を高レベルで発現する細胞から、高親和性結合性分子をディスプレイしている酵母細胞を区別することを可能にするものである。したがって、蛍光標識細胞分取(FACS)を使用することで、コードされる結合性分子の親和性及び/または発現レベルによる細胞クローンの分離が可能である。
【0008】
原核生物システムと比較して、真核生物システムは、複数鎖の抗体断片のディスプレイに、より有効であることも証明されており、具体的には、完全IgG、FAb、またはscFvとFcドメインとの融合体(scFv−Fc融合体)などの、より大きな断片に関して有効である。上記のような、酵母細胞に向けた、ビーズに基づく方法または流動選別に基づく方法を使用して、哺乳類細胞などの高等真核生物に基づくディスプレイライブラリーから抗体を選択することもできる。哺乳類細胞において、ディスプレイライブラリーの編成し、IgG、Fab、またはscFv−Fc融合体として直接的に選択する能力があれば、酵母ディスプレイに勝るさらなる有意性があるであろう。細菌細胞及び酵母細胞のグリコシル化、発現、及び分泌の機構は、高等真核生物とは異なっており、これによって、哺乳類細胞において産生するものと比較した際に、異なる翻訳後修飾を有した抗体が生じる。研究、診断、及び治療の用途に向けた抗体の製造は、典型的には、哺乳類細胞において実施されるため、哺乳類細胞(または無脊椎動物、トリ、もしくは植物の細胞株などの他の高等真核細胞)上でのディスプレイは、例えば、最適な発現特性を有するクローンの同定といった、製造の下流で生じる潜在的な問題または優位性を、より良く示すことができるものである。さらに、高等真核生物、及び具体的には哺乳類細胞上でのディスプレイの関連内で発見される抗体であれば、広範な精製をすること無く、細菌及び酵母の細胞に由来する混入物の複雑な影響無しに、細胞に基づくレポーターアッセイに直接適用することができる。さらに、結合体ライブラリーを哺乳類細胞などの真核生物レポーター細胞において直接的に発現して、細胞表現型に直接的に影響を与えるクローンを同定することができる。
【0009】
真核生物ディスプレイライブラリーによって約束される上記の優位性が存在するにもかかわらず、真核細胞、特に高等真核細胞における結合体ライブラリーの創出には、依然としてかなりの問題が存在する。高等真核生物における発現に向けた、外来性遺伝子(「導入遺伝子」)のレパートリーの導入は、酵母及び細菌におけるものと比較して、難易度が高い。高等真核生物の細胞は、取り扱い及びスケールアップの難易度が高く、形質転換効率が低いものである。達成される典型的なライブラリーサイズは、はるかに小さい。さらに、導入されたDNAは、ゲノム内に無作為に組込まれ、斑入り位置効果を引き起こす。さらに、標準的な遺伝子導入法または電気穿孔法によって哺乳類細胞へと導入されたドナーDNAは、遺伝子導入された導入遺伝子のコピー数が可変である直鎖アレイとして組込まれる。したがって、抗体遺伝子のレパートリーをコードするDNAを導入すると、複数の抗体遺伝子がそれぞれの細胞へと導入され、その結果、1つの細胞が複数の異なる抗体を発現する可能性がある。さらに、複数の抗体遺伝子が存在すれば、任意の所与の抗体の相対的な発現量を減少させることになると共に、多くのパッセンジャー抗体遺伝子の単離につながり、特定クローンの濃縮率が低下することになる。
【0010】
高等真核生物表面での結合体ライブラリーのディスプレイは、より挑戦的ではあるが、これまでに説明された例がいくつかある。初期の論文では、ヒト免疫化から得られたIgGの哺乳類ディスプレイを使用しており、抗原特異的な細胞の450倍濃縮を達成するために、選択(一過性の遺伝子導入、細胞選別、DNA回収、及び再遺伝子導入を伴う)を3ラウンド実施する必要であり、これは、1ラウンド当たり、平均7.6倍の濃縮にあたるものであった[10]。同様に、エピソーム的に複製するベクター内で発現された免疫化ライブラリーからの一過性発現が、scFv[11、12]またはIgG[13]として編成された抗体に関して説明された。
【0011】
単一または限定数の抗体遺伝子をそれぞれの細胞へと導入するために、数多くの手法が説明されてきた。これには、DNAの希釈または担体DNAとの混合[13]が含まれるが、これは、導入遺伝子のコピー数を相対的に制御しない管理方法であり、DNAインプットの減少が、ライブラリーサイズに対して不利な影響を与えることになる。1つの細胞に複数の抗体遺伝子が導入されることを制御するための別の解決策が、ウイルスベクターによる抗体遺伝子の導入によって提供された。この方法で、免疫化によって生成した数百ものヒトBリンパ球から細胞表面ディスプレイライブラリーが生成され、抗原特異的B細胞の流動選別によってさらに濃縮された[14]。この濃縮プールに由来する抗体遺伝子は、scFvとして編成されたものであり、シンドビスアルファウイルス発現システムへとクローン化され、低い感染多重度を使用して、BHK細胞へと導入された。
【0012】
Breous−Nystromら[15]は、連続的なレトロウイルス感染を使用して、マウスのプレB細胞株(1624−5)へ、91Vカッパ抗体遺伝子のレパートリーを限定して導入した後、6人の健康なドナーに由来する重鎖遺伝子レパートリーを導入した。感染性レトロウイルスは、モロニーマウス白血病ウイルス(Stratagene)に基づくV−Packシステムを使用して生成された。単一コピーの挿入に偏らせるために、細胞の約5%に感染を引き起こす感染多重度が選択された。こうした手法の主要な不利益は、ゲノム内での組込みが無作為であるため、転写レベルが組込み部位の転写活性に基づき、変動が生じる可能性に繋がることである。こうした場合のすべてに生じる別の不利益は、抗体遺伝子の組込みが、感染または遺伝子導入を限定することによって制御されており、これは、ライブラリーサイズに影響を与えるということである。
【0013】
リコンビナーゼによって指示される導入遺伝子の部位特異的組込みについて、これまでに説明されている。リコンビナーゼは、酵素特異的認識配列を含むDNA分子間の交換反応を触媒する酵素である。例えば、Creリコンビナーゼ(E.coliの部位特異的組換えシステムから得られた)またはFlpリコンビナーゼ(Saccharomyces cerevisiaeの組換えシステムを利用している)は、その特異的な、34bpのloxP認識部位及び34bpのFlp組換え標的(Flp Recombination Target)(FRT)部位に対して、それぞれ働く[16]。リコンビナーゼは、部位特異的組込みを触媒するために、細胞工学において主に使用されてきた。Chen Zhouの仕事による数多くの研究[17、18、US7,884,054]によって、「Flp−In」システム(http://tools.lifetechnologies.com/content/sfs/manuals/flpinsystem_man.pdf)内のFlpリコンビナーゼを使用した、哺乳類細胞ゲノムへの、リコンビナーゼ媒介性である、抗体遺伝子の部位特異的組込みに対する説明がなされた。Flp−Inシステムは、多様な細胞株を利用し、当該細胞株は、そのゲノム内に予め導入された単一のFRT部位を有するものである。酵素であるFlpリコンビナーゼを発現することによって、標的細胞に存在するこの事前組込みFRT部位への、発現プラスミドの組込みを指示することが可能であり、当該発現プラスミドには、FRT組換え部位が組込まれている。
【0014】
Flp−lnシステムを使用して、Zhouら[17]は、FRT部位が組込まれたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(CHOF細胞)へ、FRT部位を含む、新規の抗体発現プラスミドを導入した。その研究では、ディプレイライブラリーの構築について説明されており、存在する抗OX40リガンド抗体内の4残基が変異誘発されたものである。ライブラリーは、FACSを使用して選別され、細胞表面で抗リガンド親和性を有する抗体が同定された。改善抗体の産生における全体的な成功は、単一の改善抗体の単離に限られたものであった。達成した特有哺乳類細胞クローンの数は、報告されなかった。
【0015】
2012年のLiらによる後続の論文[18]では、B型肝炎患者に由来するリンパ球を利用し、抗体ディスプレイライブラリーが構築された。HBsAgで免疫化されたドナーから得られた重鎖遺伝子及び軽鎖遺伝子を有する別々のライブラリーが産生され、ライブラリーのサイズは、それぞれ1.02x10及び1.78x10であったと個々に報告された。その後、重鎖及び軽鎖の両方を含む二次ライブラリーが産生され、報告によれば、4.32x10のサイズを有していた。報告によれば、FACS分析によって、細胞の約40%が細胞表面に検出可能な全長抗体をディスプレイしたことが示された。ライブラリーのFACS選別によって、HBsAgに結合する抗体が同定された。抗原に結合した、ライブラリーから選択された8つのメンバーの試料の内の6つが、同一抗体を有することが明らかとなったため、同定された特有な抗HBsAgクローンは、全部で3つであった。
【0016】
この研究の成功が、幾分か限定されたことは、Flp−Inシステムが、大きなライブラリーの構築というよりは、むしろクローン数を限定した正確な組込みに向けて設計されたという事実に起因し得るものである。したがって、組込み忠実度の達成と、最大ライブラリーサイズの達成と、の間に潜在的な相反が存在する。Flp−Inシステムは、プラスミドpOG44における変異体Flpリコンビナーゼを利用しており、当該リコンビナーゼは、天然Flpリコンビナーゼの37℃での活性の僅か10%しか有さないものである[19]。野生型と比較して、熱安定性が向上すると共に活性が上昇したFlpリコンビナーゼの変異体(Flpe)が同定された[19、20]。これは、コドンの最適化によってさらに改善し、プラスミドcCAGGS−Flp内にコードされたFlpが創出された(Genebridges カタログ番号A203)。しかしながら、Flp−Inマニュアルによると、
「Flp−In(商標)発現細胞株を産生する際は、相対的に稀な組換え事象を選択していることを銘記することが重要あり、これは、ご自身のpcDNA(商標)5/FRT構築物の組換え及び組込みが、FRT部位のみを介して、限られた時間で生じることを意図されているためです。この場合、高度に非効率的なFlpリコンビナーゼを使用することが有利であり、これにより、他の望ましくない組換え事象の発生を低減することができます。。。
。。。単一の組込み体を得る可能性を上げるために、ご自身が遺伝子導入するプラスミドDNAの量を限定することによって、遺伝子導入効率を低下させることが必要となります」
これは、Buchholzら1996[19]によって、繰り返し述べられている。
「FLPは、効率に依存せず、厳格な制御に依存する用途向けに、特に有用であり得る」
【0017】
モデル実験において、「マニュアルに記載の説明」を使用し、Zhouら(2010)[17]は、クローンの>90%において、単一コピーの挿入が生じたことを実際に示した。しかしながら、ライブラリー構築では、相対的に高い量の発現プラスミド(10個細胞当たり2.5〜3.2μg)と、pOG44リコンビナーゼをコードするプラスミドを超える過剰量のドナーと、が使用された[17、18]。Flp−Inシステムは、リコンビナーゼをコードするプラスミドと、発現プラスミドと、の比を少なくとも9:1にして使用することが有利であると推奨している。しかしながら、より多くの量のDNAを遺伝子導入することによって、ライブラリーのサイズを増加させようとすると、新規プラスミドの無作為組換えが生じる可能性がある[21]。すべての研究において、「ライブラリー構築」条件下での、組込みの正確性及び細胞当たりの組込み体の数に関する報告は無かった。
【0018】
ヌクレアーゼ指向型の遺伝子組込みでは、部位特異的ヌクレアーゼは、特定位置で細胞DNAを切断するために使用される。これは、相同組換えの速度を少なくとも40,000倍増進し、非相同末端結合機構による修復も可能にすることがこれまでに報告された。この部位特異的組込みの増進が、結合体ライブラリーの創出に関連した問題の解決に、使用またはそれが企図されたことは、これまで無かった。
【0019】
US20100212035では、ドナーDNAの組込みを指示するために、メガヌクレアーゼを使用して、哺乳類胚の免疫グロブリンの遺伝子座を標的とすることによって、外来性抗体の発現を可能にするげっ歯類を生成する方法について説明されている。新しいDNA切断特異性を創出するための、メガヌクレアーゼの変異体ライブラリーの創出の可能性については説明されたが、メガヌクレアーゼの、結合体ライブラリーの生成に対する使用は、企図されていない。
【0020】
WO2013/190032A1では、リコンビナーゼ媒介性の部位特異的遺伝子導入に向けたloxP部位及びFRT部位などのリコンビナーゼ部位を組込むための、外来性DNAで事前修飾された特定遺伝子座(Fer1L4)への遺伝子組込み(「部位特異的組込み」SSI宿主細胞)について説明されている。ヌクレアーゼ指向型のライブラリー生成については、説明されていない。
【0021】
WO2012/167192A2では、遺伝子座に対する遺伝子の標的化について説明されており、当該遺伝子は、増幅で後に選択することができる。ヌクレアーゼ指向型の方法は、遺伝子座を標的とするために用いられている。ヌクレアーゼ指向型のライブラリー生成については、説明されていない。
【0022】
US2009/0263900A1では、ホモロジーアームを含むDNA分子、及び相同組換えの方法におけるその使用について説明されている。ヌクレアーゼ指向型のライブラリー生成については、説明されていない。
【0023】
WO2011/100058では、ゲノムへの核酸の組込み方法について説明されており、当該組み込みは、長いホモロジーアームを必要とせず、代わりに、ゲノム及びドナー上のマイクロホモロジーまたは「粘着末端(sticky−end)」に依存して、直接的な組込みに役立てるものである。ヌクレアーゼ指向型のライブラリー生成については、説明されていない。
【0024】
WO20122/090804では、連続ラウンドにおいて、異なるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を使用する、複数遺伝子または同一遺伝子の複数のコピーの組込み方法について説明されている。ヌクレアーゼ指向型のライブラリー生成については、説明されていない。
【0025】
WO2014/039872では、部位指向型ヌクレアーゼを使用して、ドナーDNAが相同組換えまたは非相同末端結合によって組込まれる「ランディング部位(landing site)」が組込まれた植物細胞の操作方法について説明されている。細菌人工染色体(BAC)ライブラリーが、ドナーDNAの初期クローン化に使用されている。ライブラリーについては、Illumina配列決定方法に関連して言及されている。ヌクレアーゼ指向型のライブラリー生成については、説明されていない。
【0026】
WO2007/047859A2では、メガヌクレアーゼ特異性の操作方法、及びゲノム遺伝子座を標的とするためのその使用について説明されている。新規のヌクレアーゼ特異性を有したメガヌクレアーゼを含み得る変異体メガヌクレアーゼライブラリーについて説明されている。ヌクレアーゼ指向型のライブラリー生成については、説明されていない。
【0027】
US2014/0113375A1では、標的ゲノム配列に対して相同性を有する一本鎖DNA配列の生成に向けた一過性発現システムについて説明されており、当該一本鎖DNAは、核に運ばれ、DNA修復経路または相同組換えを介して標的ゲノム配列の遺伝子情報を変えることができるものである。変異の「ライブラリー」が、導入された(非ライブラリー)DNAの、忠実性が低い逆転写によって産生できることが示唆されている。哺乳類ディスプレイ及び結合活性を有する分子の選択については、説明されていない。
【0028】
US2012/0277120では、複数の外来性である核酸の同時組込みに向けた方法及び組成物について説明されており、当該組み込みは、酵母における天然の相同組換え機構を使用した単一の形質転換反応におけるものであり、当該組換えは、宿主細胞のゲノムにおいて、意図する組込み部位に標的二本鎖切断を含めることによって、さらに増進し得るものである。方法では、例えば、酵母などの産業的微生物における機能性代謝経路の構築といった、複数のDNA集合の組み込みに、複数ラウンドが必要となることを打開することが意図されている。結合性分子ライブラリーのディスプレイまたは発現、高等真核生物の使用、及び結合活性を有する分子の選択については、説明されていない。
【0029】
哺乳類細胞及び他の高等真核生物上での抗体ディスプレイの可能性を完全に実現するために、大きなライブラリーの構築を可能にする効率と、前定義部位への正確な組込みと、を兼ね備える大きなライブラリーを創出するシステムが必要である。
【発明の概要】
【0030】
我々は、結合体をコードする遺伝子集団の、ヌクレアーゼ指向型組込みを使用することによって、細胞当たり1つまたは2つの結合体遺伝子を包含する大きな結合体ライブラリーを創出するという問題を克服した。したがって、本発明は、真核細胞集団の調製を可能にし、結合体をコードするレパートリーがゲノムにおける固定遺伝子座へと組込まれることで、コードされる結合性分子の発現を可能にし、それによって、異なる結合体を発現する細胞集団を創出する。
【0031】
本発明は、結合性分子(「結合体(binder)」)のレパートリーをコードする真核細胞ライブラリーの産生方法に関し、当該方法は、細胞DNAの標的切断に向けて部位特異的ヌクレアーゼを使用することで、内在性の細胞修復機構を介した、結合体遺伝子の部位特異的組込みを増進する。部位特異的ヌクレアーゼによって、真核生物ゲノムまたは他の真核細胞DNA内の1つまたは複数の定義遺伝子座への、結合体分子をコードするドナーDNAの正確な導入が可能になる。本発明は、結合体をコードする遺伝子のレパートリーが、細胞DNAの所望の遺伝子座(例えば、ゲノム遺伝子座)へと組込まれた真核細胞集団の調製方法を提供し、これにより、コードされる結合性分子の発現が可能になり、それによって、異なる結合体を発現する細胞集団が創出される。
【0032】
本発明による、真核細胞内での結合体のライブラリー構築は、発現構築物の部位指向型組込みに向けたリコンビナーゼ指向型の手法に勝る優位性を有する。本発明は、部位特異的ヌクレアーゼによる細胞DNAの切断を使用して、真核細胞細胞、及び具体的には高等真核生物における結合遺伝子の大きなレパートリーの構築に関して、これまで存在していた問題を解決するものである。本発明によって、細胞DNAにおける固定遺伝子座に組込まれた個々の結合体をそれぞれが発現する細胞クローンの大集団を効率的に創出することが可能である。細胞クローンのこうしたライブラリーから、新規の結合体または機能修飾タンパク質及び機能修飾ペプチドをコードする遺伝子を単離することが可能となる。
【0033】
本発明の手法は、リコンビナーゼ指向型のDNA交換ではなく、細胞(例えば、ゲノム)DNAの部位特異的切断を利用し、その後に天然の修復機構を使用して、結合体をコードするドナーDNAを組込むものである。部位特異的ヌクレアーゼによって認識される配列(「認識配列」)での細胞DNAの切断の後に、細胞DNAの切断は、相同組換えまた非相同末端結合(NHEJ)などの機構を使用して修復される。細胞DNAの部位特異的切断の創出が、外来性ドナーDNAの組込みを増進することで、固定遺伝子座に組込まれた結合体遺伝子を有した細胞の大集団の構築を可能にする。
【0034】
今日まで、メガヌクレアーゼ、ZFN、TALEヌクレアーゼ、及びCRISPR/Casシステムなどの部位特異的ヌクレアーゼは、内在性遺伝子に対する修飾、または細胞機能の研究向けのレポーター遺伝子の導入に向けた修飾、を有する細胞の効率的な創出を対象にしてきた。ヌクレアーゼ指向型のゲノム標的化が、抗体生産(培養培地からの精製による)に向けて、単一の分泌抗体をコードする遺伝子を組込むために使用されたという実例も存在する[21、22、]。
【0035】
本発明は、単一または限定数の定義遺伝子座に対する組込みを指示しながら、大きなライブラリーの構築を単純化する。1つまたは複数の固定遺伝子座でのドナーDNAの組込みは、導入遺伝子数が可変である無作為組込みと比較して、転写を正常化し、結合体自体の転写特性及び安定特性に基づく抗体クローンの選択を可能にする。細胞DNAの1つの所定位置または複数の所定位置でのドナーDNAの忠実な組込みは、ライブラリーにおける相対的に均一なレベルの結合体転写と、高効率なドナーDNAの導入と、をもたらし、本発明の方法によって創出される細胞集団を、結合体のディスプレイ及び選択に向けたライブラリーとして、特に有用なものとする。したがって、本発明の方法は、真核細胞における結合体の高品質ライブラリーを提供し、当該ライブラリーを選別することで、関心標的に特異的な結合体をコード及び発現する細胞を同定することができる。
【0036】
様々な態様では、本発明は、結合性分子の発現及び選別、ならびに結合性分子の効果の選別などに向けた、真核細胞ライブラリーの調製、ライブラリー自体、ライブラリーからの所望の結合体の単離、所望のコード核酸の単離、及び所望の細胞の単離、ならびにライブラリーの使用、の新規かつ改善された方法に関する。試験管内でのライブラリーの産生、及び試験管内または生体内でのライブラリーの使用に向けて、様々な方法が説明されることになる。
【0037】
本発明は、多様な結合体レパートリーをコードするDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの産生方法を提供し、当該方法は、真核細胞DNAの切断を標的とする部位特異的ヌクレアーゼを使用することで、内在性の細胞DNA修復機構を介した、細胞DNAへの結合体遺伝子の部位特異的組込みを増進する。
【0038】
多様な結合体レパートリーをコードするDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの産生方法は、
結合体をコードするドナーDNA分子、及び真核細胞の提供と、
細胞へのドナーDNAの導入、及び細胞内での部位特異的なヌクレアーゼの提供であって、ヌクレアーゼが細胞DNAを切断することで、ドナーDNAが細胞DNAへと組込まれる組込み部位が創出され、組込みが、細胞に対して内在性であるDNA修復機構を介して生じる当該導入及び提供と、
を含んでよい。
【0039】
少なくとも第1及サブユニット及び第2サブユニット(すなわち、Fab形式またはIgG形式中に存在する抗体VHドメイン及び抗体VLドメインなどの別々のポリペプチド鎖)を含む、多量体である結合体に向けては、複数サブユニットは、ドナーDNAの同一分子上にコードされていてよい。しかしながら、別々の遺伝子座へ、異なるサブユニットを組込むことが望ましくあり得、その場合、サブユニットは、別々のドナーDNA分子上で供給することができる。こうしたものは、ヌクレアーゼ指向型組込みの同一サイクル内で組み込むか、または一方または両方の組込み段階で、ヌクレアーゼ指向型組込みを順次使用して組込んでよい。
【0040】
多量体である結合体をコードする真核細胞クローンのライブラリーの産生方法は、
第1サブユニットをコードするDNAを含む真核細胞の提供、及び第2結合体サブユニットをコードするドナーDNA分子の提供と、
細胞へのドナーDNAの導入、及び細胞内での部位特異的ヌクレアーゼの提供であって、ヌクレアーゼが細胞DNAの認識配列を切断することで、ドナーDNAが細胞DNAへと組込まれる組込み部位が創出され、組込みが、細胞に対して内在性であるDNA修復機構を介して生じ、それによって、細胞DNAに組込まれたドナーDNAを含む組換え細胞を創出する当該導入及び提供と、
を含んでよい。こうした組換え細胞は、多量体である結合体の第1サブユニット及び第2サブユニットをコードするDNAを含むことになり、培養されて、両方のサブユニットを発現し得る。多量体である結合体は、別々にコードされるサブユニットの発現及び会合によって得られる。
【0041】
上記実施例において、ヌクレアーゼ指向型組込みは、第1サブユニットをコードするDNAをすでに含む細胞へ、第2サブユニットをコードするDNAを組込むために使用される。第1サブユニットは、本発明の手法または他の適した任意のDNA組込み方法を使用して、予め導入しておくことができる。代替の手法は、ドナーDNAを導入する第1サイクルにおいてヌクレアーゼ指向型組込みを使用して第1サブユニットを組込み、その後、同一手法または他の適した任意の方法のいずれかによって、第2サブユニットを導入することである。ヌクレアーゼ指向型手法が、組込みの複数サイクルにおいて使用されるのであれば、異なる部位特異的ヌクレアーゼを任意選択で使用して、異なる認識部位での、ヌクレアーゼ指向型ドナーDNAの組込みを推進してもよい。ライブラリーの産生方法は、
第1サブユニットをコードする第1ドナーDNA分子の提供、及び真核細胞の提供と、
細胞への第1ドナーDNAの導入、及び細胞内での部位特異的ヌクレアーゼの提供であって、ヌクレアーゼが、細胞DNAの認識配列を切断することで、ドナーDNAが細胞DNAへと組込まれる組込み部位が創出され、組込みが、細胞に対して内在性であるDNA修復機構を介して生じ、それによって、細胞DNAに組み込まれた第1ドナーDNAを含む、第1セットの組換え細胞を創出する当該導入及び提供と、
第1サブユニットをコードするDNAを含む、第1セットのクローンを産生するための第1セットの組換え細胞の培養と、
第1セットのクローン細胞への、第2サブユニットをコードする第2ドナーDNA分子を導入であって、第1セットのクローンの細胞DNAへと第2ドナーDNAを組込み、それによって、細胞DNAへ組込まれた第1ドナーDNA及び第2ドナーDNAを含む、第2セットの組換え細胞を創出する当該導入と、
第2セットのクローンを産生するための第2セットの組換え細胞の培養であって、こうしたクローンが、多量体である結合体の第1サブユニット及び第2サブユニットをコードするDNAを含む当該培養と、
それによる、多量体である結合体のレパートリーをコードするドナーDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーの提供と、
を含んでよい。
【0042】
細胞DNAへの、ドナーDNAの部位特異的組込みは、培養してクローンを産生することができる組換え細胞を創出する。したがって、ドナーDNAが組込まれた個々の組換え細胞は、複製して細胞のクローン集団、すなわち「クローン」を生成し、それぞれのクローンは、1つの元の組換え細胞に由来するものである。したがって、方法によって、ドナーDNAの組込みに成功した細胞の数に対応する数多くのクローンが生成する。クローンの集合体は、結合体のレパートリーをコードするライブラリーを形成する(または結合体サブユニットが、別々のラウンドで組込まれる中間段階では、クローンは、1つのセットの結合体サブユニットをコードし得る)。したがって、本発明の方法は、結合体のレパートリーをコードするドナーDNAを含む真核細胞クローンのライブラリーを提供することができる。
【0043】
本発明の方法によって、細胞DNAにおける1つの固定遺伝子座または複数の固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含むクローンのライブラリーを生成させることができる。「固定(fixed)」は、遺伝子座が、細胞間で同一であることを意味する。したがって、ライブラリーの創出に使用する細胞は、固定遺伝子座にヌクレアーゼ認識配列を含み得、当該認識部位は、そこにドナーDNAを組込むことができる、細胞DNAにおける普遍的なランディング部位に相当するものである。部位特異的ヌクレアーゼ向けの認識配列は、細胞DNAにおいて1つ以上の位置に存在し得る。
【0044】
本発明によって産生するライブラリーは、多様な形で用いてよい。ライブラリーは、培養して結合体を発現してよく、それによって、結合体の多様なレパートリーが産生する。ライブラリーにおいて所望の表現型の細胞を選別してよく、表現型は、細胞による結合体の発現からもたらされるものである。ライブラリーの細胞を培養して結合体を発現させ、その後、所望の表現型がライブラリーのクローンにおいて示されているかどうかを検出する表現型の選別が可能である。細胞の読出し情報は、内在性もしくは外来性のレポーター遺伝子の発現変化、分化状態、増殖、生存、細胞サイズ、代謝、または他の細胞との相互作用変化などの細胞挙動の変化に基づき得る。所望の表現型が検出されると、その後、所望の表現型を示すクローンの細胞が回収される。任意選択で、その後、回収されたクローンから、結合体をコードするDNAが単離され、結合体をコードするDNAが得られる。当該DNAは、細胞において発現されると、所望の表現型を産生するものである。
【0045】
真核細胞ライブラリーが使用されてきた重要な目的は、関心標的を認識する結合体の選別方法にある。そのような方法では、ライブラリーを培養して結合体を発現させ、結合体を標的に対して曝露して、1つまたは複数の同種結合体による標的の認識を可能にし、もし存在するのであれば、標的が、同種結合体によって認識されたかが検出される。そのような方法では、結合体は、細胞表面にディスプレイされてよく、所望の特性を有する結合体をディスプレイする、ライブラリーのそうしたクローンを単離することができる。したがって、所望の機能特性または結合特性を有した結合体をコードする遺伝子が組込まれた細胞を、ライブラリー内で同定することができる。遺伝子を回収し、結合体の産生に使用するか、またはさらなる操作に使用して、特性が改善された結合体を得るために、結合体の派生ライブラリーを創出することができる。
【0046】
本発明は、高等真核生物におけるライブラリー構築に向けて、これまでの手法に勝る優位性を提供する。いくつかの研究では、レンチウイルスの感染を使用して、哺乳類レポーター細胞へ抗体遺伝子が導入された[106]。これは、大きなライブラリーを生成できるという優位性を有するが、組込み部位の制御が存在せず、コピー数は、低感染多重度を使用することによって制御されている(上記のとおり)。代替の手法では、抗体遺伝子は、ヌクレアーゼ指向型組込みを利用せず、10kbのホモロジーアームを使用して、相同組換えを介して導入されたが、標的効率は、相対的に低く、これは、潜在的なライブラリーサイズが限定されていたことを示している[105]。対照的に、配列指向型ヌクレアーゼの使用は、大きなライブラリーの効率的な構築を可能にしながら、1つまたは少数の選択遺伝子座を標的にして組込むという優位性を保持するものである。ヌクレアーゼ指向型組込みは、導入遺伝子の標的が、細胞DNA内の1つの遺伝子座または複数の遺伝子座であるという優位性を有している。これは、すべてのクローンにおいて、結合体遺伝子の転写を推進するプロモーター活性が同一であることになり、それぞれの結合体の機能性が、組込み部位に関連する変動に起因するものではなく、むしろその固有の効力、翻訳効率、及び安定性を反映するであろうことを意味する。単一または限定数の遺伝子座を標的とすることによって、必要であれば、例えば、誘導性プロモーターを使用した、より良い発現制御も可能となるであろう。
【0047】
以下に、本発明の様々な特徴を記載する。本明細書にわたって使用される表題は、ナビゲーション支援のみが目的であり、限定的なものであると解釈されるべきはなく、異なるセクションに記載の実施例は、必要に応じて組み合わせてもよいことに留意されたい。
【0048】
詳細な説明
真核細胞
多様な結合体レパートリーを発現する真核細胞集団の可能性が、本明細書の実施例において、哺乳類細胞表面での抗体レパートリーの発現に関連して、例示及び考察される。本発明の優位性は、哺乳類細胞に限定されず、すべての真核生物を含むものである。
【0049】
酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae)は、哺乳類細胞と比較して、小さなゲノムを有していると共に、(ヌクレアーゼ指向型の切断無しに)ホモロジーアームによって指示される相同組換えは、高等真核生物と比較して、外来性DNAを導入する有効な方法である。したがって、本発明のヌクレアーゼ指向型組込みの特定の優位性の1つは、ヌクレアーゼによる切断無しでは相同組換えの効率が低い、より大きなゲノムを有した高等真核細胞への結合体遺伝子の組込みに関するものである。ヌクレアーゼ指向型の組込みは、酵母細胞において使用されており、個々の酵母細胞へ複数遺伝子を効率的に組込むという問題を解決するものであり、例えば、代謝経路の操作に向けて使用されたが(US2012/0277120)、この研究は、結合体ライブラリーの導入を実施しておらず、高等真核生物におけるライブラリー構築の問題にも対処していないものである。
【0050】
本発明による真核細胞ライブラリーは、好ましくは高等真核細胞であり、本明細書で、12x10塩基対(bp)のゲノムサイズを有するSaccharomyces cerevisiaeのもの超えるゲノムを有する細胞であると定義される。例えば、高等真核細胞は、2x10塩基対を超えるゲノムサイズを有していてよい。これには、例えば、哺乳類、トリ、昆虫、または植物の細胞が含まれる。好ましくは、細胞は、例えば、マウスまたはヒトの哺乳類細胞である。細胞は、初代細胞であるか、または細胞株であってよい。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、一般に、抗体及びタンパク質の発現に使用されるが、本発明では、任意の代替安定細胞株を使用してよい。本明細書の実施例では、HEK293細胞を使用している。方法は、外来性DNAの、初代細胞への効率的な導入に利用可能であり、これにより、こうした細胞が使用可能となる(例えば、電気穿孔によってであり、最大で95%の効率及び生存率が達成された。http://www.maxcyte.com/technology/primary−cells−stem−cells.php)。
【0051】
好ましい細胞型には、Tリンパ球系譜の細胞(例えば、初代T細胞もしくはT細胞株)またはBリンパ球系譜の細胞が含まれる。TCR発現を欠いた細胞株を含む、TCRライブラリーにおいて使用する初代T細胞またはT細胞に由来する細胞株は、特に興味深いものである[23、24、25]。Bリンパ球系譜の細胞の例には、B細胞、プレB細胞またはプロB細胞、及びこうした細胞のいずれかから得られる細胞が含まれる。
【0052】
初代B細胞またはB細胞株におけるライブラリーの構築は、抗体ライブラリーの構築に特に有用性があるであろう。Breous−Nystromら[15]は、マウスのプレB細胞株(1624−5)においてライブラリーを生成させた。ニワトリB細胞に由来する細胞株であるDT40(ATCC CRL−2111)は、結合体のライブラリー構築に特に有望である。DT40は、細胞増殖速度が相対的に速い小さな細胞株である。内在性配列を標的とするZFN、TALEヌクレアーゼ、もしくはCRISPR/Cas9を使用するか、またはメガヌクレアーゼ認識部位を含めることができる、事前に組込まれた異種性部位を標的とすることによって、結合体レパートリーの標的を特定遺伝子座にすることができる。DT40細胞は、抗体を発現しているため、内在性のニワトリ抗体可変ドメインを破壊して、または破壊せずに、抗体遺伝子座内の抗体遺伝子を標的とするために有利であろう。DT40細胞は、ニワトリ抗体遺伝子座で生じる内因性の多様化を利用した自律多様化ライブラリーシステム(ADLibシステム)と命名された、試験管内でのニワトリIgM生成システムの基礎としても使用されてきた。この内在性の多様化の結果として、新規の特異性を生成することが可能である。本明細書に記載のヌクレアーゼ指向型の手法は、ADLibと組み合わせて使用することで、異種性供給源(例えば、ヒト抗体可変領域レパートリーまたは合成的に得られた代替骨格)に由来する結合体の多様なライブラリーと、ニワトリIgG遺伝子座のさらなる多様化に向けた潜在力と、を組み合わせることができる。類似の優位性をNalm6[26]などのヒトB細胞株に適用することができる。他のB細胞系譜の関心細胞株には、マウスのプレB細胞株1624−5及びプロB細胞株Ba/F3などの株が含まれる。Ba/F3は、IL−3依存性であり[27]、その使用については、本明細書の他の箇所において考察されている。最終的に、「Cancer Cell Line Encyclopaedia」[28]、または「COSMIC catalogue of somatic mutations in cancer」[29]において記載されているものを含む、数多くのヒト細胞株を使用することができる。
【0053】
典型的には、ライブラリーは、例えば、ドナーDNAの、特定細胞株の細胞への導入といった、ドナーDNAの、クローン真核細胞集団への導入によって産生した単一型の細胞からなることになる。異なるライブラリークローン間で主要かつ顕著な差異があれば、ドナーDNAの組込みに起因するものであることになる。
【0054】
真核生物ウイルスシステム
真核細胞での結合体ライブラリーの創出におけるシステムの優位性は、例えば、バキュロウイルスディスプレイまたはレトロウイルスディスプレイ[1、2、3、4]といった、真核生物発現システムに基づくウイルスディスプレイシステムに適用することができる。この手法では、それぞれの細胞は、ウイルス粒子へと組込むことが可能な結合体をコードすることになる。レトロウイルスシステムの場合では、コードするmRNAは、内包されるであろうし、コードされる結合体は、細胞表面に提示されるであろう。バキュロウイルスシステムの場合では、結合体をコードする遺伝子は、遺伝子と、コードされるタンパク質と、の関連性を維持するために、バキュロウイルス粒子へと被包される必要があるであろう。これは、バキュロウイルスゲノムのエピソームコピーを保有する宿主細胞を使用して達成することができる。あるいは、組込まれたコピーは、特異的ヌクレアーゼ(部位特異的組込みを推進するために使用されるものとは異なる)の作用を経て遊離させることができる。多量体である結合体分子の場合では、ウイルスに内包されている1つまたは複数のパートナーの遺伝子と共に、細胞DNA内にパートナーをいくつかコードさせることができる。
【0055】
部位特異的ヌクレアーゼ
本発明は、結合体のレパートリーをコードするDNAを含む真核細胞ライブラリーの構築における、細胞DNAの標的切断に向けた、部位特異的ヌクレアーゼの使用を含み、ヌクレアーゼ媒介性のDNA切断は、内在性の細胞DNA修復機構を介して、結合体遺伝子の部位特異的組込みを増進する。部位特異的ヌクレアーゼは、認識配列に対して特異的に結合した後に細胞DNAを切断し、それによって、ドナーDNA向けの組込み部位が創出される。ヌクレアーゼによって、二本鎖切断または一本鎖切断(切れ目)が生じてよい。ライブラリーの創出に使用する細胞は、部位特異的ヌクレアーゼによって認識される内在性配列を含んでよく、または認識配列は、細胞DNAへと操作導入されてよい。
【0056】
部位特異的ヌクレアーゼは、細胞に対して外来性であってよい。すなわち、選択した型の細胞において自然発生しなくてよい。
【0057】
部位特異的ヌクレアーゼは、結合体をコードするドナーDNAの導入の前、後、または同時に導入することができる。ドナーDNAは、結合体に加えてヌクレアーゼをコードするか、または別々の核酸上に存在するものが同時導入されるか、もしくはそうでなければドナーDNAとして同時に導入されることが、簡便であり得る。ライブラリーのクローンは、部位特異的ヌクレアーゼをコードする核酸を任意選択で保持してよく、またはそのような核酸は、細胞へと一過性に遺伝子導入されるだけであってよい。
【0058】
本発明では、任意の適した部位特異的ヌクレアーゼを使用してよい。天然起源の酵素、または操作された変異体であってよい。細胞DNAにおいて稀にしか生じない配列を認識または認識するように操作することができるヌクレアーゼなどの、特に適したヌクレアーゼが、数多く知られている。ヌクレアーゼは、1つまたは2つの部位のみを切断することが有利であり、これは、細胞当たり、1つまたは2つのドナーDNA分子のみが組込まれることを保証することになるためである。認識配列が、相対的に長ければ、部位特異的ヌクレアーゼによって認識される配列が稀にしか存在しない可能性が高い。ヌクレアーゼによって特異的に認識される配列特異性は、例えば、少なくとも10、15、20、25、または30個のヌクレオチドの配列であってよい。
【0059】
適したヌクレアーゼの例には、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ、及びCRISPR/Casシステムなどの核酸でガイドされる(例えば、RNAでガイドされる)ヌクレアーゼが含まれる。操作された形態では、一本鎖切断を生成することが知られているものの、こうしたヌクレアーゼのそれぞれが、二本鎖切断を生成するものである。
【0060】
メガヌクレアーゼ(ホーミングエンドヌクレアーゼとしても知られる)は、すべての生命界にわたって生じるヌクレアーゼであり、相対的に長い配列(12〜40bp)を認識する。認識配列が長いことを考慮すれば、当該認識配列は、真核生物ゲノムにおいて、存在しないか、または生じることは相対的に稀である。メガヌクレアーゼは、配列/構造に基づいて5つのファミリーへと分類される。(LAGLIDADG、GIY−YIG、HNH、His−Cys box、及びPD−(D/E)XK)。最も研究されたファミリーは、LAGLIDADGファミリーであり、当該ファミリーは、Saccharomyces cerevisiaeに由来する、よく特徴づけられたI−SceIメガヌクレアーゼを含む。I−SceIは、4bpの3’突出部を残し、18bpの認識配列(5’TAGGGATAACAGGGTAAT)を認識して切断する。一般に使用される別の例は、Chlamydomonas reinhardtiiの単細胞緑藻の葉緑体を起源とするI−Cre1であり、22bpの配列を認識する[30]。認識配列が変化するように操作され、数多くの変異体が創出された[31]。メガヌクレアーゼは、ゲノム工学において、部位特異的ヌクレアーゼが使用された最初の例である[49、50]。リコンビナーゼに基づく手法と同様に、I−Sce1及び他のメガヌクレアーゼを使用する場合は、ゲノム内に、標的となる適切な認識部位を事前に挿入するか、または内在性部位を認識するように、メガヌクレアーゼを操作する必要がある[30]。HEK293細胞における、この手法による標的化効率(組込まれた不完全GFP遺伝子の相同性指向型「修復(repair)」によって判断)は、細胞の10〜20%であり、I−Sce1の使用を介して達成されたものである[32]。
【0061】
本発明における使用に好ましいメガヌクレアーゼのクラスは、LAGLIDADGエンドヌクレアーゼである。こうしたものには、I−Sce I、I−Chu I、I−Cre I、Csm I、PI−Sce I、PI−Tli I、PI−Mtu I、I−Ceu I、I−Sce II、I−Sce III、HO、Pi−Civ I、PI−Ctr I、PI−Aae I、PI−Bsu I、PI−Dha I、PI−Dra I、PI−Mav I、PI−Mch I、PI−Mfu PI−Mfl I、PI−Mga I、PI−Mgo I、PI−Min I、PI−Mka I、PI−Mle I、PI−Mma I、PI−Msh I、PI−Msm I、PI−Mth I、PI−Mtu PI−Mxe I、PI−Npu I、PI−Pfu I、PI−Rma I、PI−Spb I、PI−Ssp I、PI−Fac I、PI−Mja I、PI−Pho I、Pi−Tag I、PI−Thy I、PI−Tko I、I−Mso I、及びPI−Tsp Iが含まれ、好ましくは、I−Sce I、I−Cre I、I−Chu I、I−Dmo I、I−Csm I、PI−Sce I、 PI−Pfu I、PI−Tli I、PI−Mtu I、及びI−Ceu Iである。
【0062】
近年、数多くの方法が開発されたことで、新規の配列特異的ヌクレアーゼを設計することが可能であり、これは、非特異的ヌクレアーゼに対して配列特異的DNA結合ドメインを融合することによって実施され、これにより、特別に作成されたDNA結合ドメインを介して指示される、設計された配列特異的ヌクレアーゼが創出される。結合特異性は、ジンクフィンガードメインなどの結合ドメインを操作することによって指示することができる。こうしたものは、亜鉛イオンによって安定化された小さなモジュラードメインであり、当該ドメインは、分子認識に関与し、DNA配列を認識する性質において使用される。ジンクフィンガードメインのアレイは、配列特異的な結合に向けて操作され、II型制限酵素であるFok1の非特異的DNA切断ドメインに対して連結されることで、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が創出された。ZFNは、ゲノム内の特異的部位に、二本鎖切断を創出するために使用することができる。Fok1は、偏性2量体であり、切断を起こすために、2つのZFNが、近接して結合する必要がある。操作されたヌクレアーゼの特異性は、増進しており、お互いのヘテロ2量体のみを形成するように操作された2つの異なるFok1変異体を創出することによって、その毒性は低減された[33]。そのような偏性ヘテロ2量体であるZFNは、薬物での選択を必要とせずに、標的細胞の5〜18%において、相同性指向型組込みを達成することが明らかとなった[21、34、35]。選択を実施すること無く、>5%の頻度で最大8kbの挿入断片の組込みが示された。
【0063】
ZFNなどのヌクレアーゼによって創出される一本鎖の5’突出部が、切断部位への導入遺伝子の効率的な組込みの推進に役立つことが、最近示された[45]。これはさらに拡張され、ドナーDNAの生体内での切断(ドナープラスミド内に特異的なヌクレアーゼ認識部位を含めることを介して)が、非相同組込みの際の効率を増進することが示された。当該機構は、完全に明らかでないが、生体内での直鎖化を介したことで、細胞ヌクレアーゼに対する曝露が減少したことが、増進に寄与し得た可能性がある[45]と共に、ヌクレアーゼによって生成したドナーDNA及びアクセプターDNAの5’突出部が適合することにより、ライゲーションを推進した可能性もある。しかしながら、接合部の配列を調べると、欠失が生じていることが明らかとなった。完全に適合した結合部は、認識配列の欠失が生じるまで、部位指向型ヌクレアーゼの基質として働き続ける可能性がある。この潜在的な問題を克服するために、Marescaら[36]は、ゲノム遺伝子座へドナーDNAがライゲーションすると、一方の組込み隣接位置での2つの左側ZFNによる重複と、もう一方の隣接位置での2つの右側ZFNによる重複と、が引き起こされるように、ドナーDNA内の左右のZFNの認識部位を反転させた。偏性ヘテロ2量体ヌクレアーゼを使用することは(Fok1向けに記載したように)、こうした新しく創出された隣接配列のどちらも、標的ヌクレアーゼによって切断できないことを意味している。
【0064】
定義された特異性を有するDNA結合ドメインの操作能力は、Xanathomonas細菌において、転写活性化因子様エフェクター(TALE)分子が発見されたことによって、さらに単純化された。こうしたTALE分子は、33〜35個のアミノ酸である単量体のアレイからなり、それぞれの単量体が、標的配列内の単一塩基を認識する[37]。1:1であるこのモジュラーの関係性が、任意の関心DNA標的に結合する、操作されたTALE分子の設計を相対的に容易なものとした。こうした設計TALEと、Fok1とを結合させることによって、新規の配列特異的TALEヌクレアーゼを創出することが可能となった。TALEヌクレアーゼは、TALENとしても知られ、今日までに、非常に多くの部位に対して設計されており、高い成功率で、効率的な遺伝子修飾活性を示すものである[38]。本明細書の実施例では、我々は、TALEヌクレアーゼの使用を介して、ドナーDNAの組込みが増進することを示している。その他にも、TALEヌクレアーゼ技術を変更したもの及び強化したものが開発されており、ヌクレアーゼ指向型組込みを介した、結合体ライブラリーの生成に使用することができる。こうしたものには、TALEヌクレアーゼ結合ドメインが、メガヌクレアーゼに融合した「メガTALEN(mega−TALEN)」[39]、及び単一TALEヌクレアーゼ認識ドメインが、切断を引き起こすために使用される「コンパクトTALEN(compact TALEN)」[40]が含まれる。
【0065】
近年、ゲノム内の特定配列に対する二本鎖切断または一本鎖切断の指示に向けた別のシステムについて、説明された。このシステムは、「クラスター化して規則的な間隙を含む短い回文配列の繰り返し(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)(CRISPR)及びCRISPR関連(CRISPR Associated)(Cas)」システムと呼ばれ、細菌の防衛機構に基づくものである[41]。CRISPR/Casシステムは、短い回文配列の繰り返しと隣接する、短い相補一本鎖RNA(CRISPR RNAまたはcrRNA)を介した切断に向けて、DNAを標的としている。一般に使用される「II型」システムでは、標的RNAのプロセシングは、回文配列の繰り返しに相補的な配列を有するトランス活性化crRNA(tracrRNA)の存在に依存している。回文繰り返し配列に対するtracrRNAのハイブリッド形成が、プロセシングを引き起こす。プロセシングされたRNAは、Cas9ドメインを活性化し、DNA内の相補的な配列に対してその活性を指示する。システムは、単一RNA転写物に由来するCas9による切断を指示するために単純化されており、ゲノム内の多くの異なる配列を対象としてきた[42、43]。ゲノム切断に対するこの手法は、短いRNA配列を介して指示されるという優位性を有し、これによって、切断特異性の操作が相対的に単純化されている。このように、ゲノムDNAの部位特異的切断を達成する方法は、様々であり、数多く存在する。上記のとおり、これは、内在性である細胞のDNA修復機構を介した、ドナープラスミドの組込み率を増進するものである。
【0066】
メガヌクレアーゼ、ZFN、TALEヌクレアーゼ、またはCRISPR/Cas9システムなどの核酸ガイドシステムを使用することで、ゲノム内の内在性遺伝子座を標的とすることが可能になるであろう。本明細書の実施例では、我々は、AAVS遺伝子座を標的とすることを示しているが、代替の遺伝子座を標的とすることができる。例えば、導入遺伝子を効率的に発現するために、I型コラーゲンの遺伝子座が使用された[44]。
【0067】
あるいは、その後のライブラリー標的化に向けて、メガヌクレアーゼ、ZFN、及びTALEヌクレアーゼを含む標的ヌクレアーゼの異種性の認識部位を事前に導入することができる。本明細書の実施例では、我々は、相同組換えによる導入のための、AAVS遺伝子座内のTALEヌクレアーゼ認識配列、AAVS遺伝子座内のI−Sce1メガヌクレアーゼ認識配列、及び異種性のTALEヌクレアーゼ認識部位の使用について説明している。ヌクレアーゼ指向型標的化は、ベクターDNAまたは二本鎖オリゴヌクレオチドさえも使用して、相同組換えまたはNHEJによる、標的配列の挿入を推進するために使用することができる[45]。代替として、非特異的標的化方法を使用することで、トランスポゾン指向型組込み[46]の使用を介して、標的化部位を導入して、部位特異的ヌクレアーゼの認識部位を導入することができる。低力価で適用される、レンチウイルスなどのウイルスに基づくシステムも標的化部位の導入に使用することができる。単一コピーの挿入に向けた選別と組み合わせた、DNAの遺伝子導入も特有の組込み部位の同定に使用することができる[17]。そのような非特異的手法は、細胞が、標的とするための明白な部位を有さない場合、またはゲノム配列が決定されていない場合、またはゲノムに対してTALEヌクレアーゼ、ZFN、もしくはCas9/CRISPRシステムが利用できない場合、に特に有用であろう。ヌクレアーゼ認識部位を無作為に挿入した後に、細胞株が一旦確立すると、続いて細胞株は、ヌクレアーゼ指向型組込みを使用した結合体ライブラリーの創出に使用することができ、当該結合体ライブラリーは、ライブラリーのすべてのクローンが、固定遺伝子座に導入遺伝子を含むものである。
【0068】
記載の実施例では、ドナーDNA向けの別のプラスミドと共に使用する個々のプラスミド上に存在するTALEヌクレアーゼまたはZFNのペアを含む、3種の異なるプラスミドを使用している。メガヌクレアーゼの場合は、部位特異的ヌクレアーゼは、単一遺伝子によってコードされ、これは、1つのプラスミド上に導入されており、ドナーDNAは、第2のプラスミド上に存在する。当然のことながら、同一プラスミド上に2つ以上のこうした要素を組込んで、組み合わせて使用することができ、これは、導入することになるプラスミド数を低減することによって標的化効率を増進することができる。さらに、トランスポサーゼで示されたように[46]、ヌクレアーゼ活性の時間的制御を可能にするために、誘導性でもあり得るヌクレアーゼを事前に組み込むことが可能であり得る。最終的には、ヌクレアーゼは、組換えタンパク質またはタンパク質:RNA複合体(例えば、CRISPR:Cas9などのRNA指向型ヌクレアーゼの場合)として導入することができる。
【0069】
遺伝子座
部位特異的ヌクレアーゼに向けた認識配列は、ゲノムDNA、または細胞において安定的に受け継がれているエピソームDNAに存在していてもよい。したがって、ドナーDNAは、細胞DNAのゲノムまたはエピソームの遺伝子座に組込まれてよい。
【0070】
その最も単純な形態では、結合体をコードする単一遺伝子(結合体の遺伝子)は、真核生物ゲノム内の単一部位を標的とする。特定の結合活性または細胞表現型を示す細胞を同定すれば、所望の特性をコードする遺伝子の直接的な単離が可能となるであろう(例えば、mRNAまたはゲノムDNAからのPCRによって)。これは、部位特異的ヌクレアーゼに向けた特有の認識配列であって、細胞DNAに1度しか生じない特有の認識配列を使用することによって促進される。したがって、ライブラリーの創出に使用される細胞は、単一の固定遺伝子座、すなわち、すべての細胞において同一である1つの遺伝子座、に1つのヌクレアーゼ認識配列を含んでよい。そのような細胞から産生するライブラリーは、固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含むことになり、すなわち、これが、ライブラリー中のすべてのクローンの細胞DNAにおける同一遺伝子座で起こるということである。
【0071】
任意選択で、認識配列は、細胞DNAにおいて複数回生じてよく、その結果、細胞は、複数の潜在的な、ドナーDNAの組込み部位を有する。これは、認識配列が、染色体のペア、すなわち、反復遺伝子座、における対応する位置に存在する二倍体または倍数体の細胞では典型的な状況であろう。そのような細胞から産生するライブラリーは、反復固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含み得る。たとえば、二倍体細胞から産生したライブラリーは、二重の固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを有し得、三倍体細胞から産生したライブラリーは、三重の固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを有し得る。適した哺乳類細胞の多くは、二倍体であり、本発明による哺乳類細胞ライブラリーのクローンは、二重の固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを有し得る。
【0072】
部位特異的ヌクレアーゼによる認識配列は、細胞DNAにおける複数の独立した遺伝子座に生じ得る。したがって、ドナーDNAは、複数の独立した遺伝子座に組込まれ得る。二倍体または倍数体の細胞のライブラリーは、複数の独立した固定遺伝子座及び/または反復固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含み得る。
【0073】
複数の遺伝子座(反復遺伝子座または独立遺伝子座を問わず)に認識配列を含む細胞では、それぞれの遺伝子座は、ドナーDNA分子に向けた潜在的な組込み部位に相当するものである。細胞へのドナーDNAの導入は、細胞に存在するすべての数のヌクレアーゼ認識配列での組込みをもたらし得るか、またはドナーDNAは、いくつかのヌクレアーゼ認識配列では組込まれ得るが、こうした潜在的な部位のすべてにではない。例えば、第1遺伝子座及び第2遺伝子座(例えば、二重の固定遺伝子座)に認識配列を含む二倍体細胞に由来するライブラリーを産生すると、得られるライブラリーは、ドナーDNAが第1固定遺伝子座に組込まれたクローンと、ドナーDNAが第2固定遺伝子座に組込まれたクローンと、ドナーDNAが第1固定遺伝子座及び第2固定遺伝子座の両方に組込まれたクローンと、を含み得る。
【0074】
したがって、ライブラリーの産生方法は、1つの細胞における複数の遺伝子座の、部位特異的ヌクレアーゼによる切断と、複数の固定遺伝子座へのドナーDNAの組込みと、を伴い得る。上記のとおり、同一認識配列の複数コピーが存在する場合(例えば、二倍体または倍数体の細胞における内在性遺伝子座を標的とするときに生じる)であり、特に、効率的な標的化機構を使用すると、2つの結合体遺伝子が組込まれることになり、その際、1つの遺伝子のみが、標的に対して特異的である可能性がある。これは、結合体遺伝子が単離されると、その後の選別の間に解決することができる。
【0075】
いくつかの実例では、細胞当たり、複数の結合体を導入することが望ましくあり得る。例えば、一体となる異なる2つの抗体から二重特異性である結合体を生成することができ、こうしたものは、個々の結合体には無い特性を有し得る[47]。これは、二重の固定遺伝子座の両方の対立遺伝子へ異なる抗体遺伝子を導入するか、または本明細書に記載の方法を使用して、独立した固定遺伝子座へ、標的とする異なる抗体集団を導入することによって達成できる。さらに、結合体自体が、複数鎖からなってよい(例えば、Fab形式またはIgG形式内に存在する抗体のVHドメイン及びVLドメイン)。この場合、異なる遺伝子座へ異なるサブユニットを組込むことが望ましくあり得る。こうしたものは、ヌクレアーゼ指向型組込みの同一サイクル内で組込むことができ、そうしたものは、一方または両方の組込み段階で、ヌクレアーゼ指向型組込みを使用して順次組込むことができる。
【0076】
ドナーDNAの導入
遺伝子導入、感染、または電気穿孔を含む、多数の方法が、真核細胞へのドナーDNAの導入に向けて説明されてきた。本明細書に記載のポリエチレンイミン媒介性の遺伝子導入を含む、標準方法による遺伝子導入が可能な細胞の数は非常に多い。さらに、方法は、5分間で1010個の細胞を処理する高効率な電気穿孔に利用可能であり、例えば、http://www.maxcyte.comである。
【0077】
コンビナトリアルライブラリーを創出することができ、ここで、多量体の結合ペアのメンバー(例えば、抗体遺伝子のVH遺伝子及びVL遺伝子)は、異なるプラスミドに導入されるか、または同一結合体分子の異なる部分でさえも、異なるプラスミドに導入される。別々の結合体または結合体サブユニットをコードする別々のドナーDNA分子の導入を同時または順次実施してよい。例えば、抗体軽鎖を遺伝子導入または感染によって導入し、必要であれば、細胞を増殖させて選択することができる。そして、その後の感染または遺伝子導入の段階で、他の成分を導入することができる。一方または両方の段階が、特定ゲノム遺伝子座に対するヌクレアーゼ指向型の組込みを伴い得る。
【0078】
ドナーDNAの組込み
ドナーDNAは、細胞DNAへと組込まれて、組込み部位にドナーDNAが挿入された近接DNA配列を有する組換えDNAを形成する。本発明では、組込みは、細胞に対して内在性である天然のDNA修復機構によって媒介される。したがって、細胞へのドナーDNAの導入によって、組込みを簡単に生じさせることが可能となり得、これにより、部位特異的ヌクレアーゼによる組込み部位の創出が可能になると共に、ドナーDNAの組込みが可能となる。細胞は、DNAが組込まれる間、十分な時間、培養で保持してよい。これは、通常、細胞集団の混合をもたらし、当該細胞には、(i)部位特異的ヌクレアーゼによって創出された組込み部位に、ドナーDNAが組込まれた組換え細胞、ならびに任意選択で、(ii)ドナーDNAが、所望の組込み部位以外の部位に組込まれた細胞、及び/または任意選択で、(iii)ドナーDNAが、組込まれなかった細胞、が含まれる。したがって、ライブラリーの所望の組換え細胞及び得られるクローンは、他の真核細胞との混合集団において提供されてよい。ライブラリーの細胞を濃縮するために、本明細書の他の箇所に記載の選択方法を使用してよい。
【0079】
真核細胞における内在性のDNA修復機構には、相同組換え、非相同末端結合(NHEJ)、及びマイクロホモロジー指向型末端結合(microhomology−directed end joining)が含まれる。そのようなプロセスによるDNA修飾の効率は、DNAに二本鎖切断(DSB)を導入することによって増加させることができ、I−Sce1などのレアカッターエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)を使用することで、効率が、40,000倍に上昇することが報告された[48、49、50]。
【0080】
Flp−Inシステムなどのシステムで生じる部位特異的組換え[16]とは異なり、本発明は、外来性リコンビナーゼまたは操作されたリコンビナーゼ認識部位を必要とするものではない。したがって、任意選択で、本発明は、ライブラリーの創出において、リコンビナーゼ媒介性のDNA組込みの段階を含まず、及び/または任意選択で、ドナーDNAが導入される真核細胞は、部位特異的リコンビナーゼ向けの組換え部位を欠いている。リコンビナーゼと、ヌクレアーゼとが、細胞DNAへとドナーDNAを指示して挿入する機構及び実用性は、非常に異なるものである。これは、Jasin 1996[50]によって、以下に考察されているとおりである。
【0081】
「。。。部位特異的リコンビナーゼによって触媒される反応は、DSBの細胞修復とは完全に異なるものである。creなどの部位特異的リコンビナーゼは、2つの認識部位を対合させ、部位内に一本鎖切断を創出することで、ホリデイ(Holiday)中間体を形成する。この中間体は、解消され、欠失、反転、及び挿入(同時組込み体(cointegrant))を産生し、これらのすべてで、2つの認識部位は回復される。反応は、絶対的に正確であり、それ故に可逆的である。切断が細胞修復機構に対して曝露されることは決してない。」
【0082】
対照的に、部位特異的ヌクレアーゼは、細胞DNA(例えば、ゲノムまたはエピソーム)内に切断または切れ目を生じさせるために働き、当該切断または切れ目は、相同組換えまたはNHEJなどの内在性の細胞修復機構に曝露されて修復される。リコンビナーゼに基づく手法では、その認識部位を事前に組込むことが絶対要件であるため、そのような方法は、予備段階として、「ホットスポット」組込み部位の細胞DNAへの導入操作が必要になる。ヌクレアーゼ指向型の組込みでは、ヌクレアーゼを操作するか、またはCRISPR:Cas9の場合は、ガイドRNAを介して指示し、内在性遺伝子座、すなわち、細胞DNAにおいて自然発生する核酸配列を認識させることが可能である。最終的に、ヌクレアーゼ指向型の手法は、結合体の大きなライブラリーを作成するために必要なレベルで、導入遺伝子を直接組込むために、実践的なレベルにおいて、より効率的なものである。
【0083】
本発明の方法において、ドナーDNAが組込まれるDNA修復機構は、ドナーDNAの設計及び/または部位特異的ヌクレアーゼの選択によって、事前に決定、または幾分か偏らせることができる。
【0084】
相同組換えは、修復用鋳型として相同配列(例えば、別の対立遺伝子由来)を使用する、二本鎖切断修復のための、細胞が使用する天然の機構である。相同組換えは、ゲノムへの、挿入(導入遺伝子を含む)、欠失、及び点変異の導入のために、細胞工学において利用されてきた。相同組換えは、ドナーDNA上にホモロジーアームを与えることによって促進される。高等真核生物を操作するための元の手法では、典型的には、ドナープラスミド内の5〜10kbのホモロジーアームを使用して、関心部位への標的組込みの効率を増加させるものであった。これにもかかわらず、長いホモロジーアームによって純粋に推進される相同組換えは、Flp及びCre指向型の組換えと比較して、特に大きなゲノムを有する高等真核性物において、効率が低いものである。相同組換えは、ゲノムサイズが僅か12.5x10bpである酵母などの真核生物に特に適しており、例えば、3000x10bpを有する哺乳類細胞といった、より大きなゲノムを有する高等真核生物と比較して、より効率的である。
【0085】
相同組換えは、ゲノムDNAの切れ目を介して指示することもでき[52]、これは、ゲノムDNAへの、ヌクレアーゼ指向型の組込みに向けた経路としても働くことができる。2つの異なる経路が、切れ目の入ったDNAにおける相同組換えを促進することが示された。一方は、Rad51/Brca2を利用した、二本鎖切断の修復に本質的に類似しているが、もう一方は、Rad51/Brca2によって阻害され、一本鎖DNAまたは切れ目の入った二本鎖ドナーDNAを優先的に使用するものである[51]。
【0086】
非相同末端結合(NHEJ)は、ゲノムにおける二本鎖切断を修復する代替の機構であり、DNAの末端は、相同性の鋳型を必要とすることなく、直接的に再連結される。ゲノムDNAのヌクレアーゼ指向型の切断は、非相同性に基づく機構を介した導入遺伝子の組込みを増進することもできる。DNA修復に対するこの手法は、正確性が低く、挿入または欠失を引き起こし得る。それにもかかわらず、NHEJは、インフレームエクソンをイントロンへと組込む簡便な手段を提供するか、またはプロモーター:遺伝子カセットの、ゲノムへの組込みを可能にするものである。非相同性の方法を使用することで、ホモロジーアームを欠いたドナーベクターを使用することが可能になり、それによって、ドナーDNAの構築が単純化される。
【0087】
DNA末端の再連結に、短い末端相同性領域が使用されることが指摘されており、二本鎖切断の修復指示に、4bpのマイクロホモロジーを利用し得るとの仮説が立てられ、これは、マイクロホモロジー指向型末端結合と称される[50]。
【0088】
ドナーDNA
ドナーDNAは、通常は、環状化DNAであり、プラスミドまたはベクターとして提供してよい。別の可能性としては、直鎖状DNAである。ドナーDNA分子は、細胞DNAへと組込まれる1つまたは複数のドナーDNA配列に加えて、細胞DNAへと組込まれない領域を含んでよい。DNAは、典型的には二本鎖であるが、場合によっては、一本鎖DNAを使用してよい。ドナーDNAは、結合体をコードする1つまたは複数の導入遺伝子を含み、例えば、プロモーター:遺伝子カセットを含んでよい。
【0089】
最も単純な形式の二本鎖では、相同組換えを推進するために、環状プラスミドDNAを使用することができる。これには、導入遺伝子と隣接するDNA領域が必要であり、当該隣接DNA領域は、ゲノムDNAの切断部位と隣接するDNA配列に対して相同性を有するものである。直鎖化された二本鎖プラスミドDNAまたはPCR産物または合成遺伝子を使用して、相同組換え経路及びNHEJ修復経路の両方を推進することができる。二本鎖DNAに対する代替として、一本鎖DNAを使用して、相同組換えを推進することが可能である[52]。一本鎖DNAを生成するための一般的な手法は、糸状バクテリオファージに由来する一本鎖の複製起点をプラスミドへと含めるものである。
【0090】
アデノ随伴ウイルス(AAV)などの一本鎖DNAのウイルスは、効率的な相同組換えを推進するために使用され、効率が桁違いに改善することが示された[53、54]。AAVシステムなどのシステムは、大きな結合体ライブラリーの構築に向けて、ヌクレアーゼ指向型の切断と併せて使用することができる。両システムの優位性は、結合体ライブラリーの標的化に適用することができる。AAVベクターのパッケージング限界は、4.7kbであるが、標的ゲノムDNAのヌクレアーゼ消化を使用すれば、この制限を減らすことになり、より大きな導入遺伝子構築物を組込むことが可能となる。
【0091】
ドナーDNA分子は、単一の結合体または複数の結合体をコードしてよい。任意選択で、ドナーDNA分子当たり、結合体の複数サブユニットをコードしてよい。いくつかの実施形態では、ドナーDNAは、多量体である結合体の1つのサブユニットをコードする。
【0092】
選択に向けたプロモーター及び遺伝子要素
コードするドナーDNAからの、結合体の転写は、通常、プロモーター及び任意選択で、1つまたは複数の転写促進因子である要素の制御下に、結合体をコードする配列を設置することによって達成されることになる。ドナーDNA分子自体に、プロモーター(及び任意選択で、他の遺伝子制御要素)を含めてよい。あるいは、結合体をコードする配列は、ドナーDNA上でプロモーターを欠いていてよく、代わりに、細胞DNA上のプロモーターと動作可能な結合で設置してもよく、当該プロモーターは、例えば、内在性プロモーター、または部位特異的ヌクレアーゼによって創出された組込み部位での、その挿入の結果として事前に組込まれた外来性プロモーターである。
【0093】
ドナーDNAを含む細胞、またはドナーDNAを発現する細胞、の選択を可能にする遺伝子要素などの、1つまたは複数のさらなるコード配列を、ドナーDNAはさらに含んでよい。上で考察した、結合体をコードする配列と同様に、そのような要素は、ドナーDNA上のプロモーターと関連させてよく、または固定遺伝子座でのドナーDNAの組込みの結果として、プロモーターの制御下に設置してよい。後者の配置は、特に、所望の部位に組込まれたドナーDNAを有する細胞の簡便な選択手段を提供し、これは、こうした細胞が、選択に向けた遺伝子的要素を発現することになるためである。これは、例えば、ブラストサイジンまたはピューロマイシンなどの、陰性の選択剤に対する耐性を与える遺伝子であってよい。1つまたは複数の選択段階を適用して、ドナーDNAを欠いている細胞、または正しい位置にドナーDNAが組込まれなかった細胞などの、不必要な細胞を除去してよい。あるいは、こうした細胞は、ライブラリーのクローンと混ざったままにしておいてよい。
【0094】
膜に繋留された結合体の発現は、それ自体を選択可能マーカーの形態として使用することができる。例えば、IgGまたはscFv−Fc融合体として編成された抗体遺伝子のライブラリーが導入されるのであれば、抗体を発現する細胞は、本明細書に記載の方法を使用して表面に発現したFcを認識する二次試薬を使用して選択することができる。外来性プロモーターの制御下にある導入遺伝子をコードするドナーDNAの初回遺伝子導入の際は、結合体の一過性発現(及び細胞表面発現)が生じることになり、(例えば、1〜2個の抗体遺伝子/細胞の標的組込みを達成するために)一過性発現の減少を待つことが必要となるであろう。
【0095】
代替として、膜繋留要素(例えば、PDGF受容体膜貫通ドメインに融合した、本発明の実施例のFcドメイン)をコードする構築物を、結合体のライブラリーを導入する前に、事前に組込むことができる。この膜繋留要素が、プロモーターを欠いているか、またはフレームの外にあるエクソン内に、当該エクソンと共にコードされているのであれば、表面発現は損なわれることになる。新規ドナー分子の標的組込みを実施すれば、この欠損を修正することができる(例えば、プロモーター、または「インフレーム」エクソンの、欠損膜繋留要素の上流にあるイントロンへの標的化導入によって)。フレーム「修正エクソン」が、結合体もコードしているのであれば、結合体と、膜繋留要素と、の融合体が産生することになり、両方の表面発現がもたらされる。したがって、正しく標的化された組込みは、膜繋留要素単独のインフレーム発現、または新規結合体との融合体の一部としての膜繋留要素のインフレーム発現をもたらすことになる。さらに、新規結合体のライブラリーが、膜繋留要素を欠いており、こうしたものが誤って組込まれているのであれば、それは、選択されないことになる。したがって、細胞表面での結合体自体の発現は、正しく標的化されて組込まれた細胞集団を選択するために使用することができる。
【0096】
クローン数及びライブラリーの多様性
10〜1010の酵母ディスプレイライブラリーが、これまでに構築され、集団の免疫化または事前選択無しで結合体が得られることが示された[9、55、56、57]。これまでに発表された哺乳類ディスプレイライブラリーの多くが、免疫化ドナーから得られた抗体遺伝子を使用したものか、または濃縮された抗原特異的Bリンパ球から得られた抗体遺伝子でさえも使用したものであり、高等真核生物に由来する細胞を使用すると、ライブラリーのサイズ及び可変性が限定されるものであった。本発明において説明される遺伝子標的化の効率の結果、哺乳類細胞などの高等真核生物において、大きなナイーブライブラリーを構築することができ、これは、酵母などの、より単純な真核生物に向けて説明されるものに適合するものである。
【0097】
ドナーDNAを細胞DNAへ組込んだ後、得られる組換え細胞を培養することで、その複製が可能になり、初期に産生したそれぞれの組換え細胞に由来して、細胞のクローンを生成する。したがって、それぞれのクローンは、部位特異的ヌクレアーゼによって創出された組込み部位に、ドナーDNAが組込まれた元の1つの細胞に由来するものである。本発明による方法は、ドナーDNAの高効率かつ高忠実度である組込みと関連しており、本発明によるライブラリーは、少なくとも100、10、10、10、10、10、10、10、または1010個のクローンを含み得る。
【0098】
ヌクレアーゼ指向型組込みを使用することで、遺伝子導入された哺乳類細胞の10%またはそれより多くの細胞を標的とすることが可能である。細胞を増殖させ、>1010個の細胞(例えば、2x10個の細胞/mlで増殖している5リットルの細胞由来)を形質転換することも実用的である。そのような大きな数の細胞の遺伝子導入は、本明細書に記載のようなポリエチレンイミン媒介性の遺伝子導入を含む標準方法を使用して実施することができる。さらに、方法は、5分間で1010個の細胞を処理する高効率な電気穿孔に利用可能であり、例えば、http://www.maxcyte.comである。したがって、本発明の手法を使用することで、10個のクローンを超えるライブラリーの創出が可能である。
【0099】
ライブラリーの創出に使用されるドナーDNA分子の集団が、同一配列の複数のコピーを含んでいると、同一の結合体をコードするDNAを含む2つ以上のクローンを取得し得る。例えば、本明細書の他の箇所に詳細に記載されるように、部位特異的ヌクレアーゼ向けの、複数の認識配列が存在するのであれば、クローンが、複数の異なる結合体をコードするドナーDNAを含み得る場合もあり得る。したがって、ライブラリーの多様性は、コードまたは発現する異なる結合体の数に関して、得られるクローンの数とは異なり得る。
【0100】
ライブラリーのクローンは、好ましくは、結合体レパートリーの1つまたは2つのメンバーをコードするドナーDNAを含み、及び/または好ましくは、結合体レパートリーの1つまたは2つのメンバーのみを発現する。所与の標的に対するライブラリーの選別時に同定される特定の結合体をコードするクローン及び/またはDNAの同定となれば、異なる結合体の数が細胞当たりで限定されていることは利点である。これは、クローンが、結合体レパートリーの単一メンバーをコードしていると、最も単純である。しかしながら、ライブラリーから選択されたクローンが、少数の異なる結合体をコードするのであれば、所望の結合体をコードする関連DNAを同定することも直接的であり、例えば、クローンが、結合体レパートリーの2つメンバーをコードし得る場合である。本明細書の他の箇所で考察されているように、1つまたは2つの結合体をコードするクローンは、二倍体ゲノムにおいて染色体コピー当たりに1度生じる、部位特異的ヌクレアーゼ向けの認識配列を選択することよって生成させることが特に簡便であり、これは、二倍体細胞は、1つの固定遺伝子座がそれぞれの染色体コピー上に存在する二重の固定遺伝子座を含み、ドナーDNAが、一方または両方の固定遺伝子座に組込まれ得るためである。したがって、ライブラリーのクローンは、それぞれが、結合体レパートリーの1つまたは2つメンバーのみを発現し得る。
【0101】
ライブラリーの細胞表面でディスプレイされる結合体は、同一細胞上でディスプレイされる他の結合体と同一(他の結合体と同一のアミノ酸配列を有する)であり得る。ライブラリーは、それぞれが、結合体レパートリーの単一メンバーをディスプレイする細胞のクローンからなり得るか、または細胞当たり、結合体レパートリーの複数メンバーをディスプレイするクローンからなり得る。あるいは、ライブラリーは、結合体レパートリーの単一メンバーをディスプレイするいくつかのクローン、及び結合体レパートリーの複数メンバー(例えば、2つ)をディスプレイするいくつかのクローンを含んでいてよい。
【0102】
したがって、本発明によるライブラリーは、結合体レパートリーの複数メンバーをコードするクローンを含み得、ドナーDNAは、二重の固定遺伝子座または複数の独立した固定遺伝子座に組込まれる。
【0103】
上に記載したとおり、対応するクローンが、1つの結合体のみを発現するのであれば、対応する結合体コード遺伝子を同定することは、最も簡単なことである。典型的には、ドナーDNA分子は、単一の結合体をコードすることになる。結合体は、多量体であってよく、その結果、ドナーDNA分子は、複数遺伝子を含むか、または多量体である結合体の多様なサブユニットに対応する翻訳領域を含む。
【0104】
本発明によるライブラリーは、少なくとも100、10、10、10、または10、10、10、10、もしくは1010個の異なる結合体をコードし得る。結合体が、多量体である場合、多様性は、結合体の1つまたは複数のサブユニットによって提供され得る。多量体である結合体は、1つまたは複数の可変サブユニットと、1つまたは複数の定常サブユニットと、を組み合わせていてよく、ここで、定常サブユニットは、ライブラリーのすべてのクローンにわたって同一(または多様性が、より限定されている)である。多量体である結合体のライブラリー生成において、組み合わせによる多様性が可能であり、結合体サブユニットの第1レパートリーは、結合体サブユニットの第2レパートリーのいずれともペアになり得る。
【0105】
結合体
本発明による「結合体(binder)」は、結合性分子であり、別の分子に向けた特異的結合性パートナーに相当する。特異的結合性パートナーの典型的な例は、抗体−抗原及び受容体−リガンドである。
【0106】
ライブラリーによってコードされる結合体のレパートリーは、通常、共通構造を共有し、1つまたは複数の多様性領域を有することになる。したがって、ライブラリーによって、ペプチドまたはscFv抗体分子などの、分子の所望の構造クラスのメンバーを選択することが可能となる。例えば、結合体は、共通構造を共有し、かつ1つまたは複数のアミノ酸配列多様性領域を有するポリペプチドであってよい。
【0107】
これは、抗体分子のレパートリーについて考えることによって例証することができる。こうしたものは、一般的な構造クラスの抗体分子であってよく、例えば、その配列の1つまたは複数の領域が異なるIgG、Fab、scFv−Fc、またはscFvである。抗体分子は、典型的には、その相補性決定領域(CDR)において、配列可変性を有し、相補性決定領域は、抗原認識に第1に関与する領域である。本発明における結合体のレパートリーは、1つまたは複数のCDRが異なる抗体分子のレパートリーであってよく、例えば、6つすべてのCDRに配列多様性が存在してよく、または重鎖CDR3及び/もしくは軽鎖CDR3などの1つもしくは複数の特定のCDRに配列多様性が存在してよい。
【0108】
抗体分子及び他の結合体については、本明細書の他の箇所に、より詳細に記載されている。しかしながら、本発明の可能性は、抗体ディスプレイを超えて広がり、受容体、リガンド、個々のタンパク質ドメイン、及び代替のタンパク質骨格[58、59]を含むペプチドまたは操作されたタンパク質のライブラリーのディスプレイを含むものである。ヌクレアーゼ指向型の部位特異的組込みは、他のディスプレイシステムを使用して、予め操作された他の型の結合体のライブラリーを作成するために使用することができる。こうしたものの多くが、DARPin及びリポカリン、affibody及びadhiron[58、59、152]などの単量体結合ドメインを含む。真核生物上、特に哺乳類細胞上でのディスプレイも、より複雑かつ多量体である標的が関与する、結合体または標的の単離及び操作の可能性を広げるものである。例えば、T細胞受容体(TCR)は、T細胞上に発現し、抗原提示細胞上のMHC分子との複合体において提示されるペプチドを認識するために進化してきた。TCRのレパートリーをコード及び発現するライブラリーを生成させてよく、本明細書の他の箇所にさらに記載されるように、MHCペプチド複合体に対する結合を同定するために選別してよい。
【0109】
多量体である結合体に向けては、結合体をコードするドナーDNAは、1つまたは複数のDNA分子として提供されてよい。例えば、個々の抗体のVHドメイン及びVLドメインが、別々に発現されることになる場合、こうしたものは、ドナーDNAの別々の分子上にコードされていてよい。ドナーDNAは、複数の組込み部位で、細胞DNAへと組込まれ、例えば、1つの遺伝子座で、VH向けの結合体遺伝子が組込まれ、第2の遺伝子座で、VL向けの結合体遺伝子が組込まれる。別々の結合体サブユニットをコードするドナーDNAの導入方法は、本明細書の他の箇所に、より詳細に記載されている。あるいは、多量体である結合体のサブユニットまたは部分の両方が、固定遺伝子座に組込まれる同一ドナーDNA分子上にコードされていてよい。
【0110】
結合体は、抗体分子または抗原結合部位を含む非抗体タンパク質であってよい。抗原結合部位は、フィブロネクチンまたはチトクロム等などの非抗体タンパク質骨格上のペプチドループを配置することによって提供されてよく、またはタンパク質骨格内のループのアミノ酸残基を無作為化またはそれに変異導入して、所望の標的に対する結合性を付与する[60、61、62]ことによって提供されてよい。抗体模倣物向けのタンパク質骨格については、WO/0034784において開示されており、その中で、発明者らは、少なくとも1つの無作為化ループを有するフィブロネクチンIII型ドメインを含むタンパク質(抗体模倣物)について説明している。例えば、抗体VHのCDRループのセットといった、1つまたは複数のペプチドループの移植に適した骨格は、免疫グロブリン遺伝子のスーパーファミリーの任意のドメインメンバーによって提供されてよい。骨格は、ヒトタンパク質または非ヒトタンパク質であってよい。
【0111】
非抗体タンパク質骨格における抗原結合部位の使用については、以前に概説されている[63]。典型的には、タンパク質は、安定骨格及び1つまたは複数の可変ループを有し、当該タンパク質においては、1つまたは複数のループのアミノ酸配列に、特異的または無作為に変異が導入され、標的抗原に向けた結合性を有する抗原結合部位が創出されている。そのようなタンパク質には、S.aureusに由来するプロテインAのIgG結合ドメイン、トランスフェリン、テトラネクチン、フィブロネクチン(例えば、第10フィブロネクチンIII型ドメイン)、及びリポカリンが含まれる。他の手法には、例えば、「ノッチン」骨格及びサイクロチド骨格を基礎とする小さな拘束ペプチド(constrained peptide)が含まれる[64]。特にジスルフィド結合の正確な形成に関して、そのサイズの小ささ及び複雑性を考慮すれば、こうした骨格に基づく新規結合体の選択に真核細胞を使用することに対して優位性が存在し得る。天然におけるこうしたペプチドの一般的な機能を考慮すれば、こうした骨格に基づく結合体のライブラリーは、イオンチャネル及びプロテアーゼの遮断における特定用途を有した小さな高親和性の結合体の産生において有利であり得る。
【0112】
抗体配列及び/または抗原結合部位に加えて、結合体は、他のアミノ酸を含んでいてよく、これによって、例えば、折り畳まれたドメインなどのペプチドもしくはポリペプチドが形成されるか、または当該分子に対して、抗原結合能に加えて別の機能特性が付与される。結合体は、検出可能な標識を保有してよく、あるいは毒素または標的化部分もしくは標的化酵素と複合化していてよい(例えば、ペプチド結合またはペプチドリンカーを介して)。例えば、結合体は、触媒部位(例えば、酵素ドメイン中)ならびに抗原結合部位を含んでよく、抗原結合部位は、抗原に結合し、それによって、抗原を触媒部位の標的とする。触媒部位は、例えば、切断によって、抗原の生物学的機能を阻害してよい。
【0113】
抗体分子
抗体分子は、望ましい結合体である。抗体分子は、4つのポリペプチド鎖を有する全抗体または全免疫グロブリン(Ig)であってよく、当該4つのポリペプチド鎖は、すなわち、2つの同一重鎖及び2つの同一軽鎖である。重鎖及び軽鎖は、ペアを形成し、それぞれが、抗原結合部位を含むVH−VLドメインのペアを含む。重鎖及び軽鎖は、定常領域も含む。定常領域は、すなわち、軽鎖のCL、ならびに重鎖のCH1、CH2、CH3、及び場合によってはCH4(第5ドメインであるCH4は、ヒトのIgM及びIgEに存在する)である。2つの重鎖は、可動性のヒンジ領域で、ジスルフィド架橋によって結合する。抗体分子は、VHドメイン及び/またはVLドメインを含んでよい。
【0114】
抗体分子の最も一般的な天然の形式は、IgGであり、IgGは、2つの同一重鎖及び2つの同一軽鎖からなるヘテロ4量体である。重鎖及び軽鎖は、四本鎖逆並行ベータシート及び三本鎖逆並行ベータシートからなる保存された二次構造を有するモジュラードメインから構成されており、単一のジスルフィド結合によって安定化されている。抗体重鎖のそれぞれが、N末端可変ドメイン(VH)及び3つの相対的に保存された「定常」免疫グロブリンドメイン(CH1、CH2、CH3)を有し、一方、軽鎖は、1つのN末端可変ドメイン(VL)及び1つの定常ドメイン(CL)を有する。安定複合体において、ジスルフィド結合は、個々のドメインを安定化し、共有結合を形成して、4つの鎖を結合している。軽鎖のVL及びCLは、重鎖のVH及びCH1と結びついていると共に、こうした要素は、単独で発現させて、Fab断片を形成することができる。CH2ドメイン及びCH3ドメイン(「Fcドメイン」とも呼ばれる)は、別のCH2:CH3のペアと結びついて、4量体であるY字の分子を与え、当該分子は、「Y」の先端に、重鎖及び軽鎖に由来する可変ドメインを有する。CH2ドメイン及びCH3ドメインは、免疫システム内での、エフェクター細胞と、補体成分との相互作用に関与している。組換え抗体は、IgG形式においてか、またはFab(VH:CH1と、軽鎖との2量体からなる)としてこれまで発現されてきた。さらに、可変性のリンカーをコードするDNAと遺伝子学的に融合したVH断片及びVL断片をコードするDNAからなる、単鎖Fv(scFv)と呼ばれる人工構築物を使用することができる。
【0115】
結合体は、ヒト抗体分子であってよい。したがって、定常ドメインが存在する場合は、好ましくは、ヒト定常ドメインである。
【0116】
結合体は、単鎖抗体分子などの抗体断片、またはより小さな分子形式であってよい。例えば、抗体分子は、リンカーペプチドによって結合されたVHドメイン及びVLドメインからなるscFv分子であってよい。scFv分子では、VHドメイン及びVLドメインは、VH−VLのペアを形成し、当該ペアにおいて、VH及びVLの相補性決定領域が一緒になって、抗原結合部位を形成する。
【0117】
抗体の抗原結合部位を含む他の抗体断片には、限定はされないが、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、及びCH1ドメインからなるFab断片と、(ii)VHドメイン及びCH1ドメインからなるFd断片と、(iii)単一抗体のVLドメイン及びVHドメインからなるFv断片と、(iv)VHドメインまたはVLドメインからなるdAb断片[65、66、67]と、(v)単離されたCDR領域と、(vi)2つが連結されたFab断片を含む2価断片であるF(ab’)2断片と、(vii)2つのドメインを結び付けて抗原結合部位の形成を可能にするペプチドリンカーによって、VHドメイン及びVLドメインが連結されているscFv[68、69]と、(viii)二重特異性単鎖Fv2量体(PCT/US92/09965)と、(ix)遺伝子融合によって構築された多価断片または多特異性断片である「ダイアボディ(diabody)」(WO94/13804、[70])と、が含まれる。Fv分子、scFv分子、またはダイアボディ分子は、VHドメイン及びVLドメインを連結するジスルフィド架橋を組込むことによって安定化してよい[71]。
【0118】
1つまたは複数の抗体抗原結合部位を含む、様々な他の抗体分子が、操作されており、例えば、Fab、Fab、ダイアボディ、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、及びミニボディ(minibody)(小さな免疫タンパク質)が含まれる。抗体分子及びその構築及び使用に向けた方法は、説明されている[72]。
【0119】
結合断片の他の例は、Fab’であり、Fab’は、重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に、抗体ヒンジ領域に由来する1つまたは複数のシステインを含む数残基が付加していることによって、Fab断片とは異なるものであり、Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基が、遊離のチオール基を有しているFab’断片である。
【0120】
dAb(ドメイン抗体)は、小さな単量体である、抗体の抗原結合断片であり、すなわち、抗体重鎖または抗体軽鎖の可変領域である。VH dAbは、ラクダ科の動物(例えば、ラクダ、ラマ)において、自然に生じ、標的抗原でラクダ科の動物を免疫化し、抗原特異的B細胞を単離して、個々のB細胞に由来するdAb遺伝子を直接クローン化することによって産生させてよい。dAbは、細胞培養において産生させることも可能である。そのサイズの小ささ、溶解性及び温度安定性の良さによって、dAbは、選択及び親和性成熟に向けて、特に生理学的に有用かつ適したものとなっている。ラクダ科の動物のVH dAbは、「nanobody(商標)」という名前で、治療用途に向けて開発されているところである。
【0121】
例えば、Knappikら[73]またはKrebsら[74]によって説明されるように、合成して、適した発現ベクター内に組み入れたオリゴヌクレオチドを用いて生成させた遺伝子から発現させることによって、合成抗体分子を創出してよい。
【0122】
二重特異性または二機能性である抗体は、2つの異なる可変領域が同一分子内で結合した第2世代のモノクローナル抗体を形成するものである[75]。新しいエフェクター機能を補充するその能力、または腫瘍細胞表面の数個の分子を標的とする能力から、診断分野及び治療分野の両方においてそうしたものが使用されてきた。二重特異性抗体が使用されることになる場合、こうしたものは、例えば、化学的な調製もしくはハイブリッドハイブリドーマからの調製といった多様な方法[76]で製造することができる通常の二重特異性抗体であってよく、または上記の二重特異性抗体断片のいずれかであってよい。こうした抗体は、化学的な方法[77、78]、または体細胞による方法[79、80]によって得ることができるが、強制ヘテロ2量体形成を可能し、それによって、探索対象である抗体の精製プロセスを促進する遺伝子工学手法によって同様かつ選択的に得ることができる[81]。二重特異性抗体の例には、BiTE(商標)技術のものが含まれ、当該技術では、異なる特異性を有する2つの抗体の結合ドメインを使用し、短い可動性ペプチドを介して直接連結することができる。これにより、短い単一ポリペプチド鎖上で、2つの抗体が結合される。ダイアボディ及びscFvは、可変ドメインのみを使用して、Fc領域無しで構築することができ、これによって、抗イディオタイプ反応の影響を潜在的に低減されている。
【0123】
二重特異性抗体は、全IgG、二重特異性Fab’2、Fab’PEG、ダイアボディ、あるいは二重特異性scFvとして構築することができる。さらに、当該技術領域において知られる日常的な方法を使用して、2つの二重特異性抗体を連結して、四価の抗体を形成することができる。
【0124】
二重特異性である全抗体とは対照的に、二重特異性ダイアボディも特に有用であり得る。適切な特異性を有するダイアボディ(及び抗体断片などの多くの他のポリペプチド)を容易に選択することができる。抗体の一方のアームが、例えば、関心抗原を対象にした特異性と共に、定常性を保持することになるのであれば、もう一方のアームが多様であるライブラリーを作成することができ、適切な特異性を有する抗体が選択される。二重特異性である全抗体は、Ridgewayら1996[82]によって説明されるように、代替の操作方法を使用して作成してよい。
【0125】
本発明によるライブラリーは、1つまたは複数の関心抗原に結合する抗体分子を選択するために使用してよい。ライブラリーからの選択は、以下に詳細に記載されている。選択の後、抗体分子を操作して、異なる形式とし、及び/または追加の特徴を含めてよい。例えば、選択した抗体分子を、上記の抗体形式の内の1つなどの、異なる形式に変換してよい。選択した抗体分子、ならびに選択した抗体分子のVH及び/またはVLのCDRを含む抗体分子は、本発明の態様である。抗体分子及びそれをコードする核酸は、単離された形態で提供されてよい。
【0126】
抗体断片は、抗体分子を出発物質として、例えばペプシンもしくはパパインといった酵素による消化などの方法によって、及び/または化学的な還元によるジスルフィド架橋の切断によって得ることができる。別の様式では、抗体断片は、当業者によく知られる遺伝子組換え手法によって、あるいは例えば、自動ペプチド合成機を用いたペプチド合成によって、または核酸を合成して発現させることによって得ることができる。
【0127】
モノクローナル抗体及び他の抗体を利用し、組換えDNA技術の手法を使用して、標的抗原に結合する他の抗体またはキメラ分子を産生することが可能である。そのような手法は、異なる免疫グロブリンの定常領域または異なる免疫グロブリンの定常領域に異なる免疫グロブリンのフレームワーク領域が加わったものに対する、抗体の免疫グロブリン可変領域または抗体のCDRをコードするDNAの導入を伴うものであってよい。例えば、EP−A−184187、GB2188638A、またはEP−A−239400、及び数ある後続文献を参照のこと。
【0128】
抗体分子をライブラリーから選択し、その後に修飾してよく、例えば、生体内での抗体分子の半減期を、例えば、PEG化といった化学的修飾、またはリポソーム内への封入によって延長することができる。
【0129】
結合体遺伝子の供給源
モノクローナル抗体の生成に向けた伝統的な経路は、マウス及びウサギのような実験動物の免疫システムを利用して、高親和性抗体のプールを生成させてから、当該高親和性抗体を、ハイブリドーマ技術を使用することによって単離するものである。本発明は、免疫化から生じた抗体を特定するための代替経路を提供する。VH及びVLの遺伝子を、免疫化動物のB細胞から増幅し、真核生物ライブラリーへの導入に向けた適切なベクターへとクローン化した後、こうしたライブラリーから選択することができる。ファージディスプレイ及びリボソームディスプレイによって、非常に大きなライブラリー(>10クローン)を構築することが可能であり、これによって、免疫化無しにヒト抗体を単離することが可能となる。本発明は、そのような方法と併せて使用することもできる。ファージディスプレイでの選択ラウンドの後に、本明細書に記載のように、ヌクレアーゼ指向型の組込みによって、選択した結合体集団を真核細胞へと導入することができる。これによって、他のシステム(例えば、ファージディスプレイ)に基づく非常に大きなライブラリーを最初に使用して、結合体集団を濃縮することが可能になると同時に、上記のように真核細胞を使用したその効率的な選別が可能になるであろう。したがって、本発明は、ファージディスプレイ及び真核生物ディスプレイの両方の最良の特徴を組み合わせて、定量的スクリーニング及びソーティングが可能な高処理システムを提供することができる。
【0130】
十分なサイズのディスプレイライブリーが使用されることを条件であるが、ファージディスプレイ及び酵母ディスプレイを使用して、免疫化に頼ることなく、結合体を生成させることも可能であることをこれまでに示した。例えば、複数の結合体を>10個のクローンを有する非免疫の抗体ライブラリーから生成させた[83]。同様にして、これにより、伝統的な免疫化経路によっては標的とすることが困難である標的に対する結合体を生成させることが可能となり、例えば、「自己抗原(self−antigen)」または種間で保存されているエピトープに対する抗体を生成させることが可能になる。例えば、ヒト/マウス交差反応性である結合体を、ヒトで連続的に選択してから、同一標的のマウス版で選択することによって濃縮することができる。関心標識のほとんどに対して、ヒトを特異的に免疫化することは不可能であるので、治療手法に好ましいヒト抗体の生成を可能にすることにおいて、この容易さは、特に重要である。
【0131】
今日までの哺乳類ディスプレイの例では、ライブラリーのサイズ及び質が限定されている場合、結合体は、例えば、免疫化、または既存結合体を操作して得られる結合体を事前に濃縮したレパートリーを使用して生成されたにすぎなかった。真核細胞、及び具体的には高等真核生物において大きなライブラリーを作成する能力は、非免疫結合体、または別のシステム内でこれまで選択されたことのない結合体、から出発するこうしたライブラリーから結合体を直接単離する可能性を創出するものである。本発明により、非免疫源から結合体を生成させることが可能である。次いでは、これにより、複数の供給源に由来する結合体遺伝子の使用に向けた可能性が開かれる。結合体遺伝子は、抗体遺伝子などの天然源を使用したPCRから得ることができる。結合体の遺伝子は、抗体のファージディスプレイライブラリーなどの現存ライブラリーから再クローン化し、標的細胞へのヌクレアーゼ指向型の組込みに向けた最適なドナーベクターへとクローン化することもできる。結合体の起源は、完全合成または部分合成のものであってよい。さらに、多様な型の結合体が、本明細書の他の箇所に記載されており、例えば、結合体遺伝子は、抗体をコードするか、あるいは代替骨格[58、59]、ペプチド、または操作されたタンパク質もしくはタンパク質ドメインをコードすることができる。
【0132】
結合体ディスプレイ
関心標的に対する選別に向けて、結合体レパートリーを提供するために、ライブラリーを培養し、可溶性の分泌形態または膜貫通形態のいずれかにおいて、結合体を発現させてよい。細胞表面ディスプレイに向けては、結合体をコードする細胞の表面に、発現した結合体を保定する必要がある。結合体は、細胞表面での結合体の細胞外ディスプレイに向けて、膜貫通ドメインなどの膜アンカーを含むか、またはそれに連結されていてよい。これには、GPI認識配列などの膜局在シグナルに対する結合体の直接的な融合、またはPDGF受容体[84]の膜貫通ドメインなどの膜貫通ドメインに対する結合体の直接的な融合が伴ってよい。細胞表面での結合体の保定は、同一細胞内で発現される別の細胞表面保定分子との会合によって間接的に実施することもできる。この結合される分子は、それ自体がヘテロ2量体である結合体の一部となることができ、当該結合される分子は、例えば、直接的に繋留されていない軽鎖パートナーと会合状態にある、繋留された抗体重鎖などである。
【0133】
細胞表面への固定化は、結合体の選択を促進するものの、多くの用途において、細胞を含まない分泌結合体を調製する必要がある。分泌結合体を細胞表面受容体に結合する再捕捉方法を使用して、膜繋留と、可溶性分泌とを組み合わせることが可能となる。1つの手法は、分泌結合体を捕捉するために機能できる、同一細胞内で発現する膜繋留分子と結合することができる分泌分子として、結合体ライブラリーを編成するものである。例えば、抗体または抗体Fc領域に融合した結合体分子の場合は、膜に繋留されたFcが、同一細胞において発現している分泌結合体分子を「試料採取(sample)」できることで、発現している結合体分子の単量体画分のディスプレイをもたらすと同時に、残りは2価の形態として分泌される(US8,551,715)。代替手法としては、プロテインAなどのIgG結合ドメインを繋留して使用することである。
【0134】
分泌抗体を、その産生細胞に保定する他の方法[85]は、Kumer et al.(2012)において概説されており、微小滴内への細胞封入、マトリックスに支援される捕捉、親和性捕捉表面ディスプレイ(affinity capture surface display)(ACSD)、分泌及び捕捉技術(secretion and capture technology)(SECANT)、ならびに「コールド捕捉(cold capture)」[85]が含まれる。ACSD及びSECANT[85]の例では、ビオチン化を使用して、細胞上での、ストレプトアビジンの固体化または抗体捕捉を促進する。捕捉された分子は、次に、分泌抗体を捕捉する。SECANTの例では、分泌分子のビオチン化が生体内で起こる。「コールド捕捉」手法を使用することで、分泌分子を対象とする抗体を使用して、産生細胞上で、分泌抗体を検出することができる。これは、分泌抗体と、細胞の多糖外被との結合に起因するものであると提唱されている[86]。あるいは、分泌産物が、形質膜陥入する前に、細胞表面で、染色抗体によって捕捉されることが示唆されている[87]。上記の方法は、集団内の高発現クローンの同定に使用されてきたが、細胞表面での会合が十分に長寿命であることを条件として、結合特異性の同定に適応させることができる可能性がある。
【0135】
結合体が、細胞表面に直接的に繋留されるときでさえ、可溶性産物を生成させることが可能である。例えば、分泌結合体をコードする遺伝子を回収し、膜繋留配列を欠いた発現ベクターへとクローン化することができる。あるいは、実施例において示されているように、リコンビナーゼ部位と隣接するエクソン内に膜貫通ドメインをコードする発現用構築物を使用することができ、当該リコンビナーゼ部位は、例えば、Dreリコンビナーゼ向けのROX認識部位である[88]。この例では、Dreリコンビナーゼをコードする遺伝子を遺伝子導入することによって、膜貫通ドメインをコードするエクソンを除去して、発現を分泌型に切り替えることができる。本明細書で示されるように、リコンビナーゼの作用を必要とすることなく、分泌抗体をこの方法によって産生させた。これは、選択的スプライシングの結果であると推定される[89]。
【0136】
上記方法のいずれかまたは他の適した手法を使用して、ライブラリーのクローンが発現する結合体を、その発現細胞の表面に確実にディスプレイすることができる。
【0137】
関心標的に対する結合体を同定するための選別
記載のように、標的を認識する結合体の選別方法において、真核細胞ライブラリーを使用してよい。そのような方法は、
本明細書に記載のライブラリーの提供と、
結合体を発現させるための、ライブラリーの細胞の培養と、
標的に対する結合体の曝露であって、それによって、存在するのであれば1つまたは複数の同種結合体による標的の認識が可能になる当該曝露と、
標的が、同種結合体によって認識されたかどうかの検出と、
を含んでよい。
【0138】
選択は、広範な標的分子クラスを使用して実施することができ、標的分子クラスは、例えば、タンパク質、核酸、糖質、脂質、小分子である。標的は、可溶性の形態において提供されてよい。標的は、検出を容易にするために標識されていてよく、例えば、標的は、蛍光標識を有するか、またはビオチン化されていてよい。結合体が、標識された分子を捕捉するものである場合、直接的または間接的に標識された標的分子を使用して、標的に特異的な結合体を発現する細胞を単離してよい。例えば、結合体:標的の相互作用を介して、蛍光標識された標的に結合する細胞を検出し、フローサイトメトリーまたはFACSによって選別して、所望の細胞を単離することができる。サイトメトリーを伴う選択には、標的分子が、直接的に蛍光標識されているか、または二次試薬で検出することができる分子で標識されている必要があり、例えば、ビオチン化標的を細胞に添加して、細胞表面に対する結合をストレプトアビジン−フィコエリトリンなどの蛍光標識されたストレプトアビジンで検出することができる。さらなる可能性は、標的分子を固定化するか、または磁気ビーズもしくはアガロースビーズなどの個体表面で標的に結合する二次試薬を固定化し、標的に結合する細胞の濃縮を可能にすることである。例えば、結合体:標的の相互作用を介して、ビオチン化標的に結合する細胞は、ストレプトアビジン被覆ビーズなどの、ストレプトアビジンで被覆された基質で単離することができる。
【0139】
ライブラリーの選別では、ライブラリーの効果的な提示を確実なものとするために、過剰な試料採取、すなわち、ライブラリー内に存在する独立クローンの数を超えるクローンを選別することが好ましい。流動選別によって、本発明が提供する非常に大きなライブラリーに由来する結合体を同定することができるが、これは、数日を要するであろうし、ライブラリーから過剰な試料採取を行うのであれば、特にそうである。代替として、回収可能な抗原の使用に基づいて、最初の選択を実施することができ、当該回収可能な抗原は、例えば、ストレプトアビジンで被覆された磁気ビーズで回収されるビオチン化抗原である。したがって、ストレプトアビジンで被覆された磁気ビーズを使用して、ビオチン化抗原に結合した細胞を捕捉することができる。磁気ビーズでの選択は、選択のみを実施する方法として使用するか、またはフローサイトメトリーと併用して実施することができ、この場合、より良い分離を達成することができ、例えば、発現レベルが上昇しているクローンの識別、及び親和性が上昇しているクローンの識別である[56、57]。
【0140】
ディスプレイ技術を使用した手法の試験管内での性質は、免疫化では不可能な方法での選択制御を可能にするものであり、例えば、標的の特定の立体構造状態での選択が可能である[90、91]。化学的修飾(フルオレセイン、ビオチン)を介するか、あるいは遺伝子融合(例えば、FLAGタグなどのエピトープタグ、または別のタンパク質ドメインもしくは全タンパク質に融合したタンパク質)によって、標的にタグを付加することが可能である。タグは、核酸(例えば、DNA、RNA、または非生物学的な核酸)であり得、この場合、タグは、標的核酸分子の一部として融合されるか、またはタンパク質などの別の型の分子に化学的に付加することができる。これは、化学的結合または酵素的な付加を介するものであり得る[92]。リボソームディスプレイなどの翻訳プロセスを介して、核酸を標的に融合させることもできる。「タグ(tag)」は、細胞内で生じる別の修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化、ユビキチン化、アルキル化、PAS化、SUMO化、及びhttp://dbptm.mbc.nctu.edu.tw/statistics.phpの翻訳後修飾データベース(Post−translational Database)(db−PTM)において説明されている他のもの)であってよく、当該修飾は、二次試薬を介して検出することができる。これによって、特定の修飾に基づいて、未知の標的タンパク質に結合する結合体が得られるであろう。
【0141】
例えば、標的に対して特異的な抗体といった、その標的分子に結合する現存の結合体を使用して、標的分子を検出することができる。検出に現存の結合体を使用することで、検出に使用する結合体とは異なるエピトープを認識する結合体のライブラリー内の結合体の同定がさらに有利なものとなるであろう。この方法では、サンドイッチELISAなどの用途における使用に向けて、結合体のペアを同定することができる。可能な場合、精製された標的分子が好ましいであろう。あるいは、標的は、標的細胞集団の表面にディスプレイされてよく、結合体は、ライブラリー細胞の表面にディスプレイされ、この方法は、ライブラリー細胞を標的細胞へと接触させることによって、標的に対して結合体を曝露することを含むものである。標的を発現する細胞を回収(例えば、標的を発現するビオチン化細胞を使用して)することによって、標的を発現する細胞に対する結合体を発現する細胞の濃縮が可能となる。この手法であれば、強い結合力効果が発生する可能性があるため、低親和性相互作用が関与している場合に有効であろう。
【0142】
(上記のような)細胞結合を同定するために、検出分子が利用可能なことが条件であるが、標的分子は、未精製組換え体または未精製天然標的でもあり得る。さらに、結合体を発現する細胞に対する標的分子の結合は、検出される別の分子に標的分子が結合することを介して、間接的に検出することができ、例えば、タグを有する分子を含む細胞可溶化液を、結合体ライブラリーと共にインキュベートして、タグを有する分子に対する結合体だけでなく、タグを有する分子の結合パートナータンパク質に対する結合体も同定することができる。これによって、パートナーの検出または同定(例えば、質量分析を使用して)に使用することができる、こうしたパートナーに対する抗体のパネルがもたらされるであろう。細胞分画を使用することで、特定の細胞内位置に由来する標的を濃縮することができる。あるいは、真核生物ディスプレイに向けて、ストレプトアビジン検出試薬と併せて、表面画分または細胞質画分の分画ビオチン化を使用することができる[93、94]。界面活性剤で可溶化した標的調製物を使用することは、変性させなければ調製することが困難であるGPCR及びイオンチャネルなどの未変性膜タンパク質に向けては、特に有用な手法である。界面活性剤が存在すると、結合体をディスプレイする真核細胞に対して有害な効果を有し得、このため、選択した細胞をさらに増殖させることなく、結合体の遺伝子を回収する必要がある。
【0143】
同種結合体による標的認識の検出後に、同種結合体をコードするDNAを含むクローンの細胞を回収してよい。その後、回収したクローンから、結合体をコードするDNAを単離(例えば、同定または増幅)し、それによって、標的を認識する結合体をコードするDNAを得てよい。
【0144】
例示の結合体及び標的は、本明細書の他の箇所に詳細に記載されている。古典的な例は、抗体分子のライブラリーであり、関心標的抗原に対する結合を選別し得るものである。他の例には、標的MHC:ペプチド複合体に対するTCRのライブラリーの選別、または標的TCRに対するMHC:ペプチド複合体のライブラリーの選別が含まれる。
【0145】
TCR:MHC相互作用及び他の受容体の相互作用
T細胞受容体(TCR)は、T細胞上に発現し、抗原提示細胞上にMHC分子との複合体において提示されるペプチドを認識するために進化してきたものである。TCRは、ヘテロ2量体であり、95%の場合が、アルファ及びベータのヘテロ2量体からなり、5%の場合が、ガンマ及びデルタのヘテロ2量体からなる。両方の単量体ユニットが、N末端免疫グロブリンドメインを有し、当該ドメインは、標的との相互作用の推進に関与する3つの可変相補性決定領域(CDR)を有している。機能性TCRは、他のサブユニットの複合体内に存在し、シグナル伝達は、CD4分子及びCD8分子(それぞれクラスI及びクラスIIのMHC分子に特異的)での同時刺激によって増進される。抗原提示細胞でタンパク質が処理され、それ自体が多量体タンパク質複合体の一部であるMHC分子との複合体において細胞表面に提示される。「自己(self)」が起源であるペプチドを認識するTCRは、発生段階で除去されると共に、抗原提示細胞上に提示される外来ペプチドの認識に向けてシステムが準備されて、免疫応答を引き起こす。ペプチド:MHC複合体の認識による結果は、T細胞の独自性及びその相互作用の親和性に依存するものである。
【0146】
例えば、自己免疫疾患において生じるような病理学的な状態に関与する相互作用を推進するTCRまたはMHC:ペプチド複合体をコードする遺伝子を同定することは、有用であろう。自己免疫疾患の場合は、例えば、病理学的な状態を推進するTCRといった相互作用パートナーを同定すれば、そのような相互作用の特異的な遮断、または害を与える細胞障害性の細胞の除去、のいずれかへの道を築くことができる。例えば、癌におけるT細胞の再標的化または現存T細胞の作用増進[95]における、例えば、関心標的に対する親和性の強化といった、結合性の変更に向けて、TCRを操作することが望ましいであろう。あるいは、例えば、特異的TCRの、T細胞への導入によるか、または発現TCRタンパク質の、治療実体としての使用による、癌の免疫治療の指示もしくは増進に向けて、治療様式として制御性T細胞または抑制性T細胞の挙動を変えてよい[96]。
【0147】
酵母細胞の表面及び哺乳類細胞の表面での、TCRライブラリーのディスプレイは、これまでに示されてきた。酵母細胞の場合は、TCRを操作し、単鎖形式でTCRを提示することが必要であった。TCRと、ペプチド:MHC複合体との相互作用の親和性は低いため、可溶性成分(例えば、この場合は、ペプチド:MHC)は、通常、多量体形式において提示される。TCR特異性は、MHCクラスI[97]及びMHCクラスII[98]との複合体におけるペプチドに向けて操作された。TCRは、変異体マウスT細胞(TCRのアルファ鎖及びベータ鎖を欠いている)の表面にも発現され、結合特性が改善した変異体TCRが単離された[99]。例えば、Chervinらは、レトロウイルス感染によって、TCRを導入し、有効なライブラリーサイズが、10個のクローンであるライブラリーを生成させた[100]。本明細書で提唱するような、ヌクレアーゼ指向型の結合体の組込みを使用することで、類似の手法をT細胞の操作に適用することができる。認識特性が変化したTCRの選択に加えて、ディスプレイライブラリーを使用して、TCRによる認識に向けて、ペプチドライブラリーまたはMHC変異体ライブラリーを選別することができる。例えば、ペプチド:MHC複合体は、昆虫細胞上にディスプレイされ、多量体形式において提示されたTCRのエピトープマッピングに使用された[101]。
【0148】
記載のように、選別方法は、細胞表面での結合体レパートリーのディスプレイと、多量体標的であり得る、可溶性分子として提示される標的での探索と、を含んでよい。結合体及び標的が、異なる細胞表面に提示される場合、細胞:細胞の相互作用を直接的に選別することが代替手法であり、これは、標的が多量体である場合に特に有用であり得る。例えば、関心TCRの活性化が、レポーター遺伝子の発現を引き起こすのであれば、ペプチド:MHCライブラリー内に提示される活性化ペプチドまたは活性化MHC分子の同定に使用することができる。この特定の実施例では、レポーター細胞は、ライブラリーのメンバーをコードはしないが、それを確実にコードする細胞の同定に使用することができる。当該手法は、「ライブラリー対ライブラリー」の手法にまで拡張できる可能性がある。例えば、上記の実施例を拡張することで、ペプチド:MHCライブラリーに対してTCRライブラリーを選別することができる。より広くは、1つの細胞表面に提示される結合体のライブラリーを選別する実施例を、別の細胞上の結合パートナーを使用することで、他の型の細胞:細胞相互作用にまで拡張することができ、これは、例えば、Notch経路またはWnt経路内のシグナル伝達を阻害または活性化する結合体の同定である。したがって、細胞:細胞相互作用に基づく認識システムを含む、代替の細胞に基づく選別システムにおいて、本発明を使用することができる。
【0149】
例として、キメラ抗原受容体(「CARS」)は、抗体結合ドメイン(通常、scFvとして編成される)と、シグナル伝達ドメインと、の融合体に相当するものである。こうしたものは、生体内においてT細胞に再指示することで、抗体認識を介して腫瘍細胞を攻撃させると共に、腫瘍特異的抗原に対して結合させる目的で、T細胞へと導入されてきた。数多くの異なる因子が、この方針の成功に影響を与えることができ、当該因子には、抗体特異性の組み合わせ、形式、抗体親和性、リンカーの長さ、融合されるシグナル伝達モジュール、T細胞における発現レベル、T細胞サブタイプ、及びCARと、他のシグナル伝達分子との相互作用が含まれる[102、103]。初代T細胞において、上記変数の個々または組み合わせを組込んで、CARの大きなライブラリーを創出できる能力があれば、有効かつ最適なCAR構築物の機能探索が可能となるであろう。この機能「探索(search)」は、試験管内または生体内で実施することができる。例えば、Alonso−Camino(2009)は、TCR:CD3複合体のζ鎖に対して、CEAを認識するscFvを融合し、この遺伝子構築物をヒトJurkat細胞株へと導入した[104]。HeLa細胞上または腫瘍細胞上のいずれかに存在するCEAとの相互作用に際して、初期T細胞活性化マーカーであるCD69の発現上昇が示された。この手法を使用することで、培養細胞または初代細胞を使用して、適切な活性化特性または阻害特性を有するCAR融合構築物を同定することができる。
【0150】
さらにもう一段階進んだ、CAR構築物の機能性を生体内で評価することができる。例えば、初代マウスT細胞において構築されたCARのライブラリーを担腫瘍マウスへと導入し、腫瘍との遭遇を介して増殖刺激されたT細胞クローンを同定することができる。必要であれば、上記の方法を使用することで、抗原結合特異性に基づいて、このT細胞ライブラリーを事前に選択することができる。いずれに場合においても、新規結合体ライブラリーを使用して、現存する結合体分子(例えば、MHCまたはTCRまたは抗体可変ドメイン)を置き換えることができる。
【0151】
表現型の選別
細胞のシグナル伝達及び細胞の挙動を修飾する結合体の様々な選択方法が、本明細書に記載されている。
【0152】
結合体の、標的に対する結合体の作用の結果として変化した細胞表現型に向けて、ライブラリーが選別されてよい。
【0153】
リガンドまたは受容体に結合することによって細胞のシグナル伝達を修飾する抗体は、薬物開発において、実績が証明されており、そのような治療抗体に対する需要は増すばかりである。そのような抗体及び他のクラスの機能性結合体は、生体内及び試験管内での細胞の挙動制御における可能性も有する。しかしながら、細胞の挙動を制御及び指示する能力は、特定のシグナル伝達経路を制御する天然リガンドの利用可能性に依存するものである。残念なことに、幹細胞の分化を制御するもの(例えば、FGF、TGFベータ、Wnt、及びNotchのスーパーファミリーのメンバー)などの天然リガンドの多くが、雑多な相互作用を示し、その不十分な発現/安定性特性に起因して利用可能性が限定されることが多い。抗体は、それが精巧な特異性を有していることから、細胞の挙動制御において大きな可能性を有している。
【0154】
細胞のシグナル伝達を修飾する機能性抗体の同定は、クローン選定、抗体発現、配列及び結合特性による特徴づけ、哺乳類発現システムへの変換、ならびに細胞に基づく機能アッセイに供すことを伴い、歴史的にみて、相対的に多くの時間と労力を要するものであった。本明細書に記載の真核生物ディスプレイ手法であれば、この労力を減らすことになるが、抗体を産生させ、別々のレポーター細胞培養物に添加することが依然として必要である。したがって、産生細胞自体をレポーター細胞として使用することによって、細胞のシグナル伝達または細胞の挙動に対する結合作用に向けて、真核細胞において発現される結合体のライブラリーを直接的に選別することが好ましい代替手法であり得る。抗体遺伝子の導入後に、得られる細胞集団内で、レポーター遺伝子の発現変化または表現型の変化を示すクローンを同定することができる。
【0155】
最近の論文の多くが、レポーター細胞へと抗体遺伝子のレパートリーをクローン化することによって、抗体ライブラリーを構築することについて説明している[47、105、106]。こうしたシステムは、1つの細胞内で、発現と、レポーティングとを組み合わせており、典型的には、(例えば、ファージディスプレイを使用して)前定義標的に対して選択された抗体集団を導入するものである。
【0156】
抗体遺伝子集団は、レポーター細胞へと導入し、本明細書に記載の方法によって、ライブラリーを産生させてよく、表現型(例えば、遺伝子発現変化または生存変化)において抗体指向型の変化を有する集団内のクローンを同定することができる。この表現型指向型の選択が、そこで機能するには、発現細胞(遺伝子型)内に存在する抗体遺伝子と、抗体発現の結果(表現型)と、のつながりが保持されることが必要要件である。これは、抗体ディスプレイに向けて説明されるような、細胞表面への抗体の繋留[47]、または産生細胞の近傍において分泌抗体を保定するための半固体媒体の使用[105]、のいずれかを介して以前に達成されている。あるいは、抗体及び他の結合体は、細胞内に保定することができる[107]。細胞表面または媒体周囲において保定された結合体は、内在性または外来性の受容体と、細胞表面で相互作用することができ、これによって、受容体の活性化を引き起こす。これは、次に、レポーター遺伝子の発現変化または細胞表現型の変化を引き起こすことができる。代替として、抗体は、受容体またはリガンドを遮断して、受容体の活性化を低減することができる。その後、細胞の挙動の修飾を引き起こす結合体をコードする遺伝子を、産生またはさらなる操作に向けて回収することができる。
【0157】
この「標的指向型(target−directed)」手法に対する代替として、特定標的に対して事前選択されていない「ナイーブ」抗体集団を導入することが可能である[108]。細胞のレポーティングシステムは、挙動が変化した集団のメンバーを同定するために使用される。標的の先行知見が存在しないため、この非標的手法では、大きな抗体レパートリーが特に必要となり、これは、標的に対して抗体集団を事前に濃縮することが不可能なためである。この手法は、本発明において記載されるようなヌクレアーゼ指向型の、導入遺伝子の組込みを使用することで、有利なものとなるであろう。
【0158】
「機能選択(functional selection)」手法は、真核細胞、具体的には、哺乳類細胞などの高等真核生物におけるライブラリーが関与する他の用途で使用することができる。標的に対する結合が、受容体の活性化を引き起こすように、抗体をシグナル伝達ドメインに融合することができる。Kawaharaらは、キメラ受容体を構築しており、ここで、フルオレセインを標的とする細胞外scFvは、スペーサードメイン(Epo受容体のD2ドメイン)と、様々な細胞内サイトカイン受容体ドメインと、に融合したものであり、当該細胞内サイトカイン受容体ドメインには、トロンボポエチン(Tpo)受容体、エリスロポエチン(Epo)受容体、gp130、IL−2受容体、及びEGF受容体が含まれる[109、110、111]。こうしたものは、IL3依存性プロB細胞株(BaF3)へと導入され[27]、ここで、キメラ受容体は、抗原依存性である、キメラ受容体の活性化を示し、これによって、IL−3非依存性の増殖を引き起こすことが示された。これと同一の手法が、モデル実験において使用され、BaF3細胞の化学誘引を抗原が媒介することが示された[110]。当該手法は、安定培養細胞を超えて、Tpo応答性造血幹細胞の生存及び増殖[112]によって例示される初代細胞、またはIL2依存性初代T細胞にまで拡張され、ここで、Tpo及びIL−2による通常刺激は、scFvキメラ受容体のフルオロセイン指向型刺激によってそれぞれ置き換えられた。したがって、キメラ抗体−受容体キメラに基づくシステムを使用して、初代レポーター細胞または安定レポーター細胞における、標的依存性である遺伝子発現変化または表現型変化を推進することができる。この能力を使用して、シグナル伝達応答を推進する融合した結合体、または当該応答を阻害する結合体を同定することができる。
【0159】
上記手法を改変したものでは、抗リゾチーム抗体に由来する別々のVHドメイン及びVLドメインが、Epoの細胞内ドメインに融合された[113]。細胞は、リゾチームの添加に応答して増殖し、これは、抗体が、別々であるVH融合パートナー及びVL融合パートナーの2量体形成または安定化を誘導したことを示している。したがって、このシステムにおける最適応答に向けて、3つの相互作用成分が一緒になったものである。
【0160】
ここでは、抗体分子を参照して記載したが、上記方法は、他の結合体ライブラリーにも適応し得ると共に、それを使用して実施してよい。
【0161】
タンパク質断片の相補性は、哺乳類細胞におけるタンパク質:タンパク質相互作用の研究及び選択に向けた代替システムに相当するものである[114、115]。これには、タンパク質:タンパク質相互作用を介して、開裂したレポータータンパク質を修復する機能が関与している。使用されたレポータータンパク質には、ユビキチン、DNAEインテイン、ベータ−ガラクトシダーゼ、ジヒドロ葉酸還元酵素、GFP、ホタルルシフェラーゼ、ベータ−ラクタマーゼ、TEVプロテアーゼが含まれる。例えば、この手法の最近の例は、哺乳類膜ツーハイブリッド(MaMTH)手法であり、ベイトタンパク質:開裂ユビキチン:転写因子の融合体と、パートナータンパク質:開裂ユビキチン:と、が会合することで、ユビキチン認識が修復され、転写因子が遊離して、レポーター遺伝子の発現を引き起こすものである[116]。さらに、シグナル伝達の攪乱を介して、この相互作用を妨害または増進する結合体を同定することができる。
【0162】
結合体及びコードDNAの回収及び再編成
ライブラリーから関心結合体または関心クローンを選択した後の、一般的な次の段階は、結合体をコードするDNAの単離(例えば、同定または増幅)であろう。任意選択で、例えば、結合体を再構築し、及び/または異なるベクターへとコード配列を挿入するために、結合体をコードする核酸を修飾することが望ましくあり得る。
【0163】
結合体が、抗体分子である場合は、方法は、クローン細胞からの、抗体分子をコードするDNAの単離と、少なくとも1つの抗体可変領域、好ましくはVHドメイン及びVLドメインの両方をコードするDNAの増幅と、抗体分子をコードするベクターを提供するための、ベクターへのDNAの挿入と、を含んでよい。可溶性分泌形態での発現に向けて、定常ドメインを有する多量体抗体分子を単鎖抗体分子に変換してよい。
【0164】
抗体は、異なる形式で提示されてよいが、選択される抗体形式がどのようなものであれ、抗体遺伝子が一旦単離されると、数多くの異なる形式に再形成することが可能である。VHドメインまたはVLドメインが、一旦単離されると、それらは、必要なパートナードメインを包含する発現ベクターへと再クローン化することができる(二重プロモーターIgG発現カセットが示されている実施例1を参照のこと)。
【0165】
再編成段階は、サブユニットのペアからなる結合体(例えば、scFv分子)の、異なる分子結合体形式(例えば、IgまたはFab)への再編成を含んでよく、当該段階において、サブユニットの元のペアは維持される。そのような方法は、本明細書の他の箇所に、より詳細に記載されており、モノクローナルクローンの再編成、オリゴクローナルクローンの再編成、またはポリクローナルクローンの再編成に使用することができる。方法を使用することで、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、またはリボソームディスプレイを含む、一般に使用されるディスプレイ技術のいずれかに由来する全アウトプット集団を「一斉(en masse)」変換することができる。
【0166】
Fcドメインに融合した哺乳類細胞の表面でのscFvのディスプレイ
抗体ファージディスプレイライブラリーの多くが、scFvをディスプレイするために編成されるが、真核生物ディスプレイシステムであれば、Fab形式またはIgG形式での提示が可能となるであろう。IgG/Fab発現に向けた可能性を完全に利用するために、細菌発現システム内で連結されたVHドメイン及びVLドメインを選択取得し、適切な定常ドメインと融合した真核生物システム内でそれらを発現することが必要であろうし、他のディスプレイシステムに由来するscFvを使用するときは、特にこのことが必要であろう。本明細書には、scFv集団の免疫グロブリン(Ig)形式または断片形式、抗原結合(Fab)形式への変換方法であって、その結果、VH鎖及びVL鎖の元のペアが維持される変換方法が記載されている。本発明では、scFvとして編成された個々のクローン、オリゴクローナル混合物、または全体集団を使用して、VH鎖及びVL鎖の元のペアを保持しながら変換することが可能である。方法は、新しい「スタッファー(stuffer)」DNA断片をもたらす、中間の非複製「小環(mini−circle)」DNAの生成を介して進行するものである。環状DNAは、直鎖化し(例えば、制限消化またはPCRによって)、これによって、元のVH断片及びVL断片の相対的位置が変化し、それらの間に、「スタッファー」DNAが設置される。直鎖化の後、産物は、例えば、哺乳類発現ベクターといった選択ベクターへとクローン化することができる。このように、VH及びVL以外のすべての要素を置き換えることができる。哺乳類発現及び代替パートナーへの融合に向けた要素で、細菌発現に向けた要素を置き換えることができる。完全な変換プロセスに必要となるのは、Ecoli細菌の単回の形質転換段階のみであり、これによって、細菌コロニーの集団が生成し、それぞれの細菌コロニーが、特有のIg編成またはFab編成された組換え抗体をコードするプラスミドを保有する。scFvからIgG/Fabへの変換を超えて拡張することで、方法を用いて、任意の2つの結合したDNA要素を再編成して、ベクターへとクローン化することができ、その結果、元のペアを維持しながら、異なるDNA制御特徴が、それぞれの再編成DNA要素を囲む。これまでに説明された方法は、2つの連続的なクローン化段階を使用して[117]、こうした要素を置き換えるものであり、中間の非複製環状中間体を介して進行する本発明の方法とは対照的なものである。
【0167】
結合体、または結合体集団の再構築方法は、scFvの、Igまたは例えば、FabといったIgの断片への変換を含んでよい。方法は、scFvをコードする核酸の、免疫グロブリン(Ig)またはFab形式などの免疫グロブリンの断片をコードするDNAへの変換を含んでよく、その結果、可変VH鎖及び可変VL鎖の元のペアは維持される。好ましくは、変換は、非複製「小環」DNAであり得る環状DNA中間体を介して進行する。方法は、IgまたはFabのDNAをコードするプラスミドを保有する細菌形質転換体の直接的な生成に向けた、E.coliの単回の形質転換を必要とする。
【0168】
方法は、モノクローナルクローンの再編成、オリゴクローナルクローンの再編成、またはポリクローナルクローンの再編成に使用してよい。方法を使用して、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、またはリボソームディスプレイを含む、一般に使用されるディスプレイ技術のいずれかに由来する全アウトプット集団を「一斉」変換することができる。
【0169】
より一般的には、本発明のこの態様は、任意の2つの結合したDNA要素の、ベクターへの再編成を可能にし、ここで、DNA要素は、別々のプロモーターの制御下にクローン化されるか、または代替の制御要素によって分離されるが、元のDNAペアは維持される。
【0170】
実施例7及び実施例14では、そのような方法についてさらに詳細に記載されている。
【0171】
結合体をコードするDNAの単離、及び任意選択でその再構築の後に、本明細書の他の箇所に記載されるような派生ライブラリーを創出するさらなる細胞に、そのDNAを導入してよく、または1つもしくは複数の特定関心結合体をコードするDNAを発現用の宿主細胞へと導入してもよい。宿主細胞は、それが得られたライブラリーの細胞と比較して、異なる型のものであってよい。一般に、DNAは、ベクターにおいて提供されることになる。宿主細胞へと導入されるDNAは、宿主細胞の細胞DNAへと組込まれてよい。その後、分泌可溶性抗体分子を発現する宿主細胞を選択することができる。
【0172】
1つまたは複数の結合体をコードする宿主細胞が、培養培地において提供され、1つまたは複数の結合体を発現するために培養してよい。
【0173】
派生ライブラリー
本発明の方法によってライブラリーを産生させた後に、1つまたは複数のライブラリークローンを選択し、使用して、さらなる第2世代のライブラリーを産生させてよい。本明細書に記載のような真核細胞へと、DNAを導入することによって、ライブラリーが産生したとき、ライブラリーを培養して結合体を発現させてよく、例えば、本明細書の他の箇所に記載されるような標的に対する結合体を選択することによって、関心結合体を発現する1つまたは複数のクローンを回収してよい。続いて、こうしたクローンを使用して、第2の結合体レパートリーをコードするDNAを含む派生ライブラリーを生成させてよい。
【0174】
派生ライブラリーを生成させるために、1つまたは複数の回収クローンのドナーDNAを変異させることで、第2の結合体レパートリーが得られる。変異は、1つまたは複数の核酸の追加、置換、または欠失であってよい。結合体が、ポリペプチドである場合は、1つまたは複数のアミノ酸の追加、置換、または欠失によって変異させれば、コードされる結合体の配列が変化することになる。変異は、抗体分子の1つまたは複数のCDRなどの、1つまたは複数の領域に焦点を合わせてよく、これによって、本明細書の他の箇所に記載されるように、1つまたは複数の多様性領域が異なる共通構造クラスの結合体レパートリーが得られる。
【0175】
派生ライブラリーの生成は、1つまたは複数の回収クローンに由来するドナーDNAの単離と、第2の結合体レパートリーをコードするドナーDNA分子の派生集団を提供するための、DNAへの変異導入と、第2の結合体レパートリーをコードするDNAを含む細胞の派生ライブラリーを創出するための、ドナーDNA分子の派生集団の、細胞への導入と、を含んでよい。
【0176】
ドナーDNAの単離は、クローンからの、DNAの取得及び/または同定を含んでよい。そのような方法は、例えば、PCRによる、回収クローンに由来する結合体コードDNAの増幅と、変異導入と、を含んでよい。DNAは、配列を決定し、変異DNAを合成してよい。
【0177】
あるいは、クローン内のDNAに変異を導入することによって、1つまたは複数の回収クローンにおけるドナーDNAに変異を導入してよい。したがって、派生ライブラリーは、例えば、トリDT40細胞における内在性変異を介して、DNAの単離を必要とせず、1つまたは複数のクローンから創出されてよい。
【0178】
抗体ディスプレイは、派生ライブラリーの創出に特に役立つ。抗体遺伝子が、一旦単離されると、多様な変異誘発手法(例えば、エラープローンPCR、オリゴヌクレオチド指向型変異誘発、鎖混合(chain shuffling))を使用して、改善変異体を選択できる関連クローンのディスプレイライブラリーを創出することが可能である。例えば、鎖混合では、選択したVHクローンの集団、VHオリゴクローナル混合体、またはVH集団をコードするDNAを、適した抗体形式と、適切に編成されたVL鎖レパートリーと、をコードするベクターへとサブクローン化することができる[118]。あるいは、及びさらに、VHの例を使用して、適切に編成された軽鎖パートナー(例えば、IgG編成重鎖またはFab編成重鎖との会合向けのVL−CL鎖)の集団をコード及び発現する真核細胞の集団へと、VHクローン、VHオリゴ混合体、またはVH集団を導入することができる。免疫化動物のB細胞または選択ファージ集団に由来するscFv遺伝子を含む、上で考察した供給源のいずれかから、VH集団を生じさせることができる。後者の例において、軽鎖レパートリーへの選択VHのクローン化では、1つの段階で、鎖混合と、再編成(例えば、IgG形式へ)とを組み合わせることができる。
【0179】
真核細胞上でのディスプレイの特定の優位性は、選択/選別段階の厳密性を制御する能力にある。抗原濃度を低減することによって、集団内で、より低い親和性を有するクローンから、最も高い親和性を有する結合体を発現している細胞を区別することができる。ナイーブライブラリーにおいて陽性割合の指標が早期に得られると共に、選別の間に、選択クローンの親和性と、親集団の親和性との直接的な比較が可能となるため、フローサイトメトリーを使用した、親和性成熟プロセスの可視化及び定量化は、真核生物ディスプレイの主要な優位性である。選別後に、多様な抗原濃度で事前にインキュベートし、フローサイトメトリーもしくは均一時間分解蛍光(homogenous Time Resolved Fluorescence)(TRF)アッセイでの分析、または表面プラズモン共鳴(SPR)(Biacore)を使用することによって、個々のクローンの親和性を決定することができる。
【0180】
ライブラリーの特性及び形態
本発明によって、多くの有利な特性を有する真核細胞ライブラリーの構築が可能となる。本発明は、下記特徴のいずれか1つまたは複数を有するライブラリーを提供する。
【0181】
多様性。ライブラリーは、少なくとも100、10、10、10、10、10、10、または10個の異なる結合体をコード及び/または発現し得る。
【0182】
均一な組込み。ライブラリーは、細胞DNAにおける1つの固定遺伝子座、または限定数の固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含むクローンからなり得る。したがって、ライブラリーにおけるそれぞれのクローンは、1つの固定遺伝子座または少なくとも1つの固定遺伝子座にドナーDNAを含む。好ましくは、クローンは、細胞DNAにおける1つまたは2つの固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含む。本明細書の他の箇所に記載されるように、組込み部位は、部位特異的ヌクレアーゼの認識配列に位置する。組換えDNA産生のためのドナーDNAの組込みは、本明細書の他の箇所に詳細に記載されており、組込み部位の数に応じて異なる結果を与え得る。細胞において、ライブラリー生成に使用する潜在的な組込み部位が1つ存在する場合、ライブラリーは、1つの固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含むクローンのライブラリーとなるであろう。したがって、ライブラリーのすべてのクローンが、細胞DNAにおいて、同一位置に結合体遺伝子を含む。あるいは、潜在的な組込み部位が、複数存在する場合は、ライブラリーは、複数及び/または異なる固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含むクローンのライブラリーであり得る。好ましくは、ライブラリーのそれぞれのクローンは、第1固定遺伝子座及び/または第2固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含む。例えば、ライブラリーは、ドナーDNAが、第1固定遺伝子座に組込まれたクローンと、ドナーDNAが、第2固定遺伝子座に組込まれたクローンと、ドナーDNAが、第1固定遺伝子座及び第2固定遺伝子座の両方に組込まれたクローンと、を含み得る。特定用途に望ましいのであれば、複数遺伝子座にドナーDNAを組込むことが可能であるが、好ましい実施形態では、ライブラリーのクローンにおいて存在する遺伝子座は、1つまたは2つのみである。したがって、ライブラリーによっては、それぞれのクローンは、例えば、3つ、4つ、5つ、または6つの遺伝子座といった数個の固定遺伝子座のいずれか1つまたは複数に組込まれたドナーDNAを含み得る。
【0183】
別々の部位に組込まれた結合体サブユニットを含むライブラリーに向けては、ライブラリーのクローンは、第1固定遺伝子座に組込まれた第1結合体サブユニットをコードするDNAと、第2固定遺伝子座に組込まれた第2結合体サブユニットをコードするDNAと、を含んでよく、クローンは、第1サブユニット及び第2サブユニットを含む、多量体である結合体を発現する。
【0184】
均一な転写。ライブラリーの異なるクローン間の結合体の相対的な転写レベルは、制御限度内に維持されており、これは、ドナーDNAが組込まれる遺伝子座の数が制御されていると共に、ドナーDNAが、異なるクローンの同一遺伝子座(固定遺伝子座)に組込まれていることに起因する。結合体遺伝子の転写が相対的に均一であることによって、ライブラリーにおけるクローン上またはこれに由来する結合体の発現レベルは同等となる。ライブラリーの細胞表面にディスプレイされる結合体は、同一細胞上にディスプレイされる他の結合体と同一(当該他の結合体と同一のアミノ酸配列を有する)であってよい。ライブラリーは、それぞれが、結合体レパートリーの単一メンバーをディスプレイする細胞のクローンからなってよく、または細胞当たり、結合体レパートリーの複数メンバーをディスプレイするクローンからなってよい。あるいは、ライブラリーは、結合体レパートリーの単一メンバーをディスプレイするいくつかのクローンと、結合体レパートリーの複数(例えば2つ)メンバーをディスプレイするいくつかのクローンと、を含んでよい。好ましくは、ライブラリーのクローンは、結合体レパートリーの1つまたは2つのメンバーを発現する。
【0185】
例えば、本発明による真核細胞クローンのライブラリーは、少なくとも10、10、10、10、10、10、または10個の異なる結合体のレパートリーを発現し得、当該結合体は、例えば、IgG抗体断片、Fab抗体断片、scFv抗体断片、またはscFv−Fc抗体断片であり、それぞれの細胞が、細胞DNAにおける固定遺伝子座に組込まれたドナーDNAを含む。ドナーDNAは、結合体をコードし、固定遺伝子座にドナーDNAが組込まれた細胞の選択に向けた遺伝子要素をさらに含んでよい。ライブラリーの細胞は、外来性の部位特異的ヌクレアーゼをコードするDNAを含んでよい。
【0186】
本発明によるライブラリーのこうした特徴及び他の特徴は、本明細書の他の箇所にさらに記載されている。
【0187】
本発明は、他の真核細胞が存在しないライブラリークローンの集団としての純粋形態のライブラリー、または他の真核細胞と混ざったライブラリーのいずれかまで拡張されるものである。他の細胞は、同一型(例えば、同一細胞株)の真核細胞であってよく、または異なる細胞であってよい。選別の促進もしくは広幅化のいずれか、または本明細書に記載のような他の使用もしくは当業者であれば明らかであろう他の使用に向けて、本発明による2つ以上のライブラリーを組み合わせることによってか、または本発明によるライブラリーと、第2のライブラリーもしくは第2の細胞集団と、を組み合わせることによって、さらなる優位性を得てよい。
【0188】
本発明によるライブラリー、ライブラリーから得られる1つもしくは複数のクローン、またはライブラリーに由来する結合体をコードするDNAが導入された宿主細胞は、細胞培養培地において提供されてよい。細胞は、輸送または貯蔵が簡便なように、培養した後に濃縮して細胞ペレットを形成させてよい。
【0189】
ライブラリーは、通常、試験管内で提供されることになる。ライブラリーは、細胞培地に懸濁されたライブラリーの細胞を含む細胞培養フラスコなどの容器、またはライブラリーを含む、真核細胞のペレットまたは濃縮懸濁液を含む容器、において存在してよい。ライブラリーは、容器における真核細胞の少なくとも75%、80%、85%、または90%を構成してよい。
【0190】
本発明の実施形態は、添付図面を参照しながら、より詳細に記載されることになり、添付図面は、下記のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0191】
図1-1】IgG編成抗体の発現用ベクターを示す。a.pDUAL D1.3であり、IgG分泌用の二重プロモーター発現ベクターを示す(「pCMV/myc/ER」ベクター骨格中)。b.plNT3−D1.3であり、IgG分泌用の二重プロモーター発現ベクターを示す(「pSF−CMV−f1−Pac1」ベクター骨格中)。
図1-2】IgG編成抗体の発現用ベクターを示す。c.pCMV/myc/ERベクター骨格を示す。ECoR1部位は、CMVプロモーターに先行している。BstB1部位及びBstZ171部位は、SV40ポリA部位と隣接している。d.pSF−CMV−f1−Pac1ベクター骨格(Oxford Genetics)を示す。e.PDGFR膜貫通領域(TM)をコードするエクソンと、分泌(sec)を引き起こすエクソンとを、を有する合成遺伝子を示す。実線矢印は、Rox組換え部位を示す。
図2-1】pD1の配列(配列認識番号:1、2、3、4、及び5)であり、表面発現用の二重プロモーター抗体発現カセットを示す。特徴は下記のとおりである。pEFプロモーター 13−1180BM40リーダー 1193−1249ヒト化D1.3 VL 1250−1578ヒトCカッパ 1577−1891BGH ポリA 1916−2130CMVプロモーター 2146−2734イントロンを有するマウスVHリーダー 32832−3414ヒト化D1.3 VH 3419−3769最適化ヒトIgG2 CH1−CH3
図2-2】pD1の配列(配列認識番号:1、2、3、4、及び5)であり、表面発現用の二重プロモーター抗体発現カセットを示す。特徴は下記のとおりである。pEFプロモーター 13−1180BM40リーダー 1193−1249ヒト化D1.3 VL 1250−1578ヒトCカッパ 1577−1891BGH ポリA 1916−2130CMVプロモーター 2146−2734イントロンを有するマウスVHリーダー 32832−3414ヒト化D1.3 VH 3419−3769最適化ヒトIgG2 CH1−CH3
図2-3】pD1の配列(配列認識番号:1、2、3、4、及び5)であり、表面発現用の二重プロモーター抗体発現カセットを示す。特徴は下記のとおりである。pEFプロモーター 13−1180BM40リーダー 1193−1249ヒト化D1.3 VL 1250−1578ヒトCカッパ 1577−1891BGH ポリA 1916−2130CMVプロモーター 2146−2734イントロンを有するマウスVHリーダー 32832−3414ヒト化D1.3 VH 3419−3769最適化ヒトIgG2 CH1−CH3
図2-4】pD1の配列(配列認識番号:1、2、3、4、及び5)であり、表面発現用の二重プロモーター抗体発現カセットを示す。特徴は下記のとおりである。pEFプロモーター 13−1180BM40リーダー 1193−1249ヒト化D1.3 VL 1250−1578ヒトCカッパ 1577−1891BGH ポリA 1916−2130CMVプロモーター 2146−2734イントロンを有するマウスVHリーダー 32832−3414ヒト化D1.3 VH 3419−3769最適化ヒトIgG2 CH1−CH3
図2-5】pD1の配列(配列認識番号:1、2、3、4、及び5)であり、表面発現用の二重プロモーター抗体発現カセットを示す。特徴は下記のとおりである。pEFプロモーター 13−1180BM40リーダー 1193−1249ヒト化D1.3 VL 1250−1578ヒトCカッパ 1577−1891BGH ポリA 1916−2130CMVプロモーター 2146−2734イントロンを有するマウスVHリーダー 32832−3414ヒト化D1.3 VH 3419−3769最適化ヒトIgG2 CH1−CH3
図3-1】AAVSドナープラスミド(pD2)の構築を示す。a.ヒトAAVS遺伝子座を示す。AAVS遺伝子座のエクソン1及びエクソン2(タンパク質ホスファターゼ1、調節サブユニット12C、PPP1R12Cをコードする)は、4428bpのイントロンによって分離されている。スプライシングは、フレーム「0」で生じる。すなわち、2つの未変化コドンの間で、それぞれのエクソンから生じる。TALEN構築物及びCRISPR/Cas9構築物が、このイントロン内の切断に利用可能である。斜線区画は、この切断部位の左右への領域を示し、当該領域は、ベクター構築物内で使用されて、この遺伝子座への相同組換えを推進するものである(AAVSホモロジーアーム左「左HA」及びAAVSホモロジーアーム右(「右HA」)。b.抗体をコードするドナープラスミドpD2を示す。左右のホモロジーアームが、構築物表記の両末端に示されている。スプライスアクセプターが、合成ブラストサイジン遺伝子に先行しており、当該スプライスアクセプターは、AAVSエクソン1との「インフレーム」融合を創出するものである。D1.3軽鎖及びD1.3 IgG2重鎖からなる抗体発現カセットも示されており、当該D1.3軽鎖及びD1.3 IgG2重鎖は、pEFプロモーター及びCMVプロモーターによって、それぞれ推進されるものである。
図3-2】AAVSドナープラスミド(pD2)の構築を示す。c.ドナー構築物であるpD1−huD1.3(配列識別番号:6、7、及び8)の配列を示す。AAVSホモロジーアームには、下線が引かれ、太字で示されている。簡潔に示すために、抗体カセット(既に図2で示した)は詳細には示されていない。クローンにおいて使用される制限酵素部位は、太字で示されている。プラスミド骨格の配列は、アンピシリン耐性遺伝子までが示されている。
図3-3】AAVSドナープラスミド(pD2)の構築を示す。c.ドナー構築物であるpD1−huD1.3(配列識別番号:6、7、及び8)の配列を示す。AAVSホモロジーアームには、下線が引かれ、太字で示されている。簡潔に示すために、抗体カセット(既に図2で示した)は詳細には示されていない。クローンにおいて使用される制限酵素部位は、太字で示されている。プラスミド骨格の配列は、アンピシリン耐性遺伝子までが示されている。
図4】細胞表面でのIgGの発現を示す。a、c.分析は、前方散乱及びFL3チャネルにおける染色を使用して、生存細胞に着目した(a、c)。FL3チャネルにおける染色に陽性であった細胞(7−AADを取り込んだ非生存細胞に相当する)は除外した。AAVS TALEN存在下(a,b)、または非存在下(c、d)で、すべての細胞にpD2−D1.3を遺伝子導入し、抗Fc抗体で染色した。
図5】細胞表面での、抗原の抗体への結合を示す。前方散乱及び7AADによる除外に基づき、生存細胞を選択した(a)。蛍光標識されたニワトリ卵白リゾチームと共に細胞をインキュベートした(b)。
図6】ブラストサイジン耐性遺伝子の組込みに対するTALEN指向型ゲノム切断の効果を示す。図は、記載条件下でのコロニー数を示す。
図7】AAVS遺伝子座へのpD2−D1.3ドナープラスミドの組込みの分析を示す。遺伝子導入後に、ブラストサイジン中で細胞を選択し、ゲノムを調製した。試料1〜9は、AAVS指向型TALEヌクレアーゼ添加による恩恵を受けたものであり、試料10〜11は、TALEヌクレアーゼ非存在下で遺伝子導入された細胞から生じたクローンに由来するものである。ゲノムDNAの分析は、本明細書中に記載したようにPCRによって実施した。a.組込み部位の5’末端からの検証を示す。B.組込み部位の3’末端からの検証を示す。
図8】scFv−Fc発現ベクターであるpD6の構築を示す。a.scFvとして編成された抗体が、Nco1/Not1部位へとクローン化され、IgG2のヒトFc領域との「インフレーム」融合が創出されていることを示す。b.Nco1部位からPme1部位までのpD6配列を示す(配列識別番号:9、10、及び11)。
図9-1】細胞表面scFv−Fcライブラリー(選択したファージ集団由来)に由来する結合体の選択を示す。下記の細胞のフローサイトメトリー分析が示されている。a〜c.CD229での2ラウンドのファージディスプレイによる選択に由来する、組込み抗CD229 scFv−Fcの集団を示す。d.f.β−ガラクトシダーゼ(β−galR1細胞)での1ラウンドのファージディスプレイによる選択に由来する、組込み抗β−ガラクトシダーゼscFv−Fcの集団を示す。e.β−ガラクトシダーゼでの2ラウンドのファージディスプレイによる選択に由来する、組込み抗β−ガラクトシダーゼscFv−Fcの集団を示す。試料(a)は、未染色細胞であり、残りは、ヒト抗Fc−フィコエリトリン(FL2において)及び100nMの適切なビオチン化抗原/ストレプトアビジンFITC(FL1において)で染色したものを示す。細胞は、13日後に分析した(a、b、d、e)。実施例c及び実施例fは、20日後に染色した細胞を示し、マークした領域は、フローサイトメトリーによって採取した細胞を示す。
図9-2】細胞表面scFv−Fcライブラリー(選択したファージ集団由来)に由来する結合体の選択を示す。下記の細胞のフローサイトメトリー分析が示されている。h.フローサイトメトリー(図6f)によって選択したβ−galR1細胞を22日間増殖させ、scFv−Fc発現及び抗原結合性(100nMの抗原を使用)を再分析したものを示す。g.未染色の相当物を示す。j.遺伝子導入後に42日間増殖した元の集団(dに示される)に由来する非選別β−galR1細胞を示す(j)。比較のために、それぞれの集団の未標識細胞が示されている(g、i)。
図10】哺乳類ディスプレイ及びIgG編成ライブラリーの選別を示す。抗体集団を、1ラウンドまたは2ラウンドのファージディスプレイを使用して、β−ガラクトシダーゼで選択し、IgGとして再編成して、HEK293細胞のAAVS遺伝子座への、ヌクレアーゼ指向型組込みを介して標的化したものである。パネルa、パネルbは、1ラウンド目のファージ集団から得られた細胞を示し、aは、非選別細胞(38日間増殖後)、bは、フローサイトメトリーによって選別し、19日間増殖した細胞を示す。パネルc、パネルdは、2ラウンド目のファージ集団から得られた細胞を示し、cは、非選別細胞(38日間増殖後、dは、選別されて、19日間増殖した細胞を示す。
図11】大きなナイーブscFv−Fcライブラリーの構築及び結合体の選択を示す。前述同様に、500nMのビオチン化抗原、及びフィコエリトリン標識抗Fc抗体と共にストレプトアビジン−FITCを用いて、ナイーブscFv−Fcライブライリーに由来する細胞を染色した。領域は、流動選別によって選択した細胞を示す。試料は、下記のビオチン化物によって標識した。 a.CD28 b.β−ガラクトシダーゼ c.サイログロブリン d.EphB4
図12】組込み方法の比較向けた、「マルチプルランディング(multiple landing)」部位を含むイントロンの導入のための標的化ベクターを示す。 a.中間GFP発現プラスミド(pD3)を示す。 b.AAVS1指向型標的化ベクター(pD4)を示す。「ランディング部位」には、組込み指示に向けた要素が組込まれており、当該要素は、FRT、lox2272、I−Sce1メガヌクレアーゼ、及びGFP TALENである。AAVS遺伝子座へのpD4の組込み後は、複数の組換え部位またはヌクレアーゼ切断部位が、ゲノム内に存在する。新規pD5プラスミド(図15)は、相同組換えによる抗体挿入を推進するために、左右のホモロジーアームを有しており、当該左右のホモロジーアームは、「ランディング部位」のいずれかの側に存在する配列に相当するものである。
図13-1】pD4の配列を示す(配列識別番号:12、13、14、15、16、17、及び18)。配列特徴には、下記のものが含まれる。AAVS左ホモロジー 19−822FRT部位 832−879、Lox2272部位 884−917、I−Sce1メガヌクレアーゼ部位 933−950GFP左TALEN結合 954−968、GFP右TALEN結合 984−997T2A 1041−1103GFP 1104−1949PGKプロモーター 2178−2691ピューロマイシンデルタチミジンキナーゼ 2706−4307loxP 4634−4667AAVS右ホモロジー 4692−5528
図13-2】pD4の配列を示す(配列識別番号:12、13、14、15、16、17、及び18)。配列特徴には、下記のものが含まれる。AAVS左ホモロジー 19−822FRT部位 832−879、Lox2272部位 884−917、I−Sce1メガヌクレアーゼ部位 933−950GFP左TALEN結合 954−968、GFP右TALEN結合 984−997T2A 1041−1103GFP 1104−1949PGKプロモーター 2178−2691ピューロマイシンデルタチミジンキナーゼ 2706−4307loxP 4634−4667AAVS右ホモロジー 4692−5528
図14】クローン6Fにおける「マルチプルランディング部位」イントロンの組込みの検証を示す。ピューロマイシン中で遺伝子導入細胞を選択した後、ゲノムDNAを調製した。試料1は、選択集団全体を示す。試料2は、クローン6Fを示し、試料3は、TALEN非存在下で遺伝子導入されたクローンであり、そして試料4は、野生型HEK293細胞である。本明細書に記載のプライマー及び条件を使用し、ゲノム挿入の5’末端及び3’末端に正しく組込みまれたかどうかをPCRによって検証した。主要な(正しいサイズの)バンドが、選択クローン(6F)ならびに選択集団で見られる。
図15-1】Flp/GFP TALEN部位(pD5)への組込みに向けたドナープラスミドの配列を示す(配列識別番号:19、20、または21)。特徴には、下記のものが含まれる。AAVS HA 13−233FRT部位 243−290Lox2272 295−328I−Sce1 344−361ブラストサイジン耐性 417−818ポリA 832−1070
図15-2】Flp/GFP TALEN部位(pD5)への組込みに向けたドナープラスミドの配列を示す(配列識別番号:19、20、または21)。特徴には、下記のものが含まれる。AAVS HA 13−233FRT部位 243−290Lox2272 295−328I−Sce1 344−361ブラストサイジン耐性 417−818ポリA 832−1070
図16】I−Sce1メガヌクレアーゼ構築物の配列を示す(配列識別番号:22及び23)。
図17】リコンビナーゼと共にI−Sce1メガヌクレアーゼを使用して、ヌクレアーゼ指向型組込みを比較したフローサイトメトリー分析を示す。pD5−D1.3及び記載のヌクレアーゼ/リコンビナーゼをコードするプラスミドをクローン6F細胞に同時導入した。ブラストサイジンで細胞を選択し、遺伝子導入の3日後に、ビオチン化抗ヒトFc抗体及びストレプトアビジンフィコエリトリンを使用して分析した。陽性細胞の割合が示されている(表5にもまとめられている)。a.遺伝子導入無し、b.ドナーのみ、c.I−Sce1、d.eGFP TALEN、e.Cre、f.Flpリコンビナーゼ(pOG44プラスミドによってコードされている)。
図18-1】ヌクレアーゼ指向型組込みが、相同組換え及び「非相同末端結合」(NHEJ)を推進することを示す。a.「クローン6F細胞のイントロン内のマルチプル「ランディング部位」を標的にするために使用したプラスミドpD5の構造を示し、プライマーJ48の位置が示されている。このプラスミドにおける「ランディング部位」には、FRT部位、lox2272部位、及びI−Sce1メガヌクレアーゼ部位が組込まれている(しかし、GFP TALEN部位は組込まれていない)。b.クローン6F(pD4から得られた)内の組込み部位を示し、プライマーJ44の位置が示されている。「ランディング部位」には、組込み指示に向けた要素が組込まれており、当該要素は、FRT、lox2272、I−Sce1メガヌクレアーゼ、及びGFP TALENである。
図18-2】ヌクレアーゼ指向型組込みが、相同組換え及び「非相同末端結合」(NHEJ)を推進することを示す。c.pD5の相同組換え後のクローン6Fの組込み部位を示し、プライマーJ44及びプライマーJ48の位置が示されている。d.pD5のNHEJまたはFlp相同組換え後のクローン6Fの組込み部位を示し、プライマーJ44、プライマーJ46、及びリバースプライマーJ44の位置が示されている。両矢印は、NHEJまたはFlp指向型組込みによって組込まれた「余分(extra)」プラスミドに由来するDNAを示す。この実施例では、新規プラスミドDNA(pD5)は、ホモロジーアーム(相同組換えを指示するが、NHEJには必要でない)を有していることに留意されたい。こうした配列は、NHEJによる組込み後に保持され、ホモロジーアーム内に示される配列の複製を引き起こし、当該ホモロジーアームは、一方のペアは、この場合はプラスミドに由来し、もう一方のペアは、内在性のゲノム配列に相当するものである。簡潔に示すために、プラスミドがコードするホモロジーアームは示されておらず、ゲノム内のその相当配列のみが示されている。
図18-3】ヌクレアーゼ指向型組込みが、相同組換え及び「非相同末端結合」(NHEJ)を推進することを示す。e.試料i〜ivのPCRプライマーとしてプライマー44及びプライマー48を使用し、ゲノムDNAは、下記のヌクレアーゼ/インテグラーゼで遺伝子導入した細胞に由来するものを使用した。i.Sce1、ii.TALEN(GFP)、iii.Flp(pOG44)、iv.ドナーのみ。分子量マーカーは、「GeneRuler 1kbラダー」(New England Biolabs)を使用した。プライマーJ44及びプライマーJ48によって、ヌクレアーゼが切断した試料i及び試料iiにおいて、相同組換えが生じたことが示されており、1928bpのバンド(矢印によって示されている)が産生している。試料v〜viiiには、プライマー44及びプライマー46を使用し、ゲノムDNAは、下記の試料に由来するものを使用した。v.Sce1、vi.TALEN(GFP)、vii.Flp(pOG44)、viii.ドナーのみ。プライマーJ44及びプライマーJ46によって、I−Sce1メガヌクレアーゼによるドナーDNA及びゲノムDNAの切断が、NHEJ(試料v.)をもたらしたことが示されており、1800bpのバンド(矢印によって示されている)が産生している。予想どおり、Flp媒介性組込みによって、類似サイズのバンドが生成した(vii)。当該新規プラスミドには、切断部位が存在しないため、GFP TALENでは、NHEJは生じなかった。
図19】IgG抗体の培養上清への分泌を示す。a.培養上清に由来するIgGをプロテインAで精製してから、電気泳動後にクーマシー染色したゲルを示す。i.Dreリコンビナーゼ遺伝子の遺伝子導入無しのpD2−D1.3細胞の上清から精製したIgGを示す。ii.Dreリコンビナーゼ遺伝子を遺伝子導入したpD2−D1.3細胞の上清から精製したIgGを示す。分泌抗体のポリクローナルELISAを示す。図9Hに示される実験から選別された細胞(1ラウンドのファージディスプレイによって選択した抗体集団細胞を起源とする)を、選別後に7日間増殖させ、培養上清を採取した。β−ガラクトシダーゼ(10ug/ml)またはBSA(10ug/ml)のいずれかで、ELISAプレートを一晩被覆した。混合後容積の33%にあたる6%のMarvel−PBSで、培養上清を、混合後に66%となるように希釈した(これは、「ニート(neat)」試料として上に記載されている)。加えて、上清をPBSで1/10に希釈してから、6%のMPBSと同一様式で混合した。結合したscFv−Fc融合体の検出は、抗ヒトIgG−Eu(Perkin Elmer カタログ番号1244−330)を使用して実施した。
図20】選択したscFv集団の、IgG形式への変換に向けたDNA断片の調製を示す。(a)CL−pA−CMV−Sigp DNA挿入断片(図21bに示されている)の生成を示す。プライマー2595及びプライマー2597を使用して、プラスミドpD2からPCRで増幅し、ゲルで精製した。レーンmは、Generuler 1 kbラダー(Thermo、SM031D)であり、レーン1は、C−pA−CMV−Sigp DNA挿入断片である。(b)scFvのDNA挿入断片の生成を示し、これは、実施例6に記載のとおり実施した。レーンmは、Generuler 1kbラダー(Thermo、SM031D)、レーン1は、ブランク、レーン2は、精製されたscFv、レーン3は、β−ガラクトシダーゼでの1ラウンド目のアウトプットscFv集団、レーン4は、β−ガラクトシダーゼでの2ラウンド目のアウトプットscFv集団、レーン5は、CD229での2ラウンド目のアウトプットscFv集団である。(c)NheI及びXhoIで消化した「小環」DNAの精製を示す。scFvをコードする、NcoI/NotIで消化したDNA(図21、挿入断片a)と、定常軽(C)鎖、ポリA(pA)、CMVプロモーター、及びシグナルペプチドをコードするDNA(図21、挿入断片b)と、のライゲーションによって、「小環」DNA(図21c)を形成させ、スピンカラムで精製し、NheI及びXhoIで消化してから、1%のアガロースゲルによって精製した。レーンmは、Generuler 1kbラダー(Thermo、SM031D)、レーン1は、β−ガラクトシダーゼでの1ラウンド目のアウトプット、レーン2は、β−ガラクトシダーゼでの2ラウンド目のアウトプット、レーン3は、CD229での2ラウンド目のアウトプットである。矢印が示す2.6kbに位置する直鎖化産物を切り出して、精製した。
図21】scFvからIgG形式への変換プロセスを模式的に示したものである。抗体のVドメイン及びVドメインをコードするDNA挿入断片(a)と、定常軽(C)鎖、ポリアデニル化配列(pA)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、及びシグナルペプチド(SigP)をコードするDNA断片(b)と、を連結する。非複製DNA「小環」cを創出するための、DNA分子a及びDNA分子bの結合は、「粘着末端」ライゲーションによって促進される。ライゲーション後に、「小環」cを、制限酵素であるNheI及びXhoIで直鎖化する。その後、直鎖化産物dを精製し、消化したベクターeと連結する。ベクターeは、NheI部位の上流にpEFプロモーター及びSigP配列を含み、XhoI部位の下流に、抗体定常重(CH)ドメイン1〜3をコードする。挿入断片dと、ベクターeとのライゲーション産物は、プラスミドfをもたらすであろうし、プラスミドfは、細菌の形質転換に使用することができ、適切な選択可能マーカーと共に増殖させれば、標準方法によるプラスミドDNAの産生及び精製が可能になるであろう。精製されたプラスミドfは、異種Ig抗体発現に向けて、哺乳類細胞へと導入することができる[134]。あるいは、ベクターeにおいてCH1〜3をコードするDNAは、Fab発現に向けて、単一CH1ドメインをコードするDNAと置き換えることができる。V及びVは、それぞれ抗体可変重鎖及び抗体可変軽鎖である。伸長因子プロモーター(pEF)、抗体定常軽鎖(C)及び抗体定常重ドメイン1〜3(CH1〜3)、ポリアデニル化配列(pA)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ならびにシグナルペプチド(SigP)をコードするDNAが示されている。
図22】scFvからIgGへの変換に必要なDNA断片の調製の追加実施例を示す。(a)実施例14に記載のように、scFv挿入断片を生成させ、1%アガロースTBEゲルで分離した。レーン1及びレーン14は、500bpから始まる500bpDNAラダーである。レーン2〜13は、scFvPCR産物である。(b)直鎖化「小環」d(図21)の精製を、1%アガロースTBEゲルでの分離によって実施した。左〜右に向かって、最初のレーンは、DNAラダー(1kbラダー、Lifetech、15615−024)であり、残りのレーンは、直鎖化「小環」dである。(c)CMVプロモーターがP2A配列によって置き換えられており、用いたDNAラダーが、Generuler 1kbラダー(Thermo、SM031D)であったことを除き、(b)と同一である。
図23】流動電気穿孔(flow electroporation)システムを使用した、結合体遺伝子のヌクレアーゼ指向型組込みを示す。流動電気穿孔システムを使用して、抗FGFR1抗体または抗FGFR2抗体のいずれかをコードする50:50混合pD6プラスミドを電気穿孔した。13日後に、Dyelight−633で標識されたFGFR1−Fc(FGFR1−Dy633)またはDyelight−488で標識されたFGFR2−Fc(FGFR2−Dy488)で、ブラストサイジンで選択した細胞を標識した。ドットブロットは下記を示す。a.FGFR2−488での単一染色(表7の試料1b)b.FGFR1−633での単一染色(表7の試料1b)c.FGFR1−633/FGFR2−488での二重染色(表7の試料1b)d.FGFR1−633/FGFR2−488での二重染色(表7の試料3)
図24】流動選別後の抗体遺伝子の回収を示す。1ラウンドのファージディスプレイによって抗体集団を選択し、Maxcyteシステムを使用して、流動電気穿孔によって哺乳類ディスプレイライブラリーを創出した。1nMまたは10nMの抗原のいずれかを使用して、細胞を選別し、mRNAを直接単離した。PCRによって抗体遺伝子を回収し、細菌発現ベクターへとクローン化してから、ELISAでの陽性割合を決定した(「1nMアウトプット」、「10nMアウトプット」)。これを、元の1ラウンド目のアウトプット(「R1ファージアウトプット」)と比較した。プロットは、それぞれの集団で得られたELISAシグナルのプロファイルを示す。
図25-1】T細胞受容体の発現に向けたplNT20ベクターを示す。a.二重プロモータープラスミドplNT20を示し、AAVSホモロジーアーム、ピューロマイシンでの選択が可能な遺伝子(以下に示されるスプライスアクセプター部位周辺領域)が示されている。アルファ鎖(可変アルファ、マウスアルファ定常−CD3ζを包含する)は、Nhe1、Not1、及びAcc65Iの制限酵素部位と隣接し、pEFプロモーターの制御下にある。ベータ鎖(可変ベータ、マウスベータ定常−CD3ζを包含する)は、Nco1部位、Xho1部位、及びhind3部位と隣接し、CMVプロモーターの制御下にある。b.スプライスアクセプターの配列及びピューロマイシン遺伝子の開始地点を示す(配列域別番号:24及び25)。
図25-2】T細胞受容体の発現に向けたplNT20ベクターを示す。c.T細胞受容体クローンc12/c2アルファ鎖構築物の配列を示し、Nhe1、Not1、及びAcc65Iの制限酵素部位が示されている(配列識別番号:26及び27)。
図25-3】T細胞受容体の発現に向けたplNT20ベクターを示す。d.T細胞受容体クローンc12/c2ベータ鎖構築物の配列を示し、Nco1、Xho1、及びHind3の制限酵素部位が示されている(配列識別番号:28及び29)。
図25-4】T細胞受容体の発現に向けたplNT20ベクターを示す。e.T細胞受容体クローン4JFHアルファ鎖構築物の配列を示し、Nhe1/Not1の制限酵素部位が示されている(配列識別番号:30及び31)。f.T細胞受容体クローン4JFHベータ鎖構築物の配列を示し、Nco1/Xho1の制限酵素部位が示されている(配列識別番号:32及び33)。
図25-5】T細胞受容体の発現に向けたplNT20ベクターを示す。g.c12/c2 TCRアルファ鎖のCDR3の変異に使用した方針及びプライマーを示す(配列識別番号:34、35、36、及び37)。h.c12/c2 TCRベータ鎖のCDR3の変異に使用した方針及びプライマーを示す(配列識別番号:38、39、40、及び41)。(N=A、C、G、T;S=CまたはG;W=AまたはT)
図26-1】ヌクレアーゼ指向型組込みによって哺乳類細胞へと導入されたT細胞受容体によるペプチド;MHC複合体の認識を示す。TCR1は、フィコエリトリンで標識されたHLA−A2(ペプチド1)との複合体の形態において、ペプチド1(SLLMWITQV)を認識するTCR c12/c2である。TCR2は、フィコエリトリンで標識されたHLA−A2(ペプチド2)との複合体の形態において、ペプチド2(ELAGIGILTV)を認識するTCR 4JFHである。試料a及び試料cは、ペプチド1(a)またはペプチド2(c)に曝露されたTCR1発現細胞を示す。試料b及び試料dは、ペプチド1(a)またはペプチド2(c)に曝露されたTCR2発現細胞を示す。
図26-2】ヌクレアーゼ指向型組込みによって哺乳類細胞へと導入されたT細胞受容体によるペプチド;MHC複合体の認識を示す。試料e及び試料fは、ペプチド1(e)またはペプチド2(f)で標識された非遺伝子導入HEK293細胞を示す。g.TCR1をコードするプラスミドと、100倍過剰のTCR2プラスミドとを混合し、ヌクレアーゼ指向型組込みによって、HEK細胞へと導入した。1.15%の細胞がペプチド1で標識された。1.15%の細胞が陽性であった。h.TCR2コードするプラスミドと、100倍過剰のTCR1プラスミドとを混合し、ヌクレアーゼ指向型組込みによって導入し、ペプチド2で標識した。0.62%の細胞が標識された。流動選別によって陽性細胞を採取し、特定TCRが濃縮されたかを分析するために、mRNAを回収した。
図26-3】ヌクレアーゼ指向型組込みによって哺乳類細胞へと導入されたT細胞受容体によるペプチド;MHC複合体の認識を示す。試料i〜lは、HEK293細胞におけるT細胞ライブラリーの発現を示す。Maxcyte電気穿孔によってTCRライブラリーを導入し、ピューロマイシン中で11日間選択した。I.APCで標識された抗TCR抗体(y軸)で標識された細胞を示す。j.フィコエリトリンで標識されたペプチド1:MHC(x軸)で標識された細胞を示す。k.抗TCR抗体及びペプチド1:MHCの両方で標識された非遺伝子導入細胞を示す。l.抗TCR抗体及びペプチド1:MHCの両方で標識されたTCR1ライブラリー遺伝子導入細胞を示す。試料m〜nは、Jurkat細胞におけるTCRの発現を示す。Amaxa電気穿孔によってTCR1を送達し、ピューロマイシン中で25日間選択した。
図26-4】ヌクレアーゼ指向型組込みによって哺乳類細胞へと導入されたT細胞受容体によるペプチド;MHC複合体の認識を示す。TALEヌクレアーゼの存在下(m)または非存在下(n)で、プラスミドを遺伝子導入し、APCで標識された抗TCRβ鎖抗体と共にインキュベートした。試料o〜rは、同一のTCR1遺伝子導入Jurkat細胞のT細胞受容体の活性化を示す。すべての細胞を抗CD69抗体によって標識した(y軸)。試料oは、刺激を与えずpは、抗CD3抗体で24時間刺激した。試料q及び試料rは、それぞれ2ul及び6ulの、PEで標識されたMHC:ペプチド1と共に24時間インキュベートした。すべての細胞をCD28抗体にも曝露した。
図27-1】ヒト細胞への、キメラ抗原受容体(CAR)ライブラリーの導入に向けたplNT21 CAR1ベクター及びplNT21 CAR2ベクターを示す。単一プロモータープラスミドであるplNT21を示し、AAVSホモロジーアーム、ピューロマイシンでの選択が可能な遺伝子、CD3ζシグナル伝達ドメインに対する結合体の融合を推進するCMVプロモーターが示されている。Nco1部位及びNot1部位は、結合体のクローン化に適したものである。 a.plNT21 CAR1は、CD3ζの膜近傍ドメイン、膜貫通ドメイン、及びシグナル伝達ドメインに対して、結合体を融合させることを示す。 b.plNT21 CAR2は、CD8のヒンジドメイン及び膜貫通ドメイン、4−1BB活性化ドメイン及びCD3ζ活性化ドメインに対して、結合体を融合させることを示す。
図27-2】ヒト細胞への、キメラ抗原受容体(CAR)ライブラリーの導入に向けたplNT21 CAR1ベクター及びplNT21 CAR2ベクターを示す。 c.plNT21_CAR1におけるCD3ζの配列を示す(配列識別番号:42、43、及び44)。
図27-3】ヒト細胞への、キメラ抗原受容体(CAR)ライブラリーの導入に向けたplNT21 CAR1ベクター及びplNT21 CAR2ベクターを示す。 d.plNT21_CAR2におけるCD8、4−1BB、及びCD3ζの配列を示す(配列識別番号:45及び46)。
図27-4】ヒト細胞への、キメラ抗原受容体(CAR)ライブラリーの導入に向けたplNT21 CAR1ベクター及びplNT21 CAR2ベクターを示す。 e.FMC63 H−L(抗CD19抗体)の配列を示す(配列識別番号:47及び48)。
図28-1】ヌクレーゼ媒介性組込みによって、ヒト細胞へと導入されたキメラ抗原受容体構築物内のscFv及び代替骨格の発現を示す。HEK細胞に、抗FGFR1抗体(b)またはlox1 adhiron(c)を遺伝子導入し、標識FGFR1及び標識lox1でそれぞれ標識した。対照として、同一抗原を非遺伝子導入HEK293細胞と共にインキュベートした(それぞれa及びc)。
図28-2】ヌクレーゼ媒介性組込みによって、ヒト細胞へと導入されたキメラ抗原受容体構築物内のscFv及び代替骨格の発現を示す。メソセリン及びCD229で選択したファージディスプレイに由来する集団をヌクレーゼ媒介性組込みによって、HEK細胞へと導入し(それぞれf及びh)11日間ピューロマイシン中で選択した。こうした細胞または非遺伝子導入HEK293細胞を、標識メソセリン(e,f)または標識CD229(g、h)と共にインキュベートした。e及びhは、非遺伝子導入HEK293細胞を示す。
図29-1】哺乳類ディスプレイに向けた代替の結合体骨格の配列を示す。本明細書に記載のベクターを使用して、ヌクレアーゼ指向型組込みによって、異なる結合体形式のライブラリーを容易に導入することができる。例として、CAR構築物またはFc融合構築物への導入に向けて、Nco1部位及びNot1部位を隣接させて、Adhiron構築物を調製した。 a.lox1結合Adhiron_lox1Aの配列を示す(配列識別番号:49及び50)。 b.lox1結合Adhiron_lox1Bの配列を示す(配列識別番号:51及び52)。(可変ループは、タンパク質配列中で太字かつ下線有りで示されている)
図29-2】哺乳類ディスプレイに向けた代替の結合体骨格の配列を示す。本明細書に記載のベクターを使用して、ヌクレアーゼ指向型組込みによって、異なる結合体形式のライブラリーを容易に導入することができる。例として、CAR構築物またはFc融合構築物への導入に向けて、Nco1部位及びNot1部位を隣接させて、Adhiron構築物を調製した。 c.結合体ライブラリーの構築に向けた、ループ1(adhiron mut1)(配列識別番号:53、55、及び56)内またはループ2(adhiron mut2)(配列識別番号:54、57、及び58)内の潜在的変異誘発プライマーを示し、下に示されるものは、当該プライマーによってカバーされる領域であり、(下の鎖)は、タンパク質翻訳を示している。nは、異なるループの長さを生じさせるNNSコドンの可変数を示す。
図29-3】哺乳類ディスプレイに向けた代替の結合体骨格の配列を示す。本明細書に記載のベクターを使用して、ヌクレアーゼ指向型組込みによって、異なる結合体形式のライブラリーを容易に導入することができる。例として、CAR構築物またはFc融合構築物への導入に向けて、Nco1部位及びNot1部位を隣接させて、Adhiron構築物を調製した。 d.本明細書に記載のベクター内でのノッチン発現を可能にするNco1部位及びNot1部位が隣接した、トリプシン結合ノッチンMCoTI−IIの配列を示す。第1ループの配列に下線が引かれている 配列識別番号:59及び60)。 e.ノッチン変異体ライブラリーの創出に向けた方針を示す。この例では、ループ1は、10個の無作為化アミノ酸によって置き換えられている。この例では、VNSコドンが導入され(V=A、C、またはG)、17個アミノ酸をコードする24個のコドンが提供されている。この配列は、標準方法を使用して、MCoTI−IIをコードするクローンへと導入することができる(配列識別番号:61、62、及び63)。
図30】ライゲーションまたはマイクロホモロジー媒介性末端結合(MMEJ)によるヌクレアーゼ媒介性の抗体遺伝子挿入に向けた配列例を示す。a.pD7−Sce1の配列を示す(ヌクレオチド1〜120)(配列識別番号:64、65)。当該配列は、I−Sce1メガヌクレアーゼ認識(太字)によって、EcoR1及びNsi1の間のAAVS左アームが置き換えられていることを除き、pD6(図3c及び図8参照)と同一ある。さらに、プライマー2723及びプライマー2734によってコードされる挿入断片によって、Asc1及びMlu1の間のAAVS右アームが置き換えられている(示されていない)。b.pD7−ObLiGaReの配列を示す(ヌクレオチド1〜120)(配列識別番号:66、67)。当該配列は、AAVS TALEの右アーム認識部位及び左アーム認識部位によって、EcoR1及びNsi1の間のAAVS左アームが置き換えられていることを除き、pD6(図3c及び図8参照)と同一ある。さらに、プライマー2723及びプライマー2734によってコードされる挿入断片によって、Asc1及びMlu1の間のAAVS右アームが置き換えられている(示されていない)。
図31】結合体の、ROSA26遺伝子座へのヌクレアーゼ指向型組込みを示す。 a.ピューロマイシン遺伝子の開始地点までの、左ホモロジーアームの配列を示し、実施例22において言及されているプライマー及び制限酵素部位が示されている(配列識別番号:68)。 b.ROSA26遺伝子座へのヌクレアーゼ指向型組込みに向けた右ホモロジーアームの配列を示し、実施例22において言及されているプライマー及び制限酵素部位が示されている(配列識別番号:69)。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0192】
実施例1.IgG編成抗体の発現に向けたベクターの構築
結合体(例えば、抗体、タンパク質、またはペプチド)の遺伝子的な選択をもたらすために、その結合体をコードする遺伝子を導入し、外来性プロモーターからのその遺伝子発現を推進するか、または例えば、内在性プロモーターといった、細胞DNAに既に存在するプロモーターの下流への導入遺伝子の組込みを指示することによってその遺伝子発現を推進する必要がある。抗体は、最も一般に使用されるクラスの結合体に相当するものであり、異なる形態における発現に向けて編成することができる。下記の実施例では、我々は、scFvが、Fcドメインに融合されている(scFv−Fc)単一遺伝子形式の発現について説明している。我々は、ヒトIgG2分子として編成された抗体の発現についても例示している。高等真核生物などの産生細胞において、IgG編成抗体またはFAb編成抗体を発現するためには、別々の重鎖及び軽鎖を発現することが必要である。これは、それぞれの鎖をコードする別々のプラスミドを導入するか、または単一プラスミドにそれらを導入することによって実施できる。単一プラスミド内の2つの鎖は、マルチシストロン性の単一mRNAから発現させることができる。単一メッセージから異なるタンパク質を発現させるには、二次性の下流位置での翻訳開始を可能にする内部リボソーム進入(IRE)配列などの要素が必要となる。あるいは、ウイルス2A配列などの翻訳の停止/開始を促進する配列要素を使用することができる[119]。
【0193】
あるいは、複数のプロモーターを使用して、単一プラスミドから複数の異なるタンパク質を発現させることができる。図1a及び図1bは、異なるベクター骨格(pDUAL及びplNT3)内の2つの類似発現カセットの構成を示し、当該発現カセットは、分泌IgG編成抗体の発現に向けて開発したものである。こうした発現カセットは、プロモーター配列及びポリA配列などの標準要素の遺伝子合成及びポリメラーゼ連鎖反応での増幅の組み合わせを使用して創出した。抗体重鎖(pBIOCAM1−NewNot)及び抗体軽鎖(pBIOCAM2−pEF)の発現に向けて、pCMV/myc/ER(図1c、Life Technologies)内で、第1の別々のプラスミドを創出した。pBIOCAM2−pEFに由来する要素(pEFプロモーター、軽鎖遺伝子、ポリA部位を含む)をpBIOCAM1−NewNot)へとクローン化して、pDUALを創出した。示されている例は、D1.3[120]と呼ばれるヒト化抗リゾチーム抗体に由来するVHドメイン及びVLドメインを含み、pDUAL−D1.3及びplNT3−D1.3と称す。図1aに示されるpDUAL D1.3の要素は、pCMV/myc/ER(Life Technologies カタログ番号V82320 図1c)に由来するプラスミド骨格のEcoR1及びBGHポリA部位の間に存在する。
【0194】
同様に、別々の軽鎖カセット及び重鎖カセットをpSF−pEF(Oxford Genetics OG43)及びpSF−CMV−F1−Pac1(Oxford Genetics OG111)へとそれぞれ導入して、plNT1及びplNT2を創出した。これらを、plNT2のCMVプロモーターの上流に位置する軽鎖カセット(pEFプロモーター、軽鎖遺伝子、及びポリA部位を含む)をクローン化することによって、組み合わせて、plNT3を創出した。図1bにおいて示されるplNT3−D1.3の要素は、プラスミドpSF−CMV−F1−Pac1(図1d、Oxford Genetics OG111)内に示される第1のBgl2及びSbf1の間にクローン化されている。
【0195】
サイトメガロウイルスの最初期プロモーター(CMVプロモーター)は、強力なプロモーターであり、重鎖の発現を推進するために使用した。pDUAL D1.3にも、CMVプロモーターのすぐ下流に、アデノウイルス2の3分節系リーダー(tripartite leader)(TPL)及び増進主要後期プロモーター(enhanced major late promoter)(enh MLP)が組込まれている[121]。伸長因子1アルファタンパク質は、ほとんどの真核細胞において一様かつ豊富に発現しており、そのプロモーター(pEFプロモーター)は、導入遺伝子の発現推進に向けて、一般に使用される[122]。pDUAL−D1.3及びplNT3−D1.3において、pEFプロモーターは、抗体軽鎖の発現推進に使用されている。ウシ成長ホルモン(BGHポリA)を起源とするポリアデニル化部位は、それぞれの発現カセットの末端に位置している。
【0196】
小胞体、(及び最終的には培養上清)における別々の重鎖及び軽鎖の分泌は、2つの異なるリーダー配列によって指示される。軽鎖の発現は、BM40リーダー配列によって指示される[123]。この配列には、Nhe1クローン化部位及びNot1クローン化部位が続き、当該クローン化部位は、VL遺伝子のインフレームクローン化を可能にし、続いて当該VL遺伝子は、ヒトCカッパ遺伝子に融合される。重鎖の分泌は、マウスVH遺伝子を起源とするイントロンによって分断されたリーダーによって指示されている(pCMV/myc/ERにおいてみられるように)。リーダーには、抗体VH遺伝子のインフレームクローン化を可能にするNco1部位及びXho1部位が続き、その後にコドン最適化IgG2遺伝子が続いている。ヒト化D1.3抗体[120]のVL遺伝子及びVH遺伝子を、pDUAL−D1.3内及びplNT3−D1.3内のNhe1/Not1部位及びNco1/Xho1部位にそれぞれクローン化した。
【0197】
哺乳類ディスプレイに向けて、こうしたプラスミドの膜繋留型を創出した。pDUAL−D1.3を、Bsu36I(IgG2の重鎖遺伝子のCH3ドメインを切断する)及びBstZ171で消化することによってプラスミドpD1を創出した。当該BstZ171は、SV40ポリA領域の後のネオマイシン耐性カセット骨格を切断するものである(図1c)。したがって、これによって、CH3ドメイン及びネオマイシン発現カセット全体のほとんどが除去される。CH3ドメインは、互換性Bsu36I末端及びBstZ171末端を有する合成挿入断片によって置き換えられている(図1eに示される)。合成挿入断片を設計し、抗体CH3ドメイン末端の終始コドンを、スプライスドナー及びイントロンで置き換えた。当該スプライスドナーは、エクソンまで生じる、CH3終端のスプライシングを引き起こすものであり、当該エクソンは、ヒトPDGF受容体膜貫通ドメイン[84]の最初の5個の細胞内残基、終始コドン、及び追加のスプライスドナーをコードするものである。これには、追加のイントロン及びスプライスアクセプターが続き、その後に、単一アミノ酸向けのコドン、そして終始コドンが続く(図1e)。膜貫通ドメインをコードするエクソンと隣接する2つの合成イントロンは、それらの内部にROX認識部位が位置するように設計した。ROX部位は、Dreリコンビナーゼによって認識され、こうした部位を含むDNA間の組換えを引き起こす[88]。膜貫通ドメインをコードするエクソンと隣接する2つのROX部位を含めることで、Roxリコンビナーゼをコードする遺伝子の遺伝子導入によってこのエクソンが除去される可能性が創出される。こうすることで、分泌抗体産物の創出が期待されるであろう。
【0198】
図2は、得られた二重プロモーター抗体発現プラスミドの配列を示し、当該発現プラスミド(これ以後、pD1−D1.3(配列識別番号:1と称す)は、ヒト化D1.3抗リゾチーム抗体を発現するものである。抗リゾチーム結合特異性は、D1.3[120]に由来するVH配列及びVL配列を、それぞれNco/Xho1及びNhe1/Not1の制限酵素部位の間に含めることによって組込んだ。配列は、EcoR1部位からBstZ171までが示されている。ECoR1部位及びBstZ171部位を超える、ベクター骨格由来の配列は、図1cに示されているとおりである。
【0199】
実施例2.抗体カセットのAAVS遺伝子座に対する標的化に向けたベクター(pD2)の構築
部位特異的ヌクレアーゼを使用したゲノム内の切断は、相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)を介した、異種性DNAの挿入を促進するものである。タンパク質ホスファターゼ1、調節サブユニット12C(PPP1R12C)遺伝子の第1イントロンを標的とするヌクレアーゼで、ヒトHEK293細胞を切断した。この遺伝子座は、アデノ随伴ウイルスの共通組込み部位として同定され、AAVS部位と称される(図3a)。AAVS部位は、ヒト細胞における異種性遺伝子の挿入及び発現に向けた「セーフハーバー(safe harbour)」遺伝子座であると考えられている[124]。
【0200】
ゲノム内の部位特異的切断に続いて、相同組換えを使用して、タンパク質発現カセットの組込みを促進することが可能である。これを実施するためには、ゲノム切断部位のいずれかの部位にみられる配列に相同である領域に、発現カセットを隣接させる必要がある。AAVS遺伝子座への組込みを指示するために、AAVS遺伝子座の5’から意図する切断部位までの804bpの区間をPCRで増幅し、5’末端及び3’末端にそれぞれEcoR1部位及びMfe1部位を創出した。抗体カセットの標的化に向けた左ホモロジーアームに相当するこの増幅産物をpD1のEcoR1部位へとクローン化し、5’末端にEcoR1部位を再構築した。右ホモロジーアームに向けて、切断部位の3’側にあたる、AAVS遺伝子座の836bpの区間をPCRで増幅し、Bstz171部位を両終端に創出し、これをpD1のBstz171へとクローン化した。構築物は、図3bに示されており、得られた構築物(pD2)の配列は、図3cに示されている。
【0201】
AAVS左ホモロジーアームのクローン化の間に、3’末端にNsi1及びPac1の制限酵素部位も挿入した。続いて、これらの部位を使用して、ポリA部位が付随するブラストサイジン遺伝子が続く合成イントロンをクローン化した。ブラストサイジン遺伝子は、プロモーターを欠いているものの、スプライスアクセプター部位が先行しており、当該スプライスアクセプター部位は、AAVS遺伝子座に由来する上流エクソンとのインフレーム融合を創出するものである(図3a及び図3b)。AAVS遺伝子座への組込みが生じれば、プロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子の発現を引き起こす。pD2と呼ばれるこの最終構築物の配列は、図3cに示されている。
【0202】
pEFプロモーター、D1.3軽鎖、ポリA領域、CMVプロモーター、D1.3重鎖、代替スプライス部位、及びポリA部位を包含する抗体カセットの配列が、図2に示されている。繰り返しを避けるために、この配列は、図3cでは、区間標識して「D1.3抗体発現カセット」と示されている。
【0203】
実施例3.細胞表面での抗体発現及び抗体結合に向けた、IgG構築物のAAVS TALEN指向型組込み
Freestyle培地で増殖したHEK293F細胞(Life Technologies)に、AAVS指向型TALENベクターペアの存在下または非存在下で、pD2−D1.3DNAを遺伝子導入した。AAVS TALENペア(「AAVS オリジナル(original)」)は、以前に説明されており[125]、下記の配列を認識する。
左TALEN:5’(T)CCCCTCCACCCCACAGT(配列識別番号:70)
スペーサー5’GGGGCCACTAGGGAC(配列識別番号:71)
右TALEN:5’AGGATTGGTGACAGAAAAの相補鎖(配列識別番号:72)(すなわち、5’TTTTCTGTCACCAATCCT(配列識別番号:73)
【0204】
代替として、より効率的なAAVS標的化TALENペアが同定され、後の実験に使用した(pZT−AAVS1 L1 TALE−N及びpZT−AAVS1 R1 TALE、カタログ番号GE601A−1 System Biosciences)。このペアは、同一部位を認識し(しかし、上に括弧付きで示される最初の「T」残基は認識しない)、「AAVS−SBI」TALENペアと称される。
【0205】
0.5x10個細胞/mlで細胞を播種し、次の日に、1:2(w/w)の比で添加されたDNA:ポリエチレンイミン(PolyPlus)を使用して、10個細胞/mlで遺伝子導入した。0.6μg/mlのpD2を細胞に遺伝子導入し、対象としてpcDNA3.0(0.6μg/ml)または左右の「オリジナルAAVS」TALENプラスミドの組み合わせ(それぞれ0.3μg/ml)のいずれかを同時導入した。実験における遺伝子導入対照として、CMVプロモーターからEGFPを発現するpD3(以下参照)を含め、遺伝子導入効率は35%であった。5μg/mlのブラストサイジンを添加したFreestyle培地(Life Technology)を使用した懸濁培養において、細胞を選択した。
【0206】
抗体発現が、細胞表面で起きたかを決定するために、下記のプロトコールに従って抗ヒトFc抗体で細胞を染色した。
1.遺伝子導入の16日後に、ブラストサイジンで選択した集団に由来する0.5〜1x10個の細胞を4℃で2分間遠心(200〜300xg)。
2.洗浄用緩衝液(PBS中0.1%のBSA Gibco番号10010)1mlで細胞を洗浄し、細胞を4℃で2分間遠心(200〜300xg)。
3.染色緩衝液(PBS中1%のBSA)100μlに細胞を再懸濁し、蛍光色素複合化抗体を5〜10ul添加。抗体は、フィコエリトリンで標識された抗ヒトIgG Fc(クローンHP6017、カタログ番号409304、Biolegend)またはフィコエリトリンで標識されたマウスIgG2a、κアイソタイプ対照(カタログ番号400214、Biolegend)を使用。4℃で30分を超える時間、暗所でインキュベート。
4.洗浄緩衝液1mlで2回洗浄し、洗浄緩衝液500ulに再懸濁。
5.7−アミノ−アクチノマイシンD(7−AAD)を50ug/mlで含む細胞生存率測定用染色溶液(番号00−6993−50 eBioscience)を5ul添加して、死細胞を同定。
6.(Beckton Dickinson FACS II)フローサイトメトリーで細胞を分析。
【0207】
図4は、AAVS標的化TALENの存在下でpD2−D1.3を遺伝子導入すると、陽性率が86%であり、陽性率が1.5%であったpD2−D1.3単独と比較して、抗体を発現する細胞の集団が顕著に多く存在したことを示す。
【0208】
標識抗原に対する結合性を評価することによって、表面に発現した抗リゾチーム抗体の機能性を決定した。ニワトリ卵白リゾチーム(Sigma:L6876)は、Lightning−Link Rapid conjugation system(Dylight 488、Innova Biosciences:322−0010)を使用して、下記のとおり標識した。
1.リゾチーム100ul(PBS100ulに200ugを溶解)にLL−Rapid Modifier試薬を10ul添加し、穏やかに混合。
2.Lightning−Link(商標)Rapid混合液に、混合液を添加し、ピペッティングして穏やかに再懸濁。
3.室温で15〜30分間暗所で混合液をインキュベート。
4.反応液にLL−Rapid Quencher試薬を10ul添加し、穏やかに混合。
5.4℃で保存。リゾチーム−Dy488の最終濃度は、1.6μg/μlである。
6.染色当たり、リゾチーム−Dy488を6μl(約10ug)使用。
7.上記のとおり染色、洗浄、及びフローサイトメトリーを実施。
【0209】
分析によって、pD2−huD1.3を遺伝子導入した細胞の86%が、標識HELに結合した(M1ゲートによって判断)のに対し、遺伝子導入無しの細胞では、0.29%であったことが示されている(図5)。
【0210】
実施例4.部位特異的ヌクレアーゼ(AAVS指向型TALEN)は、ドナーDNAの組込みを増進する
遺伝子導入細胞もプレートに播種し、ブラストサイジンで選択して、プロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子の発現が活性化した細胞の数を決定した。遺伝子導入の24時間後に、0.25x10個細胞/10cmペトリ皿(組織培養処理済)で細胞を播種し、10%のウシ胎仔血清(10270−10、Gibco)及び1%のMinimal Essential medium non−essential amino acid(MEM_NEAA 番号11140−035 Life Technologies)において増殖させた。24時間後に5ug/mlのブラストサイジンを添加し、2日おきに培地を交換した。9日後、pD2プラスミドを受け入れなかった細胞はすべて死滅した。12時間後に、2%のメチレンブルー(50%メタノール中)でプレートを染色した。正確に定量化するにはコロニー密度が高すぎたが、AAVS TALENの存在下では、ブラストサイジン耐性コロニーの数は増加しており、これは、AAVS遺伝子座への標的組込みが起きたことを示唆している。より正確な定量化に向けて、DNA量を減らして導入した。
【0211】
10個の細胞当たり、50ng、200ng、または400ngのいずれかの量のpD2−D1.3を使用して、前述のとおり、AAVS TALEN(存在する場合は、TALENはそれぞれ0.3ug/ml、表1A)の存在下または非存在下で、遺伝子導入を実施した。対照プラスミドであるpcDNA3.0で総DNAインプットを調整して、10個の細胞当たり1.2ugのDNAとした。遺伝子導入の24時間後、10cmのディッシュに0.25x10個の細胞を播種し、播種の24時間後に、7.5ug/mlのブラストサイジンを添加した。ブラストサイジンでの選択の10日後に、2%のメチレンブルー(50%メタノール中)でコロニーを染色した。結果は、図6に示され、表1Aにまとめられている。これによって、AAVS指向型TALENをコードするDNAを同時導入すると、ブラストサイジン耐性コロニーの数が約10倍に増加することが示された。
【0212】
AAVS遺伝子座を標的とする「AAVS オリジナル」TALENペアと、「AAVS SBI」TALENペアとの比較を実施した。表1Bは、「AAVS SBI」TALENペアを使用することで、ブラストサイジン耐性コロニーの数が増加することを示す。
【表1】
【0213】
本明細書で、我々は、細胞表面での抗体発現(実施例3)またはプロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子の活性化(実施例4)のいずれかを使用して、TALENヌクレアーゼ添加の効果を比較した。ヌクレアーゼ指向型組込みの利点は、ブラストサイジン耐性コロニーに対する効果と比較して、抗体発現を測定すると、より明らかである。可能性のある1つの説明は、ブラストサイジン存在下における生存をもたらすために必要な発現レベルは、表面上でのIgG2発現を検出するために必要な発現レベルと比較して、顕著に低くあり得るというものである。したがって、プロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子の誤った組込み/スプライシングが生じると、ブラストサイジン抵抗遺伝子の低レベル発現をもたらし得、これによって、顕著な抗体発現を伴わず、ブラストサイジン耐性を有するコロニーの数が増加した基礎環境が作りだされている。
【0214】
実施例5.AAVS TALENを使用した組込みの正確性の決定
組込みの正確性を調べるために、実施例4/表1Aの実験からコロニーを選定し(二連かつ非染色のプレート由来)、増殖させ、こうした細胞に由来するゲノムDNAをPCRの鋳型として使用した。ゲノムDNAの調製に向けて、細胞を回収し、溶解緩衝液(10mMのトリスCl、pH=8.0、50mMのEDTA、200mMのNaCl、0.5%のSDS、0.5mg/mLでプロテイナーゼK添加(溶解直前に添加)700μLに再懸濁した。その後、溶解緩衝液に再懸濁した細胞を微量遠心管に移し、60℃で約18時間保った。翌日、ゲノムDNAを沈殿させるために、可溶化液にイソプロパノールを700μL添加した。13,000rpmで微量遠心管を20分間遠心した。その後、ゲノムDNAのペレットを70%のエタノールで洗浄し、13,000rpmでさらに10分間遠心した。遠心後、ゲノムDNAのペレットに触れないようにしながら、上清を注意深く分離した。その後、10mMのトリス(pH8.0)及び1mMのEDTAを含む緩衝液100μLにゲノムDNAのペレットを再懸濁してから、微量のエタノールを除去するために、蓋を開けたままにして60℃で30分間保った。この溶液100μLに、RNAseAを添加し(最終濃度20μg/mL)、60℃で約1時間インキュベートした。nanodrop分光光度計(Nanodrop)を使用して、ゲノムDNAの濃度を測定した。
【0215】
正しい組込みを同定するために、左右のホモロジーアームの域を超えて、AAVSゲノム遺伝子座にハイブリッド形成するPCRプライマーを設計した。これらのプライマーは、挿入断片特異的プライマーとペアにした。5’末端側のプライマーは下記のとおりである。
AAVS−左−アーム−接合部−PCR−フォワード(9625) 5’CCGGAACTCTGCCCTCTAAC(配列識別番号:74)
BSD_接合部 PCR−リバース(9626):5’TAGCCACAGAATAGTCTTCGGAG(配列識別番号:75)
【0216】
正しい組込みが起きた場合、これらのプライマーによって、1.1kbの増幅産物が得られる。AAVS指向型組込みから生じたクローンの8/9から、正しいサイズのバンドが得られた(図7a、図7b)。TALEN無しで得られた2つのブラストサイジン耐性コロニーからは、増幅産物は得られず(図11a)、これは、組込みが無作為であることを意味している。3’末端側のプライマーは下記のとおりである。
ドナー_プラスミド_配列_PDGFRTM−2 フォワード 5’ACACGCAGGAGGCCATCGTGG(配列識別番号:76)
AAVS1_右アーム_接合部_PCR_リバース 5’TCCTGGGATACCCCGAAGAG(配列識別番号:77)
【0217】
これらのプライマーによって、組込みが正しければ、1.5kbの増幅産物が得られる。AAVS指向型組込みから生じたクローンの7/9から、正しいサイズのバンドが得られた。TALEN無しで得られた2つのブラストサイジン耐性コロニーからは、増幅産物は得られなかった(図11b)。したがって、ブラストサイジン耐性細胞の大部分が、AAVS遺伝子座への正しい組込みから生じている一方で、TALEN非存在下で生じたブラストサイジン耐性コロニーは、正しく組込まれていないものである。
【0218】
実施例6.ファージディスプレイ及び哺乳類ディスプレイを介した選択からの選択集団に由来するscFvディスプレイライブラリーの構築
scFv編成可溶性抗体は、これまでに、ベクターpBIOCAM5−3Fから発現されており、この場合、CMVプロモーターが発現を推進し、ベクターによって、抗体遺伝子に対するC末端融合パートナーが与えられ、当該C末端融合パートナーは、ヒトFc、His6、及び3xFLAGからなるものである[105、126]。これを改変し、ベクターpBIOCAM5newNotを創出し、抗体のFc領域内にNot1部位を埋め込んだ(図8に示されるとおり)。これを開始点として使用し、細胞表面に繋留されたscFv−Fc融合体の発現に向けて、ベクターpD6(図8)を創出した。プライマー(2598及び2619)を設計し、pBIOCAM5newNotからのCMVプロモーター−scFv−Fc発現カセットの増幅を可能にした。プライマー2598は、CMVプロモーターの上流でハイブリッド形成すると共に、末端にPac1部位(下線が引かれている)が配置されている。
2598:TTTTTT[TTAATTAA]GATTATTGACTAGTTATTAATAGTAATCAATTACGGGGTC(配列識別番号:78)
【0219】
プライマー2619は、Fcドメインの末端近くでハイブリッド形成し、イントロンの開始部位に、スプライスドナー部位及びPme1部位(下線が引かれている)を導入する。
2619:TTTTTTG[TTTAAA]CTTACCTTGGATCCCTTGCCGGGGCTCAGGCTCAGGGAC(配列識別番号:79)
【0220】
得られたPCR産物は、pD2(図3)のPac1部位及びPme1部位と互換性である。
pD2をPac1及びPme1で消化することによって、pEFプロモーター−リーダー−−左鎖−CMVプロモーター−リーダー−重鎖が除去される。
Pac1/Pme1で切断したPCR産物のクローン化によって、CMVプロモーター−リーダー−Nco1/Not1部位−ヒトFcが差し込まれる。
【0221】
この様式でのクローン化は、下流の膜貫通ドメインまでのスプライシングに向けて、適切にscFv−Fcカセットを配置するものであり、当該膜貫通ドメインは、pD2において、細胞表面でのIgG提示に向けて既に説明したとおりである。最終的なベクターであるpD6は、図8に示され、Nco1部位からPme1部位までのD6の配列が示されている。
【0222】
ベータ−ガラクトシダーゼ(Rockland、カタログ番号B000−17)及びCD229(R and D Systems、カタログ番号898−CD−050)を抗原として使用して、McCaffertyファージディスプレイライブラリー[7]を使用したファージディスプレイでの選択を実施した。以前に説明したように、使用した選択及びサブクローン化の方法は、基本的なものである[6、7、118、127]。ベータ−ガラクトシダーゼでの1回または2回のラウンドの選択、及びCD229での2回のラウンドの選択から生じた集団に由来するscFv遺伝子をPCRによって回収した。プライマーM13Leadseqは、scFv遺伝子に先行する細菌リーダー配列内でハイブリッド形成し、Notmycseqは、ファージディスプレイベクターにおいてscFv遺伝子に続くmycタグでハイブリッド形成するものである[127]。
M13Leadseq(配列識別番号:80)
AAA TTA TTA TTC GCA ATT CCT TTG GTT GTT CCT
Notmycseq(配列識別番号:81)
GGC CCC ATT CAG ATC CTC TTC TGA GAT GAG
【0223】
Nco1及びNot1でPCR産物を消化し、消化挿入断片をゲルで精製した。細菌発現プラスミドであるpSANG10−3FのNoco1部位及びNot1部位へと消化産物を連結し、説明したとおりに、抗体を発現させ、選別した[127]。ベータ−ガラクトシダーゼ及びCD229での2ラウンドの選択後に、ELISAによって、40/190(21%)及び35/190(18%)のクローンが陽性であることが明らかとなった。
【0224】
Nco/Notで切断した挿入断片550ngについてもpD6(2.4μg)のNco1及びNot1部位へと連結し、scFvと、ヒトIgG2のFc領域との融合体を発現する構築物を創出した。エレクトロコンピテントなNEB5alpha細胞(New England Biolabs、カタログ番号C2989)へと連結DNAを形質転換し、それぞれの集団で、サイズが2〜3x10個クローンであるライブラリーを生成させた。DNAを調製し、10個の細胞当たりドナーDNA(pD6ライブラリー)を0.3μg使用して、上記のように、Freestyle培地において増殖した100mlのHEK293細胞へと同時導入した。「AAVS−SBI」TALEN(pZT−AAVS1 L1 TALE−N及びpZT−AAVS1 R1 TALE、カタログ番号GE601A−1 System Biosciences)をそれぞれ0.5μg使用して、細胞に同時導入した。
【0225】
遺伝子導入の24時間後に、バルク培養容積を2倍にし、24時間後に、ブラストサイジン(10μ/ml)を添加した。3〜4日ごとに培地を新しくし、6日後にブラストサイジン濃度を20μg/mlまで増加させた。
【0226】
ライブラリーサイズを決定するために、遺伝子導入の24時間後に、10cmのペトリ皿(組織培養処理済)に20,000個の細胞を播種し、10%のウシ胎仔血清(10270−106、Gibco)及び1%のMinimal Essential medium non−essential amino acid(MEM_NEAA 番号11140−035 Life Technologies)において増殖させた。さらに24時間後に、10μg/mlのブラストサイジンを添加し、培地を2日おきに交換した。8日後に、2%のメチレンブルー(50%のメタノール中)でプレートを染色した。表2に結果を示す。これは、3つ集団で、約3x10個のクローン(遺伝子導入細胞の3%に相当する)のライブラリーが得られたことを示すものである。
【表2】
【0227】
10〜20x10個の細胞の標識及び流動選別のプロトコールを以下に示す。遺伝子導入後の13日目に、インキュベーション容積を減らし(示されているものの1/10の試薬容積)、試料当たり10個の細胞のみを使用して、最初の分析を実施した。
【0228】
図9は、遺伝子導入後13日目に、少なくとも43〜46%の細胞が、細胞表面にscFv−Fc融合体を発現しており、これは、FITCまたはフィコエリトリンのいずれかで標識された抗Fc抗体を使用して検出できることを示している。FITCまたはフィコエリトリンのいずれかで標識されたストレプトアビジンを使用して、ビオチン化ベータガラクトシダーゼの結合もこの集団内で検出される。1ラウンドまたは2ラウンドのファージディスプレイよる選択から生じたアウトプット集団から得られたライブラリーを使用し、ストレプトアビジン−FITCを使用したところ、それぞれ11.8%及び39%の細胞が、抗体発現及び抗原結合の両方で陽性であった。2ラウンドのファージディスプレイから得られたCD229に向けたものでは、66%の細胞が、scFv−Fcに陽性であり、こうした細胞の24%が、CD229結合に対して陽性であった(総集団の15%)。
【0229】
遺伝子導入後20日目に、下記のプロトコールに従って(ビオチン化抗原/フィコエリトリンで標識されたストレプトアビジン及びFITCで標識された抗ヒトFcを使用して)、細胞を標識した。
1.細胞を回収、洗浄し、試料当たり15〜20x10個に調整。室温、250gで4分間細胞を遠心沈降し、1mlのPBS+0.1%のBSA(4℃)で細胞を洗浄し、室温、250gで4分間細胞を遠心沈降してから、1mlのPBS+0.1%BSAに再懸濁。
2.ビオチン化抗原を添加し、最終濃度を100nMとして、4℃で30分間インキュベート。
3.5分間、1500rpmの遠心によって、1mlの0.1%のBSAで細胞を2回洗浄。
4.以下のいずれかを添加し、暗所で15分間保持。
10μlのFITC標識ストレプトアビジン(1μg/ml、Sigma カタログ番号S3762)及び20μlのフィコエリトリン標識抗ヒトFc(200μg/ml、BioLegend カタログ番号409304)、
または
20μlのフィコエリトリン標識ストレプトアビジン(200μg/ml、Biolegend カタログ番号405203)及び20μlのFITC標識抗ヒトFc(200μg/ml、Biolegend カタログ番号409310)PBS+1%のBSA
5.5分間、1500rpmの遠心によって、1mlの0.1%のBSAで細胞を2回洗浄。
6.500μlの氷冷したPBS+1%BSAに再懸濁。
7.生存率測定用染色に向けて、バイアル当たり20μlの7AADを添加。
【0230】
選別に向けて、細胞サイズ、粒度、パルス幅及び生存率(7−AAD染色による、前方散乱ならびに側方散乱に基づき、細胞をゲートした。結果を図9c及び図9fに示す。2ラウンドのCD229(CD229 R2)での選択、及び1ラウンドのβ−ガラクトシダーゼでの選択(β−galR1)から生じたアウトプット集団から得られたライブラリーで、合計1千万個の細胞を選別し、それぞれ3.1%及び7%の二重陽性である細胞を回収した。
【0231】
β−galR1から得られた細胞から選択した細胞をさらに20日間増殖させ、再度分析した(図9h)。これは、今や大部分の細胞が、scFv−Fcを発現し、β−ガラクトシダーゼに結合することを示すものである。この図は、遺伝子導入の42日後に、非選択集団内の二重陽性である細胞の割合が減少していないことも示す(図9k)。
【0232】
150,000〜10個の選別された細胞からゲノムDNAを調製した。ゲノムDNAは、前述の方法またはGenElute mammalian genomic DNA miniprep kit(Sigma G1N10)を使用して調製した。
scFv遺伝子は、下記のプライマーを使用して、ゲノムDNAからPCRで増幅した。
2623(配列識別番号:82)
TAAAGTAGGCGGTCTTGAGACG
2624(配列識別番号:83)
GAAGGTGCTGTTGAACTGTTCC
【0233】
0.3uMのそれぞれのプライマー及び3%のDMSOを含む製造者の緩衝液中で、Phusionポリメラーゼ(NEB カタログ番号M0532S)を使用して、PCR反応を実施した。50ulの反応において、100〜1000ngのゲノムDNAを鋳型として使用した。98℃で10秒、55℃で25秒、72℃で45秒のサイクルを30回実施した。これによって、1.4kBの増幅産物が得られ、これをNco1及びNot1で消化した。約750〜800bpのバンドが生成し、これをゲルで精製してからpSANG10へとクローン化した。連結したDNAをBL21細胞(Edge Bio Ultra BL21(DE3)コンピテント細胞、カタログ番号45363)へと形質転換した。このようにして、選別した集団から得られたscFv断片を細菌において発現させることができ、以前に説明したとおりである[7、127]。
【0234】
抗体遺伝子を単離して、代替のベクター/宿主の組み合わせにおいて発現するというものの代わりとして、単一細胞クローン化後の選択細胞、またはポリクローナル抗体混合物を生成させるための選別集団を使用して選択した細胞のいずれかから直接的に分泌抗体を得ることが可能である。これを例示するために、培養7日後に、選別細胞(βgalR1細胞由来)から培養上清を取得した。これは、βガラクトシダーゼで被覆したプレートを使用したELISAにおいて陽性であることが示された(実施例13及び図19b参照のこと)。
【0235】
実施例7.ファージディスプレイから選択した集団に由来するIgGディスプレイライブラリーからの構築及び選択
実施例6に記載したように、scFvをコードするDNA断片を生成させた。当該DNA断片は、β−ガラクトシダーゼ及びCD229に対する、抗体ファージディスプレイでの選択の1ラウンド目及び2ラウンド目のアウトプットに相当するものである。scFv集団は、実施例14及び下記に詳細に示される方法に従って、IgG形式へと変換した。
【0236】
ヒトカッパ軽鎖定常ドメイン(C)、ポリアデニル化配列(pA)、CMVプロモーター、及びマウスV鎖に由来するシグナルペプチドをコードするDNA挿入断片(図21bにおいて示されるpD2のNot1部位と、Nco1部位との間に相当する)を、プライマー2595(GAGGGCTCTGGCAGCTAGC)(配列識別番号:84)及びプライマー2597(TCGAGACTGTGACGAGGCTG)(配列識別番号:85)を使用して、プラスミドpD2からPCRで増幅した。PCR反応は、それぞれのプライマーを0.25μMで含む製造者の緩衝液中で、KODホットスタートポリメラーゼ(Novagen カタログ番号71086−4)を使用して実施した。50ulの反応において、10ngのpD2プラスミドDNAを鋳型として使用した。98℃で10秒、55℃で25秒、72℃で40秒のサイクルを25回実施した。これによって、1.8kBの増幅産物が得られ、これをNco1及びNot1で消化し、ゲルで精製した(図20a、図21bではC−pA−CMV−SigP挿入断片として示される)。
【0237】
実施例6に記載したように、scFvをコードするDNA断片を生成させた。当該DNA断片は、β−ガラクトシダーゼ及びCD229に対する、抗体ファージディスプレイでの選択の1ラウンド目及び2ラウンド目のアウトプットに相当するものである。図20bは、β−ガラクトシダーゼ及びCD229に対して選択したscFv集団を1%のアガロースゲルでの電気泳動によって分離したものを示す。
【0238】
NcoI/NotIで消化したscFv挿入断片(1μg)と、NcoI/NotIで消化したC−pA−CMV−SigP挿入断片(1μg)と、を総容積が40μlの製造者の緩衝液中で、T4 DNAリガーゼ(1.5μl、Roche、10−481−220−001)と共にインキュベートすることによって、scFv挿入断片と、C−pA−CMV−SigP挿入断片とのライゲーションを実施し、図21cに示される「小環」を形成させた。16℃で16時間、ライゲーション物をインキュベートし、スピンカラムによって精製してから、NheI及びXhoIで消化して得られた2.6kbの産物(図21dに示される)を、1%のアガロースゲルでの電気泳動によって分離精製した(図20c)。
【0239】
−C−pA−CMV−SigP−V(0.5μg)をコードする、図21dに示されるDNA挿入断片と、NheI/XhoIで消化し、ゲルで精製したベクターpD2(0.7μg)(図21e)と、を総容積が40μlである製造者の緩衝液中で、T4 DNAリガーゼ(1.5μl、Roche、10−481−220−001)を使用して連結し、図21fに示される標的化ベクターを生成させた。これは、IgGとして編成された抗体集団をコードしており、β−ガラクトシダーゼまたはCD229に対する抗体ファージディスプレイでの選択の1ラウンド目または2ラウンド目を起源とするものである。16℃で16時間、ライゲーション物をインキュベートし、スピンカラムで精製してからHPLCグレードの水で溶出した。
【0240】
エレクトロコンピテントなNEB5alpha細胞(New England Biolabs、カタログ番号C2989)へと連結DNAを形質転換し、それぞれの集団で、サイズが1〜4x10個クローンであるライブラリーを生成させた。DNAを調製し、10個の細胞当たりドナーDNA(pD6ライブラリー)を0.3μg使用して、上記のようにFreestyle培地において増殖した100mlのHEK293細胞へと同時導入した。それぞれ0.5μgの「AAVS−SBI」TALEN(pZT−AAVS1 L1 TALE−N及びpZT−AAVS1 R1 TALE、カタログ番号GE601A−1 System Biosciences)を細胞に同時導入した。
【0241】
遺伝子導入の24時間後に、バルク培養容積を2倍にし、24時間後に、ブラストサイジン(10μ/ml)を添加した。3〜4日ごとに培地を新しくし、6日後にブラストサイジン濃度を20μg/mlまで増加させた。
【0242】
ライブラリーサイズを決定するために、遺伝子導入の24時間後に、10cmのペトリ皿(組織培養処理済)に250,000個の細胞を播種し、10%のウシ胎仔血清(10270−106、Gibco)及び1%のMinimal Essential medium non−essential amino acid(MEM_NEAA 番号11140−035 Life Technologies)において増殖させた。さらに24時間後に、10μg/mlのブラストサイジンを添加し、培地を2日おきに交換した。8日後に、2%のメチレンブルー(50%のメタノール中)でプレートを染色した。表3に結果を示す。これは、3つ集団で、5x10〜9x10個のクローン(遺伝子導入細胞の0.5%〜0.9%に相当する)のライブラリーが得られたことを示すものである。
【表3】
【0243】
β−ガラクトシダーゼでの1ラウンドまたは2ラウンドの選択に由来するアウトプットを遺伝子導入した細胞のバルク集団を、前述のように、ブラストサイジン含有培地中で選択した。19日後に、実施例6に記載されるように、10〜20x10個の細胞を標識し、流動選別を実施した。選別細胞を17日間増殖させ、フローサイトメトリーで再分析した(図10)。これによって、今や大部分の細胞が、IgG発現及びβ−ガラクトシダーゼに対する結合に対して、二重陽性であることを示された。
【0244】
選別細胞からゲノムDNAを調製し、PCRによって、IgG挿入断片をコードするDNAを単離した。KODポリメラーゼ(Merck、カタログ番号71086−3)を使用して、アニーリング温度を60℃にし、30サイクル実施して、IgGをコードする挿入断片を増幅した。5%のDMSOを含む、製造者提供の緩衝液を、0.3μMのプライマー2597(配列識別番号:54)及びプライマー2598(配列識別番号:47)と共に使用した。所望のサイズの増幅産物をゲルで精製した。その後、ネステッドPCRに、ゲルで精製した増幅産物を使用した。当該ネステッドPCRは、KODポリメラーゼ(Merck、カタログ番号71086−3)を使用し、5%のDMSOを含む、製造者の緩衝液中で、0.3μMのプライマー2625(配列識別番号:55)と、プライマー1999(配列識別番号:56)(R1試料向け)またはプライマー2595(配列識別番号:53)(4R1及び5R1向け)のいずれかと、を組み合わせて使用し、アニーリング温度を60℃、サイクル数を30として実施した。こうしたネステッドPCRによる増幅産物をゲルで精製し、NheI−HF(NEB、カタログ番号R3131S)及びXhoI(NEB、カタログ番号R0146S)での二重消化に供した。この処理は、可溶性IgGとして編成された結合体の発現に向けて、当該増幅産物と、同様に二重消化されたplNT3(図1)と、を連結するためのものである。プライマー配列は下記のとおりである。
2597:AGGGGTTTTATGCGATGGAGTT(配列識別番号:85)
2598:GTTACAGGTGTAGGTCTGGGTG(配列識別番号:78)
2625:CCTTGGTGCTGGCACTCGA(配列識別番号:86)
1999:AAAAAGCAGGCTACCATGAGGGCCTGGATCTTCTTTCTCC(配列識別番号:87)
2595:GAGGGCTCTGGCAGCTAGC(配列識別番号:84)
【0245】
実施例8.ナイーブscFvライブラリーからの構築及び選択
Schofieldら[7]は、ファージディスプレイライブラリー(McCaffertyライブラリー」)の構築について説明しており、その中で、数多くのヒトドナーのBリンパ球由来の抗体遺伝子を「中間ライブラリー(intermediate library)」へと最初にクローン化してから、最終的な機能性ファージディスプレイライブラリーへと再クローン化した。これと同一の中間ライブラリー及び同一の方法論を使用して、4x1010個のクローンの新しいライブラリー(IONTASライブラリー)を生成された。細菌播種内ライブラリーを確実に十分再現するように注意しながら、このライブラリーからプラスミドDNAを調製した。総量が2ugのDNA鋳型を使用し、数多くのPCR反応を組成した。Nco1及びNot1で、PCR産物を消化し、ゲルで精製してから実施例6に記載されているように連結した。9.3ugのpD6及び0.93ugのPCR挿入断片を一晩連結させ、フェノールクロロホルム抽出を使用してライゲーション反応液を精製し、以前に説明したようにDH5アルファ細胞へとDNAを電気穿孔で導入した[7]。結果的に、scFv−Fcディスプレイベクター内における、2.4x10個のクローンのライブラリーが創出された。この「ナイーブライブラリー」からDNAを調製し、pD6へとクローン化してから、(上記のとおり)Freestyle培地において増殖した1リットルのHEK293F細胞(Life Technologies)へと遺伝子導入した。0.3ugのpD6ライブラリーDNA、それぞれ0.5ugの「AAVS−SBI」TALENペアを使用した。遺伝子導入の24時間後に、培養容積を2倍にし、遺伝子導入の48時間後に、上記のようにブラストサイジンでの選択を開始した。形質転換から24時間後の培養液を一定分量播種し、上記のようにブラストサイジンで選択することによって、ライブラリーサイズを決定した。0.9x10個のクローンのライブラリーが創出された。
【0246】
製造者の説明書に従って、EZ−Link Sulfo−NHS−LC−Biotinキット(Pierce カタログ番号21327)を使用し、数多くの抗原をビオチン化した。使用した抗原は、ウシサイログロブリン(Calbiochem カタログ番号609310)、ヒトCD28−Fcキメラ(R and D Systems、カタログ番号342−CD−200)、及びマウスEphB4−Fcキメラ(R and D Systems、カタログ番号446−B4−200)。ビオチン化β−ガラクトシダーゼ(Rockland カタログ番号B000−17)も使用した。
【0247】
液体培養において、17時間、上記のとおりブラストサイジン中で遺伝子導入細胞を選択した。細胞を回収、洗浄してから、試料当たりの細胞が15〜20x10個となるように調整した。記載のように細胞を調製し、濃度が500nMとなるようにビオチン化抗原を添加した。標識化及び流動選別は、上記のとおり実施した。フィコエリトリンで標識された抗Fc抗体のみとインキュベートした対照細胞を使用して、「ゲート(gate)」を創出したところ、こうした細胞の0.05%が含まれた。標識細胞に同一ゲートを使用したところ、0.28〜0.51%の細胞が含まれた(図11)。こうした細胞を回収し、増殖させることで、ナイーブライブラリーに由来するscFv遺伝子の選別及び増幅のラウンドをさらに実施することが可能となった。
【0248】
実施例9.ゲノム組込みのための、ヌクレアーゼ指向型手法と、リコンビナーゼ指向型手法と、を比較するための、マルチプル「ランディング部位」を有する細胞株の創出
ゲノム切断またはリコンビナーゼ媒介性組込みのいずれかに基づく組込み方法の比較を可能にするために、マルチプル「ランディング部位」(実施例3)を有するイントロン導入するAAVS指向型標的化ベクター(pD4)を構築した。こうした部位は、Flpリコンビナーゼによって認識されるFRT部位と、Creリコンビナーゼによって認識されるlox2272/loxP部位のペアと、を含む。さらに、標的切断を可能にするために、pD4は、TALENペアが設計された、GFPに由来する配列[128]と、エンドヌクレアーゼ指向型組込みを可能にするI−Sce1メガヌクレアーゼ部位と、を含んでいる。ヌクレアーゼ指向型組込みまたはリコンビナーゼ指向型組込みが、プロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子の活性化と、抗体発現カセットの組込みと、を引き起こすように、適切な認識部位を有する互換性の新規ドナープラスミドを構築した(pD5)。
【0249】
pD4のプラスミド構成及び配列構成を図12bに示す。中間体プラスミドpD3を最初に創出し、当該プラスミドは、CMVプロモーター制御下のGFP遺伝子と、これに続くPGKプロモーター制御下のピューロマイシン/チミジンキナーゼ遺伝子融合体と、を包含するものである(図12a)。これは、Sac1(CMVプロモーターの末端が対象)と、BstB1(Neo遺伝子とポリA部位との間が対象、図1a)と、でpBIOCAM1−newNotを消化することによって創出した。これによって、ネオマイシン発現カセットを除去して、CMVプロモーターの制御下に増進緑色蛍光タンパク質(enhanced Green Fluorescent Protein)(EGFP)遺伝子を包含する合成挿入断片で置き換えることが可能となる。変異したマウスオルニチン脱炭酸酵素PEST配列の残基422〜461へと、このGFP構築物をC末端で融合させた。このPEST配列は、プラスミドpZsGreen1−DR(Clontech)に組込まれ、融合GFPの半減期を1時間にまで減少させることが示されている。PGKプロモーター、ピューロマイシン/チミジンキナーゼ遺伝子融合体(Puro deltaTK)、及びポリAカセットをコードするカセットを、Xmn1及びFse1を使用して、プラスミドpFLEXIBLE[129]から切り出し、元の合成挿入断片に存在するSma1部位及びFse1部位へとクローン化した。得られたプラスミド(pD3と呼ばれる)は、CMVが推進するGFP遺伝子と、PGKプロモーターが推進するピューロマイシン耐性遺伝子と、をコードする。
【0250】
最終的な標的化ベクターpD4を創出するために、CMVプロモーターを除去し、AAVSホモロジーアームを挿入した。AAVS遺伝子座の850bpの区間をPCRで増幅し、5’末端にEcoR1と、3’末端にMre1と、が隣接するAAVS左ホモロジーアームを創出した。これをpD3のEcoR1/Mre1部位へとクローン化し、それによってCMVプロモーターを除去した。このAAVS左ホモロジーアームの3’末端に、Nsi1部位も組込んだ。隣接するMre1部位及びNsi1部位を使用して、合成断片を導入して、図13に示すように、イントロンをEGFP遺伝子に融合させた。EGFP遺伝子に先行する合成イントロンには下記が組込まれている。
Flpリコンビナーゼに向けたFRT認識部位
lox2272組換え部位
I−Sce1メガヌクレアーゼ部位
GFP TALEN認識部位
T2Aリボソーム停止(stalling)配列[130]
【0251】
PCRによって、AAVS左ホモロジーアームを生成させ、5’末端及び3’末端にHpa1部位及びBstZ171部位を創出した。pD3のHpa1部位及びBstZ171部位へと、この断片をクローン化した。得られたプラスミドpD4は、ピューロマイシン耐性カセット(「Puro deltaTK」)をコードしていると共に、AAVS遺伝子座への、「ランディング部位」の導入に使用することができ、これによって、比較に向けて、様々なヌクレーゼ部位及びリコンビナーゼ部位が組込まれる。pD4の配列を図13に示す(配列識別番号:5、配列識別番号:6、及び配列識別番号:7)。AAVSの左及び右を標的とするアームは、図3に詳細に示されており、したがって、図13では、省略されている。
【0252】
pD4へと導入されたイントロンは、GFPを起源とするTALEN認識部位を含むものである[128]。eGFP指向型TALENペア(eGFP−TALEN−18−左、及びeGFP−TALEN−18−右)は、下記の配列(配列及びプライマーはすべて、5’から3’の方向で示されている)を認識し、ここで、大文字は、TALENによる左右の認識部位を示し、小文字は、スペーサー配列を示す。右側TALENは、示される配列の相補鎖を認識する。GFPの開始ATG配列(スペーサー中に下線で示されている)に対して、最初の塩基対は、マイナス16の配列位置に相当する。
TCCACCGGTCGCCAcc[atg]gtgagcaagggCGAGGAGCTGTTCA(配列識別番号:88)
【0253】
プラスミドpD4には、I−Sce1メガヌクレアーゼ部位及びFlpリコンビナーゼによって認識されるFRT部位も組込まれている。最終的に、pD4には、GFP及びピューロマイシンの発現カセットと隣接するlox2272及びloxP(これらは相互に互換性)が組込まれている。これら2つの同一loxP部位を隣接させて組込むことで、ドナープラスミド(下記のpD5)の組込みカセット(PGK ピューロマイシンデルタTKカセットを含む)を置き換える機会が得られ、これによって、当該カセットが、リコンビナーゼ媒介性のカセット交換を介して、ブラストサイジン及び抗体の発現を推進する新規のカセットに交換される。
【0254】
pD4の遺伝子導入による細胞株の創出
10個細胞/mlでHEK293F細胞を再懸濁し、DNA:ポリエチレンイミン(PolyPlus)を1:2(w/w)の比率で添加した。0.6μg/mlのpD4を細胞に遺伝子導入し、「オリジナルAAVS」TALENペアまたは対照としてのpcDNA3.0(0.6μg/ml)のいずれかを同時導入した。CMVプロモーターからEGFPを発現するpD3を、遺伝子導入対照として実験に含め、遺伝子導入効率は、35%であった。24時間に、0.5x10個細胞/10cmペトリ皿(組織培養処理済)で、遺伝子導入細胞を播種し、10%のウシ胎仔血清(10270−106、Gibco)及び1%のMinimal Essential medium non−essential amino acid(MEM_NEAA 番号11140−035 Life Technologies)において増殖させた。さらに24時間後に、5μg/mlのピューロマイシンを添加し、培地を2日おきに交換した。非遺伝子導入細胞またはpD3のみが遺伝子導入した細胞は、5日後に死滅した。12日後に、pD4のみを遺伝子導入した細胞で形成されたコロニー数は、約200であり、pD4及びAAVS TALENペアを遺伝子導入した細胞は形成されたコロニー数は、約400であった。
【0255】
pD4及びAAVS TALENペアの遺伝子導入から生じたピューロマイシン耐性集団に正しい組込みが起きたかを分析した。さらに、この集団(クローン6F)から単一コロニーを選定し、AAVS TALENペアの非存在下で実施したpD4の遺伝子導入から生じたピューロマイシン耐性集団に由来するコロニーと比較した。正しい組込みを同定するために、左右のホモロジーアームを超えてAAVSゲノム遺伝子座においてハイブリッド形成するPCRプライマーを設計した。こうしたプライマーは、挿入断片に特異的なプライマーとペアにした。プライマーは、5’末端表記で、下記のとおりである。
AAVS1_HA−L_Nested_Forw1 GTGCCCTTGCTGTGCCGCCGGAACTCTGCCCTC(配列識別番号:89)
EGFP_Synthetic_gene_Rev_Assembly TTCACGTCGCCGTCCAGCTCGAC(配列識別番号:90)
Purotk_seq_fow2 TCCATACCGACGATCTGCGAC(配列識別番号:91)
AAVS1_Right_arm_Junction_PCR_Rev TCCTGGGATACCCCGAAGAG(配列識別番号:77)
【0256】
図14は、クローン6F及び当該集団は、左右の末端の両方で正しいが、非AAVS指向型の集団から選定したクローンでは、正しくないことを示している。したがって、PCR分析は、ゲノムDNAの切断が、AAVS TALENによって指示されると、ドナーカセット組込みの正確性が向上することを示している。
【0257】
pD4は、プロモーター無しのインフレームGFP遺伝子を導入するものであり、当該インフレームGFP遺伝子は、AAVSプロモーターに由来して推進される。ピューロマイシン耐性集団のフローサイトメトリーによって、GFPの発現が存在しないことが示された。半減期の短さ(マウスのオルニチン脱炭酸酵素PEST配列要素由来)と、T2Aプロモーターを使用することで生じた発現の減少と、が組み合わされたことに起因して、この発現欠如が起きた可能性がある。実際、プロモーターが存在しないブラストサイジン要素(pD2向けに記載したとおり)の前にT2A要素を追加することで、ブラストサイジン耐性コロニーの数は4倍減少することが明らかとなった。GFP発現は存在しないものの、マルチプルランディング部位の組込みは、リコンビナーゼ指向型のゲノム組込みと、DNA切断指向型のゲノム組込みと、の比較に向けた機会を依然として与えるものである。
【0258】
実施例10.「マルチプルランディング」部位への抗体カセットの挿入に向けたベクター(pD5)の構築
AAVS遺伝子座への「マルチプルランディング部位」イントロンの導入に続いて、ヌクレアーゼ指向型の手段またはリコンビナーゼ指向型の手段を介した、抗体カセットの導入が可能である。これを実施するために、ドナープラスミドpD5を創出し、ここで、発現カセットは、左右のホモロジーアームと隣接しており、当該左右のホモロジーアームは、pD4へと導入されたGFP TALEN切断部位と隣接する配列と等しいものである。pD5自体には、無処理のGFP TALEN認識部位は組込まれておらず、組込みは、相同組換えによって推進される。ドナープラスミドの相同性指向型組込みは、ブラストサイジン遺伝子の導入を引き起こすことになり、当該ブラストサイジン遺伝子は、プロモーターを欠いているが、前述にように、AAVS遺伝子座に由来する上流エクソンとのインフレーム融合を創出するスプライスアクセプター部位が先行するものである。AAVS遺伝子座への組込みが生じれば、プロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子の発現を引き起こすことになる。挿入カセットは、上記のように、pEFプロモーター及びCMVプロモーターの制御下に、それぞれIgG編成抗体重鎖及びIgG編成抗体軽鎖もコードするものである。pD5には、新規ドナーの切断を引き起こすことができるI−Sce1メガヌクレアーゼ部位が組込まれており、これによって、NHEJ向けの機会を提供するものである(実施例12参照)。ドナープラスミドpD5には、FRT部位も組込まれており、これによって、プロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子と、抗体発現カセットと、の同一遺伝子座でのリコンビナーゼ指向型組込みが可能である。上で考察したように、Creリコンビナーゼが、ドナー及びゲノムDNAにおけるloxP部位に作用し、リコンビナーゼ媒介性のカセット交換を指示することになる。
【0259】
pD5の配列を図15に示す。GFP TALEN部位の5’末端の配列は、AAVS遺伝子座に由来するものである。TALEN切断部位の上流にある、AAVS遺伝子座の267bpの区間は、PCRによって生成した。プライマーを使用して、EcoR1部位及びMfe1部位を5’末端及び3’末端に創出し、増幅産物をpD1−D1.3のECoR1部位へとクローン化した。EcoR1部位は、5’末端に再創出されている。左ホモロジーアームのクローン化の間に、Nsi1及びPac1も3’末端に挿入した。右ホモロジーアームには、GFP TALENの3’側配列と等しい約700bpが組込まれており、当該右ホモロジーアームは、PCR構築によって創出した。PCRプライマーによって、構築断片の5’末端及び3’末端にBstZ171部位を導入し、これをpD1−D1.3のBstZ171部位へとクローン化した。PCRプライマーによって、5’末端にHpa1部位も導入した。
【0260】
イントロン(GFP TALEN、I−Sce1エンドヌクレアーゼ、Flpリコンビナーゼ、及びCreリコンビナーゼに向けた認識部位が組込まれている)、スプライスアクセプター領域、ブラストサイジン遺伝子、ならびにポリA部位(上記のとおり)を包含するPCR断片を、5’末端にNsi1部位、及び3’末端にPac1部位を有する形で創出した。これを、上記のプラスミドのNsi1部位及びPac1部位へとクローン化し、pD5−D1.3を創出した(図15に示される配列及び図18aに示されるプラスミド構造)。
【0261】
実施例11 抗体発現カセットの、ヌクレアーゼ指向型組込みと、Flp指向型組込みとの比較
抗体発現カセットのリコンビナーゼ媒介性組込みに向けて、これまで使用されてきたFlp−Inシステム[18]は、天然Flpリコンビナーゼの37℃での活性の僅か10%しか有さない変異体Flpリコンビナーゼ(プラスミドpOG44中)を使用するものである[19]。野生型と比較して、熱安定性及び37℃での活性が上昇したFlpリコンビナーゼの変異体(Flpe)が同定された[19、20]。これは、コドン最適化によってさらに改善され、プラスミドcCAGGS−Flpo(Genebridges カタログ番号A203)内コードされたFlpo[131]が創出された。Flpリコンビナーゼ(pOG44及びcCAGGS−Flpo内にコードされる)の両変異体の作用が比較された。Creリコンビナーゼによって指示される組換えについても、Creリコンビナーゼをコードするプラスミド(pCAGGS−Cre、Genebridges カタログ番号A204)を細胞に同時導入することによって調べられた[132]。それぞれのベクターにおいて、リコンビナーゼは、ニワトリ−β−アクチンプロモーター及びCMV最初期エンハンサーの制御下で発現される。SV40ラージT核局在配列(Large T nuclear localization sequence)が、核の局在に向けて使用されている[20]。元のベクター(cCAGGS−Flpo及びpCAGGS−Cre)においては、リコンビナーゼの発現は、内部リボソーム進入部位(IRES)によって、ピューロマイシン耐性遺伝子に結び付けられているが、当該耐性遺伝子は、標準的な分子生物学的手法を使用して除去した。
【0262】
抗体カセットの、ゲノム切断指向型組込みと、リコンビナーゼ指向型組込みと、の効率を比較するために実験を実施した。結果は、下記の2つの方法で評価した。
1.プロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子の組込みから生じたブラストサイジン耐性コロニー数の測定。
2.異なる手法によって達成される抗体発現の程度の評価。
【0263】
実施例9に記載したように、Creリコンビナーゼの認識部位(lox2272及びloxP)及びFlpリコンビナーゼの認識部位(FRT)をクローン6F内のAAVS遺伝子座へと予め組込んだ。さらに、GFP TALENペアの認識部位及びメガヌクレアーゼ I−Sce1の認識部位も同一イントロン内に存在する。ドナープラスミドpD5−D1.3は、プロモーターが存在しないブラストサイジン遺伝子の上流に存在するイントロン内に同一認識部位(GFP TALEN以外)を保有する。正しい組込みが生じれば、ブラストサイジン遺伝子の活性化を引き起こすことになる。pD5−D1.3は、IgG編成されたD1.3抗体遺伝子もコードしており、当該遺伝子は、細胞表面に発現することになるものである。
【0264】
pD5−D1.3と、pOG44またはpCAGGS−Flpo(Flpリコンビナーゼの2つの変異体をコードする)と、を同時導入すれば、pD5プラスミド全体が、クローン6FのFRT部位へと組込まれるはずである。さらに、ドナープラスミドpD5−D1.3は、ブラストサイジン遺伝子の上流に位置する合成イントロン内のlox2272部位と、抗体発現カセットの末端のloxP部位と、を有する。pCAGGS−Creから発現されるCreリコンビナーゼの作用下では、リコンビナーゼ媒介性カセット交換は、クローン6F内のlox2722部位及びloxP部位への、ブラストサイジン及び抗体発現カセットの組込みをもたらすはずである。
【0265】
リコンビナーゼ指向型の手法と、ゲノム切断指向型の手法と、を使用したベクター組込みの効率を、GFPに由来する配列(Reyon et al.,2012)を対象としたTALENペア(eGFP−TALEN−18−左、及びeGFP−TALEN−18−右)を使用して比較した。GFP TALENの場合は、TALENによるゲノム切断に続いて、左右のホモロジーアームの間に存在する要素が組込まれることになる。
【0266】
I−Sce1メガヌクレアーゼとの比較を可能にするために、I−Sce1をコードするコドン最適化遺伝子を構築した(図16)。この遺伝子は、N末端に、N末端HAエピトープタグ/SV核局在シグナル(NLS)を有しており、5’末端及び3’末端でNco1部位及びXba1部位と隣接している。ベクターpSF−CMV−F1−Pac1(Oxford Genetics OG111)に当該遺伝子をクローン化し、ここでは、CMVプロモーターが発現を推進する。
【0267】
「マルチプルランディング部位」が正しく組込まれたクローン6Fを使用して遺伝子導入を実施した。細胞を10個/mlで懸濁してから、酵素をコードするプラスミドと併せて、10個の細胞当たり50ngのpD5−D1.3ドナープラスミドを遺伝子導入した(表4A)。
【0268】
24時間後に、遺伝子導入細胞を0.5x10個細胞/10cmペトリ皿(組織培養処理済)で播種し、10%のウシ胎仔血清(10270−106、Gibco)及び1%のMinimal Essential medium non−essential amino acid(MEM_NEAA 番号11140−035 Life Technologies)において増殖させた。さらに24時間後に、5ug/mlのブラストサイジンを添加し、培地を2日おきに交換した。12日後に、2%のメチレンブルー(50%メタノール中)でプレートを染色し、コロニー数を数えた(表2)。Flpリコンビナーゼ、Creリコンビナーゼ、及びTALENの直接比較において、GFP TALENを使用することで最も多くの数のコロニーが得られ、「ドナーのみ」と比較して9倍上昇した(表4A)。最適化されたFlpo遺伝子を使用すると、「ドナーのみ」の対照と比較して、ブラストサイジン耐性コロニーの数がかえって減少するという結果であったことも明らかとなり、これは、おそらくFlpリコンビナーゼの活性が増進したことからくる毒性によるものであると想定される。pCAGGS−Creを使用しても、ドナーのみの対照と比較してコロニー数は増加した。
【0269】
第2の実験を実施することで、増進Flp(cCAGGS−Flpo由来)、ならびにFlp−Inシステム(Zhouらによって使用されたもの[17、18、US7,884,054]に由来するpOG44内にコードされる低活性Flp酵素、の両方と、GFP TALENを比較した。これらをGPF TALEN及びCreリコンビナーゼと比較した(表4B)。細胞百万個当たりで示されるDNA量で、細胞に遺伝子導入した。0.25x10個の細胞をプレートに播種し、上記のように、ブラストサイジン耐性コロニーの数を決定した。細胞は、液体培養においてもブラストサイジン耐性で30日間選択してから、(上記のように)表面IgGを発現する細胞の割合を決定した。表4Bは、耐性コロニーの数に関して、TALENが他の手法に対して優位であったことを示す。cCAGGS−Flpo内の最適化Flpを使用することで、「ドナーのみ」の対照と比較して、ブラストサイジン耐性コロニーの数がかえって減少するということが再び引き起こされた。Creリコンビナーゼは、対照と比較して、ブラストサイジンコロニー数の増加を再度もたらした一方で、pOG44内のFlp遺伝子は、対照と比較して僅かな増加を示しただけであった。
【表4】
【0270】
ドナーDNAをさらに追加することで(表4C)、中間レベル(2μg/百万個細胞)では、コロニー数が増加し、高レベル(6μg/百万個細胞)では、全体的に減少した。GFP TALEN指向型組込みで見られた抗体ディスプレイのレベルを達成したものは、他の試料には無かった。
【0271】
細胞は、液体培養においてもブラストサイジンで選択して、上記のように、抗体発現で細胞を染色した。TALEN指向型組込みでは、他の手法と比較して、抗体陽性の割合が顕著に上昇した。cCAGGS−Flpo及び高濃度のpCAGGS−Creを遺伝子導入した細胞は、健全ではなく、フローサイトメトリーを実施するには、数が不十分であった。
【0272】
I−Sceエンドヌクレアーゼを含めて、比較を広げた。I−Sce1をコードする合成遺伝子を合成し(図16)、pSF−CMV−f1−Pac1(Oxford Genetics)のNco1/Xba1部位へとクローン化した。10個/mlで細胞を懸濁し、酵素をコードするプラスミド(1μg/10個細胞)と併せて、300ngのpD5−D1.3ドナープラスミドを細胞各ml(10個細胞/ml)に遺伝子導入した。翌日、0.05mlの細胞を播種し、ブラストサイジン中で選択して、記載したように、14日後に染色した。表5は、I−Sce1メガヌクレーゼから、最大数のブラストサイジン耐性コロニーが得られ、その次にeGFP TALENペアであったことを示す。Creリコンビナーゼ及びFlpリコンビナーゼ(pOG44内にコードされる)の両方で、「ドナーのみ」の対照と比較して、僅かに高い数が得られた。前述同様に、Flpeをコードするプラスミドの遺伝子導入は、「ドナーのみ」と比較して、かえってコロニー数が減少した。
【表5】
【0273】
遺伝子導入後、液体培養においてブラストサイジン耐性で細胞の大部分を選択し、7日後及び13日後に、上記のように、抗Fcフィコエリトリン標識抗体で染色した。図17(表5にまとめられている)は、「ドナーのみ」(4.9%)と比較して、I−Sce1エンドヌクレアーゼ及びeGFP TALENを遺伝子導入した細胞で、抗体発現の顕著な上昇(それぞれ47%及び55%)が達成されたことを示す。対照的に、Flpリコンビナーゼ(pOG44)またはCreリコンビナーゼをコードするプラスミドを細胞に同時導入すると、抗体陽性細胞の割合は、それぞれ6.6%及び6.5%であった。抗体陽性細胞の割合は、ブラストサイジン中での選択継続に伴って増加し続け、I−Sce1及びEGFP TALENを遺伝子導入した試料を19日目にアッセイした場合、85〜90%の割合で抗体陽性が達成される。したがって、メガヌクレアーゼは、抗体をコードする導入遺伝子のヌクレアーゼ指向型組込みを引き起こすための代替手法を提供するものである。
【0274】
実施例12.相同組換え及びNHEJの両方によって、抗体カセットのヌクレアーゼ指向型組込みを生じさせることができる
細胞DNAへの導入遺伝子の組込み効率は、二本鎖切断(DSB)の導入によって増進することができる。真核細胞における内在性のDNA修復機構には、相同組換え、非相同末端結合(NHEJ)、及びこうしたものの変種が含まれる。すべてが、ライブラリー内で結合体をコードする遺伝子を導入する手段を提供するものである。相同組換えは、相同領域と、挿入される導入遺伝子との正確な結合を提供するが、ドナープラスミドにおいて相同領域を用意する必要がある。相同組換えに向けたDNAは、直鎖状または環状のDNAとして提供することができる。NHEJでは、DNAの末端が、相同性の鋳型を必要とせずに直接的に再連結される。DNA修復に対するこの手法は、正確性が低く、挿入または欠失を引き起こし得る。それにもかかわらず、NHEJは、インフレームエクソンをイントロンへと組込むための簡便な手段を提供し、プロモーター:遺伝子カセットをゲノムへと組込むことを可能にするものである。非相同性の方法を使用することで、ホモロジーアームを欠いたドナーベクターを使用することが可能になり、それによって、ドナーDNAの構築が単純化される。
【0275】
クローン6Fは、ゲノムに組込まれたGFP TALEN認識部位及びI−Sce1ヌクレーゼ認識部位を有しており、こうしたヌクレアーゼが提供されると、こうした部位が、切断されることになる。ドナーベクターpD5は、GFP TALEヌクレアーゼ認識部位を有さないが、切断部位と隣接するホモロジーアームは有しているため、相同組換えのみによる組込みが予想される。隣接するI−Sce1メガヌクレアーゼでのゲノムDNAの切断もpD5要素の相同組換えによる組込みを引き起こすことになる。しかしながら、pD5は、I−Sce1が提供されると、試験管内で切断され得るI−Sce1メガヌクレアーゼ部位も有している。これによって、NHEJによって組込まれる可能性のある直鎖状DNA産物が創出されることになる。前述のとおり、NHEJを使用するドナーDNAの生体内での切断を使用することで、効率優位性さえ存在し得る。
【0276】
図18aは、新規pD5−D1.3ドナーDNAを示し、図18bは、「マルチプルランディング」部位が組込まれたクローン6F細胞のゲノム遺伝子座を示す。図18cは、pD5−D1.3(図18a)と、クローン6Fのマルチプルランディング部位(図18b)と、の相同組換えの結果を示す。対照的に、図18dは、NHEJの結果を示す。この場合、新規プラスミドの骨格に由来する余分なDNAが組込まれている(両矢印で示される)。「マルチプルランディング」部位でのFlp媒介性組換えは、類似産物をもたらすことになる。実施例11に記載の試料(図17に示される)で使用されている経路がどちらであるかを決定するために、前述のように、ブラストサイジンで選択した集団からゲノムDNAを調製した。組込みPGKプロモーターとハイブリッド形成するリバースPCRプライマー(J44)を設計した。このプライマーを、IgGタンパク質の末端でハイブリッド形成する、もう一方のJ48と併せて使用した。プライマーJ44及びプライマーJ48は、I−Sce1が組込みを担っていると、1928bpのバンドを与えることで、相同組換えが生じたことが明らかになるように設計した(図18eに矢印で示される)。(NHEJが生じると、このプライマーペアは、5131bpのバンドを与える可能性があるが、この実験のゲノムPCRにおいて、この長鎖増幅産物を目視することは不可能である。)
【0277】
プライマーJ46は、ベクター骨格内のβ−ラクタマーゼ遺伝子内でハイブリッド形成するように設計した。プライマーJ44及びプライマーJ46は、NHEJが生じると、1800bpのバンドを与えると見込まれる。FlPリコンビナーゼが、相同組換え媒介性の組込みを引き起こした場合、類似サイズのバンドが見込まれる。
J44:AAAAGCGCCTCCCCTACCCGGTAGAAT(配列識別番号:92)
J46:GGCGACACGGAAATGTTGAATACTCAT(配列識別番号:93)
J48:CACTACACCCAGAAGTCCCTGAGCCTG(配列識別番号:94)
【0278】
図18eは、GFP TALEN及びI−Sce1メガヌクレアーゼで処理した試料のみで相同組換えが生じていることを明確に明らかにするものである((i及びiiをiii及びivと比較して)。対照的に、I−Sce1メガヌクレアーゼが切断を引き起こしたときのみ、NHEJが生じる(図18eのv.)が、GFP TALENでは生じない(図18eのvi)。予想どおり、類似サイズのバンドが、Flpリコンビナーゼで処理した試料において見られる(18eのvii)。したがって、この実験は、抗体カセットのヌクレアーゼ指向型組込みが、相同組換え及びNHEJの両方によって生じ得ることを明らかにするものである。
【0279】
実施例13.同一細胞に由来する分泌抗体断片及び膜結合抗体断片の生成
上記のとおり、哺乳類ディスプレイベクターであるpD2及びpD5は、Dreリコンビナーゼ[88]によって認識される2つのROX認識部位が隣接する膜貫通ドメインをコードするエクソンと共に構築した。膜結合形態から分泌形態への変換が可能であるかを決定するために、pD2−D1.3/AAVS TALENペアの遺伝子導入から生じたブラストサイジン耐性集団に、Dreリコンビナーゼ(pCAGGs−Dre)をコードするプラスミドを再導入した。これは、CAGGsプロモーター(GeneBridges A205)に由来してDreリコンビナーゼ遺伝子を推進するプラスミドpCAGGs−Dre−IRES puro[88]に基づくものである。標準的な分子生物学的手法を使用してピューロマイシン耐性遺伝子を除去した。ブラストサイジンでの選択の22日後に、細胞を0.5x10個細胞/mlに調整し、10個の細胞当たり0.5μgのpCAGGs−Dreを前述のように遺伝子導入した。6日後に、上清を回収し、プロテインAを使用して抗体を精製してから、試料をSDS−PAGEゲルで電気泳動し、クマシーブルーで染色した。図19aは、Dreリコンビナーゼ遺伝子の遺伝子導入を実施しなかった場合でさえ上清中に分泌抗体が見られることを示している。これは、膜貫通ドメインをコードするエクソンをスキップする代替のスプライシングから生じ得たものである。あるいは、培養上清中の抗体は、膜結合抗体が切断されたことに由来して生じた可能性がある。Dreリコンビナーゼを遺伝子導入することで、分泌抗体のレベルが増加した(図19a)。
【0280】
分泌scFv−Fc融合体の産生は、実施例7に記載の実験においても示された(図9h)。1ラウンドのファージディスプレイによって、β−ガラクトシダーゼでの選択を実施した抗体scFv集団をpD6ベクターへと導入し、AAVS TALENを使用して、HEK293細胞のAAVS遺伝子座へと組込んだ。流動選別によって抗原結合細胞を選別し、抗体の蓄積を可能にするために、選別後7日間培地を交換せずに、選択細胞を増殖させた。ELISAプレートをβ−ガラクトシダーゼ(10ug/ml)またはBSA(10ug/ml)のいずれかで一晩被覆した。7日間培養して得た培養上清を50%容積の6%のMarvel−PBSと混合し、試料を三連で試験した。1/10希釈も同様に試験した。結合したscFv−Fc融合体の検出は、抗ヒトIgG−Eu(Perkin Elmer カタログ番号1244−330)を使用して実施した。図19bは、ニートまたは1/10希釈のいずれにおいて、培養上清から抗体結合を直接的に検出できることを示している。これは、表面ディスプレイ及び抗体分泌の両方が、追加の段階無しに同一細胞内で達成できることを示している。単一細胞のクローン化に続いて、選択細胞から分泌抗体を直接的に得るか、またはここで示されるように選別集団を使用して、ポリクローナル抗体混合物を生成させることが可能となるであろう。
【0281】
実施例14.scFvからの、IgG形式またはFab形式への変換に向けた簡便な方法
実施例7に記載したように、scFvとして編成された抗体の、IgG形式への変換をもたらすための新規の方法を発明した。この変換は、IgG編成抗体またはFab編成抗体が最終形式として必要である、scFv抗体のファージディスプレイライブラリーを用いた抗体創薬プロジェクトの間に必須となるプロセスである。現在の方法は、面倒であると共に、可変重(V)鎖及び可変軽(V)鎖の、適切な発現ベクターへの個々のクローン化を伴うものである。さらに、scFv集団を「一斉」変換することは不可能であり、これは、V鎖と、V鎖との間の結び付きが失われるためである。V鎖及びV鎖は、両方が抗原結合特異性に寄与するため、このことは問題である。scFvの集団を、Ig形式またはFab形式へと容易に変換できないという現状によって、外来診療所で使用されることになる最終形式において、数多く抗体を選別するという能力が制限されている。標的結合、細胞レポーター選別、ならびに凝集状態を含めた、生物物理学的な特性及び機能に向けて、Ig形式またはFab形式の組換え抗体を選別する能力は、臨床的な候補としての候補抗体薬物を選択するための必須段階である。この段階で、IgG形式またはFab形式において試験される抗体の数が増えれば増えるほど、最良の抗体薬物候補を選択する確率が増加する。本明細書には、単鎖抗体(scFv)集団の、免疫グロブリン(Ig)形式またはFab形式への変換方法であって、その結果、可変重(V)鎖及び可変軽(V)鎖の元のペアが維持される変換方法が記載されている。方法は、モノクローナルscFv、オリゴクローナルscFv、またはポリクローナルscFvを、Ig形式またはFab形式へと同時に変換するものである。好ましくは、方法は、非複製「小環」DNAの生成を介して進行するものである。好ましくは、完全変換プロセスは、E.coliなどの細菌の単回の形質転換を伴うことで、細菌コロニーの集団が生成され、当該細菌コロニーは、それぞれが、特有のIg編成組換え抗体またはFab編成組換え抗体をコードするプラスミドを保有する。これは、2つの別々であるクローン化段階及び形質転換段階を必要とする代替方法[117]とは異なるものである。
【0282】
より広くは、本発明のこの態様は、3つの連結された遺伝子要素であるA、B、及びC(scFvの場合は、それぞれがV、リンカー、及びVに相当する)を有する遺伝子構築物を、隣接要素(A及びC)の順序が逆転した形式へと、単一のクローン化段階で変換する方法に関する。中間要素が、保持される可能性はあるが、非常に有用なことに、方法によって、新しい要素であるDによる、この中間要素の置き換えが可能となり、(C−D−Aが得られる)。scFvからIgGまたはFabへの変換の実施例なら、Cは、抗体Vドメインであり、Aは、Vドメインである。この実施例では、要素Dは、VH(要素A)に融合した軽鎖定常ドメイン、ポリA部位、プロモーター、及びリーダー配列を包含する。プロセスにおいて、産物(C−D−A)は、再クローン化され、これによって、隣接配列を変えることも可能になる。scFvからIgGへの変換の実施例では、プロモーター及びリーダー配列が、V要素に先行し、Vの後には、IgG編成抗体の場合はCH1−CH2−CH3ドメインが続き、Fab編成抗体の場合はCH1ドメインが続く。要素A及び要素C(上記の命名法を使用)が、他の遺伝子要素に相当し得る場合、方法は、より広く適用することができ、例えば、元のN末端及びC末端が融合して、新規の内部終端が操作形成された環状順列を有するタンパク質の構築における遺伝子要素である。
【0283】
図21は、scFvからIgGへの変換を例として使用して、変換プロセスを模式的に示したものである。抗体のVHドメイン及びVLドメインをコードするDNA挿入断片(a)と、定常軽(CL)鎖、ポリアデニル化配列(pA)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、及びシグナルペプチド(SigP)をコードするDNA断片(b)と、が連結されている。DNA断片(b)は、CMVプロモーターの代わりに任意のプロモーターをコードすることもできる。同様に、pA−CMVカセットを、内部リボソーム進入部位(IRES)[119]または2A型「自己切断(self−cleaving)」小ペプチド[130、133]によって置き換えることができる。非複製DNA「小環」(c)を創出するためのDNA分子(a)と、DNA分子(b)との結合は、「粘着末端」ライゲーションによって促進される。図21では、NcoI部位及びNotI部位を用いており、これは、こうした部位を、McCaffertyファージディスプレイライブラリー[7]の創出に使用したためであるが、任意の適した制限酵素部位を使用して、非複製「小環」cを創出することができる。ライゲーションの後、「小環」cは、その認識部位がVドメインと、Vドメインとの間のリンカーと隣接している、制限酵素であるNheI及びXhoIで直鎖化される。本発明を示すためにNheI及びXhoIを選択しており、これは、これらの制限酵素を、McCaffertyファージディスプレイライブラリー[7]の創出に使用したためであるが、任意の適した制限酵素部位を使用することができる。
【0284】
その後、直鎖化産物dを精製し、消化したベクター(e)と連結する。ベクター(e)は、NheI部位の上流にCMVプロモーターまたはpEFプロモーター及びシグナル配列を含み、XhoI部位の下流に抗体定常重(C)ドメイン1〜3をコードする。得られるプラスミドDNAの細菌における選択及び複製を可能にするために、ベクターは、細菌複製起点または細菌複製及び抗生物質耐性マーカー(示されていない)もコードすることになるであろう。挿入断片(d)と、ベクター(e)とのライゲーションによる産物は、プラスミドfをもたらすことになり、当該プラスミドfを使用して細菌を形質転換し、適した選択可能マーカーで増殖させれば、標準方法によるプラスミドDNAの産生及び精製が可能となるであろう。精製したプラスミドfは、異種性Ig抗体発現に向けて哺乳類細胞へと導入することができる[134]。あるいは、ベクター(e)においてCH1−3をコードするDNAと、単一CH1ドメインをコードするDNAと、をFab発現に向けて置き換えることができる。
【0285】
本発明を示すために使用する、以下の詳細な方法説明では、挿入断片bは、CMVプロモーターまたはP2Aペプチドのいずれかを含み、P2Aペプチドは、単一メッセンジャーRNA(mRNA)から別々の抗体軽鎖及び抗体重鎖を発現することを可能にするものである。方法は、自明なものではなく、数度の実験試行の末に洗練されたものである。例えば、初期には、PCRによるDNA「小環」(c)の直鎖化を試みた。しかしながら、この試行は、ホモ2量体である副産物の増幅に終わり、もたらされた所望の増幅産物(d)の収率は低いものであった。対照的に、DNA「小環」(c)を直接消化することで、十分な材料(d)が得られたことにより、方法を実行可能なものとすることに成功した。第2に、不必要なホモ2量体産物を防ごうと試みた際に、初期には挿入断片(a)が脱リン酸化した。しかしながら、これには、「末端(end)」消化を防ぐための慎重な制御が必要であった。当該「末端(end)」消化は、ライゲーションに向けた所望の「粘着末端」を欠いた産物をもたらすものである。最適化された方法では、脱リン酸化が生じないことで、ライゲーションに適格である産物の割合が最大化されている。最後に、DNA「小環」(c)の収率を最大化するためには、DNA挿入断片である(a)及び(b)のライゲーションにおいて使用する比率を慎重に制御する必要があった。
1.PCRによるscFv挿入断片の調製
scFvをコードするプラスミドDNAを保有する細菌グリセロールストックを、50ulの水へと削り入れた。これを10倍希釈した。ここから5μを使用し、フォワードプライマーpSANG10pelB(CGCTGCCCAGCCGGCCATGG 配列識別番号95)(2.5μl、5μM)、リバースプライマー2097(GATGGTGATGATGATGTGCGGATGCG 配列識別番号:96)、(2.5μl、5μM)、10xKOD緩衝液(Merckから入手したKODホットスタートキット、71086−4)、dNTP(5μl、2mM)、MgSO4(2μl、25mM)、KODホットスタートポリメラーゼ(2.5ユニット)を含めて総容積を50μlとしてPCR反応を実施した。サイクル条件は、94℃を2分保った後、94℃で30秒、54℃で30秒、次いで72℃で1分のサイクルを25回実施する条件を使用した。スピンカラム(QiagenまたはFermentas)によってPCR反応物の精製を実施し、90μlのPCR反応物溶出液を調製した。図22aは、1μlのPCR反応物を負荷した1%のアガロースTBEゲルを示す。精製したscFvのDNA(80μl、8μg)に、緩衝液4(New England Biolabs)、BSA(0.1mg/ml)、ならびに40ユニットのNcoI−HF及びNotI−HFを含む総容積100μlの溶液を添加することによって消化し、37℃で2時間インキュベートした。挿入断片をQiagenPCR精製キットで精製し、30μlの溶出液を調製して、nanodrop分光光度計(Thermo)を使用して260nMの吸光度を測定することによって、DNA濃度を測定した。
2.DNA挿入断片のライゲーション(図21a及び図21b)
ライゲーション反応は、DNA「小環」を産生するために実施する(図21c)。ライゲーション反応液は、挿入断片b(125ng)、scFv挿入断片a(図21)(125ng)、10xライゲーション緩衝液(Roche T4 DNAリガーゼキット、1.5ul)、T4 DNAリガーゼ(1ユニット)を含み、総容積が15μlである。21℃で1〜2時間インキュベートした。ライゲーション混合物に水(35μl)を添加し、Qiagen PCR精製キットで精製し、30μlの溶出液を調製した。
3.Xho1/Nhe1でのDNA「小環」(図21c)の消化
精製したライゲーション反応液(28μl)は、緩衝液4(New England Biolabs、3.5μl)、BSA(0.1mg/ml)、ならびに10ユニットのNcoI−HF及びNotI−HFを含む総容積35μlの溶液を添加することによって消化し、37℃で2時間インキュベートする。その後、これを1%のアガロースTBEで分離することによって精製する(図22b)。代替方法として、図22cは、CMVプロモーターの代わりにP2A配列を含む直鎖化「小環」を示すものである。2.6kbに位置するDNAバンド(図22b)を切り出し、Qiagenゲル抽出キットで精製し、30μlの溶出液を調製する。
4.直鎖化DNA「小環」dと、plNT3(XhoI/NheI切断)ベクターと、のライゲーション、及びE.coli DH5αの形質転換
標準ライゲーションは、plNT3切断ベクター(50ng)、直鎖化「小環」d(20ng)、10xリガーゼ緩衝液(Roche、1.5μl)、及び1ユニットのT4 DNAリガーゼ(NEB)を使用し、最終容積を15μlとして実施した。21℃で2時間インキュベートした。E.coli DH5アルファ化学的コンピテント細胞(chemically competent cell)、subcloning efficiency(Invitrogen、カタログ番号18265017)の形質転換は、製造者の説明書に従って実施した。6μlのライゲーション混合液に、化学的にコンピテントなDH5a細胞を80μl添加し、氷上静置1時間、42℃の熱ショック1分、氷上静置2分の後に、900μlのSOC培地を含む14mlのポリプロピレンチューブに移し、37℃で1時間インキュベートしてからLBアンピシリンプレートに播種した。
【0286】
実施例15:流動電気穿孔を使用した、ヌクレアーゼ指向型組込みによる、哺乳類細胞における大きなディスプレイライブラリーの構築
電気穿孔は、DNA、RNA、及びタンパク質を細胞へと導入する効率的な方法であり、電気穿孔流動システムによって、数多くの哺乳類細胞へと効率的にDNAを導入することが可能になる。例えば、「MaxCyte STX Scalable Transfection System」(Maxcyte)によって、30分以内に1010個の細胞の電気穿孔が可能であり、1日に最大で1011個の細胞に遺伝子導入を実施する可能性を創出するものである。細胞及びDNAは、混合され、リザーバーから電気穿孔チャンバーへと通って電気穿孔され、ポンプで押し出される。このプロセスは、新たな一定分量の細胞及びDNAで繰り返し実施される。培養細胞(例えば、ヒト293細胞もしくはJurkat細胞)または例えば、ヒトリンパ球[135]といった初代細胞への、DNA、RNA、タンパク質、またはその混合物の導入に向けて、同一の方法を適用することができる。流動電気穿孔は、数多くの初代細胞及び培養細胞への、DNR、RNA、及びタンパク質の、効率的な導入に使用されてきた。
【0287】
本明細書で、我々は、そのようなシステムを使用することで、ヒトHEK293細胞及びJurkat細胞のヒトAAVS遺伝子座を標的としたTALEヌクレアーゼのペアをコードするDNAの同時導入による、抗体遺伝子をコードするドナーDNAの導入を例示する。
【0288】
蛍光標識された抗原を使用して、フローサイトメトリーによって2つの異なる抗体の特異性の分布を決定した。EGF受容体であるEGFR1またはEGFR2を認識する抗体の生成は以前に説明した[105]。クローンα−EGFR1_A及びクローンα−EGFR2_A(そこに記載されている)を、実施例6に記載したようにpD6へとクローン化した。さらに、β−ガラクトシダーゼ(β−gal)での1ラウンドのファージディスプレイを使用して「McCafferty」ファージディスプレイライブラリー[7]から選択したscFv抗体集団もこのベクターへとクローン化した(実施例6に記載のとおり)。
【0289】
HEK293細胞を遠心し、製造者の電気穿孔緩衝液(Maxcyte Electroporation緩衝液、Thermo Fisher Scientific カタログ番号NC0856428))に再懸濁し、最終容積を10個細胞/mlとした。一定分量の4x10個細胞(0.4ml)を、100μgのDNA(すなわち、2.5μg/10個細胞)と共に電気穿孔キュベットに添加した。使用した種々の成分量を以下に示す。抗体α−FGFR1_A及び抗体α−FGFR2_AをコードするドナーDNAは、等モル混合物として使用し、以下の表6に10個の細胞当たりの総量で示されている。AAVS−SBI TALEN(pZT−AAVS1 L1及びpZT−AAVS R1 Systems Bioscience カタログ番号GE601A−1)をコードするDNAは、等モル混合物として使用し、以下の表6に10個の細胞当たりの総量で示されている。TALEN添加無しの試料では、対照プラスミドpcDNA3.0を使用して、インプットDNAを2.5μg/10個細胞とした。
【0290】
遺伝子導入効率の割合は、総細胞の所与のインプットで達成されたブラストサイジンコロニーの数を数えることによって計算した。負対照(すなわち、TALEN DNAの添加無し)と比較した倍数差異が括弧内に示されている。最終的に、Maxcyteシステムの全サイクルを実行することによって達成可能な形質転換コロニーの数を計算し、最終列に示している。Maxcyteシステムの全サイクルの実行は、1010個の細胞の電気穿孔を実施するものである。これは、約30分の単一サイクルに相当し、1日に複数サイクルを実行する可能性を与えるものである。したがって、毎日のアウトプットは、5〜10倍大きい可能性がある。Wavebagシステム(GE Healthcare)またはCelltainerシステム(Celltainer Biotech)などの大スケールの発酵及び培養システムを使用することで、遺伝子導入に向けた細胞を生成させることができると共に、得られるライブラリーの培養に使用することができる。
【表6】
【0291】
この実施例は、抗体カセットが組込まれた細胞の非常に大きなライブラリーを作成することが可能であることを示すものである。遺伝子導入効率の範囲は、2.7〜6.1%であった。β−ガラクトシダーゼで選択した集団(試料13)の場合は、単一の流動電気穿孔セッションで、5.5x10個クローンのライブラリーを創出することができる。1日に2回以上のセッションで、2〜5x10個のクローンのライブラリーを生成させることができる。
【0292】
ブラストサイジンでの選択(10μg/ml)の13日後に、前述のように、細胞をフィコエリトリンで標識された抗Fc抗体(Biolegend、カタログ番号409304)で標識した。β−ガラクトシダーゼで選択した抗体集団の34〜36%の細胞が、Fc発現に陽性であり、11〜13%が10nM濃度のDyelight―633−標識抗原の結合に陽性であった。
【0293】
FGFR結合クローンを使用した場合、98〜99%の細胞がFc発現に陽性であった。α−FGFR1_A抗体及びα−FGFR2_A抗体の混合物は、複数の組込み事象を有する細胞の集団を調べるための機会を与えるものである。正しく組込まれたカセット(例えば、α−FGFR1_A)を有する個々の細胞では、第2の組込みが、別の特異性(すなわち、α−FGFR2_A)をもたらすことになる確率はおよそ五分五分である。複数組込みの頻度が高いのであれば、二重陽性クローンの割合は高いことになろうが、二重陽性クローンの割合は高くないことが明らかとなり、これは、細胞当たり1つの抗体遺伝子を生成することにおける、ヌクレアーゼ指向型ライブラリー組込みシステムの忠実性を示すものである。表面ディスプレイされた抗FGFR抗体が、その適切な抗原に特異的に結合する能力を確認した。抗原の発現は、マウスFgfr1外部ドメイン(ENSMUSP00000063808)をコードするプラスミドpTT3DestrCD4(d3+4)−His10[134]に由来するものである。これをHEK293懸濁細胞への遺伝子導入に使用し、以前に説明したように[134]、固定化金属親和性クロマトグラフィーによって、分泌Fgfr1−rCd4−His10を精製した。マウスFgfr2外部ドメインは、
プライマー2423(TTTTTTCCATGGGCCGGCCCTCCTTCAGTTTAGTTGAG)(配列識別番号:97)及び
プライマー2437(TTTTTTGCGGCCGCGGAAGCCGTGATCTCCTTCTCTCTC)(配列識別番号:98)
を使用して、IMAGEクローン9088089からPCRで増幅し、NcoI/NotIで消化し、発現プラスミドpBIOCAM5[126]にクローン化した。Fgfr2−Fcは、以前に説明したように[134]、HEK293細胞の一過性遺伝子導入によって発現させ、親和性クロマトグラフィーによって精製した。
【0294】
両方の標識抗原を使用して、二重の結合性で遺伝子導入集団を探索したところ、二重陽性の割合は低かった。この実験では、10個の細胞当たり197ngのドナーDNAを使用して、二重陽性割合が低い(3.5%)最適バランスのライブラリーサイズ(Maxcyteセッション当たり2.7x10個のクローン)を明らかにした(図23)。
【0295】
この二重陽性割合は、第2抗体カセットが誤って組込まれていることを示している可能性があるが、ライブラリーのヌクレアーゼ指向型組込み効率を考慮すると、細胞の一部において、両対立遺伝子(この実施例ではAAVS遺伝子座)が、新規結合体の標的となった可能性もあり得る。1つの細胞内に2つの異なる抗体遺伝子が存在すること自体は、結合体またはそれをコードする遺伝子の単離を妨げるものではないが、標的細胞の単一遺伝子座を最初に修飾し、単一のヌクレアーゼ標的部位を導入することによって、これを回避することができ、当該単一のヌクレアーゼ標的部位は、例えば、実施例9で示した事前組込みのSce1メガヌクレアーゼ部位である。
【0296】
実施例16.選別ライブラリー集団からの結合体コード遺伝子の回収
ファージディスプレイでの選択をβ−ガラクトシダーゼ(実施例6に記載のように)で実施し、1〜2ラウンドの選択に由来する抗体集団をベクターpD6へとクローン化し、実施例6に記載のように、HEK293細胞のAAVS遺伝子座へと導入した。β−ガラクトシダーゼは、製造者の説明書に従って、Lightning Link Dyelight−633(Innova Bioscience カタログ番号325−0010)を使用して標識した。ブラストサイジン(10μg/ml)中で遺伝子導入細胞集団を25日間選択し、10nMのDyelight−633標識β−ガラクトシダーゼ及びフィコエリトリン標識抗Fc(Biolegend カタログ番号409304)で標識した。細胞を抗体と共に4℃で30分間インキュベートし、PBS/0.1%BSAで2回洗浄し、PBS/0.1%BSAに再懸濁してから、流動選別機を使用して二重陽性細胞を選別した。
【0297】
選別細胞を増殖させ、10nMの抗原を使用して、第2ラウンドの選別を実施した。細胞を増殖させ、選別した選択集団からゲノムDNAまたはmRNAのいずれかを単離した。
【0298】
異なる鎖(例えば、IgG編成抗体)を包含する結合体が、(例えば、同一プラスミド上への導入によって)同一ゲノム配列上に存在するが、異なるmRNAへと転写される場合、多量体である結合体をコードする別々の遺伝子を、ゲノムDNAからの増幅によって回収することが最適であり得る。代替として、「内部リボソーム進入配列」(IRES)要素、または翻訳停止/タンパク質切断を促進するウイルスのP2A配列もしくはT2A配列などの配列の使用を介して、複数タンパク質鎖を包含する結合体を同一mRNA上にコードさせることができる[133、136]。この場合、及び単一のタンパク質鎖としてコードされる結合体の場合、コード遺伝子をmRNAから単離することも可能であろう。
【0299】
ゲノムDNAは、「DNeasy blood and tissue kit」(QIAGEN カタログ番号69504)を使用して調製した。mRNAは、「Isolate II RNA mini kit」(Bioline Bio−52072)を使用して調製した。ゲノムDNAからの増幅では、製造者の説明書に従って「2xPhusion GC」混合液と共にPhusionポリメラーゼを使用して、PCR反応を実施した。Nco1及びNot1のクローン化部位と隣接するプライマーを使用して、抗体カセットを増幅した(98℃で10秒、58℃で20秒、72℃で90秒を35サイクル。当該プライマーは、例えば、プライマー2622(GAACAGGAACACGGAAGGTC)(配列識別番号:99)及びプライマー2623(TAAAGTAGGCGGTCTTGAGACG)(配列識別番号:82)である。
【0300】
選択scFv遺伝子をコードする遺伝子は、mRNAから増幅した。全RNAは、「Isolate II RNA mini kit」(Bioline カタログ番号Bio−52072)を使用して、選別細胞から単離した。cDNAは、SuperscriptII逆転写酵素(Life Technologies、カタログ番号180064−022)を使用して、2μgのRNAから合成した。その後、選択scFv遺伝子を、KOD Hot Start DNAポリメラーゼ(Merck Millipore カタログ番号71086−3)と、Nco1及びNot1のクローン化部位と隣接するプライマーと、を使用したPCRによって、cDNAから増幅した。この場合、プライマー41679 ATGAGTTGGAGCTGTATCATCC(配列識別番号:100)及び
プライマー2621 GCATTCCACGGCGGCCGC(配列識別番号:101)
を使用して、抗体カセットを増幅した(95℃で20秒、60℃で10秒、70℃で15秒を25サイクル)。PCR増幅産物は、Nco1及びNot1で消化してから、細菌抗体発現ベクターpSANG10のNco/Not1部位へとクローン化した。pSANG10の構築、細菌発現の方法、及びELISAによる選別は、Martin et al 2006[127]において説明されている。
【0301】
ファージディスプレイによる1ラウンドの選択に由来する集団のELISA選別によって、0/90個のクローンが陽性であることが明らかとなった。対照的に、この同一集団をさらに哺乳類ディスプレイに供してから、scFv遺伝子集団を回収して選別したところ、ELISAにおいて、27/90個のクローン(30%)が陽性であった。これは、ライブラリーで哺乳類ディスプレイを実施して、結合体が濃縮された集団を回収することが可能であることを示している。
【0302】
実施例15は、β−ガラクトシダーゼでの1ラウンドのファージディスプレイによって選択した集団の、流動電気穿孔を使用した、HEK細胞への導入について説明するものである。前述のように、ブラストサイジン中で哺乳類ディスプレイ細胞集団を選択し、10nMの標識β−ガラクトシダーゼを使用した流動選別に供した。増殖9日後に、10nMのβ−ガラクトシダーゼを使用して、フロ−サイトメトリーによって、75%の細胞が、β−ガラクトシダーゼへの結合に陽性であることが明らかとなった。こうした細胞を選別し、さらに増殖させた。厳密性を推進する能力を示すために、1nMまたは10nMのいずれかの抗体濃度を使用して、標識化を実施した。それぞれの集団から、それぞれ20.3%及び55.9%の細胞を選別した。選別の後、追加の細胞培養はせずに、選別集団から迅速にmRNAを調製した。クローン化、細菌における発現、及びELISA選別(前述同様)に続いて、流動選別時の厳密性が増加するにしたがって、ELISAでの成功率が増加することが明らかとなった。この群から得られたクローン
は、最高シグナルレベルを示し、陽性クローン数も同様に改善した(図24)。これは、ディスプレイ集団内の選別の厳密性を推進する能力が、得られる抗体の性能良化に反映されることを示している。
【0303】
実施例17.ヌクレアーゼ指向型組込みによる哺乳類ライブラリー産生に向けたT細胞受容体(TCR)遺伝子の組込み
本明細書に記載の方法は、抗体ディスプレイを超える用途を有する。ヌクレアーゼ指向型組込みを使用した、T細胞受容体ライブラリーの選別に向けた可能性を示すために、T細胞受容体の発現を可能にするベクター構築物(plNT20)を構築した。
【0304】
plNT20(図25a)は、ヒトAAVS遺伝子座を標的とするための二重プロモーターベクターである。当該ベクターは、図3に示すように左右のホモロジーアームを有する。左AAVSホモロジーアームは、特有なAsiSI部位及びNsi1部位と隣接しており、その後にスプライスアクセプター及びピューロマイシン遺伝子が続いている。左ホモロジーアームの末端と、スプライスアクセプターとの間の配列は、既に説明したものと同一であり、ピューロマイシン遺伝子は、上流エクソンを含むフレーム内でATGから始まる(図25B及び同様に図3でブラストサイジン遺伝子向けに示される)。ヌクレアーゼ指向型組込みが正しければ、内在性の上流エクソンまでスプライシングされるピューロマイシン遺伝子のインフレームスプライシングを引き起こすことになり、当該上流エクソンは、それ自体が内在性AAVSプロモーターによって推進されるものであり、これによって、正しい組込みが生じたクローンを選択することが可能になる。ピューロマイシン耐性遺伝子の後には、SV40ポリアデニル化部位が続く。右AAVSホモロジーアームは、特有なBstZ171部位及びSbf1部位と隣接している。
【0305】
plNT20は、pEFプロモーター(pSF−pEF由来、Oxford Genetics カタログ番号OG43)で構成されており、関心遺伝子の、Nhe1/Kpn1部位へのクローン化を可能にするものである。分泌リーダー配列が、Nhe1部位に先行しており、Kpn1部位の後に、図2に既に示したウシ成長ホルモン(bGHポリA)のポリアデニル化シグナルが続く。下流は、CMVプロモーター(pSF−CMV−f1−Pac1由来、Oxford Genetics カタログ番号OG111)であり、Nco及びNot(図2に示されるとおり)またはHind3を介したクローン化が可能である。分泌リーダー配列が、Nco1部位に先行しており、カセットの後にbGHポリA部位が続く。
【0306】
T細胞受容体(TCR)のディスプレイ及び濃縮を例示するために、Liら(2005)によって説明され、後にZhaoら(2007)[137、138]によって説明された、癌マーカーを認識するTCRを使用した。c12c2と呼ばれるこのTCRは、HLA−A2上に提示されるペプチドSLLMWITQV(配列識別番号:102)を450nMの親和性をもって認識する。このペプチドは、NY−ESO−1に由来する残基157−165(NY−ESO−1 157−165)に相当する。これは、32μMの親和性を有する1G4と呼ばれる親抗体の親和性が成熟した変異体である。
【0307】
別の癌マーカーを認識する第2のTCRを使用した。親であるMEL5 TCRは、HLA−A2上に提示されるペプチドMART−1 26−35(「T細胞−1によって認識されるメラノーマ抗原」)を認識し、MART−1 26−35は、ペプチド配列ELAGIGILTV(配列識別番号:103)を有する。このTCRは、ファージディスプレイによって親和性が成熟し、クローンα24/β17が得られ、Mudura et al(2013)[139]において、親和性は、0.5nMであったと説明された。TCRと、MHC:ペプチド複合体との複合体の構造は解析されており(pdbコード4JFH)、これ以後、本明細書では、当該クローンを「4JFH」と呼ぶ。同一の親TCRについても、Pierceら(2014)[140]による設計に基づいて操作されており、複合体の構造が解析された。
【0308】
Debetsらによれば、示されたCD3ζドメインを結合すると、天然のヒトTCRが存在するときでさえ、異種性遺伝子の会合を引き起こす傾向がある[141、142]。使用されたCD3ζ要素は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び完全な細胞質ドメインからなるものである。さらに、異種性遺伝子において、ヒト定常ドメインをマウス定常ドメインによって置換しても、内在性のヒト定常ドメインとの会合を上回ってその会合が推進される傾向がある[143]。最終的に、マウス定常ドメインの使用は、ヒトTCRの骨格に対して異種性であるTCR鎖を検出する選択肢を与えるものである。こうした要素をTCR発現カセットの設計に組込んだ。
【0309】
2つ合成遺伝子を設計、合成し、下記の構造を有する遺伝子構築物を生じさせた。
ヒトTCR Vα−マウスα定常−ヒトCD3ζ
ヒトTCR Vβ−マウスβ定常−ヒトCD3ζ
【0310】
c12/c2の可変ドメインが組込まれたα鎖構築物及びβ鎖構築物を含む合成遺伝子配列を図25c及び図25dに示す。これらの構築物は、plNT20のNhe1/Kpn1部位及びNco1/Hind3部位にそれぞれクローン化されている。TCRをコードする構築物をplNT20−c12/c2と呼ぶ。最初の実例では、合成遺伝子は、Vα Cαドメイン(Nhe1部位及びNot1部位と隣接)ならびにVβドメイン(TCR c12/c2をコードするNco1/Xho1部位と隣接)が組込まれるように設計した。こうした要素は、こうした制限酵素部位を使用して、代替のTCRによって置き換えることができる。
【0311】
4JFH[139]のVαドメイン及びVβドメインをコードする2つの追加合成遺伝子を作成した(図25e及び図25f)。このTCRをコードする構築物をplNT20−4JFHと呼ぶ。
【0312】
ドナーDNA(10個の細胞当たり300ngのドナーDNA)として、表7に示す比で、3μgのplNT20−c12/c2及びplNT20−4JHFを使用して、10個のHEK293細胞に遺伝子導入した。plNT20−c12/c2は、TCR1と称し、plNT20−4JHFは、TCR2と称す。それぞれ5μgのpZT−AAVS1 L1及びpZT−AAVS R1 TALENを10個の細胞(10個の細胞当たりそれぞれ500ng)に添加したが、例外として、試料6の場合は、これを10μgの対照DNA(pcDNA3.0)で置き換えた。DNAは、上記のように、ポリエチレンイミンでの遺伝子導入によって導入した。
【表7】
【0313】
12日間の選択(0.25μg/mlのピューロマイシン)の後、細胞を標的抗原で標識した。上記のTCRによって認識されるペプチド:MHC複合体は、フィコエリトリンで標識された5量体(ProImmune)として提示される。c12/c2は、HLA−A2上に提示されるペプチドSLLMWITQVを認識し、ペプチドSLLMWITQVは、NY−ESO−1 157−165(Proimmune 製品コード390)に相当するものである。4JHF(α24/β17としても知られる)は、HLA−A2上に提示されるペプチドELAGIGILTVを認識し、ペプチドELAGIGILTVは、MelanA/MART26−35(Proimmune 製品コード082)に相当するものである。それぞれの場合において、MHC:ペプチド複合体をフィコエリトリンで標識し、製造者の説明書に従って使用した。図26(a〜d)は、それぞれのTCRが、予想されるMHC:ペプチド複合体(a,d)に特異的であり、複合体中の非同種ペプチドには結合しない(図26b、図26c)ことを示す。それぞれのTCRをコードするDNAに、もう一方をコードする遺伝子を100倍過剰で混合した(試料1〜2、表7)。HEK293細胞に遺伝子導入し、ピューロマイシン中で選択した。ピューロマイシンでの選択の14日後に、抗体陽性細胞の選別を実施した(図26g、図26h)。
【0314】
流動選別したアウトプット集団内の濃縮レベルを定量化するために、PCR増幅によってTCR遺伝子を回収し、クローン化後に、それぞれのTCR種の相対的な量を決定した。選別集団から総RNAを単離した。cDNA合成は、実施例16に記載したように実施した。TCRアルファ鎖及びTCRベータ鎖を増幅するためのプライマーは、それぞれ1999/2782及び41679/2789を使用した(表8)。PCR増幅は、製造者の推奨プロトコール(EMD Millipore、71086、EMD Millipore)を使用して、KODホットスタートポリメラーゼを用いて実施した。PCR反応条件は、95℃(2分)、次いで95℃(20秒)、60℃(10秒)、70℃(15秒)を25サイクル、その後に70℃(5分)の条件を使用した。増幅したTCRアルファ鎖及びTCRベータ鎖をNheI/NotIまたはNcoI/XhoIで消化し、互換性部位を用いてベクターへとサブクローン化した(この場合、それぞれpBIOCAM1−Tr−N NheI/NotI切断ベクターまたはpBIOCAM2−Tr−N(NcoI/XhoI)切断ベクターを使用した)。個々のクローンのPCR増幅は、c2c12(TCR1)特異的TCRアルファプライマー(2781)または4JFH(TCR2)特異的TCRアルファプライマー(4JFH−Vα−F)、及びTCRクローンの独自性をアッセイするためのベクター特異的プライマーを用いて実施した。1:100のTCR1/TCR2ドナープラスミド比(表7)を用いた試料1(表7)のTCR1特異的クローンを、HLA−A2上に提示されたペプチドSLLMWITQV(Proimmune、製品コード390)を使用して選別濃縮した後に、コロニーPCRによってTCR1クローンの割合を決定したところ、11/15(73%)まで増加した。HLA−A2上に提示されたペプチドELAGIGILTV(Proimmune 製品コード082)を使用して、100:1のTCR1/TCR2ドナープラスミド比を用いた試料2(表7)を選別によって濃縮し、コロニーPCRによってTCR2クローンの割合を決定したところ、4/15(27%)まで増加した。
【0315】
ヌクレアーゼ指向型組込みを使用したライブラリーの選択を示すために、変異体TCRベータ鎖をコードする遺伝子レパートリーと共に、変異体TCRアルファ鎖をコードする遺伝子レパートリーをクローン化することによって、c12/c2に基づく変異体ライブラリーを創出した。そのようなライブラリーは、オリゴヌクレオチド指向型の変異誘発手法を使用して創出することができ、例えば、Kunkel変異誘発法[144]に基づく方法である。代替として、及び例として、PCR構築手法を使用して、変異体TCRアルファ鎖(Nhe1/Kpn1断片として)及び変異体TCRベータ鎖(CMVプロモーターを含むKpn/Hind3断片として)を創出し、plNT20のNhe1/Hind3部位へとクローン化した。これは、表8に示すプライマーを使用して実施した。
【表8】
【0316】
変異体オリゴヌクレオチドを設計した(プライマー2771)。当該変異体オリゴヌクレオチドは、c12/c2アルファ鎖のCDR3内の2つのアミノ酸位置が無作為化されており、別の位置でセリンまたはスレオニンのいずれかの選択肢を与えるものである(プライマー2771は、図25gの下側の鎖としても示されている)。プライマー2771をプライマー2780と併せて使用して、末端に不変配列を有するCDR3変異誘発領域が組込まれた、Nhe1クローン化部位から始まる変異体TCRアルファのレパートリーを創出した。プライマー2781は、プライマー2771の不変5’末端に対して相補性である。プライマー2781及びプライマー2783でのPCRによって、Kpn1部位までであるTCRアルファ−CD3ゼータカセットの残りが得られた。2つのPCR断片のPCR構築を使用して、TCRアルファ−CDゼータ断片を創出した。当該断片は、Nhe1及びKpn1での消化後に、plNT20へとクローン化することができる。
【0317】
第2の変異体オリゴヌクレオチド(プライマー2770)を設計した。当該変異体オリゴヌクレオチドは、c12/c2ベータ鎖のCDR3内の2つのアミノ酸位置が無作為化されており、別の位置でバリンまたはロイシンのいずれかの選択肢を与えるものである(プライマー2770は、図25hの下側の鎖としても示されている)。プライマー2770をプライマー2785と併せて使用し、末端に不変配列を有するCDR3変異誘発領域が組込まれた、Kpn1クローン化部位から始まる変異体TCRベータのレパートリーを創出した。プライマー2787は、プライマー2700の不変5’末端に相補性である。プライマー2787及びプライマー2788でのPCRによって、Hind3部位までであるTCRベータ−CD3ゼータカセットの残りが得られた。これら2つのPCR断片のPCR構築を使用して、TCRベータ−CD3ゼータ断片を創出した。当該断片は、plNT20へとクローン化することができる。Nhe1/Kpn断片、及びKpn1/Hind3断片を、Nhe1/Hind3で消化したplNT20へとクローン化することによって、アルファ鎖のCDR3及びベータ鎖のCDR3の両方に変異が組込まれた完全なレパートリーを創出した。ライゲーションの後に、ライブラリーをエレクトロコンピテントなDH10B細胞へとクローン化した。プラスミドDNAを調製し、前述のように、TALEヌクレアーゼ(pZT−AAVS1 L1及びpZT−AAVS R1の等モル混合物 Systems Bioscience カタログ番号GE601A−1)をコードするベクターと併せて、当該DNAをHEK293細胞へと遺伝子導入した。
【0318】
c12/c2変異体ライブラリーの変異体アルファ鎖及び変異体ベータ鎖をplNT20へとライゲーションとした後、DNAをDH10B細胞へと電気穿孔した。プラスミドDNAを調製して、ライブラリーをAAVS遺伝子座を標的とするTALEヌクレアーと共に同時導入した。遺伝子導入は、Maxcyte電気穿孔を使用して実施した。増殖及び選択は、上記の通り実施した。遺伝子導入細胞の滴定及びプレートに基づくピューロマイシン中での選択によって、ライブラリーサイズを定量化し、これにより、サイズが5x10であるライブラリーが創出されたことが示された。11日間のピューロマイシンでの選択の後、マウスTCRのβ鎖に対して特異的なAPC標識抗体(Life Technologies カタログ番号H57−957)を使用して細胞を標識した。図26i〜jは、集団におけるクローンの38%が、T細胞受容体を発現していることを示す。このTCR陽性集団の13%が、ペプチド1にも結合した(総集団の5%)。この手法によって、発現またはペプチド:MHC結合活性が改善したクローンを単離することができる。
【0319】
図26から、それぞれのT細胞受容体が、その同種抗原のみを認識したことが見て取れる。さらに、2つの異なる特異性を混合して使用すると、標識抗原を介して、それらのそれぞれを区別することが可能である。この手法によって、親クローンと比較して、標識度合が上昇したライブラリーのサブセットを同定することによって、変異体TCRライブラリー内で、親和性(または発現)が改善したTCRクローンを区別することも可能になる。
【0320】
電気穿孔によって、T細胞受容体遺伝子をJurkat細胞にも導入した。Jurkat細胞を遠心し、製造者の電気穿孔緩衝液(Maxcyte電気穿孔緩衝液、Thermo Fisher Scientific カタログ番号NC0856428))に再懸濁し、最終容積を10個細胞/mlとした。OC400電気穿孔キュベットに、一定分量の4x10個細胞(0.4ml)を、40μgのDNA(すなわち、1μg/10個細胞)と共に添加した。DNAは、ドナープラスミドDNA(plNT20−c12/c2またはplNT20−4JHFまたはplNT20−c12/c2のTCRライブラリー、9.2μg)と、AAVS−SBI TALENをコードするDNA(pZT−AAVS1 L1及びpZT−AAVS R1 Systems Bioscience カタログ番号GE601A−1)の等モルDNA混合物(全部で30.8μg)と、の混合物からなるものを使用した。TALEN添加無しの試料では、対照プラスミドpcDNA3.0を使用して、インプットDNAを1μg/10個細胞とした。代替として、4D−Nucleofector(Lonza)を使用して、Jurkat細胞へとT細胞受容体遺伝子を導入する方法を用いた。当該方法では、SE細胞株キット(Lonza、カタログ番号PBC1−02250)による製造者の説明書に従って、遺伝子導入プロトコールを実施した。簡潔に記載すると、ドナープラスミドDNA(plNT20−c12/c2またはplNT20−4JHFまたはplNT20−c12/c2のTCRライブラリー、0.46μg)と、AAVS−SBI TALENをコードするDNA(pZT−AAVS1 L1及びpZT−AAVS R1 Systems Bioscience カタログ番号GE601A−1)の等モルDNA混合物(全部で1.54μg)と、の混合物からなる2μgのDNAを、10個のJurkat細胞当たりとなるように遺伝子導入した。パルスコード設定は、CL120とし、細胞型プログラムは、Jurkat E6.1(ATCC)細胞に特有なものを使用した。
【0321】
図26は、TCR発現が達成されたと共に、適切なペプチド:MHC分子の認識が達成されたことを示す。これは、TALEヌクレアーゼの使用に依存するものであった(図26mと図26nとの比較)。関連ペプチド:MHC分子を使用して、導入TCRを介したシグナル伝達も達成された。
【0322】
plNT20−c12/c2を遺伝子導入したJurkat細胞または非遺伝子導入Jurkat細胞を、96ウェルプレートに、1x10/mlの密度で、ウェル当たり200μl播種した。2μg/mlの抗ヒトCD28(BD Pharmingen カタログ番号555725)の存在下または非存在下で、ウェル当たり2μlもしくは6μlのいずれか量のPE標識ペプチド1−MHC5量体(ProImmune)、または2μg/mlの抗ヒトCD3(BD Pharmingen カタログ番号555329)を使用して、細胞を刺激した。37℃、5%のCO雰囲気下で、24時間インキュベートした後、CD69の発現を調べることによって、Jurkat細胞の活性化を検出した。細胞は、4℃で45分間、ウェル当たり50μlのPBS+1%のBSA+0.5μlの抗ヒトCD69−APC(Invitrogen、カタログ番号MHCD6905)で染色した。
【0323】
図26(試料o及び試料p)は、CD3での刺激に際したCD69の発現上昇を示す。図は、2μl(q)または6μl(r)のペプチド1:MHCの添加効果も示す。ペプチド:MHCに結合し、CD69を発現している二重陽性細胞の集団が明らかに見て取れる。この実施例は、CD28の存在下でインキュベートされた細胞を示すものであるが、CD28の非存在下でも同一の効果が観測された(未掲載)。
【0324】
この実施例は、代替型の結合体、すなわち、T細胞受容体のライブラリーのヌクレアーゼ指向型組込みの可能性を示すものである。我々は、TCRを発現させ、特異的抗体を使用して、細胞表面のTCR発現を検出することが可能であることを示している。我々は、こうしたT細胞受容体が、そのそれぞれの標的を特異的に認識することも示している。我々は、変異体ライブラリーも構築し、これによって、改善結合体の選択を可能にした。最終的に、我々は、T細胞におけるTCRシグナル伝達の活性化に基づく、ライブラリーの選別が可能であることを示した。本明細書で、我々は、培養したヒトT細胞株を使用した。Maxcyte電気穿孔によって、初代T細胞へDNAを導入することも可能である。初代Tリンパ球の単離方法及び調製方法は、当業者に知られている(例えば、Cribbs et al.,2013、Oelke et al.2003)[145、146]。TCRが遺伝子導入されたリンパ球を、多量体であるペプチド:MHCに対して曝露することで、ペプチド:MHC多量体に対する曝露[146]または適切なペプチドが負荷された抗原提示細胞に対する曝露[146、147]のいずれかを介した活性化を達成することができる。活性化は、レポーター遺伝子の発現、またはCD69などの内在性遺伝子の発現上昇、のいずれかを介して検出することができる[104、148]。
【0325】
実施例18.哺乳類細胞上でのキメラ抗原受容体ライブラリーのディスプレイ
T細胞の活性化は、通常、T細胞受容体(TCR)と、特異的なペプチド:MHC複合体と、の相互作用を介して生じる。次いで、これは、CD3及び他のT細胞シグナル伝達分子を介して指示されるシグナル伝達を引き起こす。TCRが指示する標的認識の代替として、scFv(または代替の結合体)が認識する分子に対するT細胞活性化を再指示する様式において、単鎖Fvなどの代替結合性分子を、下流シグナル伝達分子との融合体として、T細胞上に提示することができることが示された。このように、T細胞活性化は、もはや、ペプチド:MHC複合体を対象としたTCRによる分子認識に限定されるものではなく、他の細胞表面分子を対象にすることができる。非TCR結合実体が、シグナル伝達成分に融合しているこの代替形式は、「キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor)」(CAR)と称される。T細胞の場合は、これは、T細胞活性化を再指示する、重要かつ有用な手段であることが示されてきた。
【0326】
CARへと取り込まれるためには、任意の所与の標的にどのような最適エピトープまたは親和性特徴が備わっているべきであるかは未だ明らかではない[103]。リンカーの長さなどのCAR設計の特徴、または膜貫通ドメインの選択は、最適エピトープを構成するものに影響を与え得るものである。標的細胞上及び非標的細胞上の抗原密度と、シグナルドメインの選択と、を組み合わせることで、最適親和性の必要事項に影響を与えることができる。T細胞上にキメラ抗原受容体のライブラリーを提示する能力は、最適な結合特異性、結合形式、リンカーの長さ/配列、シグナル伝達分子と融合した変異体等の1つまたは複数を同定する機会を与えるものである。本明細書で、我々は、哺乳類細胞におけるキメラ抗原受容体ライブラリーの構築に向けた、ヌクレアーゼ指向型組込みの有用性を示している。ベクターplNT21(図27a)は、Nco1/Not1制限酵素部位と隣接するscFvなどの結合体の簡便な発現及び分泌に向けた、単一のCMVプロモーターを有するベクターであり、上流のリーダー配列及び下流の融合パートナーのインフレーム発現を可能にするものである(先に図8に示したとおり)。plNT21におけるCAR発現カセットは、先に図3に記載したようにAAVSホモロジーアームと隣接している。
【0327】
ベクターplNT21−CAR1(図27a及び図27c)は、単鎖Fvなどの結合体を、CD3ζの膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインに融合させるものである(図27c及び図25でTCR発現に向けて記載したとおり)。この形式は、「第1世代」のキメラ抗原受容体と称されることが多い。他の同時刺激分子に由来するシグナル伝達ドメインも追加シグナルを与えるために使用されており、こうしたものは、シグナル伝達を改善することが示された。こうしたものは、第2世代及び第3世代のキメラ抗原受容体と称される。例えば、plNT21−CAR2(図27b、図27d)は、結合体(この場合、Nco1/Not1断片として簡便にクローン化される)を、以前に説明した第2世代のドメイン(WO2012/079000A1)に融合するものであり、当該ドメインは、
CD8に由来するヒンジドメイン及び膜貫通ドメインと、
4−1BBシグナル伝達ドメインと、
CD3ζシグナル伝達ドメインと、
からなる。
【0328】
例として、数多くの異なる結合体群をplNT20−CAR1及びplNT20−CAR2のNco/Not1部位にクローン化した。CD19は、これまでに、B細胞悪性腫瘍を標的とする数多くの異なる研究に使用されており、Sadelain et al.(2013)[103]においてそうした研究が引用されている。以前に説明した抗CD19抗体(WO2012/079000A1)(FMC63と呼ばれる)は、VH−リンカー−VLの配置またはVL−リンカー−VHの配置のいずれかにおいて、合成scFv遺伝子として調製し(それぞれFMC63 H−LまたはFMC L−H)、図27Eは、FMC63 H−Lの配列を示す。FMC63 L−Hは、5’末端及び3’末端で、それぞれNco1及びNot1と隣接する、VL−リンカー−VHの配置の可変ドメインで形成した。
【0329】
対象として、代替の結合特異性を有するscFvもplNT20へとクローン化した。こうしたものには、抗−FGFR1_A[105]及び抗デスミン対照抗体[7]が含まれる。さらに、CAR融合体として形成された代替結合体形式の例として、lox1を認識するAdhiron[152](図29a及び29b)を導入した(説明は実施例19を参照のこと)。
【0330】
CAR形式で提示される結合体ライブラリーの創出を示すために、メソセリン及びCD229で選択されたscFv編成抗体の集団をクローン化した。メソセリンは、中皮腫を含む数多くの癌において高度に発現する細胞表面糖タンパク質である。メソセリンを対象とするCARを含む、抗体に基づく形式の多くが開発中、及び臨床試験中である[149]。CD229は、別の潜在的な腫瘍関連抗原に相当するものであり、これは、慢性リンパ性白血病及び多発性骨髄腫などの癌における免疫療法によって標的とされる可能性があるものである[150、151]。
【0331】
実施例6及び参考文献7において説明されるように、「McCafferty」ファージディスプレイライブラリーを使用した選択によって、メソセリンまたはCD229のいずれかを認識する抗体集団を創出した。2ラウンドの選択を実施し、プライマーM13leadseq及びプライマーNotmycseq(実施例6)を使用して、scFvをコードする遺伝子を回収した。増幅産物は、Nco1/Not1で切断してからゲルで精製し、plNT21−CAR2へとクローン化した。TALEヌクレアーゼ切断によって、こうしたものをHEK293細胞のAAVS遺伝子座に向けて導入し、CD229向けには、4.8x10のライブラリー、メソセリン向けには、6.4x10のライブラリーを生成させた(これは、TALEヌクレアーゼの非存在下で遺伝子導入した試料と比較して、ライブラリーサイズが30倍及び53倍に増加したことを示すものである)。
【0332】
PEIでの遺伝子導入によって、plNT20−CAR1及びplNT20−CAR2をHEK293細胞に導入した。ここでは、Freestyle293培地(Lifetech、カタログ番号12338−026)中のドナープラスミドDNA(6μlのplNT20−CAR1またはplNT20−CAR2と、AAVS−SBI TALEN(pZT−AAVS1 L1及びpZT−AAVS R1 Systems Bioscience カタログ番号GE601A−1)をコードするDNAの等モルDNA混合物(全体で20μg)と、の混合物)に、直鎖状PEI(52μl、1mg/ml、Polysciences Inc.)を添加し、室温で10分間インキュベートした。その後、当該混合物を、20mlのHEK293懸濁細胞(1x10個細胞/ml)を含む125mlの通気(vented)三角フラスコに添加した。plNT20−CAR1及びplNT20−CAR1は、電気穿孔によってJurkat細胞にも導入した。Jurkat細胞を遠心し、製造者の電気穿孔緩衝液(Maxcyte電気穿孔緩衝液、Thermo Fisher Scientific カタログ番号 NC0856428))に再懸濁し、最終濃度を10個細胞/mlとした。一定分量の4x10個の細胞(0.4ml)を40μgのDNA(すなわち、1μg/10個細胞)と共にOC400電気穿孔キュベットに添加した。DNAは、ドナープラスミドDNA(plNT20−CAR1及びplNT20−CAR2、9.2μg)と、AAVS−SBI TALEN(pZT−AAVS1 L1及びpZT−AAVS R1 Systems Bioscience カタログ番号GE601A−1)をコードするDNAの等モルDNA混合物(全部で30.8μg)と、の混合物からなるものを使用した。TALEN添加無しの試料では、対照プラスミドpcDNA3.0を使用して、インプットDNAを1μg/10個細胞とした。
【0333】
Lightning−Link Rapid Dye−Light 633結合キット(Innova Biosciences、カタログ番号325−0010)を使用して、様々な抗原の蛍光標識を実施した。FGFR1及びFGFR2の調製は、実施例15で説明されている。Lox1及びCD229は、R and D Systems(それぞれ、カタログ番号1798−LX−050、及びカタログ番号898−CD050)から入手し、CD19−Fc及びメソセリンは、(それぞれ、AcroBiosystems カタログ番号CD9−H5259、及びカタログ番号MSN−H526x)から入手した。
【0334】
図28bは、第2世代のCAR構築物(plNT21−CAR2−FGFR1_A)内のヌクレアーゼ指向型抗FGFR1抗体[105]のディスプレイを示す。図28dでは、第2世代のキメラ抗原受容体(plNT21−CAR2−lox1)との融合体としての、代替骨格分子(Adhiron、参考文献[152])のディスプレイについても示している。図28f及び図28gでは、メソセリンまたはCD229で選択されたscFvライブラリー内の陽性クローンについても示している。
【0335】
この実施例では、HEK細胞及びJurkat細胞へとCARを導入したが、これは、例えば、電気穿孔を使用して[135]、(例えば、Sadelaineら(2013)[103]によって説明されるように)ヒトTリンパ球などの初代細胞へ構築物を導入することによって、同様に実施することができる。リンパ球におけるCAR発現に向けた発現構築物は、以前に説明されたように、例えば、5’側及び3’側の非翻訳領域、ポリAの長さ等の多様性を介して、mRNAの安定性及び翻訳を最適化することによって最適化され得る[135]。初代Tリンパ球またはTリンパ球細胞株へと導入されたTCAR構築物のシグナル伝達は、標的抗原を発現する細胞への曝露によって誘導するか、または例えば、表面に固定化された抗原もしくはビーズ上に提示された抗原といった多量体抗原を使用して誘導することができる[104、148]。
【0336】
実施例19.ヌクレアーゼ指向型組込みを介して哺乳類細胞で構築された代替骨格ライブラリーのディスプレイ
結合体ライブラリーの構築に向けて説明される方法は、抗体及びT細胞受容体のディスプレイにとどまることなく、それを超えて用いることができる。数多くの代替骨格について説明されたことで、変異体ライブラリーの構築が可能になり、そこから新規の結合特異性が単離された。これは、例えば、Tiede et al.(2014)[152]及び当該文献中の参考文献において説明されている。Tiedeら(2014)によって説明された例では、植物から得られたフィトシスタチン(phytocystatin)に由来するコンセンサス配列に基づく安定な多用途骨格が使用された。この骨格は、Adhironと称され、図29aは、lox1に結合するように選択されたAdhironをコードする合成遺伝子を示す(WO2014125290A1)。図29Bは、代替のlox1結合体(lox1B)を示す。両方を合成し、plNT20_CAR2のNco1/Not1部位へとクローン化し、下流に存在するパートナーとの融合体を創出した。
【0337】
ライブラリーは、(例えば、Kunkel変異誘発法または実施例17において上に記載したPCR構築によって)ループ残基を無作為化することによって構築することができる。例として、図29cは、実施例17において記載したものと同一手法を実施した後のライブラリー構築に有用でである変異体オリゴヌクレオチドの設計を示す。この場合、無作為化は、可変数のNNS残基を導入することによって達成されるが、当業者に知られる代替方法を使用することができる。
【0338】
別の実施例として、図29d及び29eは、ヌクレアーゼ指向型組込みによって、ノッチン骨格[156]に基づく結合体のライブラリーを創出する手段を示す。ノッチンは、約30個のアミノ酸のペプチドであり、当該ペプチドは3つのジスルフィド結合によって安定化されており、1つが残りの2つを通り抜けて「結び目(knotted)」構造を創出しているものである。図29dは、トリプシン結合ノッチンMCoTI−IIを示し、5’末端にNco1部位、及び3’末端にNot部位を有することで、本明細書に記載のベクターでのインフレーム発現を可能にするものである。ライブラリー構築に向けた実施例として、第1ループ(図29dの下線部)の6個のアミノ酸を変異させ、可変数のアミノ酸を有する形とすることができる。図29eは、コドンVNS(V=A、CまたはG、S=CまたはG)を使用して、ループ1の6個のアミノ酸を10個の無作為化アミノ酸で置き換える変異誘発方針を示す。VNSコドンは、システインを除く17個のアミノ酸をコードする24個のコドンを包含するものである。この方針は、例示目的のみのものであり、当業者であれば、代替の変異誘発方針を知っているであろう。
【0339】
実施例20.CRISPR/Cas9を使用した抗体ライブラリーのヌクレアーゼ指向型導入
CRISPR/Cas9を介したヌクレアーゼ指向型組込みは、「Geneart CRISPRヌクレアーゼベクターキット」(Lifetech A21175)を使用して実施した。このシステムでは、U6 RNAポリメラーゼIIIプロモーターが、標的に対して相補性であるCRISPR RNA(crRNA)の発現を推進し、当該相補性CRISPR RNAは、トランス活性化crRNA(tracrRNA)に連結される。crRNA及びtracrRNAは、同一「GeneArt CRISPRヌクレアーゼベクター」(製造者の説明書を参照のこと)上にコードされるCasタンパク質の切断特異性を指示するガイドRNAを共に作り出すものである。ベクターは、適切な3’突出部を有する短い二本鎖オリゴヌクレオチドがクローン化された直鎖化プラスミドとして提供される。切断特異性は、クローン化された区間の配列によって決定される。上記のヒトAAVS遺伝子座の切断を指示するために、2つの異なる標的化配列を設計した。
当該配列は、下記のとおりである。
CRISPR1二本鎖DNA挿入断片
5’ GGGGCCACTAGGGACAGGATGTTTT(配列識別番号:115)
3’ GTGGCCCCCGGTGATCCCTGTCCTAC(配列識別番号:116)
CRISPR2二本鎖DNA挿入断片
5’ GTCACCAATCCTGTCCCTAGGTTTT(配列識別番号:117)
3’ GTGGCCAGTGGTTAGGACAGGGATC(配列識別番号:118)
【0340】
得られたガイドRNAは、上記のTALEヌクレアーゼと同一のAAVS領域内での切断を標的とするものである(CRISPR2は、CRISPR1とは逆配向である)。したがって、発現カセットの組込みを指示するために、先に使用したAAVSホモロジーアームを、こうしたCRISPRガイドRNAが指示する組込みに使用することができる。直鎖化ベクター及び二本鎖オリゴヌクレオチドを連結し、エレクトロコンピテントなDH10B細胞へと形質転換した。挿入断片が正しくクローン化されたかを配列決定によって確認し、プラスミドDNAを調製した。Cas9/CRISPR2構築物(CRISPR2オリゴヌクレオチドを包含する)をドナーDNAと共に遺伝子導入した。当該ドナーDNAは、1段階のファージディスプレイでの選択によって選択したβ−ガラクトシダーゼライブラリー(実施例15)をコードするものである。こうしたものを、OC−400組立品(assembly)と共にMaxcyte電気穿孔システムを使用して、HEK293細胞へと遺伝子導入した。4x10個の細胞に、23.2μgのドナーDNAを遺伝子導入した。当該ドナーDNAは、β−ガラクトシダーゼでの1ラウンドのファージディスプレイによって選択され、pD6にクローン化されたscFv遺伝子の集団に相当するものである。細胞に、77μgのCas9−CRISPR2プラスミド、または77μgのTALENプラスミド(pZT−AAVS1 L1及びpZT−AAVSをそれぞれ38.5μg)または77μgの対照プラスミドのいずれかを同時導入した。
【表9】
【0341】
Cas9/CRISPR2の遺伝子導入によって形成された形質転換体数の滴定(ブラストサイジン耐性コロニーの測定による)によって、播種した10,000個の細胞から1053個のブラストサイジン耐性コロニーが生成したことが明らかとなり、これは、10.5%の遺伝子導入効率に相当するものであった(表9)。TALEヌクレアーゼ指向型遺伝子導入の場合では、5.1%の遺伝子導入効率を達成した。対照的に、Cas9/CRISPR2構築物が存在しない場合、達成遺伝子導入効率は、僅か0.36%であった。
【0342】
Cas9タンパク質及びガイドRNAを細胞へと導入するための、プラスミドDNAを使用した遺伝子導入に代わるものとして、Cas9タンパク質(Toolgen,Inc.)及びガイドRNAからなる核タンパク質複合体を直接的に導入することも可能である。ガイドRNAは、単一転写物として、T7プロモーターに由来する試験管内転写を使用して、Toolgen,Inc.によって調製された。当該単一転写物には、以下に示すとおり、標的DNA(太字)に対する相補性配列が先行する形で、TRACR配列(下線有り)が導入されている[訳者注:四角で囲まれている下記配列箇所は、PCT/GB2015/051287では太字である]。
CRISPR1 RNA(配列識別番号:119:
5’
GGGGGGCCACUAGGGACAGGAU[GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUUU]
CRISPR2 RNA(配列識別番号:120)
5’GGGUCACCAAUCCUGUCCCUAG[GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUUU]
上記のように、Maxcyte電気穿孔によって、6.6μgのCs9タンパク質、4.6μgのRNA、及び10μgのドナーDNA(pD6中で抗FGFR1_A抗体をコードする)を10個のHEK293細胞へと導入した。CRISPR1 RNA及びCRISPR2 RNAで達成した遺伝子導入効率は、それぞれ2.2%及び2.9%であり、Cas9:RNAタンパク質複合体を添加しなかった場合では、それぞれ0.7%及び0.8%であった。
【0343】
こうしたガイドRNAは、CRISPR1及びCRISPR2によってコードされるものと同一の配列を標的とする。代替として、crRNA及びtracrRNAを化学合成によって作成することができる(例えば、GE Dharmacon)。
【0344】
実施例21:ライゲーションまたはマイクロホモロジー媒介性末端結合(MMEJ)によるヌクレアーゼ媒介性の抗体遺伝子挿入
相同組換え(HR)は、大きなDNA断片の正確な挿入に有用であるが、これには、長いホモロジーアームが組込まれた大きな標的化ベクターの構築が必要である。このことは、大きなライブラリーの構築を難化し得るものであり、これは、DNA構築物が大きくなると形質転換効率が減少するためである。あるいは、ヌクレアーゼ認識配列が、標的化ベクターへと組込まれているのであれば、染色体DNAと、標的化ベクターとの間で単純なライゲーション反応を生じさせることができる。ライゲーション反応は、例えば、5’突出部を残す二本鎖切断(DSB)を作ることができるジンクフィンガーヌクレアーゼ(Orland et al.,2010)[45]もしくはTALEN(Cristea et al.,2013)[22]を用いた「粘着末端」、またはCRISP/Cas9リボ核タンパク質を用いた「平滑末端」のいずれかで生じ得る。ベクターpD7−Sce1の構築によって、I−SceIメガヌクレアーゼを使用したライゲーションによる、ヌクレアーゼでの遺伝子組込みの実施例を示した。pD7は、pD6(図8)から得られたものであるが、左右のAAVSホモロジーアームを短い二本鎖オリゴヌクレオチドによって置き換えたものである。pDベクターシリーズの左AAVSホモロジーアームは、EcorR1及びNsi1の制限酵素と隣接している(図3参照)。pD6からpD7−Sce1へと変換するために、プライマー2778及びプライマー2779によって形成した二本鎖オリゴヌクレオチドの挿入断片によって、左AAVSホモロジーアームを置き換えた。当該挿入断片は、EcoRI/NsiIによって形成される「粘着末端」と互換性である「粘着末端」を有するI−SceIメガヌクレアーゼ認識配列をコードするものである。右側AAVSホモロジーアームは、Asc1及びMlu1の制限酵素部位と隣接している(図3)。右ホモロジーアームは、AscI/MluI消化によって形成される「粘着末端」と互換性である「粘着末端」を有する二本鎖オリゴヌクレオチドの挿入断片によって置き換えた。当該挿入断片は、プライマー2723及びプライマー2724によって形成したものである。
【表10】
【0345】
Fgfr1及びFgfr2を認識する抗体(実施例15)をpD7へとクローン化し、pD7−SceI抗Fgfr1及びpD7−SceI抗Fgfr2をそれぞれ創出した。これらを、I−Sce1発現プラスミド(実施例11、図16)と共に、組込みI−Sce1認識部位を含むHEK293クローン6F細胞株(実施例11参照)へと同時導入した。
【0346】
染色体及び標的化ベクターにおいて、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはTALEヌクレアーゼによって生成したDSBのライゲーションも達成することができる。標的化ベクター上のジンクフィンガーヌクレアーゼ認識部位またはTALEN認識部位を反転させることによって、「偏性ライゲーションでゲートされた相同組換え(Obligate ligation−gated recombination)」またはObLiGaRe(Maresca et al.,2013)[153]と命名された方法において、挿入による産物がもはや切断の標的とならないことを確実にすることができる。pD7−ObLiGaReベクターは、pD7−Sce1の創出に向けて上で記載したものと同一の方法で生成させることができる。この場合、左側ホモロジーアームは、反転したTALEN認識部位(太字で示される)及びスペーサー領域をコードする、プライマー2808及びプライマー2809からなるオリゴヌクレオチドによって置き換える。[訳者注:四角で囲まれている配列箇所は、PCT/GB2015/051287では太字である]。右側ホモロジーアームは、プライマー2723及びプライマー2809によって、上記のように置き換える。
【0347】
染色体のDSBと、標的化ベクターのDSBとの間の単純なライゲーション反応は、非相同末端結合(NHEJ)によって媒介されるものがあるが、これに代わるものとしては、相同媒介性末端結合(MMEJ)がある。MMEJは、エラープローン末端結合に向けて、5〜25bpのマイクロホモロジー配列を使用するDSBの修復機構である(McVey and Lee,2008)[154]。正確な遺伝子組込みに向けた方針が考案され、これは、ゲノム配列及び標的化ベクターは同一のTALEヌクレアーゼペア認識配列を含むが、前方半分と、後方半分とが交換された異なるベクタースペーサー配列を含むというものである。ゲノム配列及びベクターは、同一のTALENペアで切断することができ、マイクロホモロジーを有するDNA末端を介してMMEJが起こる。得られる組込み標的化ベクターは、もはやTALEヌクレアーゼの標的とはならず、これは、短化したスペーサー領域は、TALEヌクレアーゼによる切断に最適ではないためである(Nakade et al.,2014)[155]。
【0348】
MMEJ AAVS標的化ベクターであるpD7−MMEJは、pD7−Sce1の創出に向けて上で説明したものと同一の方法で創出することができる。この場合、左側ホモロジーアームを、TALEN認識部位(太字で示される)及び交換したスペーサー領域(下線で示される)をコードする、プライマー2768及びプライマー2769からなるオリゴヌクレオチドによって置き換える[訳者注:四角で囲まれている配列箇所は、PCT/GB2015/051287では太字である]。右側ホモロジーアームは、プライマー2723及びプライマー2809を使用して、上記のように置き換える。
【0349】
実施例22:ROSA26アームと隣接する単一(CMV)プロモーターカセットの創出に向けたプライマーの設計(plNT19−ROSA)
この実施例は、ヌクレアーゼ指向型の方法によって、哺乳類細胞のゲノムへと抗体または代替結合性分子の遺伝子を組み込むことができ、レポーターまたは表現型のいずれかによる選別によって、所望の機能で選別されたクローンが得られることを示すことを意図する。この実施例は、以前に示されており、これは、抗体遺伝子がマウス胚性幹(ES)細胞の染色体へと組込まれており、個々のESコロニーを異なる条件に供した際の多能性を維持する能力で選別するというものであった[105]。多能性の表現型を維持したESコロニーから回収された抗体遺伝子は、FGFR1/FGF4シグナル伝達経路を遮断することが示された。以前に報告されたこの方法に関する問題は、相同組換えによってもたらされるライブラリーのサイズが小さくあり得るということであり、したがって、大きな結合性分子ライブラリーに存在する稀なクローンを直接的に選別するというその能力を限定するものである。抗体及び結合性分子の遺伝子組込みに向けた、ヌクレアーゼ媒介性の遺伝子組込み方法は、より効率的であることで、生成するライブラリーサイズが大きくなり、それによって、表現型またはレポーター細胞での選別による機能性抗体の同定が可能である哺乳類細胞ライブラリーを生成する可能性が上昇する。
【0350】
ドナー標的化ベクターであるplNT19は、直接的な機能選別に向けて、ヌクレアーゼ指向型の方法によって、抗体遺伝子をマウスROSA26遺伝子座へと導入するために設計されている。plNT19は、scFv−Fv融合体の発現に向けた単一CMVプロモーターのベクターである。発現カセットは、マウスROSA26アームと隣接している。上流エクソンが翻訳されないため、スプライスアクセプターがピューロマイシン遺伝子に先行しており、さらに下流に、ピューロマイシン遺伝子へと繋がるコザック(KOZAK)配列を有する。
【0351】
plNT18のAAVS左ホモロジーアーム及びピューロマイシン耐性遺伝子を、ROSA26左ホモロジー、スプライスアクセプター、最適化されたコザックコンセンサス配列、及びピューロマイシン耐性遺伝子をコードするカセットによって置き換えた。ROSA26左ホモロジーアームは、内部のNotI部位をノックアウトした2つの断片として、pGATOR(Melidoni et al.,2013(105))から最初に増幅した。2つの断片は、プライマーJ60/2716及びプライマー2715/2706によって生成させたものであり、プライマーJ60及びプライマー2706を使用した構築PCRで結合させ、AsiSI及びNsiIで消化した。スプライスアクセプターは、プライマー2709及びプライマー2710を使用してpGATORから増幅し、ピューロマイシン耐性カセットは、プライマー2745(スプライスアクセプター及び最適化コザックコンセンサスに対して相同性である領域を含む)ならびにプライマーJ59を使用して増幅した。スプライスアクセプター領域及びピューロマイシン耐性カセットは、プライマー2709及びプライマーJ59を使用した構築PCRで結合し、Nsi1及びBgl2で消化した。ROSA26左アームホモロジー及びスプライスアクセプター−ピューロマイシンカセットは、plNT18(AsiS1/Bgl2)ベクターと連結した。
【0352】
ROSA標的化ベクターを完成させるため、CMV−scFv−Fcカセットの下流に、導入し、plNT18 AAVS右ホモロジーアームと置き換えた。これは、プライマーJ61及びプライマーJ62を使用した、pGATOR(Melidoni et al.,2013)に存在するROSA右ホモロジーアームのPCRによって実施し、一方にBstZ171及びもう一方にSbf1を有する断片を増幅した。プライマー61は、ROSA ZFN切断部位から上流65bpに位置する内在性Sbf1部位を除外するように位置させた。図31は、ROSA26左ホモロジーアーム及びROSA26右ホモロジーアームの配列を示す。
【表11】
【0353】
抗体または代替結合性分子をコードするplNT19の、マウスROSA26遺伝子座への組込みは、実施例20に記載したように、CRISPR/Cas9を使用した、抗体ライブラリーのヌクレアーゼ指向型導入によって達成することができる。本明細書では、「Geneart CRISPRヌクレアーゼベクターキット」(Lifetech A21175)を使用して、CRISPR/Cas9を介したヌクレアーゼ指向型組込みを示すことができる。このシステムでは、U6 RNAポリメラーゼIIIプロモーターが、トランス活性化crRNA(tracrRNA)に連結された標的相補性CRIPSR RNA(crRNA)の発現を推進する。crRNA及びtracrRNAが共にガイドRNAを作り出し、当該ガイドRNAは、同一の「GenArt CRISPRヌクレアーゼベクター」(製造者の説明書を参照のこと)上にコードされるCas9タンパク質の特異的切断を指示する。ベクターは、適切な3’末端部を有する短い二本鎖オリゴヌクレオチドがクローン化された直鎖化プラスミドとして提供される。そして、切断特異性は、クローン化された区間の配列によって決定される。プライマー2701/2702及びプライマー2703/2704(表10参照)によってコードされる2つの異なる標的化配列を設計し、マウスROSA26の切断を指示した。
【0354】
代替として、ROSA26遺伝子座内を切断するジンクフィンガーヌクレアーゼについて説明されている[34]。こうしたものは、Sce−Iメガヌクレアーゼ向けに記載したように(図16、実施例11)、適切な発現ベクターにおいて構築することができる。
【0355】
ドナープラスミドplNT19のヌクレアーゼ媒介性組込みは、内在性の受容体またはリガンドに結合することができる分泌抗体を発現するクローンを生じさせることになり、受容体シグナル伝達経路のアンタゴニズム[105、107]またはアゴニズム[47、106、108]のいずれかをもたらす。細胞表現型と、分泌抗体の機能活性とのつながりを可能にするために、細胞を半固体培地に低密度で播種することができ、その結果、個々のクローンが増殖し、誘導可能なプロモーターを介して抗体発現を開始することができる[105]。あるいは、恒常的なプロモーターを抗体遺伝子の発現に用いることができる。半固形培地であれば、内在的に発現した抗体の局所的な濃度上昇を維持することになり、その結果、個々の細胞から生じるコロニーに対して特異的な任意の表現型変化が、その特定クローンから発現した特有の抗体によって引き起こされることになる。レポーター遺伝子に融合したRexプロモーターまたはNanogプロモーターなどの迅速に応答するレポーターを用いるのであれば、半固体培地において低密度で細胞を播種し、回収した後、フローサイトメトリーで選別することが可能であろう。あるいは、plNT19における抗体遺伝子の下流に存在する終始コドンを、細胞表面に抗体を繋留することが可能な膜貫通ドメインによって置き換えることができる。plNT19において抗体遺伝子の下流に存在する終始コドンは、小胞体(ER)保留シグナル配列によっても置き換えることができ、当該小胞体(ER)保留シグナル配列は、抗体をER内に留めて、内因性に発現する標的受容体または任意の分泌タンパク質もしくは分泌ペプチドを潜在的に減少させることが可能なものである。plNT19は、マウスROSA26遺伝子座を標的とするために、特別に設計されており、マウスES細胞における、抗体または代替結合性分子の表現型の選別に用いることができる。しかしながら、ヌクレアーゼ指向型である抗体遺伝子組込み方法または結合体分子遺伝子組込み方法は、レンチウイルスの手法を使用して説明されたものなど[47、106、107、108]の他の機能選別に対しても適用することができる。
【0356】
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以下に記載の参考文献及び本開示における任意の箇所で引用した他の参考文献はすべて、参照によって、それらの全体が本明細書に組込まれる。
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図2-2】
図2-3】
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]