【実施例1】
【0014】
図1は実施例1の内部状態推定システムのブロック図である。
図1に示すように、実施例1の内部状態推定システムは、床面と壁面との間に設置された曲折した構造体C(具体的には中心線が円弧状で、かつ、中心線に直交する断面が円形状である中空の配管)の内部構造(配管の厚さ)を推定するためのものであって、次の各手段からなっている。
なお、構造体Cの外面は目視による観察が可能であり、構造体Cの内面は目視による観察は不可能であるが、管体の材質及び設置時における内壁の形状(
図1において点線で示した部分)は分かっているものとする。
(1)構造体Cの外面に設けられた加圧点pに圧力を付加する圧力付加手段1。
(2)構造体Cの外面に設けられた変位計測点aに設置され、加圧点pに所定圧力Pが付加される前後における変位を計測し、変位データDaを出力する変位計測手段2a。
(3)構造体Cの外面に設けられた変位計測点bに設置され、加圧点pに所定圧力Pが付加される前後における変位を計測し、変位データDbを出力する変位計測手段2b。
(4)構造体Cの外面に設けられた変位計測点cに設置され、加圧点pに所定圧力Pが付加される前後における変位を計測し、変位データDcを出力する変位計測手段2c。
(5)構造体Cの外面に設けられた変位計測点dに設置され、加圧点pに所定圧力Pが付加される前後における変位を計測し、変位データDdを出力する変位計測手段2d。
【0015】
(6)構造体Cについて、その内部構造が各々異なる構造体モデルM1〜Mnを作成し、各構造体モデルに関する構造データK1〜Knを出力する構造体モデルデータ出力手段3。
(7)加圧点pに付加される加圧データP及び構造体モデルデータ出力手段3から出力される構造データK1〜Knを受けて、構造体モデルM1〜Mnのそれぞれについて数値解析手段を用いて変位計測点a〜dに対応する点における変位解析を行い、構造体モデルM1については、構造データK1と変位計測点a〜dに対応する点における変位解析により得られた変位解析データAa1〜Ad1を学習データL1として出力し、以下同様に構造体モデルMnについては、構造データKnと変位計測点a〜dに対応する点における変位解析により得られた変位解析データAan〜Adnを学習データLnとして出力する三次元モデル解析手段4。
なお、構造体モデルM1〜Mnは、その外面形状を構造体Cと同一としてあるので、構造体モデルM1〜Mnにおける変位計測点a〜dに対応する点の位置は、変位計測点a〜dと全て一致する。
(8)変位計測手段2a〜2dで計測された加圧点pに所定圧力Pが付加される前後における変位データDa〜Ddの入力を受けて逆解析を行い、内部構造推定情報を出力するニューラルネットワーク5。
(9)ニューラルネットワーク5から出力された内部構造推定情報に応じて、構造体Cの内部構造を表示する内部構造表示手段6。
【0016】
以下では、各手段について詳しく説明する。
(圧力付加手段1)
加圧点pから任意の方向に圧力を付加することができる手段であり、通常は構造体Cの近くにある壁や柱に設置される。
なお、加圧点pは構造体Cの任意の位置に設定できるが、推定精度を上げるには、構造体Cの中央又は重心付近に設定した方が良い。そのため、
図1の加圧点pは構造体Cの中心軸を通る断面の外側中央部に設定され、加圧の方向は中心軸の中央に向かう向きとなっている。
【0017】
(変位計測手段2a〜2d)
変位計測手段2a〜2dは、構造体Cの任意の4点(a〜d)に設置可能であり、加圧点pに圧力が付加される前における各点の位置を基準位置として、加圧点pに圧力が付加された後における各点の変位(x,y,z方向の位置又は移動距離)を計測し、変位データDa〜Ddを出力するものである。
なお、
図1では、変位計測手段2bは加圧点pと同じ位置(非常に近い位置)に設置し、変位計測手段2a及び2cは構造体Cの中心軸を通る断面の外側における加圧点pの上側及び下側に設置し、変位計測手段2dは同断面における内側中央部に設置している。
【0018】
(構造体モデルデータ出力手段3)
構造体モデルデータ出力手段3は、内部構造が各々異なる構造体モデルM1〜Mnとして、設置時における内壁の形状(
図1において点線で示した部分であり、通常は設計図から特定できる)を基準として、構造体Cの内部を流体が流れたことによる摩滅や付着物による増厚等を考慮して、様々なパターンのものを作成する。
例えば、次の(a)〜(f)の全17600パターンが挙げられる。
(a)管体の厚さが基準の厚さから均一に減少しているパターンで、厚さの減少分を0.1mmずつ増加させた200パターン。
(b)管体の内側の厚さの減少分が外側の厚さの減少分の(1−x)倍となっているパターンで、外側の厚さの減少分を0.1mmずつ増加させた200パターン(ただし、xは0.1、0.2、・・・、1の10通りあるので、全部で2000パターン)。
(c)管体の外側の厚さが片減りしており、他の部分は上記(a)及び(b)と同じパターン(
図2(1)のように外側の中央部が片減りしているパターン、
図2(2)のように外側の上部が片減りしているパターン、
図2(3)のように外側の下部が片減りしているパターン)で、片減りしている部分毎に200パターン+2000パターン。
(d)管体の厚さが基準の厚さから均一に増加しているパターンで、厚さの増加分を0.1mmずつ増加させた200パターン。
(e)管体の内側の厚さの増加分が外側の厚さの増加分の(1+x)倍となっているパターンで、外側の厚さの増加分を0.1mmずつ増加させた200パターン(ただし、xは0.1、0.2、・・・、1の10通りあるので、全部で2000パターン)。
(f)管体の外側の厚さが偏って増加しており、他の部分は上記(d)及び(e)と同じパターンで、偏って増加している部分毎に200パターン+2000パターン。
また、実施例1では、管体が床面及び壁面に完全固定され、配管の外径を14cm、内径を8cmとして、各構造体モデルに関する構造データK1〜Knを出力している。
【0019】
(三次元モデル解析手段4)
実施例1の三次元モデル解析手段4では、数値解析手段として有限要素法による解析手段(以下「FEM解析手段」という。)を用いた。
FEM解析手段によれば、三次元モデルを多数の四面体のメッシュに切り、条件を定義した上で解析させると、所定の位置に圧力や振動が付加された場合に、その三次元モデル内の任意の点(任意の四面体の頂点)の位置がどのように変動するかを計算できる。
そのため、構造体モデルデータ出力手段3によって、内部構造が各々異なる構造体モデルM1〜Mnが作成され、各構造体モデルに関する構造データK1〜Knが出力されると、各構造体モデルについて、加圧点pに所定圧力Pが付加された場合における計測点a〜dに対応する点の変位解析データが得られるので、大量の学習データL1〜Lnを短時間のうちに用意することができる。
【0020】
(ニューラルネットワーク5)
ニューラルネットワーク5は、
図1に示すように、入力層5I、出力層5O、学習データ蓄積手段5L、学習データ蓄積手段5Lに大量の学習データL1〜Lnを入力する学習データ入力手段5T並びに図示しない複数の中間層、その他で構築される。
また、中間層は、畳み込み層やプーリング層、全結合層など様々に工夫された層を、必要に応じて組み合わせて構成される。
そして、ニューラルネットワーク5は、学習データ蓄積手段5Lに大量の学習データL1〜Lnを蓄え、自己学習させることによって最適化される。そして、十分な数(対象の形状の複雑さに応じて1万〜数10万)の学習データによって最適化されたパラメータを用いることにより95%以上の推定精度を得ることができる。
そうした上で、入力層5Iに変位計測手段2a〜2dで計測された変位データDa〜Ddが入力されると、ニューラルネットワーク5は逆解析を行い、実際の配管における内部構造に近い内部構造推定情報を高い精度で出力する。
【0021】
(内部構造表示手段6)
内部構造表示手段6は、ニューラルネットワーク5から出力された内部構造推定情報に応じて、構造体Cの内部構造を表示するものであり、通常の表示態様では構造体Cの中心軸を通る断面の状態を表示する。
なお、構造体Cの中心軸に垂直な断面の状態を複数箇所分表示する態様も選択できる。
【0022】
図3は、実施例1の内部状態推定システムのアルゴリズムを示すフロー図であり、以下の手順(T1)〜(T4)で多数の学習データL1〜Lnを生成し、ニューラルネットワークに蓄積して自己学習させた上で、手順(1)〜(6)で構造体Cの内部構造を推定し、推定した内部構造を表示する。
(T1)構造体Cの現況及び設計図等に基づいて、多数の構造体モデル(M1〜Mn)を作成する。
(T2)各構造体モデルの構造データK1〜Knを作成する。
(T3)FEM解析手段により、加圧データP及び各構造データK1〜Knに基づく変位解析を行い、変位計測点a〜dに対応する点の変位解析データを出力する。
(T4)多数の学習データL1〜Lnを生成する。
(1)構造体Cの加圧点pに所定圧力Pを付加する。
(2)変位計測点a〜dで所定圧力Pが付加される前後における変位データDa〜Ddを計測する。
(3)変位データDa〜Ddをニューラルネットワーク5に送る。
(4)ニューラルネットワーク5は、入力された変位データDa〜Ddに基づいて逆解析を行う。
(5)逆解析により内部構造推定情報を出力し、内部構造表示手段6に送る。
(6)内部構造表示手段6は、内部構造推定情報に基づいて内部構造の表示を行う。
【実施例2】
【0023】
図4は実施例2の内部状態推定システムで解析対象となる配管の配置を示す図である。
全ての配管は、外径5mm、内径4mm、管体の厚さは減肉のないところで1mmであり、
図4の上下端は完全拘束、左端はピン拘束(拘束位置を支点として動くことができる状態)となっており、加圧点は左右配管の中央左寄りとし、所定圧力P(100N)は矢印で示すように鉛直方向(Z軸の負の方向)へ付加した。
また、変位計測点は
図4に○で示すように13箇所とした。
なお、実施例2では配管が鉄製のため、所定圧力Pを100Nとしたが、塩ビ製であれば10N程度で十分な変位を得ることができる。
【0024】
多数の構造体モデルを作成するに当たっては、配管の減肉位置と減肉量を変えて行った。減肉量は0.2mm、0.5mm及び0.7mmの3通りを想定した。
実施例1と同様、各構造体モデルの構造データを作成し加圧点に所定圧力Pを付加したものとして、FEM解析手段により各変位計測点に対応する点の変位解析データを得た。
なお、
図5は或る構造体モデルについて得られた変位解析データに基づいて、加圧点に所定圧力Pを付加した後の配管位置を表示させた結果を示す図である。
【0025】
そして、実施例1と同様にFEM解析手段を用いて多数の学習データを生成し、予めニューラルネットワークに蓄積して自己学習させたが、実施例2の配管は複雑であるため、FEM解析は81183個の構造体モデルについて行い、そのうち73065個の構造体モデルにおける変位解析データ等を学習データとし、自己学習は6万回行った。
また、残り8118個の構造体モデルにおける変位解析データ等は検証用とした。
図6は検証用データの変位解析データ(13箇所の変位計測点についてのデータ)をニューラルネットワークに入力し、逆解析して得られた4箇所(
図4のA1〜A4)における減肉量の推定値と実際値(検証用データにおける4箇所の減肉量)との比較表である。
なお、減肉量は管体の断面積(減肉量をxmmとした時、{5
2−(4+x)
2}×πとなる。)で表示した。実際値1はA1〜A3の減肉量が0.2mm、A4の減肉量が0.7mmであり、実際値2はA1〜A3の減肉量が0.2mm、A4の減肉量が0.5mmである。
推定値と実際値を比較してみると、両者の値には若干のずれがあるものの、最も減肉量の大きい箇所は一致しており、減肉の進んでいる箇所を推定できていることが分かる。
【0026】
実施例の変形例を列記する。
(1)実施例1及び2の内部状態推定システムは、中空の配管の内部構造(配管の減肉)を推定するためのものであったが、配管の減肉に限らず配管の材料強度を推定するためのものとしても良い。そのため、本明細書中では、「内部構造」や「内部構造・・・」に代えて「内部状態」や「内部状態・・・」と記載している箇所もある。
例えば、配管の内側が劣化するケースでは、管体の内面から所定深さにある領域の強度が小さくなっている構造体モデルを多数作成し、多数の学習データを生成すれば良い。
(2)実施例1及び2の内部状態推定システムは、中空の配管の内部構造(配管の減肉)を推定するためのものであったが、中空の配管に限らず、内部に空洞部を有する三次元構造体(空洞体)に適用して、空洞体の壁の厚さを推定することもできる。
【0027】
(3)実施例1及び2の内部状態推定システムは、中空の配管の内部構造(配管の減肉)を推定するためのものであったが、中空の配管に限らず、中実の三次元構造体(中実体)に適用して、中実体の材料強度を推定することもできる。
そうした場合、例えば、中実体の内部に鉄筋が含まれているケースにおいては、鉄筋の一部又は全部について強度が小さくなっている構造体モデル、鉄筋の一部が設置されていない構造体モデル及びそれらを組み合わせた構造体モデルを作成し、多数の学習データを生成すれば良い。また、鉄筋の周囲の材料が劣化するケースにおいては、鉄筋の強度に加え、鉄筋の周囲の材料強度が小さくなっている構造体モデルを多数作成し、多数の学習データを生成すれば良い。
(4)実施例1及び2の内部状態推定システムでは、学習データや検証データの生成にFEM解析手段を用いたが、FEM解析手段に限らず、差分法や境界要素法等に基づく数値解析手段を用いても良い。