(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施の形態1>.
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置101の構造を示す断面図である。半導体装置101は、半導体素子11、ダイボンド材22、絶縁基板13、接合材23、冷却部材12を備えている。
【0017】
半導体素子11は、ダイボンド材22を介して絶縁基板13の一方の面に接合されている。絶縁基板13の他方の面と冷却部材12とが、接合材23を介して接合されている。絶縁基板13は、絶縁板としての絶縁セラミックス6と、絶縁セラミックス6の一方の面に設けられた導板5と、他方の面に設けられた導板7とを有する。換言すれば絶縁基板13は、導板5,7と、導板5と導板7とに挟まれて配置された絶縁セラミックス6とを有する。これらはろう材等を用いてあらかじめ絶縁基板13として一体化されている。
【0018】
導板5はダイボンド材22に接する。よって半導体素子11はダイボンド材22を介して導板5上に設けられ、より具体的には導板5に接合される。但し、半導体素子11と絶縁基板13とがCu固相拡散接合または超音波接合等の直接接合で接合されて、ダイボンド材22が省略されてもよい。導板7は冷却部材12に対向し、接合材23を介して冷却部材12に接合される。
【0019】
半導体素子11は半導体基体11aと、半導体基体11aに電気的に接続された配線電極11bとを有する。半導体素子11は、配線電極11bが形成された面(以下「第1主面」と称す)とは反対側(図中下側)の面(以下「第2主面」と称す)に、裏面外部出力電極11cを更に有する。
【0020】
半導体基体11aは例えばSiCを基材とする。SiCは、いわゆるワイドバンドギャップ半導体である。ワイドバンドギャップ半導体はSiに比べてバンドギャップが大きく、これを半導体基体11aに採用することは、半導体素子11の絶縁破壊電界強度を大きくする観点で、また半導体素子11を175℃以上の高温で動作させる観点で有利である。以下、半導体基体11aとしてSiCを基材とする場合を例にとって説明する。
【0021】
配線電極11bは、例えばCu、Al、AlSi、Ni、Auの金属層のいずれかまたはその組み合わせで実現される。本実施の形態において、裏面外部出力電極11cは、例えばAl、AlSi、Ni、Auの金属層のいずれかまたはその組み合わせで実現される。
【0022】
ダイボンド材22には、例えば銀ナノ粒子の低温焼結材、Cu−SnまたはAg−Snのような液相拡散接合材、または、半田等の、電気および熱の良導体である接合材料を用いることができる。以下ではダイボンド材22として焼結金属を採用する場合を例に取って説明する。当該焼結金属は例えば焼結Agである。
【0023】
ヒートサイクル試験時に半導体素子11の熱膨張係数と冷却部材12の熱膨張係数との差に起因して発生する熱応力は、半導体素子11で吸収される。半導体装置101全体が撓むときに、ダイボンド材22も撓んでダイボンド材22に応力が発生し、ダイボンド材22はその応力に耐える必要がある。
【0024】
ダイボンド材22は、その厚みが3μm未満であるとヒートサイクル試験時に発生する応力に耐えることができず、クラックが入り、強度的に不十分である。またダイボンド材22は、その厚みが100μmを超えると、その形成プロセス中にクラックが入る懸念がある。よってダイボンド材22の厚さは、その強度を確保する観点で3μm以上であることが望ましく、形成プロセスでクラックが発生することを防止する観点で100μm以下であることが望ましい。
【0025】
導板5,7のいずれにも、例えば銅またはアルミニウム等の電気および熱の良導体を用いることができる。導板5,7に銅を採用した場合、例えば、その厚みが0.2〜1.0mmであり、線膨張係数は17ppmである。
【0026】
絶縁セラミックス6には、窒化珪素、窒化アルミニウムまたはアルミナ等の、電気的観点で絶縁体であり、かつ、熱の良導体であるセラミックスを用いることができる。絶縁セラミックス6に窒化珪素を採用した場合、例えばその厚みが0.1mm〜1.00mmであり、線膨張係数は2.5ppmである。また上記導板5,7を合わせた絶縁基板13の全体としての線膨張係数は例えば5.7〜8.9ppmと見積もることができる。
【0027】
接合材23には、例えば銀ナノ粒子の低温焼結材、銀ペースト材、Cu−SnまたはAg−Snのような液相拡散接合材、または、半田等の、熱の良導体である接合材料を用いることができる。半田で接合する場合は、半田材の降伏応力も留意することが望ましく、例えばSn−Cu−Sbのような高強度半田が好ましい。
【0028】
冷却部材12は、銅またはアルミニウムなどの熱伝導の良好な金属材料で形成される。
【0029】
このような構成によれば、半導体素子11から冷却部材12までの熱抵抗は小さい。従って半導体素子11からの発熱は冷却部材12まで優れた熱伝達性によって伝達される。また、半導体素子11の熱膨張係数と冷却部材12の熱膨張係数との相違に起因する熱応力は、半導体素子11の塑性変形によって大部分が吸収される。よって絶縁基板13と冷却部材12との間の接合の信頼性が十分に確保される。
【0030】
次に、
図2から
図5を用いて、半導体素子11の製造工程、特に半導体素子11の厚さtが100μm以下の場合の製造工程を簡単に例示する。
図2から
図5は、半導体素子11の製造工程を順次に示す断面図である。まず第1主面にデバイス面を作製する。当該デバイス面は、例えばMOSFETではソース側の面である。この工程において配線電極11bが形成される(
図2参照)。
【0031】
次に、第2主面を研削し、半導体基体11aの厚さを例えば50μm以上100μm以下にする(
図3参照)。当該研削は、例えば、ダイヤモンド砥粒をビトリファイドで結合した砥石を採用した研削機で実現できる。当該研削の際には、半導体基体11aの第1主面側に保護テープを貼り付けて、デバイス面を研削から保護する。あるいは第1主面にワックスなどを塗布し、サポート基板を貼り付けてデバイス面を保護してもよい。
【0032】
研削の後、第2主面にシリサイドを形成するための金属膜11dを堆積する(
図4参照)。金属膜11dの材料として例えばNiが挙げられる。その後、金属膜11dと半導体基体11aとを反応させてシリサイド層を形成し、コンタクト電極を形成する。当該反応は金属膜11dへのレーザ光の照射で実現される。
【0033】
その後、コンタクト電極の表面に対してエッチングを行い、当該表面の酸化膜等を除去する。エッチングは例えばAr
+イオンを用いたドライエッチングで実現できる。この際、未反応の金属膜11dの一部が残っても構わない。
【0034】
表面の酸化膜が除去された後、コンタクト電極の表面上に、裏面外部出力電極11cを形成する(
図5参照)。簡単のため、コンタクト電極の図示は省略した。裏面外部出力電極11cの成膜方法はその密着性に大きく影響する。本実施の形態では、DCスパッタによって裏面外部出力電極11cの成膜を行った。この際に投入した電力により、成膜温度は100℃以上となった。
【0035】
通常、半導体素子11は、その複数が同じ半導体ウェハにおいて製造される。よって
図2から
図5に示された工程は、並行して製造される複数の半導体素子11の一つについて着目した図である。当該半導体ウェハは複数の半導体素子11において半導体基体11aとして用いられる。半導体素子11の製造が完了した直後は、それらの複数同士が半導体基体11aを介して繋がっているので、ダイシングにより半導体素子11の各々が分離して得られる。
【0036】
図6は半導体素子11の各々を製造した後、半導体装置101を得る前の工程を示す断面図である。導板5,7と絶縁セラミックス6とが上述の様に予め一体化した絶縁基板13を用意する。そして導板5に、半導体素子11をその第2主面側で、ダイボンド材22を介して接合する。他方、導板7に接合材23を介して冷却部材12を接合する。このようにして半導体装置101が製造される(
図1参照)。つまりかかる製造工程は、半導体装置101の製造に資する。
【0037】
一般に、ヒートサイクル試験により、熱の良導体である冷却部材12の線膨張係数と、絶縁基板13および半導体素子11の線膨張係数との違いにより、半導体装置101には撓みが発生する。よってこの撓みが大きいほど、ダイボンド材22に発生する応力が大きくなる。
【0038】
本実施の形態で用られる直接冷却式モジュール構造では、冷却部材12は、例えば半田が採用される接合材23が直接に接続される。そして冷却部材12は、半導体素子11をダイボンドした絶縁基板13に対して、接合材23を介して接合される。よって、冷却部材12の線膨張係数と、絶縁基板13および半導体素子11の線膨張係数との差に起因した撓みが発生しやすくなる。
【0039】
通常のモジュール構造では、冷却部材12に、銅材でできたベース板(図示省略)を、グリスを介して接合する。さらにベース板には、例えば半田が採用される接合材を介して、半導体素子11をダイボンドした絶縁基板13が接合される。よって冷却部材12の線膨張係数と、絶縁基板13および半導体素子11の線膨張係数との差に起因した撓みが、グリスやベース板により緩和され、直接冷却式モジュール構造に比べて撓みが緩和される。つまりダイボンド材22に発生する応力は小さくなる。
【0040】
次に、ダイボンド材22に発生する応力を低減させるために望ましい絶縁基板13の線膨張係数を求めるための計算を示す。
【0041】
図7は、半導体装置101において、半導体素子11とダイボンド材22を介して接合される絶縁基板13の全体としての線膨張係数に対する、ダイボンド材22の寿命の関係を示すグラフである。この関係における助変数として半導体素子11の厚さtを採用し、その値が100μm,200μm,300μmの場合を示した。但し、これらのグラフはいずれも、CAE(コンピュータ支援設計)により行った解析結果である。またダイボンド材22として焼結Agを用い、これを介して絶縁基板13が半導体素子11と接合され、接合材23を介して絶縁基板13に冷却部材12が接合された場合を例示した。
【0042】
図7の横軸は、絶縁基板13の全体としての線膨張係数(図では単に「絶縁基板13の線膨張係数」と表記:以下同様)を単位ppmにて示す。また
図7の縦軸はダイボンド材22の寿命、つまりヒートサイクル試験を行った際にダイボンド材22が故障するまでのヒートサイクル試験のサイクル数を示す。ここでのヒートサイクル試験は、半導体装置101の外部環境温度を−(マイナス)40℃度から175℃を経て再び−(マイナス)40℃に変化させる温度サイクル試験である。
【0043】
直接冷却式モジュール構造で用いている冷却部材12をAlで構成する場合を想定してその線膨張係数を23ppmとし、SiCを用いた半導体素子11の線膨張係数を4.6ppmとした場合を例にとって説明する。
【0044】
絶縁基板13の線膨張係数が大きいほど、これと冷却部材12の線膨張係数との差は小さく、絶縁基板13と冷却部材12との間に位置する接合材23に発生する応力は小さい。しかし絶縁基板13の線膨張係数が大きいほど、絶縁基板13の線膨張係数と半導体素子11の線膨張係数との差は大きく、絶縁基板13の撓みによってダイボンド材22に発生する応力は大きい。よって絶縁基板13の線膨張係数が大きいほどダイボンド材22の寿命は短い。
【0045】
逆に絶縁基板13の線膨張係数が小さいほど、冷却部材12の撓みによって接合材23に発生する応力は大きく、ダイボンド材22に発生する応力は小さく、ダイボンド材22の寿命は長い。
【0046】
ダイボンド材22の寿命改善に限って言えば、たとえば半導体素子11にSiCを用いた場合にその線膨張係数は4.6ppmであり、絶縁基板13の線膨張係数は4.6ppmに近いほど良好である。ただし、冷却部材12が例えばAlで構成される場合、その線膨張係数は23ppmであるので、絶縁基板13の線膨張係数が半導体素子11の線膨張係数に近いほど、絶縁基板13の線膨張係数と冷却部材12の線膨張係数との差が大きく、冷却部材12の撓みによって接合材23に発生する応力は大きくなる。
【0047】
接合材23に影響を与えない範囲で試算すると、
図7に示すように、絶縁基板13の線膨張係数の相違がダイボンド材22のヒートサイクル寿命に与える影響は小さい。
【0048】
図7で示された絶縁基板13の線膨張係数のいずれにおいても、半導体素子11の厚さtを薄くすることにより、ダイボンド材22の寿命が改善されることが分かる。これは半導体素子11は、その厚みが薄いほど、冷却部材12の撓みに追従し易く、以てダイボンド材22に発生する応力を緩和させ得るからであると考えられる。よって半導体装置101において半導体素子11の厚みを薄くすることは、ダイボンド材22の寿命を改善する観点で望ましい。
【0049】
図8はダイボンド材22に発生した剥離を示すScanning Acoustic Tomograph(SAT)像である。この剥離はヒートサイクル試験により発生したものである。このSAT像は、半導体装置101を半導体素子11の第1主面側から見たものである。半導体素子11のコーナー部の領域11gにおいて、剥離状態を示す白い部分が見えている。SAT像の深さ位置をダイボンド材22に位置に設定しているので、この部分はダイボンド材22の剥離状態を反映している。このようなダイボンド材22の剥離が発生するまでのヒートサイクル数を向上させる観点で、半導体素子11の厚さtを薄くすることが望ましい。
【0050】
図7から理解されるように、厚さtが100μmの場合はヒートサイクル寿命が約3000〜7000サイクルであり、厚さtが200μmの場合はヒートサイクル寿命が約400〜600サイクルであり、厚さtが300μmの場合はヒートサイクル寿命が約200〜300サイクルである。つまり厚さtが100μmの場合は、厚さtが200μmの場合および300μmの場合と比較すると、ダイボンド材22のヒートサイクル寿命は1桁程度向上している。これに対して、厚さtが200μmの場合は、厚さtが300μmの場合と比較すると、ダイボンド材22のヒートサイクル寿命は2倍程度しか向上していない。
【0051】
よってヒートサイクル寿命を顕著に向上させる観点から、半導体素子11の厚さtは100μm以下であることが望ましい。他方、製造プロセスでの歩留まりを考慮すると、厚さtは50μm以上であることが望ましい。従って半導体素子11の厚さtの望ましい範囲は50μm以上100μm以下(即ち0.05mm以上0.1mm以下)であると言える。
【0052】
半導体素子11が冷却部材12の撓みに追従するには、半導体素子11が自身に印加される応力に耐えなければならない。そこで、次に、半導体素子11において望ましい曲げ強度の範囲について説明する。
【0053】
図7に関して説明したヒートサイクル試験を半導体素子11に対して行った場合、例えば1000サイクルのヒートサイクル試験では、100〜700MPa未満の曲げ強度を有する半導体素子11では、そのチップのエッジ部分からの割れが発生した。他方、700MPa以上の曲げ強度を有する半導体素子11では、かかる割れは発生しなかった。よって半導体素子11の曲げ強度は700MPa以上であることが望ましい。
【0054】
半導体素子11の曲げ強度は、半導体素子11の製造過程およびその厚さtに依存する。その中でも特に重要なパラメータとして半導体素子11のダイシング条件があげられる。
図9および
図10はいずれもダイシング後の半導体素子11の顕微鏡による断面像である。但し
図9の試料と
図10の試料とはダイシング条件が異なっている。
【0055】
図9ではエッジ部にクラックKが観察される。クラックKの存在により、曲げ強度の評価の際にこれが引き金となって割れやすくなる。よってクラックKの存在は、曲げ強度の向上という観点で望ましくない。
【0056】
図10ではクラックは観察されない。このような半導体素子11は曲げ強度の評価の際に、破壊の引き金になる要素が減少する。つまり半導体素子11を採用する半導体装置101の工作性に優れる。よって曲げ強度の向上という観点で、
図10の試料の方が、
図9の試料よりも望ましい。
【0057】
つまり、クラックが発生しないようなダイシング条件で、ダイシングを行うことが望ましい。ダイシング条件の改善は、具体的には、ダイシングの際に使用されるブレードの種類および厚み、ダイシングテープそれ自体の種類およびダイシングテープの粘着剤の種類を適切に選定することで得られる。
【0058】
例えば、ブレードの厚みを小さくすることが望ましい。ダイシングの際に発生する余分なクラックを低減させるからである。またダイシングテープの粘着剤の粘着力を強くすることも望ましい。ブレード時に発生する応力で、その対象物(ここでは半導体素子11)が変形するのを防止するためである。
【0059】
図11は、半導体素子11の累積故障率と曲げ強度との関係を示すグラフであり、いわゆるワイブルプロットを示す。右縦軸には半導体素子11の累積故障率F(t)を百分率で、左縦軸には値ln(ln(1/(1−F(t))))を(但し記号lnは自然対数を示し、記号F(t)中の記号tは時間を示す)、それぞれ採用した。
図11の横軸には、半導体素子11の曲げ強度を単位にMPaを採用して示した。
【0060】
但し、半導体素子11としてSiCを材料とするMOSFETを用い、厚さtは100μmである。曲げ強度は3点曲げ強度試験によって求めた。
図11は互いに異なる第1および第2のダイシング条件で作製した半導体素子11について、それぞれ回帰線J1,J2で示している。
【0061】
第1のダイシング条件よりも第2のダイシング条件の方がブレードの厚みが小さく、かつダイシングテープの粘着剤の粘着力が強い。第1のダイシング条件で作製された半導体素子11は、回帰線J1で示される様に、曲げ強度がおよそ100〜800MPaである。第2のダイシング条件で作製された半導体素子11は、回帰線J2で示される様に、曲げ強度がおよそ700〜1100MPaである。このように、第1のダイシング条件よりも第2のダイシング条件の方が曲げ強度の大きな半導体素子11を得やすいことが分かる。しかも回帰線J1,J2の相違から明らかなように、第1のダイシング条件よりも第2のダイシング条件の方が曲げ強度のばらつきは小さい。
【0062】
図12は、半導体装置101において半導体素子11に印加されるその厚さ方向の応力(垂直応力)を示すグラフである。当該グラフは、CAE(コンピュータ支援設計)により行った計算結果を示す。縦軸には半導体素子11に印加される応力の値を、横軸には、半導体素子11とダイボンド材22を介して接合される絶縁基板13の線膨張係数の値を、それぞれ採用した。なお、半導体素子11の厚さtを助変数とし、その値として、100μm,200μm,300μmを採用した。
【0063】
図12の計算結果から、絶縁基板13の線膨張係数に対する、半導体素子11の厚さtのいずれにおいても、半導体素子11に印加される応力値は400MPa未満であることが分かる。よって、半導体素子11の曲げ強度が400MPa未満であれば半導体素子11に割れが生じ、これが400MPa以上であれば半導体素子11に不良が生じないと考えられる。
【0064】
図12の計算結果は、曲げ強度が700MPa以上ある半導体素子11では、ヒートサイクル試験を1000サイクル実施しても、割れで例示される不良の発生がないことと整合する。
【0065】
また、厚さtが薄いほど、半導体素子11に印加される応力が高いことが分かる。つまり、厚さtが薄いほど、半導体素子11の曲げ強度は高いことが要求される。
図7を用いて説明したように、厚さtが薄いほど、ダイボンド材22のヒートサイクル寿命は向上する。また
図11のグラフに関する累積故障率F(t)を得た半導体素子11の厚さtは100μmであった。従って製造ばらつきを考慮すると、半導体素子11の曲げ強度は1000MPa以上であると、より望ましい。
【0066】
図13は、ダイシング条件とクラック進展深さ率との関係を示すグラフである。クラック進展深さ率は、ダイシング後のチップ端面に入るクラックの大きさを示すものである。クラックの進展深さ率は、
図9を参照して、チップ厚みLに対するクラックの深さdの比の百分率(100×d/L[%])として定義される。
図13において「改善前」「改善後」は、それぞれ上述の第1のダイシング条件および第2のダイシング条件に対応する。
【0067】
図13から、第1のダイシング条件よりも第2のダイシング条件の方が、クラック進展深さ率が低いことが分かる。
図11で強度の低下を招来した第1のダイシング条件ではクラックの進展深さ率は30%を超えることが分かる。このことから強度向上を行う為には、クラックの進展深さ率を30%以下に抑える必要があることが分かる。
【0068】
半導体装置101は、半導体素子11の線膨張係数と、冷却部材12の熱膨張係数との差に起因する熱応力を、半導体素子11で吸収する。よって接合材23に発生する応力を緩和することができる。よって、熱伝導性が高く、かつ、工作性、信頼性に優れた半導体装置101を得ることができる。しかも半導体素子11の厚さの下限は半導体素子11の製造プロセスでの歩留まりを悪化させないので、顕著なコストの上昇もない。
【0069】
<実施の形態2>.
図14は、本実施形態に関する半導体装置102の構造を示す断面図である。半導体装置102は、実施の形態1における半導体装置101の構造に対して、絶縁基板13を絶縁基板14に置換した構成を有している。その他の構成要素は半導体装置101と同様である。但し、半導体素子11において、半導体基体11a、配線電極11b、裏面外部出力電極11cの区別は省略した。
【0070】
絶縁基板14は、絶縁セラミックス6と銅板51,71とアルミニウム板52,72とを有する。銅板51,71は銅で構成される。アルミニウム板52,72はアルミニウムで構成される。
【0071】
絶縁セラミックス6にはアルミニウム板52,72が接触して設けられ、銅板51はアルミニウム板52に、銅板71はアルミニウム板72に、それぞれ接触して設けられる。またアルミニウム板52は絶縁セラミックス6と銅板51とに挟まれ、アルミニウム板72は絶縁セラミックス6と銅板71とに挟まれる。銅板51はダイボンド材22を介して半導体素子11に、銅板71は接合材23を介して冷却部材12に、それぞれ接合される。
【0072】
よって銅板51とアルミニウム板52とをまとめて、実施の形態1に倣って、導板5として把握することができる。同様に、銅板71とアルミニウム板72とをまとめて、実施の形態1に倣って、導板7として把握することができる。
【0073】
このように導板7を、熱伝導率の高い銅と、塑性変形しやすいアルミニウムとの積層構造とすることにより、導板7を銅のみで構成する場合と比較して、絶縁基板14と冷却部材12との間の接合の信頼性を向上させる。これは、冷却部材12をアルミニウムで構成するときに好適である。接合材23を挟む両側の部材、即ち冷却部材12と導板7とに熱応力が均等化されるからである。特に、接合材23が半田で構成される場合、その効果は顕著である。
【0074】
望ましくは、アルミニウム板72が、少なくとも純度99.5%以上、望ましくは99.9%以上の純アルミニウムである。これにより、絶縁基板14の全体としての線熱膨張係数をアルミニウムの線熱膨張係数に近づけることができ、接合材23に働く応力を低減できるからである。かかる応力の低減は、絶縁基板14と冷却部材12との間の接合の信頼性を向上させる観点で望ましい。また、絶縁基板14の全体としての線熱膨張係数をアルミニウムの線熱膨張係数に近づける観点では、アルミニウム板52も、少なくとも純度99.5%以上、望ましくは99.9%以上の純アルミニウムであることが望ましい。
【0075】
図15および
図16は、半導体装置102の製造工程を順次に示す断面図である。まず
図15を参照して、絶縁基板14を用意する。ここで「用意する」とは、絶縁板としての絶縁セラミックス6と、絶縁セラミックス6の両面に設けられた導板5,7とを有する絶縁基板14を用意することを指し、必ずしも絶縁基板14の製造を意味しない。また図示しないが、冷却部材12も用意しておく。
【0076】
図16は、絶縁基板14上に(より具体的には銅板51上に)、ダイボンド材22を介して半導体素子11を配置する工程を示す。この後、更に絶縁基板14の、半導体素子11が配置された側とは反対側の銅板71に、接合材23を介して、冷却部材12を接合させて、
図14に示された構成が得られる。
【0077】
<実施の形態3>.
図17は、本実施形態に関する半導体装置103の構造を示す断面図である。半導体装置103は、実施の形態1にかかる半導体装置101に対して、裏面外部出力電極11cおよび導板5のいずれもを、銅で構成し、ダイボンド材22を省略して実現される。つまり、裏面外部出力電極11cおよび導板5はダイボンド材22を介さずに互いに接合される。その他の構成は半導体装置101と同様である。
【0078】
かかる構成において、裏面外部出力電極11cと導板5との接合が液相拡散接合または固相拡散接合により接合される。かかる態様での接合は、応力に対する耐性を向上させる。これは絶縁基板13と半導体素子11との間の接合の信頼性を向上させる。
【0079】
図18は、本実施形態に関する他の半導体装置104の構造を示す断面図である。半導体装置104は、実施の形態2にかかる半導体装置102に対して、裏面外部出力電極11cを銅で構成し、ダイボンド材22を省略して実現される。つまり、裏面外部出力電極11cおよび銅板51は、ダイボンド材22を介さずに互いに接合される。その他の構成は半導体装置102と同様である。
【0080】
かかる構成において、裏面外部出力電極11cと銅板51との接合が液相拡散接合または固相拡散接合により接合される。かかる態様での接合は、応力に対する耐性を向上させる。これは絶縁基板14と半導体素子11との間の接合の信頼性を向上させる。
【0081】
例えば絶縁基板13の導板5、あるいは絶縁基板14の銅板51を、いわゆるDirect Bonded Copperと称される手法を用いて形成した場合、半導体素子11と絶縁基板13とを、あるいは半導体素子11と絶縁基板14とを、固相拡散接合もしくは液相拡散接合により接合できる。
【0082】
もちろん、裏面外部出力電極11cおよび導板5のいずれもを銅で構成しつつ、ダイボンド材22を介して半導体素子11と絶縁基板13とを接合することも可能である。導板7も銅で構成してもよい。
【0083】
<実施の形態4>.
図19は、本実施形態に関する半導体装置105の構造を示す断面図である。半導体装置105は、実施の形態1で説明された半導体装置101に対して、リード3、接合材4および封止樹脂17を追加した構成を有する。但し、本実施の形態では冷却部材12には、放熱フィン12aを有する形状が採用されている。また、半導体素子11において、半導体基体11a、配線電極11b、裏面外部出力電極11cの区別は省略した。
【0084】
接合材4は、ダイボンド材22とは反対側で半導体素子11に(つまり第1主面に)接合され、リード3は接合材4を介して半導体素子11に接合される。封止樹脂17は、冷却部材12上に設けられ、リード3、接合材4、半導体素子11、絶縁基板13、ダイボンド材22、接合材23を封止する。
【0085】
このような構成の半導体装置105は、半導体素子11の基材にSiCを採用して175℃を超える温度下で動作させることが可能である。また、半導体素子11と冷却部材12との間の熱抵抗が低減されるので、半導体装置105を小型化でき、汎用性が拡大する。これは例えば、当該半導体装置105を用いてインバータを構成する場合、当該インバータの小型化に資する。
【0086】
図20から
図22は、本実施形態に関する半導体装置105の製造工程を順次に示す断面図である。まず導板5,7と絶縁セラミックス6とが予め一体化した絶縁基板13を用意する。そしてダイボンド材22を介して、半導体素子11の第2主面側を導板5に接合する(
図20参照)。そして接合材23を介して、導板7に冷却部材12を接合する(
図21参照)。そして接合材4を半導体素子11の第1主面側に接合し、更に接合材4に対して半導体素子11とは反対側からリード3を接合材4に接合する(
図22参照)。更に封止樹脂17を設ける。このような製造工程により
図19に示された構成が得られる。換言すれば、かかる製造工程は半導体装置105の実現に資する。
【0087】
なお、本発明はその発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態の任意の構成要素を適宜に変形したり、各実施の形態において任意の構成要素を省略したりすることが可能である。
【0088】
上記の実施の形態では、各構成要素の材質、材料、実施の条件等についても記載しているが、これらは例示であって記載したものに限られるものではない。
【0089】
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。