特許第6440912号(P6440912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6440912
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/58 20060101AFI20181210BHJP
   G01S 13/95 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   G01S13/58 200
   G01S13/95
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-536003(P2018-536003)
(86)(22)【出願日】2016年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2016074823
(87)【国際公開番号】WO2018037533
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2018年9月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123434
【弁理士】
【氏名又は名称】田澤 英昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100199749
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 成
(74)【代理人】
【識別番号】100188880
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 辰哉
(74)【代理人】
【識別番号】100197767
【弁理士】
【氏名又は名称】辻岡 将昭
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲太郎
(72)【発明者】
【氏名】小幡 康
(72)【発明者】
【氏名】亀田 洋志
(72)【発明者】
【氏名】小柳 智之
(72)【発明者】
【氏名】磯野 泰三
(72)【発明者】
【氏名】有岡 俊彦
【審査官】 安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−004610(JP,A)
【文献】 特開2014−098686(JP,A)
【文献】 特開2008−286582(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/192528(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0078037(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/51,
G01S 13/00−13/95,
G01S 17/00−17/95,
G01W 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測領域に向けて放射され当該観測領域における観測対象で反射した電磁波の受信信号に基づいて、前記観測領域をレンジ方向とアジマス方向とに区分けして形成された複数のセルのそれぞれに対応する観測対象の速度を算出する速度算出部と、
前記速度算出部が算出したセルごとの観測対象の速度から周期的なバイアス成分を除く補正を行うバイアス補正部と、
セル間の距離および観測対象の速度の変化の関係と、セル間の距離、観測対象の速度の変化およびセル間の観測対象の速度ベクトルの方向の関係とのいずれか一方に基づいて、検出対象事象が発生する可能性がある検出領域を決定する検出領域決定部と、
前記バイアス補正部が補正した観測対象の速度のうち、前記検出領域に含まれるセルに対応する観測対象の速度を選択して平滑化し、平滑化した値を前記検出領域における観測対象の速度と推定する速度推定部と、
前記速度推定部が推定した観測対象の速度に基づいて、前記検出領域における検出対象事象の発生を検出する事象検出部と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記速度推定部は、前記検出領域に含まれるセルに対応する観測対象の速度の観測誤差に応じて観測対象の速度を積分または平均した値を、前記検出領域における観測対象の速度と推定することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記検出領域決定部は、セルに対応する水深に応じて前記検出領域の大きさを変更することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記速度推定部は、前記検出領域に含まれるセルに対応する水深と観測対象である海面の流速の観測誤差とに応じて海面の速度を重み付け平均した値を、前記検出領域における海面の速度と推定することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記速度推定部は、前記検出領域に含まれるセルに対応する観測対象の速度の観測誤差の標準偏差に応じて観測対象の速度を重み付け平均することを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項6】
観測領域に向けて放射され当該観測領域における海面で反射した電磁波の受信信号に基づいて、前記観測領域をレンジ方向とアジマス方向とに区分けして形成された複数のセルのそれぞれに対応する海面の速度を算出する速度算出部と、
前記速度算出部が算出したセルごとの海面の速度から周期的なバイアス成分を除く補正を行うバイアス補正部と、
前記観測領域に想定した津波の波面候補とセルとの距離に基づいて、津波の波面候補に属するセルからなる検出領域を決定する検出領域決定部と、
前記バイアス補正部が補正した海面の速度のうち、前記検出領域に含まれるセルに対応する海面の速度を平滑化し、平滑化した値を前記検出領域における海面の速度と推定する速度推定部と、
前記速度推定部が推定した海面の速度に基づいて、前記検出領域における津波の発生を検出する津波検出部と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
前記速度推定部は、前記検出領域に含まれるセルに対応する水深と、前記検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速における観測誤差の標準偏差と、前記検出領域に含まれるセルに対応する海面の速度ベクトルと津波の波面候補の法線ベクトルとがなす角度とに応じて、前記検出領域に含まれるセルに対応する海面の速度を重み付け平均することを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記検出領域決定部は、レーダ覆域の両端にあるビームにおけるセルの組み合わせの数だけ津波の波面候補を想定することを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記津波検出部は、
前記検出領域に含まれるセルの数に応じて検出用閾値を変更し、
前記検出領域における海面の速度と前記検出用閾値との比較結果に基づいて、前記検出領域における津波の発生を検出することを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記津波検出部は、
前記検出領域に含まれるセルに対応する海面の速度ベクトルと津波の波面候補の法線ベクトルとがなす角度に対応付けられた津波の発生確率に応じて検出用閾値を変更し、
前記検出領域における海面の速度と前記検出用閾値との比較結果に基づいて、前記検出領域における津波の発生を検出することを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記津波検出部は、津波の波面に直交するビームにおけるセルに対応する海面の速度情報に基づいて、津波の波高値の算出と津波の到来予測とを行うことを特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、津波などの検出対象事象を検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、津波警報を確実に行うために、レーダ装置を用いて津波を高精度に検出することが求められている。レーダ装置では、送信部から電波を海面に放射し、海面で反射された電波を受信部で受信して、受信電波を解析することにより海面の流速を観測している。
なお、レーダの観測領域をレンジ方向とアジマス方向とに区分けして形成された複数の領域のそれぞれは、セルと呼ばれている。
【0003】
海面の流速はセルごとに観測され、観測された海面の流速には、受信部における熱雑音あるいは風による流速変動の影響で観測誤差が重畳している。この観測誤差が大きいと、観測された流速が実際の流速から乖離して、津波の誤検出による誤警報が多発するか、発生した津波が検出されない可能性もある。
【0004】
これに対して、例えば、非特許文献1に記載されるレーダ装置では、海底地形の等高線に直交する方向に津波が伝搬することを前提として、同一の等高線に沿って隣接するセル同士で海面の流速を加算平均している。すなわち、このレーダ装置は、海底地形の等高線に津波の波面が沿っているとみなして、観測誤差による流速のばらつきを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B. Lipa, J. Isaacson, B. Nyden and D. Barrick, “ Tsunami Arrival Detection with High Frequency (HF) Radar ”, Remote Sensing, Vol.4, pp.1448−1461, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、海底地形が複雑であるか、津波の発生源が海岸に近い場所である場合、津波は必ずしも海底地形の等高線に直交する方向に伝搬するとは限らない。
この場合、非特許文献1に記載されるレーダ装置では、観測した流速のばらつきを適切に抑制できずに、検出対象事象である津波を適切に検出できなくなる。このため、津波の誤検出による誤警報が多発するか、津波が発生しても検出されない可能性もある。
【0007】
この発明は上記課題を解決するもので、検出対象事象の発生を高精度に検出することができるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るレーダ装置は、速度算出部、バイアス補正部、検出領域決定部、速度推定部および事象検出部を備える。速度算出部は、観測領域に向けて放射され当該観測領域における観測対象で反射した電磁波の受信信号に基づいて、観測領域をレンジ方向とアジマス方向とに区分けして形成された複数のセルのそれぞれに対応する観測対象の速度を算出する。バイアス補正部は、速度算出部が算出したセルごとの観測対象の速度から周期的なバイアス成分を除く補正を行う。検出領域決定部は、セル間の距離および観測対象の速度の変化の関係と、セル間の距離、観測対象の速度の変化およびセル間の観測対象の速度ベクトルの方向の関係とのいずれか一方に基づいて、検出対象事象が発生する可能性がある検出領域を決定する。速度推定部は、バイアス補正部が補正した観測対象の速度のうち、検出領域に含まれるセルに対応する観測対象の速度を選択して平滑化し、平滑化した値を検出領域における観測対象の速度と推定する。事象検出部は、速度推定部が推定した観測対象の速度に基づいて、検出領域における検出対象事象の発生を検出する。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、検出対象事象が発生する可能性がある検出領域を決定し、検出領域に含まれるセルに対応する観測対象の速度を平滑化した値を、検出領域における観測対象の速度と推定する。そして、推定した観測対象の速度に基づいて、検出領域における検出対象事象の発生を検出する。このように構成することで、検出対象事象の発生を高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図2図2Aは、実施の形態1に係るレーダ装置の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。図2Bは、実施の形態1に係るレーダ装置の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態1に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
図4】検出領域決定処理の詳細を示すフローチャートである。
図5】検出領域決定処理の概要を示す図である。
図6】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図7図7Aは、セルに対応する水深に応じて検出領域の大きさを変更する処理の概要を示す図である。図7Bは、水深が深い場合における津波の波高と注目セルからの距離との関係を示すグラフであり、図7Cは、水深が浅い場合における津波の波高と注目セルからの距離との関係を示すグラフである。
図8図8Aは、水深が異なるセルを含む検出領域を示す図である。図8Bは、水深が深い場合における津波の流速と時間との関係を示すグラフであり、図8Cは、水深が浅い場合における津波の流速と時間との関係を示すグラフである。
図9】この発明の実施の形態3に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図10】津波の波面候補とセルとの関係を示す図である。
図11】津波の波面候補と流速ベクトルの縮小率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図であり、レーダ装置1が海洋レーダ装置である場合を示している。なお、海洋レーダ装置は、観測領域に電磁波を送信し、観測領域における海面で反射した電磁波を受信して分析することで、陸に向けて到来する津波を検出するレーダ装置である。
【0012】
図1において、送信部2は、電磁波を観測領域に向けて送信する。送信部2が送信する電磁波の種類は特に問わないが、例えば、3〜30MHz程度の短波帯の電磁波あるいは30〜300MHz程度の超短波帯の電磁波などが考えられる。
【0013】
受信部3は、送信部2が送信した電磁波のうち、観測領域における海面で反射した電磁波を受信する。さらに、受信部3は、電磁波の受信信号の増幅処理を行い、さらに周波数変換処理などの信号処理を行って、信号処理後の受信信号をA/D変換する。A/D変換により得られたデジタル信号は、受信部3から流速算出部4に出力される。
なお、図1では、送信部2と受信部3とが別々の構成である場合を示したが、この構成に限定されるものではない。例えば、送信部2と受信部3が一体で構成されて両方の機能を備えた送受信部をレーダ装置1に設けてもよい。
【0014】
流速算出部4は、受信部3から入力された上記デジタル信号に基づいて、複数のセルのそれぞれに対応する海面の流速を算出する。
なお、複数のセルは、観測領域をレンジ方向とアジマス方向とに区分けして形成され、流速算出部4によって観測対象である海面の流速がセルごとに算出される。
【0015】
流速データベース4aは、流速算出部4が算出した流速データを保存するデータベースであり、例えばRAM(Random Access Memory)、ハードディスクといった記憶装置の記憶領域上に構築される。また、流速データベース4aに保存された流速データは、潮汐補正部5から読み出しが可能である。
【0016】
なお、流速データベース4aが構築される記憶装置は、レーダ装置1に内蔵された記憶装置でもよいし、レーダ装置1の外部に設けられた記憶装置であってもよい。すなわち、流速データベース4aは、流速算出部4によるデータの保存と潮汐補正部5によるデータの読み出しが可能な記憶装置に構築されていればよい。
【0017】
潮汐補正部5は、バイアス補正部を具体化した構成要素であり、流速算出部4によって算出されたセルごとの海面の流速から周期的なバイアス成分を除く補正を行う。ここで、周期的なバイアス成分とは、潮汐による長周期的な水位変動に起因した流速の変動成分である。以下、この変動成分を潮汐成分と記載する。
例えば、潮汐補正部5は、流速算出部4が算出したセルごとの流速と流速データベース4aから読み出したセルごとの流速データとに基づいて、長期的な潮汐の影響でセルごとの海面の流速に加わる潮汐成分を抽出する。続いて、潮汐補正部5は、流速算出部4が算出したセルごとの海面の流速から、抽出した潮汐成分を差し引く補正を行う。
【0018】
検出領域決定部6は、観測領域のうちから、検出対象事象である津波が発生する可能性がある検出領域を決定する構成要素である。ここで、検出領域は、セル間の距離および観測対象の速度の変化の関係と、セル間の距離、観測対象の速度の変化およびセル間の観測対象の速度ベクトルの方向の関係とのいずれか一方に基づいて決定される。
例えば、検出領域決定部6は、津波が到来していると仮定したセルとの間の距離が一定範囲内にあるセルから、海面のピーク流速の減衰が一定値以下となるセルを選択し、選択したセルからなる領域を検出領域と決定する。
また、検出領域決定部6が、津波が到来していると仮定したセルとの間の距離が一定範囲内にあるセルから、セル間の距離による海面のピーク流速の減衰と海面の速度ベクトルの方向の差異による減衰とに基づいてセルを選択してもよい。
【0019】
流速推定部7は、速度推定部を具体化した構成要素であり、検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速を平滑化した値を、検出領域における海面の流速と推定する。
例えば、流速推定部7は、潮汐補正部5が補正したセルごとの海面の流速のうち、検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速を選択し、流速の観測誤差に応じて流速の積分または平均を算出する。こうして平滑化された値が、検出領域における海面全体の流速と推定される。これにより、検出領域決定部6により決定された検出領域ごとに海面の流速の観測誤差が抑圧される。
【0020】
津波検出部8は、事象検出部を具体化した構成要素であり、流速推定部7が推定した検出領域における海面の流速に基づいて、検出領域における津波の発生を検出する。
例えば、津波検出部8は、検出領域における海面の流速を閾値と比較して、海面の流速が上記閾値を超える検出領域に津波が発生したと判断して、海面の流速が上記閾値以下であれば、津波が発生していないと判断する。
【0021】
表示装置9は、津波検出部8によって検出された津波に関する情報を表示する表示装置であり、例えば、GPU(Graphics Processing Unit)および液晶ディスプレイを備えて構成される。また、海面の流速ベクトル分布、津波の検出情報または津波の到来予測位置などを表示装置9に表示させてもよい。
【0022】
図2Aは、レーダ装置1の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。
また、図2Bは、レーダ装置1の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。図2Aおよび図2Bにおいて、送信機101は、アンテナ102を経由して電磁波を放射し、受信機103は、アンテナ102を経由して電磁波を受信する。レーダ装置1における送信部2は送信機101であり、受信部3は受信機103である。また、表示装置9はディスプレイ104である。
【0023】
レーダ装置1における流速算出部4、潮汐補正部5、検出領域決定部6、流速推定部7および津波検出部8の各機能は、処理回路によって実現される。すなわち、レーダ装置1は、各機能の動作を実行するための処理回路を備える。
処理回路は、専用のハードウェアであっても、メモリから読み出したプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。
【0024】
図2Aに示すように、処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路100は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field−Programmable Gate Array)、または、これらを組み合わせたものが該当する。
また、流速算出部4、潮汐補正部5、検出領域決定部6、流速推定部7および津波検出部8の各機能をそれぞれ処理回路で実現してもよいし、各機能をまとめて1つの処理回路で実現してもよい。
【0025】
図2Bに示すように、処理回路がCPU105である場合、流速算出部4、潮汐補正部5、検出領域決定部6、流速推定部7および津波検出部8の各機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。
ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ106に格納される。
【0026】
CPU105は、メモリ106に格納されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、レーダ装置1は、CPU105によって実行されるときに、各機能の処理が結果的に実行されるプログラムを格納するためのメモリ106を備える。また、これらのプログラムは、流速算出部4、潮汐補正部5、検出領域決定部6、流速推定部7および津波検出部8の手順または方法をコンピュータに実行させるものである。
【0027】
メモリ106とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically EPROM)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disk)などが該当する。
【0028】
なお、流速算出部4、潮汐補正部5、検出領域決定部6、流速推定部7および津波検出部8の各機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、流速算出部4および潮汐補正部5は、専用のハードウェアの処理回路100でその機能を実現し、検出領域決定部6、流速推定部7および津波検出部8は、CPU105が、メモリ106に格納されたプログラム実行することによりその機能を実現する。
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせによって前述の機能を実現することができる。
【0029】
次に動作について説明する。
図3はレーダ装置1の動作を示すフローチャートであり、観測領域である海面に電磁波を放射してから津波検出処理を実施するまでの一連の処理を示している。
まず、ステップST1において、送受信処理が行われる。送受信処理では、送信部2が観測領域における海面に向けて電磁波を送信する。
例えば、陸上の送信部2から海面に向けて短波または超短波の電磁波が送信されると、レーダビームと同方向に伝播する海面波から強い強度の信号が返ってくる。
これは、ブラッグ共鳴散乱によって、ある海面で反射された電磁波の位相と、その隣の海面で反射された電磁波の位相とが一致するためであり、反射された電磁波は、送信した電磁波の半分の波長を有している。
【0030】
受信部3は、送信部2の近傍に設置されるか、送信部2と一体に構成されており、前述のように海面で反射されて戻ってきた電磁波を受信する。そして、受信部3は、電磁波の受信信号の増幅処理を行い、さらに周波数変換処理などの信号処理を行って、信号処理後の受信信号をA/D変換する。A/D変換により得られたデジタル信号は、受信部3から流速算出部4に出力される。
【0031】
次に、ステップST2において、流速算出処理が行われる。流速算出処理では、流速算出部4が、受信部3から入力した上記デジタル信号に対してフーリエ変換を施して周波数を解析することにより、観測領域のセルごとの海面の流速を算出する。セルごとの海面の流速データは、流速算出部4から潮汐補正部5と流速データベース4aとに出力される。
【0032】
ステップST3において、潮汐補正処理が行われる。潮汐補正処理では、潮汐補正部5が、セルごとの海面の流速における潮汐成分を抽出して、セルごとの海面の流速から潮汐成分を差し引く補正を行う。潮汐成分の抽出方法は、例えば、下記の参考文献1に記載されているカルマンフィルタを用いて潮汐成分を抽出してもよいし、蓄積された流速データに移動平均処理などのローパスフィルタを適用して潮汐成分を抽出してもよい。
(参考文献1)特開2015−4608号公報
【0033】
また、潮汐補正部5は、下記式(1)に従って潮汐成分を差し引いた流速値を算出してもよい。ここで、添え字のiはセルごとに付されたセル番号であり、tは現在時刻、Mは平均数、Lは平均化の終了時刻である。uikは、セル番号iのセルに対応する海面の時刻kにおける流速値であり、流速算出部4が算出した流速値である。vは、uikから潮汐成分差し引いた値であり、潮汐成分が補正されたセル番号iのセルに対応する海面の流速値である。なお、Lは、現在時刻tで津波が到来していた場合、潮汐成分の抽出処理に津波成分が混ざった流速値を利用しないためのマージンに相当する。
【0034】
ステップST4において、検出領域決定処理が行われる。検出領域決定処理では、検出領域決定部6が、観測領域のうちから検出領域を決定する。検出領域は、津波が発生する可能性がある一連の領域である。
観測領域には、検出領域が1つであってもよく、複数の検出領域があってもよい。
また、複数の検出領域がある場合に、検出領域同士に重なりがあってもよい。
なお、検出領域決定処理の詳細は、図4を用いて後述する。
【0035】
ステップST5において、流速推定処理が行われる。流速推定処理では、流速推定部7が、検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速を平滑化した値を、検出領域における海面の流速と推定する。
例えば、下記式(2)および下記式(3)に示すように、流速の観測誤差に応じて海面の流速を平均した値が、検出領域ごとの海面の流速Vとされる。ここで、添え字のiは検出領域ごとに付された領域番号である。Dはi番目の検出領域に含まれるセルに付されたセル番号の集合を表しており、添え字のjは、Dの要素のセルに付されたセル番号である。Cは定数である。vはセル番号jのセルに対応する海面の流速であり、σは流速vにおける観測誤差の標準偏差である。
なお、観測誤差の標準偏差σは、セルごとに既知であるか、もしくは津波が到来する前の流速データのばらつきから事前に計測しておくものとする。
また、流速の観測誤差に応じて海面の流速を積分した値を、検出領域ごとの海面の流速Vとしてもよい。

【0036】
ステップST6において、津波検出処理が行われる。津波検出処理では、津波検出部8が、流速推定部7が推定した検出領域における海面の流速に基づいて、検出領域における津波の発生を検出する。
例えば、津波検出部8は、検出領域における海面の流速と検出用閾値とを比較し、上記流速が検出用閾値を超えたことを検出すると、検出領域に津波が発生したと判断する。
【0037】
なお、津波検出部8は、観測領域における複数の検出領域のうち、海面の流速が検出用閾値を超える検出領域が存在しなければ、津波が発生していないと判断し、海面の流速が検出用閾値を超える検出領域が1つでも存在すれば、津波が発生したと判断する。
表示装置9は、例えば、ユーザ操作によって、流速推定部7が推定した流速ベクトルの分布、津波検出部8による津波発生の検出情報などを表示する。
【0038】
次に検出領域決定処理の詳細について説明する。
図4は、検出領域決定処理の詳細を示すフローチャートであり、図3のステップST4における一連の処理を示している。
まず、検出領域決定部6は、観測領域を区分けしている全てのセルのうち、領域番号iに含まれるセルを選択する(ステップST1a)。なお、ここで選択したセルには、津波のピーク流速が到来していたものと仮定し、この津波が存在する近傍のセルを領域番号iの検出領域に属するセルと決定する。以下、このように津波のピーク流速が到来していたものと仮定したセルを注目セルと呼ぶ。
【0039】
検出領域決定部6は、注目セルの近傍にある、セル番号jのセルを選択する(ステップST2a)。例えば、検出領域決定部6は、注目セルを中心とした一定の距離内にあるセルを1つずつ選択する。ここで、このように選択したセルを処理対象セルと呼ぶ。
【0040】
次に、検出領域決定部6は、潮汐補正部5によってセルごとに補正された海面の流速のうちから、注目セルに対応する海面の流速データと、セル番号jのセルに対応する海面の流速データとを入力する。
そして、検出領域決定部6は、注目セルに対応する海面のピーク流速に対する、セル番号jのセルに対応する海面のピーク流速の比である、減衰率αを算出する。
すなわち、減衰率αは、注目セルに想定した津波のピーク流速が、セル番号jのセルにおいて減衰した度合いを表している。
【0041】
続いて、検出領域決定部6は、減衰率αが一定値以下であるか否かを判定する(ステップST3a)。なお、一定値は、セルaに想定した津波の広がりの最小値、すなわち津波の波長の最小値を特定できる値であればよく、例えば、0.9程度の値が挙げられる。
減衰率αが一定値よりも大きい場合(ステップST3a;NO)、ステップST4aの処理を行わずに、ステップST5aに移行する。
【0042】
一方、減衰率αが一定値以下であれば(ステップST3a;YES)、検出領域決定部6は、セル番号jのセルが領域番号iの検出領域に属すると決定する(ステップST4a)。ステップST5aにおいて、検出領域決定部6は、注目セルの近傍にある全てのセルを処理対象セルとして選択したか否かを確認する。
全てのセルを選択していなければ(ステップST5a;NO)、検出領域決定部6は、注目セル近傍にある次のセルを処理対象セルとして選択し、ステップST2aからの上記一連の処理を繰り返す。
【0043】
注目セル近傍にある全てのセルが選択されていた場合(ステップST5a;YES)、検出領域決定部6は、領域番号iに属する全てのセルを注目セルとして選択したか否かを確認する(ステップST6a)。
ここで、注目セルとして選択されていないセルがあれば(ステップST6a;NO)、検出領域決定部6は、ステップST1aに戻り、このセルを注目セルとしてステップST1aからの上記一連の処理を繰り返す。
注目セルとして全てのセルが選択されていた場合(ステップST6a;YES)、検出領域決定部6は、処理を終了する。そして、図3のステップST5の処理に移行する。
【0044】
なお、図4では、処理対象セルと注目セルとの間の距離と、注目セルに対応する海面の流速に対する、処理対象セルに対応する海面の流速の減衰率αとに基づいて、検出領域を決定する場合を示した。すなわち、検出領域決定部6が、セル間の距離と観測対象の速度の変化との関係に基づいて検出領域を決定している。
ただし、検出領域決定部6は、上記の関係以外に、セル間の距離とセル間の観測対象の速度ベクトルの方向との関係に基づいて検出領域を決定してもよい。以下、具体的に説明する。
【0045】
図5は、セル間の距離とセル間の観測対象の速度ベクトルの方向との関係に基づく検出領域決定処理の概要を示す図である。図5において、レーダ装置1は、陸地に設置されて海面の流速を観測する。レーダ装置1から広がった扇形状の部分は、レーダ覆域内の観測領域Aであり、観測領域Aをレンジ方向とアジマス方向とに区分けした個々の領域がセルである。なお、海面の流速ベクトルは、セルの中心点からレーダ装置1へ向かうベクトルである。
【0046】
検出領域決定部6は、注目セルとしてセルaを選択すると、セルaから一定の距離内に存在するセルbを処理対象セルとして選択する。ここで、セルaに対応する海面の流速ベクトルがvaであり、セルbに対応する海面の流速ベクトルがvbである。
続いて、検出領域決定部6は、セルbに対応する海面の流速ベクトルvbをセルaに射影して流速射影ベクトルvcを算出する。
【0047】
次に、検出領域決定部6は、セルaに対応する海面の流速に対する、セルbに対応する海面の流速の減衰率αを算出する。減衰率αは、注目セルと処理対象セルとの間の距離に応じた海面の流速の減衰率である。この減衰率αは、注目セルの中心付近で津波の流速が大きく、注目セルからの距離が離れるほど、津波の流速が小さくなる物理現象を想定している。
【0048】
なお、注目セルに想定した津波の波長が長ければ、注目セルと処理対象セルとの間の距離が離れた場合であっても、減衰率αは小さくなる。
一方、注目セルに想定した津波の波長が短ければ、注目セルと処理対象セルとの間の距離が近い場合であっても、減衰率αは大きくなる。
【0049】
さらに、検出領域決定部6は、セルaに対応する海面の流速ベクトルがvaに対する、流速射影ベクトルvcの比である減衰率βを算出する。
なお、減衰率βは、流速ベクトルvaと流速ベクトルvbとの方向の差異による、流速ベクトルvaの減衰度合いを表している。
検出領域決定部6は、減衰率αと減衰率βとを掛け合わせたα×βを算出し、α×βを一定値と比較し、α×βが一定値以下となる処理対象セルを、注目セルaと同じ検出領域に属するセルであると決定する。
このように検出領域が決定されるので、例えば、図5に示すセルa1とセルb1のように、セル間の距離は近いが、流速ベクトルの方向が大きく異なるセル同士が、同一の検出領域に含まれなくなる。セルaに津波のピーク流速が存在する場合、セルaとセルbとの間でα×βが一定値以下であれば、セルbにおける津波のピーク流速もセルaと同程度の値になる。
【0050】
以上のように、実施の形態1に係るレーダ装置1において、検出領域決定部6が、津波が発生する可能性がある検出領域を決定する。次に、流速推定部7が、検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速を平滑化した値を検出領域における海面の流速と推定する。津波検出部8が、流速推定部7によって推定された海面の流速に基づいて、検出領域における津波の発生を検出する。
このように構成することで、流速の推定精度が高精度化し、検出対象事象である津波の発生の精度の検出精度を高めることができる。
【0051】
また、実施の形態1に係るレーダ装置1において、流速推定部7が、検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速の観測誤差に応じて海面の流速を積分または平均した値を、検出領域における海面の流速と推定する。特に、流速推定部7は、流速の観測誤差の標準偏差σに応じて海面の流速を重み付け平均する。
このように構成することで、海面の流速を精度よく推定することができる。
【0052】
なお、実施の形態1では検出対象事象が津波である場合を示したが、これに限定されるものではない。個々のセルの大きさを超えたボリュームターゲットである、風または雲の検出にも有効である。
例えば、レーダ装置1の機能を、風速を観測するレーザレーダに適用する。この場合、風速の観測情報に基づいてウインドシアまたはダウンバーストが検出対象事象である。
また、レーダ装置1の機能を、雲内部の高水流子の移動速度を観測するドップラレーダに適用してもよい。この場合、雲の移動が検出対象事象である。
【0053】
実施の形態2.
実施の形態2では、セルごとの水深が既知であることを前提として、水深に応じて検出領域の大きさを変更するものである。
図6は、実施の形態2に係るレーダ装置1Aの構成を示すブロック図であって、レーダ装置1Aが海洋レーダ装置である場合を示している。図6において、図1と同一構成要素には同一符号を付して説明を省略する。レーダ装置1Aは、レーダ装置1と同様な構成要素を有しているが、検出領域決定部6A、流速推定部7Aおよび水深データベース10を備える点で異なる。
【0054】
水深データベース10は、観測領域を区分けした複数のセルのそれぞれに対応する水深データを保存するデータベースであり、例えばRAM、ハードディスクといった記憶装置の記憶領域上に構築される。水深データベース10に保存された水深データは、検出領域決定部6Aおよび流速推定部7Aから読み出しが可能である。
【0055】
なお、水深データベース10が構築される記憶装置は、レーダ装置1Aに内蔵された記憶装置でもよいし、レーダ装置1Aの外部に設けられた記憶装置であってもよい。
すなわち、水深データベース10は、検出領域決定部6Aおよび流速推定部7Aからのデータの読み出しが可能な記憶装置に構築されていればよい。
【0056】
検出領域決定部6Aは、セルに対応する水深に応じて検出領域の大きさを変更する。
図7Aは、セルに対応する水深に応じて検出領域の大きさを変更する処理の概要を示す図である。なお、図7Aに示す丸記号は注目セルであり、三角記号は注目セルの隣接セルである。図7Bは、水深が深い場合における津波の波高と注目セルからの距離との関係を示すグラフであり、図7Cは、水深が浅い場合における津波の波高と注目セルからの距離との関係を示すグラフである。
【0057】
図7Aにおいて、注目セルC1に対応する水深は、注目セルC2に対応する水深よりも深い。この場合、津波の波高と注目セルC1からの距離との関係は、図7Bに示す関係となり、津波の波高と注目セルC2からの距離との関係は、図7Cに示す関係となる。
ここで、津波の波長λは、λ=T√ghという式で表すことができる。ただし、Tは、津波の周期であり、gは重力加速度、hは水深である。
従って、図7Bおよび図7Cに示すように、水深が深いセルで津波の波長λ1が長くなり、水深が浅いセルで津波の波長λ2が短くなる。
【0058】
検出領域決定部6Aは、前述したように水深に応じて津波の波長が変化することから、水深が深いセルが属する検出領域A1のサイズB1を大きくし、水深が浅いセルが属する検出領域A2のサイズB2を小さくする。
例えば、検出領域決定部6Aは、セルC1に想定した津波のピーク流速に対する、隣接セルに対応する海面のピーク流速の比である減衰率αを算出する。
注目セルC1の水深は深く、注目セルC1に想定された津波の波長は長くなるので、注目セルC1と隣接セルとの間の距離が離れた場合であっても、減衰率αは小さくなる。
従って、図4のステップST3aで減衰率αが一定値以下となる隣接セルが選択されるときに、減衰率αが一定値以下となるセルが多く選択される。これにより検出領域A1のサイズB1が大きくなる。
【0059】
同様に、検出領域決定部6Aは、セルC2に想定した津波のピーク流速に対する、隣接セルに対応する海面のピーク流速の比である減衰率αを算出する。
注目セルC2の水深は浅く、注目セルC2に想定された津波の波長は短くなるので、注目セルC2と隣接セルとの間の距離が近い場合であっても、減衰率αは大きくなる。
従って、図4のステップST3aで減衰率αが一定値以下となる隣接セルが選択されるときに、減衰率αが一定値以下となるセルが少なく選択される。これにより検出領域A2のサイズB2が小さくなる。
【0060】
また、流速推定部7Aは、速度推定部を具体化した構成要素であり、検出領域に含まれるセルに対応する水深に応じて海面の流速を重み付け平均した値を、検出領域における海面の流速と推定する。すなわち、流速推定部7Aは、セルに対応する海面の流速を単純に積分または平均するだけでなく、水深の深いセルの流速は小さく、水深の浅いセルの流速は大きくなるように重みづけ平均を行う。
【0061】
例えば、流速推定部7Aは、下記式(4)、下記式(5)および下記式(6)に従い、水深と観測誤差とに応じて流速を重み付け平均する。
ここで、添え字のiは、検出領域ごとに付された領域番号である。Dはi番目の検出領域に含まれるセルに付されたセル番号の集合を表し、添え字のjは、Dの要素のセルに付されたセル番号である。Cは定数である。
は、セル番号jのセルに対応する海面の流速であり、v’は、vを重み付け平均した後の流速である。σは、流速vにおける観測誤差の標準偏差である。hは、セル番号jのセルに対応する水深を示している。Mは、領域番号iの検出領域において水深hの水が流速v’で移動したときの流量である。
なお、観測誤差の標準偏差σは、セルごとに既知であるか、もしくは津波が到来する前の流速データのばらつきから事前に計測しておくものとする。


【0062】
図8Aは、水深が異なるセルを含んだ検出領域A3を示す図である。図8Bは、水深が深い場合における津波の流速と時間との関係を示すグラフであり、図8Cは、水深が浅い場合における津波の流速と時間との関係を示すグラフである。なお、図8Bおよび図8Cにおいて、実線dは、流速算出部4により観測された海面の流速であり、点線eは、真の海面の流速である。
【0063】
津波とは、海側から一定の流量の海水が陸地に押し寄せる現象であり、上記式(6)に示すように、その流速は流量を水深で割った物理量である。このため、図8B図8Cとに示すように、水深が深いセルにおける海面の流速vは、水深が浅いセルにおける海面の流速vよりも小さくなる。これに伴って、流速vの観測誤差の標準偏差σの値は、流速vの観測誤差の標準偏差σの値よりも大きくなる。
【0064】
そこで、流速推定部7Aは、上記式(4)、上記式(5)および上記式(6)に従い、水深と観測誤差とに反比例して流速を重み付け平均する。これにより、流速の観測誤差が適切に抑圧され、津波の検出精度を高めることができる。
【0065】
以上のように、実施の形態2に係るレーダ装置1Aにおいて、検出領域決定部6Aが、セルに対応する水深に応じて検出領域の大きさを変更する。特に、水深が深いセルが属する検出領域を大きくし、水深が浅いセルが属する検出領域を小さくする。
これにより、水深が深く流速のばらつきが大きいセルでは多くのセルの流速で平滑化が行われるので、検出領域における流速の平滑化効果を高めることができる。
【0066】
また、実施の形態2に係るレーダ装置1Aにおいて、流速推定部7Aが、検出領域に含まれるセルに対応する水深に応じて海面の流速を重み付け平均した値を、検出領域における海面の流速と推定する。このように構成することで、流速の観測誤差を適切に抑圧することができる。
【0067】
実施の形態3.
実施の形態1では、セル間の距離、観測対象の速度の変化およびセル間の観測対象の速度ベクトルの方向の関係に基づいて検出領域を決定する場合を示した。
これに対して、実施の形態3では、観測領域に想定した津波の波面候補とセルとの距離に基づいて、津波の波面候補に属するセルからなる検出領域を決定する。
【0068】
図9は、実施の形態3に係るレーダ装置1Bの構成を示すブロック図であって、レーダ装置1Bが海洋レーダ装置である場合を示している。図9において、図1および図6と同一構成要素には同一符号を付して説明を省略する。レーダ装置1Bは、レーダ装置1Aと同様な構成要素を有しているが、検出領域決定部6B、流速推定部7Bおよび津波検出部8Aを備える点で異なる。
【0069】
検出領域決定部6Bは、観測領域に想定した津波の波面候補とセルとの距離に基づいて津波の波面候補に属するセルからなる検出領域を決定する。
図10は、津波の波面候補wa,wb,wcとセルとの関係を示す図である。図10において、レーダ装置1Bが形成する1つのビームにおけるレンジ数はd個(レンジ番号=1,2,・・・,d)であり、レーダ装置1Bが形成するビームの本数はn(ビーム番号=1,2,・・・,n)である。このとき、検出領域決定部6Bは、レーダ覆域の両端にあるビームに対応するセルの組み合わせの数である、d×d個の波面候補を想定する。
【0070】
また、検出領域決定部6Bは、レーダ覆域内にある全てのセルにおける、異なる2つのセルを結んだ直線を波面候補としてもよい。この場合は、レーダ覆域内のセル数にレーダ覆域内のセル数を乗じた(n×d)×(n×d)個の波面候補が想定される。
ただし、これは莫大な個数であり、計算負荷が大きくなることを考慮して、波面候補の数を、レーダ覆域の外周のセルの組み合わせ数だけに削減してもよい。
すなわち、検出領域決定部6Bが、レーダ装置1Bから最も遠いn個のセルと、両端のビームに対応するd個のセルとの組み合わせから、(n+d)×(n+d)個の波面候補を想定する。
【0071】
前述した個数分の波面候補を想定すると、検出領域決定部6Bは、ビームごとに波面候補との間の距離が近いセルを、この波面候補に属するセルとして選択する。
例えば、ビーム番号n−2のビームにおける最遠方のセルf1は、波面候補wbと一定の距離内にあるので、波面候補wbに属するセルとして選択される。
同様に、ビーム番号n−1のビームにおける最遠方のセルf2は、波面候補wbと一定の距離内にあるので、波面候補wbに属するセルとして選択される。
さらに、ビーム番号nのビームにおける最遠方のセルf3は、波面候補wbと一定の距離内にあるので、波面候補wbに属するセルとして選択される。
【0072】
検出領域決定部6Bは、前述のように津波の波面候補に属するセルを選択し、選択したセルからなる検出領域を決定する。
また、検出領域決定部6Bは、波面候補に属するセル、および波面候補の法線ベクトルと検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速ベクトルとがなす角度θを流速推定部7Bに出力する。
【0073】
流速推定部7Bは、速度推定部を具体化したものであり、潮汐補正部5が補正した海面の流速のうち、検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速を選択する。
そして、流速推定部7Bは、上記選択した流速を、検出領域に含まれるセルに対応する水深と流速の観測誤差とに応じて積分または平均し、得られた値を検出領域における海面の流速と推定する。
ただし、前述したように積分または平均される流速は、検出領域に含まれるセルに対応する海面の速度ベクトルと津波の波面候補の法線ベクトルとがなす角に応じて補正された値であってもよい。
【0074】
例えば、流速推定部7Bが、下記式(7)、下記式(8)および下記式(9)に従い、波面候補が属する検出領域ごとに水深および観測誤差に応じて流速を重み付け平均する。
ここで、添え字のiは、検出領域ごとに付された領域番号であり、波面候補ごとの番号に相当する。Eはi番目の波面候補に属するセルに付されたセル番号の集合を表し、添え字のjは、Eの要素のセルに付されたセル番号である。Cは定数である。
θは、領域番号iの波面候補の法線ベクトルと領域番号iの検出領域における海面の流速ベクトルとがなす角である。また、θは、領域番号iの波面候補の法線ベクトルとセル番号jのセルに対応する海面の流速ベクトルとがなす角である。
は、セル番号jのセルに対応する海面の流速であり、v’は、vを重み付け平均した後の流速である。σは、流速vにおける観測誤差の標準偏差である。hは、セル番号jのセルに対応する水深を示している。h’は、角度θが最小となるセルの水深を表している。
cosθは、領域番号iの波面候補の法線ベクトルに対する領域番号iの検出領域における海面の流速ベクトルの縮小率である。cosθは、領域番号iの波面候補の法線ベクトルに対するセル番号jのセルに対応する海面の流速ベクトルの縮小率である。下記式(7)に示すように、cosθを流速vに乗算することで、流速vは、cosθに応じた値に補正される。
さらに、Mは、領域番号iの検出領域において、水深h’の水が流速v’で移動したときの流量である。
なお、観測誤差の標準偏差σは、セルごとに既知であるか、もしくは津波が到来する前の流速データのばらつきから事前に計測しておくものとする。


【0075】
流速推定部7Bは、前述したように、津波の波面候補の法線ベクトルとセルに対応する海面の流速ベクトルとがなす角度θを用いて流量Mまたは流速v’を推定する。
図11は、津波の波面候補waと流速ベクトルの縮小率との関係を示す図である。
図11において、セルhに対応する海面の流速ベクトルvは、波面候補waの法線ベクトルgとなす角度θが大きく法線ベクトルgと垂直に近い。このようなセルhに対応する海面の流速は、縮小率cosθが0に近くなることから、波面候補waが属する検出領域における海面の流速v’または流量Mの推定にあまり寄与しない。
【0076】
一方、セルhに対応する海面の流速ベクトルvは、波面候補waの法線ベクトルgとなす角度θが小さく法線ベクトルgと平行に近い。このようなセルhに対応する海面の流速は、縮小率cosθが1に近くなることから、波面候補waが属する検出領域における海面の流速v’または流量Mの推定に大きく寄与する。
すなわち、波面候補が属する検出領域に含まれるセルのうち、当該波面候補の法線ベクトルとのなす角度θが小さい流速ベクトルを有するセルを利用することで、津波の流速の推定精度が向上する。
【0077】
津波検出部8Aは、流速推定部7Bによって推定された海面の流速に基づいて検出領域における津波の発生を検出する。例えば、実施の形態1と同様に、流速推定部7Bによって推定された海面の流速と検出用閾値とが比較されて、海面の流速が検出用閾値を超えた場合に、検出領域に津波が発生したと判断される。
【0078】
なお、津波検出部8Aは、検出領域に含まれるセルの数に応じて上記検出用閾値を変更してもよい。例えば、検出領域に含まれるセルの数、すなわち波面候補に属するセル数が一定値よりも多い場合に、検出用閾値を従前の値よりも小さい値に変更する。
これにより、検出領域に含まれるセルの数に応じた津波検出が可能となる。
【0079】
また、津波検出部8Aは、検出領域に含まれるセルに対応する海面の速度ベクトルと津波の波面候補の法線ベクトルとがなす角度θに対応付けられた津波の発生確率に応じて検出用閾値を変更してもよい。
例えば、角度θについて津波の発生確率が事前に得られていた場合、津波の発生確率の高い角度θを有する流速と比較する検出用閾値を従前の値よりも小さい値に変更する。
これにより、津波の発生確率が高い津波波面が検出されやすくなる。
【0080】
さらに、津波検出部8Aは、検出した津波の波面に直交するビームにおけるセルに対応する海面の流速情報に基づいて津波の波高値の算出と津波の到来予測を行ってもよい。
津波の波面に直交するビームにおけるセルに対応する海面の流速ベクトルは、レーダ装置1Bに向かう方向(レーダ視線方向)に射影されておらず、海面の流速情報は、正確な津波の流速情報となる。
そこで、例えば下記の参考文献2に記載されるように、上記流速情報から1次元の浅水方程式を用いれば、津波の波高値を正確に算出することができ、さらに津波の到来予測を精度よく行うことが可能である。
(参考文献2)T. Yamada, et all, “ Radar Data Assimilation for a Tsunami Simulation Model Using Kalman Filter ”, International Conference on Space,Aeronautical and Navigational Electronics 2015 (ICSANE 2015),vol. 115,no. 320,SANE2015−63,pp.75−80.
【0081】
以上のように、実施の形態3に係るレーダ装置1Bにおいて、検出領域決定部6Bが、観測領域に想定した津波の波面候補とセルとの距離に基づいて、津波の波面候補に属するセルからなる検出領域を決定する。流速推定部7Bが、検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速を平滑化し、平滑化した値を検出領域における海面の流速と推定する。津波検出部8Aが、流速推定部7Bが推定した海面の流速に基づいて、検出領域における津波の発生を検出する。このように構成することで、流速の推定精度が高精度化し、検出対象事象である津波の発生の精度の検出精度を高めることができる。
【0082】
また、実施の形態3に係るレーダ装置1Bにおいて、流速推定部7Bが、水深hと、観測誤差の標準偏差σと、海面の速度ベクトルvと津波の波面候補の法線ベクトルgとがなす角度θとに応じて検出領域に含まれるセルに対応する海面の速度を重み付け平均する。
このように構成することで、津波の流速の推定精度を高めることができる。
【0083】
さらに、実施の形態3に係るレーダ装置1Bにおいて、検出領域決定部6Bが、レーダ覆域の両端にあるビームに対応するセルの組み合わせ数の津波の波面候補を想定する。
このように構成することで、計算負荷が過大にならないように波面候補を想定することができる。
【0084】
さらに、実施の形態3に係るレーダ装置1Bにおいて、津波検出部8Aが、検出領域に含まれるセルの数に応じて検出用閾値を変更する。そして、津波検出部8Aは、検出領域における海面の流速と検出用閾値との比較結果に基づいて、検出領域における津波の発生を検出する。このように構成することで、検出領域に含まれるセルの数に応じた津波検出が可能となる。
【0085】
さらに、実施の形態3に係るレーダ装置1Bにおいて、津波検出部8Aが、検出領域に含まれるセルに対応する海面の流速ベクトルと津波の波面候補の法線ベクトルとがなす角度θに対応付けられた津波の発生確率に応じて検出用閾値を変更する。そして、津波検出部8Aは、検出領域における海面の流速と検出用閾値との比較結果に基づいて、検出領域における津波の発生を検出する。このように構成することで、津波の発生確率が高い津波波面が検出されやすくなる。
【0086】
さらに、実施の形態3に係るレーダ装置1Bにおいて、津波検出部8Aが、検出した津波の波面に直交するビームにおけるセルに対応する海面の流速情報に基づいて津波の波高値の算出と津波の到来予測を行う。このように構成することで、津波の波高値を精度よく算出でき、さらに津波の到来予測を正確に行うことが可能である。
【0087】
実施の形態1〜3に係るレーダ装置は、図5図7および図10に示すように、1台のレーダ装置を用いて高精度に津波波面の到来を検出することができる。
すなわち、複数のレーダ装置のレーダ覆域を重ね合わせなくても、広範囲の領域を監視することが可能である。
【0088】
なお、本発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせあるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
この発明に係るレーダ装置は、検出対象事象の発生を高い精度で検出することができるので、例えば、津波の発生を検出する海洋レーダ装置に好適である。
【符号の説明】
【0090】
1,1A,1B レーダ装置、2 送信部、3 受信部、4 流速算出部、4a 流速データベース、5 潮汐補正部、6,6A,6B 検出領域決定部、7,7A,7B 流速推定部、8,8A 津波検出部、9 表示装置、10 水深データベース、100 処理回路、101 送信機、102 アンテナ、103 受信機、104 ディスプレイ、105 CPU、106 メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11