【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
アルミニウム溶湯を準備し、Mnが溶解可能となるようにアルミニウム溶湯を加熱しながら、Al合金部材におけるMnの含有量が18質量%となるようにMnを投入した。Mn投入後のアルミニウム溶湯を銅製の鋳型に流し込み、これを固めることにより、縦100mm×横120mm×厚み3.5mmのAl合金部材を作製した。なお、得られたAl合金部材における不可避不純物の総量は0.01質量%以下であった。
【0033】
(実施例2〜4)
Al合金部材におけるMnの含有量が、それぞれ20質量%、22質量%、25質量%となるようにMnを投入した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4のAl合金部材を作製した。実施例2〜4においても、得られたAl合金部材における不可避不純物の総量は0.01質量%以下であった。
【0034】
(比較例1〜5)
比較例1として、Mn含有量が0.01%以下、不可避不純物の総量が0.01%以下であるAl合金部材を用意した。また、Al合金部材におけるMnの含有量が、それぞれ0.8質量%、10質量%、15質量%、16質量%となるようにMnを投入した以外は、実施例1と同様にして、比較例2〜5のAl合金部材を作製した。比較例2〜5においても、得られたAl合金部材における不可避不純物の総量は0.01質量%以下であった。
【0035】
(組織観察)
実施例1〜4および比較例1〜5の各Al合金部材について、以下の方法により、互いに垂直な2つの面における第1相(Al−Mn金属間化合物)の各面積の割合と、第2相(Al物質)の各数とを測定した。
【0036】
具体的には、まず、Al合金部材の一部を切り出して直方体の試料を作製した。次に、光学顕微鏡(ニコン株式会社製、製品名:「ECLIPSE L200」)を用いて、500倍の倍率で試料の1つの面Aを撮像して画像Aを得た。また、試料の1つの面Aに垂直な他の1つの面Bについても同様にして画像Bを得た。光学顕微鏡で明るく見える領域(
図1および
図2中での黒色の領域)が第2相で、暗く見える領域(
図1および
図2中で白色の領域)が第1相である。
【0037】
次に、得られた各画像A,B(Al合金部材中の面における174μm×134μmの矩形領域に相当)を、株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープVHX200に読み込み、デジタルマイクロスコープの計測ツールを用いて二値化処理した。
【0038】
そして、二値化処理後の画像A,B中に占める第1相の面積の割合をそれぞれデジタルマイクロスコープの計測ツールを用いて算出した。なお、1μm
2以下の面積を有する第1相は除いた。さらに、二値化処理後の画像A,B中に含まれる第2相の数をそれぞれデジタルマイクロスコープの計測ツールを用いて測定した。なお、1μm
2以下の面積を有する第2相は計測数から除いた。これらの結果を表1に示す。
【0039】
(電気特性の測定)
実施例1〜4および比較例1〜5の各Al合金部材について、以下の方法により、比抵抗値と、消費電力量とを測定した。
【0040】
まず、Al合金部材の一部を切り出して、縦10mm×横75mm×厚み3mmの試料を作製した。そして、抵抗計(日置電機社製、型番3541)を用いて、直流四端子法により試料の比抵抗値(μΩcm)を測定した。また、Al合金部材の一部を切り出して、縦75mm×横75mmの試料を作製した。そして、IH湯沸かし器(タイガー魔法瓶社製、型番CIK−B030)に電力計(SANWA社製)を取り付け、試料を加熱した際の消費電力量(W)を測定した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示されるように、実施例1〜4のAl合金部材の比抵抗値は40以上であった。これに対し、比較例1〜5のAl合金部材の比抵抗値は31.8以下であった。
【0043】
また、実施例1〜4のAl合金部材は、電磁誘導加熱により100W以上の消費電力量を発揮できることが確認された。これに対し、比較例3〜5のAl合金部材は98以下の消費電力量であった。なお、比較例1および比較例2のAl合金部材は、電磁誘導加熱に供しても加熱電力が得られず、消費電力量は測定できなかった。
【0044】
また、実施例1〜4のAl合金部材は、互いに垂直な2つの面(174μm×134μm)に占める第1相の面積が、それぞれ60%以上90%以下であるのに対し、比較例1〜5のAl合金部材は、それぞれ51%以下であることが確認された。
【0045】
また、実施例1〜4のAl合金部材は、互いに垂直な2つの面(174μm×134μm)に含まれる第2相の数が、それぞれ200個以上1000個以下であるのに対し、比較例1〜3のAl合金部材においては23個以下であった。また、比較例4および比較例5のAl合金部材においては、1つの面での第2相の数が200個以上であったものの、この1つの面に垂直な他の面での第2相の数は100個に満たなかった。
【0046】
ここで、
図1は、実施例2のAl合金部材より得られた試料における二値化処理後の画像であり、
図2は、比較例5のAl合金部材より得られた試料における二値化処理後の画像である。
【0047】
図1に示されるように、実施例2のAl合金部材においては、第2相(図中黒色の領域)が第1相(図中白色の領域)によって島状に分散されており、このために、表面中に点在する第2相の数も多いことがわかった。これに対し、
図2に示されるように、比較例5のAl合金部材においては、第2相の多くが連なっており、第1相による第2相の連なりの分断ができていないことがわかった。
【0048】
また、各実施例において、1つの面と、この1つの面に垂直な他の1つの面とにおいて、同様の組織状態が観察されたことから、Al合金部材中において、第1相は縦方向にも横方向にも十分に分散されていることがわかった。なお、各実施例より切り出した試料について、1つの面中の50箇所の174μm×134μmの領域と、上記1つの表面に垂直な他の1つのの面中の50箇所の174μm×134μmの領域とのそれぞれについて組織状態を観察したところ、いずれの箇所においても、同様の組織状態を示すことが確認された。
【0049】
以上のことから、Al合金部材中のMnの含有量が18質量%以上25質量%以下の場合には、第2相の周囲が第1相に囲まれることによって第2相が好適に分散されるために、高い比抵抗値を示すことができ、これにより高い消費電力量を発揮でき、もって高い発熱量を発揮できることが推察された。また、第2相が縦方向にも横方向にも十分に分散されているため、熱伝導性にも優れるものと推察される。
【0050】
これに対し、Al合金部材中のMnの含有量が18質量%に満たない場合、Al−Mn金属間化合物の含有量が少ないために、Al合金部材中に占める第1相の面積の割合が低下し、このために第2相が好適に分散されず、結果的に、比抵抗値が低下するものと推察された。
【0051】
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0052】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。