(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筒状形態を呈すると共に、その軸方向の一方の開口部を塞ぐように形成された受圧部を有し、該受圧部に入力される衝撃荷重にて該軸方向に圧縮変形することによって、衝撃エネルギを吸収するようにした、一体樹脂成形品からなる衝撃吸収部材であって、
外形形状が順次大きくなる相似形状を呈する筒状部の複数が、軸方向に同軸的に配置されて、互いに隣り合う筒状部の端部同士が、それぞれ環状の段部を介して一体的に連結されてなると共に、該筒状部の外形形状が最も小さいものの開口部に前記受圧部が設けられてなる構造の段付き筒状壁部を有し、且つ
該段付き筒状壁部と前記受圧部とによって囲まれた内側空間内において、該段付き筒状壁部の内面から所定厚さで突出して、該段付き筒状壁部の軸方向に連続的に延びる、該段付き筒状壁部の前記受圧部から、又は該受圧部の設けられた外形形状が最も小さい筒状部の内面から、該受圧部とは反対側の端部の端面に至る複数の板状のリブを、該段付き筒状壁部の内周方向において所定の間隔を隔てて独立して一体的に設けることにより、かかる板状のリブの該段付き筒状壁部の内面からの突出高さが、前記筒状部の外形形状が順次大きくなるに従って順次高くなるように構成されてなることを特徴とする衝撃吸収部材。
前記段付き筒状壁部の軸方向において互いに隣り合う二つの筒状部において、該二つの筒状部のうち外形形状が小さい筒状部の、該二つの筒状部のうち外形形状が大きい筒状部と対向する側の端部の外面形状が、該外形形状が大きい筒状部の、該外形形状が小さい筒状部と対向する側の端部の内面形状よりも大きくされて、それら二つの筒状部の筒壁が軸方向の投影面において部分的に重なり合うように構成されている請求項1又は請求項2に記載の衝撃吸収部材。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両には、その前部と後部とにおいて、衝突時等に生ずる衝撃エネルギを吸収するための構造が、設けられている。例えば、特開2010−137699号公報(特許文献1)等に示される如く、車両の前部において、車幅方向左右に位置して車両前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバの前端部が、バンパーステイ(クラッシュボックス)を介して、バンパーレインフォースに対して連結されていると共に、それらフロントサイドメンバやバンパーレインフォースの下方において、フロントロアサイドメンバの前端に取り付けられたロアクロスメンバの前面に一対のロアクラッシュカンが取り付けられ、更にその先端部に、ロアレインフォースが車幅方向に配設されてなる構成が、採用されている。このような構成にあっては、例えば、車両の衝突時に、バンパーレインフォース及びロアレインフォースを介して入力される衝撃荷重により、各一対のバンパーステイ及びロアクラッシュカンが、軸方向においてそれぞれ座屈(塑性変形)せしめられることによって、衝撃エネルギが吸収され得るようになっている。かくして、車体や乗員の保護等が図られ得ることとなるのである。
【0003】
また、近年においては、自動車の保険料や事故等の際に生じる修理費用を低く抑えるために、ダメージャビリティ、即ち軽衝突での部品の非損傷性の確保が、自動車の重要な性能として、要求されるようになってきている。そのため、所定の部位に配置される衝撃吸収部材(例えば、上記したロアクラッシュカン)にあっては、クラッシュボックスとして、所望の反力(変形荷重)を確保しつつ、如何にして、効率的に衝突エネルギを吸収して、他の自動車部品(ラジエータ等)の損傷を効果的に阻止乃至は軽減することが出来るかということも、重要とされている。
【0004】
そして、そのような衝撃吸収部材の一つとして、例えば特開2013−117291号公報(特許文献2)には、以下のような構造を有する衝撃吸収部材が、提案されているのである。即ち、そこでは、アルミニウム合金鋳物によって一体成形した衝撃吸収部材であって、車両前後方向に延びる略筒体形状の変形本体部において、厚肉部と、この厚肉部よりも厚みが薄くて、変形しやすく構成された薄肉部とが、車両前後方向において交互に位置する変形制御部を形成せしめて、かかる変形本体部を、車体骨格部材側(基端側)からバンパーレインフォースメント側(先端側)に向かって小径となる、略テーパ形状としたものが、開示されている。このような構成の採用によって、変形本体部に対して、その先端側から衝突荷重が入力されると、基端側の薄肉部よりも先に先端側の薄肉部から変形を開始するため、先端側の薄肉部から順々に変形して、変形制御部が蛇腹状に綺麗に座屈変形するという、所望の変形挙動を得ることが出来るとされている。
【0005】
しかしながら、上記の衝撃吸収部材もアルミニウム合金鋳物とされているように、従来のクラッシュボックスは、その剛性を考慮して、一般に、アルミニウム合金や鉄等の金属材料を用いて形成されており、そのため、軽量なアルミニウム材質を採用した場合にあっても、重量が重くなるという問題があり、特に、それは更なる軽量化の要請されている車両においては、大きな問題となるものであった。
【0006】
ところで、クラッシュボックスの軽量化を図るには、金属製のクラッシュボックスを、樹脂製のものに変更する対策が、考えられる。しかしながら、樹脂製のクラッシュボックスは、金属製のクラッシュボックスよりも、塑性変形に対する強度が、極端に小さいという問題を内在している。それ故、クラッシュボックスを、単に、樹脂製としただけでは、従来の金属製のクラッシュボックスと同様な衝撃吸収量を確保することが出来ず、そのために、金属製のクラッシュボックスに比して、衝撃吸収性能が著しく低下してしまうといった問題が生ずるのである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0017】
先ず、
図1及び
図2には、本発明に従う構造を有する衝撃吸収部材の一例が、その正面形態と平面形態とにおいて、それぞれ示されている。そこにおいて、衝撃吸収部材10は、全体として段付きの筒状形態を呈する樹脂成形体から構成されている。なお、ここでは、かかる衝撃吸収部材10は、成形材料としてポリプロピレン(PP)樹脂を用いた、射出成形手法によって形成されている。
【0018】
ここで、
図1に示されるように、衝撃吸収部材10は、段付き筒状壁部12を有している。具体的には、かかる段付き筒状壁部12においては、それぞれ、軸直角断面形状が、ひし形の4つの角部を面取りしたような、略八角形形状を呈する(
図2参照)と共に、その外形形状が順次大きくなる相似形状を呈する3つの筒状部14(第一筒状部14a、第二筒状部14b、第三筒状部14c)が、軸方向(
図1における上下方向)に同軸的(中心軸:P)に配置されている。そして、それら3つの筒状部14a〜14cが、互いに隣り合う筒状部:14aと14b、14bと14cの端部同士が、それぞれの外形形状に沿った環状の段部16を介して一体的に連結されることにより、一体化されている。また、外形形状が最も小さい第一筒状部14aの端部(開口部)を塞ぐようにして、板状の受圧板部18が一体的に形成されており、かかる受圧板部18の中央部位には、円孔形状の取付孔20が形成されている。ここで、以下においては、軸方向に対して、衝撃吸収部材10の受圧板部18が形成されている側(
図1における上側)を先端側と言い、それとは反対側(
図1における下側)を基端側と言うこととする。なお、段付き筒状壁部12においては、各筒状部14の軸直角断面の面積が先端側方向に向かって漸減するように、各筒状部14の側壁部22(第一側壁部22a、第二側壁部22b、第三側壁部22c)が僅かに傾斜せしめられている。
【0019】
また、衝撃吸収部材10においては、段付き筒状壁部12の基端側の端部(第三筒状部14cの基端側端部)の外周面から軸直角方向外方に向かって、板状の取付フランジ24が延出せしめられている。かかる取付フランジ24は平面視略長方形形状を呈し、その四隅には、円孔形状のボルト挿通孔26が設けられている(
図2参照)。
【0020】
そして、
図3に示されるように、衝撃吸収部材10の段付き筒状壁部12と受圧板部18とによって囲まれた内側空間28内には、8つの板状のリブ30が一体的に設けられている。それらのリブ30は、それぞれ、段付き筒状壁部12の内面に対して直角に延出せしめられており、段付き筒状壁部12の内周方向において、所定の間隔を隔てて、独立して、一体的に設けられている。
【0021】
より具体的には、
図4に示されるように、リブ30は、段付き筒状壁部12の軸方向に延びる長手の板状形態を呈しており、長手方向に延びる一方の側面が、段付き筒状壁部12の内面に沿うものとされていると共に、他方の側面が、第一筒状部14aの内面と面一とされて、段付き筒状壁部12の受圧板部18とは反対側(基端側)の端部の端面に至るまで、直線的に延出せしめられている。即ち、ここでは、リブ30は、内部空間28内において、第一筒状部14aの内面に対しては設けられておらず、第一筒状部14aと第二筒状部14bとの間に形成された段部16の基端側の面(後述する傾斜面32)から、段付き筒状壁部12(第三筒状部14c)の基端側の端面(取付フランジ24の基端側の面)と面一となるところまで、延出せしめられているのである。なお、このようなリブ30にあっては、第三筒状部14cにおけるリブ高さ:hcが、第二筒状部14bにおけるリブ高さ:hbよりも高くなっている。
【0022】
一方、
図5においては、隣り合う2つの筒状部14a、14bと14b、14c(ここでは、第一筒状部14aと第二筒状部14b)の端部間に形成される段部16の周辺の形態が、詳細に示されている。即ち、段付き筒状壁部12においては、より先端側に位置する第一筒状部14aが、その基端側に隣り合う第二筒状部14bよりも小さな外形形状を有しており、それら第一筒状部14aの基端側端部と第二筒壁部14bの先端側端部との間に、略水平方向に延び出すようにして、第一筒状部14aと第二筒状部14bとを一体的に連結する段部16が、形成されている。
【0023】
また、そのような段部16にて連結された、隣り合う二つの筒状部14a、14bの連結部位においては、その内面が、外形形状の小さい第一筒状部14aから外形形状の大きな第二筒状部14bに向かって外方に傾斜する傾斜面32にて構成されて、かかる連結部位に、肉厚部34が一体的に形成されている。具体的には、
図5にクロスハッチング領域として示されているように、第一筒状部14a及び段部16の基端側の面と第二筒状部14bの内面との間に、断面三角形状の肉厚部34が、全周に亘って、一体的に形成されているのである。なお、ここでは、段付き筒状壁部12の軸方向に対する傾斜面32の傾斜角度:θは、45°とされている。
【0024】
さらに、段付き筒状壁部12の軸方向において互いに隣り合う二つの筒状部14a、14bにおいては、外形形状が小さい第一筒状部14aの、第二筒状部14bと対向する側(基端側)の端部の外面形状が、外形形状が大きい第二筒状部14bの、第一筒状部14aと対向する側(先端側)の端部の内面形状よりも大きくされており、それら二つの筒状部14a、14bの側壁部22a、22bが、軸方向の投影面において部分的に重なり合うように構成されている。要するに、第一筒状部14aの基端側端部の外面の中心軸:Pからの距離:Daが、第二筒状部14bの先端側端部の内面の中心軸:Pからの距離:dbよりも大きくされており、ここでは、全周に亘って、距離:Daから距離:dbを差し引いた分だけ、それら二つの筒状部14a、14bの側壁部22a、22bが、軸方向の投影面において重なり合うようにされているのである。
【0025】
なお、衝撃吸収部材10にあっては、第二筒状部14bと第三筒状部14cとの端部間に形成される段部16の周辺の形態も、上記せるような、隣り合う二つの筒状部14a、14bの端部間に形成される段部16の周辺の形態と同様な構成とされており、そのために、その詳細な説明は省略することとする。
【0026】
ここで、本実施形態に係る構成を有する衝撃吸収部材10を用いて、本発明者が行なった落錘試験について簡単に説明する。この試験においては、
図6の(a)〜(c)に示されるように、衝撃吸収部材10を立設せしめた状態で、その取付フランジ部24をベースプレート36に締結固定した後、上方から、所定の重錘38を落下させて、かかる衝撃吸収部材10を軸方向に押し潰す手法が採用されている。このような落錘試験の諸条件としては、ここでは、重錘38の重さを約200kg、落下高さを約2.0mとし、重錘38が衝撃吸収部材10(受圧板部18)に衝突する時の重錘の速度が約22.5km/hとなるようにして、衝撃吸収部材10の圧縮変形挙動を観察すると共に、衝撃吸収部材10の圧縮変形開始時からの変位と、かかる圧縮変形により発生した荷重(変形荷重)とを測定した。
【0027】
そして、このような落錘試験における衝撃吸収部材10の変形挙動について観察したところ、
図6の(a)に示されるように、先ず、先端側にある最も外形形状の小さい第一筒状部14aが、その側壁部22aが外側(軸直角方向外側)に膨らむようにして圧縮(座屈)変形した。このとき、第一筒状部14aよりも外形形状の大きい筒状部14b及び14cには、変形はほとんど生じていない。そして、第一筒状部14aの変形が略完了した後に、
図6の(b)に示されるように、第一筒状部14aの次に外形形状の小さい第二筒状部14bが、その側壁部22bが外側に膨らむようにして圧縮変形した。なお、ここでは、第二筒状部14bの側壁部22bが、先に変形した第一筒状部14aの側壁部22aによって押される(側壁部22aと衝突する)ことにより、荷重が伝達されて、側壁部22bの変形が開始せしめられる様子が確認された。更に、第二筒状部14bの変形が略完了した後には、
図6の(c)に示されるように、最も外形形状の大きい第三筒状部14cが、その側壁部22cが外側に膨らむようにして、圧縮変形を受けたのである。
【0028】
ここで、衝撃吸収部材10が、このようにして、外形形状の最も小さい第一筒状部14aから、外形形状の最も大きい第三筒状部14cまで、外形形状の小さい順に圧縮変形するという変形挙動を示すことについて考察すると、一つには、衝撃荷重は、各筒状部14の側壁部22に対して、その全体に分散されて作用することとなるが、外形形状の小さな筒状部14にあっては、その側壁部22の延べ面積が小さいため、側壁部22の単位面積当たりに掛かる荷重が大きくなって、圧縮変形し易くなるということが考えられる。更に、本実施形態の衝撃吸収部材10にあっては、衝撃吸収部材10の内部空間28内に複数のリブ30が設けられているのであるが、前述したように、第一筒状部14a内にはリブ30が存在せず、且つ第二筒状部14bにおけるリブ高さ:hbが第三筒状部14cのリブ高さ:hcよりも低くされている。即ち、より外形形状の小さな筒状部14に対して、リブ30による補強効果がない又はより低いものとされており、これによっても、より外形形状の小さな筒状部14が圧縮変形され易くなっていると考えられるのである。
【0029】
また、上記した落錘試験における衝撃吸収部材10の荷重−変位特性を測定した結果が、
図7に概略的に示されている。この
図7に示されるグラフから明らかなように、衝撃吸収部材10にあっては、その圧縮変形により生じる荷重の値が、衝撃入力の初期段階において、小さな変位量で急激に上昇した後、変位量の増加に伴なって一旦は低下するものの、再び増加することが分かる。即ち、従来であれば、一度ピークの値に達した後は減少する一方であった荷重値が、再び上昇するポイントが2つ存在する(Xb及びXc)ことが、明確に認識されるのである。このため、衝撃吸収部材10においては、高い変形荷重が維持されることとなり、変位量に拘わらず、荷重値が高い値を保ったまま推移するといった、理想的な荷重−変位特性(荷重−変位曲線)に近い衝撃吸収特性を有していることが、認められる。更に、このような荷重−変位特性が示されたグラフと、前記した衝撃吸収部材10の変形挙動の観察結果とを照合したところ、荷重値が上昇する2つポイント(Xb及びXc)は、それぞれ、第二筒状部14b及び第三筒状部14cの変形が開始されるポイントと略一致していることが、明らかとなったのである。
【0030】
以上の説明から明らかなように、本実施形態では、外形形状が順次大きくなる相似形状を呈する第一乃至第三筒状部14a、14b、14cが、軸方向に同軸的に配置されて、互いに隣り合う筒状部14a、14b;14b、14cの端部同士が、それぞれ、環状の段部16を介して一体的に連結されてなると共に、外形形状が最も小さい第一筒状部14aの先端側端部(開口部)に、受圧板部18が設けられてなる構造の段付き筒状壁部12を有しており、かかる受圧板部18に入力される衝撃荷重にて、軸方向に圧縮変形せしめられる際に、第一乃至第三筒状部14a、14b、14cが、外形形状の小さい順に連続して圧縮変形せしめられることとなるところから、高い変形荷重を維持して、所望の衝撃吸収性能を効果的に確保することが出来ることとなったのである。
【0031】
また、段付き筒状壁部12(第一筒状部14a)の先端側の開口部を塞ぐようにして、受圧板部18が形成されているところから、段付き筒状壁部12が圧縮変形せしめられる際に、第一筒状部14aの先端部が大きく開口するように変形する、口開き変形等の不安定な変形が発生することを効果的に抑えることが出来、より安定した変形挙動を生じさせることが出来ることとなる。
【0032】
ところで、本実施形態のような段付き構造を有する衝撃吸収部材にあっては、段付き筒状壁部の軸方向に入力される衝撃荷重が、各筒状部の側壁部に対しては、それらの高さ(軸)方向の圧縮荷重として作用せしめられる一方、各段部に対しては、そのせん断荷重として作用せしめられるようになっているため、段部が、かかる衝撃に対する耐荷重強度において、側壁部よりも低い構造となる。従って、段付き筒状壁部においては、段部に応力が集中せしめられ、それによって、段部が、側壁部よりも優先的に変形せしめられてしまい、外形形状の小さな筒状部(例えば、第一筒状部14a)が、隣り合う外形形状の大きな筒状部(例えば、第二筒状部14b)内に入り込むような変形、所謂せん断変形が生じて、所望の衝撃吸収特性が得られなくなってしまう恐れがある。
【0033】
このような変形挙動に対して、本実施形態における衝撃吸収部材10にあっては、段付き筒状壁部12と受圧板部18とによって囲まれた内側空間28内に、所定厚さの板状形状を呈する複数のリブ30が軸方向に延びるように一体的に設けられており、各段部16が、それらのリブ30によって補強されているところから、段付き筒状壁部12において、せん断変形が発生することが効果的に阻止されて、所望の衝撃吸収性能を有利に確保することが出来るようになっているのである。
【0034】
特に、そのようなリブ30が、その基端側の端面が段付き筒状壁部12の基端側の端面と面一となるように形成されているところから、衝撃吸収部材10の使用状態(所定の相手部材に取り付けられた状態)において、リブ30の基端側端面が相手部材(例えば、上記落錘試験におけるベースプレート36や、後述する車両取付状態におけるロアクロスメンバ60等)に当接せしめられることとなる。そのため、衝撃荷重が、リブ30に対して、その圧縮荷重として有利に作用せしめられることとなり、以て、リブ30の補強効果が効果的に発揮されることとなるのである。
【0035】
さらに、ここでは、第一乃至第三筒状部14a、14b、14c内のリブ高さが、それぞれ、異なるものとなっており、より外形形状の小さな筒状部14に対して、リブ30による補強効果がないか、又はより低いものとされている。これによって、より外形形状の小さな筒状部14が圧縮変形し易くされることとなり、第一乃至第三筒状部14a、14b、14cが、有利に、外形形状の小さいものから順に連続して圧縮変形せしめられるようになるのである。
【0036】
加えて、このような複数のリブ30が存在することにより、段付き筒状壁部12が横倒してしまうようなことが有利に防止され得、第一乃至第三筒状部14a、14b、14cの各側壁部22が安定して、軸方向に圧縮変形せしめられることとなる。それ故、衝撃吸収部材10においては、衝撃荷重の入力時に、軸方向への圧縮変形量が充分な量において安定的に確保されて、衝撃エネルギが、充分に且つ安定的に吸収され得るのである。
【0037】
ここで、本実施形態においては、段部16にて連結された隣り合う二つの筒状部14a、14b;14b、14cの連結部位において、その内面が、外形形状の小さい筒状部14から外形形状の大きな筒状部14に向かって外方に傾斜する傾斜面32にて構成されて、かかる連結部位に、肉厚部34が一体的に形成されているところから、段部16の強度が有利に向上せしめられて、せん断変形の発生が更に効果的に阻止され得るようになっている。即ち、肉厚部34が設けられていることで、せん断変形に対する補強がされると共に、隣り合う二つの筒状部14a、14b;14b、14cの境界部分(段部16)において、軸方向の肉厚が急激に変化しないようにされて、段部16に応力が集中するようなことが、防止されているのである。これにより、衝撃吸収部材10において、せん断変形による変形荷重の低下が有利に阻止されて、所望の衝撃吸収性能を得ることが可能となる。
【0038】
また、本実施形態においては、段付き筒状壁部12の軸方向において互いに隣り合う二つの筒状部14a、14b;14b、14cにおいて、外形形状が小さい筒状部14の基端側端部の外面形状が、外形形状が大きい筒状部14の先端側端部の内面形状よりも大きくされて、それら二つの筒状部14a、14b;14b、14cの側壁部22a、22b;22b、22cが、軸方向の投影面において部分的に重なり合うように構成されている。これにより、軸方向に衝撃荷重が入力せしめられた際に、例えば、外形形状が小さい筒状部14aの側壁部22a(外面側部分)と、外形形状の大きい筒状部14bの側壁部22b(内面側部分)の少なくとも一部が干渉(衝突)することとなり、外形形状が小さい筒状部14aが、外形形状が大きい筒状部14b内に入り込むような変形、即ち、せん断変形の発生がより有利に阻止され得るのである。
【0039】
なお、ここにおいては、衝撃吸収部材10の各筒状部14a〜14cの側壁部22a〜22cが、その軸直角断面の面積が先端側に向かって漸減するように、僅かに傾斜せしめられている。そのため、衝撃吸収部材10に衝撃が入力せしめられた際に、各筒状部14a〜14cの側壁部22a〜22cが、高さ(軸)方向に重なり合うことが可及的に解消されつつ、高さ(軸)方向に容易に圧縮変形せしめられるようになっており、充分な衝撃吸収性能が安定的に発揮され得るようになっている。
【0040】
加えて、衝撃吸収部材10にあっては、その全体が、一体樹脂成形品にて構成されているために、所望の衝撃吸収特性を確保しつつ、充分な軽量化を有利に達成することが出来るようになっているのである。
【0041】
ところで、かくの如き構造を有する衝撃吸収部材10は、例えば、
図8及び
図9に示されるように、自動車の前部において、特に、ここでは、その下部部位において、衝突時に入力される衝撃エネルギを吸収し得るように構成されるロアクラッシュボックス40として、好適に用いられることとなるのである。
【0042】
すなわち、
図8に示されるように、自動車の前部において、その上部部位には、車幅方向左右に車両前後方向に沿って一対の(
図8においては、1つのみが図示されている)サイドメンバ42が配設され、各サイドメンバ42の前端には、自動車同士の衝突等による比較的大きな衝撃エネルギを吸収するための衝撃吸収部材として、金属製のアッパクラッシュボックス44が、設けられている。また、アッパクラッシュボックス44の前面には、バンパリンフォース46が車幅方向に延びるように配設されており、更にその前面には、ポリウレタンやポリプロピレン等の樹脂発泡体からなり、歩行者等(被衝突物)との衝突の際に、その衝撃を吸収して被衝突物の損傷を軽減するためのアッパアブソーバ48が取り付けられている。なお、
図8中、50は、上側突出部50a及び下側突出部50bを有するフロントバンパ、52はボンネット、54はアッパグリル、56はロアグリルである。
【0043】
そして、サイドメンバ42の下方には、一対の(
図8においては、1つのみが図示されている)ロアサイドメンバ58が配設されている。なお、ここでは、図示されていないが、これらロアサイドメンバ58の後端は、サイドメンバ42にそれぞれ連結されており、それらによって、車体の骨格(フレーム)の一部が構成されている。また、各ロアサイドメンバ58の前端には、骨格部材としてのロアクロスメンバ60が、車幅方向に延びるようにして、取り付けられている。
【0044】
ここで、
図9から明らかなように、ロアクロスメンバ60の前方には、前述せる如き構成を有する衝撃吸収部材10からなる一対のロアクラッシュボックス40、40が、車両前後方向(
図9における左右方向)にその軸方向を一致するようにして、車幅方向(
図9における上下方向)に、所定間隔を隔てて配設されている。それらのロアクラッシュボックス40、40は、それぞれ、段付き筒状壁部12、取付フランジ24、及びロアクラッシュボックス40の内部空間28内に設けられた複数のリブ30の基端側端面が、ロアクロスメンバ60の前面に当接せしめられた状態において、取付フランジ24の各ボルト挿通孔26に挿通された取付ボルト62によって、取り付けられている。
【0045】
さらに、ロアクラッシュボックス40、40の前方には、剛性の高い長手の金属部材からなるロアリンフォース64が、車幅方向に延びるように配設されている。そして、このロアリンフォース64の後面に、ロアクラッシュボックス40の受圧板部18の先端側面が当接せしめられると共に、受圧板部18に形成された取付孔20に挿通されたボルト及びナットによって、ロアクラッシュボックス40、40が固定されるようになっている。かくして、車幅方向に延びるロアリンフォース64の長さ方向の両端部と、かかるロアリンフォース64の車両後方側に所定間隔を隔てて車幅方向に延びるロアクロスメンバ60との間に、一対のロアクラッシュボックス40、40が、車両前後方向に延出するように、それぞれ1個ずつ設置されているのである。なお、ロアリンフォース64には、その前方に延び出るようにして、歩行者との衝突の際に、その衝撃を吸収しつつ歩行者の脚部を払う機能を有する、従来と同様な構造の、歩行者保護装置としてのロアアブソーバ66が、取り付けられている。
【0046】
このように配設されたロアクラッシュボックス40、40においては、例えば、衝突等により、
図8及び
図9に白抜き矢印にて示されるようにして、衝撃荷重が自動車の前方から入力されると、その衝撃荷重によって、軸方向に潰れ変形(圧縮変形)せしめられて、衝撃エネルギが吸収されることとなる。これにより、例えば、ロアクラッシュボックス40、40の後方に配設されたラジエータ68(
図8に二点鎖線にて示す)等の、他の自動車部品の損傷が、有利に阻止乃至は軽減されることとなるのである。
【0047】
また、このようにして、ロアクラッシュボックス40、40によって効率的に衝突エネルギを吸収して、他の自動車部品(ラジエータ68等)の損傷を効果的に阻止乃至は軽減することが出来るところから、所謂ダメージャビリティ、即ち、軽衝突での部品の非損傷性が向上せしめられることとなり、自動車の保険料や事故等の際に生じる修理費用を低く抑えることが出来る利点を得ることが出来る。
【0048】
さらに、ロアクラッシュボックス40、40において、効率的に衝撃エネルギが吸収されるところから、自動車同士の衝突等、比較的大きな衝撃エネルギに対しても、その衝撃エネルギ吸収作用が発揮されることとなる。これにより、従来、主にアッパクラッシュボックス44、44によって吸収されていた大きな衝撃エネルギの一部を、ロアクラッシュボックス40、40において分担して吸収することが可能となり、アッパクラッシュボックス44、44に掛かる負担を軽減することが出来る。そのため、例えば、アッパクラッシュボックス44の板厚を低減して軽量化を図ったり、アッパクラッシュボックス44の構造を簡略化してコストの削減を図ったりすることも、可能となるのである。
【0049】
なお、このようにして車両の前部に配設される各部材の強度は、それぞれ、その目的に応じて適宜に設定されることとなるが、一般的には、アッパアブソーバ48、ロアアブソーバ66、ロアクラッシュボックス40、アッパクラッシュボックス44の順に、強度が高いものとされる。特に、本実施形態に係る衝撃吸収部材10からなるロアクラッシュボックス40においては、その強度(剛性)が、樹脂発泡体からなるアッパアブソーバ48や、樹脂成形体からなるロアアブソーバ66の強度よりも高く設定され、所定以上の、所謂軽衝突を超える衝撃荷重が入力された場合において、その衝撃エネルギを有利に吸収出来るようにされている。
【0050】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0051】
例えば、リブ30は、上述の態様に何等限定されるものではなく、
図10に示されるように、第一筒状部14a内に存在するようにして形成されていてもよい。これにより、第一筒状部14aと第二筒状部14bとの間に形成される段部16に対する補強効果をより効果的に得ることが出来る。なお、これにより、第一筒状部14aの側壁部22aも、リブ30によって補強されることとなるが、第一筒状部14aにおけるリブ高さ:ha’が、第二及び第三筒状部14b、14cにおけるリブ高さ:hb’及びhc’よりも小さくされていることにより、第一乃至第三筒状部14a、14b、14cは、この順番(外形形状の小さい順)で圧縮変形せしめられることとなるため、所望の衝撃吸収特性を得ることが出来る。
【0052】
また、衝撃吸収部材10の内部空間28内における複数のリブの配設(形成)形態について、例えば、前述の如き形態を有するリブ30に加えて、第三筒状部14c内にのみ他のリブを別途設けたりすることも可能である。これにより、段差16(ここでは、第二筒状部14bと第三筒状部14cとの間に形成される段部16)の補強効果や、第一乃至第三筒状部14a、14b、14cの強度の差を調整して、段付き筒状壁部12のせん断変形を更に有利に阻止すると共に、第一乃至第三筒状部14a、14b、14cを所望の順番で潰れるように調整することが出来る。
【0053】
ここで、傾斜面32の傾斜角度:θは、例示のもの(45°)に何等限定されるものではないが、好ましくは、40〜50°程度の角度とされる。何故なら、傾斜面32の傾斜角度:θが40°よりも小さいと、肉厚部34が段付き筒状壁部12の軸方向に向かって必要以上に延びる形態となり、衝撃吸収部材10全体の重量が必要以上に増加してしまう恐れがあるからであり、また、傾斜角度:θが50°よりも大きいと、段部16に対する補強効果が充分に得られず、段付き筒状壁部12においてせん断変形が惹起されてしまうといった問題が生ずる恐れがあるからである。
【0054】
なお、隣り合う二つの筒状部14、14の連結部位において、肉厚部34は、必ずしも、全周に亘って連続的に設けられている必要はなく、部分的又は断続的に設けられていても、何等差支えない。
【0055】
また、各筒状体14a〜14cの側壁部22a〜22cについて、その厚さ(板厚:t、
図4参照)は、要求される衝撃吸収特性を確保可能な範囲内において、成形材料として使用される樹脂材料の種類等も考慮しながら、適宜に決定されるところであるが、一般的に、各側壁部22の板厚:tは5.5〜6.5mm程度の厚さとされる。何故なら、各側壁部22の板厚:tが5.5mmよりも薄いと、所望の変形荷重が得られず、衝撃吸収特性が低下してしまう恐れがあるからであり、また、各側壁部22の板厚:tが6.5mmよりも厚くなると、衝撃吸収部材10全体の重量が増大したり、或いは金型成形による衝撃吸収部材10の成形時の冷却時間が増大して、衝撃吸収部材10の成形サイクルが長くなってしまうといった問題が生ずる恐れがあるからである。
【0056】
さらに、本実施形態においては、各筒状部14a〜14cの側壁部22a〜22cが、先端側に向かって、各筒状部14a〜14cの軸直角断面の面積が漸減するように、僅かに傾斜せしめられているが、このような傾斜は、射出成形手法における成形性を考慮して、所謂抜き勾配を設けたことによるものであって、必ずしも設ける必要はない。但し、前記したように、そのような傾斜が、各筒状部14(側壁部22)が軸直角方向外側に向かって膨らむように圧縮変形することに有利に作用するものでもあるところから、このような傾斜を意図的に設けることも、有効である。この場合、かかる傾斜は、好ましくは、軸方向に対して、0.5〜1.5°程度の範囲において設けられることとなる。
【0057】
なお、そのような傾斜の他に、各筒状部14a〜14cの側壁部22a〜22cに対して、それら側壁部22a〜22cが外側に向かって膨らむように圧縮変形せしめるための起点を設けることも可能であり、例えば、側壁部22a〜22cの所定の位置に、薄肉部、屈曲部、又はノッチ(切欠き)等を設けることが考えられる。
【0058】
また、本実施形態においては、衝撃吸収部材10(段付き筒状壁部12)が、第一乃至第三筒状部14a、14b、14cを有する三段構造となっているが、このような段数(筒状部14の数)は何等限定されるものではなく、適宜に、増減することが可能である。但し、衝撃吸収部材10にあっては、先端側に向かって筒状部14の外形形状が小さいものとなるため、段数を増やすのに伴なって、先端側の筒状部14の軸直角断面の面積が小さくなる。ここで、所望の変形荷重(特に、衝撃入力の初期段階の変形荷重)を得るためには、受圧板部18(最も外形形状が小さい筒状部14)の面積をある程度の大きさで確保する必要がある。そのため、衝撃吸収部材10の段数は、所望の衝撃吸収特性を確保することに加えて、取付部分(取付フランジ24)の面積及び必要となる受圧板部18の面積を考慮した上で設定する必要があり、好ましくは、3〜5段とされる。
【0059】
さらに、各筒状部14の軸直角断面の形状については、本実施形態に示されるような形状に何等限られるものではなく、他の多角形状や円形状等の形状が、適宜に採用され得るところである。なお、本実施形態においては、略長方形形状の取付フランジ24に対して、その四隅にボルト挿通孔26が設けられている。そこで、衝撃吸収部材10を相手部材(例えば、ロアクロスメンバ60等)へ取り付ける際の作業性を考慮して、そのためのクリアランスを取りつつ、各筒状部14の外形形状を出来るだけ大きいものにしようとした結果、各筒状部14の軸直角断面の形状が、上述のような略八角形形状となったものである。また、各筒状部14の軸直角断面の形状は、それぞれ、相似形状を呈することとなるが、衝撃吸収部材10が使用される箇所のレイアウト等の都合上、やむを得ず一部が異なる形状とされる程度の相異が許容されることは言うまでもない。
【0060】
ここで、
図11及び
図12に示されるように、段付き筒状壁部12の外側に、板状の補強リブ70の複数を、それぞれ形成するようにすることも可能である。これにより、衝撃吸収部材10(段付き筒状壁部12)の変形荷重を向上させて、衝撃エネルギの吸収量を増大せしめることが出来る。また、衝撃吸収部材10の構造によって、衝撃エネルギの吸収量を維持したまま、段付き筒状壁部12(各筒状部14の側壁部22)の板厚を低減することが出来ることとなり、補強リブ70の形成による重量増加を差し引いても、衝撃吸収部材10全体として軽量化を図ることが出来る。更に、このような補強リブ70の配設構造(例えば、配設個数や配設位置)を適宜に調整することによって、段付き筒状壁部12の剛性(強度)を適宜に変更(微調整)することが可能となり、以て、衝撃荷重の入力に伴なう段付き筒状壁部12の圧縮変形に基づく衝撃エネルギの吸収量を、容易にチューニングすることが出来るという利点がある。
【0061】
なお、かくの如き構造を有する衝撃吸収部材10は、前述のようにしてロアクラッシュボックス40として用いられる他、各種の用途に対しても用いられ得るものである。例えば、自動車に対して、所定の衝撃吸収特性を満たすようにして、アッパクラッシュボックス44として用いることも可能である。
【0062】
また、衝撃吸収部材10をロアクラッシュボックス40として用いる場合、その周辺に位置するロアリンフォース64やロアアブソーバ66と一体化し、それらを一体樹脂成形品として構成することも可能である。これによって、部品点数の削減及び組立工数の低減といった効果が得られることとなる。
【0063】
さらに、衝撃吸収部材10の形成材料としては、特に限定されるものではなく、各種の樹脂材料の中から、衝撃吸収部材10に要求される衝撃吸収特性を確保し得るもの等が、適宜に選択されて、使用されることとなる。但し、あまりに硬い(剛性が高い又は強度が強い)材料だと、圧縮(塑性)変形する前に割れて(破断して)しまう恐れがあるため、適度な柔軟性を有する樹脂材料を使用することが望ましい。なお、衝撃吸収部材10の形成材料として、好適に使用され得る樹脂材料としては、例えば、座屈変形し易いオレフィン系樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等の合成樹脂材料を挙げることが出来る。
【0064】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。