(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441037
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】手摺装置
(51)【国際特許分類】
E04F 11/18 20060101AFI20181210BHJP
E04F 11/00 20060101ALI20181210BHJP
A61H 3/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
E04F11/18
E04F11/00 100
A61H3/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-231458(P2014-231458)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2016-94759(P2016-94759A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】599117255
【氏名又は名称】株式会社 シコク
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 幸司
【審査官】
五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−111863(JP,A)
【文献】
特開2001−123623(JP,A)
【文献】
特開2011−063935(JP,A)
【文献】
特開平07−279340(JP,A)
【文献】
特開2012−087507(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0150188(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/00−11/18
A61H 3/00− 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台の左右両縁部の何れか一方又は双方に、複数の支柱と該各支柱の上端に取り付けられた手摺杆を備えた手摺体を配置して構成され且つ段差部の低位面上に載置される手摺ユニットと、
上記段差部の高位面と上記手摺ユニットの上記基台の間に傾斜状態で架設され、且つその架設状態においては上記手摺体との間に設けられた規制手段によって傾斜方向下方側への移動が規制されたスロープユニットを備えるとともに、
上記規制手段が、上記基台の表面にその幅方向へ延びるように横設形成され、上記スロープユニットの傾斜方向下方端が掛止される複数の掛止溝で構成されたことを特徴とする手摺装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば、玄関の上り框の直前位置に載置状態で設置される手摺装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、住宅の玄関内の上り框部等の段差部は、人が通行する場合において、その者が健常者であれば何ら支障なく通行できるが、その者が高齢者等で脚力に衰えがある者である場合には、この者の安全な歩行を確保する必要があり、係る観点から段差部用の手摺が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に示される手摺は、玄関土間と上り框に跨って配置される手摺であって、玄関土間と上り框の双方に固定配置されるものである。しかし、このような固定式の手摺の設置は、住宅改修を必要とし設置コストが嵩むとともに、後日、手摺を備える必要がなくなったとき、これを取り外すとその跡に傷が残り美観を損ねる等の問題があった。
【0004】
このような背景から、特許文献2に示されるような、いわゆる載置型の手摺装置が提案され、これが主流となりつつある。この載置型の手摺装置は、平板状の基台の両側部に、複数の支柱の上端に手摺杆を取り付けてなる手摺体を配置して構成されるものであって、特に、上記手摺杆の最前部に設けられる支柱はその下端を上り框の上面に当接支持させるようになっている。このような構成とすることで、載置型の手摺装置であるにも関わらず、安定したガイド機能を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−87507号公報
【特許文献2】特開2014−111863号公報
【特許文献3】特開2001−20483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような段差用の手摺装置においては、人がこの手摺装置を使用して玄関の段差部を歩行にて移動する場合、階段での歩行と同様に、一の踏み出しで一段を上り下りする「蹴上り歩行」を行うことを前提としている。そして、もし、この段差部を通る者にとってその段差が大きすぎると思われる場合には、玄関土間に所定高さの踏み台を載置して段差寸法の軽減を図ることが提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
ところが、このような段差部用の手摺装置を必要とする者は、「蹴上り歩行」を常態とする者ではなく、高齢者とか身体障害者等で足腰に衰えがある者であることが多く、しかもこのような者の多くが、摺り足で移動する「摺足歩行」を常態としているという現実がある。そうとすれば、このような者は、例え玄関土間に上記手摺装置が設置されていたとしても、実際的にはこれを使用することができないことになり、介護福祉の観点からして好ましくなく、その改善策が望まれるところである。
【0008】
そこで本願発明では、多様な歩行態様に適応し得る手摺装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0010】
本願の
第1の発明に係る手摺装置では、
基台の左右両縁部の何れか一方又は双方に、複数の支柱と該各支柱の上端に取り付けられた手摺杆を備えた手摺体を配置して構成され且つ段差部の低位面上に載置される手摺ユニットと、上記段差部の高位面と上記手摺ユニットの上記基台の間に傾斜状態で架設され、且つその架設状態においては上記手摺体との間に設けられた規制手段によって傾斜方向下方側への移動が規制されたスロープユニットを備えるとともに、上記規制手段が、上記基台の表面にその幅方向へ延びるように横設形成され、上記スロープユニットの傾斜方向下方端が掛止される複数の掛止溝で構成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本願発明では次のような効果が得られる。
【0012】
(a)本願の
第1の発明に係る手摺装置では、基台の左右両縁部の何れか一方又は双方に、複数の支柱と該各支柱の上端に取り付けられた手摺杆を備えた手摺体を配置して構成され且つ段差部の低位面上に載置される手摺ユニットと、上記段差部の高位面と上記手摺ユニットの上記基台の間に傾斜状態で架設されるとともに、その架設状態においては上記手摺体との間に設けられた規制手段によって傾斜方向下方側への移動が規制されたスロープユニットを備えたので、
(イ)人が段差部を通って移動する場合、手摺ユニットの手摺杆を把持しこれを伝って移動することで、歩行移動時の安全性が確保される、
(ロ)段差部を通って移動する者が、例えば、足腰が弱く、殆ど摺足歩行でしか移動できないような者であったとしても、該スロープユニット上を通ることで上記段差部を容易且つ安全に歩行移動することができ、延いては多様な歩行態様に適応し得る手摺装置を提供できる、
(ハ)人が手摺を伝いながらスロープユニット上を摺足歩行する場合で、特に該スロープユニット上を傾斜方向下側から上方側へ移動する場合には、足の運びに伴って上記スロープユニットにはこれを傾斜方向下側へ移動させる力が作用するが、このスロープユニットの傾斜方向下側への移動が上記規制手段によって規制されることで、該スロープユニットの使用上の安全性が確保される、
等の効果が得られる。
【0013】
また、この第1の発明では、上記規制手段を、上記基台の表面にその幅方向へ延びるように横設形成され、上記スロープユニットの傾斜方向下方端が掛止される複数の掛止溝で構成したので、上記スロープユニット側には何らの加工をも施すことなく、上記基台のみに上記掛止溝を設ければ良いことから、手摺装置の製作時における作業工数の低減による低コスト化が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明の第1実施形態に係る手摺装置の正面側からの斜視図である。
【
図3】
図1に示したスロープの展開状態を示す斜視図である。
【
図4】上記スロープの収納状態を示す斜視図である。
【
図5】本願発明の第2実施形態に係る手摺装置の正面側からの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「第1の実施形態」
図1及び
図2には、本願発明の第1実施形態に係る手摺装置Z1を示している。この手摺装置Z1は、玄関土間52に設置されて該玄関土間52と屋内床面53の間を移動する者の歩行を支援するものであって、次述する手摺ユニット1とスロープユニット4を備えて構成される。
【0016】
(1)手摺ユニット1
手摺ユニット1は、矩形平板状の基台2と、該基台2の左右両側部にそれぞれ立設状態で設置される一対の手摺体3を備える。この手摺体3は、三本の支柱、即ち、前側支柱11と、該前側支柱11に横材15を介して連結された後側支柱13と、上記横材15にその上端が固定されるとともに横材16を介して上記前側支柱11に連結された中間支柱12を備えるとともに、上記前側支柱11の上端には手摺杆14の前部を連結し、また上記後側支柱13の上端には上記手摺杆14の後部を連結して構成される。そして、この手摺体3は、上記中間支柱12と後側支柱13を上記基台2に固定する一方、上記前側支柱11の下端部は伸縮可能とされている。
【0017】
(2)スロープユニット4
スロープユニット4は、横長板状の複数枚(この実施形態では4枚)の端部板材42と、長楔状の断面形状をもつ横長板条の下側端部板材41と、同じく長楔状の断面形状をもつ横長板条の上側端部板材42を、一列に並べた状態でこれらの裏面側にシート状のヒンジ材46を貼設し、これらを一体化して構成される。
【0018】
そして、このスロープユニット4は、
図3に示すようにこれを平板状に展開した状態では、相互に隣接する上記各端部板材42及び各端部板材41,42の端面同士が当接することで、上方からの荷重に対向してその平板状の形態を保持し、それ本来のスロープとしての機能を発揮し得るようになっている。
【0019】
一方、このスロープユニット4は、上記各端部板材42及び各端部板材41,42がこれらの裏面側において上記ヒンジ材46のみによって連結されているので、
図4に示すように、上記ヒンジ材46を内側にして巻き取ることができる。
【0020】
さらに、この実施形態では、上記各継足板材43の左右両端面に、それぞれ所定個数(この実施形態では6個)のピン受孔45を等ピッチで形成している。この各ピン受孔45には、掛止ピン44が選択的に嵌挿されるが、その場合、該掛止ピン44の上記ピン受孔45への嵌挿状態では、該掛止ピン44の先端側が上記継足板材43の端面から外方へ所定長さだけ延出するようにその長さが設定されている。なお、この掛止ピン44の「所定長さ」は、上記継足板材43の端面が上記手摺ユニット1の中間支柱12または後側支柱13に近接した状態において、上記掛止ピン44の延出部分が上記前側支柱11または中間支柱12に掛止され得るような長さである。なお、上記掛止ピン44は、特許請求の範囲中の「規制手段」に該当する。
【0021】
(3)上記手摺装置Z1の設置
先ず、上記手摺ユニット1を、その基台2が上記上り框51の直前に位置するとともに、上記前側支柱11が上記上り框51の上面に対応するように位置決めして、上記玄関土間52上に設置する。そして、上記前側支柱11の下端部を伸長操作して、これを上記上り框51の上面に当接させて支持する。
【0022】
次に、展開させた上記スロープユニット4を、その端部板材41を上記基台2側に、上記端部板材42を上記上り框51側に、それぞれ対応させた状態で、該基台2と上記上り框51の間に架設する。この場合、
図1及び
図2に示すように、上記上り框51側においては、上記端部板材42とこれに隣接する継足板材43の接続部分が上記上り框51の前端角部51aに対応するように該スロープユニット4の上記上り框51に対する相対位置を設定する。係る設定とすることで、上記スロープユニット4は、上記上側端部板材42が上記前端角部51aに対応する位置において下方側へ折曲して上記上り框51の上面に当接した状態となり、該上側端部板材42への人の乗り降りがスムーズに行われることになる。
【0023】
一方、上記スロープユニット4の各継足板材43のうち、上記後側支柱13に対応する継足板材43の端面に設けられた上記ピン受孔45に上記掛止ピン44を嵌挿する。この場合、この掛止ピン44は、上記前側支柱11よりも上記上り框51寄りに位置するピン受孔45のうち、最も上記前側支柱11の前面(即ち、上記上り框51側の側面)に近接するピン受孔45を選定し、ここに上記掛止ピン44を嵌挿する。このように上記ピン受孔45を選定してここに上記掛止ピン44を嵌挿することで、該掛止ピン44は上記前側支柱11の前面に近接した状態で配置されることとなり、例えば、上記スロープユニット4が上記下側端部板材41寄りへ移動しようとした場合には該掛止ピン44が上記前側支柱11の前面に掛止されることで、該スロープユニット4のそれ以上の移動が規制されることになる。なお、ここでは、上記前側支柱11が特許請求の範囲中の「ストッパー体」に該当する。
【0024】
ここで、上記ピン受孔45の選択設定にもかかわらず、上記掛止ピン44と上記前側支柱11の前面との隙間が大きいと思われる場合には、上記手摺ユニット1全体をの前後方向の設置位置を微調整し、該隙間を可及的に小ならしめる。
【0025】
なお、上記掛止ピン44は、上記前側支柱11に対応する継足板材43のピン受孔45のみに嵌挿されるのではなく、これに代えて、上記中間支柱12に対応する継足板材43のピン受孔45に嵌挿することもできることは勿論である。また、上記中間支柱12または上記後側支柱13に対応する継足板材43は、常に同じではなく、例えば、上記上り框51の上記玄関土間52からの高さによっても変化する。
【0026】
このようにして設置された手摺装置Z1においては、上記手摺ユニット1の中央に上記スロープユニット4が配置され、且つ該スロープユニット4が上記上り框51と上記基台2の間に跨って架設されているため、該手摺装置Z1を通って歩行移動する者は、上記手摺ユニット1の各手摺杆14を把持してその体勢を保持しながら、上記スロープユニット4上を「蹴上り歩行」によって、あるいは「摺足歩行」によって安全に移動することができる。即ち、上記手摺装置Z1は、上記スロープユニット4を備えたことで、これを利用する者の歩行形態の如何に拘わらず、常にその者の安全な歩行を確保できるものである。
【0027】
また、上記スロープユニット4の上記下側端部板材41側への移動、即ち、該スロープユニット4の上記上り框51に対する相対移動が上記掛止ピン44と上記前側支柱11の掛止作用によって確実に規制されるため、上記スロープユニット4は常に安全性の高い的確な架設状態に保持され、これによって上記手摺装置Z1を利用する者の歩行の安全性が寄り一層高められるものである。
【0028】
なお、この手摺装置Z1においては、常に上記スロープユニット4を備えた状態で使用する必要配置なく、例えば、上記スロープユニット4を取り外して、「蹴上り歩行」を対象とした使用形態を採用することもできる。
【0029】
「第2の実施形態」
図5には、本願発明の第2実施形態に係る手摺装置Z2を示している。この手摺装置Z2は、上記第1の実施形態に係る手摺装置Z1とその基本構成を同じにするものであって、これと異なる点は、上記第1の実施形態の手摺装置Z1においては上記スロープユニット4の移動規制を上記スロープユニット4側に設けた上記掛止ピン44と上記手摺ユニット1側の後側支柱13との掛止作用によって行うようにしていたのに対して、この実施形態の手摺装置Z2では、上記基台2の上面に、該基台2の幅方向へ延びる掛止溝47を、該基台2の前後方向に所定間隔で複数形成し、上記上り框51との間に架設されたスロープユニット4の下側端部板材41の端縁41aを上記該掛止溝47の何れか一つに掛止させることで、該スロープユニット4の下側端部板材41側への移動を規制するようにしたものである。
【0030】
係る構成とすることで、上記第1の実施形態における手摺装置Z1と同様の作用効果が得られることは勿論であるが、それに加えて、上記スロープユニット4側には何らの加工をも施すことなく、上記基台2にのみ上記掛止溝を設ければ良いことから、手摺装置Z2の製作時における作業工数の低減により低コスト化が促進されるという特有の効果が得られる。
【0031】
上記以外の構成及び作用効果については上記第1の実施形態の場合と同様であるため、その該当説明を援用し、ここでの説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本願発明の手摺装置は、主として介護福祉分野において利用されるものである。
【符号の説明】
【0033】
1 ・・手摺ユニット
2 ・・基台
3 ・・手摺体
4 ・・スロープユニット
11〜13 ・・支柱
14 ・・手摺杆
44 ・・掛止ピン(規制手段)
47 ・・掛止溝
51 ・・上り框
52 ・・玄関土間
Z1、Z2 ・・手摺装置