【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年7月12日 日本農芸化学会関西支部主催の「日本農芸化学会関西支部第485回講演会・ミニシンポジウム」で発表(平成26年7月5日に学会要旨発行)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エステル化酵素により前記フラボノイド配糖体の水酸基に付されたアシル基が、それぞれ、カプロイル基、エナントイル基、カプリル基、カプリロイル基、ペラルゴル基、ラウロイル基またはミリストイル基のいずれかである、請求項1に記載のフラボノイド配糖体エステル。
請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラボノイド配糖体エステルを製造する方法であって、下記工程(b)を含むことを特徴とするフラボノイド配糖体エステルの製造方法。
工程(b):エステル化酵素が存在する条件下で、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、およびαグルコシルルチンのいずれか1種以上と、脂肪酸または該脂肪酸のエステルとをエステル縮合反応またはエステル交換反応させて、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル、αグルコシルルチン脂肪酸エステルまたはこれらの混合物を得る工程。
糖転移酵素がシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素およびαグルコシダーゼからなる群から選択されたいずれか1種以上であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載のフラボノイド配糖体エステルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係るフラボノイド配糖体エステルについて、
図1〜
図11を参照しながら説明する。
本発明に係るフラボノイド配糖体エステルは、αグルコシルナリンジン(αGNar)、αグルコシルルチン(αGRut)またはαグルコシルヘスペリジン(αGHes)(これらをまとめてフラボノイド配糖体ともいう。)に対して、αグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基のうちの炭素が有する水酸基のいずれか1個又は2個以上を、エステル化酵素(エステエル縮合又はエステル交換酵素) (例:リパーゼ、プロテアーゼ)の存在下にカルボン酸またはそのエステルを用いて、エステル化(エステエル縮合又はエステル交換)することにより得られる下記式[Ia]〜[IIIa]のいずれかのフラボノイド配糖体エステルである。請求項1を 下記式[Ia]〜[IIIa]のいずれかのフラボノイド配糖体エステルは、好適には、フラボノイド配糖体エステルのαグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基の炭素が有する水酸基(−OH基)と、カルボン酸(脂肪酸)又はそのエステル(RCOOR
a)とを、エステル縮合又はエステル交換可能な上記酵素(例:リパーゼまたはプロテアーゼ)の存在下にエステル縮合又はエステル交換反応させることにより得られる。
【0040】
(I)αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル
【0041】
【化12】
(II)αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル
【0042】
【化13】
(III)αグルコシルルチン脂肪酸エステル
【0044】
【化15】
(式[Ia]、[IIa]、[IIIa]および式(G)n−Zmにおいて、Z1〜Zmは、水素原子(H)又はアシル基(RCO−、R:アルキル基)であり、アシル基中のアルキル基(R)は、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC
1〜C
22のアルキル基であり、Z
1〜Z
m中、少なくとも1個又は2個以上が上記アシル基である。(G)は、グルコース残基、nはグルコース残基の個数を示す。
【0045】
式(G)n−Zmにおいて、mの数は0〜3n+6である。n=1〜20、好ましくは1〜10である。
αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、αグルコシルルチンは、それぞれnの値の異なる配糖体混合物であり、対応するαグルコシルナリンジン脂肪酸エステル[Ia]、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル[IIa]、αグルコシルルチン脂肪酸エステル[IIIa]にも、それぞれ、nの値の異なるエステルが含まれる。)
【0046】
上記のフラボノイド配糖体エステル[Ia]〜[IIIa]の好適な例としては、下記[Ia-1]〜[IIIa-1]のフラボノイド配糖体エステルが挙げられる。
(Ia-1)αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル:
【0047】
【化16】
(上記式[Ia-1]おいて、X,Yの少なくともいずれか一方はアシル基(RCO−、R:アルキル基)であり、アシル基中のアルキル基(R)は、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC
1〜C
22アルキル基であり、残るX,Yが上記アシル基でない場合には水素であり、Rhaはラムノースを示し、Glcはグルコースを示す。)
(IIa-1)αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル:
【0048】
【化17】
(上記式[IIa-1]おいて、X,Yの少なくともいずれか一方はアシル基(RCO−、R:アルキル基)であり、アシル基中のアルキル基(R)は、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC
1〜C
22のアルキル基であり、残るX,Yが上記アシル基でない場合には水素であり、Rhaはラムノースを示し、Glcはグルコースを示す。)
(IIIa-1)αグルコシルルチン脂肪酸エステル:
【0049】
【化18】
(上記式[IIIa-1]おいて、X,Yの少なくともいずれか一方はアシル基(RCO−、R:アルキル基)であり、アシル基中のアルキル基(R)は、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC
1〜C
22のアルキル基であり、残るX,Yが上記アシル基でない場合には水素であり、Rhaはラムノースを示し、Glcはグルコースを示す。)
【0050】
《フラボノイド配糖体エステルの製造方法》
本発明に係るフラボノイド配糖体エステルの製造方法は、所定の溶媒中、所定の脂肪酸または脂肪酸エステルとフラボノイド配糖体との間で、エステル縮合またはエステル交換反応する下記工程(b)を少なくとも含み、任意に、工程(a):フラボノイド配糖体を準備する工程,工程(c):糖鎖の整理等を含む。以下、工程(a)〜(c)をこの順で行う場合を例にして説明する。
【0051】
〔工程(a):フラボノイド配糖体の準備〕
工程(a−1):糖転移反応
工程(a−1)は、所定の糖転移酵素の存在下で、ナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンの少なくとも1種または2種以上と、α−グルコシル糖化合物とを反応させることにより、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、およびαグルコシルルチンのいずれか1種以上を準備する工程である。なお、後述するようにフラボノイド配糖体は市販されているので、これを購入してもよいため、工程(a−1)は任意である。
【0052】
ここで、工程(a−1)で使用可能な糖転移酵素(グルコシルトランスフェラーゼ)は、フラボノイド配糖体に糖転移可能な酵素(α-グルコシル転移活性を有する酵素)である。この糖転移酵素としては、例えば、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素、αグルコシダーゼ、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ等が挙げられる。糖転移酵素については、同じグリコシド結合を形成するものにも複数存在することが知られており、ファミリーを形成している場合もあり、これらのものも含まれる。
【0053】
また、糖転移の反応条件としては、糖転移反応として公知の方法により行うことができる。例えば、特開平4−13691号公報に開示されている方法等および反応条件等を挙げることができる。具体的には、ナリンジンに対して、澱粉部分分解物(α-グルコシル糖化合物)共存下で、糖転移酵素(α-グルコシダーゼ)を作用させて(例;45〜60℃程度で40時間反応させて)、αグルコシル基を有するフラボノイド配糖体(例;3"-α-グルコシルナリンジン、3",4'-α-グルコシルナリンジン、あるいは4'-α-グルコシルナリンジン)が得られる。また、上記糖転移がされていることの確認は、例えば、後述する精製工程(c)を経たサンプルを各種分析、例えば、赤外分光法(FT−IR)、X線光電子分光法(XPS)、NMR法による解析に供することで確認することができる。
【0054】
工程(a−2):フラボノイド配糖体の精製
上記工程(a−1)の後に得られる酵素処理溶液は、ナリンジンとαグルコシルナリンジン、ヘスペリジンとαグルコシルヘスペリジン、ルチンとαグルコシルルチン、または、これらの組合せを含む混合液であり、未反応のナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンを含有する。
【0055】
したがって、工程(a−1)の後かつ工程(b)の前に未反応のナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンを除去または低減する精製工程を行ってもよい。
この精製工程としては、工程(a−1)の後に得られる酵素処理溶液をゲル濾過、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂、溶解度の違いにより分離・精製する方法等に供して、本発明に係るフラボノイド配糖体エステル(αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル等)以外の夾雑成分(未反応のナリンジン等)を除く精製を行う例が挙げられる。
【0056】
(フラボノイド配糖体)
前述の工程(b)(特に、後述のフラボノイド配糖体エステル[Ia]〜[IIIa]を合成する反応)の基質として用いるフラボノイド配糖体(αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、αグルコシルルチン等)は、特に制限されず、前述したように、市販のものを購入してもよいし、糖転移反応により独自に製造してもよい。フラボノイド配糖体を購入する場合は、例えば、αグルコシルヘスペリジンとして東洋精糖社製「αGヘスペリジン」、αグルコシルルチンとしては東洋精糖社製「αGルチン」を購入して本発明に用いることができる。
【0057】
例えば、フラボノイド配糖体は、購入する以外にも、例えば前述のフラボノイド配糖体の準備(工程(a))における糖転移反応を行うことにより入手することができる。この場合、糖転移酵素により付加されたαグルコシル基は、複数のグルコース残基を有し、該グルコース残基は互いにα1,4グルコシル結合をしているものが好ましい。また、前記αグルコシル基(グルコース単位)の数(n)は、前述したように1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。
【0058】
〔工程(b):フラボノイド配糖体のエステル縮合(または交換)〕
工程(b)は、下記工程(b-2)を必須とするが、生産効率、精製純度等を考慮した場合、以下に説明するように、工程(b-1)〜(b-3)を行ってもよい。
【0059】
工程(b-1):予備加熱
工程(b-1)は、エステル化酵素(エステル縮合又は交換酵素)例えば、リパーゼ(またはプロテアーゼ)、及び必要により配合される溶媒、モレキュラーシーブを後述する所定の濃度で含む溶液を所定温度(例えば30〜80℃)に予備加熱する工程である。
【0060】
(エステル化酵素)
本発明に係るフラボノイド配糖体エステルの製造に使用可能なエステル化酵素(エステル交換酵素)(例:リパーゼまたはプロテアーゼ)は、フラボノイド配糖体のαグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基のうちのいずれか、好ましくは該グルコシル基の3位,6位の少なくとも何れか一方の炭素が有する水酸基(−OH)を後述する所定の脂肪酸でエステル縮合する、あるいは脂肪酸エステルでエステル交換することができる酵素であればよく、該エステル化酵素(例:エステル交換酵素)、例えばリパーゼまたはプロテアーゼは精製酵素でも粗酵素でもよい。
【0061】
上記リパーゼの例として、例えば、カンジダ・アンタークティカ(
Candida antarctica)由来のリパーゼ、リゾムコール ミーヘイ(
Rhizomucor miehei)由来のリパーゼ、サーモマイセス・ラヌギノサス(
Thermomyces lanuginosus)由来のいずれかが好ましい。このようなリパーゼは、例えば、「Novozym435」(Novozymes Japan社製)、「Lipozyme(登録商標) RMIM」(Novozymes Japan社製)、「Lipozyme(登録商標)TLIM」(Novozymes Japan社製)などとして市販されている。
【0062】
上記リパーゼ以外にも糖のエステル化をするリパーゼとして知られている以下の酵素も使用できる。該リパーゼとして、動物の膵臓由来リパーゼ;種子由来リパーゼ;または、カンジダ・ルゴザ (
Candida rugosa)由来、ジオトリカム・カンジダム (
Geotrichum candidum)由来、シュードモナス属 (
Pseudomonas sp.)由来、シュードモナス・アエルギノザ (
Pseudomonas aeruginosa)由来、ブルクホルデリア・セパシア (
Burkholderia cepacia)由来、アルカリゲネス属 (
Alcaligenes sp.)由来、セラチア・マルセッセンス (
Serratia marcescens)由来、シュードモナス・フルオレッセンス (
Pseudomonas fluorescens)由来、リゾムコール・ミーヘイ (
Rhizomucor miehei)由来、リゾプス・オリザエ (
Rhizopus oryzae)由来、サーモミセス・ラヌギノザ (
Thermomyces lanuginosa)由来、フザリウム・ヘテロスポラム (
Fusarium heterosporum)由来、ペニシリウム・カマンベルティ (
Penicillium camembertii)由来、アスペルギラス・ニガー (
Aspergillus niger)由来、もしくはそれらと近縁の微生物由来のリパーゼを挙げることができる。
【0063】
(プロテアーゼ)
上記エステル化酵素(エステル交換酵素)として、リパーゼ以外にもプロテアーゼを挙げることができる。該プロテアーゼとしては、従来公知のもの、例えば、中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼおよびアルカリ性プロテアーゼ等が挙げられ、好ましくはアルカリ性プロテアーゼが挙げられる。また、該プロテアーゼは精製された酵素であっても塩析物であってもよい。また、その起源等についても特に限定されないが、有機溶媒中での安定性の点から、好ましくはバチルス(
Bacillus)属細菌由来および放線菌由来のものが挙げられる。また、これらのプロテアーゼは2種以上併用してもよい。エステル化酵素(エステル縮合又は交換酵素)としてプロテアーゼを用いる場合、上記カルボン酸として、C
2〜C
22のカルボン酸、好ましくは上述したC
2〜C
22脂肪酸が用いられる。上記プロテアーゼとしては、例えば、バチルス・ズブチルス(
Bacillus subtilus)由来, バチルス・セレウス(
B.cereus)由来, バチルス・クラウシー(
B.clausii)由来, バチルス・パミラス(
B.pumilus)由来, ラクトバチルス・カゼイ(
Lactobacillus casei)由来, ラクトコッカス・ラクティス(
Lactcoccus lactis)由来, エンテロコッカス・フェカリス (
Enterococcus faecalis)由来, シュードモナス属(
Pseudomonas sp.)由来, シュードモナス・フラオレセンス(
Pseudomonas flaorescens)由来のプロテアーゼを挙げることができる。
【0064】
(酵素を固定する担体)
前記リパーゼ等のエステル化酵素(エステル縮合又は交換酵素)は、遊離の酵素を用いてもよいし、担体に前記酵素(プロテアーゼまたはリパーゼ)を固定して固定化酵素として用いてもよい。後者の場合、反応溶液から担体を回収することにより酵素を同時に容易に回収することができること、さらに酵素を容易に再利用することができる点から好ましい。
【0065】
上記酵素の固定化方法は、担体結合法、架橋法、包括法のうちいずれの方法でもよいが、特に担体結合法が活性発現などの点からも好ましい。固定化担体の例を挙げると、活性炭、多孔性ガラス、酸性白土、漂白土、カオリナイト、アルミナ、シリカゲル、ベントナイト、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、金属酸化物等の無機物質、デンプン、グルテン等の天然高分子、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノールフォルムアルデヒド樹脂、アクリル樹脂、アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂、前述のモレキュラーシーブとしても使用可能なゼオライト、リョウ(菱)沸石などの合成高分子などがある。
【0066】
(溶媒)
本発明で使用可能な溶媒は、本発明に用いられるαグルコシル基およびこれに結合した複数のグルコース残基を有する前述の高親水性のフラボノイド配糖体であっても溶解し、かつ、本発明に用いられる脂肪酸又はそのエステル(RCOOR
a)であっても溶解しうる溶媒である。上記溶媒は、前記アルキル基(R,R
a)の炭素数が、本発明で用いられる脂肪酸又はそのエステルとしてとり得る範囲で変化して、その疎水性の程度が変化しても溶解しうる溶媒である。
【0067】
エステル化(エステル交換)酵素(例:リパーゼまたはプロテアーゼ)の活性を阻害しない溶媒である。この溶媒の例を挙げると、アセトン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、3−オクタノン、2−ノナノン、5−ノナノン、ジイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、イソホロンなどのケトン系溶媒;その他に、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどが挙げられ、これらの溶媒を、本発明では1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0068】
該溶媒の使用量は、特に制限はないが、溶媒の種類、原料の脂肪酸又はそのエステルの炭素鎖長(疎水性の程度)、反応温度などにより適宜選択することができ、原料やエステル化酵素(リパーゼやプロテアーゼ等)が反応槽中を移動循環して反応が促進される程度に使用するのがよい。通常、エステル化前のαグルコシルフラボノイド類(フラボノイド配糖体)の1重量部に対し、該溶媒1〜75重量部、特に40〜60重量部とするのが好ましい。
【0069】
(モレキュラーシーブ)
上記フラボノイド配糖体エステル[Ia]〜[IIIa]を合成する反応では、任意にモレキュラーシーブ等の乾燥剤あるいは吸着剤を混合して、水(脂肪酸を用いたフラボノイド配糖体のエステル化に伴い副生する水)やアルコールをモレキュラーシーブで吸着することができる。モレキュラーシーブの存在下で反応させると、エステル化(エステル交換)反応が効率良く進行し、また純度良く糖脂肪酸モノエステルが合成できるからである。
【0070】
モレキュラーシーブの例としては、ゼオライト、リョウ(菱)沸石等を挙げることができる。モレキュラーシーブは、副生物の種類により適宜変える必要があるが、副生物が水であるのでならば水を捕捉しやすい4Aタイプ(製品名「モレキュラーシーブス4A」、販売元:和光純薬工業社製)が好ましい。脂肪酸エステルと上記フラボノイド配糖体とのエステル交換反応でアルコールが副生される場合も、3Aタイプのゼオライトを用いて該アルコールを吸着することができる。
【0071】
モレキュラーシーブの混合量は、反応系全体に対して、体積割合で1%から100%で十分である。モレキュラーシーブは、その重量の30%程度の重量の水等を吸着することが可能であるが、反応効率等の観点から過剰量を反応系に添加することが好ましい。
【0072】
工程(b-2):エステル縮合(またはエステル交換)
工程(b-2)は、エステル化酵素(エステル交換酵素)が存在する条件下で、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン及び/又はαグルコシルルチン(これらをまとめてフラボノイド配糖体ともいう。)に、カルボン酸またはそのエステル(特に脂肪酸または該脂肪酸のエステル、例:脂肪酸ビニルエステル)を、所定の反応条件(反応温度、反応時間、反応pH)下で、エステル縮合反応またはエステル交換反応させて、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル及び/又はαグルコシルルチン脂肪酸エステル(これらをまとめてフラボノイド配糖体エステルともいう。)を得る工程である。
【0073】
好適には、前述したフラボノイド配糖体(αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、αグルコシルルチン)のいずれか1種または2種以上およびカルボン酸(例:脂肪酸)またはそのビニルエステル(例:パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)を所定の濃度となるように反応系に供給して、所定の反応温度で所定の反応時間、常圧で反応させて、該フラボノイド配糖体のαグルコシル基の(好ましくは第3位及び/又は第6位の)水酸基部位でエステル化(エステル縮合又は交換)して脂肪酸エステルを合成する例が挙げられる。
【0074】
ここで、反応工程(b-2)では、前記溶媒を用いて、反応系内の圧力をエステル化反応の反応温度における有機溶媒の蒸気圧より10mmHg高い圧力以下とすることが好ましい。これにより前記溶媒中の水分濃度を容易に、200−5000ppmに維持でき、リパーゼまたはプロテアーゼを触媒として用い、エステル化(エステル交換)作用させるための必須水分が保たれ安定な酵素活性が確保できる。
【0075】
(反応温度)
上記エステル化反応(エステル交換反応)は低温でも進行するが、該エステル化反応(エステル交換反応)の反応温度は、使用するリパーゼの至適温度を考慮して決めることが望ましく、通常10℃〜90℃、好ましくは40℃〜80℃である。
【0076】
(反応時間)
上記エステル化反応の反応時間は、上記フラボノイド配糖体エステルが得られれば特に制限はなく設定することができるが、使用するリパーゼの種類等を考慮して決定することが望ましく、例えば2〜80時間、好ましくは20〜80時間である。
【0077】
(反応pH)
上記エステル化反応の反応pHは、上記フラボノイド配糖体エステルが得られれば特に制限はなく設定することができるが、使用するリパーゼの種類等を考慮して決定することが望ましく、例えば、pH5.5〜9に設定する例、より好ましくは中性領域のpH6.5〜7.5とする例を挙げることができる。
(但し、実質上無水系で反応を行う場合は、上記pHは考慮する必要がない。)
【0078】
(カルボン酸またはそのエステル)
前述の工程(b)(特にフラボノイド配糖体エステル[Ia]〜[IIIa]を合成する反応)で好適に用いられるカルボン酸またはそのエステルは、化学式(A):RCOOR
aとして表され、好ましくは脂肪酸またはそのエステルである。ここで、Rは、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC
1〜C
22のアルキル基であり、R
aは、水素か、Rと同様のアルキル基、またはRと同様のアルキル基を有していてもよいC
2〜C
5のアルキレン基、特に好ましくは、無置換でC
2のビニル基(-CH=CH
2)である。R
aのアルキル基は他の元素又は基で置換されていてもよく、他の元素又は置換基としては塩素、臭素等のハロゲンが挙げられる。また、上記アルキル基は、シクロヘキシル等の脂環式基のものも用いることが出来る。
【0079】
脂肪酸ビニルエステルを選択する場合、脂肪酸部分(酸基に由来する部分)の好ましい例として、脂肪酸部分(酸基に由来する部分RCO−)の総炭素数がC2〜22程度(Rとしてはそれより1つ少ないC1〜21程度。以下同様。)の脂肪酸である酢酸(C2)、酪酸(C4)、カプロン酸(C6)、エナント酸(ヘプチル酸)(C7)、カプリル酸(C8)、イソカプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、イソペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18)、アラキジン酸(C20)、ベヘン酸(C22)等が挙げられるが、これに限定するものではない。上記カルボン酸は、好ましくはカプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)などC8〜12程度のものが挙げられる。
【0080】
したがって、上記の脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、エナント酸ビニル(ヘプチル酸ビニル)、カプリル酸ビニル、イソカプリル酸ビニル、ペラルゴン酸ビニル、イソペラルゴン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、ペンタデシル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、パルミトレイン酸ビニル、マルガリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、アラキジン酸ビニル、ベヘン酸ビニル等、酸基に由来する部分(RCO−)の総炭素数がC2〜22、好ましくは、脂肪酸部分(酸基に由来する部分RCO−)の総炭素数がC8〜12程度の脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
【0081】
(基質等の配合比、濃度等)
エステル化反応(エステル交換反応)に用いるフラボノイド配糖体(αGNar、αGHes、αGRut等)と脂肪酸(または脂肪酸エステル)とのモル比は、エステル化反応(あるいはエステル交換反応)が進行するモル比であれば特に制限ないが、フラボノイド配糖体のαグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基中の水酸基の1個又は2個以上をエステル化することを考慮すると、フラボノイド配糖体:カルボン酸又はカルボン酸エステル(脂肪酸または脂肪酸エステル)のモル比が、1:1〜100、好ましくは1:5〜50、より好ましくは、1:8〜15である。
【0082】
また、上記フラボノイド配糖体の反応液中の濃度は、通常1〜50mM、好ましくは15mM〜25mMである。上記脂肪酸(またはそのエステル)の反応液中の濃度は、通常1〜300mM、より好ましく150mM〜250mMである。
【0083】
エステル化酵素(リパーゼやプロテアーゼ等)の反応液中の濃度については、上記エステル化反応(エステル縮合又は交換反応)が進行すれば特に制限されないが、フラボノイド配糖体のモル数に対する使用酵素のユニット量として規定することができる。
【0084】
例えば、上記モル比で混合したフラボノイド配糖体1モルに対して、「Novozym 435」(NOVO)換算で、250,000〜25,000,000(U:ユニット)、好ましくは750,000〜6,250,000(U)、より好ましくは2,000,000〜3,000,000(U)用いることで、上記エステル化反応(エステル交換反応)を好適に進行させることができる。
【0085】
(反応容器)
上記工程(b)で、反応液の撹拌や温度維持に用いる反応機器としては、小規模で製造する場合、例えば恒温回転振盪機(例えば「BR-21FH・MR」(タイテック社)を例示することができる。大規模で製造する場合、例えば「二段振とう式BR-3000LF」(タイテック社)を例示することができる。
【0086】
工程(b-3):フラボノイド配糖体エステルの精製
工程(b-3)は、工程(b-2)で得られた溶液から溶媒や残さ(反応副生物等)を蒸留、遠心分離等の操作で分離除去し、所望のフラボノイド配糖体エステルを分取する工程である。反応副生物等を分離除去する方法として、ゲル濾過またはクロマトフラフィー、イオン交換樹脂、溶解度の違いにより分離・精製する方法等の公知の手段により目的のフラボノイド配糖体エステルを分子量等に基づいて分画する方法を用いてもよい。
【0087】
〔
工程(c):糖鎖の整理〕
さらに、上記工程(b)を経たフラボノイド配糖体エステルに含まれる糖鎖部分の糖の数(主としてグルコースの数)が剤の効能、効果、配合量の多寡等の点から所望の範囲より大きい場合にはそれが所望の範囲となるように切断工程(c)を行ってもよい。すなわち、フラボノイド配糖体エステルの糖鎖に含まれるグルコース単位の数を調節する工程を行ってもよい。
【0088】
工程(d)により、フラボノイド配糖体エステル中の糖鎖を有する基(αグルコシル基、βグルコシル基、等)に含まれるグルコース単位[(G)]の数(m)を調節すると、フラボノイド配糖体エステルの分子全体の嵩高さが変化する。なお、このグルコース単位の数(m)は、糖転移後(工程(b)の後)には=1〜20の範囲となっていると考えられる。
【0089】
通常、化合物中のグルコース単位の数が増加すればするほど、化合物の性質を司るアグリコン部分の分子全体に対する割合が減るため、本発明に係るフラボノイド配糖体エステルにおいて、グルコース単位の個数を1〜10にすることが好ましく、1〜5個にすることがより好ましい。
【0090】
上記糖鎖の切断自体は、特に制限されず公知の方法で行うことができるが、上記糖鎖を切断して所定の長さとする糖鎖切断酵素を使用することが好ましい。例えば、上記グルコース単位の数を1(モノ)とする場合、糖鎖切断酵素として、α-グルコシダーゼ、あるいはα-グルコシダーゼとグルコアミラーゼを使用する例が挙げられる。
【0091】
さらに、上記グルコース単位の数を1〜10個とする場合、グルコース単位の数が1〜20の上記フラボノイド配糖体エステルをクロマト分離等により分画する方法が挙げられる。
【0092】
また、上記グルコース単位を1〜5個とする場合、グルコース単位を1〜20である本発明に係るフラボノイド配糖体エステルに対してβアミラーゼを作用させる方法が挙げられる。
【0093】
[αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル[Ia]の合成]
上記リパーゼまたはプロテアーゼを利用したαグルコシルナリンジンと、脂肪酸又はそのエステル、例えば、脂肪酸ビニルエステルとの反応(エステル交換反応)の好ましい例を以下に示す。
【0094】
《フライボノイド配糖体エステルを合成する反応(工程(b)の例)》
【0095】
【化19】
(Rは、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC
1〜C
22のアルキル基であり、R
aは、H、Rと同様のアルキル基、またはRと同様のアルキル基を有していてもよいC
2〜C
5のアルキレン基、特に好ましくは、無置換でC
2のビニル基である。式[I]および[Ia]については、上記と同様であるため、その説明を省略する。)
[αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル[IIa]の合成]
【0096】
【化20】
(上記反応式において、Rは、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC
1〜C
22のアルキル基であり、R
aは、H、Rと同様のアルキル基、またはRと同様のアルキル基を有していてもよいC
2〜C
5のアルキレン基、特に好ましくは、無置換でC
2のビニル基である。上記式[II]および[IIa]については、前述の式[II]および[IIa]と同じであるため、その説明を省略する。)
[αグルコシルルチン脂肪酸エステル[IIIa]の合成]
【0097】
【化21】
(上記反応式において、Rは、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC
1〜C
22のアルキル基であり、R
aは、H、Rと同様のアルキル基、またはRと同様のアルキル基を有していてもよいC
2〜C
5のアルキレン基、特に好ましくは、無置換でC
2のビニル基である。上記式[III]および[IIIa]については、前述の式[III]および[IIIa]と同じであるため、その説明を省略する。)
【0098】
《フライボノイド配糖体エステルの用途》
〔抗酸化剤(抗ラジカル剤)〕
本発明に係る抗酸化剤(抗ラジカル剤)は、前述のαグルコシルルチン脂肪酸エステルおよびαグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルのいずれか1種または2種以上を有効成分として含むことを特徴とする。
【0099】
上記αグルコシルルチン脂肪酸エステルは、抗酸化性を維持しつつ、抗菌性能が高く、水への溶解性も比較的有する点で、αグルコシルルチンモノラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))、αグルコシルルチンジラウリン酸エステル(αGRut-diC12(TLIM))が好ましい。
【0100】
上記αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルは、抗酸化性を維持しつつ抗菌性能が高く、溶解性も比較的有する点で、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(NOVO))、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(TLIM))、αグルコシルヘスペリジンジラウリン酸エステル(αGHes-diC12(TLIM))が好ましい。
【0101】
剤型中又は製剤中における有効成分(例:αGHes-C12(NOVO)、αGHes-C12(TLIM)、αGHes-diC12(TLIM))の含有量は、抗酸化性能が得られれば特に制限なく設定することができるが、合計で90μM以上含有することが好ましい。
【0102】
(1)栄養補助剤
一般的に抗酸化剤として知られているルチンと同様、αグルコシルルチン脂肪酸エステルを成人(60kg)のヒトに30〜50mg(30μモル〜60μ)/1日で使用することが好ましいが、体重1kg当たりに25mg〜50mg(25μモル〜50μモル)程度投与することで生活習慣病の予防が期待できる。一方、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルの場合は、αグルコシルルチン脂肪酸エステルの2倍程度の濃度で用いることが好ましい。
【0103】
上記栄養補助剤は、例えば、錠剤、カプセル剤、液剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、エアゾール剤などの内服剤の剤型で製造することができる。ここで、例えば、基材、賦形剤、着色剤、滑沢剤、矯味剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、安定剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、界面活性剤、抗酸化剤、佐薬、緩衝剤、pH調整剤、甘味料、香料などを添加することができる。また、これら添加剤の配合量は、本発明の作用効果を妨げない量である限り、必要に応じて適宜設定することができる。さらに、他の薬効成分を添加してもよい。
【0104】
(2)食品添加物
上記αグルコシルルチン脂肪酸エステルは、安全性が確認され諸手続きを経て、食品安全委員会の承認が得られれば食品添加物(剤)として用いることができる。この場合、食品添加物中のαグルコシルルチン脂肪酸エステルの含有量は、抗酸化作用が発揮できる範囲である限り制限されないが、例えば、食品の容量に対して35〜45mg/L含有させることで、食品に対する抗酸化効果を好適に得ることができる。一方、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルの場合も同様の確認と承認が得られれば、αグルコシルルチン脂肪酸エステルの2倍程度の濃度で用いることで、食品に対する抗酸化効果を好適に得ることができる。
【0105】
ここで、上記食品添加物中の上記抗酸化剤(αグルコシルルチン脂肪酸エステル、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル)の含有量を、上記栄養補助剤としての使用濃度に設定して、食品の酸化のみならず、該食品を摂取するヒト等の酸化防止を図ることとしてもよい。
【0106】
上記フラボノイド配糖体エステルを上記食品添加物として用いる場合、安全性の点で許可されている以下の別の食品添加物を併用して、さらに水溶性または油溶性にして用いてもよい。この別の食品添加物としては、一価アルコール(エタノールなど)、多価アルコール(例:エチレングリコール、グリセリンなど)、動植物油(例:グリセリンのモノ、ジ、トリ-脂肪酸エステルに代表される多価アルコールの脂肪酸エステル等)などの公知の溶媒、公知の界面活性剤または公知の乳化剤{例:シュガーエステル、ソルビタン脂肪酸エステル(ソルビタンエステル),プロピレングリコール脂肪酸エステル(PGエステル)、レシチン)}などを挙げることができる。また、上記フラボノイド配糖体エステルを、水・天然ガム質および多糖類などの高分子物質とともに常用の溶剤または乳化剤を用いて乳化し、油性食品(マヨネーズ等)、水性食品(清涼飲料等)に含めてもよい。
【0107】
(3)化粧料等
上記抗酸化剤(抗ラジカル剤)は、塗布剤、軟膏剤、ローション剤などの外用剤、エアゾール剤などの吸入剤、注射剤、坐剤等の有効成分として用いることができる。この場合、化粧料等に含まれる上記抗酸化剤の含有量は、抗酸化能を発揮できる範囲である限り制限されないが、例えば、化粧料中に35〜45mg/L含有させることで、抗酸化効果を好適に得ることができる。
【0108】
この場合、肌に塗られた抽出成分を細胞内へと効率よく浸透させるために、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イオン活性剤、エタノール,プロピレングリコール、脂肪酸,脂肪酸エステル等の浸透促進剤(経皮吸収促進剤)を化粧料の成分として含有させてもよい。このうち、DMSOを用いる場合、化粧料全体に対して10重量%以下含有させることが好ましい。
【0109】
上記化粧料の剤型として、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、ジェル、ミスト、スプレー、ムース、ロールオン、スティックなどの他、不織布などのシートに含浸ないし塗布したものなどを挙げることができる。
【0110】
上記化粧料の組成分として、さらに、植物油などの油脂類、ラノリンやミツロウなどのロウ類、炭化水素類、脂肪酸、高級アルコール類、エステル類、各種界面活性剤、色素、香料、ビタミン類、植物や動物の抽出成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤(上記抗酸化剤を除く)、防腐剤や殺菌剤(後述する抗菌剤を除く)などを適宜配合して化粧料を製造してもよい。
【0111】
(抗酸化能の確認方法)
DPPHラジカルという人工的に作られたラジカルに対する消去能を分光光度計で測定することで対象物の抗酸化能を計測することができる。DPPHラジカルは溶媒に溶かすと紫色(520nm)を呈しているが、該溶液に抗酸化物質を含む液を加えると、DPPHラジカルが消去され色が薄くなり、この色の吸光度の変化の程度を測定し、変化の程度が大きい程、抗酸化能を有する物質といえる。上記αグルコシルルチン脂肪酸エステルを含む食品等のラジカル消去能に応じて、DPPHのラジカルが消去されて520nmの吸光度の値が減少する。これにより、該食品等が抗酸化能を発揮する状態であるか否かを評価することができる。
【0112】
〔抗菌剤〕
本発明に係る抗菌剤は、上述したαグルコシルナリンジン脂肪酸エステルおよびαグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルのいずれか1種以上を有効成分として含有するものである。
【0113】
上記αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルは、抗菌性および水溶性の観点から、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(NOVO)、αGNar-C12(TLIM))であることが好ましい。また、上記αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルは、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(TLIM)、αGHes-C12(NOVO))であることが好ましい。
【0114】
抗菌剤の性能は、例えば、最小発育阻止濃度(MIC:minimum inhibitory concentration)の値(μM)により評価される。このMICとは、微生物を、種々の濃度の抗微生物物質の存在下に一夜培養した場合に、視認にて判断できる、微生物の発育を阻止(微生物の死滅ではない。)する抗微生物物質の最小濃度を示す。したがって、上記抗菌剤に含まれる有効成分の濃度は、MIC値以上であれば特に制限されず、使用形態あるいは使用目的によって適宜選定することができる。
【0115】
αグルコシルナリンジンラウリン酸エステルのMIC値は12.5μM程度であるため、抗菌剤の有効成分としてαグルコシルナリンジンラウリン酸エステルを12.5μM以上含有することで、好適に抗菌性能が得られる。
【0116】
また、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステルのMIC値は25μM程度であることから、抗菌剤の有効成分としてαグルコシルナリンジンラウリン酸エステルを25μM以上含有することで、好適に抗菌性能が得られる。
【0117】
なお、上記抗菌剤の各有効成分の上限値は溶媒(水系溶媒、油系溶媒)に対する飽和溶解度以下であるが、析出した状態で用いても構わない。また、上述した抗菌剤の有効成分を複数種混合して用いても構わなく、この場合、上記MIC値を参考に各有効成分の含有量を、抗菌剤全体として抗菌性を有する濃度に適宜調節することが可能である。
【0118】
本発明者らは、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルおよびナリンジン脂肪酸エステルに非常に高い抗菌性能を示すことを見出している。特に、ナリンジンのC
10〜
12脂肪酸エステルおよびαグルコシルナリンジンラウリン酸エステルは、化粧品の防腐剤として知られるエチルパラベンに対して100倍程度、食品添加物として知られるソルビン酸に対して640倍、ナリンジンに対して80倍の抗菌性能を示す。
【0119】
これら化合物のうち、ナリンジン脂肪酸エステルについては、水に対する溶解度は0.015mg/mL程度しか有しないため、水性の食品、化粧料等には含有(溶解)させにくく、水溶性の食品等への使用は適さない。一方、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルは、水に対する溶解度が4.5mg/mL程度であり、水分を有する食品や化粧料等に(良好に)溶解させて用いることができる点で非常に有利である。また、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルは、アシル基を有するため、油系の溶媒にも溶解しやすく、油分を有する食品や化粧料等に用いることができる点で溶解させることができる点で有利である。
【0120】
抗菌剤は、上記有効成分の濃度を抗菌性の発揮できる上記濃度範囲に設定すること以外は、上述した抗酸化剤(抗ラジカル剤)と同様にして、(1)栄養補助剤、(2)食品添加物、(3)化粧料の有効成分(抗菌性の有効成分)として用いることができる。
【0121】
(抗菌性の確認方法)
本発明に係る上記フラボノイド配糖体エステル、栄養補助剤、食品添加物、化粧料等の抗菌性の確認は、上述したMIC試験の他、フィルム密着法(JIS Z2801)、菌液吸収法(JIS L1902)、ハロー法(JIS L1902)等でも評価することができる。
【0122】
〔抗炎症剤〕
本発明に係る抗炎症剤は、上述したαグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルルチン脂肪酸エステルおよびαグルコシルへスペリジン脂肪酸エステルのいずれか1種または2種以上を含有するものである。
【0123】
上記αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルは、好適に抗炎症効果が得られる点で、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))、αグルコシルナリンジンジラウリン酸エステル(GRut-diC12(TLIM))が好ましく、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))がより好ましい。
【0124】
上記αグルコシルルチン脂肪酸エステルは、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))、αグルコシルルチンジラウリン酸エステル(αGRut-diC12(TLIM))が好ましい。
上記αグルコシルへスペリジン脂肪酸エステルは、αグルコシルへスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(TLIM)、αGHes-C12(TLIM))が好ましい。
【0125】
上記有効成分の抗炎症剤中における合計の濃度は、抗炎症効果が得られれば特に制限なく設定することができるが、例えば、1μM〜100μMが好ましく、25μM〜50μMがより好ましい。例えば、上記有効成分を上記濃度範囲に設定して、該濃度以外は上述した抗酸化剤(抗ラジカル剤)と同様にして、(1)栄養補助剤、(2)食品添加物、(3)化粧料や抗炎症剤(薬剤)の有効成分(抗炎症性の有効成分)として用いることができる。
【0126】
(抗炎症性能の確認方法)
抗炎症剤、栄養補助剤、食品添加物および化粧料等の抗炎症性能を確認する方法は、例えば以下に説明するように、炎症に関連する細胞(マクロファージ等)に炎症を誘導する物質(LPS等)を作用させて一酸化窒素(NO・)を産生させる試験系において、抗炎症剤を用いた場合に、抗炎症剤を用いない場合と比較して、どの程度炎症を抑えることができるかを調べることにより確認することができる。
【0127】
(Griess法)
Griess法は、一酸化窒素(NO・)が酸化されて生じるNO
2-によるジアゾニウム塩化合物とナフチルエチレンジアミンのアゾカップリングを利用して検出する方法である。一酸化窒素(NO・)を直接定量するものではないが、発生した一酸化窒素(NO・)を簡便に測定できるため広く使用されている。産生した一酸化窒素(NO・)は、水溶液中で、ある程度安定した亜硝酸(NO
2-)に変換されるため、水溶液中のNO
2-濃度を一酸化窒素(NO・)の産生量とみなして測定することで、一酸化窒素(NO・)の産生量を定量することができ、炎症治療効果の程度を調べることができる。
【実施例】
【0128】
《フラボノイド配糖体エステルの製造》
後述する実施例および参考例におけるフラボノイド配糖体エステルの製造で共通する操作について、以下に説明する。
【0129】
(フラボノイド配糖体)
以下のものを用意した。
ナリンジン(Nar)(分子量580.53g/mol)、αグルコシルナリンジン(αGNar)、ルチン(Rut)(分子量610.5g/mol)、αグルコシルルチン(αGRut)、ヘスペリジン(Hes)(分子量610.5g/mol)、またはαグルコシルヘスペリジン(αGHes)(いずれも東洋精糖社製)
【0130】
(脂肪酸ビニル)
以下のものを用意した。
パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルの他、酢酸(C2)、プロピオン酸(C3)、酪酸(C4)、カプロン酸(C6)、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、及びステアリン酸(C18)のビニル
【0131】
(リパーゼ)
各種リパーゼは目的の生産物によって異なるリパーゼを使用しているため、後述するが、実施例、参考例および試験例で使用した各種リパーゼはノボザイムジャパン社から購入したものを用いた。
【0132】
(フラボノイド配糖体のエステル化反応の条件)
1. 下記表1に示す反応液を調製し、目的の生産物に応じて、該反応液に所定のリパーゼを固定 したモレキュラーシーブ500mgを投入して50℃に予備加熱した。その後、該反応液を50 ℃、180rpmの回転振盪方式の反応用機器(製品名「BR-21FH・MR」(タイテック社)、ま たは「二段振とう式BR-3000LF」(タイテック社))でエステル化反応(エステル縮合またはエ ステル交換反応)を行った。上記エステル化反応(またはエステル交換反応)の際には、経時的 に反応液(200μL)を分取し、減圧下40℃でアセトンを除去した後、残渣をメタノール( 1mL)に溶解し、遠心分離しその上澄をHPLCで分析し、反応生成物量の増加の程度を調べ た。反応生成物量の増加が認められなくなった時点で、ろ紙による濾過により固定化酵素及びモ レキュラーシーブスを除去することによって酵素反応を終了した。
【0133】
【表1】
2. (HPLC分析条件)
3. 下記表2に示すプログラム(分析時間10分)に従って、反応生成物(フラボノイド配糖体 エステル)を分析した。
【0134】
【表2】
【0135】
(フラボノイド配糖体エステルの精製方法)
上記エステル化反応の終了後、さらに遠心分離機による遠心分離操作(25℃、15000rpm)により、反応液中の酵素(リパーゼ)をモレキュラーシーブとともに沈殿させた。次いで、遠心分離処理された反応液の上清に含まれるアセトンを、エバポレーター(40℃)を用いて蒸発させて除去した後、残渣をヘキサン(10mL)で3回洗うことにより脂肪酸ビニルを除去した。最後に残渣を風乾した。
【0136】
フラボノド配糖体エステルの精製は、簡易に行うため、フラボノイド配糖体とフラボノイド配糖体エステルのメタノール溶液への溶解度の差を利用した。まず、上記残渣を100%メタノールに溶解した。次に、フラボノイド配糖体のモノ脂肪酸エステルを精製する際には、この100%メタノール液に対して水を加えて30%メタノール液となるように調整して、フラボノイド配糖体のモノ脂肪酸エステルを析出させた。また、フラボノイド配糖体のジ脂肪酸エステルを精製する際には、上記100%メタノール液に対して水を加えて、60%メタノール液となるように調整することで、目的のフラボノイド配糖体エステルを析出させた。
遠心分離(25℃、15000rpm)により、上清を取り除き沈殿を回収した。以上の操作を繰り返すことで、各フラボノイド配糖体エステルを単離した。
【0137】
[実施例1](αGNar-C12(RMIM),αGNar-diC12(TLIM),αGNar-C12(TLIM)の合成)
上記表1の反応系を用いて、表1のフラボノイド配糖体として、特開平4−13691号公報に開示されている方法αグルコシルナリンジン(αGNar)、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを使用して、エステル化反応(エステル交換反応)を行った。また、表1のリパーゼとして、上述した3種のリパーゼ(NOVO,RMIM,TLIM)をそれぞれ使用した。24時間反応後の反応産物のHPLC分析結果を
図4に示す。なお、αグルコシルナリンジンは特開平4−13691号公報に開示されている方法により調製した。
【0138】
リパーゼ(RMIM)を使用した場合に、
図4の中段に破線で示すように、主要反応産物としてαグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12)と推定されるピーク(
図4の中段の破線の4.0分〜5.0分にあるピーク)が検出されたことから、本酵素を用いて合成したαグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))の単離を行った。
【0139】
一方、リパーゼ(TLIM)を使用して上記と同様にエステル化反応を行ったところ、
図4に示すように、主要産物としてジカルボン酸エステルと推定される大きなピーク(
図4の下段の破線の5.0分〜6.0分にあるピーク)が検出された。すなわち、αグルコシルナリンジンジラウリン酸エステル(αGNar-diC12(TLIM))が得られた。また、αGNar-C12(TLIM)も得られた(
図4は24時間反応であるが、エステル化する際の反応時間を短くすると(例えば2時間)、αGNar-C12(TLIM)(
図4の3.6〜4,2分あたりのピーク)が得られることによる)。なお、リパーゼ(NOVO)を使用した場合には、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルを得ることはできなかった。
【0140】
4. [参考例1](Rut-C12(NOVO),Rut-C12(RMIM)の合成)
5. 表1のリパーゼとして、リパーゼ(NOVO,RMIM,TLIM)、フラボノイド配糖体としてルチン(Rut)、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを用いて、上記表1の反応液を調製し、これを 24時間振盪してエステル化反応を行ったところ、使用したリパーゼの種類により様々な誘導体 と推測される物質が得られた(
図5)。なお、リパーゼ(NOVO)を用いた際には、ルチン(Rut)のラムノース残基4位に脂肪酸が結合することが報告されている(Jana Viskupicovaら、Lipo philic rutin derivatives for antioxidant protection of oil-based foods. Food Chemistry 123 (2010) 45-50)。また、他の酵素を用いた場合はどこに結合するかは未確認である。
6. 上述したように、リパーゼ(NOVO)を用いて合成反応を行った反応液から、ルチンラウリン 酸エステル(Rut-C12 (NOVO))を単離・精製した。また、リパーゼ(RMIM)を用いて合成反応を 行った反応液から、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12 (RMIM))を単離・精製した。
【0141】
7. [実施例2](αGRut-C12(TLIM)、αGRut-diC12(TLIM)の合成)
表1のリパーゼとして、各リパーゼ(NOVO,RMIM,TLIM)を用い、フラボノイド配糖体としてαグルコシルルチン(αGRut)を用い、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを用いて、表1の反応液を調製し、これを24時間振盪してエステル化反応を行った結果、使用したリパーゼの種類により様々なフラボノイド配糖体エステルが得られた(
図6)。すなわち、反応率の高いリパーゼ「TLIM」を用いて、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))およびαグルコシルルチンジラウリン酸エステル(αGRut-diC12(TLIM))を合成し、合成物の単離・精製を行った。
【0142】
8. [参考例2]((Hes-C12(NOVO)、Hes-C12(RMIM))の合成)
9. 表1のリパーゼとして、各リパーゼ(NOVO,RMIM)を用い、フラボノイド配糖体としてヘスペリジン(Hes)、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを用いて、上記表1の反応液を調製し、これを24時間振盪してエステル化反応を行い、使用したリパーゼの種類により様々な誘導体が得られた(
図7)。すなわち、リパーゼ(NOVO)を用いて、上記同様にヘスペリジンラウリン 酸エステル(Hes-C12 (NOVO))を合成し、合成物の単離・精製を行った。さらに、リパーゼ(RM IM)を用いて、上記同様にヘスペリジンラウリン酸エステル(Hes-C12 (RMIM))を合成し、合成物の単離・精製を行った。
【0143】
10. [実施例3](αGHes-C12(NOVO),αGHes-C12(TLIM),αGHes-diC12(TLIM)の合成)
表1の固定化リパーゼとして、各リパーゼ(NOVO,RMIM、TLIM)を用い、フラボノイド配糖体としてαグルコシルヘスペリジン(αGHes)を用い、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを用いて、表1の反応液を調製し、これを24時間振盪してエステル化反応を行い、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(NOVO),αGHes-C12(TLIM),αGHes-diC12(TLIM))を合成した(
図8)。その後、これらの合成物の単離・精製をそれぞれ行った。
【0144】
11. [参考例3](Nar-C12(RMIM)等の合成)
ナリンジン(Nar)、ラウリン酸ビニル、リパーゼ(NOVO,RMIM、TLIM)を用いて、上記と同様にエステル化反応(エステル交換反応)を120時間行った。120時間反応後の反応産物のHPLC分析結果を
図1〜
図3に示す。
【0145】
図2に示すように、リパーゼ(RMIM)を使用してナリンジン(Nar)のエステル化反応を行った場合には、反応産物としてナリンジンモノラウリン酸エステル(Nar-C12(RMIM))のみが検出された。
【0146】
一方、リパーゼ(NOVO)またはリパーゼ(TLIM)を使用してナリンジン(Nar)のエステル化反応を行った場合には、
図1および
図3に示すように、ナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12(NOVO) ,Nar-C12(TLIM))に加え、2分子のラウリン酸が結合したナリンジンジラウリン酸エステル(Nar-diC12(NOVO),Nar-diC12(TLIM))と推定される生成物が認められた。
【0147】
以上の結果より、ナリンジン(Nar)をエステル化した場合にモノエステルのみが得られるリパーゼ(RMIM)を用いて、ナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12(RMIM))を合成し、上述したフラボノイド配糖体エステルの精製方法で説明した操作により精製を行った。また、精製したナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12(RMIM))をNMR分析した結果、ラウリン酸はナリンジン(Nar)のモノエステルであることを確認することができた。
【0148】
また、上記表1の脂肪酸ビニルとして、カプリル酸ビニル(CH
3(CH
2)
6COOCH=CH
2、オクタン酸ビニル)、カプリン酸ビニル(CH
3(CH
2)
8COOCH=CH
2、デカン酸ビニル)をそれぞれ用いるとともに、リパーゼ(RMIM)を使用し、上記同様に、ナリンジンカプリル酸エステル(Nar-C8(RMIM))、ナリンジンカプリル酸エステル(Nar-C10(RMIM))を合成し、その単離・精製を行った。
【0149】
[試験例1]
《抗菌性試験》
実施例1〜3および参考例1〜3で製造した各フラボノイド配糖体エステル及びその他のフラボノイド配糖体(下記表3参照)を下記所定濃度で含有するLB培地180μLを調製し、枯草菌(
B.Subtilis)の菌液18μL(生菌数濃度1.0×10
8個/mL)と混合して96ウェルプレートの各ウェルに格納し、該96ウェルプレートを37C、200rpm、の条件下で20時間振盪して培養した。
【0150】
振盪培養前後の各ウェルの培養液について、吸光度(Abs.=655nm)を測定し、生菌数を計測した。該吸光度の変化が0.1以下のウェルについて抗菌性ありと判断した。さらに、上記フラボノイド配糖体エステル等の化合物の終濃度を1.56〜100μMの範囲で調節して、上記一連の操作を繰り返すことにより、各化合物の最小発育阻止濃度(MIC:minimum inhibitory concentration)を決定した。なお、最小発育阻止濃度(MIC)とは、一夜培養(20時間の培養)における、微生物の視認できる発育を阻止する抗微生物物質の最小濃度を意味する。
【0151】
(結果・考察)
【0152】
【表3】
なお、表3において、「N.D.」は「化合物」が100μMでも抗菌性がないことを示す。
【0153】
(結果・考察)
(αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルについて)
上記表3から、αグルコシルナリンジン(αGNar)自体は抗菌性が低いまたは有しないが、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))及びαグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(NOVO)、αGHes-C12(TLIM))は、エチルパラベンやソルビン酸をはるかに上回る抗菌性を有し、プルニンラウリン酸エステル(プルニン-C12)と同等に高い抗菌性を有することが分かる。また、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルのエステル結合を形成している酸基由来の部位の炭素数が12〜8程度の場合に、抗菌性が特に高いことが分かる。
【0154】
(αグルコシルルチン脂肪酸エステルについて)
ルチンのMIC値は「N.D.」であり抗菌性が低く、リパーゼ(RMIM)でエステル化した場合のみ抗菌性が高まると考えられる。したがって、αグルコシル化ルチンについても、エステル化するリパーゼを選択することにより、ある程度の抗菌性が得られる可能性がある。
【0155】
(αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルについて)
αグルコシルヘスペリジン(αGHes)自体の抗菌性は低いが、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(GHes-C12(TLIM)、αGHes-C12(NOVO))では抗菌性が高く、エチルパラベンやソルビン酸をはるかに上回る抗菌性を有し、プルニンラウリン酸エステル(プルニン-C12)と同等に高い抗菌性が得られた。この2つの化合物(GHes-C12(TLIM)、αGHes-C12(NOVO))の抗菌性の対比から分かるように、リパーゼが異なること(すなわち化合物中でエステル化される位置が異なること)でフラボノイド配糖体エステルの抗菌性に差異を生じることが理解できる。
【0156】
[試験例2]
《抗酸化性試験》
実施例1〜3および参考例1〜3で製造した各フラボノイド配糖体エステルおよびその他の抗酸化作用を持つ公知の物質について、以下のとおり抗酸化試験を行った。各化合物の抗酸化性能、すなわちラジカル消去活性の測定をDPPH(1,1-diphenyl-2-picryl-hydrazyl)を用いる方法で行った。なお、DPPHラジカルは人工ラジカルであり、溶媒に溶かすと紫色を呈するが、その不対電子が捕捉されると褪色する。そこで検定試料を含む反応液の520nmにおける波長の減少量を測定することにより、試料のDPPHラジカル捕捉能(抗酸化性能)を求めることができる。
【0157】
(準備)
96ウェルマイクロプレート中で、上記各化合物(1.8mMメタノール溶液)125μL、DPPH(675μMメタノール溶液)100μLを混合し、化合物の終濃度が1mM、DPPHの終濃度が300μMの混合液をウェル中で調製した。その後、この96ウェルプレートをアルミホイルで覆い、室温(25℃)で10分静置した後、各ウェルの混合液について520nm吸光度を測定した。なお、コントロールとして、上記化合物125μLの代わりにメタノール125μLを用いて同様に抗酸化試験を行った。
【0158】
抗酸化活性(%)=(1−As/Ac)×100・・・(I)
で示す式(I)によりコントロールに対する相対値として算出した。
ここで、Asは各化合物のウェルの520nmの吸光度、Acはコントロールのウェルの520nmの吸光度を示す。
【0159】
【表4】
【0160】
(結果・考察)
表4より、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM)、αGRut-diC12(TLIM))がルチンと同様に高い抗酸化活性を示した。この結果から、αグルコシルルチンラウリン酸エステルは、抗酸化剤の有効成分として用いることができることを十分に推認することができる。
【0161】
また、抗菌性を有するαグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(NOVO)、αGHes-C12(TLIM))は、ルチンより劣るものの、実使用可能な比較的高い抗酸化活性を示した。この結果から、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(NOVO)、αGHes-C12(TLIM))は、抗酸化剤の有効成分として用いることができることを十分に推認することができる上に、抗菌剤および抗酸化剤の双方の機能を兼ねるフラボノイド配糖体エステルとして有用であるといえる。
【0162】
[試験例3]
《抗炎症性試験》
後述するMTT法により、細胞毒性が無いことを確認した上で、以下の通りに抗炎症試験を行った。
【0163】
フラボノイド配糖体等の化合物をマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7に投与して、炎症に関係する一酸化窒素(NO・)の産生をどの程度抑制するか調べた。マウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7は、マウスの単球性白血病由来の細胞株であり、炎症の原因物質であるリポ多糖(Lipopolysaccharide;LPS)に対して反応し、フリーラジカルであり血管弛緩能を有する一酸化窒素(NO・)を産生する。そのため、該細胞は炎症のモデル細胞として用いられる。この細胞は、比較的増殖が盛んであり、細胞が過多となると細胞が死滅等するため、細胞を継代培養する必要がある。まず、以下のように、培地を用意して、以下に説明するようにマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7を継代培養するとともに、その一部を抗炎症性試験に用いる細胞として用意した。
【0164】
《培地組成》
以下の培地等を用意した。
(D−MEM培地)
D−MEM(ダルベッコ改変イーグル培地;Dulbecco's Modified Eagle's Medium)(高グルコース L−グルタミン、フェノールレッド含有)(Wako)500mLに、FetalBovineSerum(Biowest)50mLとPenicillin−Streptomycin solution(Sigma−Aldrich社製)5mLを加えた。
【0165】
(滅菌PBS(−))
NaCl(8g)、Na
2HPO
4・12H
2O(2.9g)、KCl(0.2g)、KH
2PO
4(0.2g)を超純水1000mLに溶解し、オートクレーブ(121℃、20分)により滅菌した。
【0166】
(トリプシンEDTA)
PBS(−)100mLにトリプシン(Sigma)0.5gと、EDTA−2Na(関東化学社製)0.2gを加え、10×トリプシン/EDTAとし、フィルター滅菌し、10mLずつ分注し、冷凍保存した。これを滅菌PBS(−)で10倍に希釈し、冷凍保存した。
【0167】
(継代用および試験用の細胞の調製)
上述した継代培養は、凍結したマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7(European Collection of Cell Cultures)を解凍し、D−MEM培地5mLに希釈し、遠心分離(1000rpm、20℃、5分)後、上清を除去した。さらに、該細胞のペレットにD−MEM培地5mLを加えて懸濁後、φ5cmのdish(培養皿)に5mL播種し、これをインキュベーター(ガス雰囲気を調節可能な恒温槽)内で所定の培養条件(37℃,5%CO
2)で培養した。
【0168】
上記細胞の密度がdish(培養皿)表面の80〜90%に達したときに培地を除去し、滅菌PBS(−)で洗浄し、トリプシン/EDTAを1mL加え、細胞をdish(培養皿)から剥がした。これにD−MEM培地4mL加え、15mLチューブに移し、遠心分離(1000rpm、20℃、5分)した。上清を除去し、D−MEM培地5mLを加え、トリパンブルー溶液を用いて、細胞数を数えた。1.0×10
5cells/mLに希釈し、継代用細胞とした。また、残りの細胞はそれぞれの実験に応じて、希釈し播種した。
【0169】
《MTT法による細胞生存率の測定(無毒性の確認)》
マウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7に対して、上述したMTT法によりフラボノイド配糖体エステルの細胞毒性を評価した。
【0170】
(MTT液)
下記MTT(DOJINDO社製)を5mg/mL(0.5%)になるようにPBS(リン酸緩衝整理食塩水)に溶かし、遮光して−20℃で保存した。MTTは、チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド、別名3−(4,5−di−methylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide, yellow tetrazoleである。
【0171】
(MTT反応停止液)
2NHClを10%SDS溶液で200倍希釈して室温で保存した。
(MTT法)
上述したように継代培養したマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7をD−MEM培地により1.0×10
6cells/mLに希釈後、96ウェルマイクロプレートにそれぞれ100μLを播種し、インキュベーターにて、所定の培養条件(37℃,5%CO
2)で24時間培養した。その後、各濃度の上記フラボノイド配糖体エステル等の各サンプルを50μLそれぞれ添加した。20時間静置(インキュベート)後、培養上清50μLを除去した。各ウェルに0.5%MTT液10μLを添加し、2時間静置した。MTT反応停止液を110μL加えて12時間静置後、培養上清100μLを新しい96ウェルマイクロプレートに分取しマイクロプレートリーダーで540nmの吸光度を測定した。未処理のマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7のサンプルの値を生存率100%として各サンプルの細胞生存率を算出した。
(結果)
【0172】
【表5】
【0173】
【表6】
【0174】
【表7】
【0175】
《マウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7への試験試料添加による一酸化窒素(NO・)の産生の抑制》
継代培養したマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7をD−MEM培地により1.0×10
6cells/mLに希釈後、96ウェルマイクロプレートにそれぞれ100μL播種し、37℃で5%CO
2インキュベーターにて24時間培養した。その後、終濃度50μMまたは25μMとなるように各フラボノイド配糖体またはフラボノイド配糖体エステルを25μLそれぞれ各ウェルの培養液に添加した。30分間静置した後、リポ多糖(LPS)を終濃度0.1μg/mLとなるように各ウェルの培養液にそれぞれ添加した。なお、ネガティブコントロールについては、D−MEM培地のみをウェルの培養液に添加した。また、ポジティブコントロールについては、D−MEM培地およびLPSのみをウェルの培養液に添加した。
【0176】
(Griess assay)
・Griess試薬A(1%スルファニルアミド、4.25%リン酸)
1gのスルファニルアミド(東京化成社製)にリン酸(Wako社製)5mLを加え、超純水で100mLとし、遮光瓶で保存した。
・(Griess試薬B(0.1% ナフチルエチレンジアミン)
0.1gのナフチルエチレンジアミン(Wako社製)に超純水を加え、100mLとし、遮光瓶に保存した。
【0177】
(一酸化窒素(NO・)産生量の測定)
Griess法は、一酸化窒素(NO・)が酸化されて生じるNO
2-によるジアゾニウム塩化合物とナフチルエチレンジアミンのアゾカップリングを利用して(一酸化窒素(NO・)の産生量)を検出する方法である。一酸化窒素(NO・)を直接定量するものではないが、発生した一酸化窒素(NO・)量を簡便に測定できるため広く使用されている。産生した一酸化窒素(NO・)は水溶液中である程度の量で、安定した亜硝酸(NO
2-)に変換される。そのため、培養上清中のNO
2-濃度を一酸化窒素(NO・)の産生量とした。
【0178】
マウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7に一酸化窒素(NO・)の産生を抑制する処理(上述したフラボノイド配糖体エステル等を加える処理)を施し、24時間後、培養上清50μLを96ウェルマイクロプレートに分取した。分取した溶液に前記Griess試薬Aを25μL加え、5分後に前記Griess試薬Bを25μL加えた。10分後、得られた溶液につき、マイクロプレートリーダーで540nmの吸光度を測定した。ポジティブコントロールの一酸化窒素(NO・)の産生量の値を100%として、各フラボノイド配糖体エステル等を加えた各サンプルのウェルの一酸化窒素(NO・)の産生量を算出した。この結果を
図9〜
図11に示す。
【0179】
(結果・考察)
(αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル)
上記表5から、マウスの細胞に対して、αグルコシルナリンジン(αGNar)については若干細胞毒性が確認されたが(細胞生存率77.6%)、本発明に係るαナリンジンラウリン酸エステル(αGNAR-C12)の細胞毒性は問題となるレベルではなかった(細胞生存率は103.0%)。αGNAR-C12(≦100μM)はマウス細胞に対しては細胞毒性を示さないことから、ヒトの細胞に対しても細胞毒性がないことを十分に推認することができる。
【0180】
さらに、
図9の結果を踏まえると、αGNAR-C12は50μM以下の濃度で十分に抗炎症性能を示すことから(
図9参照)、αGNAR-C12は、100μM以下の濃度でも、抗炎症剤として、化粧料、内服剤(食品等)として特に有用であることを推認することができる。前述したようにαGNAR-C12は抗菌性も示すため、抗菌性の抗炎症剤としての意義も高い。
【0181】
ここで、ナリンジン脂肪酸エステルについては、酸基由来部分の炭素数がC2からC18へと増加するにつれて、100μMの場合、細胞生存率が顕著に低下(細胞毒性が顕著に増加)するが(細胞生存率は最小で45%となるが)、化合物の濃度が25μMの範囲であれば、細胞生存率は高く(細胞毒性は低く)、また抗炎症性を十分に発揮している(表5、
図9参照)。
【0182】
αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルでも炭素数が増加するにつれて細胞生存率が低下(細胞毒性率が増加)すると考えられるが、上記同様に化合物の濃度を調節することで抗炎症性能と細胞毒性の低減とを両立できる可能性がある。
なお、
図9ではコントロール(LPS(+))を100とした場合の相対値として示されている。
【0183】
(αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル)
表6に示すように、αグルコシルヘスペリジン(αGHES)については、100μM以下の範囲では、ほぼ毒性がないことが確認された。
【0184】
一方、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHES-C12(TLIM))については、100μMにおける細胞生存率が高い(細胞毒性が低い)ことが確認された(細胞生存率69.9%)。
【0185】
図10に示すように、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHES-C12(TLIM))については、25μMでもある程度、抗炎症性能を発揮することから、この化合物を(αGHES-C12(TLIM))を25μ〜100μMの範囲で調節することにより、抗炎症性能と細胞毒性の低減とを両立させて、抗炎症剤として好適に使用することができることが理解できる。
【0186】
なお、表7および
図10に示すように、ヘスペリジン、およびそれらのラウリン酸エステル(HES-C12(NOVO),HES-C12(RMIM))、ヘスペレチンについては、細胞生存率が高いが、抗炎症性能はαグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHES-C12(TLIM))と比べて、やや劣る結果となった。
【0187】
なお、
図10ではコントロール(LPS(+))を100とした場合の相対値として示されている。
(αグルコシルルチン脂肪酸エステル)
αグルコシルルチンおよびそのラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))の濃度100μMにおける細胞生存率が高い結果となった(いずれも細胞生存率は100%以上)。
【0188】
図11から、αグルコシルルチンモノラウリン酸エステル(αGRut-C12)、αグルコシルルチンジラウリン酸エステル(αGRut-diC12)のいずれも、化合物濃度25μM以下で、ケルセチンやルチンと比較して、顕著に優れた抗炎症性能を示したことから、化合物(αGRut-C12、αGRut-diC12)を1〜100μMの範囲で調節したものは、抗炎症剤として特に好適に用いることができることが理解できる。なお、
図11ではコントロール(LPS(+))を100とした場合の相対値として示されている。
【0189】
以上の結果から、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM), αGNar-C12(TLIM))、αグルコシルナリンジンジラウリン酸エステル(αGNar-diC12(TLIM))、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12(RMIM))、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(TLIM))、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))およびαグルコシルルチンジラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))は、抗炎症剤の有効成分として好適に用いることができることを十分に推認することができる。
【0190】
[試験例4]
《水に対する溶解性試験》
フラボノイド配糖体エステルを水系溶媒の抗菌剤等の有効成分として用いる場合、水溶性が高い程、有効成分を溶解させることができるため有利である。このため、上記実施例、参考例で製造した各種フラボノイド配糖体(ナリンジン(Nar)、ナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12(RMIM))αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))、ルチン(Rut)、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12)、ヘスペリジン(Hes)、ヘスペリジンラウリン酸エステル(Hes-C12)およびαグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12)の水溶性を測定した。下記表8に、各フラボノイド配糖体エステル等の水に対する溶解性試験の結果を示す。
【0191】
〔αGNar-C12の溶解性〕
αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))の水に対する溶解性は、ナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12(RMIM))の約300倍、ナリンジン(Nar)の5.6倍、ルチン(Rut)の約20倍、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)の6500倍であった。
【0192】
〔αGHes-C12の溶解性〕
αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12)の水に対する溶解性は、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12)よりも低くルチン(Rut)と同程度であったが、ヘスペリジン(Hes)の約3.5倍、ナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12)の約15倍、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)の330倍であった。
【0193】
〔αGRut-C12の溶解性〕
αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12)の水に対する溶解性は、ルチン(Rut)より低かったが、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)の約6.6倍であった。
【0194】
【表8】
【0195】
12. (結果・考察)
表8に示したように、ナリンジンC12の脂肪酸エステル(Nar-C12)は、前述の表3および
図9〜
図11に示したように、優れた抗菌性能、抗炎症性能またはその双方を有しているが、表8に示すように、水に対する溶解性が低いため、水系溶媒の抗菌剤や抗炎症剤を製造する場合に有効成分として含有させる量に限度があり不利である。一方、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12)は、ナリンジンC12の脂肪酸エステル(Nar-C12)と同様に優れた抗菌性能と抗炎症性能の双方を有するとともに、水に対する溶解度がNar-C12と比較して約300倍高く、水溶性の薬剤を調製する場合に非常に有利となる。また、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12)は、ラウロイル基を有していることから、油系の溶媒にも溶解度を示すことが明らかであり、水系、油系の双方の溶媒に溶解させて抗菌剤、抗炎症剤として用いることができる点でも非常に有利である。
【0196】
一方、抗酸化性能および抗菌性能を示すαグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12)については、水に対する溶解性が、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12)よりも低くルチン(Rut)と同程度であったが、ヘスペリジン(Hes)よりも約3.5倍高く、水に対する溶解性が向上していることから、水系、油系の双方の溶媒に溶解させて抗酸化剤、抗菌剤として用いることができる点でも有利である。
【0197】
さらに、抗酸化性能および抗炎症性能を有するαグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12)の水に対する溶解性は、ルチン(Rut)より低いが、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)の約6.6倍高く、水に対する溶解性が向上していることから、水系、油系の双方の溶媒に溶解させて化粧料等の剤型として抗酸化剤、抗炎症剤として用いることができる点で有利である。
【0198】
[参考例4]
下記式(IIa')に示すナリンジン(Nar)の水酸基のX,Yを、異なる鎖長のカルボン酸を用いて、上記と同様にエステル化し、MIC値を測定した。
【0199】
【化22】
(Rha:ラムノース、X
2=第1脂肪酸、Y
2=第2脂肪酸)
【0200】
【表9】
【0201】
【表10】
【0202】
(結果・考察)
参考例4の結果(上記表10)に示されているように、ナリンギン(ナリンジン)が有するグルコースの水酸基を脂肪酸で多様にエステル化した場合、エステル化される位置やエステル化に用いられる脂肪酸の炭素数により、MIC値が1〜9倍程度の幅で上下した。
【0203】
この結果から、上記試験例1で抗菌性を示したαグルコシルナリンギンラウリン酸エステル(αGNar-C12)、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(TLIM))について、αグルコシル基の水酸基のうち、エステル化する箇所や、該エステル化に用いる脂肪酸の炭素数を2〜12で変化させることで、MIC値がある程度の範囲で上下しつつも、抗菌性が得られると考えられる。
【0204】
以上、本発明に係るフラボノイド配糖体エステルについて、実施の形態、実施例および試験例等を通して説明してきたが、本発明はこれら実施の形態等に限定されずに、本願の特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しないかぎり、設計変更は許容される。