(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441069
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】表面加工方法及び構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/265 20060101AFI20181210BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20181210BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20181210BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20181210BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
H01L21/265 602A
B23K26/53
B23K26/00 H
H01L21/268 E
H01L21/265 Q
B81C1/00
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-259558(P2014-259558)
(22)【出願日】2014年12月23日
(65)【公開番号】特開2016-119426(P2016-119426A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】特許業務法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 博之
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
【審査官】
宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−124206(JP,A)
【文献】
特開2011−060860(JP,A)
【文献】
特開2002−192370(JP,A)
【文献】
特開2012−038932(JP,A)
【文献】
特開2012−142568(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/140906(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
B23K 26/00
B23K 26/53
B81C 1/00
H01L 21/268
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物(200)の表面(210)を加工することにより構造体(250、270)を形成する表面加工方法であって、
前記加工対象物(200)の内部にレーザ光の焦点(160)を合わせてレーザ光を走査して、前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の焦点(160)に対応する部分を局所的に加熱することにより改質部(230)を形成するレーザ光照射工程と、
前記加工対象物(200)に対してイオン注入を行うことにより、前記加工対象物(200)の表面(210)を基準として前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の焦点(160)よりも浅い位置にイオン注入層(240)を形成するイオン注入工程と、
前記レーザ光照射工程及び前記イオン注入工程を行った後、前記加工対象物(200)の全体を加熱して前記レーザ光の焦点(160)と前記イオン注入層(240)との位置関係に基づいて前記加工対象物(200)にブリスタリング(241)を発生させ、前記ブリスタリング(241)を前記改質部(230)に作用させることにより前記構造体(250、270)を形成する加熱工程と、
を含んでいることを特徴とする表面加工方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、前記構造体として、前記レーザ光の走査方向に沿って前記加工対象物(200)の表面(210)が隆起した突起構造(250)を形成することを特徴とする請求項1に記載の表面加工方法。
【請求項3】
前記加熱工程では、前記構造体として、前記レーザ光の走査方向に沿って前記加工対象物(200)から剥離した短冊状の切り出し片(270)を形成することを特徴とする請求項1に記載の表面加工方法。
【請求項4】
加工対象物(200)の表面(210)を加工することにより構造体(260)を形成する表面加工方法であって、
前記加工対象物(200)の内部にレーザ光の焦点(160)を合わせてレーザ光を走査して、前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の焦点(160)に対応する部分を局所的に加熱することにより改質部(230)を形成するレーザ光照射工程と、
前記加工対象物(200)に対してイオン注入を行って、前記加工対象物(200)の表面(210)を基準として前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の焦点(160)よりも浅い位置にイオン注入層(240)を形成し、前記レーザ光の焦点(160)と前記イオン注入層(240)との位置関係に基づいて前記加工対象物(200)にブリスタリング(241)を発生させ、前記ブリスタリング(241)を前記改質部(230)に作用させることにより前記構造体(260)を形成するイオン注入工程と、
を含んでいることを特徴とする表面加工方法。
【請求項5】
前記構造体として、前記加工対象物(200)の表面(210)が前記レーザ光の走査方向に沿って垂直方向に山部(261)と谷部(262)とが交互に繰り返された波面構造(260)を形成することを特徴とする請求項4に記載の表面加工方法。
【請求項6】
前記レーザ光照射工程を行った後に前記イオン注入工程を行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の表面加工方法。
【請求項7】
前記加工対象物(200)は、前記表面(210)とこの表面(210)とは反対側の裏面(220)を有する板状のものであり、
前記イオン注入工程では、前記加工対象物(200)の表面(210)の上方から前記イオン注入を行い、
前記レーザ光照射工程では、前記加工対象物(200)の裏面(220)の上方から前記加工対象物(200)の内部に前記レーザ光を照射し、
さらに、前記イオン注入工程を行った後に前記レーザ光照射工程を行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の表面加工方法。
【請求項8】
前記加工対象物として、半導体ウェハ(200)を用いることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の表面加工方法。
【請求項9】
加工対象物(200)の表面(210)を加工することにより構造体(250、270)を形成する構造体の製造方法であって、
前記加工対象物(200)の内部にレーザ光の焦点(160)を合わせてレーザ光を走査して、前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の焦点(160)に対応する部分を局所的に加熱することにより改質部(230)を形成するレーザ光照射工程と、
前記加工対象物(200)に対してイオン注入を行うことにより、前記加工対象物(200)の表面(210)を基準として前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の焦点(160)よりも浅い位置にイオン注入層(240)を形成するイオン注入工程と、
前記レーザ光照射工程及び前記イオン注入工程を行った後、前記加工対象物(200)の全体を加熱して前記レーザ光の焦点(160)と前記イオン注入層(240)との位置関係に基づいて前記加工対象物(200)にブリスタリング(241)を発生させ、前記ブリスタリング(241)を前記改質部(230)に作用させることにより前記構造体(250、270)を形成する加熱工程と、
を含んでいることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程では、前記構造体として、前記レーザ光の走査方向に沿って前記加工対象物(200)の表面(210)が隆起した突起構造(250)を形成することを特徴とする請求項9に記載の構造体の製造方法。
【請求項11】
前記加熱工程では、前記構造体として、前記レーザ光の走査方向に沿って前記加工対象物(200)から剥離した短冊状の切り出し片(270)を形成することを特徴とする請求項9に記載の構造体の製造方法。
【請求項12】
加工対象物(200)の表面(210)を加工することにより構造体(260)を形成する構造体の製造方法であって、
前記加工対象物(200)の内部にレーザ光の焦点(160)を合わせてレーザ光を走査して、前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の焦点(160)に対応する部分を局所的に加熱することにより改質部(230)を形成するレーザ光照射工程と、
前記加工対象物(200)に対してイオン注入を行って、前記加工対象物(200)の表面(210)を基準として前記加工対象物(200)のうち前記レーザ光の焦点(160)よりも浅い位置にイオン注入層(240)を形成し、前記レーザ光の焦点(160)と前記イオン注入層(240)との位置関係に基づいて前記加工対象物(200)にブリスタリング(241)を発生させ、前記ブリスタリング(241)を前記改質部(230)に作用させることにより前記構造体(260)を形成するイオン注入工程と、
を含んでいることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項13】
前記構造体として、前記加工対象物(200)の表面(210)が前記レーザ光の走査方向に沿って垂直方向に山部(261)と谷部(262)とが交互に繰り返された波面構造(260)を形成することを特徴とする請求項12に記載の構造体の製造方法。
【請求項14】
前記レーザ光照射工程を行った後に前記イオン注入工程を行うことを特徴とする請求項9ないし13のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【請求項15】
前記加工対象物(200)は、前記表面(210)とこの表面(210)とは反対側の裏面(220)を有する板状のものであり、
前記イオン注入工程では、前記加工対象物(200)の表面(210)の上方から前記イオン注入を行い、
前記レーザ光照射工程では、前記加工対象物(200)の裏面(220)の上方から前記加工対象物(200)の内部に前記レーザ光を照射し、
さらに、前記イオン注入工程を行った後に前記レーザ光照射工程を行うことを特徴とする請求項9ないし13のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【請求項16】
前記加工対象物として、半導体ウェハ(200)を用いることを特徴とする請求項9ないし15のいずれか1つに記載の構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物に対する表面加工方法、及び構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体ウェハの全体にイオン注入を行った後に半導体ウェハを加熱することにより、半導体ウェハの内部にブリスタリングすなわち空洞部を形成して半導体ウェハの表層部を層状に剥離するスマートカット(登録商標)技術が、例えば非特許文献1で提案されている。
【0003】
このスマートカット(登録商標)技術は、例えばSOI基板(Silicon on Insulator;SOI)の製造に利用されている。具体的には、まず、シリコンウェハAを用意し、シリコンウェハAの表面全体を熱酸化してSiO
2絶縁層を形成する。また、シリコンウェハAのシリコン層に対し、SiO
2絶縁層を介して水素イオンをイオン注入する。
【0004】
次に、酸等の化学薬品と純水を用いてSiO
2絶縁層の表面を洗浄する。また、シリコンウェハBを用意する。そして、各シリコンウェハA、Bに親水化処理を施してSiO
2絶縁層をシリコンウェハAのシリコン層とシリコンウェハBとで挟むように重ね合わせ、室温で接合する。
【0005】
続いて、積層ウェハに対して400℃〜600℃で熱処理を行う。これにより、シリコンウェハAにブリスタリングを発生させてシリコン結晶の結合を切断し、シリコンウェハAから数μmの厚さのシリコン層を剥離する。
【0006】
この後、各シリコンウェハA、Bの界面に対して1000℃以上で熱処理を行う。最後に、剥離したシリコンウェハAの表面の研磨を行う。このようにして、SOI基板が完成する。以上が、スマートカット(登録商標)技術を利用した工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Bruel, Electronics Letters, Volume 31, Issue 14, 6 July 1995, p.1201-1202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術は、半導体ウェハの表層部を薄い層として剥離させる技術であるが、イオン注入はシリコンウェハAの全体に対して行われるので、剥離面の全体が平面となる。したがって、上記従来の技術を用いて剥離面に凹凸等の微細な構造を形成することは困難である。
【0009】
ここで、微細な構造の形成は、例えばMEMS技術(Micro Electro Mechanical System;MEMS)を用いることが一般的に知られている。しかし、MEMS技術は、大量の水や薬品を使用するので、完成品の耐久性に差が生じる可能性がある。また、MEMS技術では、薬品を使って微細な構造を形成するので、半導体ウェハの結晶の方向性を考慮しなければならないという問題もある。
【0010】
なお、上記では半導体ウェハすなわち半導体材料にイオン注入を行って微細な構造を形成することが困難であることを述べたが、加工対象は半導体材料に限られない。すなわち、イオン注入が可能な加工対象物に共通して微細な構造の形成が困難であるという問題がある。
【0011】
本発明は上記点に鑑み、耐久性が高い構造体を形成することができる表面加工方法を提供することを第1の目的とする。また、当該表面加工方法を用いた構造体の製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、加工対象物(200)の表面(210)を加工することにより構造体(250、270)を形成する表面加工方法であって、以下の点を特徴としている。
【0013】
まず、加工対象物(200)の内部にレーザ光の焦点(160)を合わせてレーザ光を走査して、加工対象物(200)のうちレーザ光の焦点(160)に対応する部分を局所的に加熱することにより改質部(230)を形成する(レーザ光照射工程)。また、加工対象物(200)に対してイオン注入を行うことにより、
加工対象物(200)の表面(210)を基準として加工対象物(200)
のうちレーザ光の焦点(160)よりも浅い位置にイオン注入層(240)を形成する(イオン注入工程)。
【0014】
そして、レーザ光照射工程及びイオン注入工程を行った後、加工対象物(200)の全体を加熱してレーザ光の焦点(160)とイオン注入層(240)との位置関係に基づいて加工対象物(200)にブリスタリング(241)を発生させ、ブリスタリング(241)を改質部(230)に作用させることにより構造体(250、270)を形成する(加熱工程)ことを特徴とする。
【0015】
これによると、加工対象物(200)に対してレーザ光の走査、イオン注入、及び加熱を行うことにより、加工対象物(200)の内部で改質部(230)とブリスタリング(241)とを相互作用させているので、構造体(250、270)を形成することができる。したがって、耐久性が高い構造体(250、270)を形成することができる。
【0016】
さらに、薬品や水を使用せずに、ドライの環境で構造体(250、270)を形成することができる。そして、レーザ光の照射、イオン注入、及び加熱という各工程を経ているので、加工対象物(200)に対して非接触で構造体(250、270)を形成することができる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明のように、加熱工程では、構造体として、レーザ光の走査方向に沿って加工対象物(200)の表面(210)が隆起した突起構造(250)を形成することができる。
【0018】
また、請求項3に記載の発明のように、加熱工程では、構造体として、レーザ光の走査方向に沿って加工対象物(200)から剥離した短冊状の切り出し片(270)を形成することができる。
【0019】
一方、請求項4に記載の発明では、加工対象物(200)の内部にレーザ光の焦点(160)を合わせてレーザ光を走査して、加工対象物(200)のうちレーザ光の焦点(160)に対応する部分を局所的に加熱することにより改質部(230)を形成する(レーザ光照射工程)。
【0020】
続いて、加工対象物(200)に対してイオン注入を行って
、加工対象物(200)の表面(210)を基準として加工対象物(200)
のうちレーザ光の焦点(160)よりも浅い位置にイオン注入層(240)を形成し、レーザ光の焦点(160)とイオン注入層(240)との位置関係に基づいて加工対象物(200)にブリスタリング(241)を発生させ、ブリスタリング(241)を改質部(230)に作用させることにより構造体(260)を形成する(イオン注入工程)ことを特徴とする。
【0021】
これによると、加工対象物(200)に対してレーザ光の走査及びイオン注入を行うことにより、加工対象物(200)の内部で改質部(230)とブリスタリング(241)とを相互作用させているので、構造体(260)を形成することができる。したがって、薬品を使用せずに、耐久性が高い構造体(260)を形成することができる。
【0022】
さらに、請求項1と同様に、薬品や水を使用しないドライの環境で構造体(250、270)を形成することができ、また、加工対象物(200)に対して非接触で構造体(250、270)を形成することができる。
【0023】
そして、請求項5に記載の発明のように
、構造体として、加工対象物(200)の表面(210)がレーザ光の走査方向に沿って垂直方向に山部(261)と谷部(262)とが交互に繰り返された波面構造(260)を形成することができる。
【0024】
請求項6に記載の発明では、レーザ光照射工程を行った後にイオン注入工程を行うことを特徴とする。これによると、レーザ光がイオン注入層(240)で反射することや、レーザ光がイオン注入層(240)に吸収されてしまうことを防止することができる。
【0025】
請求項7に記載の発明では、加工対象物(200)は、表面(210)とこの表面(210)とは反対側の裏面(220)を有する板状のものである。そして、イオン注入工程では、加工対象物(200)の表面(210)の上方からイオン注入を行う。また、レーザ光照射工程では、加工対象物(200)の裏面(220)の上方から加工対象物(200)の内部にレーザ光を照射する。さらに、イオン注入工程を行った後にレーザ光照射工程を行うことを特徴とする。
【0026】
これによると、レーザ光がイオン注入層(240)の影響を受けないので、加工対象物(200)の内部に熱を集中させやすくすることができる。
【0027】
そして、請求項8に記載の発明のように、加工対象物として、半導体ウェハ(200)を用いることができる。
【0028】
上記では、加工対象物(200)に対する表面加工方法について述べたが、加工対象物を加工して構造体(250、260、270)を形成する構造体の製造方法としても同様の特徴及び効果を有する。
【0029】
なお、この欄及び特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1実施形態において、レーザ光照射工程で用いるレーザ光照射装置の全体構成を示した図である
【
図2】構造体を形成するための形成工程を示した図である。
【
図3】レーザ光照射工程及びイオン注入工程を行った後のSiウェハの一部を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した図である。
【
図4】改質部によってSiウェハに発生した結晶の転位を示した図である。
【
図5】Siウェハに発生したブリスタリングを説明するための模式図である。
【
図6】Siウェハの表面に形成された突起構造の斜視図である。
【
図7】
図6よりも広い範囲で突起構造を観察した斜視図である。
【
図8】TEMによって突起構造の先端の中央を観察した図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る波面構造を示した図であり、白色干渉法を用いた白色光干渉式非接触三次元表面性状測定機(CCI)によってSiウェハの表面を観察した図である。
【
図11】本発明の第3実施形態に係る切り出し片の斜視図である。
【
図12】Siウェハから複数の切り出し片が剥離した様子を撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0032】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。本実施形態に係る表面加工方法及び構造体の製造方法は、加工対象物として半導体材料であるSiウェハの表面を加工することにより構造体を形成する方法である。ここで、「Siウェハの表面」とは、表面だけでなくSiウェハの表層部を含んでいる。すなわち、表面加工とは、Siウェハの表面だけでなくSiウェハの表面を含んだ表層部を加工する意味も含んでいる。
【0033】
まず、レーザ光照射工程で用いるレーザ光照射装置について説明する。
図1に示されるように、レーザ光照射装置100は、駆動部110、レーザ光源120、集光レンズ130、ステージ140、及び制御部150を備えて構成されている。
【0034】
駆動部110は、制御部150の指令に従ってレーザ光源120から短パルスのレーザ光を照射させるための駆動装置である。また、駆動部110はSiウェハ200に対してレーザ光を走査するように構成されている。すなわち、駆動部110は、レーザ光源120及び集光レンズ130を移動させるように構成されている。
【0035】
レーザ光源120は、レーザ光を発するものである。レーザ光源120として、レーザ光がSiウェハ200に吸収されないもの、例えばレーザ光の波長が1064nm、周波数が80kHz、パルス幅が150nsのものが用いられる。この条件は、レーザ光がSiウェハ200を透過するため、レーザ光がSiウェハ200に吸収されることはない。なお、この条件は一例であり、他の条件でレーザ光源120を駆動しても構わない。
【0036】
集光レンズ130は、レーザ光源120から発せられたレーザ光を入射してSiウェハ200の内部に集光するものである。すなわち、集光レンズ130は、レーザ光の焦点160がSiウェハ200の内部に位置するようにSiウェハ200に対して配置される。集光レンズ130により集光されたレーザ光のスポット径は例えば5μm程度である。なお、集光レンズ130はレーザ光源120と共にパッケージ化されている。
【0037】
ステージ140は、Siウェハ200を乗せるための設置面141を有している。本実施形態では、Siウェハ200の表面210側が集光レンズ130に向けられると共に、Siウェハ200の裏面220が設置面141に接触するように、Siウェハ200がステージ140の設置面141に設置される。
【0038】
なお、ステージ140は設置面141に平行なX−Y方向及びZ方向に移動可能に構成されていても良い。すなわち、集光レンズ130は、ステージ140の設置面141に対して平行な方向及び垂直な方向への移動が可能になっていても良い。この場合はレーザ光照射装置100にステージを駆動するための図示しない駆動部が設けられており、当該駆動部が制御部150の指令に従って駆動される。
【0039】
制御部150は、駆動部110に指令を出すことにより、レーザ光源120からレーザ光を照射させると共にステージ140に対してレーザ光源120及び集光レンズ130を移動させるための中央制御装置である。制御部150は、予め用意されたプログラムに従って上記指令を実行する。
【0040】
具体的には、制御部150は、Siウェハ200の上方から照射されるレーザ光の焦点160がSiウェハ200の内部に位置するように駆動部110に指令を出す。また、制御部150はレーザ光の焦点160の移動とレーザ光の照射のタイミングとが合うように、駆動部110駆動することとなる。以上が、レーザ光照射装置100の構成である。
【0041】
次に、イオン注入工程で用いるイオン注入装置について説明する。イオン注入装置は半導体プロセスにおいては周知の装置である。詳しい説明は省略するが、イオン注入装置は、概ね、イオン源からイオンビームを照射し、当該イオンビームを加速管で加速させてSiウェハ200に打ち込む構成になっている。本実施形態では、水素イオンやヘリウムイオンをSiウェハ200に打ち込む。
【0042】
また、加熱工程で用いる加熱装置は、Siウェハ200の全体を加熱するいわゆるアニール炉である。加熱装置についても半導体プロセスにおいては周知の装置であり、詳しい説明は省略するが、概ね、Siウェハ200を収容する炉と炉内の温度を上昇させる熱源と炉内の温度を調整する制御ユニット等で構成されている。本実施形態では加熱装置は、500℃程度でSiウェハ200を加熱できるように構成されている。
【0043】
続いて、上記の各装置を用いてSiウェハ200に構造体を形成する方法について説明する。まず、レーザ光照射工程では、上記のレーザ光照射装置100のステージ140にSiウェハ200を配置する。そしてSiウェハ200の内部にレーザ光の焦点160を合わせ、例えば5μmのピッチでレーザ光を走査する。これにより、
図2(a)に示されるように、Siウェハ200のうちレーザ光を照射した部分を局所的に加熱してSiウェハ200の内部に改質部230を形成する。
【0044】
改質部230は、Siウェハ200の一部が溶けてSiの結晶が変質した部分である。「変質した部分」とは、例えば、レーザ光の焦点160に対応する部分が昇華して空洞化すること、再結晶化すること、アモルファス状態になること等のSiウェハ200の一部が改質した部分である。また、改質部230は、レーザ光の焦点160が照射された部分の体積が膨張した体積膨張部である。このため、改質部230は周囲のSi結晶に対して残留応力を発生させる。
【0045】
この後、イオン注入工程では、Siウェハ200の表面210側からSiウェハ200の内部に対してSiウェハ200の表面210の上方からイオン注入を行う。これにより、
図2(b)に示されるように、Siウェハ200にイオン注入層240を形成する。このように、レーザ光照射工程を行った後にイオン注入工程を行っているので、レーザ光がイオン注入層240で反射することやレーザ光がイオン注入層240に吸収されてしまうことを防止することができる。
【0046】
具体的な条件としては、ヘリウムイオンをイオン注入する場合、ドーズ量は20×10
17/cm
2、イオンのエネルギーは100keV〜200keVである。この条件ではイオンのエネルギーが比較的小さいので、イオン注入層240はSiウェハ200の表層部に浅く形成される。
【0047】
一方、水素イオンを注入する場合、ドーズ量は8×10
16/cm
2、イオンのエネルギーは40keV〜2MeVである。イオンのエネルギーが大きいので、イオン注入層240はヘリウムイオンを注入した場合よりも深く形成される。
【0048】
図3はSiウェハ200に水素イオンを注入した場合のTEM画像である。この図に示されるように、Siウェハ200の内部に局所的に加熱されて変質した改質部230が白い領域として複数見える。また、改質部230の上に薄い白い層が形成されている。この薄い白い層がイオン注入による欠陥層であり、イオン注入層240である。
【0049】
また、
図4のTEM画像に示されるように、Siウェハ200には改質部230の周囲に結晶の転位が発生している。この結晶の転位は改質部230の残留応力によって発生したものと考えられる。
【0050】
そして、加熱工程では、加熱装置を用いてSiウェハ200の全体を例えば500℃で加熱する。これにより、
図5に示されるように、レーザ光の焦点160とイオン注入層240との位置関係に基づいてSiウェハ200にブリスタリング241を発生させる。言い換えると、改質部230とイオン注入層240との位置関係を制御することにより、ブリスタリング241のサイズや発生場所を制御することができる。上述のように、ブリスタリング241はSiウェハ200の内部に形成されたいわゆる空洞部である。また、ブリスタリング241が改質部230に作用することによりSiウェハ200の表面210に突起構造250が現れる。この突起構造250は、上述のヘリウムイオンと水素イオンのどちらを打ち込んでも発現した。
【0051】
図6のCCI画像に示されるように、突起構造250は壁状に隆起している。突起構造250は、レーザ光の走査方向に沿ってSiウェハ200の表面210が隆起した構造体である。つまり、改質部230が突起構造250の下部に等間隔で位置している。突起構造250の高さは30nm程度、幅は40μm程度である。
図6では突起構造250の高さ方向を拡大表示している。なお、当該観察にはCCIとしてTaylor Hobbson社のTalysurfを用いた。
【0052】
このような突起構造250の隆起は、改質部230とブリスタリング241とが相互作用を起こし、Siウェハ200が加熱されたことで発現したと考えられる。レーザ光を複数列走査することで、複数の壁状の突起構造250が形成された。
【0053】
また、
図7に示されるように、Siウェハ200の表面210を広く見ると、大きなうねりが発生している。その大きなうねりの上に突起構造250が形成されている。この大きなうねりは、Siウェハ200の表面210の面方向において、レーザ光の走査方向に垂直な方向に圧縮応力が発生したために盛り上がったと考えられる。
【0054】
さらに、
図8のTEM画像は、突起構造250の先端の中央を示している。この図に示されるように、溝251が縦の白い棒状の部分として見える。溝251は亀裂のようなものであるが、偶然に発生したものではなく、突起構造250の先端部に突起構造250の延設方向に沿って発現している。溝251の幅は50nm〜60nmであり、Siウェハ200の表面210よりも深く形成されている。このように、突起構造250は、当該突起構造250だけでなく、当該突起構造250の幅に対して非常にサイズが小さい溝251も形成されている。なお、
図8では溝251が見えるように溝251の入口部分を拡大している。
【0055】
以上説明したように、本実施形態では、Siウェハ200へのレーザ光照射による改質部230の形成、所定の条件によるSiウェハ200へのイオン注入、及びSiウェハ200全体の加熱を行うことが特徴となっている。この方法により、Siウェハ200の表面210に突起構造250を形成することができる。この場合、水や薬品を使用せずに、また、Siウェハ200に対して非接触で突起構造250を形成することができるので、Siウェハ200は水や薬品によるダメージや他の構造物等を形成すること等の加工のダメージを一切受けない。したがって、耐久性が高い突起構造250を形成することができる。
【0056】
上記の突起構造250は、例えば、半導体微細パターニング、ナノインプリントの金型、LEDの光量向上のためのデバイス、回折格子の作成、光を散乱させるためのターゲット等に利用することが可能である。また、MEMS技術を用いた微細構造の形成に利用することが可能である。
【0057】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、Siウェハ200が特許請求の範囲の「加工対象物」及び「半導体ウェハ」に対応し、突起構造250が特許請求の範囲の「構造体」に対応する。
【0058】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について説明する。本実施形態では、イオン注入工程において、ドーズ量を10×10
17/cm
2、イオンのエネルギーを100keVとして水素イオンを注入するという条件でイオン注入を行う。これにより、レーザ光の焦点160(つまり改質部230)とイオン注入層240との位置関係に基づいてSiウェハ200にブリスタリング241を発生させ、ブリスタリング241を改質部230に作用させる。これにより、Siウェハ200の表面210に構造体を形成する。なお、本実施形態では、加熱工程は行わない。
【0059】
図9は、CCIでSiウェハ200の表面210を観察した図である。また、
図10は
図9においてレーザ加工(スポット)方向に沿って断面を取った図である。
図9及び
図10に示されるように、Siウェハ200の表面210に波面構造260が発現した。
【0060】
波面構造260は、山部261と谷部262とが交互に繰り返された構造である。言い換えると、波面構造260はSiウェハ200の表面210に凹凸が連続に形成されたしわ構造である。このような波面構造260は、Siウェハ200の表面210の面方向において、当該表面210がレーザ光の走査方向に沿って垂直方向に発現している。
【0061】
上記の波面構造260は、Siウェハ200の表面210の面方向において、レーザ光の走査方向に垂直な方向に衝撃波の応力が伝播して形成されたものと考えられる。このような応力の伝播は、レーザ光を5μmのピッチで照射していることが関連しているものと考えられる。そして、応力の伝播により、Siウェハ200の表面210に引っ張り応力または圧縮応力が発生することで波面構造260が発現する。
【0062】
以上のように、イオン注入工程におけるイオン注入の条件を第1実施形態とは異なる条件とすることで、Siウェハ200の表面210に波面構造260を形成することができる。
【0063】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、波面構造260が特許請求の範囲の「構造体」に対応する。
【0064】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1、第2実施形態と異なる部分について説明する。本実施形態では、レーザ光照射工程の後にイオン注入工程を行い、さらにイオン注入工程の後に加熱工程を行う。レーザ光照射工程については、上記各実施形態と同じ条件でSiウェハ200の内部にレーザ光を照射する。
【0065】
続いて、イオン注入工程では、ドーズ量を8×10
16/cm
2、イオンのエネルギーを1MeV〜2MeVとして水素イオンを注入するという条件でイオン注入を行う。これによりSiウェハ200にイオン注入層240を形成する。
【0066】
この後、第1実施形態と同じ条件で加熱工程を行い、イオン注入層240に基づくブリスタリング241を発生させて改質部230に作用させる。これにより、
図11に示されるように、切り出し片270がSiウェハ200の表層部から剥離する。つまり、本実施形態では構造体として切り出し片270を形成することができる。
【0067】
図12は、Siウェハ200から切り出し片270が複数剥離したものを撮影したものである。切り出し片270は、レーザ光の走査方向に沿ってSiウェハ200から剥離した短冊状のものである。
図12には短冊状もののほかに、L字状や正方形状の切り出し片270もSiウェハ200から剥離している。短冊状の切り出し片270のサイズは長さが1mm〜1cm程度、幅が100μm程度、厚さが1μm〜10μm程度である。
【0068】
切り出し片270は、Siウェハ200のうち当該Siウェハ200に対するレーザ光の走査ライン間が剥離したものである。切り出し片270は、イオン注入層240によるブリスタリングが球状に集合することによってSiウェハ200のうちのブリスタリングの上部の部分が剥離しやすくなることから形成されたと考えられる。言い換えると、第1、第2実施形態ではSiウェハ200の一部が剥離しにくい条件で突起構造250や波面構造260を形成し、本実施形態ではSiウェハ200の一部が剥離しやすい条件で切り出し片270を形成していると言える。
【0069】
以上のように、Siウェハ200の内部で改質部230とブリスタリング241とを相互作用させて切り出し片270を形成することもできる。なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、切り出し片270が特許請求の範囲の「構造体」に対応する。
【0070】
(第4実施形態)
本実施形態では、第1〜第3実施形態と異なる部分について説明する。上記各実施形態では、レーザ光照射工程を行った後にイオン注入工程を行っていたが、本実施形態ではイオン注入工程を行った後にレーザ光照射工程を行う。この場合、イオン注入工程ではSiウェハ200の表面210の上方からイオン注入を行い、レーザ光照射工程ではSiウェハ200の裏面220の上方からSiウェハ200の内部にレーザ光を照射する。これにより、レーザ光がイオン注入層240の影響を受けないようにすることができる。また、Siウェハ200の内部に熱を集中させやすくすることができる。
【0071】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示された構造体の加工方法及び製造方法は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明を実現できる他の構成とすることもできる。例えば、SiC、GaN等の半導体材料、ダイヤモンド、LiTaO
3、LiNbO
3、プラスチック材料やカーボン材料等の複合材料、有機材料、ガラス材料等のレーザ光の照射が可能でかつイオン注入可能な材料を加工対象物としても良い。
【符号の説明】
【0072】
160 レーザ光の焦点
200 Siウェハ(半導体ウェハ)
210 表面
220 裏面
230 改質部
240 イオン注入層
241 ブリスタリング
250 突起構造(構造体)
260 波面構造(構造体)
261 山部
262 谷部
270 切り出し片(構造体)