特許第6441072号(P6441072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6441072食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441072
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/02 20060101AFI20181210BHJP
   C11B 3/06 20060101ALI20181210BHJP
   C11B 3/10 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   A23D9/02
   C11B3/06
   C11B3/10
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-266356(P2014-266356)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-123330(P2016-123330A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 正敏
(72)【発明者】
【氏名】大石 憲孝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 玲
(72)【発明者】
【氏名】塚原 智
(72)【発明者】
【氏名】浜本 一洋
(72)【発明者】
【氏名】石黒 隆
【審査官】 関 景輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/126136(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/018412(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/034154(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/040539(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/075278(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/055732(WO,A1)
【文献】 特表2010−504753(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化処理を含む原料油からの食用油脂の製造において、
前記硬化処理時に、pH7.0以上の白土添加することを特徴とする食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法。
【請求項2】
pH7.0以上の白土は、あらかじめアルカリ処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法。
【請求項3】
硬化処理を含む原料油からの食用油脂の製造において、
前記硬化処理前、硬化処理時および硬化処理後のうちのいずれかの工程においてpH7.0以上の木質系活性炭添加することを特徴とする食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法。
【請求項4】
硬化処理を含む原料油からの食用油脂の製造において、
前記硬化処理時に、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種を添加することを特徴とする食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法。
【請求項5】
硬化処理を含む原料油からの食用油脂の製造において、
硬化処理後に、水酸化カルシウム添加することを特徴とする食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法。
【請求項6】
前記水酸化カルシウムが粉状または顆粒状であることを特徴とする請求項5に記載の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプロパノール類は、プロパノールに塩素が結合した物質の総称であり、その1つである3−クロロ−1,2−プロパンジオール(3−MCPD)はアミノ酸液や醤油等を製造する際に副産物として生成することが知られている。FAO(国際連合食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)によるリスク評価の結果、3−MCPDには遺伝毒性や発がん性は認められないものの、長期間にわたり大量に摂取した場合、腎臓に悪影響を及ぼすことが懸念されている。我が国においては、食品衛生法に基づく基準は設定されていないが、農林水産省では醤油等に対しては、製造法による低減の推進を指導している。また、諸外国においては、EU(ヨーロッパ連合)が0.02mg/kg体重(乾物ベース)、CODEX(国際食品規格委員会)が0.4mg/kg体重の規制を設定している。
【0003】
また、2000年代に入り、食用油脂中には、3−MCPDが脂肪酸と結合したエステル体(3−MCPDE)で存在していることが報告されている(非特許文献1)。この報告によれば、3−MCPDEを含む食品を人が摂取すると、体内でエステルが加水分解され、3−MCPDが生成されることが懸念されている。
【0004】
このような報告を踏まえ、現在も3−MCPDEが人体に及ぼす影響等について継続的に調査されている。
【0005】
実際、3−MCPDEについては、許容摂取量等が定められていないものの、欧州においては、3−MCPDEに結合する脂肪酸が全て遊離して、3−MCPDを生成するとみなす、ドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))による定量が広く行われている。この方法においては、クロロプロパノール類である3−MCPDや3−MCPDEおよびそれらの形成物質であるグリシドールやグリシドール脂肪酸エステルについても、3−MCPDへ変換して測定している。なお、グリシドールについては、WHOの外部組織であるIRAC(国際がん研究機関)により、人に対する発がん性がおそらくある、とされるグループ2Aの化合物に分類されており、その低減が望ましいとされている(非特許文献2)。このようにして定量された3−MCPD量に基づいて人体に及ぼす影響を評価する動きがある。
【0006】
そこで、上記の3−MCPDに代表されるクロロプロパノール類を低減させる方法として、脱臭工程を経ていない食用油脂に相当するグリセリド組成物と、アルカリ白土とを接触させるアルカリ白土処理工程を含むクロロプロパノール類の低減方法が提案されている(特許文献1)。また、食用油脂に相当するグリセリド油脂が100℃以上に加熱される処理以前に、吸着剤処理および/またはアルカリ処理するクロロプロパノール類の低減方法も提案されている(特許文献2)。さらには、クロロプロパノール類を少なくとも1種含有し、および/または、脂肪酸を2つしか持たない食用油脂に相当するジグリセリドを3質量%以上含有するグリセリド油脂を、100℃〜240℃の温度条件にて脱臭処理するクロロプロパノール類の低減方法が提案されている(特許文献3)。また、食用油脂の脱臭工程を190℃〜230℃の温度範囲で行うクロロプロパノール類の低減方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5216942号公報
【特許文献2】国際公開第2010/126136号
【特許文献3】特開2011−74358号公報
【特許文献4】特開2011−147636号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Zelinkova Z, Svejkovska B, Velisek J, Dolezal M.: Fatty acid esters of 3-chloropropane-1,2-diol in edible oils. Food Addit Contam. 2006 Dec;23(12):1290-1298
【非特許文献2】Dr.Rudiger Weisshaar/Fatty acid esters of 3−MCPD: Overview of occurrence in different types of foods (ILSI Europe Workshop in association with the European Commission:5-6 February 2009 Brussels, Belgium) (http://Europe.ilsi.org/ NR/rdonlyres/A1D194E7-BFA2-4a23-A673-15F1905300D5/0/Speaker6Weisshaar.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法は、硬化、脱臭といった温度処理を行う前にアルカリ白土やアルカリで処理する技術であり、当該工程で完全にクロロプロパノール類の生成を抑制することは困難である。また、硬化、脱臭といった高温処理工程を経るとクロロプロパノール類が僅かに生成してしまうことが指摘されていた。
【0010】
特許文献3、4に記載の方法は、脱臭工程においてクロロプロパノール類を低減化する方法であるが、脱臭温度を通常よりも低くするため、臭気の除去が不十分であるという問題があった。
【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、食用油脂中のクロロプロパノール類である3−MCPDや3−MCPDE等を簡便な方法で効率よく低減する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するために、本発明の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法は、硬化処理を含む原料油からの食用油脂の製造において、硬化処理前、硬化処理時および硬化処理後のうちのいずれかの工程において、pH7.0以上の白土、pH7.0以上の木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種を添加することを特徴としている。
【0013】
本発明の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法においては、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムは、粉状であることが好ましい。
【0014】
本発明の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法においては、pH7.0以上の白土、pH7.0以上の木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種の添加量が、処理対象油に対し0.005質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法においては、pH7.0以上の白土およびpH7.0以上の木質系活性炭は、ナトリウムメトキシドおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種と併用することが好ましい。
【0016】
本発明の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法においては、pH7.0以上の白土の二酸化ケイ素含量が、白土の全組成の65質量%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法においては、pH7.0以上の木質系活性炭の灰分が3質量%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法においては、pH7.0以上の白土およびpH7.0以上の木質系活性炭は、あらかじめアルカリ処理されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、食用油脂中のクロロプロパノール類である3−MCPDや3−MCPDEおよびそれらの形成物質であるグリシドールやグリシドール脂肪酸エステルを簡便な方法で効率よく低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明について詳細に説明する。なお、本発明では、クロロプロパノール類は、食用油脂中において生成された3−クロロ−1,2−プロパンジオール(3−MCPD)や3−クロロ−1,2−プロパンジオール脂肪酸エステル(3−MCPDE)およびそれらの形成物質であるグリシドールやグリシドール脂肪酸エステルを含むものとする。
【0021】
本発明の食用油脂中のクロロプロパノール類を低減する方法は、硬化処理を含む原料油からの食用油脂の製造において、硬化処理前、硬化処理時および硬化処理後のうちのいずれかの工程において、pH7.0以上の白土、pH7.0以上の木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種を添加することを特徴としている。
【0022】
ここで、食用油脂の製造方法は、一般に、原料となる植物や動物油脂を圧搾、加熱、溶剤等で抽出した原料油を脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理および脱臭処理を経ることで精製される一連の工程を含んでいる。また、上記の製造方法には、脱ろう処理を含む場合もある。そして、一般に硬化処理は脱ガム、脱酸、脱色等の精製した油脂、精製後脱臭した油脂等を使用できる。
【0023】
本発明では、原料油に対し、硬化処理前、硬化処理時および硬化処理後のうちのいずれの時点においてpH7.0以上の白土、pH7.0以上の木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種を添加することで、硬化反応中に生成するクロロプロパノール類を低減化する。
【0024】
(pH7.0以上の白土)
白土は、カオリンやモンモリロン石と呼ばれる粘土鉱物を主成分とした酸性白土や、酸性白土を硫酸や塩酸などで活性化処理を施した活性白土であり、産地により、pHや成分が異なる。本発明において使用する白土は、pH7.0以上、好ましくはpH8.0以上のものが例示される。白土のpHの測定方法としては、JIS K 5101−17−1:2004 顔料試験方法等が例示される。
【0025】
また、本発明において使用する白土の二酸化ケイ素(SiO)含量は、白土の全組成の65質量%〜85質量%であることが好ましく、より好ましくは68質量%〜83質量%の範囲が例示される。SiO含量が、上記の範囲内であれば、クロロプロパノール類の生成をより抑制することができる。このような白土の市販品としては、例えば、MIZUKA−ACE #300(pH8.5、SiO含量70.5%、水澤化学工業株式会社製)等が例示される。
【0026】
さらにまた、白土は、予めアルカリ処理したものも好適に使用することができる。ここで、アルカリ処理とは、白土をアルカリ溶液と混合後、濾過や遠心分離により脱溶媒処理する工程を含む。
【0027】
アルカリ処理に用いるアルカリ物質としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、有機酸塩、アルコキシド化合物等が例示される。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリポリリン酸ナトリウム等が例示される。特に、水酸化ナトリウムは、強アルカリであり、低添加量で所要の効果を発現するので好ましい。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0028】
このようなアルカリ物質は、白土と接触しやすいことから溶媒に溶解し、アルカリ溶液として使用することが好ましい。アルカリ物質の溶解に用いることができる溶媒としては、水、メタノールやエタノール等のアルコール類が例示される。溶媒としては単独で使用してもよく2種以上を併用してもよいが、水分が少ない方が好ましい。溶媒中の水分が少なければ、白土をよりアルカリ性とすることができる。アルカリ性を高めることにより、クロロプロパノール類をより低減化することができる。
【0029】
アルカリ溶液の好ましい濃度としては、例えば、0.01mol/L〜5mol/Lの範囲が例示される。
【0030】
また、pH7以上の白土は、ナトリウムメトキシドおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種と併用することも可能である。
【0031】
(pH7.0以上の木質系活性炭)
本発明で用いることができる活性炭としては、例えば、オガ屑、硬質の木材チップ、木炭(素灰)等を原料とする木質系活性炭が例示される。本発明においては、活性炭の形状については、特に制限はないが、原料油中での分散性が良好であって、かつ、原料油との接触面積が大きくなり、より効率的にクロロプロパノール類を低減させることから、粉状活性炭を用いることが好ましい。
【0032】
これらの活性炭は、賦活処理を施すことにより吸着能を高めることが可能である。活性炭の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、空気および燃焼ガス等によるガス賦活と塩化亜鉛やリン酸等を用いた薬品賦活等が例示される。なかでも水蒸気賦活を用いることが好ましい。また、活性炭は、賦活処理時の温度により、500℃以上の高温で賦活処理した塩基性活性炭と500℃未満の比較的低温で賦活処理した酸性活性炭に分類することができるが、本発明においては、塩基性活性炭を用いることが好ましい。本発明において使用する塩基性活性炭は、pH7.0以上、好ましくはpH8.0以上のものが例示される。活性炭のpHの測定方法は、JIS K 1474:2004 活性炭試験方法等が例示される。
【0033】
また、本発明において使用する活性炭の灰分は、3%〜8%であることが好ましく、より好ましくは4%〜7%の範囲が例示される。このような活性炭の市販品としては、例えば、梅蜂IE印活性炭(pH9.7、灰分4.4%、大平化学産業株式会社製)、PW−D(pH8.8、灰分4.2%、クラレケミカル株式会社製)、NORIT HB−PLUS(pH10.1、灰分7%、キャボットノリットジャパン株式会社製)等が例示される。
【0034】
さらに、活性炭の水分含量は低い方が好ましい。活性炭の水分含量が少なければ、原料油に対する活性炭の添加量が少なくて済み、また、油脂の加水分解を防ぐことも可能である。
【0035】
pHが高い活性炭は、pHの低い活性炭を高温で賦活処理すること、アルカリ処理すること、または賦活処理後さらにアルカリ処理することによっても得ることができる。ここで、アルカリ処理とは、活性炭をアルカリ溶液と混合後、濾過や遠心分離により脱溶媒処理する工程を含む。
【0036】
アルカリ処理に用いるアルカリ物質としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、有機酸塩、アルコキシド化合物等が例示される。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリポリリン酸ナトリウム等が例示される。特に、水酸化ナトリウムは、強アルカリであり、低添加量で効果を発現するので好ましい。これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
このようなアルカリ物質は、活性炭と接触しやすいことから溶媒に溶解し、アルカリ溶液として使用することが好ましい。アルカリ物質の溶解に用いることができる溶媒としては、水、メタノールやエタノール等のアルコール類が例示される。これらの溶媒は単独で使用してもよく2種以上を併用してもよいが、水分が少ない方が好ましい。溶媒中の水分が少なければ、活性炭をよりアルカリ性とすることができる。アルカリ性を高めることによりクロロプロパノール類をより低減化することができる。
【0038】
アルカリ溶液の好ましい濃度としては、例えば、0.01mol/L〜5mol/Lの範囲が例示される。
【0039】
また、pH7以上の木質系活性炭は、ナトリウムメトキシドおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種と併用することも可能である。
【0040】
(炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウム)
本発明においては、上記の白土および活性炭に加えて、特定のアルカリ物質を硬化処理前、硬化処理時または硬化処理後に添加することによっても、原料油中のクロロプロパノール類の低減化を図ることができる。
【0041】
アルカリ物質としては、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムを用いることができる。これらは食品や医薬品用として一般に用いられているもので良く、単独あるいは両方を組み合わせて用いることができる。
【0042】
炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムは、原料油中での分散性が良好であって、かつ、原料油との接触面積が大きくなることから、粉状または顆粒状のものを用いることが好ましく、より好ましくは粉状である。
【0043】
(原料油への白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムの添加)
上記の白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムの添加は、硬化処理前、硬化処理時および硬化処理後のいずれの時点においても可能であるが、硬化処理前または硬化処理後に添加する場合、それぞれ硬化処理工程の前後いずれかに添加のための工程を追加する必要がある。一方、硬化処理時に添加する場合、従来の硬化処理工程と同時にクロロプロパノール類の低減が可能となるため、生産効率が良好となる。また、硬化処理時に添加すると、クロロプロパノール類の低減率が高くなるため好ましい。
【0044】
(硬化処理工程)
本発明は、硬化処理を行うものであり、硬化反応としては、例えば原料油に硬化触媒を添加したものを反応釜に投入し、真空下で加熱攪拌する。通常、原料油が120℃〜220℃、好ましくは130℃〜195℃未満の温度範囲に到達した時点で加熱をやめ、所要圧(0.01MPa〜2.0MPa)の水素を反応釜に送入し、水素添加反応を開始し、所望により水素を付加させる。硬化反応の終点としては、ヨウ素価、屈折率、融点、水素の消費量等の値を目安として反応の終点を見極め、水素を排気する。その後、油脂を冷却し、油脂中の触媒を除去する。
【0045】
硬化反応に用いる触媒は、我が国の食品衛生法で認可されている食用油脂の硬化触媒であれば特に制限されない。例えば、ニッケルを珪藻土等の多孔質体担体に担持させたもの、あるいはこれを更に油脂で被覆してフレーク状、粒状等にしたもの等が例示される。
【0046】
市販のニッケル触媒としては、例えば、堺化学工業株式会社製のフレークニッケル触媒のSO−100A、SO−750R、SO−850等が例示される。
【0047】
ニッケル触媒の使用量は、原料油の0.05質量%〜1.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0048】
硬化処理前に白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムを添加する場合、原料油に硬化処理前に白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムを添加して5分以上180分以下、より好ましくは10分以上90分以下の範囲内で混合加熱して行われる。硬化処理前における加熱温度は、80℃〜250℃、好ましくは150℃〜250℃の範囲が例示される。
【0049】
その後、上記のとおりの硬化処理が行われるが、白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムを濾過してから硬化処理を行ってもよいし、濾過せずに硬化処理を行い硬化後に濾過することも可能である。
【0050】
また、上記のとおりの硬化処理時に白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムを添加する場合、原料油に白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムを添加して硬化反応が行われる。硬化処理時における加熱温度は、上記のとおり通常油脂の硬化反応が行われる温度範囲が例示される。なお、白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムは、硬化後に濾過することが好ましい。
【0051】
さらに、上記のとおりの硬化処理後に白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムを添加する場合、硬化した食用油脂に白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムを添加して5分以上180分以下、より好ましくは10分以上90分以下の範囲内で混合加熱して行われる。硬化処理後における加熱温度は、120℃〜250℃、好ましくは150℃〜250℃の範囲が例示される。なお、白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムは、所定の時間の経過後に濾過することが好ましい。
【0052】
なお、ヨウ素価は基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の2.3.4.1−2013(ウィイス−シクロヘキサン法)に従い測定することが例示される。
【0053】
また製造工程を考慮すると、硬化処理前(前処理時)の加熱温度と硬化開始温度が同じであること、硬化終了温度と硬化処理後(後処理時)の加熱温度が同じであることが好ましい。硬化処理前(前処理時)の加熱温度が硬化開始温度より高いと、硬化する際に冷却する必要があり、また、硬化処理前(前処理時)の加熱温度が硬化開始温度より低いと硬化する際に加熱する必要があり、生産が煩雑となる。同様に硬化処理後(後処理時)の温度が硬化終了温度より高いと、硬化終了後に一旦加熱する必要があり、また、硬化処理後(後処理時)の温度が硬化終了温度より低いと、硬化終了後に冷却工程が必要であり、生産が煩雑となる。
【0054】
白土、木質系活性炭、炭酸ナトリウムおよび水酸化カルシウムの添加量は、対油0.005質量%以上5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上3質量%以下の範囲が例示される。添加量が0.005質量%未満では、クロロプロパノール類の低減効果が低下し、5質量%を上回ると処理後の濾過に時間を要し生産効率の低下やコストの増加をもたらす。
【0055】
(原料油)
原料油は、植物や動物から油を得る方法(圧搾、加熱、溶剤)で得られたものの他、食用油脂または2種以上の食用油脂を食用油脂分野において通常行われる水素添加、分別、エステル交換等を施した水素添加油、分別油、エステル交換油でよく、また、グリセリンと脂肪酸をエステル化したトリグリセリドでもよい。また、脱ガム、脱酸、脱色、脱ロウおよび脱臭等の各処理は食用油脂分野において通常行われる処理であってよい。
【0056】
本発明で利用される原料油は、食用油脂として用いられるものであれば特に制限はなく、また、常温で液体、固体等の形態は問わない。処理対象油の具体例としては、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油、ヤシ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油および藻類油等の植物油、魚油、豚脂、牛脂、乳脂等の動物油が例示される。
【0057】
本発明の製造方法により得られる食用油脂では、硬化油脂中のクロロプロパノール類の含有量が低減化されている。
【0058】
したがって、本発明の食用油脂の製造方法によれば、食用油脂中のクロロプロパノール類である3−MCPDや3−MCPDEおよびそれらの形成物質であるグリシドールやグリシドール脂肪酸エステルを簡便な方法で効率よく低減することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
なお、実施例においては、以下の処理工程の手順に従っている。
【0061】
また、ヨウ素価は基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の2.3.4.1−2013(ウィイス−シクロヘキサン法)に従い測定した。
【0062】
<硬化処理前工程(前処理)>
魚油(ヨウ素価161)450gに表1に示した白土、表2に示した活性炭を添加し、各時間・各温度、真空下で加熱撹拌した後、白土、活性炭を吸引濾過し、前処理油脂を得た。その後、1リットルのオートクレーブに前処理した魚油(ヨウ素価=161)350g、ニッケル触媒(堺化学工業株式会社製SO−750R)を対油0.3質量%(1.05g)添加し、真空下で180℃まで加熱後、表の水素圧(ゲージ圧)、攪拌数750rpmで攪拌しながら水素添加反応を行い、油脂のヨウ素価が70に低下するまで硬化を行なった。その後ニッケル触媒を吸引濾過し硬化油を得た。
【0063】
上記で得た硬化油をドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))に準じて3−MCPDに換算した値としてクロロプロパノール類の総量を求めた。
【0064】
<硬化処理時工程(硬化中)>
1リットルのオートクレーブに魚油(ヨウ素価161)350g、ニッケル触媒(堺化学工業株式会社製SO−750R)を対油0.3質量%(1.05g)、表1に示した白土、表2〜4に示した活性炭、および表4、5に示したアルカリを添加し、真空下で表に示した硬化温度まで加熱後、表の水素圧(ゲージ圧)、攪拌数750rpmで攪拌しながら水素添加反応を行い、油脂のヨウ素価が70まで低下するまで硬化を行なった。その後ニッケル触媒および白土、活性炭、アルカリを吸引濾過し硬化油を得た。上記で得た硬化油をドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))に準じて3−MCPDに換算した値としてクロロプロパノール類の総量を求めた。
【0065】
<硬化処理後(後処理)>
1リットルのオートクレーブに魚油(ヨウ素価161)350g、ニッケル触媒(堺化学工業株式会社製SO−750R)を対油0.3質量%(1.05g)添加し、真空下で表に示した硬化温度まで加熱後、表の水素圧(ゲージ圧)、攪拌数750rpmで攪拌しながら水素添加反応を行い、油脂のヨウ素価が70に低下するまで硬化を行なった。その後ニッケル触媒を吸引濾過した。上記で得た硬化油(処理前)に表2に示した活性炭、表5に示した水酸化カルシウムを添加し、真空下で、各温度で加熱を行なった後、活性炭、水酸化カルシウムを吸引濾過し硬化油(処理後)を得た。
【0066】
上記で得た硬化油をドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))に準じて3−MCPDに換算した値としてクロロプロパノール類の総量を求めた。
【0067】
(参考例1)
1リットルのオートクレーブに魚油(ヨウ素価161)350g、ニッケル触媒(堺化学工業株式会社製SO−750R)を対油0.3質量%(1.05g)添加し、水素圧0.5MPa(ゲージ圧)を維持するように水素を吹き込んで、攪拌数750rpmで攪拌しながら水素添加反応を行い、油脂のヨウ素価が70に低下するまで硬化を行なった。その後ニッケル触媒を吸引濾過し硬化油を得た。上記で得た硬化油をドイツ公定法(DGF Standard Methods C−III 18(09))に準じて3−MCPDに換算した値としてクロロプロパノール類の総量を求めた。(以下、3−MCPD生成量と表記する)
(参考例2)
水素圧0.12MPa(ゲージ圧)に変えた以外は参考例1と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0068】
[白土による試験]
(実施例1)
前記の前処理の手順に従って、魚油に白土として対油3質量%の酸性白土(MIZUKA−ACE #300、以下MA300と表記、pH8.5、SiO含量70.5%、水澤化学工業株式会社製)を添加し、真空下100℃で20分処理した後、濾過により白土を取り除き、前処理油脂を得た。前処理油脂を参考例1と同様の条件で硬化し、3−MCPD生成量を求めた。
【0069】
(実施例2)
あらかじめ活性白土(GALLEON EARTH V2、以下V2と表記、pH3.3、SiO含量79.8%、水澤化学工業株式会社製)に対して5倍量の1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え、常温・常圧で30分間攪拌後、濾過により白土を回収し、その後真空下300℃で4時間乾燥させてアルカリ処理を行った。前記の硬化中の手順に従って、魚油に白土として対油0.46質量%のアルカリ処理したV2(pH11.1)を添加し、アルカリ処理白土を入れたまま参考例2と同様の条件で硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0070】
(実施例3)
あらかじめ酸性白土(MIZUKA−ACE #300、以下MA300と表記、pH8.5、SiO含量70.5%、水澤化学工業株式会社製)に対して5倍量の1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え、常温・常圧で30分間攪拌後、濾過により白土を回収し、その後真空下300℃で4時間乾燥させてアルカリ処理を行った。前記の硬化中の手順に従って、白土としてアルカリ処理した酸性白土MA300(pH11.2)を、対油1.5質量%添加したこと以外は、実施例2と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中のクロロプロパノール類の総量を3−MCPDに換算した値として求めた。
【0071】
実施例1における3−MCPDの低減率(%)は、参考例1における3−MCPD生成量(ppm)を基準として、実施例2、3における3−MCPDの低減率(%)は、参考例2における3−MCPD生成量(ppm)を基準として以下の計算式で算出された。
【0072】
3−MCPD低減率(%)=100−
{(各実施例での3−MCPD生成量(ppm))/
(参考例1または2での3−MCPD生成量(ppm))}×100
結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示したように、実施例1では、硬化工程の前処理としてpH7以上の白土を原料油に添加することにより、添加なしの参考例1と比較して約20%程度クロロプロパノール類を低減可能であることが確認された。また、実施例2、3では、硬化工程時にアルカリ処理した白土を添加することで、実施例1よりもさらにクロロプロパノール類の低減率の向上が可能であることが示された。
【0075】
[活性炭添加による試験]
(実施例4)
前記の前処理の手順に従って、魚油に木質系活性炭として対油3質量%のアルカリ性活性炭(PW−D(pH8.8)、クラレケミカル株式会社製)を添加し、真空下180℃で1時間加熱撹拌した後、濾過により活性炭を取り除き、前処理油脂を得た。前処理油脂を参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0076】
(実施例5)
前記の硬化中の手順に従って、魚油に木質系活性炭として対油0.5質量%のPW−D(pH8.8)を添加し、参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0077】
(実施例6)
PW−Dの添加量を対油1質量%に増量したこと以外は、実施例5と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0078】
(実施例7)
PW−Dの添加量を対油3質量%に増量したこと以外は、実施例5と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0079】
(実施例8)
参考例2と同様に硬化し硬化油脂を得た。前記の後処理の手順に従って、対油3質量%のPW−D(pH8.8)を添加して、100℃を維持したまま15分間攪拌混合した。続いて、15分かけて180℃まで昇温し、180℃を維持したまま15分間攪拌混合した後、濾過により活性炭を取り除き、後処理油脂を得た。その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0080】
(実施例9)
参考例2と同様に硬化し硬化油脂を得た。前記の後処理の手順に従って、硬化油脂と活性炭を180℃からさらに15分かけて220℃まで昇温し、220℃を維持したまま15分間攪拌混合したこと以外は、実施例8と同様にして硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0081】
(実施例10)
前記の硬化中の手順に従って、魚油に木質系活性炭として対油0.3質量%の梅蜂IE印活性炭(以下梅蜂IE印と表記する、pH9.7、大平化学産業株式会社製)を添加し、参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0082】
(実施例11)
梅蜂IE印の添加量を対油0.5質量%に増量したこと以外は、実施例10と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0083】
(実施例12)
梅蜂IE印の添加量を対油1質量%に増量したこと以外は、実施例10と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0084】
(実施例13)
梅蜂IE印の添加量を対油3質量%に増量したこと以外は、実施例10と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0085】
(実施例14)
前記の硬化中の手順に従って、魚油に木質系活性炭として対油0.1質量%のNORIT HB−PLUS(以下HB−PLUSと表記する、pH10.1、キャボットノリットジャパン株式会社製)を添加し、参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0086】
(実施例15)
HB−PLUSの添加量を対油0.5質量%に増量したこと以外は、実施例14と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0087】
(比較例1)
木質系活性炭であるPW−Dの代わりに石炭系活性炭であるKW−P(pH9.2、クラレケミカル株式会社製)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0088】
(比較例2)
木質系活性炭であるPW−Dの代わりにヤシ殻由来活性炭であるGW−HP(pH7.5、クラレケミカル株式会社製)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0089】
(比較例3)
木質系活性炭であるPW−Dの代わりにヤシ殻由来活性炭であるGW−P(pH8.5、クラレケミカル株式会社製)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0090】
(比較例4)
PW−Dの代わりに木質系活性炭であるA−W50(pH5.8、フタムラ化学株式会社製)を対油1%使用したこと以外は、実施例5と同様にして魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0091】
結果を表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2に示したように、pH7以上の木質系由来の活性炭を原料油に添加することにより、クロロプロパノール類の低減が可能であることが確認された。この効果は、硬化処理時に活性炭を添加した場合に特に顕著であることが示唆された。また、活性炭の添加量に量依存的にクロロプロパノール類の低減率が増大することも示唆された。さらに、活性炭の灰分が3%以上であることも、クロロプロパノール類の低減率に効果的であることが示唆された。
【0094】
一方、比較例1〜4の結果から、活性炭が木質系由来以外のものである場合、また、活性炭のpHが7未満の場合、クロロプロパノール類の低減が認められなかった。
【0095】
[アルカリ処理した活性炭による試験]
(実施例16)
あらかじめ木質系活性炭であるHB−PLUSに、5倍量の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加え、常温・常圧で60分間攪拌混合し、濾過により活性炭を回収後、80℃で210分間乾燥させてアルカリ処理を行った。前記の硬化中の手順に従って、魚油に活性炭として対油0.1質量%のアルカリ処理したHB−PLUS(pH10.8)を添加し、活性炭を入れたまま参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0096】
(実施例17)
あらかじめ木質系活性炭であるHB−PLUSに、5倍量の1mol/Lの水酸化ナトリウム/エタノール溶液を加え、常温・常圧で3時間攪拌混合し、濾過により活性炭を回収後、70℃で60分間乾燥させてアルカリ処理を行った。前記の硬化中の手順に従って、魚油に活性炭として対油0.1質量%のアルカリ処理したHB−PLUS(pH11.9)を添加し、活性炭を入れたまま参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0097】
【表3】
【0098】
表3に示すように、実施例17では、あらかじめpH7以上の木質系活性炭にアルカリ溶液処理することにより、クロロプロパノール類の低減率を増強可能であることが示唆された。実施例16では、アルカリ溶液の溶媒として水を用いているため、エタノールを用いた実施例17よりクロロプロパノール類の低減効果が減少したものと考えられる。
【0099】
[活性炭とアルカリ物質の併用による試験]
(実施例18)
前記の硬化中の手順に従って、魚油に木質系活性炭として対油0.1質量%のHB−PLUSと対油0.1質量%の粉状の炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製)を添加し、参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0100】
(実施例19)
炭酸ナトリウムの代わりに対油0.01質量%の粉状の水酸化カルシウムを添加したこと以外は、実施例18と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0101】
(実施例20)
水酸化カルシウムの添加量を0.05質量%に増量したこと以外は、実施例19と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0102】
(実施例21)
水酸化カルシウムの添加量を0.1質量%に増量したこと以外は、実施例19と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0103】
(実施例22)
炭酸ナトリウムの代わりに対油0.01質量%の粉状のナトリウムメトキシドを添加したこと以外は、実施例18と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0104】
(実施例23)
前記の硬化中の手順に従って、魚油に木質系活性炭として対油0.09質量%のHB−PLUSと粉状の水酸化ナトリウム(粒状の水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)を乳鉢ですり潰して得た)を対油0.01質量%添加し、参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中3−MCPD生成量を求めた。
【0105】
実施例18〜23における3−MCPDの低減率(%)は、参考例2における3−MCPD生成量(ppm)を基準として、白土による試験と同様の計算式で求められた。
【0106】
結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4に示すように、実施例14のpH7以上の木質系活性炭とアルカリとを併用することによって、実施例14に対して、クロロプロパノール類の低減率が約2〜5倍に増強されることが確認された。また、実施例19〜21の結果から、アルカリの添加量が増大するにつれてクロロプロパノール類の低減率も増強されることが示唆された。
【0109】
[アルカリ物質の添加による試験]
(実施例24)
前記の硬化中の手順に従って、魚油にアルカリ物質として対油0.1質量%の粉状の炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製)を添加し、参考例2と同様に硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0110】
(実施例25)
炭酸ナトリウムを対油0.01質量%の粉状の水酸化カルシウムに変更したこと以外は、実施例24と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0111】
(実施例26)
水酸化カルシウムの添加量を0.025質量%に増量したこと以外は、実施例25と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0112】
(実施例27)
水酸化カルシウムの添加量を0.05質量%に増量したこと以外は、実施例25と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0113】
(実施例28)
水酸化カルシウムの添加量を0.1質量%に増量したこと以外は、実施例25と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0114】
(実施例29)
参考例2と同様に硬化し硬化油脂を得た。その後、前記の後処理の手順に従って、対油0.3質量%の粉状の水酸化カルシウムを添加して、180℃を維持したまま60分間攪拌混合した後、濾過により水酸化カルシウムを取り除き、後処理油脂を得た。その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0115】
(比較例5)
炭酸ナトリウムを対油0.1質量%の粉状の炭酸カルシウムに変更したこと以外は、実施例24と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0116】
(比較例6)
炭酸ナトリウムを対油0.1質量%の粉状のリン酸二水素カリウムに変更したこと以外は、実施例24と同様に魚油を硬化させ、その後硬化油脂中の3−MCPD生成量を求めた。
【0117】
(比較例7)
実施例24と同様の処理において、炭酸ナトリウムを粉状の水酸化ナトリウム(粒状の水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)を乳鉢ですり潰して得た)を対油0.1質量%に変更し、硬化したが、ヨウ素価は低下せず、硬化反応は進まなかった。
【0118】
(比較例8)
実施例24と同様の処理において、炭酸ナトリウムを対油0.01質量%の粉状のナトリウムメトキシドに変更し、硬化したがヨウ素価は低下せず、硬化反応は進まなかった。
【0119】
(比較例9)
比較例8と同様の処理において、ナトリウムメトキシドの添加量を対油0.1質量%に増量し、硬化したがヨウ素価は低下せず、硬化反応は進まなかった。
【0120】
実施例24〜29および比較例5〜6における3−MCPDの低減率(%)は、参考例2における3−MCPD生成量(ppm)を基準として、白土による試験と同様の計算式で求められた。
【0121】
結果を表5に示す。
【0122】
【表5】
【0123】
表5に示すように、アルカリ物質として、原料油に炭酸ナトリウムと水酸化カルシウムを添加した場合、クロロプロパノール類を低減可能であることが示された。水酸化カルシウムに関しては、硬化工程時に添加量が増大するにつれて、クロロプロパノール類の低減作用も増大することが確認された。また、実施例25〜28と実施例29との対比から、硬化工程時にアルカリ物質を添加することで、クロロプロパノール類の低減効果が高まることが示唆された。すなわち、本発明は、硬化処理前や硬化処理後にアルカリ物質を添加する工程や、この工程のための新たな設備導入を追加しなくても、良好なクロロプロパノール類の低減効果を得ることができると考えられる。
【0124】
一方、比較例5、6の結果から、アルカリ物質であっても、炭酸カルシウムを添加した場合や酸性物質であるリン酸二水素カリウムを添加した場合には、クロロプロパノール類の低減効果が認められなかった。また、比較例7〜9の結果から、水酸化ナトリウム粉末、ナトリウムメトキシドを添加した場合には、油脂の硬化反応自体が起こらなくなることが確認された。このことから、本発明は、単にアルカリ性の物質を添加するのではなく、特定のアルカリ性の物質を添加することが、クロロプロパノール類の低減には有効であることを示唆しているものと考えられる。