特許第6441083号(P6441083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6441083分散安定性または再分散性が向上した粉末状の可食性植物加工物を含む飲料の製造方法
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  • 6441083-分散安定性または再分散性が向上した粉末状の可食性植物加工物を含む飲料の製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441083
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】分散安定性または再分散性が向上した粉末状の可食性植物加工物を含む飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/62 20060101AFI20181210BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20181210BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20181210BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20181210BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   A23L2/00 L
   A23L2/38 C
   A23L2/38 P
   A23L2/52
   A23C9/152
   A23F3/16
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-559805(P2014-559805)
(86)(22)【出願日】2014年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2014052583
(87)【国際公開番号】WO2014119798
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-19890(P2013-19890)
(32)【優先日】2013年2月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今澤 武司
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−188010(JP,A)
【文献】 特開2006−158333(JP,A)
【文献】 特開平8−023942(JP,A)
【文献】 特開2004−097146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)粉末状の水不溶性可食性植物加工物を油脂に混合して分散させる工程、および
(b)粉末状の水不溶性可食性植物加工物と油脂との分散物を水と混合して均質化処理する工程
を含む(但し、脂溶性素材を油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性素材分散油と、糖質を水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して油脂−糖質被覆分散液を作製する工程を除く)、粉末状の水不溶性可食性植物加工物を含有する飲料の製造方法。
【請求項2】
(a)工程と(b)工程の間に、さらに均質化処理する工程を有する、請求項1に記載する製造方法。
【請求項3】
上記(b)工程で用いる水が乳または乳成分を含むものである、請求項1または2に記載する製造方法。
【請求項4】
安定剤および/または乳化剤を配合しないことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載する製造方法。
【請求項5】
粉末状の水不溶性可食性植物加工物が、茶、野菜、果実、穀物および豆類からなる群から選択される少なくとも1種の植物の乾燥粉末である、請求項1乃至4のいずれかに記載する製造方法。
【請求項6】
(a)工程で得られる分散物が、原料として使用する油脂および水不溶性可食性植物加工物に由来する水以外の水を含まないことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載する製造方法。
【請求項7】
前記(b)工程後、調製された飲料をさらに容器に充填密封して容器詰め飲料を製造する工程を有する、請求項1乃至6のいずれかに記載する製造方法。
【請求項8】
粉末状の水不溶性可食性植物加工物を油脂と混合して分散させる工程を経ないで調製される飲料と比べて、少なくとも、飲料中の粉末状の水不溶性可食性植物加工物の分散安定性が向上しているか、または飲料中の粉末状の水不溶性可食性植物加工物の再分散性が向上してなる飲料を製造する方法である、請求項1乃至7のいずれかに記載する製造方法。
【請求項9】
飲料中の粉末状の水不溶性可食性植物加工物の退色が抑制されてなる飲料を製造する方法である、請求項8に記載する製造方法。
【請求項10】
粉末状の水不溶性可食性植物加工物を含む飲料の製造工程において、粉末状の水不溶性可食性植物加工物を予め油脂に分散させたものを水と混合して均質化処理する工程(但し、脂溶性素材を油脂及び親油性乳化剤に分散した脂溶性素材分散油と、糖質を水及び親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して油脂−糖質被覆分散液を作製する工程を除く)を有することを特徴とする、飲料中の粉末状の水不溶性可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させる方法。
【請求項11】
上記水が乳または乳成分を含むものである、請求項10に記載する方法。
【請求項12】
安定剤および/または乳化剤を配合しないことを特徴とする、請求項10または11に記載する方法。
【請求項13】
粉末状の水不溶性可食性植物加工物が、茶、野菜、果実、穀物および豆類からなる群から選択される少なくとも1種の植物の乾燥粉末である、請求項10乃至12のいずれかに記載する方法。
【請求項14】
粉末状の水不溶性可食性植物加工物を油脂に分散させたものが、当該油脂および水不溶性可食性植物加工物に由来する水以外の水を含まないことを特徴とする、請求項10乃至13のいずれかに記載する方法。
【請求項15】
飲料中の粉末状の水不溶性可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させるとともに、飲料中の粉末状の水不溶性可食性植物加工物の退色を抑制する方法である、請求項10乃至14のいずれかに記載する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状の可食性植物加工物を含む飲料に関して、当該飲料中の不溶性固形物(粉末状の可食性植物加工物)の分散安定性を向上して沈殿を抑制し、また、沈殿した場合でも、軽く振るだけで容易に元の分散状態が復元できるように再分散性が向上されてなる飲料、およびその製造方法に関する。
【0002】
また、本発明は、粉末状の可食性植物加工物を含む飲料について、当該飲料中の不溶性固形物(粉末状の可食性植物加工物)の分散安定性を向上する方法、また、沈殿した場合でも、軽く振るだけで容易に元の分散状態が復元できるように再分散性を向上するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
抹茶は、その深みのある自然な風味から、飲料若しくは飲料用成分として、または各種の飲食品への添加材料として用いられている。また、近年の健康志向に伴い、ケールや大麦(若葉)等の緑黄色野菜の乾燥粉末が、飲料若しくは飲料用成分として、または各種の飲食品への添加材料として用いられるようになっている。
【0004】
しかし、これらの乾燥粉末は、いずれも水に不溶の固形物(不溶性固形物)であることから、それらを飲料に配合する場合、特に容器に充填して、市場に流通させる容器詰飲料の場合、流通中または保存中に粉末が沈殿(沈降)する、または、それが容器の底で凝集固結するという問題がある。また、容器詰飲料の場合、製造工程で行う殺菌処理により、緑黄色野菜の乾燥粉末の鮮やかな色が退色または変色してしまい、上記沈殿の問題とともに、飲料の外観および風味(食感)を損なう原因ともなる。
【0005】
かかる問題を解消する方法として、通常、セルロースや増粘多糖類などの安定剤を用いることで、不溶性固形物の沈殿を抑制する方法が採用されている。また、他の方法として、抹茶にマルトースおよび牡蠣殻等に由来するカルシウム剤を混合して含有させることにより、緑色の保持や水系媒体への分散および溶解性を改善する方法(特許文献1)、ならびに、抹茶等の不溶性固形物に、安定剤と水もしくは湯を加え、100〜250kg/cm2の圧力でホモゲナイズ処理を行い、溶液中に安定剤をコロイド状に分散させ、当該コロイドに不溶性固形物を保持させて安定化する方法(特許文献2)なども提案されている。しかし、安定剤などを用いることで、飲料の食感や風味が不自然になることもある。また、安定剤などを用いることで飲料原価がコストアップする。
【0006】
一方、安定剤を用いない方法として、平均粒子径が7〜20μmの抹茶粉末を水に分散させて、20〜90℃にて5MPa以上の圧力で均質化処理し、飲料中の不溶性固形物の沈殿凝集を抑制する方法(特許文献3)が提案されている。しかし、この方法が適用できるのは、平均粒子径が7〜20μmの範囲にある抹茶粉末であり、粉末の平均粒径を予め調整する必要があることなどを考慮すると、煩雑であり、実用性に欠けるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−259805号公報
【特許文献2】特開2001−29053号公報
【特許文献3】特開2007−53913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述する従来の問題を解決することを目的とする。具体的には、本発明は、粉末状の可食性植物加工物を含む飲料に関して、好ましくは安定剤を用いることなく、当該飲料中の不溶性固形物(粉末状可食性植物加工物)の分散安定性を向上して沈殿を抑制し、また、沈殿した場合でも、軽く振るだけで元の分散状態が簡単に復元できるように再分散性が向上されてなる飲料、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、粉末状の可食性植物加工物を含む飲料について、好ましくは安定剤を用いることなく、当該飲料中の不溶性固形物(粉末状の可食性植物加工物)の分散安定性を向上する方法、また、沈殿した場合でも、軽く振るだけで元の分散状態が簡単に復元できるように再分散性を向上するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、粉末状の可食性植物加工物を含む飲料を製造するに際して、飲料の調製に用いる水に、粉末状の可食性植物加工物をそのまま配合するのではなく、粉末状の可食性植物加工物を予め油脂と混合して分散させたものを配合することで、上記方法で調製される飲料(以下、飲料の調製に用いる水に粉末状可食性植物加工物をそのまま配合して調製される飲料を「コントロール飲料」という)に比べて、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性が有意に向上されて、経時的に生じる沈殿が抑制されること、また、生じた沈降物の再分散性が有意に向上されて、軽く振るだけで元の分散状態が復元できることを見出した。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0012】
(I)粉末状の可食性植物加工物を含有する飲料の製造方法
(I-1)(a)粉末状の可食性植物加工物を油脂に混合して分散させる工程、および
(b)粉末状の可食性植物加工物と油脂との分散物を水と混合して均質化処理する工程
を含む、粉末状の可食性植物加工物を含有する飲料の製造方法。
(I-2)(a)工程と(b)工程の間に、さらに均質化処理する工程を有する、(I-1)に記載する製造方法。
(I-3)上記(b)工程で用いる水が乳または乳成分を含むものである、(I-1)または(I-2)に記載する製造方法。
(I-4)安定剤および/または乳化剤を配合しないことを特徴とする、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する製造方法。
(I-5)粉末状の可食性植物加工物が、茶、野菜、果実、穀物および豆類からなる群から選択される少なくとも1種の植物の乾燥粉末である、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する製造方法。
(I-6)(a)工程で得られる分散物が、原料として使用する油脂および可食性植物加工物に由来する水以外の水を含まないことを特徴とする(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する製造方法。
【0013】
(II)粉末状の可食性植物加工物を含有する飲料
(II-1)(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する製造方法で得られる少なくとも粉末状の可食性植物加工物、油脂および水を含有する飲料であって、(a)の粉末状の可食性植物加工物を油脂と混合して分散させる工程を経ないで調製される飲料と比べて、少なくとも、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性が向上しているか、または飲料中の粉末状の可食性植物加工物の再分散性が向上してなることを特徴とする、飲料。
(II-2)さらに飲料中の粉末状の可食性植物加工物の退色または変色が抑制されてなる、(II-1)に記載する飲料。
【0014】
(III)飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させる方法
(III-1)粉末状の可食性植物加工物を含む飲料の製造工程において、粉末状の可食性植物加工物を予め油脂に分散させたものを水と混合して均質化処理する工程を有することを特徴とする、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させる方法。
(III-2)粉末状の可食性植物加工物を含む飲料の製造工程において、(a)粉末状の可食性植物加工物を油脂に分散させる工程、および(b)粉末状の可食性植物加工物と油脂との分散物を水と混合して均質化処理する工程を有することを特徴とする、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させる方法。
(III-3)(a)工程と(b)工程の間に、さらに均質化処理する工程を有する、(III-2)に記載する方法。
(III-4)上記水が乳または乳成分を含むものである、(III-1)乃至(III-3)のいずれかに記載する方法。
(III-5)安定剤および/または乳化剤を配合しないことを特徴とする、(III-1)乃至(III-4)のいずれかに記載する方法。
(III-6)粉末状の可食性植物加工物が、茶、野菜、果実、穀物および豆類からなる群から選択される少なくとも1種の植物の乾燥粉末である、(III-1)乃至(III-5)のいずれかに記載する方法。
(III-7)粉末状の可食性植物加工物を油脂に分散させることで得られる分散物が、原料として使用する油脂および可食性植物加工物に由来する水以外の水を含まないことを特徴とする(III-1)乃至(III-6)のいずれかに記載する方法。
(III-8)飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させるとともに、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の退色を抑制する方法である、(III-1)乃至(III-7)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法、ならびに分散安定性または再分散性を向上させる方法によれば、抹茶等の粉末状の可食性植物加工物を含む飲料について、好ましくは安定剤や乳化剤を用いることなく、粉末状の可食性植物加工物を油脂と混合して分散させる工程を経ないで調製される飲料と比べて、当該飲料中の不溶性固形物(粉末状の可食性植物加工物)の分散安定性を向上させることができ、また、沈殿した場合でも、軽く振るだけで元の分散状態に簡単に戻るように再分散性を向上させることができる。また、可食性植物加工物として、緑黄色野菜、特に緑色色素であるクロロフィルを含む野菜を使用した場合、本発明の製造方法によれば、粉末状の可食性植物加工物を油脂と混合して分散させる工程を経ないで調製される飲料と比べて、加熱殺菌や保存によって生じる退色や変色を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実験例5の実験結果を示す。(A)試料を作成した後に20分間、静置した際の試料の状態を示すカラー画像に代わる図面、および(B)試料作成後、20分間静置した後に、遠心分離に供した後の試料の状態を示すカラー画像に代わる図面である。(A)および(B)各図において、向かって左側は、抹茶を油脂に分散することなく水に分散した試料(1)(比較例)の画像であり、向かって右側は、抹茶を油脂に分散させた試料(2)(実施例)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(I)粉末状の可食性植物加工物を含有する飲料の製造方法
本発明は、粉末状の可食性植物加工物を含有する飲料であって、少なくとも、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性が向上しているか、または飲料中の粉末状の可食性植物加工物の再分散性が向上してなることを特徴とする飲料の製造方法である。
【0018】
当該製造方法は、少なくとも下記(a)および(b)の工程により実施することができる:
(a)粉末状の可食性植物加工物を油脂に混合し分散させる工程、および
(b)粉末状の可食性植物加工物と油脂との分散物を水と混合して均質化処理する工程。
【0019】
以下、各工程について説明する。
(a)工程(分散処理工程)
(a)工程で用いる「粉末状の可食性植物加工物」とは、粉末状に調製された水不溶性の可食性植物加工物である。具体的には、果実、野菜(根菜類、茎菜類、葉菜類、花菜類、果菜類)または茶葉等の植物の可食性部位を粉砕して調製されたものであり、好ましくは、これらの乾燥粉末である。なお、本発明の「粉末状の可食性植物加工物」は、1種類の可食性植物から調製されるものであっても、また、2種類以上の可食性植物を任意に組み合わせてなる混合物であってもよい。そして、本発明の「粉末状」は、粉末状そのものの形状を有するものだけでなく、粉末を顆粒状や固形状(タブレット状等)に加工したものであってもよい。
【0020】
ここで、野菜は、特に制限されることなく、根菜類(例えば、人参、ゴボウ、大根等)、茎菜類(例えば、アスパラガス、玉葱、紫玉葱等)、葉菜類(例えば、ホウレン草、ケール、大麦(若葉)、キャベツ、白菜、パセリ、バジル、ヨモギ、クレソン、明日葉、モロヘイヤ、シソ、エゴマ等)、花菜類(例えば、カリフラワー、ブロッコリー等)、および果菜類(例えば、ピーマン、パプリカ、トマト、カボチャ等)のいずれも該当するが、好ましくは、緑黄色野菜である。緑黄色野菜でも、好ましくは、緑色系野菜であるホウレン草、ケール、大麦(若葉)、パセリ、バジル、ヨモギ、クレソン、明日葉、小松菜、ブロッコリー、ピーマン、モロヘイヤ、シソ、およびゴマであり、より好ましくは、一般的に青汁飲料に用いられるケール、大麦(若葉)である。
【0021】
茶葉の粉末として、好ましくは、碾茶(てんちゃ)の粉末である抹茶を挙げることができる。抹茶は、通常、遮光処理を施した茶葉の覆下茶を蒸した後に冷却し、その茶葉を揉捻せずに乾燥し、この得られた乾燥葉を刻んで小片にし、茎、葉柄および葉脈を取り除き、更に乾燥して製造した碾茶を臼で挽いて粉(粉末)にすることで調製される。
【0022】
本発明が対象とする「粉末状の可食性植物加工物」は、好ましくは、ケール、大麦(若葉)、小松菜、ホウレン草からなる群から選択される葉菜の乾燥粉末、ならびに抹茶であり、より好ましくは、ケール、大麦(若葉)、ならびに抹茶であり、さらに好ましくは、抹茶である。
【0023】
なお、本発明で用いる「粉末状の可食性植物加工物」(不溶性固形物)の粒径は、特に制限されないが、例えば、その乾燥物のメディアン直径(粒数メディアン直径)として、5μm以上、好ましくは10〜150μmの範囲、より好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは10〜80μmの範囲、よりさらに好ましくは20〜50μmの範囲を挙げることができる。ここで粒数メディアン直径は、レーザー回折・散乱法に基づいて、レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD−2200(島津製作所製)等の装置によって測定することができる。
【0024】
(a)工程で用いる「油脂」は、特に制限されないが、通常、食品に用いられている油脂を挙げることができる。具体的には、植物性油脂(ヤシ油、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油等)、および動物性油脂(牛脂、豚脂、乳脂肪)であり、好ましくは、融点が常温(15〜25℃)以下の油脂である。つまり、常温で液状である油脂を好適に挙げることができる。好ましくは、植物性油脂であり、より好ましくは、ヤシ油、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油であり、さらに好ましくは、ヤシ油(上昇融点:25℃)である。油脂の風味や価格等の観点から、ヤシ油(精製)は良く用いられており、若干の加温により、液状化するので、製造現場における取扱が比較的に容易である。なお、その臭いや色が最終の飲料に影響しないように精製された油脂(精製ヤシ油等)を好適に挙げることができる。
【0025】
(a)工程において、油脂に混合分散させる粉末状の可食性植物加工物の割合(乾燥重量換算)は、油脂の100重量部に対して、1〜200重量部の範囲から選択することができ、好ましくは、10〜150重量部であり、より好ましくは、50〜100重量部である。
【0026】
なお、実際に製造される最終製品の飲料に含まれる粉末状の可食性植物加工物の割合(乾燥重量換算)は、本発明の効果の観点から、当該飲料の100重量%に対して、0.1〜20重量%の範囲から選択することができ、好ましくは、0.3〜10重量%、より好ましくは、0.5〜5重量%である。また、油脂の割合は、当該飲料の100重量%に対して、0.1〜50重量%の範囲から選択することができ、好ましくは、0.5〜10重量%、より好ましくは、1〜5重量%である。従って、前述する「油脂に対する粉末状の可食性植物加工物の配合の割合」では、最終製品の飲料中の粉末状の可食性植物加工物および油脂の配合の割合を、前記の範囲になるように、適宜調整することが好ましい。
【0027】
油脂に粉末状の可食性植物加工物を分散させる方法は、特に制限されないが、例えば、油脂に粉末状の可食性植物加工物、好ましくは、可食性植物加工物の乾燥粉末をそのまま添加し、定法に従って撹拌混合することによって実施することができる。
【0028】
この分散工程は、原料として使用する油脂と粉末状の可食性植物加工物に含まれている水以外の水が共存しない状態であることが好ましい。つまり、当該分散工程において、水は別途添加(外添)されないことが好ましい。斯くして効率的に、油脂中に緑黄色系の天然色素を始めとする可食性植物に由来する成分を溶出させて溶解や分散させることができる。
【0029】
なお、この分散工程は、基本的に、油脂そのものに粉末状の可食性植物加工物のみを単独で分散する工程であり、この工程において別途、安定剤や乳化剤等の添加剤を配合することは、特に必要とされない。つまり、この分散工程は、安定剤や乳化剤等の添加剤を用いないことが好ましい。
【0030】
なお、ここで、安定剤は、飲食品に含まれる粒子や不溶性固形物等について、その飲食品中の分散を改善するために用いられる食品添加剤である。制限はされないものの、例えば、海藻多糖類(カラギナン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等)、種子多糖類(グアーガム、タマリンドシードガム等)、樹脂多糖類(アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム等)、果皮多糖類(ペクチン等)、発酵多糖類(キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、プルラン等)、セルロース、およびその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース等)、澱粉誘導体(デンプングリコール酸ナトリウム等)、甲殻抽出物(キトサン等)を挙げることができる。
【0031】
また、乳化剤は、飲食品に含まれる油滴(油相)や水滴(水相)等について、その飲食品中の乳化を改善するために用いられる食品添加剤である。制限はされないものの、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、およびプロピレングリコール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0032】
この分散工程の温度条件は、特に制限されないが、通常、5〜60℃であり、好ましくは、10〜40℃であり、より好ましくは、20〜30℃である。分散は、上記の温度条件で0.5〜15分間、好ましくは0.5〜10分間程度、スターラー、撹拌翼、スパチュラーを用いて、油脂と粉末状可食性植物加工物との混合物を撹拌することで実施することができる。
【0033】
なお、当該分散工程の後に、この得られた油脂分散物に対し、必要に応じて、さらに均質化処理してもよい。均質化処理は、通常の均質化の設備や装置、例えば、ホモジナイザー、超音波式乳化機、コロイドミル、ラインミル、ホモミキサー、アジホモミキサー、Uミキサー、マイルダーを用いて行うことができる。好ましくは、高速ホモミキサー、より好ましくは、高圧ホモジナイザー(例えば、マントンゴーリン、マイクロフルダイザー、ナノマイザー(いずれも商標名))を用いることが好ましい。高圧ホモジナイザーを用いる場合の圧力条件としては、制限されないものの、通常1〜50MPaの範囲を挙げることができる。好ましくは5〜40MPaであり、より好ましくは10〜40MPaである。高速ホモミキサーを用いる場合の回転数としては、制限されないものの、例えばラボスケールでの条件では、T.K.ホモミキサー(プライミクス社製:直径30mmの高速回転タービン羽根とステーターとの間を通過する際の剪断により乳化、分散を促進する装置)で、通常2000〜10000rpmの範囲を挙げることができる。好ましくは3000〜9000rpmであり、より好ましくは5000〜7000rpmである。温度条件は、通常、10〜80℃、好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜60℃の範囲に設定することができる。均質化処理時間は、制限されないものの、1〜30分間を例示することができる。
【0034】
(b)工程(均質化処理工程)
上記(a)工程により調製された粉末状の可食性植物加工物と油脂との分散物(油脂分散物)は、その後に、飲料を調製するための水(以下、「飲料調製用水」という)と混合し、当該混合物を均質化処理する工程((b)工程)に供される。
【0035】
ここで、油脂分散物と飲料調製用水との混合処理に際して、飲料調製用水とは別に、飲料に配合する他の可食性成分(但し、安定剤や乳化剤を除く)を配合して混合することもできる。また、飲料に配合する可食性成分が水を含むものである場合、上記飲料調製用水に代えて、当該水を含む可食性成分を配合して混合することもできる。
【0036】
「他の可食性成分」は、安定剤や乳化剤(食品添加剤)でなければ、特に制限されないが、例えば、乳(生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳等)または乳製品(クリーム、バター、バターオイル、ホエイ、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調整粉乳、発酵乳、乳酸菌飲料、および乳飲料等):卵またはその加工品:アルコール類:糖類や合成甘味料等の甘味料:pH調整剤:澱粉:塩類や酸味料等の調味料:着色料:エキス:微量栄養素:香料等を挙げることができる。そして、実際に製造する飲料の種類に応じて、適宜配合することができる。
【0037】
例えば、乳飲料(生乳や牛乳、乳製品を主原料とした飲料で、乳固形分(無脂乳固形分、および乳脂肪分)が3.0%以上である飲料)等を製造する場合には、乳飲料等の種類に応じて、飲料調製用水に加えて(または飲料調製用水に替えて)、前述する乳または乳製品を配合することができる。また、アルコール飲料を製造する場合には、アルコール飲料の種類に応じて、飲料調製用水に加えて(または飲料調製用水に替えて)、日本酒、ビール、焼酎、ワイン、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ジン、梅酒等を配合することができる。
【0038】
実際に製造される最終製品の飲料に含まれる飲料調製用水やその他の可食性成分の配合の割合は、本発明の効果の観点から、前述するように、当該飲料の100重量%に対して、粉末状の可食性植物加工物が乾燥重量に換算して0.1〜20重量%、好ましくは、0.3〜10重量%、より好ましくは、0.5〜5重量%となるように調整し:また、油脂が0.1〜50重量%、好ましくは、0.5〜10重量%、より好ましくは、1〜5重量%となるように調整すればよく、その範囲において、飲料の嗜好性に応じて、適宜設定調整すればよい。
【0039】
上記の方法で製造された混合物の均質化処理は、通常の均質化の設備や装置、例えば、ホモジナイザー、超音波式乳化機、コロイドミル、ラインミル、ホモミキサー、アジホモミキサー、Uミキサー、マイルダーを用いてもよいが、好ましくは、高速ホモミキサー、より好ましくは、高圧ホモジナイザー(例えば、マントンゴーリン、マイクロフルダイザー、ナノマイザー(いずれも商標名))を用いることが好ましい。
【0040】
高圧ホモジナイザーを用いる場合の圧力条件としては、制限されないものの、通常1〜50MPaの範囲を挙げることができる。好ましくは5〜40MPaであり、より好ましくは10〜40MPaである。高速ホモミキサーを用いる場合の回転数としては、制限されないものの、例えばラボスケールでの条件では、T.K.ホモミキサー(プライミクス社製:直径30mmの高速回転タービン羽根とステーターとの間を通過する際の剪断により乳化、分散を促進する装置)で、通常2000〜10000rpmの範囲を挙げることができる。好ましくは3000〜9000rpmであり、より好ましくは5000〜7000rpmである。温度条件は、通常、10〜80℃、好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜60℃の範囲に設定することができる。均質化処理時間は、制限されないものの、5〜30分間を例示することができる。
【0041】
以上の方法に従って、本発明の飲料を製造・取得することができるが、商品として市場に流通させる飲料を製造する場合には、上記の方法で調製(製造)された飲料を、さらに、缶、瓶、紙パック、レトルトパウチ等の容器に充填して密封し、次いで殺菌処理に供することが好ましく、斯くして、容器詰めの飲料(容器詰飲料)を製造・取得することができる。
【0042】
上記の方法で製造された混合物や飲料の殺菌処理は、特に制限されないが、実際に製造する飲料の種類に応じて、通常の殺菌処理(プレート式の超高温加熱殺菌(UHT)、チューブ式の高温短時間加熱殺菌(HTST)、レトルト殺菌、オートクレーブ殺菌等)を採用することができる。
【0043】
上記の方法で製造された飲料では、粉末状の可食性植物加工物といった不溶性固形物を含みながらも、その分散安定性が向上されており、粉末状の可食性植物加工物そのものを油脂に分散させる工程を経ずに製造された飲料(コントロール飲料)と比べて、経時的に生じる沈降の現象が有意に抑制されていることを特徴とする。
【0044】
ここで、「分散安定性」は、前述する本発明の方法で製造された飲料(本飲料)と、コントロール飲料とを、必要に応じて、殺菌処理した後に、これら飲料を冷温〜常温条件下で静置し、この静置で生成した不溶性固形物の沈殿(沈降物の生成)を経時的に観察することによって評価することができる。具体的には、コントロール飲料と比べて、この沈降物の生成量が少ないか、または生成速度が遅い場合に、本飲料において分散安定性が向上されていると判断することができる。
【0045】
また、上記の方法で製造された飲料では、粉末状の可食性植物加工物といった不溶性固形物が容器の底面に沈降して堆積した場合でも、その再分散性が有意に向上されており、コントロール飲料と比べて、それを軽く振るだけで、粉末状の可食性植物加工物が簡単に元の分散状態に戻すことができることを特徴とする。
【0046】
ここで、「再分散性」は、前述する本発明の方法で製造された飲料(本飲料)と、コントロール飲料とを、必要に応じて、殺菌処理した後に、これら飲料を冷温〜常温条件下で静置し、この静置で生成した不溶性固形物の沈降物の分散しやすさを対比することによって評価することができる。例えば、これら両者の飲料を同じ条件で振とうした際に、コントロール飲料と比べて、容器の底面に沈降した不溶性固形物が飲料の全体に再分散する程度が良好であるか、または再分散する速度が速い場合に、本飲料において再分散が向上されていると判断することができる。
【0047】
(II)粉末状の可食性植物加工物を含有する飲料
本発明が対象とする飲料は、少なくとも粉末状の可食性植物加工物、油脂および水を含有する飲料であって、粉末状の可食性植物加工物を油脂と混合して分散させる工程を経ないで調製される飲料(コントロール飲料)と比べて、(i)飲料中に含まれる粉末状の可食性植物加工物の分散安定性が向上しているか、または(ii)飲料中の粉末状の可食性植物加工物の再分散性が向上してなることを特徴とするものである。
【0048】
かかる特徴を有する本発明の飲料は、(I)にて説明する製造方法、具体的には、少なくとも(a)工程および(b)工程を含む製造方法により製造することができる。また(a)工程と(b)工程との間に、さらに均質化処理工程を有していてもよい。ここで、本発明の飲料の成分である粉末状の可食性植物加工物および油脂の種類と、その配合の割合、ならびに(a)工程および(b)工程、さらに(a)工程と(b)工程との間の均質化処理の説明は、(I)において前述した通りであり、これらの記述は、ここでも同様に援用することができる。
【0049】
ただし、本発明の飲料は、前述するように、少なくとも粉末状の可食性植物加工物、油脂および水を含有する飲料であり、前述する(i)または(ii)の特徴を備えるものであればよく、この限りにおいて、上記の製造方法に拘束されるものではない。
【0050】
さらに、本発明の好ましい飲料は、少なくとも粉末状の可食性植物加工物、油脂および水を含有する飲料であり、前述する(i)または(ii)の特徴に加えて、(iii)の特徴として、コントロール飲料と比べて、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の退色または変色が抑制されてなるものである。
【0051】
ここで、「退色または変色が抑制されてなる」とは、前述する本発明の方法で製造された飲料(本飲料)と、コントロール飲料とを、それぞれ殺菌処理するか、および/または冷温〜加温条件下で静置し、これら飲料の調製直後の色調を基準として、これら飲料の色調の変化を経時的に観察することによって評価することができる。例えば、コントロール飲料と比べて、その色調の変化が小さい場合に、本飲料において退色または変色が抑制されてなると判断することができる。
【0052】
(III)飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させる方法
また、本発明は、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させる方法である。
【0053】
当該方法は、粉末状の可食性植物加工物を含む飲料の製造工程において、粉末状の可食性植物加工物を予め油脂に分散させたものを、水と混合して均質化処理することで実施することができる。
【0054】
この方法で使用する粉末状の可食性植物加工物および油脂の種類と、その配合の割合の説明は、(I)において前述した通りであり、これらの記述は、ここでも同様に援用することができる。
【0055】
なお、本発明の方法は、粉末状の可食性植物加工物を含む飲料の製造に際して、粉末状の可食性植物加工物を予め油脂に分散させたものを原料として用いて、これを水と混合して均質化処理することで実施することもできるし、また、粉末状の可食性植物加工物を油脂に分散させる工程[(a)工程]、およびこれを水と混合して均質化処理する工程[(b)工程]を行うことでも実施できる。この方法で使用する工程(粉末状の可食性植物加工物を予め油脂に分散させる工程[(a)工程]、およびこれを水と混合して均質化処理する工程[(b)工程])の説明も、(I)において前述した通りであり、これらの記述は、ここでも同様に援用することができる。
【0056】
かかる方法により、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の分散安定性または再分散性を向上させることができる。より詳細には、本発明の方法は、少なくとも粉末状の可食性植物加工物、油脂および水を含有する飲料において、粉末状の可食性植物加工物を油脂と混合して分散させる工程を経ないで調製される飲料(コントロール飲料)と比べて、(i)飲料中に含まれる粉末状の可食性植物加工物の分散安定性を向上させることができるか、または(ii)飲料中の粉末状の可食性植物加工物の再分散性を向上させることができる。
【0057】
さらに、本発明の方法は、上記(i)または(ii)に記載する方法であるとともに、(iii)コントロール飲料と比べて、飲料中の粉末状の可食性植物加工物の退色または変色を抑制することができる。
【0058】
ここで、「分散安定性」、「再分散性」、および「退色または変色が抑制されてなる」の意味およびその評価は、前述する(II)において説明した通りであり、当該説明は、ここでも同様に援用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実験例および実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明は、これらの実験例等になんら制限されるものではない。
【0060】
実験例1
(I)乳入り飲料の調製
(1)表1に記載する成分を表記載の割合で、下記の方法に従って混合し、油脂分散物1-1〜1-3を調製した。このとき、抹茶粉末(乾燥物)として、辻利抹茶(辻利一本店製、粒数メディアン直径:24.69μm)を用いた。
【0061】
【表1】
【0062】
油脂分散物1-1:(a)脱脂粉乳、(b)精製ヤシ油、および(d)イオン交換水を混合した後に、これに(c)抹茶粉末を配合し、薬サジを用いて、よく分散させて、油脂分散物1-1を調製した(25℃にて実施した)。
油脂分散物1-2:薬サジを用いて、(c)抹茶粉末を(b)精製ヤシ油に混合・分散させ、次いで、これに(a)脱脂粉乳、および(d)イオン交換水を混合して、油脂分散物1-2を調製した。
油脂分散物1-3:薬サジを用いて、(c)抹茶粉末を(b)精製ヤシ油に混合・分散させ、さらにホモゲナイザー(Niro Soavi社製)を用いて、50℃、35MPaの条件下で均質化処理し、次いで、これに(a)脱脂粉乳、および(d)イオン交換水を混合して、油脂分散物1-3を調製した。
【0063】
(2)上記で得られた各油脂分散物1-1〜1-3を、それぞれ60℃まで加温した後に、ホモミキサー(プライミクス社製)を用いて、60℃、7000rpm、60秒間の条件下で均質化処理した。その後、ホモジナイザー(Niro Soavi社製)で50℃、35MPaの均質化処理を行った。
【0064】
(3)上記で得られた均質化処理物1-1〜1-3を、それぞれ耐熱ビン(80ml)に充填して密封した状態において、110℃、5分間の条件下で加熱殺菌し、抹茶入り乳飲料1-1〜1-3を調製した。
【0065】
(II)分散安定性(沈殿抑制性)および再分散性の評価/退色の評価
上記で調製した抹茶入り乳飲料1-1〜1-3を、色調を評価した後に、常温に3日間で静置保存し、次いで、各飲料の色調と、各飲料のビンの底面に沈降した沈降物の有無を目視で評価した。次いで、抹茶入り乳飲料の入った耐熱ビンを一回転倒させて(一回転倒させた後に、元に戻して)、沈降物の再分散性を評価した。なお、これらの評価は、下記に記載する判断基準に従って実施した(以下、実験例2〜4においても同じ。)。
【0066】
<判断基準>
*1:沈降物の有無
「−」:なし、「±」:ややあり、「+」:あり、「++」:著しくあり
*2:色調
「◎」:褐変なし、「○」:やや褐変、「△」:褐変、「×」:顕著に褐変
*3:再分散性
「A」:良好(ほぼ元の分散状態に戻る)、「B」:やや不良(ビン底面に沈殿物が残留している)、「C」:不良(ほとんど分散しない)。
【0067】
結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
上記表2に記載するように、抹茶入り乳飲料の調製に際して、抹茶を予め油脂(精製ヤシ油)と混合して分散させておいた油脂分散物を用いた抹茶入り乳飲料1-2および1-3では、当該油脂分散物を調製せずに製造した抹茶入り乳飲料1-1と比べて、抹茶の分散安定性が向上しており、加熱殺菌後の保存中に生じる抹茶粉末の沈降が有意に抑制されることが確認された。また、抹茶入り乳飲料1-2および1-3では、抹茶入り乳飲料1-1と比べて、抹茶粉末の加熱殺菌による色調の劣化(退色)も有意に抑制されることが確認された。
【0070】
なお、油脂分散物を均質化処理する場合(抹茶入り乳飲料1-3)と、均質化処理しない場合(抹茶入り乳飲料1-2)とで、分散安定性(沈降物の有無)、色調の劣化(退色)、および再分散性に大きな変化はなかった。
【0071】
実験例2
抹茶粉末として、「辻利抹茶」(辻利一本店製)に代えて、「神苑の白」(あいや製、粒数メディアン直径:12.23μm)を用いる以外は、実験例1の抹茶入り乳飲料1-1および1-2と同様にして、それぞれ抹茶入り乳飲料2-1および2-2を調製した。また、これらの抹茶入り乳飲料2-1および2-2について、実験例1の(II)に記載する方法と同様の方法および基準に従って、分散安定性(沈降物の有無)、色調の劣化(退色)、および再分散性を評価した。
【0072】
結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
上記表3に記載するように、抹茶入り乳飲料の調製に際して、抹茶粉末を予め油脂(精製ヤシ油)と混合して分散させておいた油脂分散物を用いることで、抹茶入り乳飲料2-2では、当該油脂分散物を調製せずに製造した抹茶入り乳飲料2-1と比べて、抹茶粉末の分散安定性が向上しており、加熱殺菌後の保存中に生じる抹茶粉末の沈降が有意に抑制されることが確認された。また、抹茶入り乳飲料2-2では、抹茶入り乳飲料2-1と比べて、抹茶粉末の加熱殺菌による色調の劣化(退色)も有意に抑制されることが確認された。
【0075】
実験例3
(I)抹茶入り飲料の調製
(1)表4に記載する成分を表記載の割合で、下記の方法に従って混合し、油脂分散物3-1〜3-2を調製した。このとき、抹茶粉末として、神苑の白(あいや製、粒数メディアン直径:12.23μm)を用いた。
【0076】
【表4】
【0077】
油脂分散物3-1:精製ヤシ油、乳化剤 P−1670(三菱化学フーズ社製:シュガーエステル)、乳化剤 681SPV(太陽化学社製)、およびイオン交換水を混合した後に、これに抹茶粉末を配合し、薬サジを用いて、よく分散させて、油脂分散物3-1を調製した。
油脂分散物3-2:薬サジを用いて、抹茶粉末を精製ヤシ油に混合・分散させ、次いで、これに乳化剤P−1670および681SPV、並びにイオン交換水を混合して、油脂分散物3-2を調製した。
【0078】
(2)上記で得られた各油脂分散物3-1および3-2を、それぞれ60℃まで加温した後に、ホモミキサー(プライミクス社製)を用いて、60℃、7000rpm、60秒間の条件下で均質化処理した。
【0079】
(3)上記で得られた均質化処理物3-1および3-2を、それぞれ耐熱ビン(80ml)に充填して密封した状態において、110℃、5分間の条件下で加熱殺菌し、抹茶入り乳飲料3-1および3-2を調製した。
【0080】
(II)分散安定性(沈殿抑制性)および再分散性の評価/退色の評価
上記で調製した抹茶入り飲料3-1および3-2を、常温に3日間で静置保存し、次いで、各飲料のビンの底面に沈降した沈降物の有無を目視で評価した。次いで、抹茶入り飲料の入った耐熱ビンを一回転倒させ(一回転倒させた後に、元に戻して)、沈降物の再分散性を評価した。なお、これらの評価は、実験例1に記載する判断基準に従って実施した。
【0081】
結果を表5に示す。
【0082】
【表5】
【0083】
上記表5に記載するように、抹茶入り飲料の調製に際して、抹茶粉末を予め油脂(精製ヤシ油)と混合して分散させておいた油脂分散物を用いた抹茶入り飲料3-2では、当該油脂分散物を調製せずに製造した抹茶入り乳飲料3-1と比べて、抹茶粉末の分散安定性が向上しており、加熱殺菌後の保存中に生じる抹茶粉末の沈降が有意に抑制されることが確認された。また、抹茶入り乳飲料3-2では、抹茶入り乳飲料3-1と比べて、再分散性が向上しており、一旦沈殿した抹茶粉末も容器を振とうすることで簡単に分散できることが確認された。
【0084】
実験例4
抹茶の「辻利抹茶」(辻利一本店製)に代えて、ケールの粉末(こだま食品社製、粒数メディアン直径:124μm)、または大麦(若葉)のマイクロパウダー(こだま食品社製、粒数メディアン直径:40μm)を用いる以外は、実験例1の抹茶入り乳飲料1-1および1-2と同様にして、それぞれケールの粉末入り飲料4-1および4-2、ならびに大麦(若葉)の粉末入り飲料5-1および5-2を調製した。また、これらの抹茶入り飲料4-1、4-2、5-1および5-2について、実験例1の(II)に記載する方法と類似する方法(保存条件を「常温、3日間」を「冷蔵、4日間」に変更)、および実験例1の(II)に記載する基準に従って、分散安定性(沈降物の有無)、色調の劣化(退色)、および再分散性を評価した。
【0085】
結果を表6に示す。
【0086】
【表6】
【0087】
上記表6に記載するように、ケールの粉末入り飲料および大麦(若葉)の粉末入り飲料の調製に際して、ケールの粉末または大麦(若葉)の粉末を予め油脂(精製ヤシ油)と混合して分散させておいた油脂分散物を用いた飲料4-2および5-2では、当該油脂分散物を調製せずに製造した飲料4-1や5-1と比べて、ケールの粉末や大麦(若葉)の粉末の分散安定性が向上しており、加熱殺菌後の保存中に生じる不溶性固形物の沈降が有意に抑制されることが確認された。また、飲料4-2や5-2では、飲料4-1や5-1と比べて、再分散性が向上しており、一旦沈殿したケール末および大麦若葉粉末も容器を振とうすることで簡単に分散できることが確認された。
【0088】
実験例5
表7に記載する成分を、下記(1)の順番で混合した場合と、(2) の順番で混合した場合とで、それぞれ得られた試料の性状を評価した。抹茶として、「辻利抹茶」(辻利一本店製、粒数メディアン直径:24.69μm)を用いた。
【0089】
【表7】
【0090】
(1)抹茶粉末をイオン交換水に添加・混合し、次いで、これに精製ヤシ油を添加し、薬サジを用いて、よく混合・分散させて、試料(1)を調製した。
【0091】
(2)抹茶粉末を精製ヤシ油に添加し、薬サジを用いて、よく掻き混ぜて、均一なペーストにした。次いで、これにイオン交換水を添加して、薬サジを用いて、よく混合し、試料(2)を調製した。
【0092】
上記で調製した試料(1)および(2)を、室温(25℃)に20分間静置させ、性状を目視で確認した後に、これらを遠心分離処理(1000rpm、5分間、25℃)した。
【0093】
室温(25℃)に20分間で静置させた試料(1)および(2)の状態を、図1(A)に、また、それらを遠心分離用のチューブに入れて、さらに遠心分離処理した後の状態を、図1(B)に示す。各図において、向かって左側が試料(1)、右側が試料(2)の状態を示す。なお、この場合において、この試料(1)および(2)は、粒径の大きい乳濁液として観察された。
【0094】
図1に示すように、抹茶粉末をヤシ油と直接混合すると、抹茶粉末に含まれる天然色素成分であるクロロフィル(葉緑素)が油相(上層)に大量に溶け込むのに対して、抹茶粉末を一旦水に溶解した後にヤシ油と混合すると、クロロフィル(葉緑素)は、あまり油相(上層)に溶け込まなかった。このことから、抹茶粉末(粉末状の可食性植物加工物)、油脂および水を混合する順番によって、性状の異なった組成物(混合物)が得られることがわかる。
図1