(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441090
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20181210BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-10977(P2015-10977)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-135944(P2016-135944A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】新居 藍子
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−332643(JP,A)
【文献】
特開2009−019383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下部構造間に形成した免震層に複数のダンパーを設置した免震構造において、
上記複数のダンパーは、上記上下部構造間の相対変位量に応じて減衰係数が変化し、当該相対変位量が閾値を超えた際に減衰係数が高い値に切り替わる可変減衰ダンパーであり、
上記免震層の内側に設置した上記可変減衰ダンパーよりも上記閾値が小さい上記可変減衰ダンパーを上記免震層の外周側に設置したことにより、地震時に、上記免震層の外周側に設置された上記可変減衰ダンパーの減衰係数が上記免震層の内側に設置された上記可変減衰ダンパーの減衰係数よりも高くなることを特徴とする免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震層にダンパーを配置した免震構造に係り、より詳しくは地震発生時に減衰効果と共にねじれ振動の抑制効果が得られる免震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に見られるように、建物の上下部構造の柱間に積層ゴム支承やすべり支承を介装して免震層を形成し、地震時における建物の上部構造の揺れを低減させるとともに、上記上下部構造間にオイルダンパー等のダンパーを介装することにより、上下部構造間の相対変位を吸収して上記揺れを減衰させる免震構造が知られている。
【0003】
ところで、このような免震構造にあっては、免震層における剛性が小さいために、僅かな偏心でも地震時にねじれ振動が生じやすい。
【0004】
そこで、下記特許文献2においては、オイルダンパーを、基礎平面の外周に沿ってX方向およびY方向に夫々均等に配置することにより、基礎平面の水平方向におけるねじれ耐力を高めて、免震動作時における構造物の基礎に対するねじれを防止するようにした免震建物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−292155号公報
【特許文献2】特開2007−332643号公報
【特許文献3】特開2002−310227号公報
【特許文献4】特開2007−231601号公報
【特許文献5】特開2010−255662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の免震建物にあっては、免震層の剛性が小さいため、そのバランスをとるためにオイルダンパーの設置位置に大きな制約が生じるとともに、設置可能なスペースにも限りがあるために、ねじれ振動を抑える効果には限りがあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ダンパーの設置位置に大きな制約を受けることなく、地震時に免震構造物に発生するねじれ振動を安定的かつ効果的に低減させることができる免震構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、上下部構造間に形成した免震層に複数のダンパーを設置した免震構造において、上記複数のダンパー
は、上記上下部構造間の相対変位量に応じて減衰係数が変化
し、当該相対変位量が閾値を超えた際に減衰係数が高い値に切り替わる可変減衰ダンパー
であり、上記免震層の内側に設置した上記可変減衰ダンパーよりも上記閾値が小さい上記可変減衰ダンパーを上記免震層の外周側に設置したことにより、地震時に、
上記免震層の外周側に
設置された上記可変減衰ダンパーの減衰係数が
上記免震層の内側に設置された上記可変減衰ダンパーの減衰係数よりも高くな
ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項
1に記載の発明によれば、免震層に設置した複数のダンパーのうちの少なくとも一部として、上下部構造間の相対変位量に応じて減衰係数が変化する可変減衰ダンパーを用いているために、上記相対変位量が少ない中小の地震時には、低い減衰力によって加速度を低減させることができるとともに、上記相対変位量が大きい大地震時には、高い減衰力によって上記変位を低減させることができる。
【0012】
加えて、地震時に、構造物の外周側に位置するダンパーの減衰係数が、内側に位置するダンパーの減衰係数よりも高くなるように配置しているために、上記構造物の外周側における減衰力の負担の割合が大きくなり、よってねじれ振動を抑制することができる。この結果、ダンパーの設置位置に大きな制約を受けることなく、地震時に免震構造物に発生するねじれ振動を安定的かつ効果的に低減させることができる。
【0013】
ここで、請求項
1に記載の発明によれば、構造物の外周側に、内側に配置した可変減衰ダンパーよりも閾値が小さい可変減衰ダンパーを配置しているために、地震時に上下部構造間の相対変位が大きくなると、先ず外側の可変減衰ダンパーが内側の可変減衰ダンパーよりも高い減衰係数に切り替わることにより、上記効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態における可変減衰ダンパーの配置を示す平面図である。
【
図2】
図1の免震層の変位が10cm未満の時の可変減衰ダンパーの作動状態を示す平面図である。
【
図3】
図1の免震層の変位が10cm〜15cmの時の可変減衰ダンパーの作動状態を示す平面図である。
【
図4】
図1の免震層の変位が15cm〜20cmの時の可変減衰ダンパーの作動状態を示す平面図である。
【
図5】
図1の免震層の変位が20cm以上の時の可変減衰ダンパーの作動状態を示す平面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態における可変減衰ダンパーの配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
図1〜
図5は、本発明に係る免震構造の第1の実施形態を示すものである。
これらの図において、この免震構造においては、上下部構造(図では下部構造1のみを示す。)間に積層ゴム支承等の免震装置2が介装されることにより、免震層3が形成されている。そして、この免震層3に、3種類のオイルダンパー4、5、6が配置されている。
【0017】
これらのオイルダンパー4、5、6は、いずれも上下部構造1間の相対変位量が閾値を超えた際に減衰係数が高い値に切り替わる可変減衰ダンパーであり、閾値を超える前は、同じ減衰係数に設定されている。ここで、オイルダンパー4は、上記閾値が10cmに設定されている。また、オイルダンパー5は、上記閾値が15cmに設定されるとともに、オイルダンパー6は、上記閾値が20cmに設定されている。なお、この種の可変減衰ダンパーは、例えば上記特許文献3〜6に開示されているように周知のものである。
【0018】
そして、上下部構造1間の外周部に、最も閾値が小さいオイルダンパー4が配置され、その内側にオイルダンパー5が配置されている。また、最も内側に、最も閾値が大きいオイルダンパー6が配置されている。
【0019】
上記構成からなる免震構造においては、
図2に示すように、地震発生時に、上下部構造1間の相対変位量が10cm未満では、オイルダンパー4〜6は、いずれも低い減衰係数に設定されており、いずれも均等に上下部構造1間の相対変位を吸収して揺れを減衰させる。
【0020】
次いで、
図3に示すように、上記相対変位量が10cm〜15cmの範囲になると、最も外周側に配置されているオイルダンパー4が高い減衰係数に切り替わる。一方で、他のオイルダンパー5、6は、いずれも低い減衰係数に保持される。
【0021】
そして、
図4に示すように、上記相対変位量が15cm〜20cmの範囲になると、オイルダンパー4に加えて、その内側のオイルダンパー5も高い減衰係数に切り替わることにより、最も内側のオイルダンパー6のみが低い減衰係数に保持される。
【0022】
そしてさらに、上下部構造1間の相対変位量が増大して、20cm以上になると、
図5に示すように、最も内側のオイルダンパー6も高い減衰係数に切り替わることにより、全てのオイルダンパー4〜6が高い減衰係数に切り替わる。
【0023】
このように、上記免震構造によれば、地震時に、上下部構造1間の相対変位が増大するにつれて、順次最も外側の可変減衰ダンパー4から内側の可変減衰ダンパー5、6へと減衰係数が高い値に切り替わることにより、構造物の外周側における減衰力の負担を大きくして上下部構造1間におけるねじれ振動を効果的に抑制することができるとともに、上記可変減衰ダンパー4、5、6によって上下部構造1間の相対変位を吸収して上記揺れを減衰させることができる。
【0024】
この結果、設置位置に大きな制約を受けることなく、地震時に免震構造物に発生するねじれ振動を安定的かつ効果的に低減させることができる。
【0025】
また、これらオイルダンパー4〜6は、相対変位量が10cm未満では、いずれも低い減衰係数に設定されており、上記相対変位量が大きくなるにしたがって、順次高い減衰係数に切り替わるために、上記相対変位量が少ない中小の地震時には、低い減衰力によって加速度を低減させることができ、かつ上記相対変位量が大きい大地震時には、高い減衰力によって上記変位を低減させることができる。
【0026】
(第2の実施形態)
図6は、本発明に係る免震構造の第2の実施形態を示すもので、
図1〜
図5に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
この免震構造においては、免震層3の内側に、減衰係数が変化しない通常のオイルダンパー(ダンパー)10が配置されている。
【0027】
そして、上記免震層3における構造物の外周側に、上下部構造1間の相対変位量が閾値を超えた際に上記オイルダンパー10よりも減衰係数が高い値に切り替わるオイルダンパー(可変減衰ダンパー)11が配置されている。
【0028】
上記構成からなる免震構造においては、構造物の内側に、減衰係数が変化しない通常のオイルダンパー10を配置し、外周側に閾値を超えた際に内側のオイルダンパー10よりも減衰係数が高い値に切り替わるオイルダンパー11を配置しているために、地震時に外側のオイルダンパー11が内側のオイルダンパー10よりも高い減衰係数に切り替わることにより、第1の実施形態に示したものと同様の効果を奏することができる。
【0029】
なお、上記実施形態においては、閾値の前後で減衰係数が変化する可変減衰ダンパーや、減衰係数が変化しない通常のダンパーとして、いずれもオイルダンパー4、5、6、10、11を用いた場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な形態の可変減衰ダンパーや減衰係数が一定のダンパーを用いることがかのうである。
【符号の説明】
【0030】
1 下部構造
2 免震装置
3 免震層
4、5、6、11 オイルダンパー(可変減衰ダンパー)
10 オイルダンパー(ダンパー)