特許第6441099号(P6441099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6441099-サブマージアーク溶接用フラックス 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441099
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接用フラックス
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/362 20060101AFI20181210BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20181210BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20181210BHJP
   B23K 35/30 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
   B23K35/362 310B
   !C22C38/00 301A
   !C22C38/04
   !B23K35/30 320A
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-18803(P2015-18803)
(22)【出願日】2015年2月2日
(65)【公開番号】特開2016-140888(P2016-140888A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加納 覚
(72)【発明者】
【氏名】幸村 正晴
(72)【発明者】
【氏名】小林 奈緒子
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−280996(JP,A)
【文献】 特開昭62−240195(JP,A)
【文献】 特公昭51−26308(JP,B2)
【文献】 特開平02−290692(JP,A)
【文献】 特開2010−125508(JP,A)
【文献】 特開平08−267279(JP,A)
【文献】 特開昭60−064792(JP,A)
【文献】 特開昭59−137194(JP,A)
【文献】 特開昭63−076793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/36−35/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:15〜35質量%、
SiO:10〜30質量%、
MgO:10〜25質量%、
FのCaF換算値:10〜25質量%、
MnのMnO換算値:3〜20質量%、
NaのNaO換算値、KのKO換算値及びLiのLiO換算値のうち少なくとも一つ以上の合計:0.5〜6.5質量%、
FeのFeO換算値:0.5〜8質量%、
TiO:1〜8質量%、
CaO:6質量%以下、
水溶性SiO:1.0質量%以下、
水溶性NaO:1.0質量%以下、
水溶性KO:0.8質量%以下を含有し、
C含有量が0.2質量%以下であり、
前記Al含有量を[Al]、前記MgO含有量を[MgO]、前記MnのMnO換算値での含有量を[MnO]としたとき、下記数式(I)を満たすことを特徴とするサブマージアーク溶接用フラックス。
【数1】
【請求項2】
更に、水溶性LiO:0.3質量%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【請求項3】
前記TiO含有量を[TiO]としたとき、下記数式(II)を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【数2】
【請求項4】
800℃以上で焼成されたものであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接に用いられるフラックスに係り、より詳しくは、高温焼成型フラックスであるサブマージアーク溶接用フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接に用いられるフラックスは、その形態から、溶融型フラックスと焼成型フラックスに大別される。溶融型フラックスは、種々の原料を電気炉などで溶解し、粉砕することにより製造される。一方、焼成型フラックスは、種々の原料をケイ酸アルカリなどのバインダにより結合し、造粒した後、焼成することにより製造される。
【0003】
また、焼成型フラックスは、焼成温度によって分類され、一般に、400℃以上600℃未満で焼成したものを低温焼成型フラックス、600〜1200℃で焼成したものを高温焼成型フラックスという。そして、低温焼成型フラックスでは、従来、溶接金属中への水素の拡散を低減するため、種々の検討がなされている(特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1〜3には、フラックス中の炭酸塩の比率を特定の範囲にすることにより、溶接時にCOガスを発生させて、H分圧を低減する技術が開示されている。
【0004】
また、炭酸塩を使用せずに吸湿特性を改善するために、主にフラックス成分由来の特性値であるA値及びフラックスの比表面積の最大値を規定して、溶接金属中への水素量を低減する手法も提案されている(特許文献4参照)。一方、高温焼成型フラックスについては、例えば、塩基性酸化物、アルカリ金属フッ化物及び酸性酸化物などの種類とその含有量を特定することにより、拡散水素量を低減する技術が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−70839号公報
【特許文献2】特開昭53−95144号公報
【特許文献3】特開昭51−87444号公報
【特許文献4】特開平9−99392号公報
【特許文献5】特開昭62−68695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した焼成型フラックスにおける吸湿特性の改善技術及び拡散水素量の低減技術には、以下に示す問題点がある。先ず、特許文献1〜3に記載されている炭酸塩を添加した低温焼成型フラックスは、直流式の溶接電源を用いると、フラックス消費量が増大し、交流式の溶接電源を用いた場合よりも一層炭酸塩の分解が促進され、溶接中にCOガスやCOガスが大量に発生する。したがって、COガスやCOガスの発生による、ビード表面の粗さ、ポックマークの発生、ビード外観やビード形状に関して改善の余地がある。
【0007】
特許文献4に記載の技術では、水和性を示す指標であるA値において、MnOを水和性の成分として捉えているが、MnOは、他のフラックス成分との併用により非水和性の成分にもなり得る。また、特許文献4に記載の技術では、比表面積の低下を図っているが、フラックスの比表面積は、溶接時のスラグのシールド性に大きく影響を与える。具体的には、フラックスの比表面積を低下させると、スラグのシールド性が損なわれて溶接金属中の窒素量が上昇し、溶接金属の靭性が劣化する。
【0008】
一方、高温焼成型フラックスに関する特許文献5に記載の技術は、交流式の溶接電源への対応を主目的としてフラックス成分が設計されており、直流式の溶接電源使用時に最も懸念される溶接作業性の劣化については考慮されていない。即ち、特許文献5に記載のフラックスは、溶接電源に直流式を用いると、交流式を用いた場合と同等の効果は得られない。
【0009】
そこで、本発明は、溶接電源が交流式及び直流式のいずれであっても、溶接作業性が良好であり、また、フラックスの吸湿量及び溶接金属中の拡散性水素量を低減することが可能なサブマージアーク溶接用フラックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るサブマージアーク溶接用フラックスは、Al:15〜35質量%、SiO:10〜30質量%、MgO:10〜25質量%、FのCaF換算値:10〜25質量%、MnのMnO換算値:3〜20質量%、NaのNaO換算値、KのKO換算値及びLiのLiO換算値のうち少なくとも一つ以上の合計:0.5〜6.5質量%、FeのFeO換算値:0.5〜8質量%、TiO:1〜8質量%、CaO:6質量%以下、水溶性SiO:1.0質量%以下、水溶性NaO:1.0質量%以下、水溶性KO:0.8質量%以下を含有し、C含有量が0.2質量%以下であり、前記Al含有量を[Al]、前記MgO含有量を[MgO]、前記MnのMnO換算値での含有量を[MnO]としたとき、下記数式(I)を満たすことを特徴とする。
【0011】
【数1】
【0012】
このような構成によれば、フラックスは、所定成分を所定量含有し、かつ数式(I)を満たすことで、溶接電源が交流式及び直流式のいずれであっても、溶接作業性が良好となる。また、フラックスの吸湿量及び溶接金属中の拡散性水素量が低減する。
また、TiOを8質量%以下含有することで、溶接作業性が向上する。
また、C含有量を0.2質量%以下に規制することで、溶接作業性が向上する。
なお、本願での溶接作業性とは、ビード外観及びビード形状の良否、スラグ剥離性、アーク安定性、溶接金属の耐欠陥性をいう。
【0013】
このサブマージアーク溶接用フラックスは、更に、水溶性LiO:0.3質量%以下を含有することが好ましい。
このような構成によれば、フラックスの吸湿特性が向上する。
【0015】
このサブマージアーク溶接用フラックスは、前記TiO含有量を[TiO]としたとき、下記数式(II)を満たすことが好ましい。
【0016】
【数2】
【0017】
このような構成によれば、前記した各成分を所定量とすることに併せて、より厳密に成分を制御することで、更に、溶接作業性が向上し、また溶接金属中の拡散性水素量が低減する。
【0019】
また、本発明のサブマージアーク溶接用フラックスは、例えば、800℃以上で焼成されたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、各成分の含有量を特定すると共に、Mg含有量とAl及びMnの総含有量との比を特定の範囲にしているため、溶接電源が交流式及び直流式のいずれであっても、溶接作業性が良好であり、また、フラックスの吸湿量及び溶接金属中の拡散性水素量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例の溶接試験で用いた試験片の開先形状を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、以下に示す知見を得た。直流式の溶接電源を用いる場合、スラグ剥離性を良好に保つため、フラックスのSiO量は極力低減すべきである。また、MgOについては、特許文献5に記載のフラックスと比較して添加量を多くしないと、スラグ剥離性を改善することはできない。
【0024】
そこで、本発明の実施形態に係るサブマージアーク溶接用フラックス(以下、単にフラックスともいう。)では、SiO含有量を10〜30質量%、MgO含有量を10〜25質量%にすると共に、水溶性SiO含有量を1.0質量%以下としている。また、本実施形態のフラックスでは、Al含有量を[Al]、MgO含有量を[MgO]、MnのMnO換算値での含有量を[MnO]としたとき、下記数式(I)を満たすように、各成分を調整している。
【0025】
【数3】
【0026】
また、本実施形態のフラックスでは、Al含有量、FのCaF換算値での含有量、MnのMnO換算値での含有量、NaのNaO換算値、KのKO換算値及びLiのLiO換算値の合計の含有量、FeのFeO換算値での含有量、CaO含有量、水溶性NaO含有量、水溶性KO含有量を規定している。
【0027】
以下、本実施形態のフラックスにおける組成限定理由について説明する。なお、本実施形態のフラックスにおける各成分の含有量は、特に断りのない限り、JIS Z 3352:2010に規定される方法で定量した値を、酸化物又はフッ化物に換算した換算値である。また、各成分の含有量は、フラックス全体についての含有量である。
【0028】
[Al:15〜35質量%]
Alは、溶融スラグの粘性及び融点を調整する成分であり、溶接時のビード形状を良好にする効果がある。しかしながら、Al含有量が15質量%未満の場合は、前述した効果が十分に得られず、また、Al含有量が35質量%を超えると、溶融スラグの融点が上昇しすぎて、溶接時にビード形状の劣化を招く。よって、Al含有量は15〜35質量%とする。
【0029】
Al含有量は、溶融スラグの粘性及び融点の調整の観点から、20質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは23質量%以上である。また、溶融スラグの融点の観点からは、Al含有量は30質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは28質量%以下である。これにより、ビード形状を更に良好にすることができる。
【0030】
なお、ここでいうAl含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法(例えばJIS M 8220:1995など)で分析して得たフラックスの全Al量を、Alで換算した値である。この方法で測定した全Al量には、AlFなどのAl以外の成分が含まれることがあるが、これらの成分は微量であるため、Al含有量(全Al量のAl換算値)が前述した範囲内であれば、前述したAlの効果には影響しない。
【0031】
[SiO:10〜30質量%]
SiOは、溶融スラグに適度の粘性を与えることによって、主にビード外観及びビード形状を良好にする効果がある。しかしながら、SiO含有量が10質量%未満の場合、前述した効果が十分に得られず、ビード外観及びビード形状が劣化する。また、SiO含有量が30質量%を超えると、スラグの粘性が過剰となり、スラグ剥離性が劣化すると共に、スラグの焼付きが激しくなる。よって、SiO含有量は10〜30質量%とする。
【0032】
SiO含有量は、ビード外観及びビード形状の向上の観点から、15質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは18質量%以上である。また、溶融スラグの粘性の適正化の観点から、SiO含有量は25質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは22質量%以下である。
【0033】
なお、ここでいうSiO含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法(例えばJIS M 8214:1995など)で分析して得たフラックスの全Si量を、SiOで換算した値である。この方法で測定した全Si量には、Fe−Siなどの合金として添加されるSiなどSiO以外の成分が含まれているが、SiO含有量(全Si量のSiO換算値)が前述した範囲内であれば、前述したSiOの効果には影響しない。
【0034】
[MgO:10〜25質量%]
MgOは、スラグ剥離性の向上に大きく寄与する成分であり、溶接電源の方式によらず、良好なスラグ剥離性を確保するために必須の成分である。しかしながら、MgO含有量が10質量%未満の場合、その効果が十分に得られず、また、25質量%を超えると、ビード形状が劣化し、溶接電源の種別に依存してスラグ巻込み、融合不良、更にはアンダーカットなどの欠陥が発生しやすくなる。特に、交流式溶接電源においては、前述したスラグ巻き込み及び溶融不良などの溶接欠陥の発生が顕著になる。よって、MgO含有量は10〜25質量%とする。
【0035】
MgO含有量は、スラグ剥離性向上の観点から、13質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは15質量%以上である。また、欠陥発生の抑制の観点から、MgO含有量は23質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは21質量%以下である。
【0036】
なお、ここでいうMgO含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法(例えばJIS M 8222:1997など)で分析して得たフラックスの全Mg量を、MgOで換算した値である。この方法で測定した全Mg量には、MgFなどのMgO以外の成分が含まれることがあるが、これらの成分は微量であるため、MgO含有量(全Mg量のMgO換算値)が前述した範囲内であれば、前述したMgOの効果には影響しない。
【0037】
[FのCaF換算値:10〜25質量%]
CaFなどのフッ化物は、溶融スラグの電気伝導性や流動性を高める効果があり、溶融スラグの高温粘性に影響を与える成分の1つである。この作用は、後述するCaOと同様に、その含有量に比例する。具体的には、F含有量(CaF換算値)が10質量%未満の場合、前述した効果が十分に得られず、また、溶融スラグからCOガスの排出を促進し、耐ポックマーク性を改善する効果も期待できない。
【0038】
一方、F含有量(CaF換算値)が25質量%を超えると、溶融スラグの流動性が高くなりすぎて、ビード形状が劣化する。よって、F含有量(CaF換算値)は10〜25質量%とする。F含有量(CaF換算値)は、耐ポックマーク性向上の観点から、13質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上である。また、ビード形状向上の観点からは、F含有量(CaF換算値)は、22質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以下である。
【0039】
なお、ここでいうF含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法(例えばJIS K 1468−2:1999など)で分析して得たフラックスの全F量を、CaFで換算した値である。また、本実施形態のフラックスにおけるフッ化物成分は、主にCaFであり、その他にAlFやMgFなどが含まれることがあるが、F含有量(全F量のCaF換算値)が前述した範囲内であれば、前述したフッ化物の効果には影響しない。
【0040】
[MnのMnO換算値:3〜20質量%]
Mnは、溶融スラグの粘性及び凝固温度に影響を与えると共に、耐ポックマーク性改善に有効な成分であり、主に、MnO、MnO及びMnなどの酸化物の形態で添加される。各種形態の中でも、特に一酸化マンガン(MnO)の形態で添加すると、その有用性が発揮される。ただし、Mn含有量(MnO換算値)が3質量%未満の場合、その効果が十分に発揮されず、また、20質量%を超えると、スラグが脆くなってスラグ剥離性が劣化する。よって、Mn含有量(MnO換算値)は、3〜20質量%とする。
【0041】
このMn(MnO換算値)は、耐ポックマーク性向上の観点から、6質量%以上が好ましく、より好ましくは8質量%以上である。また、スラグ剥離性向上の観点からは、Mn(MnO換算値)は、15質量%以下が好ましく、より好ましくは12質量%以下である。なお、ここでいうMn含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法(例えばJIS M 8232:2005など)で分析して得たフラックスの全Mn量を、MnOで換算した値である。
【0042】
[NaのNaO換算値、KのKO換算値及びLiのLiO換算値のうち少なくとも一つ以上の合計:0.5〜6.5質量%]
Na、K及びLiは、主に溶接時のアーク安定性とフラックスの吸湿特性に影響を与える成分であり、主に、NaO、KO及びLiOなどの酸化物の形態で添加される。しかしながら、Na含有量(NaO換算値)、K含有量(KO換算値)及びLi(LiO換算値)が合計で0.5質量%未満の場合、溶接時のアーク電圧が不安定となり、ビード外観及びビード形状が劣化する。
【0043】
一方、Na含有量(NaO換算値)、K含有量(KO換算値)及びLi(LiO換算値)が合計で6.5質量%を超えると、フラックスの吸湿特性が劣化すると共に、アークが強くなりすぎて不安定となり、ビード外観及びビード形状が劣化する。よって、Na含有量(NaO換算値)、K含有量(KO換算値)及びLi(LiO換算値)は、合計で0.5〜6.5質量%とする。なお、本実施形態のフラックスは、Na、K及びLiのうち少なくとも一種類が添加されていればよい。
【0044】
Na含有量(NaO換算値)、K含有量(KO換算値)及びLi(LiO換算値)は、アーク電圧の安定化の観点から、合計で1.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは2.0質量%以上である。また、フラックスの吸湿特性、アーク安定性の観点から、Na含有量(NaO換算値)、K含有量(KO換算値)及びLi(LiO換算値)は、合計で5.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4.5質量%以下である。
【0045】
なお、ここでいうNa含有量、K含有量及びLi含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法(例えばJIS M 8852:1998など)で分析して得たフラックスの全Na量、全K量及び全Li量を、それぞれNaO、KO及びLiOで換算した値である。また、本実施形態のフラックスにおけるNa成分、K成分及びLi成分は、主にNaO、KO及びLiOであるが、その他にNaAlSiやKAlSiやLiAlSiなどが含まれることがある。
また、ここでのNa、K、Liは、鉱石原料及び水ガラスに由来するものである。
【0046】
[FeのFeO換算値:0.5〜8質量%]
Feは、脱酸現象を促進し、耐ポックマーク性を高める効果があり、主に、Fe−Siなどの金属粉の形態で添加される。前述した効果は、その存在量に比例し、Fe含有量(FeO換算値)が0.5質量%未満の場合、特に溶接電源が直流式の場合に、十分な効果が得られない。一方、Fe含有量(FeO換算値)が8質量%を超えると、スラグの凝固温度に影響を与え、ビード外観、ビード形状及びスラグ剥離が劣化する。よって、Fe含有量(FeO換算値)は0.5〜8質量%とする。
【0047】
Fe含有量(FeO換算値)は、耐ポックマーク性の観点から、1質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上である。また、スラグの凝固温度への影響を考慮すると、Fe含有量(FeO換算値)は、6質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4質量%以下である。
【0048】
なお、ここでいうFe含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法(例えばJIS M 8202:2000など)で分析して得たフラックスの全Fe量を、FeOで換算した値であり、金属粉として添加されるFe以外に、不可避的不純物として添加されるFeO、Fe及びFeなどが含まれることがある。
【0049】
[CaOの換算値:6質量%以下]
CaOは、スラグの塩基度を高めて溶接金属の清浄度を高めると共に、溶融スラグの流動性にも影響を与える成分であり、その存在量に比例して、前述した効果が発揮される。しかしながら、CaO含有量が6質量%を超えると、溶融スラグの流動性が過大となり、ビードの外観及び形状が劣化する。よって、CaO含有量は6質量%以下に規制する。
【0050】
CaO含有量は、溶融スラグの流動性の観点から、4質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下である。また、溶接金属の清浄度向上の観点から、好ましくは0.5質量%以上である。
【0051】
なお、本実施形態のフラックスには、Ca成分としてCaO以外に、前述したCaFが含まれる。このため、ここでいうCaO含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法で分析して得た全Ca量及び全F量から求められる換算値である。従って、CaF量が多量の場合は、JIS Z 3352:2010に準拠すると、CaOが0となる場合も存在する。
【0052】
[水溶性SiO:1.0質量%以下]
水溶性SiOは、フラックスの耐吸湿性の劣化防止と溶接金属の拡散性水素量の増加を抑制するため、焼結作業を実施した後で1.0質量%以下になるように規制する。水溶性SiOの含有量が1.0質量%を超えると、フラックスの耐吸湿性が劣化すると共に、溶接金属の拡散水素量が増加する。よって、水溶性SiO含有量は1.0質量%以下とする。
【0053】
水溶性SiO含有量は、溶接作業性の観点から、0.01質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上である。また、耐吸湿性向上及び拡散水素量低減の観点から、0.8質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.6質量%以下である。
【0054】
この水溶性SiOは、主に水ガラスなどの結合剤に由来し、その量を低減するには、結合剤が難吸湿化する温度以上でフラックスを焼結することが有効である。具体的には、焼成温度を800℃以上とすることが、特に好ましい。水溶性SiOの含有量は、主に、水ガラスの成分及び含有量と、焼成温度とを調整することで制御することができる。
【0055】
なお、フラックス中の水溶性SiO量は、以下の方法により測定することができる。先ず、フラックスを振動ミルにて粒径300μm以下に粉砕し、そこから測定用試料を約0.2g採取する(ステップ1)。次に、石英製三角フラスコに、前述した試料と蒸留水100mlとを入れ、煮沸下で4時間、可溶性成分を抽出した(ステップ2)。その後、抽出液を12時間以上放置した後、抽出液中の沈殿物及び浮遊物などを取り除き、吸光光度法にてSiを定量した(ステップ3)。
【0056】
なお、ここでいう水溶性SiOは、前述した方法で分析して得たフラックスの全Si量を、SiOで換算した値であり、前述した全SiOとは区別して、その含有量を特定している。
【0057】
[水溶性NaO:1.0質量%以下]
水溶性NaOは、フラックスの耐吸湿性の劣化防止と溶接金属の拡散性水素量の増加を抑制するため、焼結作業を実施した後で1.0質量%以下になるように規制する。水溶性NaOの含有量が1.0質量%を超えると、フラックスの耐吸湿性が劣化すると共に、溶接金属の拡散水素量が増加する。よって、水溶性NaO含有量は1.0質量%以下とする。
【0058】
水溶性NaO含有量は、溶接作業性の観点から、0.01質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上である。また、耐吸湿性向上及び拡散水素量低減の観点から、0.8質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0059】
この水溶性NaOは、主に水ガラスなどの結合剤に由来し、その量を低減するには、結合剤が難吸湿化する温度以上でフラックスを焼結することが有効である。具体的には、焼成温度を800℃以上とすることが、特に好ましい。水溶性NaOの含有量は、主に、水ガラスの成分及び含有量と、焼成温度とを調整することで制御することができる。
【0060】
なお、フラックス中の水溶性NaO量は、前述した水溶性SiO量の測定と同様に、吸光光度法にて定量することができる。
なお、ここでいう水溶性NaOは、前述した方法で分析して得たフラックスの全Na量を、NaOで換算した値であり、前述した全NaOとは区別して、その含有量を特定している。
【0061】
[水溶性KO:0.8質量%以下]
本発明者は、水ガラスへの水溶性KOの適正量添加は、水ガラスの難吸湿化温度を低下させる効果を有することを見出した。すなわち、水溶性KOが適正量添加された水ガラスを用い、800℃以上で焼結作業を実施したフラックスにおいて、水溶性KOの量が0.8質量%以下の管理範囲を満足する場合には、従来と比べてフラックスの耐吸湿性が大きく向上した。
水溶性KOは、フラックスの耐吸湿性の劣化防止と溶接金属の拡散性水素量の増加を抑制するため、焼結作業を実施した後で0.8質量%以下になるように規制する。水溶性KOの含有量が0.8質量%を超えると、フラックスの耐吸湿性が劣化すると共に、溶接金属の拡散水素量が増加する。よって、水溶性KO含有量は0.8質量%以下とする。
【0062】
水溶性KO含有量は、溶接作業性の観点から、0.01質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上である。また、耐吸湿性向上及び拡散水素量低減の観点から、0.6質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.4質量%以下である。
【0063】
この水溶性KOは、主に水ガラスなどの結合剤に由来し、その量を低減するには、結合剤が難吸湿化する温度以上でフラックスを焼結することが有効である。具体的には、焼成温度を800℃以上とすることが、特に好ましい。水溶性KOの含有量は、主に、水ガラスの成分及び含有量と、焼成温度とを調整することで制御することができる。
【0064】
なお、フラックス中の水溶性KO量は、前述した水溶性SiO量の測定と同様に、吸光光度法にて定量することができる。
なお、ここでいう水溶性KOは、前述した方法で分析して得たフラックスの全K量を、KOで換算した値であり、前述した全KOとは区別して、その含有量を特定している。
【0065】
本実施形態のフラックスは、前述した成分に加えて、水溶性LiOを含有していてもよい。
[水溶性LiO:0.3質量%以下]
水溶性LiOは、添加量に応じて吸湿特性を更に向上させる効果がある。ただし、焼結作業を実施した後で水溶性LiO含有量が0.3質量%を超えると、アーク安定性が劣化し、ビード外観やビード形状が劣化する。よって、水溶性LiOを添加する場合は、0.3質量%以下とする。水溶性LiO含有量は、アーク安定性の向上や、ビード外観及びビード形状の向上の観点から、0.2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.15質量%以下である。また、吸湿特性の観点から、より好ましくは0.05質量%以上である。
【0066】
この水溶性LiOは、主に水ガラスなどの結合剤に由来し、その量を低減するには、結合剤が難吸湿化する温度以上でフラックスを焼結することが有効である。具体的には、焼成温度を800℃以上とすることが、特に好ましい。水溶性LiOの含有量は、主に、水ガラスの成分及び含有量と、焼成温度とを調整することで制御することができる。
【0067】
なお、フラックス中の水溶性LiO量は、前述した水溶性SiO量の測定と同様に、吸光光度法にて定量することができる。
なお、ここでいう水溶性LiOは、前述した方法で分析して得たフラックスの全Li量を、LiOで換算した値であり、前述した全LiOとは区別して、その含有量を特定している。
【0068】
[[MgO]/([Al]+[MnO]):0.20〜0.80]
MgO、Al及びMnは、それぞれ個別にその含有量を規定しているが、本実施形態のフラックスでは、更に、MgO含有量(質量%)とAl含有量(質量%)及びMn含有量(MnO換算値)(質量%)の合計量との比(=[MgO]/([Al]+[MnO]))も規定する。
【0069】
本発明者は、MgOを添加したフラックスの吸湿特性及び溶接作業性について種々実験研究した結果、MgO含有量とAl含有量及びMn含有量(MnO換算値)の合計量との比(=[MgO]/([Al]+[MnO]))が、吸湿特性及び溶接作業性について大きな影響を及ぼすことを見出した。例えば、直流式の溶接電源を用いる場合は、交流式の溶接電源を用いる場合と比べて、フラックス消費量が増加する。このため、溶接金属中のSiが増加して、スラグ剥離性の劣化が顕著となるが、スラグ剥離性については、MgOの添加により改善することができる。
【0070】
しかしながら、MgOは、水和性に富んでいるため、フラックス中に添加すると、吸湿特性が劣化し、溶接金属中の拡散性水素量が増加する。一方、Al及びMnは、非水和性の成分であり、添加による吸湿特性の向上効果は著しい。中でも、Mnは、Alと併用することにより、従来の知見とは異なり、フラックスの吸湿特性の向上をさせて、拡散性水素量の低減に寄与する効果を有していることがわかった。
【0071】
ただし、[MgO]/([Al]+[MnO])が0.20未満の場合、直流式の溶接電源にて溶接した場合に、スラグ剥離性が著しく劣化する。一方、[MgO]/([Al]+[MnO])が0.80を超えると、吸湿特性が劣化し、溶接金属中の拡散性水素量が増加する。よって、[MgO]/([Al]+[MnO])が0.20〜0.80となるように、各成分の添加量を調整する。これにより、吸湿特性の劣化を抑制することができる。
【0072】
[MgO]/([Al]+[MnO])は、スラグ剥離性向上の観点から、0.30以上とすることが好ましく、より好ましくは0.40以上である。また、耐吸湿性向上及び拡散水素量低減の観点から、0.70以下であることが好ましく、より好ましくは0.60以下である。
【0073】
[TiO:8質量%以下]
本実施形態のフラックスは、前述した成分に加えて、TiOを含有していてもよい。TiOは、スラグ剥離性向上に有効な成分であり、ビード形状を良好に整える効果もある。また、TiOの一部は、溶接時の還元反応によりTiとなり、このTiは溶接金属中に添加されて、靭性向上に寄与する。
【0074】
前述した作用は、その存在量(TiO含有量)に比例する。ただし、TiO含有量の上限値が8質量%を超えると、ビード形状が劣化する。よって、TiOを添加する場合は、8質量%以下とすることが必要である。TiO含有量は、ビード形状の観点から、6質量%以下であることがより好ましく、更に好ましくは4質量%以下である。またTiO含有量の下限値は、特に限定されるものではないが、スラグ剥離性及びビード形状の観点から、1質量%以上であることが好ましい。
【0075】
また、フラックスにTiOが添加されている場合は、下記数式(II)を満たすことが好ましい。これにより、直流式の溶接電源での溶接作業性を更に向上できると共に、溶接金属中の拡散水素量を低減する効果を高めることができる。なお、下記数式(II)における[TiO]は、TiO含有量(質量%)である。なお、下記数式(II)は、実験的に導き出したものである。
【0076】
【数4】
【0077】
前記数式(II)において、溶接作業性向上及び溶接金属中の拡散水素量の低減の観点から、0.25以上とすることがより好ましく、更に好ましくは0.35以上である。また、0.65以下であることがより好ましく、更に好ましくは0.55以下である。
【0078】
なお、ここでいうTiO含有量は、JIS Z 3352:2010に規定される方法(例えばJIS M 8219:2012など)で分析して得たフラックスの全Ti量を、TiOで換算した値である。
【0079】
[C:0.2質量%以下]
Cは、フラックスの各原料に不純物として含まれる炭酸塩などに由来し、不可避的に導入される。一方、前述したように直流式の溶接電源を用いた場合、フラックスの消費量が増大し、交流式の溶接電源を用いた場合に比べて、炭酸塩の分解が一層促進される。このため、C含有量が微量であっても、溶接中にCOやCOガスが大量に発生し、耐ポックマーク性の劣化やビードの外観及び形状の劣化を招くこととなる。よって、溶接作業性の劣化を防止するため、フラックス中のC量は、0.2質量%以下に低減することが好ましい。
【0080】
C含有量は、特に耐ポックマーク性向上の観点から、0.1質量%以下に規制することが好ましく、より好ましくは0.05質量%以下である。なお、耐ポックマーク性を良好に維持するためには、C含有量はできるだけ少ない方が好ましいが、0質量%とすることは困難なため、0.01質量%を下限とすればよい。また、ここでいうC含有量は、JIS Z 2615:2009に規定される方法で分析して得た値である。
【0081】
[その他の成分]
本実施形態のフラックスにおける上記以外の成分は、Zr、Ba、P及びSなどの不可避的不純物である。これらの不可避的不純物のうち、Zr及びBaはそれぞれ1.0質量%以下に規制することが好ましく、特に溶接品質に影響するP及びSはそれぞれ0.05質量%以下に規制することが好ましい。また、Zr、Ba、P及びSは、合計で0.1質量%以下であることが好ましい。
【0082】
[製造方法]
本実施形態のフラックスを製造する場合は、例えば、前述した組成となるように原料粉を配合し、結合剤と共に混練した後、造粒し、焼成する。その際、結合剤(バインダ)としては、例えば、ポリビニルアルコールや水ガラスを使用することができる。また、造粒法は、特に限定されるものではないが、転動式造粒機や押し出し式造粒機などを用いる方法が好ましい。
【0083】
更に、造粒されたフラックスは、ダスト除去及び粗大粒の解砕などの整粒処理を行い、粒子径を2.5mm以下とすることが好ましい。一方、造粒後の焼成は、ロータリーキルン、定置式バッチ炉及びベルト式焼成炉などで行うことができる。その際の焼成温度は、例えば600〜1200℃とすることができるが、前述したように結合剤を難吸湿化する観点から、800℃以上とすることが好ましい。より好ましくは830℃以上である。また、好ましくは850℃以下である。なお、600〜1200℃で焼成されたものが高温焼成型フラックスである。
【0084】
以上詳述したように、本実施形態のフラックスは、各成分の含有量を特定の範囲にすると共に、Mg含有量とAl及びMnの総含有量との比が特定の範囲になるように、これらの成分の量を調整している。そのため、溶接電源が交流式及び直流式のいずれであっても、溶接作業性が良好であり、また、フラックスの吸湿量及び溶接金属中の拡散性水素量を低減することが可能となる。
【0085】
また、本実施形態のフラックスの成分組成は、高温焼成型フラックスとして好適であるが、溶融型フラックスとして適用しても、高温焼成型フラックスと同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記表1に示す鋼板及び表2に示すワイヤを使用し、図1に示す開先形状で、下記表3に示す溶接条件(A又はB)により、サブマージアーク溶接での溶接試験を実施した。そして、下記表4に示す実施例のフラックス及び下記表5に示す比較例のフラックスについて、その性能を評価した。なお、本実施例では、下記表4及び表5に示す組成となるように原料を配合し、結合剤(水ガラス)と共に混練した後、造粒し、更にロータリーキルンを用いて下記表4及び表5に示す温度で焼成し、整粒することにより、粒子径が2.5mm以下のフラックスを得た。なお、表4、5において、本発明の範囲を満たさないものは数値に下線を引いて示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
なお、上記表1に示す鋼板組成及び上記表2に示すワイヤ組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。また、上記表4及び表5に示す「M(I)」は[MgO]/([Al]+[MnO])の値であり、「M(II)」は[MgO]/([Al]+[MnO]+[TiO])の値である。
【0093】
実施例及び比較例の各フラックスの評価は、溶接金属中の拡散水素量、フラックスの吸湿量、ビード外観、ビード形状、スラグ剥離性、アーク安定性、溶接欠陥(内在・外在)について行った。
【0094】
<拡散水素量>
溶接金属中の拡散水素量は、原則、JIS Z 3118:2007に規定される方法に基づいて測定した。ただし、溶接条件は,表3の溶接条件Aを採用した。本実施例では、拡散水素量が3.5ml/100g以下であったものを合格とした。
【0095】
<吸湿量>
吸湿量は、2時間の強制吸湿後の吸湿量により評価した。具体的には、500〜850μmの粒子径を有するフラックスの再乾燥を250℃×1hr行った後、30℃かつ相対湿度80%の条件にて、2時間の強制吸湿をさせた際にフラックスが有する水分量をKF(カールフィッシャー)法を用いて測定した。2時間の吸湿後のKF水分量が500ppm以下のものを耐吸湿性が良好とした。
【0096】
<ビード外観>
ビード外観は、主にビードの波目や光沢に関する評価であり、溶接部を目視観察することにより行った。その結果、ビードの波目に乱れがなくビードに金属光沢があるものを◎、単位溶接長(1m)あたりにビード波目の乱れが1箇所でビードに金属光沢があるものを○、単位溶接長(1m)あたりにビード波目の乱れが2〜4箇所でビードに金属光沢がないものを△、単位溶接長(1m)あたりにビード波目の乱れが5箇所以上ありビードに金属光沢がないものを×とした。そして、本実施例では、評価が◎又は○であったものを合格とした。
【0097】
<ビード形状>
ビード形状は、主にビードの凹凸や母材へのなじみに関する評価であり、溶接部を目視観察することにより行った。その結果、ビード形状が、非常に良好であったものを◎、良好であったものを○、やや不良であったものを△、不良であったものを×とした。そして、本実施例では、評価が◎又は○であったものを合格とした。
【0098】
<スラグ剥離性>
スラグ剥離性は、スラグ除去の容易さや焼き付きの有無により評価した。具体的には、スラグが、自然剥離し、焼き付きがなかったものを◎、自然剥離するが、単位溶接長(1m)あたり3箇所以下で焼き付きが発生したものを○、自然剥離せず、単位溶接長(1m)あたり4〜9箇所で焼き付きが発生したものを△、自然剥離せず、単位溶接長(1m)あたり10箇所以上で焼き付きが発生したものを×とした。そして、本実施例では、評価が◎又は○であったものを合格とした。
【0099】
<アーク安定性>
アーク安定性は、溶接時の電流や電圧の振れにより評価した。具体的には、溶接電流が±50Aかつアーク電圧が±2Vであったものを◎、溶接電流が±100Aかつアーク電圧が±2Vであったものを○、溶接電流が±100Aかつアーク電圧が±4Vであったものを△、溶接困難であったものを×とした。そして、本実施例では、評価が◎又は○であったものを合格とした。
【0100】
<溶接欠陥>
溶接欠陥(内在)は、主に気孔欠陥、スラグ巻き込み及び融合不良などの溶接金属内部で発生する溶接欠陥に関する評価であり、これらの溶接欠陥の発生がなかったものを◎、単位溶接長(1m)あたりの発生比率が0.5%以下であったものを○、単位溶接長(1m)あたりの発生比率が0.5%を超え1.0%以下であったものを△、単位溶接長(1m)あたりの発生比率が1.0%を超えていたものを×とした。そして、本実施例では、評価が◎又は○であったものを合格とした。
なお、溶接欠陥(内在)の検出には、JIS Z 3104:1995に準拠して撮影したX線透過写真を使用した。溶接欠陥(内在)の評価における単位溶接長(1m)あたりの発生比率とは、JIS Z 3104:1995に準拠して個々の欠陥(きず)の寸法(長さ)を測定して、欠陥(きず)の総長さを算出した後、試験部の有効長さで割り返し、単位溶接長あたりに換算したものである。
【0101】
一方、溶接欠陥(外在)は、主にアンダーカット及びポックマークなどの溶接金属表面で発生する溶接欠陥に関する評価であり、これらの溶接欠陥の発生がなかったものを◎、単位溶接長(1m)あたりの発生比率が0.5%以下であったものを○、単位溶接長(1m)あたりの発生比率が0.5%を超え1.0%以下であったものを△、単位溶接長(1m)あたりの発生比率が1.0%を超えていたものを×とした。そして、本実施例では、評価が◎又は○であったものを合格とした。
なお、溶接欠陥(外在)の検出は、目視により行った。溶接欠陥(外在)の評価における単位溶接長(1m)あたりの発生比率とは、個々のアンダーカット及びポックマークなどの長さを目視で測定し、溶接欠陥(外在)の総長さを算出した後、溶接欠陥(内在)と同じ試験部の有効長さで割り返し、単位溶接長あたりに換算したものである。
【0102】
以上の評価結果を、下記表6及び表7にまとめて示す。なお、表6、7において、溶接金属中の拡散水素量、及び、フラックスの吸湿量が評価基準を満たさないものは数値に下線を引いて示す。
【0103】
【表6】
【0104】
【表7】
【0105】
表6に示す実施例No.1〜26、28〜36のフラックス、参考例No.27のフラックスは、本発明の範囲を満足するものであるため、又は参考例のため、ビード外観、ビード形状、スラグ剥離性及びアーク安定性に優れ、かつ溶接欠陥(内在・外在)の発生も見られなかった。また、フラックスの吸湿量及び溶接金属中の拡散性水素量が低かった。
【0106】
表7に示す比較例No.1のフラックスは、Al含有量が35質量%を超えているため、ビード形状が劣っていた。比較例No.2のフラックスは、Al含有量が15質量%未満であるため、ビード形状が劣っていた。比較例No.3のフラックスは、SiO含有量が30質量%を超えているため、スラグ剥離性が劣っていた。比較例No.4のフラックスは、SiO含有量が10質量%未満であるため、ビード外観及びビード形状が劣っていた。
【0107】
比較例No.5のフラックスは、MgO含有量が25質量%を超えているため、ビード形状が劣り、更に、溶接金属の内部及び表面において溶接欠陥が発生した。また、M(I)が0.80を超えているため、溶接金属中の拡散水素量、及び、フラックスの吸湿量が増加した。比較例No.6のフラックスは、MgO含有量が10質量%未満であり、また、M(I)が0.20未満であるため、焼き付きが発生し、スラグ剥離性が劣っていた。比較例No.7のフラックスは、F含有量(CaF換算値)が25質量%を超えているため、ビード形状が劣っていた。比較例No.8のフラックスは、F含有量(CaF換算値)が10質量%未満であるため、アンダーカットやポックマークなどの溶接欠陥が発生した。
【0108】
比較例No.9のフラックスは、Mn含有量(MnO換算値)が20質量%を超えているため、焼き付きが発生し、スラグ剥離性が劣っていた。比較例No.10のフラックスは、Mn含有量(MnO換算値)が3質量%未満であるため、溶接金属表面にアンダーカットやポックマークなどの溶接欠陥が発生した。比較例No.11のフラックスは、Na含有量(NaO換算値)とK含有量(KO換算値)とLi(LiO換算値)との合計量が0.5質量%未満であるため、アーク安定性が著しく低下し、併せてビード外観やビード形状も劣化した。その結果、溶接が困難であった。比較例No.12のフラックスは、Na含有量(NaO換算値)とK含有量(KO換算値)とLi(LiO換算値)との合計量が6.5質量%を超えているため、アーク安定性が著しく劣化し、ビード外観及びビード形状が劣っていた。また、フラックスの吸湿量が増加した。
【0109】
比較例No.13のフラックスは、Fe含有量(FeO換算値)が0.5質量%未満であるため、溶接金属表面にアンダーカットやポックマークなどの溶接欠陥が発生した。比較例No.14のフラックスは、Fe含有量(FeO換算値)が8質量%を超えているため、ビード外観及びビード形状が劣り、更に、スラグ剥離性も劣っていた。比較例No.15のフラックスは、CaO含有量が6質量%を超えているため、ビード外観及びビード形状がいずれも劣っていた。
【0110】
比較例No.16のフラックスは、水溶性SiO含有量及び水溶性NaOの含有量が1.0質量%を超えているため、溶接金属中の拡散水素量、及び、フラックスの吸湿量が増加した。比較例No.17のフラックスは、水溶性SiO含有量が1.0質量%を超えているため、また、水溶性KO含有量が0.8質量%を超えているため、溶接金属中の拡散水素量、及び、フラックスの吸湿量が増加した。比較例No.18のフラックスは、水溶性SiO含有量が1.0質量%を超えているため、また、水溶性KO含有量が0.8質量%を超えているため、溶接金属中の拡散水素量、及び、フラックスの吸湿量が増加した。
【0111】
比較例No.19のフラックスは、M(I)が0.80を超えているため、溶接金属中の拡散水素量、及び、フラックスの吸湿量が増加した。比較例No.20のフラックスは、M(I)が0.20未満でであるため、焼き付きが発生し、スラグ剥離性が劣っていた。比較例No.21のフラックスは、8質量%を超えてTiOを含有しているため、ビード形状が劣っていた。実施例No.22のフラックスは、C含有量が0.2質量%を超えているため、溶接金属表面にポックマークが発生し、また、ビード外観及びビード形状が劣化した。
【0112】
以上の結果から、本発明のフラックスを用いることにより、溶接が交流式及び直流式のいずれの場合でも、溶接作業性を良好にし、かつフラックスの吸湿量及び溶接金属中の拡散性水素量を低減することが可能であることが確認された。
図1