特許第6441144号(P6441144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441144
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】地震の主要動判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/30 20060101AFI20181210BHJP
   G01V 1/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   G01V1/30
   G01V1/00 D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-62014(P2015-62014)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-180723(P2016-180723A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】廣石 恒二
(72)【発明者】
【氏名】高木 政美
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰生
(72)【発明者】
【氏名】山本 優
【審査官】 素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−076975(JP,A)
【文献】 特開2009−030990(JP,A)
【文献】 特開2014−169960(JP,A)
【文献】 特開2006−010664(JP,A)
【文献】 特開2015−215221(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0113751(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震発生時に、判定対象地点において時々刻々観測された水平方向(H方向)および上下方向(V方向)の地震動の大きさを示す値(H、V)から、H−V平面におけるH−V曲線を求め、当該H−V曲線の非線形化から上記地震の主要動(S波)を判定することを特徴とする地震の主要動判定方法。
【請求項2】
上記値(H、V)は加速度であり、かつ上記H方向およびV方向の加速度の絶対値を平滑化した波形をH−V平面に投影することにより上記H−V曲線を求めることを特徴とする請求項1に記載の地震の主要動判定方法。
【請求項3】
予め上記H方向の加速度の値について、順次高い値となる複数の保存用閾値を設定し、上記H方向の加速度が順次上記保存用閾値を超えた時の上記値(H、V)(k=1,2,3、…)について、(全体V/H比)=V/H および(区間V/H比)=(V−VK−1)/(H−HK−1)を算出し、上記(区間V/H比)/上記(全体V/H比)が、予め設定した判定用閾値を下回る場合を上記S波と判定することを特徴とする請求項2に記載の地震の主要動判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生時に判定対象地点に設置された地震計で検出された観測波形から、当該検出時点の揺れが主要動(S波)によるものか否かを判定する地震の主要動判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震発生時に、先に到達するP波の情報を用いて、後に到達するS波の大きさを予測し、事前に警報や機器停止信号を配信するための地震直前警報システムにおいては、ある時刻に観測された地震波がP波であるかS波であるか判断することが、予測精度を担保するうえで重要になる。
【0003】
すなわち、観測されたP波の地震動をS波によるものと誤判定した場合には、その後に到達する実際のS波によるさらに強い揺れを予測することができず、この結果警報や機器停止信号の配信が遅れる可能性がある。また逆に、観測されたS波の地震動を、未だP波によるものと誤判定した場合には、その後にさらに強い揺れが来ると予測することになり、本来警報等を発する必要が無い地震動に対して、警報や機器停止信号を配信する可能性がある。
【0004】
従来の上記地震動におけるS波を検出する手段として、例えば下記特許文献1では、P波においては上下動が卓越し、S波においては水平動が卓越するという考えに基づいてS波の到達を判定するS波検出装置が提案されている。
【0005】
このS波検出装置におけるS波の判定方法は、地震発生時に観測された上下動と水平動の平滑化波形の比(V/H)が、予め設定されたS波判定閾値を下まわった時にS波が到達したと判定するものである。
【0006】
しかしながら、上記従来のS波判定方法にあっては、図5に示す直下型地震の観測波形に対して適切にS波判定閾値を設定すると、図6に示す海溝型地震の観測波形のように、P波の初動において水平動に対して上下動が卓越し難い傾向のある地震に対しては、P波をS波と誤判定する可能性がある。
【0007】
このように、特定の観測波形の地震を想定して上下動と水平動との比(V/H)に対するS波判定閾値を設定しても、上下動に対する水平動の卓越度合いが異なる観測波形の地震に対しては、正しく評価することができないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−076975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、P波およびS波の上下動に対する水平動の卓越度合いが互いに異なる観測波形の地震に対しても、高い精度で当該地震のS波を判定することが可能になる地震の主要動判定方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、地震発生時に、判定対象地点において時々刻々観測された水平方向(H方向)および上下方向(V方向)の地震動の大きさを示す値(H、V)から、H−V平面におけるH−V曲線を求め、当該H−V曲線の非線形化から上記地震の主要動(S波)を判定することを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記値(H、V)は加速度であり、かつ上記H方向およびV方向の加速度の絶対値を平滑化した波形をH−V平面に投影することにより上記H−V曲線を求めることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、予め上記H方向の加速度の値について、順次高い値となる複数の保存用閾値を設定し、上記H方向の加速度が順次上記保存用閾値を超えた時の上記値(H、V)(k=1,2,3、…)について、(全体V/H比)=V/H および(区間V/H比)=(V−VK−1)/(H−HK−1)を算出し、上記(区間V/H比)/上記(全体V/H比)が、予め設定した判定用閾値を下回る場合を上記S波と判定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
図1(a)は、図5に示した直下型地震の地震動波形を加速度平滑化した波形を示すものであり、図1(b)は上記加速度平滑化波形から得られたH−V曲線を示すものである。また、図2(a)は、図6に示した海溝型地震の地震動波形を加速度平滑化した波形を示すものであり、図2(b)は上記加速度平滑化波形から得られたH−V曲線を示すものである。
【0014】
図1(b)および図2(b)に見られるように、いずれの地震動におけるH−V曲線も、S波到達時に非線形化するバイリニアのような曲線を描くことが判る。
【0015】
そして、請求項1〜3のいずれかに記載の発明によれば、判定対象地点において時々刻々観測された水平方向(H方向)および上下方向(V方向)の地震動の大きさを示す値(H、V)から上記H−V曲線を求め、その非線形化から上記地震のS波を判定しているために、P波およびS波の上下動に対する水平動の卓越度合いが互いに異なる観測波形の地震に対しても、高い精度で当該地震のS波を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、図5に示した直下型地震の地震動波形を加速度平滑化した波形を示すものであり、(b)は上記加速度平滑化波形から得られたH−V曲線を示すものである。
図2】(a)は、図6に示した海溝型地震の地震動波形を加速度平滑化した波形を示すものであり、(b)は上記加速度平滑化波形から得られたH−V曲線を示すものである。
図3】H−V曲線から非線形化の判定を行う方法を説明するための図である。
図4図6の地震動波形に対して本発明の一実施形態を用いてS波の判定を行った結果を示す図である。
図5】直下型地震の地震動波形に対して従来のS波判定方法を適用した場合の結果を示す図である。
図6】海溝型地震の地震動波形に対して従来のS波判定方法を適用した場合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1図4に基づいて、本発明に係る地震動のS波判定方法の一実施形態について説明する。
先ず、地震発生時に、判定対象地点となる工場等の現地に設置した地震計によって、水平方向(H方向)および上下方向(V方向)の加速度を時々刻々測定するとともに、これと併行して、測定された加速度の地震動波形を平滑化する。
【0018】
この加速度平滑化波形は、次式によって計算する。
水平動:H=Hi−1×α+(x+y1/2×(1−α)
上下動:V=Vi−1×α+|z|×(1−α)
ここで、x、yは加速度水平動成分、zは加速度上下動成分、αは指数平滑化係数である。
【0019】
図1(a)および図2(a)は、各々図5および図6に示した地震動波形を、上式を用いて平滑化したものである。
次いで、このようにして得られた加速度平滑化波形をH−V平面に投影することによりH−V曲線を得る。図1(b)および図2(b)は、各々図1(a)および図2(a)の加速度平滑化波形をH−V平面に投影したH−V曲線である。
【0020】
そして、このH−V曲線が非線形化したかを判定する。この非線形化の判定手法については、様々な数学的な方法を採用することができる。
本実施形態においては、予め上記H方向の加速度の値Hについて、順次高い値となる複数の保存用閾値を設定しておく。ちなみに、この複数の保存用閾値は、順次対数軸上において等間隔に増加するように設定することが好ましい。
【0021】
そして、地震発生時に上記加速度値Hが増大して、順次上記保存用閾値を超えた時の上記値(H、V)(k=1,2,3、…)を保存し、これらの加速度値(H、V)を用いて、図3に示すように、(全体V/H比)および(区間V/H比)を算出する。
【0022】
ここで、(全体V/H比)は、地震発生時から保存用閾値Hを保存した時までのHに対するVの増加率であり、(区間V/H比)は、1つ前の保存用閾値HK−1の保存時から保存用閾値Hを保存した時までの(H−HK−1)に対する(V−VK−1)の増加率である。
【0023】
すなわち、(全体V/H比)および(区間V/H比)を、それぞれ下式によって算出する。
(全体V/H比)=V/H
(区間V/H比)=(V−VK−1)/(H−HK−1
【0024】
次いで、上記(区間V/H比)/上記(全体V/H比)を算出し、得られた値が予め設定した判定用閾値を上回る時には、P波と判定し、下回る時に上記S波と判定する。
【0025】
図4は、図6に示した海溝型地震の観測波形に対して、上述した本実施形態のS波判定方法を用いて上記観測波形から加速度平滑化波形を算出し、次いで(全体V/H比)=V/Hおよび(区間V/H比)=(V−VK−1)/(H−HK−1)から上記(区間V/H比)/上記(全体V/H比)を算出して、予め設定した判定用閾値(本実施形態においては、0.95)と対比してP波およびS波の判定を行った結果を示すものである。
【0026】
図4に見られるように、本実施形態によれば、従来の判定方法によっては誤判定していた海溝型地震の観測波形についても、適切にS波の判定を行えることができる。
【0027】
以上説明したように、上記構成からなる地震動のS波判定方法によれば、現地において時々刻々観測された水平方向(H方向)および上下方向(V方向)の地震動の加速度波形を平滑化し、得られた加速度平滑化波形をH−V平面に投影してH−V曲線を求め、このH−V曲線における非線形化から上記地震のS波を判定しているために、P波およびS波の上下動に対する水平動の卓越度合いが互いに異なる観測波形の地震に対しても、高い精度で当該地震のS波を判定することができる。
【0028】
また、本実施形態においては、(全体V/H比)および(区間V/H比)を算出するための加速度値として、予めH方向の加速度の値Hについて、順次対数軸上において等間隔に増加する複数の保存用閾値を設定し、上記加速度値Hが増大して、順次上記保存用閾値を超えた時の上記値(H、V)(k=1,2,3、…)を保存している。
【0029】
この結果、加速度値Hに対して、常に同じ比率の保存用閾値間隔(H−HK−1)が設定されるため、大小さまざまな地震波に対して、安定した(区間V/H比)の値が得られ、誤判定の確率を低下させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6