(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441154
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】トータルステーションを用いた測定方法およびトータルステーションの制御装置
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20181210BHJP
【FI】
G01C15/00 103A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-79495(P2015-79495)
(22)【出願日】2015年4月8日
(65)【公開番号】特開2016-200463(P2016-200463A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 高弘
【審査官】
梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−029809(JP,A)
【文献】
特開平08−136218(JP,A)
【文献】
特開2010−223754(JP,A)
【文献】
特開2009−019923(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0119161(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0233420(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00 − 1/14
G01C 5/00 − 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トータルステーションの設置点を原点とした第一直交座標系で測定対象物上に設定された二つの基準点を測定する工程と、
前記二つの基準点のうちの一方の基準点を原点とし、前記二つの基準点を通る直線をX軸とした第二直交座標系を設定する工程と、
前記第二直交座標系において、前記測定対象物の設計上の測点である設計測点を設定する工程と、
前記第二直交座標系における前記設計測点の座標値を前記第一直交座標系における座標値に変換する工程と、
前記第一直交座標系における設計測点の座標値を、前記トータルステーションを原点とする極座標系の極座標値に変換し、当該トータルステーションの制御角度を求める工程と、
前記制御角度に設定したトータルステーションにより前記設計測点に対応する測点を測距する工程と、を備えることを特徴とする、トータルステーションを用いた測定方法。
【請求項2】
測定対象物上の二つの基準点をトータルステーションで視準して得られた座標値を、トータルステーションの設置点を原点とした第一直交座標系における座標値として記憶する手段と、
前記測定対象物の設計測点の座標値を、前記二つの基準点の一方を原点とし且つ前記二つの基準点を通る直線をX軸とした第二直交座標系における座標値として記憶する手段と、
他方の前記基準点を前記第二直交座標系のX軸上に移動させるためのY軸回りの回転角kyおよびZ軸回りの回転角kzを算出する手段と、
前記設計測点の座標値を、前記Y軸回りの回転角−kyおよび前記Z軸回りの回転角−kzで回転し、前記第一直交座標系内の座標値に変換する手段と、
前記第一直交座標系における設計測点の座標値を、前記トータルステーションを原点とする極座標系の極座標値に変換し、当該トータルステーションの制御角度を求める手段と、
前記制御角度を前記トータルステーションに出力する手段と、を備えることを特徴とする、トータルステーションの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トータルステーションを用いた測定方法およびトータルステーションの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に設定された測点を測定する場合には、当該測点に設置されたターゲットを計測機(トータルステーション)により視準するのが一般的である。測点が多数存在する場合には、自動追尾型トータルステーションを用いるのが効率的である。
自動追尾型トータルステーションは、測量用のプリズムを自動視準することで測点を検知するものであるが、測定対象物にターゲットを設置することができない場合には、採用することができなかった。
【0003】
一方、ノンプリズム式トータルステーションを用いることで、ターゲットを設置することができない測定対象物を測定する場合がある。
ところが、ターゲット(プリズム)がない場合には、測点を指定するのが困難となる場合がある。そのため、特許文献1には、ディスプレイ上でターゲット(測点)を指定することで、トータルステーションを操作して測定する方法が開示されている。
【0004】
また、本出願人は、各測点のターゲットを設置することが困難な場合の測定方法を開示している(特許文献2参照)。この測定方法は、測定対象物に設定された3点の基準点を測定し、3点の基準点のうちの1点を原点とした直交座標系を設定するとともに、当該座標系の3本の基準軸のうちのいずれか2本の基準軸により形成される平面上に配置されるように3点の基準点および測定対象物に設定された測点を座標変換し、座標変換後の測点の座標値を測定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−333211号公報
【特許文献2】特開2006−029809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の測定方法は、オペレータの操作によって各測点を指示するため、測点が多数ある場合には、トータルステーションの制御に手間がかかる。
また、特許文献2の測定方法は、測点毎に座標変換を行うため、測点が多数ある場合には、演算に時間がかかる場合がある。
【0007】
このような観点から、本発明は、予め設定された測点を簡易に測定することを可能としたトータルステーションを用いた測定方法およびトータルステーションの制御装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のトータルステーションを用いた測定方法は、トータルステーションの設置点を原点とした第一直交座標系で測定対象物上に設定された二つの基準点を測定する工程と、前記二つの基準点のうちの一方の基準点を原点とし、前記二つの基準点を通る直線をX軸とした第二直交座標系を設定する工程と、前記第二直交座標系において、前記測定対象物の設計上の測点である設計測点を設定する工程と、前記第二直交座標系における前記設計測点の座標値を前記第一直交座標系における座標値に変換する工程と、前記第一直交座標系における設計測点の座標値を、前記トータルステーションの設置点を原点とする極座標系の極座標値に変換し、当該トータルステーションの制御角度を求める工程と、前記制御角度に設定したトータルステーションにより前記設計測点に対応する測点を測距する工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
また、本発明のトータルステーションの制御装置は、測定対象物上の二つの基準点をトータルステーションで視準して得られた座標値を、トータルステーションの設置点を原点とした第一直交座標系における座標値として記憶する手段と、前記測定対象物の設計測点の座標値を、前記二つの基準点の一方を原点とし且つ前記二つの基準点を通る直線をX軸とした第二直交座標系における座標値として記憶する手段と、他方の前記基準点を前記第二直交座標系のX軸上に移動させるためのY軸回りの回転角kyおよびZ軸回りの回転角kzを算出する手段と、前記設計測点の座標値を、前記Y軸回りの回転角−kyおよび前記Z軸回りの回転角−kzで回転し、前記第一直交座標系内の座標値に変換する手段と、前記第一直交座標系における設計測点の座標値を、前記トータルステーションを原点とする極座標系の極座標値に変換し、当該トータルステーションの制御角度を求める手段と、前記制御角度を前記トータルステーションに出力する手段と、を備えることを特徴としている。
【0010】
かかるトータルステーションを用いた測定方法およびトータルステーションの制御装置によれば、ターゲットを設置していない状況でも、予め設定された測定対象物上の測点をトータルステーションで視準することができる。
すなわち、測定対象物上に設定された2つの基準点を利用して、実測用の座標系(第二直交座標系)を設定し、この座標系に測定対象物の設計上の測点(設計測点)を重ね合わせることで、測定対象物上の設計測点をトータルステーションで視準することができる。
そのため、ターゲットを設置することができない場合であっても、複雑な演算を要することなく、所定の測点の測定を簡易に実施することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトータルステーションを用いた測定方法およびトータルステーションの制御装置によれば、ターゲットが設置されていない測定対象物上の測点を精度よく測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の壁ボードの測定状況を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態では、
図1に示すように、板状の壁ボード2に対し、トータルステーション1により品質検査を行う場合について説明する。
本実施形態のトータルステーションを用いた測定方法は、基準点測定工程と、第二座標系設定工程と、設計測点設定工程と、座標値変換工程と、制御角度設定工程と、計測工程とを備えている。本実施形態では、トータルステーションの制御装置(以下、単に「制御装置」という)を利用してトータルステーションを制御する。制御装置は、記憶部、演算部および制御部を備えている。
【0014】
基準点測定工程は、
図1に示すように、トータルステーション1の設置点TSを原点とした第一直交座標系で壁ボード2上に設定された二つの基準点T1,T2を測定する工程である。
トータルステーション1の据付個所(設置点の位置)は限定されるものではないが、本実施形態では、壁ボード2からの距離(測距距離)Lが7〜10mの位置となるようにする。なお、第一直交座標系のX軸およびY軸(XY平面)は、水平面内に設定するのが一般的であるが、必ずしも水平面内に設定する必要はない。
【0015】
基準点T1,T2の測定は、壁ボードの上端角部にターゲット3,4として設置されたプリズムを、トータルステーション1により視準することにより行う。なお、基準点T1,T2の設置個所は限定されない。また、トータルステーション1による基準点T1,T2の測定は、必ずしも自動視準である必要はなく、測定者が手動で測定してもよい。
トータルステーション1による基準点T1,T2の測定結果(第一直交座標系における座標値)は、制御装置に入力されて、記憶部に記憶される。なお、基準点T1,T2の測定結果は、トータルステーション1から直接制御装置に送信してもよいし、手動で入力してもよい。
【0016】
第二座標系設定工程では、基準点測定工程で測定した二つの基準点T1,T2のうちの一方の基準点T1を原点とし、二つの基準点T1,T2を通る直線(基準線)をX軸とした第二直交座標系を設定する。
すなわち、第二直交座標系は、壁ボード2の上辺5がX軸、左右の辺の一方の辺6(本実施形態では
図1の左側の辺6)がZ軸となるように設定する。
【0017】
具体的には、まず、視準された基準点T1,T2の第一直交座標系での座標値T1(x
T1,y
T1,z
T1)、T2(x
T2,y
T2,z
T2)を、T1点が原点となるように平行移動する。
平行移動された基準点T1,T2の座標値は、以下のようになる。
T1:(x
0T1,y
0T1,z
0T1)=(0,0,0)
T2:(x
0T2,y
0T2,z
0T2)=(x
T2−x
T1,y
T2−y
T1,z
T2−z
T1)
次に、式1〜3により、基準点T1,T2を第二直交座標系におけるXZ平面上の座標値となるように、Z軸を回転させる。
【0019】
続いて、基準点T2の座標値が第二直交座標系におけるX軸線上にのるように、式4〜6により、Y軸を回転させる。
【0021】
基準点T1,T2について、第二直交座標系のZ軸の回転を経て、第二直交座標系のY軸の回転を行うことで、T2点が第二直交座標系のX軸上の点となる。
なお、演算部の回転角演算手段は、式1〜式6により、他方の基準点T2を第二直交座標系のX軸上に移動させるためのY軸回りの回転角kyおよびZ軸回りの回転角kzを演算し、演算結果を記憶部に出力する。
【0022】
設計測点設定工程では、壁ボード2の設計上の測点(=壁ボード2の設計モデル上において設定した視準目標点)である設計測点TGを第二直交座標系内に設定する。
設計測点TGの座標値は、壁ボード2の設計モデルを表現する際に用いる仮想空間上の直交座標系(以下「設計モデル用直交座標系」という。)で規定されていて、予め記憶部に記憶されている。なお、設計モデル用直交座標系は、第二直交座標系に対応するものであり、壁ボード2の設計モデル上の上端角部(基準点T1に対応する点)を原点とし、壁ボード2の設計モデル上の上辺(基準点T1,T2に対応する点を通る直線)をX軸としている。
したがって、壁ボード2の設計モデルの上端角部(基準点T1に対応する点)および上辺(基準点T1,T2に対応する点を通る直線)を、それぞれ第二直交座標系の原点およびX軸に擬似的に重ね合わせると、設計モデル上の視準目標点は、第二直交座標系内における設計測点TGとなる。
【0023】
なお、測定対象物(壁ボード2)が設計図通りに誤差なく製造されていれば、設計測点TGは測定対象物の表面上に設定されることになるが、測定対象物には通常は製造誤差が存在しているので、設計測点TGは測定対象物の表面上に設定されない場合もある。
【0024】
座標値変換工程では、座標値変換手段により、第二直交座標系における設計測点TGの座標値を第一直交座標系における座標値に変換する。
設計測点TGは、基準点T1を原点とした第二直交座標系上の座標値に設定されているため、設計測点TGを視準するにあたり、設計測点TGをトータルステーションの設置点を原点とする第一直交座標系の座標値に変換する。
【0025】
設計測点TGの第二直交座標系から第一直交座標系への変換は、Z軸回転、Y軸回転を第二座標系設定工程において行った回転角で逆回転させることにより行う。
具体的には、ky=−ky、kz=−kzとして、式7の計算を行うことで、設計測点TGの座標値を第一直交座標系の座標値に変換する。なお、式7は、設計座標値から観測座標値に変換する式である。
すなわち、座標値変換手段は、予め記憶部に記憶されている設計測点TG(=壁ボード2の設計モデル上において設定した視準目標点)の座標値(x
TGi,y
TGi,z
TGi)を読み出し、設計測点TGの座標値(x
TGi,y
TGi,z
TGi)をY軸回りの回転角−kyおよび前記Z軸回りの回転角−kzで回転移動させるとともに、第二直交座標系設定工程で行った平行移動を逆に行うことで、設計測点TGの座標値を第一直交座標系の座標値に変換する。
【0027】
制御角度設定工程では、制御角度算出手段により、第一直交座標系における設計測点TGの座標値を、トータルステーションを原点とする極座標系の極座標値に変換し、トータルステーション1の制御角度を求める。
すなわち、設計測点TGの直交座標値(x
TGm,y
TGm,z
TGm)を、式8により、極座標値(斜距離長L
TGm,鉛直角V
TGm,水平角H
TGm)に変換する。そして、鉛直角V
TGm,水平角H
TGmが測点TGを視準する際のトータルステーション1の制御角度となる。
【0029】
計測工程では、制御部(出力手段)から制御角度がトータルステーションに送信(出力)され、この制御角度に設定したトータルステーション1により測距する。
すなわち、壁ボード2の表面(またはその近傍)の各設計測点TGについて、制御角度設定工程において算出された水平角H
TGmと鉛直角V
TGmでトータルステーション1を制御し、各設計測点TGに対応する実測点までの距離を測定する。そして、距離の測定値と、斜距離長L
TGm(計算値)とを比較することで、測定対象物の製造誤差を確認することができる。
【0030】
以上、本実施形態のトータルステーションを用いた測定方法によれば、ターゲットを設置していない状況でも、予め設定された測定対象物上の測点をトータルステーションで視準することができる。
すなわち、壁ボード2(測定対象物)上に設定された2点の基準点を利用して、実測用の座標系(第二直交座標系)を設定し、この座標系に壁ボード2の設計上の測点(設計測点)を重ね合わせることで、壁ボード2上の設計測点をトータルステーション1で視準することができる。
そのため、ターゲットを設置することができない場合であっても、複雑な演算を要することなく、所定の測点の測定を簡易に実施することができる。
【0031】
各測点の測定は、トータルステーション1を原点とする極座標系の極座標値によって行うため、トータルステーションの設置状況や、トータルステーションの座標軸(第一直交座標系)と壁ボードの座標軸(第二直交座標系)との間にずれがあったとしても、高精度に測定することができる。
トータルステーション1を利用した自動視準が可能なため、測定点が多数ある場合であっても、比較的簡易に測定することができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
本発明のトータルステーションを用いた測定方法の用途は限定されるものではなく、例えば、既設構造物の変位計測等に用いてもよい。また、構造物に設置された治具等の位置確認や、構造物の形状の変化点の位置確認等に用いてもよい。
また、トータルステーションを利用して、同一箇所を繰り返し視準する場合に用いてもよい。このとき、トータルステーション1が設置されている架台に、日射等の日変化により傾斜が発生した場合であっても、測定用の基準線を設定認識することで、日変化の影響をキャンセルして、同一箇所の測定を高精度に行うことができる。
前記実施形態では、制御装置を利用してトータルステーションの制御角度を算出する場合について説明したが、制御角度を算出する手段は限定されるものではない。例えば、表計算ソフトを利用して算出してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 基準点
2 壁ボード(測定対象物)
T1,T2 基準点
TG 設計測点
TS トータルステーションの設置点