特許第6441179号(P6441179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧
<>
  • 特許6441179-Ni基合金フラックス入りワイヤ 図000007
  • 特許6441179-Ni基合金フラックス入りワイヤ 図000008
  • 特許6441179-Ni基合金フラックス入りワイヤ 図000009
  • 特許6441179-Ni基合金フラックス入りワイヤ 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441179
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】Ni基合金フラックス入りワイヤ
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20181210BHJP
   B23K 35/368 20060101ALI20181210BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20181210BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20181210BHJP
   C22C 38/08 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
   B23K35/30 320Q
   B23K35/30 A
   B23K35/368 B
   C22C19/03 G
   !C22C38/00 302B
   !C22C38/08
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-152765(P2015-152765)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-30018(P2017-30018A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 和博
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−085366(JP,A)
【文献】 特開2007−203350(JP,A)
【文献】 特開昭63−080994(JP,A)
【文献】 特開2002−235136(JP,A)
【文献】 特開2013−208628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
B23K 35/368
C22C 19/03
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスが外皮に内包されたNi基合金フラックス入りワイヤであり、ワイヤ全体の組成が、ワイヤ全質量に対して、
Ni:50質量%以上70質量%以下、
Cr:1質量%以上15質量%以下、
Mo:10質量%以上20質量%以下、
Mn:1.5質量%以上5.5質量%以下、
W:1.5質量%以上5.0質量%以下、
Fe:2.0質量%以上8.0質量%以下、
Al:0.01質量%以上0.40質量%以下、
B化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計:0.005質量%以上0.030質量%以下、
C:0.050質量%以下、
Si:0.15質量%以下、
P:0.015質量%以下、
S:0.010質量%以下、
Ti:0.20質量%以下、
Nb:0.03質量%以下、
前記フラックスが、ワイヤ全質量に対して、
TiO2:3.0質量%以上10.0質量%以下、
SiO2:0.1質量%以上4.0質量%以下、
ZrO2:0.5質量%以上2.0質量%以下、
金属弗化物:F換算量で0.01質量%以上1.5質量%以下、
Ni、Cr、Mo、Mn、W、Fe、AlおよびCuの群からなる金属成分の合計:10質量%以上15質量%以下で含有し、
ワイヤ全体の組成において、前記Ni、前記Cr、前記Mo、前記Mn、前記W、前記Fe、前記Al、前記B化合物および前記B合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計、前記C、前記Si、前記P、前記S、前記Ti、前記Nb、前記TiO2、前記SiO2、前記ZrO2および前記金属弗化物の成分の合計が、ワイヤ全質量あたり、97.5質量%以上であり、
外皮中に、外皮全質量に対して、
N:0.010質量%以下、
Mg:0.004質量%以上0.025質量%以下含有する
ことを特徴とするNi基合金フラックス入りワイヤ。
【請求項2】
前記外皮が、当該外皮全質量に対して、
Ni:60質量%以上、
Mo:8質量%以上22質量%以下、
Cr:1質量%以上15質量%以下含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
【請求項3】
前記外皮が、当該外皮全質量に対して、
Ti:0.002質量%以上0.40質量%以下、
Al:0.03質量%以上0.40質量%以下、
C:0.020質量%以下、
Si:0.15質量%以下、
Mn:4.0質量%以下、
W:4.0質量%以下、
Fe:7.0質量%以下含有し、
残部が不可避的不純物からなる
ことを特徴とする請求項2に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9%Ni鋼および各種高Ni合金等の溶接において使用されるNi基合金フラックス入りワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(Liquefied Natural Gas)貯蔵用のタンクなどには低温靱性に優れる9%Ni鋼の厚鋼板が用いられており、当該9%Ni鋼の溶接には、低温靱性に優れたNi基合金溶接材が用いられている。Ni基合金溶接材には、溶接後に熱処理を経ることなく、溶接したままの状態で高い低温靱性を備えることが求められる。
【0003】
Ni基合金溶接材のような特殊な溶接材においては被覆アーク溶接やTIG(Tungsten Inert Gas)溶接が行われることが多かったが、より高い作業能率が期待できることから、近年、Ni基合金フラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接を行うことが多くなってきた。
【0004】
このような状況のもと、Ni基合金フラックス入りワイヤに関する発明が多数開示されている。例えば、特許文献1には、金属外皮中のC量を規制し、脱酸成分を所定量添加したNi基合金フラックス入りワイヤが開示されている。特許文献1によれば、前記Ni基合金フラックス入りワイヤは、溶接金属の凝固割れを防止し、かつ溶接作業中のアークを安定させることができるため、優れた耐高温割れ性および溶接作業性を得ることができると記載されている。
なお、本明細書において「溶接金属」とは、溶接を施した際に溶接中に溶着金属と溶融母材とが溶融して凝固した金属をいう。
また、本明細書において「溶着金属」とは、溶接中に付加される金属材料である溶加材(ワイヤ)から、溶接部に移行した金属をいう。
【0005】
また、特許文献2、3には、ワイヤ全体の組成またはワイヤ全体および外皮の組成を所定範囲に規定したNi基合金フラックス入りワイヤが開示されている。特許文献2によれば、前記Ni基合金フラックス入りワイヤは、耐高温割れ性および溶接作業性を優れたものとすることができると記載されている。また、特許文献3によれば、前記Ni基合金フラックス入りワイヤは、耐割れ性が優れた溶接金属を得ることができ、また、溶接作業性をより一層向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−085366号公報
【特許文献2】特開2005−59077号公報
【特許文献3】特開平9−314382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Ni基合金溶接材料において、溶接金属中に含まれる微量の水素が室温における溶接金属の機械的性質、特に引張破断伸びを低下させる問題がある。
溶接材料は、高温、多湿の環境下で長期間保管されると、溶接材料自身が吸湿し、その溶接材料に含まれている水分が溶接時に溶接金属に移行する、あるいは母材に水分等が残存している場合も同様である。
これが原因で引張延性(引張破断伸び)に乏しい溶接金属が形成される場合がある。
しかしながら、前記した特許文献1〜3に記載されている発明はいずれも溶接金属に水素が多量に含有されることによって生じる引張延性の不足を改善するものではない。
【0008】
また、Ni基合金は完全オーステナイト組織であるため高温割れ感受性が高く、耐高温割れ性に劣る傾向がある。そのため、Ni基合金フラックス入りワイヤには、溶接時に高温割れが生じ難いこと、つまり、耐高温割れ性に優れていることが要求されている。
【0009】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、溶接時に高温割れが生じ難く、溶接金属に水素が多量に含有される場合であっても引張延性が良好な溶接金属を得ることができるNi基合金フラックス入りワイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決した本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、フラックスが外皮に内包されたNi基合金フラックス入りワイヤであり、ワイヤ全体の組成が、ワイヤ全質量に対して、Ni:50質量%以上70質量%以下、Cr:1質量%以上15質量%以下、Mo:10質量%以上20質量%以下、Mn:1.5質量%以上5.5質量%以下、W:1.5質量%以上5.0質量%以下、Fe:2.0質量%以上8.0質量%以下、Al:0.01質量%以上0.40質量%以下、B化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計:0.005質量%以上0.030質量%以下、C:0.050質量%以下、Si:0.15質量%以下、P:0.015質量%以下、S:0.010質量%以下、Ti:0.20質量%以下、Nb:0.03質量%以下、前記フラックスが、ワイヤ全質量に対して、TiO2:3.0質量%以上10.0質量%以下、SiO2:0.1質量%以上4.0質量%以下、ZrO2:0.5質量%以上2.0質量%以下、金属弗化物:F換算量で0.01質量%以上1.5質量%以下、Ni、Cr、Mo、Mn、W、Fe、AlおよびCuの群からなる金属成分の合計:10質量%以上15質量%以下で含有し、ワイヤ全体の組成において、前記Ni、前記Cr、前記Mo、前記Mn、前記W、前記Fe、前記Al、前記B化合物および前記B合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計、前記C、前記Si、前記P、前記S、前記Ti、前記Nb、前記TiO2、前記SiO2、前記ZrO2および前記金属弗化物の成分の合計が、ワイヤ全質量あたり、97.5質量%以上であり、外皮中に、外皮全質量に対して、N:0.010質量%以下、Mg:0.004質量%以上0.025質量%以下含有している。
【0011】
このように、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対してBを所定量含有させているので、高温、多湿な環境に晒されて溶接後の溶接金属に水素が多量に含有される場合であっても引張延性が良好な(引張破断伸びが良好な)溶接金属を得ることができる。また、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対するC、Si、P、S、Ti、Nbなどの含有量を規制すると共にAlの含有量を所定の範囲としているので、耐高温割れ性の低下を抑制することができる。さらに、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対してTiO2および金属弗化物をそれぞれ所定量含有しているので、アーク安定性を向上させることができる。また、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対してSiO2およびZrO2をそれぞれ所定量含有しているので、溶接作業性を向上させることができる。また、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、外皮全質量に対してMgを所定量含有しているので、ブローホール発生量を減少させることができる。
【0012】
本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、前記外皮が、当該外皮全質量に対して、Ni:60質量%以上、Mo:8質量%以上22質量%以下、Cr:1質量%以上15質量%以下含有していることが好ましい。
【0013】
このように、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、外皮全質量に対してNiを所定量含有しているので、溶接金属の均一性を保つことができる。また、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、外皮全質量に対してMoを所定量含有しているので、溶接金属の強度を確保することができる。さらに、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、外皮全質量に対してCrを所定量含有しているので、溶接金属の耐食性および強度を向上させることができる。
【0014】
本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、前記外皮が、当該外皮全質量に対して、Ti:0.002質量%以上0.40質量%以下、Al:0.03質量%以上0.40質量%以下、C:0.020質量%以下、Si:0.15質量%以下、Mn:4.0質量%以下、W:4.0質量%以下、Fe:7.0質量%以下含有し、残部が不可避的不純物からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、9%Ni鋼またはNi基合金の溶接において、溶接時に高温割れが生じ難く、溶接金属に水素が多量に含有される場合であっても引張延性が良好な溶接金属を得ることができる
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ワイヤ全質量に対するB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計(図1において、「B換算量の合計」と表記)と、溶着金属の引張破断伸びと、所定の溶接条件で高温割れが発生するか否かの関係とを示したグラフである。なお、横軸がB換算量の合計(質量%)であり、縦軸が溶着金属の引張破断伸び(%)である。所定の溶接条件は、電流が280A、電圧が34V、溶接速度が500mm/min.である(図1において、「280−34V−500mm/min.」と表記している)。
図2】溶着金属の室温引張試験片を採取するための溶接が行われる開先形状を示す断面図である。
図3】溶着金属の室温引張試験で用いた引張試験片の採取位置を示す断面図である。
図4】高温割れ試験で溶接が行われる被溶接材の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るNi基合金フラックス入りワイヤ(以下、単に「ワイヤ」ということもある。)を実施するための形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明に係るワイヤは、フラックスが外皮に内包されたNi基合金フラックス入りワイヤである。なお、外皮について詳しくは後述するが、当該外皮はNi基合金で形成されている。Ni基合金とは、主成分(最も含有量の多い成分)がNiである合金をいう。本発明に係るワイヤは、例えば、伸線加工により直径1.2mmとすることができる(実径については、公称径についての誤差範囲を含む)が、これに限定されるものではなく、Ni基合金フラックス入りワイヤとして採用されているワイヤ径であればどのような径でも適用することができる。
【0020】
本発明に係るワイヤは、ワイヤ全体の組成が、ワイヤ全質量に対して、Ni:50質量%以上70質量%以下、Cr:1質量%以上15質量%以下、Mo:10質量%以上20質量%以下、Mn:1.5質量%以上5.5質量%以下、W:1.5質量%以上5.0質量%以下、Fe:2.0質量%以上8.0質量%以下、Al:0.01質量%以上0.40質量%以下、B化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計:0.005質量%以上0.030質量%以下含有している。
また、本発明に係るワイヤは、ワイヤ全体の組成が、ワイヤ全質量に対して、C:0.050質量%以下、Si:0.15質量%以下、P:0.015質量%以下、S:0.010質量%以下、Ti:0.20質量%以下、Nb:0.03質量%以下としている。
以下、ワイヤの成分および組成について説明する。
【0021】
(ワイヤ全体におけるNi:ワイヤ全質量に対して50質量%以上70質量%以下)
Niは、種々の金属と合金化して、溶接金属に優れた機械性能および耐食性を付与する。但し、ワイヤにおけるNi含有量が、ワイヤ全質量に対して50質量%未満であると、溶接金属の優れた機械性能および耐食性が得られない。一方、ワイヤにおけるNi含有量が、ワイヤ全質量に対して70質量%を超えると、他の合金元素の含有量が不十分となり、機械性能が確保できなくなる。従って、Ni含有量はワイヤ全質量に対して50質量%以上70質量%以下とする。なお、本発明に係るワイヤにおけるNi源としては、外皮を形成するNi基合金や、フラックスに含まれ得る(含まれる可能性のある)金属Ni、Ni−Mo合金等があり、本発明においては、これらの含有量をNiに換算した値をNi含有量として規定する。
【0022】
(ワイヤ全体におけるCr:ワイヤ全質量に対して1質量%以上15質量%以下)
Crは、溶接金属の耐食性および強度を向上させる効果がある。但し、ワイヤにおけるCr含有量が、ワイヤ全質量に対して1質量%未満であると、その効果が得られない。一方、ワイヤにおけるCr含有量が、ワイヤ全質量に対して15質量%を超えると、耐高温割れ性が低下する。従って、Cr含有量は、ワイヤ全質量に対して1質量%以上15質量%以下とする。なお、本発明に係るワイヤにおけるCr源としては、外皮を形成するNi基合金や、フラックスに含まれ得る金属Cr、Fe−Cr合金等があり、本発明においては、これらの含有量をCrに換算した値をCr含有量として規定する。
【0023】
(ワイヤ全体におけるMo:ワイヤ全質量に対して10質量%以上20質量%以下)
Moは、溶接金属の耐食性および強度を向上させる効果がある。但し、ワイヤにおけるMo含有量が、ワイヤ全質量に対して10質量%未満であると、溶接金属の耐食性および強度を確保することができない。一方、ワイヤにおけるMo含有量が、ワイヤ全質量に対して20質量%を超えると、耐高温割れ性が低下する。従って、Mo含有量は、ワイヤ全質量に対して10質量%以上20質量%以下とする。なお、本発明に係るワイヤにおけるMo源としては、外皮を形成するNi基合金や、フラックスに含まれ得る金属Mo、Fe−Mo合金等があり、本発明においては、これらの含有量をMoに換算した値をMo含有量として規定する。
【0024】
(ワイヤ全体におけるMn:ワイヤ全質量に対して1.5質量%以上5.5質量%以下)
Mnは、Niと低融点化合物を形成して耐高温割れ性を低下させるSと結合し、Sを無害化する効果がある。但し、ワイヤにおけるMn含有量がワイヤ全質量に対して1.5質量%未満であると、Sを無害化する効果が得られない。一方、ワイヤにおけるMn含有量が、ワイヤ全質量に対して5.5質量%を超えると、スラグ剥離性が低下する。従って、Mn含有量は、ワイヤ全質量に対して1.5質量%以上5.5質量%以下とする。なお、本発明に係るワイヤにおけるMn源としては、外皮を形成するNi基合金や、フラックスに含まれ得る金属Mn、Fe−Mn合金等があり、本発明においては、これらの含有量をMnに換算した値をMn含有量として規定する。
【0025】
(ワイヤ全体におけるW:ワイヤ全質量に対して1.5質量%以上5.0質量%以下)
Wは、溶接金属の強度を向上させる成分である。但し、ワイヤにおけるW含有量が、ワイヤ全質量に対して1.5質量%未満であると、溶接金属の強度を確保することができない。一方、ワイヤにおけるW含有量が、ワイヤ全質量に対して5.0質量%を超えると、耐高温割れ性が低下する。従って、W含有量は、ワイヤ全質量に対して1.5質量%以上5.0質量%以下とする。なお、本発明に係るワイヤにおけるW源としては、外皮を形成するNi基合金や、フラックスに含まれ得る金属W、Fe−W合金等があり、本発明においては、これらの含有量をWに換算した値をW含有量として規定する。
【0026】
(ワイヤ全体におけるFe:ワイヤ全質量に対して2.0質量%以上8.0質量%以下)
Feは、溶接金属の延性を確保する成分である。ワイヤにおけるFe含有量が、ワイヤ全質量に対して2.0質量%未満であると、溶接金属の延性を確保できない。一方、ワイヤにおけるFe含有量が、ワイヤ全質量に対して8.0質量%を超えると、耐高温割れ性が低下する。従って、Fe含有量は、ワイヤ全量に対して2.0質量%以上8.0質量%以下とする。なお、本発明に係るワイヤにおけるFe源としては、外皮を形成するNi基合金や、フラックスに含まれ得る金属Fe、Fe−Mn合金、Fe−Cr合金、Fe−Mo合金、Fe−Ti合金等があり、本発明においては、これらの含有量をFeに換算した値をFe含有量として規定する。
【0027】
(ワイヤ全体におけるAl:ワイヤ全質量に対して0.01質量%以上0.40質量%以下)
ワイヤに含まれるAlは、脱酸成分として溶融金属中の溶存酸素量を低下させ、「C+O=CO(ガス)」の反応を抑制し、ブローホール発生量を減少させる役割を持つが、過剰に添加すると耐高温割れ性を劣化させる。後記するように、本発明はBを積極添加するものであるが、Bを積極添加した場合、ワイヤの高温割れ性が低下する傾向にある。本発明では、このようなワイヤにおけるAl含有量をワイヤ全質量に対して0.01質量%以上0.40質量%以下とすることで溶接金属の耐高温割れ性を確保できることを見出した。従って、Al含有量はワイヤ全質量に対して0.01質量%以上0.40質量%以下とする。なお、本発明に係るワイヤにおけるAl源としては、外皮を形成するNi基合金や、フラックスに含まれ得る金属Al、Fe−Al合金等があり、本発明においては、これらの含有量をAlに換算した値をAl含有量として規定する。但し、このAl含有量は、硫酸に溶解する金属AlおよびAl合金に由来するAlの含有量とし、硫酸に溶解しないAl23等の酸化物に由来するAlは含まない。
【0028】
(ワイヤ全体におけるB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計:ワイヤ全質量に対して0.005質量%以上0.030質量%以下)
本発明では、Bの積極添加、つまり、B化合物およびB合金のうち少なくとも一方を積極添加する。従来、BはP、S、Biと同様に論じられ、高温割れの原因となる成分とされていた。特に、Ni基合金フラックス入りワイヤによる溶接では被覆アーク溶接に比べて高電流・高速で溶接を行うため高温割れに対しては特に注意が必要であり、健全な溶接金属を得るためにはBを抑制することが常識であった。
【0029】
しかしながら、本発明者は、鋭意研究することにより、Bを積極添加しても高温割れ性が低下しない化学組成を見出す(図1参照)と共に、高温、多湿な環境に晒されて溶接金属に水素が多量に含有された場合であっても良好な引張破断伸びが得られる範囲を見出した。
なお、図1は、ワイヤ全質量に対するB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計と、溶着金属の引張破断伸びと、所定の溶接条件で高温割れが発生するか否かの関係とを示したグラフである。なお、横軸がB換算量の合計(質量%)であり、縦軸が溶着金属の引張破断伸び(%)である。図1については[実施例]の項目で詳述する。
【0030】
ワイヤにおけるB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計が、ワイヤ全質量に対して0.005質量%未満であると、溶接金属に水素が多量に含有されたときに溶接金属の引張破断伸びの低下が生じる。また、ワイヤにおけるB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計が、ワイヤ全質量に対して0.030質量%を超えると、高温割れが発生し易くなる。従って、B化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計は、ワイヤ全質量に対して0.005質量%以上0.030質量%以下とする。なお、ワイヤにおけるB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計は、より高い溶接金属の引張破断伸びを得る観点から、ワイヤ全質量に対して0.010質量%以上とするのが好ましく、より高い高温割れ性を得る観点から0.020質量%以下とするのが好ましい。なお、B化合物としてはB23等の酸化物が挙げられ、B合金としてはFe−B合金等が挙げられる。B化合物およびB合金はフラックスに添加することができる。
【0031】
(ワイヤ全体におけるC:ワイヤ全質量に対して0.050質量%以下)
Cは、ワイヤ中に存在する不可避的不純物である。ワイヤにおけるC含有量が、ワイヤ全質量に対して0.050質量%を超えると、耐高温割れ性が低下する。従って、C含有量は、ワイヤ全質量に対して0.050質量%以下(0質量%を含む)に規制する。なお、本発明に係るワイヤにおけるC源としては、外皮を形成するNi基合金中や、フラックスに含まれる合金中、およびスラグ形成剤中に含まれる不可避的不純物のCが挙げられ、これらの総量をC含有量として規定する。
【0032】
(ワイヤ全体におけるSi:ワイヤ全質量に対して0.15質量%以下)
Siは、ワイヤ中に存在する不可避的不純物である。ワイヤにおけるSi含有量が、ワイヤ全質量に対して0.15質量%を超えると、耐高温割れ性が低下する。従って、Si含有量は、ワイヤ全質量に対して0.15質量%以下(0質量%を含む)に規制する。なお、本発明に係るワイヤにおけるSi含有量は、塩酸および硝酸に溶解する金属SiおよびSi合金に由来するSiの含有量とし、酸に溶解しないSiO2等の酸化物に由来するSiは含まない。
【0033】
(ワイヤ全体におけるP:ワイヤ全質量に対して0.015質量%以下)
(ワイヤ全体におけるS:ワイヤ全質量に対して0.010質量%以下)
PおよびSは、ワイヤ中に存在する不可避的不純物である。ワイヤにおけるP含有量が、ワイヤ全質量に対して0.015質量%を超えると、および/または、S含有量が、ワイヤ全質量に対して0.010質量%を超えると、結晶粒界中にこれらの元素とNiとの低融点化合物が生成するため、耐高温割れ性が低下する。従って、P含有量は、ワイヤ全質量に対して0.015質量%以下(0質量%を含む)に規制し、S含有量は、ワイヤ全質量に対して0.010質量%以下(0質量%を含む)に規制する。
【0034】
(ワイヤ全体におけるTi:ワイヤ全質量に対して0.20質量%以下)
ワイヤに含まれるTiはAlと同様、脱酸成分として溶融金属中の溶存酸素量を低下させ、「C+O=CO(ガス)」の反応を抑制し、ブローホール発生量を減少させる役割を持つが、過剰に添加すると耐高温割れ性を劣化させる。前記したように、本発明はBを積極添加するものであるが、Bを積極添加した場合、ワイヤの高温割れ性が低下する傾向にある。本発明では前記したようにAlを所定量添加することによって耐高温割れ性を確保しており、Alと併せてTiを所定量含有させると、溶接金属の耐高温割れ性をより確実に確保することができる。しかしながら、前記したようにTiを過剰に添加すると耐高温割れ性が劣化するのでこれを防止するため、Ti含有量は、ワイヤ全質量に対して0.20質量%以下(0質量%を含む)に規制する。なお、本発明に係るワイヤにおけるTi源としては、外皮を形成するNi基合金や、フラックスに含まれ得る金属Ti、Fe−Ti合金等があり、本発明においては、これらの含有量をTiに換算した値をTi含有量として規定する。但し、このTi含有量は、硫酸に溶解する金属TiおよびTi合金に由来するTiの含有量とし、硫酸に溶解しないTiO2等の酸化物に由来するTiは含まない。
【0035】
(ワイヤ全体におけるNb:ワイヤ全質量に対して0.03質量%以下)
Nbは、ワイヤ中に存在する不可避的不純物である。ワイヤにおけるNb含有量が、ワイヤ全質量に対して0.03質量%を超えると、Niと化合して低融点化合物を生成するため、耐高温割れ性が低下する。従って、Nb含有量は、ワイヤ全質量に対して0.03質量%以下(0質量%を含む)に規制する。
【0036】
なお、フラックスの残部としては、例えば、Ni、Cr、Mo、Mn、W、Fe、Al、Cu、N、Al23、MgOなどが挙げられる。例えば、Ni、Cr、Mo、Mn、W、FeおよびAlは外皮に含有されているが、ワイヤ全質量に対する規定範囲を満足するようにフラックスからも添加することができる。添加形態としてはNi、Cr、Mo、Mn、W、Fe、Al、Cuはそれぞれの金属粉で加えてもよいし、また鉄合金(Fe−合金)で添加してもよい。C、Si、P、S、Nbはフラックス中では不純物である。
【0037】
(フラックスの好ましい形態)
本発明に係るワイヤは、前記したフラックスが、ワイヤ全質量に対して、TiO2:3.0質量%以上10.0質量%以下、SiO2:0.1質量%以上4.0質量%以下、ZrO2:0.5質量%以上2.0質量%以下、金属弗化物:F換算で0.01質量%以上1.5質量%以下含有していることが好ましい。
【0038】
(フラックス中のTiO2:ワイヤ全質量に対して3.0質量%以上10.0質量%以下)
TiO2は、アーク安定性向上のため添加する。TiO2源としてはルチール、イルミナイト等があり、本発明においては、これらをTiO2量に換算した値として規定する。TiO2がワイヤ全質量に対して3.0質量%未満であるとアークを安定にする効果が得られない。一方、TiO2がワイヤ全質量に対して10.0質量%を超えるとスラグの量が多くなり、溶接部にスラグ巻き込みが発生し易くなる。従って、TiO2はワイヤ全質量に対して3.0質量%以上10.0質量%以下とすることが好ましい。
【0039】
(フラックス中のSiO2:ワイヤ全質量に対して0.1質量%以上4.0質量%以下)
SiO2は、スラグの粘性を調整して被包性を良好にする効果がある。SiO2源としては珪灰石、長石およびマイカ等がある。SiO2がワイヤ全質量に対して0.1質量%未満であるとスラグの被包性が不十分であり溶接作業性が劣化する。一方、SiO2がワイヤ全質量に対して4.0質量%を超えるとスラグ量が多くなり、スラグ巻き込みが発生し易くなる。従って、SiO2はワイヤ全質量に対して0.1質量%以上4.0質量%以下とすることが好ましい。
【0040】
(フラックス中のZrO2:ワイヤ全質量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下)
ZrO2は、スラグの融点を上げて立向姿勢での溶接作業性を良好にするため添加する。ZrO2源としてはジルコンサンド、ジルコンフラワーなどがある。ZrO2がワイヤ全質量に対して0.5質量%未満であるとスラグの量が十分ではなく、スラグの被包性が劣化する。一方、ZrO2がワイヤ全質量に対して2.0質量%を超えるとスラグの量が多くなり、溶接部にスラグ巻き込みが発生し易くなる。従って、ZrO2はワイヤ全質量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
(フラックス中の金属弗化物:ワイヤ全質量に対してF換算で0.01質量%以上1.5質量%以下)
金属弗化物は、アーク安定性を向上させ、スラグの流動性を向上させる効果がある。金属弗化物源としては、LiF、NaF、KF、Na3AlF6、K2SiF6、K2TiF6等がある。金属弗化物がワイヤ全質量に対してF換算で0.01質量%未満であると前記効果が十分に得られず、アーク安定性が低下する。一方、金属弗化物がワイヤ全質量に対してF換算で1.5質量%を超えるとスラグの粘性が低下し、立向姿勢において溶融池が垂れ易くなる。従って、金属弗化物はワイヤ全質量に対してF換算で0.01質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0042】
(外皮)
また、本発明に係るワイヤは、前記した外皮が、当該外皮全質量に対して、Ni:60質量%以上、Mo:8質量%以上22質量%以下、Cr:1質量%以上15質量%以下を含有していることが好ましい。
【0043】
(外皮中のNi:外皮全質量に対して60質量%以上)
外皮金属としてNi基合金を使用するのは、溶接金属の均一性を損なわないようにするため、および、フラックスが充填過剰とならないようにフラックス中からの合金添加を抑えるためである。外皮中のNi含有量が60質量%未満であると、必然的にNi以外の成分が多くなるが、外皮中のCr、Mo等は外皮の伸線加工性を低下させ、生産性が低下する。なお、外皮中のNi含有量が80質量%を超えると、Ni以外の成分を全てフラックスに添加しなければならず、フラックス充填率(ワイヤ全質量に対するフラックス質量の割合)が過剰になってしまう。フラックス充填率が過剰になると、製造工程においてワイヤの伸線が困難になり、生産性が低下する。そのため、外皮中のNi含有量は、外皮全質量に対して80質量%以下に抑制するのが好ましい。従って、外皮中のNi含有量は外皮全質量に対して60質量%以上とすることが好ましく、80質量%以下とすることが好ましい。
【0044】
(外皮中のMo:外皮全質量に対して8質量%以上22質量%以下)
Moは、溶接金属の強度を確保する効果がある。外皮中のMo含有量が外皮全質量に対して8質量%未満であると、溶接金属の強度を得るためにフラックスからMoを添加しなければならなくなり、フラックス充填率が過剰になる。一方、外皮中のMo含有量が外皮全質量に対して22質量%を超えると外皮の熱間加工性が低下するため、外皮の成形が困難になる。従って、外皮中のMo含有量は外皮全質量に対して8質量%以上22質量%以下とすることが好ましい。
【0045】
(外皮中のCr:外皮全質量に対して1質量%以上15質量%以下)
Crは、溶接金属の耐食性および強度を向上させる効果がある。外皮中のCr含有量が外皮全質量に対して1質量%未満であるとこれらの効果を得ることができない。一方、外皮中のCr含有量が外皮全質量に対して15質量%を超えると外皮の熱間加工性が低下するため、外皮の成形が困難になる。従って、外皮中のCr含有量は外皮全質量に対して1質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。
【0046】
(外皮のその他の成分:Ti、Al、Mg)
外皮のその他の成分としては、例えば、Ti:外皮中に、外皮全質量に対して0.002質量%以上0.40質量%以下、Al:外皮中に、外皮全質量に対して0.03質量%以上0.40質量%以下、Mg:外皮中に、外皮全質量に対して0.004質量%以上0.025質量%以下とすることが挙げられる。
【0047】
外皮中のTi、Al、Mgは、脱酸成分として溶融金属中の溶存酸素量を低下させ、「C+O=CO(ガス)」の反応を抑制し、ブローホール発生量を減少させる役割を持つ。外皮のその他の成分としてTi、Al、Mgのうち一種のみを含有する場合において、外皮中のTi含有量が外皮全質量に対して0.002質量%未満であったり、Al含有量が外皮全質量に対して0.03質量%未満であったり、Mg含有量が外皮全質量に対して0.004質量%未満であったりすると、その効果が得られない。一方、外皮中のTi含有量が外皮全質量に対して0.40質量%を超えたり、Al含有量が外皮全質量に対して0.40質量%を超えたり、Mg含有量が外皮全質量に対して0.025質量%を超えたりすると外皮の熱間加工性が低下するため、外皮の成形が困難になる。従って、外皮中のTi含有量は外皮全質量に対して0.002質量%以上0.40質量%以下とすることが好ましく、外皮中のAl含有量は外皮全質量に対して0.03質量%以上0.40質量%以下とすることが好ましく、外皮中のMg含有量は外皮全質量に対して0.004質量%以上0.025質量%以下とすることが好ましい。
【0048】
(外皮のその他の成分:C)
外皮中のCは、不可避的不純物として存在している。外皮中のCは溶接中にCOガスとなってブローホールの発生原因となる。これを回避するため、外皮中のC含有量は外皮全質量に対して0.020質量%以下(0質量%を含む)とすることが好ましい。
【0049】
(外皮のその他の成分:Si)
外皮中のSiは、不可避的不純物として存在している。外皮中のSiは溶接時に低融点化合物を生成するため、耐高温割れ性が低下する。これを回避するため、外皮中のSi含有量は外皮全質量に対して0.15質量%以下(0質量%を含む)とすることが好ましい。
【0050】
(外皮におけるその他の成分:残部)
残部は、例えば、Mn:外皮全質量に対して4.0質量%以下、Fe:外皮全質量に対して7.0質量%以下、W:外皮全質量に対して4.0質量%以下で含有させることができる(いずれも0質量%を含む)。但し、外皮中のMn含有量が外皮全質量に対して4.0質量%を超えたり、W含有量が4.0質量%を超えたりすると外皮の熱間加工性が低下するため、外皮の成形が困難になる。また、外皮中のFe含有量が7.0質量%を超えると耐高温割れ性が低下する。
また、外皮におけるその他の成分として不可避的不純物が挙げられる。不可避的不純物としては、前記したC、Siのほか、例えば、P、S、Cu、Nb、V、N等が挙げられる。なお、Pの許容含有量は0.010質量%であり、Sの許容含有量は0.010質量%であり、Cuの許容含有量は0.01質量%であり、Nbの許容含有量は0.10質量%であり、Vの許容含有量は0.10質量%であり、Nの許容含有量は0.010質量%である(いずれも0質量%を含む)。
【0051】
本発明に係るワイヤにおいては、ワイヤ全質量に対するフラックス充填率を15質量%以上30質量%以下とするのが好ましく、20質量%以上25質量%以下とするのがより好ましい。
【0052】
本発明に係るワイヤは、以上に説明した成分組成としているので、溶接時に高温割れが生じ難く、高温、多湿な環境に晒されるなどして溶接金属に水素が多量に含有される場合であっても引張延性が良好な溶接金属を得ることができる。
そのため、本発明に係るワイヤは、9%Ni鋼や各種高Ni合金等の低温用鋼の溶接に際し、Ar+CO2混合ガスを用いたガスシールドアーク溶接等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを比較して、本発明に係るワイヤについて具体的に説明する。
【0054】
表1に示す組成のNi基合金からなる厚さ0.4mm、幅9.0mmの帯を湾曲させて、円筒状の外皮(No.A、B)を作製した。これらの外皮に、表2に示すフラックス成分(No.I、II)のフラックスを内包し、ワイヤ全体の組成が表3に示す組成となるNi基合金フラックス入りワイヤ(No.1〜18)を作製した(フラックス充填率:20〜25%)。このワイヤを、直径が1.2mmになるように伸線加工した後、通電加熱によってワイヤ中に含まれる水分を400ppm以下にしたものを供試ワイヤとした。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
No.1〜18に係る供試ワイヤを使用して、[1]溶着金属の室温引張試験、および[2]高温割れ試験としてフィスコ割れ試験を行った。
【0059】
[1]溶着金属の室温引張試験
溶着金属の室温引張試験(JIS Z 3111:2005「溶着金属の引張及び衝撃試験方法」)を行うことにより、溶着金属の引張破断伸びを測定し、判定した。溶着金属の室温引張試験は、次のようにして行った。
図2に示すように、板厚20mmのSM490鋼板の開先面に、開先角度が45°になるように斜面を形成し、この開先部を供試ワイヤでバタリングして、バタリング層2を形成した。その後、バタリングされた母材1同士をルートギャップが12mmとなるように配置し、開先が狭まる側に、同様に表面をバタリングした裏当金3(鋼材)を配置した。この開先にJIS Z 3111:2005に準じて溶接し、溶着金属を作製した。そして、作製した溶着金属から図3に示す要領で引張試験片4(JIS Z 3111:2005のA1号)を採取して前記試験を行った。
【0060】
前記溶接の条件は、溶接電流が200A、電圧が29V、溶接速度が300〜400mm/min.である。なお、ワイヤが過剰に吸湿し、溶着金属中に水素が約10ppm含有した状態を模擬するため、98%Ar−2%H2ガスと100%CO2ガスをそれぞれ8:2の体積比で混合したシールドガスを使用した。シールドガスの流量は25L/min.とした。
【0061】
溶着金属の引張破断伸びの判定基準については、引張破断伸びの数値(%)を示すと共に、40%以上を◎(優良)、35%以上40%未満を○(良)、30%以上35%未満を△(実用上問題ない)、30%未満を×(不良)とした。溶着金属の引張破断伸びは、◎および○を合格とし、△および×を不合格とした。なお、△は実用上全く問題ないが本発明ではより高い性能の製品を提供することを目的としていることから不合格とした。
【0062】
[2]高温割れ試験
高温割れ試験(JIS Z 3155:1993「C形ジグ拘束突合わせ溶接割れ試験方法」(Method of FISCO test))を行うことにより、耐高温割れ性を評価した。高温割れ試験は次のようにして行った。
表4に示す成分の母材(板厚20mm、幅125mm、長さ300mm)を使用し、図4に示すように、母材10の開先角度が60°になるように板厚の半分まで斜面を形成した。そして、母材10と母材10の間隔が2mmになるように調整して、JIS Z 3155:1993に準拠して試験を行った。溶接は、供試ワイヤを用いて自動溶接機によるシングルビード溶接を行い、スタートとクレータを除く溶接金属部に発生する割れの有無を確認した。
【0063】
【表4】
【0064】
なお、高温割れ試験の溶接条件は、電流を280A、電圧を34V、溶接速度を500mm/min.、シールドガスには80%Ar−20%CO2を使用し、シールドガスの流量は25L/min.とした。
【0065】
高温割れ試験の判定については、スタートとクレータを除く溶接金属部の総割れ長さが0mmのものを◎(優良)、0mmを超え1mm未満のものを○(良)、1mm以上3mm未満のものを△(実用上問題ない)、3mm以上のものを×(不良)とした。耐高温割れ性は、◎および○を合格とし、△および×を不合格とした。なお、△は前記と同様の理由により本発明では不合格とした。
【0066】
溶着金属の引張破断伸びの判定結果および耐高温割れ性の判定結果がいずれも◎であるものを総合評価◎(優良)とし、いずれか一方が○であるものを総合評価○(良)とした。他方、溶着金属の引張破断伸びの判定結果および耐高温割れ性の判定結果のうち少なくとも一方が△または×であるものについては総合評価×(不良)とした。
表5に溶着金属の引張破断伸びの判定結果、耐高温割れ性の判定結果、および総合評価を示す。
【0067】
また、図1に、得られたNo.1〜12、14〜18に係る供試ワイヤにおける溶着金属の引張破断伸びの測定結果および耐高温割れ性の判定結果と、ワイヤ全質量に対するB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計に関するグラフを示す。図1から明らかなように、B換算量の合計(B化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計)を0.030質量%以下とすれば、前記した高温割れ試験の溶接条件(280A−34V−500mm/min.)で溶接した場合であっても高温割れが発生せず、B換算量の合計が0.030質量%を超えると高温割れが発生することが分かった。
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示すように、本発明の要件を満たすNo.1〜6に係る供試ワイヤは、溶着金属の引張破断伸びおよび耐高温割れ性ともに良好な結果であり、総合評価は◎または○となった。特に、No.1〜4に係る供試ワイヤは、ワイヤ全質量に対するB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計が好ましい範囲にあったため、溶着金属の引張破断伸びの判定結果および耐高温割れ性の判定結果がいずれも◎となり、総合評価も◎となった。すなわち、No.1〜4に係る供試ワイヤはより好ましい態様であることが確認できた。
【0070】
一方、本発明の要件を満たさないNo.7〜18に係る供試ワイヤは、溶着金属の引張破断伸びの判定結果または耐高温割れ性の判定結果が良好ではない結果となった。No.7〜18に係る供試ワイヤの総合評価はいずれも×となった。
具体的には、No.7〜10に係る供試ワイヤは、ワイヤ全質量に対するB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計が低過ぎたため、溶着金属の引張破断伸びが低下した。
No.11〜13に係る供試ワイヤは、ワイヤ全質量に対するB化合物およびB合金のいずれか一方または双方のB換算量の合計が高過ぎたため、耐高温割れ性が低下した。
【0071】
No.14に係る供試ワイヤは、ワイヤ全質量に対するAl含有量が高過ぎたため、耐高温割れ性が合格レベルに達しなかった。
No.15に係る供試ワイヤは、ワイヤ全質量に対するTi含有量が高過ぎたため、耐高温割れ性が合格レベルに達しなかった。
No.16に係る供試ワイヤは、ワイヤ全質量に対するSi含有量およびS含有量が共に高過ぎたため、耐高温割れ性が合格レベルに達しなかった。
No.17に係る供試ワイヤは、ワイヤ全質量に対するC含有量およびP含有量が共に高過ぎたため、耐高温割れ性が合格レベルに達しなかった。
No.18に係る供試ワイヤは、ワイヤ全質量に対するNb含有量が高過ぎたため、耐高温割れ性が合格レベルに達しなかった。
【0072】
以上、発明を実施する形態および実施例により本発明に係るワイヤを詳細に説明したが、本発明の趣旨はこれらの内容に限定されることなく、その権利範囲(技術的範囲)は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することが可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0073】
1、10 母材
2 バタリング層
3 裏当金
4 引張試験片
図1
図2
図3
図4