特許第6441295号(P6441295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441295
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】接合構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/00 20060101AFI20181210BHJP
   B23K 26/354 20140101ALI20181210BHJP
   B60G 7/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   B62D21/00 A
   B23K26/354
   B60G7/00
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-250703(P2016-250703)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-103707(P2018-103707A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2017年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】粟野 克行
(72)【発明者】
【氏名】西條 康彦
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 洋一
(72)【発明者】
【氏名】西 雅章
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−064397(JP,A)
【文献】 特開昭63−262213(JP,A)
【文献】 特開平01−225784(JP,A)
【文献】 特開平07−171689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/00
B23K 26/354
B60G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と繊維強化プラスチック部材とが接着剤で接合される接合構造体であって、
前記金属部材の表層にアモルファス構造層が形成され、
さらに前記アモルファス構造層の表層に複数の有底孔を有する有底孔層が形成され、
前記有底孔は、開口部と底部の間に前記開口部よりも内周が大きい膨張部を有する下膨形状であり、
前記有底孔に接着剤が充填され、
前記有底孔層の表面と前記繊維強化プラスチック部材側の接合面とが前記接着剤を介して対向する
ことを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の接合構造体において、
前記有底孔は前記開口部に鉤状部を備える
ことを特徴とする接合構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の接合構造体において、
前記鉤状部には、前記金属部材の延在面に対して非平行に延びる100μm以下の頭部が形成される
ことを特徴とする接合構造体。
【請求項4】
金属部材と繊維強化プラスチック部材とを接着剤で接合する接合構造体の製造方法であって、
前記金属部材にレーザ光を照射して前記金属部材の表層にアモルファス構造層を形成すると共に、前記アモルファス構造層の表層に複数の有底孔を有する有底孔層を形成し、
前記有底孔は、開口部と底部の間に前記開口部よりも内周が大きい膨張部を有する下膨形状であり、
前記有底孔に接着剤を充填し、
前記有底孔層の表面と前記繊維強化プラスチック部材側の接合面とを前記接着剤を介して対向させて、前記金属部材と前記繊維強化プラスチック部材とを接合する
ことを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項5】
第1部材と第2部材の少なくとも一方が金属部材であり、前記第1部材と前記第2部材とが接着剤又はシーリング部材で接合される接合構造体であって、
前記金属部材の表層にアモルファス構造層が形成され、
さらに前記アモルファス構造層の表層に複数の有底孔を有する有底孔層が形成され、
前記有底孔は、開口部と底部の間に前記開口部よりも内周が大きい膨張部を有する下膨形状であり、
前記有底孔に接着剤が充填され、
前記有底孔層の表面と前記第2部材側の接合面とが前記接着剤又は前記シーリング部材を介して対向する
ことを特徴とする接合構造体。
【請求項6】
請求項1または5に記載の接合構造体において、
前記金属部材は鋳物である
ことを特徴とする接合構造体。
【請求項7】
請求項4に記載の接合構造体の製造方法において、
前記金属部材は鋳物である
ことを特徴とする接合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材と第2部材の少なくとも一方が金属部材であり、第1部材と第2部材とが接着剤又はシーリング部材で接合される接合構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミニウムと炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とが接着剤で接合された接合構造体からなる車両のサブフレームが示される。特許文献2には、繊維強化プラスチック(FRP)と金属との溶接継手の接合部に溶加材を充填し、溶加材にレーザビームを照射して溶加材を溶融しつつレーザ溶接する複合材料のレーザ加工法が示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−128986号公報
【特許文献2】特開2011−56583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多湿環境下で金属部材には錆が発生する。金属部材と接着剤との界面に錆が侵入すると剥離が発生する虞がある。特許文献1、2では金属部材の防錆に関して言及されていない。また、特許文献1では金属部材とCFRP又はFRPとの界面の接着強度に関して言及されているがさらなる改良の余地はある。
【0005】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、金属部材の表面が防錆機能を有し、さらに接着剤等の接合部材との接合強度を向上させることができる接合構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属部材と繊維強化プラスチック部材とが接着剤で接合される接合構造体であって、前記金属部材の表層にアモルファス構造層が形成され、さらに前記アモルファス構造層の表層に複数の有底孔を有する有底孔層が形成され、前記有底孔は、開口部と底部の間に前記開口部よりも内周が大きい膨張部を有する下膨形状であり、前記有底孔に接着剤が充填され、前記有底孔層の表面と前記繊維強化プラスチック部材側の接合面とが前記接着剤を介して対向することを特徴とする。
【0007】
アモルファス構造層と接着剤との界面には錆が発生しない。このため防錆機能を実現できる。また、アモルファス構造層の表層に有底孔が形成されるため金属部材の表面積が大きくなる。また、下膨形状の有底孔は、アンカー効果を奏するだけでなく孔内に充填された接着剤を抜けにくくする。このため、金属部材と接着剤との接着強度を向上させることができる。
【0008】
前記有底孔は前記開口部に鉤状部を備えてもよい。鉤状部はアンダーカット形状であり、孔内に充填された接着剤を抜けにくくする。このため、金属部材と接着剤との接着強度を向上させることができる。
【0009】
前記鉤状部には、前記金属部材の延在面に対して非平行に延びる100μm以下の頭部が形成されてもよい。頭部は金属部材の延在面に対して非平行に延びるため、孔内に充填された接着剤をさらに抜けにくくする。このため、金属部材と接着剤との接着強度を向上させることができる。
【0010】
本発明は、金属部材と繊維強化プラスチック部材とを接着剤で接合する接合構造体の製造方法であって、前記金属部材にレーザ光を照射して前記金属部材の表層にアモルファス構造層を形成すると共に、前記アモルファス構造層の表層に複数の有底孔を有する有底孔層を形成し、前記有底孔は、開口部と底部の間に前記開口部よりも内周が大きい膨張部を有する下膨形状であり、前記有底孔に接着剤を充填し、前記有底孔層の表面と前記繊維強化プラスチック部材側の接合面とを前記接着剤を介して対向させて、前記金属部材と前記繊維強化プラスチック部材とを接合することを特徴とする。
【0011】
アモルファス構造層と接着剤との界面には錆が発生しない。このため防錆機能を実現できる。また、アモルファス構造層の表層に有底孔が形成されるため金属部材の表面積が大きくなる。また、下膨形状の有底孔は、アンカー効果を奏するだけでなく孔内に充填された接着剤を抜けにくくする。このため、金属部材と接着剤との接着強度を向上させることができる。
【0012】
また、本発明は、第1部材と第2部材の少なくとも一方が金属部材であり、前記第1部材と前記第2部材とが接着剤又はシーリング部材で接合される接合構造体であって、前記金属部材の表層にアモルファス構造層が形成され、さらに前記アモルファス構造層の表層に複数の有底孔を有する有底孔層が形成され、前記有底孔は、開口部と底部の間に前記開口部よりも内周が大きい膨張部を有する下膨形状であり、前記有底孔に接着剤が充填され、前記有底孔層の表面と前記第2部材側の接合面とが前記接着剤又は前記シーリング部材を介して対向することを特徴とする。
【0013】
アモルファス構造層と接着剤やシーリング部材等の接合部材との界面には錆が発生しない。このため防錆機能を実現できる。また、アモルファス構造層の表層に有底孔が形成されるため金属部材の表面積が大きくなる。また、下膨形状の有底孔は、アンカー効果を奏するだけでなく孔内に充填された接着剤を抜けにくくする。このため、金属部材と接合部材との接合強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、防錆機能を実現できる。また、金属部材と接着剤やシーリング部材等の接合部材との接合強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の一実施形態に係る接合構造体としてのサブフレームを搭載した車両の一部を示す斜視図(正面−平面−左側面斜視図)である。
図2図2はサブフレームの斜視図(正面−平面−左側面斜視図)である。
図3図3はサブフレームの一部についての分解斜視図(正面−平面−左側面分解斜視図)である。
図4図4図2のIV−IV線断面の模式図である。
図5図5Aは表層に粒界を有さない金属部材と接着剤の外周端部との界面の模式図であり、図5Bは表層に粒界を有するアモルファス構造層と接着剤の外周端部との界面の模式図である。
図6図6図4の変形例の模式図である。
図7図7図4の変形例の模式図である。
図8図8はアモルファス構造層の表面に形成される有底孔の画像である。
図9図9Aは機械加工された金属部材と接着剤との界面の模式図であり、図9Bはアモルファス構造層と接着剤との界面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1 サブフレーム12(接合構造体)の構成]
図1図3を用いて、本発明の一実施形態に係る接合構造体の説明をする。以下で説明する接合構造体は車両10に搭載されるサブフレーム12である。後述するが、サブフレーム12は、異材同士、すなわち金属部材(側方ブラケット22L、22R)と繊維強化プラスチック部材(センタビーム20)とが接着剤で接合された接合構造体である。図1図3において、矢印X1、X2、Y1、Y2、Z1、Z2は、車両10を基準とした方向を示す。具体的には、矢印X1、X2は、車両10の前後方向を示し、矢印Y1、Y2は、車両10の幅方向(横方向)を示し、矢印Z1、Z2は、車両10の高さ方向(上下方向)を示す。また、図3において、左ブラケット22Lは省略されているが、右ブラケット22Rと対称の構成を有する。
【0017】
図1に示すように、車両10は、サブフレーム12に加え、図示しないステアリングの操作に応じて図示しない前輪の角度を変化させる操舵機構14と、サスペンション16とを有する。
【0018】
サブフレーム12は、図示しないエンジン、操舵機構14及びサスペンション16を支持する。サブフレーム12とその周囲の部品との関係については、例えば、特開2009−096370号公報に記載された内容を適用可能である。
【0019】
図2に示すように、サブフレーム12は、中央に配置される繊維強化プラスチック部材としてのセンタビーム20と、センタビーム20の左右に配置される金属部材としての左ブラケット22L及び右ブラケット22R(以下「側方ブラケット22L、22R」ともいう。)を有する。後述するように、センタビーム20と側方ブラケット22L、22Rは、例えばエポキシ樹脂を主成分とする接着剤130(図4)により接着接合されると共に、複数の箇所をボルト60で固定される。
【0020】
[2 センタビーム20の構成]
センタビーム20は、支持ロッド24(図1等)を介してエンジン(図示せず)を支持するものであり、本実施形態では、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:carbon-fiber-reinforced plastic)で形成される。
【0021】
図3に示すように、センタビーム20は、正面部30、背面部32、頂面部34及び底面部36からなる断面矩形状を基調とし且つ頂面部34から正面部30にかけて下方に傾斜する傾斜部38を前側に有する中空部材である。従って、センタビーム20は、断面が閉じた形状の閉断面構造部(第2閉断面構造部)を有し、左右には開口部40が形成されている。
【0022】
また、支持ロッド24を通すためのロッド用開口部42が、正面部30及び傾斜部38に亘って形成されている。頂面部34及び底面部36には、支持ロッド24を支持するロッド支持ボルト46(図2)を固定するために用いるボルト用孔44が形成されている。ボルト用孔44及びそれらの周囲には、ロッド支持ボルト46を固定するためのナット部材48(図2)が接着剤等で固定される。
【0023】
また、頂面部34には、操舵機構14の一部(ギヤボックス)を固定するために用いる固定用孔52が形成されている。固定用孔52及びその周囲には、前記ギヤボックス固定用のボルト56を固定するためのナット部材54(図2)が接着剤等で固定される。
【0024】
さらに、頂面部34と底面部36の間には、センタビーム20の強度を高めるためのリブ58が形成されている。
【0025】
さらにまた、センタビーム20の正面部30、背面部32、頂面部34及び底面部36には、複数のボルト60及び接着剤130を用いて側方ブラケット22L、22Rと接合するための構成が設けられている。具体的には、正面部30と底面部36には、ボルト60を挿入するための貫通孔62が形成されている。
【0026】
センタビーム20の端部66L、66Rは上述した第2閉断面構造部に相当する。センタビーム20の端部66L、66Rのうち、背面部32と頂面部34には、接着剤130を注入するための注入口74と、接着剤130の注入又は充填の程度を確認するための確認孔76が形成されている。各注入口74は、周囲に存在する4つの確認孔76の中央に位置している。なお、注入口74及び確認孔76の数はこれに限らず、接着剤130を充填したい領域の位置、形状等の要因に応じて適宜選択することができる。なお、図1図2では注入口74及び確認孔76は省略されている。
【0027】
[3 側方ブラケット22L、22Rの構成]
側方ブラケット22L、22Rは、車両10のメインフレーム(図示せず)に固定されてサブフレーム12全体をメインフレームに支持させると共に、図1に示すように、操舵機構14及びサスペンション16を支持する。本実施形態の側方ブラケット22L、22Rは、アルミニウム製の中空部材であり、鋳造によって成形された鋳物である。
【0028】
図3に示すように、各側方ブラケット22L、22Rのセンタビーム20側には、センタビーム20との接合に用いられるブラケット接合部80(以下「接合部80」ともいう。)が形成されている。
【0029】
接合部80は、正面部90、背面部92、頂面部94及び底面部96からなる断面矩形状を基調とし且つ頂面部94から正面部90にかけて下方に傾斜する傾斜部98を前側に有する中空部材である。従って、各側方ブラケット22L、22Rは、断面が閉じた形状の閉断面構造部(第1閉断面構造部)を有し、センタビーム20側に開口部100が形成されている。
【0030】
接合部80は第1閉断面構造部に相当する。接合部80の断面形状は、センタビーム20の断面形状と略相似であり、センタビーム20の内周よりもブラケット接合部80の外周の方が若干小さい。従って、センタビーム20の端部66L、66Rを側方ブラケット22L、22Rの接合部80に嵌め込むことができる。つまり、センタビーム20と側方ブラケット22L、22Rは、側方ブラケット22L、22Rの第1閉断面構造部がセンタビーム20の第2閉断面構造部の内部に配置されると共に、第1閉断面構造部の外周面と第2閉断面構造部の内周面とが互いに対向するインロウ構造である。
【0031】
図3に示すように、頂面部94、底面部96及び傾斜部98は、それぞれの前側において、前方に行くに連れて幅(横方向Y1、Y2の長さ)が大きくなる。これにより、接着剤130による接合領域を増大させ、接合強度を高めることが可能となる。また、頂面部94及び底面部96は、それぞれの後ろ側の端部の幅が大きくなっている。これにより、背面側において接着剤130による接合領域を増大させ、接合強度を高めることが可能となる。
【0032】
さらに、側方ブラケット22L、22Rの正面部90、背面部92、頂面部94及び底面部96には、ボルト60及び接着剤130を用いてセンタビーム20と接合するための構成が設けられている。具体的には、正面部90と底面部96には、ボルト60を挿入するための貫通孔102が形成されている。頂面部94には、接着剤130を案内するための凹部110が形成されている。なお、図示されていないが、背面部92にも凹部110が形成されている。
【0033】
なお、本明細書では、センタビーム20と側方ブラケット22L、22Rとが接合する部位について以下のように定義する。すなわち、センタビーム20の正面部30、背面部32、頂面部34、底面部36及び傾斜部38において側方ブラケット22L、22Rと接合される面(それぞれ内側の面)をビーム側接合面120という。側方ブラケット22L、22Rの正面部90、背面部92、頂面部94、底面部96及び傾斜部98それぞれ外側の面をブラケット側接合面122という。
【0034】
ビーム側接合面120は接着剤130が塗布される繊維強化プラスチック側接合面、すなわち接合面34a(図4)を含む。ブラケット側接合面122は接着剤130が塗布される金属部材側接合面、すなわち接合面202(図4)を含む。本実施形態では、ブラケット側接合面122の表層にアモルファス構造層200が形成される。
【0035】
[4 アモルファス構造層200]
側方ブラケット22L、22Rに設けられる接合部80の外周面とセンタビーム20に設けられる端部66L、66Rの内周面は接着接合される。図4は右ブラケット22Rの接合部80とセンタビーム20の端部66Rとの接合箇所のうち、頂面部94と頂面部34との接合箇所を示す。
【0036】
図4に示すように、頂面部94の全表層、すなわち接合部80の外周面に相当する第1面94aを含む表層と、接合部80の内周面に相当する第2面94bを含む表層と、接合部80の端面に相当する第3面94cを含む表層には所定厚さのアモルファス構造層200が形成される。第1面94aの一部と第3面94cの一部には接着剤130が塗布される。アモルファス構造層200の表面は接着剤130が塗布される接合面202と接着剤130が塗布されない非接合面204とに跨っており、接合面202よりも広い範囲に拡がっている。言い換えると、頂面部94に接着する接着剤130の外周端部132は第1面94a上及び第3面94c上に配置される。この状態では、頂面部94における全ての接合面202にアモルファス構造層200が形成されていることになる。本実施形態においては、頂面部94における非接合面204及び頂面部94の外側にもアモルファス構造層200が形成されている。また、頂面部34の接合面34aにも接着剤130が塗布される。
【0037】
図示しないが、右ブラケット22Rの正面部90、背面部92、底面部96及び傾斜部98にも頂面部94と同じようにアモルファス構造層200が形成される。また、左ブラケット22Lの接合部80とセンタビーム20の端部66Lとの接合箇所の構造も同じである。
【0038】
[5 アモルファス構造層200により電食を防止できる原理]
アモルファス構造層200は金属部材(以下の説明では頂面部94)の電食を防止する役割を果たす。図5A図5Bを用いてその原理について説明する。ここではアモルファス構造層200が形成されていない頂面部94´(図5A)を想定し、アモルファス構造層200が形成されている頂面部94(図5B)と比較する。上述したように、頂面部94´及び頂面部94は金属部材(アルミニウム)である。金属部材には粒界140が存在する。
【0039】
図5Aに示す頂面部94´のように粒界140が外気に曝されると、粒界140に沿って存在する不純物が局部電池となり電食142(クロスハッチング部分)が発生する。電食142は粒界140に沿って拡がり、その影響は接着剤130の外周端部132の周辺に及ぶ。すると、外周端部132の周辺における接着剤130の接合強度が低下し、接着剤130が頂面部94´から剥離し易くなる。
【0040】
図5Bに示す頂面部94のように表面を含む表層にアモルファス構造層200が形成されると、頂面部94の粒界140は外気に曝されない。これは、アモルファス構造層200が結晶構造を持たないためである。このようにアモルファス構造層200によって粒界140が覆われるため、接着剤130の外周端部132の下に配置される粒界140には電食142が発生しない。
【0041】
[6 アモルファス構造層200と接着剤130の変形例]
図6に示すように、アモルファス構造層200が形成されていない表層206の表面が接合面202に含まれていてもよい。表層206に接着剤130が塗布されていれば、表層206が外気に曝されることはない。このため、表層206の粒界140(図5A図5B)を起点に電食142(図5A)が発生することはない。また、表層206の表面の周囲にアモルファス構造層200が形成されていれば、周辺から表層206に電食142が侵入することもない。
【0042】
さらに図7に示すように、表層206の上に接着剤130の空洞134が形成されていてもよい。空洞134は周囲を接着剤130(及び頂面部94、頂面部34)で囲まれており、外気から遮断されている。このため、空洞134に接する表層206の粒界140を起点に電食142が発生することはない。
【0043】
[7 アモルファス構造層200の有底孔212]
金属部材(以下の説明では頂面部94)の表面にレーザ光を照射すると、表層にアモルファス構造層200が形成される。アモルファス構造層200は所定以上の表面粗さを有する。さらにアモルファス構造層200の表面を含む表層には、図8に示すような有底孔212を複数備える有底孔層214(図9B)が形成される。図8は有底孔層214を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した画像である。
【0044】
有底孔212は有底孔層214の表面に開口部216を有する。有底孔212の深さ方向の断面形状は、開口部216と底部218の間に開口部216よりも内周が大きい膨張部220を有する下膨形状である。特に多いのは、開口部216から底部218に向かって内周が徐々に拡がり、底部218が膨張部220となる下膨形状である。
【0045】
開口部216の周りにはアンダーカット形状を呈する鉤状部222が形成される。鉤状部222には、金属部材の延在面と平行する方向Eに対して非平行、すなわち方向Eに対して傾斜して延びる頭部224が形成される。開口部216は頭部224の一端側に形成される。頭部224の長さは100μm以下である。
【0046】
[8 有底孔層214により接合強度が向上する原理]
有底孔層214は接着剤130の接合強度を向上させる役割を果たす。図9A図9Bを用いてその原理について説明する。ここでは表面が機械加工された頂面部94´´(図9A)を想定し、アモルファス構造層200の表層に有底孔層214が形成されている頂面部94(図9B)と比較する。なお、図9Aは頂面部94´´の断面を模式化しており、図9Bは頂面部94の断面を模式化している。
【0047】
図9Aに示すように、頂面部94´´の表面を含む表層には、有底孔152を複数備える有底孔層154が形成される。有底孔152は、開口部156から底部158に向かって内周が徐々に狭まる形状(テーパ形状)を呈する。有底孔層154は有底孔152が形成されることにより表面積が大きくなり、アンカー効果を奏する。このため、接着剤130の接合強度は大きくなる。しかし、有底孔152のようなテーパ形状は、有底孔152に充填された接着剤130に対して頂面部94´´から離れる方向Uに作用する力に対して抵抗力が小さい。
【0048】
対して、図9Bに示す有底孔212のような下膨形状は、有底孔212に充填された接着剤130に対して頂面部94から離れる方向Uに作用する力に対して大きな抵抗力を有する。また、開口部216の周辺に位置するアンダーカット形状の鉤状部222が抵抗力をさらに大きくする。従って、テーパ形状の有底孔152よりも下膨形状の有底孔212の方が接着接合の強度を高くすることができる。
【0049】
[9 サブフレーム12(接合構造体)の製造方法]
センタビーム20と側方ブラケット22L、22Rとを接合する前に、側方ブラケット22L、22Rの接合部80の各表面にレーザ光を照射する。レーザ光の強度、照射時間等の条件は、アモルファス構造層200の厚さや範囲に応じて設定される。レーザ光の照射後、接合部80が冷却される。冷却後の接合部80の各表面にはアモルファス構造層200が形成される。さらにその表層には有底孔層214が形成される。なお、接合部80の冷却は、例えば空冷等による自然冷却、任意の冷却装置の利用等による強制冷却により実施される。
【0050】
次に、センタビーム20及び側方ブラケット22L、22Rそれぞれの接合部、すなわち、ビーム側接合面120及びブラケット側接合面122(図3)に接着剤130を塗布する。ブラケット側接合面122に接着剤130を塗布する際には、接着剤130が有底孔212に充填されるように接着剤130に圧力を加える。
【0051】
次に、側方ブラケット22L、22Rの接合部80をセンタビーム20の端部66L、66R内に嵌め込む。そして、ブラケット側接合面122の表層に形成される有底孔層214の表面とビーム側接合面120とを接着剤130を介して対向させて、ブラケット側接合面122とビーム側接合面120とを接合する。この際、接着剤130の外周端部132をアモルファス構造層200(有底孔層214)の表面上に配置する。
【0052】
次に、ボルト60をセンタビーム20の貫通孔62及び側方ブラケット22L、22Rの貫通孔102に締結し、接着剤130の厚みを調整する。そして、センタビーム20の注入口74から接着剤130を注入する。
【0053】
なお、アモルファス構造層200を形成する以外は、特開2014−128986号公報に記載される製造方法を適用可能である。
【0054】
[10 変形例]
本実施形態では接合構造体としてのサブフレーム12について説明した。しかし、金属部材と繊維強化プラスチック部材とを接着接合する他の構造体に本発明を使用することも可能である。また、インロウ構造でない他の構造体の接着接合箇所に本発明を使用することも可能である。また、インロウ構造の内側の部材と外側の部材のいずれが金属部材であってもよい。
【0055】
本実施形態では金属部材(側方ブラケット22L、22R)と繊維強化プラスチック部材(センタビーム20)とが接着接合された接合構造体(センタビーム20)について説明した。しかし、本発明を利用できる接合構造体は、金属部材と繊維強化プラスチック部材とが接着剤で接合される接合構造体に限らない。第1部材と第2部材の少なくとも一方が金属部材であればよい。例えば、金属部材とガラス(セラミック)部材、金属部材とプラスチック部材、金属部材とゴム部材等の接合構造体に本発明を使用することが可能である。また、接着剤の代わりにシーリング部材が使用されてもよい。
【0056】
シーリング部材としては一般的なもの、例えば、アクリル系、ウレタン系、ポリウレタン系、シリコーン系、変成シリコーン系、油性コーキング系、ポリサルファイド系等のものを使用できる。
【0057】
[11 本実施形態のまとめ]
本実施形態に係るサブフレーム12(接合構造体)は、側方ブラケット22L、22R(金属部材)の接合部80の表層にアモルファス構造層200が形成される。さらにアモルファス構造層200の表層に複数の有底孔212を有する有底孔層214が形成される。有底孔212は、開口部216と底部218の間に開口部216よりも内周が大きい膨張部220を有する下膨形状である。有底孔212には接着剤130が充填され、有底孔層214の表面、すなわち側方ブラケット22L、22Rの接合部80の外周面とセンタビーム20(繊維強化プラスチック部材)の端部66Rの内周面とが接着剤130を介して対向する。
【0058】
アモルファス構造層200と接着剤130との界面には錆が発生しない。このため防錆機能を実現できる。また、アモルファス構造層200の表層に有底孔212が形成されるため金属部材である側方ブラケット22L、22Rの表面積が大きくなる。また、下膨形状の有底孔212は、アンカー効果を奏するだけでなく有底孔212内に充填された接着剤130を抜けにくくする。このため、側方ブラケット22L、22Rと接着剤130との接着強度を向上させることができる。
【0059】
有底孔212は開口部216に鉤状部222を備える。鉤状部222はアンダーカット形状であり、有底孔212内に充填された接着剤130を抜けにくくする。このため、側方ブラケット22L、22Rと接着剤130との接着強度を向上させることができる。
【0060】
鉤状部222には、金属部材である側方ブラケット22L、22Rの延在面と平行する方向Eに対して非平行に延びる100μm以下の頭部224が形成される。頭部224は側方ブラケット22L、22Rの延在面と平行する方向Eに対して非平行に延びるため、有底孔212内に充填された接着剤130をさらに抜けにくくする。このため、側方ブラケット22L、22Rと接着剤130との接着強度を向上させることができる。
【0061】
本実施形態に係るサブフレーム12(接合構造体)の製造方法は、側方ブラケット22L、22R(金属部材)にレーザ光を照射して側方ブラケット22L、22Rの接合部80の表層にアモルファス構造層200を形成すると共に、アモルファス構造層200の表層に複数の有底孔212を有する有底孔層214を形成する。有底孔212は、開口部216と底部218の間に開口部216よりも内周が大きい膨張部220を有する下膨形状である。有底孔212に接着剤130を充填し、有底孔層214の表面、すなわち側方ブラケット22L、22Rの接合部80の外周面とセンタビーム20(繊維強化プラスチック部材)の端部66Rの内周面とを接着剤130を介して対向させて、側方ブラケット22L、22Rとセンタビーム20とを接合する。
【符号の説明】
【0062】
10…車両 12…サブフレーム(接合構造体)
20…センタビーム(繊維強化プラスチック部材)
22L、22R…側方ブラケット(金属部材)
80…接合部 130…接着剤
200…アモルファス構造層 212…有底孔
214…有底孔層 216…開口部
218…底部 220…膨張部
222…鉤状部 224…頭部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9