(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441318
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】ターボチャージャー用バリア層
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20181210BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20181210BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20181210BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
C23C14/08 K
C23C14/24 F
F02B39/00 U
F02B39/00 S
B32B9/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-514301(P2016-514301)
(86)(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公表番号】特表2016-526097(P2016-526097A)
(43)【公表日】2016年9月1日
(86)【国際出願番号】EP2014001390
(87)【国際公開番号】WO2014187570
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2017年3月13日
(31)【優先権主張番号】61/826,586
(32)【優先日】2013年5月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100202016
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 喬
(72)【発明者】
【氏名】ラム ユルゲン
【審査官】
神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−506049(JP,A)
【文献】
特表2011−514437(JP,A)
【文献】
特表2005−539138(JP,A)
【文献】
特表2008−533310(JP,A)
【文献】
H.NAJAFI et.al.,Formation of cubic structured (Al1-xCrx)2+δO3 and its dynamic transition to corundum phase during cathodic arc evaporation,Surface & Coatings Technology,ELSEVIER,2013年,Vol.214,p.46-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/08
B32B 9/00
C23C 14/24
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャーのPVDコーティングされた部品またはPVDコーティングされた構成要素において、
PVDコーティングされた基板を有しており、当該PVDコーティングされた基板が酸化および化学的バリア層を有し、前記バリア層が少なくとも1つのAl−Cr−O層を含み、前記Al−Cr−O層は少なくとも部分的にコランダム構造を有し、X線回折図においてAlCr金属間相の結晶構造の反射を少なくとも示すこと、
前記基板はターボチャージャーの部品または構成要素であり、当該基板は前記ターボチャージャーの操作の間に400℃より高いが800℃以下である温度を受けること、
前記Al−Cr−O層における酸化物の結晶径が、X線回折で酸化結晶がもはや検出され得ずその結果酸化物相がX線回折図において検出され得ない程に、小さいこと、
を特徴とするターボチャージャーのPVDコーティングされた部品またはPVDコーティングされた構成要素。
【請求項2】
前記バリア層が、前記基板と前記Al−Cr−O層との間に位置する窒化クロム層を含むことを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャーのPVDコーティングされた部品またはPVDコーティングされた構成要素。
【請求項3】
前記Al−Cr−O層の化学組成が、(Al,Cr)2O3−yの組成を生じ、その際y≦0.3であることを特徴とする請求項1または2に記載のターボチャージャーのPVDコーティングされた部品またはPVDコーティングされた構成要素。
【請求項4】
X線回折図が、コランダム構造の(Al,Cr)2O3層の反射を示すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のターボチャージャーのPVDコーティングされた部品またはPVDコーティングされた構成要素。
【請求項5】
X線回折図が、AlCr金属間相の結晶構造の反射を示すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のターボチャージャーのPVDコーティングされた部品またはPVDコーティングされた構成要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温を受けるシステム(装置)またはターボチャージャーの部品および/または構成要素を高温腐食から保護するためのバリア層を有するシステム、特にターボチャージャーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ターボチャージャーなどの部品からの放熱を低下させるための断熱層としての、二酸化チタン、または少なくとも1種の他のセラミック材料との二酸化チタンの混合物から製造されたバリア層の使用が開示されている。このバリア層は、好ましくは、溶射によって堆積・析出される。
【0003】
結果的に、従来技術によるターボチャージャーのいくつかの部品は、必然的に高温を受ける。したがって、そのような部品は、一般に、非常に高価であり、かつ製造が困難であるNiおよび/またはTi合金などの非常に温度安定性のある材料から構成される。
【0004】
ターボチャージャーの部品の既知のコーティングは、他の目的のためでもある。例えば、特許文献2および特許文献3は、ターボチャージャー部品の表面上に堆積することができる触媒コーティングを開示している。特許文献3によると、ターボチャージャーの圧縮器のフローガイド部品における汚れ堆積を減少させるための手段として、そのような触媒コーティングを使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第2112252号明細書
【特許文献2】欧州特許第2406476号明細書
【特許文献3】欧州特許第2041400号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高温を受けるターボチャージャー部品の実用寿命を延ばすための解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、高温を受けるターボチャージャー部品が、少なくとも1つの酸化アルミニウムクロム層(Al−Cr−O)を含む酸化および化学的バリア層によってコーティングされる本発明によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】例示的な実施形態1から得られる層1の層厚さを評価するためのキャロット(calotte)研磨測定を示す。
【
図2】例示的な実施形態1から得られる層2の層厚さを評価するためのキャロット(calotte)研磨測定を示す。
【
図3】Al
0.7Cr
0.3ターゲットによって製造され、かつコランダム構造の(Al,Cr)
2O
3層に関する反射を明らかに示す(Al,Cr)
2O
3層のX線回折図を示す。
【
図4】Al
0.7Cr
0.3ターゲットによって製造され、かつ金属間相Al
8Cr
5の結晶構造の反射を明らかに示す(Al,Cr)
2O
3層のX線回折図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に関して、「高温」という表現は、400℃より高い、特に500℃より高い温度を意味するものとして理解される。
【0010】
本発明によるバリア層は、特に、600℃まで、さらには800℃まで、およびそれ以上の温度を受けるターボチャージャーの部品のための、酸化および化学的攻撃に対する非常に優れたバリアであることが判明した。
【0011】
好ましくは、層は、PVDプロセスによって、好ましくはドロップレットフィルターを用いない反応性アーク蒸発によって、本発明に従って堆積される。
【0012】
好ましくは、層は、CrNの界面層およびAl−Cr−Oの機能層を含有する。
【0013】
本発明の他の詳細を、例示的な実施形態によって記載する。
【0014】
2つの例示的な実施形態1および2による層を製造するために、以下のプロセスパラメーターを使用した(表1および2を参照のこと)。
表1は、界面の堆積におけるプロセスパラメーターを示す。
表2は、機能層の堆積におけるプロセスパラメーターを示す。
【0017】
例示的な実施形態1および2に従って本発明によって製造される層の層厚さは、キャロット研磨プロセス(表3ならびに
図1および2を参照のこと)を使用して、層厚さ試験デバイスを用いて測定した。
表3は、例示的な実施形態1および2から得られる層1および2の層厚さを示す。
【0019】
本発明によるAl−Cr−O層を製造するため、好ましくは、原子濃度で0.2≦x≦0.9であるAl
1−xCr
x組成を有するターゲットを使用する。一般に、示された領域においていずれの化学組成も使用することができるように、これらのターゲットは粉末冶金によって製造される。
【0020】
好ましくは、上記の例示的な実施形態1および2においてすでに示されたように、ターゲットを酸素雰囲気で蒸発させる。本発明によると、蒸発速度を制御するために、ターゲットを異なる放電電流で操作することができる。
【0021】
本発明によると、層の化学組成は、好ましくは、この方法で製造された層の分析において(Al,Cr)
2O
3−y(式中、y≦0.3である)の組成が得られるように制御される。
【0022】
事例によっては、コーティング温度は、コーティングすべき基板材料に、およびその後の使用に適応することができる。典型例として、コーティング温度は、100℃〜600℃である。
【0023】
コーティングされる基板は異なる形状および径を有してもよいため、それによって、システムにおけるコーティングの間に基板が固定される基板ホルダーの実施形態は、基板の形状に適応する。
【0024】
この全てが、全ての事例において、上記の化学組成が実際に維持されるが、酸化物層の他の相組成が、異なるプロセスパラメーターのために製造されるという事実をもたらす。
【0025】
層の相は、通常、X線回折(XRD)法を使用して測定される。結果的に、測定されたXRDスペクトルは、場合によっては、例えば
図3に示されるようなコランダム構造の(Al,Cr)
2O
3層の反射を明白に示すことができる。この場合、
図3は、Al
0.7Cr
0.3ターゲットによって製造された(Al,Cr)
2O
3層のX線回折図を示す。
【0026】
この図中、炭化タングステン基板(太い破線)の位置、ならびにエスコライト構造(実線)のCr
2O
3およびコランダム構造(破線)のAl
2O
3の回折反射に対する位置のXRD反射がプロットされている。これらの2本の線の間にあるのは、ベガードの法則に従って予想されるように、コランダム構造の合成(Al,Cr)
2O
3混晶に関するそれぞれの測定された回折反射である。
【0027】
しかしながら、プロセス条件が上記の通りに変化された場合、酸化物の結晶径が小さく、XRDで微結晶をもはや検出することができなくなるか、またはプロセス条件の変化により、得られた酸化物の構造が非晶質となる可能性がある。
【0028】
そのような場合、酸化物はX線スペクトルではもはや検出することができないが、ほとんどすべての事例において、物質的に関連のある化合物、主として金属間相およびAl−Cr−O層の金属混晶が見られる。そのような物質的に関連のある化合物は、例えば、金属間相Al
8Cr
5である。
【0029】
相当するX線回折図を
図4に示すが、これは、1つの層で測定されたX線スペクトルを示し、ここでは酸化物相は検出されないが、物質的に関連のある金属間相Al
8Cr
5は明白である。このX線回折図は、再び、炭化タングステン基板(太い破線)の回折反射と、加えて、Al
8Cr
5結晶構造(実線)の回折反射を示しており、これは明らかに、酸化物層におけるこの金属間化合物の存在を実証している。
【0030】
完全に同様の方法において、特定のプロセス条件下で、化学組成が上記されている酸化物層においてXRDを使用して、例えば、Al
4Cr
1またはAl
9Cr
4、あるいは他のAl−Cr金属間化合物または混晶も、個々に、または一緒に検出することができる。