特許第6441320号(P6441320)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6441320-がん治療のための予測的バイオマーカー 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441320
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】がん治療のための予測的バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20181210BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 31/7115 20060101ALI20181210BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20181210BHJP
   A61K 47/50 20170101ALI20181210BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20181210BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20181210BHJP
【FI】
   G01N33/50 K
   A61P35/00
   A61K45/00
   A61P37/04
   A61K31/7115
   A61P43/00 111
   A61K39/00 H
   A61K47/50
   C12Q1/04
   !C12N15/113
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-515715(P2016-515715)
(86)(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公表番号】特表2016-526164(P2016-526164A)
(43)【公表日】2016年9月1日
(86)【国際出願番号】EP2014059995
(87)【国際公開番号】WO2014191222
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2016年2月9日
(31)【優先権主張番号】1309657.3
(32)【優先日】2013年5月30日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】505106324
【氏名又は名称】モロゲン・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】シュロフ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】カップ,カースチン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィティヒ,ブルクハルト
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−519847(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/000348(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/085291(WO,A1)
【文献】 RIERA-KNORRENSCHILD,MAINTENANCE WITH THE TLR-9 AGONIST MGN1703 VERSUS PLACEBO IN PATIENTS WITH ADVANCED COLORECTAL CARCINCOMA (MCRC): A RANDOMIZED PHASE II TRIAL (IMPACT) [ABSTRACT 3643],JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY [ONLINE],2013年 5月20日,VOL:31, NR:15_SUPPL,URL,http://meeting.ascopubs.org/cgi/content/abstract/31/15_suppl/3643
【文献】 SCHMIDT M、外11名,87 FIRST RESULTS OF A PHASE 2-3 CLINICAL STUDY WITH THE IMMUNOMODULATOR MGN1703 IN PATIENTS WITH ADVANCED COLORECTAL CARCINOMA(IMPACT STUDY),MOLECULAR THERAPY,2011年 5月,Vol.19 Supplement1,Page.S35
【文献】 VARGHESE,A NOVEL INKT-MEDIATED VACCINE MANEUVER OVERCOMES PD-1-MEDIATED T CELL EXHAUSTION IN CANCER,THE JOURNAL OF IMMUNOLOGY,2012年 1月 1日,URL,http://www.jimmunol.org/cgi/content/meeting_abstract/188/1_MeetingAbstracts/165.13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療の開始に先立ってCD3+ CD56+ CD69+活性化ナチュラルキラーT(NKT)細胞の頻度を決定することにより、がんに冒された患者がTLR−9アゴニストによる治療に応答するであろうかまたは応答するかを予測またはモニターする方法であって、前記頻度が、全NKT細胞集団のCD3+ CD56+ CD69+活性化NKT細胞の頻度であり、前記TLR−9アゴニストが、少なくとも1つの配列モチーフNCGNを含むDNAコンストラクトであり、ここでNおよびNはA、C、TおよびGの任意の組合せであり、Cはデオキシシチジンであり、Gはデオキシグアノシンであり、Aはデオキシアデノシンであり、Tはデオキシチミジンであり、前記DNAコンストラクトは、共有結合的に閉じた部分的に自己相補的なものであり、二本鎖ステム及び一本鎖末端ループを備え、前記一本鎖末端ループは、前記配列モチーフNCGNを少なくとも1つ備えている、前記方法。
【請求項2】
TLR−9アゴニストによる治療の応答者が、全NKT細胞集団のCD3+ CD56+ CD69+活性化NKT細胞の少なくとも3%の頻度を有する、請求項に記載の方法。
【請求項3】
先立って非DNA薬物による導入療法が行われた、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記TLR−9アゴニストがMGN1703である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
TLR−9アゴニストを有効成分として含有する、全ナチュラルキラーT(NKT)細胞集団のCD3+ CD56+ CD69+活性化NKT細胞のレベルが治療の開始に先立って上昇している患者のがん治療に用いる組成物であって、前記TLR−9アゴニストが、少なくとも1つの配列モチーフNCGNを含むDNAコンストラクトを少なくとも含んでなり、ここでNおよびNはA、C、TおよびGの任意の組合せであり、Cはデオキシシチジンであり、Gはデオキシグアノシンであり、Aはデオキシアデノシンであり、Tはデオキシチミジンであり、前記DNAコンストラクトは、共有結合的に閉じた部分的に自己相補的なものであり、二本鎖ステム及び一本鎖末端ループを備え、前記一本鎖末端ループは、前記配列モチーフNCGNを少なくとも1つ備えている、前記組成物
【請求項6】
がGT、GG、GA、ATまたはAAを含む群から選択される要素であり、NがCTまたはTTを含む群から選択される要素である、請求項に記載の組成物
【請求項7】
前記TLR−9アゴニストが少なくとも1つのL−DNAヌクレオチドを含む、請求項5または6に記載の組成物
【請求項8】
前記TLR−9アゴニストがMGN1703である、請求項5または6に記載の組成物
【請求項9】
前記TLR−9アゴニストの少なくとも1つのヌクレオチドが、カルボキシル、アミン、アミド、アルジミン、ケタール、アセタール、エステル、エーテル、ジスルフィド、チオールおよびアルデヒド基を含む群から選択される官能基により修飾されている、請求項5から8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
前記DNAコンストラクトが、ペプチド、タンパク質、炭水化物、抗体、脂質、ミセル、ベシクル、合成分子、ポリマー、マイクロプロジェクタイル、金属粒子、ナノ粒子または固相を含む群から選択される化合物に連結している、請求項5から9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
前記DNAコンストラクトが医薬組成物の一部である、請求項5から10のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
前記医薬組成物がワクチンである、請求項11に記載の組成物
【請求項13】
全ナチュラルキラーT(NKT細胞集団のCD3+ CD56+ CD69+活性化NKT細胞の頻度を検出および定量するための蛍光標識抗体を含む、がんに冒された患者がTLR−9アゴニストによる治療に応答するであろうかまたは応答するかを治療の開始に先立って予測またはモニターするためのキットであって、前記TLR−9アゴニストが、少なくとも1つの配列モチーフNCGNを含むDNAコンストラクトであり、ここでNおよびNはA、C、TおよびGの任意の組合せであり、Cはデオキシシチジンであり、Gはデオキシグアノシンであり、Aはデオキシアデノシンであり、Tはデオキシチミジンであり、前記DNAコンストラクトは、共有結合的に閉じた部分的に自己相補的なものであり、二本鎖ステム及び一本鎖末端ループを備え、前記一本鎖末端ループは、前記配列モチーフNCGNを少なくとも1つ備えている、前記キット。
【請求項14】
前記TLR−9アゴニストがMGN1703である、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、特定の治療に応答するか否かに関するがん患者の同定に関する。より具体的には、本発明は免疫活性化DNAコンストラクトを含む治療に対する応答者を同定するための方法およびDNAコンストラクト、ならびに前記コンストラクトによる治療の開始に先立って潜在的な応答者として個々に特徴付けられたがん患者の治療を意図したDNAコンストラクトに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマーカーは、血液もしくは他の体液中、組織中に、または細胞上の受容体として見られる、例えばがんのような状態または疾患の存在または不在を伝える物質である。バイオマーカーは予測的、予後的および薬動力学的バイオマーカーに分別することができる。
【0003】
予測的バイオマーカーは、患者が特定の治療に対して応答するまたはそれから利益を得る蓋然性を評価するために使用される。予後的バイオマーカーは、どの患者を治療するべきかまたはどの程度積極的に治療するべきかの決定の指針となる積極的潜在性に関する腫瘍分類を可能にする。薬動力学的バイオマーカーは、腫瘍における薬物の短期間の治療効果を測定するが、新しい抗がん剤の臨床開発期間の投与量選択の指針として使用されてもよい。
【0004】
標的療法は、がんの成長や拡散を停止するために、分子レベルで作用する治療である。このような治療は、通常、非常に攻撃的な薬剤の使用に関連しているので、不必要なアプローチを避けるために、患者が標的療法に応答するか否かを予測することを可能にするツールが必要とされている。
【0005】
治療法はますます標的特異的となっている事実に関して、バイオマーカーの役割が増大している。それらは、治療法を個別化することに役立ち、個別化腫瘍学への道を開くのにも役立つ。特定の治療の応答者を非応答者から区別する可能性でさえ、患者が不必要な治療を受けることになることを防ぐのに役立つ。
【0006】
一般的に知られている、よく承認されたがんの治療は化学療法である。化学療法の主な欠点の1つは、重篤な副作用を引き起こす非常に攻撃的な医薬品の使用である。これらの副作用を最小化させる目的で、例えば免疫活性化剤を化学療法と組み合わせるような、化学療法の投与量を最小限にする多くの試みが行われてきている。1つのアプローチは、免疫活性化DNAの使用である。
【0007】
いわゆる非メチル化CG配列は、免疫システムを非常に効率的に活性化させることが示されてきている(Krieg AM,Yi AK,Matson S,Waldschmidt TJ,Bishop GA,Teasdale R,Koretzky GA,Klinman DM;バクテリアDNAにおけるCpGモチーフはB細胞の直接的活性化を引き起こす;Nature 1995 4月6日号 374:6522 546−9)。これらの配列はバクテリアから由来している。欧州特許1196178号は、非メチル化CGモチーフを含む両末端に一本鎖ループを有する二本鎖ステムを持つDNAコンストラクトをもたらす部分的に自己相補的な配列を有する共有結合的に閉環した環状DNAを記載している。
【0008】
がん性疾患を治療するための、欧州特許1196178号のダンベル形状DNAコンストラクトと化学療法剤の組合せが、欧州特許1776124号に提案されている。欧州特許1196178号のDNAコンストラクトにより治療を受けた患者が引き続き、化学療法を受けた。化学療法剤の量が開示された組合せにより減少することができたことがわかった。しかし、この文献は患者が組合せ療法の適用に応答するか否か同定するツールについての情報は全く記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
がん患者が免疫活性化DNAによる治療に応答するであろうか否かについて予測するための方法を提供することが本発明の目的である。本発明の他の目的は、そのような方法、つまり、治療の開始に先立って応答者として同定された患者を治療することに使用することができる、免疫活性化DNAそのものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、活性化ナチュラルキラーT(NKT)細胞の頻度を決定することにより、がんまたは自己免疫性疾患に冒された患者がTLR−9アゴニストによる治療に応答するであろうかまたは応答するかを予測またはモニターする方法を提供する。活性化NKT細胞の免疫表現型検査について、表面抗原分類または表面抗原指定(cluster of differentiationまたはcluster of designation;CD)分子CD3+/CD56+/CD69+を決定することが好ましい。患者がTLR−9アゴニストによる治療に応答するであろうかの蓋然性を評価するために、全NKT細胞集団の活性化NKT細胞比率もまた、決定されてもよい。
【0011】
TLR−9アゴニストは少なくとも1つの配列モチーフNCGNを含むDNAコンストラクトであることが意図されており、ここでNおよびNはA、C、TおよびGの任意の組合せであり、Cはデオキシシチジンであり、Gはデオキシグアノシンであり、Aはデオキシアデノシンであり、Tはデオキシチミジンである。
【0012】
TLR−9アゴニストによる治療の応答者は、全NKT細胞集団の活性化NKT細胞の少なくとも3%の頻度を有する。
【0013】
先立って非DNA薬物による導入療法が行われていても良いことが、さらに意図される。そのような療法には、血管新生阻害剤を伴うか伴わない化学療法または抗体の利用が含まれる。
【0014】
本開示のさらなる目的は、患者の活性化NKT細胞のレベルが上昇していることを特徴とする、がんの治療の方法における使用のためのTLR−9アゴニストである。
【0015】
使用されるTLR−9アゴニストは少なくとも1つの配列モチーフNCGNを含むDNAコンストラクトを少なくとも含むことが意図されており、ここでNおよびNはA、C、TおよびGの任意の組合せであり、Cはデオキシシチジンであり、Gはデオキシグアノシンであり、Aはデオキシアデノシンであり、Tはデオキシチミジンである。アゴニストはさらに、GT、GG、GA、ATまたはAAを含む群から選択される要素であるN、CTまたはTTを含む群から選択される要素であるNにより特徴付けられてもよい。
【0016】
アゴニストは、一本鎖もしくは二本鎖DNAを含む線状で開いた鎖状のDNAコンストラクトであるかまたは、一本鎖ループを有する少なくとも1つの末端を含む、線状二本鎖DNAコンストラクトであるDNAを含んでいてもよい。線状二本鎖の末端を保護するためにループを使用する代わりに、少なくとも1つのL−DNAヌクレオチドがDNA二本鎖の部分として使用されてもよい。
【0017】
配列モチーフNCGNは、DNA配列の一本鎖および/または二本鎖領域内に位置する。DNA TLR−9アゴニストの少なくとも1つのヌクレオチドは、カルボキシル、アミン、アミド、アルジミン、ケタール、アセタール、エステル、エーテル、ジスルフィド、チオールおよびアルデヒド基を含む群から選択される官能基により修飾されていることがさらに意図される。
【0018】
DNAコンストラクトを含むアゴニストは、ペプチド、タンパク質、炭水化物、抗体、脂質、ミセル、ベシクル、合成分子、ポリマー、マイクロプロジェクタイル(micro projectile)、金属粒子、ナノ粒子または固相を含む群から選択される化合物に連結することができる。
【0019】
DNAコンストラクトを含むアゴニストは、ワクチンであり得る医薬組成物の部分であり得ることがさらに意図される。
【0020】
本開示の他の目的は、全NKT細胞集団の活性化NKT細胞の頻度を検出および定量するための手段を含む、がんまたは自己免疫性疾患に冒された患者がTLR−9アゴニストによる治療に応答するであろうかもしくは応答するかを予測またはモニターするためのキットである。
【0021】
キットについては、TLR−9アゴニストは少なくとも1つの配列モチーフNCGNを含むDNAコンストラクトを含んでいてもよいことが意図されており、ここでNおよびNはA、C、TおよびGの任意の組合せであり、Cはデオキシシチジンであり、Gはデオキシグアノシンであり、Aはデオキシアデノシンであり、Tはデオキシチミジンである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ヴェルム(verum)患者における活性化NKT細胞についてのROCカーブを示す図である。
【0023】
図2】感度および特異度に対する活性化NKT細胞を示す図である。
【0024】
図3a】バイオマーカー陽性患者におけるヴェルムおよびプラセボについてのカプラン−マイヤー(Kaplan−Meier)プロットを示す図である。
図3b】バイオマーカー陰性患者におけるヴェルムおよびプラセボ治療群の両方についてのカプラン−マイヤーカーブを示す図である。
【0025】
図4a】ヴェルム治療群におけるバイオマーカー陽性患者対バイオマーカー陰性患者のカプラン−マイヤープロットを示す図である。
図4b】バイオマーカー陽性および陰性患者についてのプラセボ群のカプラン−マイヤープロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の意味において、MGN1703は非メチル化CGモチーフを有する二本鎖ステムおよび一本鎖末端ループを持つ共有結合的に閉じた部分的に自己相補的なDNA鎖のDNAコンストラクトを指定する。
【0027】
本開示に記載の「ステム」とは、(その結果、部分的に自己相補的となる)同じDNA分子内または(部分的にまたは完全に相補的である)異なるDNA分子内のいずれかにおいて塩基対合により形成された二本鎖DNAのことと理解される。分子内塩基対合とは、同じ分子内の塩基対合のことを指定し、異なるDNA分子間の塩基対合は、分子間塩基対合と命名される。
【0028】
本開示の意味において「ループ」とは、ステム構造内またはその末端の対合していない、一本鎖領域のことと理解される。「ヘアピン」とは、ステムおよびループの別個の組合せであり、同じDNA分子の2つの自己相補的な領域がハイブリダイズして対合していないループを有するステムを形成した際に生じるものである。
【0029】
「ダンベル形状」とは、ステム領域に隣接して両端にヘアピンを有する線状DNAコンストラクトのことを記述する。したがって、本開示の文脈における「線状DNAコンストラクト」とは、二本鎖DNAステムの両末端において一本鎖ループを含む線状のダンベル形状DNAコンストラクトを記述する。
【0030】
本開示に記載の免疫修飾とは、免疫活性化および免疫抑制のことを指す。免疫活性化とは、増殖、転位、分化、または任意の他の形態において活性となるために、免疫システムのエフェクター細胞が活性化されることを優先的に意味する。例えばB細胞増殖は、通常はヘルパーT細胞からの共刺激性シグナルが必要であるが、免疫活性化DNA分子により共刺激性シグナルが無くとも誘導することができる。
【0031】
他方、免疫抑制は免疫システムの活性化または効率を減少させることと理解される。免疫抑制は、例えば移植器官の拒絶反応を防止するために、骨髄移植後、移植片対宿主病を治療するために、または例えば、リウマチ性関節炎もしくはクローン病のような自己免疫性疾患の治療のために、一般的には計画的に、誘導される。
【0032】
本文脈において、免疫修飾は、まだ熟成途中もしくは成熟している免疫反応に影響することによるかあるいは確立した免疫反応の特性を調節することにより、免疫反応の性質または特性に影響を与えることを指してもよい。
【0033】
本開示において使用される「ワクチン接種」という用語は、疾患に対する免疫を生成させるために抗原物質(ワクチン)を投与することを指す。ワクチンは、ウイルス、菌類、寄生性原虫、バクテリアのような多くの病原体の感染のみならず、アレルギー性疾患およびぜんそくならびに腫瘍の効果を防止または寛解させることができる。ワクチンは、免疫応答をブーストするために使用される、例えば免疫活性化核酸のような1つまたは複数のアジュバントを典型的には含む。ワクチン接種は一般的には、感染および他の疾患を予防する最も効果的で対費用効果の高い方法であると考えられている。
【0034】
投与された物質は、例えば生きているものであってよいが、病原体(バクテリアまたはウイルス)の弱体化した形態、これらの病原体の死滅させたもしくは不活性化した形態、タンパク質のような精製された物質、抗原をコードする核酸または腫瘍細胞もしくは樹状細胞のような細胞であってもよい。特に、DNAワクチン接種が最近開発されてきている。DNAワクチン接種は、抗原をコードするDNAをヒトまたは動物の細胞に挿入すること(および発現、免疫システム認識を作動させること)によって作用する。発現したタンパク質を認識する免疫システムのいくつかの細胞は、これらのタンパク質に対しておよびそれらを発現する細胞に対して攻撃を開始する。DNAワクチンの1つの利点はそれらが非常に容易に生産でき、保存できることである。さらに、DNAワクチンは従来のワクチンに対して多くの利点を有するが、それにはより広い範囲の免疫応答の型を誘導することができる点が含まれる。
【0035】
ワクチン接種は予防法として使用することができ、ワクチン接種した健康な個人が抗原に暴露される際において、その抗原に対する免疫をもたらす。あるいは、治療的なワクチン接種は、抗原に対する個人の免疫システムを先導することにより、ワクチン接種した病気の個人の免疫システムの反応の改善をもたらし得る。予防的および治療的なワクチン接種の両方は、動物と同様にヒトに適用することが可能である。
【0036】
「がん」という用語は、乳腺癌、悪性黒色腫、皮膚腫瘍、リンパ腫、白血病、結腸癌、胃癌、膵臓癌、結腸がん、小腸がんを含む消化器腫瘍、卵巣癌、子宮頚癌、肺がん、前立腺がん、腎細胞癌および/または肝転移を非限定的に含む群から選択される治療されるかまたは予防されるがん性疾患または腫瘍を含む。
【0037】
本開示に記載の自己免疫性疾患は、リウマチ性関節炎、クローン病、全身性ループス(SLE)、自己免疫性甲状腺炎、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、グレーブス病、重症筋無力症、セリアック病とアジソン病を含む。
【0038】
一本鎖末端ループに非メチル化CG配列を有する免疫活性化ダンベル形状DNAコンストラクトでの実験の間、免疫活性化およびエフェクター経路の特定の細胞型の頻度の上昇がDNAコンストラクトによる治療の成功に関連していることがわかった。
【0039】
脊椎動物において、いわゆる「トール様受容体」(TLR)は自然免疫系の一部である。TLRは、タンパク質、脂質構造、糖類構造、および特定の核酸などの高度に保存された病原体関連の分子パターンを検出する際に、防御免疫応答を誘導する特殊な免疫受容体のファミリーである。TLR−3、TLR−4、TLR−7、TLR−8、およびTLR−9を含むいくつかのTLRについての合成アゴニストは、一般に腫瘍存在下において免疫システムを活性化させることを意図したがんの治療のために開発されており、開発され続けている。TLR−9は、典型的にはバクテリアに見られるが、ヒトゲノムDNAには実質的に見られない非メチル化CG含有DNA配列の存在を認識する。したがって、非メチル化CG含有DNA配列は人工的TLR−9アゴニストとして設計されてきた。そのような非メチル化CG含有DNAコンストラクトの効果はそれらのTLR−9との相互作用に依存しており、DNA−タンパク質相互作用はDNAおよびタンパク質の両方のコンフォメーションに依存している。実験的データは、驚くべきことにダンベル形状DNA分子が免疫応答の誘導に適切であることを実証している。
【0040】
がん患者がTLR−9アゴニストの適用に応答するであろうか否かを予測するためのツールを同定するために、一本鎖末端ループに非メチル化CGモチーフを有するダンベル形状DNAコンストラクトが使用された。
【0041】
血管内皮細胞増殖因子Aを阻害するヒトモノクローナル抗体によるかよらない標準的な第一選択組合せ治療において、先立って4.5から6ヶ月治療された転移性結腸直腸がんに冒された合計46名の患者が研究に選択された。約1−6週間の無治療期間の後、患者の無作為化を行い、患者各々に週に2回、皮下注射により、32名の患者は1用量60mgのDNAコンストラクトMGN1703を投与し、14名の患者はプラセボを投与した。
【0042】
12週間の治療の後、腫瘍の進行について、すべての患者を検査した。腫瘍の進行の存在、不在に基づいて、患者を2つの群に分け、「PFS群」と命名した。腫瘍が進行しなかった患者は無進行患者と命名され、「PFS1」とラベルされた。一方、腫瘍が進行した患者はPFS0とラベルされた。腫瘍の進行の欠如(PFS1)は治療の応答の可能性を示し、腫瘍の進行(PFS2)は応答の欠如を示すことは明らかである。腫瘍の進行が見られるまで各々の患者について治療が続けられた。
【0043】
結果を表1にまとめた。ほぼすべての無進行患者がDNAコンストラクトを投与されたものであることは明白である。
【0044】
【表1】

【0045】
MGN1703またはプラセボ(ベースラインで)の最初の適用の前に、すべての患者の血液サンプルを収集した。以下の免疫変数の分布、例えば、全PBMC集団の一部および活性化および非活性化補集団の関連が決定された。12週間後のPFS群命名およびベースラインのすべての免疫変数それぞれの相関が調査された。以下の免疫変数が決定された:単核球、活性化単核球1、活性化単核球2、B細胞、活性化B細胞、T細胞、活性化T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、活性化NK細胞、NKT細胞、活性化NKT細胞、形質細胞様樹状細胞(pDC)、活性化pDC、骨髄樹状細胞(mDC)および活性化mDC。細胞型、CD、および決定された頻度の状況を表2にまとめた。
【0046】
【表2】

【0047】
免疫変数の1つが適切なバイオマーカーとして機能を果たすか否かを評価するために、いわゆるコックス回帰を各々の免疫変数について計算した。コックス回帰により、ハザード関数を考慮することなくパラメータの影響を推定することができる。そのような計算から得られたハザード比は1以下であるべきであり、0.05以下である有意なp値と関連するべきである。さもなければ、観測された影響は適用されたTLR−9アゴニストと関連することはないであろう。これらの判断基準は、ハザード比が約0.933、p値が0.0309である活性化NKT細胞のみに当てはまった。
【0048】
驚くべきことに、活性化NKT細胞のパーセンテージは、ヴェルム群内の治療成功を予測することに使用することができた。活性化NKT細胞のパーセンテージとPFS群ステータスの関係を、ヴェルム群内において先端的でよく確立した統計的解析を用いて研究した。
【0049】
受信者動作特性(ROC)カーブ、または単にROCカーブは、その弁別閾値を変化させることで、2値分類システムの性能を示す。ROCカーブは、様々な閾値設定において、陽性の中の真陽性の割合に対する陰性の中の偽陽性の割合をプロットすることにより作成される。また、真陽性は感度として指定され、偽陽性は1マイナス特異度または真陰性比率である。
【0050】
ROC解析は何十年もの間、医学、放射線学、バイオメトリクスおよび他の領域において使用されており、機械学習およびデータマイニング研究における使用が増えている。バイオマーカーにおいて、潜在的なバイオマーカーが臨床的妥当性を有するか否か、つまり、それが予測の目的に使用することができるか否かについての研究を研究するために使用することができる。成功した診断検査またはバイオマーカーは、対角線の上で曲がるカーブをもたらし、不成功の検査は対角線に似ているか、またはその下に落ちこむ。したがって、ROCカーブは診断検査が成功しているか否かについての情報を提供する。
【0051】
活性化NKT細胞についてのヴェルム患者におけるROCカーブが確立された(図1)。カーブの下の領域は0.71と決定され、それはバイオマーカーの信頼性の明確な指標となる。検査の読み出し情報についての最適カットオフ値を決定するために使用することができるヨーデン指標は、カットオフの最適が3.08%活性化NKT細胞であることを示している。図2は感度および特異度に対する活性化NKT細胞を示す図である。
【0052】
そして、すべての患者を活性化NKT細胞のレベルに応じてグループに分類した。カットオフ値3.08%活性化NKT細胞を超える細胞レベルを有する患者は、バイオマーカー陽性に指定し、そのカットオフ値より低いレベルを有する患者はバイオマーカー陰性とラベルした。
【0053】
図3aは、バイオマーカー陽性患者におけるヴェルムおよびプラセボについてのカプラン−マイヤープロットを示す図である(実線:MGN1703により治療した患者;点線:プラセボにより治療した患者)。バイオマーカー陽性群内における生存確率は、驚くべきことにTLR−9アゴニストの適用と関連していることは明らかである。
【0054】
図3bは、バイオマーカー陰性患者におけるヴェルムおよびプラセボ治療群の両方についてのカプラン−マイヤーカーブを示す図である。バイオマーカー陽性ヴェルム患者と比較して、このヴェルム群内における無進行生存の時間がはっきりと短いことは明らかである(図3aとの比較)。
【0055】
図4は、ヴェルム治療群のみからのバイオマーカー陽性患者対バイオマーカー陰性患者のカプラン−マイヤープロットを示す図である(実線:バイオマーカー陽性患者;点線:バイオマーカー陰性患者)。バイオマーカー陽性患者は、バイオマーカー陰性患者と比較すると、両方の群はヴェルム治療MGN1703を受けた時であっても、生存確率において有意に利点があることは明白である。
【0056】
図4bは、バイオマーカー陽性および陰性患者についてのプラセボ群のカプラン−マイヤープロットを示す図である(実線:バイオマーカー陽性患者;点線:バイオマーカー陰性患者)。両方の群は、プラセボによる治療のみであるため、おおよそ同一の無進行生存を示している。患者がTLR−9アゴニストについての治療の応答者であるか否かを評価するために、バイオマーカーが適切であることは明白である。さらに、プラセボ群は、患者の全般的な健康状態により引き起こされた影響にバイオマーカーが関連していないことを示している。
【0057】
本発明はTLR−9アゴニスト、特には非メチル化CGモチーフを有する二本鎖ステム一本鎖末端ループを持つ共有結合的に閉じた部分的に自己相補的なDNA鎖によるがん治療の応答者のための新しい予測的バイオマーカーを提供する。ベースラインでの活性化NKT細胞(CD3+/CD56+/Cd69+)の頻度の決定により、患者がDNAコンストラクトによる治療に対して応答者であるか否かの蓋然性を評価することができる。重要なことに、プラセボ治療群において、応答者様特性を有する患者は、非応答者の振る舞いと同じように振る舞っているが、これはバイオマーカー陽性ヴェルム患者の長期の無進行生存時間は、実際には、選択した治療についてのバイオマーカーの適用性によるものであり、単に全般的な健康または任意の非特異的効果によるものではないことを示している。
【0058】
材料と方法
【0059】
サンプルの取り扱い
【0060】
FACSのための全血(10mL)をStreck Cyto−Chex(登録商標)BCTチューブ内に採集した。サンプリングの2時間以内に、血液サンプルは解析研究室に輸送した。確立されたプロトコールに従って、サンプルは室温に保存した。形質細胞様樹状細胞(pDC)、骨髄樹状細胞(mDC)、単核球、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞、B細胞、T細胞および他の細胞集団の頻度と活性化状態が評価された。
【0061】
解析方法
【0062】
蛍光標識細胞分取(FACS)を確立した原理に従って実行した。全血サンプルを蛍光標識抗体により染色し、インキュベートした。免疫細胞の表現型解析をFACScalibur(Becton Dickinson)フローサイトメータを用い実行した。各々の患者のサンプルについて、解析したそれぞれの細胞集団の頻度を文書化した。
【0063】
特定の細胞集団の活性化についてのヒトPBMCの解析
【0064】
形質細胞様樹状細胞(pDC)のCD40発現
【0065】
細胞は以下のモノクローナル抗体の組合せにより染色した:抗系列マーカー−FITC、(CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56に対して指向された抗体を含む抗体カクテル);抗CD123−PE;抗HLA−DR−PerCP;抗CD40−APC;PDCは、系列陰性、HLA−DR陽性、CD123陽性細胞としてゲートをかけた。PDC集団内において、CD40を活性化マーカーとして使用した。
【0066】
活性化マーカーCD69を用いたNK−、NK−TおよびT細胞の活性化
【0067】
細胞は以下のモノクローナル抗体の組合せにより染色した:抗CD3−FITC;抗CD56−PE;抗CD69−APC。
【0068】
NK細胞は、CD3陰性、CD56陽性細胞としてゲートをかけた。
【0069】
NK−T細胞は、CD3陽性、CD56陽性細胞としてゲートをかけた。
【0070】
T細胞は、CD3陽性、CD56陰性細胞としてゲートをかけた。
【0071】
すべての3集団について、CD69を活性化マーカーとして使用した。
【0072】
骨髄樹状細胞(MDC)のCD86発現:
【0073】
細胞は以下のモノクローナル抗体の組合せにより染色した:抗系列 マーカー−FITC、(CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56に対して指向された抗体を含む抗体カクテル);抗CD11c−PE;抗HLA−DR−PerCP;抗CD86−APC。
【0074】
MDCは、系列陰性、HLA−DR陽性、CD11c陽性細胞としてゲートをかけた。
【0075】
MDC集団内において、CD86を活性化マーカーとして使用した。
【0076】
B細胞および単核球のCD86発現;単核球のCD169発現
【0077】
細胞は以下のモノクローナル抗体の組合せにより染色した:抗CD14−FITC;抗CD169−PE;抗CD19−PerCP;抗CD86−APC。
【0078】
B細胞はCD19陽性細胞としてゲートをかけた。B細胞集団内において、CD86を活性化マーカーとして使用した。
【0079】
単核球はCD14陽性細胞としてゲートをかけた。単核球集団内において、CD86およびCD169を活性化マーカーとして使用した。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b