特許第6441336号(P6441336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6441336生物試料、化学試料又はその他の試料の電圧及び電位を測定するための装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441336
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】生物試料、化学試料又はその他の試料の電圧及び電位を測定するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20181210BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   G01N27/414 301V
   G01N27/414 301X
   H01L29/78 625
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-528112(P2016-528112)
(86)(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公表番号】特表2016-539327(P2016-539327A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】DE2014000515
(87)【国際公開番号】WO2015067231
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2017年8月24日
(31)【優先権主張番号】102013018850.4
(32)【優先日】2013年11月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】ヴィトゥセヴィッチ・スヴェトラナ
(72)【発明者】
【氏名】リー・ジン
(72)【発明者】
【氏名】プド・ザーギー
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−278281(JP,A)
【文献】 特開2011−085557(JP,A)
【文献】 特開2012−060016(JP,A)
【文献】 特開2010−226037(JP,A)
【文献】 特開2010−103855(JP,A)
【文献】 特開2008−166607(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/103872(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/025429(WO,A2)
【文献】 Fei Liu et al.,Determination of the small band gap of carbon nanotubes using the ambipolar random telegraph signal,NANO LETTERS,2005年,Vol5,No.7, p.1333-1336
【文献】 NENG-PING WANG et al.,Effects of defects near source or drain contacts of carbon nanotube transistors,EPL,2012年,Vol.100,p.47009-p1−47009-p5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
H01L 29/786
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の電圧及び電位を測定することによって、当該試料の化学的又は生物学的な特性を測定するための装置であって、当該装置は、ソースとドレインと前記試料に接触していて且つゲート誘電体によって電界効果トランジスタの導通チャネルから絶縁されているゲートとを有する少なくとも1つの電界効果トランジスタと、電圧をソースとドレインとの間に印加するための手段と、バイアス電圧を前記ゲートに印加するための手段とを備える当該装置において、
前記ゲート誘電体は、その内部に少なくとも1つの蓄積箇所を有し、前記蓄積箇所は、電荷キャリアを前記チャネルから捕獲すること、及びこれとは反対に前記チャネルへ放出することを可能にすることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記蓄積箇所は、前記ゲート誘電体内の1つの局所欠陥であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記欠陥は、
・前記ゲート誘電体の化合物要素の局所の空乏部分及び/又は欠陥箇所によって、又は酸素の局所の空乏部分及び/又は欠陥箇所によって、及び/又は
・テンパー処理によって、及び/又は
・異なる誘電体材料の組み合わせによって、及び/又は
・前記チャネルと別の材料との間の機械的ストレス若しくはその他の表面状態によって、及び/又は
・イオン化放射線若しくは電子放射線による前記ゲート誘電体の局所的な破損によって、及び/又は
・前記ゲート誘電体内への異種イオンの注入によって、及び/又は
・機械的な圧縮応力及び/又は引張応力によって、及び/又は
・前記電界効果トランジスタの一時的な過負荷時の、前記チャネルから前記ゲート誘電体内への熱い電荷キャリアの注入によって、
前記ゲート誘電体の内部に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記蓄積箇所は、前記電界効果トランジスタの導通チャネルから最大でも2nm離間されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記装置は、前記蓄積箇所から発生するドレイン電流の統計学的な複数のステップ状の変動から、前記蓄積箇所に由来する電荷キャリアの捕獲のための時定数及び/又は放出のための時定数を評価するための手段を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記装置は、前記ドレイン電流の時間経過中の異なる長さの複数の山及び/又は複数の谷の頻度分布を評価するための手段を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記装置は、前記ドレイン電流の周波数スペクトルを評価するための手段を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記試料は、少なくとも1つのデカルト空間次元の方向に20〜500nm、又は20〜100nmの寸法を有する1つの面で前記電界効果トランジスタのゲートに接触していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
試料の電圧及び電位を測定することによって、当該試料の化学的又は生物学的な特性を測定するための方法であって、前記試料が、電界効果トランジスタのゲートに接触していて、電圧が、この電界効果トランジスタのソースとドレインとの間に印加され、ソースとドレインとの間で通電される電流中の統計学的なステップ状の変動が評価され、前記変動は、試料と前記電界効果トランジスタの導通チャネルとの間に配置された蓄積箇所から出力され、この蓄積箇所は、電荷キャリアを前記チャネルから捕獲し、反対に前記チャネルへ放出する当該方法において、
前記電圧又は前記電位は、前記蓄積箇所による電荷キャリアの捕獲のための時定数及び/又は放出のための時定数から評価されることを特徴とする方法。
【請求項10】
少なくとも1つの時定数が、ドレイン電流中の異なる長さの複数の山及び/又は複数の谷の頻度分布から評価されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの時定数が、ドレイン電流中の周波数スペクトルから評価されることを特徴とする請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記試料のpH値が、前記蓄積箇所による電荷キャリアの捕獲のための時定数τからか又はドレイン電流の周波数スペクトルに由来する臨界周波数fから評価される請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物試料、化学試料又はその他の試料の電圧及び電位を測定するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物試料の多くの特性は、複数の電荷の、受け取り、放出又は空間的な再構成に関連していて、それ故に、測定装置に近づけたときにこれらの電荷を誘起する電位の変化を通じて間接的に且つ不可逆的に測定され得る。このような種類の測定装置は、多くの場合に電界効果トランジスタを有する。当該電界効果トランジスタのゲートが、当該試料に接触している。当該試料は、当該ゲートの電位を変化させ、したがって、予め設定されているドレイン・ソース電圧のときに当該トランジスタによって通電される電流を変調する。このような測定の信号は、生物試料、化学試料及びその他の試料の低い電圧及び電位を検査するためには小さすぎることが欠点である。
【0003】
カーボンナノチューブを電界効果トランジスタとして使用する測定装置が、S. Sorgenfrei, C. Chiu, M. Johnston, C. Nuckolls, K. L. Shepard, “Debye Screening in Single−Molecule Carbon Nanotube Field−Effect Sensors”, Nano Letters 2011(11), 3739−3743 (2011)から公知である。当該ナノチューブは、生物分子を欠陥箇所によって蓄積させるように機能する。この欠陥箇所への生物分子の結合と、この欠陥箇所からのこの生物分子の離脱とは、当該ナノチューブに通電する電流中にツー・レベル・テレグラフノイズ(Zwei−Niveau−Telegrafenrauschen)を発生させる。当該結合及び離脱の動特性が、このツー・レベル・テレグラフノイズによって解析され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102010021078号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Sorgenfrei, C. Chiu, M. Johnston, C. Nuckolls, K. L. Shepard, “Debye Screening in Single−Molecule Carbon Nanotube Field−Effect Sensors”, Nano Letters 2011(11), 3739−3743 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、欠陥箇所に対する当該結合及び離脱の動特性とは違う、電位の変化を引き起こすことを可能にする試料の別の特性の測定を、これまでの従来の技術によるものよりも定量的に良好な精度で可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のこの課題は、独立請求項に記載の装置と、さらなる請求項に記載の方法とによって解決される。その他の好適な構成は、これらの請求項を引用する従属請求項に記載されている。
【0008】
試料の、低い電圧及び電位又はその他の電気変数を測定するための装置が、本発明の範囲内で開発された。この装置は、ソースとドレインと当該試料に接触していて且つゲート誘電体によって電界効果トランジスタの導電性チャネルから絶縁されているゲートとを有する当該少なくとも1つの電界効果トランジスタと、電圧をソースとドレインとの間に印加するための手段と、バイアス電圧を当該ゲートに印加するための手段とを備える。
【0009】
本発明によれば、当該ゲート誘電体は、その内部に少なくとも1つの蓄積箇所を有する。当該蓄積箇所は、電荷キャリアを当該チャネルから捕獲すること、及びこれとは反対に当該チャネルへ放出することを可能にする。
【0010】
このような蓄積箇所が、電荷キャリアを当該チャネルに持続して統計学的に入れ替えることによって、当該蓄積箇所は、当該チャネル、すなわち当該トランジスタに通電する電流を、2つのレベル間の統計学的なステップ状の変動に重畳させる。これらのレベルは、当該蓄積箇所が電荷キャリアで占有されているか又は占有されていないという起こり得る2つの状態に相当する。このような変動は、半導体技術において通常は望ましくないので、当該変動を最小限に減らすための努力がなされる。当該変動の経時変化が、電信線上のモールス信号の経時変化に似ているので、用語「テレグラフノイズ」(radom telegraph noise)が、当該変動に対して一般に使用されている。
【0011】
どのくらい当該蓄積箇所の場所の電位が、フェルミレベルと関係があるかに、電荷キャリアの当該入れ替えに対する確率が、非常に敏感に依存することが分かっている。1つの生物分子が近づくことによって、電位が僅かに変化するだけで、これらの確率は劇的に変化する。このことは、当該変動の特性変数、特に当該蓄積箇所による電荷キャリアの捕獲及び/又は放出に対する時定数によって明確になる。これらの時定数はそれぞれ、当該2つの電流レベルのそれぞれの電流レベルが存在する期間に相当する。その生物分子が、ゲートに結合する前に、又は、その生物分子が、ゲートに触れるだけでも、明確な1つの信号が既に測定可能である。この場合、このゲートは、通常は金属で被覆されていない。当該試料が、当該ゲート誘電体に直接に接触される。オプションとして、このゲート誘電体は、数カ所で、追加の分子によって、対象となる試料分子を結合するために、より機能的にされてもよい。
【0012】
当該変動によって引き起こされた有効信号を、以下でテレグラフ変調信号と記す。この有効信号は、複数の離散電流レベル間の急峻なステップ状の遷移から成る。この場合、これらの遷移の時点がそれぞれ、統計学的に分散されている。
【0013】
これまでの従来の技術とは違って、当該テレグラフ変調信号は、試料が測定装置と相互作用する場所で生成されるのではなくて、当該ゲート誘電体の内部で生成される。当該蓄積箇所が、試料と直接に接触しない。それ故に、当該テレグラフ変調信号の特性が変化する場合、当該特性の変化は、試料によって引き起こされた電位の変化だけに起因し、当該試料のその他の特性によって影響を受けない。したがって、異なる複数の試料の連続する測定が、定量的に互いに比較可能である。
【0014】
従来の技術に比べてより強い信号の理由は、一方では、当該テレグラフ変調信号の2つのレベルが、より大きいエネルギーギャップによって互いに分離されている点である。当該従来の技術によれば、2つの状態の差は、生物分子がナノチューブ内の欠陥箇所に結合する結合エネルギーだけの差にすぎない。本発明にしたがって使用されるゲート誘電体内の欠陥箇所と当該チャネルとの間で電荷を入れ替えるためには、明らかにより大きいエネルギー量(クーロンエネルギー)が必要である。他方では、当該蓄積箇所が、当該チャネルの近くに位置することによって、これらの2つのレベル間の差は、当該トランジスタに通電する電流により強く作用する。これに対して、従来の技術によるナノチューブでの生物分子の蓄積は、チャネルに対する鏡像電荷効果だけによってもたらされ、それ故に当該電流に明らかにより弱く作用する。
【0015】
当該装置を電位の特定の測定範囲に対して非常に敏感にするため、当該蓄積箇所の作用は、様々な態様に適合され得る。このため、例えば遮蔽効果が、当該ゲート誘電体の材料の内部で使用され得る。当該蓄積箇所と当該チャネルとの間で電荷を入れ替えるために必要であるエネルギー量と、この電荷の入れ替えのための断面積とが、特に当該ゲート誘電体の内部の蓄積箇所の位置によって予め設定され得る。同時に、当該フェルミレベルが、当該ゲートのバイアス電圧によって広いレンジでシフトされ得る。当該ゲート誘電体が、好ましくは複数の蓄積箇所を有し得る。これらの蓄積箇所の、電荷の入れ替えのためのエネルギー量が異なる。その結果、複数の測定が、複数の測定範囲内で同時に実行され得る。しかしながら、当該複数の信号値が、依然として確実に互いに識別され得るように、5つより多い欠陥箇所が、同時に活性化されるべきではない。
【0016】
本発明の特に好適な構成では、蓄積箇所は、当該ゲート誘電体内の1つの局所欠陥である。この局所欠陥は、特に好ましくは
・当該ゲート誘電体の化合物要素の局所の空乏部分及び/又は欠陥箇所によって、特に酸素の局所の空乏部分及び/又は欠陥箇所によって、及び/又は
・テンパー処理によって、及び/又は
・異なる誘電体材料の組み合わせ、例えば、二酸化ケイ素/Ta、SiO/Al又はSiO/高k誘電体等によって、
・当該チャネルと別の材料との間、例えばSiとSi1−xGeとの間の機械的ストレス若しくはその他の表面状態によって、
・イオン化放射線若しくは電子放射線による当該ゲート誘電体の局所的な破損によって、及び/又は
・当該ゲート誘電体内への異種イオンの注入によって、及び/又は
・機械的な圧縮応力及び/若しくは引張応力によって、並びに/又は
・当該電界効果トランジスタの一時的な過負荷時の、当該キャリアから当該ゲート誘電体内への熱い電荷キャリアの注入によって、
当該ゲート誘電体の内部に形成され得る。
【0017】
異なる複数の材料の積層時に、異なる複数の格子定数及び機械的張力に起因して、相互拡散が、当該2つの誘電体層間で発生する。不純物も、異なる2つの誘電体層間で入れ替えされ得る。誘電体に対するこの影響及びその他の影響は、一般用語「誘電体工学」と呼ばれる。
【0018】
表面の状態としての機械的張力が、例えば、2つの材料の格子定数の差によって発生し得るか、又は基板の歪み自体によっても提供され得る。
【0019】
当該チャネルに通電する電流に対する当該蓄積箇所の電荷の入れ替えの処置を強化するため、好ましくは、当該蓄積箇所は、当該電界効果トランジスタの導通チャネルから最大でも2nmしか離間されていない。このことは、当該トランジスタに通電する電流に対する欠陥のテレグラフノイズの影響が最小限に減らされなければならない、電界効果トランジスタの従来の設計目的と矛盾する。
【0020】
本発明の特に好適な構成では、当該装置は、当該蓄積箇所から発生するドレイン電流の統計学的な複数のステップ状の変動(テレグラフ変調信号)から、当該蓄積箇所に由来する電荷キャリアの捕獲のための時定数τ及び/又は放出のための時定数τを評価するための手段を有する。τによって決まるただ1つの未知数が、測定すべき電位又は測定すべき電圧である。これに対して、τは、当該電位又は当該電圧によって決まるのではなくて、温度だけによってほぼ決まる。当該統計が改良されることによって、これらの時定数が測定可能である精度は、測定時間が増大すると共に向上する。
【0021】
当該時定数を統計学的に評価するためには、当該装置が、ドレイン電流の時間経過中の異なる長さの複数の山及び/又は複数の谷の頻度分布を評価するための手段を有することが特に有益である。このとき、様々な方法が、当該時定数(例えば、平均値及び中央値)を最終的に算出するために提供されるだけではなくて、当該分布の形及び広がりが、こうして算出された値の信頼性及び品質に関する情報をさらに提供する。当該頻度分布は、理想的にはローレンツ分布である。
【0022】
好ましくは、当該装置は、ドレイン電流の周波数スペクトルを評価するための手段を有する。臨界周波数fが、この周波数スペクトルから算出され得る。当該テレグラフ変調信号が、当該テレグラフ変調信号は、この臨界周波数fで正確に伝送される。この臨界周波数fは、
【0023】
【数1】
を通じて当該2つの時定数τ及びτに結びついている。τ<<τの場合、方程式(1)では、fに対するτの寄与度が無視され得、近似的に
【0024】
【数2】
が成立する。τは、多くの用途で対象となる、例えば試料のpH値に非常に強く依存する測定変数である。
【0025】
τが、τに対して非常に小さくない場合は、fに対するτの寄与度が考慮される必要がある。この寄与度は、温度とゲート電圧との双方に依存する。それ故に、当該測定は、τ<<τ、特にτ<0.1*τが成立する温度及び/又はゲート電圧のときに有益に実行される。
【0026】
臨界周波数fの当該近似的な算定に対しては、完全な周波数スペクトルのほかに、時間経過の測定も十分に実行される。引き続き、周波数成分が、当該時間経過の測定から取り出される。τは、温度だけによってほぼ決まり、さもなければ一定であるので、十分に一定の温度の場合は、ゲートのバイアス電圧が僅かに異なるときでも、fの測定は、τ、すなわち検査される電位又は検査される電圧を得るのに十分である。
【0027】
好ましくは、ただ1つか又は幾つかの当該蓄積箇所が、当該ゲート誘電体の内部に形成されることによって、当該測定装置と当該試料との接触によって影響を受ける当該蓄積箇所の数が制御され得る。このため、例えば、少なくとも1つであるが、あまり多くない数の蓄積箇所が、高い確率で当該ゲート誘電体内に存在するように、当該電界効果トランジスタの空間寸法が、大幅に小型化され得る。各蓄積箇所が、その特徴的な時定数をほぼ明確に提供する。複数の情報が取得される必要がある場合、まず、より多くの当該情報が、同時に伝達され得る。これに対して、情報数が限界を超えると、当該情報は、もはや互いに識別することができず、もはや情報は全く伝達されない。
【0028】
当該試料が、少なくとも1つのデカルト空間次元の方向に20〜500nm、好ましくは20〜100nmの寸法を有する1つの面で当該電界効果トランジスタのゲートに接触することによって、当該トランジスタの小型化又はこのトランジスタの製造時の当該複数の蓄積箇所の制御の代わりに又はそれと組み合わせて、これらの蓄積箇所の数が制限され得る。当該装置が、信号を提供し得るように、少なくとも1つの蓄積箇所が、この範囲内で高い確率で当該試料によって影響を受ける。しかし、あまり多くない数の蓄積箇所も、高い確率で影響を受ける。その結果、異なる複数の蓄積箇所の複数の信号寄与度が、依然として互いに識別可能である。特に好ましくは、この面は、2つのデカルト空間次元の方向に20〜500nm、特に好ましくは20〜100nmの寸法を有する。
【0029】
液体の試料の場合、当該ゲートが覆われていて、特定の面だけが当該試料の接触のために露出されていることによって、当該試料がゲートに接触する当該面は制限され得る。一定の試料の場合は、対応する少ない試料が設けられることによって、当該面は制限され得る。
【0030】
個々の分子、例えばDNAが、本発明の装置によって、例えば液体内で検出され得る。信頼できる測定が、数マイクロ秒しか持続しないものの、動的な測定、例えば、タンパク質のフォールディング、酵素による反応の触媒作用又はDNAのハイブリッド化も、リアルタイムで解析され得る。
【0031】
トランジスタに通電する電流の測定に関しては、独国特許出願公開第102010021078号明細書に記載されていて、特許請求の範囲に規定されている低雑音増幅器が得に適している。
【0032】
当該装置に対して記載されている全ての内容は、以下に記載されている方法に対しても明らかに成立する。反対に、当該方法に対して記載されている全ての内容は、当該装置に対しても明らかに成立する。
【0033】
試料の、低い電圧及び電位又はその他の電気変数を測定するための方法が、本発明の範囲内で開発された。この場合、当該試料が、電界効果トランジスタのゲートに接触している。電圧が、この電界効果トランジスタのソースとドレインとの間に印加される。ソースとドレインとの間で通電される電流中の統計学的なステップ状の変動(テレグラフ変調信号)が評価される。当該電流は、試料と当該電界効果トランジスタの導通チャネルとの間に配置された蓄積箇所から出力される。この蓄積箇所は、電荷キャリアを当該チャネルから捕獲し、反対に当該チャネルへ放出する。
【0034】
本発明によれば、当該電圧又は当該電位が、当該蓄積箇所による電荷キャリアの捕獲のための時定数及び/又は放出のための時定数から評価される。
【0035】
トランジスタに通電される電流の従来の平均化の場合、当該信号中に含まれる情報の大部分が取得されなかったことが分かっている。当該信号の時間経過は、複数の山と複数の谷との双方を有する。当該検査される電位又は当該検査される電圧に関する情報が、当該山と当該谷とから取得され得る。平均化が、全ての時間経過にわたって実行されると、これらの山及び谷のほとんどが、互いに相殺される。このことは、従来では望ましいものでもあった。本発明者は、これらの山及び谷が従来の常識とは違って無用ではないことを初めて認識した。各山及び各谷は、1つの統計値である。この統計値は、時定数τ及びτを測定するために寄与し、したがって当該測定の精度を改良する。すなわち、時定数τによって決まる当該検査される電位又は当該検査される電圧が、より正確に測定可能である。したがって、所定の測定時間の場合、より多くの情報が利用される。反対に、既定の精度が、より短い期間に達成され得る。
【0036】
この評価のために、好ましくは、少なくとも1つの時定数が、当該ドレイン電流中の異なる長さの複数の山及び/又は複数の谷の頻度分布から評価される。この代わりに又はこれと組み合わせて、少なくとも1つの時定数が、当該ドレイン電流の周波数成分から評価される。
【0037】
一般に、当該測定される電位又は当該測定される電圧自体は、目的ではなくて、複数の電荷の、受け取り、放出又は空間的な再構成中に現れる試料の化学的又は生物学的な特性に対する目安である。当該電位又は当該電圧が、本発明にしたがってより速く且つより正確に測定され得ることによって、最終的に検査される変数の測定も改良される。
【0038】
本発明の特に好適な構成では、当該試料のpH値が、当該蓄積箇所による電荷キャリアの捕獲のための時定数τからか又は当該ドレイン電流の周波数スペクトルに由来する臨界周波数fから評価される。当該pH値は、どのくらいの水素イオンが当該電界効果トランジスタのゲートに蓄積し、そこでの電位の変化に寄与するかに直接に関連付けられている。したがって、当該pH値は、この電位に直接に関連付けられていて、例えば当該電位に対する測定値から評価され得る。したがって、当該pH値は、当該試料の電気変数である。当該pH値が、具体的な使用状況で対象となる試料に固有の特性である場合、1つの測定値を各時定数τ又は各臨界周波数fに正確に割り当てる直接の測定が、特定のpH値を有する試験サンプルに基づいて実行され得る。当該pH値は、このような測定に基づいて、電圧又は電位を介在させることなしに、τ又はfから直接に評価され得る。
【0039】
以下に、本発明の対象を図面に基づいて、本発明の対象がこれによって限定されることなしに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1a】本発明の装置の実施の形態を断面図で示す。
図1b】チャネルに通電する電流の経時変化を示す。
図2】本発明の装置の実施の形態としてのナノワイヤ電界効果トランジスタの走査型電子顕微鏡写真を示す。
図3】試料のpH値が、ゲート電圧Vに対するドレイン電流Iの関数依存性に与える影響を示す。
図4】試料のpH値が、テレグラフ変調信号の臨界周波数fに与える影響を示す。
図5】テレグラフ変調信号(上の曲線)の時定数τに対するpH値の感度と、ドレイン電流I(下の曲線)に対するpH値の感度との比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1aは、本発明の実施の形態を断面図で示す。高濃度にドープ注入された半導電性領域2a及び2bが、基板13上に存在する。半導電性領域2a及び2bは、金属接点1a及び1bを介して外部に接触されている。半導電性チャネル7が、領域2aと領域2bとの間に存在する。半導電性チャネル7は、領域2a及び2bよりも明らかに強くドープされている。接点1aは、アース10に接続されていて、接点1bは、ドレイン・ソース電圧VDS用の電圧源11に接続されている。この回路では、領域2aは、ソースとして機能し、領域2bは、ドレインとして機能する。ナノチャネル7によって移送され、ここでは塗りつぶされた円として示された電荷キャリア6は、正孔である。当該正孔の流れ方向が、ナノチャネル7内に示された矢印によって示されている。
【0042】
ナノチャネル7及び領域2a及び2bの一部が、ゲート誘電体3で覆われている。同時に、ゲート誘電体3は、試料液8用のリザーバ4の電気絶縁基体を形成する。リザーバ4は、試料液8を接点1a及び1bから絶縁する。試料液8の電位が、参照電極9によって電圧Vに設定され得る。試料液8は、解析すべき分子12を含む。
【0043】
ゲート誘電体3は、ナノチャネル7との境界面の近くのその内部に点欠陥5を有する。点欠陥5は、電荷キャリア6(正孔)をナノチャネル7と交換し得る。点欠陥5は、任意の時点で正孔6によって占有されるか又は占有されない。このことは、拡大して図示されている。
【0044】
当該点欠陥が、電荷キャリア6(正孔)によって荷電されていないときは、当該点欠陥は、負に荷電されている。局所の空乏領域が、当該欠陥の近くの当該チャネル内に発生し、正孔が、当該空乏領域内に蓄積する。当該空乏領域は、当該チャネルによる電流の通電にもはや寄与しない。
【0045】
点欠陥5が、電荷キャリア6(正孔)で占有されているときは、点欠陥5は、電荷的に中性になる。この場合には、当該局所の空乏領域が、当該点欠陥の近くの電荷キャリアによって消滅し、当該チャネルによる電流の通電が、もはや妨害されない。それ故に、当該点欠陥が占有されていないときよりも大きい電流が、当該ナノチャネルに通電する。点欠陥5が、統計学的な時間シーケンスで2つの状態の「占有」と「非占有」との間で入れ替わることによって、2つのレベル間の統計学的なステップ状の変動が、ナノチャネル7に通電する電流に変調される。
【0046】
解析すべき複数の分子12のうちの1つの分子が、ゲート誘電体3の表面に蓄積すると、このことは、2つの効果を奏する。
・ナノチャネル7に通電する電流が、その分子12による静電気的な影響に起因して一定のオフセットΔIだけ変化する。
・点欠陥5によって1つの正孔6を捕獲するための時定数τが(非常に大きく)変化し、この正孔6をナノチャネル7に戻すためのτが、(明らかにより小さく)変化する。例えば、試料分子12によって変化したゲート電位、試料液8中の分子12の濃度、又は試料液8のpH値が、当該複数の時定数の差によって測定され得る。
【0047】
基板13は、例えば、ドープされていない半導体、酸化層を不活性化処理した半導体(例えばSOI基板)、又は誘電体基板でもよい。
【0048】
図1bは、ゲート誘電体3の表面に蓄積された試料分子12を有しないとき(領域A)と有するとき(領域B)との、当該チャネルに通電する電流の経時変化を示す。当該電流は、2つのレベル間で統計学的に変動する。当該2つのレベルは、「点欠陥5が占有されている」と「点欠陥5が空である」との2つの状態に相当する。
【0049】
この場合、点欠陥5が、正孔で占有されているときに、より大きい電流の状態が存在する。この状態が持続する平均期間は、時定数τである。この状態が存在する個々の位相の期間は、平均値τを中心としたローレンツ分布で分布する。
【0050】
点欠陥5が、空であるときに、この状態が持続する平均値は、時定数τである。この状態が存在する個々の位相の期間は、平均値τを中心としたローレンツ分布で分布する。
【0051】
試料分子12の当該結合後に、オフセットΔIだけの電流のシフトと、時定数τ及び時定数τの変化との双方が、明瞭に見て取れる。
【0052】
図2は、本発明の装置の実施の形態を示す。この図は、p−p−p型シリコンナノワイヤ電界効果トランジスタの走査型電子顕微鏡写真である。ソースSからドレインDに向かって延在するナノワイヤNは、500nmの長さ、100nmの幅及び50nmの厚さである。ナノワイヤNは、通常は−0.1Vのドレイン・ソース電圧及び−0.9Vのゲート・バイアス電圧で導通される。当該トランジスタは、測定時に9nmの厚さのSiOの不活性層によって活性試料から保護される。当該トランジスタの特性長を例えば20nmにさらに短くした場合、本発明者は、その感度の数倍程度のさらなる向上を予測している。ナノスケールのトランジスタを製造するためには、ナノインプリント法が特に有益であると、本発明者の実験が実証している。
【0053】
図3は、参照電極9によって印加されたゲート電圧Vに対するドレイン電流Iの変化を、試料液8の異なる複数のpH値に対して示す。左側の曲線族に対しては、当該電流は、直線的にプロットされていて(左側の目盛)、右側の曲線族に対しては、当該電流は、対数的にプロットされている(右側の目盛)。従来の技術によれば、当該pH値は、これらの電流変化から評価されていた。当該pH値は、5.5〜8.5の広い範囲にわたって分布するものの、その電流変化は、専ら小さく変化する。それ故に、従来の技術による測定方法は、比較的鈍感である。
【0054】
図4は、本発明の装置によって実行された本発明の方法の実施の形態を示す。図3の試料液のpH値と同じpH値ごとに、ドレイン電流の周波数スペクトルから算出された臨界周波数fが、当該pH値の関数としてプロットされている。第一に、当該pH値の変化が、臨界周波数fを、図3に示された電流変化よりも明らかに大きく変化させることが分かった。
【0055】
当該ドレイン電流の周波数スペクトルが、複数回、例えば、少なくとも10回、好ましくは少なくとも50回、特に好ましくは少なくとも100回記録され、当該個々の測定が、平均化によってそのスペクトルに対する1つの最終結果に統合されることによって、個の変化が、さらに明らかに解明され得る。τが、当該試料液のpH値によって決まらないので、fに対する当該pH値の影響は、純粋に統計学的であり、当該平均化に算入される個々の測定回数が多いほど減少する。図4に示された例では、τは、τと同じ大きさである。
【0056】
当該臨界周波数fが、当該試料液のpH値の変化に起因して変化され得る周波数範囲内だけで、スペクトルが記録されることによって、当該平均化に伴う測定時間の増大が相殺され得る。
【0057】
図5は、別の実施の形態において、液体試料のpH値を測定するための本発明の方法の感度(曲線A、塗りつぶされた正方形によって表示された複数の測定点)を、ドレイン電流の時間平均値だけで評価された従来の技術による方法の感度(曲線B、塗りつぶされていない円によって表示された複数の測定点)と比較している。
【0058】
当該試料のpH値が、5.5から開始して0.5のステップごとに8.5までプロットされてある。本発明の方法では、電荷キャリア6をチャネル7から点欠陥5内へ捕獲するための複数の時定数τがそれぞれ測定されてある。従来の技術による方法では、図3と同様に、ドレイン電流の時間平均値Iがそれぞれ測定されてある。最小のpH値と最大のpH値との信号の差は、従来の技術による方法では1.95である一方で、本発明の方法では7である。したがって、当該感度は、従来の技術に比べて約3.5倍程度改良されている。
【0059】
当該pH値は、どのくらいの水素イオンが当該電界効果トランジスタのゲート誘電体3に蓄積し、そこでの電位の変化に寄与するかに直接に関連付けられている。このことは、ドレイン電流と、点欠陥5によって引き起こされる変動との双方に作用する。
【符号の説明】
【0060】
1a 金属接点
1b 金属接点
2a 高濃度にドープ注入された半導電性領域
2b 高濃度にドープ注入された半導電性領域
3 ゲート誘電体
4 リザーバ
5 点欠陥
6 電荷キャリア、正孔
7 ナノチャネル、半導電性チャネル
8 試料液
9 参照電極
10 アース
11 電圧源
12 解析すべき分子、試料分子
13 基板
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5