特許第6441351号(P6441351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441351
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】クロムを含有する粉末又は粉末顆粒
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20181210BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20181210BHJP
   B22F 9/20 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   B22F1/00 R
   C22C27/06
   B22F9/20 Z
【請求項の数】22
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-537045(P2016-537045)
(86)(22)【出願日】2014年8月19日
(65)【公表番号】特表2016-534228(P2016-534228A)
(43)【公表日】2016年11月4日
(86)【国際出願番号】AT2014000159
(87)【国際公開番号】WO2015027255
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年5月17日
(31)【優先権主張番号】GM281/2013
(32)【優先日】2013年9月2日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】オサリバン、ミヒァエル
(72)【発明者】
【氏名】シグル、ローレンツ
(72)【発明者】
【氏名】ホスプ、トーマス
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−517215(JP,A)
【文献】 特開平07−179901(JP,A)
【文献】 特開平08−188844(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0129557(US,A1)
【文献】 特開2010−219045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00−9/30
C22C1/04−1/05
C22C27/06
C22C33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体組成として80質量%(Ma%)を超えるクロム、2〜20質量%の鉄、0〜5質量%のドーパント、及び、0〜2質量%の酸素を含有する複数の粒子からなる粉末又は粉末顆粒であって、95質量%を超えるクロム含有量を有しクロム含有粒子を形成するクロム豊富な領域を少なくとも部分的に有する粉末又は粉末顆粒において、該クロム含有粒子が、少なくとも部分的に、細孔を有することを特徴とする粉末又は粉末顆粒。
【請求項2】
前記クロム含有粒子が、ASMハンドブックによる分類に従って、少なくとも部分的に、多孔状と分類されることを特徴とする請求項1に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項3】
前記クロム含有粒子が、定量的画像解析法による測定で20体積%を超える平均空隙率を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項4】
前記クロム含有粒子が、レーザー回折法による測定で20μmを超える粒径d50を有し、BET法による測定で0.05m/gを超える表面積を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項5】
前記細孔が、少なくとも領域により、開孔であるか架橋されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項6】
前記粉末又は粉末顆粒が、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つのドーパント0.005〜5質量%を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項7】
前記粉末又は粉末顆粒が、0.002〜2質量%の酸素を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項8】
前記粉末又は粉末顆粒が、鉄含有量が60質量%を超える鉄豊富な領域を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項9】
前記鉄豊富な領域が、少なくとも部分的に、鉄含有粒子を有していることを特徴とする請求項8に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項10】
前記鉄豊富な領域が、非結合の鉄元素状の鉄及び酸化鉄からなる群から選ばれる少なくとも1つの形状を有していることを特徴とする請求項8又は9に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項11】
前記鉄豊富な領域が、前記クロム含有粒子の細孔に少なくとも部分的にインターカレートされていることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項12】
前記鉄豊富な領域が、前記クロム含有粒子に、拡散結合を介して少なくとも部分的に結合していることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項13】
前記ドーパントが少なくとも部分的に、酸化物として、粒子の形状で存在することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項14】
前記ドーパントが、「クロム含有粒子中にインターカレートされている形状」及び「クロム含有粒子の表面に析出されている形状」からなる群から選ばれる少なくとも1つの形状で存在することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項15】
前記クロム豊富な領域が、EN ISO 14577−1による4GPa以下の平均ナノハードネスHIT 0.005/5/1/5を有することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項16】
前記粉末又は粉末顆粒が、レーザー回折法に依って測定して、10μm<d50<800μmを満たす粒子サイズ/顆粒サイズd50を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒。
【請求項17】
部品の粉末冶金による製造のための、請求項1〜16のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒の使用。
【請求項18】
1,100℃〜1,550℃において、酸化物及び水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのクロム含有化合物を、炭素源及び水素を、少なくとも部分的に、順に存在させて、還元することからなることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の粉末又は粉末顆粒の製造方法。
【請求項19】
前記ドーパントが、還元前に、クロム含有化合物と混合されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
60質量%を超える鉄含有量を有する鉄含有粒子が還元後に添加されることを特徴とする、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記粉末又は粉末顆粒が、前記鉄含有粒子の添加後に、400℃<T<1,200℃の温度Tでアニールされることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記クロム含有化合物が単独で顆粒化されるか又はドーパントと共に顆粒化されることを特徴とする請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、80質量%(Ma%)を超えるクロム含有量を有し、2〜20質量%の鉄、所望により5質量%までのドーパント、及び、所望により2質量%までの酸素を含有する粉末又は粉末顆粒(Pulvergranulat)であって、該粉末又は粉末顆粒が、少なくとも部分的に、95質量%を超えるクロム含有量を有しクロム含有粒子を形成するクロム豊富な領域を有する粉末又は粉末顆粒に関する。更に、本発明は、前記粉末又は粉末顆粒の用途及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロム−鉄合金は、イットリウムを含有していてもよいが、例えばインタコネクタに使用される。インタコネクタは、バイポーラプレート又はカレントコレクタとも呼ばれるが、固体電解質高温燃料電池(固体酸化物燃料電池、高温燃料電池又はSOFC(olid xide uel ell、固体酸化物燃料電池)の重要な部品である。固体電解質高温燃料電池は、典型的には、650℃〜1,000℃の操作温度で操作される。電解質は、酸素イオンを通すが電子を遮断する効果を有する固体セラミック材料からなる。例えば、ドープされた酸化ジルコニウムが電解質材料として用いられる。イオン及び電子を通すセラミックスが、陰極及び陽極に、例えば、ストロンチウムをドープしたマンガン酸ランタンが陰極に、ニッケルジルコニウムオキシド(でドープされた)サーメットが陽極に、使用される。インタコネクタは、個々の電池の間に配列され、ここで、前記電池(所望により接触層を備えていてもよい)及びインタコネクタは、積層されてスタックを形成する。インタコネクタは、個々の電池を直列に連結し、それによって、電池内で発生される電気を収集する。更に、インタコネクタは機械的に電池を支持し、確実に、反応ガスを分離し陽極側及び陰極側に導く。インタコネクタは、高温において、酸化環境にも及び還元環境にも曝される。従って、これは、対応して高度の耐腐食性を必要とする。更に、インタコネクタの室温から最大使用温度までの熱膨張係数は、電解質、陽極材料及び陰極材料の熱膨張係数に適応しなければならない。更に、気密性、高くて不変の電子伝導性、及び使用温度における可能な限り高い熱伝導度が要求される。クロムに鉄を添加することにより、クロム合金の熱膨張係数を接続する部品の熱膨張係数に適合させることができる。イットリウム合金化することにより、耐腐食性が改善される。高度の機能性を達成するためには、全ての合金成分を細かく分散させることが必要である。これは、例えば、合金成分を含有する粉末混合物を高エネルギーミルにおいて、例えば24〜48時間、機械的合金化することにより達成される。この際、粉砕によって引き起こされる角状粉形状、及び高度の常温加工硬化及びこれに伴う粉末の高硬度は、圧縮挙動及びグリーンストレングスに好ましくない影響を与えるので、不利である。更に、この方法は、高いプロセスコストに結び付く。
【0003】
これらの不利益を少なくとも部分的に改善することが、特許文献1の目的であり、特許文献1は、例えば、クロム、鉄及びイットリウムを含有するクロム合金粉末の合成方法を開示する。この方法においては、クロム粉末が鉄−イットリウム母合金と混合される。この方法によれば、プロセスコストが削減され、顕著に改善された圧縮挙動を示す粉末が提供される。不活性ガス噴霧化プロセスによる鉄−イットリウム母合金の生産の間に、イットリウムは、鉄粉中に極めて微細に分散されるが、クロム中に分散されることはなく、また、クロム中に鉄が分散されることはない。高度の機能性のために要求される鉄の均質分散化は、長時間の焼結によってのみ達成され得る。更に、特許文献1による粉末は、高圧においてのみ、十分に高いグリーンストレングス又は密度に圧縮することができる。というのは、クロム粉末は、典型的には、アルミノテルミット法によって還元され、機械的に粉末化されるからであるが、これにより、高硬度及び滑らかな表面が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1268868(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、典型的な粉末冶金法を用いて、費用効果的に、その中で合金成分が均質に分散している部品に加工することができる粉末又は粉末顆粒を提供することにある。費用効果的な生産及び粉末又は粉末顆粒の高機能性を保証するために、粉末又は粉末顆粒の高度の注入性(型への問題ない自動的充填を保証するために)、良好な圧縮性、高いグリーンストレングス(グリーン体の問題ない取り扱いを保証するために)、そして、できる限り短い焼結時間で合金成分が均質に分散することが、前提条件である。合金成分の均質な分散は、取り分け、腐食挙動及び膨張挙動のプロセス的に首尾一貫した設定に好ましい効果をもたらす。この際、良好な圧縮性は、従来技術の粉末と比較して、比較的低い圧縮圧で既に達成可能である。でありながら、これは、投資コスト(圧縮機のコストは、圧縮力が増すにつれて増加する)及び工具費(低い工具摩耗)の両方に良好に働く。更に、本発明の目的は、粉末冶金製造技術により、簡単で費用効果的なやり方で、高い機能性(例えば、適合した熱膨張係数、高い耐腐食性)を有する部品の製造に使用できる粉末又は粉末顆粒を提供することである。更なる目的は、本発明の粉末又は粉末顆粒を、簡単でプロセス的に首尾一貫した費用効果的なやり方で、製造するのに用いることができる方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これの目的は、独立請求項により、達成される。本発明の特に有利な実施態様は、従属請求項に記載されている。
【0007】
ここで、粉末は、多数の粒子と理解すべきである。ここで、この粒子は、一次粒子及びこれに結合している二次粒子からなる。粒子径が小さければ、粉末冶金プロセスにおいて、多数の粒子、これらは一次粒子及び二次粒子からなっていてもよいのだが、を、粉末顆粒に転換するのに有利である。従って、粉末顆粒粒子は、多数の粒子からなっていてもよい。これらの粒子は、一以上の更なる成分、例えば結合剤、なしで又はこれらと共に、材料結合により互いに結合していてもよい。粉末粒子又は粉末顆粒粒子の大きさは、粒径と呼ばれ、典型的には、レーザー回折法により測定される。測定結果は、分散曲線により規定される。この際、d50値は中間粒径を意味する。d50は、粒子の50%がその特定値より小さいことを示す。
【0008】
本発明の粒子又は粉末顆粒は、2〜20質量%の鉄、所望により質量5%までのドーパント、所望により2質量%までの酸素、並びに80質量%を超えるクロム及び典型的な混入物を含有する。典型的には、プロセスに関係する混入物は、この場合、例えば、Si、Al、Ca、V及びNaであり、ここで、それぞれの含有量は、典型的には、500μg/gである。クロム含有量が80質量%未満の場合、多くの用途において、十分に高い耐腐食性が、最早、保証されない。2〜20質量%の鉄の添加により、同時に耐腐食性を許容できないほど悪化させることなく、部品の熱膨張係数を簡単な方法で多くの用途に向けて調整することができる。鉄含有量が2質量%未満では、合金は、多くの用途には過度に低すぎる熱膨張係数を有する。20質量%を超える鉄含有量は、就中、腐食挙動に不利な影響を与える。粉末又は粉末顆粒は、40質量%を超える、好ましくは60質量%を超える、鉄含有量を有する鉄豊富な領域を有するのが好ましい。ここで、鉄含有量豊富な領域は、鉄含有粒子の形で提供されるのが好ましい。鉄粉の生産の場合、出発製品は酸化鉄であるので、酸化鉄粉が費用効果的に利用できる。鉄豊富な領域が酸化鉄の形で提供される場合、これは、簡単で費用効果的なやり方で、粉末又は(例えば焼結プロセスで集積された)圧縮部品の熱処理によって、還元環境において還元することができる。鉄が非結合の/元素の形態で提供される場合、鉄豊富な領域における鉄含有量は、90質量%超が好ましく、98質量%超が特に好ましい。
【0009】
更に、粉末又は粉末顆粒は、5質量%までのドーパントを含有していてもよい。この場合、好ましいドーパント含有量は、0.005〜5質量%である。好ましくは、少なくとも1つのドーパントは、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選ばれる。本発明において,ドーパントは、それがクロムの場合に、高温耐腐食性挙動を顕著に改良する。含有量が5質量%を超えても、耐腐食性は、それ以上顕著に向上せず、圧縮性及びコストに不利な影響を与える。0.005質量%未満では、腐食挙動は、ドーパントなしの材料に比べて僅かに改善されるに過ぎない。特に効率的なドーパントは、イットリウムであり、ここで、特に好ましい含有量は、0.01〜1質量%である。
【0010】
好ましい合金組成は、2〜20質量%の鉄、所望により5質量%までの、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選ばれる、少なくとも1つのドーパント、所望により2質量%までの酸素、並びに残部クロム及び典型的な混入物であり、ここで、クロム含有量は80質量%を超える。更に好ましい合金組成は、2〜20質量%の鉄、0.005〜5質量%までの、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、チタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群から選ばれる、少なくとも1つのドーパント、0.002〜2質量%までの酸素、並びに残部クロム及び典型的な混入物であり、ここで、クロム含有量は80質量%を超える。更に好ましい合金は、3〜10、特に好ましくは3〜7質量%の鉄、0.005〜5質量%のイットリウム、0.002〜2質量%の酸素並びにクロム及び典型的な混入物であり、ここで、クロム含有量は80質量%を超える。
【0011】
この場合、粉末又は粉末顆粒は、少なくとも部分的に、クロム含有量が95質量%を超えるクロム豊富な領域を、有し、これがクロム含有粒子を形成する。クロム豊富な領域は、少なくとも部分的に、クロム豊富な相からなる。これ以後、クロム豊富な領域とクロム豊富な相とは、同義的に用いる。クロム含有量が95質量%を超えるクロム豊富な相とは、溶解した元素の比率が5質量%以下であることを意味する。クロムの過半(90質量%超)は、95質量%を超えるクロムを含有するクロム豊富な相の形態で提供されるのが好ましい。このとき、より低いクロム含有量を有する領域は、クロム豊富な領域/鉄豊富な領域の遷移帯域である。その他の相成分、例えばドーパント、は、クロム豊富な相中にインターカレートすることができる。これらのものは、クロム豊富な相のクロム含有量の解析において考慮していない。溶解元素の含有量が5質量%を超える(クロム含有量が95質量%未満の)場合、これらの領域は、並はずれて高い硬度を有し、これは圧縮挙動、工具の耐用年数及びプレスの投資コストに負の影響を与える。
【0012】
クロム豊富な領域は、粒子(以後、単に、クロム含有粒子又は単に粒子と呼ぶ)を形成する。前述のように、顆粒粒子は、複数の粒子を含有していてもよい。クロム含有粒子又は顆粒粒子が少なくとも部分的に細孔を有することが本発明に必須である。ここで、顆粒粒子の場合には、顆粒を構築する粒子も細孔を含有することが好ましい。細孔を有する粒子又は顆粒粒子の量比は、有利には30質量%超、より有利には50質量%超、更に有利には70質量%超、特に有利には90質量%超である。
【0013】
クロム含有粒子は、定量画像分析によって測定される平均空隙率が20体積%を超えるのが好ましい。平均空隙率は、40体積%を超えるのが好ましく、60体積%を超えるのがより好ましい。85体積%及びこれを超える値を達成することができる。空隙率Pの好ましい範囲は、20体積%<P<85体積%、40体積%<P<85体積%及び60体積%<P<85体積%である。
【0014】
ここで、平均空隙率の測定は、下記の作業指示による。先ず、粉末検鏡試片(Pulverschliffe)を作成する。この目的のために、粉末をエポキシ樹脂に包埋する。8時間のキュア時間の後、金相試料を調製する。即ち、粉末縦方向検鏡試片による研究が後で実施できる。調製は、以下の工程による。800、1,000及び1,200の粒子サイズを有する恒久的に結合したSiC紙を用いて150〜240Nで、粉砕する工程:3μmの粒子サイズを有するダイアモンド懸濁液を用いて研磨する工程;粒子サイズ0.04μmのOPS(酸化物研磨懸濁液)を用いて最終的に研磨する工程;超音波浴で試料を洗浄する工程;及び試料を乾燥する工程。次に、試料ごとに、10の異なった代表的な粒子の画像を作成する。これは、走査型電子顕微鏡(ツァイス社、「ウルトラ プラス 55」)により、後方散乱電子(BSE)を検知するために、四分円検出器を用いて、達成できる。励起電圧は20kVであり、傾斜角は0°である。像のピントを合わせる。正確な画像分析のためには、解像度は少なくとも1024×768ピクセルである。コントラストは、細孔が金属マトリクスから明確に浮き出るように選択する。写真の倍率は、各画像が1つの粒子を含むように選定する。このケースでは、100×及び300×の倍率が選ばれる。定量的画像分析は、ソフトウエアイメージアクセスを用いて実施する。「粒子解析」モジュールを使用した。各画像解析は、以下のステップによる。粒子の開口体積が認識できるようにグレースケール閾値を設定する;粒子内に最大サイズの円/直方体(面積0.02〜0.5mm)の測定フレームワークを設置する;検出設定:ROIのみにおける測定、画像端の包囲、対象によるROIの切断。写真の記録中又は解析中には、フィルター機能を使用しない。後方散乱電子画像では、細孔が、金属マトリクスよりも、より暗く見えるので、検出設定の場合は、「暗い物体」を細孔と定義する。10の画像を個別に解析した後、データの統計的解析を行なう。これから、細孔の平均面積比率(%)を決定し、体積百分率の平均空隙率と等しいと設定することができる。
【0015】
本発明における細孔は、少なくとも部分的に、開孔であることが好ましい。ここで、開孔は、細孔チャンネルを通じて表面に通じていると解すべきである。全空隙率に対する開孔の体積比は、有利には30体積%を超え、より有利には50体積%を超え、更に有利には70体積%を超え、特に有利には90体積%を超える。これらの開孔は、お互いに架橋しているのが好ましい。この粉末のモルフォロジーの有利さについては、以下の文節で詳細に議論する。
【0016】
粉末の形状は、ASM(ASMハンドブック、第7巻、粉末金属学、第472頁)に従う分類に依れば、典型的には、針状、不規則棒状、樹枝状、薄片状、球状、結節状、不規則状及び多孔状に分類される(図1を参照)。この分類によれば、クロム豊富な領域から形成される粒子/顆粒粒子は、少なくとも部分的に多孔性形状を有している。多孔状と分類される粒子/顆粒粒子の体積比率は、有利には30体積%超、より有利には50体積%超、更に有利には70体積%超、特に有利には90質量%超である。特別な態様では、好ましくは、殆ど全て(99質量%超)の粒子/顆粒粒子が多孔性形状を有する。例えば、以前に多孔性の粒子/顆粒粒子であったものの粉砕により生じる粒子は、多孔性粉末形状から外れ得る(例えば、粉末の微細成分)。
【0017】
更に、クロム含有粒子は、レーザー回折法で測定された粒子径d50が20μmを超える場合は、BET法で測定された表面積が0.05m/gを超えることが好ましい。更に好ましい変形は、d50>50μm且つBET表面積>0.05m/g、d50>70μm且つBET表面積>0.05m/g、d50>90μm且つBET表面積>0.05m/g、d50>110μm且つBET表面積>0.05m/g、d50>30μm且つBET表面積>0.07m/g、d50>50μm且つBET表面積>0.07m/g、d50>70μm且つBET表面積>0.07m/g、d50>90μm且つBET表面積>0.07m/g、d50>110μm且つBET表面積>0.05m/g、d50>30μm且つBET表面積>0.09m/g、d50>50μm且つBET表面積>0.09m/g、d50>70μm且つBET表面積>0.09m/g、d50>90μm且つBET表面積>0.09m/g、d50>110μm且つBET表面積>0.09m/gである。これらは、特に、粒子の高い内部空隙率によって達成される。ここで、BET測定は、規格(ISO9277:1995。測定範囲:0.01〜300m/g。装置:Gemini II 2370。加熱温度:130℃。加熱時間:2時間。吸着剤:窒素。5点決定法に依る容積分析)に従って実施される。d50値は、規格(ISO 13320(2009))を適用したレーザー回折法により測定する。
【0018】
細孔は、少なくとも領域によって空孔であってもよく、部分的又は完全に充填されていてもよい。ここで、細孔の少なくとも一部は、鉄及び/又は酸化鉄で少なくとも部分的に充填されているのが好ましい。空の及び/又は部分的に充填された細孔は、少なくとも領域によって、開孔であるか架橋されているのが好ましい。細孔は、少なくとも領域によって、完全に充填されていてもよい。
【0019】
本発明の粉末及び粉末顆粒は、傑出した圧縮特性を有している。更に、従来技術による粉末と比較して、焼結時間を顕著に短縮することができる。実施例に示すように、焼結時間が短縮されたにも拘らず、合金の均質性は、顕著に改善される。更に、後で非常に詳しく説明するように、ドーパントを、簡単なやり方で、非常に微細な形状で(非常に小さな、好ましくは<5μmの、サイズ(分散質のサイズ)を有する粒子の形状のドーパント)非常に均一に(好ましくは50μm未満の小さな平均粒子間隔で)分布させることができる。
【0020】
上述のように、粉末又は粉末顆粒は、2質量%までの酸素を含有するのが好ましい。酸素含有量は、特に好ましくは、0.002〜2質量%である。0.5〜2質量%の酸素含有量は、特に、ドーパント及び/又は鉄が酸化状態で供給されたときに生じる。もし、クロム豊富な領域が、4GPa以下のEN ISO 14577−1による平均ナノハードネスHIT 0.005/5/1/5を有するならば、非常に有利な圧縮挙動が達成される。ここで、硬度値は、好ましくは、如何なる追加の後処理、例えばアニーリング、に付されていない粉末又は粉末顆粒に関する。ナノハードネスHIT 0.005/5/1/5は、好ましくは3.5GPa以下である。要求が非常に高度な場合、例えば、非常に薄肉の部品については、3GPa以下のナノハードネスHIT 0.005/5/1/5が有利である。非常に純粋なクロム相の場合、約1.5GPaのナノハードネスHIT 0.005/5/1/5を有する金属粉末が実現される。
【0021】
ドーパント及び/又は鉄は、上述のように、元素状態で及び/又は酸化状態で提供することができる。酸化鉄は、好ましくは、粉末冶金後処理、例えば焼結、の間に、還元されるが、ドーパントも、また、酸化状態で腐食挙動を改善する。
【0022】
例えば拡散ミキサー、対流ミキサー若しくはせん断ミキサーにおける混合操作の間に、又は(少なくとも部分的に多孔性粉末形状が維持されるだけの)少エネルギー注入による粉砕操作の間に、鉄粉末及び/又は酸化鉄粉末は、クロム粉末と混合される。クロム豊富な領域から形成された多数の粒子は、クロム粉末と呼ばれる。好ましくは、クロム粉末より小さい粒子サイズを有する鉄含有粉末が使用される。これにより、鉄含有粉末をクロム粉末の細孔中に少なくとも部分的に導入することができる。かくして、粒子サイズが小さく従って流動性(注入性)の乏しいクロム粉末を使う必要なく、鉄を非常に均一に微細な形状で分散させることができる。特に自動充填圧縮の場合に、良好な流動性は、経済的に制御可能なプロセスの前提条件である。更に、本発明の粉末又は粉末顆粒を用いて、鉄がクロム相に溶液で入ることなく、均質な鉄の分布を達成することができる。しかしながら、鉄及び/又は酸化鉄は、クロム粉末の表面上に又はクロム粉末同士の間に存在していてもよい。圧縮操作の間に、注入可能な鉄粉末は、少なくとも部分的に細孔の中に浸透する。より小さな量比の鉄及び/又は酸化鉄は、また、クロム豊富な領域の中にインターカレートされてもよい。
【0023】
多くの用途について、ドーパントなしに粉末を使用できる。しかしながら、より高度の腐食改良効果を望むのであれば、ドーパントを有する粉末を使用するのが有利である。このとき、ドーパントが微分散していると、より有利である。ドーパントの導入は、クロム粉末の製造の出発材料である酸化クロム又は水酸化クロムについて、既になされているのが好ましい。ここで、ドーパントは、固体形態又は溶解状態で、例えば硝酸塩溶液又は蓚酸塩溶液として、混合することができる。このとき、ドーパントは、酸化形態で提供されるのが好ましい。ドーパントの酸化物は、例えばCrより動力学的により安定なので、酸化クロムの還元中に還元されない。従って、クロム相中へのドーパントの許容しがたいほどの過度の溶解事象も起こらない。酸化クロムの還元の前にドーパントを添加することにより、クロム豊富な相にドーパントを少なくとも部分的にインターカレートすることが可能となるが、このことは、腐食挙動に非常に有利な効果をもたらす。しかしながら、ドーパントは、細孔中にインターカレートしてもよく、粒子の表面に配置してもよい。本発明の粉末又は粉末顆粒の構造の故に、非常に高度の耐腐食性が生じる。
【0024】
安全かつ経済的な後工程を保証するために、粉末又は粉末顆粒が、10μm<d50<800μmの粉末サイズ/粉末顆粒サイズを有していると有利である。更に有利な範囲は、30μm<d50<800μm、50μm<d50<800μm、70μm<d50<800μm、90μm<d50<800μm、110μm<d50<800μm、30μm<d50<300μm、50μm<d50<300μm、70μm<d50<300μm、90μm<d50<300μm、110μm<d50<300μm、30μm<d50<150μm、50μm<d50<150μm、70μm<d50<150μm、90μm<d50<150μm、110μm<d50<150μmである。ここで、d50値は、規格(ISO 13320(2009))を適用したレーザー回折法により測定する。ここで、小さいサイズ範囲の値は、追加的な顆粒化段階なしに達成できる。製造が顆粒化なしで行なわれた場合、生産された製品は、粉末と呼ばれる。上部d50範囲の数値は、もし、例えば、出発製品(例えば、ドーパントを有していてもよい、酸化クロム又は水酸化クロム)、中間製品(例えば、ドーパントを有していてもよいクロム金属粉末)又はクロム金属粉末+(ドーパントを有していてもよい)鉄含有粉末が典型的な方法によって顆粒化された場合に、達成することができる。このようにして生産された製品は、粉末顆粒と呼ばれる。
【0025】
更に、粉末又は粉末顆粒が550MPaの圧力で75%以上の密度に圧縮可能であり850MPaの圧力で78%以上の密度に圧縮可能であると有利である。これらの値は、粉末が高度の空隙率と低い硬度とを有していれば、達成できる。ASTM B312−09によって測定したグリーンストレングスは、好ましくは、550MPaの圧縮圧で5MPa以上である。グリーンストレングスに関しては、本発明の粒子は、特に好ましい結果をもたらす。というのは、多孔性の粒子は、圧縮操作中に相互に噛み合うからである。従って、本発明の粉末又は粉末顆粒を用いて、高密度でグリーンストレングスの高い機能性部品を製造することができる。高い焼結密度を設定するために、粉末又は粉末顆粒がBET法で0.05m/g以上の表面積を有すると、更に有利である。更に好ましい数値は、0.05m/g以上、0.07m/g以上、0.09m/g以上、及び0.1m/g以上である。
【0026】
本発明の粉末又は粉末顆粒は、粉末冶金法による部品、特にインタコネクタ、の製造に特に適している。ここで、粉末冶金製造法は、例えば、圧縮/焼結法、圧縮下焼結法、MIM、粉末スプレー法及び生成的製造法(例えば、3D印刷法)を含む。
【0027】
本発明の目的は、また、粉末又は粉末顆粒を製造する方法によって達成される。この方法は、所望により固体炭素源が混合されていてもよい、酸化クロム及び水酸化クロムからなる群から選ばれる、少なくとも1つの化合物を、水素及び炭化水素の少なくとも一時的な作用下に、還元することを含む。好適には、酸化クロム又は水酸化クロムとして、粉末形態のクロム(III)化合物、例えば、Cr、CrOOH、Cr(OH)が、又は酸化クロム及び水酸化クロムの混合物が考慮の対象となる。好ましいクロム源は、Crである。最終製品で高純度を得るためには、使用するCrが少なくとも顔料クレードの品質を有していることが好ましい。
【0028】
酸化クロム及び水酸化クロムからなる群から選ばれる化合物は、固体炭素源が混合されていてもよいが、好適には、1,100℃≦T≦1,550℃の温度Tに加熱され、所望ならば、この温度に保持される。1,100℃未満又は1,550℃を超える温度では、粉末特性が悪化し乃至は費用効果的な方法ではなくなる。工業的な目的のためには、Tを約1,200℃〜1,450℃に選定すると、反応が特に良好に進行する。
【0029】
本発明に依る低温範囲では、90%の好ましい還元度を設定するためには、Tにおける非常に長い保持時間が必要であり、本発明に依る高温範囲では、保持時間を非常に短くすることができ乃至は全く省略することができる。還元度Rは、非還元のクロム化合物中に存在する全酸素量に対する、時間tまでに分解した酸化クロム又は水酸化クロム中の酸素の材料量の比率と定義される。
【数1】
ここで、
%red:還元度(%)
Mred,O:還元粉末における質量(g)
Ma,O:還元前の粉末バッチにおける酸素の質量(g)
【0030】
実施例に基づいて、当業者は、簡単な方法で、自分の炉のための最適の温度及び時間(連続炉、バッチ炉、最大可能炉温等)の組合せを決定することができる。反応は、好ましくは、反応時間の30%以上、特に好ましくは50%以上に亘って、基本的に温度Tで一定に(等温に)保たれる。
【0031】
炭化水素の存在により、本発明による特性を有する粉末が、化学輸送法によって確実に形成される。反応の全圧は、有利には、0.95〜2バールである。2バールより高い圧力は、方法の対費用効果に不利な影響をもたらす。0.95バールより低い圧力は、結果として生じる炭化水素分圧に不利な影響をもたらし、これが、次に、ガス相を経由する輸送プロセスに非常に不利な影響を与え、本発明による粉末特性(例えば、硬度、グリーンストレングス、比表面積)の設定に大きく影響する。更に、0.95バール未満の圧力は、プロセスコストに不利な影響を与える。
【0032】
実施例は、炭化水素分圧が簡単なやり方で設定される方法を開示する。炭化水素は、有利にはCHとして提供される。好ましくは、少なくとも加熱操作の間、炭化水素分圧は、少なくとも一時的に5〜500ミリバールである。5ミリバール未満の炭化水素分圧は、粉末特性、特にグリーンストレングス、に不利な影響を与える。500ミリバールを超える炭化水素分圧は、還元された粉末の炭素含有量が高くなる結果を招く。残余のガス雰囲気は、この場合、好ましくは水素である。水素及び炭化水素の作用は、好適には、少なくとも、800℃〜1,050℃の温度範囲で生じる。この温度範囲において、炭化水素分圧は、好ましくは5〜500ミリバールである。出発物質から形成される反応混合物は、この場合、好ましくは少なくとも45分間、更に好ましくは60分間、この温度範囲にとどまる。この時間には、加熱操作及び他のあらゆる等温保持段階が含まれる。本発明のこの方法条件により、好ましくはT未満の温度で、酸化クロム及び水酸化クロムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物が、水素及び炭化水素の作用により、少なくとも部分的に反応して炭化クロムに転換することが、確実になる。好ましい炭化クロムは、Cr、Cr及びCr23である。炭化水素分圧によって生じる炭化クロムの部分的形成は、次に、粉末特性に好ましい効果をもたらす。更に、本発明による方法条件によって、炭化クロムが、反応混合物中に存在し及び/又は混合されている酸化クロム及び/又は水酸化クロムと反応することが確実となり、クロムを形成する。この際、Tでは、このプロセスが支配的となる。
【0033】
炭化水素は、反応系に気相状で、好ましくは固体炭素源を混合することなく、添加することができる。ここで、酸化クロム及び水酸化クロムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物は、好ましくは、H−CHガス混合物の一時的な作用下において還元される。H/CH容積比は、1〜200の範囲、特に好適には1.5〜20の範囲に選定するのが有利である。H−CHガス混合物の作用は、この場合、好ましくは、Tへの加熱段階の間に少なくとも一時的に起こり、このとき、粉末形状の形成に対する影響は、特に850〜1,000℃の温度範囲で非常に良好なものとなる。温度が約1,200℃に達すると、プロセスは、好適には、好ましくは(ガス供給領域での測定で)−40℃未満の露点を有する純粋な水素雰囲気に切り換えられる。Tが1,200℃未満のとき、純粋な水素雰囲気への切り換えは、好ましくは、Tに到達したときに起きる。Tにおける等温段階及び室温への冷却は、有利には、水素雰囲気で起きる。特に冷却の間は、再酸化(Rueckoxidation)を避けるために、露点が−40℃未満の水素を使用するのが有利である。
【0034】
1つの変形実施態様において、固体炭素源は、酸化クロム及び/又は水酸化クロムと混合される。この場合、クロム化合物中の酸素1モルあたり、0.75〜1.25モルの間、より好ましくは0.90〜1.05モルの間の炭素を使用するのが好ましい。ここで、これは、クロム化合物との反応に利用し得る炭素量を意味する。特に好ましい態様では、炭素に対する酸素の比率は、化学量論量より僅かに低く、0.98である。固体炭素源は、好ましくは、カーボンブラック、活性炭、黒鉛、炭素放出化合物、又はこれらの混合物の群から選ばれる。炭素放出化合物の例として、炭化クロム、例えば、Cr、Cr及びCr23を挙げることができる。粉末混合物は水素含有雰囲気においてTまで加熱される。このとき、H圧は、少なくとも800℃〜1,050℃の温度範囲において、5〜500ミリバールのCH分圧が生じるように設定するのが好ましい。有利には、Tにおける等温段階及び室温への冷却が、水素雰囲気下で再び起きる。これらのプロセス段階の間、水素の存在は不要である。これらのプロセス段階の間及び冷却段階の間、水素は、再酸化を防ぐ。冷却段階の間、露点が−40℃未満の水素雰囲気を用いるのが有利である。
【0035】
酸化クロム粉末又は水酸化クロム粉末は、還元前に、所望により、既に添加されたドーパントと共に顆粒化することができる。顆粒化とは、既に述べたように、小さな粒子の顆粒−小さな粒子の集積を表わす−への転換を意味する。顆粒化法としては、界面活性添加物、例えばポリビニルピロリドン、を添加して、強力ミキサー中での、例えば、スプレー顆粒化法又は凝塊法によるのが適切である。還元前の顆粒化は、また、ガス状析出物(例えば水素)及びガス状生成物(例えば、CO)の浸透が改善されるので、有利である。というのは、ガスが高摩擦損失なしに流れることのできる領域が、顆粒粒子間に存在するからである。
【0036】
ドーパントは、酸化クロム又は水酸化クロムと、還元前に混合するのが有利であり、起こる可能性がある顆粒化の前に混合するのが特に有利である。ここで、スカンジウム、イットリウム及びランタノイド(例えば、ランタン又はセリウム)は、硝酸塩溶液として、チタン、ジルコニウム及びハフニウムは、シュウ酸塩溶液として混合するのが有利である。下流の乾燥プロセス(これは、還元段階と統合してもよいのだが)の間に、硝酸塩又はシュウ酸塩は、対応する酸化物又は水酸化物に分解する。これにより、ドーパントの非常に微細で均質な分散が可能になる。しかしながら、ドーパントを固体形状で混合することも可能である。スカンジウム、イットリウム及びランタノイドの場合には、酸化物粉末を使用するのが有利である。チタン、ジルコニウム及びハフニウムは、元素形状及び酸化物形状の両方で、また、凝塊生成傾向が十分に低い十分に小さい微粉として他の化合物の形状で、使用することができる。
【0037】
既述したように、鉄(例えば、元素状鉄又は酸化鉄)を、既に還元されたクロム粉に添加するのが有利である。この目的のためには、典型的な方法、例えば、導入エネルギーの小さい混合法又は粉砕法が適切である。鉄豊富な領域のクロム粒子への結合を達成するためには、粉末又は粉末顆粒を、鉄との混合後、400℃<T<1,200℃を満たす温度Tでアニールするのが有利である。これにより、その後のプロセスの間に、粉末がその成分に分解するのを避けることができる。
【0038】
この後、実施例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、粉末の各種形状を示す図である。
図2図2は、Cr/カーボンブラック粉末顆粒の走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3は、図2の粉末顆粒の還元状態の走査型電子顕微鏡写真である。
図4図4は、図3の粉末顆粒の還元状態の走査型電子顕微鏡写真の拡大版である。
図5図5は、実施例2による、Y粒子を有するクロム粒子(1.2gY添加)の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図6図6は、実施例2によるY粒子を有するクロム粒子(5.95gY添加)の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図7図7は、実施例3(100mLの脱イオン水に対するY(NO・6HO濃度:4.5g)によるY粒子を有するクロム粒子の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図8図8は、実施例3(100mLの脱イオン水に対するY(NO・6HO濃度:20.2g)によるY粒子を有するクロム粒子の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図9図9は、実施例3(100mLの脱イオン水に対するY(NO・6HO濃度:40.3g)によるY粒子を有するクロム粒子の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図10図10は、鉄粒子を混合/アロイ化した、実施例1によるクロム粒子の走査型電子顕微鏡写真(二次電子コントラスト)である。
図11図11は、鉄粒子を混合/アロイ化した、実施例1によるクロム粒子の走査型電子顕微鏡写真(後方散乱電子コントラスト)である。
図12図12は、実施例5による、部分的にFeで充填された細孔を有するクロム粒子の走査型電子顕微鏡写真(横方向検鏡試片)である。
図13図13は、実施例6による、合金化鉄粒子を有するクロム粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図14図14は、図13の粉末の走査型電子顕微鏡写真の拡大版である。
図15図15は、CFY粉末(従来技術)から製造されたグリーン体と(本発明による)AS−113粉末との相対密度を示す。
図16図16は、CFY粉末(従来技術。標準として同定)及び(本発明による)AS−113粉末から製造された焼結試料の鉄分布(EDXラインスキャンにより測定)を示す。
図17a図17aは、本発明の粉末の走査型電子顕微鏡写真(定量的画像解析のための解析フレーム付)である。
図17b図17bは、本発明の粉末の走査型電子顕微鏡写真(定量的画像解析のための解析フレーム付)である。
図17c図17cは、本発明の粉末の走査型電子顕微鏡写真(定量的画像解析のための解析フレーム付)である。
図17d図17dは、本発明の粉末の走査型電子顕微鏡写真(定量的画像解析のための解析フレーム付)である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0040】
(実施例1)
顔料品質のランクセス社のバイオキシド CGN−R(Lanxess Bayoxide CGN−R)タイプのCr粉末を、拡散ミキサー中、キャンカーブ社のサーマックス ウルトラ ピュアタイプのカーボンブラック粉末と混合した。混合物の炭素含有量は、18.64質量%であった。水及び1.7質量%のパラフィンワックスを添加することにより、スラリーが生成した。このスラリーをラボラトリースプレータワー中で処理して、顆粒を形成させた(図2参照)。かくして製造された顆粒を篩にかけて、45〜160μmのものを得た。次いで、10K/分の加熱速度で800℃まで加熱し、その後、2K/分の加熱速度で1,050℃まで加熱した。加熱は、Hの作用下に行ない、ここで、H圧は、800℃〜1,050℃の温度範囲において質量分析で測定したCH分圧が15ミリバールを超えるように設定した。ここで、全圧は、約1.1バールであった。次いで、反応混合物を10K/分の加熱速度で、1,450℃まで加熱した。1,450℃での保持時間は、5時間であった。1,050℃から1,450℃への加熱及び1,450℃での保持は、−40℃未満の露点を有する乾燥水素雰囲気下の供給下で行ない、このとき、圧力は約1バールであった。炉の冷却も、また、−40℃未満の露点を有する乾燥水素下で行なった。このようにして還元された顆粒は、外見上、スプレー顆粒化した顆粒の形状と寸法とを有していた(図3)が、内部は、図4に示すような細孔のネットワークを有していた。粉末形状のASM分類に依れば、この顆粒は、「多孔状」の分類に対応する。空隙率は、より詳細に明細書中で説明したように、円(図17aを参照)及び長方形(図17bを参照)を測定枠として使用して、定量的画像解析により実施した。10粒子の空隙率を測定したところ、その値は、74体積%から76体積%であった。平均空隙率は75.3体積%であった。BET表面積を、ISO 9277:1995(装置:ジェミニ(Gemini) 2317/タイプ2、真空下130℃で2時間脱気。吸着剤:窒素、5点決定法に依る容積分析)によって測定したところ、0.10m/gであった。レーザー回折法(ISO 13320(2009))に依り測定した粒径d50は、120μmであった。その後の処理で、粉末検鏡試片を製作し、クロム豊富な領域について、縦方向検鏡試片において、平均(10測定の平均値)ナノハードネスHIT 0.005/5/1/5(EN ISO 14577−1、2002年版による測定。バーコビッチ圧子及びオリバー及びファーによる解析法)を測定した。ナノハードネスHIT 0.005/5/1/5は、2.9GPaであった。
【0041】
(実施例2)
1627.2gのCr粉末(顔料品質。ランクセス社、バイオキシド CGN−R(Lanxess Bayoxide CGN−R))、372.8gのカーボンブラック(キャンカーブ(Cancarb)社、サーマックス ウルトラピュア(Thermax ultra−pure) N908))及び1.2gのレーザー回折による粒径d50が0.9μmのYを、1.5Lのイソプロパノールの添加の下に磨砕機で3時間粉砕した。ここで、ミルボールは、安定化Y製であった。ミルボール:粉末比は、6:1であった。このようにして製造したスラリーを、真空中で乾燥し、10K/分の加熱速度で800℃まで加熱し、次いで、2K/分の加熱速度で1,050℃まで加熱した。加熱は、Hの作用下に実施した。このとき、H圧は、800℃〜1,050℃の温度範囲において、質量分析で測定したCH分圧が15ミリバールを超えるように設定した。このとき、全圧は、約1バールであった。次いで、反応混合物を10k/分の加熱速度で1,450℃まで加熱した。1,450℃での保持時間は、4.5時間であった。1,050℃から1,450℃への加熱及び1,450℃での保持は、露点が−40℃未満の乾燥水素の供給下に実施したが、このとき、全圧は約1バールであった。炉の冷却も、また、露点が−40℃未満の水素下に実施した。その後、焼結ケーキを砕いて粉末にした。同様にして、1.2gのYに代えて、それぞれ、1.2gの粒径0.5μmのTiO、1.2gの粒径1.2μmのZrO、又は1.2gの粒径1.9μmのHfO、を含有する粉末を製造した。このようにして製造された粉末は、多孔性構造を有しており、その粉末形状は、ASM分類による「多孔状」分類に相当する。図5は、Yでドープした態様の粒子表面の例を示す。1μm未満の平均粒子直径を有する微粒子が、クロム含有多孔性粒子の表面に認識できる。これらの粒子は、表面上に均一に分布している。TiO、HfO及びZrOをドープした態様も、また、微小で均一なドーパントの分布を示す。Yでドープした態様の化学分析結果は、291μg/gの炭素、1,320μg/gの酸素、1,128μg/gのイットリウム並びに残部クロム及び典型的な混入物であった。Yでドープした態様の空隙率は、明細書中でより詳細に説明したように、円(図17cを参照)及び長方形(図17dを参照)を測定枠として使用して、定量的画像解析により実施した。10粒子の空隙率を測定したところ、その値は、61体積%から75体積%であった。平均空隙率は67.1体積%であった。
【0042】
別の態様として、5.95gに代えて1.2gのYを添加した。その後の製造は、上述のように実施した。図6に見るように、クロム粒子は、やはり、高度に多孔状である。微細に分布した平均粒径1.5μm未満のY粒子が表面上に認められる。化学分析の結果は、288μg/gの炭素、2,076μg/gの酸素及び4,049μg/gのイットリウムであった。
【0043】
(実施例3)
1632.6gのCr粉末(顔料品質。ランクセス社、バイオキシド CGN−R(Lanxess Bayoxide CGN−R))、367.4gのカーボンブラックを拡散ミキサー中で混合した。混合操作中に、硝酸イットリウム((Y(NO・6HO))の水溶液をスプレー法により添加した。このとき、Y(NO・6HO濃度の異なる3つのバッチを製造した。その濃度は、脱イオン水100mLに対して、それぞれ、4.5g、20.2g及び40.3gであった。このようにして製造された混合物を真空炉で乾燥し、10K/分の加熱速度で800℃まで加熱し、次いで、2K/分の加熱速度で1,050℃まで加熱した。加熱はHの作用下に実施し、このとき、H圧は、800℃〜1,050℃の温度範囲において、質量分析で測定したCH分圧が15ミリバールを超えるように設定した。このとき、全圧は、約1バールであった。次いで、反応混合物を10k/分の加熱速度で1,450℃まで加熱した。1,450℃での保持時間は、4.5時間であった。1,050℃から1,450℃への加熱及び1,450℃での保持は、露点が−40℃未満の乾燥水素の供給下に実施したが、このとき、全圧は約1バールであった。炉の冷却も、また、露点が−40℃未満の水素下に実施した。再び、ASM分類による「多孔状」分類に相当するクロム粒子が得られた。それぞれの粒子表面を、図7、8及び9に示す。これらの3つの場合において、全て、Yの平均粒径は、1μm未満であった。更に、粒子が非常に均一に分散されていることが認識できる。BET表面積は、0.10m/g(4.5g添加時)、0.14m/g(20.2g添加時)及び0.18m/g(40.3g添加時)であり、レーザー回折法により測定された粒径d50は、これら3つの態様について、約130μmであった。その後の処理で、粉末検鏡試片を製作し、クロム豊富な領域について、縦方向検鏡試片において、平均(10測定の平均値)ナノハードネスHIT 0.005/5/1/5を測定した。ナノハードネスHIT 0.005/5/1/5は、3.0GPa(4.5g添加時)、3.0GPa(20.2g添加時)及び3.1GPa(40.3g添加時)であった。
【0044】
(実施例4)
実施例1〜3で製造された粉末を、撹拌ミキサー中で、それぞれ、2質量%、5質量%及び10質量%の鉄粉末(レーザー回折法で測定した粒径d50は約8μmである)と混合した。このようして製造された混合物を水素雰囲気下の炉中で、1,000℃で30分間、アニールした。多孔状のクロム粉末の使用、混合及びアニーリングのお陰で、一方では、クロム粒子の細孔中に鉄粒子を部分的に導入することが可能であり、他方、それらをアニーリングにより、拡散結合(所謂、合金粉末)により固定することができる。1つの例(実施例1によるクロム粉末)として、このようにして製造された粉末を図10及び11に示す。
【0045】
(実施例5)
実施例1〜3で製造された粉末を、Fe粉末(フィッシャー法に依り測定した粒径:0.17μm)と混合した。クロム対鉄(質量%)比は、95:5であった。再び、微細な鉄粒子が多孔状のクロム粒子の細孔中に浸透し(図12)、このとき、クロム中でFeの非常に均質な分布が生じている。粉末混合物を、HO中、600℃の温度で4時間還元した(Feの鉄への還元)。更に、熱処理により、還元された鉄粒子が、拡散結合を通じて、クロム粒子の表面に付着した(合金粉末)。図13及び14は、合金化された鉄粒子を有するクロム含有粒子を、異なる倍率で示す。
【0046】
(実施例6)
特許文献1により製造され,鉄含有量5質量%、Y含有量0.11質量%、粒径d50:132μm及びBET表面積0.03m/gを有するCr−FeY粉末(CFYと定義する)を、0.6質量%の圧縮ワックスと混合し、550MPa又は850MPaの圧縮圧を用いて圧縮して、31.5mm×12.7mm×6mmの寸法を有する折り曲げ試料を形成した。0.11質量%のYを有するCr−Y粉末を実施例2で述べたように製造した。この粉末にFe粉末を添加した。このとき、クロム:鉄質量%比は、95:5であった。次に、この粉末を600℃で4時間還元した。篩で45〜250μmに篩い分けられた部分を0.6質量%の圧縮ワックスと混合した。この粉末(AS−113と定義する)から、31.5mm×12.7mm×6mmの寸法を有する折り曲げ試料を、550MPa又は850MPaの圧縮圧を用いて得た。グリーンストレングスを、ASTM B 312−09に従って、3点折り曲げ試験により測定した。本発明による粉末を用いることにより、グリーンストレングスの顕著な改善が達成された(図15参照)。
【0047】
(実施例7)
実施例6により,550MPaで圧縮された折り曲げ試料を、H雰囲気中、1,450℃で180分間、焼結に供した。2,000μmの距離に亘って、EDX法により鉄濃度を測定した。図16(CFY:従来技術、AS−113:本発明)に示されるように、本発明によるAS−113粉末を用いた鉄分布は、従来技術のCFYの場合よりも、はるかに均質であり、均一である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16
図17a
図17b
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図17d