(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441371
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】電極組成物又は磁気特性を有する組成物を作製する方法、該方法によって得られた混合物及び組成物、並びにそれらの電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20181210BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20181210BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20181210BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20181210BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20181210BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20181210BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20181210BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20181210BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20181210BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20181210BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20181210BHJP
H01G 11/32 20130101ALI20181210BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20181210BHJP
C08L 47/00 20060101ALI20181210BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20181210BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20181210BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20181210BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20181210BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20181210BHJP
H01F 1/08 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/485
H01M4/587
H01M4/36 C
H01G11/26
H01G11/38
H01G11/86
H01G11/32
C08L69/00
C08L47/00
C08L23/08
C08K3/24
C08K3/04
C08K3/32
H01G11/06
!H01F1/08 130
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-547169(P2016-547169)
(86)(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公表番号】特表2017-513175(P2017-513175A)
(43)【公表日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】FR2014050345
(87)【国際公開番号】WO2015124835
(87)【国際公開日】20150827
【審査請求日】2017年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】591136931
【氏名又は名称】ハッチンソン
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソンタグ フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】エイメ ぺロ ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】デュフォー ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】プレブ アルノー
(72)【発明者】
【氏名】ガロア ニコラ
【審査官】
小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−130542(JP,A)
【文献】
特開2011−134807(JP,A)
【文献】
特開2013−152932(JP,A)
【文献】
特開2008−248059(JP,A)
【文献】
特開2007−297644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
C08K 3/04
C08K 3/24
C08K 3/32
C08L 23/08
C08L 47/00
C08L 69/00
H01G 11/06
H01G 11/26
H01G 11/32
H01G 11/38
H01G 11/86
H01M 4/485
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/587
H01M 4/62
H01F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極用、若しくはスーパーキャパシタ電極用又は磁場発生用の、ポリマー組成物を作製する方法であって、該方法が、
a)溶融プロセスによって溶媒を用いずに、少なくとも1つの活物質と、結合剤形成ポリマー相と、犠牲ポリマー相とを加熱混合して、混合物を得る工程と、
b)前記犠牲ポリマー相を少なくとも一部、取り除いて、80%を超える重量分率にて前記活物質(複数の場合もある)を含む前記組成物を得る工程と、
を含み、工程a)において前記犠牲ポリマー相は15%以上の重量分率にて前記混合物中で使用され、
工程b)は、前記組成物を、前記リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、又はスーパーキャパシタ電極として組立てる前に実施され、
イ) 工程b)において、熱分解温度が前記結合剤形成ポリマー相の熱分解温度よりも少なくとも20℃低い前記犠牲ポリマー相が熱分解により取り除かれ、前記活物質は前記リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極用、若しくはスーパーキャパシタ電極用のフィラー又は磁場発生用の磁性フィラーであるか、
又は、
ロ) 工程b)において、少なくとも1つの液体抽出可能な犠牲ポリマーをベースとする前記犠牲ポリマー相が溶媒抽出により取り除かれ、前記活物質は、前記リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極用、又はスーパーキャパシタ電極用のフィラーである、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
工程a)において前記犠牲ポリマー相は両端値を含む20%〜80%の重量分率にて前記混合物中で使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)において前記犠牲ポリマー相を数平均径が1mmを超える顆粒形態で使用することと、工程a)を前記混合物中で前記結合剤形成ポリマー相と前記犠牲ポリマー相とのマクロ相分離を伴わずに密閉式ミキサ又は押出機にて行い、該結合剤形成ポリマー相が連続した該犠牲ポリマー相に均質に分散するか、又は該犠牲ポリマー相と共連続相を形成することとを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において、熱分解温度が前記結合剤形成ポリマー相の熱分解温度よりも少なくとも20℃低い前記犠牲ポリマー相が熱分解により取り除かれ、前記活物質は前記リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極用、若しくはスーパーキャパシタ電極用のフィラー又は磁場発生用の磁性フィラーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記犠牲ポリマー相は、ポリアルケンカーボネートから選ばれる少なくとも1つの犠牲ポリマーをベースとするものであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記犠牲ポリマー相は、ポリエチレンカーボネート及びポリプロピレンカーボネートから選ばれることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程b)において、少なくとも1つの液体抽出可能な犠牲ポリマーをベースとする前記犠牲ポリマー相が溶媒抽出により取り除かれ、前記活物質は、前記リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極用、又はスーパーキャパシタ電極用のフィラーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの液体抽出可能な犠牲ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びそれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記結合剤形成ポリマー相は、少なくとも1つの架橋又は非架橋エラストマーを含み、1%〜12%の重量分率にて前記混合物中で使用されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの架橋又は非架橋エラストマーは、水素化ブタジエン/アクリロニトリルコポリマー(HNBR)、エチレン/アクリレートコポリマー、ポリイソプレン及びそれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記活物質(複数の場合もある)は、85%以上の重量分率にて工程b)で得られた前記組成物に存在し、
フェライトから選択される磁性無機フィラー、
炭素でコーティングされた式LiMPO4のリチウム化リン酸金属M、式Li4Ti5O12のリチウム化酸化チタン、式LiCoO2、LiMnO4若しくはLiNi1/3Mn1/3Co1/3O4の酸化物、又はグラファイトから選択されるリチウム化ポリアニオン性化合物又は錯体を含む、リチウムイオンバッテリー電極でのリチウム挿入/脱挿入を可能にする活性無機フィラー、及び、
スーパーキャパシタ電極用の多孔質炭素を含むフィラー、
からなる群から選ばれるものであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程b)で得られた前記組成物は、30%〜70%の気孔率を有し、リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、又はスーパーキャパシタ電極の形成に適していることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程a)と工程b)との間に、工程a)で得られた前記混合物をカレンダー成形する工程を含むことと、工程b)で得られた前記組成物を50μm〜150μmの厚さのシートから形成することとを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、若しくはスーパーキャパシタ電極を形成可能な、又は磁場を発生可能な、ポリマー組成物であって、該組成物は、80%を超える重量分率にて少なくとも1つの、リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー用、スーパーキャパシタ電極用のフィラー又は磁場発生用の磁性フィラーである活物質と、結合剤形成ポリマー相と、犠牲ポリマー相とを含有し、
前記組成物をリチウムイオン若しくはナトリウムイオン電極、又はスーパーキャパシタ電極として組立てる前に、溶媒を含むことなく、前記少なくとも1つの活物質と、前記結合剤形成ポリマー相と、前記犠牲ポリマー相とが、前記組成物中に溶解又は分散され、
前記犠牲ポリマー相は、ポリアルケンカーボネートから選ばれる、又は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びそれらの混合物からなる群より選ばれる、少なくとも1つの犠牲ポリマーをベースとするものであり、
前記組成物は、0.001%以上の重量分率にて前記犠牲ポリマー相を含み、
前記結合剤形成ポリマーは、少なくとも1つの架橋又は非架橋エラストマーであり、水素化ブタジエン/アクリロニトリルコポリマー(HNBR)、エチレン/アクリレートコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする、ポリマー組成物。
【請求項15】
前記組成物は、0.01%〜10%の重量分率にて前記犠牲ポリマー相を含むことを特徴とする、請求項14に記載のポリマー組成物。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の前記組成物の前駆体を形成するのに使用可能なポリマー混合物であって、該混合物は、溶媒を含むことなく、前記少なくとも1つの活物質と、前記結合剤形成ポリマー相と、前記犠牲ポリマー相とが、前記混合物中に溶解又は分散し、15%以上の重量分率にて前記犠牲ポリマー相を前記混合物に含むことを特徴とする、混合物。
【請求項17】
前記混合物は、該混合物中に、両端値を含む20%〜80%の重量分率にて前記犠牲ポリマー相を含むことを特徴とする、請求項16に記載の混合物。
【請求項18】
前記結合剤形成ポリマー相は、連続した前記犠牲ポリマー相に均質に分散するか、又は該犠牲ポリマー相と共連続相を形成することを特徴とする、請求項16又は17に記載の混合物。
【請求項19】
請求項14又は15に記載のポリマー組成物を含むことを特徴とする、リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、又はスーパーキャパシタ電極。
【請求項20】
前記組成物はまた、カーボンブラック、グラファイト、膨張グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン及びそれらの混合物からなる群から選ばれる導電性フィラーを含み、該導電性フィラーは1%〜10%の重量分率にて該組成物に存在することを特徴とする、請求項19に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物、特にリチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、若しくはスーパーキャパシタ電極を形成するのに、又は磁気特性を呈するのに使用可能なポリマー組成物を作製する方法と、該方法を用いて得られるような組成物と、該方法の第1の混合工程を用いて得られたこの組成物の前駆体である混合物と、このリチウムイオンバッテリー電極又はスーパーキャパシタ電極とに関する。本発明は、選ばれる用途に応じて非常に高レベルのフィラー(有益には80重量%又は60体積%を超える)と制御された気孔率とを備える全てのポリマー組成物に適用されるものであり、フィラーは例えば、リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極用の無機活物質、スーパーキャパシタ電極用の多孔質炭素、又は磁性無機フィラーである。
【背景技術】
【0002】
高レベルのフィラーを含む物質の製造を可能にするいくつかのプロセスについては既に文献に記載がある。
【0003】
例えば、磁性フィラーについては、例えば特許文献1に記載のように、様々な化合物(例えば磁性フィラー、界面活性剤、相溶化剤、結合剤)を混合し、分散液又はスラリーを得て、それを乾燥させることで、磁性物質を得ることを可能にする、溶媒を用いたプロセスが一般的に用いられている。この分散液をコーティングした後、磁場を印加することで、磁性フィラーを配向させ、得られた塗膜を乾燥させた後、所望の形状へと切断し、最後に焼結を行うことで、最終物質が得られる。これらの磁性用途には、付随する磁場を可能な限り最大とするために、どちらかと言えば高密度物質が求められている。
【0004】
同タイプのプロセスはバッテリー分野においても見られ、ここでは電極は通常、ポリマー結合剤を含む電極の様々な化合物を溶媒に溶解又は分散させる工程と、続く金属コレクター(metal collector)上に広げる工程と、最後に溶媒を蒸発させる工程とを含む、有機溶媒又は水性溶媒を用いた方法により得られる。例えば特許文献2に記載の有機溶媒を用いたこの方法によって、溶媒が占める空間に起因して物質中の高気孔率を得ることが可能になる。この気孔率は電極を電解液に含浸させるのに必要であり、これによりその操作が保証される。
【0005】
これらの既知のコーティングプロセスは潜在的に毒性又は可燃性の有機溶媒を使用する際、環境面及び安全面に数多くの欠点を含む。これはこれらの溶媒を大量に蒸発させる必要があるためである。水性溶媒を使用する場合、コーティングによる既知のプロセスでは、電極をリチウムイオンバッテリー電池にて使用する前に電極のかなり徹底した(very thorough)乾燥を含めなければならない。
【0006】
さらに、溶媒の蒸発ではコーティングされた物質の気孔率を制御することは難しく、一般に塗料分野等の場合、溶媒によって、特に乾燥中の溶媒の移動、及び高モル質量のものを溶媒和させるのが難しいことから、組成物に添加剤を配合及び添加する可能性が制限される。
【0007】
そのため、溶媒の使用を避け、得られた組成物の気孔率を制御することを可能にするプロセスを行うことが強く望まれている。
【0008】
本質的に高レベルの磁性フィラーを物質に組み込む別の既知のプロセスは、例えば特許文献3に記載のようにフィラーと熱硬化性樹脂前駆体とを含むペーストを型に注入した後にペーストを焼成することからなる。得られた磁性物質は、三次元ネットワークにより結ばれた高レベルの磁性フィラーを有する。しかし一度架橋すると、これらの物質は変形させることができなくなり、一般に樹脂の反応のために長い処理時間が必要となるという欠点がある。さらに、このタイプのプロセスは粒間気孔を通る熱硬化性前駆体の流れ(ダルシーの法則)、ひいてはこれらの前駆体の粘度に強く依存する。ここでも、過剰な粘度により高モル質量のものを使用することができず、またフィラーにより誘導される付加的な濾過現象をもたらす複雑な配合物を使用することもできない。この注入プロセスは、用いられる短期間での高い操作圧での型の耐漏出性にも問題がある。最終的に、このプロセスでは最終物質の気孔率、ひいては密度を制御することは不可能である。
【0009】
最後に、熱可塑性物質に一般的に用いられているような連続プロセス(例えば押出、混合機、射出成形機)を使用することが既知の慣例であり、これにより物質の迅速な溶融処理が可能となる。しかしながら、これまでに達成されてきたフィラーのレベルは、考慮される無機フィラーに応じて変動する。実際に結合剤中にてフィラーと分散剤とを溶融混合するこれらのプロセスにより、高粘度及び大量に存在する無機フィラーによる結合剤の摩耗が生じる。さらに、得られる物質の密度を制御することも不可能である。実際、気孔率を何ら制御しないと、溶融プロセスに固有の高密度の物質しか得ることができない。
【0010】
磁性フィラーの組込みについては、エラストマー結合剤を用いた溶融プロセスによって物質を得ることを記載している特許文献4に言及することができるが、ここでは最良でも88%の重量含有率の磁性フィラーしか得られない。このようなプロセスを用いて90%を超える重量含有率のフィラーを達成するのを可能にするには一般に、結合剤と混合する前にこのフィラーの表面を修飾するカップリング剤によって、結合剤との相溶性を改善するために、フィラーを官能化する必要がある。しかしながら、このフィラーの官能化によって、プロセスの総費用及び複雑性が大きく増大する。さらにこれらの既知の溶融プロセスでは、気孔率、ひいては密度の制御は不可能である。特許文献5には、例えばエポキシオリゴマーによるフィラーの表面の官能化と、エポキシ官能基との架橋を可能にするアミンに不安定な水素を含む低モル質量(4kmol/g〜12kmol/g)のポリマー鎖の使用と、ペンタエリスリトール型の添加物及び脂肪酸の添加とによって、溶融プロセスを介して80%を超える体積含有率の磁性フィラーを含む物質を得ることが記載されている。
【0011】
高含有率の磁性フィラーを溶融により組み込むこれらのプロセスの主な欠点は、フィラーの表面を官能化するとともに、高モル質量によって生じる問題を避けるために、フィラー表面の相溶化を伴わずに、低モル質量、通例15kmol/g未満の結合剤を使用する必要性があることであり、これらのプロセスでは特に、高濃度のために非官能化フィラーにより、粘度、ひいてはプロセスに関連する圧力のかなりの増大、並びに機器及び機器に接する原物質のかなりの摩耗が生じる。
【0012】
バッテリー電極を作製するのに溶融プロセスを行うことも既知の慣例であるが、リチウムイオンバッテリー電極の十分な容量に必要となる活物質の重量含有率が85%以上でなければならないことから、特にリチウムイオンバッテリーの場合に大きな難題に直面する。あいにくかかる活物質含有率では、ポリマー混合物の粘度が非常に高くなり、混合物の過熱及び処理後の機械的凝集の喪失のリスクが起こる。
【0013】
リチウムイオンバッテリーは、アノード(概してグラファイト製)及びカソード(概して遷移金属酸化物製)という極性の異なる少なくとも2種の導電性ファラデー電極からなり、それらの電極の間には、イオン導電率をもたらすLi+カチオンベースの無極性電解液に浸漬した電気絶縁体からなるセパレータがあることを想起されたい。リチウムイオンバッテリー電極の活物質により、電極内でのリチウムの可逆的な挿入/脱挿入が可能となり、この活物質の重量分率が高くなれば、電極の容量は大きくなる。電極は更に、カーボンブラック等の導電性化合物と、電極上での十分な機械的凝集をもたらすためにポリマー結合剤とを含んでいなければならない。そのため、リチウムイオンバッテリーは、バッテリーの充電及び放電中のアノードとカソードとの間のリチウムイオンの可逆的な交換に基づくものであり、リチウムの物理特性から非常に低い質量に対して高いエネルギー密度を有している。
【0014】
電極、具体的にはリチウムイオンバッテリーの電極を作製するための溶融プロセスの例として、特に特許文献6及び特許文献7の2つの文献に言及することができ、これらはいずれもそれぞれこのバッテリー用のカソード組成物及びアノード組成物を提示している。これらの組成物はそれぞれ、電解溶媒に使用可能な架橋エラストマー結合剤及び不揮発性有機化合物の存在を特徴としている。この有機化合物は低い(通例、5%未満の)重量分率にて組成物に存在し、少なくとも1つのオレフィンの炭酸塩、例えばエチレンカーボネートであり得る。
【0015】
しかし、これら2つの文献で提示されるプロセスでは、得られる電極の気孔率を制御することは不可能である。
【0016】
特許文献8にて、ポリマー結合剤及び導電性希釈フィラーとともに、多くとも5%と低い重量分率の熱分解された犠牲ポリマーを使用することで、90%を超える重量分率にて活物質が組み込まれた電極を得ることにより、この課題に対する解決策を導くことが試みられているが、用いるプロセスについて詳述している実施例は全くなかった(溶媒を用いても又は用いなくても隔てなく行うことができる)。
【0017】
この文献で提示されるプロセスの主な欠点は、溶融プロセスにより得られた場合の電極の処理の難しさ、及び更にはリチウムイオンバッテリーでは不十分であることが分かっている電気化学容量である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0018664号
【特許文献2】米国特許第7235332号
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0280921号
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/017939号
【特許文献5】米国特許出願公開第2011/074531号
【特許文献6】米国特許出願公開第2013/0183577号
【特許文献7】米国特許出願公開第2013/0244098号
【特許文献8】米国特許第7820328号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって本発明の目的は、通例80%を超える非常に高い重量含有率のフィラーを組み込むことで、これらのフィラーを官能化する必要なく、特に目的用途に応じて得られる組成物の気孔率の制御を可能にすることにより、これらの欠点を克服する溶融製造プロセスを設計することである。
【0020】
この目的は、驚くべきことに得られる混合物における連続した犠牲ポリマー相の重量分率が15%以上となるように、活物質と、ポリマー結合剤を含む添加剤と、連続した犠牲ポリマー相とを、溶媒を蒸発させることなく溶融プロセスにより加熱混合することで、リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、若しくはスーパーキャパシタ電極を形成するのに、又は磁気特性を呈するのに使用可能なポリマー組成物が得られ、組成物中の活物質(複数の場合もある)の重量含有率が非常に高いにも関わらず、溶融混合物の処理中に可塑性の改善及び流動性の改善を伴い、所望の用途に応じて組成物の気孔率の制御が得られ、必要に応じて満足のいく電極容量又は満足のいく磁場特性が付与されることを発見したことで達成される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
したがって、本発明によれば、リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、若しくはスーパーキャパシタ電極を形成するのに、又は磁気特性を呈するのに使用可能なポリマー組成物を作製する方法が、
a)溶融プロセスによって溶媒を用いずに、少なくとも1つの活物質と、1つの結合剤形成ポリマー相と、1つの犠牲ポリマー相とを加熱混合して、混合物を得る工程と、
b)上記犠牲ポリマー相を少なくとも一部取り除いて、80%を超える重量含有率にて活物質(複数の場合もある)を含む上記組成物を得る工程と、
を含み、本発明によるこの方法では、工程a)において上記犠牲ポリマー相を15%以上の重量分率にて上記混合物中で使用するようになっている。
【0022】
工程a)において上記犠牲ポリマー相は両端値を含む20%〜80%の重量分率にて上記混合物中で使用することが好ましい。
【0023】
本発明の方法により、溶融プロセスにより直接、また従来の塑性変形技法を用いて、得られる組成物に、80重量%を超える又は60体積%未満の非常に高い累積含有率のフィラーを組み込み、これらの組成物からなる電極が組み込まれた電気化学電池に高い性能レベルをもたらすことが可能となることに留意する。
【0024】
このようにして溶融プロセスにより、選ばれた用途に応じてそのまま使用可能な物質を作製することが可能となり、この物質には、フィラー表面を事前に修飾することなく、またカップリング剤を使用することなく、犠牲相を形成及び除去した後にこれらの非常に高い含有率のフィラーが含まれている。
【0025】
このプロセスによって、孔の大きさ、量及び形態について孔を制御することにより、目的用途に応じて導入された犠牲相の量を介して組成物内の気孔率を制御すること、又は更に任意にこの溶融プロセス及び選ばれた用途の観点からその性質について良好に選ばれた連続した犠牲相を用いて、この気孔率を排除することが可能となることも留意されたい。例えば寸法が20μm未満の開放気孔率が、電解液を吸収するのを可能にする電極等の用途に望ましい場合がある。用途のタイプに応じて、組成物の気孔率は、より高密度な物質を得るために、圧縮により制御(密度/磁性の減弱(compromise))、低減又は更には排除することができる。実際に、選ばれた用途に応じて、同等の磁場となるように密度を低減するか、又は密度を増大することにより所与の体積となるように磁場を増大させることが可能である。電極を得るために、この物質を圧縮することで、気孔率を制御することもできる。
【0026】
さらに、結合剤形成相の分散液及び均質分散液と、犠牲相と、活物質(複数の場合もある)との混合を溶融プロセス中に行う。組成物の機械的特性及び凝集を最適なものにするために、結合剤形成相の任意の架橋が可能であるが、今後変形が想定される場合には必要ではない。
【0027】
本発明による方法は、例えば押出等の従来のプラスチック技法に典型的な短い処理時間をもたらし、架橋が行われない限りは本発明の組成物の処理能力の改善は引き続き維持されることにも留意する。
【0028】
本発明の別の特徴によれば、工程a)において上記犠牲ポリマー相を数平均径が1mmを超える(すなわちナノ粒子ではない)顆粒形態で使用することができ、工程a)を上記混合物中で結合剤形成ポリマー相と犠牲ポリマー相とのマクロ相分離を伴わずに密閉式ミキサ又は押出機にて行い、結合剤形成ポリマー相が連続した犠牲ポリマー相に均質に分散するか、又は犠牲ポリマー相と共連続相を形成する。
【0029】
犠牲相は、混合物の残りに影響を及ぼさずに、単純な熱分解又は抽出を可能にする任意の他のプロセスにより抽出することができることに留意する。犠牲相は揮発性化合物を使用する場合に減圧によりダイから出たらすぐに直接抽出することもできる。分解中にほとんど又は全く残らない1つ又は複数のポリマーを犠牲物質として使用することが好ましい。しかしながら、最終用途に適合するようなポリマーが犠牲相として選ばれる場合、変法として、ポリマーの抽出を制御して、得られる組成物に犠牲相を一部残すことが可能である。
【0030】
本発明の1つの実施の形態によれば、工程b)において熱分解温度が結合剤形成相の熱分解温度よりも少なくとも20℃低い上記犠牲ポリマー相が熱分解によって、任意に残渣を残さずに実質的に取り除かれる。この場合、この犠牲相はポリアルケンカーボネート、好ましくはポリエチレンカーボネート及び/又はポリプロピレンカーボネート(明確な熱分解温度を有することが知られる他のポリマーも使用可能である)から選ばれる少なくとも1つの犠牲ポリマーをベースとするものであるのが好ましい。
【0031】
本発明の別の実施の形態によれば、上記犠牲ポリマー相は任意に工程b)において溶媒による抽出によって残渣を残さずに実質的に排除され、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの液体抽出可能な犠牲ポリマーをベースとする(液体抽出可能なポリマーの他の基剤である水性基剤又は有機基剤も使用可能であることに留意されたい)。
【0032】
この処理、最終組成物の完全性及びその気孔率を制御することができるようにするために、結合剤形成ポリマー(複数の場合もある)−犠牲ポリマー(複数の場合もある)の組合せを慎重に選び、また情報つまり用いるツール(例えば押出の場合に軸プロファイル)を完全に理解した上で、添加剤の割合、任意の相溶化剤等を選びながら、混合を行う必要があることに留意する。実際に、上記で説明されたように、結合剤形成相と犠牲相との間の処理中においてマクロ相(数十μmより大きい非分散ポリマー(複数の場合もある)の純相)分離を避ける必要がある。
【0033】
犠牲相の分解を補助する添加剤として、例えばポリプロピレンカーボネートに光酸発生剤を使用することが可能であることにも留意する(Cupta M., Jayachandran P., Khol P.による文献、Photoacid generators for catalytic decomposition of polycarbonate, Journal of Applied Polymer Science, 2007, Vol. 105, pp. 2655-2662に言及することができる)。これらの光酸の使用により、特にカソードの処理後に分解温度を低減することが可能になる。そのため、光酸発生剤は本発明に必ず必要というわけではないが有用なものである。
【0034】
本発明の方法に使用可能であり、好ましくは85%以上の重量分率にて工程b)で得られる組成物に存在する活物質(複数の場合もある)には、所望の用途に応じて、
当業者にとって既知の全ての磁性無機フィラー、例えばフェライトFe
2O
3及びNd−Fe−B又はSm−Fe−N型の又はコバルト系、例えば特にSmCoの磁性物質、
リチウム化ポリアニオン性化合物又は錯体、例えば炭素でコーティングされた式LiMPO
4のリチウム化リン酸金属M(例えばC−LiFePO
4)、式Li
4Ti
5O
12のリチウム化酸化チタン、又はカソードについて当業者に既知の任意の他の活物質(例えばLiCoO
2、LiMnO
4若しくはLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
4)若しくはアノードについて当業者に既知の任意の他の活物質(例えばグラファイト)を含む、リチウムイオンバッテリー電極でのリチウム挿入/脱挿入を可能にする活性無機フィラー、及び、
スーパーキャパシタ電極用の多孔質炭素を含むフィラー、
からなる群から選ばれるフィラーを使用することができる。
【0035】
導電性無機フィラーは、例えばリチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー用又はスーパーキャパシタ用の電極については他のものとともに添加することができるが、導電率が1S/cmを超える高導電用途については単独でも添加することができる。例として、導電性カーボンブラックだけでなく、グラファイト、グラフェン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ及びそれらの混合物も挙げることができる。
【0036】
処理後に組成物の凝集をもたらす結合剤形成ポリマー(複数の場合もある)については、溶融処理を受けることができ、先に述べたように選択された犠牲相と相溶化可能ないずれのポリマー基剤を使用することができる。例として、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、アクリルポリマー、アクリレート、メタクリレート、酢酸ビニル、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、芳香族ポリマー及びエラストマーを挙げることができる。
【0037】
上記結合剤形成相は、1%〜12%の重量分率にて上記混合物で使用され、好ましくは水素化ブタジエン/アクリロニトリルコポリマー(HNBR)、エチレン/アクリレートコポリマー、ポリイソプレン及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、少なくとも1つの架橋又は非架橋エラストマーを含むことが好ましい。変法として、熱可塑性エラストマー又はゴム型の他のエラストマーが使用可能である。しかしながら、おおよそ−20℃〜80℃の温度範囲に亘り連続した弾性を与える結合剤を使用することが好ましく、特にHNBR又はエチレン/アクリレートコポリマー等のエラストマーの使用が選好される。
【0038】
本発明の組成物に特定の添加剤を添加することで、本組成物の製造方法を改善又は最適化することが可能である。結合剤を架橋させる化合物、及びそれらの架橋及び均質化を補助することができる補助物質を添加することも可能である。例えば、架橋剤として有機過酸化物を挙げることができ、補助物質としてシアヌル酸トリアリルを挙げることができる。光開始剤又は硫黄含有化合物等の結合剤を架橋させる(通例、加硫によりゴムを架橋させる)いずれの化合物を使用することができる。変法として、ペンダント官能基上での反応により、ポリマー鎖間の架橋の形成、及び結果として結合剤の架橋がもたらされるのであれば、結合剤のペンダント鎖上での二官能性化合物、例えば無水マレイン酸、エポキシド、酸、アルコール、アミン、アミド又はエステル官能基の化学反応を利用することができる。架橋により、結合剤の性質に応じて組成物を凝集させることが可能となる。上記のように、架橋剤及び補助物質の使用は有用ではあるが、本発明に必ず必要というわけではなく、目的用途、及び組成物に対する処理能を保護する必要性があるか(架橋しない場合)又は保護しなくてよいか(架橋組成物の場合)に直接左右されることに留意する。
【0039】
工程b)で得られた上記組成物は、30%〜70%の気孔率を有することができ、リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、又はスーパーキャパシタ電極の形成に適していることが有益である。
【0040】
本発明の別の特徴によれば、上記方法は、工程a)と工程b)との間に、工程a)で得られた上記混合物をカレンダー成形する工程を含むことができ、工程b)で得られた上記組成物は50μm〜150μmの厚さのシートから形成される。
【0041】
上記犠牲ポリマー相の排除が一部のみである場合についての本発明の別の態様によれば、リチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、若しくはスーパーキャパシタ電極の形成に、又は磁気特性を呈するのに使用可能な本発明によるポリマー組成物は、上で規定のように上記の本発明の方法を用いて得られるとともに、0.001%以上、例えば0.01%〜10%の重量分率にて上記犠牲相を含み得るようなものである。
【0042】
本発明の更に別の態様によれば、この組成物の前駆体(例えば電極前駆体)を形成するのに使用可能な本発明によるポリマー混合物は、上記の本発明の方法の工程a)により得られるとともに、15%以上、好ましくは両端値を含む20%〜80%の重量分率にてこの混合物中に上記犠牲ポリマー相を含むようなものである。
【0043】
上で示したように、本発明のこの混合物は、上記結合剤形成相が、連続した上記犠牲ポリマー相に均質に分散するか、又は犠牲ポリマー相と共連続相を形成するようなものである。
【0044】
本発明によるリチウムイオン若しくはナトリウムイオンバッテリー電極、又はスーパーキャパシタ電極(例えばカソード又はアノード)は、上で規定のように本発明によるポリマー組成物を含むようなものである。
【0045】
この電極は、上記組成物がまた、カーボンブラック、グラファイト、膨張グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン及びそれらの混合物からなる群から選ばれる導電性フィラーを含み、上記導電性フィラーは1%〜10%の重量分率にて組成物に存在するようなものであり得ることが有益である。
【0046】
本明細書に記載の本発明は、より高い無機(金属、磁性等)フィラー含有率、及び任意に例えば2つの反磁性体間のスクリーンを絶縁するための得られる組成物の気孔率の制御を必要とする上述のもの以外の分野に適用することができることに留意されたい。磁性フィラーを導電性フィラーに置き換えることにより、溶融プロセスを介して、所望の用途に応じて任意に多孔質である非常に高い(1S/cmを超える)導電率を有する物質を使用することも可能である。制御、最終的には分散した気孔率によって断熱又は防音と同時に高フィラー含有率が可能となる。そのため例えば、ゼーベック効果又はペルチェ効果について断熱と合わせて高導電率、並びに熱電発電機の効果を有益に得ることが可能である。
【0047】
本発明の他の特徴、利点及び詳細は、本発明によらない「対照」例との比較で非限定的な説明のために与えられる本発明のいくつかの実施例の下記記載を読むことで明らかとなる。
【0048】
エネルギー貯蔵用途のための無機フィラーの使用の場合、得られる組成物は電気化学的に特徴付けられている。このため直径14mmのディスクを、ホールパンチを用いて切断し、不活性雰囲気下においてグローブボックスに入れた。リチウム金属を対電極として用いたボタン電池をグローブボックスにおいて組み立てることで、半電池を作製した。使用電解液(Solvionic社から提供)は以下のとおりであった:1v/1vでのEC/DMC中の1MのLiPF
6。このように組み立てられた電池は、様々な充放電率で「Biologic VMP3」定電流ベンチにて特徴付けられた。測定は本質的にC/5にて行われた。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0049】
本発明による実施例1:
磁性物質の組成物1を、犠牲ポリマーの抽出前では混合物について、またこの抽出後では得られた組成物1について下記配合(重量分率及び体積分率として表される)に従って調製した。
【0050】
【表1】
【0051】
組成物1は60℃の密閉式ミキサを用いて調製した。初めにHNBRとポリエチレンカーボネートの一部とを添加することで、可塑化した溶融混合物を得た。次いで、残りのポリエチレンカーボネートを定期的に加えながら、均質な混合物が得られるまで磁性フィラーを徐々に添加した。
【0052】
次いで得られた混合物をシート状にカレンダー成形した後に、230℃の空気循環式オーブンに15分間入れた。最後に得られた生成物を150℃のプレス機に入れることで、物質を再密化して、この組成物1を形成した。
【0053】
熱処理中、ポリエチレンカーボネートの排除を重量差により評価した。したがって混合物に最初に組み込まれたポリエチレンカーボネートが100%分解した。これにより、組成物1の密度が3g/cm
3から2.4g/cm
3に低減した。再密化の後、3.7g/cm
3の密度が得られた。
【0054】
プリアンブルに記載の従来技術とは対照的に、組成物1を作製するこのプロセスには磁性フィラーの表面官能化は必要ではなく、大量のフィラー(95%の重量含有率)及び犠牲ポリマーの抽出後の物質の再密化により最終生成物において磁性フィラーが発生する磁場のために、磁性フィラーをそのまま使用することができることに留意する。
【0055】
このプロセスにより、溶融混合物における相対的に高含有率(20%の重量含有率)の犠牲相の存在及び混合物の流動性により、一方向の強い磁場を得ることが可能となることにも留意する。フィラーを添加及び配向したら、この抽出及び再密化により、この配向が保護されるとともに、放出磁場の密度、ひいては強度を増大することが可能となる。
【0056】
本発明による実施例2:
リチウムイオンバッテリーのカソード組成物2を、犠牲ポリマーの抽出前では混合物について、またこの抽出後では得られた組成物2について下記配合に従って調製した。
【0057】
【表2】
【0058】
組成物2は70℃の密閉式ミキサを用いて調製した。初めにHNBRとポリエチレンカーボネートの一部とを添加することで、可塑化した溶融混合物を得た。次いで、残りのポリエチレンカーボネートを定期的に加えながら、均質な混合物が得られるまで無機フィラーを徐々に添加した。
【0059】
次いで得られた混合物をシート状にカレンダー成形して、170℃で15分間、加圧下にて圧縮した。最後に、230℃の空気循環式オーブン内での15分間の犠牲ポリマーの分解工程を行った。熱処理中、ポリエチレンカーボネートの排除を重量差により評価した。したがって混合物に最初に組み込まれたポリエチレンカーボネートが100%分解した。これにより、電極の密度が2.0g/cm
3から1.3g/cm
3へと低減し、また50%の気孔率が得られた。
【0060】
30重量%を超える犠牲相を含む溶融混合物に由来し、85重量%の活物質を含む、得られた組成物2をカソードとして直接使用することができることに留意する。実際、この組成物2はLi金属に対するボタン電池において特徴付けられた。電流をC/5の充放電率と同等となるように固定することにより、1グラムのカソード当たり115mAhの最大到達放電容量が得られ(集電装置の重量は含めない)、これは1グラムのC−LiFePO
4当たり135mAhの容量に相当する。
【0061】
本発明による実施例3:
リチウムイオンバッテリーのカソード組成物3を、犠牲ポリマーの抽出前では混合物について、またこの抽出後では得られた組成物3について下記配合(重量分率及び体積分率として表される)に従って調製した。
【0062】
【表3】
【0063】
組成物3は80℃の密閉式ミキサを用いて調製した。初めにHNBRと高モル質量のポリプロピレンカーボネートとを添加することで、可塑化した溶融混合物を得た。次いで、低モル質量ポリプロピレンカーボネートを定期的に加えながら、均質な混合物が得られるまで無機フィラーを徐々に添加した(粘性を低減するとともに、添加を容易にするために、物質をおよそ60℃に余熱することが必要な場合がある)。
【0064】
次いで得られた混合物をシート状にカレンダー成形して、170℃で15分間、加圧下にて圧縮した。最後に、230℃の空気循環式オーブン内での45分間の犠牲ポリマーの分解工程を行った。熱処理中、ポリエチレンカーボネートの排除を重量差により評価した。したがって混合物に最初に組み込まれたポリエチレンカーボネートが100%分解した。これにより、電極の密度が2.1g/cm
3から1.6g/cm
3へと低減し、また40%の気孔率が得られた。
【0065】
20重量%を超える犠牲相を含む溶融混合物に由来し、85重量%の活物質を含む、得られた組成物3をカソードとして直接使用することができることに留意する。実際、この組成物3はLi金属に対するボタン電池において特徴付けられた。電流をC/5の充放電率と同等となるように固定することにより、1グラムのカソード当たり123mAhの最大到達放電容量が得られ(集電装置の重量は含めない)、これは1グラムのC−LiFePO
4当たり145mAhの容量に相当する。
【0066】
本発明による実施例4:
リチウムイオンバッテリーのカソード組成物4を、犠牲ポリマーの抽出前では混合物について、またこの抽出後では得られた組成物4について下記配合(重量分率及び体積分率として表される)に従って調製した。
【0067】
【表4】
【0068】
組成物4は3つの重量測定装置と、サイドフィーダーと、ギアポンプと、フラットダイとを備えた二軸押出機を用いて調製した。様々な出発物質をこれらの様々な重量測定装置に分配した。押し出し中に測定装置の流量を調節することで、所望の組成物4を得た。出発物質は特定の軸プロファイルを用いて二軸押出機において溶融プロセスにより分散及び均質にさせた。押出機の末端にあるギアポンプ及びフラットダイは、集電装置上に直接堆積させるフィルムの形で得られる混合物を形成する役割を果たすものであった。このようにして得られたフィルムを続いて、230℃で60分間、空気下にて熱処理することで、最終組成物4を得た。
【0069】
熱処理中、ポリプロピレンカーボネートの排除を重量差により評価した。したがって混合物に組み込まれたポリプロピレンカーボネートが100%分解した。これにより、電極の密度が2.0g/cm
3から1.4g/cm
3へと低減し、また50%の気孔率が得られた。
【0070】
30重量%を超える犠牲相を含む溶融混合物に由来し、90重量%の活物質を含む、得られた組成物4をカソードとして直接使用することができる。実際、この組成物はLi金属に対するボタン電池において特徴付けられた。電流をC/5の充放電率と同等となるように固定することにより、1グラムのカソード当たり123mAhの最大到達放電容量が得られ(集電装置の重量は含めない)、これは1グラムのC−LiFePO
4当たり136mAhの容量に相当する。
【0071】
本発明による実施例5:
リチウムイオンバッテリーのカソード組成物5を、犠牲ポリマーの抽出前では混合物について、またこの抽出後では得られた組成物5について下記配合(重量分率及び体積分率として表される)に従って調製した。
【0072】
【表5】
【0073】
組成物5は3つの重量測定装置と、サイドフィーダーと、ギアポンプと、フラットダイとを備えた二軸押出機を用いて調製した。様々な出発物質をこれらの様々な重量測定装置に分配した。押し出し中に測定装置の流量を調節することで、所望の組成物5を得た。出発物質は特定の軸プロファイルを用いて二軸押出機において溶融プロセスにより分散及び均質にさせた。押出機の末端にあるギアポンプ及びフラットダイは、集電装置上に直接堆積させるフィルムの形で得られる混合物を形成する役割を果たすものであった。このようにして得られたフィルムを続いて、230℃で60分間、空気下にて熱処理することで、最終組成物5を得た。
【0074】
熱処理中、ポリプロピレンカーボネートの排除を重量差により評価した。したがって混合物に組み込まれたポリプロピレンカーボネートが100%分解した。これにより、電極の密度が2.1g/cm
3から1.4g/cm
3へと低減し、また50%の気孔率が得られた。
【0075】
30重量%を超える犠牲相を含む溶融混合物に由来し、90重量%の活物質を含む、得られた組成物5をカソードとして直接使用することができる。実際、この組成物はLi金属に対するボタン電池において特徴付けられた。電流をC/5の充放電率と同等となるように固定することにより、1グラムのカソード当たり135mAhの最大到達放電容量が得られ(集電装置の重量は含めない)、これは1グラムのLi
4Ti
5O
12当たり150mAhの容量に相当する。
【0076】
本発明による実施例6:
リチウムイオンバッテリーのカソード組成物6を、犠牲ポリマーの抽出前では混合物について、またこの抽出後では得られた組成物6について下記配合(重量分率及び体積分率として表される)に従って調製した。
【0077】
【表6】
【0078】
組成物6は70℃の密閉式ミキサを用いて調製した。初めにHNBRとポリエチレンカーボネートの一部とを添加することで、可塑化した溶融混合物を得た。次いで、残りのポリエチレンカーボネートを定期的に加えながら、均質な混合物が得られるまで無機フィラーを徐々に添加した。
【0079】
次いで得られた混合物をシート状にカレンダー成形して、170℃で15分間、加圧下にて圧縮した。最後に、240℃の空気循環式オーブン内での30分間の犠牲ポリマーの分解工程を行った。熱処理中、ポリエチレンカーボネートの排除を重量差により評価した。したがって混合物に最初に組み込まれたポリエチレンカーボネートが100%分解した。これにより、66%の気孔率が得られた。
【0080】
50重量%の犠牲相を含む溶融混合物に由来し、85重量%の活物質を含む、得られた組成物6をカソードとして直接使用することができる。実際、この組成物6はLi金属に対するボタン電池において特徴付けられた。電流をC/5の充放電率と同等となるように固定することにより、1グラムのカソード当たり109mAhの最大到達放電容量が得られ(集電装置の重量は含めない)、これは1グラムのC−LiFePO
4当たり128mAhの容量に相当する。
【0081】
さらに、この電極を犠牲相の分解後に圧縮して得られた生成物は組成物6と同じ最終配合を有したままであり、これもカソードとして直接使用可能であった。この組成物は先述のようにLi金属に対するボタン電池において特徴付けられ、C/5の充放電率と同等となるように電流を固定することで、1グラムのカソード当たり106mAhの最大到達放電容量が得られ(集電装置の重量は含めない)、これは1グラムのC−LiFePO
4当たり124mAhの容量に相当する。
【0082】
溶融混合物中で用いられる犠牲相の非常に高い重量含有率(50%)により、この混合物が極めて流動性となり、非常に薄い電極厚さ(50μm)を達成することが可能となることが有益であることに留意する。
【0083】
最後の圧縮により、組成物6の非常に高い気孔率(66%)を低減することで、エネルギー密度を電極に許容可能なものにすることが可能となることにも留意する。
【0084】
本発明によらない「対照」例:
リチウムイオンバッテリーの「対照」カソード組成物を、犠牲ポリマーの抽出前では混合物について、またこの抽出後では得られた「対照」組成物について下記配合(重量分率及び体積分率として表される)に従って調製した。
【0085】
【表7】
【0086】
「対照」組成物は70℃の密閉式ミキサを用いて調製した。初めにHNBRとポリエチレンカーボネートとを添加することで、可塑化した溶融混合物を得た。次いで、無機フィラーの一部を徐々に添加した。残りの無機フィラーは開放式ミキサにて添加する必要があった。これは密閉式ミキサにフィラーを完全に添加すると、摩耗による焦げ(scorching)現象が起こるためである。
【0087】
次いで得られた混合物をシート状にカレンダー成形して、170℃で15分間、加圧下にて圧縮した。混合物の粘度が高いために、本発明の方法を用いて通常環境下にて得られた50μm〜150μmに対して、280μmの厚さしか得ることができなかった。
【0088】
最後に、230℃の空気循環式オーブン内での20分間の犠牲ポリマーの分解工程を行った。熱処理中、ポリエチレンカーボネートの排除を重量差により評価した。したがって混合物に最初に組み込まれたポリエチレンカーボネートが100%分解した。これにより、僅か17.6%の気孔率が得られた。
【0089】
得られた「対照」組成物はLi金属に対するボタン電池において特徴付けられた。電流をC/5の充放電率と同等となるように固定することにより、1グラムのカソード当たり26mAhの最大到達放電容量が得られ(集電装置の重量は含めない)、これは1グラムのC−LiFePO
4当たり30mAhの容量に相当する。
【0090】
本発明の溶融混合物にて要求される少なくとも15%の量に対して、わずか10重量%の犠牲相を含有する溶融混合物に由来するこの「対照」組成物は使用するのが非常に困難であることに留意する。
【0091】
さらに、このあまり多孔性ではない(very sparingly porous)「対照」組成物(20体積%未満の気孔率)は、組成物の基となる活物質への電解液のアクセスが不十分であるために有効な電気化学結果をもたらさない(1グラムのカソード当たりわずか26mAhの最大放電容量を参照されたい)。これは特に、1グラムのカソード当たり115mAhの最大放電容量をもたらす、活物質の最終重量含有率は同じであるが(85%)、極めて高い重量含有率(30%を超える)の犠牲相が組み込まれていることを特徴とする、本発明による実施例2とは対照的なものであった。