【文献】
Biochimica et Biophysica Acta,2013年12月27日,Vol.1842,p840-847
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記腫瘍は肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、前立腺癌、神経膠腫、黒色腫、膵臓癌、鼻咽頭癌、肺癌又は胃癌のうちの1種又は複数種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
前記腫瘍は肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、前立腺癌、神経膠腫、黒色腫、膵臓癌、鼻咽頭癌、肺癌又は胃癌のうちの1種又は複数種であることを特徴とする請求項8又は9に記載の抗腫瘍投与システム。
前記腫瘍は肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、前立腺癌、神経膠腫、黒色腫、膵臓癌、鼻咽頭癌、肺癌又は胃癌のうちの1種又は複数種であることを特徴とする請求項14又は15に記載の抗腫瘍薬。
前記腫瘍は肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、前立腺癌、神経膠腫、黒色腫、膵臓癌、鼻咽頭癌、肺癌又は胃癌のうちの1種又は複数種であることを特徴とする請求項21又は22に記載の使用。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、安全且つ効果的なウイルスによる抗腫瘍薬を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の別の目的は、特定の腫瘍タイプに対する安全且つ効果的なウイルス抗腫瘍薬を提供することにある。
【0009】
本発明の更に別の目的は、特定の個体/腫瘍に対して安全且つ効果的なウイルス抗腫瘍薬を提供することにある。
【0010】
本発明の更に別の目的は、効果的な抗腫瘍投与システム及び投与方法を提供することにある。
【0011】
本発明の更に別の目的は、より効果的な抗腫瘍薬及び腫瘍治療方法を提供することにある。
【0012】
本発明は以下の手段により上記の目的を実現する。
【0013】
本発明はアルファウイルスの抗腫瘍薬の製造への応用を提供しており、前記アルファウイルスはM1ウイルス又はゲタウイルスである。
【0014】
M1ウイルス(Alphavirus M1)はアルファウイルス属(Alphavirus)に属し、1964年に中国海南島のイエカ属(Culex)の蚊から分離されたものである(Li XD,et al:Isolation of Getah virus from mosquitos collected on Hainan Island,China,and results of a serosurvey.Southeast Asian J Trop Med Public Health 23:730-734,1992.)。2008年にM1ウイルスの全ゲノム配列が決定された(Zhai YG,et al:Complete sequence characterization of isolates of Getah virus(genus Alphavirus,family Togaviridae)from China.J Gen Virol 89:1446-1456,2008.)。その取得方法として、上記の文献に記載の方法又は以下の寄託情報により取得することができるが、これに限定されない(寄託番号:CCTCC V201423;寄託時間:2014年7月17日;分類学上の位置:Alphavirus M1;寄託機関:中国典型培養物保蔵センター;寄託住所:湖北省武漢市武昌珞珈山武漢大学)。
【0015】
本発明者らはこの前M1ウイルスについて研究した結果、M1ウイルスはある腫瘍細胞、例えばラット悪性神経膠腫細胞C6、ヒト悪性神経膠腫細胞U251及びU-87に対して殺滅作用を有する一方、他の腫瘍細胞、例えばヒト悪性神経膠腫細胞T98Gに対して殺滅作用を有しないことが示された。これらの研究は、M1ウイルスが有効な抗腫瘍効果を有することを確定できるものではない。
【0016】
本発明は、さらに、M1ウイルスの抗腫瘍薬としての治療有効性を高めるために、該ウイルスが適用される腫瘍タイプを提供する。
【0017】
さらに好ましくは、本発明に係るM1ウイルスが抗腫瘍薬として適用される腫瘍タイプは、肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、前立腺癌、神経膠腫、黒色腫、膵臓癌、鼻咽頭癌、肺癌、胃癌の1種類又は2種類以上である。
【0018】
本発明者らは、M1ウイルスが各種類の腫瘍細胞に対し異なる程度の細胞死亡を誘起することを発見した。M1ウイルス(MOI=10)で腫瘍細胞を48時間処理した結果、膵臓癌、鼻咽頭癌、前立腺癌及び黒色腫細胞の死亡率は50%を超え、結腸直腸癌(LoVo、HCT-8、SW620及びSW480)、肝臓癌(Hep3B、Huh-7及びHuh-6)、膀胱癌及び乳癌細胞の死亡率は40%を超え、神経膠腫、子宮頸癌、肺癌細胞の死亡率は30%を超え、胃癌細胞の死亡率は20%を超えた。上記の結果から明らかなように、M1ウイルスの抗腫瘍薬としての効果について、最も顕著なのは、膵臓癌、鼻咽頭癌、前立腺癌及び黒色腫に対する効果;次は、結腸直腸癌、肝臓癌、膀胱癌及び乳癌に対する効果;さらに次は、神経膠腫、子宮頸癌、肺癌に対する効果;さらに次は、胃癌に対する効果である。
【0019】
M1ウイルスはゲタウイルスに類似するウイルスであることに鑑み、ゲタウイルスとの相同性が97.8%と高いため、当業者にとって、M1ウイルスの抗腫瘍効果に基づいて、ゲタウイルスはM1ウイルスと類似する作用及び効果を奏することができることが認められる。
【0020】
さらに、本発明は、特定の個体/腫瘍に対して、より正確且つ効果的に治療計画を設計し、治療薬物を投与する方法、及び特定の個体/腫瘍に対する薬物を提供する。
【0021】
本発明者らは、前記ウイルスがZAP低発現腫瘍又はZAP陰性腫瘍の治療に好適に使用され、好ましくは、ZAP低発現の固形腫瘍又はZAP陰性の固形腫瘍の治療に使用されることを、初めて発見した。
【0022】
M1ウイルスの腫瘍治療に対する有効性は、腫瘍ZAP発現調節と密接に関連している。M1ウイルスの複製がZAPに抑制され、且つZAPが数多くの腫瘍において低発現又は陰性であるため、M1ウイルスはZAP低発現又はZAP陰性の腫瘍/個体を選択的に治療することができる。
【0023】
ZAPとは、CCCH型亜鉛フィンガー抗ウイルスタンパク質1の略語を意味し、英語でZinc finger CCCH-type antiviral protein 1と表記され、zc3hav1遺伝子によってコードされる。細胞内のZAPは、RNA分解及び翻訳抑制の誘導メカニズムによりあるウイルス、例えばエボラウイルス及びマールブルグウイルスの複製を阻害する一方、他のウイルス、例えば水疱性口内炎ウイルス、ポリオウイルス及び黄熱ウイルス等の複製には阻害作用を有しない。
【0024】
本発明者らは、M1ウイルスはZAP低発現/ZAP陰性の細胞株において細胞の死亡を顕著に誘起することができ、M1ウイルスは腫瘍担持動物の体内でZAP低発現/ZAP陰性の腫瘍組織に集中し、腫瘍の成長を抑制するとともに、ZAP低発現/ZAP陰性のヒト体外の腫瘍組織の生存を抑制することを発見した。
【0025】
本発明者らは、複数の異なる腫瘍では、腫瘍組織におけるZAPの発現量が腫瘍周囲の非腫瘍組織より低いことを初めて発見した。臨床で複数の腫瘍病理標本に対する免疫組織化学的分析から明らかなように、69%の肝臓癌、52%の結腸直腸癌及び61%の膀胱癌組織において、ZAP発現レベルが、対応する腫瘍周囲の非腫瘍組織より顕著に低いことが分かった。M1ウイルスはZAP低発現/ZAP陰性の腫瘍への選択的な治療に使用されることができる。
【0026】
本発明者らの実験結果により、M1ウイルスの複製がZAPにより抑制され、ZAPの発現レベルはM1ウイルスが腫瘍細胞の死亡を選択的に誘起し、腫瘍成長を抑制する決定的要素であることが初めて証明された。本発明者らは、研究によりM1ウイルスの抗腫瘍効果はZAPの発現レベルと直接関連していることを発見した。また、ZAPがノックダウンされた腫瘍細胞は、M1ウイルスに感染することで、腫瘍細胞の生存率がZAPのノックダウンされていない細胞よりも顕著に低下することを発見した。従って、好ましい治療計画として、癌患者にM1ウイルスによる治療を行う場合に、同時に又は事前にZAP阻害剤を投与することにより、腫瘍のM1ウイルスに対する感受性を高めることができる。
【0027】
従って、M1ウイルスの抗腫瘍薬としての治療効率を更に高めるために、治療計画を選択する時に、まず、患者の腫瘍のZAP発現状況を判断し、さらにM1ウイルスによる治療計画を実施することにより、治療計画の有効性を高め、無効な投与による時間の遅延及び薬物乱用を避けることができる。例えば、投与する前にまず患者の腫瘍のZAP発現状況を測定し、ZAP低発現又はZAP陰性の腫瘍である場合、直接M1ウイルスによる治療を実施することができ、ZAP正常発現/ZAP高発現の腫瘍である場合、M1ウイルスを投与する前に又は同時にZAP阻害剤(例えば、ZAP発現阻害剤又は機能阻害剤、ZAP干渉断片、或いはZAP抗体等)を投与することにより、腫瘍のM1ウイルスに対する感受性を高め、治療の有効性を高めることができる。腫瘍のZAP発現量の高さはM1治療の有効性に直接影響を及ぼす。ZAP発現量が低いほど腫瘍のM1による治療効果は高くなる。ある個体/腫瘍がM1による治療が適切かどうかを判断する際に、まず腫瘍ZAPの発現レベルを検出することができる。ZAP発現レベルの判断は、以下の手段が好ましいが、それに限定されない。
【0028】
ZAP低又は高発現は、2つの群(個)の試料のZAP mRNA又はタンパク質の数を比較した結果、一方の群(個)の試料のZAP mRNA又はタンパク質の数が他方の群(個)よりも少ない又は多い場合、当該試料はZAP低又は高発現と称する。ZAP陰性とは、試料が全く発現しないZAP mRNA又はタンパク質のことをいう。ZAP mRNA及びタンパク質の数の比較のための試料は、腫瘍細胞及び正常細胞、腫瘍組織及び腫瘍周囲の非腫瘍組織、或いはM1治療に対して有効又は無効である腫瘍であってもよい。
【0029】
1つの態様として、腫瘍のZAP高、低又は陰性発現の何れも、腫瘍組織を対応する腫瘍周囲の非腫瘍組織と比較した場合、ZAP mRNA及びタンパク質の数が多い、少ない又は発現無しとのことをいう。前者のZAPのmRNA又はタンパク質の均一化発現量が後者より少ない(つまり、腫瘍組織と腫瘍周囲の非腫瘍組織との、ZAP均一化発現量の比が<1である)と、ZAP低発現であり、M1により治療を行うことが好適である。より効果的な治療対象は、腫瘍組織と腫瘍周囲の非腫瘍組織とのZAP均一化発現量の比が<0.8である腫瘍であり、より好ましくは<0.6であり、さらに好ましくは<0.4であり、さらに好ましくは<0.3であり、さらに好ましくは<0.2であり、さらに好ましくは<0.1であり、最も好ましくは腫瘍組織がZAP陰性である。これらの腫瘍組織及び対応する腫瘍周囲の非腫瘍組織は、病理学的穿刺手術又は外科的切除手術からの組織試料を含むが、それに限定されない。臨床研究により分かるように、ある腫瘍組織において、ZAP発現量は腫瘍周囲の非腫瘍組織より高く、これらの腫瘍又は腫瘍患者について、M1により直接治療を行うことが適切ではない。
【0030】
ZAP mRNA又は蛋白の検出方法は、QRT-PCR、Northern Blot、Western Blot、免疫組織化学、ELISA等を含むが、これらに限定されない。異なる試料のZAP mRNA又はタンパク質の数の差を正確に判断するために、まず、試料毎にZAP mRNA又はタンパク質の均一化発現量を算出する。均一化発現量とは、各試料のZAP mRNA又はタンパク質発現値を試料内標準mRNA又はタンパク質発現値で除することで均一化処理して得られた該試料のZAP均一化発現量をいう。異なる検出方法において内標準物質は異なってもよいが、異なる細胞又は組織試料において内標準物質の発現量が一致すればよい。このように、均一化処理された異なる試料のZAP発現量が比較可能性を有し、試料のZAP mRNA又はタンパク質の数の差の判断に用いられる。
【0031】
本発明の一実施例(
図4)において、M1ウイルスはヒト体外で培養された生肝臓癌組織及び結腸直腸癌組織に対して異なる成長阻害効果(表2及び表3)を有し、腫瘍成長阻害率が10%を超えた試料は、合計で32例である一方、腫瘍成長阻害率が10%以下の試料は19例である。さらに、QRT-PCR方法によりこの2つの群の各腫瘍組織におけるZAP及び内標準mRNAの発現レベル(それぞれ2
-Ct値)を分析し、各試料の2
-Ct-ZAPを2
-Ct-内標準で除して、各自のZAP均一化発現量を得る。上記2つの群の試料のZAP均一化発現量を統計的分析したところ、阻害率が10%を超えたサンプル群のZAP均一化発現量は0.117±0.890で、阻害率が10%以下の群(0.791±0.108)より低く、両者の平均値の比は0.148であることを発見した。
【0032】
別の態様として、腫瘍のZAP高、低又は陰性発現とは、腫瘍細胞(例えば、腫瘍患者からの培養腫瘍細胞)は、正常細胞よりZAP mRNA及びタンパク質の数が多い、少ない又は発現無しということをいう。前者のZAPのmRNA又はタンパク質均一化発現量が後者より少ない(即ち、腫瘍細胞と正常細胞とのZAP均一化発現量の比率が<1である)と、ZAP低発現であり、M1により治療を行うことが好適である。より効果的な治療対象は腫瘍細胞と正常細胞とのZAP均一化発現量の比が<0.8である腫瘍、より好ましくは<0.6であり、さらに好ましくは<0.4であり、さらに好ましくは<0.3であり、さらに好ましくは<0.2であり、さらに好ましくは<0.1であり、最も好ましくは腫瘍細胞がZAP陰性である。
【0033】
本発明の一実施例(
図3c)において、Western Blot方法によりHepG2肝臓癌細胞の細胞株とL-02正常肝細胞株とのZAPタンパク質発現レベルの差を測定するとともに、異なる試料で発現量が同じである標準対照のβ-actinを測定し、Western blot方法により検出される分子数としてバンド階調を検出し、ZAP均一化タンパク質発現量=ZAPバンド階調平均値/β-actinバンド階調平均値である。HepG2のZAP均一化タンパク質発現量とL-02との比は0.8で、ZAPはHep G2において低発現である。M1ウイルスに感染した後、Hep G2細胞の生存率は70.4%±3.5%だけである一方、同様に処理されたL-02の生存率は100.3±10.0%になり、両方の生存率の差が統計的に有意である。
【0034】
別の実施例(
図3a及び
図3b)において、腫瘍細胞株T24、SCaBER、LoVo及びHep3BのZAPは、mRNA(
図3a)とタンパク質(
図3b)との何れもQRT-PCR及びWestern blotにより検出された後、各自の内標準と比較した均一化発現量は検出されていない又は0に近い(<0.1)、即ち、ZAP発現は陰性であり又は陰性に近い(<0.1)。これらの腫瘍細胞はM1に感染すると、細胞死亡を誘起し、細胞の生存率はT2421.1%、SCaBER 11.5%、LoVo 6.9%及びHep3B 3.8%と著しく低下した(表1)。
図3a及び
図3bにおける正常細胞L-02とHEBにおいて、ZAPのmRNA(
図3a)及びタンパク質均一化発現量は何れも前記腫瘍細胞との比が1より大きく、ZAP高発現であるため、M1に感染したそれらの正常細胞の生存率は顕著に低下せず、L-02は100.3%、HEBは98.8%である(表1)。
【0035】
従って、本発明は、さらにZAP発現レベル検出試薬及びアルファウイルスを含み、前記アルファウイルスはM1ウイルス又はゲタウイルスであることを特徴とする抗腫瘍投与システムを提供する。患者腫瘍のZAP発現レベルを検出することにより、適切な投与計画を選択する。
【0036】
さらに、本発明は、アルファウイルス及びZAP阻害剤を含み、前記アルファウイルスはM1ウイルス又はゲタウイルスである抗腫瘍薬を提供する。前記ZAP阻害剤はZAP発現又は機能阻害剤、ZAP干渉断片或いはZAP抗体等である。
【0037】
M1ウイルスの正常細胞に対する殺滅作用を避けるために、ZAP阻害剤は、選択的に腫瘍組織に与えられ、或いは腫瘍組織を標的とし、腫瘍標的化ZAP阻害剤であることが好ましい。
【0038】
一つの実施形態において、本発明で提供する抗腫瘍薬は注射剤、錠剤、カプセル、貼付剤等であってもよい。好適な実施形態として、本発明の抗腫瘍薬は注射剤であり、静脈内注射が好ましい。
【0039】
投与方式として、本発明のM1ウイルスは静脈内注射又は腫瘍内注射により投与することができる。腫瘍内注射の場合、日ごとに2×10
5PFU/kg〜2×10
9PFU/kg投与し、静脈内注射の場合は、日ごとに2×10
6PFU/kg〜2×10
10PFU/kg投与する。溶媒対照群に比べ、M1ウイルス群は腫瘍の成長を顕著に抑制した。
【0040】
従来技術に比べて、本発明は以下の有益的な効果を有する。
【0041】
本発明で提供する抗腫瘍薬は複数種類の腫瘍、例えば、肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、前立腺癌、神経膠腫、黒色腫、膵臓癌、鼻咽頭癌、肺癌、胃癌の治療に適用される。細胞学実験によりM1ウイルスが複数種類の腫瘍細胞の死亡を誘起することを証明し、動物実現によりM1ウイルスが体内で肝臓癌、結腸直腸癌の成長を顕著に抑制することを証明し、ヒト体外腫瘍組織培養実験によりM1ウイルスが肝臓癌、結腸直腸癌組織の生存を顕著に抑制することを証明する。
【0042】
本発明の提供する抗腫瘍薬はZAP低発現/ZAP陰性腫瘍を好ましく治療することができる。該ZAP低発現/ZAP陰性腫瘍は、肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、前立腺癌、神経膠腫、黒色腫、膵臓癌、鼻咽頭癌、肺癌、胃癌を含むが、これらに限定されない。
【0043】
本発明で提供する抗腫瘍薬は選択的な抗腫瘍作用を有し、安全性が良好である。M1ウイルスが正常細胞の生存に影響を与えず、腫瘍細胞の死亡を選択的に誘起することは、M1ウイルスが腫瘍細胞選択性を有することを示す。担癌ヌードマウスの体内で、尾静脈内注射されたM1ウイルスは腫瘍組織に高度に集中でき、正常組織におけるウイルスの量が比較的に低く、両者のウイルスの量には10
2〜10
6倍の差があることにより、M1ウイルスの腫瘍選択性をさらに証明する。また、M1ウイルスの投与はヌードマウスの体重及び精神状態に影響を与えないため、M1ウイルスの安全性が良好であることを示す。
【0044】
本発明は初めて特定の個体/腫瘍に対して安全且つ効果的なウイルス抗腫瘍薬を提供する。本発明の薬物はZAP低発現/ZAP陰性の腫瘍を選択的に治療することにより、投与有効率を向上させ、無効な投与及び薬物乱用を防止する。
【0045】
本発明はより効果的な投与方法及び投与システム提供する。まず患者の腫瘍のZAP発現レベルを検出し、さらに検出結果により選択的に薬物治療を行う、或いは他の手段で治療することにより、M1ウイルスの治療の特異性及び有効性を高めることができる。
【0046】
本発明はより効果的な抗腫瘍薬及び腫瘍治療方法を提供する。投与前或いは投与と同時にZAP阻害剤を与えることで、腫瘍の薬物に対する感受性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下の実施態様は本発明を詳しく説明するものであるが、本発明の実施態様は以下の実施例の記載に制限されなく、本発明の趣旨又は含意に基づいた同様な変形又は変更は本発明の保護範囲に含まれると解されるべきである。
【0049】
特に明記しない限り、本発明で使用される材料及び実験方法は通常材料及び常法である。
実施例1 M1ウイルスの腫瘍細胞死亡への選択的な誘起
【0050】
1)M1ウイルスは腫瘍細胞の形態学的病変を顕著に誘起する。
材料:
肝細胞癌Hep3B、ヒト膀胱移行上皮癌T24、ヒト結腸直腸癌LoVo、ヒト不死化正常肝細胞株L-02、M1ウイルス、高グルコースDMEM培地、F-12培地、倒立型位相差顕微鏡。
方法:
a)細胞培養:ヒト肝細胞癌細胞株Hep3B細胞株、ヒト膀胱移行上皮細胞癌細胞株T24、ヒト不死化正常肝細胞株L-02を10%FBS、100U/mlペニシリン及び0.1mg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM完全培地で成長させ、ヒト結腸直腸癌細胞株LoVoを10%FBS、100U/mlペニシリン及び0.1mg/mlストレプトマイシンを含有するF-12完全培地で成長させる。すべての細胞株を5%CO
2、37℃のクローズド型恒温器(相対湿度95%)に置いて継代培養し、倒立顕微鏡で成長状況を観察する。凡そ2〜3日に1回継代し、対数増殖期にある細胞を採取して正式な実験に用いる。
b)顕微鏡による細胞への観察:対数増殖期の細胞を採取し、DMEM或いはF-12完全培養液(10%ウシ胎児血清、1%二重抗体を含み)で細胞懸濁液を調製し、細胞を2.5×10
4/ウェルの密度で24ウェルの培養プレートに接種する。M1ウイルス(MOI=1)で48時間感染した後、倒立型位位相差顕微鏡で細胞の形態学的変化を観察する。
結果:
位相差顕微鏡で細胞の形態を観察した結果、Hep3B細胞、T24細胞及びLoVo細胞はどちらも単層で付着成長し、且つ細胞が密に配列し、表現型が均一である。一方、
図1aに示すように、M1ウイルス(MOI=1)で48h処理した後、細胞の形態が顕著に変化して、対照細胞群に比べ感染ウイルス群細胞数は顕著に減少し、細胞体が球形に収縮し、屈折率が明らかに増加し、死亡様病変を呈する。
図1bはM1ウイルス感染の正常細胞に対する影響を示し、同じである力価のM1ウイルスによりL-02細胞を感染した結果、細胞数、形態が顕著に変化することを発見しない。その結果は、M1ウイルスは腫瘍細胞に対して細胞死亡を選択的に誘起する一方、正常細胞の生存に影響を与えないことを示す。
【0051】
2)M1ウイルスは腫瘍細胞株の生存を選択的に低減させる。
材料:
34株の腫瘍細胞株(表1参照)、3株のヒト不死化正常細胞株(表1参照)、M1ウイルス、高グルコースDMEM培地、F-12培地、MTT(テトラメチルチアゾリルテトラゾリウム)。
方法:
a)細胞接種及び投与処理:対数増殖期の細胞を採取し、DMEM(又はF-12)完全培養液(10%ウシ胎児血清、1%二重抗体を含み)で細胞懸濁液を調製し、4×10
3/ウェルの密度で96ウェルの培養プレートに接種する。12時間後、細胞が完全に付着することを発見する。実験は実験群と対照群に分けられ、実験群:M1ウイルス(MOI=10)感染細胞、対照群:高グルコースDMEM溶媒対照群である。何れの群はpentaplicateで行われる。
b)MTTと細胞内のコハク酸デヒドロゲナーゼとの反応:48h培養した時、ウェル毎にMTT 15μl(5mg/ml)を加え、4時間培養し続けた後、顕微鏡により生細胞内で形成した粒子状の青紫色のホルマザン結晶が観察される。
c)ホルマザン粒子の溶解:澄みを慎重に抽出し、DMSOを100μl/ウェルで加えて、形成した結晶を溶解させた後、微小発振器で5min振動し、その後酵素結合検出器で波長570nmで各ウェルの光密度(OD値)を測定する。各群の実験を3回繰り返す。細胞生存率=薬物処理群OD値/対照群OD値×100%。
結果:
表1に示すように、M1ウイルス(MOI=10)で腫瘍細胞を48時間処理した結果、膵臓癌、鼻咽頭癌、前立腺癌及び黒色腫細胞の死亡率は50%を超え、結腸直腸癌(LoVo、HCT-8、SW620及びSW480)、肝臓癌(Hep3B、Huh-7及びHuh-6)、膀胱癌及び乳癌細胞の死亡率は40%を超え、神経膠腫、子宮頸癌、肺癌細胞の死亡率は30%を超え、胃癌細胞の死亡率は20%を超える。正常細胞(L-02、HEB及びSV-HUC-1)とPLC及びHCT116細胞の生存率には統計学的に有意な変化がない。その結果は、M1ウイルス感染は大部の腫瘍細胞死亡を選択的に誘起することを示す。
【0052】
表1.M1ウイルスによる腫瘍細胞生存率の顕著な低減
(注:**p<0.01,*p<0.05,ns:差異は統計学的意義無し、統計方法:students't検定、-:統計してない。)
実施例2 M1ウイルスは腫瘍成長を選択的且つ効果的に抑制する。
【0053】
1)担癌マウス体内でM1ウイルスは腫瘍成長を効果的に抑制する。
材料:
M1ウイルス、ヒト肝臓癌細胞株Hep3B、ヒト結腸直腸癌細胞株LoVo、4週齢の雌BALB/cヌードマウス58匹
方法:
a)担癌マウスモデルの構築:5×10
6Hep3B又はLoVo細胞を4週齢BALB/cヌードマウスの背側から皮下注射する。
b)腫瘍内投与:Hep3B腫瘍体積が約50mm
3又はLoVo腫瘍体積が約70mm
3に到した時、腫瘍内注射投与を始め、12日でM1ウイルスを合計6回(2×10
6PFU/回)注射する。OptiPRO
TMSFM培地注射を溶媒対照群とする。2日毎に腫瘍の長さ及び幅と体重を測定する。腫瘍の体積は、長さ×幅
2/2により計算される。
c)静脈内投与:Hep3B細胞腫瘍体積が約50mm
3に到した時、M1ウイルスを静脈内注射(3×10
7PFU/回)し、3日後、二回目の静脈内注射をする。OptiPRO
TMSFM培地注射を溶媒対照群とする。3日毎に体重と腫瘍の長さ及び幅を測定する。腫瘍の体積は、長さ×幅
2/2により計算される。
結果:
BALB/cヌードマウスで皮下担癌Hep3B(
図2a及び2c)及びLoVo(
図2b)ヌードマウスのモデルを構築した後、連続的に複数回の腫瘍内注射(
図2a及び
図2b)又は静脈内注射(
図2c)によりM1ウイルスを投与し、ヌードマウス腫瘍体積及び動物体重の変化状況を観察する。Hep3Bヌードマウスモデルにおいて、腫瘍内注射投与は
図2aに示すように行い、20日目に実験を終了し、溶媒対照群腫瘍の体積平均値は0.368±0.051cm
3で、M1ウイルス群の腫瘍体積平均値は0.172±0.058cm
3であることから、M1ウイルスがHep3B担癌マウスの腫瘍成長を顕著に抑制し、且つM1ウイルス群ヌードマウスの平均体重(16.4±1.54g)と対照群ヌードマウスの平均体重(17.0±1.16g)とは顕著な差異がないことが分かり、そして、精神状態も良好であるから、M1ウイルスは安全性に優れることを示す。一方、LoVoヌードマウスモデルにおいて、腫瘍内投与は
図2bに示すように行い、24日目に実験を終了し、対照群腫瘍の体積平均値は0.546±0.087cm
3で、M1ウイルス群腫瘍の体積平均値は0.389±0.049cm
3であることから、M1ウイルスがLoVo担癌マウスの腫瘍成長を顕著に抑制し、且つM1ウイルス群ヌードマウスの平均体重(18.9±1.40g)と対照群ヌードマウスの平均体重(19.4±1.86g)とは顕著な差異がないことが分かり、そして、精神状態も良好であるから、M1ウイルスは安全性に優れることを示す。Hep3Bヌードマウスモデルにおいて、静脈内注射投与は
図2cに示すように行い、21日目に実験を終了し、対照群腫瘍の平均体積は0.247±0.067cm
3、M1ウイルス群腫瘍の平均体積は0.134±0.057cm
3であることから、M1ウイルスはHep3B担癌マウスの腫瘍成長を顕著に抑制し、且つM1ウイルス群ヌードマウスの平均体重(17.2±2.50g)と対照群ヌードマウスの平均体重(17.5±2.16g)とは顕著な差異がないことが分かり、そして、精神状態も良好であるから、M1ウイルスは安全性に優れることを示す。
【0054】
2)M1ウイルスは腫瘍組織に選択的に集中する。
材料:
4週齢雌性BALB/cヌードマウス24匹、肝臓癌細胞株Hep3B、Trizol、組織ホモジナイザー、リアルタイムPCR装置
β-actinプライマー:
センス鎖(SEQ ID No.1:GATCATTGCTCCTCCTGAGC)
アンチセンス鎖(SEQ ID No.2:ACTCCTGCTTGCTGATCCAC)
M1ウイルス非構造蛋白NS1プライマー:
センス鎖(SEQ ID No.3:GTTCCAACAGGCGTCACCATC)
アンチセンス鎖(SEQ ID No.4:ACACATTCTTGTCTAGCACAGTCC)
方法:
4週齢のヌードマウスの背側皮下に5×10
6 Hep3B細胞を注射する。4日後、各マウスにM1ウイルス(3×10
7PFU)を尾静脈注射する。投与後、それぞれ1、2、3及び4日目にヌードマウスを殺し、組織サンプル(腫瘍、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、脳、筋肉)を収集して、組織RNAを抽出する。さらに、QRT-PCRによりM1ウイルスの量を検出することにより、M1ウイルス非構造蛋白NS1をM1ウイルス量として検出し、同時にβ-actin内標準を検出し、相対M1ウイルスRNA量を、
により計算する。C
t-NS1、C
t-内標準はApplied Biosystems 7500Fast Real-Time PCR System装置から読み取って得られる。
結果:
図2dに示すように、ヌードマウス皮下Hep3B腫瘍モデルにおいて、異なる4つの時点でM1ウイルスの腫瘍組織における量は他の臓器・組織の10
2〜10
6倍以上であり、M1ウイルスは選択的に腫瘍組織に集中することを示す。
実施例3 M1ウイルスはZAP低発現/ZAP陰性腫瘍細胞の死亡を選択的に誘起する。
【0055】
M1ウイルスはZAP低発現の腫瘍細胞死亡を選択的に誘起することに対し、正常細胞に影響を与えないため、ZAPの発現レベルはM1ウイルス選択性の決定的な要素である。正常細胞及びZAP正常発現/高発現の腫瘍細胞において、RNAを干渉し、ZAPの発現レベルをノックダウンすることにより、M1ウイルスは細胞死亡を顕著に誘起することができる。さらに、ZAP低発現の腫瘍細胞において、ZAPの過剰発現はM1ウイルスによる腫瘍細胞の死亡を部分的に遮断することができる。
【0056】
1)M1ウイルスはZAP発現レベルが高い正常細胞及び腫瘍細胞の死亡は誘起しない。
材料:
M1ウイルス、ヒト肝細胞L-02、ヒトグリア細胞HEB、ヒト膀胱癌細胞SCaBER及びT24、ヒト肝臓癌細胞株Hep3B及びPLC、ヒト肝臓癌細胞株Hep G2、ヒト結腸直腸癌細胞株LoVo及びHCT116;
Western bolt:細胞総タンパク質抽出液(M-PER(r) Mammalian Protein Extraction Reagent、Thermo)、ZAP抗体(Thermo、USA)、β-actin抗体(Neomarker、USA);
RNA、PCRの抽出:RNA抽出試薬Trizol、リアルタイムPCR装置 Applied Biosystems 7500 Fast Real-Time PCR System(Life、USA)、
ZAPプライマー:
ZAPセンス鎖(SEQ ID No.5:TCACGAACTCTCTGGACTGAA)
ZAPアンチセンス鎖(SEQ ID No.6:ACTTTTGCATATCTCGGGCATAA)
β-actinプライマー:実施例2と同様。
方法:
対数増殖期の細胞を採取し、DMEM又はF-12完全培養液(10%のウシ胎児血清、1%の二重抗体を含み)で細胞懸濁液を調製し、細胞を2×10
5/ウェルの密度で35mmウェルの培養プレートに接種する。RNAを抽出し、PCRにより細胞におけるZAPmRNA発現量を検出する。本実験の内標準はβ-actinである。ZAP mRNA 均一化発現量は公式:
により計算される。C
t-ZAP、C
t-内標準はApplied Biosystems 7500Fast Real-Time PCR Systemから読み取って得られるものであり、PCR増幅過程における、蛍光信号がバックグラウンドから指数増殖段階に入り始まる閾値に対応する循環回数を示す。
細胞総タンパク質を抽出し定量し、Western Blot実験(電気泳動、膜貫通、密封、一抗と二抗の培養、顕象)を行う。イメージングソフトウェアImage LabによりZAP及び内標準β-actinバンド階調を走査し、バンド階調を検出し、ZAP均一化タンパク質発現量の計算は、公式:ZAP均一化タンパク質発現量=ZAPバンド階調/内標準バンド階調により行われる。試験は3回繰り返し、平均値をZAP均一化タンパク質発現量として計算する。
結果:
図3a及び3bに示すように、腫瘍細胞SCaBER、T24、Hep3B及びLoVoにおいて、ZAPのmRNA(
図3a)及びタンパク質(
図3b)均一化発現量がほとんど検出されず、正常細胞(L-02及びHEB)及び腫瘍細胞(PLC、HCT116)により明らかに低い。
M1ウイルスはZAP低発現/陰性の腫瘍細胞の死亡を誘起するが、ZAP高発現の細胞の死亡を誘起することがない。正常細胞(L-02及びHEB)及び腫瘍細胞(PLC、HCT116)の一部はM1ウイルスに感染した後、生存率が統計的有意性の変化がなく、L-02は100.3%、HEBへ98.8%である(表1)。一方、腫瘍細胞SCaBER、T24、Hep3B及びLoVoは、M1ウイルスに感染した後、細胞生存率がT24 21.1%、SCaBER 11.5%、LoVo 6.9%及びHep3B 3.8%に顕著に低減する(表1)。
図3c及び表1に示すように、Hep G2肝臓癌細胞のZAPタンパク質均一化発現量がL-02正常細胞より低く、比率が0.8である。L-02細胞はM1ウイルスに感染した後、生存率の顕著な変化がない一方、Hep G2細胞はM1ウイルスに感染した後、生存率が70.4%に低減するため、両方の細胞に対して、統計的差異がある。それは、さらに、M1ウイルスがZAP低発現の腫瘍細胞死亡を誘起することを証明できる。
【0057】
2)M1ウイルスはZAPレベルがノックダウンされた正常細胞及び腫瘍細胞の死亡を顕著に誘起する。
材料:
M1ウイルス、ヒト肝細胞L-02、ヒト肝臓癌細胞PLC、ヒト結腸直腸癌細胞HCT116、ZAP RNA干渉断片、MTT(メチルチアゾリルテトラゾリウム)、Lipofectamine
TM RNAiMAX(invertrogen、USA)
Western bolt:細胞総タンパク質抽出液(M-PER
(r) Mammalian Protein Extraction Reagent、Thermo)、ZAP抗体(Thermo、USA)、M1ウイルスNS3抗体(Beijing Protein Innovation)、M1ウイルスE1抗体(Beijing Protein Innovation)、GAPDH抗体(CST、USA);
RNA、PCRの抽出:Trizol、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500 Fast Real-Time PCR System)、β-actin、M1ウイルス非構造蛋白NS1プライマーは、実施例2と同様;
ZAP干渉断片(Si RNA)は標的配列SEQ ID No.7:5'CCAAGAGTAGCACTTGTTA3'のために設計される。
Si RNAセンス鎖(SEQ ID No.8:5'CCAAGAGUAGCACUUGUUA dTdT 3')
Si RNAアンチセンス鎖(SEQ ID No.9:3'dTdT GGUUCUCAUCGUGAACAAU 5')
ZAP文字化け干渉断片対照(siNC):センス鎖及びアンチセンス鎖のヌクレオチド比率がSi RNA断片と同じであるが、配列順序が完全にランダムである。
方法:
対数増殖期の細胞を採取し、DMEM完全培養液(10%ウシ胎児血清、1%二重抗体)で細胞懸濁液を調製し、細胞を1×10
5/ウェルの密度で6ウェルの培養プレートに接種する。24時間後、RNAiMAXで包まれたSi RNA断片を加える。48時間後、M1ウイルスに感染させる。感染してから48時間後、試料を処理する。
ウェル毎にMTT 20μl(5mg/ml)を加え、4時間後、吸光度の値を測定し、細胞の生存率を計算し、siZAP実験群はZAP RNA干渉断片で処理し、siNC対照群はZAP文字化け干渉断片で処理する。
a)細胞澄み液を収集し、TCID50の方法によりウイルス力価を測定する。
b)RNA試料を抽出し、PCRによりM1ウイルス非構造蛋白NS1量を検出することでM1ウイルス量を検出し、β-actinは内標準である。
c)タンパク質試料を抽出し、Western blotによりZAPタンパク質発現及びM1ウイルスタンパク質NS3とE1を検出し、内標準はGAPDHである。ZAP均一化発現量の計算は、内標準としてβ-actinをGAPDHに変更した以外、実施例3の1)と同様である。
d)試験を3回繰り返し、データは平均値±標準偏差で表される。それぞれの対照群と比較してstudents't検定統計する。*/#/&はP<0.05、**/&&はP<0.01、nsは統計的差異無しであることを示す。
結果:
図3d-3gに示すように、ZAP RNA干渉断片でヒト正常肝細胞L-02、ヒト肝臓癌細胞PLC及びヒト結腸直腸癌細胞HCT116を処理した後、ZAPタンパク質発現量は検出不能であるほど顕著に低減する一方(
図3g)、M1ウイルスタンパク質NS3及びE1タンパク質は顕著に増加する。M1ウイルス(MOI=100)に感染した後、ZAPレベルがノックダウンされたL-02細胞(siZAP群)の生存率が69.7%±3.45%、PLC細胞生存率が63.9%±11.5%、HCT116細胞生存率が49.6%±1.21%に低減することを顕著に誘起する(
図3d)。
図3eに示すように、M1ウイルスに感染してから48時間後、ZAPがノックダウンされた(siZAP群)のL-02細胞において、相対M1ウイルス力価は対応するsiNC群の4.10±1.38倍であり、HCT116細胞(siZAP群)において、対応するsiNC群の3.39±1.27倍であり、PLC細胞(siZAP群)において、対応するsiNC群の32.6±2.34倍である。又、
図3fに示すように、M1ウイルスに感染してから48時間後、ZAPがノックダウンされた(siZAP群)L-02細胞において、M1ウイルスRNA発現量は対応するsiNC群の16.3±8.20倍であり、HCT116細胞において、対応するsiNC群の8.82±4.02倍であり、PLC細胞において、対応するsiNC群の30.5±12.23倍である。上記の結果から、M1ウイルスはZAPレベルがノックダウンされた正常細胞及び腫瘍細胞の死亡を顕著に誘起することが分かる。
【0058】
3)ZAP過剰発現はM1ウイルスによる腫瘍細胞死亡を拮抗する。
材料:
M1ウイルス、ヒト肝臓癌細胞Hep3B、GFPを発現するpReceiver-M02-GFPプラスミド(ブランク対照プラスミド、広州複能遺伝子)、ZAPを発現するpReceiver-M02-ZAPプラスミド(ZAP過剰発現プラスミド)、FuGENE HDトランスフェクション試薬、MTT(メチルチアゾリルテトラゾリウム)
RNA、PCRの抽出:Trizol、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems 7500Fast Real-Time PCR System)、β-actin、M1ウイルス非構造蛋白NS1プライマーは、実施例2と同様。
Western bolt:細胞総タンパク質抽出液(M-PER
(r) Mammalian Protein Extraction Reagent、Thermo)、ZAP抗体(Thermo、USA)、M1ウイルスNS3抗体(Beijing Protein Innovation)、M1ウイルスE1抗体(Beijing Protein Innovation)、GAPDH抗体(CST、USA)。
方法:
対数増殖期の細胞を採集し、DMEM完全培養液(10%のウシ胎児血清、1%の二重抗体)で細胞懸濁液を調製し、細胞を1×10
5/ウェルの密度で6ウェルの培養プレートに接種する。24時間後、GFP過剰発現対照プラスミド及びZAP過剰発現プラスミドをそれぞれトランスフェクションして、緑色蛍光タンパク質を発現する細胞及びZAP過剰発現の細胞を得る。48時間後、M1ウイルスに感染させる。感染してから48時間後、試料を処理して検出する。
a)MTT法により細胞生存率を検出し、ウェル毎にMTT 20μl(5mg/ml)を加え、4時間後570nM波長により吸光度の値を測定する以外の処理は実施例1と同様である。
b)細胞澄み液を収集し、TCID50の方法によりウイルス力価を検出する。
c)サンプルの総RNA試料を抽出し、QRT-PCR法によりM1ウイルスRNA発現量を測定し、計算は実施例2の方法により行われる。
d)タンパク質試料を収集し、Western blotによりZAPタンパク質発現量及びM1ウイルスタンパク質NS3、E1タンパク質発現量を検出し、処理方法は実施例3の1)と同様である。
e)各試験をそれぞれ3回繰り返し、データを平均値±標準偏差で表す。ぞれぞれの対照群と比較してstudents't検定統計する。#はP<0.05、**はP<0.01、nsは統計的差異無しであることを示す。
結果:
図3kに示すように、ヒト肝臓癌細胞Hep3BにZAP過剰発現プラスミドがトランスフェクションされた後、Image Labソフトウェアにより異なる試料のZAP及び内標準β-actinバンドについて階調走査を行った後、それぞれのZAP均一化タンパク質発現量を計算する。ZAP均一化タンパク質発現量ZAP過剰発現群は1.61±0.05、GFP過剰発現対照群は0.03±0.01であり、前者の平均値が後者の53.7倍であり、M1ウイルスタンパク質NS3及びE1タンパク質が顕著に増加する。
図3hに示すように、ZAPの過剰発現はM1ウイルス感染によるHep3B細胞の死亡を部分的に遮断する。異なるM1ウイルス力価で感染してから48時間後、MOI=0.1である時、ZAP過剰発現群の細胞生存率の平均値は74.7%±8.94%で、GFP過剰発現対照群の細胞生存率(59.0%±6.27%)より顕著に高い。MOI=1である時、ZAP過剰発現群の細胞生存率の平均値は69.4%±6.95%で、GFP過剰発現対照群の生存率(51.4%±5.31%)より顕著に高い。MOI=10である時、ZAP過剰発現群の細胞生存率の平均値は63.7%±6.04%で、GFP過剰発現対照群の生存率(40.5%±3.19%)より顕著に高い。
図3iに示すように、M1ウイルスに感染したZAP過剰発現のHep3B細胞におけるM1相対ウイルス力価は対応するGFP過剰発現対照群の31.5±11.6%である。また、M1ウイルスに感染したZAP過剰発現のHep3B細胞におけるM1ウイルスRNA発現量は対応するGFP過剰発現対照群の9.5±4.7%である。
【0059】
実施例4 M1ウイルスはZAP低発現のヒト体外生腫瘍組織(ex vivo)の成長を抑制する。
材料:
DMEM高グルコース培地、TECIA(Tissue Culture-MTT Endpoint Computer Image Analysis Chemo-sensitivity Test)、β-actin及びZAP:実施例3の1)と同様。
方法:
a)ヒト体外生肝臓癌組織及び結腸直腸癌組織の培養
体外活組織は中山大学腫瘍防治中心での外科的切除により得られたもので、4℃の保存し、4時間以内に実験室に送られて薬物感受性試験を行い、すべての病例が病理組織検査により診断された。無菌条件下で腫瘍組織を取り出して、直径0.5〜1mmの組織ブロックに切り、ウェル毎に4〜6個で24ウェル培養プレートに置き、ウェル毎に1ml DMEM培地を入れる。1時間培養した後、薬剤感受性試験専用の画像分析器で腫瘍組織ブロックの投影照明映像を撮影し、各ウェルの腫瘍ブロックの面積(area、A)を測定し比較することにより、M1ウイルスのヒト体外生腫瘍組織に対する抑制作用を分析する。
b)薬物処理及び組織活性測定
腫瘍組織をCO
2細胞インキュベーターで12時間培養し、安定した後、10
7PFUのM1ウイルス及び陽性対照薬物である5-フルオロウラシル(5-Fu、10mg/L)を添加し,96時間感染した後、MTT(5mg/ml)50μl/ウェルを加え、3時間培養し、その後、薬剤感受性試験専用の画像分析器で腫瘍組織ブロックの散乱光照明画像を撮影し、ウェル毎に腫瘍ブロックのホルマザンにより染色された面積及び着色度(blue area、BA)を測定し、以下の式に基づいて組織生存率(survival fraction、SF)を計算する。
腫瘍組織阻害率(Cell inhibition、CI):CI=(1-SF)×100%、BA
薬物処理はM1ウイルス/5-Fu処理群の染色面積、A
薬物処理はM1ウイルス/5-Fu処理群の腫瘍ブロック面積、BA
対照は溶媒対照処理群の染色面積、A
対照は溶媒対照処理群の腫瘍ブロック面積を示す。
c)ZAP mRNA均一化発現量の検出
M1ウイルスの腫瘍阻害率10%を基準として、前記すべての病例組織を2群に分け、それぞれ試料RNAを抽出し、QRT-PCR法によりZAP mRNA、β-actin(内標準)レベルを検出し、両方のZAP均一化発現量の差を比較し、順位和検定により統計分析する。なお、ZAP均一化発現量の計算方法は実施例3の1)と同様である。
結果:
a)表2に示すように、肝臓癌組織において、阻害率が10%を超えた病例の比率について、M1ウイルス群は59.5%で、5-Fu群(53.8%)より高いため、M1ウイルスの有效率は現在の肝臓癌の臨床治療薬である5-Fuより高い。
【0060】
表2 M1ウイルス、5-Fuのヒト体外生肝臓癌組織生存率に対する抑制
b)表3に示すように、結腸直腸癌組織において、阻害率が10%を超えた病例の比率について、M1ウイルス群は71.4%で、5-Fu群(61.5%)より高いため、M1ウイルスの有效率は現在の結腸直腸癌の臨床治療薬である5-Fuより高い。
【0061】
表3 M1ウイルス、5-Fuのヒト体外生結腸直腸癌組織成長に対する抑制
c)前記M1ウイルス処理されたヒト体外生腫瘍組織を、阻害率10%を基準として2つの群に分け、さらにそれらの組織におけるZAP mRNA発現レベルと阻害率との相関性を分析する。M1ウイルス処理による阻害率が10%を超えるサンプル群のZAP均一化発現量は0.117±0.890で、阻害率が10%以下の群(0.791±0.108)より低く、両方の平均値の比が0.148である。
図4に示すように、M1ウイルス処理による阻害率が10%以下の腫瘍組織のZAP均一化発現量のメジアンは0.414で、10%を超えた腫瘍組織のZAP発現量のメジアンは0.075である。順位和検定の方法により統計し、差異が統計学的に有意であることを示し、P<0.05は、M1ウイルスがZAP低発現/ZAP陰性の腫瘍組織の死亡を選択的に誘起できることを示す。
【0062】
実施例5 ZAPは複数種類の腫瘍臨床病理組織において低発現である。
材料:
506人の患者由来の8枚の組織マイクロアレイ(肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌及びペアの腫瘍周囲組織)、ZAP抗体(Thermo、USA)、APERIO完全自動デジタル病理切片スキャナー
方法:
複数のセンター由来の8枚の組織マイクロアレイに免疫組織化学染色(IHC)を行い、APERIOスキャナーにより走査して付属するソフトウェアにより染色密度を計算し、ZAP均一化発現量を検出する。ZAP均一化発現量=視野内ZAP染色強度/視野内細胞数、ただし、視野内細胞数を均一化標準とする。
結果:
本発明者らは、免疫組織化学方法によりZAPのヒトの複数種類の腫瘍病理試料での発現状況を検出した。
図5aはヒト肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌病理組織試料のZAPの免疫組織化学染色の代表的なマッピングを示し、ZAP染色は腫瘍組織で腫瘍周囲組織より浅い。
図5bに示すように、肝臓癌、結腸直腸癌、膀胱癌及びそれぞれの腫瘍周囲非腫瘍組織のZAPタンパク質均一化発現量の平均値を統計分析した結果、前記の各腫瘍組織におけるZAP蛋白均一化発現量の平均値はそれぞれの腫瘍周囲非腫瘍組織より顕著に低く、ZAPが腫瘍組織において低発現である。すべての肝臓癌腫瘍組織の平均ZAP均一化発現量は5.83±8.49で、対応する腫瘍周囲非腫瘍組織(11.8±11.5)より顕著に低く、両方の平均値の比は0.494であり、すべての結腸直腸癌腫瘍組織の平均ZAP均一化発現量は2.41±3.60で、対応する腫瘍周囲非腫瘍組織(8.30±8.94)より顕著に低く、両方の平均値の比は0.290であり、すべての膀胱癌腫瘍組織の平均ZAP均一化発現量は2.93±4.63で、腫瘍周囲非腫瘍組織(10.3±8.36)より低く、両方の平均値の比は0.284である。
図5cに示すように、分析されたすべての肝臓癌の病例に対して、ZAP低発現の病例数は69%であり、分析されたすべての結腸直腸癌の病例に対して、ZAP低発現の病例は52%であり、分析されたすべての膀胱癌の病例に対して、ZAP低発現の病例は61%である。従って、ZAPはM1ウイルスによる肝臓癌、結腸直腸癌及び膀胱癌に対する治療の選択的な分子マーカーとなる。
【0063】
実施例 6 M1ウイルスの製造方法
材料:
アフリカミドリザル腎臓細胞Vero、高グルコースDMEM培地、OptiPRO
TMSFM培地(1×)、M1ウイルス、100mm細胞培養皿、遠心分離機
方法:
対数増殖期の細胞を採取し、DMEM完全培地(10%ウシ胎児血清、1%二重抗体を含み)で細胞懸濁液を調製し、細胞を100mm細胞培養皿に接種する。細胞の融合度が80%〜90%に達する時に、OptiPRO
TMSFMに変更する。さらに、50μl(MOI=0.01)M1ウイルスを加え感染させ、細胞は大面積の病変(約36時間)が発生する時に、細胞澄みを収集する。2000〜3000RPMで5min遠心し、慎重に澄みを吸い出し、均一に混合して小分けして、-80℃で冷蔵庫に保存する。
【0064】
上記の実施例は本発明の例示的な実施方式及び効果の説明であり、本発明の実施方式は上記の実施例に限定されるものではない。その他、本発明の方針及び原理を基に行われる変更、修飾、組み合わせ、簡略化は、何れも本発明の内容を脱離しないとし、本発明の保護する範囲に含まれる。