特許第6441380号(P6441380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441380
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】車載用変速機制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20181210BHJP
   F16H 59/08 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   F16H61/12
   F16H59/08
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-561460(P2016-561460)
(86)(22)【出願日】2015年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2015080310
(87)【国際公開番号】WO2016084539
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2017年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-241112(P2014-241112)
(32)【優先日】2014年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舛田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−203036(JP,A)
【文献】 特開2007−192337(JP,A)
【文献】 特開平8−128522(JP,A)
【文献】 特許第5158208(JP,B2)
【文献】 特開2000−29734(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0028879(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 59/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が搭載する変速機を制御する装置であって、
前記変速機のシフトレンジがいずれの状態にあるかを判定する第1演算装置、
前記変速機のシフトレンジの状態を示すシフトレンジ信号を受け取って前記第1演算装置へ出力する第1入力回路、第2入力回路、および第3入力回路、
を備え、
前記第1演算装置は、
前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路から受け取った前記シフトレンジ信号の多数決により前記シフトレンジの状態を仮判定する1次判定部、
前記車両の走行状態を示す走行状態データを受け取り、前記走行状態データが表す前記走行状態に基づき前記シフトレンジの状態を推定する推定部、
を備え、
前記1次判定部は
前記仮判定において、前記シフトレンジが前記変速機の走行状態以外の状態であった場合は、前記推定の結果が存在するか否かを判定する初期状態判定をさらに実施し、
前記1次判定部は、
前記初期状態判定において、前記推定の結果が存在した場合は、前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路のうち前記多数決において少数派であったものと前記推定の結果が一致するか否かを判定する少数派判定をさらに実施し、
前記少数派判定において、前記多数決における少数派と前記推定の結果が一致した場合は、前記推定の結果を前記シフトレンジの最終判定結果として用いる
ことを特徴とする車載用変速機制御装置。
【請求項2】
前記1次判定部は
前記初期状態判定において、前記推定の結果が存在しなかった場合は、前記仮判定の結果を前記シフトレンジの最終判定結果として用いる
ことを特徴とする請求項1記載の車載用変速機制御装置。
【請求項3】
前記1次判定部は、
前記少数派判定において、前記多数決における多数派、前記多数決における少数派、および前記推定の結果の全てが一致しなかった場合は、前記シフトレンジをニュートラル状態に強制設定するとともに、前記変速機を駆動する機構および前記車載用変速機制御装置から他の制御装置に対するエラー通知以外の通信を停止させる
ことを特徴とする請求項記載の車載用変速機制御装置。
【請求項4】
前記1次判定部は、
前記仮判定において、前記シフトレンジが前記変速機の走行状態であった場合は、前記推定の結果と前記仮判定の結果が一致するか否かを判定する一致判定をさらに実施し、 前記一致判定において、前記推定の結果と前記仮判定の結果が一致した場合は、前記仮判定の結果を前記シフトレンジの最終判定結果として用いる
ことを特徴とする請求項1記載の車載用変速機制御装置。
【請求項5】
前記1次判定部は、
前記一致判定において、前記推定の結果と前記仮判定の結果が一致しなかった場合は、前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路のうち前記多数決において少数派であったものと前記推定の結果が一致するか否かを判定する第2少数派判定をさらに実施し、
前記第2少数派判定において、前記多数決における少数派と前記推定の結果が一致した場合は、前記推定の結果を前記シフトレンジの最終判定結果として用いる
ことを特徴とする請求項記載の車載用変速機制御装置。
【請求項6】
前記1次判定部は、
前記少数派判定において、前記多数決における少数派と前記推定の結果が一致しなかった場合は、前記シフトレンジをニュートラル状態に強制設定するとともに、前記変速機を駆動する機構および前記車載用変速機制御装置から他の制御装置に対するエラー通知以外の通信を停止させる
ことを特徴とする請求項記載の車載用変速機制御装置。
【請求項7】
前記1次判定部は、
前記最終判定結果と前記仮判定の結果が一致する場合は、前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路のうち前記多数決において少数派であったものが故障している旨の警告を発する
ことを特徴とする請求項1記載の車載用変速機制御装置。
【請求項8】
前記1次判定部は、
前記最終判定結果の前記仮判定の結果が一致しない場合は、前記最終判定結果と前記推定の結果が一致するか否かを判定する推定結果判定をさらに実施し、
前記推定結果判定において、前記最終判定結果と前記推定の結果が一致した場合は、前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路のうち前記多数決において多数派であった2つが故障している旨の警告を発する
ことを特徴とする請求項1記載の車載用変速機制御装置。
【請求項9】
前記1次判定部は、
前記推定結果判定において、前記最終判定結果と前記推定の結果が一致しなかった場合は、前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路の全てが故障している旨の警告を発する
ことを特徴とする請求項記載の車載用変速機制御装置。
【請求項10】
前記1次判定部は、
前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路から受け取った前記シフトレンジ信号が示す前記シフトレンジの状態が全て異なる場合は、
前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路の全てが故障している旨の警告を発した上で、前記シフトレンジをニュートラル状態に強制設定するとともに、前記変速機を駆動する機構および前記車載用変速機制御装置から他の制御装置に対するエラー通知以外の通信を停止させる
ことを特徴とする請求項1記載の車載用変速機制御装置。
【請求項11】
前記車載用変速機制御装置は、前記第1演算装置と通信可能に接続された第2演算装置を備え、
前記第2演算装置は、前記第1演算装置が正常動作しているか否かを監視する監視部を備え、
前記監視部は、前記第1演算装置が正常動作していない旨を検出したときは、その旨の警告を発した上で、前記シフトレンジをニュートラル状態に強制設定するとともに、前記変速機を駆動する機構および前記車載用変速機制御装置から他の制御装置に対するエラー通知以外の通信を停止させる
ことを特徴とする請求項1記載の車載用変速機制御装置。
【請求項12】
前記監視部は、前記第1演算装置に対して回答を要求する出題データを送信し、
前記第1演算装置は、前記出題データを受け取ると、内部算術論理演算装置が正常動作しているか否かを検査し、正常動作している場合は前記出題データに対する所定の回答データを前記監視部へ返信し、正常動作していない場合はその旨を返信する
ことを特徴とする請求項11記載の車載用変速機制御装置。
【請求項13】
前記1次判定部は、前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路の少なくともいずれかが受け取った前記シフトレンジ信号が前回値から変化したことをトリガとして前記仮判定を実施し、
前記推定部は、前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路の少なくともいずれかが受け取った前記シフトレンジ信号が前回値から変化したことをトリガとして前記推定を実施する
ことを特徴とする請求項1記載の車載用変速機制御装置。
【請求項14】
前記第1入力回路、前記第2入力回路、および前記第3入力回路は、前記第1演算装置と前記第2演算装置の少なくともいずれかに対して信号を入力する入力ポートであり、
前記第1演算装置は、前記第2演算装置が前記シフトレンジ信号を受け取った場合は、前記第2演算装置から前記シフトレンジ信号を取得する
ことを特徴とする請求項11記載の車載用変速機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が搭載する自動変速機を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両制御装置は一般に、車両を制御する処理を実行するマイクロコンピュータ(マイコン)を備えている。マイコンが故障すると、制御処理が正常に稼働せずして車両の動作に支障を来すので、マイコンの故障を適切に検査する必要がある。
【0003】
下記特許文献1が記載している制御装置は、第1マイコンおよび第2マイコンを備え、第1マイコンと第2マイコンとが互いに相手側の異常を監視する。第1マイコンと第2マイコンとはそれぞれ、相手側の演算値を受信する受信バッファを備えており、自己の演算値と相手側の演算値とを比較する。その比較の結果、自己の演算値と相手側の演算値とが相違する場合、第1マイコンと第2マイコンとの少なくとも一方が異常であると判断されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−238259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の技術においては、マイコン本体が故障した場合にその旨を検出することを図っている。ただし同文献においては、マイコンに対して入力される信号が正常であることを前提にしていると考えられる。したがって、第1および第2マイコンいずれかの信号入力ポートが故障した場合、同文献における制御対象であるシフトポジション(シフトレンジ)を適切に判定することが困難となる。
【0006】
シフトレンジの状態を示す信号は、車両走行を制御するために必要な最上位の入力であるため、これを適切に判定することができなくなると、影響度が高い入力信号が欠損し、車両走行を制御することができなくなる。また車両が走行不能になると、修理を依頼するためにディーラーへ当該車両を移動させることも困難になってしまう。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、演算装置に対する信号入力ポートが故障した場合であっても、シフトレンジ信号をできる限り正確に生成して車両走行の制御を継続させることができる車載用変速機制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車載用変速機制御装置は、シフトレンジ信号を受け取る入力ポートを3つ備え、これらの多数決によりシフトレンジ状態を仮判定するとともに、車両の走行状態に基づきシフトレンジ状態を推定し、前記仮判定と前記推定の双方を用いてシフトレンジ状態を最終判定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車載用変速機制御装置によれば、入力ポートが故障したとしても、シフトレンジ状態を適切に判定し、車両走行の制御を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一般的な車載用変速機制御装置100の機能ブロック図である。
図2】車載用変速機制御装置200の機能ブロック図である。
図3】監視部215と監視部224が第1演算装置210の動作を監視する手順を説明するシーケンス図である。
図4】推定部213の動作フローチャートである。
図5】1次判定部214がシフトレンジ信号に基づきシフトレンジの現在状態を仮判定する処理を説明するフローチャートである。
図6】1次判定部214がシフトレンジの現在状態を最終判定する処理を説明するフローチャートである。
図7】1次判定部214が各入力回路のうち故障しているものを判定する処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の実施形態の構成>
図1は、一般的な車載用変速機制御装置100の機能ブロック図である。入力回路101および102が備えるマイコン入力ポートは、シフトレンジの状態を示すシフトレンジ信号、車速センサが送信する車速信号などの信号を受け取る。ALU(算術論理演算装置)はこれら信号に対して四則演算や論理演算など算術的な処理を実施することにより、制御データを生成する。変速機制御部104は、その制御データを用いてドライバ105に対する制御信号を生成する。ドライバ105は、リニアソレノイド106やCAN(Car Area Network)コントローラ107を駆動制御する。リニアソレノイド106は、自動変速機が変速動作を実施する際に用いるクラッチ油圧を制御する。CANコントローラ107は、他制御装置(例えばエンジン制御装置)との間でCANプロトコルを用いて通信する。
【0012】
入力回路101または102が故障すると、車載用変速機制御装置100に対して入力される信号自体が異常となる。そうすると、車載用変速機制御装置100本体が正常動作していても、出力される制御信号は異常となる。このとき車載用変速機制御装置100本体は正常であるため、例えば特許文献1記載の手法を用いたとしても、制御信号が異常であることを検出できない可能性がある。本発明はこのような状況を回避するため、入力ポートの異常を検出するとともに適切な制御処理を継続する技術を提供する。
【0013】
図2は、本発明に係る車載用変速機制御装置200の機能ブロック図である。車載用変速機制御装置200は、図1で説明したドライバ105に対する制御信号を出力することによりリニアソレノイド106とCANコントローラ107を制御する装置である。車載用変速機制御装置200は、第1演算装置210、第2演算装置220を備え、各演算装置は互いに通信することができる。
【0014】
CANコントローラ107は、他制御装置との間で、例えばエンジン回転数、車速、加速度などのデータを周期的に送受信する。推定部213は、当該車両の走行状態を示す走行状態データとして、これらのデータを用いることができる。
【0015】
第1演算装置210は、制御演算を実行することによりドライバ105に対する制御信号を生成するマイコンなどの演算装置であり、第1入力回路211、ALU212、推定部213、1次判定部214、監視部215を備える。
【0016】
第1入力回路211は、シフトレンジ状態を示すシフトレンジ信号を受け取る信号入力ポートである。ALU212は、第1入力回路211が受け取った信号に対して所定の処理を施したうえで1次判定部214へ出力する。推定部213は、車両の走行状態データに基づき現在のシフトレンジ状態を推定する。1次判定部214は、シフトレンジ信号に基づき現在のシフトレンジ状態を仮判定する。1次判定部214はまた、推定部213による推定結果と自身の仮判定結果に基づき、シフトレンジ状態を最終的に判定する。監視部215は、第1演算装置210が正常動作しているか否かについての問い合わせに対して回答する。推定部213、1次判定部214、監視部215の詳細動作については後述する。
【0017】
第2演算装置220は、第2入力回路221、第3入力回路222、ALU223、監視部224を備える。第2入力回路221と第3入力回路222は、第1入力回路211と並行してシフトレンジ信号を受け取る信号入力ポートである。ALU223は、第2入力回路221および第2入力回路223が受け取った信号に対して所定の処理を施したうえで1次判定部214へ出力する。監視部224は、第1演算装置210が正常動作しているか否かを監視する。
【0018】
図2においては、第2入力回路221と第3入力回路222は第2演算装置220上に設けられていることとしたが、これらのうちいずれかまたは双方を第1演算装置210上に設けてもよい。すなわち、ドライバ105に対する制御信号を生成する第1演算装置210が最終的に3つの信号入力ポートからシフトレンジ信号を受け取ることができればよい。
【0019】
図3は、監視部215と監視部224が第1演算装置210の動作を監視する手順を説明するシーケンス図である。本シーケンスは、例えばバックグラウンドで周期的に実施してもよいし、後述する図4以降のフローチャートを実施する前に実施してもよい。以下図3の各ステップについて説明する。
【0020】
図3:ステップS301)
監視部224は、第1演算装置210が正常動作しているか否か判定するために用いる任意のデータ列(出題データ)を、監視部215に対して送信する。監視部215はその出題データを受信する。
【0021】
図3:ステップS302)
監視部215は、出題データに対する所定の回答データ(例えば出題データをビット反転したデータ列)を生成する。監視部215はさらに、第1演算装置210が使用する四則演算や論理演算などの全ての算術演算について、ALU212が正しく動作するか否かをチェックする。例えばある算術命令を使用する処理結果があらかじめ記憶している予想結果と一致するか否かによってALU212の動作をチェックすることができる。
【0022】
図3:ステップS303)
監視部215は、ステップS302においてALU212が正常動作していないと判定した場合は、回答データを初期化する。監視部215は、回答データを監視部224へ送信する。監視部224は回答データを受け取る。
【0023】
図3:ステップS304)
監視部224は、受信した回答データと、あらかじめ記憶しておいた予想回答データとを比較する。両者が一致した場合は第1演算装置210が正常動作していると判断し、ステップS307へ進む。一致しない場合は第1演算装置210が異常動作していると判断し、ステップS305へ進む。
【0024】
図3:ステップS305)
監視部224は、車両を安全側へ倒した動作へ移行させるため、シフトレンジをN(ニュートラル)に変更するよう指示する制御信号を生成する。ドライバ105はその制御信号にしたがってリニアソレノイド106を制御し、シフトレンジをNに変更する。監視部224はさらに、CANコントローラ107から他制御装置へ誤ったデータを送信しないようにするため、異常通知のためのデータIDのみ残してその他のCAN通信を停止する制御信号を生成する。ドライバ105はその制御信号にしたがってCANコントローラ107を制御する。
【0025】
図3:ステップS306)
監視部224は、第1演算装置210が正常動作していない旨の警告を、CANコントローラ107経由で発信する。具体的には、ステップS305において残しておいたデータIDを用いたCAN通信により、その警告を記述したデータを送信する。後述するフローチャートにおける警告も同様の手法を用いて発信することができる。
【0026】
図3:ステップS307〜S308)
監視部224は、監視部215に対してステップS304における診断結果を送信し、監視部215はその診断結果を受信する(S307)。監視部215は診断結果が正常である旨を確認し、第1演算装置210は通常制御を実施する。
【0027】
図4は、推定部213の動作フローチャートである。推定部213は、シフトレンジが切り替えられた(シフトレンジ信号が前回値とは異なる値に変化した)際に本フローチャートを開始する。本フローチャートは、シフトレンジがR(リバース)またはD(ドライブ)へ切り替えられたときに限り実施することを想定している。以下図4の各ステップについて説明する。
【0028】
図4:ステップS401〜S402)
推定部213は、例えばCANコントローラ107を介して他制御装置から走行状態データを受け取り(S401)、シフトレンジの推定結果を初期化する(S402)。走行状態データは例えば、車速センサが検出した当該車両の車速、ブレーキスイッチのON/OFF状態を示すブレーキSW値、当該車両が後退走行しているか否かを示すリバースランプ値、などを記述している。これらデータは以下のステップにおいてそれぞれ用いられる。
【0029】
図4:ステップS403)
推定部213は、車速が0〜5km以内であり、かつブレーキスイッチがON状態であるか否かを判定する。これら条件を満たさない場合、シフトレンジがRまたはDへ切り替えられたのではない、すなわちP(パーキング)またはNへ切り替えられたと考えられるので、シフトレンジを厳密に判定する必要性はないとみなす。したがって推定部213は以下のステップを実施せずに本フローチャートを終了する。これら条件を満たす場合はステップS404へ進む。
【0030】
図4:ステップS404〜S405)
推定部213は、リバースランプがONであるか否かを判定する(S404)。ONであればシフトレンジはRへ切り替えられたと推定する(S405)。それ以外であればステップS406へ進む。
【0031】
図4:ステップS406〜S407)
推定部213は、シフトレンジの前回状態を確認する。前回状態がPレンジまたはNレンジであった場合は、シフトレンジがDへ切り替えられたと推定する(S407)。それ以外であればシフトレンジはPまたはNへ切り替えられたと考えられるので、ステップS403と同様に本フローチャートを終了する。
【0032】
図5は、1次判定部214がシフトレンジ信号に基づきシフトレンジの現在状態を仮判定する処理を説明するフローチャートである。1次判定部214は、シフトレンジが切り替えられた際に本フローチャートを開始する。以下図5の各ステップについて説明する。
【0033】
図5:ステップS501)
1次判定部214は、第1入力回路211、第2入力回路221、第3入力回路222からそれぞれシフトレンジ信号を取得する。図5の以下のステップにおいて、第1入力回路211から取得したシフトレンジ信号をレンジ1、第2入力回路221から取得したシフトレンジ信号をレンジ2、第3入力回路222から取得したシフトレンジ信号をレンジ3と表記する。
【0034】
図5:ステップS502〜S509)
1次判定部214は、各入力回路から取得したシフトレンジ信号の多数決により、現在のシフトレンジの状態を仮判定する。全てのシフトレンジ信号が同じシフトレンジ状態を示している場合、各入力回路は故障していないと判断する(S504)。いずれか1つのシフトレンジ信号が残り2つのシフトレンジ信号とは異なる場合、その1つのシフトレンジ信号を取得した入力回路が故障していると判断するとともに、残り2つのシフトレンジ信号が正しいと判断する(S505、S507、S509)。
【0035】
図5:ステップS510)
1次判定部214は、全てのシフトレンジ信号がそれぞれ異なるシフトレンジ状態を示している場合は、全ての入力回路が故障していると判断する。1次判定部214は、車両を安全側へ倒した動作へ移行させるため、ステップS305において監視部224が生成するものと同様の制御信号を生成する。
【0036】
図6は、1次判定部214がシフトレンジの現在状態を最終判定する処理を説明するフローチャートである。本フローチャートは、例えば図5のフローチャートを実施した後に実施される。以下図6の各ステップについて説明する。
【0037】
図6:ステップS601)
1次判定部214は、図5のフローチャートによるシフトレンジ状態の仮判定結果がPレンジまたはNレンジであるか否かを確認する。これらのいずれかである場合はステップS602へ進み、それ以外であればステップS607へ進む。
【0038】
図6:ステップS601:補足)
1次判定部214は、以下のステップにおいて仮判定結果と推定部213による推定結果を双方用いることにより、シフトレンジの現在状態を最終判定する。ただし仮判定結果がPレンジまたはNレンジである場合、図4のステップS403またはS406においてシフトレンジを推定せずにフローチャートを終了するので、推定は実施されない。そこで本ステップにおいて仮判定結果に基づき場合分けをすることにした。
【0039】
図6:ステップS602〜S603)
1次判定部214は、推定部213による推定結果が初期値である(すなわち推定結果が存在しない)か否かを判定する(S602)。初期値である場合は仮判定結果をシフトレンジ状態の最終判定結果として用い(S603)、初期値でない場合はステップS604へ進む。
【0040】
図6:ステップS604〜S605)
1次判定部214は、各入力回路から取得したシフトレンジ信号の多数決において少数派であったものと、推定部213による推定結果とが一致するか否かを判定する(S604)。一致する場合、各入力回路のうち2つ(すなわち多数派であった2つ)が故障しており、残り1つが正常であると考えられるので、推定部213による推定結果をシフトレンジ状態の最終判定結果として用いる(S605)。一致しない場合はステップS606
へ進む。
【0041】
図6:ステップS606)
フローチャートが本ステップに到達した場合、以下の条件を満たすことになる。(a)仮判定結果はPレンジまたはNレンジである。(b)図4のフローチャートによれば、推定結果が初期値でない(推定結果が存在する)場合、その推定結果はRレンジまたはDレンジである。(c)ステップS604により、(c1)各入力回路の少数派は多数派とは異なるとともに推定結果とも異なるか、または(c2)多数決において全入力回路がPレンジまたはNレンジでありかつ推定結果とは異なる。したがって、(a)仮判定結果における多数派、(b)推定結果、(c)仮判定結果における少数派または全入力回路、の全てが異なるシフトレンジ状態を示していることになるので、車両状態は異常であり、走行を継続させるべきではないと考えられる。そこで1次判定部214は、車両を安全側へ倒した動作へ移行させるため、ステップS305において監視部224が生成するものと同様の制御信号を生成する。シフトレンジ状態の最終判定結果はNレンジとなる。
【0042】
図6:ステップS607〜S608)
1次判定部214は、仮判定結果と推定部213による推定結果とが一致するか否かを判定する(S607)。一致する場合は仮判定結果が正常であると考えられるので、仮判定結果をシフトレンジ状態の最終判定結果として用い(S608)、一致しない場合はステップS609へ進む。
【0043】
図6:ステップS609〜S610)
1次判定部214は、ステップS604と同様に、各入力回路から取得したシフトレンジ信号の多数決において少数派であったものと、推定部213による推定結果とが一致するか否か判定する(S609)。一致する場合は推定部213による推定結果をシフトレンジ状態の最終判定結果として用いる(S610)。一致しない場合はステップS611へ進む。判断根拠はステップS604〜S605と同様である。
【0044】
図6:ステップS611)
フローチャートが本ステップに到達した場合、以下の条件を満たすことになる。(a)仮判定結果はDレンジまたはRレンジである。(b)ステップS607により、仮判定結果と推定結果は異なる。(c)ステップS609により、(c1)各入力回路の少数派は多数派とは異なるとともに推定結果とは異なるか、または(c2)多数決において全入力回路がDレンジまたはRレンジでありかつ推定結果とは異なる。したがって、(a)仮判定結果における多数派、(b)推定結果、(c)仮判定結果における少数派または全入力回路、の全てが異なるシフトレンジ状態を示していることになるので、1次判定部214はステップS606と同様の制御信号を生成する。シフトレンジ状態の最終判定結果はNレンジとなる。
【0045】
図7は、1次判定部214が各入力回路のうち故障しているものを判定する処理を説明するフローチャートである。本フローチャートは、例えば図6のフローチャートを実施した後に実施される。以下図7の各ステップについて説明する。
【0046】
図7:ステップS701〜S705)
1次判定部214は、図6のフローチャートによって得られたシフトレンジ状態の最終判定結果と仮判定結果とが一致するか否かを判定する(S701)。一致しなかった場合はステップS706に進む。一致した場合、図5のフローチャートにより判定した故障パターンに応じて故障している入力回路を特定し、その入力回路が故障している旨の警告を発信する(S702〜S705)。図5のフローチャートにおいて故障なしと判定した場合は警告を発信しない。
【0047】
図7:ステップS701〜S705:判定例)
例えば図5のフローチャートにおいて故障パターン1が発生していると判定した場合(S505)、第1入力回路211のシフトレンジ信号と第2入力回路221のシフトレンジ信号は一致し、第3入力回路222のシフトレンジ信号はこれらと一致しない。したがって多数決によれば、第1入力回路211と第2入力回路221は正常であり、第3入力回路222が故障しているとみなされる。ステップS703はこれに相当する。
【0048】
図7:ステップS706〜S710)
1次判定部214は、図6のフローチャートによって得られたシフトレンジ状態の最終判定結果と推定部213による推定結果とが一致するか否かを判定する(S706)。一致しなかった場合はステップS711に進む。一致した場合、図5のフローチャートにより判定した故障パターンに応じて故障している入力回路を特定し、その入力回路が故障している旨の警告を発信する(S707〜S710)。
【0049】
図7:ステップS706〜S710:判定例その1)
例えば図5のフローチャートにおいて故障パターン1が発生していると判定し(S505)、かつステップS706において最終判定結果と推定結果が一致した場合、以下の条件を満たすことになる。(a)図4のフローチャートによれば、推定結果が存在する場合、その推定結果はRレンジまたはDレンジである。(b)ステップS706により、最終判定結果と推定結果は一致している。(c)図6のステップS604〜S605またはステップS609〜S610によれば、推定結果と最終判定結果が一致する場合、推定結果と多数決における少数派は一致している。したがって、最終判定結果、推定結果、および多数決における少数派が一致し、多数決における多数派の入力回路は故障していると考えられる。故障パターン1においては第1入力回路211と第2入力回路221が多数派であるので、1次判定部214はこれら入力回路が故障していると判断し、その旨の警告を発信する。
【0050】
図7:ステップS706〜S710:判定例その2)
最終判定結果、仮判定結果、および推定結果が全て異なるシフトレンジ状態を示している場合、車両状態は異常であり、走行を継続させるべきではないと考えられる。この場合はステップS706の後にステップS711へ進む。これは図6のステップS606またはS611に相当する。
【0051】
図7:ステップS711)
1次判定部214は、全ての入力回路が故障していると判断し、その旨の警告を発信する。
【0052】
<本発明のまとめ>
本発明に係る車載用変速機制御装置200は、シフトレンジ信号に基づきシフトレンジ状態を仮判定した結果と、走行状態データに基づきシフトレンジ状態を推定した結果とを双方用いることにより、シフトレンジ状態を最終判定する。これにより、入力回路が故障している場合であっても、適切な制御信号を生成することができる。
【0053】
本発明に係る車載用変速機制御装置200は、仮判定結果と推定結果が一致しない場合は、推定結果に基づきシフトレンジ状態を判定するとともに、入力回路の多数決結果と推定結果を比較することによりいずれの入力回路が故障しているかを特定する。これによりシフトレンジ制御信号を適切に生成するのみならず、入力ポートの故障個所を特定して適切な処置を取ることができる。
【0054】
<本発明の変形例について>
本発明は上記した実施形態の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることもできる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0055】
図4で説明した推定ロジック、および図5図7で説明した判定ロジックは、例えばこれらロジックと同等の判定テーブルを設けてそのテーブルの記述にしたがって同等の処理を実施するように実装してもよい。
【0056】
以上の実施形態においては、車載用変速機制御装置200を実装例として説明したが、入力ポートの多数決による仮判定結果と走行状態データに基づく推定結果とを併用することができるその他制御装置においても、本発明と同等の構成を採用することができる。
【0057】
上記各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部や全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
データテーブル
【符号の説明】
【0058】
105:ドライバ、106:リニアソレノイド、107:CANコントローラ、200:車載用変速機制御装置、210:第1演算装置、211:第1入力回路、212:ALU、213:推定部、214:1次判定部、215:監視部、220:第2演算装置、221:第2入力回路、222:第3入力回路、223:ALU、224:監視部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7