【実施例】
【0037】
1. ラクターゼ溶液の製造
(実施例1)
コーン・スティープ・リカー7%、ラクトース2%を含有する液体培地を加圧殺菌後(殺菌後のpH5.5)、Kluyveromyces lactisNo.013−2(ATCC 8585株)を植菌し、30℃にて24時間、12000L/minの通気で培養した。培養終了後冷却しながら4時間放置後、タンク上部から上澄液を除き、タンク底部に凝集沈降した菌体1500kgを得た。次いでここに得られた菌体のうち1500gを水道水で洗浄後、トルエン80mlを加え混和後、1500mlの0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)を加え撹拌均一化し、密栓を施して30℃、15時間放置し自己消化せしめた。
この消化液を遠心分離して得た上清2500mlに等容の冷アセトンを加え一夜放置した。生じた沈殿を遠心分離にて集め600mlの水道水に溶かし、濃縮前酵素溶液を得た。
この濃縮前酵素溶液600mlを4℃に冷却しながら、硫酸アンモニウム粉末を60分間かけて少しずつ添加し、50%飽和水溶液を得た。当該水溶液を80時間4℃で放置(静置)しラクターゼを沈殿させた後、濾過によって固液分離し、固体状のラクターゼを回収した。当該ラクターゼを600mlの水道水に再溶解させた後、限外濃縮を行った。脱塩されたラクターゼに水道水を添加し、終濃度が50%となるようにグリセリンを添加し実施例1のラクターゼ溶液(5,000NLU/g)を得た。
(実施例2)
実施例1のラクターゼ溶液と下記比較例1とを、重量比が80:20となるように混合して、実施例2のラクターゼ溶液(5,000NLU/g)を得た。
(実施例3)
実施例1のラクターゼ溶液と下記比較例1とを、重量比が60:40となるように混合して、実施例3のラクターゼ溶液(5,000NLU/g)を得た。
(実施例4)
実施例1のラクターゼ溶液と下記比較例1とを、重量比が40:60となるように混合して、実施例4のラクターゼ溶液(5,000NLU/g)を得た。
(実施例5)
実施例1のラクターゼ溶液と下記比較例1とを、重量比が20:80となるように混合して、実施例5のラクターゼ溶液(5,000NLU/g)を得た。
【0038】
(比較例1)
市販のラクターゼ製剤である商品名「GODO−YNL2SS」(合同酒精社製、5000NLU/g)を比較例1のラクターゼ溶液とした。
(比較例2)
市販のラクターゼ製剤である商品名「MAXILACT LG5000」(DSM社製、5000NLU/g)を比較例2のラクターゼ溶液とした。
(比較例3)
市販のラクターゼ製剤である商品名「MAXILACT LGX5000」(DSM社製、5000NLU/g)を比較例3のラクターゼ溶液とした。
【0039】
2. ラクターゼ溶液の電気泳動
ラクターゼ溶液をミリQ水で10NLU/gに希釈し、SDS−PAGE用Sample Buffer(0.125M Tris-HCl pH6.8、0.0125% ブロモチモールブルー、20% グリセリン、2.5% SDS、2.5% 2-メルカプトエタノール)と1:1に混合し、95℃、5分間の加熱処理により泳動用サンプルを調製した。10%アクリルアミドゲル(4%スタッキングゲル、ゲル厚1mm、泳動距離50mm)に分子量スタンダード及び泳動用サンプルを供し、マリソル産業泳動漕にて、スタッキング10mA定電流、セパレーティング20mAにて泳動前線がゲル下端付近に達するまで泳動した。分子量スタンダード(レーンM)にはBIO−RAD#161−0313(プレステインド)を使用した。泳動後のゲルは、CBB染色液(APRO SP−4010)によるタンパク染色を1時間行った。
【0040】
結果を
図1に示す。実施例1のラクターゼ溶液(レーン1及び2)は分子量約120kDaのメインバンドのみが観察されたのに対し、比較例1(レーン3及び4)は分子量約120kDaのバンドがほとんど消失しており、分子量約80kDa、約50kDa、約30kDaの3本がメインバンドとして検出された。比較例2(レーン5)、比較例3(レーン6)ともに分子量約120kDaのバンドに加え分子量約80kDaのバンドもほとんど観察されず、メインバンドは約50kDa、約30kDaの2本であった。
ラクターゼ活性を有するのは、約120kDa、約80kDa及び約50kDaのバンドであり、約30kDaのバンドはラクターゼ活性を有するものではなかった。
【0041】
3.各バンドの定量及び結果1
上述する方法により、泳動後のゲルについて、バンドの定量により割合を算出した。結果を表1に示す。表1は全てのバンドを含む値を記載した。さらに、表2には、主要な4つのバンドのみを全体としたそれぞれのバンドの割合を算出した結果を示した。表1〜表4において、各実施例、比較例等の値を合計しても100にならないのは、得られた測定結果の小数点第2位を四捨五入したためである。
表1、2には示していないが、上記実施例1等と同様にして、特許文献1の実施例1を追試することによって得られたA区分及びB区分について、電気泳動を行ったところ、比較例2、3と同様の傾向を示した。
表1
表2
【0042】
4. 乳糖分解反応後の電気泳動及びウエスタンブロット
UHT殺菌(130℃、2秒)牛乳(商品名「明治おいしい牛乳」、株式会社明治製)に実施例1のラクターゼ溶液(レーン1及びレーン2)、比較例1(レーン3及びレーン4)、比較例2(レーン5)又は比較例3(レーン6)を、それぞれ終濃度0.05%(W/V)となるように添加し、43℃で2時間乳糖分解反応を行った。反応後の溶液を精製水で20倍(W/V)に希釈して、上記と同様にSDS−PAGE用Sample Bufferと1:1に混合し、95℃、5分間の加熱処理により泳動用サンプルを調製した。10%アクリルアミドゲル2枚に分子量スタンダード及び泳動用サンプルを供し、同時に泳動した。分子量スタンダード(レーンM)はBIO−RAD#161−0313(プレステインド)を使用した。
【0043】
泳動後のゲルは、1枚は上記と同様にCBB染色液によるタンパク染色を行い、もう1枚はウエスタンブロットに供した。ウエスタンブロットの転写膜はニトロセルロースメンブレン(BIO−RAD#162−0114)を使用し、ウェット方式により転写した。転写後のメンブランはブロックエース溶液(雪印乳業ブロックエース粉末4g/精製水100mL)でブロッキング操作を行った後、Tween−PBSにて洗浄した。
一次抗体としては以下の様に自家調製した抗ラクターゼポリクローナル抗体を使用した。実施例1で得られたラクターゼ溶液のSDS-PAGEを行い、ゲルより120kDaのバンドを切り出して細かく砕いた後にDifco社製アジュバント コンプリート フロイントと混合してエマルジョン化した。これをBalb-Cマウスの尾部根元に計3回皮下注射し、血清中抗体価の上昇を確認後、採取した全血の遠心分離上清を抗ラクターゼポリクローナル抗体とした。この抗体でラクターゼの120、80、50kDaのバンドが検出可能であった。
上記の抗ラクターゼ抗体をブロックエース希釈液(ブロックエース溶液を精製水で10倍希釈)で1,000倍に希釈した液中で、室温で2時間反応させた。Tween−PBSで4回洗浄した後、2次抗体(Gort a−mouse IgG(H+L)−HRP;SouthernBiotech 1034−05)をブロックエース希釈液で5,000倍に希釈した液中で、室温で2時間反応させた。Tween−PBSで洗浄後、3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)による染色を行った。DAB基質はDAB buffer tablets(MERCK 1.02924.0001)を使用した。
【0044】
結果を
図2に示す。CBB染色像(パネルA)においては、ラクターゼ溶液に関わらず、ほぼ同様の結果が観察された。これに対し、ウェスタンブロッティングの結果(パネルB)では、反応前のラクターゼ溶液と同様に、ラクターゼ溶液による相違が見られた。すなわち、実施例1は分子量約120kDaのメインバンドのみが観察されたのに対し、比較例1は分子量約120kDaのバンドがほとんど消失し、分子量約80kDa、約50kDaの2本がメインバンドとして検出された。比較例2又は比較例3は分子量約120kDaのバンドに加え分子量約80kDaのバンドもほとんど観察されず、メインバンドは約50kDaであった。
【0045】
以上から、分解反応の前後で各ラクターゼ溶液に含まれるラクターゼの分子量及び各分子量の画分の割合に変化は見られなかった。
【0046】
5.乳糖分解試験1
UHT殺菌牛乳(130℃、2秒)に実施例1のラクターゼ溶液、比較例1、比較例2及び比較例3をそれぞれ終濃度0.05%(w/v)(2.5NLU/100mL牛乳)となるように添加し、49℃、46℃、43℃、40℃及び37℃で乳糖分解反応を行った。乳糖分解反応前の乳糖の含量と、反応中の乳糖の含量を経時的にHPLC(Transgenomic CARBOSep CHO620カラム)で測定した(Waters Alliance HPLCシステム、カラム温度:85℃、溶媒:H
2O、流速:0.5mL/min、検出器:Waters2414RIディテクター)。乳糖分解率は、以下のように算出した。乳糖分解率(%)=100−(各実施例又は各比較例のラクターゼ溶液を用いた乳糖分解反応後の牛乳に含まれる乳糖含量/各実施例又は各比較例のラクターゼ溶液を用いた乳糖分解反応前の牛乳に含まれる乳糖含量)×100)
【0047】
結果を
図3に示す。
図3Aは乳糖量、
図3Bは乳糖分解率の経時変化の結果を示している。2時間の反応により、37℃では実施例1、比較例1、比較例2又は比較例3で分解率に差は見られなかったが、反応温度が上がるにつれて、実施例1の分解率が最も高く、次いで比較例1、もっとも分解率が低いものが比較例2又は比較例3という傾向が認められた。上記のように、本発明のラクターゼ溶液は、反応温度を高くした場合においてもラクターゼが失活せず、熱安定性が高いことが示された。実施例1のラクターゼ溶液は温度を高めることによって、短い反応時間でより効率的に乳糖を分解することも可能である。尚、異なるLotのラクターゼ溶液においても、その結果の再現性が確認された。
【0048】
各ラクターゼ溶液中の主要なラクターゼ画分の分子量が反応前後で変化していないことから、分解率の低下は、反応中にラクターゼの活性が低下したために生じたものと考えられる。また、40℃以上での反応における分解率は、120kDa画分の含有量が高いほど高かった。
【0049】
6.混合ラクターゼ溶液における検討
実施例1のラクターゼ溶液と比較例1のラクターゼ溶液を上述する割合で混合して得たラクターゼ溶液、実施例2〜5について以下検討を行った。
【0050】
6−1.各バンドの定量及び結果2
実施例2〜5について、上述した方法により、電気泳動を行った後、各バンドの定量を行った。電気泳動の結果を
図4、定量の結果を表3に示す。表3は全てのバンドを含む値を記載した。さらに表4には、主要な4つのバンドのみを全体としたそれぞれのバンドの割合を算出した結果を示した。尚、比較のため、実施例1及び比較例1についても同時に泳動及び定量を行った結果を示した。
表3
表4
【0051】
乳糖分解試験2
実施例1〜5及び比較例1のラクターゼ溶液を用いて、上述した乳糖分解試験の方法により、49℃で乳糖分解反応を行った。得られた結果を
図5に示した。
パネルAは乳糖量、パネルBは乳糖分解率の経時変化の結果を示している。約120kDaのバンドが増えるにつれ、乳糖分解が進むことを確認した。
【0052】
したがって、上記の結果より、SDS−PAGEにおいて約120kDaのメインバンドが20%以上であるラクターゼ溶液は、SDS−PAGEにおいて分子量約80kDa、約50kDa及び約30kDaのメインバンドを有するラクターゼ溶液よりも耐熱性が高いといえる。