特許第6441391号(P6441391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441391
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】二次電池用の高性能有機電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/60 20060101AFI20181210BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20181210BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20181210BHJP
   C07F 1/08 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   H01M4/60
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   C07F1/08 CCSP
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-15491(P2017-15491)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2017-168433(P2017-168433A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2017年5月29日
(31)【優先権主張番号】16000312.5
(32)【優先日】2016年2月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511310524
【氏名又は名称】カールスルーエ インスティテュート フュア テクノロジ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィヒトナー マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヂャオ−カルガー ジーロン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ ピン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ジー
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン マリオ
【審査官】 小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101333437(CN,A)
【文献】 特開2015−015454(JP,A)
【文献】 LeCours S,,Synthesis, Transient Absorption, and Transient Resonance Raman Spectroscopy of Novel Electron Donor-Acceptor Complexes:[5,15-Bis[(4'-nitrophenyl)ethynyl]-10,20-diphenylporphinato]copper(II) and [5-[[4'-(Dimethylamino)phenyl]ethynyl]-15-[(4''-nitrophenyl)ethynyl]-10,20-diphenyl-porphinato]copper(II),Journal of American Chemical Society,1997年,119,12578-89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/60
C07F 1/08
H01M 4/13
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)の化合物を含む電極
【化1】
(式中、Mは、遷移金属イオン、アルカリ土類金属イオン、pブロック元素イオン、及びランタニドイオンからなる群より選択され、
及びX〜Xは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、−NZ、−NO、−CN、−OZ、−C(O)Z、−C(O)NZ、及び−COOZからなる群より選択され、Z〜Zはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びハロゲン原子から選択され、
及びRはそれぞれ非置換エチニル基であり、
前記アルキル基、前記アルケニル基、前記アルキニル基、前記アリール基、及び前記ヘテロアリール基はそれぞれ独立して置換されているか、又は置換されていない)。
【請求項2】
MがCu(II)である、請求項1に記載の電極
【請求項3】
及びRがそれぞれフェニル基である、請求項1又は2に記載の電極
【請求項4】
前記化合物が[5,15−ビス(エチニル)−10,20−ジフェニルポルフィナト]銅(II)である、請求項2又は3に記載の電極
【請求項5】
前記一般式(1)の化合物の含量が前記電極の総重量に対して20%〜100%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
バインダー及び/又は導電性添加物を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記電極の総重量に対して、前記バインダーの含量が0%〜40%であり、及び/又は前記導電性添加物の含量が0%〜80%である、請求項に記載の電極。
【請求項8】
前記バインダーが、ポリフッ化ビニリデンバインダー、ポリフッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロペン(PVDF−HFP)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリ(アクリル酸)(PAA)からなる群より選択される、請求項6又は7に記載の電極。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電極を少なくとも1つ含む電池セル。
【請求項10】
カソード又はアノードとして請求項1〜8のいずれか一項に記載の電極を1つ含む、請求項に記載の電池セル。
【請求項11】
前記電池セルが請求項1〜8のいずれか一項に記載の電極を2つ含み、2つの電極の一方がカソードであり、他方の電極がアノードである、請求項に記載の電池セル。
【請求項12】
電池における電極材料としての一般式(1)の化合物の使用
【化2】
(式中、Mは、遷移金属イオン、アルカリ土類金属イオン、pブロック元素イオン、及びランタニドイオンからなる群より選択され、
、R及びX〜Xは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、−NZ、−NO、−CN、−OZ、−C(O)Z、−C(O)NZ、及び−COOZからなる群より選択され、Z〜Zはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びハロゲン原子から選択され、
及びRはそれぞれ非置換エチニル基であり、
前記アルキル基、前記アルケニル基、前記アルキニル基、前記アリール基、及び前記ヘテロアリール基はそれぞれ独立して置換されているか、又は置換されていない)
【請求項13】
前記電池が二次電池である、請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料として使用することができる化合物、該化合物を含む電極、及び該電極を少なくとも1つ含む電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
充電式リチウムイオン電池(LIB)はここ20〜30年の間で開発に成功しており、今日の携帯用電子デバイスに電力を供給するのに広く使用されている。電気自動車及び格子規模の再生エネルギー貯蔵の長期的な成功を目指すには、電池の高エネルギー密度、長いサイクル寿命、良好な安全性及び低コストについて大きな課題がある。従来のリチウムイオン電池系は理論エネルギー密度限界に近く、寿命及び充電率を改善しなければならないことが認識されている。
【0003】
有機電極材料ベースの充電池は、その調節可能であるという特性、環境への優しさ、柔軟性、良好な安全性、持続可能性及び比較的低いコストから、従来のリチウムイオン電池に取って代わるものとして有力である。有機分子はn型有機分子、p型有機分子及び双極性有機分子に分けることができ、中性分子は酸化して正に帯電した状態になるか、又は還元して負に帯電した状態になるかのいずれかであり得る。
【0004】
LIBでは従来の無機電極材料とは異なり、有機電極の電池性能はその分子構造に大きく左右され、分子構造は合成により望みどおりに調整することができる。
【0005】
ポルフィリンは、ヒュッケルの(4n+2)π電子則を満たす24個のコア原子に亘って非局在化された芳香族の18π共役系を有する。多くのポルフィリン及びメタロポルフィリンが自然に存在し、例えば集光に、触媒として、又は太陽電池に広く適用される。高度に共役したπ系を有するポルフィリン及びその誘導体は電子の除去又は取込み中に分子の構造変化が最小限に抑えられることから、効率的な電子移動プロセスに適している。16π電子及び20π電子の「反芳香族」ポルフィリンは、芳香族ポルフィリンの18π電子系の酸化又は還元により得ることができ、首尾よく単離及び構造決定することができることもある。
【0006】
しかしながら、高出力、高エネルギー密度及び非常に良好なサイクル安定性を有する電池を提供することができる有機電極材料はこれまで利用されてこなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このため本発明の根底にある技術的課題は、「有機」電極材料として使用することができる化合物、並びに高電力密度及び優れたエネルギー密度を有する対応する電池セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題の解決は特許請求の範囲にて特徴付けられる実施の形態によって為される。
【0009】
特に本発明は、一般式(1)の化合物に関する:
【化1】
(式中、Mは、遷移金属イオン、好ましくはTi、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Pt、及びAuからなる群より選択される遷移金属イオン、アルカリ土類金属イオン、好ましくはMg及びCaからなる群より選択されるアルカリ土類金属イオン、pブロック元素イオン、好ましくはB、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Se、及びTeからなる群より選択されるpブロック元素イオン、並びにランタニドイオン、好ましくはLa、Ce、Sm、及びEuからなる群より選択されるランタニドイオンからなる群より選択され、
〜R及びX〜Xは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、−NZ、−NO、−CN、−OZ、−C(O)Z、−C(O)NZ、及び−COOZからなる群より選択され、R〜Rの少なくとも1つはアルキニル基であり、Z〜Zはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びハロゲン原子から選択され、
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、及びヘテロアリール基はそれぞれ独立して置換されているか、又は置換されていない)。
【0010】
本発明によると、Mは、遷移金属イオン、好ましくはTi、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Pt、及びAuからなる群より選択される遷移金属イオン、アルカリ土類金属イオン、好ましくはMg及びCaからなる群より選択されるアルカリ土類金属イオン、pブロック元素イオン、好ましくはB、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Se、及びTeからなる群より選択されるpブロック元素イオン、並びにランタニドイオン、好ましくはLa、Ce、Sm、及びEuからなる群より選択されるランタニドイオンからなる群より選択される。これらのイオンは安定した酸化状態(例えばCu(II))にあることが好ましい。ポルフィリン錯体の電子移動プロセスは、中心金属イオンMの性質と、構造特性、分光学的特性及び酸化還元特性を変え得る軸配位とに左右される。本出願の好ましい実施の形態では、MはCu(II)である。中心金属での酸化還元反応が初期ポルフィリンにおいて不要な構造変化を引き起こすことで、電池の可逆性に悪影響を及ぼし得ることから、Cu(II)ポルフィリン錯体は金属イオンとの反応性が低いため、充電池における電極活物質として利用するのに特に適している。
【0011】
市販のポルフィリン錯体[5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト]銅(II)(CuTPP)が、Li金属アノードと電解質として1M LiPFのエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びプロピレンカーボネート(PC)混合溶媒とを更に含む電池系におけるカソードとして最初に調べられた。しかしながら、電池の性能は満足のいくものではなく、これはおそらく電解質への活物質の高い溶解度、又はその電気化学的特性の他の固有の制限によるものであった。
【0012】
本発明によると、本明細書の下記で示されるように、ポルフィリンへの少なくとも1つのアルキニル部分、好ましくはエチニル部分の導入により、驚くべきことに現行の技術水準の系と同等の貯蔵容量であるが、充放電率がコンデンサと同等でありかつリチウムイオン電池を上回る、優れた電池性能を示す化合物が得られる。そのため、本発明の一般式(1)では、R〜Rの少なくとも1つ又は2つがアルキニル基である。R〜Rの少なくとも1つ又は2つがエチニル基であることが好ましい。
【0013】
本明細書における「ハロゲン」という用語は特にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子を指す。「アルキル基」という用語は特に炭素数1〜20、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6、最も好ましくは1〜4の分岐又は線形アルキル基を指し、置換されていても又は置換されていなくてもよい。「アルケニル基」という用語は特に炭素数2〜20、好ましくは2〜12、より好ましくは2〜6、最も好ましくは2〜4の分岐又は線形アルケニル基を指し、置換されていても又は置換されていなくてもよい。「アルキニル基」という用語は特に炭素数2〜20、好ましくは2〜12、より好ましくは2〜6、更に好ましくは2〜4の分岐又は線形アルキニル基を指し、炭素数2のアルキニル基(すなわちエチニル基)が最も好ましく、置換されていても又は置換されていなくてもよい。「アリール基」という用語は特に1個〜6個、好ましくは1個〜4個、より好ましくは1個〜3個の環、最も好ましくは1個の環からなるアリール基を指し、置換されていても又は置換されていなくてもよい。アリール基の例としては、フェニル基、アントラセニル基又はナフチル基がある。「ヘテロアリール基」という用語は特に1個〜6個、好ましくは1個〜4個、より好ましくは1個〜3個の環からなるヘテロアリール基を指し、置換されていても又は置換されていなくてもよい。ヘテロアリール基の例としては、ピリジル基、ピリミジニル基、チエニル基、フリル基又はピロリル基がある。
【0014】
本発明によると、エチニル基、フェニル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びヘテロアリール基は置換されていなくても又は置換されていなくてもよい。潜在的置換基は特に限定されない。したがって水素原子の代わりに、従来技術で知られている任意の置換基を対応する基の更なる位置に結合させることができる。例えば、潜在的置換基はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、−NZ、−NO、−CN、−OZ、−C(O)Z、−C(O)NZ、及び−COOZからなる群より選択することができ、ここでZ〜Zはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びハロゲン原子から選択される。エチニル基、フェニル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びヘテロアリール基は置換されていないことが最も好ましい。
【0015】
本発明による化合物の好ましい実施の形態では、R及びRはそれぞれアルキニル基である。R及びRはそれぞれエチニル基であることがより好ましい。
【0016】
及びRはそれぞれアリール基であることが好ましい。R及びRはそれぞれフェニル基であることがより好ましい。
【0017】
本発明による化合物の好ましい実施の形態では、式(1)の化合物は[5,15−ビス(エチニル)−10,20−ジフェニルポルフィナト]銅(II)(CuDEPP、式(2)を参照されたい)であり、これはR及びRがそれぞれ非置換エチニル基であり、R及びRがそれぞれ非置換フェニル基であり、X〜Xがそれぞれ水素原子であることを意味している。
【化2】
【0018】
2つのメソエチニル基を有する[5,15−ビス(エチニル)−10,20−ジフェニルポルフィナト]銅(II)(CuDEPP)は中程度の全収率にて首尾よく合成することができ、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析法(MALDI−TOF−MS)、紫外可視分光法(UV−vis)及び赤外分光法(IR)を用いて特徴付けることができる。特に熱重量示差走査熱量分析(TGA−DSC)からCuDEPP分子が空気中にて250℃まで熱的に安定していることが示され、このことは高度にπ共役した構造及び芳香族性に寄与し得る。
【0019】
その上、CuDEPPはCuTPPと比べて適用される電解質への溶解度が相対的に低く、このことは電池用途にとって有益である。他方、ジクロロメタン(CHCl)及びアセトニトリル(CHCN)等の一般的な有機溶媒への低溶解度はサイクリックボルタンメトリー(CV)による溶液状態のCuDEPPの電気化学的分析の妨げとなる。類似の化合物CuTPPの報告されている酸化還元化学に基づき、18π電子を有するCuDEPPに対して可逆的な2電子酸化及び2電子還元を提唱することができ、それによりそれぞれジカチオン種(CuDEPP2+、16π電子)及びジアニオン種(CuDEPP2−、20π電子)が形成される(図1を参照されたい)。
【0020】
更なる態様では、本発明は電池、好ましくは二次電池における電極材料としての本発明による化合物の使用に関する。上記の記述及び定義は本発明のこの態様にも同じように適用される。本発明による化合物を電極材料として使用することにより、カソード及びアノードの両方として使用することができる、電気化学的特性に優れた電極を作製することが可能であることは有益である。そのため、本発明による化合物を電極材料として使用することにより、どんな有機電池でも得ることができる。
【0021】
更なる態様では、本発明は本発明による化合物を含む電極に関する。上記の記述及び定義は本発明のこの態様にも同じように適用される。
【0022】
電極における本発明による化合物の含量は特に限定されない。したがって、電極は本発明の化合物のみからなっていても、又は更なる電極材料を含んでいても若しくはそれからなっていてもよい。そのため本発明の好ましい実施の形態では、本発明による化合物の含量(重量基準)は電極の総重量に対して20%〜100%である。より好ましくは、本発明による化合物の含量は、電極の総重量に対して20%〜95%、更により好ましくは30%〜80%、40%〜75%、45%〜70%、最も好ましくは50%〜65%である。
【0023】
本発明の化合物とは別の更なる潜在的電極材料は特に限定されない。したがって当該技術分野で知られているあらゆる種類の電極材料を使用することができる。例えば、電極はバインダー及び/又は導電性添加物、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイト、グラフェン、及びグラフェンオキシドを更に含んでいても、又はそれらからなっていてもよい。好ましい実施の形態では、本発明の電極は本発明による化合物とバインダーとカーボンブラックとを含む。本発明による電極は本発明による化合物とバインダーとカーボンブラックとからなることがより好ましい。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態では、本発明による電極におけるバインダーの含量(重量基準)は電極の総重量に対して0%〜40%である。より好ましくは、バインダーの含量は電極の総重量に対して0%〜30%、更により好ましくは2%〜25%、3%〜20%、4%〜15%、最も好ましくは5%〜12%である。
【0025】
可能なバインダーは特に限定されない。そのため、当該技術分野で知られている任意のバインダーが本発明による電極に存在する可能性がある。例えばバインダーは存在する場合、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロペン(PVDF−HFP)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリ(アクリル酸)(PAA)からなる群より選択することができる。バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロペン(PVDF−HFP)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択することが好ましい。バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)であることが最も好ましい。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は電極処理において、例えば汎用性、環境への影響及び安全性について利益をもたらす。
【0026】
本発明の好ましい実施の形態では、本発明による電極における導電性添加物の含量(重量基準)は電極の総重量に対して0%〜80%である。より好ましくは導電性添加物の含量は電極の総重量に対して10%〜70%、更により好ましくは20%〜65%、25%〜60%、30%〜50%、最も好ましくは35%〜45%である。上記で特定された範囲から外れる導電性添加物の含量は可逆容量の低下を引き起こす場合がある。
【0027】
更なる態様では、本発明は本発明による電極を少なくとも1つ含む電池セルに関する。上記の記述及び定義は本発明のこの態様にも同じように適用される。
【0028】
電池セルに使用される電解質は特に限定されない。そのため当該技術分野で知られている任意の電解質を本発明による電池セルに使用することができる。例えば、電解質はLiPF、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP14TFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(LiN(CFCFSO)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PP13TFSI)、並びに1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム、1−アルキルピリジニウム、N−メチル−N−アルキルピロリジニウム、アンモニウム、及びホスホニウム等の有機カチオンと、ハロゲン化物、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ビストリフルイミド、トリフレート、又はトシレート等のアニオンとからなるイオン液からなる群より選択することができる。電解質はLiPF、PP14TFSI、LiClO、LiTFSI、LiN(CFCFSO、LiB(C、NaPF、NaClO、及びPP13TFSIからなる群より選択することが好ましい。電解質はLiPF及びPP14TFSIからなる群より選択することが最も好ましい。
【0029】
電解質は溶媒又は混合溶媒に溶解することができる。電解質溶液のための溶媒が当該技術分野で知られている。例えば、電解質はエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,3−ジオキソラン(DOL)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、及びグリムからなる群より選択される1つ又は複数の溶媒に溶解することができる。電解質はエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選択される1つ又は複数の溶媒に溶解することが好ましい。電解質はエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びプロピレンカーボネート(PC)のみからなる混合溶媒に溶解することが最も好ましい。
【0030】
電解質を溶解するための1つ又は複数の溶媒の混合比は存在する場合、特に限定されない。例えばエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びプロピレンカーボネート(PC)が混合溶媒として使用される場合、混合溶媒の総容量100部に対して10容量部〜80容量部、好ましくは20容量部〜60容量部、最も好ましくは30容量部〜50容量部のエチレンカーボネート(EC)を、10容量部〜80容量部、好ましくは20容量部〜60容量部、最も好ましくは30容量部〜50容量部のジメチルカーボネート(DMC)、及び10容量部〜80容量部、好ましくは10容量部〜60容量部、最も好ましくは15容量部〜40容量部のプロピレンカーボネート(PC)と混合することができる。
【0031】
溶解している場合、溶媒又は混合溶媒における電解質の濃度は特に限定されない。好ましくは溶媒又は混合溶媒における電解質の濃度は0.01M〜5M、より好ましくは0.1M〜4M、0.2M〜3M、0.4M〜2M、0.6M〜1.5M、最も好ましくは0.8M〜1.2Mである。
【0032】
上記で既述のように、本発明による化合物を含む本発明による電極は電池セルにおけるカソード及び/又はアノードとして有益に使用することができる。
【0033】
そのため、本発明による電池セルの一実施の形態によれば、電池セルはカソードとして働く/機能する本発明による電極を1つ含む。対応する電池セルの一例を図2に示す。この実施の形態による電池セルのアノードは特に限定されない。そのため従来技術で知られている任意のアノードを使用することができる。例えばアノードをLi電極、例えばLiホイル、LiTi12電極、Li4.4Sn電極、Li4.4Si電極、ナトリウム(Na)電極、カリウム(K)電極、マグネシウム(Mg)電極、及びカルシウム(Ca)電極からなる群より選択することができる。アノードはリチウム電極であることが好ましい。アノードはLiホイルであることが最も好ましい。この実施の形態の電池セルに使用される電解質はLiPFであることが好ましい。この電解質は化学的安定性が高く、電気化学的特性が良好である。この実施の形態による電池セルは優れた比エネルギー密度(specific energy density)を有することが有益である。例えば、この実施の形態による電池セルは少なくとも345Wh/kg、好ましくは少なくとも375Wh/kg、少なくとも396Wh/kg、少なくとも429Wh/kg、最も好ましくは少なくとも555Wh/kgの比エネルギー密度を有する。その上、この実施の形態による電池セルは優れた比電力密度を有する。例えばこのような電池セルの比電力密度は少なくとも590W/kg、好ましくは少なくとも2900W/kg、少なくとも5900W/kg、少なくとも18000W/kg、最も好ましくは少なくとも29500W/kgである。
【0034】
さらに、本発明による電極をカソードとして含む電池セルは優れた長期サイクル寿命及び顕著なレート性能(rate performance:出入力性能)を有することが有益である。注目すべきことに例えば10A/gと高い電流密度であっても、本発明による電極は依然、安定した可逆放電容量(例えば99.5%のクーロン効率にて42秒以内に得られる、平均出力電圧3V(Li/Liに対する)での115mAh/g)を送達することができ、このことからその優れた電気化学的性能が実証される。その上、例えば4A/gの電流量(current rate)にて2000サイクル後に85%及び8000サイクル後に60%の容量保持を得ることができる。本発明の電極をカソードとして含む電池系を用いることで初回充電プロセスを行うことが好ましく、これはこの初回充電プロセスにより優れた電池性能が得られるためである。
【0035】
本発明による電池の別の実施の形態によれば、電池セルはアノードとして働く/機能する本発明による電極を1つ含む。対応する電池セルの一例を図3に示す。
【0036】
この実施の形態による電池セルのカソードは特に限定されない。そのため従来技術で知られている任意のカソードを使用することができる。層状構造を持つカソード材料を使用することが好ましい。したがってカソードはグラファイト電極、グラフェン電極、グラフェンオキシド電極、及びMoS電極からなる群より選択することが好ましい。カソードはグラファイト電極、グラフェン電極、及びグラフェンオキシド電極からなる群より選択することがより好ましい。カソードはグラファイト電極であることが最も好ましい。
【0037】
この実施の形態の電池セルに使用される電解質は1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP14TFSI)であることが好ましい。PP14TFSIは高い誘電率及びイオン伝導率を有し、その高い化学的安定性及び熱安定性、並びに非毒性から電池用途に安全である。
【0038】
充電時に、本発明による化合物、例えばCuDEPPは外部回路から電子を受け取り、還元することで例えばCuDEPP2−種となる。並行して、例えばPP14TFSIが電解質として使用されるとともに、例えばグラファイトがカソードとして使用される場合、電解質由来のTFSIアニオンをグラファイトカソードへとインターカレーションする(intercalated:挿入する)ことができる。この場合、電解質由来のPP14カチオンはCuDEPP2−アニオンの負電荷を補償する。逆放電時に、TFSIアニオンはグラファイトカソードからデインターカレーションし(de-intercalated:脱離し)、アノードのCuDEPP2−アニオンが電子を外部回路へと放出し、酸化することで中性状態となる。
【0039】
この実施の形態による電池セルは良好な比エネルギー密度を有することが有益である。例えば、この実施の形態による電池セルは少なくとも40Wh/kg、好ましくは少なくとも60Wh/kg、少なくとも80Wh/kg、少なくとも100Wh/kg、最も好ましくは少なくとも120Wh/kgの比エネルギー密度を有する。
【0040】
その上、この実施の形態による電池セルは優れた比電力密度を有する。例えば、このような電池セルの比電力密度は少なくとも1100W/kg、好ましくは少なくとも2000W/kg、少なくとも3000W/kg、少なくとも6000W/kg、最も好ましくは少なくとも14000W/kgである。
【0041】
本発明による電極をアノードとして含む電池セルは10A/gと高い電流密度にて例えば14kW/kgと高い比電力を送達することができることが有益である(12秒以内の32mAh/gの放電容量)。このような値はこれまで電気化学コンデンサを用いることでのみ可能であった。
【0042】
上記2つの実施の形態とは異なり、本出願による化合物の二極酸化還元反応性により、全有機充電池の構築が可能となる。そのため、本発明の別の実施の形態によると、電池セルは本発明による電極を2つ含み、2つの電極の一方がカソードとして働き、他方の電極がアノードとして働く。
【0043】
このような全有機電池の作用機構は図4のCuDEPP/LiPF/CuDEPPセル形態にて概略的に示される。充電時、CuDEPPアノードは外部回路から電子を受け取り、CuDEPP2−種を形成し、電荷平衡のためにLiが電解質から入り込む。その一方でCuDEPPカソードは電子を外部回路に供与し、電荷平衡のためにPFが電解質から入り込む。逆放電時、アノードのCuDEPP2−ジアニオンは電子を放出し、酸化して中性状態のCuDEPPとなる。その一方でカソードのCuDEPP2+ジカチオンは電子を取り込み、還元して中性状態のCuDEPPとなる。Liイオン及びPFイオンはアノード及びカソードから電解質へと戻る。
【0044】
この実施の形態の電池セルに使用される電解質はLiPFであることが好ましい。
【0045】
この実施の形態による電池セルは優れた比エネルギー密度を有することが有益である。例えばこの実施の形態による電池セルは、少なくとも48Wh/kg、好ましくは少なくとも60Wh/kg、少なくとも80Wh/kg、少なくとも120Wh/kg、最も好ましくは少なくとも150Wh/kgの比エネルギー密度を有する。
【0046】
その上、この実施の形態による電池セルは非常に優れた比電力密度を有する。例えば、このような電池セルの比電力密度は少なくとも150W/kg、好ましくは少なくとも160W/kg、少なくとも200W/kg、少なくとも240W/kg、最も好ましくは少なくとも250W/kgである。
【0047】
本発明による化合物、例えば芳香族ポルフィリン錯体CuDEPPは多様な充電池配置を可能にする新規の二極酸化還元材料として特定されている。該化合物を電極材料として用いることにより様々な電池系を実現することができる。例えばLi/LiPF/CuDEPP電池は210mAh/gの初期放電容量を送達することができる。このような電池を用いることで、4A/gと高い電流密度にて2000サイクル及び8000サイクル内でそれぞれおよそ85%及び60%の容量保持を保つことができ、このことから3.0Vと高い平均電位(Liに対する)での優れたサイクル性が実証される。注目すべきことに、例えば115mAh/gの安定した可逆放電容量を10A/gの電流にて42秒以内に達成することができ、29kW/kgと顕著な比電力及び345Wh/kgと高い比エネルギー密度が与えられる。
【0048】
本発明の化合物はリチウム非含有電池、例えばCuDEPP/PP14TFSI/グラファイト電池に適用することもでき、ここでCuDEPPはアノード活物質として働く。この場合、例えば94mAh/gの放電容量を1A/gの電流密度にて得ることができる。その上、非常に優れたサイクリング(cycling)及び優れたレート性能を達成することができる。
【0049】
全有機対称配置において、例えばCuDEPPの形態で、4電子移動を可能にする本発明の化合物の二極酸化還元反応性が更に確認された。
【0050】
従来のLiイオン電池における緩慢なリチウム挿入プロセスとは対照的に、本発明の電極の迅速な酸化還元変換は電気化学反応に対して1つの分子当たり4つの電子を伴うことができ、これはポルフィリン錯体の簡易な酸化還元反応性によるものであり得る。高度にπ共役した構造による酸化還元種の安定化は優れた電池性能の保持に重要な役割を果たす。電極活物質としての本発明の化合物の多様性から、二極酸化還元有機電極の分子設計に対する新たなアプローチが明らかとなる。
【0051】
特にポルフィリンへの少なくとも1つのアルキニル部分、好ましくはエチニル部分の導入により、驚くべきことに現行の技術水準の系と同等の貯蔵容量であるが、充放電率がコンデンサと同等でありかつリチウムイオン電池を上回る、優れた電池性能を示す化合物が得られる(図5を参照されたい)。これらの所見は形成工程にて電極を安定化することができる置換基としてアルキニル基、好ましくはエチニル基を含有することにより溶解度の低い電極材料の導電性ネットワークがもたらされる、電気化学エネルギー貯蔵のための他の有機化合物にも当てはめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】電子変換:ポルフィリン核の16π電子、18π電子、20π電子の酸化変換及び還元変換の模式図である。太線は各π共役回路を示す(R=エチニル、R=フェニル(すなわちCuDEPP))。
図2】本発明による電極をカソードとして使用しているセル系及び充放電プロセスにおけるカソードとアノードとの間の電子変換の対応する模式図である。
図3】本発明による電極をアノードとして使用しているセル系及び充放電プロセスにおけるカソードとアノードとの間の電子変換の対応する模式図である。
図4】本発明による電極をカソード及びアノードとして使用しているセル系並びに充放電プロセスにおけるカソードとアノードとの間の電子変換の対応する模式図である。
図5】様々なエネルギー貯蔵系についてのエネルギー密度及び電力密度のラゴーンプロット図である。プロットの右上に円で示された電池セル(すなわち「セル1」)はカソードとしてCuDEPP、アノードとしてリチウムホイル、及び電解質としてLiPFのEC/DMC/PC溶媒を含有するものである。これらの電池セルは充放電中に4つの電子を(すなわちCuDEPP2+とCuDEPP2−との間で)移動させることができる。四角で示された電池セル(すなわち「セル2」)はリチウム非含有であり、カソードとしてグラファイト、アノードとしてCuDEPP、及び電解質としてPP14TFSIを含有するものである。理論上、これらのセルの充放電時に2つの電子を(すなわちCuDEPPとCuDEPP2−との間で)移動させることができる。
図6】5,15−ジブロモ−10,20−ジフェニル−21H,23H−ポルフィリンから始まるCuDEPPの合成を示す図である。
図7】Li/LiPF/CuDEPPセルのサイクリックボルタモグラム(CV)を調べた図である。4.5V〜0.05Vの電圧範囲での1回目のサイクルにおけるLi/LiPF/CuDEPPセルのCV曲線を示す。スキャン速度は0.1mV/sとした。
図8】Li/LiPF/CuDEPPセルのサイクリックボルタモグラム(CV)を調べた図である。4.5V〜1.8Vの電圧範囲での初めの5回のサイクルのCV曲線を示す。スキャン速度は0.1mV/sとした。
図9】4.5V〜1.8Vの電圧範囲におけるCuDEPPカソードの電気化学的性能:初期の充電曲線及び放電曲線を示す図である。
図10図9の放電曲線のdQ/dVプロット図である。
図11】様々な電流量での充放電性能を示す図である。
図12】様々な電流量での放電曲線を示す図である。
図13】10A/gと高い電流密度での選択された充電プロファイル/放電プロファイルを示す図である。
図14】Li/LiPF/CuDEPPセルの長期サイクリング:サイクリング性能を示す図である。
図15】4A/gの電流での選択された充電曲線及び放電曲線を示す図である。
図16】4A/gの電流での選択された充電曲線及び放電曲線を示す図である。
図17】10mV/sの掃引速度での電池試験における2000サイクル後のLi/LiPF/CuDEPPセルのCV曲線を示す図である。
図18】100mV/sの掃引速度での電池試験における2000サイクル後のLi/LiPF/CuDEPPセルのCV曲線を示す図である。
図19】様々な電気化学的状態でのCuDEPPカソード材料の形態及び結晶化度を示す図である:調製したままの材料のSEM画像(図19のa及びb)、4.5Vまで充電した材料のSEM画像(図19のc及びd)、並びに1.8Vまで放電した材料のSEM画像(図19のe及びf)。白色及び黒色のスケールバーはそれぞれ2μm及び200nmを表す。
図20】様々な電気化学的状態でのCuDEPPカソード材料の形態及び結晶化度を示す図である:CuDEPP電極の調製したままのスケール、4.5Vまで充電したスケール、及び1.8Vまで放電したスケールにおけるXRDパターン。
図21】CuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのCVを調べた図である:4.0V〜0.0Vの掃引電圧範囲における5mV/sのスキャン速度でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルの初期CV曲線。
図22】CuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのCVを調べた図である:4.0V〜0.0Vの掃引電圧範囲における20mV/sのスキャン速度でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルの初期CV曲線。
図23】様々な電気化学的状態でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのグラファイト電極の特性評価を示す図である:充電されたグラファイトカソードのSEM画像。
図24】様々な電気化学的状態でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのグラファイト電極の特性評価を示す図である:炭素を示した対応する元素地図。
図25】様々な電気化学的状態でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのグラファイト電極の特性評価を示す図である:酸素を示した対応する元素地図。
図26】様々な電気化学的状態でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのグラファイト電極の特性評価を示す図である:フッ素を示した対応する元素地図。
図27】様々な電気化学的状態でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのグラファイト電極の特性評価を示す図である:窒素を示した対応する元素地図。
図28】様々な電気化学的状態でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのグラファイト電極の特性評価を示す図である:硫黄を示した対応する元素地図。
図29】様々な電気化学的状態でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのグラファイト電極の特性評価を示す図である:充電されたグラファイトのEDX総和スペクトル。
図30】様々な電気化学的状態でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのグラファイト電極の特性評価を示す図である:調製したままの状態、充電状態及び放電状態におけるグラファイトカソードのXRDパターン。
図31】CuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのレート性能を示す図である:1A/gの電流密度での1回目の充電プロファイル/放電プロファイル。
図32】CuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのレート性能を示す図である:4.0V〜0.0Vの電圧範囲でのレート性能。
図33】4.0V〜0.0Vの電圧範囲でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのサイクリング性能を示す図である:5A/gの電流密度でのサイクリング性能。
図34】4.0V〜0.0Vの電圧範囲でのCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのサイクリング性能を示す図である:50サイクル、100サイクル及び150サイクルでの選択された充電曲線/放電曲線。
図35】対称のCuDEPP/LiPF/CuDEPPセルの充電プロファイル/放電プロファイルを示す図である:200mA/gの電流密度、2.8V〜0.0Vの電圧範囲での選択された充電曲線−放電曲線(挿入図は初期放電曲線を示す)。
図36】対称のCuDEPP/LiPF/CuDEPPセルの充電プロファイル/放電プロファイルを示す図である:200mA/gの電流密度、2.6V〜(−1.8)Vでの選択された充電曲線−放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明を下記の実施例にて更に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0054】
実験手順:
化学物質
5,15−ビス(トリメチルシラニルエチニル)−10,20−ジフェニル−21H,23H−ポルフィリンはFrontier Scientific Incから購入した。LiPF電解質はBASFから購入した。イオン液PP14TFSIはIOLITECから得た。[5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト]銅(II)(CuTPP)及びグラファイト材料はSigma-Aldrichから購入した。グラファイトは真空下において473Kにて12時間乾燥させた。エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):プロピレンカーボネート(PC)(体積基準で1:3:1)中に1Mヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を含む電解質はLi/LiPF/CuDEPPセル及びCuDEPP/LiPF/CuDEPPセルの電気化学的性能を試験するのに使用した。真空下において358Kにて72時間乾燥させた1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP14TFSI、99%、IoLiTech)のイオン液はCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルの電解質として使用した。他の化学物質は全てSigma Aldrichから購入した。THFは使用前にナトリウムから蒸留した。EtNはCaHで蒸留し、アルゴン下にて保存した。PP14TFSIを真空下において80℃にて24時間乾燥させた。
【0055】
材料特性評価
薄層クロマトグラフィーはMerckの5735シリカゲル60 F254を事前にコーティングさせたアルミニウムプレートで行った。カラムクロマトグラフィはMerckのシリカゲル60(230〜400メッシュ)を用いて行った。H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトルはBrukerのDRX 500分光計で記録し、ケミカルシフトは溶媒の残存プロトン共鳴を参照にppmで示される。UV−visスペクトルはVarian Cary 500 Scan UV/vis/NIR分光光度計で測定した。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(MALDI−ToF)質量分析測定はSynapt G2−S HDMS分光分析ワークステーションで行った。IRスペクトルはMAGNA FTIR 750(Nicolet)でKBrペレットにて測定した。走査電子顕微鏡(SEM)による測定はZEISS LEO 1530機器を用いて行った。粉末X線回折(XRD)パターンはSTOE STADI−P回折計(40kV、40mAにて操作)を用いて透過ジオメトリ(transmission geometry)にて記録した。熱重量分析(TGA)は気流下において(20mL/分)、5℃/分の加熱速度でSETARAM SENSYS Evo熱分析計によって行った。
【0056】
電気化学的測定
電気化学的測定は2032コイン型セルを用いて行った。Whatmanガラスファイバーシートをセパレータとして使用した。セルの組立ては水及び酸素濃度が0.1ppm未満のアルゴン充填MBRAUNグローブボックスにて行った。セルをインキュベーターに入れ、25±0.1℃の一定温度に保った。定電流充放電測定を、Arbinのバッテリーテスターを用いて行った。サイクリックボルタンメトリー(CV)測定はBiologicのVMP−3ポテンシオスタットを用いて行った。定電流充放電測定では、セル1(実施例3)の充放電電圧範囲は4.5V〜1.8Vとした。セル1の開回路電圧は3.0±0.1Vであり、セル1は初めに4.5Vまで充電した。セル2(実施例6)の充放電電圧範囲は4.0V〜0.0Vとした。セル2の開回路電圧は0±0.1Vであり、セル2は初めに4.0Vまで充電した。セル3(実施例7)の充放電電圧範囲は2.8V〜0.0V又は2.6V〜(−1.8)Vとした。セル3の開回路電圧は0±0.1Vであった。電流密度1C=187mA/gは4電子移動によるものであり、1C=93mA/gは2電子移動によるものである。
【実施例】
【0057】
実施例1:CuDEPPの合成
CuDEPPを図6に示されるように合成した。不活性ガス雰囲気を必要とする反応をアルゴン下において行い、ガラス製品はオーブンで乾燥させた(140℃)。
【0058】
5,15−ビス(トリメチルシラニルエチニル)−10,20−ジフェニル−21H,23H−ポルフィリン
5,15−ジブロモ−10,20−ジフェニル−21H,23H−ポルフィリン(0.620g、1mmol)、Pd(PPhCl(0.070g、0.1mmol)、CuI(0.040g、0.2mmol)及びエチニルトリメチルシラン(0.206g、2.2mmol)をアルゴン雰囲気下においてTHF(35mL)とトリエチルアミン(15mL)との混合物に添加した。反応混合物を室温にて12時間撹拌した。次いでその溶液を150mLの水に注ぎ、CHCl(3×50mL)により抽出した。溶媒を真空除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:CHCl=1:1)により精製することで、5,15−ビス(トリメチルシラニルエチニル)−10,20−ジフェニル−21H,23H−ポルフィリンの褐紫色の固体を得た(0.344g、収率52%)。
H NMR(500MHz,CDCl) δ ppm 9.63(d,J=4.68Hz,4H,ピロール−H)、8.85(d,J=4.65Hz,4H,ピロール−H)、8.20(d,J=6.14Hz,4H,Ph−H)、7.94〜7.73(m,6H,Ph−H)、0.63(s,18H,−Si(CH)、−2.16(s,2H,ピロール−NH)。13C NMR(126MHz,CDCl) δ ppm 141.35、134.55、128.01、126.94、121.81、106.87、102.75、100.88、0.336。UV−vis(CHCl,nm) 434、508、541、582、678。NIR(KBr cm−1) 3428、3319、2956、2924(Si(C−H)、2853、2141(C≡C)、1597、1558、1441、1467、1441、1398、1337、1247、1194、1138、1069、1002、974、964、844、797、704、657、418。C4239SiのESI ToF算出値:[MH]、655.3;実測値:m/z 655.2。
【0059】
[5,15−ビス(トリメチルシリルエチニル)−10,20−ジフェニル)ポルフィナト]銅(II)
Cu(OAc)・HO(0.400g、2mmol)を5,15−ビス(トリメチルシラニルエチニル)−10,20−ジフェニル−21H,23H−ポルフィリン(0.332g、0.6mmol)の50mL THF、50mL CHCl及び5mL EtN混合溶液に添加した。反応物を室温にて12時間撹拌させた後、150mLの水に注ぎ、CHCl(3×50mL)により抽出した。CHCl溶液を減圧下において濃縮し、暗紫色の固体を得た(0.343g、80%)。
UV−vis(CHCl,nm) 432、564、606。NIR(KBr cm−1) 2917(Si(C−H)、2849、2134(C≡C)、1523、1462、1443、1344、1246、1209、1166、1067、1004、993、840、794、755、706、666、620、566。C4236SiのESI ToF算出値:[M]、715.2;実測値:m/z 715.2。
【0060】
[5,15−ビス(エチニル)−10,20−ジフェニルポルフィナト]銅(II)
[5,15−ビス(トリメチルシリルエチニル)−10,20−ジフェニル)ポルフィナト]銅(II)(0.322g、0.45mmol)をアルゴン雰囲気下において0℃にてTHF(50mL)に溶解した。次いでフッ化テトラブチルアンモニウム(0.252g、0.8mmol)を添加した。30分後、反応物を50mLのMeOHに注いだ。析出物を濾過し、100mLのMeOHにより洗浄した。生成物を回収して、[5,15−ビス(エチニル)−10,20−ジフェニルポルフィナト]銅(II)を暗紫色の固体として得た(0.244g、95%)。
UV−vis(CHCl,nm) 425、558、598。NIR(KBr cm−1) 3264(CC−H)、2096((C≡C)、1596、1521、1443、1347、1211、1174、1070、1004、936、796、751、737、711、701、676、666、646、614、503。C3620CuのMALDI ToF算出値:[M]、571.1;実測値:m/z 571.0。
【0061】
実施例2:CuDEPPとバインダーと導電性添加物とを含むCuDEPP電極の形成
CuDEPP電極の作製のために、初めにCuDEPP(50wt%)をカーボンブラック(40wt%)及びポリフッ化ビニリデンバインダー(PVDF、10wt%)とN−メチルピロリドン(NMP)溶媒中にて混合することによりスラリーを作製した。次いでステンレス鋼製の集電体に得られたスラリーをコーティングし、373Kにて10時間乾燥させた。電極の質量負荷はおよそ1.0mg/cmであった。
【0062】
実施例3:CuDEPPカソードを含む電池系
電池系(すなわちLi/LiPF/CuDEPP)はアノードとしてリチウムホイル、カソードとして実施例2のCuDEPP電極、及び1M LiPFのエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びプロピレンカーボネート(PC)混合溶媒(体積比基準でEC:PC:DMC=1:1:3)電解質溶液を使用することにより図2に示されるように酸化還元機構に従って構築した。
【0063】
実施例3のセルの作用電位窓の決定
実施例3のセルの対応する作用電位窓を求めるために、作用電極として実施例2のCuDEPP電極及び対電極としてLiホイルをそれぞれ4.5V〜0.05V及び4.5V〜1.8V(Li/Liに対する)の電圧範囲にて使用する2電極セル系を用いたサイクリックボルタモグラムを記録した。4.2Vでの図7に示された強い酸化ピークはCuDEPPから[CuDEPP]2+への酸化及び場合によってはエチニル単位の重合に割り当てることができる。2.34Vでのカソードピークはポルフィリン核での例えばCuDEPP2+からCuDEPP2−への還元に対応する。約1.27V及び0.78Vでの最小不可逆還元シグナルは中心のCu(II)からCu(I)への還元及び/又は他の副反応に関連するものであると考えられる。4.5V〜1.8Vの電圧範囲(図8に示される)において、2.24V及び2.90Vでの可逆的な酸化還元対はCuDEPPの酸化還元反応に関係している。酸化還元ピークの弱い強度はCuDEPP種間でのより迅速な電子移動プロセスにより引き起こされる場合があり、このことは本明細書の下記の傾斜放電プロファイル/充電プロファイルにも反映されている。
【0064】
定電流充電/放電試験におけるカソードとしてのCuDEPPの電気化学的性能の検査
したがって定電流充電/放電試験においてカソードとしてCuDEPPの電気化学的性能を調べるために、4.5V〜1.8Vの電圧範囲を適用した。初回充電容量は200mA/gの電流密度でおよそ400mAh/gであり(図9)、これはCuDEPPからCuDEPP2+への2電子酸化により推定される値よりも高い(CuDEPPの質量に基づいて比容量を算出し、CuDEPP電極の理論容量は1電子移動に付き47mAh/gである)。平坦な電圧プラトー及び初回アノード掃引時の約4.2Vでの対応する強いCVシグナルを考慮すると、ポルフィリン分子と電解液との表面での副反応及び/又は初期CuDEPPの重合が最初の充電プロセス時に起こり得る。最初のサイクル後のCuDEPP電極のex situでのIRスペクトルで観察される−C≡C−Hについての3264cm−1及び−C≡C−についての2096cm−1での特徴的な振動バンドの消失もこれを示唆するものである。初回放電容量は約210mAh/gであり、3回目のサイクルの182mAh/gまで徐々に低下し、これは分子のジカチオンからジアニオン種への4電子反応(CuDEPP2+→CuDEPP2−、再充電プロセスについては逆になる)に基づく187mAh/gの理論値に近い。興味深いことに、高度に可逆的な放電及び充電プロファイルが最初の充電後のサイクリング時に観察され、約3Vの平均出力電圧が送達された。Li/LiPF/CuDEPPセルの充電/放電プロファイルにおいてはっきりした電圧プラトーは観察されず、このことにより迅速な電子移動プロセスが二相移動機構ではなく固溶体反応機構によるものであることが示唆される。加えて、僅かな放電挙動が図10に示されるように初期のサイクルのdQ/dVプロットにて示され、3.94V、3.69V、2.88V及び2.2Vでの4つの電位ピークが明らかであった。
【0065】
サイクリング及びレート性能の評価
実施例3のセルのサイクリング及びレート性能を更に評価した。図11に示されるように、セルは200mA/gの電流密度での初めの20サイクル後に84%のクーロン効率にて約185mAh/gの放電容量を保った。続いて電流量を増大させてセルをサイクリングした。約100サイクルの期間内において1A/g、2A/g、4A/g、6A/g及び10A/gの電流にてそれぞれ163mAh/g、143mAh/g、132mAh/g、125mAh/gの安定した放電容量が保持された。その上、CuDEPP電極の放電容量は10A/gから1A/gへと段階的に電流を調整することによりほとんど回復した。様々な電流量でのCuDEPP電極の選択された放電曲線を図12に示し、放電率を増大させることで電位が僅かに低下している。特に、10A/gと高い電流密度であっても、CuDEPP電極は依然、115mAh/gの安定した可逆放電容量を送達することができ、この放電容量は99.5%のクーロン効率にて42秒以内に得られ、このことから優れた電気化学的性能が明らかとなった。この値は一部のスーパーキャパシタに匹敵する(competitive with)345Wh/kgの比エネルギー密度及び29.5kW/kgの比電力に相当する。10A/gと極めて高い電流密度での顕著なサイクル性が特徴的な充電プロファイル/放電プロファイルにて呈された(図13)。
【0066】
さらに、4A/gと高い電流密度でのCuDEPPのみからなるカソードを含むLi/LiPF/CuDEPPセルの長期サイクリング性能も調べた。図14に示されるように、セルを初めに200mA/gの電流密度で20サイクル、サイクリングし、CuDEPPカソードを「賦活」させた。続いて、セルを4A/gの電流にて合計8100サイクル、サイクリングした。150mAh/gの最大容量が226サイクルにて得られた。その上、容量保持は最初の2000サイクルにておよそ85%であり、8000サイクルの後は高いクーロン効率(100%に近い)にて60%まで徐々に低下した。CuDEPPカソードの選択された充電プロファイル及び放電プロファイルを図15及び図16に示す。Li/LiPF/CuDEPPセルを2000サイクル、サイクリングした後、更なるサイクリックボルタモグラムを取り込んだ。図17に示されるように、およそ3Vでのはっきりした酸化還元ピークの可逆対が10mV/sの掃引速度で観察され、これは3Vの平均放電/充電電位に一致するものである。図18は100mV/sと高いスキャン速度でのCV曲線の高い可逆性を示し、このことからCuDEPPカソードの優れたレート能(rate capability)が明らかとなる。
【0067】
反応CuDEPP+2e→CuDEPP2−に基づく放電から始まる実施例3のセルの電気化学的挙動
また実施例3のLi/LiPF/CuDEPPセルの電気化学的挙動を、反応CuDEPP+2e→CuDEPP2−に基づく放電から始めて調べた。初回充電曲線は上記のセル1に似ていたが、放電電圧は3.1Vの開回路電圧(OCV)から1.5Vへと急激に低下し、続く200mA/gの電流量でのサイクルにおいて可逆容量の低下が起こった。
【0068】
実施例4:CuDEPP電極の形態及び結晶化度の分析
最初のサイクルにおけるCuDEPP電極材料の形態及び結晶化度を、それぞれex situでのSEM及びXRDにより分析した。充電/放電プロセス中の形態変化を特定するために、コインセルにおいて純CuDEPPを試験した。この目的のために、CuDEPPを粗ステンレス鋼集電体に直接プレスすることにより電極を作製した。測定構成は実施例3に記載のものと同じである。
【0069】
導電性カーボン及びバインダーの非存在下であっても初期サイクルにおいて80mAh/gの安定した充放電容量が得られた。図19のa及びbは初期CuDEPPが長さ4μm程度、幅200nm〜400nmのサイズの棒状結晶形態を有することを示している。図19のc〜fに示されるように、充電/放電後にCuDEPPの結晶化度の低下が観察された。それに従って、XRDパターンにおける明確なピークが合成CuDEPP材料の良好な結晶化度を示し、その材料が充電状態及び放電状態にてそれぞれ非晶質及び/又はナノサイズの結晶質(crystalline)に変化した(図20)。
【0070】
実施例5:カーボン非含有CuDEPP電極の電気化学的性能
CuDEPP材料をステンレス鋼上に直接プレスし、カソードとして使用した。実施例3と同じ構成を使用し、すなわちアノードとしてリチウムホイル及び電解質としてLiPFを使用し、電池性能を200mA/gの電流密度で検査した。純CuDEPP電極において4.5V〜1.8Vの電圧範囲にて85mAh/gの初期放電容量が得られた。10サイクル目で80mAh/gの放電容量が保たれた。
【0071】
比較例1:CuTPP電極を含む電池系
市販のポルフィリン錯体[5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト]銅(II)(CuTPP)を、Li金属アノードと1M LiPFとを電解質のエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比基準でEC:PC:DMC=1:1:3)に更に含む電池系におけるカソードとして初めに調べた。しかしながら、上記セルが100mA/gの電流密度で40mAh/gの可逆容量しか送達しないことから、電池の性能は満足のいくものではなかった。これは電解質への活物質の高い溶解度又はその電気化学的特性の他の固有の制限に関連するものであると考えることができる。
【0072】
実施例6:CuDEPPアノードを含む電池系
リチウム非含有充電池(図3を参照されたい)を、アノードとして実施例2のCuDEPPとインターカレーションカソードとしてグラファイトとを純粋なイオン液電解質1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP14TFSI)中でカップリングさせることにより作製した。
【0073】
実施例6の電池セルによるサイクリックボルタモグラム測定
CV測定は作用電極としてグラファイト及び対電極として実施例2のCuDEPP電極を純PP14TFSI電解質中にて図21及び図22に示されるように様々なスキャン速度、4.0V〜0.0Vの電位範囲で使用することにより行った。5mV/sのスキャン速度での初回アノード掃引にて、明確な酸化/還元ピーク対が3.51/3.14Vで観察され、これはTFSIのグラファイト電極へのインターカレーション/グラファイト電極からのデインターカレーションに関連するものであった。初回カソード掃引にて3つの更なる還元ピークが2.57V、1.73V及び0.66Vで観察され、これによりTFSIアニオンのグラファイトカソードからの多段階デインターカレーションに関連した多段階電気化学反応が示された。その上、20mV/sのスキャン速度での続くスキャンの良好な可逆性が観察され(図22を参照されたい)、これによりセルの良好なレート能が示唆された。
【0074】
TFSIアニオンのインターカレーションの検証
TFSIアニオンのグラファイト層へのインターカレーションを、SEM、EDX及びXRD測定を用いて検証した。充電/放電グラファイトサンプルは、初めに実施例6のCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルを200mA/gの電流にて4Vのカットオフ電圧まで充電した後、0Vまで放電することにより調製した。図23図28に示される元素地図から、炭素(C)、酸素(O)、フッ素(F)、窒素(N)及び硫黄(S)が充電グラファイト電極に均一に分布していたことが示された。その上、EDXによりグラファイトカソードにおけるTFSI種の存在も確認された(図29を参照されたい)。さらに、充電グラファイトにおけるXRDパターンから、グラファイトの特徴的な002回折ピーク(2θ=26.4°)が低い回折角(2θ=25.3°)へと移行したことが明らかとなり、これによりTFSIアニオンのインターカレーション中の格子膨張が実証された(図30を参照されたい)。放電に際して、膨張した002回折ピーク(2θ=26.3°)はほぼその元の位置に戻り、これによりグラファイト電極におけるTFSIアニオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションプロセスが示された(図30を参照されたい)。
【0075】
定電流充電/放電試験におけるアノードとしてのCuDEPPの電気化学的性能の検査
実施例6のCuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルについての定電流充電−放電試験を4.0〜0.0Vの電圧範囲、様々な電流量にて行った。セルの開回路電圧(OCV)は0Vに近いものであった(24mV)。1A/gの電流にて94mAh/gの容量を送達する傾斜曲線が放電プロファイルにおいて観察され(図31を参照されたい)、この容量は2電子移動に基づくCuDEPPアノードの理論値に近いものである(CuDEPP→CuDEPP2−、93.5mAh/g)。また図32に示されるように1A/g〜10A/gの電流量にて良好なサイクリング可逆性及びレート能も達成された。特に、32mAh/gの可逆性放電容量がこのようなLi金属非含有充電池系を用いて10A/gの電流密度にて12秒以内に得られ、この容量は19kW/kgと高い比電力に相当するものであった。CuDEPP/PP14TFSI/グラファイトセルのサイクリング性能を5A/gと高い定電流密度(53C)にて試験し、44mAh/gの安定した放電容量が初期サイクルにおけるセルの安定化の後、200サイクルまで提供された(図32を参照されたい)。4.0V〜0.0Vの電圧範囲での選択された充電曲線/放電曲線を図33に示し、これにより高い電流量での高度に可逆的かつ安定した性能が実証された。
【0076】
実施例7:CuDEPPアノードとCuDEPPカソードとを含む全有機電池系
カソード材料及びアノード材料ともに実施例2のCuDEPP電極と、1M LiPFのエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びプロピレンカーボネート(PC)混合溶媒(体積比基準でEC:PC:DMC=1:1:3)電解質溶液とを含む対称セルを作製した。
【0077】
実施例7のセルの電気化学的特性
72mAh/gの初期容量がカソードにおけるCuDEPP2+とCuDEPPとの、またアノードにおけるCuDEPP2−とCuDEPPとの2電子酸化還元プロセスにそれぞれ基づき0.0V〜2.8Vの電圧範囲にて達成された(図35に示される)。CuDEPP分子の二極酸化還元活性(CuDEPP2+⇔CuDEPP⇔CuDEPP2−)に起因して、このような対称セルは図36に示されるような2.6V〜(−1.8)Vの電圧範囲でも働くことができる。このことから、CuDEPP2+種とCuDEPP2−種との4電子移動が証明される。
図1
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