(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441451
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】希ガスの吸着のための吸着材、それの使用及び希ガスの吸着方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/18 20060101AFI20181210BHJP
C01B 39/26 20060101ALI20181210BHJP
G21F 9/02 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
B01J20/18 E
C01B39/26
G21F9/02 511M
G21F9/02 511L
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-500375(P2017-500375)
(86)(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公表番号】特表2017-523031(P2017-523031A)
(43)【公表日】2017年8月17日
(86)【国際出願番号】EP2015064803
(87)【国際公開番号】WO2016005227
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2017年2月8日
(31)【優先権主張番号】102014010020.0
(32)【優先日】2014年7月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】596081005
【氏名又は名称】クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ティスラー・アルノ
(72)【発明者】
【氏名】ビュットナー・オーラフ
(72)【発明者】
【氏名】エントラー・ミーカ
(72)【発明者】
【氏名】ハーツベルガー・ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】シュテパニク・カースティン
(72)【発明者】
【氏名】ザウアーベック・ジルケ
【審査官】
木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04369048(US,A)
【文献】
米国特許第04835319(US,A)
【文献】
特表昭56−500976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
C01B 33/20−39/54
G21F 9/02
CAplus/DWPI/COMPENDEX/INSPEC(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOR構造型を有しかつAgが負荷された合成ゼオライト材料を含む、希ガスの吸着のための吸着材であって、ゼオライト材料のAg/Alモル比が1超であること及びゼオライト材料のSiO2/Al2O3モル比が30超であることを特徴とする、吸着材。
【請求項2】
希ガスがクリプトン及び/またはキセノンであることを特徴とする、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
ゼオライト材料のAg/Alモル比が1と30との間であることを特徴とする、請求項1に記載の吸着材。
【請求項4】
ゼオライト材料のAg/Alモル比が2と20との間であることを特徴とする、請求項1に記載の吸着材。
【請求項5】
ゼオライト材料が50超のSiO2/Al2O3モル比を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか一つに記載の吸着材。
【請求項6】
ガス混合物からキセノン及びクリプトンを同時に吸着するための、請求項1〜5のいずれか一つに記載の吸着材。
【請求項7】
キセノン及びクリプトンを同時に吸着する方法であって、請求項1に記載の吸着材を、キセノン及びクリプトンを含むガス混合物と接触させる前記方法。
【請求項8】
ガス混合物が50℃超の温度を有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ガス混合物が、10体積%超のガス状の水を含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ガス混合物からキセノン及びクリプトンを同時に吸着するための、請求項1に記載の吸着材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希ガスの吸着のための吸着材、それの使用、及び希ガス、中でも特にクリプトン及びキセノンの吸着のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核分裂反応器中では、通常運転時、しかし特には異常事態時に、ウランの固形崩壊同位体またはウランの分解から発生した娘同位体及び中性子捕捉によって生じたより高次の同位体の他に、ガス状または揮発性の放射性化合物が発生するが、環境中へのそれの放出は絶対に避けなければならない。この際最も重要なものは、水素の他に放射性ヨウ素、ヨウ化メチル、及び希ガスのクリプトン及びキセノンの放射性同位体、中でも特に
85Kr及び
135Xeである。後者の二種の放射性同位体は、短い半減期を有し、そのため、これらは重大な危険の要因となる。運転中、特に異常事態の場合には、これらの揮発性の放射性物質は、反応器ジャケット内部に蓄積し、これらをそこから除去する必要がある。これらの放射性希ガスが異常事態時に放出されると、これらは、非常に迅速に大気中に広がる、というのも、これらは、大概の他の分解生成物とは異なり、粒子結合(partikelgebunden)しないからである。これは、本質的に、数時間と10年超の間の半減期を持つクリプトン同位体、及び約5日間の半減期を持つキセノン同位体
133Xeに該当する。これらの同位体の世界的な濃度上昇は、チェルノブイリ及び福島の最近の大きな核技術事故の特に明らかに観察できた。更に、ウランの核分裂並びに
135Te及び
135Iのベータ崩壊を介して生じる同位体である
135Xe(半減期 約9時間)が特に問題となる。
135Xeは、熱中性子に対し大きな捕獲断面積を有し、そして中性子の捕獲によって
136Xeに変換される。それ故、この反応は、核分裂に必要な、核分裂中性子の濃度/頻度を減らし、これは、原子力発電所の出力を減少させる。更に、この「キセノン中毒」として知られる現象は、停止した反応器の再稼働時に問題を引き起こす恐れがある。
【0003】
それ故、希ガス同位体の除去は、世界全体にわたる被爆を避けるためだけでなく、原子力発電所のより確実な操業のためにも必要である。放射性希ガスの吸着のためには、従来技術によると、溶剤の回収のためにも使用されるような特殊な活性炭が使用される。このような活性炭では、ミクロ孔の数が最大化されており、マクロ孔の数が最小化されている。活性炭の使用の欠点は、希ガスの収容能力が小さいこと、特に脱着温度が非常に低いことである。例えば異常事態時に到達し得るような100℃を下回る温度では、これらのガスが再び放出される。代替法として、ゼオライト材料をベースとする吸着材の使用が提案されている。
【0004】
Danielら(J.Phys.Chem.2013,Vol.117,Nr.29,S.15122−15129,“Xenon Capture on Silver−Loaded Zeolites: Characterization of Very Strong Adsorption Sides”(非特許文献1))は、幅広い圧力範囲にわたって様々な温度での等温測定による、銀で変性されたゼオライト中の、キセノンのための吸着部位の数及び濃度を記載している。このためには、Na−ZSM−5(25)、Na−ZSM−5(40)、Na−ベータ−NaX及びNaYから出発して、完全にもしくは部分的に交換した銀が負荷されたゼオライトが製造された。材料の性質及び銀負荷に由来して、銀で変性されたゼオライトが一つまたは二つの異なる吸着部位を示すことが確認された。強い吸着部位の最大濃度は、完全に銀と交換したZSM−5で認められ(5.7×10
−4モル/g)、これは、ペンタシルタイプの上記のゼオライトでは、最高の銀含有率を有するものである。
【0005】
EP0029875A1(特許文献1)は、放射性希ガス、特に放射性クリプトンをゼオライト中に不動化する方法に関し、この方法では、希ガスを、ゼオライトマトリックスの熱処理後に、高圧下にゼオライトマトリックスの組織の空隙中に押し入れ、そして圧力を維持しながらマトリックを冷却することによって該空隙中に閉じ込める。照射された核燃料のための再処理プロセスからは、放射性希ガスの多量の生成が予期され、これは、473K以上の温度でも、それを含む最終貯蔵マトリックスから放出されないように固定する必要がある。名称が5A(=0.5nm孔直径)でありそして次の一般組成を有するアルカリ土類金属置換ゼオライトをマトリックスとして使用することが開示されている:M
6[(AlO
2)
12(SiO
2)
12]xH
2O、M=Mg、Ca、BaまたはSr。ゼオライトの空隙中への希ガスの圧入は、720K〜870Kの範囲の温度下で200bar〜約2000barの圧力で行われる。然るべき冷却の後に、ゼオライトのベータ空隙中の希ガス原子は、熱的に安定した状態で保留される。
【0006】
また、銀などの分散した貴金属が負荷されたゼオライトベースの吸着材の使用も開示された。Munakataら(Journal of Nuclear Science and Technology,2003,Vol.40,Nr.9,S.695−697,“Adsorption of Noble Gases on Silver−Mordenite”(非特許文献2))は、キセノンまたはクリプトンを吸着するための、銀を負荷したモルデナイトの使用を記載している。銀を負荷したモルデナイトの製造は、天然のモルデナイトをAgNO
3とイオン交換することによって行われた。洗浄及び乾燥後に、4%の銀含有率が測定された。
【0007】
核分裂反応器に吸着材を使用する場合は、吸着が、室温よりも高められた温度でも起こり、それと同時に、吸着材の破壊が起こらないことを保証する必要がある。幾つかのゼオライトの構造は熱的に安定しており、それ故、核分裂反応器中での吸着材としての使用に適している。核分裂反応器中で使用する場合には、吸着するべき希ガスは、ガス混合物、例えば空気中に現れ、これは、特に異常事態の時には水分が強く富化され得る。それに加えて、最悪の場合には、冷却サイクルの加熱された蒸気が吸着材に対して影響を及ぼす恐れがある。しかし、ゼオライトの構造は、高温下及び同時の気体状の水の作用下に損傷を受けるまたは破壊される恐れがあり、これは、水熱安定性が欠けているということである。例えば脱アルミニウム化によるゼオライトの構造の破壊は、ゼオライトの内表面積の減少を招き、これには、吸着能力の損失が伴う。ゼオライト材料が、分散した金属で負荷されている時には、ゼオライト構造の破壊は、金属クラスターの焼結を招き、それらは、それらの最適なサイズを失い、そして活性表面積が減少したより大きなクラスターが形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP0029875A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Daniel,(J.Phys.Chem.2013,Vol.117,Nr.29,S.15122−15129,“Xenon Capture on Silver−Loaded Zeolites: Characterization of Very Strong Adsorption Sides”
【非特許文献2】Munakata,Journal of Nuclear Science and Technology,2003,Vol.40,Nr.9,S.695−697,“Adsorption of Noble Gases on Silver−Mordenite”
【非特許文献3】D.S.Coombs et al.,Canadian Mineralogist,1979,35,S.1571
【非特許文献4】Verified Syntheses of Zeolitic Materials, 2nd Revised Edition,Harry Robson(編者),Karl Petter Lillerud(XRD Patterns),the Synthesis Commission of the International Zeolite Association 2001
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.60,309(1938)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故、希ガスであるキセノン及び/またはクリプトンを個々にまたは同時に効果的に吸着し、そして高湿及び高められた温度の作用下でも安定している吸着材への要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、Agが負荷された、MOR構造型の合成ゼオライト材料であって、ゼオライト材料中のAg/Al比が1超であるゼオライト材料を含む、希ガスの吸着のための吸着材によって解消される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい実施形態の一つでは、希ガスの吸着用の該吸着材は、Agが負荷された、MOR構造型の合成ゼオライト材料から排他的になり、かつゼオライト材料中のAg/Al比が1超であることを特徴とする。
【0013】
ゼオライトは、国際鉱物学連合の定義(D.S.Coombs et al.,Canadian Mineralogist,1979,35,S.1571(非特許文献3))によると、SiO
4/AlO
4正四面体からなりそして共通の酸素原子によって規則的な三次元ネットワークに結合している空間ネットワーク構造を持つアルミニウムシリケートの群からの結晶性物質である。ゼオライトは、それらの幾何構造に従い様々な構造型に分類される。ゼオライトは、主に、各々の構造型に特徴的なSiO
4/AlO
4四面体の剛性ネットワークによって形成されるキャビティ及びチャンネルの形状に従い区別される。或る特定のゼオライトは均一な構造、例えばZSM−5またはMFI幾何構造を示し、線状のチャンネルまたはジグザグ形に走るチャンネルを有し、他では、例えばYまたはAゼオライトの場合のように孔開口の後に比較的大きなキャビティが続き、FAU及びLTAの幾何構造を持つ。
【0014】
ゼオライトの特徴的なキャビティ及びチャンネルは、一般的に、水分子及び追加的な骨格カチオンで専有されることができ、これを交換することができる。貴金属の負荷が望ましい場合には、貴金属などの金属は、クラスターの形で原子として、ゼオライト材料のキャビティ及びチャンネル中に分散した状態で統合されるか、またはゼオライト材料の外側表面上に存在する。
【0015】
本発明の枠内で使用されるゼオライト材料は、MORの構造型を有するゼオライト、例えばモルデナイトからなる。構造型MORは、2.6×5.7Åの直径を持つ八角形環の孔システム及び6.5×7Åの直径を持つ12角形環の孔システムからなる、二つの直線的な孔システムを特徴とする。
【0016】
モルデナイトまたはマリコパイトなどの構造型MORの幾つかのゼオライトは天然に存在するが、MORの構造型を有する本発明によるゼオライト材料は合成ゼオライト材料である。通常は、合成モルデナイトの合成などのゼオライトの合成は、水熱合成法によって行われる。モルデナイトの合成のためには、アルミニウム源(例えばアルミン酸ナトリウム)及びケイ素源(例えばシリカ粉末)を、水熱条件下に、150℃と200℃との間の温度で密閉された反応器中で反応させる。次いで、得られた固形物を水性相から分離し、そして高められた温度で、例えば空気中で乾燥する。モルデナイトの合成は、例えばVerified Syntheses of Zeolitic Materials,2nd Revised Edition,Harry Robson(編者),Karl Petter Lillerud(XRD Patterns),the Synthesis Commission of the International Zeolite Association 2001(非特許文献4)に記載されている。
【0017】
天然のモルデナイトとは異なり、合成モルデナイトは比較的高いSi/Al比及び比較的高い純度を有する、すなわち合成時に使用されたカチオンのみが認められるが、他方で天然のモルデナイトでは比較的多数の異なるカチオンが認められそしてその組成は産地に依存して大きく変動する。
【0018】
水熱合成によって得られた乾燥したゼオライト材料はか焼することが有利である。か焼ステップは、好ましくは300〜600℃、より好ましくは400〜550℃の温度で行われる。か焼時間は、好ましくは1〜8時間、より好ましくは2〜6時間、特に約3〜5時間である。
【0019】
構造型MORを有する、該吸着材中に含まれる本発明による合成ゼオライトは、銀塩の形の貴金属の銀(Ag)が負荷され、そしてキャリア材料として機能する。本発明による吸着材は、粉末として、ブロック体(Vollkoerper)としてまたはコーティングとして、すなわち成形体上に施用された状態で存在でき、但しブロック体が好ましい。本発明による吸着材は、銀が負荷されたゼオライト材料単独からなることができるが、使用前に、バインダーなどの助剤を混合することもできる。
【0020】
該吸着材のブロック体は、銀が負荷された粉末状ゼオライト材料を成形することによって得ることができるが、ゼオライト材料を成形し、次いで成形体中に含まれるゼオライト材料に銀を負荷させることでも得ることができる。成形は、例えば押出成形またはプレス成形によって行うことができる。好ましい成形体は、例えば球体、環状体、柱体、穿孔柱体、三葉体またはモノリス体、例えば押出成形で得られるモノリス型ハニカム体である。更に、成形の時に、バインダーまたは細孔形成剤などの助剤を加えることができ、これらは、例えば成形体の機械的安定性を高めるかまたは多孔度を高める。特に好ましいものは、押出物またはタブレットである。このためには、ゼオライト粉末を助剤と一緒に痕練してドウ状の塊状物とし、次いで押出機を用いて成形するかまたはタブレットプレス機を用いてプレス成形してタブレットとする。
【0021】
ゼオライト材料中への銀の導入は、例えば銀を前駆体化合物の形で含む水溶液で含浸することによって行うことができる。この含浸は、当業者には既知の全ての方法を用いて行うことができる。ゼオライト材料が粉体として存在する場合は、ゼオライト材料の含浸は、好ましくは、当業者には既知の「インシピエント・ウェットネス」法に従い行われる。この場合、粉末状のゼオライト材料に攪拌しながら、液状で好ましくは水性の銀含有溶液を添加し、この際、銀含有溶液は、ちょうど上澄み液が発生しない程度の量のみで加えられる。この方法によって、ゼオライト材料の細孔が、銀含有水溶液で完全に湿潤されることが保証される。好ましくは、水性銀含有溶液は、0.25〜5モル/Lのモル濃度を有する水性硝酸銀溶液である。
【0022】
しかし、その代わりに、ブロック体の製造は、成形体を貴金属含有溶液で含浸することによっても行うことができる。このためには、成形を上述のように行うが、粉末状ゼオライト材料に銀を負荷しない。次に、成形体を、好ましくは水性の銀含有溶液中に導入する。含浸ステップでは、例えば、含浸は「インシピエント・ウェットネス」法によって行うことができる。この場合、成形体を液状で、好ましくは水性の銀含有溶液で濡らし、この際、銀含有溶液は、ちょうど上澄み液が発生しない程度の量のみで加えられる。この方法によって、ゼオライト材料の細孔が、銀含有水溶液で完全に湿潤されることが保証される。好ましくは、水性銀含有溶液は、0.25〜5モル/Lのモル濃度を有する水性硝酸銀溶液である。
【0023】
任意選択的に、含浸の後に、乾燥ステップを行う。含浸した粉末状ゼオライト材料または含浸した成形体もしくはブロック体の乾燥ステップは、好ましくは、貴金属前駆体化合物の分解点未満の温度で行われる。乾燥ステップは、好ましくは空気中で行われる。乾燥温度は、一般的に50〜250℃の間、好ましくは50〜150℃、特に好ましくは80〜120℃の間の範囲である。乾燥時間は、好ましくは2時間超、特に好ましくは約16時間である。
【0024】
コーティングされた吸着材を得るべき場合には、これは、成形体を、銀含有ゼオライト材料でコーティングすることによって製造できる。これの代わりに、成形体をゼオライト材料でコーティングし、次いで銀含有溶液で含浸することができる。このためには、コーティングされた成形体を銀含有溶液(0.25〜5モル/L)中に浸漬し、次いで乾燥する。
【0025】
吸着材に含まれる貴金属含有ゼオライト材料は少なくとも銀を含むが、追加的な貴金属を含んでもよい。追加的な貴金属は、好ましくは、Pt、Pd、Rh、Ru、Cu及びAuからなる群から選択される貴金属である。Ag及び他の貴金属からなるバイメタルの貴金属の組み合わせを実現する場合は、貴金属Mは、典型的には、1:10〜10:1、特に好ましくは2:1〜4:1のAg/Mの原子比で存在する。吸着材に使用される貴金属は、好ましくはゼオライト材料の細孔中に存在する。それ故、貴金属(複数種可)が完全にもしくは主にゼオライトのミクロ孔中に存在し、かつゼオライトの外表面には存在しないかもしくは僅かにしか存在しないようになるように、合成方法を選択できる。
【0026】
貴金属含有ゼオライト材料の総重量を基準とした銀の総負荷量は、5〜50重量%の間の範囲、好ましくは20〜40重量%の間の範囲である。
【0027】
ゼオライト材料中のSiO
2/Al
2O
3比は、好ましくは30超、特に好ましくは50超、非常に好ましくは70超、就中好ましくは80超である。
【0028】
ゼオライト材料中の銀原子及びアルミニウム原子の量の間のモル比(Ag/Al比)は、1超、好ましくは2超、非常に好ましくは4.5超である。ゼオライト材料中のAg/Al比は、1〜30の間の範囲、好ましくは2〜20の間の範囲、就中特に好ましくは4と15との間の範囲であることができる。
【0029】
銀含有ゼオライト材料のBET表面積は、好ましくは10〜1000m
2/gの範囲、より好ましくは50〜800m
2/g、最も好ましくは300〜700m
2/gの範囲である。
【0030】
測定方法
ICPを用いた元素分析:
元素組成またはn(SiO
2)n(Al
2O
3)比(略してSiO
2/Al
2O
3比)を求めるために、ICP−AES(誘導結合プラズマ原子発光分析)を、ICPスペクトロモジュラ/アルコス装置を用いて行った。この際、化学品としては、硫酸(98%p.A.)、フッ化水素酸(37%p.A.)、塩酸(37%p.A.)を使用した。試料を微細に粉砕した。
【0031】
Si及びAl元素の決定のために、100mgの試料を100mlのプラスチックビーカー中に計り取り、そして1mlの硫酸及び4mlのフッ化水素酸と混合した。透明な溶液が生じるまで、水浴中で、5分間、85℃で温浸した。ここで、温度調節、補充及び震盪した。全ての元素、並びに然るべき標準品をICPで測定した。Siは、以下の設定で測定した:波長:288、158nm。Alは、以下の設定で測定した:波長:396、152nm。
【0032】
滴定を用いたAg分析
約300mgの微細にすりつぶした試料を石英製坩堝中に計り取り、そして5gの二流酸カリウムと混合する。この混合物を明るく赤熱させながら溶融し、次いで約150mlの蒸留水中で加温しながら溶解する。石英製坩堝を溶液から取り出し、そして温浸溶液を、0.1モル/Lの塩化ナトリウム溶液を用いて滴定器(Meth.2004)で滴定する。
【0033】
標準品全てを、HFとHClもしくはH
2SO
4で調節した。評価は、次の計算に従う:w(E
*(パーセント))=β(E
*−測定値(mg/L)×V(メスフラスコ(L)×100/m(秤量分(mg))(E
*=各々の元素)。
【0034】
BET表面積
材料の比表面積の決定は、DIN66131に従うBET法により行う:BET法は、J.Am.Chem.Soc.60,309(1938)(非特許文献5)に記載されている。決定すべき試料は、ガラス管中350℃で一晩真空下(<0.1mbar)で乾燥した。窒素吸着を、77KでMicromeritics社のゲミニ装置を用いて行った。
【0035】
脱着測定(温度プログラム脱着法=TPD)を、Pfeiffer社の質量分析器を結合したMicromeritics社のAutochemII装置を用いて行った。試料及び参照試料(=活性炭)を、それぞれ別個に行う試験で測定し;それぞれ約500mgの試料または参照試料を計り取り、そして15分間、約35℃で純粋な窒素で洗浄した。次いで、試験ガス(窒素中1000ppmのKr及び1000ppmのXe)を用いて約35〜40℃で120分間洗浄し、その後、純粋な窒素を用いて35〜40℃で、試料の場合は150分間または参照資料の場合は240分間、更に洗浄した。続いて、純粋な窒素を用いた洗浄下に、試料または参照試料を5℃/分の速度で500℃に加熱した。この際起こった、クリプトン及びキセノンの脱着は、質量分析により追跡した(クリプトンは84amu、キセノンは131amu)。このようにして、クリプトンの脱着及びそれに依存しないでキセノンの脱着が確認できる温度範囲を求めることができた。幅のある最大値の形の、各々の最大脱着の温度範囲T
Desが求められる。
【0036】
量A
Aは、試料の比脱着能力(吸着質の質量/吸着材の質量)と、活性炭の比吸着能力との間の比率を表す(参照材料の活性炭はA
A=1)。
【0037】
例1
タイプEcoSorb CHの活性炭を参照材料として使用した。
【0038】
例2
構造BEA及びSiO
2/Al
2O
3比150のゼオライト材料を、バインダーとしてのシリカゾルと一緒に押出し、次いでか焼した。
【0039】
例3
構造MFI及びSiO
2/Al
2O
3比27のゼオライト材料を、水酸化アルミニウムバインダーであるPural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、200gの生成物量に対し、1.4モルAgNO
3溶液150gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0040】
例4
構造MFI及びSiO
2/Al
2O
3比1200のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、200gの生成物量に対し、1.4モルAgNO
3溶液150gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0041】
例5
構造ERI及びSiO
2/Al
2O
3比3.3のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、200gの生成物量に対し、1.2モルAgNO
3溶液176gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0042】
例6
構造CHA及びSiO
2/Al
2O
3比0.15のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、200gの生成物量に対し、1.4モルAgNO
3溶液150gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0043】
例7
構造MOR及びSiO
2/Al
2O
3比40のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。
【0044】
例8
構造MOR及びSiO
2/Al
2O
3比40のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、200gの生成物量に対し、1.4モルAgNO
3溶液150gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0045】
例9
構造MOR及びSiO
2/Al
2O
3比90のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、200gの生成物量に対し、1.4モルAgNO
3溶液150gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0046】
例10
構造MOR及びSiO
2/Al
2O
3比90のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、100gの生成物量に対し、2.2モルAgNO
3溶液79gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0047】
例11
構造MOR及びSiO
2/Al
2O
3比90のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、100gの生成物量に対し、3.1モルAgNO
3溶液83gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0048】
例12
構造MOR及びSiO
2/Al
2O
3比40のゼオライト材料を、Pural(登録商標)SBと混練してドウ状物とし、押出しそしてか焼した。「インシピエント・ウェットネス」法を用いて含浸を行い、そのために、200gの生成物量に対し、2.2モルAgNO
3溶液150gを使用した。乾燥は120℃で行った。
【0049】
例13
例9の通りに実施するが、乾燥は160℃で行った。
【0050】
例14
例9の通りに実施するが、乾燥は240℃で行った。
【0051】
例15
例9の通りに実施するが、乾燥は400℃で行った。
【0053】
【表2】
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1.
MOR構造型を有しかつAgが負荷された合成ゼオライト材料を含む、希ガスの吸着のための吸着材であって、ゼオライト材料のAg/Al比が1超であることを特徴とする、吸着材。
2.
希ガスがクリプトン及び/またはキセノンであることを特徴とする、上記1に記載の吸着材。
3.
ゼオライト材料のAg/Al比が1と30との間であることを特徴とする、上記1に記載の吸着材。
4.
ゼオライト材料のAg/Al比が2と20との間であることを特徴とする、上記1に記載の吸着材。
5.
ゼオライト材料が10超のSiO2/Al2O3比を有することを特徴とする、上記1〜4の何れか一つに記載の吸着材。
6.
キセノン及びクリプトンを同時に吸着する方法であって、上記1に記載の吸着材を、キセノン及びクリプトンを含むガス混合物と接触させる前記方法。
7.
ガス混合物が50℃超の温度を有することを特徴とする、上記6に記載の方法。
8.
ガス混合物が、10体積%超のガス状の水を含むことを特徴とする、上記7に記載の方法。
9.
ガス混合物からキセノン及びクリプトンを同時に吸着するための、上記1に記載の吸着材の使用。