特許第6441501号(P6441501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6441501トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル及びビフェニル化合物
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  • 特許6441501-トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル及びビフェニル化合物 図000044
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441501
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル及びビフェニル化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 6/12 20060101AFI20181210BHJP
   C07C 5/10 20060101ALI20181210BHJP
   C07C 5/367 20060101ALI20181210BHJP
   C07C 13/28 20060101ALI20181210BHJP
   C07C 15/14 20060101ALI20181210BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20181210BHJP
【FI】
   C07C6/12
   C07C5/10
   C07C5/367
   C07C13/28
   C07C15/14
   !C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-550573(P2017-550573)
(86)(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公表番号】特表2018-509461(P2018-509461A)
(43)【公表日】2018年4月5日
(86)【国際出願番号】US2015066109
(87)【国際公開番号】WO2016160084
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年9月26日
(31)【優先権主張番号】62/140,723
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15173771.5
(32)【優先日】2015年6月25日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509004675
【氏名又は名称】エクソンモービル ケミカル パテンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】サルチッチョーリ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】サンガル ネーラジ
(72)【発明者】
【氏名】チェン タン−ジェン
(72)【発明者】
【氏名】デ スミット エミール
(72)【発明者】
【氏名】ケイル アリ エイ
(72)【発明者】
【氏名】パヴリッシュ アーロン ビー
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−526114(JP,A)
【文献】 米国特許第04629817(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキシルベンジル及び/又はビフェニル化合物の形成プロセスであって、
下記工程:
(a)第1のシクロヘキシルベンジル化合物をトランスアルキル化触媒の存在下で置換又は非置換ベンゼンと接触させ、それによってトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を得る工程を含み、
前記トランスアルキル化触媒は固体酸触媒を含み;
前記第1のシクロヘキシルベンジル化合物は、構造式(I)
【化1】
(式中、各R1〜R10は、独立にH又はC1-C10アルキル基である)を有し;
前記置換又は非置換ベンゼンは、構造式(II)
【化2】
(式中、各R6*〜R10*は、独立にH又はC1-C10アルキル基であり、さらに下記の1つ以上が当てはまることを条件とする:R6*は、R6と異なり、R7*は、R7と異なり、R8*は、R8と異なり、R9*は、R9と異なり、R10*は、R10と異なる)を有し;かつ
前記トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物は、構造式(III)
【化3】
又はその位置異性体(式中、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R1〜R5を有し、フェニル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する、
前記プロセスであって、
構造式(IV)
【化4】
を有する前駆体ビフェニル化合物を部分的に水素化し、
それによって、(a)において前記置換又は非置換ベンゼンと接触させられる前記第1のシクロヘキシルベンジル化合物を得る工程
をさらに含む、前記プロセス。
【請求項2】
さらに下記工程:
(b)前記トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を脱水素化して、構造式(V)
【化5】
又はその位置異性体(式中、一方のフェニル環は、それに共有結合した各R1〜R5を有し、他方のフェニル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する環交換されたビフェニル化合物を得る工程;
(c)前記環交換されたビフェニル化合物を水素化触媒の存在下で部分的に水素化して、式(VI)
【化6】
又はその位置異性体(式中、フェニル環は、それに共有結合した各R1〜R5を有し、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を得る工程;及び
(d)前記環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を第2のトランスアルキル化触媒の存在下で追加の置換又は非置換ベンゼンと接触させ、それによって、さらなるトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を得る工程を含み、
前記追加の置換又は非置換ベンゼンは、構造式(VII)
【化7】
又はその位置異性体(式中、R1*〜R5*のいずれか1つは、C1-C10アルキル基であり、R1*〜R5*の残りは、H及びC1-C10アルキル基からそれぞれ独立に選択され、かつさらに下記の1つ以上が当てはまることを条件とする:R1*は、R1と異なり、R2*は、R2と異なり、R3*は、R3と異なり、R4*は、R4と異なり、R5*は、R5と異なる)を有し;かつ
前記さらなるトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物は、構造式(VIII)
【化8】
又はその位置異性体(式中、フェニル環は、それに共有結合した各R1*〜R5*を有し、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する、
請求項に記載のプロセス。
【請求項3】
構造式(IX)
【化9】
又はその位置異性体(式中、一方のフェニル環は、それに共有結合した各R1*〜R5*を有し、他方のフェニル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する二重環交換されたビフェニル化合物を得るために前記さらなるトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を脱水素化する工程をさらに含む、請求項に記載のプロセス。
【請求項4】
R1〜R5の1つがC1-C5アルキル基であり、R1〜R5の残りがそれぞれHであり;さらに、R6〜R10がそれぞれHである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記置換又は非置換ベンゼン及び前記追加の置換又は非置換ベンゼンが、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンから成る群よりそれぞれ独立に選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記トランスアルキル化触媒及び前記第2のトランスアルキル化触媒が、2未満の束縛インデックスを有する大孔径分子ふるいを有する分子ふるいからそれぞれ独立に選択される、請求項25のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記シクロヘキシルベンジル化合物がシクロヘキシルベンゼン(CHB)であり;
前記置換又は非置換ベンゼンが、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、及びその混合物から成る群より選択される置換ベンゼンであり;かつ
前記トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物が、シクロヘキシルトルエン、シクロヘキシルキシレン、シクロヘキシルエチルベンゼンの1種以上の異性体、又はその混合物を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
シクロヘキシルベンジル及び/又はビフェニル化合物の形成プロセスであって、
下記工程:
(a)組合せヒドロアルキル化及びトランスアルキル化反応ゾーンに、(i)水素、(ii)置換又は非置換ベンゼン、及び(iii)シクロヘキシルベンジル化合物と前駆体ビフェニル化合物の一方又は両方を含むヒドロアルキル化供給原料を与える工程であって、
前記組合せヒドロアルキル化及びトランスアルキル化反応ゾーンは、(A)水素化触媒及びアルキル化触媒、又は(B)(i)元素周期表の10族から選択される水素化金属及び(ii)分子ふるいを含む二元機能触媒を含み;
さらに前記置換又は非置換ベンゼンは、構造式(II)
【化10】
(式中、R6*〜R10*のいずれか1つは、C1〜C10アルキル基であり、R6*〜R10*の残りは、H及びC1-C10アルキル基からそれぞれ独立に選択され、さらに下記の1つ以上が当てはまることを条件とする:R6*は、R6と異なり、R7*は、R7と異なり、R8*は、R8と異なり、R9*は、R9と異なり、R10*は、R10と異なる)
を有し;
さらに前記シクロヘキシルベンジル化合物は、構造式(I)
【化11】
(式中、各R1〜R10は、独立にH又はC1-C10アルキル基である)を有し;かつ
さらに前記前駆体ビフェニル化合物は、構造式(IV)
【化12】
を有する、前記工程;及び
(b)ヒドロアルキル化生成物及びトランスアルキル化生成物を含む反応流出物を形成する工程であって、前記ヒドロアルキル化生成物は、式(X)
【化13】
又はその位置異性体(式中、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*の1つを有し、フェニル環も、それに共有結合した各R6*〜R10*の1つを有する)を有し;かつさらに前記トランスアルキル化生成物は、式(III)
【化14】
又はその位置異性体(式中、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R1〜R5を有し、フェニル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する、前記工程を含む、前記プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者:Michael Salciccioli、Neeraj Sangar、Tan-Jen Chen、Emiel de Smit、Ali A. Kheir、Aaron B. Pavlish
【0002】
優先権
本発明は、2015年3月31日に出願されたUSSN 62/140,723及び2015年6月25日に出願されたEP出願15173771.5に対する優先権及びこれらの出願の利益を主張する。
【0003】
発明の分野
本開示は、シクロヘキシルベンジル化合物及び/又はビフェニル化合物の標的位置でアルキル化された前記化合物の調製プロセスに関する。
関連出願
本出願は、同時係属米国仮特許出願第62/012,024号(代理人整理番号2014EM136)に関連する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
シクロヘキシルベンゼン等のシクロヘキシルベンジル化合物は、種々の他の商業的に有益な中間体及び前駆体、例えばビフェニル化合物(それら自体が、とりわけ、ポリエステル、可塑剤、及び他のポリマー組成物の製造に有用な中間体である)並びにフェノール及び/又はシクロヘキサノン(それ自体が、例えばナイロン製造のためのカプロラクタムの有用な中間体である)の製造において有用な中間体である。
シクロヘキシルベンゼン等のシクロヘキシルベンジル化合物を製造するための最も便利な手段の1つは、同時供給されるベンゼンと水素のヒドロアルキル化であり、米国特許第6,037,513号に記載されているようなヒドロアルキル化触媒を用いる。アルキル置換シクロヘキシルベンジル化合物等の置換シクロヘキシルベンジル化合物は、ヒドロアルキル化プロセスにおいてベンゼンの代わりにトルエン、キシレン、又は別のアルキルベンゼンを利用することによって形成可能である。
【0005】
残念ながら、ヒドロアルキル化は、アルキル化位置をほとんど制御しない。例えば、メチルシクロヘキシルトルエン(methylcylohexyltoluene)(MCHT)を得るためのトルエンのヒドロアルキル化では、反応生成物は、該化合物のシクロヘキシル環とフェニル環の両方にアルキル置換を含むことになる。トルエンとベンゼンを両方含むヒドロアルキル化供給原料は、2つの環の一方だけにメチル置換を有するいくらかのシクロヘキシルベンジル種をもたらすこともあり得るが、それでも2つの環のどちらが置換を有するかの制御は困難であり、さらに、反応生成物は相当量の非置換シクロヘキシルベンゼン及び二置換MCHT種を含有することになる。
さらに、MCHT種の間でさえ、各環のアルキル置換の位置を制御することは困難である。例えば、MCHTは、脱水素化されてジメチルビフェニル(DMBP)をもたらし得る。DMBPは、対応するモノカルボン酸又はジカルボン酸を生成するためのDMBPの酸化後に長鎖アルコールによるエステル化を含むプロセスによって容易にエステル可塑剤に変換され得る。しかしながら、ある一定の使用のためには、DMBPの特定の位置異性体のみが有用である。例えば、2,X’DMBP(X’は、2’、3’、又は4’である)異性体は、最終生成物において好ましくない。例えば、2-炭素に置換を有するジフェン酸エステルは、可塑剤として使用するためには揮発性すぎる傾向があるためである。ヒドロアルキル化工程のために選択的分子ふるい触媒を用いてさえ、このプロセスは、6種全てのDMBP位置異性体(2,2’、2,3’、2,4’、3,3’、3,4’、及び4,4’DMBP)の混合物を、約20質量%以上までの望ましくない2,X’DMBP異性体を含めて生じさせる傾向があり、それらの気液平衡特性の重複のため未反応MCHTから蒸留によっては容易に分離し得ない。
【0006】
従って、選択的アルキル化シクロヘキシルベンジル及びビフェニル化合物の、該化合物のアルキル置換の位置に関してある程度の制御を提供する製造手段が必要である。
興味あるさらなる参考文献としては、米国特許第6,730,625号;米国特許公開第2014/0275605号、第2014/0275606号、第2014/0275607号、第2014/0275609号、第2014/0323782号;及びWIPO公開第WO 2010138248 A2号が挙げられる。さらなる参考文献としては、Bandyopadhyay et al., “Transalkylation of Cumene with Toluene over Zeolite-Beta,” Applied Catalysis A: General, 135 (1996) 249; Bandyopadhyay et al., “Transalkylation Reaction - An Alternative Route to Produce Industrially Important Intermediates Such as Cymene,” Catalysis Today, 44 (1998) 245; Mavrodinova et al., “Transalkylation of toluene with cumene over zeolites Y dealuminated in solid-state, Part I: Effect of the alteration of Broensted acidity,” Applied Catalysis A: General, 248 (2003) 181; Mavrodinova et al., Applied Catalysis A: General, 248 (2003) 197; Borodina et al., Petroleum Chemistry, 49 (2009) 66; 及びLu et al., “Selective Hydrogenation of Single Benzene Ring in Biphenyl Catalyzed by Skeletal Ni,” ChemCatChem, 1:3 (2009) 369がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
本発明は、選択的アルキル化シクロヘキシルベンジル及び/又はビフェニル化合物、並びにそれらを得る方法を提供する。特に、本発明のプロセスは、シクロヘキシルベンジル化合物のトランスアルキル化を利用し、一部の実施形態では、脱水素化及び/又は水素化等の他の処理工程と組み合わせて、当該化合物の制御された位置にアルキル置換を有するシクロヘキシルベンジル化合物及び/又はビフェニル化合物を得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明のプロセスは、置換又は非置換シクロヘキシルベンジル化合物をトランスアルキル化触媒の存在下、置換又は非置換ベンゼンでトランスアルキル化し、それによって置換又は非置換シクロヘキシルベンゼントランスアルキル化生成物を得る工程を含む。例えば、下記反応に従ってシクロヘキシルベンゼンをアルキルベンゼン(例えば、トルエン、エチルベンゼン等)でトランスアルキル化することができる。式中、RはC1-C10アルキル基を表す。
【0009】
【化1】
【0010】
以上のように、トランスアルキル化反応は、シクロヘキシルベンジル化合物のフェニル環だけにアルキル基の標的付加を効率的に提供する。一部の実施形態では、下記反応の式(I)によって示すように、該化合物のシクロヘキシル環又はフェニル環のどちらか又は両方に1、2、3、4、及び5つの置換(好ましくはC1-C10アルキル置換)を有するシクロヘキシルベンジル基を用いて反応を行なってよい。式中、各R1〜R10は、独立にH又はC1-C10アルキルである。さらに、やはり下記反応スキームに示すように、シクロヘキシルベンジル化合物をトランスアルキル化するアルキルベンゼンは、一般的に式(II)の置換又は非置換ベンゼンであってよく、式中、R6*〜R10*は、それぞれ独立にH又はC1-C10アルキルである。この反応は、式(III)のトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物(及び/又はその位置異性体)を形成する。式中、各Rn及びRn*は、先に定義した通りである。
【0011】
【化2】
【0012】
一部の実施形態では、下記式(IV)(式中、各R1〜R10は、式(I)について先に定義した通りである)のビフェニル化合物の部分的水素化によってシクロヘキシルベンジル化合物を得ることができる。さらに、一部の実施形態では、式(III)トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を脱水素化して、やはり以下に示す式(V)の、対応する環交換されたビフェニル化合物(式中、各Rn及びRn*は、式(III)について先に定義した通りである)を与えることができる。
【0013】
【化3】
【0014】
従って、一部の実施形態のプロセス全体は、(i)前駆体ビフェニル化合物を部分的に水素化して、対応シクロヘキシルベンジル化合物とする工程;(ii)このシクロヘキシルベンジル化合物をアルキルベンゼンでトランスアルキル化して、トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を得る工程;及び(iii)このトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を脱水素化して、環交換されたビフェニル化合物を得る工程を包含し、ここで、環交換されたビフェニル化合物の1つのフェニル環は、前駆体ビフェニル化合物の対応環とは異なる置換を含む。言い換えれば、該実施形態の最終結果は、ビフェニル化合物の1つの環だけの標的アルキル化である。これは、ビフェニル化合物の有利な標的分子設計(例えば、ビフェニル化合物の1つの環だけにアルキル置換を有するアルキルビフェニル化合物の生成)を可能にし、及び/又は異性化反応における用途を見い出し得る(例えば、ビフェニル化合物の1つの環の望ましくない置換を望ましい置換と交換し、及び/又は非置換ベンゼンでトランスアルキル化することによって望ましくない置換を全体的に除去する)。
【0015】
なおさらなる実施形態によれば、ビフェニル化合物の他方の環(例えば、前の反応工程でトランスアルキル化を受けなかった環)を選択的にアルキル化するように、出発点として第2のビフェニル化合物を用いて本プロセスを繰り返することができる。従って該実施形態のプロセスは、さらに、(iv)半置換シクロヘキシルベンジル化合物を得るように、環交換されたビフェニル化合物を部分的に水素化する工程(例えば、アルキルビフェニルのアルキル化環を部分的に水素化する工程);(v)さらなるトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を得るように、環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を第2のアルキルベンゼン(工程(ii)の第1のアルキルベンゼンと同一又は異なってよい)でトランスアルキル化する工程;次に(vi)脱水素化して、対応する二重環交換されたビフェニル化合物を得る工程を含み、ここで、二重環交換されたビフェニル化合物の両方の環は、第1のビフェニル化合物の環と異なる置換を有する。
【0016】
さらに他の実施形態では、上記工程(ii)及び(v)のどちらか又は両方でアルキルベンゼンを使用するのではなく、非置換ベンゼンを使用してよく、結果として、ベンゼンでトランスアルキル化されるシクロヘキシルベンジル化合物のフェニル環からいずれの不要な置換をも効率的に除去することになる。このように、周囲の部分的な水素化及び脱水素化工程と組み合わせると、ビフェニル化合物のどちらか又は両方の環上の不要な置換を除去できるであろう。
なおさらなる実施形態は、二元機能触媒(ヒドロアルキル化及びトランスアルキル化反応を触媒する)又は水素化触媒とアルキル化触媒のような複数触媒(各触媒が別々の機能を果たす)のどちらかを利用する、ヒドロアルキル化とトランスアルキル化の組合せ反応を包含し得る。該組合せ反応への供給原料は、水素、置換又は非置換ベンゼン、及びシクロヘキシルベンジル化合物とビフェニル化合物のどちらか又は両方を含み得る。トランスアルキル化生成物とヒドロアルキル化生成物の両方を同時生成するように、二元機能触媒(又は複数触媒)の存在下で水素化、ヒドロアルキル化、及びトランスアルキル化の組合せを行なってよい。一部の実施形態の二元機能触媒は水素化成分及び分子ふるいを含む。同様に、一部の実施形態の複数触媒は水素化触媒(例えば、水素化成分)及びアルキル化触媒(例えば、分子ふるい)を含む。一部の実施形態において、異なるシリカ及びアルミナ組成の分子ふるいを利用すると(二元機能触媒においてか又はアルキル化触媒として)、ヒドロアルキル化生成物を減らして選択的にトランスアルキル化生成物を増やすことができ、逆の場合も同じである。多くの場合、このような組合せ反応を行なうと、追加反応容器の必要性を排除することによって、正味のプロセスコストの削減につながることになる。さらに、反応器へのより高い分子量の液体供給原料の増加(例えば、シクロヘキシルベンジル及びビフェニル化合物のどちらか又は両方)は、顕熱として作用して、ヒドロアルキル化に伴う発熱の過酷さを減じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一部の実施形態のトランスアルキル化及びヒドロアルキル化プロセスを示す簡略化プロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態の詳細な説明
ここでは、シクロヘキシルベンジル及び/又はビフェニル化合物の有利な標的アルキル化プロセスを提供する。本プロセスは、それぞれシクロヘキシルベンジル化合物を選択的にトランスアルキル化して、前記シクロヘキシルベンジル化合物のフェニル環を、望ましい置換を有する別のフェニル環(又は、好ましい場合、置換がないフェニル環)と交換する能力をうまく利用する。このトランスアルキル化を脱水素化及び部分的水素化等の種々の周囲反応と組み合わせて利用して、シクロヘキシルベンジル化合物及び/又はビフェニル化合物等の二環化合物の単一環の標的アルキル化、及び/又は該単一環上の置換の交換を提供し得る。
【0019】
定義
本明細書で使用する場合、「置換」炭化水素は、炭化水素上の少なくとも1個のHが、アルキル、アルケニル、アルキル、アリール又は他の官能基等の別の部分と置き換わっている炭化水素である。同様に、「置換」は、炭化水素上のHと置き換わった部分である。例として、「置換」ベンゼンは、少なくとも1個のHが、別の部分と置き換わっているベンゼンであり、当該他の部分が当該ベンゼン上の「置換」である。例えば、アルキル置換ベンゼンは、少なくとも1個のHがアルキル基と置き換わっているベンゼン(例えば、トルエンであり、メチル基が置換である)である。
対照的に、「非置換」炭化水素は、どのHも別の部分で置換されていない炭化水素である。例えば、非置換ベンゼンは、ペンダント部分のないベンゼン分子である。同様に、非置換シクロヘキシルベンゼンは、付加部分のないシクロヘキシルベンゼンである。
本明細書で使用する「シクロヘキシルベンジル」又は「シクロヘキシル芳香族」化合物は、1つの位置でシクロヘキサン部分によって置換されたベンゼン分子であり、シクロヘキサン部分自体は、さらにアルキル置換されていてもいなくてもよい。さらに、シクロヘキシルベンジル化合物のベンゼンは、追加の置換を有しても有しなくてもよい。従って、シクロヘキシルベンジル化合物の例としては、シクロヘキシルベンゼン(シクロヘキサン部分もベンゼン部分もさらなる置換を含まない);メチルシクロヘキシルベンゼン(シクロヘキサン部分がメチル置換を含む);メチルシクロヘキシルトルエン(シクロヘキサン及びベンゼン部分のそれぞれがさらにメチル置換を含む);エチルシクロヘキシルトルエン(シクロヘキサン部分がエチル置換を含み、ベンゼン部分がメチル置換を含む)等がある。
【0020】
「環交換された」化合物は、2つの炭化水素環の1つ(シクロヘキシルベンジルの場合、ヘキシル又はフェニル環;ビフェニルの場合、2つのフェニル環の1つ)が、トランスアルキル化反応を含むプロセスを経て、異なる置換を有する別の環と交換されているシクロヘキシルベンジル又はビフェニル化合物を指す略語である。同様に、「二重環交換された」化合物は、両方の炭化水素環がそのように交換されているシクロヘキシルベンジル又はビフェニル化合物を指す。
同様の文脈に沿って、「トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物」は、そのフェニルがトランスアルキル化反応経由で環交換されているシクロヘキシルベンジル化合物を指し、「さらなるトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物」は、さらなるトランスアルキル化を受けたシクロヘキシルベンジル化合物を指し、この場合、さらなるアルキル化前のシクロヘキシルベンジル化合物は、第1のトランスアルキル化を受けた後に脱水素化、及び部分的再水素化を受け、その結果、第1のトランスアルキル化から交換された環は飽和(ヘキシル)部分となる。
【0021】
「(アルキルシクロヘキシル)ベンゼン」化合物又は「(アルキルシクロヘキシル)芳香族」化合物は、シクロヘキサン部分がさらに1種以上のC1-C10脂肪族アルキル基で置換されたシクロヘキシルベンジル化合物である。同様に、シクロヘキシルベンジル化合物のベンゼン部分は、さらに1種以上のC1-C10脂肪族アルキル基で置換され、シクロヘキシルベンジル化合物は、さらに詳細に「シクロヘキシル(アルキルベンゼン)」又は「シクロヘキシル(アルキル芳香族)」化合物と呼ぶことができる。同様に、「(アルキルシクロヘキシル)アルキルベンゼン」は、そのシクロヘキシル及びフェニル環のそれぞれに1つ以上の置換(同一又は異なってよい)を有するシクロヘキシルベンジル化合物である。該シクロヘキシルベンジル化合物を「ポリアルキル化」シクロヘキシルベンゼン(例えば、1つより多くのアルキル置換を有するシクロヘキシルベンジル化合物)と呼ぶこともある。
「アルキルビフェニル」化合物は、少なくとも1つのC1-C1脂肪族アルキル置換を有するビフェニルである。「ポリアルキルビフェニル」化合物は、1つより多くの該置換を有する。
【0022】
本明細書で使用する場合、「Cx炭化水素」(xは整数である)は、X個の炭素原子を有する炭化水素化合物を指す。従って、C6炭化水素は、6個の炭素原子を有する炭化水素である。「Cx-Cy炭化水素」は、x〜y個の炭素原子を有する炭化水素であり(例えば、C6-C10炭化水素は、6、7、8、9、又は10個の炭素原子を有する);「Cx以上の」炭化水素は、x個以上の炭素原子を有する炭化水素であり;「Cx超の炭化水素」は、x個より多くの炭素原子を有する炭化水素である。同様に、「Cx以下の」炭化水素は、x個以下の炭素原子を有する炭化水素であり、「Cx未満の」炭化水素は、x個未満の炭素原子を有する炭化水素である。
本明細書で使用する「位置異性体(positional isomer又はregioisomer)」は、親構造に対して官能基又は他の部分の位置が変わっている化合物を指す。本明細書では該用語を構造式の描写と併せて使用する。従って、言い換えれば、1つ以上のR基を有する化合物の「位置異性体」は、構造式に描写した同親構造を有するが、R基が異なる位置にある化合物と定義される。例えば、複数のR基を有する化合物は、2つ以上のR基が互いに場所が入れ替わっている位置異性体を有し得る。位置異性体の例は下記式(I)及び(I-i)で見ることができ、(I-i)は、(I)の位置異性体である。
【0023】
【化4】
【0024】
図に示すように、式(I)の右側環のR6〜R10基は、式(I-i)では反時計回りに1つ位置回転している。その他の点では、親構造(ここでは、R基R1〜R10が付加したシクロヘキシルベンゼン)は変わらないままである。従って、(I)と(I-i)は位置異性体である。このことは、シクロヘキシルベンゼンとヘキサ-1-エニルベンゼンの対は、両方とも化学式C12H16を有するにもかかわらず、R基が位置するのが異なる炭素鎖であるため、互いの位置異性体でないのと対照的である(二環化合物であるシクロヘキシルベンゼン対ヘキセニルベンゼン、すなわちアルケニル置換(ヘキサ-1-エニル)を有するベンゼン)。
【0025】
シクロヘキシルベンジル化合物のトランスアルキル化
その最も一般的形態では、本発明の実施形態のトランスアルキル化反応は、式(I)のシクロヘキシルベンジル化合物の式(II)の置換又は非置換ベンゼンによるトランスアルキル化を描写する以下に示す反応で表される。反応は、トランスアルキル化触媒の存在下、式(III)のシクロヘキシルベンジル化合物(及びその位置異性体)を含むトランスアルキル化反応生成物を生成するのに適したトランスアルキル化条件下で行なわれる。
【0026】
【化5】
【0027】
式(I)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR10は、H及びC1-C10アルキル基、好ましくは非脂肪族アルキル基から成る群よりそれぞれ独立に選択される。同様に、式(II)中、R6*、R7*、R8*、R9*、及びR10*は、H及びC1-C10アルキル基、好ましくは非脂肪族アルキル基から成る群より同様にそれぞれ独立に選択される。但し、下記の1つ以上が当てはまることを条件とする:R6*は、R6と異なり、R7*は、R7と異なり、R8*は、R8と異なり、R9*は、R9と異なり、R10*は、R10と異なる。
ある一定の好ましい実施形態では、R6*〜R10*の1又は2つがメチル(C1アルキル)であり、R6*〜R10*の残りがそれぞれHである。従って、該実施形態では、式(II)の置換又は非置換ベンゼンがトルエン及び/又はキシレンである。ある一定の他の実施形態では、R6*〜R10*の1つがエチルであり、R6*〜R10*の残りがそれぞれHである(すなわち、式(II)の置換又は非置換ベンゼンはエチルベンゼンである)。さらに他の実施形態では、R6*、R7*、R8*、R9*、及びR10*がそれぞれHである(すなわち、式(II)の化合物はベンゼンである)。さらなる実施形態では、R1〜R5がそれぞれメチル又はHであり、該実施形態では、R1〜R5の2つ以下だけ(すなわち、0、1、又は2)がメチルであるのが好ましい。
【0028】
以上のように、反応は、基本的に、(a)式(I)のシクロヘキシルベンジル化合物のベンゼン部分の、(b)式(II)の置換又は非置換ベンゼンとの標的交換を伴う。このように、望ましいペンダントR基(R6*〜R10*)を有する置換ベンゼンを選択することによって、シクロヘキシルベンゼンのフェニル環上に特異的に位置する1つ以上のアルキル置換を有するシクロヘキシルベンゼンを得ることができる。或いは、同様に、(i)シクロヘキシルベンゼンを非置換ベンゼンでトランスアルキル化するか又は(ii)置換された望ましいR基を有するベンゼンでシクロヘキシルベンゼンをトランスアルキル化することによって、シクロヘキシルベンゼン化合物内の不要のベンゼン環置換を、それぞれ、効率的に(i)除去するか又は(ii)交換することができる。
例えば、下記反応(Rはメチルである)によれば、シクロヘキシルベンゼンをフェニル環上のメチル基の信頼できる位置で(シクロヘキシル)トルエンにトランスアルキル化できるであろう。
【0029】
【化6】
【0030】
別の例として、(メチルシクロヘキシル)エチルベンゼンを(メチルシクロヘキシル)トルエン、又は(メチルシクロヘキシル)ベンゼンにトランスアルキル化できるであろう。なおさらなる例によれば、シクロヘキシルベンゼンをキシレンでトランスアルキル化してシクロヘキシルキシレンを与え得る(これは、さらに詳細に後述するように、脱水素化し、それによって、単一フェニル環上に両メチル基があるジメチルビフェニル化合物を与え得る)。
なおさらなる例としては、トルエンの2位にメチルシクロヘキシル置換を有する(メチルシクロヘキシル)トルエンのトランスアルキル化(例えば、2,x-(メチルシクロヘキシル)トルエン、ここで、xは3、又は4であり得る)のような異性化反応がある。WIPO特許公開WO/2014159100 A1の段落[0027]に記載されているように、シクロヘキシル又はフェニル環のどちらかの2位にメチル基を有する(メチルシクロヘキシル)トルエン(2,x-(メチルシクロヘキシル)トルエンを含めて)は、トルエンのヒドロアルキル化(メチルシクロヘキシルトルエンが中間体である)からビフェニル可塑剤を生成するための合成プロセスにおけるフルオレン及びメチルフルオレンの形成のための前駆体である。フルオレンは、該プロセスのジメチルビフェニル生成物から分離が困難であり、当該プロセスの後の工程(例えば、酸化)でさらに問題を引き起こすことがある。それ自体は、少なくとも、供給原料として望ましくない異性体を用いたいずれの反応生成物も、望ましい異性体と望ましくない異性体の混合物を有することになるので、フェニル環の2位にメチル基を有する(メチルシクロヘキシル)トルエンのトランスアルキル化(例えば、追加トルエンで)は、これらの望ましくない異性体の存在を減らすのに役立つことになる。しかしさらに、立体的問題のため、さらなるトルエンによるトランスアルキル化反応は、フェニル環の2位にメチル基を持たない(メチルシクロヘキシル)トルエン異性体を好むことになると考えられる。さらに、種々の実施形態のプロセスは、さらに詳細に後述するように、トランスアルキル化を脱水素化及び部分的水素化と併用すると、シクロヘキシル環の2位にメチル基を有する異性体の存在を減らすのにも役立ち得る。
【0031】
なおさらなる実施形態によれば、置換シクロヘキシルベンジル分子の、ある一定の異性体のみが望ましいいずれのプロセスにおいても、本明細書に記載のトランスアルキル化を用いて、望ましくない異性体を望ましい異性体に変換することによって、プロセスの炭素利用率を高めることができる。
種々多様の条件にわたってトランスアルキル化反応を行なうことができるが、大部分の実施形態では、約75℃〜約250℃、例えば約100℃〜約200℃、例えば約125℃〜約160℃の温度、及び約100〜約3550kPa(絶対)、例えば約1000〜約1500kPa(絶対)の圧力で行なう。
トランスアルキル化触媒は、分子ふるい等の固体酸触媒、特に2未満の束縛インデックス(Constraint Index)(US 4,016,218の定義通り)を有する大孔径分子ふるいを有する分子ふるいであってよい。適切な大孔径分子ふるいとしては、ゼオライトβ、ゼオライトY、超安定(Ultrastable)Y(USY)、脱アルミニウム(Dealuminated)Y(Deal Y)、モルデナイト、ZSM-3、ZSM-4、ZSM-18、ZSM-20、及びその混合物が挙げられ、一部の実施形態では、ゼオライトβ及びゼオライトYが好ましい。他の適切な分子ふるいとしては、MCM-22ファミリーの分子ふるいがあり、MCM-22(US 4,954,325に記載)、PSH-3(US 4,439,409に記載)、SSZ-25(US 4,954,325に記載)、PSH-3(US 4,439,409に記載)、SSZ-25(US 4,826,667に記載)、ERB-1(EP 0 293 032に記載)、ITQ-1(US 6,077,498に記載)、ITQ-2(WO 97/17290に記載)、MCM-36(US 5,250,277に記載)、MCM-49(US 5,236,575に記載)、MCM-56(US 5,362,697に記載)、及びその混合物が挙げられる。
【0032】
ビフェニル化合物のシクロヘキシルベンジル化合物への部分的水素化
ビフェニル化合物の1つのフェニル環を選択的にアルキル化及び/又は脱アルキル化する一部の実施形態のプロセスに上記プロセスを適宜用いることもできる。特に、種々の実施形態によれば、ビフェニル化合物の1つだけのフェニル環に望ましい置換を加え、ビフェニルの1つのフェニル環の望ましくない置換を除去及び/又は交換することができる。
従って、該実施形態のプロセスは、下記部分的水素化反応に示すように、上記式(I)のシクロヘキシルベンジル化合物(及び、任意に、その位置異性体)を含む部分的水素化反応流出物を得るために、式(IV)(以下に示す)のビフェニル化合物を部分的に水素化する工程を含む。そして、既に述べたように、式(I)のシクロヘキシルベンジル化合物に標的トランスアルキル化反応を施すことができる。
【0033】
【化7】
【0034】
式(IV)中、各R1〜R10は、既に先に定義した式(I)のR1〜R10と同様に定義される。
式(IV)のビフェニル化合物の部分的水素化の目標生成物は、R6〜R10が式(I)のフェニル環上にある式(I)のシクロヘキシルベンジル化合物及びその位置異性体である。言い換えれば、部分的水素化反応は、好ましくは2つのフェニル環の1つだけの水素化をもたらすべきである。さらに、当然のことながら、1つのフェニル環だけが望ましくない置換を含む場合(例えば、R6〜R10の1つ以上が望ましくない置換である場合)、部分的水素化の目標生成物は、R6〜R10がシクロヘキシルベンジル化合物のフェニル環にあるシクロヘキシルベンジル化合物である。
水素化の部分的飽和生成物への選択性は、全体的転化率の制限、操作条件の最適化、又は効率的触媒の設計及び使用を通じて高めることができる。例えば、特定の水素化成分(例えば、パラジウム、又は場合によっては、S-Ni(骨格Ni)触媒)、水素化成分の濃度、ゼオライト機能、及びゼオライト濃度(金属濃度及びバインダー濃度に対する)を選択することによって、部分的水素化生成物への選択性を調整することができる。他の選択肢としては、水素分圧を下げるか、又は反応条件を類似効果に変更することがある。
【0035】
いずれにしても、ビフェニル化合物のいずれの水素化反応も、少なくともいくらかの部分的水素化種を生じさせるはずであり、これらは他の生成物から分離可能であり;該種への選択性を高めると、当然に効率を高めるが、いずれの水素化も分離と併用して部分的水素化生成物を得ることができる。例えば、一部の例では、目標シクロヘキシルベンジル部分的水素化生成物は、ビシクロヘキシル化合物(例えば、完全水素化の結果として)と、及び/又はフェニル環ではなく、シクロヘキシル環が望ましくない置換を含むシクロヘキシルベンジル化合物と同時生成し得る(上記の望ましい部分的水素化の例を引き続き述べると、該シクロヘキシルベンジル化合物は、R6〜R10の1つ以上が望ましくない置換であるが、R6〜R10がシクロヘキシル環上にあり、さらにR1〜R10がフェニル環上にある場合に相当する)。本明細書に記載のトランスアルキル化反応が望ましくない置換を交換又は除去するという目的に適うためには、このような望ましくない置換が、シクロヘキシル環ではなく、フェニル環に存在しなければならないことが当業者には容易に分かるであろう。
【0036】
すなわち、部分的水素化生成物を得る工程は、目標部分的水素化生成物(例えば、R6〜R10がフェニル環にある式(I)のシクロヘキシルベンジル位置異性体)を、水素化反応流出物中の他のシクロヘキシルベンジル化合物(例えば、他の位置異性体)及び/又はビシクロヘキシル化合物から分離する工程をさらに含み得る。該分離は、目標位置異性体が副生物位置異性体と異なる沸点を有する場合、例えば、分別、蒸留等によって、都合よく行なうことができる。代わりに又は加えて、結晶化、吸着、吸収及び/又は液液抽出等の分離を用いて目標シクロヘキシルベンジル部分的水素化生成物を得ることができる。
さらに、いずれの望ましくない種(例えば、完全水素化ビシクロヘキシル化合物、又は間違った環が水素化されたシクロヘキシルベンジル化合物)も、分離後に(直後、又は統合プロセスのさらなる下流で)、システム効率を高めるため、部分的水素化反応に再循環させてよい。
部分的水素化反応は、水素化触媒の存在下、目標部分的水素化生成物を与えるのに適した条件下で起こり得る。適切な水素化触媒としては、水素化金属がある。いずれの既知の水素化金属又はその化合物も利用可能であるが、適切な金属としては特に、元素周期表の10族から選択される金属(特にパラジウム及びニッケル、例えば骨格ニッケル及び/又はラネーニッケル)、及び/又は銅、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、及びコバルトが挙げられる。水素化触媒は、小さい(狭い)粒度分布を有する担体を有する水素化金属担持触媒であるのが好ましい。担体例としては、SiO2、Al2O3、炭素及びその任意の組合せがある。
【0037】
シクロヘキシルベンジル化合物のビフェニル化合物への脱水素化
上記トランスアルキル化反応によって得られたシクロヘキシルベンジル化合物(例えば、式(IV)の化合物)を今度は脱水素化して、対応するビフェニル化合物を与え得る。従って、一部の実施形態のプロセスは、さらに、以下に示すように、(例えば、式(III)の)トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を、(例えば、式(V)の)対応ビフェニル化合物に脱水素化する工程を含む。
【0038】
【化8】
【0039】
式(V)中、各R1、R2、R3、R4及びR5は、式(I)について先に定義した通りであり;各R6*、R7*、R8*、R9*及びR10*は、同様に式(II)について先に定義した通りである。
脱水素化は、約200℃〜約600℃の温度及び約100kPa〜約3550kPa(大気圧〜約500psig)の圧力で脱水素化触媒の存在下で行なう。適切な脱水素化触媒は、元素周期表の10族から選択される1つ以上の元素又はその化合物、例えば、シリカ、アルミナ、又は炭素等の担体上のPtを含む。一実施形態では、10族元素は、触媒の約0.1〜約5wt%の量で存在する。一部の実施形態の適切な脱水素化触媒は、さらにスズを含む(例えば、存在する場合、触媒の約0.01〜約2wt%の量で)。
トランスアルキル化後の脱水素化の結果は、1つの環だけに選択的な置換を有する(又は1つの環だけから全ての置換が除去された)ビフェニル化合物である。このようにして、例えば、ビフェニル化合物の2つのフェニル環の間に不均等な飽和(例えば、不均等な数の置換)を有するビフェニル化合物が生成され得る。
【0040】
シクロヘキシルベンジル及びビフェニル化合物の両方の環の標的アルキル化
なおさらなる実施形態では、トランスアルキル化、脱水素化、及び部分的水素化の上記プロセスの組合せを用いることによって、シクロヘキシルベンジル及び/又はビフェニル化合物の両方の環を連続して選択的にアルキル化することができる。該実施形態のプロセスは、シクロヘキシルベンジル又はビフェニル化合物(又はその混合物)のどちらかで出発し得る。例えば、一部の実施形態のプロセスは、下記反応を含み得る(特に指定のない限り、各参照式は先に定義した通りである)。
【0041】
【化9】
【0042】
詳細には、該実施形態のプロセスは下記工程を含む:
(i)式(I)のシクロヘキシルベンジル化合物を式(II)の第1の置換又は非置換ベンゼンでトランスアルキル化し、それによって式(III)のトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物及びその位置異性体を含む第1のトランスアルキル化反応流出物を得る工程(その結果、R1〜R5は、トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物のシクロヘキシル環に結合している);
(ii)式(III)のトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を脱水素化して、式(V)の対応する環交換されたビフェニル化合物(及び、任意に、その位置異性体、すなわち、第1のトランスアルキル化反応流出物中に存在する式(III)のいずれかの位置異性体(R1〜R5は式(III)のシクロヘキシル環に結合している)に対応する位置異性体)を得る工程;
(iii)式(V)の第1のビフェニル化合物を部分的に水素化して、式(VI)の環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物(及びその位置異性体)を含む部分的水素化反応流出物を得る工程(その結果、式(VI)のR1〜R5基は、式(VI)のフェニル環に結合している);及び
(iv)式(VI)の環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を式(VII)の第2の置換又は非置換ベンゼン(第1の置換又は非置換ベンゼンと同一であるか、又は異なっていてよい)でトランスアルキル化し、それによって構造式(VIII)の二重環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を得る工程。
【0043】
上記実施形態のプロセスでは、R1*、R2*、R3*、R4*、及びR5*(例えば、式VII及びVIII中)は、H及びC1-C10アルキル、好ましくは脂肪族アルキルからそれぞれ独立に選択される。但し、下記の少なくとも1つが当てはまることを条件とする:R1*は、R1と同一でなく、R2*は、R2と同一でなく、R3*は、R3と同一でなく、R4*は、R4と同一でない。一部の実施形態では、R1*〜R5*のいずれの1つ以上もR6*〜R10*のいずれの1つ以上と同一又は異なっていてよい。
さらに、上記実施形態のプロセスのトランスアルキル化工程(i)及び(iv)の両方とも同一の触媒組成物上で起こり得る(例えば、式(VI)の環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を、第1のトランスアルキル化(i)が起こり得る同一の反応ゾーンに供給するための再循環ループを用いて)。これとは別に、各トランスアルキル化は、異なる触媒組成物(必要ではないが、互いに同一であり得る)上で、例えば、2つの異なる反応ゾーンで起こり得る。
ある一定の実施形態のプロセスは、任意に、下記式(IX)の二重環交換されたビフェニル化合物を得るように、構造式(VIII)の二重環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を脱水素化する工程をさらに含んでよい。式中、各R1*〜R10*は、式(II)及び(VII)について先に定義した通りである。
【0044】
【化10】
【0045】
さらに、一部の実施形態によれば、該プロセスは、任意に前駆体ビフェニル化合物で始まり、これが脱水素化されて式(I)のシクロヘキシルベンジル化合物を与えることに留意すべきである。
シクロヘキシルベンジル及び/又はビフェニル化合物の両方の環の標的アルキル化プロセスの1つの具体例は、シクロヘキシルベンジル出発化合物を得るためのヒドロアルキル化工程で出発する下記プロセスのトランスアルキル化−脱水素化−部分的水素化−トランスアルキル化−脱水素化の連続工程によるジメチルビフェニルの形成である:
(i)ベンゼン及び水素をヒドロアルキル化触媒の存在下、シクロヘキシルベンゼンを含むヒドロアルキル化反応流出物を生成するのに有効なヒドロアルキル化条件下でヒドロアルキル化する工程;
(ii)(1)第1のヒドロアルキル化反応流出物の少なくとも一部及び(2)トルエンを、トランスアルキル化触媒の存在下、(シクロヘキシル)トルエンの1種以上の位置異性体を含むトランスアルキル化反応流出物を生成するのに有効なトランスアルキル化条件下でトランスアルキル化する工程;
(iii)トランスアルキル化反応流出物の少なくとも一部を、脱水素化触媒の存在下、 (シクロヘキシル)トルエンの1種以上の位置異性体の少なくとも一部を、メチルビフェニルの1種以上の対応する位置異性体を脱水素化するのに有効な条件下で脱水素化する工程;
(iv)(メチルシクロヘキシル)ベンゼンの1種以上の位置異性体を得るように、メチルビフェニルの少なくとも一部を部分的に水素化する工程;
(v)(メチルシクロヘキシル)ベンゼンを追加のトルエンでトランスアルキル化し、それによって(メチルシクロヘキシル)トルエンの1種以上の位置異性体を得る工程;
(vi)(メチルシクロヘキシル)トルエンを脱水素化して、ジメチルビフェニル(DMBP)の1種以上の対応する位置異性体を得る工程。
【0046】
一部の実施形態のより一般的なプロセスと同様に、上記トランスアルキル化(v)は、トランスアルキル化(ii)と同一の反応ゾーン内で(例えば、同一のトランスアルキル化触媒上で)で起こり得る。すなわち、脱水素化(iv)を経て形成された(メチルシクロヘキシル)ベンゼンの少なくとも一部を、トランスアルキル化(ii)が起こる同一反応ゾーンに戻して再循環させてよい。同様に、脱水素化工程(iv)及び(vi)は両方とも同一の脱水素化反応ゾーン内で起こり得る。従って、一部の該実施形態のプロセスは、図1に示すシステムで行ない得る。このシステムでは、ベンゼンをヒドロアルキル化反応ゾーン100に供給し、CHBを含むヒドロアルキル化流出物を形成し、これをライン105経由でトランスアルキル化反応ゾーン110に搬送する。トルエンは、トランスアルキル化反応ゾーン110に直接、又は図1に示すように、トランスアルキル化前に供給ライン105中のCHBと共に送達される。さらに、メチルシクロヘキシルベンゼンを含む再循環ストリームが第2の再循環ライン135経由でトランスアルキル化反応ゾーン110に送達され、その結果、トランスアルキル化供給原料は、(i)CHB;(ii)トルエン;及び(iii)再循環メチルシクロヘキシルベンゼンを包含する。従って、ライン115で運ばれるトランスアルキル化反応流出物は、シクロヘキシルトルエン、メチルシクロヘキシルトルエン、及びベンゼン(トランスアルキル化時にCHB及びメチルシクロヘキシルベンゼンから除去されてそれぞれシクロヘキシルトルエン及びMCHTを形成する)。ベンゼンは、分離システム150(例えば、1つ以上の精留塔又は他の適切な分離装置であってよい)によって容易に分離して、ライン155に示すように、ヒドロアルキル化反応ゾーン100に追加のヒドロアルキル化供給原料として再循環させることができる。その一方で、トランスアルキル化反応流出物のMCHT及びシクロヘキシルトルエンがライン156経由で脱水素化反応ゾーン120に送達されると、それぞれDMBP及びメチルビフェニルに脱水素化され、水素と共にライン125経由で取り除かれる。第2の分離システム160(この場合もやはり、1つ以上の精留塔又は他の適切な分離装置を含む)は、流出物を(i)ライン165経由でヒドロアルキル化反応ゾーン100に再循環させるための水素含有ストリーム;(ii)所望の最終生成物DMBPに富む生成物ライン166;及び(iii)メチルビフェニルに富むストリームを運ぶ第1の再循環ライン167に分ける。第1の再循環ライン167は、メチルビフェニルリッチストリームを水素化反応ゾーン130に運び、そこで、メチルビフェニルは部分的に水素化されてメチルシクロヘキシルベンゼンとなり、これが、上述したように、第2の再循環ライン135経由でトランスアルキル化反応ゾーン110に送達される。水素化反応用の追加の水素は水素化ゾーン130に直接送達してよく、又は図1に示すように、ライン167のメチルビフェニル供給原料と混合してもよい。一部の実施形態では、第2の分離システム160を去る(例えば、ライン165経由で)水素の少なくとも一部を、特定経路で水素化反応ゾーン130に送ってよい(図1には示さず)。
【0047】
DMBPを形成するための上記記述のプロセスは、トルエンのヒドロアルキル化によるDMBP形成に対して有利な代替手段を提供する。トランスアルキル化反応機構に関与する立体力(steric force)が、DMBPの望ましくない2,X’位置異性体(X’は、2、3、又は4であり、すなわち、いずれの1つ以上のメチル基もどちらかのフェニル環の2位にある)の形成を妨げると考えられる。
一部の実施形態では、該プロセスにおける全体的なベンゼン消費は、以下のことが期待されるので、ほとんどゼロであり得る:(1)トランスアルキル化中に生成されるいずれのベンゼン副生物も追加のヒドロアルキル化供給原料として再循環させることができ;(2)トランスアルキル化工程中に副生物ベンゼンを消費するいずれの副生物シクロヘキシルベンゼンも同様に追加供給原料として第1のトランスアルキル化(ii)に再循環させることができ、最後に(3)ヒドロアルキル化反応のいずれのシクロヘキサン副生物(例えば、当該反応中のベンゼンの完全水素化に起因する)も、例えば、US 8,247,627、7欄35行〜9欄30行に記載のように、ベンゼンに脱水素化して、さらなるヒドロアルキル化供給原料をもたらし得る。
【0048】
なおさらなる実施形態では、トランスアルキル化工程のため、トルエンの代わりに又はトルエンに加えてキシレンを使用できるであろう。すなわち、一部の実施形態は、トルエン、キシレン、及びその混合物から成る群より選択されるアルキルベンゼンによるトランスアルキル化を含む。このような場合、(ii)のトランスアルキル化反応流出物は、(シクロヘキシル)トルエン、(シクロヘキシル)キシレン、及びその混合物から成る群より選択される(シクロヘキシル)アルキルベンゼンの1種以上の位置異性体を含むことになる(但し、位置異性体は、メチル基が(シクロヘキシル)アルキルベンゼン)のそれぞれのフェニル環にあるようなものである);かつ脱水素化(iii)が、(1)メチルビフェニルの1種以上の位置異性体;(2)2,3-ジメチルビフェニル;(3)2,4-ジメチルビフェニル;(4)3,4-ジメチルビフェニル;及び前述のいずれか2つ以上の混合物から成る群より選択される、アルキルビフェニル化合物の1種以上の位置異性体をもたらすことになる。
以上のように、現時点では、キシレンをトランスアルキル化に用いるプロセスでは、アルキルビフェニル化合物の少なくともいくつかは、両メチル基が同一のフェニル環にあるDMBPの位置異性体(例えば、化合物2、3、及び4)である。従って、該化合物は、その2つフェニル環の間に不均等な飽和を有するDMBPとして取り除くことができる。
【0049】
任意に、プロセスは継続できるであろう(上でトルエンを伴うトランスアルキル化について既に実証したように)。トランスアルキル化にキシレンを用いてプロセスが継続する実施形態では、(アルキルシクロヘキシル)アルキルベンゼンを得、次に脱水素化して、ジメチルビフェニルの1種以上の位置異性体、トリメチルビフェニルの1種以上の位置異性体(トリメチルビフェニルの2つのメチル基が一方のフェニル環にあり、1つのメチル基が他方のフェニル環にある)、テトラメチルビフェニルの1種以上の位置異性体(2つのメチル基が、各フェニル環に存在する)、及び前述のいずれか2つ以上の混合物から成る群より選択されるポリアルキルビフェニル化合物を得るように、アルキルビフェニル化合物を部分的に水素化して、(メチルシクロヘキシル)ベンゼンの1種以上の位置異性体、(ジメチルシクロヘキシル)ベンゼンの1種以上の位置異性体、及びその混合物から成る群より選択される(アルキルシクロヘキシル)ベンゼンを与えることができ、次にこの(アルキルシクロヘキシル)ベンゼンを、トルエン、キシレン、及びその混合物から成る群より選択される追加のアルキルベンゼンでトランスアルキル化することができる。
【0050】
組合せヒドロアルキル化及びトランスアルキル化
前述したように、シクロヘキシルベンゼン及び(メチルシクロヘキシル)トルエン(MCHT)等のシクロヘキシルベンジル化合物は、ヒドロアルキル化により都合よく形成される。従って、本明細書に記載のプロセスは、所望の選択的アルキル化を得るため(及び/又は望ましくない置換を選択的に除去するため)のヒドロアルキル化反応流出物の処理の少なくとも一部を形成することができる。
有利には、一部の実施形態によれば、二元機能触媒(例えば、ヒドロアルキル化とトランスアルキル化を両方とも触媒できる触媒)、又は複数触媒反応ゾーンの利用によって、トランスアルキル化プロセスをヒドロアルキル化プロセスと組み合わせることができる。
適切な二元機能触媒は、水素化成分(例えば、本明細書で先に論じたいずれもの水素化金属)及び固体酸アルキル化成分、典型的には分子ふるいを含む。ヒドロアルキル化/トランスアルキル化反応に用いるのに適した二元機能触媒は、水素化成分(例えば、元素周期表の10族から選択される水素化金属、特にパラジウムが有利である)及び固体酸アルキル化成分、典型的には分子ふるいを含む。触媒は、粘土、シリカ及び/又は金属酸化物等のバインダーを含んでもよい。一般に、適切な二元機能触媒として、参照することによりその内容を本明細書に援用するWIPO公開第2014/159104号(2014年10月2日公開、国際出願日は2014年3月7日)の段落[0025]〜[0029]に記載のヒドロアルキル化触媒が挙げられる。
【0051】
WIPO公開第2014/159104号に記載の1つの二元機能触媒例は、MCM-22ファミリーの分子ふるいを含む。MCM-22ファミリーの分子ふるいは一般的に、12.4±0.25、6.9±0.15、3.57±0.07及び3.42±0.07Åに面間隔(d-spacing)最大値を含むX線回折パターンを有する。材料の特徴づけに用いるX線回折データは、標準技術により、入射線として銅のKαダブレットを用い、収集システムとしてシンチレーションカウンター及び付随コンピューターを備えた回折計を用いて得られる。MCM-22ファミリーの分子ふるいとしては、MCM-22(US 4,954,325に記載)、PSH-3(US 4,439,409に記載)、SSZ-25(US 4,826,667に記載)、ERB-1(EP 0 293 032に記載)、ITQ-1(US 6,077,498に記載)、ITQ-2(WO 97/17290に記載)、MCM-36(US 5,250,277に記載)、MCM-49(US 5,236,575に記載)、MCM-56(US 5,362,697に記載)及びその混合物が挙げられる。
なおさらなる実施形態の好ましい二元機能触媒は、Pd/USY触媒(すなわち、水素化成分が、触媒の質量で約0.1〜約2%Pd(例えば約0.3%Pd)のPdであり、分子ふるいがUSYである)である。一部の実施形態のUSYは、組合せ組成物においてAl2O3バインダー材料と結合し、その結果、結合型分子ふるいは80wt%のUSYと20wt%のAl2O3を含む。代替実施形態では、結合型分子ふるいは、結合型分子ふるいの質量に基づいて、約60wt%〜約90wt%のUSY、及び約10〜約40wt%のAl2O3を含む。さらに、ある一定の実施形態では、触媒の分子ふるい中のシリカ対アルミナの比(本明細書では「Si/Al2」と略記することがある)を調整すると、トランスアルキル化反応生成物対ヒドロアルキル化反応生成物への触媒の選択性を調整することになる。特に、一部の実施形態では、Si/Al2比が高いほどトランスアルキル化生成物への選択性が大きくなり、一方でSi/Al2比が低いほどヒドロアルキル化生成物への大きい選択性をもたらす。このように、二元機能触媒を目的に合わせ及び/又は調整して、組合せ反応におけるヒドロアルキル化とトランスアルキル化との間の望ましいバランスを得ることができる。さらなる実施形態では、ヒドロアルキル化生成物とトランスアルキル化生成物との間のバランスを修正するため、水素化金属濃度、酸性度(例えば、Si/Al2比に対する金属濃度)、ゼオライト:バインダー比、及びバインダータイプを調整してもよい。
【0052】
典型的に、シクロアルキル芳香族化合物を形成するための芳香族化合物のヒドロアルキル化は、水素及び置換又は非置換ベンゼン(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、及びその混合物)を含む供給原料を必要とする。このプロセスは、参照することによりその内容全体をここに援用するUS 2014/0275605の段落[0025]〜[0047]に詳述されている。要約すると、置換又は非置換ベンゼンが部分的に水素化されて対応シクロアルケニルとなり、これが今度は追加ベンゼン(及び/又はトルエン及び/又はキシレン)によるアルキル化反応を受ける。本発明の一部の実施形態のヒドロアルキル化及びトランスアルキル化の組合せプロセスは、典型的なヒドロアルキル化供給原料へのシクロヘキシルベンジル化合物及び/又はビフェニル化合物の添加を必要とする。供給原料中の置換又は非置換ベンゼンは、ヒドロアルキル化(上で要約したように)を受けることになるか、或いはヒドロアルキル化反応のアルキル化部分に類似の様式で触媒される、供給原料中のシクロヘキシルベンジル化合物によるトランスアルキル化を受ける(それによって、本明細書で先に述べたように、該化合物のフェニル環を交換する)ことになる。供給原料中のシクロヘキシルベンジル化合物は、直接添加され(言及したように)、及び/又は供給原料中のビフェニル化合物の部分的水素化に起因する(二元機能触媒の水素化成分によって触媒される)。
従って、ヒドロアルキル化及びトランスアルキル化の組合せプロセスは、一部の実施形態では、下記構造式に示すように、式(II)の置換又は非置換ベンゼン(各R基は、先に定義した通り)、水素、及び式(I)のシクロヘキシルベンジル化合物(この場合もやはりR基は、先に定義した通り)と式(IV)の、「前駆体ビフェニル」と表示することもあるビフェニル化合物(この場合もやはりR基は、先に定義した通り)の一方又は両方を含むヒドロアルキル化供給原料を準備する工程を含む。
【0053】
【化11】
【0054】
供給原料が、水素化成分と、分子ふるい等の固体酸アルキル化成分とを含む二元機能触媒と接触して、ヒドロアルキル化生成物及びトランスアルキル化生成物を含む反応流出物の形成につながる。ヒドロアルキル化生成物は、下記式(X)(及びその位置異性体)を有し、式中、R6*、R7*、R8*、R9*、及びR10*は、それぞれ式(II)の置換又は非置換ベンゼンについて定義した通りである(すなわち、各R6*〜R10*は、H及びC1-C10アルキル基、好ましくは非脂肪族アルキル基から成る群より独立に選択され、但し、式(I)のR6〜R10について、下記の1つ以上が当てはまることを条件とする:R6*は、R6と異なり、R7*は、R7と異なり、R8*は、R8と異なり、R9*は、R9と異なり、R10*は、R10と異なる)。トランスアルキル化生成物が式(III)及びその位置異性体に従う場合、先に論じたトランスアルキル化実施形態(及びR基は、先に定義した通り)に従う。
【0055】
【化12】
【0056】
一部の実施形態では、ヒドロアルキル化及びトランスアルキル化の組合せプロセスは、例えば、次に可塑剤の形成に利用可能なDMBP等のアルキルビフェニルを形成するための統合プロセスの一部であり得る。例えば、図1に示し、先に論じたプロセスは、ヒドロアルキル化反応ゾーン100とトランスアルキル化反応ゾーン110を組み合わせて、単一の組合せヒドロアルキル化及びトランスアルキル化反応ゾーンにすることができ、その他、図1に示す同プロセスストリームを維持できるであろう。
別の例として、先に論じたように、トランスアルキル化反応は、有利なことに、ヒドロアルキル化経由のDMBPの形成プロセスにおいて(メチルシクロヘキシル)トルエン(MCHT)及び/又はDMBPの望ましくない位置異性体を排除するか又は少なくともその数を減らす手段を提供することができる。該プロセスは、MCHTの位置異性体を形成するためのトルエンのヒドロアルキル化、及びMCHTのDMBPへの脱水素化を含み、例えば、US 2014/0275605で論じられている。不要の位置異性体(例えば、ヒドロアルキル化反応流出物中のMCHTの2,X’異性体及び/又は脱水素化反応流出物中のDMBPの2,X’異性体、ここで、X’は、2’、3’、又は4’である)を排除するか又は減らすために別々のトランスアルキル化を行なうのではなく、不要の位置異性体をMCHT及び/又はDMBPから分離し、ヒドロアルキル化反応に戻して再循環させることができる。ヒドロアルキル化反応に二元機能触媒を利用する場合、望ましくない異性体は、有利なことに、供給原料粒のトルエンによるトランスアルキル化反応を受け、それによって望ましくない異性体の量を少なくとも減らすことができる。
【0057】
従って、一部の実施形態のプロセスは、水素化成分及び分子ふるいを含む二元機能触媒をヒドロアルキル化供給原料と接触させる工程を含み得る。ヒドロアルキル化供給原料は、トルエン、水素、及びMCHTとDMBPの一方又は両方を含む。ここで、n wt%(供給原料中のMCHTとDMBPの混合質量に基づく)のMCHT及び/又はDMBPは、MCHT及び/又はDMBPの2,X’位置異性体(すなわち、前記MCHT及び/又はDMBPのどちらかの環の2位に少なくとも1つのメチル基がある位置異性体)を構成する。この接触工程は、ヒドロアルキル化生成物及びトランスアルキル化生成物を含む反応流出物をもたらす。ヒドロアルキル化生成物は、MCHTの1種以上の位置異性体を含む。さらに、トランスアルキル化生成物は、MCHTの1種以上の位置異性体を含む。しかしながら、トランスアルキル化生成物は、MCHTの2,X’位置異性体をm wt%だけ(mはn未満である)含む。
【0058】
なおさらなる実施形態では、先に言及したように、上記組合せプロセスのいずれかにおいて、二元機能触媒の代わりに、又はそれに加えて、異なる機能を果たす2種以上の触媒を用いるような複数触媒反応ゾーンを利用することができる。例えば、ヒドロアルキル化及びトランスアルキル化の組合せ用の反応ゾーンは、水素化触媒及びアルキル化触媒(アルキル化及びトランスアルキル化の両機能を果たすことができる)を含み得る。適切な水素化触媒には、いずれの水素化金属(例えば、元素周期表の10族から選択される金属)も含まれる。一部の実施形態の水素化触媒の一例としては、S-Ni、すなわちビフェニルをCHBに変えるための選択的水素化触媒が挙げられるが、いずれの他の水素化触媒をも利用可能である。適切なアルキル化触媒は、分子ふるい、例えば、二元機能触媒について先に論じた分子ふるいのいずれをも含み得る。なおさらなる実施形態では、複数触媒は、ヒドロアルキル化触媒(例えば、水素化成分及びMCM-22分子ふるいを含む触媒)及びトランスアルキル化触媒(例えば、ゼオライトY及び/又はゼオライトβ分子ふるいを含む)を含み得る。
【0059】
複数触媒は、混合床、積層床等として反応ゾーンに配置可能である。一部の実施形態は、2種以上の触媒を含み、かつ少なくとも1種の触媒の濃度勾配を有する混合床を含む。すなわち、触媒組成を反応器内の位置の関数として調整することができる。例えば、一部の実施形態の混合触媒床は、混合床内の水素化(ヒドロアルキル化)触媒の濃度が、床長の関数として希薄になる(水素化及び/又はヒドロアルキル化触媒の希釈度は、混合床の長さに沿って下流方向に増加する)ような水素化(及び/又はヒドロアルキル化)触媒を含み得る。これは、迅速な初期ヒドロアルキル化をもたらすことができ、かつ多くのシクロヘキシルベンジルヒドロアルキル化生成物が形成されるにつれて、触媒床に沿ってさらに遠くで低くなる水素化及び/又はヒドロアルキル化触媒濃度は、ジアルキル化物形成及びビシクロヘキシル化合物への完全水素化を遅らせるのに役立つ。
同様の概念を二元機能触媒を含む触媒床にさらに適用可能であり、この場合、同様の濃度勾配をたどるように二元機能触媒への水素化金属負荷を設定し、床の上流部分では金属負荷が高く、床の下流方向に次第に低い金属負荷となる。これは、反応の初期段階で高い水素化/ヒドロアルキル化という同様の効果を有し、反応が進行するにつれて、ジアルキル化生成物及び/又は完全水素化ビシクロヘキシル生成物の形成が減少することになる。
【実施例】
【0060】
実験
次に下記非限定例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。特に指定のない限り、室温又は周囲温度は約23℃である。
実施例1:種々のアルキル芳香族化合物によるシクロヘキシルベンゼントランスアルキル化
実施例1で論じる実験は、炉で加熱される8個の平行反応器を有する反応器ユニットを利用した。様々な試験のために、どの場合も1〜8個の反応器を利用した。反応器は、内径9mmの石英管から成った。石英反応器の外側の環状N2流により各反応器チャネルの内側と外側との間の圧力平衡が可能となった。触媒押出物(アルミナバインダー上のUSYゼオライトから成る)を破砕石英中4gまで希釈した後に2gの量破砕して20/40メッシュ負荷した。触媒床の上部と下部に石英ウール栓を用いて触媒を適所に維持した。2セットの4つの平行反応器を加熱炉に入れて等温反応温度を制御した。各反応器は、1/16”(1.59mm)のサーモウェルの触媒床に内部熱電対を含有した。同石英チップで反応器を完成した。
全ての反応器内の触媒は、後の例で述べるように、前提条件を現場で調整した。ISCOシリンジポンプを用いて反応器システムに供給原料を導入した。約0.7のモル比(ガス対炭化水素液)でN2とインライン混合される前に供給原料をポンプで気化器に通した。
下表1に示すように、3種の異なる液体炭化水素供給原料を用いた:
(1-a) 1時間-1のWHSV(反応器内の触媒に基づく質量毎時空間速度(weight hourly space velocity))に相当する液体ポンプ速度で送達される66wt%のトルエン及び34wt%のシクロヘキシルベンゼン(CHB)。
(1-b) 1時間-1のWHSVに相当する液体ポンプ速度で送達される57wt%の混合キシレン及び33wt%のCHB。混合キシレンは、18wt%のエチルベンゼン、22wt%のp-キシレン;48wt%のm-キシレン;及び12wt%のo-キシレンを含んだ。
(1-c) 67wt%のエチルベンゼン及び33wt%のCHB。
5975C MSD検出器及びFID及び自動液体サンプラー(ALS)を備えたAgilent 7890 GCでサンプルを分析した。分析の典型的な注入サイズは約0.5μlであった。
反応の結果を下表1に示す。
【0061】
表1. 実施例1のCHBトランスアルキル化の実験結果
【0062】
結果は、提案反応経路は可変であり、容易に最適化し、下流分離及び再循環と組み合わせて全体的なプロセス収率を改善できることを示している。
【0063】
実施例2:トルエンによるさらなるシクロヘキシルベンゼントランスアルキル化
実施例2のトランスアルキル化試験は、固定床下降流反応器で行なった。反応器は、内径が1/2インチ(1.27cm)であった。この研究で用いた触媒は、アルミナバインダー上のUSYゼオライトから成る市販触媒であった。触媒チャージは1.65gであり、触媒床を260℃まで加熱してから当該温度で8時間保持することによって触媒を活性化した。水素流速は50cc/分であった。反応器圧は、触媒活性化の間じゅう50psig(344.7kPag)で一定に保持した。
トランスアルキル化試験に用いた供給原料は、Sigma Aldrichから購入した無水トルエンと、Alfa Aesarから購入したシクロヘキシルベンゼンとを83:17の質量比で物理的にブレンドすることによって調製した。トランスアルキル化試験は180℃で行なった。反応器圧、WHSV、及び水素/炭化水素モル比は、それぞれ200psig(1379.0kPag)、2.5時間-1、及び0.7で一定に保った。
5975質量分析検出器及び炎イオン化検出器を備えたAgilent 7890 GCでサンプルを分析した。2つの独立した同一カラム用に0.5μlのサンプルサイズの二重注入を利用し、一方をFID検出器に、他方をMS(mass spec)検出器に用いた。C12以上の成分の炭素数は、MS結果から得た分子量から推測した。
供給原料は、83.33wt%のトルエン及び16.67wt%のシクロヘキシルベンゼンを含有することが分かった。反応により(シクロヘキシル)トルエン及び他の副生物が生成した。流出物は下記成分を含有した:3.6wt%のベンゼン;80.6wt%のトルエン;7.3wt%のシクロヘキシルベンゼン;7.0wt%のシクロヘキシル(トルエン)、及び1.5wt%の重質物(C12以上)。従って、CHBのフェニル環だけを効率的にメチル化するためのトランスアルキル化経路の実行可能性が実証され、これは、他のCHBアルキル化選択肢(例えば芳香族化合物へのメタノールの添加)の魅力的な代替選択肢である。
【0064】
実施例3:水素化、ヒドロアルキル化、及びトランスアルキル化の組合せ
ビフェニル型分子を直接ヒドロアルキル化反応器内部で水素化及びトランスアルキル化する実現可能性を評価するためにビフェニル添加実験(例えば、供給原料が水素、トルエン、及びビフェニルを含む)を行なった。この実施例に記載の触媒性能試験は、温度モニタリング用の1.6mmの内部サーモウェルを備えた7mm径×150mmの等温反応器で行なった。
両方とも80wt%のUSY及び20wt%のAl2O3を含む結合型分子ふるい担体上に0.30wt%のPdを有する2つの異なる下記触媒:(1)結合型分子ふるいのSi/Al2比が7の触媒、及び(2)分子ふるいのSi/Al2比が30の触媒を用いた。0.4〜0.6mm粒子の大きさにした約2gの触媒を無水炭化ケイ素で希釈し、反応管に入れた。試験条件は、2時間-1のWHSV(総液体供給ベースで)、140℃及び11barg(1100kPag)であった。
高効率の静的ミキサーを用いてH2及びトルエン/ビフェニル供給原料を混合し、H2:トルエンモル比を2に維持した。供給原料は、下表3に示すように、純粋トルエン又は89.6wt%のトルエンと10.4wt%のビフェニルから成った(表中、「ビフェニル添加」値の「Y」は、供給原料を89.6wt%のトルエンと10.4wt%のビフェニルにするためにビフェニルを添加したことを意味する)。
【0065】
反応器流出物からプロセス圧力で液体サンプルを回収した。液体サンプルの分析は、オートサンプラー及び150バイアルサンプルトレイを備えたAgilent 7890 GCで行なった。
予想された反応としては、供給原料中のビフェニルのシクロヘキシルベンゼンへの水素化、及び(シクロヘキシル)トルエンとベンゼンを形成する、シクロヘキシルベンゼンの供給原料中のトルエンによるトランスアルキル化があった。ベンゼンは、さらに反応してシクロヘキサン(水素化を経て)、シクロヘキシルベンゼン(水素及び追加ベンゼンによるヒドロアルキル化を経て)、及びさらなる(シクロヘキシル)トルエン(水素及びトルエンによるヒドロアルキル化を経て)を形成し得る。従って、このプロセスにおいて、理論的には、1モルのビフェニルは、2モルの(シクロヘキシル)トルエンを生じさせる可能性がある。さらに、予想された反応として、2つのトルエンのC14種(メチルシクロヘキシル)トルエン(MCHT)へのヒドロアルキル化もあった。
下表3に示すように、用いた触媒の両組成物にとって、ビフェニルの添加は、トルエン転化率の低下をもたらした。触媒に応じて、全体的(トルエン及びビフェニル)転化率は、ビフェニル添加前後で低下又は一定のままであった。相対的なトランスアルキル化及びヒドロアルキル化速度は、適用触媒の適用Si/Al2比に大きく依存した。最高Si/Al2触媒では、形成されたC13及びC14トランスアルキル化及びヒドロアルキル化生成物の大部分がトランスアルキル化生成物(すなわち、C13種(シクロヘキシル)トルエン)から成った。他方、最低Si/Al2では、形成されたC13及びC14種の大部分がC14ヒドロアルキル化生成物(MCHT)であった。これは、組合せ反応におけるヒドロアルキル化とトランスアルキル化との間の選択性は、部分的に分子ふるいのSi/Al2比で制御可能であることを示唆している。
【0066】
表3. 水素化、ヒドロアルキル化、及びトランスアルキル化の組合せの結果
【0067】
特定の実施形態を参照して本発明を記載及び説明したが、当業者は、本発明が、本明細書で必ずしも説明していない変形形態に役立つことを認めるであろう。従って、この理由から、本発明の真の範囲を決定する目的には、添付の特許請求の範囲のみを参照すべきである。本明細書に記載の全ての文書は、いずれの優先権書類及び/又は試験手順をも含め、それらが本テキストと矛盾しない程度まで、参照によって本明細書に援用される。同様に、用語「含む(comprising)」は、オーストラリア国法の目的の用語「含む(including)」と同義とみなされ、移行句「含む(comprising)」が組成物、要素又は要素群に先行するときはいつでも、当然のことながら、組成物、要素、又は要素群の記述に先行する移行句「から基本的に成る(consisting essentially of)」、「から成る(consisting of)」、「から成る群より選択される(selected from the group of consisting of)」、又は「である(is)」を有する同一の組成物又は要素群をも企図し、逆もまた同じである。
次に本発明の態様を示す。
1. シクロヘキシルベンジル及び/又はビフェニル化合物の形成プロセスであって、
下記工程:
(a)第1のシクロヘキシルベンジル化合物をトランスアルキル化触媒の存在下で置換又は非置換ベンゼンと接触させ、それによってトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を得る工程を含み、
前記トランスアルキル化触媒は固体酸触媒を含み;
前記第1のシクロヘキシルベンジル化合物は、構造式(I)

(式中、各R1〜R10は、独立にH又はC1-C10アルキル基である)を有し;
前記置換又は非置換ベンゼンは、構造式(II)

(式中、各R6*〜R10*は、独立にH又はC1-C10アルキル基であり、さらに下記の1つ以上が当てはまることを条件とする:R6*は、R6と異なり、R7*は、R7と異なり、R8*は、R8と異なり、R9*は、R9と異なり、R10*は、R10と異なる)を有し;かつ
前記トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物は、構造式(III)

又はその位置異性体(式中、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R1〜R5を有し、フェニル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する、
前記プロセス。
2. 構造式(IV)

を有する前駆体ビフェニル化合物を部分的に水素化し、
それによって、(a)において前記置換又は非置換ベンゼンと接触させられる前記第1のシクロヘキシルベンジル化合物を得る工程
をさらに含む、上記1に記載のプロセス。
3. さらに下記工程:
(b)前記トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を脱水素化して、構造式(V)

又はその位置異性体(式中、一方のフェニル環は、それに共有結合した各R1〜R5を有し、他方のフェニル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する環交換されたビフェニル化合物を得る工程;
(c)前記環交換されたビフェニル化合物を水素化触媒の存在下で部分的に水素化して、式(VI)

又はその位置異性体(式中、フェニル環は、それに共有結合した各R1〜R5を有し、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を得る工程;及び
(d)前記環交換されたシクロヘキシルベンジル化合物を第2のトランスアルキル化触媒の存在下で追加の置換又は非置換ベンゼンと接触させ、それによって、さらなるトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を得る工程を含み、
前記追加の置換又は非置換ベンゼンは、構造式(VII)

又はその位置異性体(式中、R1*〜R5*のいずれか1つは、C1-C10アルキル基であり、R1*〜R5*の残りは、H及びC1-C10アルキル基からそれぞれ独立に選択され、かつさらに下記の1つ以上が当てはまることを条件とする:R1*は、R1と異なり、R2*は、R2と異なり、R3*は、R3と異なり、R4*は、R4と異なり、R5*は、R5と異なる)を有し;かつ
前記さらなるトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物は、構造式(VIII)

又はその位置異性体(式中、フェニル環は、それに共有結合した各R1*〜R5*を有し、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する、
上記2に記載のプロセス。
4. 構造式(IX)

又はその位置異性体(式中、一方のフェニル環は、それに共有結合した各R1*〜R5*を有し、他方のフェニル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する二重環交換されたビフェニル化合物を得るために前記さらなるトランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物を脱水素化する工程をさらに含む、上記3に記載のプロセス。
5. R1〜R5が、それぞれHである、上記1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
6. R6〜R10が、それぞれHである、上記5に記載のプロセス。
7. R1〜R5の1つがC1-C5アルキル基であり、R1〜R5の残りがそれぞれHであり;さらに、R6〜R10がそれぞれHである、上記1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
8. 前記置換又は非置換ベンゼン及び前記追加の置換又は非置換ベンゼンが、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンから成る群よりそれぞれ独立に選択される、上記1〜7のいずれか1項に記載のプロセス。
9. R1*〜R5*及びR6*〜R7*が、それぞれ同一の5つの置換を構成する、上記1〜8のいずれか1項に記載のプロセス。
10. 前記トランスアルキル化触媒及び前記第2のトランスアルキル化触媒が、2未満の束縛インデックスを有する大孔径分子ふるいを有する分子ふるいからそれぞれ独立に選択される、上記3〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
11. 単一触媒組成物が、前記トランスアルキル化触媒でもあり、前記第2のトランスアルキル化触媒でもある、上記3〜10のいずれか1項に記載のプロセス。
12. 前記シクロヘキシルベンジル化合物がシクロヘキシルベンゼン(CHB)であり;
前記置換又は非置換ベンゼンが、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、及びその混合物から成る群より選択される置換ベンゼンであり;かつ
前記トランスアルキル化シクロヘキシルベンジル化合物が、シクロヘキシルトルエン、シクロヘキシルキシレン、シクロヘキシルエチルベンゼンの1種以上の異性体、又はそれぞれ、その混合物を含む、上記1〜11のいずれか1項に記載のプロセス。
13. シクロヘキシルベンジル及び/又はビフェニル化合物の形成プロセスであって、
下記工程:
(a)組合せヒドロアルキル化及びトランスアルキル化反応ゾーンに、(i)水素、(ii)置換又は非置換ベンゼン、及び(iii)シクロヘキシルベンジル化合物と前駆体ビフェニル化合物の一方又は両方を含むヒドロアルキル化供給原料を与える工程であって、
前記組合せヒドロアルキル化及びトランスアルキル化反応ゾーンは、(A)水素化触媒及びアルキル化触媒、又は(B)(i)元素周期表の10族から選択される水素化金属及び(ii)分子ふるいを含む二元機能触媒を含み;
さらに前記置換又は非置換ベンゼンは、構造式(II)

(式中、R6*〜R10*のいずれか1つは、C1〜C10アルキル基であり、R6*〜R10*の残りは、H及びC1-C10アルキル基からそれぞれ独立に選択され、さらに下記の1つ以上が当てはまることを条件とする:R6*は、R6と異なり、R7*は、R7と異なり、R8*は、R8と異なり、R9*は、R9と異なり、R10*は、R10と異なる)
を有し;
さらに前記シクロヘキシルベンジル化合物は、構造式(I)

(式中、各R1〜R10は、独立にH又はC1-C10アルキル基である)を有し;かつ
さらに前記前駆体ビフェニル化合物は、構造式(IV)

を有する、前記工程;及び
(b)ヒドロアルキル化生成物及びトランスアルキル化生成物を含む反応流出物を形成する工程であって、前記ヒドロアルキル化生成物は、式(X)

又はその位置異性体(式中、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*の1つを有し、フェニル環も、それに共有結合した各R6*〜R10*の1つを有する)を有し;かつさらに前記トランスアルキル化生成物は、式(III)

又はその位置異性体(式中、シクロヘキシル環は、それに共有結合した各R1〜R5を有し、フェニル環は、それに共有結合した各R6*〜R10*を有する)を有する、前記工程
を含む、前記プロセス。
14. 前記置換又は非置換ベンゼンが、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンから成る群より選択され;さらに前記シクロヘキシルベンジル化合物が、シクロヘキシルベンゼン、(メチルシクロヘキシル)トルエン、(ジメチルシクロヘキシル)キシレン、(シクロヘキシル)トルエン、及びその混合物から成る群より選択される、上記13に記載のプロセス。
15. 前記ヒドロアルキル化供給原料が、該供給原料中のメチルシクロヘキシルトルエン(MCHT)とジメチルビフェニル(DMBP)の混合質量のn%が、2つのメチル基の1つがMCHT又はDMBPのフェニル環の2位にある位置異性体で構成されるように、水素、トルエン、及びMCHTとDMBPのどちらか又は両方を含み;かつ
さらに前記反応流出物中の前記トランスアルキル化生成物が、該反応流出物中のMCHTの質量のm%が、2つのメチル基の1つがMCHTのフェニル環の2位にある位置異性体で構成されるように、MCHTを含む(ここで、mはn未満である)、上記13又は14に記載のプロセス。
16. 前記水素化触媒が、Pd、Pt、Ni、Cu、及びその任意の組合せから成る群より選択される金属を含み、さらに前記アルキル化触媒が、(i)USYゼオライト及びAl2O3を含む結合型分子ふるい、(ii)MCM-22ファミリーの分子ふるい、及びその任意の組合せから成る群より選択される、上記13〜15のいずれか1項に記載のプロセス。
17. 前記二元機能触媒の前記水素化金属がPd又はPtであり、さらに前記二元機能触媒の前記分子ふるいが、USYゼオライト及びAl2O3を含む結合型分子ふるいである、上記13〜15のいずれか1項に記載のプロセス。
18. 前記二元機能触媒の前記結合型分子ふるいが、約7のSi対Al2の比を有し、さらに前記反応流出物が、トランスアルキル化生成物より多くのヒドロアルキル化生成物を含む、上記17に記載のプロセス。
19. 前記二元機能触媒の前記結合型分子ふるいが、約30のSi対Al2の比を有し、さらに前記反応流出物が、ヒドロアルキル化生成物より多くのトランスアルキル化生成物を含む、上記17に記載のプロセス。
20. ポリアルキルビフェニル化合物の形成プロセスであって、下記工程:
(a)ベンゼン及び水素を、ヒドロアルキル化触媒の存在下、シクロヘキシルベンゼンを含むヒドロアルキル化反応流出物を生成するのに有効なヒドロアルキル化条件下でヒドロアルキル化する工程;
(b)(i)前記ヒドロアルキル化反応流出物の少なくとも一部及び(ii)トルエン、キシレン、及びその混合物から成る群より選択されるアルキルベンゼンを、(シクロヘキシル)トルエンとその位置異性体、(シクロヘキシル)キシレンとその位置異性体、及び前記のいずれか2つ以上の混合物から成る群より選択される(シクロヘキシル)アルキルベンゼンの1種以上の異性体(但し、(シクロヘキシル)トルエン及び/又は(シクロヘキシル)キシレンのいずれの前記位置異性体のメチル基も、該(シクロヘキシル)トルエン及び/又は(シクロヘキシル)キシレンのフェニル環にある)を含むトランスアルキル化反応流出物を生成するのに有効な条件下でトランスアルキル化触媒と接触させる工程;
(c)前記トランスアルキル化反応流出物の少なくとも一部を、脱水素化触媒の存在下、前記(シクロヘキシル)アルキルベンゼンの少なくとも一部を、メチルビフェニル;2,3-ジメチルビフェニル;2,4-ジメチルビフェニル;3,4-ジメチルビフェニル;及びその混合物の1種以上の異性体から成る群より選択されるアルキルビフェニル化合物に脱水素化するのに有効な条件下で脱水素化する工程;
(d)任意に、前記アルキルビフェニル化合物の少なくとも一部を部分的に水素化し、それによって、(メチルシクロヘキシル)ベンゼンの1種以上の異性体;(ジメチルシクロヘキシル)ベンゼンの1種以上の異性体;及びその混合物から成る群より選択される(アルキルシクロヘキシル)ベンゼンを得る工程;
(e)任意に、前記(アルキルシクロヘキシル)ベンゼンを、トルエン、キシレン、及びその混合物から成る群より選択される追加のアルキルベンゼンでトランスアルキル化し、それによって(アルキルシクロヘキシル)アルキルベンゼンを得る工程;及び
(f)任意に、前記(アルキルシクロヘキシル)アルキルベンゼンの少なくとも一部を脱水素化して、ジメチルビフェニルの1種以上の位置異性体;トリメチルビフェニルの1種以上の異性体;テトラメチルビフェニルの1種以上の異性体;及びその混合物(但し、テトラメチルビフェニルの各異性体は、各フェニル環に2つのメチル基を含有し、トリメチルビフェニルの各位置異性体は、各フェニル環に少なくとも1つのメチル基を含有する)から成る群より選択されるポリアルキルビフェニル化合物を得る工程
を含む、前記プロセス。
21. 前記アルキルベンゼンがキシレンであり;
前記シクロヘキシルアルキルベンゼンが(シクロヘキシル)キシレンであり;かつ
前記アルキルビフェニル化合物が、2,3-ジメチルビフェニル、2,4-ジメチルビフェニル、3,4-ジメチルビフェニル、又は前記のいずれか2つ以上の混合物である、
上記20に記載のプロセス。
22. 前記任意工程(d)、(e)、及び(f)を行なわない、上記21に記載のプロセス。
23. 前記アルキルベンゼンがトルエンであり;
前記シクロヘキシルアルキルベンゼンが(シクロヘキシル)トルエンであり;かつ
前記アルキルビフェニル化合物がメチルビフェニルであり;
前記任意工程(d)、(e)、及び(f)を、前記(アルキルシクロヘキシル)ベンゼンが(メチルシクロヘキシル)ベンゼンの1種以上の異性体を含み;前記追加のアルキルベンゼンがトルエンであり;前記(アルキルシクロヘキシル)アルキルベンゼンが(メチルシクロヘキシル)トルエンの1種以上の異性体を含み;かつ前記ポリアルキルビフェニルがx,y'-ジメチルビフェニルであり、x及びyがそれぞれ独立に2、3、又は4となるように行なう、
上記20に記載のプロセス。
図1