(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441525
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】樹脂組成物用フィラー、フィラー含有スラリー組成物、及びフィラー含有樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08K 9/06 20060101AFI20181210BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20181210BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20181210BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20181210BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20181210BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20181210BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
C08K9/06
C08K3/36
C08L101/00
C01B33/12 B
C09C1/28
H01L23/30 R
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-75757(P2018-75757)
(22)【出願日】2018年4月10日
(65)【公開番号】特開2018-178112(P2018-178112A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-77865(P2017-77865)
(32)【優先日】2017年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】萩本 伸太
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
(72)【発明者】
【氏名】中野 修
【審査官】
大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−007747(JP,A)
【文献】
特開平06−183728(JP,A)
【文献】
特開昭62−007748(JP,A)
【文献】
特開2001−115048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/14
C08K 3/00 − 13/08
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FAU型、FER型、LTA型、MFI型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質粒子材料と、
前記結晶性シリカ質粒子材料の表面と反応乃至付着した有機ケイ素化合物からなる表面処理剤と、
を有する樹脂組成物用フィラーであり、
前記表面処理剤の量は前記樹脂組成物用フィラーが負の熱膨張係数を示す範囲である、実装材料に用いられる樹脂組成物に含有させて用いる樹脂組成物用フィラー。
【請求項2】
FAU型、FER型、LTA型、MFI型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質粒子材料と、
前記結晶性シリカ質粒子材料の表面と反応乃至付着した有機ケイ素化合物からなる表面処理剤と、
を有する樹脂組成物用フィラーであり、
前記表面処理剤の量は前記樹脂組成物用フィラーが負の熱膨張係数を示す範囲であり、
銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、及びニッケルが表面に露出しない、
樹脂組成物に含有させて用いる樹脂組成物用フィラー。
【請求項3】
前記有機ケイ素化合物は、シラザン及び/又はシランカップリング剤から選ばれる何れか1種以上である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物用フィラー。
【請求項4】
全体の質量を基準としてアルミニウム元素の含有量が12%以下である請求項1〜3の何れか1項に記載の樹脂組成物用フィラー。
【請求項5】
前記結晶構造がFAU型である、請求項1〜4の何れか1項に記載の樹脂組成物用フィラー。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の樹脂組成物用フィラーと、前記樹脂組成物用フィラーを分散する樹脂材料と、を有する実装材料用フィラー含有樹脂組成物。
【請求項7】
FAU型、FER型、LTA型、MFI型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質粒子材料と、前記結晶性シリカ質粒子材料の表面と反応乃至付着した有機ケイ素化合物からなる表面処理剤と、をもつ樹脂組成物用フィラーと、
前記樹脂組成物用フィラーを分散する溶媒と、を有するフィラー含有スラリー組成物。
【請求項8】
前記有機ケイ素化合物は、シラザン及び/又はシランカップリング剤から選ばれる何れか1種以上である、請求項7に記載のフィラー含有スラリー組成物。
【請求項9】
全体の質量を基準としてアルミニウム元素の含有量が12%以下である請求項7又は8に記載のフィラー含有スラリー組成物。
【請求項10】
前記結晶構造がFAU型である、請求項7〜9の何れか1項に記載のフィラー含有スラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に含有させて用いる樹脂組成物用フィラー、その樹脂組成物用フィラーを含有するフィラー含有スラリー、及び、その樹脂組成物用フィラーを含有するフィラー含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱膨張係数を調整する等の目的で、プリント配線板や封止材などの実装材料に用いる樹脂組成物にはフィラーとして無機粒子が配合されている。熱膨張係数が低く絶縁性に優れるため、フィラーとしては主に非晶質シリカ粒子が広く用いられている。
【0003】
近年、電子機器の高機能化の要求に伴い、半導体パッケージのさらなる薄型化、高密度化が進んでおり、半導体パッケージの熱膨張や反りが信頼性に及ぼす影響がより大きくなっている。よって、プリント配線板や封止材に用いる樹脂組成物の硬化物の熱膨張係数を低くして熱膨張や反りを低減する検討が行われている。(特許文献1など)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5192259号公報
【特許文献2】特開2015−214440号公報
【特許文献3】特許第4766852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑み樹脂組成物に含有させることで熱膨張率を低下させることが可能になる樹脂組成物用フィラーを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、非晶質シリカより熱膨張係数の低い、熱をかけると収縮する負の熱膨張係数を持つ材料をフィラー材料に応用する研究を行った。負の熱膨張係数を有する材料としては、β-ユークリプライト(LiAlSiO
4)やタングステン酸ジルコニウム(ZrW
2O
8)からなる粒子が挙げられる(特許文献2、3)。しかし、β-ユークリプタイトは主要構成元素としてLiを含有しており、Liイオンが拡散して絶縁性を低下させるため、電気的特性が充分で無い問題がある。タングステン酸ジルコニウムは様々な研究がなされているが、合成にかかる時間やコストが大きく、実験室レベルで製造した報告は多いが、工業的に製造する方法は確立されていない。
【0007】
次にシリカ質材料のうちFAU型、FER型、LTA型、MFI型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料は、負の熱膨張係数を有しているが、樹脂材料中に分散させるとその樹脂材料の黄変を促進させることが明らかになった。
【0008】
黄変促進について検討した結果、これらの結晶性シリカ質材料に含まれるアルミニウム元素に由来するヒドロキシ基が活性点となって樹脂に作用していることが分かった。そこで、結晶性シリカ質材料に対して有機ケイ素化合物からなる表面処理剤にて処理を行うことで、樹脂材料黄変の一因であるアルミニウム元素由来の活性点を失活させることが可能になり黄変を抑制できることを見出した。そして黄変を抑制できる程度にまで表面処理剤由来の層が表面に形成されても熱膨張係数を負の範囲に保つことも可能であった。
【0009】
本発明は上記知見に基づき完成したものであり、上記課題を解決する本発明の樹脂組成物用フィラーは、FAU型、FER型、LTA型、MFI型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ結晶性シリカ質粒子材料と、
前記結晶性シリカ質粒子材料の表面と反応乃至付着した有機ケイ素化合物からなる表面処理剤と、
を有するフィラー材料であり、
前記表面処理剤の量は、前記フィラー材料が負の熱膨張係数を示す範囲である樹脂組成物に含有させて用いるものである。
【0010】
ここで、前記有機ケイ素化合物としては、シラザン及び/又はシランカップリング剤から選ばれる何れか1種以上であることが好ましい。これらを表面処理剤として採用すると効果的に黄変が抑制できる。
【0011】
更に、全体の質量を基準としてアルミニウム元素の含有量が12%以下であることが好ましい。黄変の元になるアルミニウム元素の元々の含有量を減らすことで黄変を効果的に抑制できる。
【0012】
また、FAU型である結晶性シリカ質材料は高い負の熱膨張係数を有しており、熱膨張を抑制する目的には好適である。
【0013】
これらの樹脂組成物用フィラーは、電子部品の実装材料に用いられる樹脂組成物に含有させて用いられることが好ましい。樹脂組成物の熱膨張係数が大きいと、面方向の熱膨張によりはんだ接続にクラックが生じたり、厚み方向の熱膨張によりプリント配線板の層間に導通不良が生じたりする。また、各部材の熱膨張係数の差が大きいことで、半導体パッケージの反りが発生しやすくなる。熱膨張係数を下げることでこれらの不具合の発生を抑制することができる。また、本発明の樹脂組成物用フィラーを用いれば、正の熱膨張係数を持つ従来のフィラーのみを用いる場合と比べて少ないフィラー配合割合で所望の熱膨張係数を達成できるため、樹脂含有割合が高く、接着性や硬化後または半硬化後の機械加工性が良好な樹脂組成物を得ることも期待できる。
【0014】
そして、本発明の樹脂組成物用フィラーは、その樹脂組成物用フィラーを分散する溶媒と組み合わされてフィラー含有スラリー組成物として用いたり、その樹脂組成物用フィラーを分散する樹脂材料と組み合わされてフィラー含有樹脂組成物として用いたりすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂組成物用フィラーは、上記構成を有することから負の熱膨張係数を有し且つ樹脂への悪影響が少ないといった効果をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の結晶性シリカ質粒子材料の結晶骨格構造を示す図である。
【
図2】実施例において試験例2の樹脂組成物用フィラーについて測定した熱膨張を測定した図である。
【
図3】実施例において試験例6の樹脂組成物用フィラーについて測定した熱膨張を測定した図である。
【
図4】実施例において試験例7の樹脂組成物用フィラーについて測定した熱膨張を測定した図である。
【
図5】実施例において試験例8の樹脂組成物用フィラーについて測定した熱膨張を示す図である。
【
図6】実施例において試験例13の樹脂組成物用フィラーについて測定した熱膨張を測定した図である。
【
図7】実施例において試験例2、8、13の樹脂組成物用フィラーを混合した樹脂組成物の熱膨張を測定した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の樹脂組成物用フィラーは、熱膨張係数をできるだけ小さくすることを目的としており、樹脂組成物に含有させることで得られた樹脂組成物の熱膨張係数を小さくすることが可能になる。以下、本発明の樹脂組成物用フィラーについて実施形態に基づき詳細に説明を行う。
【0018】
本実施形態の樹脂組成物用フィラーは、樹脂材料中に分散して樹脂組成物を形成するために用いる。組み合わせられる樹脂材料としては特に限定しないが、エポキシ樹脂・フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂(硬化前のものも含む)、ポリエステル・アクリル樹脂・ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂が例示できる。更に本実施形態の樹脂組成物用フィラー以外のフィラー(粉粒体、繊維状などの形態を問わない)を含有していても良い。例えば、非晶質シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭素材料などの無機物や、フィラーを分散させるマトリクスとしての樹脂材料以外の樹脂材料(繊維状のものや粒子状のもの)からなる有機材料(マトリクスとしての樹脂材料と厳密に区別する必要は無いし、区別することも困難である)を含有させることもできる。樹脂材料や他のフィラーが、正の熱膨張係数を有していたとしても本実施形態の樹脂組成物用フィラーが負の熱膨張係数を有していることにより製造された樹脂組成物についての熱膨張係数を小さくすることができる。
本実施形態の樹脂組成物用フィラーは、銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、及びニッケルが表面に露出しないことが好ましい。これら金属が表面に露出すると、本実施形態の樹脂組成物用フィラーを充填した樹脂組成物が液体に接触したときに不純物として溶け出すおそれがあるためである。
【0019】
本実施形態の樹脂組成物用フィラーを含有させる割合としては特に限定しないが、多くすることで最終的に得られる樹脂組成物の熱膨張係数を小さくすることができる。例えば、樹脂組成物全体の質量を基準として5%〜85%程度の含有量とすることができる。
【0020】
本実施形態の樹脂組成物用フィラーを樹脂材料中に分散させる方法としては特に限定されず、樹脂組成物用フィラーを乾燥状態で混合したり、何らかの溶媒を分散媒としてその中に分散させてスラリーとした後に樹脂材料に混合したりしても良い。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物用フィラーは、結晶性シリカ質粒子材料と、その結晶性シリカ質粒子材料を表面処理する表面処理剤とを有する。結晶性シリカ質粒子材料は、FAU型、FER型、LTA型、MFI型、及び/又はMWW型からなる結晶構造をもつ。これらの結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料は負の熱膨張係数をもつ。特にFAU型であることが好ましい。なお、結晶性シリカ質粒子材料は、全てこれらの結晶構造をもつことは必須ではなく全体の質量を基準として50%以上(好ましくは80%以上)がこれらの結晶構造を有するものであれば良い。ここでアルファベット3つで表される型の結晶骨格構造を
図1に示す。
【0022】
結晶性シリカ質粒子材料の粒度分布や粒子形状は、樹脂組成物中に含有させたときに必要な性質を発現できる程度にする。例えば、得られる樹脂組成物が半導体封止材に用いられる場合には、その半導体封止材を侵入させる隙間よりも大きい粒径をもつものは含有しないことが好ましい。具体的には0.5μm〜50μm程度とすることが好ましく、100μm以上の粗大粒子が実質的に含有しないことが好ましい。また、樹脂組成物が例えばプリント配線板に用いられる場合には、その絶縁層の厚みよりも大きい粒径をもつものは含有しないことが好ましい。具体的には、0.2μm〜5μm程度とすることが好ましく、10μm以上の粗大粒子が実質的に含有しないことが好ましい。また、粒子形状は、アスペクト比が低いものであることが好ましく、球状であることがより好ましい。
【0023】
結晶性シリカ質粒子材料は、対応する結晶構造をもつ結晶性シリカ質材料を原料として粉砕・分級・造粒・混合などの操作を単独乃至組み合わせて行うことで製造することができる。各操作において適正な条件を採用し、適正な回数を行うことで必要な粒度分布や粒子形状のものを得ることができる。原料とする結晶性シリカ質材料自身については通常の方法(例えば水熱合成法)にて合成可能である。
【0024】
結晶性シリカ質粒子材料は、アルミニウム元素の含有量が全体の質量を基準として12%以下であることが好ましく、8%以下、4%以下であることが更に好ましい。なお、結晶性シリカ質粒子材料中に含まれるアルミニウムは0%に近い方が好ましいものと推測されるが、現状では不可避的に含有されることが多い。
【0025】
表面処理剤は、有機ケイ素化合物からなる。有機ケイ素化合物からなる表面処理剤が表面に反応乃至付着することにより黄変を促進する活性点が樹脂に接触することを防止できる。特に、シラン化合物とすることが好ましく、更には、シラン化合物の中でもシランカップリング剤、シラザン類とすることで、結晶性シリカ質粒子材料の表面と強固に結合させることが可能になる。シラン化合物としては、結晶性シリカ質粒子材料の黄変の活性点を遮蔽することができることに加え、混合する樹脂材料との間の親和性を向上するために、樹脂材料への親和性が高い官能基を有するものを採用することができる。
【0026】
シラン化合物としては、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、アクリル基、アルキル基を有する化合物が好ましい。シラン化合物の中でもシラザン類としては、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンが例示できる。
【0027】
結晶性シリカ質粒子材料に対して表面処理剤にて処理を行う条件としては特に限定しない。例えば、結晶性シリカ質粒子材料を理想球体と仮定して平均粒子径から算出した表面積を基準として、表面処理剤にて被覆される面積(表面処理剤の分子の大きさと処理量とから算出した値。表面処理剤は結晶性シリカ質粒子材料の表面に一層で付着乃至反応すると仮定する)が50%以上(更には60%以上、80%以上)とすることができる。他の基準として結晶性シリカ質粒子材料の表面に存在するアルミニウム元素の量に応じた量にすることができる(例えば、表面に存在するアルミニウム元素に対して過剰量としたり、黄変の抑制が認められる程度の量としたりすることができる)。更に、表面処理剤の量の上限としては多い方が樹脂への悪影響を抑制できるが、あまりに多いと本実施形態の樹脂組成物用フィラーとして負の熱膨張係数を示さなくなるおそれがあることから、表面処理剤の量の上限としては本実施形態の樹脂組成物用フィラーが負の熱膨張係数を示す範囲とする。
【0028】
結晶性シリカ質粒子材料に対して行う表面処理はどのように行っても良い。表面処理剤をそのまま接触させたり、表面処理剤を何らかの溶媒に溶解させた溶液を接触させたりして結晶性シリカ質粒子材料の表面に表面処理剤を付着させることができる。付着した表面処理剤は、加熱するなどして反応を促進させることもできる。
【実施例】
【0029】
・樹脂の酸化の評価
表1の物性の結晶性シリカ質粒子材料A〜Dに対し、表2の組成となるようにシラザン及びシランカップリング剤を添加した。その後、粉体混合用ミキサーを用いて混合した後、乾燥して表面処理を完了し本試験例1〜13の樹脂組成物用フィラーを得た。作製した各試験例の樹脂組成物用フィラーを、フィラー充填率25質量%となるように樹脂材料としての液状エポキシ樹脂(ビスフェノールA:ビスフェノールF=50:50)に混合し、混合物を25°Cで24時間保持した。保持後の樹脂の酸化度合を混合物の色相の変化で評価した。赤変したものを「不可」、黄〜赤変したが程度の軽いものを「可」、変化が見られないものを「良」とした。結果を表2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表2より明らかなように、結晶性のシリカ質粒子材料(シリカ質粒子材料A〜D)である試験例9〜12をフィラーとして用いた場合に樹脂の酸化が認められているのに対して(評価:不可)、非晶質のシリカ質粒子材料(シリカ質粒子材料E)である試験例13をフィラーとして用いた場合には樹脂の酸化が認められないことから(評価:良)結晶性のシリカ質粒子材料を採用すると樹脂の酸化が進行することが明らかになった。
【0033】
このようなそのままでは樹脂の酸化を進行させるシリカ質粒子材料A〜Dについてもシラン化合物からなる表面処理剤にて表面処理を行い本発明の樹脂組成物用フィラーに当てはまるフィラーとすることで樹脂の酸化を抑制できることが明らかになった。なお、シリカ質粒子材料C(試験例7)と比較してシリカ質粒子材料A、B、D(試験例2、6、8)については表面処理剤にて表面処理を行うことで更に樹脂の酸化を効果的に抑制できていることからアルミニウムの含有量が少ない方が樹脂の酸化を抑制できることが分かった。
【0034】
・熱膨張係数の評価
試験例2、6、7、8、及び13の樹脂組成物用フィラーについて、熱膨張係数の評価を行った。それぞれの樹脂組成物用フィラーを、SPS焼結機を用いて800°C1時間で焼結させ、熱膨張測定用の試験片を作製した。各試験片の熱膨張率を測定した。測定装置は、TMA-Q400EM(TA Instruments製)、測定温度は、-50°C〜250°Cの範囲で測定した。結果を
図2〜6に示す。また、
図2〜6から算出した熱膨張係数の平均値を表2に示す。
【0035】
図2〜6より明らかなように、試験例13(非晶質シリカ)では熱膨張係数が正の値であるのに対し、試験例2、6、7、8は、いずれも負の熱膨張係数を示した。また、MFI型結晶構造(試験例8)よりもFAU型結晶構造(試験例2、6、7)がより大きな負の熱膨張係数を示した。MFI型では100°C以上の高温で負の熱膨張係数が大きくなった。また、Al含有量が少ないほどより大きな負の熱膨張係数を示す傾向があった。
【0036】
・樹脂組成物の熱膨張係数の評価
次に、試験例2、8、及び13の樹脂組成物用フィラーについて、実際に樹脂組成物を調製したときの熱膨張係数を評価した。それぞれの試験例の樹脂組成物用フィラーをフィラー充填率37.5質量%となるように、樹脂材料としての液状エポキシ樹脂(ビスフェノールA:ビスフェノールF=50:50)とアミン系硬化剤を用いて樹脂硬化物を作製し、熱膨張率測定用試験片とした。これらの各試験片の熱膨張率を測定した。結果を
図7に示す。
【0037】
図7より明らかなように、樹脂材料単独の樹脂硬化物の熱膨張に対し、それぞれの試験例の樹脂組成物用フィラーを配合することにより熱膨張が抑えられることが分かった。特に試験例13の樹脂組成物用フィラーを混合した樹脂組成物に対して試験例2、8の樹脂組成物用フィラーを混合した樹脂組成物はいずれも大幅に樹脂硬化物の熱膨張係数を抑制できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の樹脂組成物用フィラーは負の熱膨張係数を有する。そのために正の熱膨張係数を示す樹脂材料と混合することで、樹脂材料の正の熱膨張係数を相殺乃至は低減させることが可能になる。その結果、熱膨張係数が小さく、熱的特性に優れた樹脂組成物を得ることができる。