(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案されている駆除剤は、天然成分からなるがゆえにダニ等の生物に対する繁殖抑制効果が小さく、また、駆除剤が有する香料成分が巣脾に吸着するということが懸念されている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、安全性が高く、ダニの発生及び繁殖を効果的に抑制することが可能であり、ミツバチの飼育性に優れる養蜂部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の金属粒子を防ダニ成分として含有させることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.白金粒子と、白金以外の金属粒子とを含む防ダニ成分を含有する、養蜂部材。
項2.前記金属粒子が銀粒子、銅粒子、ニッケル粒子及び亜鉛粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、上記項1に記載の養蜂部材。
項3.前記金属粒子が銀粒子及び銅粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、上記項1又は2に記載の養蜂部材。
項4.前記白金粒子及び前記金属粒子の平均粒子径が0.1〜1000nmである、上記項1〜3のいずれか1項に記載の養蜂部材。
項5.前記防ダニ成分は表面に担持されている、上記項1〜4のいずれか1項に記載の養蜂部材。
項6.上記項1〜5のいずれか1項に記載の養蜂部材の製造方法であって、
白金粒子と、白金以外の金属粒子とを含む液体状の防ダニ剤に基材を浸漬させる工程を具備する、養蜂部材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る養蜂部材は、安全性が高く、蜜蜂の育成を阻害することなく、ダニの発生及び繁殖を効果的に抑制することが可能であり、ミツバチの飼育性に優れる。
【0009】
本発明に係る養蜂部材の製造方法は、上記養蜂部材を製造するのに適した方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本実施形態の養蜂部材は、白金粒子と、白金以外の金属粒子とを含む防ダニ成分を含有する。当該養蜂部材は、上記防ダニ成分を含有して構成されているので、安全性が高く、蜜蜂の育成を阻害することなく、ダニの発生及び繁殖を効果的に抑制することが可能であり、ミツバチの飼育性に優れる。
【0013】
上記養蜂部材は、蜂の巣状、すなわち、ハニカム状に形成された部材を基材とすることができる。基材の種類は特に制限されない。白金粒子及び前記金属粒子がより担持しやすいという観点から、基材は樹脂で形成されていることが好ましい。
【0014】
基材を構成する樹脂は特に限定されない。また、樹脂以外の材料で基材が構成されていてもよく、例えば、綿、毛、麻等が例示される。
【0015】
基材の形状は特に限定されず、例えば、一般的に養蜂部材として使用されている公知の形状が採用され得る。
【0016】
防ダニ成分は、白金粒子と、白金以外の金属粒子とを含む。以下、上記の「白金以外の金属粒子」を単に「金属粒子」と略記することがある。
【0017】
白金粒子は、白金(Pt)で構成される粒子である。白金粒子としては、通常は、白金元素で形成されるが、白金の酸化物が含まれていてもよい。その他、白金粒子は、白金と他の金属元素との合金が含まれていてもよい。
【0018】
上記金属粒子は、特に限定されないが、銀粒子、銅粒子、ニッケル粒子及び亜鉛粒子のからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合、毒性が低い上に防ダニ性能に優れるので、ダニの発生を防止又は除去する効果が大きくなる。
【0019】
金属粒子は、白金粒子と同様、通常は、例えば、銀粒子、銅粒子、ニッケル粒子及び亜鉛粒子のからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素で形成されるが、該金属元素の酸化物が含まれていてもよい。その他、上記金属粒子は、前記金属元素と他の金属元素で構成さされる合金が含まれていてもよい。
【0020】
上記金属粒子は、例えば、銀粒子、銅粒子、ニッケル粒子及び亜鉛粒子のうちの1種のみで構成されていてもよいし、あるいは、2種以上を含んで構成されていてもよい。
【0021】
上記金属粒子としては、銀粒子及び銅粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、特に防ダニ性能に優れるので、ダニの発生を防止又は除去する効果がよりいっそう大きくなる。また、上記金属粒子としては、銀粒子であることが特に好ましい。この場合、優れた防ダニ性能に加え、安全性の高い金属粒子を使用し、かつ極めて低濃度で上記効果を発現するため、一般的に他の防ダニ剤が有するような毒性、刺激性等が極めて低くなる。
【0022】
白金粒子及び前記金属粒子の平均粒子径は特に限定的ではなく、例えば、0.1nm以上、また例えば、1000nm以下のナノ粒子とすることができる。この場合、防ダニ性能の効果が発揮されやすくなり、また、白金粒子及び前記金属粒子が上記基材に担持されやすくなる。また、当該粒子径が0.1nm以上であることで、これら金属の微粒子化をさせやすく、当該粒子径が1000nm以下であることで、液剤とする場合に、基材に担持させるための水分散液作製工程で金属粒子の沈降を抑制しやすく、ハンドリング等が容易となる。なお、ここでいう白金粒子及び前記金属粒子の平均粒子径とは、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で測定した結果をいう。
【0023】
白金粒子及び前記金属粒子の形状は特に限定的ではなく、球状粒子、多角状粒子、繊維状粒子、針状粒子、フレーク状粒子、多孔質粒子等が例示される。なお、白金粒子及び前記金属粒子は、凝集した状態であってもよい。
【0024】
上記防ダニ成分において、白金粒子及び上記金属粒子の含有量は制限されない。防ダニ成分の防ダニ性能がより高まるという観点から、白金粒子及び上記金属粒子の含有割合は、白金粒子と上記金属粒子との質量合計を100とした場合、白金粒子は、例えば5以上、好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、特に好ましくは30以上であり、また例えば、白金粒子は、95以下、好ましくは90以下、更に好ましくは80以下、特に好ましくは70以下である。
【0025】
本実施形態の養蜂部材において、前記防ダニ成分は表面に担持されていることが好ましい。防ダニ成分の前記基材に対する担持量に制限はないが、例えば、1ng/g以上、好ましくは10ng/g以上、より好ましくは100ng/g以上である。また、防ダニ成分の前記基材への担持量は、1000000ng/g以下、好ましくは100000ng/g以下、より好ましくは10000ng/g以下である。防ダニ成分の前記基材への担持量が1ng/g以上であれば十分な防ダニ効果が得られ、また、1000000ng/g以下であれば経済的にも有利である。なお、本明細書でいう基材への担持量(ng/g)とは、白金粒子の担持量(ng/g)と前記金属粒子の担持量(ng/g)との総担持量を示す。
【0026】
なお、防ダニ成分は、必ずしも基材の表面に担持されている必要はなく、例えば、基材の内部に均一又は偏在して含まれていてもよい。
【0027】
本実施形態の養蜂部材では、本発明の効果が阻害されない程度であれば、その他の材料が添加されていてもよい。その他の材料としては、例えば、防ダニ成分以外で構成される金属粒子、その他、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、防藻剤、防カビ剤等が例示される。
【0028】
本実施形態の養蜂部材を製造する方法は、特に限定されない。
【0029】
例えば、上記防ダニ成分を含む防ダニ剤を使用して、防ダニ成分を基材に含ませることで、養蜂部材を製造することができる。
【0030】
防ダニ剤が水溶液又は分散液であれば、白金粒子と、白金以外の金属粒子とを含む液体状の防ダニ剤に基材を浸漬させる工程を具備することで、養蜂部材を製造することができる。以下、この工程を「浸漬工程」と略記することがある。
【0031】
この場合の防ダニ剤は、白金粒子と、上記金属粒子とを含み、さらに、溶媒を含み得る。溶媒は、水、低級アルコール(例えば、炭素数1〜4のアルコール)、あるいは、これらの混合溶媒が例示され、その種類は特に限定されない。また、防ダニ剤を製造する方法も特に限定されず、白金粒子、前記金属粒子及び媒体を準備し、これらを所定の配合量で混合させることで、防ダニ剤を調製することができる。この防ダニ剤を調製するにあたり、適宜、市販の混合機や分散機を使用してもよい。また、このような防ダニ剤の場合、白金粒子及び前記金属粒子の合計の配合量は、媒体100質量部に対して、0.00001質量部以上、好ましくは0.0001質量部以上、更に好ましくは0.001質量部以上であり、また例えば50質量部以下、好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下とすることができる。この場合、白金粒子と前記金属粒子との混合比(白金粒子の質量:金属粒子の質量)は、白金粒子と上記金属粒子との質量合計を100とした場合、白金粒子は、例えば5以上、好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、特に好ましくは30以上であり、また例えば、95以下、好ましくは90以下、更に好ましくは80以下、特に好ましくは70以下である。
【0032】
上記浸漬工程では、前記基材を前記防ダニ剤に浸漬させた状態において、マイクロ波を照射することにより、前記基材に防ダニ成分を担持させてもよい。このようにマイクロ波を照射することで、比較的短時間で均一的にコーティングでき、基材への防ダニ成分の担持がより強固になり、バインダーを使用せずとも基材に防ダニ成分を担持させることが可能となる。これにより、得られる養蜂部材がより優れた防ダニ効果を発揮することが可能になる。しかも、基材への防ダニ成分(白金粒子及び前記金属粒子)の担持がより強固になることで、金属元素の外部への溶出もさらに抑制されるという利点もある。
【0033】
マイクロ波を照射する場合、照射強度は、0.005〜0.1W/cm
3とすることができる。マイクロ波の照射は、例えば、市販のマイクロ波照射装置を使用してもよいし、あるいは、電子レンジを使用してもよい。また、マイクロ波を照射するにあたっては、適宜、加熱を行ってもよい。マイクロ波の照射時間は、マイクロ波の照射強度に応じて適宜設定すればよく、例えば、0.1〜60分とすることができる。
【0034】
浸漬工程の後は、基材を防ダニ剤から引き上げ、乾燥等の処理を行うことで、防ダニ剤が含まれる養蜂部材が得られる。
【0035】
養蜂部材を製造する方法は特に上記方法に限定されず、例えば、基材に防ダニ剤を噴霧させる方法、基材に防ダニ剤を塗布させる方法、あるいは、基材を構成する材料と防ダニ剤とを混錬させる方法等によっても養蜂部材を製造することができる。基材に防ダニ剤を噴霧させる方法又は基材に防ダニ剤を塗布させる方法の場合にあっても、噴霧又は塗布等して防ダニ剤の被膜を形成した後に、上記同様にマイクロ波を照射することができる。これにより、前記基材に防ダニ成分が担持される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0037】
(調製例1)白金粒子分散液の調製
0.212gの塩化白金酸カリウム(K
2PtCl
4)を50mLの純水に溶解して、塩化白金酸カリウム水溶液を調製した。別途、0.129gのクエン酸ナトリウムを50mLの純水に溶解して0.01mol/Lのクエン酸ナトリウム水溶液を、また、0.881gのアスコルビン酸を50mLの純水に溶解して0.1mol/Lのアスコルビン酸水溶液をそれぞれ調製した。上記の塩化白金酸カリウム水溶液50mLを850mLの純水に加えた後、さらに0.01mol/Lクエン酸ナトリウム水溶液50mLと0.1mol/Lアスコルビン酸水溶液50mLをそれぞれ加え、約5分間100rpmで撹拌して反応させた。次にイオン交換膜処理を行い、白金粒子分散液中のイオン性の不純物を除去して、白金粒子を含むコロイド溶液を得た。ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で測定した白金粒子の粒子径は130nmであった。また、TEM/EDS(HITACHI H−7100、加速電圧100kV)にて測定した白金粒子中の白金の純度は100%であった。
【0038】
上記方法で得られた分散液の白金濃度をICP−MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認し、更に水で希釈して、白金粒子濃度が100mg/Lの分散液(分散液1)を得た。
【0039】
(調製例2)銀粒子分散液の調製
0.157gの硝酸銀(AgNO
3)を50mLの純水に溶解して硝酸銀水溶液を調製した。別途、10wt%のアンモニア水を、また、0.881gのアスコルビン酸を50mLの純水に溶解して0.1mol/Lのアスコルビン酸水溶液をそれぞれ調製した。上記の0.01mol/L硝酸銀水溶液50mLを900mLの純水に加えた後、10wt%のアンモニア水でpH11に調整した。さらに0.1mol/L、アスコルビン酸水溶液1mLを加え、約5分間100rpmで撹拌して反応させた。次にイオン交換膜処理を行い、銀粒子分散液中のイオン性の不純物を除去して、銀粒子を含むコロイド溶液を得た。ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS90、Malvern社製)で測定した粒子径は130nmであった。また、TEM/EDS(HITACHI H-7100、加速電圧100kV)にて測定した銀粒子中の銀の純度は100%であった。
【0040】
上記方法で得られた分散液の銀濃度をICP−MS(パーキンエルマー社製ElanDRCII)で確認し、更に水で希釈して、銀粒子濃度が100mg/Lの分散液(分散液2)を得た。
【0041】
(調製例3)
調製例1及び調製例2で得られた分散液1及び分散液2をそれぞれ、白金:銀の量が70:30(計100ppm)となるように混合することで、後述する実施例で使用するための防ダニ剤を得た。
【0042】
(実施例1)
PLA(ポリ乳酸樹脂)製ハニカム(クニムネ社製)を、調製例3の防ダニ剤(白金粒子と銀粒子の混合分散液)に浸漬することで、白金粒子及び銀粒子を担持するPLA製ハニカムを養蜂部材として得た。得られた養蜂部材の白金の担持量は640ng/g、銀の担持量は215ng/gであった。なお、白金と銀の担持量は硫酸灰化法に従い測定した。具体的には、(1)試料に硫酸を添加し、炭化および灰化を実施し、(2)王水溶解、(3)灰化後、王水を加え、溶解処理を実施し、(4)パーキンエルマー社製ElanDRCIIを使用して、得られた溶液の金属量を計測した。
【0043】
得られた養蜂部材をアクリル製ケージ(幅40cm、奥行10cm、高さ20cm)内に設置し、ミツバチヘギイタダニを5匹入れ、インキュベーター(パナソニック社製)にて30℃、70%湿度の条件に調整して飼育をした。飼育してから2時間、4時間、6時間及び24時間後にミツバチヘギイタダニの生存率を測定した。この操作を反復6回行って生存率の平均値を算出した。
【0044】
図1は、飼育時間とミツバチヘギイタダニの生存数との関係を示している。また、比較として、未処理のPLA製ハニカム、すなわち、白金粒子及び銀粒子を担持していないハニカム(以下、「ブランク巣脾」という)についても養蜂部材と同様の試験をした結果を合わせて示している(
図1棒グラフの各経過時間において、左側棒グラフが養蜂部材の生存ダニ数、右側棒グラフがブランク巣脾生存ダニ数を示している)。
【0045】
この結果から、養蜂部材ではブランク巣脾と比べると、飼育時間の経過に伴ってミツバチヘギイタダニの生存数が減少していることが認められる。よって、白金粒子と銀粒子を含む殺ダニ組成物で処理されたハニカムは、殺ダニ効果及び防ダニ効果を有しているといえる。
【0046】
(実施例2)
実施例1で得た養蜂部材と、ブランク巣脾とをアクリル製ケージ(幅40cm、奥行10cm、高さ20cm)内に設置し、ミツバチヘギイタダニを10匹入れ、インキュベーター(パナソニック社製)にて30℃、70%湿度の条件に調整して飼育をした。飼育してから2時間、4時間、6時間及び24時間後にミツバチヘギイタダニがいずれの巣脾に存在しているかを確認した。この操作を反復6回行ってミツバチヘギイタダニの各々の巣脾における存在数の平均値を算出した。
【0047】
図2は、飼育時間とミツバチヘギイタダニの生存数との関係を示している(
図2棒グラフの各経過時間において、左側棒グラフが養蜂部材の生存ダニ数、右側棒グラフがブランク巣脾生存ダニ数を示している)。
【0048】
この結果から、飼育時間の経過と共に、養蜂部材におけるミツバチヘギイタダニの生存数はブランク巣脾に比べて大きな減少がみられることがわかる。よって、白金粒子と銀粒子を含む殺ダニ組成物で処理されたハニカムは、ダニに対する忌避効果を有しているといえる。
【0049】
(実施例3)
実施例1で得られた養蜂部材をアクリル製ケージ(幅40cm、奥行10cm、高さ20cm)内に設置し、セイヨウミツバチの働き蜂成虫を30匹入れ、インキュベーター(パナソニック社製)にて27℃、70%湿度の条件に調整して飼育をした。飼育してから12時間、24時間、その後は2日(48時間)間隔で働き蜂の生存率を計測した。この操作を反復6回行って働き蜂の生存率を評価した。また、比較として、一般に市販されている巣脾(防ダニ処理なし、以下、「ブランク巣脾」という)についても上記養蜂部材と同様の試験を行った。
【0050】
図3には、上記働き蜂の時間変化に伴う生存率を示している。この結果から、本実施形態の養蜂部材では、働き蜂の生存率は一般の巣脾(防ダニ処理なし)と変わらない生存率であり、蜜蜂の生育が阻害されていないことがわかる。