特許第6441563号(P6441563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441563
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】中性子反射体及び原子炉
(51)【国際特許分類】
   G21C 5/00 20060101AFI20181210BHJP
   G21C 5/12 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   G21C5/00 C
   G21C5/12
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-221537(P2013-221537)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-81904(P2015-81904A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年7月19日
【審判番号】不服2018-1381(P2018-1381/J1)
【審判請求日】2018年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土谷 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】深津 遼平
(72)【発明者】
【氏名】野尻 敬午
【合議体】
【審判長】 森 竜介
【審判官】 西村 直史
【審判官】 山村 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−72087(JP,A)
【文献】 特開昭59−60390(JP,A)
【文献】 特開2002−296387(JP,A)
【文献】 特開平3−2695(JP,A)
【文献】 特開平3−194498(JP,A)
【文献】 特表2006−510900(JP,A)
【文献】 河村弘 外6名、ベリリウム中のトリチウム挙動実験(1)中性子照射キャプセルの作成、JAERI−Mレポート、日本、1989.06.発行、89−073、http://dx.doi.org/10.11484/jaeri−m−89−073
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C5/00, 5/12
G21B1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベリリウムバルク体と、
前記ベリリウムバルク体の表面に設けられ、冷却水と接触する、Al、Al23、AlN、Si、SiO2、Si34、SiCからなる群より選ばれる1以上で構成された表面層と、
を備えた中性子反射体。
【請求項2】
前記表面層は、単層である、請求項1に記載の中性子反射体。
【請求項3】
前記表面層は、アルミニウムである、請求項1又は2に記載の中性子反射体。
【請求項4】
前記表面層は、10μm以上1000μm以下の厚さである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の中性子反射体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の中性子反射体をベリリウム反射体要素及びベリリウムH形枠のうちの少なくとも一方として備えた、原子炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子反射体及び原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
ベリリウムは、中性子吸収断面積が小さいという特性や、中性子散乱断面積が大きいという特性を有しており、こうした特性を利用した種々の用途が知られている(特許文献1〜3)。例えば、特許文献1では、原子炉の反射体要素にベリリウムを用いたものが記載されている。特許文献1の反射体要素は、筐体の外壁とキャプセル装荷用のパイプとの間の空隙にベリリウムの小球体を充填した、材料試験炉用の反射体要素であり、中性子束の密度が均一な領域を拡大することができるとしている。また、特許文献2では、原子炉の反射体要素などを固定するH形枠にベリリウムを用いたものが記載されている。また、特許文献3では、核融合装置のブランケットにベリリウムを用いたものが記載されている。特許文献3のブランケットは、例えば、リチウム含有セラミックス製のトリチウム増殖ペブル及びベリリウム製の中性子増倍ペブルを備え、トリチウム増殖ペブルおよび中性子増倍ペブルの少なくとも一方にアルミナコーティングが施されている。この施工により、高温で反応し易いトリチウム増殖ペブルと中性子増倍ペブルとの直接的接触を避けることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−296386号公報
【特許文献2】特開2002−22885号公報
【特許文献3】特開平5−288874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベリリウムは、中性子が照射されると、副反応として式(1)に示す反応が生じ、9Beから3H(トリチウム)を生成する。このトリチウムは、水を構成する軽水(1H)と容易に置換される。このため、周囲が冷却水で満たされた状態で中性子が照射される反射体要素やH形枠などにベリリウムを用いると、周囲の冷却水に生成されたトリチウムが放出され、原子炉の運転とともに冷却水中のトリチウム濃度が上昇するという問題がある(図6参照)。一方、ある程度使用した冷却水は新たな冷却水と入れ替える。この入れ替えに際し、使用済の冷却水が外部へ排出されるときには、トリチウムの濃度を低下させる処理を行ってから排出されるが、処理の負担を低減するためには冷却水に含まれるトリチウムの量が少ないことが好ましい。このため、ベリリウムを用いた反射体要素やH形枠などの中性子反射体において、トリチウムの放出を抑制することが望まれていた。
9Be(n,α)6He→β崩壊→6Li(n,α)3H ・・・(1)
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、トリチウムの冷却水への放出を抑制することのできる中性子反射体及び原子炉を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の中性子反射体及び原子炉は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の中性子反射体は、
ベリリウムバルク体と、
前記ベリリウムバルク体の表面に設けられ、Al、Al23、AlN、Si、SiO2、Si34、SiCからなる群より選ばれる1以上で構成された表面層と、
を備えたものである。
【0008】
この中性子反射体では、ベリリウムバルク体の表面に、トリチウムを透過しにくい(水素透過係数が小さい)材質で構成された表面層が形成されている。このため、ベリリウムバルク材と冷却水が直接接触しないことから、トリチウムと軽水との置換反応が抑制されるとともに、トリチウムは表面層を透過することができず、中性子反射体の外部への放出がしにくくなる。一方、表面層は、中性子吸収断面積が小さい材質で構成されている。このため、中性子の移動を阻害しにくい。また、表面層は、ベリリウムと同様に中性子の速度を減衰させる効率の高い軽元素で構成されている。このため、中性子の速度を効率よく減衰させることができる。さらに、表面層は、水やベリリウムとの反応性が小さい材質で構成されている。このため、冷却水との接触やベリリウムバルク体との接触によって変質することがない。したがって、本発明の中性子反射体では、中性子反射体としてのベリリウムの機能を大きく低下させることなく、トリチウムの冷却水への放出を抑制することができる。
【0009】
この中性子反射体において、前記表面層は、アルミニウムであることが好ましい。アルミニウムは、水素透過係数が特に小さく、トリチウムの冷却水への放出をより抑制することができるからである。
【0010】
この中性子反射体において、前記表面層は、10μm以上1000μm以下の厚さであることが好ましい。表面層が10μm以上であれば、均一な表面層を形成することが容易であるとともに、核反応のエネルギーで移動する反跳のトリチウムを停止でき、1000μm以下であれば、中性子の移動をより阻害しにくい。
【0011】
本発明の原子炉は、上述した中性子反射体をベリリウム反射体要素及びベリリウムH形枠のうちの少なくとも一方として備えたものである。こうした原子炉では、冷却水中へのトリチウムの放出量を低減させることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】原子炉10の構成の概略を示す説明図。
図2】炉心部14の炉心配置の概略を示す平面図。
図3】ベリリウム反射体要素24の構成の一例の概略を示す斜視図。
図4】ベリリウム反射体要素24の構成の一例の概略を示す斜視図。
図5】本発明の中性子反射体におけるトリチウムの放出防止の仕組みを示す概念図。
図6】従来の中性子反射体におけるトリチウムの放出の仕組みを示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の中性子反射体及び原子炉について、図面を用いて説明する。図1に原子炉10の構成の概略を示し、図2に炉心部14の炉心配置の概略を示す。また、図3,4にベリリウム反射体要素24の構成の一例の概略を示す。また、図5に、本発明の中性子反射体(ベリリウム反射体要素24、ベリリウムH形枠26)におけるトリチウムの放出防止の仕組みを示す概念図を示す。この原子炉10は、高い中性子束が得られるように設計され、短時間で照射試験を行うことができる、軽水減速冷却タンク型の材料試験用原子炉である。
【0014】
原子炉10は、原子炉圧力容器12及び炉心部14を備えている。
【0015】
原子炉圧力容器12は、ステンレス鋼製であり、この原子炉容器12内に炉心部14が設けられている。原子炉圧力容器12の上方には冷却水入口16、下方には冷却水出口18が設けられ、冷却水が原子炉圧力容器12の上方から下向きに通り抜けるようになっている。この冷却水は、中性子を減速させる減速材としての役割を併せ持つものである。
【0016】
炉心部14は、円筒形に構成されており、燃料要素20、制御要素22、ベリリウム反射体要素24、ベリリウムH形枠26、アルミニウム反射体要素28などを備えており、それらの隙間を冷却水が流れるようになっている。
【0017】
燃料要素20は、原子炉を運転するための燃料を備えた棒状体であり、制御要素22は、原子炉の出力を制御するための棒状体である。
【0018】
ベリリウム反射体要素24は、中性子を効率的に反射及び減速させて熱中性子とするとともに、中性子が炉心から外部へ漏れ出ることを抑制するものである。このベリリウム反射体要素24は、例えば、図3に示すように、四角柱状に構成されたベリリウムバルク体24aの表面に、表面層24bが形成されたものである。ベリリウムバルク体24aは、例えば、ホットプレスにより中実に形成されたものであり、表面層24bの形成前に表面粗さRaが2μm以上200μm以下などの、より好ましくは5μm以上100μm以下などの粗さとなるように粗化処理されたものであることが好ましい。こうすれば、ベリリウムバルク体24aの表面層24bとの密着性を高めることができる。粗化処理の方法としては、ブラスト加工やローレット加工、エッチング加工などが挙げられる。表面層24bは、Al、Al23、AlN、Si、SiO2、Si34、SiCからなる群より選ばれる1以上で構成されている。この表面層24bは、ベリリウムバルク体24a表面に、厚さ10〜1000μm、より好ましくは100〜200μmとなるように形成されており、例えば、PVD法や溶射法などにより成膜されたものである。PVD法としては、真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティングなどが挙げられる。また、溶射法としては、アーク溶射や高速フレーム溶射、大気プラズマ溶射などが挙げられる。
【0019】
このベリリウム反射体要素24において、ベリリウムバルク体24aには、図4に示すように、中性子照射試験用の試料を挿入するための穴24cが設けられていてもよい。この場合、この穴24cの部分にも冷却水が侵入するため、穴24cの表面にも上述したのと同様の表面層24bが形成されていることが好ましい。なお、ベリリウム反射体要素24において、表面層24bは、ベリリウムバルク体24aの表面全体に形成されていることが好ましいが、図3及び図4では、説明の便宜上、ベリリウム反射体要素24の上面の表面層24bを省略した。
【0020】
ベリリウムH形枠26は、ベリリウム反射体要素24を固定するための枠である。このベリリウムH形枠26は、中性子を効率的に反射及び減速させて熱中性子とするとともに、中性子が炉心から外部へ漏れ出ることを抑制するものである。このベリリウムH形枠26は、H形の断面を有する柱状に構成されたベリリウムバルク体26aの表面に、表面層26bが形成されたものである。ベリリウムバルク体26aは、例えば、ホットプレスにより中実に形成されたものであり、表面層26bの形成前に表面粗さRaが2μm以上200μm以下などの、より好ましくは5μm以上100μm以下などの粗さとなるように粗化処理されたものであることが好ましい。こうすれば、ベリリウムバルク体26aの表面層26bとの密着性を高めることができる。粗化処理の方法としては、ブラスト加工やローレット加工、エッチング加工などが挙げられる。表面層26bは、Al、Al23、AlN、Si、SiO2、Si34、SiCからなる群より選ばれる1以上で構成されている。この表面層26bは、ベリリウムバルク体26a表面に、厚さ10〜1000μm、より好ましくは100〜200μmとなるように形成されており、例えば、PVD法や溶射法などにより成膜されたものである。PVD法としては、真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティングなどが挙げられる。また、溶射法としては、アーク溶射や高速フレーム溶射、大気プラズマ溶射などが挙げられる。
【0021】
このベリリウムH形枠26において、ベリリウムバルク体26aには、中性子照射試験用の試料を挿入するための穴が設けられていてもよい。この場合、この穴の部分にも冷却水が侵入するため、穴の表面にも上述したのと同様の表面層26bが形成されていることが好ましい。
【0022】
アルミニウム反射体要素28は、炉心から外部へ漏れ出る中性子の量を調整するためのものであり、燃料要素20や制御要素22、ベリリウム反射体要素24、ベリリウムH形枠26などを囲うように配置されている。
【0023】
以上説明した実施形態の原子炉10によれば、上記式(1)によってトリチウムを生成することのあるベリリウム反射体要素24やベリリウムH形枠26において、ベリリウムバルク体24a,26aの表面に、トリチウムの放出を抑制する表面層24b,26bが形成されている。このため、表面層24b,26bが無い場合(図6参照)に比してトリチウムがトリチウム反射体要素24やベリリウムH形枠26などの中性子反射体内に閉じこめられる(図5参照)。このため、冷却水へのトリチウムの放出を抑制することができる。また、ベリリウムバルク体24a,26aの表面に、表面層24b,26bを形成するため、表面層24b,26bを均一に形成することが容易である。また、ベリリウム粉体などの表面に表面層を形成する場合よりも、表面層の割合が少なくて済むため、中性子の移動が阻害されにくく、中性子反射体としてのベリリウムの機能の低下を抑制できる。
【0024】
また、表面層24b,26bは、中性子吸収断面積が小さい材質で構成されている。このため、中性子の移動を阻害しにくい。さらに、表面層24b,26bは、ベリリウムと同様に中性子の速度を減衰させる効率の高い軽元素で構成されている。このため、中性子の速度を効率よく減衰させることができる。さらにまた、表面層24b,26bは、水やベリリウムとの反応性が小さい材質で構成されている。このため、冷却水との接触やベリリウムバルク体24a,26aとの接触などによって表面層24b,26bが変質することがない。
【0025】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0026】
以下では、本発明の中性子反射体の製造例について説明する。
【0027】
エッチング加工により表面粗さをRa=2μmとしたベリリウム材の表面に、アーク溶射によって、厚さ170μmのアルミニウムの表面層を形成した。ベリリウム材には、アルミニウムの表面層が密着していた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、原子炉を用いた発電や中性子照射試験の分野などに利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 原子炉、12 原子炉圧力容器、14 炉心部、16 冷却水入口、18 冷却水出口、20 燃料要素、22 制御要素、24 ベリリウム反射体要素、24a ベリリウムバルク体、24b 表面層、24c 穴、26 ベリリウムH形枠、26a ベリリウムバルク体、26b 表面層、28 アルミニウム反射体要素。
図1
図2
図3
図4
図5
図6