特許第6441565号(P6441565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6441565-車両用無段変速機 図000002
  • 特許6441565-車両用無段変速機 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6441565
(24)【登録日】2018年11月30日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】車両用無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/18 20060101AFI20181210BHJP
【FI】
   F16H9/18 B
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-244041(P2013-244041)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-102189(P2015-102189A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年12月21日
【審判番号】不服2017-11308(P2017-11308/J1)
【審判請求日】2017年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】土屋 慎治
【合議体】
【審判長】 平田 信勝
【審判官】 大町 真義
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−327814号公報
【文献】 特開平11−132321号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/00
F16H 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シーブと可動シーブとそれら固定及び可動シーブの間の溝幅を変更する為の推力を付与する油圧アクチュエータとを各々有する入力側及び出力側のプーリと、前記入力側及び出力側のプーリの間に巻き掛けられた伝動ベルトとを備える車両用無段変速機であって、
前記油圧アクチュエータは、
前記推力を付与する為の作動油圧として、エンジンにより回転駆動される機械式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧、及び前記機械式オイルポンプの吐出流量よりも少ない吐出流量とされた電動式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧のうちの一方の作動油圧を選択的に受け入れることができる第1油室と、
前記推力を付与する為の作動油圧として、前記電動式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧のみを受け入れることができる第2油室と
を備えていることを特徴とする車両用無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力側及び出力側のプーリと伝動ベルトとを備える車両用無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用無段変速機としてベルト式無段変速機が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された無段変速機がそれである。特許文献1には、エンジンにより回転駆動される機械式オイルポンプが発生する油圧に基づいて無段変速機や発進クラッチに油圧を供給することが記載されている。加えて、特許文献1には、車両の減速中に所定のエンジン停止条件を満足した場合には、プライマリプーリに伝達されるクラッチ伝達トルクが無段変速機の伝達トルク(特にはプライマリプーリの伝達トルク)を上回らないように、プライマリプーリへの供給油圧を保持して急速な低下を防止すると共に発進クラッチの実クラッチ圧を強制的に(急速に)下げることによって、減速中アイドルストップ突入時(すなわちエンジン停止に伴う機械式オイルポンプの発生油圧の低下時)におけるベルト滑りの発生を防止又は抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−241746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、減速走行中にエンジンのアイドリングストップを実行しているときに、ドライバによる急減速操作が行われる可能性がある。このような急減速操作において、減速操作が急である程或いは路面が低μ路である程、車輪の制動(回転低下)が急となり、回転慣性体による大きなイナーシャトルクが無段変速機へ入力され易くなる。一方で、機械式オイルポンプの代替として電動式オイルポンプを備え、減速走行中にエンジンのアイドリングストップを実行しているときには、電動式オイルポンプが発生する油圧に基づいて無段変速機等に油圧を供給することが考えられる。しかしながら、機械式オイルポンプの代替として一時的に電動式オイルポンプを用いる場合には、配置スペースやコスト等を勘案すれば、機械式オイルポンプよりも吐出流量が少ない小型の電動式オイルポンプを備えることになる。その為、入力されるイナーシャトルクの大きさによっては、無段変速機の残圧による或いは電動式オイルポンプの発生油圧に基づく無段変速機への供給油圧による無段変速機のトルク容量(ベルト挟圧力)をそのイナーシャトルクが上回って、ベルト滑りが発生する恐れがある。尚、上述したような課題は未公知である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、プーリに供給される作動油圧が低油圧のときであってもベルト滑りを防止することができる車両用無段変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成する為の第1の発明の要旨とするところは、(a) 固定シーブと可動シーブとそれら固定及び可動シーブの間の溝幅を変更する為の推力を付与する油圧アクチュエータとを各々有する入力側及び出力側のプーリと、前記入力側及び出力側のプーリの間に巻き掛けられた伝動ベルトとを備える車両用無段変速機であって、(b) 前記油圧アクチュエータは、前記推力を付与する為の作動油圧として、エンジンにより回転駆動される機械式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧、及び前記機械式オイルポンプの吐出流量よりも少ない吐出流量とされた電動式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧のうちの一方の作動油圧を選択的に受け入れることができる第1油室と、(c) 前記推力を付与する為の作動油圧として、前記電動式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧のみを受け入れることができる第2油室とを備えていることにある。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、電動式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧は前記第1油室及び前記第2油室の両方の油室に供給されるので、前記推力を付与する為の作動油圧が専ら電動式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧となるような低油圧であっても、大きな受圧面積でプーリに油圧がかけられて、大きなベルト挟圧を得ることができる。よって、本発明の車両用無段変速機では、プーリに供給される作動油圧が低油圧のときであってもベルト挟圧低下によるベルト滑りを防止することができる。
【0008】
ここで、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両用無段変速機において、前記エンジンの停止時には前記電動式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧が前記第1油室及び前記第2油室の両方の油室に供給されることにある。このようにすれば、前記エンジンが停止して機械式オイルポンプの吐出流量が低下乃至略零とされても、電動式オイルポンプが吐出する油圧を元圧とする作動油圧により大きなベルト挟圧を得ることができる。尚、エンジンが停止しても第1油室に作動油が残っている間に電動式オイルポンプを駆動すれば、専ら電動式オイルポンプが油圧を出力しているときでも、第1油室の受圧面積を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
図2】本発明が適用される車両用無段変速機の概略構成を説明する図であると共に、車両用無段変速機への油圧供給に関する要部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、好適には、例えば前記油圧アクチュエータに供給される作動油圧(プーリ圧)をそれぞれ独立に制御するように油圧制御回路が構成される。或いは、例えば前記油圧アクチュエータへの作動油の流量を制御することにより結果的にプーリ圧を生じるように油圧制御回路が構成される。このような油圧制御回路により、前記入力側及び出力側のプーリにおける推力が各々直接的に或いは間接的に(結果的に生じるように)制御されることで、伝動ベルトの滑りを防止しつつ目標の変速が実現されるように変速制御が実行される。尚、本明細書で「油圧を供給する」という場合は、「油圧を作用させ」或いは「その油圧に制御された作動油を供給する」ことを意味する。
【0011】
また、好適には、前記エンジンの動力が前記車両用無段変速機を介して駆動輪へ伝達される。前記エンジンは、例えば内燃機関等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等であるが、駆動力源として、電動機等を前記エンジンと組み合わせて採用することもできる。
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10の各部を制御する為に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、車両10では、走行用駆動力源としてのエンジン12から出力される動力は、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14、前後進切換装置16、本発明が適用される車両用無段変速機としてのベルト式無段変速機18(以下、無段変速機18という)、減速歯車装置20、差動歯車装置22などを順次介して、左右の駆動輪24へ伝達される。
【0014】
トルクコンバータ14は、エンジン12に連結されたポンプ翼車14p、及びタービン軸26を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行う。ポンプ翼車14pには、機械式オイルポンプ28が連結されている。
【0015】
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されている。遊星歯車装置16pのサンギヤ16sにはトルクコンバータ14のタービン軸26が一体的に連結され、遊星歯車装置16pのキャリア16cには無段変速機18の入力軸30が一体的に連結されている。又、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、遊星歯車装置16pのリングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング32に選択的に固定される。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、公知の油圧式摩擦係合装置である。
【0016】
このように構成された前後進切換装置16では、前進用クラッチC1が係合されると共に後進用ブレーキB1が解放されると、タービン軸26が入力軸30に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられる。又、後進用ブレーキB1が係合されると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立させられて、入力軸30はタービン軸26に対して逆方向へ回転させられる。又、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。
【0017】
無段変速機18は、入力軸30に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側のプーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)34及び出力軸36に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側のプーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)38と、入力側及び出力側のプーリ34,38の間に巻き掛けられた伝動ベルト40とを備えており、入力側及び出力側のプーリ34,38と伝動ベルト40との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
【0018】
プライマリプーリ34は、入力軸30に固定された入力側固定回転体としての固定シーブ34aと、入力軸30に対して軸回りの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた入力側可動回転体としての可動シーブ34bと、それら固定及び可動シーブ34a,34bの間のV溝幅を変更する為のプライマリプーリ34における入力側の推力(プライマリ推力)Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)を付与する入力側の油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)34cとを備えている。又、セカンダリプーリ38は、出力軸36に固定された出力側固定回転体としての固定シーブ38aと、出力軸36に対して軸回りの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた出力側可動回転体としての可動シーブ38bと、それら固定及び可動シーブ38a,38bの間のV溝幅を変更する為のセカンダリプーリ38における出力側の推力(セカンダリ推力)Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)を付与する出力側の油圧アクチュエータ38cとを備えている。
【0019】
そして、入力側の油圧アクチュエータ34cへ供給される作動油圧であるプライマリ圧Pin及び出力側の油圧アクチュエータ38cへ供給される作動油圧であるセカンダリ圧Poutが油圧制御回路72(図2参照)によって各々調圧制御されることにより、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが制御される。これにより、入力側及び出力側のプーリ34,38のV溝幅が変化して伝動ベルト40の掛かり径(有効径)が変更され、変速比(ギヤ比)γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられると共に、伝動ベルト40が滑りを生じないように入力側及び出力側のプーリ34,38と伝動ベルト40との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。このように、プライマリ推力Win及びセカンダリ推力Woutが各々制御されることで伝動ベルト40の滑りが防止されつつ実際の変速比γが目標変速比γtgtとされる。
【0020】
又、車両10には、例えば無段変速機18の制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御、無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、無段変速機18の油圧制御用等に分けて構成される。又、電子制御装置50には、車両10に設けられた各種センサ(例えば各回転速度センサ52,54,56,58、アクセル開度センサ60など)により検出された検出値に基づく各種入力信号(例えばエンジン回転速度Ne、タービン回転速度Nt、入力軸回転速度Nin、車速Vに対応する出力軸回転速度Nout、アクセル開度θaccなど)が供給される。又、電子制御装置50からは、車両10に設けられた各装置(例えばエンジン12、油圧制御回路72など)に各種出力信号(例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、無段変速機18の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Scvtなど)が供給される。
【0021】
図2は、本発明が適用される無段変速機18の概略構成を説明する図であると共に、車両10に備えられた油圧システム70のうち無段変速機18への油圧供給に関する要部を説明する図である。
【0022】
図2において、油圧システム70は、油圧制御回路72に加え、機械式オイルポンプ28及び電動式オイルポンプ74を備えている。機械式オイルポンプ28は、エンジン12に機械的に連結されており、そのエンジン12よって回転駆動されることにより、無段変速機18を変速制御したり、無段変速機18におけるベルト挟圧力を発生させたり、前後進切換装置16における動力伝達経路を切り換えたり、車両10の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油圧の元圧となる油圧を発生する(吐出する)。電動式オイルポンプ74は、電動モータ76によって回転駆動されることにより、エンジン12の回転状態に拘わらず(例えばエンジン12の回転停止時に)、上記作動油圧の元圧となる油圧を発生する(吐出する)ことができる。機械式オイルポンプ28は、例えば良く知られたエンジン12の自動停止再始動制御(エコラン制御)においてエンジン12が自動停止させられると、作動油を吐出できない。その為、電動式オイルポンプ74は、例えば車両10の減速走行中乃至停車中に実行されるようなエコラン制御におけるエンジン自動停止時に作動させられる。このように、電動式オイルポンプ74は、専ら、機械式オイルポンプ28の代替として一時的に用いられるので、例えば定格上の最大吐出流量が、機械式オイルポンプの吐出流量よりも少ない吐出流量とされて、小型化が図られている。上述したようなエコラン制御を減速中に実行する場合、変速比γは最大変速比γmax(最ロー側変速比)に向かって制御されるので、例えばプライマリプーリ34側では油圧が抜かれてV溝幅が拡げられ、セカンダリプーリ38側では所定のベルト挟圧力が得られるように油圧が供給される。従って、セカンダリプーリ38側の方が油圧が不足し易いと考えられる。その為、セカンダリプーリ38に適用した実施例にて、本発明が適用される無段変速機18の概略構成を説明する。
【0023】
機械式オイルポンプ28及び電動式オイルポンプ74は、ハウジング32(トランスミッションケース)の下部に設けられたオイルパン78に還流した作動油を、共通の吸い込み口(ストレーナ)80から吸い上げて、各々吐出油路82,84に吐出する。機械式オイルポンプ28の吐出油路82は、油圧制御回路72内の第1油圧制御部86を介して第1供給油路88に連結され、電動式オイルポンプ74の吐出油路84は、油圧制御回路72内の第2油圧制御部90を介して第2供給油路92に連結されている。第1油圧制御部86及び第2油圧制御部90は共に、例えばライン油圧を調圧するレギュレータ弁、セカンダリ圧Poutを調圧するコントロール弁等を備えている。従って、第1油圧制御部86及び第2油圧制御部90は共に、オイルポンプ28,74が吐出する油圧を元圧として、油圧アクチュエータ38cへ作動油圧を供給することができる。第1供給油路88と第2供給油路92との間には、第1油圧制御部86から出力された作動油圧(第1供給油路88を流通する作動油)が第2供給油路92側へ流入することを防止する為の逆止弁94が設けられている。
【0024】
油圧アクチュエータ38cは、第1油室96と第2油室98とを備えている。第1油室96は、出力軸36上に固設された第1シリンダ100と、第1シリンダ100の開口部に設けられた径方向外側に突出する支持部100a上を軸心方向に沿って摺動する、第1シリンダ100よりも大径であって可動シーブ38bに固設された中間シリンダ102とにより形成されている。又、第2油室98は、第1シリンダ100と、中間シリンダ102よりも大径であって出力軸36上に固設された第2シリンダ104と、第1シリンダ100の外周面上及び第2シリンダ104の内周面内を軸心方向に沿って摺動する、中間シリンダ102の可動シーブ38bとは反対側の端部に固設されたピストン106とにより形成されている。
【0025】
このように構成された第1油室96は、出力軸36内に設けられた第1油路108に連通させられている。その第1油路108は、第1供給油路88及び第2供給油路92に連通させられている。従って、第1油室96は、推力Woutを付与する為の作動油圧Poutとして、機械式オイルポンプ28が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout1、及び電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout2のうちの一方の作動油圧を選択的に受け入れることができる。又、第2油室98は、出力軸36内に設けられた第2油路110に連通させられている。その第2油路110は、第2供給油路92に連通させられている。従って、第2油室98は、推力Woutを付与する為の作動油圧Poutとして、電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout2のみを受け入れることができる。
【0026】
このように構成された油圧アクチュエータ38cでは、電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout2は、第1油室96及び第2油室98の両方の油室に供給される。従って、作動油圧Pout2が第1油室96のみに供給される場合と比べて、大きな受圧面積で可動シーブ38bに作動油圧Pout2がかけられ、大きな推力Woutを付与することができる。
【0027】
ここで、電子制御装置50は、例えば、エンジン12の停止時には電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout2を第1油室96及び第2油室98の両方の油室に供給する。具体的には、電子制御装置50は、イグニッションキーやイグニッションスイッチ等のユーザ操作によるエンジン12の始動/停止とは別に、例えば車両10が交差点等で一時停止した際に、又は低車速にて走行(例えば減速走行)している際に、燃費の向上、排気ガスの低減、騒音の低減等の為に、ユーザ操作に因らず、エンジン12を自動的に一時停止し、その後にエンジン12を自動的に再始動するエンジン12の自動停止再始動制御(エコラン制御、アイドリングストップ制御)を実行する。電子制御装置50は、例えば所定のエンジン停止条件(アイドリングストップ開始条件)が成立した場合には、フューエルカット制御(及び/又は前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1を共に解放するニュートラル制御)等を実行してエンジン12を一時的に自動停止する。この際、電子制御装置50は、電動式オイルポンプ74を回転駆動して油圧を出力する為に電動モータ76を駆動する。これにより、エンジン12の停止時には電動式オイルポンプ74に基づく作動油圧Pout2が第1及び第2油室96,98に供給される。このようにすれば、エンジン12が停止して機械式オイルポンプ28の吐出流量が低下乃至略零とされても、電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout2により大きな推力Woutが付与されて大きなベルト挟圧を得ることができる。このとき、エンジン12が停止しても第1油室96に作動油が残っている間に電動式オイルポンプ74を駆動すれば、専ら電動式オイルポンプ74が油圧を出力しているときでも、第1油室96の受圧面積を確保することができる。尚、上記所定のエンジン停止条件は、例えばシフトポジションが「P」,「N」,「D」ポジションの何れかであり、且つアクセル開度Accが零と判定されるアクセルオフであり、且つ車速Vが零と判定される車両停止中(或いは車速Vが予め定められたエコラン許可車速以下と判定される低速走行中)であるなどの条件である。更に、シフトポジションが「D」ポジションであるときには、ホイールブレーキがオン状態(ブレーキオン)であるという条件が、所定のエンジン停止条件として加えられる。
【0028】
上述のように、本実施例によれば、電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout2は第1及び第2油室96,98に供給されるので、推力Woutを付与する為の作動油圧が専ら電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout2となるような低油圧であっても、大きな受圧面積でプーリ38に油圧がかけられて、大きなベルト挟圧を得ることができる。よって、無段変速機18では、プーリ38に供給される作動油圧が低油圧のときであってもベルト挟圧低下によるベルト滑りを防止することができる。又、電動式オイルポンプ74の大型化を抑制することができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0030】
例えば、本発明が適用される無段変速機18は、エンジン12の動力を、トルクコンバータ14、前後進切換装置16、無段変速機18等を順次介して駆動輪24へ伝達する車両10に備えられたが、これに限らない。例えばトルクコンバータ14に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又、前後進切換装置16がその発進機構として機能するか、発進クラッチ等の発進機構が備えられるか、或いは動力伝達経路を断接可能な係合装置等が備えられる場合には、流体式伝動装置は備えられなくとも良い。
【0031】
また、前述の実施例では、逆止弁94が設けられることで、第1油室96は、推力Woutを付与する為の作動油圧Poutとして、作動油圧Pout1及び作動油圧Pout2のうちの一方の作動油圧を選択的に受け入れたが、この態様に限らない。例えば、逆止弁94に替えて、例えば油路の連通と遮断とが切り替えられる切替弁が設けられて、オンオフソレノイド弁によって電動式オイルポンプ74の駆動に合わせて油路の連通が切り替えられるような態様であっても良い。
【0032】
また、前述の実施例では、電動式オイルポンプ74を駆動する場合として、エコラン制御においてエンジン12が自動停止させられる場合を例示したが、これに限らない。例えば、エンジン12の運転中に、電動式オイルポンプ74を駆動しても良い。このような場合、推力Woutを付与する為の作動油圧として、機械式オイルポンプ28が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout1に加えて、電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pout2が油圧アクチュエータ38cへ供給される。
【0033】
また、前述の実施例では、セカンダリプーリ38に本発明を適用した実施例を例示したが、これに限らない。例えば、セカンダリプーリ38に加えて、或いは替えて、プライマリプーリ34に本発明を適用しても良い。つまり、プライマリプーリ34において、第1油室96及び第2油室98を備え、第1油室96は、推力Winを付与する為の作動油圧Pinとして、機械式オイルポンプ28が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pin1、及び電動式オイルポンプ74が吐出する油圧を元圧とする作動油圧Pin2のうちの一方の作動油圧を選択的に受け入れても良い。
【0034】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0035】
12:エンジン
18:ベルト式無段変速機(車両用無段変速機)
28:機械式オイルポンプ
34,38:入力側及び出力側のプーリ
34a,38a:固定シーブ
34b,38b:可動シーブ
34c,38c:油圧アクチュエータ
40:伝動ベルト
74:電動式オイルポンプ
96:第1油室
98:第2油室
図1
図2